タンデム型質量分析システム及び方法
【課題】タンデム型質量分析によって高効率にて変動解析を行うことができるタンデム型質量分析システムを提供する。
【解決手段】所定の数のm/z領域を設定し、m/z領域毎に、そこに含まれる全イオンをまとめて解離し、質量分析を行い、計測MS2データを取得する。計測MS2データを参照データベースに格納された参照MS2データと比較し、両者の差異を検出する。変動成分が検出されたm/z領域に対して、そこに含まれる全イオンをまとめて解離なしの質量分析を行い、計測MS1データを得る。計測MS1データを参照MS1データと比較し、両者の差異を検出する。この差異から、変動成分の要因であると考えられる親イオンを推定し、それを解離させて質量分析を行う。
【解決手段】所定の数のm/z領域を設定し、m/z領域毎に、そこに含まれる全イオンをまとめて解離し、質量分析を行い、計測MS2データを取得する。計測MS2データを参照データベースに格納された参照MS2データと比較し、両者の差異を検出する。変動成分が検出されたm/z領域に対して、そこに含まれる全イオンをまとめて解離なしの質量分析を行い、計測MS1データを得る。計測MS1データを参照MS1データと比較し、両者の差異を検出する。この差異から、変動成分の要因であると考えられる親イオンを推定し、それを解離させて質量分析を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンデム型質量分析システムに関し、特に、タンデム型質量分析システムを用いた変動解析に関する。
【背景技術】
【0002】
図1を参照してタンデム型質量分析を用いた変動解析の概要を説明する。タンデム型質量分析では、先ず、試料に含まれる物質の質量分析分布を計測する。それによって、第1段の質量分析スペクトル(MS1)が得られる。質量分析スペクトルの横軸は質量対電荷比m/z、縦軸はイオン検出数である。次に、この第1段の質量分析スペクトル(MS1)から、イオン検出数の高い順にイオンを選択する。ここではイオンA、B、Dを選択する。こうして選択したイオンを前駆イオン又は親イオンと称する。親イオンを解離分解させ、解離分解したイオンの各々について、質量分析分布を計測する。それによって第2段の質量分析スペクトル(MS2)を得る。
【0003】
第2段の質量分析スペクトル(MS2)を、予め測定した標準試料の第2段の質量分析スペクトル(MS2)と比較する。両者の間に差異があったらそのイオンを試料の変動成分と判定する。
【0004】
第2段の質量分析スペクトルの比較では不十分である場合には、第3段の質量分析スペクトル(MS3)を求め、それを標準試料の第3段の質量分析スペクトルと比較して変動成分を求めてもよい。こうして、多段の質量分析スペクトルを求め、それを標準試料の質量分析スペクトルと比較することにより、より正確な試料の変動解析の結果を得ることができる。
【0005】
このように、タンデム型質量分析とは、親イオンを選択し、それを解離させて質量分析を行うことを繰り返す手法をいう。
【0006】
例えば、予め健常者由来の試料から質量分析スペクトル(MS2)を測定し、それを参照データベースに格納する。被検者由来の試料から得られた質量分析スペクトル(MS2)を健常者の質量分析スペクトル(MS2)と比較し、変動成分を検出する。こうして検出した変動成分から、被検者の健康状態を判定することができる。
【0007】
特許文献1及び2には、被検者由来の試料より得られた質量分析スペクトルを、標準データベースに格納された健常者由来の試料より得られた質量分析スペクトルと比較する変動解析の例が記載されている。
【特許文献1】特開2001−249114号公報
【特許文献2】特開2001−330599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タンデム型質量分析を用いた変動解析において、変動成分の検出精度を高くするには、選択する親イオンの数が多ければ多いほどよい。図1の例では、イオンA、B、Dを親イオンとして選択し、イオンCを選択していない。イオンA、B、Dについて第2段の質量分析スペクトルと標準試料の質量分析スペクトルを比較したが、変動成分は検出されなかったとする。この場合、分析対象の試料は変動成分を有さないと判定される。しかしながら、もしイオンCについて第2段の質量分析スペクトルと標準試料の質量分析スペクトルを比較したら、変動成分が検出されているかもしれない。
【0009】
親イオンの数が多くなると、第2段の質量分析スペクトル(MS2)を測定する処理が増加する。通常、分析対象試料中の成分の大部分は、標準試料中に含まれる。従って、親イオンに関する第2段の質量分析スペクトル(MS2)の測定処理の大部分は無駄となっている。親イオンの数が多くなればなるほど、無駄な測定処理が増加することになる。
【0010】
本発明の目的は、タンデム型質量分析によって高効率にて変動解析を行うことができるタンデム型質量分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のタンデム質量分析システムは、以下の(1)〜(6)の工程を含む。尚、計測した第1段の質量分析スペクトルを計測MS1データ、第2段の質量分析スペクトルを計測MS2データ、計測MSnデータ等と称する。参照データベースに格納されている対応する参照試料の質量分析スペクトルを、それぞれ、参照MS1データ、参照MS2データ、参照MSnデータ等と称する、
(1)参照試料について質量分析を行い、参照MS1データ、参照MS2データ等を参照用データベースに格納する。
(2)タンデム型質量分析システムによって質量分析可能な質量対電荷比m/zの全領域を、複数の領域に分割し、所定の数のm/z領域を設定する。m/z領域Ri毎に、そこに含まれる全イオンをまとめて解離し、質量分析を行う。それによって計測MS2データを取得する。
(3)計測MS2データを参照データベースに格納された参照MS2データと比較し、両者の差異、即ち、変動成分の有無を検出する。
(4)変動成分が検出されたm/z領域に対して、そこに含まれる全イオンをまとめて解離なしの質量分析を行う。それによって計測MS1データを得る。
(5)計測MS1データを参照MS1データと比較し、両者の差異を検出する。この差異から、(3)で検出した変動成分の要因であると考えられる親イオンを推定する。推定した親イオンを解離させて質量分析を行う。それによって、親イオン毎に計測MS2データを得る。この計測MS2データを参照MS2データと比較し、両者の差異、即ち、変動成分の有無を検出する。このような質量分析を必要な段数だけ繰り返す。
(6)多段の計測MSnデータより、参照試料に対する質量分析対象試料の変動成分の物質を同定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、タンデム型質量分析によって高効率にて変動解析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図2を参照して本発明によるタンデム型質量分析システムの例を説明する。本例のタンデム型質量分析システムは、クロマトグラフィー部1、イオン化部2、タンデム型質量分析部3、イオン検出部4、データ処理部5、表示部6、制御部7、ユーザ入力部8、及び、参照データベース10を有する。タンデム型質量分析部3は、イオントラップ部3-a、イオン解離部 3-b、及び、イオン分離部3-c、を有する。
【0014】
質量分析対象の試料は、タンパク質や糖鎖などの生体高分子系の物質、又は、薬剤等の低分子量物質である。試料は、先ず、クロマトグラフィー部1に導入される。クロマトグラフィー部1は、液体クロマトグラフィー(LC)又はガスクロマトグラフィー(GC)を備える。以下では、クロマトグラフィー部1は、液体クロマトグラフィー(LC)を備えるものとして説明する。
【0015】
試料に含まれる物質は、液体クロマトグラフィーのカラムへの吸着力の差異に従って、時間的に分離及び分画される。試料は更に、イオン化部2にてイオン化される。尚、クロマトグラフィーを用いず、試料をインジェクションして、直接イオン化してもよい。
【0016】
本発明のタンデム型質量分析では、特定の質量対電荷比m/z又は特定の質量対電荷比m/zの領域の親イオンを解離、分離する。
【0017】
本例では、親イオンの解離方法として、親イオンをヘリウムなどのバッファーガスに衝突させて解離させる衝突解離(Collision Induced Dissociation)法を用いる。イオン解離部 3-bは、内部に中性ガスを充填したコリジョンセル (collision cell)を有する。
【0018】
イオントラップ部3-aは、特定の質量対電荷比(m/z)又は特定の質量対電荷比(m/z)の領域の親イオンを捕獲し、それをまとめてコリジョンセルに投入する。特定の親イオンを捕獲するには、例えば、排除すべきイオンが共鳴状態となるように、所定の周波数の共鳴電圧をトラップ電圧に重畳印加させる。
【0019】
イオン解離部 3-bは、特定の質量対電荷比m/z又は特定の質量対電荷比m/zの領域の親イオンを、コリジョンセル内の中性ガスと衝突させ、解離させる。親イオンを中性ガスと衝突させるには、親イオンに共鳴する周波数の電圧を印加する。こうして解離したイオンは、イオン分離部3-cにて、質量対電荷比m/z毎に分離される。
【0020】
尚、イオントラップ部3-aに中性ガスを充満させて、イオントラップ部3-a内で親イオンを中性ガスに衝突させ解離させてもよい。その場合、コリジョンセルは不要である。
【0021】
親イオンの解離方法として、親イオンに低エネルギーの電子を照射し、多量の低エネルギー電子を捕獲させることにより解離させる電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation)法、親イオンにイオンビームを照射し、電子を移動させることにより解離させる電子移動解離(Electron Transfer Dissociation)法等を用いてもよい。
【0022】
イオン検出部4は、質量対電荷比m/z毎に分離されたイオン数を検出し、質量分析スペクトルを出力する。データ処理部5は、イオン検出部4によって得られた質量分析スペクトルと参照データベース10に格納されている標準試料又は参照試料の質量分析スペクトルを比較する。データ処理部5の処理の詳細は後に説明する。参照データベース10には標準試料又は参照試料について予め計測した様々な質量分析スペクトルが格納されている。参照データベース10に格納されている質量分析スペクトルの例は後に説明する。
【0023】
計測した質量分析スペクトルは、表示部6にて表示される。データ処理部5は、参照データベース10に格納されている質量分析スペクトルのデータとは異なるデータが得られた場合には、それを参照データベース10に格納する。制御部7は、この一連の質量分析過程、即ち、試料のイオン化、質量分析、親イオンの選択、質量分析の繰返し、及び、データの表示を制御する。
【0024】
尚、以下に、イオン検出部4によって得られる第1段の質量分析スペクトルを計測MS1データ、第2段の質量分析スペクトルを計測MS2データ、第3段の質量分析スペクトルを計測MS3データ、第n段の質量分析スペクトルを計測MSnデータと称する。参照データベースに格納されている対応する参照試料の質量分析スペクトルを、それぞれ、参照MS1データ、参照MS2データ、参照MS3データ、参照MSnデータ等と称する。尚、第1段の質量分析スペクトルを得る場合には、イオンを解離させないで質量分析を行うが、第2段以降の質量分析スペクトルを得る場合には、イオンを解離させて質量分析を行う。
【0025】
図3を参照して本発明によるタンデム型質量分析方法の概念を説明する。先ず、タンデム型質量分析システムによって質量分析可能な質量対電荷比m/zの全領域を、複数の領域に分割し、複数のマスレンジ、即ち、m/z領域を設定する。m/z領域Riの設定方法の例は後に図17を参照して説明する。次に、m/z領域Ri毎に、各m/z領域に含まれる全イオンを解離し、質量分析を行う。こうして、計測MS2データを得る。
【0026】
計測MS2データを参照データベースに格納されている参照MS2データを比較し、両者の差異を検出する。ここで差異は、イオンを表すピークの差異である。差異が検出されなかった場合には、次のm/z領域について計測MS2データを測定する。差異が検出された場合には、そのm/z領域Riの全てのイオンに対してタンデム型質量分析を行う。即ち、そのm/z領域Riの全てのイオンについて質量分析を行い、計測MS1データ18を得る。この計測MS1データ18を参照データベース10内の参照MS1データと比較し、両者の差異、即ち、変動成分を検出する。
【0027】
計測MS1データには4つのイオンA、B、C、Dが検出され、参照MS1データには、3つのイオンA、B、Dが含まれるものとする。イオンCが変動成分である。そこでイオンCを親イオンとして選択する。即ち、イオンCが、計測MS1データと参照MS1データの差異の原因であると推定することができる。イオンCについて、タンデム型質量分析を行う。それによって計測MS2データが得られる。計測MS2データを、参照データベース10内の参照MS2データと比較し、変動成分であるイオンを検出する。更に、質量分析を繰返し、参照MSnデータを求めてもよい。
【0028】
本発明によると最初にm/z領域毎に、計測MS2データを測定し、それを参照MS2データと比較する。比較の結果、差異があるm/z領域について、タンデム型質量分析を行い、差異がない領域については質量分析を行わない。従って、タンデム型質量分析を効率的に実施することができる。
【0029】
本例によれば、タンデム型質量分析工程を効率的に実施することができるから、分析に充分な時間を割り当てることができる。従って、変動成分が微量であっても検出される可能性が高まる。
【0030】
図4を参照して本発明のタンデム型質量分析システムにおける処理を説明する。ステップS11にて、タンデム型質量分析システムによって質量分析可能な質量対電荷比m/zの全領域を、複数の領域に分割し、複数のm/z領域を設定する。次に、1つのm/z領域Riを選択する。
【0031】
ステップS12にて、選択したm/z領域R(i)に含まれる全てのイオンをまとめて解離させ質量分析する。それによって、m/z領域R(i)内の全イオンの計測MS2データ13が得られる。ステップS14にて、参照データベースに格納された標準試料についての同一m/z領域R(i)内の全イオンの参照MS2データを読み出す。
【0032】
ステップS15にて、計測MS2データ13と参照MS2データを、リアルタイムで比較する。ステップS16にて、計測MS2データ13と参照MS2データの間の差異、即ち、変動成分の有無を判定する。変動成分が無い場合には、ステップS12に戻り、次のm/z領域R(i+1)を選定する。以下、ステップS12からステップS16を繰り返す。
【0033】
図5は、計測MS2データ13と参照MS2データの例を示す。点線で示したピークが変動成分である。
【0034】
ステップS16にて、変動成分があった場合には、ステップS17に進む。ステップS17にて、変動成分があったm/z領域R(k)内の全イオンについて質量分析を行い、計測MS1データ18を得る。ステップS19にて、計測MS1データ18を参照データベースに格納された参照MS2データと比較し、変動成分を検出する。それによって、ステップS16で検出した変動成分の原因であるイオンを推定し、それを親イオンとして選択する。Np個 (Np≧1)の親イオンを選択したものとする。ステップS19の処理の詳細は後に説明する。
【0035】
ステップS20にて、Np個 (Np≧1)の親イオンに対して、解離及び質量分析を行い、計測MS2データを得る。これを参照データベースに格納された参照MS2データと比較し、変動成分を検出する。以下に、必要に応じて、第n段の計測MSnデータを求め、変動成分を解析する。ステップS21にて、次のm/z領域R(k+1)を選定し、ステップS12に戻る。
【0036】
図6を参照して、ステップS19における計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因となる親イオンPiの推測処理の第1の例を説明する。ステップS22にて、変動成分があったm/z領域R(k)の計測MS1データ18と参照データベースに格納された参照MS1データと比較する。ステップS23にて、両者に差異があるか否かを判定する。ここでは、m/z値が異なるピークがあるかを判定する。m/z値が異なるピークが有る場合、ステップS24又はステップS25に進む。
【0037】
m/z値が異なるピークが無い場合、計測MS2データと参照MS2データの不一致の原因が不明であるためステップS26に進む。
【0038】
ステップS26にて、計測MS1データ18にて観測されたイオンからNp個 (Np≧1)のイオンを親イオンとして選択し、ステップS20に進む。ステップS20にて、親イオンについてタンデム型質量分析を行う。
【0039】
ステップS23にて、m/z値が異なるピークがあると判定された場合、更に、(1)計測MS1データ18内にm/z値が異なるピークがある場合と、(2)参照MS1データ内にm/z値が異なるピークがある場合がある。
【0040】
(1)の場合、ステップS24に進み、m/z値が不一致のピークを親イオンとして選択し、ステップS20に進む。ここではNp個(Np≧1)の親イオンを選択したものとする。ステップS20にて、親イオンについてタンデム型質量分析を行う。
【0041】
(2)の場合、ステップS25に進み、参照MS1データにあるが計測MS1データには無いピークの情報を参照データベース10に記録し、ステップS21に進む。
【0042】
図7は、ステップS16における、計測MS2データ13と参照MS2データの間の差異の有無を判定する処理において、点線にて示すように計測MS2データ内にm/z値が異なるピークがある場合を示す。ここでは、ステップS22の参照MS1データと計測MS1データ18の比較において、(1)計測MS1データ18内にm/z値が異なるピークがある場合を示す。イオンCは、計測MS1データ18内に観測されるが、参照データベース内の参照MS1データには観測されない。したがって、ステップS26にてイオンCを親イオンとして選択し、ステップS20において質量分析MSn(n≧2)を行う。
【0043】
図8は、ステップS16における、計測MS2データ13と参照MS2データの間の差異の有無を判定する処理において、点線にて示すように参照MS2データ内にm/z値が異なるピークがある場合を示す。ここでは、ステップS22の参照MS1データと計測MS1データ18の比較において、(2)参照データベース内の参照MS1データにm/z値が異なるピークがある場合を示す。イオンAは、計測MS1データ18内には観測されず、参照MS1データに観測される。従って、イオンAは計測MS1データ18における欠損成分である。ステップS25にて、参照データベースに、イオンAを計測MS1データ18における欠損成分として記録する。次にステップS21に進む。
【0044】
図9を参照して、ステップS19における計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因となる親イオンPiの推測処理の第2の例を説明する。本例では、図6の第1の例と比較して、ステップS23にて、m/z値が異なるピークがあると判定され、更に、(2)参照MS1データのm/z値が異なるピークがある場合の処理が異なる。
【0045】
(2)の場合、ステップS25に進み、参照MS1データにあるが計測MS1データには無いピークの情報を参照データベース10に記録し、ステップS26に進む。ステップS26にて、計測MS1データ18にて観測されたイオンからNp個 (Np≧1)のイオンを親イオンとして選択し、ステップS20に進む。
【0046】
本例では、計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因として、計測MS1データ18における欠損成分の他にもあるか否かを確認できる。従って、本例に拠れば、参照データに対する変動成分抽出の精度向上を期待することができる。
【0047】
図10を参照して、ステップS15の2つの質量分析スペクトルの間の差異、即ち、不一致ピークの有無の認定方法の他の例を説明する。図5の例では、2つの質量分析スペクトルを比較し、両者にm/z値が異なるピークがある場合には、変動成分が有ると判定した。しかしながら、本例では、2つの質量分析スペクトルを比較し、両者にm/z値が同一であっても強度が異なるピークがある場合には、変動成分があると判定する。計測MS2データに含まれる点線のピークは、参照MS2データの実線のピークと比較して、m/z値が同一であるが強度が異なる。
【0048】
図4のステップS15における計測MS2データ13と参照MS2データの比較処理、図6及び図9のステップS22における計測MS1データ18と参照MS1データの比較処理において、m/z値が同一であっても強度が異なるピークがある場合には、変動成分があると判定する。
【0049】
図11を参照して、ステップS19における計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因となる親イオンPiの推測処理の第3の例を説明する。ステップS22にて、変動成分があったm/z領域R(k)の計測MS1データ18と参照データベースに格納された参照MS1データと比較する。ステップS23にて、両者に差異があるか否かを判定する。即ち、m/z値が異なるピーク又はm/z値が同一であっても強度が異なるピークがあるか否かを判定する。m/z値が異なるピーク又はm/z値が同一であっても強度が異なるピークが有る場合、ステップS24又はステップS25に進む。
【0050】
m/z値が異なるピークもm/z値が同一であっても強度が異なるピークも無い場合、計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因が不明であるためステップS26に進む。以下の処理は図6に示した第1の例と同様である。
【0051】
尚、本例では、ステップS16における、計測MS2データ13と参照MS2データの間の差異の有無を判定する処理においても、m/z値が異なるピーク又はm/z値が同一であっても強度が異なるピークがあるか否かを判定する。
【0052】
図12は、ステップS16における、計測MS2データ13と参照MS2データの間の差異の有無を判定する処理において、点線にて示すようにm/z値は同一であるが強度が異なる2つのピークが存在する場合を示す。本例では、両者間には差異があると判定し、ステップS17にて、m/z領域R(k)内の全イオンについて質量分析を行い、計測MS1データ18を得る。
【0053】
ステップS19にて、計測MS1データ18より、ステップS16で検出した変動成分の原因であるイオンを推定する。計測MS1データ18のイオンAと同一のm/z値を有するイオンが、参照データベース内の参照MS1データに存在する。しかしながら、両者の強度は異なる。ここでは、イオンAを親イオンとして推定する。
【0054】
図13は、ステップS16における、計測MS2データ13と参照MS2データの間の差異の有無を判定する処理において、点線にて示すようにm/z値は同一であるが強度が異なる2つのピークが存在する場合を示す。従って、両者間には差異があると判定し、ステップS17にて、m/z領域R(k)内の全イオンについて質量分析を行い、計測MS1データ18を得る。
【0055】
ステップS19にて、計測MS1データ18より、ステップS16で検出した変動成分の原因であるイオンを推定する。計測MS1データ18のイオンEと参照データベース内の参照MS1データ内のイオンAは、m/z値も強度も異なる。従ってイオンEを親イオンとして推定する。
【0056】
本例では、参照データと実測データの比較において、ピークのm/z値の差異ばかりでなく、強度分布も考慮して、その変動部分を検出する。従って、試料中の物質の存在量、発現量に対する変動をも抽出して、その成分の同定が可能となる。
【0057】
図14を参照して本発明のタンデム型質量分析システムに設けられた参照データベース10の第1の例を説明する。参照データベース10には、参照とする試料に対して、特定のm/z領域Riについての参照MS1データ、各m/z領域Riに含まれる全てのイオンについての参照MS2データが、LC溶出時間(保持時間)毎に格納されている。
【0058】
図15を参照して本発明のタンデム型質量分析システムに設けられた参照データベース10の第2の例を説明する。参照データベース10には、参照とする試料に対して、特定のm/z領域Riについての参照MS1データと、各m/z領域Riに含まれる全てのイオンについてイオン毎の参照MS2データが、LC溶出時間(保持時間)毎に格納されている。
【0059】
図16は、図15の参照データベース10の参照MS2データ13から図14の参照データベース10の参照MS2データ13を合成する方法を説明する。LC溶出時間毎に、イオン毎の参照MS2データを、各ピークの強度比を保持した状態で、マージする。
【0060】
図17を参照して、ステップS11における、複数のm/z領域を設定する処理を説明する。図17Aの例では、タンデム型質量分析システムによって質量分析可能な質量対電荷比(m/z)の全領域を、等分することにより、m/z領域を設定する。従って、m/z領域は全て等しい。図17Bの例では、タンデム型質量分析システムによって質量分析可能な質量対電荷比m/zの全領域を、各計測MS1データに含まれるピークがほぼ均等に分配されるように、分割することにより、m/z領域を設定する。図17A及び図17Bの例では、各分割領域の、ちょうど境界上にイオンが出現した場合、そのようなイオンの検出は困難となり得る。
【0061】
図17Cの例では、各m/z領域の両側にて、隣接するm/z領域とオーバーラップする領域が設けられる。オーバーラップを設けることにより、境界上にイオンが出現した場合でも検出可能である。
【0062】
図18を参照して、本発明によるユーザ入力部8におけるユーザインターフェースの例を説明する。図18Aに示す例では、本発明によるタンデム型質量分析システムを「マルチプレカーサーMS2による変動成分リアルタイム抽出分析」と称し、これを利用するか否かを選択するためのインターフェースを備える。
【0063】
図18Bに示す例では、参照データベース10を選択するためのインターフェースを示す。図18Cに示す例では、m/z領域の数及び設定方法、タンデム型質量分析の段数を指定するためのインターフェースを示す。
【0064】
次に、本発明のタンデム型質量分析システムの利用方法を説明する。疾病患者の血液や尿などには、健常者のものに比べ、特異的なタンパク質の発現が見られる場合が多い。このようなタンパク質をバイオマーカーと称する。バイオマーカーとなるのは、健常者には検出されないタンパク質、健常者にも検出されるが発現量が健常者のものと異なるタンパク質などである。バイオマーカーの可能性があるタンパク質由来のペプチドが検出された場合、そのタンパク質を高精度にて同定し、定量分析する必要がある。
【0065】
本発明のタンデム型質量分析システムを、バイオマーカーの探索に適用することができる。本例では、分析対象の試料は、疾病患者の血液や尿などの生体試料となる。このようなタンパク質を分析対象とする場合、トリプシン等の消化酵素で、アミノ酸10個程度の配列からなるペプチドに分解したもの試料とする。参照データベース10には、健常者の生体試料内のタンパク質に対するタンデム質量分析データが格納されている。
【0066】
生体試料中には、非常に多くのタンパク質が存在するが、その大部分は、健常者試料と疾病患者試料の双方で検出され、その差異、即ち、変動成分であるタンパク質はほんの一部である。また、変動成分であるタンパク質は微量である場合も多い。
【0067】
本発明によるタンデム型質量分析システムによれば、先ず、m/z領域毎に、その領域内の全イオンについて質量分析を行い計測MS2データを得る。この計測MS2データを参照データベース10に格納された健常者の参照MS2データと比較する。変動成分がある場合には、その領域についてタンデム型質量分析を行う。
【0068】
従って、本例によると、変動解析に要する時間を大幅に短縮できる。或いは、変動成分の分析の割り当てる時間が増える。従って、変動成分が微量である場合でも、積算回数を増やすことにより、感度を稼ぐことが可能となり、容易に検出することができる。
【0069】
本発明のタンデム型質量分析システムの利用方法の他の例を説明する。上述の例では、参照データベース10には、健常者の生体試料内のタンパク質に対するタンデム質量分析データが格納されている。しかしながら、本例では、参照データベース10に、既に発見されたバイオマーカーについてのタンデム質量分析データが格納されている。分析対象の試料は、疾病患者の血液や尿などの生体試料である。
【0070】
疾病患者の生体試料であっても、そこに含まれるタンパク質の大部分は健常者の生体試料に含まれるタンパク質と同一である。従って、生体試料中のタンパク質の大部分は、バイオマーカーと一致しない。
【0071】
m/z領域毎に求めた計測MS2データを参照データベース10に格納されたバイオマーカーの参照MS2データと比較すると、大部分は一致しない。そこで、両者が一致する場合には、その領域についてタンデム型質量分析を行う。
【0072】
従って、本例によると、変動解析に要する時間を大幅に短縮できる。或いは、変動成分の分析の割り当てる時間が増える。従って、変動成分が微量である場合でも、積算回数を増やすことにより、感度を稼ぐことが可能となり、容易に検出することができる。
【0073】
以上説明したように、本発明によると、抽出したい成分が試料中に僅かにしか存在しない場合など、参照とするデータとの変動成分を、高速に抽出でき、また、変動成分が検出された場合のみ、詳細にタンデム質量分析するため、変動成分の高速・高精度同定を可能とする。
【0074】
以上本発明の例を説明したが本発明は上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者に容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】従来のタンデム型質量分析方法の処理を説明する説明図である。
【図2】本発明によるタンデム型質量分析システムの概略を示す図である。
【図3】本発明によるタンデム型質量分析方法の概略を説明するための説明図である。
【図4】本発明によるタンデム型質量分析方法の処理を説明する概略図である。
【図5】本発明によるタンデム型質量分析方法の計測MS2データを参照データベース内の参照MS2データと比較する処理の第1の例を説明するための説明図である。
【図6】本発明によるタンデム型質量分析方法における計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因となる親イオンPiの推測処理の第1の例を説明するための説明図である。
【図7】本発明によるタンデム型質量分析方法の親イオンPiの推測処理の第1の例において、計測MS1データと参照MS1データの間に差異があり、計測MS1データ内にm/z値が異なるピークがある場合を説明するための説明図である。
【図8】本発明によるタンデム型質量分析方法の親イオンPiの推測処理の第1の例において、計測MS1データと参照MS1データの間に差異があり、参照MS1データ内にm/z値が異なるピークがある場合を説明するための説明図である。
【図9】本発明によるタンデム型質量分析方法における計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因となる親イオンPiの推測処理の第2の例を説明するための説明図である。
【図10】本発明によるタンデム型質量分析方法の計測MS2データを参照データベース内の参照MS2データと比較する処理の第2の例を説明するための説明図である。
【図11】本発明によるタンデム型質量分析方法における計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因となる親イオンPiの推測処理の第3の例を説明するための説明図である。
【図12】本発明によるタンデム型質量分析方法の親イオンPiの推測処理の第3の例において、計測MS1データと参照MS1データの間に差異があり、計測MS1データ内にm/z値が異なるピークがある場合を説明するための説明図である。
【図13】本発明によるタンデム型質量分析方法の親イオンPiの推測処理の第3の例において、計測MS1データと参照MS1データの間に差異があり、参照MS1データ内にm/z値が異なるピークがある場合を説明するための説明図である。
【図14】本発明によるタンデム型質量分析システムの参照データベースに格納されたデータの第1の例を示す図である。
【図15】本発明によるタンデム型質量分析システムの参照データベースに格納されたデータの第2の例を示す図である。
【図16】本発明によるタンデム型質量分析方法において、2つの参照MS2データを合成して1つの参照MS2データを生成する方法を説明する図である。
【図17】本発明によるタンデム型質量分析方法において試料イオンの質量対電荷比m/z領域を分割する方法を説明する図である。
【図18】本発明によるタンデム型質量分析方法におけるユーザインターフェースの例を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1…クロマトグラフィー部、2…イオン化部、3…タンデム型質量分析部、5…データ処理部、6…表示部、7…制御部、8…ユーザ入力部、10…参照データベース、13…質量対電荷比(m/z)領域Ri内の全イオンのMS2データ、18…領域Ri内のイオンのMS1分析データ
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンデム型質量分析システムに関し、特に、タンデム型質量分析システムを用いた変動解析に関する。
【背景技術】
【0002】
図1を参照してタンデム型質量分析を用いた変動解析の概要を説明する。タンデム型質量分析では、先ず、試料に含まれる物質の質量分析分布を計測する。それによって、第1段の質量分析スペクトル(MS1)が得られる。質量分析スペクトルの横軸は質量対電荷比m/z、縦軸はイオン検出数である。次に、この第1段の質量分析スペクトル(MS1)から、イオン検出数の高い順にイオンを選択する。ここではイオンA、B、Dを選択する。こうして選択したイオンを前駆イオン又は親イオンと称する。親イオンを解離分解させ、解離分解したイオンの各々について、質量分析分布を計測する。それによって第2段の質量分析スペクトル(MS2)を得る。
【0003】
第2段の質量分析スペクトル(MS2)を、予め測定した標準試料の第2段の質量分析スペクトル(MS2)と比較する。両者の間に差異があったらそのイオンを試料の変動成分と判定する。
【0004】
第2段の質量分析スペクトルの比較では不十分である場合には、第3段の質量分析スペクトル(MS3)を求め、それを標準試料の第3段の質量分析スペクトルと比較して変動成分を求めてもよい。こうして、多段の質量分析スペクトルを求め、それを標準試料の質量分析スペクトルと比較することにより、より正確な試料の変動解析の結果を得ることができる。
【0005】
このように、タンデム型質量分析とは、親イオンを選択し、それを解離させて質量分析を行うことを繰り返す手法をいう。
【0006】
例えば、予め健常者由来の試料から質量分析スペクトル(MS2)を測定し、それを参照データベースに格納する。被検者由来の試料から得られた質量分析スペクトル(MS2)を健常者の質量分析スペクトル(MS2)と比較し、変動成分を検出する。こうして検出した変動成分から、被検者の健康状態を判定することができる。
【0007】
特許文献1及び2には、被検者由来の試料より得られた質量分析スペクトルを、標準データベースに格納された健常者由来の試料より得られた質量分析スペクトルと比較する変動解析の例が記載されている。
【特許文献1】特開2001−249114号公報
【特許文献2】特開2001−330599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タンデム型質量分析を用いた変動解析において、変動成分の検出精度を高くするには、選択する親イオンの数が多ければ多いほどよい。図1の例では、イオンA、B、Dを親イオンとして選択し、イオンCを選択していない。イオンA、B、Dについて第2段の質量分析スペクトルと標準試料の質量分析スペクトルを比較したが、変動成分は検出されなかったとする。この場合、分析対象の試料は変動成分を有さないと判定される。しかしながら、もしイオンCについて第2段の質量分析スペクトルと標準試料の質量分析スペクトルを比較したら、変動成分が検出されているかもしれない。
【0009】
親イオンの数が多くなると、第2段の質量分析スペクトル(MS2)を測定する処理が増加する。通常、分析対象試料中の成分の大部分は、標準試料中に含まれる。従って、親イオンに関する第2段の質量分析スペクトル(MS2)の測定処理の大部分は無駄となっている。親イオンの数が多くなればなるほど、無駄な測定処理が増加することになる。
【0010】
本発明の目的は、タンデム型質量分析によって高効率にて変動解析を行うことができるタンデム型質量分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のタンデム質量分析システムは、以下の(1)〜(6)の工程を含む。尚、計測した第1段の質量分析スペクトルを計測MS1データ、第2段の質量分析スペクトルを計測MS2データ、計測MSnデータ等と称する。参照データベースに格納されている対応する参照試料の質量分析スペクトルを、それぞれ、参照MS1データ、参照MS2データ、参照MSnデータ等と称する、
(1)参照試料について質量分析を行い、参照MS1データ、参照MS2データ等を参照用データベースに格納する。
(2)タンデム型質量分析システムによって質量分析可能な質量対電荷比m/zの全領域を、複数の領域に分割し、所定の数のm/z領域を設定する。m/z領域Ri毎に、そこに含まれる全イオンをまとめて解離し、質量分析を行う。それによって計測MS2データを取得する。
(3)計測MS2データを参照データベースに格納された参照MS2データと比較し、両者の差異、即ち、変動成分の有無を検出する。
(4)変動成分が検出されたm/z領域に対して、そこに含まれる全イオンをまとめて解離なしの質量分析を行う。それによって計測MS1データを得る。
(5)計測MS1データを参照MS1データと比較し、両者の差異を検出する。この差異から、(3)で検出した変動成分の要因であると考えられる親イオンを推定する。推定した親イオンを解離させて質量分析を行う。それによって、親イオン毎に計測MS2データを得る。この計測MS2データを参照MS2データと比較し、両者の差異、即ち、変動成分の有無を検出する。このような質量分析を必要な段数だけ繰り返す。
(6)多段の計測MSnデータより、参照試料に対する質量分析対象試料の変動成分の物質を同定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、タンデム型質量分析によって高効率にて変動解析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図2を参照して本発明によるタンデム型質量分析システムの例を説明する。本例のタンデム型質量分析システムは、クロマトグラフィー部1、イオン化部2、タンデム型質量分析部3、イオン検出部4、データ処理部5、表示部6、制御部7、ユーザ入力部8、及び、参照データベース10を有する。タンデム型質量分析部3は、イオントラップ部3-a、イオン解離部 3-b、及び、イオン分離部3-c、を有する。
【0014】
質量分析対象の試料は、タンパク質や糖鎖などの生体高分子系の物質、又は、薬剤等の低分子量物質である。試料は、先ず、クロマトグラフィー部1に導入される。クロマトグラフィー部1は、液体クロマトグラフィー(LC)又はガスクロマトグラフィー(GC)を備える。以下では、クロマトグラフィー部1は、液体クロマトグラフィー(LC)を備えるものとして説明する。
【0015】
試料に含まれる物質は、液体クロマトグラフィーのカラムへの吸着力の差異に従って、時間的に分離及び分画される。試料は更に、イオン化部2にてイオン化される。尚、クロマトグラフィーを用いず、試料をインジェクションして、直接イオン化してもよい。
【0016】
本発明のタンデム型質量分析では、特定の質量対電荷比m/z又は特定の質量対電荷比m/zの領域の親イオンを解離、分離する。
【0017】
本例では、親イオンの解離方法として、親イオンをヘリウムなどのバッファーガスに衝突させて解離させる衝突解離(Collision Induced Dissociation)法を用いる。イオン解離部 3-bは、内部に中性ガスを充填したコリジョンセル (collision cell)を有する。
【0018】
イオントラップ部3-aは、特定の質量対電荷比(m/z)又は特定の質量対電荷比(m/z)の領域の親イオンを捕獲し、それをまとめてコリジョンセルに投入する。特定の親イオンを捕獲するには、例えば、排除すべきイオンが共鳴状態となるように、所定の周波数の共鳴電圧をトラップ電圧に重畳印加させる。
【0019】
イオン解離部 3-bは、特定の質量対電荷比m/z又は特定の質量対電荷比m/zの領域の親イオンを、コリジョンセル内の中性ガスと衝突させ、解離させる。親イオンを中性ガスと衝突させるには、親イオンに共鳴する周波数の電圧を印加する。こうして解離したイオンは、イオン分離部3-cにて、質量対電荷比m/z毎に分離される。
【0020】
尚、イオントラップ部3-aに中性ガスを充満させて、イオントラップ部3-a内で親イオンを中性ガスに衝突させ解離させてもよい。その場合、コリジョンセルは不要である。
【0021】
親イオンの解離方法として、親イオンに低エネルギーの電子を照射し、多量の低エネルギー電子を捕獲させることにより解離させる電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation)法、親イオンにイオンビームを照射し、電子を移動させることにより解離させる電子移動解離(Electron Transfer Dissociation)法等を用いてもよい。
【0022】
イオン検出部4は、質量対電荷比m/z毎に分離されたイオン数を検出し、質量分析スペクトルを出力する。データ処理部5は、イオン検出部4によって得られた質量分析スペクトルと参照データベース10に格納されている標準試料又は参照試料の質量分析スペクトルを比較する。データ処理部5の処理の詳細は後に説明する。参照データベース10には標準試料又は参照試料について予め計測した様々な質量分析スペクトルが格納されている。参照データベース10に格納されている質量分析スペクトルの例は後に説明する。
【0023】
計測した質量分析スペクトルは、表示部6にて表示される。データ処理部5は、参照データベース10に格納されている質量分析スペクトルのデータとは異なるデータが得られた場合には、それを参照データベース10に格納する。制御部7は、この一連の質量分析過程、即ち、試料のイオン化、質量分析、親イオンの選択、質量分析の繰返し、及び、データの表示を制御する。
【0024】
尚、以下に、イオン検出部4によって得られる第1段の質量分析スペクトルを計測MS1データ、第2段の質量分析スペクトルを計測MS2データ、第3段の質量分析スペクトルを計測MS3データ、第n段の質量分析スペクトルを計測MSnデータと称する。参照データベースに格納されている対応する参照試料の質量分析スペクトルを、それぞれ、参照MS1データ、参照MS2データ、参照MS3データ、参照MSnデータ等と称する。尚、第1段の質量分析スペクトルを得る場合には、イオンを解離させないで質量分析を行うが、第2段以降の質量分析スペクトルを得る場合には、イオンを解離させて質量分析を行う。
【0025】
図3を参照して本発明によるタンデム型質量分析方法の概念を説明する。先ず、タンデム型質量分析システムによって質量分析可能な質量対電荷比m/zの全領域を、複数の領域に分割し、複数のマスレンジ、即ち、m/z領域を設定する。m/z領域Riの設定方法の例は後に図17を参照して説明する。次に、m/z領域Ri毎に、各m/z領域に含まれる全イオンを解離し、質量分析を行う。こうして、計測MS2データを得る。
【0026】
計測MS2データを参照データベースに格納されている参照MS2データを比較し、両者の差異を検出する。ここで差異は、イオンを表すピークの差異である。差異が検出されなかった場合には、次のm/z領域について計測MS2データを測定する。差異が検出された場合には、そのm/z領域Riの全てのイオンに対してタンデム型質量分析を行う。即ち、そのm/z領域Riの全てのイオンについて質量分析を行い、計測MS1データ18を得る。この計測MS1データ18を参照データベース10内の参照MS1データと比較し、両者の差異、即ち、変動成分を検出する。
【0027】
計測MS1データには4つのイオンA、B、C、Dが検出され、参照MS1データには、3つのイオンA、B、Dが含まれるものとする。イオンCが変動成分である。そこでイオンCを親イオンとして選択する。即ち、イオンCが、計測MS1データと参照MS1データの差異の原因であると推定することができる。イオンCについて、タンデム型質量分析を行う。それによって計測MS2データが得られる。計測MS2データを、参照データベース10内の参照MS2データと比較し、変動成分であるイオンを検出する。更に、質量分析を繰返し、参照MSnデータを求めてもよい。
【0028】
本発明によると最初にm/z領域毎に、計測MS2データを測定し、それを参照MS2データと比較する。比較の結果、差異があるm/z領域について、タンデム型質量分析を行い、差異がない領域については質量分析を行わない。従って、タンデム型質量分析を効率的に実施することができる。
【0029】
本例によれば、タンデム型質量分析工程を効率的に実施することができるから、分析に充分な時間を割り当てることができる。従って、変動成分が微量であっても検出される可能性が高まる。
【0030】
図4を参照して本発明のタンデム型質量分析システムにおける処理を説明する。ステップS11にて、タンデム型質量分析システムによって質量分析可能な質量対電荷比m/zの全領域を、複数の領域に分割し、複数のm/z領域を設定する。次に、1つのm/z領域Riを選択する。
【0031】
ステップS12にて、選択したm/z領域R(i)に含まれる全てのイオンをまとめて解離させ質量分析する。それによって、m/z領域R(i)内の全イオンの計測MS2データ13が得られる。ステップS14にて、参照データベースに格納された標準試料についての同一m/z領域R(i)内の全イオンの参照MS2データを読み出す。
【0032】
ステップS15にて、計測MS2データ13と参照MS2データを、リアルタイムで比較する。ステップS16にて、計測MS2データ13と参照MS2データの間の差異、即ち、変動成分の有無を判定する。変動成分が無い場合には、ステップS12に戻り、次のm/z領域R(i+1)を選定する。以下、ステップS12からステップS16を繰り返す。
【0033】
図5は、計測MS2データ13と参照MS2データの例を示す。点線で示したピークが変動成分である。
【0034】
ステップS16にて、変動成分があった場合には、ステップS17に進む。ステップS17にて、変動成分があったm/z領域R(k)内の全イオンについて質量分析を行い、計測MS1データ18を得る。ステップS19にて、計測MS1データ18を参照データベースに格納された参照MS2データと比較し、変動成分を検出する。それによって、ステップS16で検出した変動成分の原因であるイオンを推定し、それを親イオンとして選択する。Np個 (Np≧1)の親イオンを選択したものとする。ステップS19の処理の詳細は後に説明する。
【0035】
ステップS20にて、Np個 (Np≧1)の親イオンに対して、解離及び質量分析を行い、計測MS2データを得る。これを参照データベースに格納された参照MS2データと比較し、変動成分を検出する。以下に、必要に応じて、第n段の計測MSnデータを求め、変動成分を解析する。ステップS21にて、次のm/z領域R(k+1)を選定し、ステップS12に戻る。
【0036】
図6を参照して、ステップS19における計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因となる親イオンPiの推測処理の第1の例を説明する。ステップS22にて、変動成分があったm/z領域R(k)の計測MS1データ18と参照データベースに格納された参照MS1データと比較する。ステップS23にて、両者に差異があるか否かを判定する。ここでは、m/z値が異なるピークがあるかを判定する。m/z値が異なるピークが有る場合、ステップS24又はステップS25に進む。
【0037】
m/z値が異なるピークが無い場合、計測MS2データと参照MS2データの不一致の原因が不明であるためステップS26に進む。
【0038】
ステップS26にて、計測MS1データ18にて観測されたイオンからNp個 (Np≧1)のイオンを親イオンとして選択し、ステップS20に進む。ステップS20にて、親イオンについてタンデム型質量分析を行う。
【0039】
ステップS23にて、m/z値が異なるピークがあると判定された場合、更に、(1)計測MS1データ18内にm/z値が異なるピークがある場合と、(2)参照MS1データ内にm/z値が異なるピークがある場合がある。
【0040】
(1)の場合、ステップS24に進み、m/z値が不一致のピークを親イオンとして選択し、ステップS20に進む。ここではNp個(Np≧1)の親イオンを選択したものとする。ステップS20にて、親イオンについてタンデム型質量分析を行う。
【0041】
(2)の場合、ステップS25に進み、参照MS1データにあるが計測MS1データには無いピークの情報を参照データベース10に記録し、ステップS21に進む。
【0042】
図7は、ステップS16における、計測MS2データ13と参照MS2データの間の差異の有無を判定する処理において、点線にて示すように計測MS2データ内にm/z値が異なるピークがある場合を示す。ここでは、ステップS22の参照MS1データと計測MS1データ18の比較において、(1)計測MS1データ18内にm/z値が異なるピークがある場合を示す。イオンCは、計測MS1データ18内に観測されるが、参照データベース内の参照MS1データには観測されない。したがって、ステップS26にてイオンCを親イオンとして選択し、ステップS20において質量分析MSn(n≧2)を行う。
【0043】
図8は、ステップS16における、計測MS2データ13と参照MS2データの間の差異の有無を判定する処理において、点線にて示すように参照MS2データ内にm/z値が異なるピークがある場合を示す。ここでは、ステップS22の参照MS1データと計測MS1データ18の比較において、(2)参照データベース内の参照MS1データにm/z値が異なるピークがある場合を示す。イオンAは、計測MS1データ18内には観測されず、参照MS1データに観測される。従って、イオンAは計測MS1データ18における欠損成分である。ステップS25にて、参照データベースに、イオンAを計測MS1データ18における欠損成分として記録する。次にステップS21に進む。
【0044】
図9を参照して、ステップS19における計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因となる親イオンPiの推測処理の第2の例を説明する。本例では、図6の第1の例と比較して、ステップS23にて、m/z値が異なるピークがあると判定され、更に、(2)参照MS1データのm/z値が異なるピークがある場合の処理が異なる。
【0045】
(2)の場合、ステップS25に進み、参照MS1データにあるが計測MS1データには無いピークの情報を参照データベース10に記録し、ステップS26に進む。ステップS26にて、計測MS1データ18にて観測されたイオンからNp個 (Np≧1)のイオンを親イオンとして選択し、ステップS20に進む。
【0046】
本例では、計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因として、計測MS1データ18における欠損成分の他にもあるか否かを確認できる。従って、本例に拠れば、参照データに対する変動成分抽出の精度向上を期待することができる。
【0047】
図10を参照して、ステップS15の2つの質量分析スペクトルの間の差異、即ち、不一致ピークの有無の認定方法の他の例を説明する。図5の例では、2つの質量分析スペクトルを比較し、両者にm/z値が異なるピークがある場合には、変動成分が有ると判定した。しかしながら、本例では、2つの質量分析スペクトルを比較し、両者にm/z値が同一であっても強度が異なるピークがある場合には、変動成分があると判定する。計測MS2データに含まれる点線のピークは、参照MS2データの実線のピークと比較して、m/z値が同一であるが強度が異なる。
【0048】
図4のステップS15における計測MS2データ13と参照MS2データの比較処理、図6及び図9のステップS22における計測MS1データ18と参照MS1データの比較処理において、m/z値が同一であっても強度が異なるピークがある場合には、変動成分があると判定する。
【0049】
図11を参照して、ステップS19における計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因となる親イオンPiの推測処理の第3の例を説明する。ステップS22にて、変動成分があったm/z領域R(k)の計測MS1データ18と参照データベースに格納された参照MS1データと比較する。ステップS23にて、両者に差異があるか否かを判定する。即ち、m/z値が異なるピーク又はm/z値が同一であっても強度が異なるピークがあるか否かを判定する。m/z値が異なるピーク又はm/z値が同一であっても強度が異なるピークが有る場合、ステップS24又はステップS25に進む。
【0050】
m/z値が異なるピークもm/z値が同一であっても強度が異なるピークも無い場合、計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因が不明であるためステップS26に進む。以下の処理は図6に示した第1の例と同様である。
【0051】
尚、本例では、ステップS16における、計測MS2データ13と参照MS2データの間の差異の有無を判定する処理においても、m/z値が異なるピーク又はm/z値が同一であっても強度が異なるピークがあるか否かを判定する。
【0052】
図12は、ステップS16における、計測MS2データ13と参照MS2データの間の差異の有無を判定する処理において、点線にて示すようにm/z値は同一であるが強度が異なる2つのピークが存在する場合を示す。本例では、両者間には差異があると判定し、ステップS17にて、m/z領域R(k)内の全イオンについて質量分析を行い、計測MS1データ18を得る。
【0053】
ステップS19にて、計測MS1データ18より、ステップS16で検出した変動成分の原因であるイオンを推定する。計測MS1データ18のイオンAと同一のm/z値を有するイオンが、参照データベース内の参照MS1データに存在する。しかしながら、両者の強度は異なる。ここでは、イオンAを親イオンとして推定する。
【0054】
図13は、ステップS16における、計測MS2データ13と参照MS2データの間の差異の有無を判定する処理において、点線にて示すようにm/z値は同一であるが強度が異なる2つのピークが存在する場合を示す。従って、両者間には差異があると判定し、ステップS17にて、m/z領域R(k)内の全イオンについて質量分析を行い、計測MS1データ18を得る。
【0055】
ステップS19にて、計測MS1データ18より、ステップS16で検出した変動成分の原因であるイオンを推定する。計測MS1データ18のイオンEと参照データベース内の参照MS1データ内のイオンAは、m/z値も強度も異なる。従ってイオンEを親イオンとして推定する。
【0056】
本例では、参照データと実測データの比較において、ピークのm/z値の差異ばかりでなく、強度分布も考慮して、その変動部分を検出する。従って、試料中の物質の存在量、発現量に対する変動をも抽出して、その成分の同定が可能となる。
【0057】
図14を参照して本発明のタンデム型質量分析システムに設けられた参照データベース10の第1の例を説明する。参照データベース10には、参照とする試料に対して、特定のm/z領域Riについての参照MS1データ、各m/z領域Riに含まれる全てのイオンについての参照MS2データが、LC溶出時間(保持時間)毎に格納されている。
【0058】
図15を参照して本発明のタンデム型質量分析システムに設けられた参照データベース10の第2の例を説明する。参照データベース10には、参照とする試料に対して、特定のm/z領域Riについての参照MS1データと、各m/z領域Riに含まれる全てのイオンについてイオン毎の参照MS2データが、LC溶出時間(保持時間)毎に格納されている。
【0059】
図16は、図15の参照データベース10の参照MS2データ13から図14の参照データベース10の参照MS2データ13を合成する方法を説明する。LC溶出時間毎に、イオン毎の参照MS2データを、各ピークの強度比を保持した状態で、マージする。
【0060】
図17を参照して、ステップS11における、複数のm/z領域を設定する処理を説明する。図17Aの例では、タンデム型質量分析システムによって質量分析可能な質量対電荷比(m/z)の全領域を、等分することにより、m/z領域を設定する。従って、m/z領域は全て等しい。図17Bの例では、タンデム型質量分析システムによって質量分析可能な質量対電荷比m/zの全領域を、各計測MS1データに含まれるピークがほぼ均等に分配されるように、分割することにより、m/z領域を設定する。図17A及び図17Bの例では、各分割領域の、ちょうど境界上にイオンが出現した場合、そのようなイオンの検出は困難となり得る。
【0061】
図17Cの例では、各m/z領域の両側にて、隣接するm/z領域とオーバーラップする領域が設けられる。オーバーラップを設けることにより、境界上にイオンが出現した場合でも検出可能である。
【0062】
図18を参照して、本発明によるユーザ入力部8におけるユーザインターフェースの例を説明する。図18Aに示す例では、本発明によるタンデム型質量分析システムを「マルチプレカーサーMS2による変動成分リアルタイム抽出分析」と称し、これを利用するか否かを選択するためのインターフェースを備える。
【0063】
図18Bに示す例では、参照データベース10を選択するためのインターフェースを示す。図18Cに示す例では、m/z領域の数及び設定方法、タンデム型質量分析の段数を指定するためのインターフェースを示す。
【0064】
次に、本発明のタンデム型質量分析システムの利用方法を説明する。疾病患者の血液や尿などには、健常者のものに比べ、特異的なタンパク質の発現が見られる場合が多い。このようなタンパク質をバイオマーカーと称する。バイオマーカーとなるのは、健常者には検出されないタンパク質、健常者にも検出されるが発現量が健常者のものと異なるタンパク質などである。バイオマーカーの可能性があるタンパク質由来のペプチドが検出された場合、そのタンパク質を高精度にて同定し、定量分析する必要がある。
【0065】
本発明のタンデム型質量分析システムを、バイオマーカーの探索に適用することができる。本例では、分析対象の試料は、疾病患者の血液や尿などの生体試料となる。このようなタンパク質を分析対象とする場合、トリプシン等の消化酵素で、アミノ酸10個程度の配列からなるペプチドに分解したもの試料とする。参照データベース10には、健常者の生体試料内のタンパク質に対するタンデム質量分析データが格納されている。
【0066】
生体試料中には、非常に多くのタンパク質が存在するが、その大部分は、健常者試料と疾病患者試料の双方で検出され、その差異、即ち、変動成分であるタンパク質はほんの一部である。また、変動成分であるタンパク質は微量である場合も多い。
【0067】
本発明によるタンデム型質量分析システムによれば、先ず、m/z領域毎に、その領域内の全イオンについて質量分析を行い計測MS2データを得る。この計測MS2データを参照データベース10に格納された健常者の参照MS2データと比較する。変動成分がある場合には、その領域についてタンデム型質量分析を行う。
【0068】
従って、本例によると、変動解析に要する時間を大幅に短縮できる。或いは、変動成分の分析の割り当てる時間が増える。従って、変動成分が微量である場合でも、積算回数を増やすことにより、感度を稼ぐことが可能となり、容易に検出することができる。
【0069】
本発明のタンデム型質量分析システムの利用方法の他の例を説明する。上述の例では、参照データベース10には、健常者の生体試料内のタンパク質に対するタンデム質量分析データが格納されている。しかしながら、本例では、参照データベース10に、既に発見されたバイオマーカーについてのタンデム質量分析データが格納されている。分析対象の試料は、疾病患者の血液や尿などの生体試料である。
【0070】
疾病患者の生体試料であっても、そこに含まれるタンパク質の大部分は健常者の生体試料に含まれるタンパク質と同一である。従って、生体試料中のタンパク質の大部分は、バイオマーカーと一致しない。
【0071】
m/z領域毎に求めた計測MS2データを参照データベース10に格納されたバイオマーカーの参照MS2データと比較すると、大部分は一致しない。そこで、両者が一致する場合には、その領域についてタンデム型質量分析を行う。
【0072】
従って、本例によると、変動解析に要する時間を大幅に短縮できる。或いは、変動成分の分析の割り当てる時間が増える。従って、変動成分が微量である場合でも、積算回数を増やすことにより、感度を稼ぐことが可能となり、容易に検出することができる。
【0073】
以上説明したように、本発明によると、抽出したい成分が試料中に僅かにしか存在しない場合など、参照とするデータとの変動成分を、高速に抽出でき、また、変動成分が検出された場合のみ、詳細にタンデム質量分析するため、変動成分の高速・高精度同定を可能とする。
【0074】
以上本発明の例を説明したが本発明は上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者に容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】従来のタンデム型質量分析方法の処理を説明する説明図である。
【図2】本発明によるタンデム型質量分析システムの概略を示す図である。
【図3】本発明によるタンデム型質量分析方法の概略を説明するための説明図である。
【図4】本発明によるタンデム型質量分析方法の処理を説明する概略図である。
【図5】本発明によるタンデム型質量分析方法の計測MS2データを参照データベース内の参照MS2データと比較する処理の第1の例を説明するための説明図である。
【図6】本発明によるタンデム型質量分析方法における計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因となる親イオンPiの推測処理の第1の例を説明するための説明図である。
【図7】本発明によるタンデム型質量分析方法の親イオンPiの推測処理の第1の例において、計測MS1データと参照MS1データの間に差異があり、計測MS1データ内にm/z値が異なるピークがある場合を説明するための説明図である。
【図8】本発明によるタンデム型質量分析方法の親イオンPiの推測処理の第1の例において、計測MS1データと参照MS1データの間に差異があり、参照MS1データ内にm/z値が異なるピークがある場合を説明するための説明図である。
【図9】本発明によるタンデム型質量分析方法における計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因となる親イオンPiの推測処理の第2の例を説明するための説明図である。
【図10】本発明によるタンデム型質量分析方法の計測MS2データを参照データベース内の参照MS2データと比較する処理の第2の例を説明するための説明図である。
【図11】本発明によるタンデム型質量分析方法における計測MS2データと参照MS2データの不一致ピークの原因となる親イオンPiの推測処理の第3の例を説明するための説明図である。
【図12】本発明によるタンデム型質量分析方法の親イオンPiの推測処理の第3の例において、計測MS1データと参照MS1データの間に差異があり、計測MS1データ内にm/z値が異なるピークがある場合を説明するための説明図である。
【図13】本発明によるタンデム型質量分析方法の親イオンPiの推測処理の第3の例において、計測MS1データと参照MS1データの間に差異があり、参照MS1データ内にm/z値が異なるピークがある場合を説明するための説明図である。
【図14】本発明によるタンデム型質量分析システムの参照データベースに格納されたデータの第1の例を示す図である。
【図15】本発明によるタンデム型質量分析システムの参照データベースに格納されたデータの第2の例を示す図である。
【図16】本発明によるタンデム型質量分析方法において、2つの参照MS2データを合成して1つの参照MS2データを生成する方法を説明する図である。
【図17】本発明によるタンデム型質量分析方法において試料イオンの質量対電荷比m/z領域を分割する方法を説明する図である。
【図18】本発明によるタンデム型質量分析方法におけるユーザインターフェースの例を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1…クロマトグラフィー部、2…イオン化部、3…タンデム型質量分析部、5…データ処理部、6…表示部、7…制御部、8…ユーザ入力部、10…参照データベース、13…質量対電荷比(m/z)領域Ri内の全イオンのMS2データ、18…領域Ri内のイオンのMS1分析データ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照試料の質量分析スペクトルを格納した参照データベースと、試料に含まれる物質を分離するクロマトグラフィー部と、試料に含まれる物質をイオン化するイオン化部と、イオンを解離させるイオン解離部と、該解離イオンを分離するイオン分離部と、分離イオンを質量対電荷比m/z毎に検出して質量分析スペクトルを生成するイオン検出部と、該イオン検出部によって得られた質量分析スペクトルと上記参照データベースに格納された質量分析スペクトルを比較するデータ処理部と、を有し、
予め設定された複数の質量対電荷比m/zの領域の各々について各質量対電荷比m/zの領域に含まれる試料中の全イオンについて解離を行って質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する参照試料の質量分析スペクトルである参照MS2データと比較し、両者に差があるとき、両者の差の原因となるイオンを推定するために、上記差がある計測MS2データに含まれる全イオンについて解離を行わないで質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS1データを上記参照データベースに格納された対応する参照試料の質量分析スペクトルである参照MS1データと比較することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項2】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS1データと上記参照MS1データの比較において、両者に差があるとき、上記計測MS1データより所定のイオンを親イオンとして選択し、該親イオンについて解離を行って質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する参照試料の質量分析スペクトルである参照MS2データと比較することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項3】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS2データと上記参照MS2データの比較において、上記計測MS2データに含まれるが上記参照MS2データに含まれないイオンがあると判定され、上記計測MS1データと上記参照MS1データの比較において、上記計測MS1データに含まれるが上記参照MS1データに含まれないイオンがあると判定されたとき、上記計測MS1データのみに含まれるイオンを親イオンとして選択し、該親イオンについて解離を行って質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する参照試料の質量分析スペクトルである参照MS2データと比較することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項4】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS2データと上記参照MS2データの比較において、上記参照MS2データに含まれるが上記計測MS2データに含まれないイオンがあると判定され、上記計測MS1データと上記参照MS1データの比較において、上記参照MS1データに含まれるが上記計測MS1データに含まれないイオンがあると判定されたとき、上記参照MS1データのみに含まれるイオンを上記計測MS1データの欠損イオンとして上記参照データベースに格納することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項5】
請求項4記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS1データと上記参照MS1データの比較において、上記参照MS1データに含まれるが上記計測MS1データに含まれないイオンがあると判定されたとき、上記計測MS1データに含まれるイオンから所定のイオンを親イオンとして選択し、該親イオンについて解離を行って質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する参照試料の質量分析スペクトルである参照MS2データと比較することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項6】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS1データと上記参照MS1データの比較において、両者に差異がないと判定されたとき、上記計測MS1データに含まれるイオンから所定のイオンを親イオンとして選択し、該親イオンについて解離を行って質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する参照試料の質量分析スペクトルである参照MS2データと比較することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項7】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS2データと上記参照MS2データの比較において、上記計測MS2データに含まれるイオンと上記参照MS2データに含まれるイオンの間に互いに質量対電荷比m/zが異なるイオンがある場合と互いに質量対電荷比m/zが同一であるがイオン検出強度が異なるイオンがある場合に、両者は異なると判定することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項8】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS1データと上記参照MS1データの比較において、上記計測MS1データに含まれるイオンと上記参照MS1データに含まれるイオンの間に互いに質量対電荷比m/zが異なるイオンがある場合と互いに質量対電荷比m/zが同一であるがイオン検出強度が異なるイオンがある場合に、両者は異なると判定することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項9】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記参照データベースは、上記質量対電荷比m/zの領域の各々について各質量対電荷比m/zの領域に含まれる全イオンについて解離を行わないで質量分析することにより得られた質量分析スペクトルである参照MS1データと、該参照MS1データに含まれる全イオンをまとめて解離を行って質量分析することにより得られた質量分析スペクトルである参照MS2データを対応させて格納していることを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項10】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記参照データベースは、上記質量対電荷比m/zの領域の各々について各質量対電荷比m/zの領域に含まれる全イオンについて解離を行わないで質量分析することにより得られた質量分析スペクトルである参照MS1データと、該参照MS1データに含まれる全イオンの各々を解離を行って質量分析することにより得られた質量分析スペクトルである参照MS2データを対応させて格納していることを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項11】
予め計測した参照試料についての質量分析スペクトルを参照データとして参照データベースに格納する参照データベース作成ステップと、
所定の数の質量対電荷比m/z領域を設定する領域設定ステップと、
上記質量対電荷比m/z領域の各々について、各質量対電荷比m/z領域に含まれる試料中の全イオンをまとめて解離し、質量分析を行い、その質量分析スペクトルである予備的な計測MS2データを得る予備的な計測MS2データ計測ステップと、
上記予備的な計測MS2データの各々を上記参照データベースに格納された対応する予備的な参照MS2データと比較し、両者の差異を検出する予備的な計測MS2データの変動検出ステップと、
上記差異が検出された上記予備的な計測MS2データに含まれる全イオンをまとめて解離なしの質量分析を行い、その質量分析スペクトルである第1段の計測MS1データを得る第1段の計測MS1データ計測ステップと、
上記第1段の計測MS1データを上記参照データベースに格納された対応する第1段の参照MS1データと比較し、両者の差異を検出する第1段の計測MS1データの変動検出ステップと、
上記予備的な計測MS2データと上記予備的な参照MS2データの差異の原因であるイオンを上記第1段の計測MS1データの中から推定する親イオン推定ステップと、
上記推定した親イオンを解離し、質量分析を行い、その質量分析スペクトルである第2段の計測MS2データを得る第2段の計測MS2データ計測ステップと、
上記第2段の計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する第2段の参照MS2データと比較し、両者の差異を検出する第2段の計測MS2データの変動検出ステップと、
を含むタンデム型質量分析方法。
【請求項12】
請求項11記載のタンデム型質量分析方法において、
上記予備的な計測MS2データの変動検出ステップにおいて、上記予備的な計測MS2データに含まれるが上記予備的な参照MS2データに含まれないイオンがあると判定され、上記第1段の計測MS1データの変動検出ステップにおいて、上記第1段の計測MS1データに含まれるが上記第1段の参照MS1データに含まれないイオンがあると判定されたとき、上記親イオン推定ステップにおいて、上記第1段の計測MS1データのみに含まれるイオンを親イオンとして選択することを特徴とするタンデム型質量分析方法。
【請求項13】
請求項11記載のタンデム型質量分析方法において、
上記予備的な計測MS2データの変動検出ステップにおいて、上記予備的な参照MS2データに含まれるが上記予備的な計測MS2データに含まれないイオンがあると判定され、上記第1段の計測MS1データの変動検出ステップにおいて、上記第1段の参照MS1データに含まれるが上記第1段の計測MS1データに含まれないイオンがあると判定されたとき、上記第1段の参照MS1データのみに含まれるイオンを上記第1段の計測MS1データの欠損イオンとして上記参照データベースに格納することを特徴とするタンデム型質量分析方法。
【請求項14】
請求項11記載のタンデム型質量分析方法において、上記予備的な計測MS2データの変動検出ステップにおいて、上記予備的な参照MS2データに含まれるが上記予備的な計測MS2データに含まれないイオンがあると判定され、上記第1段の計測MS1データの変動検出ステップにおいて、上記第1段の参照MS1データに含まれるが上記第1段の計測MS1データに含まれないイオンがあると判定されたとき、上記親イオン推定ステップにおいて、上記第1段の計測MS1データに含まれるイオンから所定のイオンを親イオンとして推定することを特徴とするタンデム型質量分析方法。
【請求項15】
請求項11記載のタンデム型質量分析方法において、上記第1段の計測MS1データの変動検出ステップにおいて、両者に差異がないと判定されたとき、上記親イオン推定ステップにおいて、上記計測MS1データに含まれるイオンから所定のイオンを親イオンとして推定することを特徴とするタンデム型質量分析方法。
【請求項16】
請求項11記載のタンデム型質量分析方法において、上記予備的な計測MS2データの変動検出ステップにおいて、上記予備的な計測MS2データに含まれるイオンと上記予備的な参照MS2データに含まれるイオンの間に互いに質量対電荷比m/zが異なるイオンがある場合と互いに質量対電荷比m/zが同一であるがイオン検出強度が異なるイオンがある場合に、両者は異なると判定することを特徴とするタンデム型質量分析方法。
【請求項17】
請求項11記載のタンデム型質量分析方法において、上記第1段の計測MS1データの変動検出ステップにおいて、上記第1段の計測MS1データに含まれるイオンと上記第1段の参照MS1データに含まれるイオンの間に互いに質量対電荷比m/zが異なるイオンがある場合と互いに質量対電荷比m/zが同一であるがイオン検出強度が異なるイオンがある場合に、両者は異なると判定することを特徴とするタンデム型質量分析方法。
【請求項18】
標準試料の質量分析スペクトルを格納した参照データベースと、被検者の検体試料についてタンデム型質量分析を行うタンデム型質量分析装置と、を有する健康診断システムにおいて、
予め設定された複数の質量対電荷比m/zの領域の各々について各質量対電荷比m/zの領域に含まれる被検者の検体試料の全イオンについて解離を行って質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する標準試料の質量分析スペクトルである参照MS2データと比較し、両者に差があるとき、両者の差の原因となるイオンを推定するために、上記差がある質量対電荷比m/zの領域に含まれる全イオンについて解離を行わないで質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS1データを上記参照データベースに格納された対応する標準試料の質量分析スペクトルである参照MS1データと比較することを特徴とする健康診断システム。
【請求項19】
請求項18記載の健康診断システムにおいて、上記参照データベースには、健常者の検体試料の質量分析スペクトルを格納されていることを特徴とする健康診断システム。
【請求項20】
請求項18記載の健康診断システムにおいて、上記参照データベースには、バイオマーカーの質量分析スペクトルを格納されていることを特徴とする健康診断システム。
【請求項1】
参照試料の質量分析スペクトルを格納した参照データベースと、試料に含まれる物質を分離するクロマトグラフィー部と、試料に含まれる物質をイオン化するイオン化部と、イオンを解離させるイオン解離部と、該解離イオンを分離するイオン分離部と、分離イオンを質量対電荷比m/z毎に検出して質量分析スペクトルを生成するイオン検出部と、該イオン検出部によって得られた質量分析スペクトルと上記参照データベースに格納された質量分析スペクトルを比較するデータ処理部と、を有し、
予め設定された複数の質量対電荷比m/zの領域の各々について各質量対電荷比m/zの領域に含まれる試料中の全イオンについて解離を行って質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する参照試料の質量分析スペクトルである参照MS2データと比較し、両者に差があるとき、両者の差の原因となるイオンを推定するために、上記差がある計測MS2データに含まれる全イオンについて解離を行わないで質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS1データを上記参照データベースに格納された対応する参照試料の質量分析スペクトルである参照MS1データと比較することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項2】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS1データと上記参照MS1データの比較において、両者に差があるとき、上記計測MS1データより所定のイオンを親イオンとして選択し、該親イオンについて解離を行って質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する参照試料の質量分析スペクトルである参照MS2データと比較することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項3】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS2データと上記参照MS2データの比較において、上記計測MS2データに含まれるが上記参照MS2データに含まれないイオンがあると判定され、上記計測MS1データと上記参照MS1データの比較において、上記計測MS1データに含まれるが上記参照MS1データに含まれないイオンがあると判定されたとき、上記計測MS1データのみに含まれるイオンを親イオンとして選択し、該親イオンについて解離を行って質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する参照試料の質量分析スペクトルである参照MS2データと比較することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項4】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS2データと上記参照MS2データの比較において、上記参照MS2データに含まれるが上記計測MS2データに含まれないイオンがあると判定され、上記計測MS1データと上記参照MS1データの比較において、上記参照MS1データに含まれるが上記計測MS1データに含まれないイオンがあると判定されたとき、上記参照MS1データのみに含まれるイオンを上記計測MS1データの欠損イオンとして上記参照データベースに格納することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項5】
請求項4記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS1データと上記参照MS1データの比較において、上記参照MS1データに含まれるが上記計測MS1データに含まれないイオンがあると判定されたとき、上記計測MS1データに含まれるイオンから所定のイオンを親イオンとして選択し、該親イオンについて解離を行って質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する参照試料の質量分析スペクトルである参照MS2データと比較することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項6】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS1データと上記参照MS1データの比較において、両者に差異がないと判定されたとき、上記計測MS1データに含まれるイオンから所定のイオンを親イオンとして選択し、該親イオンについて解離を行って質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する参照試料の質量分析スペクトルである参照MS2データと比較することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項7】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS2データと上記参照MS2データの比較において、上記計測MS2データに含まれるイオンと上記参照MS2データに含まれるイオンの間に互いに質量対電荷比m/zが異なるイオンがある場合と互いに質量対電荷比m/zが同一であるがイオン検出強度が異なるイオンがある場合に、両者は異なると判定することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項8】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記計測MS1データと上記参照MS1データの比較において、上記計測MS1データに含まれるイオンと上記参照MS1データに含まれるイオンの間に互いに質量対電荷比m/zが異なるイオンがある場合と互いに質量対電荷比m/zが同一であるがイオン検出強度が異なるイオンがある場合に、両者は異なると判定することを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項9】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記参照データベースは、上記質量対電荷比m/zの領域の各々について各質量対電荷比m/zの領域に含まれる全イオンについて解離を行わないで質量分析することにより得られた質量分析スペクトルである参照MS1データと、該参照MS1データに含まれる全イオンをまとめて解離を行って質量分析することにより得られた質量分析スペクトルである参照MS2データを対応させて格納していることを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項10】
請求項1記載のタンデム型質量分析システムにおいて、上記参照データベースは、上記質量対電荷比m/zの領域の各々について各質量対電荷比m/zの領域に含まれる全イオンについて解離を行わないで質量分析することにより得られた質量分析スペクトルである参照MS1データと、該参照MS1データに含まれる全イオンの各々を解離を行って質量分析することにより得られた質量分析スペクトルである参照MS2データを対応させて格納していることを特徴とするタンデム型質量分析システム。
【請求項11】
予め計測した参照試料についての質量分析スペクトルを参照データとして参照データベースに格納する参照データベース作成ステップと、
所定の数の質量対電荷比m/z領域を設定する領域設定ステップと、
上記質量対電荷比m/z領域の各々について、各質量対電荷比m/z領域に含まれる試料中の全イオンをまとめて解離し、質量分析を行い、その質量分析スペクトルである予備的な計測MS2データを得る予備的な計測MS2データ計測ステップと、
上記予備的な計測MS2データの各々を上記参照データベースに格納された対応する予備的な参照MS2データと比較し、両者の差異を検出する予備的な計測MS2データの変動検出ステップと、
上記差異が検出された上記予備的な計測MS2データに含まれる全イオンをまとめて解離なしの質量分析を行い、その質量分析スペクトルである第1段の計測MS1データを得る第1段の計測MS1データ計測ステップと、
上記第1段の計測MS1データを上記参照データベースに格納された対応する第1段の参照MS1データと比較し、両者の差異を検出する第1段の計測MS1データの変動検出ステップと、
上記予備的な計測MS2データと上記予備的な参照MS2データの差異の原因であるイオンを上記第1段の計測MS1データの中から推定する親イオン推定ステップと、
上記推定した親イオンを解離し、質量分析を行い、その質量分析スペクトルである第2段の計測MS2データを得る第2段の計測MS2データ計測ステップと、
上記第2段の計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する第2段の参照MS2データと比較し、両者の差異を検出する第2段の計測MS2データの変動検出ステップと、
を含むタンデム型質量分析方法。
【請求項12】
請求項11記載のタンデム型質量分析方法において、
上記予備的な計測MS2データの変動検出ステップにおいて、上記予備的な計測MS2データに含まれるが上記予備的な参照MS2データに含まれないイオンがあると判定され、上記第1段の計測MS1データの変動検出ステップにおいて、上記第1段の計測MS1データに含まれるが上記第1段の参照MS1データに含まれないイオンがあると判定されたとき、上記親イオン推定ステップにおいて、上記第1段の計測MS1データのみに含まれるイオンを親イオンとして選択することを特徴とするタンデム型質量分析方法。
【請求項13】
請求項11記載のタンデム型質量分析方法において、
上記予備的な計測MS2データの変動検出ステップにおいて、上記予備的な参照MS2データに含まれるが上記予備的な計測MS2データに含まれないイオンがあると判定され、上記第1段の計測MS1データの変動検出ステップにおいて、上記第1段の参照MS1データに含まれるが上記第1段の計測MS1データに含まれないイオンがあると判定されたとき、上記第1段の参照MS1データのみに含まれるイオンを上記第1段の計測MS1データの欠損イオンとして上記参照データベースに格納することを特徴とするタンデム型質量分析方法。
【請求項14】
請求項11記載のタンデム型質量分析方法において、上記予備的な計測MS2データの変動検出ステップにおいて、上記予備的な参照MS2データに含まれるが上記予備的な計測MS2データに含まれないイオンがあると判定され、上記第1段の計測MS1データの変動検出ステップにおいて、上記第1段の参照MS1データに含まれるが上記第1段の計測MS1データに含まれないイオンがあると判定されたとき、上記親イオン推定ステップにおいて、上記第1段の計測MS1データに含まれるイオンから所定のイオンを親イオンとして推定することを特徴とするタンデム型質量分析方法。
【請求項15】
請求項11記載のタンデム型質量分析方法において、上記第1段の計測MS1データの変動検出ステップにおいて、両者に差異がないと判定されたとき、上記親イオン推定ステップにおいて、上記計測MS1データに含まれるイオンから所定のイオンを親イオンとして推定することを特徴とするタンデム型質量分析方法。
【請求項16】
請求項11記載のタンデム型質量分析方法において、上記予備的な計測MS2データの変動検出ステップにおいて、上記予備的な計測MS2データに含まれるイオンと上記予備的な参照MS2データに含まれるイオンの間に互いに質量対電荷比m/zが異なるイオンがある場合と互いに質量対電荷比m/zが同一であるがイオン検出強度が異なるイオンがある場合に、両者は異なると判定することを特徴とするタンデム型質量分析方法。
【請求項17】
請求項11記載のタンデム型質量分析方法において、上記第1段の計測MS1データの変動検出ステップにおいて、上記第1段の計測MS1データに含まれるイオンと上記第1段の参照MS1データに含まれるイオンの間に互いに質量対電荷比m/zが異なるイオンがある場合と互いに質量対電荷比m/zが同一であるがイオン検出強度が異なるイオンがある場合に、両者は異なると判定することを特徴とするタンデム型質量分析方法。
【請求項18】
標準試料の質量分析スペクトルを格納した参照データベースと、被検者の検体試料についてタンデム型質量分析を行うタンデム型質量分析装置と、を有する健康診断システムにおいて、
予め設定された複数の質量対電荷比m/zの領域の各々について各質量対電荷比m/zの領域に含まれる被検者の検体試料の全イオンについて解離を行って質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS2データを上記参照データベースに格納された対応する標準試料の質量分析スペクトルである参照MS2データと比較し、両者に差があるとき、両者の差の原因となるイオンを推定するために、上記差がある質量対電荷比m/zの領域に含まれる全イオンについて解離を行わないで質量分析を行い、それによって得られた質量分析スペクトルである計測MS1データを上記参照データベースに格納された対応する標準試料の質量分析スペクトルである参照MS1データと比較することを特徴とする健康診断システム。
【請求項19】
請求項18記載の健康診断システムにおいて、上記参照データベースには、健常者の検体試料の質量分析スペクトルを格納されていることを特徴とする健康診断システム。
【請求項20】
請求項18記載の健康診断システムにおいて、上記参照データベースには、バイオマーカーの質量分析スペクトルを格納されていることを特徴とする健康診断システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2007−218692(P2007−218692A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38461(P2006−38461)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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