説明

タンデム太陽電池及びその生産方法

【課題】 効率良く低コストで生産が可能なInGaP/GaAs/Si3接合構造の太陽電池層を含むタンデム太陽電池を提供する。
【解決手段】 InGaP/(In)GaAs/Si3接合構造太陽電池を含むタンデム太陽電池において、(In)GaAs太陽電池層とSi太陽電池層とが、前記(In)GaAs太陽電池層の一部に形成されたGe介在層を介して接着されている構成とした。前記Si太陽電池層の他面にGe太陽電池層を形成し、InGaP/(In)GaAs/Si/Ge4接合構造の太陽電池層を含む構成としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収波長帯域の異なる光電変換セルを複数重ねてなるタンデム形太陽電池及びその生産方法に関し、特に太陽光スペクトルを有効に利用して高い光電変換効率を得ることのできるタンデム太陽電池及びその生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する発電素子で、クリーンなエネルギー供給源として利用の拡大が図られている。このような太陽電池においては、変換効率の向上が今後の重要な課題の一つであり、そのために、吸収波長帯域の異なる光電変換セルを複数重ねてなるタンデム形太陽電池も開発されている。例えば、InGaP/GaAs/Ge3接合タンデム太陽電池では、非集光で33%、500倍集光で40%という高い変換効率を有することが知られている。また、前記したInGaP/GaAs/Ge3接合タンデム太陽電池のGe太陽電池層をSi太陽電池層に置き換えたInGaP/GaAs/Si3接合タンデム太陽電池は、InGaP/GaAs/Ge3接合タンデム太陽電池よりも高い変換効率を有すると予測されている。
【0003】
ところで、Si太陽電池層とGaAs太陽電池層とを接続する方法としては、例えば、Si基板上にヘテロエピタキシャル成長法のような結晶成長法によってGaAs太陽電池層を形成するものが考えられるが、この方法では、Si太陽電池層とGaAs太陽電池層との格子定数及び熱膨張係数が大きく異なることから、良好な接続は得られないという問題がある。
特許文献1では、AlAs層を介してGaAs基板上に作製したGaAs太陽電池をSeS2を接着層としてSi太陽電池に接着したのち、AlAsをエッチングすることによりGaAs基板を分離する方法が記載されている(例えば段落0027参照)が、基板として高価なGaAsを用いると、コスト高になるという問題がある。
また、特許文献2には、InGaP/GaAsモノリシック太陽電池を基板から剥離することが記載されているが(段落0002〜0003参照)、この技術は、基板が割れやすいという問題がある。この問題を解決するために、特許文献2に記載の発明では、GaAs等の半導体基板上にInGaP等からなる中間層を形成し、その上に太陽電池素子を形成した後に、GaAs半導体基板を溶解除去させるようにしているが、特許文献2に記載の発明では、基板として高価なGaAsを使用すると製造コストが高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−277779号公報
【特許文献2】特開2004−319934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたもので、効率良く低コストで生産が可能なInGaP/GaAs/Si3接合構造の太陽電池層を含むタンデム太陽電池及びその生産方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、GaAs太陽電池層との間で結晶成長法の適用が可能なGe介在層を介して、Si太陽電池層とGaAs太陽電池層とを接着することに想到した。
すなわち、請求項1に記載のタンデム太陽電池は、InGaP/(In)GaAs/Si3接合構造の太陽電池層を含むタンデム太陽電池において、(In)GaAs太陽電池層とSi太陽電池層とが、前記(In)GaAs太陽電池層の一部に形成されたGe介在層を介して接着されている構成としてある。
ここで、「(In)GaAs」は、InGaAs又はGaAsのいずれかであってもよいことを意味する。Ge介在層は、InGaP/(In)GaAs/Si3接合タンデム太陽電池を生産するに当たり、破損等の不都合を生じない範囲内で、また、製品としてのタンデム太陽電池の構造的強度を十分に保てる範囲内で、 Si太陽電池層への入射光量を最大するように、(In)GaAs太陽電池層及びSi太陽電池層に比して可能な限り小さくするのが好ましい。
【0007】
本発明のタンデム太陽電池は、InGaP/(In)GaAs/Si3接合構造の太陽電池層を含んでいればよく、この3接合構造の太陽電池層でタンデム太陽電池を構成するものとしてもよいし、この3接合構造の太陽電池層以外の太陽電池層を一つ又は複数有していてもよい。例えば、請求項2に記載するように、前記Si太陽電池層の他面にGe太陽電池層を形成し、InGaP/(In)GaAs/Si/Ge4接合構造の太陽電池層であってもよい。
【0008】
上記のタンデム太陽電池の生産方法は、請求項3に記載するように、InGaP/(In)GaAs/Si3接合構造の太陽電池層を含むタンデム太陽電池の生産方法において、Ge基板上に(In)GaAs 太陽電池層,InGaP 太陽電池層の順でInGaP/(In)GaAs太陽電池層を形成する工程と、前記Ge基板を、一部を残して(In)GaAs 太陽電池層から除去し、Ge介在層を形成する工程と、前記Ge介在層にSi太陽電池層を接着する工程とを有する方法である。
また、請求項4に記載するように、前記Si太陽電池層の他面にGe太陽電池層を配置して、InGaP/(In)GaAs/Si/Ge4接合構造の太陽電池層を形成してもよい。
前記Ge介在層と前記Si太陽電池層との接着は、請求項5に記載するように超音波融着法を用いてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタンデム太陽電池は、Ge介在層が補強材となるため、タンデム太陽電池の生産工程においてInGaP/GaAs2接合タンデム太陽電池にクラック等が発生しにくいという利点がある。
また、本発明の方法では、InGaP/GaAs/Ge3接合タンデム太陽電池よりも高い開放端電圧と高い変換効率のInGaP/(In)GaAs/Si3接合タンデム太陽電池を、簡単,高効率かつ低コストで生産することができる。特に、InGaP/(In)GaAsを結晶成長させる際に用いたGe基板の一部を利用することで、さらに生産性とコスト性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1(a)は、本発明のタンデム太陽電池の第一の実施形態にかかり、その構成を説明する概略図、図1(b)は図1(a)のタンデム太陽電池のI-I方向矢視図である。
この実施形態のタンデム太陽電池は、Ge基板の上にエピタキシャル成長させて形成されたInGaP太陽電池層4及び GaAs太陽電池層2と、GaAs太陽電池層2に部分的なGe介在層1aを介して接着されたSi太陽電池層13とから構成されたInGaP/GaAs/Si3接合タンデム太陽電池である。
【0011】
InGaP太陽電池層4とGaAs太陽電池層2との間にはトンネル層3が形成され、InGaP太陽電池層4の上面には、n-GaAsキャップ層5,電極6,反射防止膜7が形成されるとともにリード線8が電極6に接続された上で、接着剤10によりガラス板9が貼着される。また、GaAs太陽電池層2の下面には、電極11及び反射防止膜12が形成され、Si太陽電池層13の上面には、電極14及び反射防止膜15が形成される。
Ge介在層1aは、InGaP太陽電池層4及び GaAs太陽電池層2をエピタキシャル成長させたGe基板の一部を残存させてInGaP/ GaAs太陽電池層から除去したものである。残存させるGe介在層1aの割合は、InGaP/(In)GaAs/Si3接合構造のタンデム太陽電池を生産するに当たり、破損等の不都合を生じない範囲内で、また、製品としてのタンデム太陽電池の構造的強度を十分に保てる範囲内で、 Si太陽電池層13への入射光量を最大するように、GaAs太陽電池層2及びSi太陽電池層13に比して可能な限り小さくする。
なお、Ge介在層1aとGaAs太陽電池層2との間には、トンネル層は存在しない方がよい。
【0012】
図2及び図3は、第一の実施形態のタンデム太陽電池を生産する手順の一例を説明する概略図である。
図2(a)に示すように、まずp型Ge基板1を準備する。そして、MOCVD法により、p型Ge基板1の上面に、p型InGaP裏面電界層、p型GaAsベース層,n型GaAsエミッタ一層、n型InGaP窓層から成るGaAs太陽電池層2を形成する。
次に、図2(b)に示すように、MOCVD法を用いて、GaAs太陽電池層2の上面にp-AIGaAs/n-InGaPトンネル接合層3を形成し、p -AlInP裏面電界層、p -InGaPベース層、n-InGaPエミッタ一層、 n-AlInP窓層から成るInGaP太陽電池層4を形成する。InGaP太陽電池層4には、さらにn-GaAsキャップ層5、電極6、反射防止膜7を形成する。
【0013】
次に、図2(c)に示すように、電極6にリード線8を接続した後、図2(d)に示すように、InGaP太陽電池層4の上面にガラス板9を紫外線硬化型接着材10により接着する。
この後、図3(a)に示すように、Ge基板1をGaAs太陽電池層2から一部を残して除去する。この除去は、例えば、残存させる部分(すなわちGe介在層1aとなる部分)にマスクを形成し、過酸化水素水を用いてGe基板をエッチングして行う。このようにしてGe残存部(すなわちGe介在層1a)を形成する。Ge介在層1aの下端には、図3(b)に示すように、メッキ法又は蒸着法等によりアルミニウム,金,銀,プラチナ,ニッケル等の金属層1bを形成し、また、GaAs太陽電池層2の下面には、電極11と反射防止膜12とを形成する。なお、電極11をGe介在層1aにも接続することで、Ge介在層1aをSi太陽電池層13との接続部として利用することが可能である。
【0014】
最後に、図3(c)に示すように、公知の方法で生産したn-p接合構造のSi太陽電池層13の上に図2〜図3(b)の手順で得られたモノリシック型InGaP/GaAs2接合タンデム太陽電池を載置する。Si太陽電池層13には、電極14と反射防止膜15を形成するほか、Ge介在層1aの金属層1bと接触する部分に、予め蒸着法等によりアルミニウム,金,銀,プラチナ,ニッケル等の金属層13aを形成しておく。そして、例えば超音波融着法により金属層1b,13aを接着して、メカニカルスタック型のInGaP/GaAs/Si3接合タンデム太陽電池を得る。
【0015】
上記のようにして得られたInGaP/GaAs/Si3接合構造のタンデム太陽電池は、Si太陽電池層13とGaA太陽電池層2との間にGe介在層1aが存在しているので、衝撃に強く、そのためInGaP/GaAs/Si3接合構造のタンデム太陽電池を生産する過程においてInGaP/GaAs太陽電池層にクラック等が生じにくく、従って、歩留まりよく生産することができる。
【0016】
図4は、本発明のタンデム太陽電池の第二の実施形態にかかり、その構成を説明する概略図である。
この実施形態のタンデム太陽電池は、InGaP/GaAs/Si3接合構造のタンデム太陽電池を構成するSi太陽電池層13の他面にGe太陽電池層18を形成したInGaP/(In)GaAs/Si/Ge4接合構造のタンデム太陽電池である。
このInGaP/(In)GaAs/Si/Ge4接合構造のタンデム太陽電池の生産の手順は、第一の実施形態で得られたInGaP/(In)GaAs/Si 太陽電池層を構成するSi太陽電池層13の下面に電極17と反射防止膜16を形成した後、このSi太陽電池層13の下面に公知のn-p接合構造のGe太陽電池層18を配置する。Ge太陽電池層18の上面には電極19と反射防止膜20を形成しておく。
Si太陽電池層13に対するGe太陽電池層18の接着は、金属層1a及び金属層13aと同様の金属層13b,18aをSi太陽電池層13の下面及びGe太陽電池層18の上面に形成し、両者を接触させた状態で、例えば超音波融着法により両金属層13b,18aを溶融することで行うことができる。
【0017】
[実施例1]
InGaP/GaAs/Si3接合構造のタンデム太陽電池において、厚さ300μm,幅1mmのGe介在層1aを介在させた。
図5は、第一の実施形態のInGaP/GaAs/Si3接合構造のタンデム太陽電池における出力特性を示すグラフで、JISで規定するAM(Air Mass(エアマス))1.5、 100mW/cm2の擬似太陽光照射下での電流密度−電圧特性を示すものである。ここで、本発明のInGaP/GaAs/Si3接合タンデム太陽電池の特性を実線で示し、従来のInGaP/GaAs/Ge3接合構造のタンデム太陽電池を点線で示している。
この結果から明らかなように、Ge太陽電池層に代えてSi太陽電池層を使用することにより、発生電流はほとんど変化することなしに開放端電圧を0.5V上昇させることができ、変換効率として、従来のInGaP/GaAs/Ge3接合タンデム太陽電池の23%に対して、本発明のInGaP/GaAs/Si3接合構造のタンデム太陽電池では28%の高効率を達成することができた。
[実施例2]
第二の実施形態で得られたInGaP/GaAs/Si/Ge4接合構造のタンデム太陽電池を、実施例1と同じ擬似太陽光照射下にさらし、電流密度一電圧特性を調べた。その結果、3.05Vの開放端電圧と30%の変換効率を得た。
【0018】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。
例えば、上記の説明では、GaAs太陽電池層として説明したが、InGaAs太陽電池層であってもよい。
また、第二の実施形態では、InGaP/GaAs/Si太陽電池層にGe太陽電池層18を設けた場合についてのみ説明したが、InGaP/GaAs/Si太陽電池層に追加する太陽電池層はGe太陽電池層18以外であってもよい。
さらに、Ge介在層1aは、図1(b)に示すような断面形状には限られない。
また、先の実施形態の説明では、Ge基板1上にGaAs太陽電池層,InGaP太陽電池層の順でInGaP/(In)GaAs太陽電池層を形成した後に一部を残してGe基板1を除去することでGe介在層1aを形成しているが、本発明のタンデム太陽電池を形成する方法はこれに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、InGaP/GaAs/Si3接合構造の太陽電池層を有するタンデム太陽電池に広範に適用が可能で、InGaP/GaAs/Si3接合構造に限らず、一つ又は複数の他の太陽電池層を有する4層以上の接合構造のタンデム太陽電池にも広範に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(a)は、本発明のタンデム太陽電池の第一の実施形態にかかり、その構成を説明する概略図、図1(b)は図1(a)のタンデム太陽電池のI-I方向矢視図である。
【図2】第一の実施形態のタンデム太陽電池を生産する手順を説明する概略図である。
【図3】第一の実施形態のタンデム太陽電池を生産する手順を説明する概略図である。
【図4】本発明のタンデム太陽電池の第二の実施形態にかかり、その構成を説明する概略図である。
【図5】第一の実施形態のInGaP/GaAs/Si3接合構造のタンデム太陽電池における出力特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0021】
1:Ge基板
1a:Ge介在層
2:GaAs太陽電池層
3:トンネル接合層
4:InGaP太陽電池層
5:n-GaAsキャップ層
6:電極
7:反射防止膜
8:リード線
9:ガラス板
10:接着剤
11:電極
12:反射防止膜
13:Si太陽電池層
14:電極
16:反射防止膜
17:電極
15:反射防止膜
18:Ge太陽電池層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
InGaP/(In)GaAs/Si3接合構造の太陽電池層を含むタンデム太陽電池において、
(In)GaAs太陽電池層とSi太陽電池層とが、前記(In)GaAs太陽電池層の一部に形成されたGe介在層を介して接着されていることを特徴とするタンデム太陽電池。
【請求項2】
請求項1に記載のタンデム太陽電池において、前記Si太陽電池層の他面にGe太陽電池層を形成し、InGaP/(In)GaAs/Si/Ge4接合構造の太陽電池層を含むことを特徴とするタンデム太陽電池。
【請求項3】
InGaP/(In)GaAs/Si3接合構造の太陽電池層を含むタンデム太陽電池の生産方法において、
Ge基板上に(In)GaAs 太陽電池層,InGaP 太陽電池層の順でInGaP/(In)GaAs太陽電池層を形成する工程と、
前記Ge基板を、一部を残して(In)GaAs 太陽電池層から除去し、Ge介在層を形成する工程と、
前記Ge介在層にSi太陽電池層を接着する工程と、
を有することを特徴とするタンデム太陽電池の生産方法。
【請求項4】
前記Si太陽電池層の他面にGe太陽電池層を配置して、InGaP/(In)GaAs/Si/Ge4接合構造の太陽電池層を形成することを特徴とする請求項3に記載のタンデム太陽電池の生産方法。
【請求項5】
前記Ge介在層と前記Si太陽電池層とを超音波融着法により接着することを特徴とする請求項3又は4に記載のタンデム太陽電池の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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