説明

タンデム溶接装置及びタンデム初層溶接方法

【課題】簡単かつ安価なタンデム溶接装置及び特にルートギャップの小さい開先に対するタンデム初層溶接方法を提供する。
【解決手段】揺動機能を有する直交座標型1電極溶接装置10の構造をベースとし、1電極溶接装置に備えられた揺動軸に、2本の溶接トーチを保持するタンデムトーチマウント30を取り付け、2本の溶接トーチによる溶融池が1プールとなるように、先行トーチ1と後行トーチ2との溶接方向の電極間距離を設定してタンデム溶接するタンデム溶接装置であり、タンデムトーチマウントには、先行トーチと後行トーチとの開先幅方向の電極間距離の調整が可能な電動調整軸40を設け、揺動軸により、先行トーチと後行トーチとを同じ位相かつ同じ振幅で、開先幅方向に揺動させるとともに、ルートギャップまたは前層ビード幅に応じて、電動調整軸により、揺動の幅と開先幅方向の電極間距離を制御してタンデム溶接を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁、鉄骨、重機等の鋼構造物の厚板多層盛溶接継手を実施するために使用されるウィービング方式のタンデム溶接装置、及び、特に、ルートギャップが小さい開先に対して初層溶接を良好に行うことができるタンデム初層溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2本の溶接ワイヤーを使用するタンデム溶接方法は、単電極のアーク溶接法に比べて溶着量が倍加するため高能率の溶接ができるものとして知られている。このようなタンデム溶接を実施するための溶接装置としては、例えば特許文献1がある。この特許文献1に開示されるタンデム溶接装置は、1台の走行台車上に2台のヘッドを搭載したものであり、各々のヘッドには溶接トーチを1本ずつ装着した支持アームが昇降と揺動が可能なように設けられている。従って、このタンデム溶接装置では、溶融池が溶接方向の前後に一つずつ別個に形成される、いわゆる2プールタンデム溶接が実施される。
しかし、2プールタンデム溶接では、後述するように、溶込み底部が不連続になったり、ビード表面形状が不連続になるなどの問題がある(図11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−129072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2プールタンデム溶接では上記のように溶込み底部の不連続やビード表面形状の不連続などの問題があるので、これを避けるためには先行・後行の2本の溶接トーチで一つの溶融地を形成しながら、しかも各溶接トーチを開先幅方向に揺動(ウィービング)させながら溶接を行う1プールタンデム溶接とすることが望ましい。
しかし、特許文献1に示すようなタンデム溶接装置では、2プールタンデム溶接であるので、各溶接トーチを揺動させるために1台の走行台車上に2台のヘッドを搭載している。そのため、溶接装置が大型化し、さらには溶接方向の前後極間距離が40mm以下となるような1プールのタンデム溶接を実施するには適していない。
1プールのタンデム溶接を実施するには、走行台車上のヘッドを1台とし、そのヘッドに2本の支持アームを設けることが考えられるが、そのような構成では、1台のヘッドに2本の支持アームをそれぞれ独立に昇降及び揺動可能にする必要があるので、駆動装置が多くなってコスト高になるうえに、各溶接トーチの揺動のタイミングを取らなければならいので、制御系が複雑になる問題がある。
【0005】
一方、上記従来技術の問題に鑑み、タンデム溶接方法に関する発明について、本出願人は先に特願2008−308579として次のような提案をした。
「消耗電極式アーク溶接による厚板の多層盛溶接において、先行電極と後行電極による溶融池が1プールとなるように、電極間の溶接方向の前後極間距離及び開先幅方向の左右極間距離を保持し、前記先行電極と前記後行電極を、同じ位相かつ同じ振幅で、開先幅方向に揺動させるとともに、開先幅または前層ビード幅に応じて、揺動幅と前記左右極間距離を制御して多層盛溶接を行うことを特徴とするタンデム揺動溶接方法。」
この先行発明のタンデム溶接方法によれば、溶接能率を向上させるとともに、揺動端部での溶接欠陥を抑制し、良好なビード形状で安定した積層溶接が可能となるものである。
【0006】
本発明は、この先行発明を効果的に実施することができる簡単かつ安価なタンデム溶接装置を提供することを目的とし、さらには特にルートギャップの小さい開先に対するタンデム初層溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るタンデム溶接装置は、揺動機能を有する直交座標型1電極溶接装置の構造をベースとし、前記1電極溶接装置に備えられた揺動軸に、2本の溶接トーチを保持するタンデムトーチマウントを取り付け、前記2本の溶接トーチによる溶融池が1プールとなるように、溶接方向の前後に配置される先行トーチと後行トーチとの溶接方向の電極間距離を設定してタンデム溶接するタンデム溶接装置であって、
前記タンデムトーチマウントには、先行トーチと後行トーチとの開先幅方向の電極間距離の調整が可能な電動調整軸を設け、ベース構造である前記1電極溶接装置の前記揺動軸により、先行トーチと後行トーチとを同じ位相かつ同じ振幅で、開先幅方向に揺動させるとともに、ルートギャップまたは前層ビード幅に応じて、前記電動調整軸により、前記揺動の幅と前記開先幅方向の電極間距離を制御してタンデム溶接を行うことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明に係るタンデム溶接装置は、ルートギャップが3mm以下の開先を初層溶接する場合には、前記揺動軸は揺動させずに、前記電動調整軸より、前記後行トーチだけを揺動させながらタンデム溶接を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明に係るタンデム初層溶接方法は、2本の溶接トーチによる溶融池が1プールとなるように、2本の溶接トーチの溶接方向の電極間距離を設定して、2本の溶接トーチを同じ位相かつ同じ振幅で、開先幅方向に揺動させながら溶接するタンデム溶接方法であって、ルートギャップが3mm以下の開先を初層溶接する場合には、前記2本の溶接トーチのうち溶接方向の前方に配置される先行トーチはストレート運棒とし、前記先行トーチに対して溶接方向の後方に配置される後行トーチだけを揺動させながらタンデム溶接を行うものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明のタンデム溶接装置は、揺動機能を有する直交座標型1電極溶接装置をベース構造とするもので、その1電極溶接装置に備えられた揺動軸に2本の溶接トーチを保持するタンデムトーチマウントを取り付けるとともに、同じ揺動軸のタンデムトーチマウントに、先行トーチに対して後行トーチを独立に開先幅方向に移動可能とする電動調整軸を設けることで、開先幅方向にも電極間距離を設定および変更ができるようにしたものであり、これによって、上記先行発明の有する効果を簡単かつ安価な構成で達成することができる。
また、本発明のタンデム溶接装置では、揺動軸は揺動させずに、電動調整軸より、後行トーチだけを揺動させることができるので、特にルートギャップが3mm以下の開先の初層溶接を高温割れを生じることなく実施することができる。
【0011】
さらに、本発明のタンデム初層溶接方法は、上記のように、初層溶接する場合、先行トーチはストレート運棒とし、後行トーチだけを揺動させながら初層のタンデム溶接を行うことにより、特にルートギャップが3mm以下の開先の初層溶接を高温割れを生じることなく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係るタンデム溶接装置の平面図である。
【図2】同タンデム溶接装置の側面図である。
【図3】タンデムトーチの取付状態を示す正面図である。
【図4】溶接継手形状の例を示す図である。
【図5】初層溶接時のトーチ運棒の一例を示す概要図である。
【図6】初層溶接時の先行電極及び後行電極による溶込み形状を示す模式図である。
【図7】タンデムトーチの左右極間距離設置時の電極の配置と動作を示す模式図で、溶接方向から見た図である。
【図8】タンデムトーチの左右極間距離設定時の電極の配置と動作を示す模式図で、開先上方から見た図である。
【図9】前層ビード幅と揺動幅の関係を示す図である。
【図10】前層ビード幅と振り幅間隔の関係を示す図である。
【図11】実施例と特許文献1の2プールタンデム溶接技術によるビード断面形状の比較を示す模式図である。
【図12】実施例のビード断面形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例について説明する。
【0014】
図1は本発明の一実施の形態に係るタンデム溶接装置の平面図、図2は同タンデム溶接装置の側面図、図3は先行トーチと後行トーチの取付状態を示す正面図である。
このタンデム溶接装置は、直交座標型の1電極溶接装置10をベース構造とし、この1電極溶接装置10の同じ揺動軸(Y軸)に、一方の溶接トーチを他方の溶接トーチに対して独立に開先幅方向に移動可能とする電動調整軸40を設けたものである。
【0015】
ベース構造である直交座標型の1電極溶接装置10は、走行軸(X軸)と、揺動軸(Y軸)と、昇降軸(Z軸)とを備えている。
走行軸(X軸)は、被溶接部材6a、6bのうち一方の被溶接部材6a上に設置されたガイドレール11と、ガイドレール11上を走行する走行台車12とから主に構成されている。ガイドレール11はマグネット13により開先8に沿って着脱可能に設置されている。走行台車12は、走行手段として、走行モーター14と、走行モーター14により駆動される車輪15と、脱輪防止のためのガイドローラー16とを備えている。
上記の走行台車12上には、揺動軸と昇降軸とを備えるフレーム18が設置されている。なお、昇降軸は図示しない。
【0016】
揺動軸(Y軸)は、開先幅方向に反復移動する揺動スライダー20を備える構成となっており、揺動スライダー20はフレーム18に設けられている。揺動手段は、揺動スライダー20の作動部21に螺合するボールネジ22と、ボールネジ22を回転駆動する揺動モーター23とを備えている。揺動スライダー20は断面が例えば四角形のように回り止めが可能な形状となっており、この断面形状に合わせた四角形のガイド穴24がフレーム18の前面壁に設けられている。あるいは、リニアガイドを用いて揺動スライダー20を直線的に移動させてもよい。
【0017】
揺動スライダー20の先端部には、本例ではタンデムトーチマウント30が昇降可能に設けられているが、タンデムトーチマウント30は揺動スライダー20に固定して取り付けてもよい。タンデムトーチマウント30の先端部には、2本の溶接トーチ(タンデムトーチという)1、2が溶接方向(X方向)の前後に所定の電極間距離(溶接ワイヤー3、4の先端間の距離をいう)を隔てて取り付けられている。ここで、溶接方向の電極間距離を「前後極間距離」という。溶接方向の前後極間距離は、溶融池5(後述の図8参照)が1プールとなるように、10〜40mmの範囲内で設定する。
【0018】
さらに、タンデムトーチマウント30には、同じY方向に移動可能な電動調整軸40が設けられている。ここで、溶接方向に対して前方に配置される溶接トーチ1を「先行トーチ1」と称し、先行トーチ1に対して溶接方向の後方に配置される溶接トーチ2を「後行トーチ2」と称すると、電動調整軸40は、本例では先行トーチ1を基準として後行トーチ2をY方向(開先幅方向)に独立に(又は相対的に)移動させるようにしている。
【0019】
電動調整軸40の駆動手段は、調整軸モーター41と、調整軸モーター41により回転駆動されるピニオン42と、ピニオン42が噛み合うラック43と、ラック43を備え、後行トーチ2のアタッチメント32が先端部に取り付けられた移動部材44と、移動部材44のリニアガイド45とを備えている。したがって、電動調整軸40の駆動手段により、先行トーチ1に対して後行トーチ2を開先幅方向に独立に移動させることができる。これにより、先行電極(先行ワイヤー)3と後行電極(後行ワイヤー)4との電極間距離を開先幅方向にも設定もしくは変更することができる。ここで、開先幅方向の電極間距離を「左右極間距離」という。また、溶接方向の電極間距離を「前後極間距離」という。つまり、「左右極間距離」は、電極間距離の開先幅方向成分であり、「前後極間距離」は、電極間距離の溶接方向成分である。
【0020】
タンデムトーチマウント30の先端部に設けられたアタッチメント31、32は、各々ピン36を中心にトーチ角度が変更できるように構成されている。
【0021】
このタンデム溶接装置は、例えば、図4のA、Bに示すようなレ型開先の多層盛溶接を実施するために使用するものである。このほかにはY開先やX開先、V開先などにも適用することができる。また、板厚tは19mm以上の厚板の溶接継手に適用されることが多い。
開先Aは、裏当金付の片面レ型開先で、開先角度は35゜、ルートギャップRGは3〜8mm程度が一般的である。開先Bは、ギャップなしの片面レ型開先で、開先角度は45゜〜60°と開先Aよりも大きくすることが一般的である。この開先Bのように、ルートギャップが3mm以下の場合には、後述するように先行トーチ1は揺動させずに、後行トーチ2だけを揺動させながら初層溶接することが適している(図5参照)。
【0022】
このタンデム溶接装置においては、一方の被溶接部材6a上にマグネット13でガイドレール11を開先8と略平行になるように設置し、そのガイドレール11上に走行台車12を設置して所定の速度(溶接速度)で走行させて溶接を開始する。また、溶接開始前には、タンデムトーチ1、2の各電極3、4の先端が、溶接方向に対し、ほぼ一直線上に位置するようにセットする。例えば、ルートギャップが3mm以下の開先の場合は、左右極間距離がほぼゼロになるようにセットしてから溶接を開始する。
【0023】
そして、タンデム溶接装置は、後述するルートギャップの大小による初層溶接の場合以外は、基本的に摺動スライダー20を動作させて、タンデムトーチ1、2の両方を同じ位相かつ同じ振幅で、開先幅方向に揺動させながら1プールタンデム溶接による多層盛溶接を行う。すなわち、タンデムトーチ1、2は、揺動スライダー20に取り付けられたタンデムトーチマウント30の先端部に取り付けられているので、揺動スライダー20を動作させれば、タンデムトーチ1、2の両方を上記のように揺動させることができる。
なお、タンデムトーチ1、2の揺動制御、すなわちアークが開先壁に近づいたときに揺動方向を反転させる制御は、予め設定された揺動パターンに従って行われる。
【0024】
初層溶接において、ルートギャップが3mmを超えるような開先の場合は、所定の左右極間距離を設けて、揺動スライダー20を動作させることにより、タンデムトーチ1、2を両方とも、開先幅方向に同じ位相かつ同じ振幅で、揺動させて1プールタンデム溶接を行う。
【0025】
一方、特に、ルートギャップが3mm以下の開先の場合には、図5に示すようなトーチ運棒で初層溶接を行うことが最適である。この場合、先行トーチ1は開先幅方向には一切揺動させずに、ストレート運棒とする。一方、後行トーチ2は、電動調整軸40を正逆回転させることにより、図5に矢印で示すように、開先幅方向に揺動させるトーチ運棒とするものである。
上記のような後行トーチ2だけを揺動させるタンデム溶接方法を採用することにより、ルートギャップが3mm以下の初層溶接においても、高温割れが無く、開先ルート部の溶融も良好な初層溶接ビードを得ることができる。図6を参照して、その理由を説明する。
【0026】
図6の(a)図に示すように、ルートギャップが小さい(3mm以下の)初層溶接で、先行電極および後行電極を揺動すると、開先ルート部が溶融しにくく、融合不良が発生しやすい。これは、先行電極が揺動していることが原因である。
また、(b)図に示すように、先行電極および後行電極ともに揺動させない場合は、後行電極直下の溶込みが深くなるため、開先角度や溶接条件によっては、高温割れが発生しやすい。
そこで、上述の溶接方法、すなわち先行電極(先行トーチ1)は揺動させずに、後行電極(後行トーチ2)だけを揺動させると、(c)図に示すように、後行電極直下の溶込みが浅くなるため、高温割れの発生を抑えることができる。
【0027】
上記の初層溶接が終了し、2層目以降の積層溶接をする場合は、図7及び図8に示すように、前層のビード幅に応じて、開先幅方向にも左右極間距離を設けてタンデム溶接を行う。すなわち、揺動スライダー20に取り付けられたタンデムトーチマウント30の先端部には、先行トーチ1と後行トーチ2が取り付けられており、さらに後行トーチ2はタンデムトーチマウント30に設けられた電動調整軸40により開先幅方向に独立に移動可能になっているので、電動調整軸40により、先行トーチ1に対して後行トーチ2を相対的に移動させれば、開先幅方向にも左右極間距離を設けることができる。このように、電動調整軸40の駆動モーターにより、タンデムトーチ1、2の左右極間距離を制御するとともに、揺動スライダー20の駆動モーターによりタンデムトーチ1、2の揺動幅を制御することにより積層溶接を行う。
【0028】
図7及び図8はタンデムトーチ1、2の左右極間距離設定時の電極の配置と動作を示す模式図である。なお、図7はレ型開先の場合で、図8はV型開先の場合である。図において、1は先行トーチ、2は後行トーチ、3は先行電極(先行ワイヤーー)、4は後行電極(後行ワイヤーー)、5は溶融池、8は開先、9は溶接ビードである。
また、Gはルートギャップまたは前層ビード幅、Wは揺動幅、DSは先行電極3と後行電極4間の振り幅間隔、DFRは溶接方向の前後極間距離、DRLは開先幅方向の左右極間距離、DLは先行電極3の左側揺動端と開先8の一方の左側側壁との距離(接近幅)、DTは後行電極4の右側揺動端と開先8の他方の右側側壁との距離(接近幅)をあらわす。
ここに、上記の揺動幅Wおよび左右極間距離DRLは、次式で表される。
W={G−(DL+DS+DT)}/2 ・・・(1)
DRL=W+DS ・・・(2)
【0029】
前層ビード幅に対する揺動幅Wおよび振り幅間隔DRLの一例を示すと、図9及び図10のようになる。図9は前層ビード幅と揺動幅の関係を示す図で、図10は前層ビード幅と振り幅間隔の関係を示す図である。なお、図では、横軸Xを前層ビード幅とし、縦軸Yをそれぞれ揺動幅および振り幅間隔としてあらわしてある。
図9に示すように、前層ビード幅が16mm以下の場合は、揺動幅(W)をY=0.25Xの関係で直線的に変化させ、前層ビード幅が16mm超の場合は、揺動幅(W)をY=0.5X−4の関係で直線的に変化させる。
また、図10に示すように、前層ビード幅が16mm以下の場合は、振り幅間隔(DS)をY=0.375Xの関係で直線的に変化させ、前層ビード幅が16mm超の場合は、振り幅間隔(DS)をY=6mmと一定にする。
【0030】
このように、前層ビード幅の変動に応じて、揺動幅Wを揺動モーター23により制御することにより、また振り幅間隔DRLを調整軸モーター41により制御することにより、揺動幅及び揺動ピッチ(アーク点の1揺動周期の溶接方向の間隔)を小さくでき、揺動端部での溶接欠陥を抑制することが可能となる。つまり、溶接速度および揺動軸速度が一定の場合、揺動幅が大きくなるほど揺動ピッチが大きくなる(荒くなる)ので、揺動端部での溶接欠陥が発生しやすくなるが、図7及び図8に示すように、開先幅に対する溶接範囲を先行電極3と後行電極4で、例えばほぼ半分ずつ分担するようにすれば、揺動幅及び揺動ピッチを共に小さくすることができるので、揺動端部での溶接欠陥を抑制することができるのである。
【0031】
図11は実施例と特許文献1の2プールタンデム溶接技術によるビード断面形状の比較を示す模式図である。図11において、(a)は従来技術の2プールタンデム溶接の場合、(b)は実施例の場合、(c)は両者の比較図である。
従来技術の場合は、次のような問題がある。
(1)溶込み底部の不連続
2プールタンデム溶接の場合は、基本的にシングルトーチによる1層2パスと同じであるため、図11(a)のビード断面形状のように、溶込みラインが双子山状となり、1層1パスよりも欠陥が発生しやすいものとなる。
(2)ビード表面形状の不連続
僅かなトーチ位置(揺動範囲)の変動により、溶着ビード高さが左右で異なり、ビード表面形状が不均一になりやすい。
【0032】
一方、実施例の場合は、図11(b)、(c)に実線で示すように、1プールタンデムによる左右極間距離を設けた揺動溶接であるため、2プールタンデム溶接と比較して、先行の溶込みが若干減少すると共に、後行の溶込みが若干増加する傾向にあり、溶込み深さが均一化し、かつビード高さも均一化される効果がある。
【0033】
図12は実施例のビード断面形状を示す模式図であり、溶接欠陥のない、きわめて良好な形状を呈することが確認されている。
【0034】
以上のように、本実施形態によれば、先行発明によるタンデム溶接方法を実施することができると共に、市販の直交座標型の1電極溶接装置を利用して簡単に製作することができるので、製作費を安くすることができ、溶接装置の小型化も可能となる。
【符号の説明】
【0035】
1 先行トーチ
2 後行トーチ
3 先行電極
4 後行電極
5 溶融池
6a 被溶接部材
6b 被溶接部材
8 開先
9 溶接ビード
10 直交座標型の1電極溶接装置
11 ガイドレール
12 走行台車
13 マグネット
14 走行モーター
15 車輪
16 ガイドローラー
18 フレーム
20 揺動スライダー
21 作動部
22 ボールネジ
23 揺動モーター
24 ガイド穴
30 タンデムトーチマウント
31 アタッチメント
32 アタッチメント
35 取付部材
36 ピン
40 電動調整軸
41 調整軸モーター
42 ピニオン
43 ラック
44 移動部材
45 リニアガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動機能を有する直交座標型1電極溶接装置の構造をベースとし、
前記1電極溶接装置に備えられた揺動軸に、2本の溶接トーチを保持するタンデムトーチマウントを取り付け、
前記2本の溶接トーチによる溶融池が1プールとなるように、溶接方向の前後に配置される先行トーチと後行トーチとの溶接方向の電極間距離を設定してタンデム溶接するタンデム溶接装置であって、
前記タンデムトーチマウントには、先行トーチと後行トーチとの開先幅方向の電極間距離の調整が可能な電動調整軸を設け、
ベース構造である前記1電極溶接装置の前記揺動軸により、先行トーチと後行トーチとを同じ位相かつ同じ振幅で、開先幅方向に揺動させるとともに、
ルートギャップまたは前層ビード幅に応じて、前記電動調整軸により、前記揺動の幅と前記開先幅方向の電極間距離を制御してタンデム溶接を行う
ことを特徴とするタンデム溶接装置。
【請求項2】
ルートギャップが3mm以下の開先を初層溶接する場合には、
前記揺動軸は揺動させずに、前記電動調整軸より、前記後行トーチだけを揺動させながらタンデム溶接を行う
ことを特徴とする請求項1記載のタンデム溶接装置。
【請求項3】
2本の溶接トーチによる溶融池が1プールとなるように、2本の溶接トーチの溶接方向の電極間距離を設定して、2本の溶接トーチを同じ位相かつ同じ振幅で、開先幅方向に揺動させながら溶接するタンデム溶接方法であって、
ルートギャップが3mm以下の開先を初層溶接する場合には、
前記2本の溶接トーチのうち溶接方向の前方に配置される先行トーチはストレート運棒とし、
前記先行トーチに対して溶接方向の後方に配置される後行トーチだけを揺動させながらタンデム溶接を行う
ことを特徴とするタンデム初層溶接方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−31250(P2011−31250A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176929(P2009−176929)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】