説明

タンデム車軸懸架装置

【課題】駆動軸と従動軸とに作用する軸重配分を、関連部品の変更を伴わずに積層弾性体の変更のみで調整することができ、車両の走行性能を向上し得ると共に、汎用性をも高め得るタンデム車軸懸架装置を提供する。
【解決手段】駆動軸9に対応する側(前側)の積層弾性体7における弾性部材5とプレート6の傾斜角度θ1並びに積層数を、両端取付面の傾斜角度θ0並びに全長Hを保持したまま変化させることにより、駆動軸9に対応する側の積層弾性体7の鉛直方向のバネ定数を、従動軸11に対応する側(後側)の積層弾性体7の鉛直方向のバネ定数より高くし、且つ駆動軸9に対応する側の積層弾性体7の水平方向のバネ定数を、従動軸11に対応する側の積層弾性体7の水平方向のバネ定数と略等しくし、駆動軸9及び従動軸11に対する軸重制御を行うよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンデム車軸懸架装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バスやトラック等の大型車両では、後輪車軸(リヤアクスル)を駆動軸と従動軸の二軸としたタンデム車軸が一般的であるが、このようにリヤアクスルをタンデム車軸とした車両では、荷重を二つの車軸に分散させることができ、全体の積載荷重を向上させることができる。
【0003】
図6は前述の如きタンデム車軸を支持するサスペンション(懸架装置)の従来例を示すものであって、1は車両の前後方向へ延びる車体フレームであり、該車体フレーム1に取り付けられたトラニオンブラケット2と、イコライザビーム3の前後方向中央部に取り付けられたセンターブラケット4との間に、弾性部材5とプレート6とを交互に積層した積層弾性体7をV字状に傾斜配置されるよう介装し、前記イコライザビーム3の前端に駆動側アクスル8を連結配置し、該駆動側アクスル8に駆動軸9を回転自在に支持せしめると共に、前記イコライザビーム3の後端に従動側アクスル10を連結配置し、該従動側アクスル10に従動軸11を回転自在に支持せしめたものである。
【0004】
前記積層弾性体7は、一般に、弾性部材5としてゴムを用い、プレート6として金属板を用い、その積層方向両端に配設されたプレート6を、トラニオンブラケット2の傾斜面(傾斜角度θ0)とセンターブラケット4の傾斜面(傾斜角度θ0)とに対し、図示していないボルト・ナット等の締結部材を用いて取り付けるようになっている。
【0005】
尚、図6中、12は駆動軸9を中心に回転する駆動車輪、13は従動軸11を中心に回転する従動車輪である。
【0006】
そして、図6に示されるようなタンデム車軸懸架装置においては、前記車体フレーム1側から印加される荷重は、前記積層弾性体7の圧縮及び剪断変形により負担されるようになっている。
【0007】
尚、前述の如きタンデム車軸懸架装置と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1や特許文献2がある。
【特許文献1】特開2000−62423号公報
【特許文献2】特開平9−136521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図6に示されるような駆動軸9と従動軸11とを有するタンデム車軸懸架装置では、駆動軸9に作用する荷重(軸重)が分散されるため、その分だけ駆動車輪12に作用する接地荷重が減少してしまい、空車時(軽負荷時)には、車両の発進性が低下するという問題を有していた。
【0009】
こうした問題を解消するためには、駆動軸9と従動軸11とに作用する軸重配分を、駆動軸9側が大きくなるよう、例えば、イコライザビーム3の前後の長さを変えたり、或いは前後に配設される積層弾性体7のバネ定数を変えてやることが考えられる。
【0010】
しかしながら、前述の如く、イコライザビーム3の前後の長さを変えるのでは、それに伴って、ほとんど全てのレイアウトや部品を変更しなければならなくなり、車種毎にそれぞれ全く異なる部品を設計して製造する必要が生じ、汎用性が低くなるという欠点を有していた。
【0011】
一方、前記積層弾性体7の圧縮方向のバネ定数を単純に上げるためには、その断面積を増やしたり全長を短くすることがごく一般的に知られおり、又、前記積層弾性体7の剪断方向のバネ定数を単純に上げるためには、そのプレート6の枚数を増やすことがごく一般的に知られているが、前記積層弾性体7の全長等が変化した場合、やはり、それに関連する部品の寸法やレイアウトを変更しなければならず、前述と同様、車種毎にそれぞれ全く異なる部品を設計して製造する必要が生じ、汎用性が低くなることは避けられなかった。
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑み、駆動軸と従動軸とに作用する軸重配分を、関連部品の変更を伴わずに積層弾性体の変更のみで調整することができ、車両の走行性能を向上し得ると共に、汎用性をも高め得るタンデム車軸懸架装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、車体フレームと駆動軸及び従動軸を有するタンデム車軸との間に、弾性部材とプレートとを交互に積層した積層弾性体を、駆動軸及び従動軸に対応させて前後一対傾斜配置されるよう介装し、車体フレーム側から印加される荷重を前記積層弾性体の圧縮及び剪断変形により負担するよう構成したタンデム車軸懸架装置において、
少なくとも一方の積層弾性体における弾性部材とプレートの傾斜角度並びに積層数を、両端取付面の傾斜角度並びに全長を保持したまま変化させることにより、駆動軸に対応する側の積層弾性体の鉛直方向のバネ定数を、従動軸に対応する側の積層弾性体の鉛直方向のバネ定数より高くし、且つ駆動軸に対応する側の積層弾性体の水平方向のバネ定数を、従動軸に対応する側の積層弾性体の水平方向のバネ定数と略等しくし、駆動軸及び従動軸に対する軸重制御を行うよう構成したことを特徴とするタンデム車軸懸架装置にかかるものである。
【0014】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0015】
前述の如く構成すると、積層弾性体のバネ定数の変更による駆動軸及び従動軸に対する軸重制御により、駆動車輪に作用する接地荷重が減少してしまうことが避けられ、空車時(軽負荷時)における車両の発進性を高めることが可能となり、しかも、積層弾性体を変更するだけで、それに関連する部品の寸法やレイアウトを変更しなくて済み、車種毎にそれぞれ全く異なる部品を設計して製造する必要がなくなり、汎用性を大幅に高めることが可能となる。
【0016】
前記タンデム車軸懸架装置においては、積層弾性体を、ゴムと金属板とを交互に積層した積層ゴムとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のタンデム車軸懸架装置によれば、駆動軸と従動軸とに作用する軸重配分を、関連部品の変更を伴わずに積層弾性体の変更のみで調整することができ、車両の走行性能を向上し得ると共に、汎用性をも高め得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明を実施する形態の一例であって、図中、図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図6に示す従来のものと同様であるが、本図示例の特徴とするところは、図1に示す如く、駆動軸9に対応する側(前側)の積層弾性体7における弾性部材5とプレート6の傾斜角度θ1並びに積層数を、両端取付面の傾斜角度θ0並びに全長Hを保持したまま変化させることにより、駆動軸9に対応する側の積層弾性体7の鉛直方向のバネ定数を、従動軸11に対応する側(後側)の積層弾性体7の鉛直方向のバネ定数より高くし、且つ駆動軸9に対応する側の積層弾性体7の水平方向のバネ定数を、従動軸11に対応する側の積層弾性体7の水平方向のバネ定数と略等しくし、駆動軸9及び従動軸11に対する軸重制御を行うよう構成した点にある。
【0020】
本図示例の場合、前記積層弾性体7の積層方向両端に配設されたプレート6の厚さを一端側から他端側へ向け漸次変化させて楔状に形成し、且つ各プレート6の向きを互い違いとすることにより、前記積層弾性体7の両端取付面の傾斜角度θ0を変化させずに、弾性部材5とプレート6の傾斜角度がθ1となるようにしてある。
【0021】
ここで、図1に示す例を模式的に表すと図2のようになり、バネ定数k1,k2の二つのバネ(積層弾性体7に相当)に支持された部材(イコライザビーム3に相当)の両端(駆動軸9と従動軸11に相当)に荷重f1,f2が作用し、撓み量がδである場合の釣り合い式は、
[数1]
1+f2=δ・(k1+k2
[数2]
(L−x)・k1・δ+(L+x)・k2・δ=2・L・f2
となり、[数1]より
[数3]
δ=(f1+f2)/(k1+k2
となり、この[数3]と[数2]より
[数4]
(L−x)・k1+(L+x)・k2=2・L・(k1+k2)・f2/(f1+f2
となり、[数4]より、バネ定数k1,k2の関係は、
[数5]
1=k2・{L・(f1−f2)+x・(f1+f2)}/{L・(−f1+f2)+x・(f1+f2)}
となる。
【0022】
このとき、荷重配分(軸重配分)を例えばf1:f2=10:7即ちf1=1、f2=0.7に設定しようとすると、[数5]より、バネ定数k1,k2の間には、
[数6]
1=k2・(0.3・L+1.7・x)/(−0.3・L+1.7・x)
という関係が成立すれば良いことになる。
【0023】
一方、前記積層弾性体7を構成する一個の弾性部材5の圧縮方向バネ定数kc*及び剪断方向バネ定数ks*は、図3に示すように、前記一個の弾性部材5の縦、横、高さ寸法が、a、b、hである場合、
[数7]
c*=(3+6.580・S2)・G・(a・b/h)
(但し、Sは形状率であって、S=a・b/{2・(a+b)・h}であり、
Gは積層弾性体7の弾性部材5としてのゴムの横弾性係数である。)
[数8]
s*=1/(1+1/3×h2/a2)×G・(a・b/h)
となり、積層弾性体7を構成する積層ゴムの積層数をnとした場合、積層弾性体7の圧縮方向バネ定数kc*及び剪断方向バネ定数ks*は、
[数9]
c=kc*/n
[数10]
s=ks*/n
となる。
【0024】
そして、前記積層弾性体7を図4に示す如く傾斜角度θで傾斜配置した場合の鉛直方向バネ定数ky及び水平方向バネ定数kxは、
[数11]
y=kc・cos2θ+ks・sin2θ
[数12]
x=kc・cos2(90−θ)+ks・sin2(90−θ)
となる。
【0025】
今、前記積層弾性体7を構成する一個の弾性部材5の縦寸法a、横寸法b、高さ寸法h、横弾性係数G、積層数n、傾斜角度θ(θ0、θ1)を所要値に設定し、前記[数7]〜[数12]より、形状率S、鉛直方向バネ定数ky及び水平方向バネ定数kx等を求めると、図5に示すようになり、この場合、[数6]において、
L=660[mm]
x=282[mm]
のレイアウトであれば、
1:k2=2.4:1
となり、前記鉛直方向バネ定数kyの前後の比率、即ち、
13827:5817≒2.4:1
を満足する形となり、荷重配分(軸重配分)を
1:f2=10:7
に設定することが可能となる。
【0026】
このように、前述の如く構成すると、駆動軸9に対応する側(前側)の積層弾性体7のバネ定数を変更することによって駆動軸9及び従動軸11に対する軸重制御を行えるようになるため、駆動車輪12に作用する接地荷重が減少してしまうことが避けられ、空車時(軽負荷時)における車両の発進性を高めることが可能となり、しかも、積層弾性体7を変更するだけで、それに関連するイコライザビーム3やセンターブラケット4等の部品の寸法やレイアウトを変更しなくて済み、車種毎にそれぞれ全く異なる部品を設計して製造する必要がなくなり、汎用性を大幅に高めることが可能となる。
【0027】
こうして、駆動軸9と従動軸11とに作用する軸重配分を、イコライザビーム3やセンターブラケット4等の関連部品の変更を伴わずに積層弾性体7の変更のみで調整することができ、車両の走行性能を向上し得ると共に、汎用性をも高め得る。
【0028】
尚、本発明のタンデム車軸懸架装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、従動軸11に対応する側の積層弾性体7における弾性部材5とプレート6の傾斜角度並びに積層数を、両端取付面の傾斜角度θ0並びに全長Hを保持したまま変化させることにより、駆動軸9に対応する側の積層弾性体7の水平方向のバネ定数と、従動軸11に対応する側の積層弾性体7の水平方向のバネ定数とを略等しくしたまま、従動軸11に対応する側の積層弾性体7の鉛直方向のバネ定数を、駆動軸9に対応する側の積層弾性体7の鉛直方向のバネ定数より低くすることにより、相対的に、駆動軸9に対応する側の積層弾性体7の鉛直方向のバネ定数を、従動軸11に対応する側の積層弾性体7の鉛直方向のバネ定数より高くしても良いこと等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す側面図である。
【図2】本発明を実施する形態の一例を模式的に示す概略図である。
【図3】本発明を実施する形態の一例における積層弾性体を構成する一個の弾性部材の圧縮方向バネ定数kc*及び剪断方向バネ定数ks*を示す斜視図である。
【図4】本発明を実施する形態の一例における積層弾性体を傾斜配置した場合の鉛直方向バネ定数ky及び水平方向バネ定数kxを示す模式図である。
【図5】本発明を実施する形態の一例における積層弾性体の各部寸法、鉛直方向バネ定数ky及び水平方向バネ定数kx等の具体的数値を表形式で示す図である。
【図6】従来例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 車体フレーム
2 トラニオンブラケット
3 イコライザビーム
4 センターブラケット
5 弾性部材
6 プレート
7 積層弾性体
9 駆動軸
11 従動軸
12 駆動車輪
13 従動車輪
H 全長
y 鉛直方向バネ定数
x 水平方向バネ定数
θ0 傾斜角度
θ1 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームと駆動軸及び従動軸を有するタンデム車軸との間に、弾性部材とプレートとを交互に積層した積層弾性体を、駆動軸及び従動軸に対応させて前後一対傾斜配置されるよう介装し、車体フレーム側から印加される荷重を前記積層弾性体の圧縮及び剪断変形により負担するよう構成したタンデム車軸懸架装置において、
少なくとも一方の積層弾性体における弾性部材とプレートの傾斜角度並びに積層数を、両端取付面の傾斜角度並びに全長を保持したまま変化させることにより、駆動軸に対応する側の積層弾性体の鉛直方向のバネ定数を、従動軸に対応する側の積層弾性体の鉛直方向のバネ定数より高くし、且つ駆動軸に対応する側の積層弾性体の水平方向のバネ定数を、従動軸に対応する側の積層弾性体の水平方向のバネ定数と略等しくし、駆動軸及び従動軸に対する軸重制御を行うよう構成したことを特徴とするタンデム車軸懸架装置。
【請求項2】
積層弾性体を、ゴムと金属板とを交互に積層した積層ゴムとした請求項1記載のタンデム車軸懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−30670(P2007−30670A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216106(P2005−216106)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】