説明

タンデム飛行時間型質量分析装置

【課題】簡単な構成で単一MSモードとタンデムMS/MSモードの切り替え時に生じる時間や試料の無駄を排する。
【解決手段】イオン飛行軌道内またはイオン飛行軌道近傍に配置されたイオン検出器と、イオンをイオン飛行軌道近傍の前記イオン検出器に向けて偏向させる偏向器とを第1質量分析装置内に設け、第1質量分析装置内を飛行するイオンを前記イオン飛行軌道内のイオン検出器で順次検出するか、またはイオンを前記偏向器でイオン飛行軌道近傍のイオン検出器に向けて偏向させて順次検出する第1のモードと、第1質量分析装置で分離した所望のイオンのみを第1質量分析装置の後段に置かれた第2質量分析装置で質量分析するとともに、他のイオンは前記偏向器で偏向させて、偏向先に置かれた前記イオン検出器で順次検出する第2のモードとを切り替え可能に備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単な構成で単一MSモードとタンデムMS/MSモードを切り換え測定可能なタンデム飛行時間型質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型質量分析装置は、さまざまな質量電荷比を持つイオン群に一定量の運動エネルギーを付与して所定の距離だけ離れた検出器に向けてイオンを飛行させたときに、質量電荷比の小さなイオンほど速く検出器に到達することを利用して質量分離を行ない、イオンの質量電荷比を測定する装置である(以下、MS測定と呼ぶ)。原理が単純なため、簡単な構成で低コストな装置を作ることができる。
【0003】
飛行時間型質量分析装置では、飛行距離が長いほど高分解能のマススペクトルが得られるため、装置の外形を大きくすることなく、飛行距離のみを伸ばす工夫がなされている。最近開発されたらせん軌道飛行時間型質量分析装置は、その一例である(特許文献1)。
【0004】
また、第1の飛行時間型質量分析装置で所望のイオン(プレカーサ・イオンと呼ぶ)を選択後、例えば低圧の不活性ガスを充填した衝突室などのイオン開裂手段を用いてプレカーサ・イオンを開裂させ、生成したイオン群を第2の飛行時間型質量分析装置で分析することにより、分子構造解析を行なうタンデム飛行時間型質量分析装置(以下、MS/MS測定と呼ぶ)も知られている。第1の飛行時間型質量分析装置に前述のらせん軌道飛行時間型質量分析装置を採用することにより、プレカーサ・イオンの選択性を著しく高めたタンデム飛行時間型質量分析装置も開発されている。
【0005】
図1は、らせん軌道飛行時間型質量分析装置を採用することにより、プレカーサ・イオンの選択性を著しく高めたタンデム飛行時間型質量分析装置の一例を示す図である。(a)は装置をY方向に見た図、(b)は(a)図の矢印方向から見た図である。
【0006】
図において、19はマトリクス支援レーザーイオン化(MALDI)イオン源、19aはデフレクタ、15aはイオンを検出する第1のイオン検出器(以下、イオン検出器1と呼ぶ)、52はイオン検出器1を通過したイオンを受けて、プレカーサ・イオンを選択するイオンゲート、53はイオンを開裂させる衝突室、54は開裂したイオンが入射される反射場、15は反射場54を反射したイオンが検出される第2の検出器(以下、イオン検出器2と呼ぶ)である。イオン検出器1は(b)に示すように移動が可能である。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0007】
MALDIイオン源19にてサンプルをイオン化し、パルス電圧にてイオンに運動エネルギーを与え、加速する。MALDIイオン源19から出射したイオンは、デフレクタ19aにより飛行角度の調整がなされ、マツダプレートでできた積層扇形電場17に入射する。イオンは、積層扇形電場1〜4を順次通過し、8の字型に1周回飛行する。1周回終えて元の積層扇形電場1に戻ったとき、Y方向の位置が周回前と比べてY方向に1ピッチずれているため、周回を重ねるごとに、イオン軌道はY方向に移動していく。
【0008】
MS測定の場合は、軌道上に配置したイオン検出器1を使用してイオンを検出する。MS/MS測定の場合は、イオン検出器1をイオン軌道から外し、イオンを直進させ、イオンゲート52に向かって飛行させる。イオンゲート電圧がオフのとき、イオンはイオンゲート52を通過でき、オンのときは通過できない。
【0009】
最終周回を終えたイオンの中で選択したいプレカーサ・イオンが通過する時間のみイオンゲート52をオフにし、プレカーサ・イオンの特定の同位体ピークを選択する。選択されたプレカーサ・イオンは、衝突室53に進入して内部に充填された低圧の不活性ガスとの衝突で開裂する。開裂しなかったプレカーサ・イオンならびに開裂生成したプロダクト・イオンは、反射場54を通過し、イオン検出器2にて検出される。
【0010】
反射場54を折り返す時間は、イオンの質量および運動エネルギーにより異なるので、プレカーサ・イオンと各開裂経路のプロダクト・イオンを質量分離することができる。この例では、予め特定の同位体ピーク(例えば、モノアイソトピック・イオン)を選択することにより、同位体による複雑化を回避することが可能であり、マススペクトルの解釈が簡単になり、質量分析精度を向上させることができる。
【0011】
尚、モノアイソトピックイオンとは、ある組成式を持つ化合物について、含まれる元素の最も質量の小さい同位体のみで形成されるイオンのことである。マススペクトル上のモノアイソトピックイオンのピークは、単一の質量成分しか含まれないので、データベース検索などに良く利用される。
【0012】
図2は、らせん軌道飛行時間型質量分析装置を採用することにより、プレカーサ・イオンの選択性を著しく高めたタンデム飛行時間型質量分析装置の別の例を示す図である。図1と同一の構成物は、図1と同一の符号を付して示す。(a)は装置をY方向に見た図、(b)は(a)図の矢印方向から見た図である。
【0013】
図において、57は連続イオン源、58はイオンガイドなどで構成されたイオン輸送部、59は垂直加速部、60はデフレクタである。他の構成は、図1と同様である。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0014】
イオン源57にてサンプルをイオン化し、イオン輸送部58によりイオンを垂直加速部59に輸送する。垂直加速部59から出射したイオンは、デフレクタ60により飛行角度の調整がなされ、マツダプレートでできた積層扇形電場17に入射する。イオンは、積層扇形電場1〜4を順次通過し、8の字型に1周回飛行する。1周回終えて元の積層扇形電場1に戻ったとき、Y方向の位置が周回前と比べてY方向に1ピッチずれているため、周回を重ねるごとに、イオン軌道はY方向に移動していく。
【0015】
MS測定の場合は、軌道上に配置したイオン検出器1を使用してイオンを検出する。MS/MS測定の場合は、イオン検出器1をイオン軌道から外し、イオンを直進させ、イオンゲート52に向かって飛行させる。イオンゲート電圧がオフのとき、イオンはイオンゲート52を通過でき、オンのときは通過できない。
【0016】
最終周回を終えたイオンの中で選択したいプレカーサ・イオンが通過する時間のみイオンゲート52をオフにし、プレカーサ・イオンの特定の同位体ピークを選択する。選択されたプレカーサ・イオンは、衝突室53に進入して内部に充填された低圧の不活性ガスとの衝突で開裂する。開裂しなかったプレカーサ・イオンならびに開裂生成したプロダクト・イオンは、反射場54を通過し、イオン検出器2にて検出される。
【0017】
反射場54を折り返す時間は、イオンの質量および運動エネルギーにより異なるので、プレカーサ・イオンと各開裂経路のプロダクト・イオンを質量分離することができる。この例では、予め特定の同位体ピーク(例えば、モノアイソトピック・イオン)を選択することにより、同位体による複雑化を回避することが可能であり、マススペクトルの解釈が簡単になり、質量分析精度を向上させることができる。
【0018】
【特許文献1】国際公開第2005/114702号パンフレット、図14、図15。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、実際のMS測定からMS/MS測定への切り替えでは、らせん軌道飛行時間型質量分析装置(第1MS)と反射型飛行時間型質量分析装置(第2MS)の間に設置されているイオン検出器1をイオンの飛行軌道上から飛行軌道外に移動させて第1MSから第2MSへのイオンの飛行を可能にしていたため、切り替えに時間がかかり、分析時間が長くなるという問題があった。
【0020】
そして、マスピークが近接している場合、切り替えに時間がかかると、その間の経時電圧変化などでMS時間軸がずれたりして、誤って隣のイオンを分析する可能性が出てくる。また、液体クロマトグラフ質量分析測定(LC/MS)などの場合、短時間に連続して溶離されて出てくるイオンに対しては、切り替えに時間がかかる結果、分析が困難になり、試料が無駄になる可能性がある。
【0021】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、簡単な構成で単一MSモードとタンデムMS/MSモードの切り替え時に生じる時間や試料の無駄を排することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的を達成するため、本発明にかかるタンデム飛行時間型質量分析装置は、
飛行時間型質量分析装置を第1質量分析装置とし、第1質量分析装置からのイオンを第2質量分析装置に導入して質量分析するタンデム飛行時間型質量分析装置において、
イオン飛行軌道内またはイオン飛行軌道近傍に配置されたイオン検出器と、イオンをイオン飛行軌道近傍の前記イオン検出器に向けて偏向させる偏向器とを第1質量分析装置内に設け、
第1質量分析装置内を飛行するイオンを前記イオン飛行軌道内のイオン検出器で順次検出するか、またはイオンを前記偏向器でイオン飛行軌道近傍のイオン検出器に向けて偏向させて順次検出する第1のモードと、
第1質量分析装置で分離した所望のイオンのみを第1質量分析装置の後段に置かれた第2質量分析装置で質量分析するとともに、他のイオンは前記偏向器で偏向させて、偏向先に置かれた前記イオン検出器で順次検出する第2のモードと
を切り替え可能に備えたことを特徴としている。
【0023】
また、前記第1質量分析装置と前記第2質量分析装置の間にイオンを開裂させる開裂手段を設け、前記第1質量分析装置で分離した所望のイオンを開裂させた後に、前記第2質量分析装置で質量分析するようにしたことを特徴としている。
【0024】
また、飛行時間型質量分析装置を第1質量分析装置とし、第1質量分析装置からのイオンを第2質量分析装置に導入して質量分析するタンデム飛行時間型質量分析装置において、
イオンの飛行軌道を偏向させる偏向器と、偏向先に位置し、偏向されたイオンを開裂させる開裂手段とをイオンの飛行軌道内に設け、
第1質量分析装置内を飛行するイオンを順次検出する通常測定のモードと、
第1質量分析装置で分離した所望のイオンのみを前記偏向器で偏向させ、前記開裂手段で開裂させて、後段の第2質量分析装置で質量分析するタンデム測定のモードと
を切り替え可能に備えたことを特徴としている。
【0025】
また、前記所望のイオンは、モノアイソトピック・イオンであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明のタンデム飛行時間型質量分析装置によれば、
飛行時間型質量分析装置を第1質量分析装置とし、第1質量分析装置からのイオンを第2質量分析装置に導入して質量分析するタンデム飛行時間型質量分析装置において、
イオン飛行軌道内またはイオン飛行軌道近傍に配置されたイオン検出器と、イオンをイオン飛行軌道近傍の前記イオン検出器に向けて偏向させる偏向器とを第1質量分析装置内に設け、
第1質量分析装置内を飛行するイオンを前記イオン飛行軌道内のイオン検出器で順次検出するか、またはイオンを前記偏向器でイオン飛行軌道近傍のイオン検出器に向けて偏向させて順次検出する第1のモードと、
第1質量分析装置で分離した所望のイオンのみを第1質量分析装置の後段に置かれた第2質量分析装置で質量分析するとともに、他のイオンは前記偏向器で偏向させて、偏向先に置かれた前記イオン検出器で順次検出する第2のモードと
を切り替え可能に備えたので、
簡単な構成で単一MSモードとタンデムMS/MSモードの切り替え時に生じる時間や試料の無駄を排することが可能になった。
【0027】
また、飛行時間型質量分析装置を第1質量分析装置とし、第1質量分析装置からのイオンを第2質量分析装置に導入して質量分析するタンデム飛行時間型質量分析装置において、
イオンの飛行軌道を偏向させる偏向器と、偏向先に位置し、偏向されたイオンを開裂させる開裂手段とをイオンの飛行軌道内に設け、
第1質量分析装置内を飛行するイオンを順次検出する通常測定のモードと、
第1質量分析装置で分離した所望のイオンのみを前記偏向器で偏向させ、前記開裂手段で開裂させて、後段の第2質量分析装置で質量分析するタンデム測定のモードと
を切り替え可能に備えたので、
簡単な構成で単一MSモードとタンデムMS/MSモードの切り替え時に生じる時間や試料の無駄を排することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0029】
図3は、本発明にかかる飛行時間型質量分析装置の一実施例を示す図である。(a)は装置をY方向に見た図、(b)は(a)図の矢印方向から見た図である。
【0030】
図において、19はMALDIイオン源、19aは第1のデフレクタ、100は所望のプレカーサ・イオン以外のイオンをわずかに偏向させる第2のデフレクタ、15aは最終周回軌道の手前に置かれ、イオンを検出する第1のイオン検出器(以下、イオン検出器1と呼ぶ)、53はイオンを開裂させる衝突室、54は開裂したイオンが入射される反射場、15は反射場54を反射したイオンが検出される検出器(以下、イオン検出器2と呼ぶ)である。イオン検出器1は(b)に示すように移動が可能である。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0031】
MALDIイオン源19にてサンプルをイオン化し、パルス電圧にてイオンに運動エネルギーを与え、加速する。MALDIイオン源19から出射したイオンは、デフレクタ19aにより飛行角度の調整がなされ、マツダプレートでできた積層扇形電場17に入射する。イオンは、積層扇形電場1〜4を順次通過し、8の字型に1周回飛行する。1周回終えて元の積層扇形電場1に戻ったとき、Y方向の位置が周回前と比べてY方向に1ピッチずれているため、周回を重ねるごとに、イオン軌道はY方向に移動していく。
【0032】
MS測定の場合は、最終周回段の一周手前に配置したイオン検出器1を使用してイオンを検出する。MS/MS測定の場合は、図4に示すように、イオン検出器1をイオン軌道から少しだけ(一周回段の半ピッチ分)Y方向にずらすとともに、第2のデフレクタ100にパルス電圧を印加して、所望のプレカーサ・イオン以外のイオンをわずかにY方向に偏向させる。その結果、所望のプレカーサ・イオン以外のイオンは、最終周回軌道内をややY方向にずれて飛行し、予めY方向に半ピッチほど移動させて待機していたイオン検出器1に順次入射する。
【0033】
他方、第2のデフレクタ100でパルス電圧を印加されなかった所望のプレカーサ・イオンのみは、最終周回軌道の中央部を飛行し、衝突室53に進入して内部に充填された低圧の不活性ガスとの衝突で開裂する。開裂しなかった一部のプレカーサ・イオンならびに開裂生成したプロダクト・イオンは、反射場54を通過し、イオン検出器2にて検出される。
【0034】
反射場54を折り返す時間は、イオンの質量および運動エネルギーにより異なるので、プレカーサ・イオンと各開裂経路のプロダクト・イオンを質量分離することができる。この例では、予め特定の同位体ピーク(例えば、モノアイソトピック・イオン)を選択することにより、同位体による複雑化を回避することが可能であり、マススペクトルの解釈が簡単になり、質量分析精度を向上させることができる。
【0035】
また、所望のプレカーサ・イオン以外の選択されなかったイオンも、イオン検出器1で検出されるため、タンデムMS/MSモードの場合でもすべてのイオンを同時に観察することができ、従来の単一MSモードとタンデムMS/MSモードの切り替え時に存在した無駄をなくすことができる。
【0036】
尚、本実施例では、らせん軌道飛行時間型質量分析装置を第1質量分析装置に採用したが、第1質量分析装置は同位体ピークが分離できる高分解能飛行時間型質量分析装置であれば何でも良く、らせん軌道のものに限定されない。
【0037】
また、本実施例では、イオン検出器1を移動させる方式にしたが、イオン検出器1をイオンの偏向先に固定する方式とし、タンデムMS/MSモードのみならず、単一MSモードにおいても、イオンを第2のデフレクタ100でイオン検出器1に向けて偏向させて検出するようにしても良い。
【実施例2】
【0038】
図5は、本発明にかかる飛行時間型質量分析装置の別の実施例を示す図である。図1と同一の構成物は、図1と同一の符号を付して示す。(a)は装置をY方向に見た図、(b)は(a)図の矢印方向から見た図である。
【0039】
図において、57は連続イオン源、58はイオンガイドなどで構成されたイオン輸送部、59は垂直加速部、60はデフレクタである。他の構成は、図1と同様である。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0040】
イオン源57にてサンプルをイオン化し、イオン輸送部58によりイオンを垂直加速部59に輸送する。垂直加速部59から出射したイオンは、デフレクタ60により飛行角度の調整がなされ、マツダプレートでできた積層扇形電場17に入射する。イオンは、積層扇形電場1〜4を順次通過し、8の字型に1周回飛行する。1周回終えて元の積層扇形電場1に戻ったとき、Y方向の位置が周回前と比べてY方向に1ピッチずれているため、周回を重ねるごとに、イオン軌道はY方向に移動していく。
【0041】
MS測定の場合は、最終周回段の一周手前に配置したイオン検出器1を使用してイオンを検出する。MS/MS測定の場合は、図4に示すように、イオン検出器1をイオン軌道から少しだけ(一周回段の半ピッチ分)Y方向にずらすとともに、第2のデフレクタ100にパルス電圧を印加して、所望のプレカーサ・イオン以外のイオンをわずかにY方向に偏向させる。その結果、所望のプレカーサ・イオン以外のイオンは、最終周回軌道内をややY方向にずれて飛行し、予めY方向に半ピッチほど移動させて待機していたイオン検出器1に順次入射する。
【0042】
他方、第2のデフレクタ100でパルス電圧を印加されなかった所望のプレカーサ・イオンのみは、最終周回軌道の中央部を飛行し、衝突室53に進入して内部に充填された低圧の不活性ガスとの衝突で開裂する。開裂しなかった一部のプレカーサ・イオンならびに開裂生成したプロダクト・イオンは、反射場54を通過し、イオン検出器2にて検出される。
【0043】
反射場54を折り返す時間は、イオンの質量および運動エネルギーにより異なるので、プレカーサ・イオンと各開裂経路のプロダクト・イオンを質量分離することができる。この例では、予め特定の同位体ピーク(例えば、モノアイソトピック・イオン)を選択することにより、同位体による複雑化を回避することが可能であり、マススペクトルの解釈が簡単になり、質量分析精度を向上させることができる。
【0044】
また、所望のプレカーサ・イオン以外の選択されなかったイオンも、イオン検出器1で検出されるため、タンデムMS/MSモードの場合でもすべてのイオンを同時に観察することができ、従来の単一MSモードとタンデムMS/MSモードの切り替え時に存在した無駄をなくすことができる。
【0045】
尚、本実施例では、らせん軌道飛行時間型質量分析装置を第1質量分析装置に採用したが、第1質量分析装置は同位体ピークが分離できる高分解能飛行時間型質量分析装置であれば何でも良く、らせん軌道のものに限定されない。
【0046】
また、本実施例では、イオン検出器1を移動させる方式にしたが、イオン検出器1をイオンの偏向先に固定する方式とし、タンデムMS/MSモードのみならず、単一MSモードにおいても、イオンを第2のデフレクタ100でイオン検出器1に向けて偏向させて検出するようにしても良い。
【実施例3】
【0047】
本発明には、さまざまな変形が可能である。例えば、先の実施例では所望のイオン以外のイオンをデフレクタ100で偏向させる構成としたが、逆に、図6のように、所望のイオンのみをデフレクタ100で偏向させ、偏向先に設けられた衝突室53などの開裂手段でイオンを開裂させ、後段の図示しない第2質量分析装置でMS/MS測定を行なう構成にしても良い。その場合、デフレクタ100で偏向されなかったイオン群は、通常測定となり、そのまま第1質量分析装置のイオン検出器でMSスペクトルとして検出される。
【0048】
また、第1質量分析装置にもさまざまな変形が可能である。例えば、らせん軌道を構成する第1MS分光部は、必ずしもマツダプレートで構成される必要はない。マツダプレート、およびそれ以外の構成例は、特許文献1に記載がある。
【0049】
また、らせん軌道を構成する第1MS分光部は、必ずしも8の字型である必要はない。円状、または楕円状に周回させても良い。
【0050】
また、第2のデフレクタは、必ずしもイオン検出器1のちょうど一周回前に置かれる必要はない。1/2周回前や1/4周回前であっても良い。
【0051】
また、イオン検出器1の移動方向は、必ずしもY方向である必要はない。例えば逆Y方向であっても良い。
【0052】
また、イオン検出器1は、移動させず、中央部に穴を開けておき、第2のデフレクタによる偏向によって穴の周囲の部分で所望のプレカーサ・イオン以外の選択されなかったイオンを検出するようにしても良い。
【0053】
また、開裂イオンを分析する第2の飛行時間型質量分析計は、必ずしも反射場を備えたものである必要はない。
【0054】
また、イオンの開裂手段としては、低圧の不活性ガスを用いた衝突室の他に、レーザー光照射なども利用可能である。
【0055】
また、イオン発生源(イオン源)としては、MALDIイオン源や垂直加速型イオン源の他に、イオントラップからパルス状にイオンを排出する方式のパルスイオン源も使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
質量分析測定に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】従来のタンデム飛行時間型質量分析装置の一例を示す図である。
【図2】従来のタンデム飛行時間型質量分析装置の別の例を示す図である。
【図3】本発明にかかるタンデム飛行時間型質量分析装置の一実施例を示す図である。
【図4】本発明の主要部を示す拡大図である。
【図5】本発明にかかるタンデム飛行時間型質量分析装置の別の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
15:第2のイオン検出器、15a:第1のイオン検出器、17:積層扇形電場、19:MALDIイオン源、19a:デフレクタ、52:イオンゲート、53:衝突室、54:反射場、57:連続イオン源、58:イオン輸送部、59:垂直加速部、60:デフレクタ、100:第2のデフレクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行時間型質量分析装置を第1質量分析装置とし、第1質量分析装置からのイオンを第2質量分析装置に導入して質量分析するタンデム飛行時間型質量分析装置において、
イオン飛行軌道内またはイオン飛行軌道近傍に配置されたイオン検出器と、イオンをイオン飛行軌道近傍の前記イオン検出器に向けて偏向させる偏向器とを第1質量分析装置内に設け、
第1質量分析装置内を飛行するイオンを前記イオン飛行軌道内のイオン検出器で順次検出するか、またはイオンを前記偏向器でイオン飛行軌道近傍のイオン検出器に向けて偏向させて順次検出する第1のモードと、
第1質量分析装置で分離した所望のイオンのみを第1質量分析装置の後段に置かれた第2質量分析装置で質量分析するとともに、他のイオンは前記偏向器で偏向させて、偏向先に置かれた前記イオン検出器で順次検出する第2のモードと
を切り替え可能に備えたことを特徴とするタンデム飛行時間型質量分析装置。
【請求項2】
前記第1質量分析装置と前記第2質量分析装置の間にイオンを開裂させる開裂手段を設け、前記第1質量分析装置で分離した所望のイオンを開裂させた後に、前記第2質量分析装置で質量分析するようにしたことを特徴とする請求項1記載のタンデム飛行時間型質量分析装置。
【請求項3】
飛行時間型質量分析装置を第1質量分析装置とし、第1質量分析装置からのイオンを第2質量分析装置に導入して質量分析するタンデム飛行時間型質量分析装置において、
イオンの飛行軌道を偏向させる偏向器と、偏向先に位置し、偏向されたイオンを開裂させる開裂手段とをイオンの飛行軌道内に設け、
第1質量分析装置内を飛行するイオンを順次検出する通常測定のモードと、
第1質量分析装置で分離した所望のイオンのみを前記偏向器で偏向させ、前記開裂手段で開裂させて、後段の第2質量分析装置で質量分析するタンデム測定のモードと
を切り替え可能に備えたことを特徴とするタンデム飛行時間型質量分析装置。
【請求項4】
前記所望のイオンは、モノアイソトピック・イオンであることを特徴とする請求項1、2、または3記載のタンデム飛行時間型質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−300265(P2008−300265A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146584(P2007−146584)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】