説明

タンパク加工食品及びその製造法

【課題】魚介類を除くタンパク含有食品素材を発酵させた、新しいタンパク加工食品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】牛肉や豚肉などの獣肉や、豆腐などの植物由来のタンパクを含むタンパク含有食品素材に食塩をまぶし、少なくとも1日間放置した後、米ぬか内にて発酵させてタンパク加工食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク加工食品およびその製造法に関し、詳しくは、魚介類以外のタンパク含有食品素材を原料とする新規なタンパク加工食品を生産しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
北陸では古くから鯖の保存食として糠漬け(へしこ)が盛んである。このへしこ製造の技術は、サバやいわし、又はフグの卵巣など魚介類にのみ適用されているが(非特許文献1、非特許文献2)、それ以外のタンパク含有食品には適用された例は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】小泉武夫、中公新書「発酵」、中央公論社、1989年、第140頁
【非特許文献2】小泉武夫、中公新書「発酵」、中央公論社、1989年、第200頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
魚介類以外のタンパク含有食品素材、例えば牛肉、豚肉、羊肉、ヤギ肉、鶏肉などの獣肉や、大豆などの植物タンパクを含む食品、例えば豆腐などを、そのまま発酵させてアミノ酸やペプチドなどを含むコク味の強い食品を作ろうとすると、様々な微生物が繁殖し、不快臭を発するようになる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、鯖のへしこ製造に用いられる手法、すなわち原料素材を塩蔵後、米ぬか内にて発酵させると、原料素材が魚介類以外のタンパク含有食品素材であっても腐敗は起こらず、ペプチド風味豊かな発酵食品が生産されることを見出した。即ち、本発明者は、この製法が魚介類だけではなく、全てのタンパク含有食品の加工技術、保存技術として極めて優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
(1)魚介類を除くタンパク含有食品素材を塩蔵後、米ぬか内にて発酵させたタンパク加工食品。
(2)魚介類を除くタンパク含有食品素材に食塩をまぶし、0〜50℃で少なくとも1日間放置した後、米ぬか内にて10〜60℃の温度下で発酵させることを特徴とする、タンパク加工食品の製造方法。
(3)前記魚介類を除くタンパク含有食品素材が、獣肉又は植物由来のタンパクを含む、(2)に記載の方法。
(3)前記魚介類を除くタンパク含有食品素材が、牛肉、豚肉、羊肉、ヤギ肉、鳥肉又はダイズ由来のタンパクを含む、(2)に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、魚介類以外のタンパク含有食品素材を原料とし、アミノ酸やペプチドを含む、味と風味に優れた新規なタンパク加工食品、及びその製造方法が提供される。本発明のタンパク加工食品は、ハムやベーコン、チーズなどと同様の食品として適している。また、従来、比較的硬くて敬遠されていた脛肉や獣臭の激しい羊などを本発明における魚類以外のタンパク含有食品素材として利用すると、発酵によって柔らかくなり、かつ、獣肉臭を緩和することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に使用される、魚介類を除くタンパク含有食品素材とは、魚介類、すなわち魚類、貝類、甲殻類、及び軟体動物並びにこれらに由来するタンパク含有素材以外の、タンパク含有食品素材をいう。本発明に用いるタンパク含有食品素材の由来は、魚介類以外であれば特に制限はないが、このようなタンパク含有食品素材として、獣肉又は植物由来のタンパクを含む食品素材が挙げられる。
【0009】
獣肉としては、牛肉、豚肉、羊肉、ヤギ肉、鳥肉などが挙げられる。
豚肉としては、特に種類は制限されないが、例えばランドレース種や黒豚として知られているバークシャー種が挙げられる。また、国産及び海外産のものを問わず、また、生鮮肉あるいは冷凍保存されたものでもよい。肉の部位は何れでもよく、ロース、ひれ、肩、バラ肉などを用いることが出来る。
【0010】
牛肉としては、特に種類は制限されないが、例えば黒毛和種、無角和種やオスの去勢されたホルスタイン種などが挙げられる。また、国産及び海外産のものを問わず、また、生鮮肉であっても冷凍保存されたものでもよい。肉の部位も何れでもよく、ロース、肩、バラ、脛肉、タン、テイルなどを用いることが出来る。
【0011】
羊肉、ヤギ肉、鳥肉を使用する場合も、使用する種類や部位は制限されず、生鮮肉であっても冷凍保存されたものでもよい。
【0012】
植物由来のタンパクとしては、大豆由来のタンパクが挙げられ、ダイズ由来タンパクを含むタンパク含有食品素材として、例えば豆腐が挙げられる。豆腐であれば絹ごし、硬豆腐の何れでもよい。
【0013】
本発明に係る加工食品は、上記タンパク含有食品素材を塩蔵後、米ぬか内にて発酵させることにより製造される。
塩蔵は、タンパク含有食品素材に食塩をまぶし、通常には0〜50℃、好ましくは0〜30℃、より好ましくは0〜20℃、さらに好ましくは0〜10℃の環境で、通常には1日以上、好ましくは3〜10日間、通常には暗所に置くことにより行われる。食塩は、タンパク含有食品素材に満遍なくまぶすことが好ましい。
【0014】
獣肉類を塩蔵した場合、肉汁が出てくるので、適当な容器でこれを取り除いてもよいが、塩蔵が終了するまで、そのままにしておいてもよい。塩蔵の時間は、1日以上であることが望ましく、肉類が硬くなっていることを確認する。
【0015】
次に、塩蔵後のタンパク含有食品素材に米ぬかを満遍なくまぶすか、タンパク含有食品素材を米ぬかに漬けこんで、通常には1週間以上発酵させる。尚、必要に応じて、食塩水を添加してもよく、みりん、酒、醤油などの調味料を添加しても良い。
【0016】
塩蔵後、米ぬかをまぶす際又は米ぬかに漬けこむ際に、食塩は払い落とすが、多少の食塩が残っていてもよい。通常には米ぬかを手で擦り込むようにまぶして米ぬか内にて発酵させる。発酵ぬか中の塩濃度が低いとカビが生ずることがあるので、ぬかには10%以上、望ましくは15%以上の塩濃度になるように塩水を振り掛ける。
【0017】
発酵環境の温度が高くなれば発酵時間は短縮される傾向にある。従って、発酵温度は0℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましい。しかしながら、温度が高すぎるとタンパクが変性して固まることがあるので、発酵温度は60℃以下である
ことが好ましく、50℃以下であることがより好ましく、40℃以下で発酵させることがより好ましい。通常は、発酵は3ヶ月程度で十分であるが、それ以上の長時間発酵させてもよい。長時間発酵させた方がコク味が増加する傾向にあるため、数年間発酵させてもよい。
【0018】
獣肉の場合、発酵が進むと柔らかくなるので、肉の柔らかさにより発酵状態を確認することができる。時々手で柔らかさを確認して所望の発酵状態になったら、肉をぬかから取り出し、そのままスライスするか、あるいは塊の表面を軽く焼いた後スライスして食する。本発明により獣肉を用いて製造される加工食品はハム状になるので、市販のハムと同様の扱いが出来る。
【0019】
豆腐の場合は、発酵終了後、米ぬかを落とし、そのままスプーン等で削り取るようにして食することができるが、他の食材と混ぜて食することも出来る。
【実施例】
【0020】
以下、実施例にて詳細に説明する。
【0021】
[実施例1]
豚肉(ロース)約500gの塊を10個に対し、約6kgの食塩を手で擦り込む様にしてまぶしたものを、プラスチック製の樽に隙間なく漬け込み、上から5kgの重石を載せて、5〜10℃の冷暗所に放置した。2日目あたりから肉汁の浸出を認めたがそのまま継続して漬け込んだ。
1週間後、肉塊を取り出し、余分な食塩を落とし、約8kgの米ぬかを擦り込むようにまぶし、別に用意したプラスチック製の樽に漬け込んだ。肉塊と肉塊との間には隙間が出来ないように米ぬかを詰め込み、5kgの重しを載せて10〜15℃で発酵させた。
【0022】
1ヵ月後に一塊を取り出してスライスして食したが、発酵が不十分で、そのままでは、塩味が強すぎると判断された。3ヵ月後、同様にスライスして食し、塩分がマイルドになり、コク味のあるハム様の風味と味を認めた。
【0023】
[実施例2]
牛肉(バラ)の塊約500gを10個準備し、食塩約6kgを手で擦り込むようにしてまぶし、プラスチック製の樽に隙間なく漬け込み、上から5kgの重石を載せて、5〜10℃の冷暗所に放置した。牛肉の場合は、肉汁は余り観察されなかった。1週間後、肉塊を取り出し、余分な食塩を落とした後、約8kgの米ぬかを満遍なく手で擦り込み、別に準備したプラスチックの桶に隙間なく漬け込んだ。肉塊と肉塊との間には隙間が出来ないように米ぬかを詰め込み、5kgの重石を載せて10−15℃で発酵させた。
【0024】
1ヶ月後に肉塊を取り出し、スライスして食したが、塩味が強すぎることを認め、発酵を継続した。3ヵ月後に取り出して余分な米ぬかを落とし、スライスして食したところ、ジャーキ様の味が認められ、さらに、牛肉のうま味を認めることが出来た。
【0025】
[実施例3]
市販の豆腐(200g)5個を吸水性の良い紙の上に半日間放置し、十分に脱水させた後、ほぼ等量(約200g)の食塩をまぶして、形が崩れないようにプラスチックの容器に漬け込み、5−10℃の冷暗所に放置した。1週間後、取り出して食塩を落とし、約1kgの米ぬかで包み込むようにしてまぶしたものを、別に準備したプラスチックの容器に漬け込み、10−15℃の冷暗所に放置して発酵させた。
【0026】
1ヵ月後に一部を取り出して、余分の米ぬかを落とし、スプーンで削り取りながら食し
たが、未だ豆腐味が残っており、更に、塩味も強かった。3ヵ月後に取り出して米ぬかを落として、スプーンで削り取るようにして食し、チーズ様の風味を認めた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類を除くタンパク含有食品素材を塩蔵後、米ぬか内にて発酵させたタンパク加工食品。
【請求項2】
魚介類を除くタンパク含有食品素材に食塩をまぶし、0〜50℃で少なくとも1日間放置した後、米ぬか内にて10〜60℃の温度下で発酵させることを特徴とする、タンパク加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記魚介類を除くタンパク含有食品素材が、獣肉又は植物由来のタンパクを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記魚介類を除くタンパク含有食品素材が、牛肉、豚肉、羊肉、ヤギ肉、鳥肉又はダイズ由来のタンパクを含む、請求項2に記載の方法。