説明

タンパク同化促進剤

【課題】アルブミン製剤の適用には至らないものの、臨床的に低タンパク血症・低アルブミン血症を呈するような疾患、たとえば低栄養状態や胃腸障害などや、手術後における栄養状態を改善することができ、また肝機能低下を生じることのない新規なタンパク同化促進剤、特にアルブミン合成促進剤を提供する。
【解決手段】グルタミン酸及びその塩より1種又は2種以上を選択して、そのまま、もしくは医薬品又は食品用の担体又は基剤等に含有させて、タンパク同化促進剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク同化促進剤、特にアルブミンの合成促進剤に関するものであり、医薬品、食品、飼料などとして使用され得るものである。
【背景技術】
【0002】
血漿タンパク質は、アルブミン、グロブリン、フィブリノゲンの分画から成り、健康な成人では、全血漿タンパク質の約60%をアルブミンが占めている。従って、低タンパク血症は、低アルブミン血症として出現することが多い。
【0003】
低タンパク血症・低アルブミン血症は、生体内のタンパク質生成の低下、生体内タンパク質の体外漏出、生体内タンパク質の異化亢進、生体内アルブミンの分布異常などによって惹起される。生体内のタンパク質生成の低下は、消化不良や栄養失調により栄養素の体外からの摂取が低下したり、肝炎や肝硬変などの肝疾患がある場合に見られ、生体内タンパク質の体外漏出は、ネフローゼ症候群、タンパク漏出性胃腸症、熱傷などにおいて見られる。また、生体内タンパク質の異化亢進は、重篤な感染症、発熱、甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍などの疾患時に見られ、生体内アルブミンの分布異常は、多量の胸水や腹水の貯留時、全身浮腫、熱傷の発症時に引き起こされる。
【0004】
さらに、血漿アルブミンは、血液の膠質浸透圧の維持に深く関与するため、低アルブミン血症においては、血管外への体液の漏出が容易に生じ、浮腫の発生や悪化、腹水や胸水貯留が起こる。そして、血管外への体液の漏出は循環血液量の低下を招き、心拍出量の低下や尿量の減少等の循環障害を引き起こすこともある。かかる病態においては、原因となる疾患の改善は望めず、さらに悪循環に陥ってしまうことが多い。
【0005】
それゆえ、低タンパク血症・低アルブミン血症の改善は有意義である。重篤な低タンパク血症・低アルブミン血症の場合には、アルブミン製剤が用いられる。かかるアルブミン製剤の多くは、投与対象となる疾患が限定され、投与経路も経静脈に限られており、適用が制限される。また、多人数の血漿プールからアルブミンだけを分画して調製されることから、不活性化の完全でない病原体や未知の病原体の存在の可能性は否定できない。近年では、血清アミノ酸と分岐鎖アミノ酸を含有するアルブミン製剤が開示されている(特許文献1)が、注射用製剤であって、無菌水溶液として調製することを要するため、調製が煩雑で、投与形態が限定されている。また、アミノ酸の静脈内投与の場合は、酸塩基平衡失調、高アンモニア血症、アミノ酸不均衡、高窒素血症等の副作用の発現が心配される。なお、特許文献1のアルブミン製剤には、L-グルタミン酸などの分岐鎖アミノ酸以外のアミノ酸も含まれ得るが、本製剤は肝性脳症の予防を目的としており、添加されるアミノ酸は、アミノ酸不均衡を解消して脳内のアミノ酸代謝異常を改善する作用を有することが示されているのみで、アルブミン等のタンパク質合成そのものを促進するものではない。
【0006】
アルブミンの生成を促進するものとしては、ホエータンパク質を有効成分として含有する低アルブミン血症改善用食品(特許文献2)、ヒダントイン誘導体を含有する低アルブミン血症改善剤(特許文献3)、ロイヤルゼリー中の57kDaの糖タンパク質を含有するアルブミン合成促進剤(特許文献4)といった技術が開示されている。これらのうち、ホエータンパク質を含有するものやロイヤルゼリーの糖タンパク質を含有するものでは、天然原料由来の物質を含有するため、一定の品質のものを維持するのが困難であり、またまれにアレルギー反応を生じるおそれもある。なお、特許文献2の低アルブミン血症改善用食品には、グルタミン及び/又はアルギニンが添加されるが、グルタミン酸やその塩の使用については言及されていない。
【0007】
さらに、タンパク同化剤として、タンパク同化作用を有するステロイドを含有するものが知られているが、女性の男性化等の男性ホルモン作用による副作用や、長期間の服用により肝機能異常が見られることが報告されている。また、タンパク同化剤は前立腺がん患者、肝障害のある患者、妊婦及び小児などには用いることができず、前立腺肥大症、心臓病、腎臓病、糖尿病の患者や高齢者においては、病状を悪化させることがあるため、服用上注意を要する。
【特許文献1】国際公開第2000/043035号パンフレット
【特許文献2】特開平10−257867号公報
【特許文献3】特開2002−241283号公報
【特許文献4】特開2003−113096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明においては、アルブミン製剤の適用には至らないものの、臨床的に低タンパク血症・低アルブミン血症を呈するような疾患、たとえば低栄養状態や胃腸障害などや、手術後における栄養状態を改善することができ、また肝機能低下を生じることのない新規なタンパク同化促進剤、特にアルブミン合成促進剤を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、グルタミン酸及び/又はその塩を摂取することにより、アルブミンの合成等のタンパク同化が促進されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の(1)〜(11)に関する。
(1)グルタミン酸及びその塩から選択される1種又は2種以上を含有して成る、タンパク同化促進剤。
(2)グルタミン酸の塩がグルタミン酸ナトリウムであることを特徴とする、上記(1)のタンパク同化促進剤。
(3)グルタミン酸及びその塩から選択される1種又は2種以上の投与量が、成人について1日に0.1g/kg体重〜0.3g/kg体重であることを特徴とする、上記(1)又は(2)のタンパク同化促進剤。
(4)さらにタンパク質を含有することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかのタンパク同化促進剤。
(5)タンパク質が、カゼイン、大豆タンパク質及びホエータンパク質より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、上記(4)のタンパク同化促進剤。
(6)グルタミン酸及びその塩から選択される1種又は2種以上とタンパク質との重量比が、1:100〜15:100であることを特徴とする、上記(4)又は(5)のタンパク同化促進剤。
(7)タンパク同化促進が、アルブミンの合成の促進であることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかのタンパク同化促進剤。
(8)低タンパク血症の改善に用いることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかのタンパク同化促進剤。
(9)低アルブミン血症の改善に用いることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかのタンパク同化促進剤。
(10)低タンパク又は低アルブミン状態に起因する肺水腫、腹水又は浮腫の発症を予防し又は改善するために用いることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかのタンパク同化促進剤。
(11)医薬品であることを特徴とする、上記(1)〜(10)のいずれかのタンパク同化促進剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るタンパク同化促進剤は、消化不良や栄養失調による栄養素の体外からの摂取の低下や、手術後の低栄養状態、肝炎や肝硬変などの肝疾患の場合のタンパク質生成の低下、ネフローゼ症候群、タンパク漏出性胃腸症、熱傷などにおいて見られる生体内タンパク質の体外漏出、重篤な感染症、発熱、甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍などの疾患時に見られる生体内タンパク質の異化亢進、多量の胸水や腹水の貯留時、全身浮腫、熱傷の発症時に見られる生体内アルブミンの分布異常などによって生じる低タンパク血症・低アルブミン血症等を予防又は改善する効果を有する。
【0012】
また、本発明に係るタンパク同化促進剤は、低タンパク・低アルブミン状態に起因する肺水腫や腹水、浮腫などの発症を予防し又は改善する効果をも有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明においては、グルタミン酸及びその塩より1種又は2種以上を選択して、そのまま、もしくは医薬品又は食品用の担体又は基剤等に含有させて、タンパク同化促進剤とする。グルタミン酸は、うま味成分として知られる酸性アミノ酸であり、脳内で神経伝達物質としても機能することが知られている。本発明においては、L体、D体、DL体のいずれをも用いることができるが、L体が好適に使用できる。
【0014】
グルタミン酸の塩としては、医薬品、食品等として供することができるものであれば特に限定されないが、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などの無機塩類や、アルギニン塩、リジン塩、オルニチン塩等の塩基性アミノ酸塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩等のアミン塩、ピリミジン塩などの有機塩類が例示され、これらの中でも、ナトリウム塩が水溶性及び味覚において優れる点で、好適に用いられる。また、グルタミン酸及びその塩は、動物性及び植物性原料に由来する天然のものの他、化学合成、発酵、遺伝子組み換え等により得られるものを用いることができる。
【0015】
本発明に係るタンパク同化促進剤において、十分な低タンパク・低アルブミン血症等の予防又は改善効果を発揮させるには、グルタミン酸及びその塩から選ばれる1種又は2種以上は、成人について1日に体重1kgあたり0.1g〜0.3gを投与することが好ましい。また、1日あたりの投与量を2〜5回に分けて投与することもできる。かかる投与量は、本発明に係る医薬品の他、食品、飼料に添加する場合においても同様である。
【0016】
本発明に係るタンパク同化促進剤には、骨格筋の維持、増量などにおいて重要な役割を有するバリン、ロイシン、イソロイシン等の分岐鎖アミノ酸、内分泌系や循環系において種々の生理機能を有するアルギニンをはじめ、リジン、メチオニン、スレオニン等の必須アミノ酸、アラニン、アスパラギン酸等の非必須アミノ酸など、他のアミノ酸を添加してもよい。
【0017】
また、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース及びその誘導体、コムギデンプン、トウモロコシデンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、デキストリン等のデンプン及びその誘導体、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム等の天然高分子化合物、ブドウ糖、マルトース、ソルビトール、マルチトール、マンニトール等の糖及びその誘導体、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等の無機塩類などの賦形剤、グアーガム、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸、高分子ポリビニルピロリドン、乳糖などの結合剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000などの滑沢剤、アジピン酸、ステアリン酸カルシウム、白糖などの崩壊剤、ショ糖脂肪酸エステル、大豆レシチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステルなどの界面活性剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、ゼラチンなどの増粘剤、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、カラメル、カルナウバロウ、セラック、白糖、プルラン等のコーティング剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどのpH調整剤、アスコルビン酸、酢酸トコフェロール、天然ビタミンE、没食子酸プロピル等の抗酸化剤、アスパルテーム、カンゾウエキス、サッカリン等の嬌味剤、安息香酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル等の防腐剤、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、カルミン、食用青色1号、食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用赤色2号、銅クロロフィリンナトリウムなどの着色剤といった添加剤を含有させることができる。
【0018】
本発明に係るタンパク同化促進剤においては、グルタミン酸及びその塩から選択した1種又は2種以上に加えて、さらにタンパク質を含有させることができる。かかるタンパク質としては、カゼイン、大豆タンパク質、ホエータンパク質が好適なものとして挙げられ、これらより1種又は2種以上を選択して用いる。「カゼイン」は、乳タンパク質の主体をなすリンタンパク質で、電気泳動的にα、β、γの3成分に分けられ、カゼインカルシウムなどの塩を用いることもできる。「大豆タンパク質」としては、常法により大豆から分離されたタンパク質を用いることができ、丸大豆から大豆油を除去した脱脂大豆より糖類などを水抽出して除き、ついで酸によりタンパク質を分離した後、中和して分離大豆タンパク質とし、これを殺菌、乾燥して調製したものや、分離大豆タンパク質をエクストルーダー処理し、乾燥、整粒して組織状にしたもの、分離大豆タンパク質にプロテアーゼなどの酵素を作用させて低分子化した大豆ペプチドなどが例示される。また、「SUPRO710」、「フジプロ」、「サンラバー」、「プロリーナ」、「フジニックス」「アペックス」「ハイニュート」(いずれもフジプロテインテクノロジー社販売)等の市販品を用いることもできる。「ホエータンパク質」は、牛乳または脱脂乳に酸を加え、或は凝乳酵素(レンネット)を作用させて生じる凝固物を除いて得られる乳清(ホエー)に含まれるタンパク質であり、カゼインやチーズを製造する際の副産物として得られる酸性ホエーやスイートホエーを濃縮、精製したタンパク質をいう。前記ホエーから主に乳糖を低減、除去したホエータンパク質濃縮物、該濃縮物をさらに脱塩処理したホエータンパク質分離物等を用いることができる。これらタンパク質は、グルタミン酸及びその塩から選択した1種又は2種以上との重量比が1:100〜15:100となるように含有させることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係るタンパク同化促進剤には、タンパク質の他、脂質、炭水化物、ビタミン類及びミネラル分などの他の栄養成分や、食物繊維といった食品中に含まれる成分を含有させることもできる。
【0020】
本発明に係るタンパク同化促進剤は、経口投与という簡便な方法で適用され得る。本発明においては、グルタミン酸及びその塩から選ばれる1種又は2種以上をそのまま投与してもよく、また各種添加剤等とともに投与してもよい。さらに、各種担体又は基剤や添加剤等を使用して製剤化し、糖衣錠やフィルムコーティング剤を含む錠剤、丸剤、カプセル剤、アンプル剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤、ドロップス剤、トローチ剤、散剤、顆粒剤等の形状で投与することもできる。また、本発明に係るタンパク同化促進剤は、液状、半固形状、固形状もしくは粉末状等の食品や、動物用の飼料とすることができる。また、食品、飼料用添加剤としても良い。医薬品等の担体への添加量としては、1重量%〜100重量%程度が適切である。
【0021】
さらに本発明の特徴について、実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0022】
[実施例1] カゼインカルシウム12.5重量%(EM9N,DMV−Japan)及びデキストリン(TK−16,高砂工業)から成る1kcal/mlの高エネルギー流動食に、L-グルタミン酸ナトリウム1.0重量%(60mM)を添加して、タンパク同化促進剤とした。
【0023】
実施例1のタンパク質合成に対する効果を評価するべく、次の実験を行った。実験は、CRJより購入したSprague−Dawley(SD)系雄性ラットをSPF動物舎内(明期0:00〜12:00、23±1℃)で馴化し、19週齢に達したものを用いて行った。前記ラットには、トレーサーを投与するため、大腿静脈にカニュレーション手術を行い、1週間の回復期を経た後、実験に供した。この際、上記実施例1においてL-グルタミン酸ナトリウムを添加しないものを比較例1とした。
【0024】
上記ラットを4時間絶食させた後2群に分け、実施例1及び比較例1をそれぞれ各群に胃ゾンデにて、暗期13:00〜14:00の間に胃内投与した(1mL/100g体重)。実施例1及び比較例1の投与後15分後又は60分後に、あらかじめ設置した下大静脈へのカニュレーションから、1.5mmol/kg体重(10mL/kg体重)の50(w/v)%[U-13C]フェニルアラニン(ケンブリッジアイソトープラボラトリーズ インク.(Cambridge Isotope Laboratories Inc.))を投与し、30分後にエーテル麻酔下に下大動脈から採血し、肝臓、下肢骨格筋(腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋)、小腸上部(10cm)を採取した。採取した臓器は直ちに液体窒素で冷却した鉗子で急速凍結し、血液は抗凝固剤としてヘパリン(ノボ・ヘパリン注1000;持田製薬)及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(ノンクロットD;第一製薬)を用いて血漿を分離した。
【0025】
凍結粉砕した上記肝臓、下肢骨格筋及び小腸の試料に、14(w/v)%過塩素酸を加えてホモジナイズし、遠心分離した。得られた沈殿は精製水で洗浄し、中性条件下にエタノール洗浄してタンパク質画分とした。上清は、水酸化カリウムで中和し、遊離アミノ酸画分とした。次に、血漿から、Kornerらの方法(A. Korner et al. Nature 178 1067 (1956))に従い、アルブミン画分を調製した。すなわち、血漿に10(w/v)%トリクロロ酢酸を加えてタンパク質を沈殿させ、酸性条件下に沈殿にエタノールを加えて可溶化し、アルブミン画分とした。前述した各組織のタンパク質画分と血漿アルブミン画分は、乾固後、6M塩酸を添加し、110℃で一晩加水分解した。
【0026】
上記で調製した各組織の遊離アミノ酸画分と、各組織のタンパク質画分及び血漿アルブミン画分の加水分解物を、陽イオン交換樹脂(AG50W−X8;バイオラッド(bio-Rad)社)カラムクロマトグラフィーにかけ、精製水で洗浄した後、3Mアンモニア水で溶出し、溶出液をSAVANT遠心濃縮機(Thermo Finnigan社)を用いて乾燥した。乾燥後、各試料に2M塩酸メタノール溶液を加え、80℃で1時間加熱してメチルエステル化した。反応液を窒素ガス下で蒸発させた後、ペンタフルオロプロピオニル化試薬(ペンタフルオロプロピオン酸無水物(PFPA;Pierce社):酢酸エチル=1:4)を添加し、60℃で30分間加熱してN−アシル化した。反応終了後、試料を窒素ガス下で乾固し、アセトニトリルに溶解してガスクロマトグラフィーに供した。
【0027】
各組織のタンパク質画分および血漿アルブミン画分への標識フェニルアラニンの取り込み量について、平均値±標準偏差を表1に示した。実施例1投与群と比較例1投与群との間の差については、スチューデントt検定を行った。
【0028】
【表1】

【0029】
表1において、実施例1又は比較例1投与後15分〜45分、及び60分〜90分のいずれにおいても、腓腹筋、ヒラメ筋及び足底筋の間では、標識フェニルアラニンの取り込み量に大きな差はなく、またかかる骨格筋においては、実施例1投与群と比較例1投与群との間で標識フェニルアラニンの取り込み量に差は見られなかった。一方、15分〜45分後及び60分〜90分後の肝臓及び肝臓から分泌される血漿アルブミンと、15分〜45分後の小腸において、骨格筋における取り込み量の5倍〜10倍近い標識フェニルアラニンの取り込みが認められ、15分〜45分後の血漿アルブミンにおける標識フェニルアラニンの取り込みにおいては、実施例1投与群で比較例1投与群に比べ有意な取り込みの増加を認めた(p<0.001)。
【0030】
次いで、各組織のタンパク質画分への標識フェニルアラニンの取り込み量と、各組織の遊離アミノ酸画分における遊離フェニルアラニンの標識率から、各画分におけるタンパク質合成速度を求め、表2に平均値±標準偏差にて示した。実施例1投与群と比較例1投与群との間の差については、スチューデントt検定を行った。
【0031】
【表2】

【0032】
表2より、血漿アルブミン画分におけるタンパク質合成速度は、肝臓のタンパク質画分におけるタンパク質合成速度の約3倍であり、骨格筋及び小腸のタンパク質画分におけるタンパク質合成速度の約30倍であることが示された。また、実施例1投与後15分〜45分後の血漿アルブミン画分におけるタンパク質合成速度が、比較例1投与群の約1.4倍に増加している(p<0.001)ことが認められ、実施例1の投与により、早期に肝臓においてアルブミンが合成され、血漿中に分泌されることが示唆された。
【0033】
[実施例2] L-グルタミン酸ナトリウム水溶液を用い、本発明に係るタンパク同化促進剤を使用した際の体重回復効果及び栄養状態改善効果を示した。実験は、CRJより購入した7〜8週齢のSD系雄性ラットをSPF動物舎内(明期7:00〜19:00、24℃)で飼育して行った。実験までは、通常のハンギングケージを用いて2匹/ケージで飼育し、固形飼料CRF−1(CRJ)及び水道水を自由に摂取させた。
【0034】
上記ラットを一晩絶食させた後、迷走神経胃枝切断術(Vagotomy)を行う群では、ペントバルビタール(50mg/kg体重)にて麻酔し、横隔膜下を正中から左に横方向に切開し、胃を外に引き出して迷走神経胃枝を腹側・背側とも電気メスで焼き切った。胃を腹腔内に戻した後、筋層をシルクブレードにて縫合し、皮膚はスキンステープラー(HOGI)にて縫合した。一方、対照となる偽(sham)手術を行う群では、Vagotomy群と同様に横隔膜下を横切開して開腹のみ行って縫合した。術後は1匹/ケージで飼育し、固形飼料及び溶液ともに自由に摂取させた。
【0035】
体重回復効果の評価は、行動測定装置FDM−700AJ(メルクエスト)とリックセンサー(K.T.ラボ)を用いて行った。前記装置内において、固形飼料CRF−1は自由に摂取させ、溶液は水道水、生理食塩水、0.5重量%L-グルタミン酸ナトリウム水溶液、1.0重量%L-グルタミン酸ナトリウム水溶液の4種類を設置して、自由に選択摂取させて飼育した。実験開始後4日ないし5日目に上記Vagotomy術(n=7)又はsham手術(n=5)を施し、術後28日間飼育し、毎日の体重、1分ごとの飼料摂食量と溶液のリック数、及び1日の摂水量を記録した。
【0036】
栄養状態改善効果の評価においては、Vagotomy群及びsham群をそれぞれグルタミン酸ナトリウム摂取群とグルタミン酸ナトリウム非摂取群とに分け、飼料CRF−1と溶液を自由に選択摂取できる環境で飼育した。グルタミン酸ナトリウム摂取群では、水道水と1.0重量%L-グルタミン酸ナトリウム水溶液の2種類を自由に選択摂取させ、グルタミン酸ナトリウム非摂取群では、水道水のみを自由に摂取させた。術前、術後3日目、術後7日目に全採血を行い、血液生化学検査により、術後の栄養状態を評価した。
【0037】
全採血は、ジエチルエーテルで深麻酔して腹部を切開し、注射筒にて大静脈から採血して行った。採血した血液は、直ちに2種類のベノジェクトII真空採血管(テルモ)に分注した。採血した血液のうち2mLは抗凝固剤であるEDTA二カリウム入りの採血管に入れて速やかに転倒混和させ、冷蔵保存して血球検査や血球分画検査に用いた。一方、血清分離剤入りの採血管には4mLの血液を入れて速やかに転倒混和させ、4℃下3,000rpmで15分間遠心分離した後、上清2mLをチューブに移して冷凍保存し、アルブミンや総タンパク値の検査に用いた。血中栄養状態を表す指標として、レチノール結合タンパク質(RBP)、プレアルブミン(PRAL)、アルブミン(ALB)、総タンパク質(TP)及び血液像の測定をSRLに依頼した。本実験は各群n=6で行った。
【0038】
本発明に係るタンパク同化促進剤の体重回復効果についての評価結果を、図1〜図3に示す。Vagotomy施術後は迷走神経の切断により、胃の運動が弱くなったり、食物の滞留が起こったりして、一般的に動物の摂食量及び体重が減少する。図1より明らかなように、今回の実験においては、Vagotomy群の中でも体重の回復の早いものと遅いものが認められた。体重の早期回復群(n=4)では、手術直後に比べて、術後15日目から有意(p<0.05、術後17日目から最終日まではp<0.01)に体重が増加したのに対し、体重回復の遅延群(n=3)では、手術直後に比べて、術後6日目及び7日目に有意(p<0.05)に体重が減少し、術後23日目からは有意(p<0.05、術後26日目以降はp<0.01)に増加した。両群の間では、術後3日目〜15日目で有意差が認められた(p<0.05)。
【0039】
体重の早期回復群のラットと体重回復の遅延群のラットのグルタミン酸ナトリウム水溶液摂取量(0.5重量%L-グルタミン酸ナトリウム水溶液摂取量+1.0重量%L-グルタミン酸ナトリウム水溶液摂取量)を比較すると、図2に示されるように、体重回復の遅延群のラットでは、実験期間中グルタミン酸ナトリウム摂取量が変化していないのに対し、体重の早期回復群のラットでは、実験の後半期である術後12日目以降において、手術直後に比べて、体重の早期回復群のラットのグルタミン酸ナトリウム水溶液摂取量が有意に多い(p<0.05)か、多い傾向(p<0.1)が見られていた。しかし、図3より明らかなように、これら両群の摂食量には差が見られなかった。
【0040】
栄養状態改善効果については、図4に示すように、術後7日目のTP値において、Vagotomy群でグルタミン酸ナトリウム摂取群の方が非摂取群に比べて有意(p<0.05)に高くなっていた。また、グルタミン酸ナトリウム摂取群の中では、sham群に比べてVagotomy群の方が高い傾向が見られた(p<0.1)。さらに図5に示すように、術後7日目のALB値において、Vagotomy群でグルタミン酸ナトリウム摂取群の方が非摂取群に比べて有意(p<0.01)に高くなっていた。またTP値と同様に、グルタミン酸ナトリウム摂取群の中では、sham群に比べVagotomy群の方が高い傾向が見られていた(p<0.1)。
【0041】
一方、術後3日目の各指標値や、7日目の赤血球数、平均血球体積、白血球数、好中球・リンパ球比率においては、有意差は認められなかった。
【0042】
[実施例3] 表3に示す組成のメディエフバッグ(味の素)に、最終濃度が0.5重量%となるように5重量%L-グルタミン酸ナトリウム水溶液を加えて、タンパク同化促進剤とした。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例3の栄養状態改善効果を、血中の栄養状態指標成分の測定により評価した。その際、メディエフパッグに実施例3と同量の水道水を添加したものを比較例3とした。血中の栄養状態指標成分の測定は、上記実施例2における血中の栄養状態指数測定と同様に、CRJより購入した7〜8週齢のSD系雄性ラットを用いて行った。
【0045】
すなわち、上記ラットをメディエフバッグで3日間馴化した後、2群に分けてそれぞれVagotomy術及びSham手術を施し、各群をさらに実施例3摂取群及び比較例3摂取群の2群に分けて飼育した。Vagotomy施術実施例3摂取群(n=5)、Vagotomy施術比較例3摂取群(n=6)、Sham施術実施例3摂取群(n=5)、Sham施術比較例3摂取群(n=6)について、術後7日目に全採血し、血中の栄養状態指標成分として、アルブミン(ALB)、総タンパク質(TP)及び血液像を測定した。結果を図6及び図7に示した。
【0046】
図6において、比較例3摂取群の中ではVagotomy術の施術により、Sham施術群に比べ、TP値の有意な低下(p<0.05)が認められた。また、Vagotomy施術群内では、比較例3摂取群に比べて実施例3摂取群の方がTP値が高い傾向(p<0.1)が見られた。一方、図7に示されるように、ALB値については有意差は認められなかったが、比較例3摂取群においてVagotomy施術群がsham施術群より低く、Vagotomy施術群内では、実施例3摂取群が比較例3摂取群より高い傾向が認められた(p<0.1)。
【0047】
上記の結果は、メディエフバッグのようなタンパク質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラル分を併用する場合であっても、迷走神経胃枝切断により血液中のタンパク質量の減少が惹起され、かかる現象が本発明に係るタンパク同化促進剤摂取により、改善されることを示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例2において、体重の早期回復群および回復遅延群のラットの体重を、Vagotomy術日の体重を1とした体重比(平均値±標準誤差)で示す図である。
【図2】実施例2において、体重の早期回復群および回復遅延群のラットのL-グルタミン酸ナトリウム水溶液摂取量(平均値±標準誤差)を示す図である。
【図3】実施例2において、体重の早期回復群および回復遅延群のラットの摂食量(平均値±標準誤差)を示す図である。
【図4】実施例2において、術後7日目の血中総タンパク質濃度(平均値±標準誤差)を示す図である。
【図5】実施例2において、術後7日目の血中アルブミン濃度(平均値±標準誤差)を示す図である。
【図6】実施例3摂取群及び比較例3摂取群の術後7日目の血中総タンパク質濃度(平均値±標準誤差)を示す図である。
【図7】実施例3摂取群及び比較例3摂取群の術後7日目の血中アルブミン濃度(平均値±標準誤差)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミン酸及びその塩から選択される1種又は2種以上を含有して成る、タンパク同化促進剤。
【請求項2】
グルタミン酸の塩がグルタミン酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項1に記載のタンパク同化促進剤。
【請求項3】
グルタミン酸及びその塩から選択される1種又は2種以上の投与量が、成人について1日に0.1g/kg体重〜0.3g/kg体重であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のタンパク同化促進剤。
【請求項4】
さらにタンパク質を含有することを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のタンパク同化促進剤。
【請求項5】
タンパク質が、カゼイン、大豆タンパク質及びホエータンパク質より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項4に記載のタンパク同化促進剤。
【請求項6】
グルタミン酸及びその塩から選択される1種又は2種以上とタンパク質との重量比が、1:100〜15:100であることを特徴とする、請求項4又は請求項5に記載のタンパク同化促進剤。
【請求項7】
タンパク同化促進が、アルブミンの合成の促進であることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のタンパク同化促進剤。
【請求項8】
低タンパク血症の改善に用いることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のタンパク同化促進剤。
【請求項9】
低アルブミン血症の改善に用いることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のタンパク同化促進剤。
【請求項10】
低タンパク又は低アルブミン状態に起因する肺水腫、腹水又は浮腫の発症を予防し又は改善するために用いることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のタンパク同化促進剤。
【請求項11】
医薬品であることを特徴とする、請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のタンパク同化促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−6764(P2010−6764A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169441(P2008−169441)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】