タンパク吸着材料およびその製造方法

【課題】タンパク質等の有価物の吸着回収あるいは不純物の吸着除去等の吸着精製操作に好適な、高速且つ高容量で吸着精製が可能なタンパク吸着材料およびその製造方法の提供。
【解決手段】高分子基材の表面に、タンパク質吸着能を有する官能基が高分子側鎖を介して固定された材料であって、高分子側鎖の質量が高分子基材の質量の5%以上30%以下の範囲であることを特徴とするタンパク吸着材料。ポリエチレン基材に、放射線グラフト重合法によりグリシジルメタクリレートを5〜30%のグラフト率にてグラフト重合した後、グリシジル基中のエポキシ環への化学反応によりタンパク質吸着能を有する官能基を導入固定するタンパク吸着材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品製造工程等のバイオプロセスにおいて、タンパク質等の有価物の吸着回収あるいは不純物の吸着除去等の吸着精製操作に好適な、高速且つ高容量で吸着精製が可能なタンパク吸着材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品製造工程等のバイオプロセスにおいて、タンパク質等の有価物の吸着回収あるいは不純物の吸着除去等の吸着精製操作は、粒子径100μmを超える多孔性ゲルビーズ状吸着体を充填したカラムに被処理液を通液することで行われてきた。ゲルビーズとしては、セルロース、デキストラン、アガロースなどの多糖類系ビーズが多用されてきた。それらは多孔性で粒子内部に細孔を有し、細孔により比表面積を大きくすることで目的物質の吸着容量を確保している。培養等で得られた目的物と不純物とを含む粗原料液は、上記多孔性ゲルビーズが充填されたカラムに通液され、目的物又は不純物は液が細孔を通過する際に細孔表面に固定されたタンパク質吸着能を有する官能基にて吸着分離される。しかしながら、上記の従来のゲルビーズはゲルビーズ粒子内への物質移動、即ち細孔内への拡散抵抗が大きいために、カラムへの通液速度が大きくなると細孔内の官能基が吸着に利用されなくなりゲルビーズ粒子表面の官能基しか吸着に利用されなくなり、大幅に吸着容量が低下し、高速での吸着精製が行えないという課題を抱えている。
【0003】
一方、粒子表面に固定された官能基だけを利用する非多孔性の粒子よりなるゲルビーズは、通液速度が速くなっても吸着容量の低下は少ない利点を有する。しかしながら、このようなゲルビーズは比表面積の絶対値が小さいために、工業生産に利用できるだけの吸着容量を持たせることが難しく、主に分析用途での実用化に留まっている。
【0004】
また、精密濾過膜等の多孔膜の細孔表面に官能基を固定し、濾過により強制的に細孔内に被処理液を通液することで、高速通液処理をしても細孔内の官能基が有効に利用できるようにして、高速通液処理をしても吸着容量の低下が起こらない工夫も研究されている(例えば非特許文献1及び2参照)。しかしながら、濾過通液をする以上、多孔膜の膜厚は濾過圧力が高くなりすぎないようにある程度薄くせざるを得ず、膜厚方向での吸着容量の絶対値を大きくすることが困難である。
【0005】
【非特許文献1】斎藤恭一ら、ケミカルエンジニヤリング、1996年8月号、25〜28頁
【非特許文献2】久保田昇、放射線と産業、1998年、No.80、45〜47頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、医薬品製造工程等のバイオプロセスにおいて、タンパク質等の有価物の吸着回収あるいは不純物の吸着除去等の吸着精製操作に好適な、吸着材内部での物質移動、細孔内への拡散抵抗による制限を受けることなくタンパク質のような大きな分子を吸着精製できる、工業生産用又は分析用として適用可能な吸着容量(平衡吸着容量ではなく、吸着処理時に吸着漏れが無視できなくなるまでに吸着できた容量、すなわち動的吸着容量)と高速処理性とを両立両有するタンパク吸着材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意努力した結果、多孔性ではない高分子基材の表面に、タンパク質吸着能を有する官能基が固定された高分子側鎖を、ある適切なグラフト率で固定することで、高速吸着処理と高吸着容量が両立両有できること、及び、放射線グラフト重合法を用いることにより、そのような高速吸着処理と高吸着容量が両立両有するタンパク吸着材料を製造することが可能であることを見出し、さらに鋭意研究を進めた結果、基材表面に形成される高分子側鎖の量が従来では考えつかない、極めて小さいグラフト率の下に最大化できることを発見し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は下記の通りである。
【0009】
(1)高分子基材の表面に、タンパク質吸着能を有する官能基が高分子側鎖を介して固定された材料であって、上記高分子側鎖の質量が上記高分子基材の質量の5%以上30%以下の範囲であることを特徴とするタンパク吸着材料。
【0010】
(2)高分子基材に放射線を照射した後、タンパク質吸着能を有する官能基を有するビニルモノマーあるいはタンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を有するビニルモノマーを接触させ、上記高分子基材表面に上記ビニルモノマーが重合したグラフト高分子側鎖を形成させ、蒸気ビニルモノマーがタンパク質吸着能を有する官能基を有しない場合には上記ビニルモノマーが有するタンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基にタンパク質吸着能を有する官能基を導入するタンパク吸着材料の製造方法において、上記ビニルモノマーによる上述の高分子側鎖の質量が、上記高分子基材の質量に対して5%以上30%以下の範囲にグラフト重合することを特徴とする、タンパク吸着材料の製造方法。
【0011】
(3)高分子基材がポリエチレン製であって、照射する放射線量が1kGy以上、10kGy以下の範囲であることを特徴とする上記(2)に記載のタンパク吸着材料の製造方法。
【0012】
(4)ポリエチレン製の上記高分子基材にタンパク質吸着能を有する官能基を有する上記ビニルモノマーあるいはタンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を有する上記ビニルモノマーをグラフト重合する際に、30℃以下に保たれた該ビニルモノマー溶液中で反応させることを特徴とする上記(3)に記載のタンパク吸着材料の製造方法。
【0013】
(5)上述の高分子基材にタンパク質吸着能を有する官能基を有するビニルモノマーあるいはタンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を有するビニルモノマーをグラフト重合する際に、該ビニルモノマーの濃度が10体積%以下の濃度に調製された溶液中で反応させることを特徴とする上記(3)又は(4)に記載のタンパク吸着材料の製造方法。
【0014】
(6)タンパク質吸着能を有する官能基を有するビニルモノマーあるいはタンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を有するビニルモノマーがグリシジルメタクリレートであることを特徴とする、上記(3)〜(5)のいずれか一つに記載のタンパク吸着材料の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、医薬品製造工程等のバイオプロセスにおいて、タンパク質等の有価物の吸着回収あるいは不純物の吸着除去等の吸着精製操作に好適な、高速、且つ高容量で吸着精製が可能なタンパク吸着材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0017】
本発明のタンパク吸着材料は高分子化合物を基材とする。本明細書において、この基材を「高分子基材」とも表記する。
【0018】
高分子化合物の例としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン化ポリオレフィン、オレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体、及びそれらの混合物等が挙げられる。これらの中でもポリエチレンが好ましく用いられる。ポリエチレンは安価で入手が容易であり、耐薬品性や加工性に優れ、また素材の吸湿性、吸水性が低く、加えて放射線による崩壊が起こりにくくかつ放射線グラフト重合を行う場合に放射線照射により発生するグラフト重合の反応起点になるラジカルの保持部になる結晶部分を比較的豊富に持ちやすいため、放射線グラフト重合に適している。
【0019】
ポリエチレンは大別して低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンに分類できるがどちらも用いることができる。実際に使用される種々環境中での基材の安定性の観点では結晶化度の高い高密度ポリエチレンが比較的好ましい。
【0020】
ポリエチレンは、エチレンのホモポリマーでも、リニアリティや密度の制御のためにプロピレンやブテンを添加重合したものでもよい。
【0021】
ポリエチレンの分子量は、実際に使用される種々環境中での基材の安定性の観点で、大きいものが良く、特に分子量で100万以上の超高分子量タイプのポリエチレンが機械的な物性にも優れており好ましい。
【0022】
高分子基材の形状は、特に制限はなく、粒子状、不織布状、織布状、糸状等の形状の基材を利用できる。
【0023】
粒子状の基材は、従来のカラム充填材として利用することができるため好適な素材である。真球状でも不定形でもよく、一次粒子からなるものでも、一次粒子が複数個凝集し一体化した二次粒子でも、二次粒子を粉砕したものでも用いることができる。
【0024】
粒子径は、平均粒子径で10μm以上80μm以下が良い。平均粒子径は、粒子の拡大写真から粒子50個以上について個々に短径と長径とを測定し、その平均値をもって示したものである。平均粒子径が80μmよりも大きいと、比表面積が不十分なため導入できる官能基量が不足しタンパク吸着容量が不十分となる傾向にある。平均粒子径が10μmよりも小さいと粒子同士の作る間隙が小さくなり、粗原料液を通液した際の圧損が大きくなるため実用に供する際に過大な液供給圧力が必要となるため好ましくない。好ましくは平均粒子径で10μm以上40μm以下である。
【0025】
多孔性ではない基材をも吸着材として利用するためには、高速吸着処理と高吸着容量の両立を実現させ、最大効率でタンパク質を吸着するためには、タンパク質吸着能を有する官能基の、基材への固定状態の設計が最も重要である。
【0026】
まず第一に必要なことは、基材に固定した高分子側鎖(基材へのグラフト高分子鎖)を介して上記官能基を固定することである。こうすることで、基材表面そのものだけでなく、基材表面に固定された高分子側鎖を介して基材表面から離れた基材表面の上空部分にも官能基を配することができる。通常の官能基固定方法では、基材表面そのものの2次元面しか官能基固定スペースとして使わないのに対し、基材に固定した高分子側鎖を介して官能基を固定することで、基材上空部分の3次元空間(固定した高分子側鎖が届く範囲)を官能基固定スペースとして使えるため、吸着容量の確保の上で、圧倒的に有利にできる。いわば、基材表面に高分子側鎖を介さずに官能基を固定する通常法は「平屋型の吸着空間(平面)」であるのに対し、基材に固定した高分子側鎖を介して官能基を固定する方法は「高層建築型の吸着空間」であると言える。
【0027】
なお、高分子側鎖としては、架橋構造の少ないものが好ましい。タンパク質は一般に分子が大きく、例えばスチレン−ジビニルベンゼンの様な架橋構造を有する高分子側鎖においては、タンパク分子が架橋構造の中に入り込むあるいは移動することが困難になり、高分子側鎖の極一部しか吸着に関与できず、実質的にタンパク質をほとんど吸着できない。高分子側鎖としては、屈曲性の高いメチレン鎖からなるものが好ましい。メチレン鎖からなる高分子側鎖は、例えば基材へのビニルモノマーのグラフト重合にて得ることができる。最も好適な高分子側鎖はポリグリシジルメタクリレートであり、グリシジルメタクリレートの重合によって形成することができる。グリシジルメタクリレートは重合後も反応性に富むグリシジル基を有しており、グリシジル基中のエポキシ環に開環付加させることで種々の官能基を導入することができる点も好都合である。
【0028】
タンパク質吸着能を有する官能基を、高分子側鎖を介して基材に固定した上で、高速度吸着処理と高吸着容量の両立を実現させ、最大効率でタンパク質を吸着するために重要なことは、高分子側鎖のグラフト率(高分子側鎖質量「グラム」÷基材質量「グラム」×100)の設計であり、高分子側鎖の密度(高分子側鎖量[グラム]÷基材表面積[m2])の設計である。一般的に考えると、グラフト率を大きくし、官能基を多く導入するのが目的達成に好都合と考えられる。しかしながら意外にも、グラフト率が大きくなりすぎると吸着容量及び溶出率(吸着したタンパク質の回収率にほぼ相当)がともに低下し、高分子側鎖密度には適正範囲が存在することが見出された。理由は不明であるが、基材に固定された高分子側鎖は、基材表面に「ひげ状に」固定された状態として模式的に理解することが可能であるが、グラフト率があるレベルを超えると、タンパク質が高分子側鎖の層中に入り込むことが困難になって、せっかくの高分子側鎖層からなる3次元の高層建築的吸着空間が有効に利用されなくなって吸着容量が下がり、また密度の高い高分子側鎖層に「入り込んでしまった」何割かのタンパク質は、逆に溶出時(タンパク質の溶出回収工程)に高分子側鎖層から「抜け出る」ことが困難になり溶出率(回収率)が低下する可能性が考えられる。
【0029】
本発明において発見された高分子側鎖のグラフト率、密度はこれまで考えられた領域に比較して著しく少ないものであるにもかかわらず、吸着容量が大きくできることは極めて意外であり、従来の考え方の延長線では得られなかったものであると言える。
【0030】
基材に固定された高分子側鎖のグラフト率は、5%以上30%以下の範囲である。より好ましくは10%以上20%以下の範囲である。5%よりも小さいとタンパク質の吸着容量が得られず、30%よりも大きくなると溶出率が低下するため好ましくない。
【0031】
また基材に固定された高分子側鎖の密度は、0.1g/m2以上3g/m2未満であるのがよい。好ましくは、0.2g/m2以上1.5g/m2以下であり、より好ましくは0.3g/m2以上1.0g/m2未満である。0.1g/m2よりも小さい範囲ではタンパク質の吸着容量が十分に得られ難くなる傾向にあり、3g/m2よりも大きすぎると溶出率が低下するため好ましくない。
【0032】
いずれにしても、従来のグラフトによる機能付与の技術に対して、グラフト率が小さく、従って導入する官能基の量が少なくなっているにも関わらずタンパク吸着性能が改良されることは、驚くべき結果であるといえる。
【0033】
タンパク質吸着能を有する官能基は、大別すると、(1)イオン交換吸着型、(2)疎水性相互作用吸着型、(3)群特異アフィニティ吸着型、(4)個別特異アフィニティ吸着型の4つがある。具体例としては、以下のものがある。
【0034】
イオン交換吸着型の官能基のうち、カチオン基としてはスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、アニオン基としては、4級アンモニウム塩基、ピリジウム塩基、3〜2級アミノ基、キレート基としては、イミノジ酢酸基、メルカプト基、エチレンジアミン基等がある。
【0035】
疎水性相互作用吸着型としては、フェニル基、アルキル基等がある。
【0036】
群特異性アフィニティ吸着基としては、Cibacron Blue F3G-A、Protein A、コンカナバリンA、ヘパリン、タンニン、金属キレート基等がある。
【0037】
個別特異型アフィニティ吸着基としては、抗原や抗体類がある。
【0038】
基材に固定した高分子側鎖には、これらタンパク質吸着能を有する官能基を単種で固定しても、複数種固定してもよい。また、高分子側鎖には、タンパク質吸着能を有する官能基だけでなく、タンパク質の非特異的吸着や非可逆的吸着を抑止する目的で、水酸基をも固定することが望ましい。
【0039】
タンパク吸着材料は、タンパク吸着能を有する官能基を、タンパク吸着材料の質量(乾燥質量)当たり0.1mmol/g以上有すると好ましい。上述の通り、グラフト率の低下に伴って官能基の量も少なくなるが、基材に固定された高分子側鎖が上記適切な範囲にあれば、高分子側鎖に導入固定するタンパク吸着能を有する官能基の量は大きい方が吸着能力が高くなるので好ましい。実質的に上限は0.5mmol/gである。
【0040】
本発明のタンパク吸着材料は、高分子材料を基材に用い、放射線グラフト重合法、即ち、高分子基材に放射線を照射した後、タンパク質吸着能を有する官能基を有するビニルモノマーあるいはタンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を有するビニルモノマーを接触させ、基材表面に上記ビニルモノマーが重合したグラフト高分子側鎖を形成させ、該ビニルモノマーがタンパク質吸着能を有する官能基を有しない場合には該ビニルモノマーが有するタンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基にタンパク質吸着能を有する官能基を導入する手法を用いることで製造することができる。タンパク質吸着能を有する官能基を有するビニルモノマーとしては、例えばスチレンスルホン酸ナトリウム(官能基はスルホン酸基)、アクリル酸(官能基はカルボキシル基)などがある。また、タンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基としては、エポキシ環、水酸基、アミノ基等の反応性に富む官能基が挙げられる。これらの中でもエポキシ環は多種多用な分子との反応性に富むため、タンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基として特に有効である。タンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を有するビニルモノマーとしては、グリシジルメタクリレート(官能基としてエポキシ環)、酢酸ビニル(官能基として、加水分解後に得られる水酸基)などがある。例えば、エポキシ環へタンパク質吸着能を有する種々の官能基を導入する方法については、上述の非特許文献2などに記載されている。
【0041】
グラフト高分子側鎖の固定は、基材に均一にラジカルを生成させ、そのラジカルを開始点としてビニルモノマーをグラフト重合させる方法によることが適切である。ラジカルを基材表面全体に均一に生成させる方法として放射線照射によりラジカルを生成させる方法が最も好適であり、このラジカルを開始点としてグラフト重合鎖を生成させると都合がよい。本発明に好適に用いられる放射線は電離性放射線であり、α、β、γ線、電子線などがあり何れも使用可能であるが、電子線又はγ線が適している。
【0042】
なお、グラフト高分子側鎖を適切な密度にて基材に固定するためには、グラフト重合の起点となるラジカルの発生量を適切範囲にすることが大事である。具体的には基材への放射線の照射線量が重要で、本発明においては、従来に比べて小さな線量であることが鍵となる。最も効率的に必要なラジカルの生成量が得られる照射線量は、基材がポリエチレン製である場合、好ましくは1kGy以上10kGy以下である。
【0043】
高分子基材に放射線グラフトを行う方法としては、例えば、予め高分子基材に放射線を照射した後、生成したラジカルを起点としてビニルモノマーと接触させる前照射法や、ビニルモノマー溶液中で放射線を照射する同時照射法があるが、安定した製造が可能になるのは、前照射法である。
【0044】
基材に発生したラジカルにビニルモノマーを接触させ、ラジカル重合によるグラフト重合を行う方法としては、気相中で蒸散したビニルモノマーを接触させる気相法、液状のビニルモノマーをそのままあるいは溶媒で希釈した液中で接触させる液相法がある。グラフト量、すなわち基材へのグラフト高分子側鎖の密度の制御のしやすさの観点から、ビニルモノマーを溶媒で希釈した液中で接触させる液相法が好ましい。グラフト重合反応を、無駄に基材の粒子内奥部で起こることを避け、反応を基材の表面近傍に止まらせるため、溶媒は用いる樹脂に対して膨潤性の小さいものを用いることが好ましい。具体的には、基材として用いる樹脂の膨潤度が10%以下の溶媒が良く、基材がポリエチレンの場合、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類が適切である。ここでいう膨潤度とは、「溶媒中に1時間浸漬した樹脂粒子の粒径」と「浸漬前の樹脂粒子の粒径」との差を、「浸漬前の樹脂粒子の粒径」で除した値である。
【0045】
アルコール溶媒中でグリシジルメタクリレートをグラフト反応させるために、反応混合液は30℃以下に保たれることが好ましい。30℃を越えると反応速度が大きくなり、所定のグラフト率に反応を制御することが難しくなる。好ましくは0〜20℃である。
【0046】
アルコール溶媒中のグリシジルメタクリレートの濃度は10体積%以下の範囲にするのが良い。10体積%を越える濃度ではタンパク吸着容量の大きなタンパク吸着材料を得ることが難しい。
【0047】
これらは、基材表面に形成される高分子側鎖の密度に大きく関係していると考えられ、タンパク分子が高分子側鎖の間に入り込みやすい構造を形成する重要な因子であると考えられる。
【0048】
本発明の特に好ましい具体的な製造方法の例として、基材にポリエチレン粒子を用い、ビニルモノマーにグリシジルメタクリレートを用いる放射線グラフト重合法がある。ポリエチレン基材の平均粒子径は、10μm以上80μm以下、より好ましくは10μm以上60μm以下、さらに好ましくは10μm以上40μm以下である。放射線グラフト重合法としては、前照射法が好ましい。ラジカルを発生させた基材へのグリシジルメタクリレートのグラフト重合は、グリシジルメタクリレートのアルコール溶液中で行うことが好ましい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等を好適に用いることができる。反応溶媒としてアルコールが好ましい理由は、前記のように、グラフト重合反応を、無駄に基材の粒子内奥部で起こることを避け、反応を基材の表面近傍に止まらせるため、溶媒は用いる樹脂に対して膨潤性の小さいものを用いることが好ましいからである。アルコール類は、ポリエチレン基材に対し、膨潤度が小さい。
【0049】
上記反応液中の反応温度とグリシジルメタクリレート濃度及び反応時間を制御することによりグラフト率を制御することが可能となる。なお、グラフト率は、100×{(グラフト重合後の質量)−(グラフト重合前の基材質量)}/(グラフト重合前の基材質量)で求められる値である。
【0050】
グリシジルメタクリレートのグラフト率は、5%以上30%以下が好ましく、10%以上20%以下がより好ましい。グラフト率を制御することにより、基材に固定するグラフト高分子側鎖の密度を好ましい範囲に制御することができる。
【0051】
グリシジルメタクリレートがグラフトされた基材の、グリシジルメタクリレートグラフト重合高分子側鎖(ポリグリシジルメタクリレート側鎖)へのタンパク吸着能を有する官能基の導入は、グラフト重合高分子側鎖中のグリシジル基中のエポキシ環への開環付加させる方法を用いることができる。例えばカチオン交換基をタンパク質吸着能を有する官能基として導入固定する場合には、グラフト重合高分子側鎖中のグリシジル基に亜硫酸塩を付加する方法がある。より具体的には、グリシジルメタクリレートがグラフトされた基材と亜硫酸ソーダとを水/イソプロピルアルコール混合溶液中で反応させてスルホン基を導入する方法を用いることができる。例えばアニオン交換基をタンパク質吸着能を有する官能基として導入固定する場合には、グラフト重合高分子側鎖中のグリシジル基にトリメチルアミン塩酸塩を反応させ4級アンモニウム基を導入することができる。
【0052】
なお、基材の表面積は、水銀圧入法で求めることができる。また、タンパク吸着材料は、ビーズ状の形状をなすタンパク吸着ビーズであってもよい。
【実施例】
【0053】
以下、本実施形態を実施例により更に具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
基材として質量を測定した平均粒子径35μmの超高分子量ポリエチレン粒子(Ticona社製;GUR−2126、比表面積:0.18m2/g)に、10kGyの電子線を照射しラジカルを発生させた。
【0055】
この微粒子を2体積%のグリシジルメタクリレート/1−ブタノール溶液に浸漬し、5℃で150時間振とうすることにより、グラフト重合反応を行った。得られた微粒子をアルコール洗浄後乾燥して質量測定したところ、グラフト率は17%であった。したがって、高分子側鎖密度は0.9g/m2であった。
【0056】
得られた微粒子を亜硫酸ナトリウム:イソプロパノール:純水=10:15:75(質量%)の溶液に浸漬し、80℃で12時間振とうしてグリシジル基にタンパク質吸着能を有する官能基としてスルホン酸基を導入した。スルホン酸基を導入した微粒子を乾燥して質量を測定し、増えた質量からスルホン酸基量を求めた。スルホン酸基固定量は、0.3mmol/gであった。更に、スルホン酸基を導入した粒子を0.5mol/Lの硫酸水溶液に、80℃で2時間振とうし未反応のグリシジル基をジオール化して、タンパク吸着材料としてのカチオン型のタンパク吸着ビーズを得た。
【0057】
得られたタンパク吸着ビーズを断面積0.39cm2のカラムに充填し(充填高さ3cm)、以下の吸着性能試験を行った。まずタンパク質溶液として2g/Lのリゾチーム溶液(10mmol炭酸ナトリウム/水酸化ナトリウム水溶液緩衝液、pH9)を、空間速度200h-1にてカラムの上から下へ通液し、リゾチームの吸着操作を行った。カラム下の液出口にて出口液をサンプリングし、出口液中のリゾチーム濃度を吸光光度法(280nm)にてモニタリングした。出口液濃度は初めはゼロであるが、通液量が増えると共に、徐々にリゾチームが漏れ出す。出口液濃度が原液と同じ濃度(2g/L)になるまで吸着操作を行った。出口液濃度が原液の1/10になるまでの吸着量を動的吸着容量、出口液濃度が原液と同じになるまでの吸着量を平衡吸着容量とした。吸着操作終了後、緩衝液を通液して洗浄した後、0.5mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を通液し、吸着したリゾチームを溶出した。100×(溶出量)/(平衡吸着量)を溶出率(回収率)とした。得られた値は、動的吸着容量39mg/mL(カラム充填容積当たり、以下同様。)、平衡吸着容量60mg/mL、溶出率100%であった。
【0058】
[比較例1]
照射線量が大きくグラフト率が大きい場合の比較例を下記のとおりに実施した。電子線照射量を100kGyとし、反応時間を24時間とした以外は、実施例1と同様の操作により、カチオン型タンパク吸着ビーズを得た。グラフト率は45%であった。したがって、高分子側鎖密度は2.5g/m2であった。スルホン酸基固定量は、1.2mmol/gであった。
【0059】
得られたタンパク吸着ビーズに対し、実施例1と同様の吸着性能試験を行ったところ、、動的吸着容量14mg/mL、平衡吸着容量22mg/mL、溶出率90%で、吸着容量が実施例1で得られたものの半分にも届かない結果であった。
【0060】
[比較例2]
反応温度が高く、グラフト率が大きい場合の比較例を下記のとおりに実施した。グラフト重合反応温度を40℃に、反応時間を2時間とした以外は、実施例1と同様にしてカチオン型タンパク吸着ビーズを作製した。得られたタンパク吸着ビーズは、グラフト率41%、高分子側鎖密度2.3g/m2、スルホン酸基固定量1.1mmol/gであった。
【0061】
得られたタンパク吸着ビーズに対し、実施例1と同様の吸着性能試験を行ったところ、動的吸着容量20mg/mL、平衡吸着容量31mg/mL、と実施例1で得られた吸着ビーズの半分であった。また、溶出率が85%で、吸着したタンパク質の回収に問題があった。
【0062】
[実施例2]
基材として質量を測定した平均粒子径35μmの超高分子量ポリエチレン粒子(Ticona社製;GUR−2126、表面積の概算値0.18m2/g)に、10kGyの電子線を照射しラジカルを発生させた。
【0063】
この微粒子を2体積%のグリシジルメタクリレート/1−ブタノール溶液に浸漬し、5℃で120時間振とうすることにより、グラフト重合反応を行った。得られた微粒子をアルコール洗浄後乾燥して質量測定したところ、グラフト率は13%であった。高分子側鎖密度は0.7g/m2であった。
【0064】
得られた微粒子を50体積%のジエチルアミン水溶液に浸漬し、30℃で24時間振とうしてグリシジル基にタンパク質吸着能を有する官能基としてジエチルアミノ基を挿入した。ジエチルアミノ基を導入した微粒子を乾燥して質量を測定し、増えた質量からジエチルアミノ基量を求めた。ジエチルアミノ基の固定量は0.6mmol/gであった。次に、50体積%エタノールアミン/メタノール溶液に、得られた微粒子を30℃で24時間浸漬し、未反応のグリシジル基をエタノールアミノ化して、タンパク吸着材料としてのタンパク吸着ビーズを得た。
【0065】
得られたアニオン型タンパク吸着ビーズを、実施例1と同じカラムに充填し(充填高さ3cm)、以下の吸着性能試験を行った。まずタンパク質溶液として1g/Lの牛血清アルブミン溶液(20mmolTris−HCl緩衝液、pH8)を、空間速度200h-1にてカラムの上から下へ通液し、アルブミンの吸着操作を行った。カラム下の液出口にて出口液をサンプリングし、出口液中のアルブミン濃度を吸光光度法(280nm)にてモニタリングした。出口液濃度は初めはゼロであるが、通液量が増えるとともに、徐々にアルブミンが漏れ出す。出口液濃度が原液と同じ濃度(1g/L)になるまで吸着操作を行った。出口液濃度が原液の1/10になるまでの吸着量を動的吸着容量、出口液濃度が原液と同じになるまでの吸着量を平衡吸着容量とした。吸着操作終了後、緩衝液を通液して洗浄した後、1mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を通液し、吸着したアルブミンを溶出した。100×(溶出量)/(平衡吸着量)を溶出率(回収率)とした。得られた値は、動的吸着容量37mg/mL、平衡吸着容量43mg/mL、溶出率100%であった。
【0066】
[比較例3]
グラフト反応溶液中のグリシジルメタクリレートの濃度が大きい場合の比較例を下記のとおりに実施した。反応溶液中のグリシジルメタクリレートの濃度を15体積%とした以外は、実施例2と同様の操作を行いアニオン型タンパク吸着ビーズを得た。グラフト率は20%で、高分子側鎖密度1.2g/m2、ジエチルアミノ基の固定量は1.1mmol/gであった。
【0067】
得られたタンパク吸着ビーズに対し、実施例2と同様の吸着性能試験を行ったところ、動的吸着容量18mg/mL、平衡吸着容量66mg/mLと、平衡吸着容量に比べて動的吸着容量の低いものとなった。また、溶出率が95%で、吸着したタンパク質の回収に問題があった。
【0068】
[実施例3]
基材として質量を測定した平均粒径35μmの超高分子量ポリエチレン粒子(Ticona社製;GUR−2126、比表面積:0.18m2/g)に、1kGyの電子線を照射しラジカルを発生させた。
【0069】
この微粒子を10体積%のグリシジルメタクリレート/1−ブタノール溶液に浸漬し、30℃で2時間振とうすることにより、グラフト重合反応を行った。得られた微粒子をアルコール洗浄後乾燥して質量測定したところ、グラフト率は21%であった。したがって、高分子側鎖密度は1.2g/m2であった。
【0070】
得られた微粒子に、実施例1と同じ方法により、タンパク質吸着能を有する官能基としてスルホン酸基を導入した。スルホン酸基固定量は、0.5mmol/gであった。
【0071】
さらに、実施例1と同じ方法によりグリシジル基をジオール化してタンパク吸着材料としてのタンパク吸着ビーズを得た。得られたタンパク吸着ビーズのリゾチームの吸着評価を行った。動的吸着容量38mg/mL、平衡吸着容量55mg/mLであった。また、溶出率は98%で、ほぼ完全にタンパクを回収することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材の表面に、タンパク質吸着能を有する官能基が高分子側鎖を介して固定された材料であって、前記高分子側鎖の質量が前記高分子基材の質量の5%以上30%以下の範囲であることを特徴とするタンパク吸着材料。
【請求項2】
高分子基材に放射線を照射した後、タンパク質吸着能を有する官能基を有するビニルモノマーあるいはタンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を有するビニルモノマーを接触させ、前記高分子基材表面に前記ビニルモノマーが重合したグラフト高分子側鎖を形成させ、前記ビニルモノマーがタンパク質吸着能を有する官能基を有しない場合には前記ビニルモノマーが有するタンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基にタンパク質吸着能を有する官能基を導入するタンパク吸着材料の製造方法において、前記ビニルモノマーによる前記高分子側鎖の質量が、前記高分子基材の質量に対して5%以上30%以下の範囲にグラフト重合することを特徴とする、タンパク吸着材料の製造方法。
【請求項3】
前記高分子基材がポリエチレン製であって、照射する放射線量が1kGy以上、10kGy以下の範囲であることを特徴とする請求項2に記載のタンパク吸着材料の製造方法。
【請求項4】
ポリエチレン製の前記高分子基材にタンパク質吸着能を有する官能基を有する前記ビニルモノマーあるいはタンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を有する前記ビニルモノマーをグラフト重合する際に、30℃以下に保たれた前記ビニルモノマー溶液中で反応させることを特徴とする請求項3に記載のタンパク吸着材料の製造方法。
【請求項5】
前記高分子基材にタンパク質吸着能を有する官能基を有する前記ビニルモノマーあるいはタンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を有する前記ビニルモノマーをグラフト重合する際に、前記ビニルモノマーの濃度が10体積%以下の濃度に調製された溶液中で反応させることを特徴とする請求項3又は4に記載のタンパク吸着材料の製造方法。
【請求項6】
タンパク質吸着能を有する官能基を有する前記ビニルモノマーあるいはタンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を有する前記ビニルモノマーがグリシジルメタクリレートであることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか一項に記載のタンパク吸着材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−16036(P2011−16036A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304826(P2007−304826)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】