説明

タンパク質−カーボンナノチューブ複合体およびカーボンナノチューブ分級・選別方法

【課題】
新規なタンパク質−カーボンナノチューブ複合体を提供し、直径および/または巻き軸方向(カイラリティー)の異なるカーボンナノチューブが混在している原料から、カイラリティーの違いに従ってカーボンナノチューブを分級および選別する。
【解決手段】
会合体を形成する性質をもつタンパク質を用いて、タンパク質−カーボンナノチューブ複合体を生成し、それを高速遠心・ゲルろ過クロマト・イオン交換クロマトまたは電気泳動などによって成分を分離して、カーボンナノチューブを分級する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なタンパク質−カーボンナノチューブ複合体およびタンパク質−カーボンナノチューブ複合体を用いるカーボンナノチューブを分級・選別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、炭素材料の一種で、ベンゼン環が平面上に繋がったシートを、直径ナノメートル程度の円筒状に丸めた立体構造である。
カーボンナノチューブの力学的・熱的・電気的特性は、直径及び巻き方向ベクトル(カイラリティー)の違いにより様々であり、その特性に応じて電界効果トランジスター、電界放出ディスプレイ、センサー、キャパシターなどへの多様な材料応用が期待されている。
【0003】
カーボンナノチューブは、現状では、異なるカイラリティーを持つカーボンナノチューブの混合物としてのみ供給されており、特定のカイラリティーを持つカーボンナノチューブを固定的に製造する方法は確立されていない。従って、製造後のカーボンナノチューブを分級及び選別する方法が必要となる。
【0004】
分級の方法として、1本鎖DNAのライブラリーから、単層カーボンナノチューブのカイラリティーを認識する1本鎖DNAを選び出し、これらのDNAを利用してカーボンナノチューブを水中に分散してイオン交換クロマト法を用いて、12種のカイラリティーの異なるカーボンナノチューブを分級する方法が知られている。(非特許文献1)
【0005】
また、界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムやコール酸誘導体を用いて単層カーボンナノチューブを水に分散し、密度勾配超遠心分離によって選別し、半導体性・金属性あるいは直径によってカーボンナノチューブを分級する方法が知られている。(非特許文献2)
【0006】
また、設計したペプチドを使ってカーボンナノチューブを水中に分散し、残渣と上澄みを遠心分離して分け、上澄みに有機溶媒などを加えてペプチドをカーボンナノチューブから除去する方法が知られている。(特許文献1)
【0007】
また、リゾチームやアルブミンなどの水溶性蛋白質を用いてカーボンナノチューブを被覆して水中に安定に分散可能な複合体を製造し、被覆している蛋白質を使って機能化することによって、ドラッグデリバリーシステム・光学センサー・分離用フィルターへ応用できることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−153716
【特許文献2】特開2007−22873
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】DNA sequence motifs for structure-specificrecognition and separation of carbon nanotubes. Ming Zheng et al、 Nature、460 (2009)、 250-253.
【非特許文献2】Sorting carbon nanotubes by electronicstructure using density differentiation. Mark C. Hersam et al、 NatureNanotech.、 1 (2006)、60-65.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
安価で簡便なカーボンナノチューブの分級・選別方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、会合体を形成する性質をもつタンパク質による分散と高速遠心分離との組み合わせで、カーボンナノチューブをおおまかに直径で分級できることを見出し、本発明を完成させた。
具体的には、会合体を形成する性質をもつタンパク質として、天然に存在して産業にも広く利用されているカゼインを用いて、カーボンナノチューブを分散し、高速遠心・ゲルろ過クロマトグラフィー・イオン交換クロマトグラフィーまたは電気泳動などによって成分を分離して、カーボンナノチューブをカイラリティーで分級できる。
【0012】
ここで、カーボンナノチューブのカイラリティーとは、上記したようにカーボンナノチューブの直径及び巻き方向ベクトルを意味し、また、分級とはカーボンナノチューブを直径あるいはカイラリティーによって分けることを意味する。
【発明の効果】
【0013】
カゼインは、食品分野はもとより、古くからボタンや印鑑などのプラスチック材料として利用されているほど、安価で大量に供給されており、先行文献に示されている蛋白質より、コストの面で非常に優れている。
また、分離の際に操作が複雑な密度勾配超遠心分離は必要ではなく、簡便にカーボンナノチューブを精製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、α−カゼイン水溶液に単層カーボンナノチューブを分散させ、遠心分離(21,400g)した上澄みとさらにその上澄みを遠心分離(2回目、60,000g)した(実施例1)際の上澄みの電子吸収スペクトルである。
【図2】図2は、α−カゼイン水溶液に単層カーボンナノチューブを分散させ、2回目の遠心分離した(実施例1)際の上澄みと残渣(再度超音波装置による分散処理済み)の電子吸収スペクトルである。
【図3】図3は、カイラリティー分布の図で、縦軸はカイラル角、横軸は円筒の直径である。
【図4】図4は、カイラリティーの定義を説明する模式図である。
【図5】図5は、α−カゼイン水溶液に単層カーボンナノチューブを分散させた上澄みをゲルろ過法に供して(実施例2)、溶出した成分を分画したものである。
【図6】図6は、α−カゼイン水溶液に単層カーボンナノチューブを分散させた上澄みをゲルろ過法に供して(実施例2)、溶出した成分の電子吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に使用されるカーボンナノチューブは、アーク法、レーザーアブレーション法、CVD法、DIPS法、CoMoCAT法、HiPCO法、スーパーグロースCVD法など公知技術で製造されたカーボンナノチューブであればいずれであってもよいが、HiPCO法で製造された単層カーボンナノチューブが好ましい。
【0016】
本発明に使用される会合体を形成する性質をもつタンパク質として、カゼインが挙げられる。
カゼインは、乳由来のものであれば、特に限定されないが、牛乳由来のものが好ましい。また、カゼインはα−、β−、κ−など大きく3種類に分けられるが、本発明には、いずれのカゼインまたはそれらの混合物も使用することができる。
好ましいカゼインとして、α−カゼインおよびアミノ酸配列が一部異なったα−カゼイン、κ−カゼインが挙げられる。
また、α−カゼインおよびκ−カゼイン中のアミノ酸側鎖を脱リン酸化するなどの化学処理したα−カゼインおよびκ−カゼインを使用することもできる。
【0017】
また、カーボンナノチューブ−タンパク質複合体の分離に、会合体を形成する性質をもつタンパク質と他のペプチドやアミノ酸、あるいはその誘導体、さらにビタミンや他の小分子が結合したものも利用することができる。特に、カゼインあるいは他のタンパク質中のいろいろな部位に対する抗体を作成して反応させることにより、抗体の結合によってタンパク質−カーボンナノチューブ複合体の性質の違いを増幅させることができる。さらに、酵素とその阻害剤、金属結合性タンパク質と金属の組み合わせも利用することができる。
【0018】
カーボンナノチューブを、会合体を形成する性質をもつタンパク質に分散するには、例えば、会合体を形成する性質をもつタンパク質の水溶液に、カーボンナノチューブを懸濁させ、超音波処理またはウォータジェットミル処理すればよい。
【0019】
カーボンナノチューブが分散した会合体を形成する性質をもつタンパク質溶液を、遠心分離するには、10,000g〜100,000gの遠心力を負荷すればよい。
【0020】
カーボンナノチューブを、会合体を形成する性質をもつタンパク質溶液に分散処理することで、カーボンナノチューブの表面が会合体を形成する性質をもつタンパク質で覆われたカーボンナノチューブ−タンパク質複合体が形成される。
【実施例】
【0021】
<実施例1>
α-カゼインを炭酸水素ナトリウム水溶液に溶解し、0.5%のα-カゼイン水溶液を調製した。HiPco製単層カーボンナノチューブ0.5mgをサンプル管にとり、これにα-カゼイン水溶液1mLを加えて、バス型超音波処理を行なって、ある程度ほぐした。
【0022】
次に、プローブ型超音波発生装置で分散処理を5時間行なった。得られた黒い分散液を遠心分離(21,400 g)して、残渣と上澄みに分けた。この上澄みをさらに遠心分離(60,000 g)して、残渣と上澄みに分けた。2回目の遠心分離は10時間行なった。
【0023】
それぞれの上澄みの電子吸収スペクトルを図1に示す。最初の遠心分離の上澄み中には、孤立分散したカーボンナノチューブが多種存在していることが示された。2回目の遠心分離によって、一部の吸収ピークが減少していることがわかる。このことは残渣と上澄み中の成分に違いがあることを示している。この2回目の遠心分離による上澄み中の成分と残渣成分とで、それらの電子吸収スペクトルを示した(図2)。
【0024】
これらを比較すると、いくつかの吸収ピークが顕著に増加していることがわかる。吸収ピークから、2〜3種の異なるカイラリティーをもつナノチューブ成分が増加していることが分かる。
【0025】
表1は、カイラリティーと波長の関係と、電子吸収スペクトルの変化を示した表である。図3は、カーボンナノチューブの直径とカイラル角との関係を示している。
通常、カイラリティーは基点となるベンゼン環の角が、図4に示したa1方向及びa2方向にいくつ離れたベンゼン環の角に重なるように丸められているかで表現する。例えば、基点となる角(0、0)がa1方向に1つ隣のベンゼン環の頂点に重なる場合は、カイラリティーが(1、0)である。カイラリティーが決まれば、直径と巻き軸ベクトルが決定する。
表1の結果と図3に示すカイラリティーと直径の関係から、大きな直径のナノチューブが残渣に、小さな直径のナノチューブが上澄みに存在する。
【0026】
【表1】

【0027】
<実施例2>
α−カゼインを0.01M水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、0.5%のα−カゼイン水溶液を調製した。HiPco製単層カーボンナノチューブ0.5mgをサンプル管にとり、これにα−カゼイン水溶液1mLを加えて、バス型超音波処理をおこなって、ある程度ほぐした。
次に、プローブ型超音波発生装置で分散処理を5時間行なった。得られた処理液を遠心分離(21,400g)して残渣と上澄みに分けた。この上澄みの一部をゲルろ過カラムに供して、溶出した成分を分画した(図5)。
【0028】
分画したそれぞれ成分の電子吸収スペクトルを図6に示した。半導体性のカーボンナノチューブには通常S11(900−1600nm)とS22(550−900nm)に電子遷移による吸収が見られ、孤立分散しているカーボンナノチューブはこの吸収が1本1本ピークとして観察され、孤立分散していない束状のカーボンナノチューブはピークがブロードになる。したがって、図6から早く溶出した成分(フラクション1)には、数種の半導体性カーボンナノチューブが孤立分散したものが多く含まれ、一方遅く溶出した成分(フラクション2)には束状になった成分が多く、かつ半導体性カーボンナノチューブの割合が少なくなっていた。なお、カイラリティーが(n、m)であるカーボンナノチューブは、n−mが3の倍数の場合に金属ナノチューブとなり、n−mが3の倍数でない場合に半導体ナノチューブになる。
また、それぞれの成分をAFM観察した結果、フラクション1には比較的長いカーボンナノチューブが多く存在し、フラクション2には短いカーボンナノチューブが存在していた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、直径やカイラリティーなどの点で均質になったカーボンナノチューブを提供するものであり、均質なカーボンナノチューブを使うことによってその基盤的研究が進み、さらに応用検討中の製品の試験研究が加速され、大きな波及効果が期待される。
また、特に、カゼイン−カーボンナノチューブ複合体自体を利用して、導電性シート・導電性塗料などに応用展開できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブの表面が会合体を形成する性質をもつタンパク質で被覆されたタンパク質−カーボンナノチューブ複合体。
【請求項2】
カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである請求項1記載のタンパク質−カーボンナノチューブ複合体。
【請求項3】
会合体を形成する性質をもつタンパク質がカゼインである請求項1または2記載のタンパク質−カーボンナノチューブ複合体。
【請求項4】
カゼインがα−カゼインまたはアミノ酸の一部が置換したα−カゼインまたはκ−カゼインおよびそれらを化学処理したものである請求項3記載のタンパク質−カーボンナノチューブ複合体。
【請求項5】
カーボンナノチューブを、会合体を形成する性質をもつタンパク質で分散処理し、次いで、分散物を高速遠心分離することを特徴とするカーボンナノチューブの分級・選別方法。
【請求項6】
カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである請求項5記載のカーボンナノチューブの分級・選別方法。
【請求項7】
会合体を形成する性質をもつタンパク質がカゼインである請求項5または6記載のカーボンナノチューブの分級・選別方法。
【請求項8】
カゼインがα−カゼインまたはアミノ酸の一部が置換したα−カゼインまたはκ−カゼインおよびそれらを化学処理したものである請求項7記載のカーボンナノチューブの分級・選別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−46402(P2012−46402A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192959(P2010−192959)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】