説明

タンパク質−ポリマー接合体の治療的使用

本発明は、特発性骨髄線維症、真性多血症、および本態性血小板血症などの種々の疾患を処置するための、本願明細書に記載されるタンパク質−ポリマー接合体の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年12月10日出願の米国仮出願第61/285,411号の利益を主張する。この米国仮出願の内容は、参照によりその全体を本願明細書に援用したものとする。
【0002】
本発明は、種々の疾患を処置するためのタンパク質−ポリマー接合体の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞生物学および組み換えタンパク質技術の進歩は、タンパク質療法の開発につながった。
【0004】
しかし、大きなハードルがまだ存在する。ほとんどのタンパク質はタンパク質分解性の分解を受け易く、それゆえ循環系において短い半減期を有する。他の不都合としては、低い水溶性および中和抗体の誘導が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリマー、例えばポリエチレングリコール(PEG)をタンパク質に結合すると、タンパク質分解酵素がそのタンパク質の骨格に接近することが妨げられ、その結果として、タンパク質の安定性が高められる。加えて、この結合は、水溶性を改善することもし、免疫原性を最小にすることもする。ポリマーをタンパク質に結合する有効な方法についてのニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様は、種々の疾患を処置するためのタンパク質−ポリマー接合体の使用に関する。この接合体は、少なくとも1つのポリマー部分、インターフェロン−α部分、およびリンカーを含有する。この接合体では、全分子量は2〜200kD(好ましくは40kD)であり、接合体中のポリマー部分の数は10以下である。このポリマー部分(複数可)はリンカーに結合され、当該インターフェロン−α部分のN末端の窒素原子は、リンカーに結合され、このリンカーは、共有結合、C1〜10アルキレン、C2〜10アルケニレン、またはC2〜10アルキニレンである。好ましくは、当該接合体は実質的に純粋であり、例えば70%超、80%超、または90%超の純度を有する。この接合体によって処置することができる疾患としては、多発性硬化症、慢性ウイルス感染症(B型肝炎ウイルス感染、C型肝炎ウイルス感染、およびヒトパピローマウイルス感染症など)、癌、特発性骨髄線維症、真性多血症、および本態性血小板血症が挙げられる。
【0007】
本発明の別の態様は、上記の疾患を処置するための、下記の式Iのタンパク質−ポリマー接合体の使用に関し、
【化1】

式中、R、R、R、R、およびRの各々は、独立に、H、C1〜5アルキル、C2〜5アルケニル、C2〜5アルキニル、アリール、ヘテロアリール、C3〜8シクロアルキル、またはC3〜8ヘテロシクロアルキルであり、AおよびAの各々は、独立にポリマー部分であり、G、G、およびGの各々は、独立に、結合または連結官能基であり、Pはインターフェロン−α部分であり、mは0または1〜10の整数であり、nは1〜10の整数である。
【0008】
上記の式について触れると、当該タンパク質−ポリマー接合体は以下の特徴のうちの1以上を有してもよい:Gは結合であり、Pはインターフェロン−α部分であり、このインターフェロン−α部分のN末端のアミノ基はGに結合され、AおよびAは、2〜100kD(好ましくは10〜30kD)の分子量を有するポリアルキレンオキシド部分であり、GおよびGの各々は、
【化2】

(式中、式Iに示されるように、OはAまたはAに結合され、NHは、炭素原子に結合される)であるか、またはGおよびGの各々は、尿素、スルホンアミド、もしくはアミド(これらにおいて、Nは、式Iに示されるように、炭素原子に結合される)であり、mは4であり、nは2であり、R、R、R、R、およびRの各々はHであり、Pは、1〜4つのさらなるアミノ酸残基を含有する修飾されたインターフェロン−α部分である。
【0009】
用語「アルキル」は、一価の直鎖または分枝状の炭化水素ラジカルを指す。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、tert−ブチル、およびn−ペンチルが挙げられる。同様に、用語「アルケニル」または「アルキニル」は、1以上のC=C二重結合または1以上のC≡C三重結合を含有する、一価の直鎖または分枝状の炭化水素ラジカルを指す。
【0010】
用語「アルキレン」は、二価の直鎖または分枝状の炭化水素ラジカルを指す。同様に、用語「アルケニレン」または「アルキニレン」は、1以上のC=C二重結合または1以上のC≡C三重結合を含有する、二価の直鎖または分枝状の炭化水素ラジカルを指す。
【0011】
用語「アリール」は、少なくとも1つの芳香環を有する炭化水素環系(単環式または二環式)を指す。アリール部分の例としては、フェニル、ナフチル、およびピレニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
用語「ヘテロアリール」は、環系の一部としてO、N、またはSなどの少なくとも1つのヘテロ原子を含有し、かつ残部は炭素である少なくとも1つの芳香環を有する、炭化水素環系(単環式または二環式)を指す。ヘテロアリール部分の例としては、フリル、ピロリル、チエニル、オキサゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、キナゾリニル、およびインドリルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
用語「シクロアルキル」は、炭素環原子のみを有する部分的にもしくは完全に飽和の単環式または二環式の環系を指す。例としては、シクロプロパニル、シクロペンタニル、およびシクロヘキサニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
用語「ヘテロシクロアルキル」は、炭素に加えて、1以上のヘテロ原子(例えば、O、N、もしくはS)を環原子として有する、部分的にもしくは完全に飽和の単環式または二環式の環系を指す。例としては、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン、および1,4−オキサゼパンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
本願明細書中で言及されるアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、およびヘテロシクロアルキルは、置換されたものおよび非置換のものの両方を含む。置換基の例としては、C〜C10アルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、C〜Cシクロアルキル、C〜Cシクロアルケニル、C〜C10アルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、アミノ、C〜C10アルキルアミノ、C〜C20ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヒドロキシアミノ、アルコキシアミノ、C〜C10アルキルスルホンアミド、アリールスルホンアミド、ヒドロキシ、ハロゲン、チオ、C〜C10アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、ニトロ、アシル、アシルオキシ、カルボキシル、およびカルボン酸エステルが挙げられる。
【0016】
用語「ポリアルキレンオキシド部分」は、線状、分枝状、または星型のポリアルキレンオキシドから誘導される一価のラジカルを指す。ポリアルキレンオキシド部分の分子量は、2〜100kDであってもよい。このポリアルキレンオキシド部分は、飽和または不飽和のいずれかである。ポリアルキレンオキシド部分の例としては、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリイソプロピレンオキシド、ポリブテニレンオキシド、およびこれらのコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、または炭水化物系ポリマーなどの他のポリマーも、それらが抗原性でないか、毒性でないか、または免疫応答を誘発しないかぎり、当該ポリアルキレンオキシド部分を置き換えるために使用することができる。このポリアルキレンオキシド部分は、置換または非置換のいずれかである。例えば、このポリアルキレンオキシド部分は、メトキシでキャップされたポリエチレングリコール(mPEG)であることができる。
【0017】
用語「インターフェロン−α部分」は、いずれかのインターフェロン−αから誘導される一価のラジカルを指す。「インターフェロン−α」は、ウイルス複製および細胞増殖を阻害し免疫応答を調節する、高度に相同的な、種特異的なタンパク質のファミリーを指す。Bonnemら、J.Biol.Response Mod.、1984年、第3巻、第6号、580−598頁、およびFinter、J.Hepatol、1986年、第3巻、補遺2、S157−160頁を参照。この「インターフェロン−α」は、天然に存在する形態にあってもよいし、または修飾された形態にあってもよい。修飾されたインターフェロン−αは、例えば、インターフェロン−α、およびこのインターフェロンのN末端に1〜4つのさらなるアミノ酸残基を含有するタンパク質であてもよい。このような修飾されたインターフェロンの一例は、
【化3】

であり、式中、IFNはインターフェロン−α2b部分を表し、このインターフェロン−α2b部分のN末端のアミノ基は、式中のカルボニル基に結合されている。
【0018】
多くのタイプのインターフェロン−αタンパク質が市販されており、例としては、シェリング・コーポレーション(Schering Corporation)、ニュージャージー州ケニルワース(Kenilworth)によって提供されているイントロン(Intron)−A インターフェロン、ホフマン・ラ・ロッシュ(Hoffmann−La Roche)、ニュージャージー州ナットリー(Nutley)によって提供されているロフェロン(Roferon) インターフェロン、ベーリンガー・インゲルハイム・ファーマシューティカル(Boehringer Ingelheim Pharmaceutical,Inc.)、コネチカット州リッジフィールド(Ridgefield)によって提供されているベロフォー(Berofor) α2インターフェロン、住友(Sumitomo)、日本によって提供されているスミフェロン(Sumiferon)、およびグラクソウェルカム(Glaxo−Wellcome Ltd.)、英国ロンドンによって提供されているウェルフェロン(Wellferon) インターフェロン α−n1(INS)が挙げられる。
【0019】
下に列挙するのは、前駆体形態または成熟形態のいずれかにある5つの例示的なヒトのインターフェロン−αタンパク質のアミノ酸配列である。
maltfallva llvlsckssc svgcdlpqth slgsrrtlml laqmrrislf sclkdrhdfg fpqeefgnqf qkaetipvlh emiqqifnlf stkdssaawd etlldkfyte lyqqlndlea cviqgvgvte tplmkedsil avrkyfqrit lylkekkysp cawevvraei mrsfslstnl qeslrske 配列番号:1
(Krasagakisら、Cancer Invest.、2008年、第26巻、第6号、562−568頁を参照)
cdlpqthslg srrtlmllaq mrkislfscl kdrhdfgfpq eefgnqfqka etipvlhemi qqifnlfstk dssaawdetl ldkfytelyq qlndleacvi qgvgvtetpl mkedsilavr kyfqritlyl kekkyspcaw evvraeimrs fslstnlqes lrske 配列番号:2
(Klausら、J.Mol.Biol.、1997年、第274巻、第4号、661−675頁を参照)
mcdlpqthsl gsrrtlmlla qmrrislfsc lkdrhdfgfp qeefgnqfqk aetipvlhem iqqifnlfst kdssaawdet lldkfytely qqlndleacv iqgvgvtetp lmkedsilav rkyfqritly lkekkyspca wevvraeimr sfslstnlqe slrske 配列番号:3
(GenBank受入番号 AAP20099、2003年4月30日版を参照)
mallfpllaa lvmtsyspvg slgcdlpqnh gllsrntlvl lhqmrrispf lclkdrrdfr fpqemvkgsq lqkahvmsvl hemlqqifsl fhterssaaw nmtlldqlht elhqqlqhle tcllqvvgeg esagaisspa ltlrryfqgi rvylkekkys dcawevvrme imkslflstn mqerlrskdr dlgss 配列番号:4
(Caponら、J.Mol.Cell.Biol.、1985年、第5巻、第4号、768−779頁を参照)
lsyksicslg cdlpqthslg nrralillaq mgrispfscl kdrhdfglpq eefdgnqfqk tqaisvlhem iqqtfnlfst edssaaweqs llekfstely qqlnnleacv iqevgmeetp lmnedsilav rkyfqritly ltekkyspca wevvraeimr slsfstnlqk rlrrkd 配列番号:5
(Lundら、J.Interferon Res.、1985年、第5巻、第2号、229−238頁を参照)。
【0020】
1つの例では、本発明の接合体を作製するために使用されるインターフェロン−αタンパク質は、上に列挙されたアミノ酸配列のうちの1つと、または成熟したインターフェロンαに相当するその断片と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、もしくは99%)同一のアミノ酸配列を有する。
【0021】
2つのアミノ酸配列の「%同一性」は、KarlinおよびAltschul、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1990年、第87巻、2264−68頁のアルゴリズムを使用し、KarlinおよびAltschul、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1993年、第90巻、5873−77頁にあるように変更して、決定される。このようなアルゴリズムは、Altschulら、J.Mol.Biol.、1990年、第215巻、403−10頁のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いてBLASTタンパク質検索を実施して、本発明のタンパク質分子に相同的なアミノ酸配列を得ることができる。2つの配列の間にギャップが存在する場合、Altschulら、Nucleic Acids Res.、1997年、第25巻、第17号、3389−3402頁に記載されているように、Gapped BLASTを利用することができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用するとき、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。
【0022】
用語「連結官能基」は、一方の末端が当該ポリマー部分に連結されており他端がタンパク質部分に連結されている二価の官能基を指す。例としては、−O−、−S−、カルボン酸エステル、カルボニル、カーボネート、アミド、カルバメート、尿素、スルホニル、スルフィニル、アミノ、イミノ、ヒドロキシアミノ、ホスホネート、またはホスフェート基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
上記のタンパク質−ポリマー接合体は、遊離形態に、または適宜塩の形態にあってもよい。塩は、例えば、アニオンと本発明のタンパク質−ポリマー接合体上の正に帯電した基(例えば、アミノ)との間で形成されうる。好適なアニオンとしては、塩化物アニオン、臭化物アニオン、ヨウ化物アニオン、硫酸アニオン、硝酸アニオン、リン酸アニオン、クエン酸アニオン、メタンスルホン酸アニオン、トリフルオロ酢酸アニオン、および酢酸アニオンが挙げられる。同様に、塩は、カチオンと、本発明のタンパク質−ポリマー接合体上の負に帯電した基(例えば、カルボン酸アニオン)との間でも形成されうる。好適なカチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、およびアンモニウムカチオン(テトラメチルアンモニウムイオンなど)が挙げられる。
【0024】
加えて、当該タンパク質−ポリマー接合体は、1以上の二重結合、または1以上の不斉中心を有してもよい。このような接合体は、ラセミ化合物、ラセミ混合物、単一の鏡像異性体、個々のジアステレオマー、ジアステレオマー混合物、およびcis−もしくはtrans−またはE−もしくはZ−二重結合異性体として現れる可能性がある。
【0025】
本発明のタンパク質−ポリマー接合体の一例が下に示される。
【化4】

式中、mPEGは20kDの分子量を有し、IFNはインターフェロン−α2b部分である。
【0026】
上記の障害のうちの1つを処置するための医薬の製造のための当該接合体の使用も本発明の範囲内にある。
【0027】
本発明の1以上の実施形態の詳細は、下記の説明で示される。本発明の他の特徴、目的、および利点は、下記の説明からおよび特許請求の範囲から明らかであろう。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するために使用されるタンパク質−ポリマー接合体は、化学分野で周知の合成方法、例えば、米国特許出願第12/192,485号明細書に記載される方法によって調製することができる。スキーム1は、本発明のタンパク質−ポリマー接合体を調製する一例を示す。アセタール基を含有するジアミン化合物1がN−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネートmPEG(すなわち、化合物2)と反応に供され、ジペグ(PEG)化された化合物3が形成され、この化合物3は、その後アルデヒド4へと変換される。このアルデヒド化合物は、還元的アルキル化を介する、遊離アミノ基を有するタンパク質との反応に供され、本発明のタンパク質−ポリマー接合体が得られる。
【化5】

【0029】
このように合成されたタンパク質−ポリマー接合体は、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、電気泳動、透析、限外濾過、または超遠心分離法などの方法によってさらに精製することができる。
【0030】
上記の化学反応は、溶媒、試薬、触媒、保護基および脱保護基試薬、および特定の反応条件を使用することを含む。上記の化学反応は、本願明細書に具体的に記載される工程の前または後のいずれかに、タンパク質−ポリマー接合体の合成を最終的に可能にするために、好適な保護基を付加または除去するための工程をさらに含んでもよい。加えて、所望のタンパク質−ポリマー接合体を与えるために、種々の合成工程は、別の順序または順番で実施されてもよい。適用できるタンパク質−ポリマー接合体を合成する上で有用な合成化学的変換および保護基の方法論(保護および脱保護)は当該技術分野で公知であり、例えばR.Larock、「Comprehensive Organic Transformations」、VCH Publishers(1989);T.W.GreeneおよびP.G.M.Wuts、「Protective Groups in Organic Synthesis」、第2版、John Wiley and Sons(1991);L.FieserおよびM.Fieser、「Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis」、John Wiley and Sons(1994);およびL.Paquette編、Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis、John Wiley and Sons(1995)ならびにこれらの後続版に記載されているものが挙げられる。
【0031】
本発明の接合体は、非常に高い純度を有することができる。つまり、接合体分子の60%以上(例えば、70%、80%、または90%)が、タンパク質部分の配列およびポリマー部分へのそのタンパク質部分の結合位置を含めてすべての面において同一である。
【0032】
本発明の接合体は、接合体の形態で薬学的に活性である可能性がある。あるいは、本発明の接合体は、タンパク質部分とポリマー部分との間の連結部分を酵素によって切断することにより、薬学的に活性なインターフェロン−αをインビボで(例えば、加水分解を通して)放出することができる。インビボで連結部分を切断することに関与する酵素の例としては、酸化酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、またはデヒドロゲナーゼ)、還元酵素(例えば、ケトレダクターゼ)、および加水分解酵素(例えば、プロテアーゼ、エステラーゼ、スルファターゼ、またはホスファターゼ)が挙げられる。
【0033】
本発明の接合体は、多発性硬化症、慢性ウイルス感染症(B型肝炎ウイルス感染、C型肝炎ウイルス感染、およびヒトパピローマウイルス感染症など)、癌、特発性骨髄線維症、真性多血症、および本態性血小板血症を処置するために使用することができる。本発明の接合体は、予想外に長いインビボ半減期、低下した薬物用量、および/または長期の投与期間を有する。
【0034】
本願明細書で使用する場合、用語「処置すること」または「処置」は、障害、その障害の症候、その障害の続発性の疾患もしくは障害、またはその障害に対する素因を有する対象(ヒトまたは動物)への、その障害、その障害の症候、その障害の続発性の疾患もしくは障害、またはその障害に対する素因を治癒させ、緩和し、軽減し、治療し、または寛解させる目的をもった、タンパク質−ポリマー接合体を含む組成物の施用または投与として定義される。「有効量」は、処置された対象に治療効果をもたらす、タンパク質−ポリマー接合体の量を指す。この治療効果は、客観的(すなわち、いくつかの試験またはマーカーによって測定可能)であってもよいし、または主観的(すなわち、対象が効果の徴候を与えるかまたは効果を感じる)であってもよい。
【0035】
有効量の上記のタンパク質−ポリマー接合体のうちの少なくとも1つと、薬学的に許容できる担体とを含有する医薬組成物も、本発明の範囲内にある。さらに、本発明は、有効量の当該タンパク質−ポリマー接合体のうちの1以上を、1以上の疾患を有する患者に投与する方法を含む。有効用量は、当業者が認識するとおり、例えば、タンパク質−ポリマー接合体の加水分解の速度、処置するべき疾患のタイプ、投与経路、賦形剤の使用、および他の治療的処置との同時使用の可能性に応じて、変わることになろう。
【0036】
本発明の方法を実施するために、上記の化合物のうちの1以上を有する組成物は、非経口投与、経口投与、鼻内投与、直腸投与、局所投与、または口腔内投与されてもよい。本願明細書で使用する場合の用語「非経口」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑膜内、胸骨内、髄腔内、病巣内、腹腔内、気管内または頭蓋内の注射、ならびにいずれかの好適な輸液手法を指す。
【0037】
滅菌注射用組成物は、無毒な非経口的に許容できる希釈剤または溶媒中の溶液または懸濁液、例えば1,3−ブタンジオール中の溶液であることができる。用いることができる許容できる媒質および溶媒としては、マンニトール、水、リンゲル液、および等張性塩化ナトリウム溶液が挙げられる。加えて、不揮発性油は、溶媒または懸濁媒体として従来から用いられる(例えば、合成のモノグリセリドまたはジグリセリド)。オレイン酸およびそのグリセリド誘導体など脂肪酸は、オリーブ油またはヒマシ油などの天然の薬学的に許容できる油(とりわけそれらのポリオキシエチル化体において)の場合と同様に、注射剤の調製において有用である。これらの油性の溶液または懸濁液は、長鎖アルコールの希釈剤もしくは分散剤、またはカルボキシメチルセルロースまたは類似の分散剤も含有することができる。TweenもしくはSpanなどの他の一般に使用される界面活性剤、または薬学的に許容できる固体、液体、もしくは他の剤形の製造において一般に使用される他の類似の乳化剤もしくはバイオアベイラビリティー向上剤も、製剤化の目的で使用することができる。
【0038】
経口投与のための組成物は、カプセル、錠剤、エマルション、ならびに水性の懸濁液、分散液、および溶液などのいずれの経口的に許容できる剤形であってもよい。錠剤の場合には、一般に使用される担体としては、ラクトースおよびトウモロコシデンプンが挙げられる。ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤も、典型的に添加される。カプセル剤形態での経口投与のために、有用な希釈剤としては、ラクトースおよび乾燥トウモロコシデンプンが挙げられる。水性の懸濁液またはエマルションが経口投与されるとき、有効成分は、乳化剤または懸濁剤と組み合わされて、油相に懸濁または溶解させることができる。所望に応じて、特定の甘味剤、矯味矯臭剤、または着色剤が添加されてもよい。
【0039】
鼻内エアロゾルまたは吸入組成物は、医薬製剤の技術分野で周知の手法に従って調製することができる。例えば、このような組成物は、ベンジルアルコールまたは他の好適な防腐剤、バイオアベイラビリティーを高めるための吸収促進剤、フルオロカーボン、および/または当該技術分野で公知の他の可溶化剤または分散剤を用いて、生理食塩水中の溶液として調製することができる。上記の化合物のうちの1以上を有する組成物は、直腸投与のために、座薬の形態で投与することもできる。
【0040】
薬学的に許容できる担体は、1以上の活性な上記の化合物とともに、通例的に使用される。医薬組成物におけるこの担体は、その担体が、組成物の有効成分と相溶性であり(そして、好ましくは、その有効成分を安定化することができ)かつ処置されるべき対象にとって有害でないという意味で、「許容できる」ものでなければならない。上記の化合物の送達のために、1以上の溶解補助剤を、薬学的賦形剤として利用することができる。他の担体の例としては、コロイド状の酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム、およびD&C Yellow # 10が挙げられる。
【0041】
好適なアッセイを使用して、種々の疾患を処置する上での上記の接合体の有効性を予備的に評価することができる。例えば、真性多血症および本態性血小板血症を処置する上での当該接合体の有効性は、それぞれKiladjianら、Blood、2008年、第112巻、第8号、3065−72頁およびLangerら、Haetatologica、2005年、第90巻、1333−1338頁に記載される方法に従って評価することができる。
【0042】
下記の実施例は、単に例示に過ぎないと解釈されるべきであり、いかなる意味でも本開示の他の記載を限定するものではないと解釈されるべきである。さらなる詳細な検討がなくても、本願明細書中の記載に基づいて、当業者は本発明を完全に利用することができると考えられる。本願明細書中で引用したすべての刊行物は、参照によりその全体を本願明細書に援用したものとする。
【実施例】
【0043】
ジ−PEGアルデヒドの調製
【化6】

20kD PEGO(C=O)OSuを、サンバイオ((SunBio Inc.)、米国カリフォルニア州)から購入した20kD mPEGOHから、Bioconjugate Chem.、1993年、第4巻、568−569頁に記載される方法に従って調製した。
【0044】
ジクロロメタン中の6−(1,3−ジオキソラン−2−イル)ヘキサン−1,5−ジアミンの溶液(9.03mgのジアミン、47.8μmolを含有する11.97gの溶液)を、20kD PEGO(C=O)OSu(1.72g、86.0μmol)を含有するフラスコに加えた。PEGO(C=O)OSuが完全に溶解した後、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(79μmol、478μmol)を加えた。この反応混合物を室温で24時間撹拌し、次いでメチルt−ブチルエーテル(200mL)を撹拌しながら滴下した。得られた沈殿物を集め、真空下で乾燥し、ジ−PEGアセタール(1.69g、98%)を白色固体として得た。
【0045】
H NMR(400MHz,d−DMSO) δ 7.16(t,J=5.2Hz,1H),7.06(d,J=8.8Hz,1H),4.76(t,J=4.8Hz,1H),4.10−3.95(m,4H),1.80−1.65(m,1H),1.65−1.50(m,1H),1.48−1.10(m,6H)。
【0046】
【化7】

ジ−PEGアセタール(4.0g、0.2mmol)を、pH 2.0バッファー(クエン酸、40mL)に懸濁させた。この反応混合物を35℃で24時間撹拌し、次いでジクロロメタン(3×50mL)で抽出した。合わせた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮し、次いでジクロロメタン(20mL)に再溶解させた。この溶液を、メチルt−ブチルエーテル(400mL)に撹拌しながら滴下した。得られた沈殿物を集め、減圧で乾燥し、ジ−PEGアルデヒド(3.8g、95%)を白色固体として得た。
【0047】
H NMR(400MHz,d−DMSO) δ 9.60(s,1H),7.24(d,J=8.4Hz,1H),7.16(t,J=5.2Hz,1H),4.10−3.95(m,4H),3.95−3.80(m,1H),3.00−2.85(m,2H),2.58−2.36(m,2H),1.46−1.15(m,6H)。
【0048】
修飾されたインターフェロンの調製
【化8】

修飾された組み換えヒトインターフェロン−α2bをヒドゲノムDNAを鋳型として使用するPCR方法によってクローン化した。オリゴヌクレオチドは、ヒトインターフェロン−α2b(GenBank受入番号J00207、2008年1月8日)の隣接配列(flanking sequence)に基づいて合成した。誘導されたPCR産物を、pGEM−Tベクター(プロメガ(Promega))にサブクローニングした。このIFNバリアントをpGEM−Tクローンによって再度PCR増幅し、その後、T7 RNAポリメラーゼプロモーター駆動のベクターであるタンパク質発現ベクターpET−24a(ノバジェン(Novagen))に、NdeI/BamHIをクローニング部位として使用して、サブクローニングした。次いでベクターpET−24aを、E.coli BL21−CodonPlus(DE 3)−RIL(ストラタジーン(Stratagene))株へと形質転換した。形質転換したE.coli BL21−CodonPlus(DE 3)−RILをカナマイシン(50μg/mL)およびクロラムフェニコール(50μg/mL)の存在下で維持することにより、高発現クローンを選択した。
【0049】
1000mLのフラスコの中でのPro−IFN遺伝子を有するBL21−CodonPlus(DE 3)−RILの増殖のために、テリフィック培地(Terrific broth medium)(BD、200mL)を用いた。このフラスコを37℃で、230rpmで16時間振盪した。回分発酵および半回分発酵を、5リットルのジャーファーメンター(Bioflo 3000;ニュー・ブランズウィック・サイエンティフィック(New Brunswick Scientific Co.)、ニュージャージー州エジソン(Edison))で実施した。この回分発酵では、150mLの一晩予め培養した接種物、ならびにカナマイシン(50μg/mL)、クロラムフェニコール(50μg/mL)、0.4% グリセロール、および0.5%(v/v) 微量元素(10g/LのFeSO・7HO、2.25g/LのZnSO・7HO、1g/LのCuSO・5HO、0.5g/LのMnSO・HO、0.3g/LのHBO、2g/LのCaCl・2HO、0.1g/Lの(NHMo24、0.84g/LのEDTA、50ml/LのHCl)を含む3Lのテリフィック培地を使用した。溶存酸素濃度を35%に制御し、5N NaOH水溶液を加えることによりpHを7.2に保った。600g/Lのグルコースおよび20g/LのMgSO・7HOを含有する栄養液を調製した。pHが設定値よりも高い値にまで上昇したとき、適切な量のこの栄養液を、培地中のグルコース濃度を上昇させるために加えた。Pro−IFN遺伝子の発現を、IPTGを1mMの最終濃度まで加えることにより誘導し、3時間インキュベーションした後に、培地を回収した。
【0050】
集めた細胞ペレットを、およそ1:10(湿重量g/mL)の比のTENバッファー(50mM Tris−HCl(pH 8.0)、1mM EDTA、100mM NaCl)に再懸濁させ、マイクロフルイダイザーによって微細化し、次いで10,000rpmで20分間遠心分離した。封入体(IB)を含有するペレットをTENバッファーで2回洗浄し、上記のとおりに遠心分離した。次いで、IBを含有するペレットを150mLの4MグアニジウムHCl(GuHCl)水溶液に懸濁させ、20,000rpmで15分間遠心分離した。次いでこのIBを50mLの6M GuHCl溶液に溶解させた。このGuHClで可溶化した物質を20,000rpmで20分間遠心分離した。リフォールディング(再折りたたみ)を、変性したIBを1.5Lの新しく調製したリフォールディングバッファー(100mM Tris−HCl(pH 8.0)、0.5M L−アルギニン、2mM EDTA)(これは、添加の際だけ撹拌した)で希釈することにより開始した。リフォールディング反応混合物を、48時間、撹拌せずにインキュベーションした。リフォールディングした組み換えヒトインターフェロン−α2b(すなわち、Pro−IFN)を、Q−セファロース(Sepharose)カラムクロマトグラフィーによるさらなる精製のために、20mM Trisバッファー(2mM EDTAおよび0.1M尿素を含む、pH 7.0)に対して透析した。
【0051】
リフォールディングした組み換えヒトタンパク質Pro−IFNを、Q−セファロースカラム(ジーイー・アマシャム・ファルマシア(GE Amersham Pharmacia)、ペンシルベニア州ピッツバーグ)にロードした。このカラムを予め平衡化し、20mM Tris−HClバッファー(pH 7.0)で洗浄した。生成物を、20mM Tris−HClバッファー(pH 7.0)および200mM NaClの混合物を用いて溶出した。Pro−IFNを含有する分画を、280nmでのその吸光度に基づいて集めた。Pro−IFNの濃度を、Bradford法を使用するタンパク質アッセイキット(ピアース(Pierce)、イリノイ州ロックフォード)によって測定した。
【0052】
タンパク質−ポリマー接合体の調製
【化9】

水(72mL)中の上で調製したジ−PEGアルデヒド(1.2g、0.03mmol)の溶液に、2M リン酸ナトリウムバッファー(pH 4.0、5mL)およびPro−IFN(20mM Tris−HClおよび0.2M NaClを含有するpH 7.0バッファー22.2mL中に200mg、0.01mmol)を加えた。この反応混合物を室温で10分間撹拌し、次いでシアノ水素化ホウ素ナトリウム水溶液(400mM、1.25mL、0.5mmol)を加えた。この反応混合物を暗所で16時間撹拌し、SP XL セファロースクロマトグラフィーによって精製した。所望のポリマー−タンパク質接合体を含有する分画を、保持時間および280nmでの吸光度に基づいて集めた。接合体の濃度を、Bradford法を使用するタンパク質アッセイキット(ピアース(Pierce)、イリノイ州ロックフォード)によって測定した。この接合体の単離収率は、およそ40%かまたはこれよりも高かった。
【0053】
他の実施形態
本願明細書に開示される特徴のすべては、いずれの組み合わせで組み合わされてよい。本願明細書に開示される各特徴は、同じ、等価なまたは同様の目的を果たす別の特徴によって置き換えられてもよい。従って、明示的に特段の記載がない限り、開示された各特徴は、等価なまたは類似の特徴の系列全体の一例にすぎない。
【0054】
上記の説明から、当業者は、本発明の本質的な特徴を容易に把握することができ、本発明を種々の使用法および条件に適合させるために、本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに、本発明の種々の変更および改変をなすことができる。従って、他の実施形態も以下の特許請求の範囲の中に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患を処置する方法であって、処置を必要とする対象に、少なくとも1つのポリマー部分、タンパク質部分、およびリンカーを有する実質的に純粋な接合体の有効量を投与することを含み、前記少なくとも1つのポリマー部分は前記リンカーに結合され、前記タンパク質部分のN末端の窒素原子は前記リンカーに結合され、前記リンカーは、共有結合、C1〜10アルキレン、C2〜10アルケニレン、またはC2〜10アルキニレンであり、前記タンパク質部分は、インターフェロン−α部分であり、前記疾患は特発性骨髄線維症、真性多血症、または本態性血小板血症である、方法。
【請求項2】
前記タンパク質部分は、N末端に1〜4つのさらなるアミノ酸残基を含有する修飾されたインターフェロン−α2b部分である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接合体の純度は70%以上である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記疾患は特発性骨髄線維症である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記疾患は真性多血症である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記疾患は本態性血小板血症である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
疾患を処置する方法であって、処置を必要とする対象に、式Iの接合体の有効量を投与することを含み、
【化1】

式中、
、R、R、R、およびRの各々は、独立に、H、C1〜5アルキル、C2〜5アルケニル、C2〜5アルキニル、アリール、ヘテロアリール、C3〜8シクロアルキル、またはC3〜8ヘテロシクロアルキルであり、
およびAの各々は、独立にポリマー部分であり、
、G、およびGの各々は、独立に、結合または連結官能基であり、
Pはインターフェロン−α部分であり、
mは0または1〜10の整数であり、
nは1〜10の整数であり、
前記疾患は、特発性骨髄線維症、真性多血症、または本態性血小板血症である、方法。
【請求項8】
は結合であり、Pはインターフェロン−α部分であり、前記インターフェロン−α部分のN末端のアミノ基はGに結合されている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
およびAの各々は、10〜30kDの分子量を有するmPEG部分である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
およびGの各々は、
【化2】

であり、式中、式Iに示されるように、OはAまたはAに結合され、NHは炭素原子に結合されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
Pは、N末端に1〜4つのさらなるアミノ酸残基を含有する修飾されたインターフェロン部分である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
nは2である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記接合体は、
【化3】

であり、式中、mPEGは20kDの分子量を有し、IFNはインターフェロン−α2b部分である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記疾患は特発性骨髄線維症である、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記疾患は真性多血症である、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記疾患は本態性血小板血症である、請求項7に記載の方法。

【公表番号】特表2013−513611(P2013−513611A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543282(P2012−543282)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/059714
【国際公開番号】WO2011/072138
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(508197376)ファーマエッセンティア コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】