説明

タンパク質、核酸、ベクター、宿主細胞、タンパク質の生産方法、抗体およびスクリーニング方法

【課題】アポトーシス抑制効果を持つタンパク質、該タンパク質に関する核酸、該核酸を保持するベクター、該核酸が導入された宿主細胞、該タンパク質の生産方法、該タンパク質に特異的に結合する抗体、および、該タンパク質に関する化合物のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】本発明は、新たに発見したPARP-6遺伝子の新規スプライシング変様体mRNAであるPARP-6-C(Poly-ADP-Ribose Polymerase-6-C)mRNAに関する。PARP-6-Cタンパク質は、癌細胞(少なくとも大腸癌細胞および子宮頸癌細胞を含む)において、コントロール正常細胞と比較して高発現しており、アポトーシス抑制効果を有する。また、PARP-6-Cタンパク質は、PARP-6遺伝子の他のスプライシング変様体mRNAに係るアイソフォームであるPARP-6-B1タンパク質の機能を阻害する活性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PARP-6遺伝子の新規スプライシング変様体mRNAであるPARP-6-C(Poly-ADP-Ribose Polymerase-6-C)mRNAに関するタンパク質、PARP-6-C mRNAに関する核酸、該核酸を保持するベクター、該核酸が導入された宿主細胞、該タンパク質の生産方法、該タンパク質に特異的に結合する抗体、および、該タンパク質に関する化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PARP(Poly ADP-Ribose Polymerase)酵素群は、現在までに17種類が知られている。このうち、PARP-1〜PARP-5a,PARP-5bは、標的分子に対してpoly-ADP-riboseを付加する活性を有する。一方、PARP-6〜PARP-16は、標的分子に対してmono-ADP-riboseを付加する活性を有することが知られている。
【0003】
これらのPARP酵素群は、NAD(Nicotinamide Adenine Dinucleotide)を用い、標的分子に対してADPリボシル化を行う(非特許文献1,2および3参照)。ADPリボシル化は、標的分子を制御するための、タンパク質や核酸の修飾様式である。例えば、転写、DNA修復またはバクテリア毒素性の発揮等を含む様々な細胞増殖や細胞死の生物学的局面に、ADPリボシル化は関連していることが知られている(非特許文献4および5参照)。
【0004】
例えば、PARP-1タンパク質は、前述したようなDNA修復等において役割を果たし、また、アポトーシスの過程においてカスパーゼにより切断され不活性化されることも知られている。そのため、PARP-1タンパク質切断部位に特異的な抗体は、アポトーシス細胞の検出に用いられる。PARP-2〜PARP-5a,PARP-5bについても、PARP-1と同じくpoly-ADP-ribose修飾を行うため、PARP-1と同様の生理活性や機能を有することが考えられる。
【0005】
しかし、PARP-6〜PARP-16が行うmono-ADP-ribose修飾の生理活性については、PARP-1〜PARP-5a,PARP-5bが行うpoly-ADP-ribose修飾ほどに多くはわかっていない。また、PARP-6〜PARP-16の実際の機能についても不明な点が多い(非特許文献6参照)。PARP-6については、データベースから3種類のPARP-6遺伝子の転写産物に係るアイソフォームが存在することが判明している。しかし、PARP-6の転写産物およびタンパク質の詳細な同定、また、その機能解析等は未だ行われていない。
【0006】
一方、アポトーシスとは、予めプログラムされた細胞死のことである。アポトーシスの過程では、細胞では核の凝縮が起こり、核中の遺伝子DNAが分解酵素で分解・断片化され、細胞表面の原形質膜の破壊が起こり、細胞質も細分化されて、細胞は死滅する。癌細胞は、このようなアポトーシス機構に異常が生じることによって増殖を繰り返す。癌治療に使用される放射線および化学物質は、癌細胞にアポトーシスを誘発するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ame, J. C., Spenlehauer, C., and de Murcia, G.「The PARP superfamily.」Bioessays 26 (2004), 882-893.
【非特許文献2】Belenky, P., Bogan, K. L., and Brenner, C.「NAD+ metabolism in health and disease.」Trends Biochem Sci 32(2007), 12-19.
【非特許文献3】Ziegler, M.「New functions of a long-known molecule. Emerging roles of NAD in cellular signaling.」Eur J Biochem 267(2000), 1550-1564.
【非特許文献4】Berger, F., Ramirez-Hernandez, M. H., and Ziegler, M.「The new life of a centenarian: signalling functions of NAD(P).」Trends Biochem Sci 29(2004), 111-118.
【非特許文献5】Corda, D., and Di Girolamo, M.「Functional aspects of protein mono-ADP-ribosylation.」Embo J 22(2003), 1953-1958.
【非特許文献6】Kleine, H., Poreba, E., Lesniewicz, K., Hassa, P. O., Hottiger, M. O., Litchfield, D. W., Shilton, B. H., and Luscher, B.「Substrate-assisted catalysis by PARP10 limits its activity to mono-ADP-ribosylation.」Mol Cell 32(2008), 57-69.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、癌治療に使用される放射線および化学物質は、癌細胞にアポトーシスを誘発するものである。しかし、放射線療法は、癌細胞を殺すと同時に非癌性組織にも損傷を与えるおそれがある。また、抗癌剤等の化学物質は不利な副作用が随伴する。
【0009】
そこで、癌細胞においてアポトーシスを抑制している生物学的要因を特定することが望まれる。癌細胞においてアポトーシスを抑制しているタンパク質を同定することができれば、癌の治療法、治療薬または抗癌剤副作用の軽減等に利用することができる。すなわち、このようなタンパク質の阻害化合物を得ることによって癌治療薬として利用でき、または、このようなタンパク質のアポトーシス抑制機能を直接利用することによって放射線治療または抗癌剤治療の副作用軽減を図ることができる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アポトーシス抑制効果を持つタンパク質、該タンパク質に関する核酸、該核酸を保持するベクター、該核酸が導入された宿主細胞、該タンパク質の生産方法、該タンパク質に特異的に結合する抗体、および、該タンパク質に関する化合物のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点に係るタンパク質は、以下の(a)、(b)、(c)および(d)からなる群より選択される、単離されたタンパク質であることを特徴とする。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じているアミノ酸配列、または、前記アミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、アポトーシス抑制効果を有することを特徴とするタンパク質。
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じているアミノ酸配列、または、前記アミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、癌細胞において、コントロール正常細胞と比較して高発現していることを特徴とするタンパク質。
(d)配列番号1に記載のアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じているアミノ酸配列、または、前記アミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、PARP-6-B1タンパク質の機能を阻害する活性を有することを特徴とするタンパク質。
【0012】
好ましくは、該タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じているアミノ酸配列、または、前記アミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、大腸癌細胞または子宮頸癌細胞において、コントロール正常細胞と比較して高発現していることを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の観点に係る核酸は、前記タンパク質のいずれかをコードすることを特徴とする。
【0014】
好ましくは、配列番号3に記載の塩基配列、または、前記塩基配列に相補的な塩基配列を有することを特徴とする。
【0015】
または、前記核酸のいずれかの相補鎖と、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズすることを特徴とする。
【0016】
本発明の第3の観点に係る核酸は、配列番号3に記載の塩基配列、または、前記塩基配列に相補的な塩基配列の一部を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の第4の観点に係るベクターは、前記タンパク質をコードする核酸、または、前記核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸を、保持することを特徴とする。
【0018】
本発明の第5の観点に係る宿主細胞は、前記タンパク質をコードする核酸、または、前記核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸が、外来的に導入されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の第6の観点に係るタンパク質の生産方法は、前記宿主細胞を、前記核酸がコードするタンパク質が産生される条件下で培養するステップと、
産生された前記タンパク質を回収するステップとを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の第7の観点に係る抗体は、前記タンパク質に特異的に結合することを特徴とする。
【0021】
本発明の第8の観点に係るスクリーニング方法は、前記タンパク質によるアポトーシス抑制効果を、阻害または増強する化合物のスクリーニング方法であって、
前記タンパク質によるアポトーシス抑制効果を阻害または増強する前記化合物の能力の有無、および/または、その前記化合物の能力の程度を調べるステップを含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の第9の観点に係るスクリーニング方法は、前記タンパク質の発現量、または、前記核酸の存在量が関する疾患に対して有効な化合物のスクリーニング方法であって、
前記タンパク質とその標的分子との結合を阻害する前記化合物の能力の有無、および/または、その前記化合物の能力の程度を調べるステップを含むことを特徴とする。
【0023】
好ましくは、前記ステップは、前記タンパク質によるアポトーシス抑制効果を阻害する前記化合物の能力の有無、および/または、その前記化合物の能力の程度を調べることによって、前記タンパク質とその標的分子との結合を阻害する前記化合物の能力の有無、および/または、その前記化合物の能力の程度を調べることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明のタンパク質、核酸、ベクター、宿主細胞、タンパク質の生産方法、抗体またはスクリーニング方法によれば、アポトーシスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ヒト全染色体におけるPARP-6の遺伝子構造を示す模式図である。
【図2】各PARP-6スプライシング変様体mRNAにおけるコード領域および非翻訳領域を示す図である。
【図3】PARP-6-B1タンパク質およびPARP-6-Cタンパク質のドメイン構造を示す図である。
【図4】実施例2に係るRT-PCR産物のアガロースゲル電気泳動の結果を示す図である。
【図5】実施例3に係るウエスタン・ブロットの結果を示す図である。
【図6】実施例4に係るアポトーシス誘発処理後におけるアポトーシス細胞数の割合を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、ヒト全染色体におけるPARP-6の遺伝子構造の模式図である。上段の図は、ヒト全染色体の遺伝子構造を模式的に示す。中段の図は、ヒト15番染色体を模式的に示す。下段の図は、PARP-6の遺伝子構造およびORF(Open Reading Frame)を模式的に示す。図1に示すように、PARP-6は、ヒト15番染色体のq23付近にマップされており、23個のエクソンからなる構造遺伝子である。後述する実施例で詳細に示すが、本発明者は、大腸癌細胞株SW480の全RNAのRT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)の実験によって、既知のPARP-6-C mRNAとともに、PARP-6にデータベースに存在しない種類の新規転写産物PARP-6-C mRNAが発現していることを発見した。そこで、本発明者は、PARP-6-Cの生体における機能および役割を明らかにすることを目指して研究を進めた。また、PARP-6-Cの研究分野および医療分野における応用の可能性について模索した。
【0027】
図2は、各PARP-6スプライシング変様体mRNAにおけるコード領域および非翻訳領域を示す。PARP-6-A mRNA、PARP-6-B1 mRNAおよびPARP-6-B2 mRNAは、既にデータベース上に公開されているPARP-6遺伝子のスプライシング変様体mRNAである。PARP-6-C mRNAは、本発明者が新たに発見したPARP-6遺伝子の新規スプライシング変様体mRNAである。図2は、これらのPARP-6 mRNAが翻訳される際、前述した23のエクソンのどの部分が翻訳され、各PARP-6アイソフォームのタンパク質が形成されるかを示している。すなわち、各スプライシング変様体mRNAにおける、各エクソンのコード領域(Coding region)および非翻訳領域(Untranslated region)を示している。各スプライシング変様態mRNAの翻訳産物である、PARP-6-Aタンパク質は630アミノ酸残基からなり、PARP-6-B1タンパク質は518アミノ酸残基からなり、PARP-6-B2タンパク質は519アミノ酸残基からなり、PARP-6-Cタンパク質は440アミノ酸残基からなる。なお、後述する実施例で詳細に示すが、癌細胞で機能しているPAPRP-6は、PARP-6-B1およびPARP-6-Cのみであると考えられるので、以降では、これらについてのみ説明する。PARP-6-Cタンパク質のアミノ酸配列(440残基)を配列番号1に、PARP-6-B1タンパク質のアミノ酸配列(518残基)を配列番号2に、PARP-6-C cDNAの塩基配列(1323残基)を配列番号3に、PARP-6-B1 cDNAの塩基配列(1557残基)を配列番号4に示す。
【0028】
図3は、PARP-6-B1タンパク質およびPARP-6-Cタンパク質のドメイン構造を示す。本発明者は、PARP-6-B1タンパク質(配列番号2)およびPARP-6-Cタンパク質(配列番号1)のアミノ酸配列より、タンパク質のドメイン構造検索をデータベースで行った。その結果、図3に示すように、PARP-6-B1タンパク質にはPARPの酵素活性部位が存在するが、PARP-6-Cタンパク質には存在しないことがわかった。これは、変様スプライシング(alternative splicing)によるものである。すなわち、スプライシングの変化の結果、読み枠がずれ、PARP-6-Cタンパク質には、PARP-6-B1タンパク質に見られるC末端領域のPARP酵素活性部位が存在しない。このため、PARP酵素活性部位を持つPARP-6-B1タンパク質の機能を、該活性部位を持たないPARP-6-Cタンパク質が阻害することが示唆される。すなわち、PARP-6-Cタンパク質はPARP-6B1タンパク質のドミナントネガティブ型である。
【0029】
さらに鋭意研究を行った結果、PARP-6-C mRNAは、大腸癌細胞およびHeLa細胞(子宮頸癌細胞)において、コントロール正常細胞に比べ高発現していることがわかった。本発明者は、PARP-6-Cタンパク質がこれらの癌細胞において高発現していることによって、アポトーシスが阻害されているのではないかと考えた。そこで、PARP-6-B1タンパク質およびPARP-6-Cタンパク質を強制発現させ観察したところ、PARP-6-Cタンパク質を強制発現させた細胞では、やはりアポトーシスが抑制されているという実験結果が得られた。一方、PARP-6-B1タンパク質を強制発現させた細胞ではアポトーシスが誘導されているという実験結果が得られた。さらに、種種のアポトーシス誘導条件下において、PARP-6-Cタンパク質強制発現細胞のアポトーシス抑制効果を観察したところ、いずれにおいてもアポトーシスが抑制されているのが観察された。
【0030】
これらの知見を総合的に考慮した結果、PARP-6-Cタンパク質はPARP-6-B1タンパク質の機能を阻害する効果を有し、アポトーシスを抑制する効果を有すると考えられる。これらの効果は、癌の治療法または治療薬の開発、抗癌剤副作用の軽減、もしくは、日焼けまたは放射線被曝からの防護等にも利用することができる。また、大腸癌細胞およびHeLa細胞においてコントロール正常細胞に比べPARP-6-C mRNAが高発現していることを考慮すると、癌細胞(少なくとも大腸癌細胞および子宮頸癌細胞を含む)のアポトーシス抑制にPARP-6-Cの発現が関連していることが示唆される。そして、このPARP-6-Cの発現量等を判断することにより、癌細胞の進行判断に利用できることも考えられる。
【0031】
以下、本発明の実施の形態に係るPARP-6-Cに関するタンパク質、PARP-6-Cに関する核酸、該核酸を保持するベクター、該核酸が導入された宿主細胞、該タンパク質の生産方法、該タンパク質に特異的に結合する抗体、および、該タンパク質の阻害化合物のスクリーニング方法について詳細に説明する。
【0032】
(タンパク質)
本発明の実施の形態1は、本発明に係るPARP-6-Cが関与するタンパク質に関する。本発明の実施の形態1に係るタンパク質の一の態様は、配列番号1に記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む単離されたタンパク質である。または、配列番号1に記載のアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じているアミノ酸配列を含み、アポトーシス抑制効果を有する単離されたタンパク質である。または、配列番号1に記載のアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、アポトーシス抑制効果を有する単離されたタンパク質である。
【0033】
以下、本明細書において、上記「配列番号1に記載のアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じているアミノ酸配列」および「配列番号1に記載のアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列」は、「配列番号1に記載のアミノ酸配列と一部において相違する配列」と交換可能に使用される。すなわち、本実施の形態1に係るタンパク質の一つの態様は、新たに同定されたPARP-6-Cタンパク質のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有する単離されたタンパク質、または、該配列と一部において相違するアミノ酸配列を含みアポトーシス抑制効果を有する単離されたタンパク質である。
【0034】
本実施の形態1に係るタンパク質は、該タンパク質が天然に由来する場合には、細胞、組織または体液等のそれが存在する天然材料から標準的な手法を用いて分離、調製することができる。また、組換えDNA技術を用いて生産してもよい。さらに、化学合成によって生産してもよい。また、数多くのペプチド合成装置が市販されているため、それらの中から適当なものを選択して用い、該タンパク質を得てもよい。
【0035】
本実施の形態1に係るタンパク質は、「単離されたタンパク質」である。「単離されたタンパク質」とは、該タンパク質が天然材料に由来する場合、該天然材料の中で該タンパク質以外の成分を実質的に含まない(特に夾雑タンパク質を実質的に含まない)状態をいう。具体的には、例えば、夾雑タンパク質の含有量は重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、さらに好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。
【0036】
一方、本実施の形態1に係るタンパク質が組換えDNA技術によって生産されたものである場合、「単離されたタンパク質」とは、使用された宿主細胞に由来する他の成分や培養液等を実質的に含まない状態をいう。具体的には、例えば、夾雑成分の含有量は重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、さらに好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。
【0037】
また、本実施の形態1に係るタンパク質が化学合成によって生産されたものである場合、「単離されたタンパク質」とは、前駆体(原材料)や合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まない状態をいう。具体的には、例えば、前駆体の含有量は重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、さらに好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。なお、本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。
【0038】
本実施の形態1に係るタンパク質において、「アミノ酸配列に1または数個のアミノ酸の欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じているアミノ酸配列」において、アミノ酸配列の相違は、アポトーシス抑制効果を保持する限り許容される。この条件を満たす限り、アミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。このようなタンパク質を、以下、相同タンパク質という。
【0039】
相同タンパク質の相違の程度は、例えば、全アミノ酸の約30%未満であり、好ましくは約20%未満であり、さらに好ましくは約10%未満であり、より一層好ましくは約5%未満であり、最も好ましくは約1%未満である。すなわち、相同タンパク質には、配列番号1に記載のアミノ酸配列と、例えば70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつアポトーシス抑制効果を有するタンパク質も含まれる。アミノ酸配列同一性は、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、より一層好ましくは約95%以上、最も好ましくは約99%以上である。
【0040】
好ましくは、保存的アミノ酸置換を、非必須アミノ酸(アポトーシス抑制効果に関与しないアミノ酸残基)に生じさせることによって相同タンパク質を得る。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸を同様の性質の側鎖を有するアミノ酸に置換することをいう。アミノ酸はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニンまたはヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパルギン酸またはグルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシンまたはシステイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリンまたはイソロイシン)、もしくは、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファンまたはヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は、好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸間の置換である。
【0041】
2つのアミノ酸配列の同一性(%)は、例えば以下の手順で決定することができる。なお、後述する実施の形態2に係る核酸の配列の同一性(%)についても同様の方法で決定することができる。まず、最適な比較ができるよう、二つのアミノ酸配列または塩基配列を並べる。例えば、第一の配列にギャップを導入して第二の配列とのアライメントを最適化してもよい。第一の配列の特定位置の分子(アミノ酸またはヌクレオチド)が、第二の配列における対応する位置の分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。二つの配列の同一性は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、同一性(%)=同一位置の数/位置の総数 ×100)、好ましくは、アライメントの最適化に要したギャップの数およびサイズも考慮に入れる。
【0042】
二つの配列の比較および同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、KarlinおよびAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、KarlinおよびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。
【0043】
後述する実施の形態2に係る核酸に相同的な塩基配列を得るには、例えば、NBLASTプログラムでscore =100、wordlength =12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。本実施の形態1に係るタンパク質に相同的なアミノ酸配列を得るには、例えば、XBLASTプログラムでscore=50、wordlength =3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくはhttp://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。
【0044】
配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、MyersおよびMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えば、GENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は、例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。
【0045】
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12,10,8,6または4、ギャップ長加重=2,3または4として決定することができる。また、二つの塩基配列の相同度を、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)のGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。
【0046】
本明細書において「含む」(または「有する」)という用語は、「からなる」すなわち「から構成される」という意味も含む。そこで、本実施の形態1に係るタンパク質において、「アミノ酸配列を含む」とは、「アミノ酸配列からなる」という意味も含む。すなわち、本実施の形態1に係るタンパク質には、配列番号1に記載のアミノ酸配列(一部において相違する配列も含む)からなるタンパク質と、配列番号1に記載のアミノ酸配列(一部において相違する配列も含む)を含むタンパク質とが含まれる。本実施の形態1に係るタンパク質が、該アミノ酸配列を含むタンパク質の場合、該アミノ酸配列からなるタンパク質と他の分子とが結合して形成される融合タンパク質である場合が含まれる。
【0047】
ここでの他の分子は、例えば、ポリペプチド(シグナルペプチドを含む)または標識物質(例えばGST)である。このような他の分子を結合させることによって、本実施の形態1に係るタンパク質の機能の増強または補助、他の機能の付与、組換え生産する場合の発現または分泌の促進(シグナルペプチドの場合)、もしくは、精製の容易化等を行うことができる。
【0048】
該融合タンパク質は、標準的な組換えDNA技術によって調製することができる。例えば、まず、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA断片と、他の分子をコードするDNA断片とをそれぞれ調製する。その後、これらをインフレームで連結する。このようにして得られた融合タンパク質をコードするDNAを、適当な細胞内で発現させる。その後、標準的な生化学的手法等を用いて分離・精製する。
【0049】
本実施の形態1に係るタンパク質の一つの態様においては、アポトーシス抑制効果を有する。これにより、癌の治療法、治療薬または抗癌剤副作用の軽減等に利用することが可能である。また、前述したように、PARP-6-Cタンパク質はPARP-6-B1タンパク質の機能を阻害する活性も有する。そこで、本実施の形態1に係るタンパク質の他の一つの態様においては、配列番号1に記載のアミノ酸配列と一部において相違するアミノ酸配列を含み、PARP-6-B1タンパク質の機能を阻害する活性を有する単離されたタンパク質である。PARP-6-B1タンパク質のアポトーシス誘導効果、およびそれを阻害するPARP-6-Cタンパク質の機能を用い、癌の治療法、治療薬または抗癌剤副作用の軽減等に利用することができる。
【0050】
また、前述したように、PARP-6-C mRNAは大腸癌細胞および子宮頸癌細胞においてコントロール正常細胞と比較して高発現している。その結果、PARP-6-Cタンパク質は、大腸癌細胞および子宮頸癌細胞においてコントロール正常細胞と比較して高発現することになる。すなわち、他の癌細胞においてもPARP-6-Cタンパク質がコントロール正常細胞と比較して高発現していることが示唆される。そこで、本実施の形態1に係るタンパク質の他の一つの態様においては、配列番号1に記載のアミノ酸配列と一部において相違するアミノ酸配列を含み、癌細胞において正常細胞と比較して高発現している単離されたタンパク質である。また、好ましくは、該タンパク質は、大腸癌細胞または子宮頸癌細胞において、正常細胞と比較して高発現している。PARP-6-C(タンパク質およびmRNA)の発現量等を判断することにより、癌細胞の進行判断に利用できることも示唆される。癌細胞の進行判断についての詳細は、実施の形態8に係る悪性度判定方法において述べる。
【0051】
なお、本明細書において、「癌細胞」には、大腸癌細胞、子宮頸癌細胞、食道癌細胞、肝臓癌細胞、膵臓癌細胞、腎臓癌細胞、膀胱癌細胞、尿管癌細胞、子宮頚部癌細胞、皮膚癌細胞、乳腺癌細胞等すべての種類の癌を含む。「癌」という用語についても同様である。また、本明細書において「癌」は広義に解釈することとし、癌腫および肉腫を含む。また、用語「癌」は「腫瘍」と交換可能に使用される。
【0052】
本実施の形態1に係るタンパク質(PARP-6-Cタンパク質)、または、その一部は、後述する実施の形態6に係る該タンパク質に対する抗体(抗PARP-6-C抗体)を得るための抗原としても使用することができる。なお、本明細書において用語「実施の形態1に係るタンパク質」は「PARP-6-Cタンパク質」と交換可能に使用される。
【0053】
(核酸)
本発明の実施の形態2は、本発明に係るPARP-6-Cが関与する核酸に関する。本実施の形態2に係る核酸の一の態様においては、該核酸は実施の形態1に係るタンパク質をコードする単離された核酸である。好ましくは、該核酸は、配列番号3に記載の塩基配列、または、前記塩基配列に相補的な塩基配列を有する。配列番号3の塩基配列からなる核酸は、大腸癌細胞株SW480の完全長cDNAライブラリーからPARP-6-C mRNAに係るcDNAとしてクローニングされた全長cDNAである。
【0054】
本実施の形態2に係る「核酸」は、DNA(cDNAを含む)、RNA(mRNAを含む)、DNA類似体、および、RNA類似体を含む。本実施の形態2に係る核酸の形態は限定されず、1本鎖または2本鎖のいずれであってもよい。好ましくは2本鎖DNAである。1本鎖の場合は、センス鎖となるコードDNA等でもよく、アンチセンス鎖となる非コード鎖でもよい。
【0055】
本実施の形態2に係る核酸は、「単離された核酸」である。なお、特に言及しない限り、本明細書において単に「核酸」と記載した場合には単離された状態の核酸を意味する。本実施の形態2に係る核酸は、本明細書または添付の配列表が開示する配列情報を参考にして、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法または生化学的手法等を用いることによって、単離された状態に調製することができる。
【0056】
「単離された核酸」とは、元々天然に存在している核酸(例えばヒト生体内のmRNA)の場合、天然状態において共存するその他の核酸から分離された状態の核酸をいう。しかし、「単離された核酸」においては、天然状態において隣接する塩基配列等の一部の他の核酸成分を含んでいてもよい。
【0057】
一方、cDNA分子等の遺伝子組み換え技術によって生産される核酸の場合の「単離された核酸」とは、好ましくは、細胞成分や培養液等を実質的に含まない状態の核酸をいう。同様に、化学合成によって生産される核酸の場合の「単離された核酸」とは、好ましくは、dNTP等の前駆体(原材料)または合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まない状態の核酸をいう。
【0058】
例えば、配列番号3の塩基配列を有する核酸を「単離された核酸」とする場合には、該塩基配列またはその相補配列の、全体もしくは一部をプローブとしたハイブリダイゼーション法を利用して単離することができる。また、該塩基配列の一部に特異的にハイブリダイズするようにデザインされた合成オリゴヌクレオチドプライマーを用い、核酸増幅反応(例えばPCR)により増幅および単離することができる。なお、オリゴヌクレオチドプライマーは、市販の自動化DNA合成装置等を用いて容易に合成することができる。
【0059】
本実施の形態2に係る核酸において、「実施の形態1に係るタンパク質をコードする核酸」とは、その発現産物として実施の形態1に係るタンパク質が得られる限り、任意の塩基配列を有していて構わない。すなわち、PARP-6-Cタンパク質のアミノ酸配列に対応する塩基配列を有する核酸は勿論のこと、そのような核酸にアミノ酸配列をコードしない配列が付加されてなる核酸(例えば1または複数個のイントロンを含むDNA)をも含む。また、コドンの縮重も考慮される。
【0060】
さらに、「実施の形態1に係るタンパク質をコードする核酸」には、配列番号3の塩基配列または配列番号3の塩基配列に相補的な塩基配列と比較した場合に、それがコードするタンパク質の機能は同等であるものの一部において塩基配列が相違する核酸も含まれる。以下、このような核酸を相同核酸という。相同核酸の例としては、配列番号3の塩基配列または該塩基配列に相補的な塩基配列を基準として、1もしくは複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を含む塩基配列からなる核酸が挙げられる。この場合、アポトーシス抑制効果を有するタンパク質、癌細胞においてコントロール正常細胞と比較して高発現しているタンパク質、または、PARP-6-B1の機能を阻害する活性を有するタンパク質を、該核酸はコードする必要がある。なお、この場合、用語「核酸」はそれぞれの効果・特徴・活性に合わせ、通常当業者が解釈する種類・形態の核酸(例えば、DNAまたはRNA等)として解釈することができる。例えば、実施の形態1において、癌細胞においてコントロール正常細胞と比較して高発現しているタンパク質をコードする「核酸」とは、mRNA等と解釈することができる。
【0061】
塩基の置換や欠失等は、複数の部位に生じていてもよい。ここでの複数の部位とは、該核酸がコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸の位置または種類によっても異なるが、例えば2〜40塩基、好ましくは2〜20塩基、より好ましくは2〜10塩基である。このような相同核酸は、例えば部位特異的変異法を用いて得ることができる。すなわち、配列番号3の塩基配列または該塩基配列に相補的な塩基配列を有する核酸における特定の部位に、塩基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を含む遺伝子工学的改変を行うことによって得ることができる。また、紫外線照射等の他の方法によっても相同核酸を得ることができる。相同核酸の他の例として、SNPに代表される多型に起因して、このような塩基の相違が認められる核酸を挙げることもできる。
【0062】
相同核酸は、配列番号3の塩基配列または配列番号3の塩基配列に相補的な塩基配列と、例えば約60%以上、約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、より一層好ましくは約95%以上、最も好ましくは約99%以上の同一性を有する。なお、相同核酸の同一性の決定方法については、実施の形態1に記載したとおりである。
【0063】
本実施の形態2に係る核酸の他の一つの態様は、実施の形態1に係るタンパク質をコードする核酸の相補鎖と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする単離された核酸である。前述した相同核酸には、本態様における核酸も含まれる。なお、好ましくは、該核酸は、配列番号3の塩基配列または配列番号3の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。
【0064】
ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって、例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。
【0065】
ストリンジェントな条件として、例えば、まず、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアルデヒド、10×SSC(0.15M NaCl、15mM sodium citrate、pH7.0)、5×Denhardt溶液、1%SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて、約42℃〜約50℃でインキュベーションする。その後、0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃〜約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。さらに好ましいストリンジェントな条件としては、例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアルデヒド、5×SSC(0.15M NaCl、15mM sodium citrate、pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5)を用いる条件を挙げることができる。
【0066】
なお、本実施の形態2に係る核酸は、後述する実施の形態3に係るベクター(特に発現ベクター)および実施の形態4に係る宿主細胞とともに、PARP-6-Cの発現実験または癌の治療法および治療薬の開発に利用することができる。さらに、PARP-6-Cを同定するためのプローブとしても利用することができる。
【0067】
本実施の形態2に係る核酸の他の一つの態様は、配列番号3の塩基配列、または、該塩基配列に相補的な塩基配列の一部(核酸断片)を有する。このような核酸断片は、配列番号3の塩基配列を有する核酸等、PARP-6-Cタンパク質をコードする核酸を検出、同定、または増幅すること等に用いることができる。該核酸断片は、例えば、配列番号3の塩基配列において連続するヌクレオチド部分(例えば約10〜約100塩基長、好ましくは約20〜約100塩基長、更に好ましくは約30〜約100塩基長)にハイブリダイズする部分を少なくとも含むように設計する。プローブとして利用する場合には、核酸断片を標識化することができる。標識化には例えば、蛍光物質、酵素、放射性同位元素を用いることができる。
【0068】
(ベクター)
本発明の実施の形態3は、実施の形態2の核酸を保持するベクターに関する。特に、実施の形態1のタンパク質をコードする核酸(相同核酸も含む)を、保持するベクターに関する。なお、本実施の形態3に係るベクターが保持する「核酸」においては、実施の形態2において述べた全ての形態・種類の「核酸」を指すわけではない。すなわち、本実施の形態3に係る「核酸」は、通常当業者が例えばトランスフェクション等の技術に利用する際にベクターに保持させる「核酸」の形態・種類を言う。例えば、本実施の形態3に係る「核酸」には、mRNAは含まれない。また、以下、本明細書において用いられる用語「核酸」についても同様であり、該用語が用いられる場面を考慮し、通常当業者が解釈する「核酸」の各形態・種類を示す。
【0069】
本明細書において用語「ベクター」は、それに挿入された核酸を細胞等のターゲット内へと輸送することができる核酸性分子をいい、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクターまたはウイルスベクター(アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターまたはヘルペスウイルスベクター等)を含む。
【0070】
クローニングやタンパク質の発現等の使用目的に応じて、また宿主細胞の種類を考慮して、適当なベクターを選択する。例えば、大腸菌を宿主とするベクター(M13ファージまたはその改変体、λファージまたはその改変体、もしくは、pBR322またはその改変体(pB325、pAT153またはpUC8等)等)、酵母を宿主とするベクター(pYepSecl、pMFaまたはpYES2等)、昆虫細胞を宿主とするベクター(pAcまたはpVL等)、または、哺乳類細胞を宿主とするベクター(pCDM8またはpMT2PC等)を用いることができる。
【0071】
好ましくは、本実施の形態3に係るベクターは発現ベクターである。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を、目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、かつ該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。発現ベクターは、通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列、または、発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。選択マーカーを含む発現ベクターを用いた場合には、選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(およびその程度)を確認することができる。
【0072】
実施の形態2に係る核酸のベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入、または、プロモーターの挿入等は、標準的な組換えDNA技術を用いて行うことができる(Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York参照)。例えば、制限酵素およびDNAリガーゼを用いた周知の方法で行うことができる。宿主細胞としては、ヒト、サル、マウスまたはラット等の哺乳類細胞(COS細胞またはCHO細胞等)、大腸菌等の細菌細胞、酵母細胞、もしくは、昆虫細胞等を挙げることができる。
【0073】
本実施の形態3に係るベクター(特に発現ベクター)は、細胞、臓器または腫瘍部位に導入することによって、当該細胞や当該組織を構築することができる。すなわち、遺伝子治療に利用できることが示唆される。さらに、PARP-6-Cの発現を抑制するRNAi、siRNAまたはshRNAを設計し、これらの発現ベクターを細胞、臓器または腫瘍部位に導入することもできる。その結果、細胞、臓器または組織が構築され、遺伝子治療に利用できる。
【0074】
(宿主細胞)
本発明の実施の形態4は、実施の形態2の核酸の核酸が外来的に導入された宿主細胞(すなわち形質転換体)に関する。特に、実施の形態1のタンパク質をコードする塩基配列を有する核酸(相同核酸も含む)が外来的に導入された宿主細胞に関する。なお、本実施の形態4に係る「宿主細胞」とは、該核酸が導入された細胞のみならず臓器や腫瘍部位も含む概念である。
【0075】
本実施の形態4の宿主細胞(形質転換体)は、好ましくは、実施の形態3に係るベクターを用いたトランスフェクションまたはトランスフォーメーションによって得られる。すなわち、「外来的に導入された」とは、これらの方法によって核酸が導入されることを意味する。トランスフェクション等は、リン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポーレーション(Potter,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81(1984), 7161-7165)、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84(1984),7413-7417)、または、マイクロインジェクション(Graessmann,M. & Graessmann,A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73(1976),366-370)等によって実施することができる。
【0076】
本実施の形態4に係る宿主細胞は、後述する実施の形態5に係るタンパク質の生産方法に利用することができる。さらに、特定の細胞内においてPARP-6-Cを発現させた場合の挙動を調べる目的、または、特定の細胞内でPARP-6-Cを発現させることによって当該細胞の状態を変化させる目的で、宿主細胞を得ることもできる。例えば、実施の形態3で述べたように、遺伝子治療を行う目的で宿主細胞を得ることもできる。また、トランスジェニック動物(ヒトを含まない)を作製する目的で宿主細胞を得ることもできる。すなわち、本実施の形態4に係る宿主細胞を、非ヒトトランスジェニック動物の作製に利用することも可能である。
【0077】
例えば、宿主細胞として、PARP-6-Cをコードする核酸を導入した受精卵母細胞または胚性幹細胞を作製し、これからトランスジェニック動物を発生させることができる。このように作製された非ヒトトランスジェニック動物は、PARP-6-Cの生体内での機能の研究に利用することができる。トランスジェニック動物は、受精卵の前核に直接DNAの注入を行うマイクロインジェクション法、レトロウイルスベクターを利用する方法、または、ES細胞を利用する方法等を用いて作製することができる。以下、トランスジェニック動物の作製方法の一例としてマイクロインジェクション法を利用した方法を説明する。
【0078】
マイクロインジェクション法では、まず、交尾が確認された雌マウスの卵管より受精卵を採取し培養する。その後、その前核にDNAコンストラクト(PARP-6-Cタンパク質をコードするDNAを含む)の注入を行う。使用するDNAコンストラクトには、導入遺伝子を効率的に発現させるため、プロモーター配列が含まれていることが好ましい。このようなプロモーターとしては、例えば、チキンβ-アクチンプロモータ、プリオンタンパク質プロモーター、ヒトARプロモーター、ニューロフィラメントL鎖プロモーター、L7プロモーターまたはサイトメガロウイルスプロモーター等を用いることができる。
【0079】
注入操作を終了した受精卵を、偽妊娠マウスの卵管に移植する。移植後のマウスを所定期間飼育して、仔マウス(F0)を得る。仔マウスの染色体に導入遺伝子が適切に組込まれていることを確認するため、仔マウスの尾等からDNAを抽出し、導入遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCR法または導入遺伝子に特異的なプローブを用いたドットハイブリダイゼーション法等を行う。
【0080】
本明細書における「トランスジェニック動物」の種は特に限定されないが、好ましくは哺乳類であって、より好ましくはマウスまたはラット等の齧歯類である。
【0081】
(タンパク質の生産方法)
本発明の実施の形態5は、実施の形態1に係るタンパク質の生産方法に関する。本実施の形態5は、実施の形態4に係る宿主細胞(形質転換体)を、外来的に導入された核酸がコードするタンパク質が産生される条件下で培養するステップと、産生されたタンパク質を回収するステップと、を含む。すなわち、本実施の形態5に係るタンパク質の生産方法は、宿主細胞をPARP-6-Cタンパク質が産生される条件下において培養するステップと、PARP-6-Cタンパク質を回収するステップとを含む。
【0082】
「タンパク質が産生される条件下」とは、当該分野において公知である標準的な培養条件を意味し、該核酸が導入された宿主細胞の種類に適している条件が好ましい。なお、タンパク質の回収とは、標準的な生化学的手法において、培養された細胞または培養液から該タンパク質を分離・精製することをいう。すなわち、実施の形態1で述べた、タンパク質が「単離された」状態と同様である。
【0083】
本実施の形態5に係るタンパク質の生産方法の詳細については、実施の形態1に係るタンパク質、実施の形態2に係る核酸、実施の形態3に係るベクターおよび実施の形態4に係る宿主細胞に記載されている事項を参照されたい。なお、該タンパク質の分離・精製については後述する実施の形態6に係る抗体(抗PARP-6-C抗体)を利用することもでき、培養液からのタンパク質の精製についても実施の形態6に係る抗体を精製する場合と同様である。
【0084】
(抗体)
本発明の実施の形態6は、実施の形態1に係るタンパク質に特異的に結合する抗体(抗PARP-6-C抗体)に関する。ここでの用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、CDRグラフト抗体、ヒト化抗体またはこれらの断片(ただし、PARP-6-Cタンパク質に対する特異的結合能を有するもの)等を含む。本実施の形態6に係る抗体は、免疫学的手法、ファージディスプレイ法またはリボソームディスプレイ法等を利用して調製することができる。
【0085】
免疫学的手法によるポリクローナル抗体の調製は、以下の手順で行うことができる。抗原を調製し、これを用いてマウス、ラット、ウサギまたはヤギ等の動物に免疫を施す。抗原としては、PARP-6-Cタンパク質(相同タンパク質も含む)またはその一部を使用することができる。低分子量のために有効な免疫惹起作用を期待できない場合には、キャリアタンパク質を結合させた抗原を用いることが好ましい。例えば、キャリアタンパク質としては、KLM(Keyhole Light Hemocyanin)、BSA(Bovine Serum Albumin)またはOVA(Ovalbumin)等を使用することができる。また、キャリアタンパク質の結合には、カルボジイミド法、グルタルアルデヒド法、ジアゾ縮合法またはMBS(マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド)法等を使用できる。
【0086】
必要に応じて免疫を繰り返し、充分に抗体価が上昇した時点で採血し、遠心処理等によって血清を得る。その後、得られた抗血清をアフィニティー精製する。このようにしてポリクローナル抗体を得ることができる。
【0087】
前述したように、PARP-6-Aタンパク質、PARP-6-B1タンパク質、PARP-6-B2タンパク質およびPARP-6-Cタンパク質の群において、PARP-6-Cタンパク質は変様スプライシングの結果読み枠がずれ、C末端領域のアミノ酸配列が他のPARP-6タンパク質と異なっている。そこで、ポリクローナル抗体を調整する場合、好ましくは、PARP-6-Cタンパク質のC末端にある特徴的な部分とキャリアタンパク質を結合させた抗原を使用する。これにより、PARP-6-Cタンパク質のみに特異的に結合する抗体(抗PARP-6-C抗体)を調整することができる。
【0088】
一方、モノクローナル抗体については、以下の手順で調製することができる。まず、上記と同様の手順で免疫操作を実施する。必要に応じて免疫を繰り返し、充分に抗体価が上昇した時点で免疫動物から抗体産生細胞を摘出する。次に、得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合してハイブリドーマを得る。続いて、このハイブリドーマをモノクローナル化した後、目的タンパク質に対して高い特異性を有する抗体を産生するクローンを選択する。選択されたクローンの培養液を精製することによって目的の抗体が得られる。
【0089】
なお、好ましくは、クローンを選択する際、PARP-6-Cタンパク質に特異性を示すクローンのうち、PARP-6-Aタンパク質、PARP-6-B1タンパク質およびPARP-6-B2タンパク質に特異性を示さないクローンを選択する。これにより、PARP-6-Cタンパク質のみに特異的に結合する抗体(抗PARP-6-C抗体)を得ることができる。
【0090】
一方、ハイブリドーマを所望数以上に増殖させた後、これを動物(例えばマウス)の腹腔内に移植し、腹水内で増殖させて腹水を精製することにより目的の抗体を取得することもできる。上記培養液の精製または腹水の精製には、プロテインGまたはプロテインA等を用いたアフィニティークロマトグラフィーが好適に用いられる。また、抗原を固相化したアフィニティークロマトグラフィーを用いることもできる。また、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、硫安分画または遠心分離等の方法を用いることもできる。これらの方法は、単独ないし任意に組み合わされて用いられる。
【0091】
なお、抗体の作製方法に関しては、Kohler and Milstein, Nature 256 (1975):495-497;Brown et al., J. Immunol. 127 (1981):539-546; Brown et al., J. Biol. Chem. 255 (1980):4980-4983; Yeh et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76 (1976):2927-2931; Yeh et al., Int. J. Cancer 29 (1982):269-275; Kozbor et al., Immunol. Today 4 (1983):72; Kenneth, R.H. in Monoclonal Antibodies: A New Dimension In Biological Analyses, Plenum Publishing Corp., New York, New York (1980); Lerner, E.A., Yale J. Biol. Med. 54 (1981):387-402; Gefter, M.L. et al., Somatic Cell Genet. 3 (1977):231-236等を参照することができる。
【0092】
ファージディスプレイ法に関しては、例えば、Huse et al., Science 246 (1989):1275-1281; McCafferty et al., Nature 348 (1990):552-554; Fuchs et al., Bio/Technology 9 (1991):1370-1372; Barbas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88 (1991):7978-7982; Hoogenboom et al., Nucleic Acids Res. 19 (1991):4133-4137; Gram et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992):3576-3580; Hay et al., Hum. Antibod. Hybridomas 3 (1992):81-85; Griffiths et al., EMBO J 12 (1993):725-734; PCT国際公開第 WO 90/02809号; PCT国際公開第 WO 92/20791号; PCT国際公開第 WO 92/15679号; PCT国際公開第 WO 92/09690号等を参照することができる。また、ファージディスプレイライブラリー作製およびスクリーニング用のキットが市販されており、それらを好適に利用することもできる。
【0093】
実施の形態1に係るタンパク質への特異的結合能を保持することを条件として、得られた抗体に種々の改変を施すことができる。本実施の形態6に係る抗体(抗PARP-6-C抗体)には、このような抗体も含まれる。ここでの改変抗体には、キメラ抗体およびヒト化抗体が含まれる。
【0094】
本実施の形態6に係る抗体(抗PARP-6-C抗体)は、例えば実施の形態1に係るタンパク質(PARP-6-Cタンパク質)の検出、該タンパク質の分離・精製等に用いられ、実施の形態5に係る該タンパク質の生産方法にも用いられる。標識化した抗体を用いることにより、該タンパク質の検出を容易に実施することが可能である。抗体の標識化には、例えば、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッドまたはオレゴングリーン等の蛍光色素、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼまたはβ-D-ガラクトシダーゼ等の酵素、ルミノールまたはアクリジン色素等の化学または生物発光化合物、32P、131Iまたは125I等の放射性同位体、もしくは、ビオチン等を用いることができる。
【0095】
本実施の形態6に係る抗体(抗PARP-6-C抗体)は、PARP-6-Cが関与する疾患に対する薬剤開発としても利用され得る。「PARP-6-Cに関する疾患」の詳細については、実施の形態7に係るスクリーニング方法において述べる。前述したように、PARP-6-Cの発現は癌(少なくとも大腸癌および子宮頸癌)に関連していることが示唆される。そこで、例えば、PARP-6-Cによるアポトーシス阻害効果を抑制し、これによって、癌(少なくとも大腸癌および子宮頸癌)等の疾患の治療効果を奏することが可能と考えられる。また、癌以外でもアポトーシスおよびPARP-6-Cが関与する疾患に対しても治療効果を奏することが示唆される。
【0096】
特に、前述したように抗癌剤や放射線による癌細胞へのアポトーシス誘導は、PARP-6-Cによって効果が阻害されていることが示唆される。そこで、該抗体を利用することによってPARP-6-Cのアポトーシス抑制効果を阻害し、抗癌剤や放射線に対する感受性を高めることで、高い治療効果が期待できる。なお、本明細書において用語「疾患」は、疾病、病気、または病態等の、正常でない状態を表す言葉と交換可能に用いられる。
【0097】
(スクリーニング方法)
本発明に係る実施の形態7は、実施の形態1に係るタンパク質(PARP-6-Cタンパク質)の機能を阻害または増強する化合物をスクリーニングする方法に関する。
【0098】
本実施の形態7に係るスクリーニング方法の一つの態様においては、実施の形態1に係るタンパク質によるアポトーシス抑制効果を、阻害または増強する化合物のスクリーニング方法であって、該タンパク質によるアポトーシス抑制効果を阻害または増強する該化合物の能力の有無、および/または、その該化合物の能力の程度を調べるステップを含む。この際、好ましくは、実施の形態1に係るタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する。
【0099】
該スクリーニング方法においては、例えば、化合物(被験化合物)の存在下、実施の形態1に係るタンパク質(PARP-6-Cタンパク質)のアポトーシス誘導条件下でアポトーシス細胞数を計測する。その後、計測したアポトーシス細胞数を、被験化合物の非存在下で上記と同様にアポトーシス誘導させた場合のアポトーシス細胞数と比較する。その結果、前者のアポトーシス細胞数の方が多いようであれば、PARP-6-C関連タンパク質と基質との結合を阻害する能力を被験化合物はアポトーシス抑制効果を阻害すると判定することができる。一方、後者のアポトーシス細胞数の方が多いようであれば、被験化合物はアポトーシス抑制効果を増強すると判定することができる。
【0100】
本実施の形態7に係るスクリーニング方法の他の一つの態様においては、実施の形態1に係るタンパク質の発現量、または、該タンパク質をコードする核酸の存在量が関する疾患に対して有効な化合物のスクリーニング方法であって、実施の形態1に係るタンパク質とその標的分子との結合を阻害する該化合物の能力の有無、および/または、その該化合物の能力の程度を調べるステップを含む。
【0101】
「実施の形態1に係るタンパク質の発現量、または、該タンパク質をコードする核酸の存在量が関する疾患」(以下、「PARP-6-Cに関する疾患」)とは、PARP-6-C(またはその相同体)の異常な発現に起因する疾患のことをいう。より具体的には、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質(相同タンパク質も含む)の発現量の異常、または配列番号3の塩基配列を有するcDNAに係るmRNA(相同核酸も含む)の存在量の異常によって特徴づけられる疾患をいう。ここでの「異常」とは、存在量が正常な状態の範囲を超えて増加または減少した状態をいう。正常な状態の存在量とは、コントロール正常細胞が示すタンパク質の発現量および核酸の存在量をいう。例えば、実施例2に示すような、コントロール細胞であるヒト正常線維芽細胞NHDFにおける発現量を正常な状態といい、一方、大腸癌細胞SW480における発現量を異常な状態という。本発明者により、少なくとも大腸癌細胞および子宮頸癌細胞においてはPARP-6-Cがコントロール正常細胞と比較して高発現していることが発見されたため、大腸癌および子宮頸癌は、「PARP-6-Cに関する疾患」に含まれる。
【0102】
また、PARP-6-Cに関する疾患に対して「有効な化合物」とは、異常な状態である、実施の形態1に係るタンパク質の発現量または該タンパク質をコードする核酸の存在量を、正常な状態の範囲に戻すことができる化合物のことをいう。例えば、該タンパク質の発現量および該核酸の存在量を、増加または減少させることができる化合物をいう。
【0103】
本態様のスクリーニング方法においては、被験化合物が、実施の形態1に係るタンパク質(PARP-6-Cタンパク質)とその基質との結合を阻害する能力を有するか否か(阻害能の有無)、および/または、阻害能の程度を調べるステップを実施する。このステップの結果、被験化合物に阻害能の存在が認められれば、当該化合物をPARP-6-Cに関する疾患の有効な薬剤候補として選択することができる。特に、高い阻害能が認められれば当該化合物は有力な薬剤候補と考えられる。
【0104】
例えば、上述したステップを以下の手順で実施することができる。まず、被験化合物の存在下、実施の形態1に係るタンパク質(PARP-6-Cタンパク質)と基質とを接触させる。その後、PARP-6-Cタンパク質と基質との結合量を、被験化合物の非存在下で上記と同様にPARP-6-Cタンパク質を接触させた場合の結合量と比較する。その結果、後者の結合量の方が多いようであれば、PARP-6-Cタンパク質と基質との結合を阻害する能力を被験化合物が有すると判定することができる。
【0105】
なお、この際、実施の形態1に係るタンパク質(PARP-6-Cタンパク質)と基質との結合の阻害能ではなく、他のPARP-6関連タンパク質(PARP-6-A、PARP-6-B1またはPARP-6-B2)と基質との結合の阻害能によって判定してもよい。
【0106】
また、本態様に係るスクリーニング方法においては、好ましくは、該ステップは、実施の形態1に係るタンパク質によるアポトーシス抑制効果を阻害する化合物の能力の有無、および/または、その該化合物の能力の程度を調べることによって、該タンパク質とその標的分子との結合を阻害する該化合物の能力の有無、および/または、その該化合物の能力の程度を調べる。すなわち、PARP-6-Cタンパク質とその基質との結合を阻害する化合物は、PARP-6-Cタンパク質の機能であるアポトーシス抑制効果を阻害することが示唆されるため、該タンパク質のアポトーシス抑制効果の阻害能によって被験化合物を判定することができる。アポトーシス抑制効果の阻害能の判定方法については前述したとおりである。
【0107】
本実施の形態7に係るスクリーニング方法における被験化合物としては、様々な分子サイズの有機化合物(核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質または複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリドまたはセレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペンまたはステロイド等))、もしくは、無機化合物を用いることができる。被験化合物は、天然物由来であっても合成によるものであってもよい。後者の場合には、例えば、コンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。なお、細胞抽出液または培養上清等を被験化合物として用いてもよい。
【0108】
このようにスクリーニングされた被験化合物にアポトーシス抑制効果の阻害能または増強能、もしくは、その標的分子との結合の阻害能が認められれば、当該化合物をPARP-6-Cに関する疾患の有効な薬剤候補として選択することができる。
【0109】
すなわち、PARP-6-Cの発現や活性を被験化合物で阻害することにより、抗癌治療効果を高めることができる。これは、PARP-6-Cタンパク質がアポトーシスを抑制し、放射線や抗癌剤からの致死作用を回避するためである。また、PARP-6-Cの発現や活性を被験化合物で増強することにより、抗癌剤副作用の軽減、日焼けまたは放射線被曝からの防護に利用することができる。
【0110】
(悪性度判定方法)
本発明に係る実施の形態8は、PARP-6-Cに関する疾患についての細胞の悪性度を判定する方法(以下、悪性度判定方法)に関する。本実施の形態8に係る悪性度判定方法の一の態様では、生体から分離された被験細胞内におけるPARP-6-Cタンパク質(相同タンパク質も含む)の量を検出するステップを含む。他の一つの態様では、生体から分離された被験細胞内におけるPARP-6-Cタンパク質をコードする核酸の量を検出するステップを含む。
【0111】
前述したとおり、癌細胞(少なくとも大腸癌細胞および子宮頸癌細胞を含む)においてはPARP-6-Cが高発現しているために、癌(少なくとも大腸癌および子宮頸癌)にはPARP-6-Cの発現が関連していることが考えられ、癌の進行とともにPARP-6-Cの発現が高くなることも示唆される。そこで、このPARP-6-Cタンパク質の発現量等を判断することにより、癌細胞の有無の判断および癌細胞の進行判断に利用できることが考えられる。
【0112】
ここで本明細書において「細胞の悪性度」とは、細胞の癌化の程度(癌の進行程度)をいう。悪性度が高い細胞を癌細胞と呼ぶことができ、逆に、悪性度が極めて低い細胞を正常細胞と呼ぶことができる。すなわち、本実施の形態8に係る「悪性度判定方法」には、癌細胞の進行具合の判定のみでなく、癌細胞であるか否かの判定という意味も含まれる。また、「被験細胞」とは、本実施の形態8に係る悪性度判定方法において悪性度を判定する対象の細胞である。被験細胞は生体より分離される。すなわち、生体より分離された状態の被験細胞に対して、本実施の形態8に係る悪性度判定方法が適用される。
【0113】
「生体より分離された」とは、被験細胞が存在する生体組織の一部を摘出することによって、被験細胞がその由来の生体と完全に隔離されている状態をいう。被験細胞は通常、生体で存在していた状態、すなわち周囲の細胞と結合した状態で調製され、本実施の形態8に係る悪性度判定方法に使用される。なお、被験細胞を周囲の細胞から分離(単離)した後に、本実施の形態8に係る悪性度判定方法に使用してもよい。被験細胞は、例えば、被疑癌組織から採取することができる。具体的には、被疑癌組織の一部をバイオプシーで採取し、被験細胞を含む試料としてそれを本実施の形態8に係る悪性度判定方法に供することができる。
【0114】
「PARP-6-Cタンパク質の量を検出する」とは、PARP-6-Cタンパク質の存在量を絶対量または相対量として把握することをいう。ここでの相対量の基準は、例えば、用意した標準試料(正常細胞も含む)のPARP-6-Cタンパク質の量とすることができる。なお、「PARP-6-Cタンパク質の量を検出する」は、PARP-6-Cタンパク質が存在するか否かを調べることも含む。通常は、PARP-6-Cタンパク質の存否と、存在する場合にはその量が調べられることになる。厳密にPARP-6-Cタンパク質を定量することは必須でない。例えば、悪性度の指標となる対照のPARP-6-Cタンパク質の量と比較することによって被験細胞の悪性度を判定することが可能な程度にPARP-6-Cタンパク質の量を測定できればよい。なお、用語「PARP-6-Cタンパク質をコードする核酸の量を検出する」についても、上記と同様に解釈するものとする。
【0115】
本実施の形態8に係る悪性度判定方法では、上記のステップによって得られたPARP-6-Cタンパク質の検出量、または、PARP-6-Cタンパク質をコードする核酸の検出量に基づいて被験細胞の悪性度を判定する。具体的には、例えば、検出量が多い場合に被験細胞の悪性度が高い(具体的には例えば癌細胞である)と判定できる。検出量に対応させて悪性度を予め区分しておき、前記ステップによって得られた検出量がどの区分に入るかを調べてもよい。このようにすれば、被験細胞の悪性度を統一的なランクによって表すことが可能となる。
【0116】
上記ステップにおける「PARP-6-Cタンパク質の量の検出」は、これに限定されるものではないが、好ましくは免疫学的染色法を利用して行う。免疫学的染色法によれば、迅速に、かつ感度よくPARP-6-Cタンパク質の量を検出できる。また、操作も簡便である。従って、PARP-6-Cタンパク質の量の検出に伴う被検者(患者)への負担も小さくなる。
【0117】
免疫学的染色法では抗PARP-6-C抗体が使用され、該抗体の結合性(結合量)を指標としてPARP-6-Cタンパク質の量を検出する。具体的には、被験細胞に抗PARP-6-C抗体を接触させるステップを実施した後、抗PARP-6-C抗体の結合量を測定する。そして測定結果から被験細胞内のPARP-6-Cタンパク質の検出量を算出する。具体的には、以下に示す免疫学的染色法に従って本実施の形態8に係る方法を実施することができる。
【0118】
生体組織の免疫学的染色は、一般に以下の手順(1)〜(10)で実施する。なお、生体組織の免疫学的染色法については様々な文献および成書を参照することができる(例えば、Sternberger LA, Hardy PH, Cuculis JJ, et al., The unlabeled antibody enzyme method of immunochemistry. Preparation and properties of soluble antigen-antibody complex (horseradish peroxidase anti horseradish peroxidase) and its use in identification of spirochates. J Histochem Cytochem 18 (1970):315-333; Nakane PK and Kawaoi A, Peroxidasde-labeled antibodies. A new method of conjugation. J Histochem Cytochem 22 (1974):1084-1091; Guesdon JL, Ternynck T, Avrameas S, The use of avidin-biotin inreraction in immunoenzymatic techniques. J Histochem Cytochem 27 (1979): 1131-1139; 堤 寛、免疫組織化学?生検診断 臨床検査31(増刊)(1987):1330-1342; 渡辺慶一、中根一穂編 酵素抗体法,学際企画 (1992))。
【0119】
(1)固定・パラフィン包埋
外科的に生体より採取した組織を、ホルマリン、パラフォルムアルデヒドまたは無水エチルアルコール等によって固定する。その後、パラフィン包埋する。一般にアルコールで脱水した後キシレンで処理し、最後にパラフィンで包埋する。パラフィンで包埋された標本を所望の厚さ(例えば3〜5μm厚)に薄切し、スライドガラス上に伸展させる。なお、パラフィン包埋標本に代えて、アルコール固定標本、乾燥封入した標本または凍結標本等を用いる場合もある。
【0120】
(2)脱パラフィン
一般にキシレン、アルコールおよび精製水で順に処理する。
【0121】
(3)前処理(抗原賦活)
必要に応じて抗原賦活のために、加熱処理および/または加圧処理等を行う。
【0122】
(4)内因性ペルオキシダーゼ除去
染色の際の標識物質としてペルオキシダーゼを使用する場合、過酸化水素水で処理し、内因性ペルオキシダーゼ活性を除去しておく。
【0123】
(5)非特異的反応阻害
切片をウシ血清アルブミン溶液(例えば1%溶液)で数分から数十分程度処理し、非特異的反応を阻害する。なお、ウシ血清アルブミンを含有させた抗体溶液を使用して次の一次抗体反応を行うこととし、この工程を省略してもよい。
【0124】
(6)一次抗体反応
適当な濃度に希釈した抗体をスライドガラス上の切片に滴下し、その後数十分〜数時間反応させる。反応終了後、リン酸緩衝液等適当な緩衝液で洗浄する。
【0125】
(7)標識試薬の添加
標識物質としてペルオキシダーゼを頻用する。ペルオキシダーゼを結合させた2次抗体をスライドガラス上の切片に滴下し、その後数十分〜数時間反応させる。反応終了後、リン酸緩衝液等適当な緩衝液で洗浄する。
【0126】
(8)発色反応
トリス緩衝液に、DAB(3,3'-diaminobenzidine)を溶解する。続いて、過酸化水素水を添加する。このようにして調製した発色用溶液を、数分間(例えば5分間)切片に浸透させ、発色させる。発色後、切片を水道水で充分に洗浄し、DABを除去する。
【0127】
(9)核染色
マイヤーのヘマトキシリンを、数秒〜数十秒反応させて核染色を行う。流水で洗浄し色出しする(通常、数分間)。
【0128】
(10)脱水、透徹、封入
アルコールで脱水した後、キシレンで透徹処理し、最後に合成樹脂やグリセリン、ゴムシロップ等で封入する。
【0129】
免疫学的染色法に使用する抗PARP-6-C抗体は、実施の形態6に係る抗体である。すなわち、PARP-6-Cタンパク質に対する特異的結合性を有する限り、その種類や由来等は特に限定されない。抗PARP-6-C抗体はポリクローナル抗体、オリゴクローナル抗体(数種〜数十種の抗体の混合物)、または、モノクローナル抗体のいずれでもよい。ポリクローナル抗体またはオリゴクローナル抗体としては、動物免疫して得た抗血清由来のIgG画分のほか、抗原によるアフィニティー精製抗体を使用できる。抗PARP-6-C抗体が、Fab、Fab'、F(ab')2、scFvまたはdsFv抗体等の抗体断片であってもよい。
【0130】
抗PARP-6-C抗体として標識化抗体を使用すれば、標識量を指標に結合抗体量を直接検出することが可能である。従って、より簡易な方法となる。その反面、標識物質を結合させた抗PARP-6-C抗体を用意する必要があることに加えて、検出感度が一般に低くなるという問題点がある。そこで、標識物質を結合させた二次抗体を利用する方法または二次抗体と標識物質を結合させたポリマーを利用する方法等、間接的検出方法を利用することが好ましい。
【0131】
ここでの二次抗体とは、抗PARP-6-C抗体に特異的結合性を有する抗体である。例えばウサギ抗体として抗PARP-6-C抗体を調製した場合には、抗ウサギ抗体を使用する。ウサギ、ヤギまたはマウス等様々な種の抗体に対して使用可能な標識二次抗体が市販されており(例えばフナコシ株式会社やコスモ・バイオ株式会社等)、本実施の形態8で使用する抗PARP-6-C抗体に応じて適切なものを適宜選択して使用することができる。
【0132】
一方、PARP-6-Cタンパク質をコードする核酸の量を指標として被験細胞の悪性度を判定する場合には、PARP-6-Cタンパク質をコードする核酸に対してハイブリダイズする核酸(即ち、配列番号3の塩基配列、または配列番号3の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を有する核酸(実施の形態2に係る核酸を参照))を利用することができる。
【0133】
本実施の形態8に係る悪性度判定法に使用するプローブ、プライマーには、検出方法に応じて適宜DNA断片またはRNA断片が用いられる。プローブ、プライマーの塩基長はそれぞれが機能を発揮する長さであればよい。例えば、選択性や検出感度および再現性を考慮すればプライマーの塩基長としては、10bp以上、好ましくは15bp以上、具体的には10〜30bp程度、好ましくは15〜25bp程度である。なお、プライマーの場合には増幅対象に特異的にハイブリダイズし、目的の核酸フラグメントを増幅することができる限り、鋳型となる配列と多少のミスマッチがあってもよい。ミスマッチの程度としては、例えば、1〜数個、好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個である。プローブの場合も同様に、検出に影響がない範囲で検出対象の配列に対して多少のミスマッチがあってもよい。
【0134】
なお、特定の核酸の量を測定する方法は当該分野で公知であって、例えば、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、in situハイブリダイゼーション法またはRT-PCR法等を用いることができる。
【0135】
(悪性度判定用試薬および悪性度判定用キット)
本発明に係る実施の形態9の一の態様は、PARP-6-Cに関する疾患についての細胞の悪性度を判定することができる試薬(以下、悪性度判定用試薬)に関する。また、本実施の形態9に係る他の一つの態様は、PARP-6-Cに関する疾患についての細胞の悪性度を判定することができる悪性度判定用キット(以下、悪性度判定用キット)に関する。悪性度判定用キットは、悪性度判定用試薬を含む。悪性度判定用試薬および悪性度判定用キットは、前述した実施の形態8に係る悪性度判定方法を利用するものである。
【0136】
悪性度判定用試薬および悪性度判定用キットの一の態様では、生体から分離された被験細胞内におけるPARP-6-Cタンパク質(相同タンパク質も含む)の量を検出できる試薬を含む。この場合には、PARP-6-Cタンパク質に特異的結合性を有する試薬を使用する。好ましくは、該試薬は抗PARP-6-C抗体であるが、これに限られるものではない。抗PARP-6-C抗体の結合量を直接検出する場合には、標識された抗PARP-6-C抗体が用いられる。一方、間接的に検出する場合には、未標識の抗PARP-6-C抗体が用いられる。この場合には標識物質で標識化された二次抗体(標識二次抗体)を該試薬に含んでもよい。二次抗体と標識物質とを結合させたポリマーを利用した検出方法の場合には、当該ポリマーを含んでもよい。
【0137】
また、悪性度判定用キットは、悪性度判定用試薬以外にも、抗原抗体反応または染色等の免疫染色を実施する上で必要な一以上の試薬(例えば、組織固定・包埋用のホルマリンまたはパラフィン、非特異的結合を阻害するためのBSAまたはDAB等の発色試薬、もしくは、核染色用のヘマトキシリン溶液等)や器具等をさらに含んでもよい。
【0138】
悪性度判定用試薬および悪性度判定用キットの他の一つの態様では、生体から分離された被験細胞内におけるPARP-6-Cタンパク質をコードする核酸の量を検出できる試薬を含む。好ましくは、PARP-6-Cタンパク質をコードする核酸に対してハイブリダイズする核酸を含む。
【0139】
すなわち、該核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸(プローブおよび/またはプライマー)が用いられる。この場合には、ハイブリダイゼーションの実施に必要な一以上の試薬(例えば緩衝液またはpH調製用試薬等)、または、器具等を更に含んでもよい。なお、悪性度判定用キットは、好ましくはさらに使用説明書も含む。
【0140】
以下、実施例(実験例を含む)を用いて本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0141】
(実施例1)
以下、PARP-6遺伝子の新規スプライシング変様体mRNAであるPARP-6-C mRNAおよびPARP-6-Cタンパク質の同定に係る実施例について説明する。
【0142】
本発明者は、PARP-6の転写産物を同定するために、PARP-6のRT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)の実験を行った。まず、PARP-6コーディング領域の全長cDNAの翻訳部分を挟むプライマー(Forward側:5’-CACCATGGACATCAAAGGCCAGTTC-3’(配列番号5)、Reverse側:5’-TCATCCTGTTGTATCTCTGGACCA-3’(配列番号6))を合成した(図1の下段の図参照)。次に、該プライマーを用いて、ヒト大腸癌細胞株SW480の全RNAを用いたRT-PCRを行った。
【0143】
PCRの条件は、プライマーとテンプレートにKOD-plusポリメラーゼ、KOD-buffer(共にTOYOBO社)、dNTPs、MgCl2を加え、98℃で1分反応させた後、98℃で30秒、68℃で2分30秒を35サイクル繰り返し、最後に74℃で10分とした。PCR終了後の産物を1%アガロースゲルで電気泳動した後、バンド部分のゲルを切り出し、QIAEXII(QIAGEN社)を用いてDNAの精製をおこなった。
【0144】
検出されたバンドは3種類の長さのものがあり、それらの全てのバンドを切り出して精製した。単離したcDNAの塩基配列をシークエンスにより決定後、cDNA配列をデータベースで検索し、既知遺伝子か否かについて調べた。その結果、3種類のうち、2種類は同一のタンパク質をコードするcDNA配列であり、最終的に2種類の異なった翻訳領域を持つ、長さの異なるcDNAが単離された。これらのうち、長い方の分子(以下、PARP-6 (longer))は、配列番号4に示す1557残基の塩基配列からなり、データベースに存在した。一方、もう一つの短い方の分子(以下、PARP-6 (shorter))は、配列番号3に示す1323残基の塩基配列からなり、データベースには存在しなかった。
【0145】
なお、データベースには、PARP-6 mRNAのcDNA配列は3種類存在している。前述したとおり、これらは図2に示すような翻訳領域をもち、本発明者は、各PARP-6遺伝子スプライシング変様体を、PARP-6-A、PARP-6-B1およびPARP-6-B2と命名した。前述したように、PARP-6-Aタンパク質は630アミノ酸残基からなり、PARP-6-B1タンパク質は518アミノ酸残基からなり、PARP-6-B2タンパク質は519アミノ酸残基からなる。PARP-6 (longer)をアミノ酸に翻訳すると、配列番号2のアミノ酸配列からなり、これらのうちのPARP-6-B1タンパク質に該当した。データベースに存在しないPARP-6 (shorter)をアミノ酸に翻訳すると、配列番号1のアミノ酸配列からなり、本発明者はPARP-6-C(タンパク質)と命名した。なお、本発明者が行ったヒト大腸癌細胞株SW480での実験では、PARP-6-A cDNAおよびPARP-6-B2 cDNAは検出されなかった。
【0146】
次に、PARP-6-B1タンパク質およびPARP-6-Cタンパク質のアミノ酸配列から、データベースでタンパク質のドメイン構造検索をおこなった。図3に示すように、PARP-6-B1タンパク質にはPARPの酵素活性部位が存在するが、PARP-6-Cタンパク質には存在しないことがわかった。これは、前述したように、変様スプライシング(alternative splicing)によるものである。
【0147】
上記の結果から、ヒト大腸癌細胞株SW480においては、PARP-6-B1 mRNAおよびPARP-6-C mRNAが発現していること、および、PARP-6-Cタンパク質がPARPの酵素活性部位を持たないため、PARP-6-B1タンパク質の機能を阻害することが示唆された。
【0148】
(実施例2)
以下、癌細胞におけるPARP-6-B1 mRNAおよびPARP-6-C mRNAの発現に係る実施例について説明する。
【0149】
本発明者は、癌細胞における各種PARP-6遺伝子スプライシング変様体mRNA(PARP-6-A mRNA、PARP-6-B1 mRNA、PARP-6-B2 mRNAおよびPARP-6-C mRNA)の発現量を解析するため、種種の癌細胞株におけるRT-PCRの実験を行った。まず、実施例1において単離したcDNAに対応するRT-PCR用プライマーを作成した。該プライマーは、図1および図2に示す、エクソン13〜14をまたぐ場所からエクソン20までの領域を増幅するよう設計した(Forward側:5’-GGCCTTTAACCCTAAGAAGAAGAATTATGAGCGGC-3’(配列番号7)、Reverse側:5’-TCCTGTTGTATCTCTGGACCAGCTCATCCTTGGAG-3’(配列番号8))。
【0150】
癌細胞株には、大腸癌(Colorectal cancer)細胞株(SW480,HCT116,SW620,SW48,DLD-1,HT29,LoVo,SW837)、口腔癌(Oral cancer)細胞株(HSC-2,HSC-3,HSC-4,Ca9-22,HO-1-u-1,HO-1-N-1)およびHeLa細胞を用いた。また、コントロールとしてヒト正常線維芽細胞NHDFを用いた。これらの細胞から抽出したトータルRNA(RNaesy,Quiagen社)、および、前述したプライマーを用いて、RT-PCRをRT-PCR Quick Master Mix(TOYOBO社)で行った。その後、PCR終了後の産物を1%アガロースゲルで電気泳動をおこなった。なお、RT-PCRの条件は、実施例1と同様である。
【0151】
図4は、実施例2に係るRT-PCR産物のアガロースゲル電気泳動の結果を示す。なお、G3PDHは、発現量の比較となるハウスキーピング遺伝子である。図4に示すように、大腸癌細胞の全ての株において、PARP-6-C mRNAはヒト正常線維芽細胞NHDFと比較して高く発現していた。また、HeLa細胞においても同様にPARP-6-C mRNAは高く発現していた。一方、口腔癌細胞株ではこのようなPARP-6-C mRNAの高発現は観察されなかった。
【0152】
なお、前述したプライマーを用いてRT-PCRを行った場合、図2に示すように、PARP-6-B1 mRNAおよびPARP-6-B2 mRNAによって検出されるRT-PCR産物(PARP-6-B1 cDNAおよびPARP-6-B2 cDNA)の長さは3塩基のみしか変わらない。すなわち、PARP-6-B2 mRNAは、PARP-6-B1 mRNAと比較すると、エクソン16とエクソン17の間に「CAG」配列が挿入されているか否かの点のみにおいて異なる。そのため、図4に示すようなアガロースゲル電気泳動の結果では、いずれのRT-PCR 産物の増幅バンドであるかが判断できない。そこで、PARP-6-C cDNAのバンドの上方に見えるRT-PCR 産物について塩基配列決定を行ったところ、いずれのRT-PCR 産物についてもPARP-6-B1 cDNAのみが検出され、各細胞株においてはPARP-6-B2 mRNAは発現していないことが示唆された。
【0153】
また、PARP-6-A cDNAについても、図4に示すように増幅バンドが確認できなかった。そこで、PARP-6-A mRNAのRT-PCR 産物(PARP-6-A cDNA)として期待されるサイズ部分を切り出し、DNAをゲル精製し、TAクローニングをおこなった。しかし、それでも何も検出されず、各細胞においてはPARP-6-A mRNAは発現していないということがわかった。
【0154】
以上の結果から、大腸癌細胞、子宮頸癌細胞(HeLa細胞)、ヒト正常線維芽細胞および口腔癌細胞ではPARP-6-B1 mRNAおよびPARP-6-C mRNAが発現していることがわかった。また、大腸癌細胞および子宮頸癌細胞においては、ヒト正常線維芽細胞と比較してPARP-6-C mRNAが高発現していることがわかった。すなわち、PARP-6-Cタンパク質は、癌細胞においてコントロール正常細胞と比較して高発現していることが示唆される。なお、口腔癌細胞株ではPARP-6-C mRNAの高発現は観察されなかったが、口腔癌細胞は癌細胞のなかでも特殊な細胞であり、他の癌細胞においては大腸癌細胞等と同様にPARP-6-C mRNAの高発現が観察される可能性が高い。
【0155】
(実施例3)
以下、紫外線によるアポトーシス誘発時のPARP-6-B1タンパク質およびPARP-6-Cタンパク質の強制発現に係る実施例について説明する。
【0156】
本発明者は、PARP-6-B1タンパク質およびPARP-6-Cタンパク質の強制発現時におけるアポトーシス抑制効果を観察するため、形質転換体におけるアポトーシス誘発実験を行った。まず、PARP-6-B1またはPARP-6-CのcDNAをpcDNA6.2/N-EmGFP-DEST(invitrogen)に組み込み、緑蛍光色素が目的タンパク質のN末端に融合したタンパク質を産生するベクター(pEGFP-PARP-6-B1およびpEGFP-PARP-6-C)を作成した。なお、該ベクターの構築は、添付の使用説明書に従った。
【0157】
リポフェクタミン(Lipofectamine2000(Invitrogen))を用いたトランスフェクションによって、これらのベクターを移入して、EGFP-PARP-6-B1またはEGFP-PARP-6-CをHeLa細胞に発現させた。また、コントロールとして、トランスフェクション操作のみでプラスミド移入の無い群(MOCK)、緑蛍光色素のみを発現させた群(pEGFPトランスフェクタント)、および、アポトーシス抑制因子として知られるSurvivinの発現群(pEGFP-Survivinトランスフェクタント)を用いた。次に、強制発現させた形質転換細胞を、紫外線で100J/m2照射し、48時間後に細胞を回収した。その後、回収した細胞からタンパク質を抽出し、抗EGFP抗体および抗ΔN(1-19)RhoGDIβ抗体を用いてウエスタン・ブロットを行った。
【0158】
なお、抗ΔN(1-19)RhoGDIβ抗体とは、ΔN(1-19)RhoGDIβに特異的に結合する抗体である。ΔN(1-19)RhoGDIβとは、紫外線によるアポトーシス誘導の際に3型カスペースが活性化されることにより切断されるRhoGDIβの切断産物のことである。すなわち、検出されるΔN(1-19)RhoGDIβの発現量は、紫外線によりアポトーシス細胞死を受けた量と相関すると考えられる。なお、抗PARP-1抗体によってアポトーシス細胞死を受けた量を判断することもできるが、ΔN(1-19)RhoGDIβの発現量により判断する方がより明白に観察することができる。ΔN(1-19)RhoGDIβの詳細については、Xinwen Zhon, Shiho Suto, Takahide Ota and Masaaki Tatsuka「Nuclear Translocation of Cleaved LyGDI Dissociated from Rho and Rac during Trp53-Dependent lonizing Radiation-Lnduced Apotosis of Thymus Cell In Vitro 」RADIATION RESEARCH 162 (2004), 287-295 を参照されたい。
【0159】
図5は、実施例3に係るウエスタン・ブロットの結果を示す。上段の図は、抗EGFP抗体を用いてウエスタン・ブロットを行った結果を示す。下段の図は、抗ΔN(1-19)RhoGDIβ抗体を用いた結果を示す。なお、左側の図は、紫外線を照射しなかった場合の結果を示す。右側の図は、紫外線を100J/m2で48時間照射した場合の結果を示す。EGFP-PARP-6-B1、EGFP-PARP-6-C、EGFP-Survivin、EGFPおよびΔN(1-19)RhoGDIβの各タンパク質の大きさについては図の右側に示す。
【0160】
図5に示すとおり、PARP-6-Cタンパク質を強制発現させた場合、コントロール細胞(MOCKおよびEGFP)よりもΔN(1-19)RhoGDIβの発現が減少していた。すなわち、PARP-6-Cタンパク質を強制発現させることにより、紫外線によるアポトーシス誘発は抑制されていた。また、PARP-6-B1タンパク質を強制発現させた場合、コントロール細胞(MOCKおよびEGFP)よりもΔN(1-19)RhoGDIβが高発現していた。すなわち、PARP-6-B1タンパク質を強制発現させることにより、紫外線によるアポトーシス誘発はさらに誘導されていた。なお、紫外線によるアポトーシス誘発では、アポトーシス抑制因子であるSurvivinのアポトーシス抑制が観察されなかった。
【0161】
上記の結果から、紫外線によるアポトーシス誘発は、PARP-6-Cタンパク質を強制発現させた場合には抑制され、PARP-6-B1タンパク質を強制発現させた場合にはさらに誘導されることがわかった。
【0162】
(実施例4)
以下、アポトーシス誘発時のPARP-6-B1タンパク質およびPARP-6-Cタンパク質の強制発現に係るさらなる実施例について説明する。
【0163】
本発明者は、紫外線照射およびその他のアポトーシス誘発時における、PARP-6-B1タンパク質およびPARP-6-Cタンパク質のアポトーシス抑制効果をより詳細に観察するため、形質転換体のアポトーシス誘発実験を行った。まず、実施例3と同様に、PARP-6-B1またはPARP-6-CのcDNAをpEGFPベクターに組み込み、緑蛍光色素と目的タンパク質との融合タンパク質を産生するベクター(pEGFP-PARP-6-B1およびpEGFP-PARP-6-C)を作成した。
【0164】
次に、リポフェクタミン(Lipofectamine2000(Invitrogen))を用いたトランスフェクションによって、これらのベクターを移入して、EGFP-PARP-6-B1またはEGFP-PARP-6-CをHeLa細胞に発現させた。さらに、EGFP-PARP-6-B1およびEGFP-PARP-6-Cのいずれも移入し強制発現させた形質転換体も作成した。なお、コントロールには、緑蛍光色素のみを発現させた群(pEGFPトランスフェクタント)を用いた。
【0165】
これらの発現細胞を、紫外線で照射した場合、X線で照射した場合またはシスプラチンによって処理した場合においてアポトーシス抑制効果を観察した。それぞれの条件は、紫外線は100J/m2で48時間照射した場合、X線は10Gyで72時間照射した場合、シスプラチンは40μMを18時間処理した場合である。
【0166】
次に、それぞれの処理後の細胞を、ローダミン・アネキシンV(赤色)により、アポトーシス細胞数をカウントした。なお、緑色に光っている細胞は、コントロール(EGFP)では緑蛍光色素のみの発現細胞、EGFP-PARP-6-B1ではEGFP-PARP-6-B1の発現細胞、EGFP-PARP-6-CではEGFP-PARP-6-Cの発現細胞、EGFP-PARP-6-B1およびEGFP-PARP-6-B1ではEGFP-PARP-6-B1またはEGFP-PARP-6-B1の発現細胞を現す。すなわち、これらのEGFP(緑色)の発現細胞中に、どのくらいの割合でアポトーシス細胞が存在するかを調べた。
【0167】
図6は、実施例4に係るアポトーシス誘発処理後におけるアポトーシス細胞数の割合のデータを示す。左側の図は、紫外線を照射した場合のアポトーシス細胞数の割合を示す。中央の図は、X線を照射した場合のアポトーシス細胞数の割合を示す。右側の図は、シスプラチンで処理した場合のアポトーシス細胞数の割合を示す。
【0168】
図6に示すとおり、いずれのアポトーシス誘発条件下においてもEGFP-PARP-6-Cの発現細胞ではアポトーシス細胞数の割合がコントロール(EGFP)と比較して低かった。一方、いずれのアポトーシス誘発条件下においてもEGFP-PARP-6-B1の発現細胞ではアポトーシス細胞数の割合がコントロール(EGFP)と比較して少し高かった。ここで、実施例1および実施例2で示したように、癌細胞(少なくとも大腸癌細胞および子宮頸癌細胞を含む)では、PARP-6-B1 mRNAおよびPARP-6-C mRNAのいずれもが発現している。図6に示すように、EGFP-PARP-6-B1およびEGFP-PARP-6-Cの発現細胞、すなわち癌細胞中の環境に近い状態の場合、いずれのアポトーシス誘発条件下においてもアポトーシス細胞数の割合がコントロール(EGFP)と比較して低かった。
【0169】
上記の結果から、紫外線、X線およびシスプラチンによるアポトーシス誘発条件下においては、PARP-6-Cタンパク質を強制発現させた場合にはアポトーシスが抑制され、PARP-6-B1タンパク質を強制発現させた場合にはアポトーシスがさらに誘導されることがわかった。すなわち、PARP-6-Cタンパク質はアポトーシス抑制効果を有し、一方、PARP-6-B1タンパク質はアポトーシス誘導効果を有することがわかった。また、癌細胞(少なくとも大腸癌細胞および子宮頸癌細胞を含む)においては、PARP-6-B1およびPARP-6-Cのいずれのアイソフォームも発現していると考えられるが、この場合であってもPARP-6-Cタンパク質によってアポトーシスは抑制されているということがわかった。これは、PARP-6-Cタンパク質がPARP-6-B1タンパク質の機能を阻害しているためだと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明によれば、PARP-6-Cに関するタンパク質、PARP-6-Cに関する核酸、該核酸を保持するベクター、該核酸が導入された宿主細胞、該タンパク質の生産方法、該タンパク質に特異的に結合する抗体、および、該タンパク質に関する化合物のスクリーニング方法が提供される。
【0171】
PARP-6-Cタンパク質は、アポトーシス抑制効果を有する。また、PARP-6-Cタンパク質は、アポトーシス誘導効果を有するPARP-6-B1タンパク質の機能を阻害する活性も有する。そのため、PARP-6-Cタンパク質の抗体等を利用することにより、癌の治療法または治療薬の開発を行うことができる。さらに、PARP-6-Cタンパク質のアポトーシス抑制効果を直接利用し、抗癌剤副作用の軽減、日焼けまたは放射線被曝からの防護等にも有用である。また、PARP-6-Cタンパク質は、癌細胞においてコントロール正常細胞と比較して高発現している。そのため、癌の診断マーカーとして利用できる可能性もある。
【0172】
さらに、本発明に係るPARP-6-Cに関するタンパク質等、またはその情報(アミノ酸配列や塩基配列等)は、生体においてPARP-6-Cが関与する事象の研究にも有用である。すなわち、本発明の開示事項によって、PARP-6-Cが関与する生体内機構の解明、さらにはPARP-6-Cが関与する疾患の治療方法や診断方法等の開発も期待される。
【0173】
本発明は、上記発明の実施の形態および実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0174】
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、および特許公報等の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)、(c)および(d)からなる群より選択される、単離されたタンパク質:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じているアミノ酸配列、または、前記アミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、アポトーシス抑制効果を有することを特徴とするタンパク質;
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じているアミノ酸配列、または、前記アミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、癌細胞において、コントロール正常細胞と比較して高発現していることを特徴とするタンパク質;および
(d)配列番号1に記載のアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じているアミノ酸配列、または、前記アミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、PARP-6-B1タンパク質の機能を阻害する活性を有することを特徴とするタンパク質。
【請求項2】
該タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じているアミノ酸配列、または、前記アミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、大腸癌細胞または子宮頸癌細胞において、コントロール正常細胞と比較して高発現していることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタンパク質をコードすることを特徴とする単離された核酸。
【請求項4】
配列番号3に記載の塩基配列、または、前記塩基配列に相補的な塩基配列を有することを特徴とする請求項3に記載の単離された核酸。
【請求項5】
請求項3または4に記載の核酸の相補鎖と、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズすることを特徴とする単離された核酸。
【請求項6】
配列番号3に記載の塩基配列、または、前記塩基配列に相補的な塩基配列の一部を有することを特徴とする単離された核酸。
【請求項7】
請求項3ないし5のいずれか1項に記載の核酸を保持することを特徴とするベクター。
【請求項8】
請求項3ないし5のいずれか1項に記載の核酸が外来的に導入されていることを特徴とする宿主細胞。
【請求項9】
請求項8に記載の宿主細胞を、前記核酸がコードするタンパク質が産生される条件下で培養するステップと、
産生された前記タンパク質を回収するステップとを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のタンパク質の生産方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載のタンパク質に特異的に結合することを特徴とする抗体。
【請求項11】
請求項1に記載のタンパク質によるアポトーシス抑制効果を、阻害または増強する化合物のスクリーニング方法であって、
前記タンパク質によるアポトーシス抑制効果を阻害または増強する前記化合物の能力の有無、および/または、その前記化合物の能力の程度を調べるステップを含むことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項12】
請求項1に記載のタンパク質の発現量、または、請求項5に記載の核酸の存在量が関する疾患に対して有効な化合物のスクリーニング方法であって、
前記タンパク質とその標的分子との結合を阻害する前記化合物の能力の有無、および/または、その前記化合物の能力の程度を調べるステップを含むことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項13】
前記ステップは、前記タンパク質によるアポトーシス抑制効果を阻害する前記化合物の能力の有無、および/または、その前記化合物の能力の程度を調べることによって、前記タンパク質とその標的分子との結合を阻害する前記化合物の能力の有無、および/または、その前記化合物の能力の程度を調べることを特徴とする請求項12に記載のスクリーニング方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−36184(P2011−36184A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186928(P2009−186928)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(507234438)公立大学法人県立広島大学 (24)
【Fターム(参考)】