説明

タンパク質と抗体

【課題】ガンの治療方法及びそのための装置、特に患部に電磁波を照射することにより治療を行なうガン治療方法並びにそのために用いる磁性粒子及び装置の提供。
【解決手段】ガン細胞に対する抗体と結合した磁性粒子を患者の体内に非侵襲的または低侵襲的に導入し、ガン細胞に結合させ、外部から電磁波を照射するか磁場を印加してガン細胞に結合した磁性粒子を誘導加熱し致死せしめる。その際、磁性粒子を患者の体内に導入した後、磁気により磁性粒子をガン細胞近傍に誘導する工程をさらに含むことと、磁性粒子が生物由来であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガンの治療方法及びそのための装置、特に患部に電磁波を照射することにより治療を行なうガン治療方法並びにそのために用いる磁性粒子及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガンにエネルギー線を照射する治療方法は線形加速器を用いて実施されてきた。この放射線照射治療を実施する際問題となる点は、治療対象である異常組織での吸収線量と正常組織へ及ぼす悪影響である。異常組織を確実に治療するためには、致死線量を前記異常組織へ確実に投入する必要がある。しかし、単純に照射を行なった場合には周辺の正常組織に副作用を与えてしまう。このため、回転照射や多門照射、または患部形状に合わせてコリメータ形状を調整して多門照射を行なう原体照射(コンフォマール照射)などにより、正常組織の放射線障害を軽減する工夫が行なわれている。
【0003】
しかし、上述したようないずれの工夫を行なっても、患部の診断や位置決定に用いられるX線CT装置やMRI装置などの診断装置と治療照射装置との間の基準座標のずれや線源の大きさに基づく照射半影の問題などから放射線治療装置の照射野位置決め精度が確保できず、十分な治療効果を上げるに至っていない。これに対するひとつの解決策は、治療部位を包囲するように位置決め用のフレームを機械的に固定し、このフレームを基準とするとともに、一つの線源を多数の小線量源に分割することにより、照射半影を極小化するものである。このような手法の典型例としてガンマナイフが知られている。
【0004】
しかし、ガンマナイフは胸部や腹部など前記フレームの装着が不可能な部位には適用できず、仮に正確な基準座標設定ができたとしても患者の呼吸に伴う患部位置の変化には対応できない。このような呼吸による患部位置の変化を補正するために、種々の呼吸同期装置が開発、評価されている。しかし、どの装置も患者の呼吸による外見的な体型の変化を基に患部の位置を推定する方式を採用しており、患者の個人差や呼吸運動の一様性の点で位置決め補正精度に問題がある。
【0005】
そこで、患部の近傍に、ガンマ線が当たると電子陽電子対を放出する性質を持つ白金などの重金属からなる放射材を配置し、患者の外部からガンマ線を照射し、放射材に当て、放射材から電子陽電子対が放出させ、この電子陽電子対から電磁シャワーに発展させ、放射材の近傍の腫瘍を照射して患部を放射線治療する方法が提案されている(特許文献1:特開2004-049884)。特許文献1によれば、電子陽電子対及びそれが発展した電磁シャワーは、所定距離進むと強度が減少するので、腫瘍の周囲の正常組織への影響を抑えることができると記載されている。しかし、この方法では、放射材を、例えば、腫瘍の内部に予め埋め込むことが必要であり、侵襲性は必ずしも低くない。また、部位によっては放射材の埋め込みは困難である。
【0006】
一方、ガン組織は、正常組織に比べて、熱による損傷を受け易いという生物学的な特性を利用して、近年、腫瘍部分を局所的に加温するガンの温熱治療(ハイパーサーミア)が、注目されている。腫瘍部分を局所的に加温するにあたっては、温水、赤外線、超音波やマイクロ波などにより、体外から腫瘍部分を加温することが試みられている。しかし、これらの方法では、体表付近は効果的に加温できるものの、体内深部では、正常組織に損傷を与えることなく、効果的に加温することは困難である。磁力線は、細胞に損傷を与えることなく、体内深部まで到達させることができる。このことに着目して、強磁性微小球をカテーテルなどにより体内に入れ、強磁性微小球が埋入された部分を交流磁場中に置き、強磁性微小球のヒステリシス損による発熱を利用して、腫瘍部分を局所的に加温することが提案されている。
【0007】
そして、ハイパーサーミアに適した磁性組成物として、アモルファス合金及び親水性高分子を含有して成ることを特徴とする磁性組成物」が開示されている。このアモルファス合金としては、「Fe、Ni及びCoの1種又は2種以上の遷移金属と、P、C、Si又はBの1種又は2種以上の半金属と、Cr及び/又はMoとを含有する磁性組成物(例えば、特許文献2:特開平6-245993号公報)、比透磁率が100〜2000の鉄系酸化物微粒子を主成分とする感磁発熱体(例えば、特許文献3:特開平11-57031号公報)、核微粒子の外側に被覆させた強磁性体層を主材とする温熱治療用発熱体であって、前記強磁性体層は酸化物からなり、その磁区構造が単磁区と擬似単磁区のうち少なくとも一方を主として形成されてなることを特徴とする温熱治療用発熱体(特許文献4:特開2004-105722)が提案されている。
【0008】
しかし、これらの方法でも、発熱体を、例えば、腫瘍の内部に予め埋め込む必要があり、侵襲性は必ずしも低くない。また、部位によっては放射材の埋め込みは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-049884
【特許文献2】特開平6-245993号
【特許文献3】特開平11-57031号
【特許文献4】特開2004-105722
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、非侵襲的または低侵襲的にガン治療を行う方法並びにそのために用いる磁性粒子及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ガン細胞に対する抗体と結合した磁性粒子を患者の体内に非侵襲的または低侵襲的に導入し、ガン細胞に結合させ、外部から電磁波を照射してガン細胞に結合した磁性粒子を誘導加熱し致死せしめ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガン細胞に対する抗体の利用により磁性粒子を患者の正常な細胞などに結合させることなく患部たるガン細胞のみをターゲッティングして選択的に結合することができる。そして、特定の周波数・出力の電磁波を短時間照射することで、ガン細胞に結合された磁性粒子のみを誘導加熱して、ガン細胞を瞬間的に高温加熱することにより、細胞膜を破壊して細胞膜以外の原形質を流出させる、あるいは細胞がアポトーシスに陥らせる。よって、加熱されるガン細胞の周囲に熱が伝導する前に発熱が終わるので、正常な部分を破壊することなくガン細胞のみを加熱して破壊することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の治療方法は、抗体と結合した磁性粒子を、患者の体内に非侵襲的または低侵襲的に導入し、前記磁性粒子をガン細胞に結合させ、外部から電磁波を照射してガン細胞に結合した磁性体を誘導加熱し致死せしめることを特徴とする。なお、本発明において「患者」とは広く治療対象を意味し、法的に治療方法への特許付与が認められる場合はヒトをも含むが、治療方法への特許付与が認められない場合は、治療方法については「ヒト」を除く生体のみを指す。
【0014】
本発明で用いる磁性粒子としては、水溶液中で不溶性であり且つ磁性を示すものであるならば特に限定されるものではない。例えば、Fe3O4, Fe2O3, FeO,γ-FeO, Co-γ-FeO, (NiCuZn)O・FeO,(CuZn)O・FeO, (MnZn)O・FeO, (NiZn)O・FeO,SrO・6FeO, BaO・6FeO ,SiO2で被覆したFeO(粒径約200 A)〔Enzyme Microb.Tecnol.,vol2,p.2-10(1980) 参照〕、各種の高分子材料(ナイロン、ポリアクリルアミド、ポリスチレンなど)とフェライトとの複合微粒子及び磁性細菌が菌体内に合成する磁性細菌粒子など、生体内で生成される磁性粒子が挙げられる。いわゆる磁性流体を構成し得る磁性粒子が好ましい。磁性粒子としては、マグネタイトに限られるものではなく、誘導により発熱する材質から成るものであれば使用可能であり、硫化鉄など他の鉄化合物または合金も含まれる。また、他の金属などとしてはタングステン、アルミナ、ニッケル−クロム合金、ステンレススチール、金、炭素などが挙げられるが、生物学的に生成され得る磁性粒子が好ましい。磁性粒子の直径は、2nm〜200μm、特に10nm〜100μmの範囲が好ましい。抗体結合磁性粒子の直径が2nm未満では抗体を担持できる量が少なく、磁力への走性がなくなり、200μmを超えると血管閉塞のリスクが高くなる。
【0015】
例えば、磁性細菌は、1970年代、アメリカで発見され、菌体内に50〜100nmの程度の粒径のマグネタイト(Fe34)単結晶の微粒子が10〜20個ほど連なったマグネトソームと呼ばれるチェイン状の粒子を保持している。磁性細菌はこのマグネトソームを保持することで地磁気を感知し、磁力線の方向を認識することができる。磁性細菌は微好気性の細菌であり、地磁気を感知することで好気的な水面から微好気的な沈殿物表層へ磁力線に沿って泳ぐことができる。このような磁性細菌は、ANALYTICAL CHEMISTRY,VOL. 63,No. 3,FEBRUARY 1,1991 P268-P272に示されるように、単菌分離され、大量培養が可能となっている。この磁性細菌中の磁性粒子は、六角柱で粒径、形状が非常に均一であり、純度も高く、粒子を含む菌体の磁化を微粒子当りに換算すると約50emu/g である。また、保磁力は230
Oe で、単磁区構造をとっていることが確かめられている。また、この磁性粒子は、粒子表面が有機薄膜で覆われていることから金属の溶出がほとんど起こらず安定に存在し、水溶液中での分散性にも優れているといった特性を有している。
【0016】
例えば、磁性細菌からの磁性粒子の抽出方法には、フレンチプレスを用いた物理的圧力破砕、アルカリ煮沸、酵素処理、超音波破砕処理などが知られており、磁性粒子を大量に得る場合には、超音波による破砕が適している。抽出後、磁石などにより磁性粒子を分離すればよい。
【0017】
また、ハトや渡り鳥、サケ、アユなどなどの回遊魚に含まれる磁性粒子を生体組織から採取するか、好ましくは、遺伝子組み換えにより生成して用いることも可能である。
【0018】
抗体は標的とするガンに対する抗体を慣用の方法により調整する。なお、本発明において「ガン細胞に対する抗体」とは、抗体やペプチドやDNA及び糖鎖、糖脂質など、ガン細胞の外面に結合するもの全般を含む概念である。例えば、多発性骨髄腫細胞では、細胞表面にCD38抗原、CD54抗原、CD138抗原、HM1.24抗原などを発現している。このため、ガン細胞に対する抗体としては、これらの抗原に対する抗体が使用できる。他のガンについても同様である。
【0019】
磁性粒子を抗体と結合させるには種々の手法が用い得るが、ひとつの例としては、使用する抗体と磁性粒子とを一定時間だけ混合して、磁性粒子表面に抗体を吸着させて抗体吸着磁性粒子を得ることができる。また、この磁性粒子と細胞とを混合することにより細胞に磁性粒子を吸着させて、ガン細胞の細胞膜に結合された状態の磁性粒子を得ることができる。さらに、この磁性粒子に抗−F(ab)断片抗体を作用させてガン細胞から取り外して、単体の磁性粒子を得ることができる。
【0020】
磁性粒子を抗体と結合させる別の例は、磁性粒子の全部または一部をタンパク質で被覆し、これに抗体を結合させる方法である。すなわち、前記被覆タンパク質とガン細胞の両者に結合部位を有する抗体を調製し、これを前記被覆タンパク質に結合させる。被覆タンパク質の例としては血清アルブミン及びカゼインが含まれ、血清アルブミンが好ましい。また、これらの被覆タンパク質中またはそれと結合するさらなる被覆材料を設けて、これに特異的結合ペアの一方の要素を組み込み、特異的結合ペアの他方の要素にガン細胞に結合部位を有する抗体を結合させてもよい。このような典型的な特異的結合ペアの例としては、ビオチン−ストレプトアビジン、抗原−抗体、受容体−ホルモン、受容体−ロガンド、アゴニスト−アンタゴニスト、レクチン−糖類、プロテインA−抗体Fc、ならびにアビジン−ビオチンが挙げられる。例えば、特異的結合ペアのメンバーは、二官能基連結化合物を介して被覆材料にカップリングする。典型的な二官能基連結化合物は、スクシンイミジル−プロピオノ−ジチオピリジン(SPDP)、及びスルホサクシンイミジル−4−(マレイミドメチルシクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)を包含するが、ヘテロ官能基リンカー化合物のごとき他の種々のものもPierce, Rockford, Ill.から入手可能である。
【0021】
磁性粒子を抗体と結合させる手法の別の例として、抗体を含むゲル層で磁性粒子を被覆して用いてもよい。このような被覆磁性粒子は、例えば、磁性粒子を鉄塩と塩基性物質を含む水溶液と混合して調製できる。鉄塩は、特に制限はないが、塩化鉄、臭化鉄などのハロゲン化鉄(II)が好適に使用できる。これらの鉄塩は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。かかる鉄塩を用いることにより磁性粒子上に水酸化鉄ゲル層を形成する。
【0022】
鉄塩を含む水溶液中の鉄塩の濃度としては、0.001〜1モル/Lの範囲が好ましい。この濃度が0.001モル/Lよりも低いと得られるゲル層の生成が低くなり、1モル/Lよりも高いとゲル層の厚みが大きくなってしまう。好ましくは、0.001〜0.01モル/Lの範囲とする。塩基性物質を含む水溶液の塩基性物質としては、鉄塩から水酸化鉄を生成させるために系のpHを中性〜アルカリ性とすることができれば如何なるものも使用可能であり、一般に、無機化合物のアルカリ金属水酸化物やアミン類が使用可能であるが、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基を有する化合物、例えば、アンモニア、エチルアミン、ジメチルアミン、ジメチルアミノ安息香酸ナトリウム、2-ジメチルアミノエタノール、N-メチル-2-ピロリジノン、ジメチルアミノプロピル酢酸ナトリウム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアクリルアミドオリゴマー、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレートオリゴマー、N-(3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミドオリゴマーなどを使用することが好ましい。これらの塩基性物質は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。塩基性物質を含む水溶液中の塩基性物質濃度としては、過度に高濃度でも意味はなく、過度に低濃度であると鉄塩からゲル層を形成させにくくなるため、0.01〜10.0モル/L程度であることが好ましい。
【0023】
磁性粒子を抗体と結合させる手法のさらに別の例としては、架橋可能な高分子化合物を用いてもよい。例えば、(A)磁性粒子または前記の水酸化鉄ゲル層で被覆された磁性粒子、(B)アスコルビン酸(以下「(B)成分」と称す場合がある)を含む水性懸濁液とを親油性液体中へ懸濁混合し、次いで、この懸濁液に(C)受光色素で修飾した高分子化合物(以下「(C)成分」と称す場合がある)及び(D)抗体(以下「(D)成分」と称す場合がある)を含む水溶液、あるいは(C)受光色素で修飾した高分子化合物を含む水溶液と(D)抗体を含む水溶液を懸濁混合し、その後、この懸濁液に可視光を照射することにより、懸濁液中の分散粒子に含まれる高分子化合物を光架橋させて得ることができる。
【0024】
(C)の受光系色素で修飾した高分子化合物は、可視光の照射によりラジカルを発生してゲル化する物質として用いられる。キサンテン系色素で修飾された高分子化合物の高分子化合物としては、具体的には、コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ガゼイン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリシドール、ポリグリシドールの側鎖エステル化体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、環状エステルの重合体、ポリビニルアルコールヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0025】
この受光色素としては、例えば、波長400〜700nmの可視光域を受光するものが挙げられる。キサンテン系色素、特にエオシンが好適であり、受光色素で修飾した高分子化合物としてはエオシン化ゼラチンが好適である。このエオシン化ゼラチンについては例えば、特開2006-306786に記載されており、本発明においても同様の手法を取ることができる。ゼラチンをキサンテン系色素で修飾する場合、ゼラチン1分子に対するキサンテン系色素分子の導入数は10個以下が好ましく、特に2〜6個であることが好ましい。この導入数が10よりも多いと、ゼラチンが水へ難溶となり、最終的にはゲル粒子が硬くなる。なお、ここに詳述した光架橋性樹脂は一例であり、他の光架橋性高分子や熱架橋性高分子も同様に利用できる。
【0026】
本発明の磁性粒子は親油性液体中に含有させて磁性流体として用いることもできる。この場合、キャピラリーなどを使用して液滴として添加混合するか、脱泡撹拌機などの撹拌機を使用して懸濁分散させ、滴下などによって水溶液を添加する際、又は添加した後に親油性液体を撹拌し、磁性粒子をよく分散させることが好ましい。親油性液体としては、ヘキサン、シクロヘキサン、流動パラフィンなどの炭化水素;クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素;ヒマシ油、オリーブ油などの天然油;などを用いることができ、これらの親油性液体は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。この親油性液体にポリオキシエチレンセシルエーテル、オキシエチレンオキシプロピレンコポリマー、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤の1種又は2種以上を添加してもよく、これにより粒子をより細かく分散させることができる。界面活性剤の親油性液体への添加量は0.1〜50重量%程度が好適である。また、親油性液体に、ポリエチレングリコールなどの増粘剤を添加してもよい。増粘剤の親油性液体への添加量は0.1〜20重量%程度が好適である。
【0027】
以上のいずれかの方法またはその他の方法により調製した本発明の抗体結合磁性粒子を、非侵襲的または低侵襲的に患者に投与する。例えば、血管内投与する。本発明の抗体結合磁性粒子は、投与後に、磁力によって疾患部位へ抗体結合磁性粒子を集合させることができる。これにより、より効率的にガンを治療することができる。
【0028】
この場合、磁力の印加方法としては、患部上の体表面から直接印加する方法や、体内へ挿入したデバイスから印加する方法がある。このようなデバイスとしては、経皮的に患部付近の組織へ刺入するものや、患部付近にて磁力を印加することが可能な血管カテーテルや、ステントグラフトのように血管内へ留置するものであって磁気をもつものなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
患者の体内でガン細胞に結合しきれずに、血中で余った抗体結合磁性粒子は透析する。血液を対外に取り出して磁石を使い抗体結合磁性粒子をこし取り体中に戻す。
【0030】
前記磁性粒子を被加療体のガン細胞から成る患部に結合させた状態で前記磁性粒子に周波数1Hz〜3THz、出力0.01W〜10000kWの範囲内の電磁波を1フェムト秒以上24時間以下照射して、前記磁性粒子を誘導加熱し前記ガン細胞を42℃程度以上に加熱して破壊する。より好ましくは、周波数380kHz〜6GHz、出力100W〜1kW、照射時間5分以下であり、さらに好ましくは、市販品の高周波電源の周波数380kHz、400kHz、800kHz、2MHz、4MHz、13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz、60MHz、60.68MHz、100MHz、150MHz、200MHz、2.45GHz、5.6GHz、出力100〜300Wが利用可能である。もっとも、これらの値は適用するガンの種類や部位、状態に応じて変更可能である。なお、適用する電磁波は正弦波に限られず、パルス状の矩形波でもよい。かかる治療方法は、例えば、磁性粒子にガン細胞に対して選択的に結合するガン細胞に対する抗体と結合した磁性粒子と、前記磁性粒子が被加療体のガン細胞から成る患部に結合した状態で前記磁性粒子に前記周波数などの電磁波を照射する誘導加熱手段とを備え、前記磁性粒子を誘導加熱し前記ガン細胞を加熱して破壊する装置により実施できる。このような装置は高周波遮蔽板で構成した照射装置内に電磁波源を設置することにより製造できる。なお、本発明において「誘導加熱」という場合、加熱は電磁波の照射または磁場の印加により磁性粒子が発熱する現象全般を指し、加熱はヒステリシス損に起因するものでもジュール熱によるものでもよく、「誘電加熱」も含む。また、ガン細胞の「破壊」は、加熱に起因するアポトーシス、物理的に細胞膜が破壊されて細胞が崩壊する機構のいずれも含む。
【0031】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。なお、以下の例においては、ガン細胞としてはCD54抗原を80%以上発現している多発性骨髄腫細胞株KMS28PE細胞を使用した。ガン細胞結合抗体はCD54抗原に対する抗体である。
【実施例1】
【0032】
比較例1〜2
磁性流体用磁性粒子(フェライト系の超常磁性体;平均粒子径:0.02μm)をガン細胞結合抗体と血清アルブミンと混合し、ガン細胞結合抗体付着磁性粒子を製造した。IMDM入り寒天培地上で培養したガン細胞に前記ガン細胞結合抗体付着磁性粒子を含む溶液を接触させ、3時間後、溶液を除去し培養液で洗浄した(実施例)。比較例1として磁性粒子のみ(ガン細胞結合抗体を付着させていないもの)を含む溶液を接触させ、3時間後、溶液を除去し培養液で洗浄したもの、比較例2として磁性粒子を除いた溶液を接触させ、3時間後、溶液を除去し培養液で洗浄したものを用いた。
これに、周波数13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz、出力100Wの電磁波を5秒以上60秒以下照射し、ガン細胞の生存率を調べたところ、実施例では実質的に全細胞が死滅していたのに対し、比較例1は死滅していない細胞が多く、比較例2ではほぼすべてが生存していた。
【実施例2】
【0033】
比較例3〜4
塩化鉄(II)四水和物(JIS特級試薬)を精製水に溶解して0.1M溶液を調製した。得られた溶液5.0mLと磁性細菌由来磁性粒子(平均粒径50〜100nm)及び抗体含有液の混合液中にアンモニア水を滴下し水相のpHを約9.0へ調整し、平均粒径約1μmのガン細胞結合抗体付着磁性粒子を得た。
IMDM入り寒天培地上で培養したガン細胞に前記ガン細胞結合抗体付着磁性粒子を含む溶液を接触させ、3時間後、溶液を除去し培養液で洗浄した(実施例)。比較例3として磁性粒子のみ(ガン細胞結合抗体を付着させていないもの)を含む溶液を接触させ、3時間後、溶液を除去し培養液で洗浄したもの、比較例4として磁性粒子を除いた溶液を接触させ、3時間後、溶液を除去し培養液で洗浄したものを用いた。
これに、13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz、出力100Wの電磁波を5秒以上60秒以下照射し、ガン細胞の生存率を調べたところ、実施例では実質的に全細胞が死滅していたのに対し、比較例3は死滅していない細胞が多く、比較例4ではほぼすべてが生存していた。
【0034】
比較例5〜6
磁力による誘導効果を調べるため、比較例3の溶液をガン細胞に接触させた後、ガン細胞近傍に強力な磁石(文房具として市販されている強力ネオジウム磁石)で磁性粒子を集めた状態で後の処理を行った(比較例5)。念のため、対照実験として比較例4の溶液についても同様の実験を行った(比較例6)。その結果、比較例5ではほとんどのガン細胞が死滅したのに対し、比較例6ではほとんど死滅していなかった。従って、生体内においては、抗体による結合と磁力による誘導(案内)を組み合わせることにより、より効率的にガン細胞に磁性粒子を結合させ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガン細胞に対する抗体と結合した磁性粒子を患者の体内に非侵襲的または低侵襲的に導入し、ガン細胞に結合させ、外部から電磁波を照射するか磁場を印加してガン細胞に結合した磁性粒子を誘導加熱し致死せしめることを特徴とするガンの治療方法。
【請求項2】
磁性粒子を患者の体内に導入した後、磁気により磁性粒子をガン細胞近傍に誘導する工程をさらに含む請求項1に記載のガンの治療方法。
【請求項3】
磁性粒子が生物由来である請求項1または2に記載のガンの治療方法。
【請求項4】
磁性粒子を血清アルブミン及びガン抗体含有液と混合することにより磁性粒子上に抗体含有血清アルブミン層を形成した請求項1〜3のいずれかのガンの治療方法に用いるための磁性粒子。
【請求項5】
磁性粒子を鉄塩と塩基性物質を含む水溶液及びガン抗体含有液と混合することにより磁性粒子上に抗体含有水酸化鉄ゲル層を形成した請求項1〜3のいずれかのガンの治療方法に用いるための磁性粒子。
【請求項6】
磁性粒子単体または水酸化鉄ゲル層を有する磁性粒子上に光または熱架橋性高分子層を設け、前記架橋高分子層にガン抗体を含有させた請求項1〜3のいずれかのガンの治療方法に用いるための磁性粒子。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の磁性粒子を誘導/誘電/磁気加熱する電磁波を照射または磁場を印加する手段を備え、磁性粒子を加熱し前記ガン細胞を加熱して破壊する請求項1〜3のいずれかのガンの治療方法に用いるための装置。
【請求項8】
さらに磁性粒子誘導用の磁性部材を備えた請求項7に記載の装置。


【公開番号】特開2010−260838(P2010−260838A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117362(P2009−117362)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【分割の表示】特願2009−114039(P2009−114039)の分割
【原出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(504385339)
【Fターム(参考)】