説明

タンパク質のみからなる移植可能な吸収性反射体

本発明は、生体適合性および生体吸収性のシルクフィブロインタンパク質から構成される光反射体を作製するための組成物および方法を提供する。例えば、シルク再帰反射体は、画像化された皮層の画像平面を回転させるためにミリメートルサイズのマイクロプリズムアレイに基づいて構築され、したがって、分析されるサンプル中に挿入されたとき反射方向で検出される光子の量を増やして、最終的に多光子顕微鏡法におけるコントラスト比を高めることができる。こうしたデバイスは、医療用イメージング/診断から、薬物/治療薬デリバリー、食物連鎖の安全性および環境モニタリングに至るまで、さまざまな用途のための無標識、生体適合性、生体吸収性の移植可能なデバイスとして使用することができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年7月20日付けの米国特許仮出願第61/226,801号の優先権の恩典を主張するものであり、その全内容を参照により本明細書に組み入れる。
【0002】
政府支援
本発明は、米国立衛生研究所により授与されたEB002520、米陸軍研究局により授与されたW911NF-07-1-0618、および米空軍科学研究局により授与されたFA9550-07-1-0079のもとに政府の支援を受けて行われたものである。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、バイオフォトニックおよび生体医療用デバイスの分野に関する。さらに具体的には、本発明の態様は、医療用イメージング/診断から、薬物/治療薬デリバリー、バイオセンシング、食物連鎖の安全性および環境モニタリングに至るまで、さまざまな用途のための新規な生体適合性、生体吸収性、および移植可能な反射コンポーネントまたはデバイスとしてのシルクフィブロインを提供する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
医療用イメージングは、ヒトの視覚を疾患および組織機能の本質へと広げつつあり、パワフルな新世代の診断および治療介入を可能にしている。Deutsch, 85 Proceedings of the IEEE 1797-816 (1997) (非特許文献1)。光学的方法は、疾患の検出、組織機能の評価、および治療的介入などの分野で新規な医療用イメージング・アプリケーションを開発するために研究されてきた。例えば、共焦点非線形顕微鏡法、光干渉断層撮影法、および拡散光トモグラフィーは、それぞれ約0.1mm、約1mmおよび約1cmの程度の深さにわたって生体組織を調べることができる生体医療用光学技術である。
【0005】
この極めて重要な役割にもかかわらず、イメージング技術は、画像の解像度と観察の深さを制限する散乱および吸収によって課される天然組織の光透過制限を含めて、まだ課題を提示する。Matcher et al., 36 Appl. Opt. 386-96 (1997) (非特許文献2); Zonios & Dimou, 17 Opt. Express 1256-67 (2009) (非特許文献3)。イメージング技術はまた、光学システムによって伝送され得る情報の量および種類によっても制限される。これらの問題は、多くの場合、画像の品質を高めるための方法を用いる必要があるが、こうした方法は、例えば、侵襲的または有毒でありうる外因性のコントラスト剤または放射性マーカーを導入するか、あるいは内視鏡検査によって提供されるようなイメージング用のプローブを用いる必要がある。これらの制限を打開し、かつ最終的に個人の既往歴(anamnesis)に影響を及ぼす光学デバイスの有用性を拡大することが必要である。より具体的には、生体医療用デバイスの分野には、体内に埋め込んだ後で取り出す必要がないと同時に、高品質の光学特性および感度を提供する生体適合性、生分解性および/または生体吸収性のフォトニック・コンポーネントおよびデバイスを開発する必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Deutsch, 85 Proceedings of the IEEE 1797-816 (1997)
【非特許文献2】Matcher et al., 36 Appl. Opt. 386-96 (1997)
【非特許文献3】Zonios & Dimou, 17 Opt. Express 1256-67 (2009)
【発明の概要】
【0007】
本発明の一局面は、生体適合性および生体吸収性のシルクフィブロインタンパク質から構成される光反射体を作製するための組成物および方法に関する。シルク光学コンポーネントはインビトロおよびインビボ光学的測定で使用されて特徴づけられたが、それは、さまざまな散乱/吸収媒質(例えば、組織の層)を介しての信号強化を実証し、有害な生物学的影響を及ぼさず、かつ遅分解性およびインビボで天然組織に溶け込む能力を示した。このようなシルク反射体は、光学およびフォトニック・コンポーネントの作製に適した医療用画像診断分野における新規なクラスの生体適合性および生体吸収性の光学デバイスとして使用することができ、同時に、取り出す必要なくヒトの体内に導入することが可能である。
【0008】
本発明の一局面は、シルクフィルムの表面上に反射素子または反射素子のアレイを形成する工程を含む、シルク反射体の作製方法に関する。
【0009】
本発明の別の局面は、反射素子または反射素子のアレイがシルクフィルムの表面またはシルクフィルムの各層の表面上に形成されている、シルクフィルムの1つまたは複数の層を含むシルク反射体に関する。
【0010】
反射素子または反射素子のアレイは、反射素子または反射素子のアレイを有するマスターパターンから複製することによって、シルクフィルムの表面上に形成することができる。あるいはまた、反射素子または反射素子のアレイは、反射粒子をシルクフィルムの中またはその表面上に分散させることによって、シルクフィルムの表面に形成することができる。例えば、反射粒子は、金もしくは銀ナノ粒子、またはそれらの組合せなどの、金属ナノ粒子であり得る。
【0011】
本発明の別の局面は、シルク層の表面上に形成された反射素子または反射素子のアレイを有するシルクフィルムの少なくとも1つの層を含む、インビボ操作のための光学的有用性を備えた移植可能なシルク反射体に関する。得られるシルク反射体は生体適合性および生体吸収性である。反射素子はマイクロプリズムまたはマイクロプリズムのアレイであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1Aは、フリースタンディング(free standing)の1×1.5cmシルク反射フィルムを示す写真である。図1B〜1Dは、シルク反射体の拡大画像を示す走査電子顕微鏡画像である。図1Bおよび1Dは異なる倍率の個々のプリズムを示し、図1Cは個々のプリズムの断面を示す結合されたフィルムの側面画像を示す。
【図2】図2A〜2Dは、異なる倍率のシルク反射体のプリズムを示す走査電子顕微鏡画像である。
【図3】図3Aは、複製されたマイクロプリズムシルク反射体の性能を評価するための実験セットアップの概略図である。図3Bは、シルクマイクロプリズム反射体の性能の結果を示すグラフであり、バックグラウンド信号と比較して反射信号の桁違いの増加を示している。インコヒーレント白色光照明が一定の高さからシルク反射体に与えられ、後方散乱反射プローブが、同じ高さから応答を収集して、それを分光計に接続するために使用された。
【図4】図4Aおよび4Bは、裸のシルク再帰反射フィルム(図4A)と散乱媒質(例えば、ゼラチン)の層の下のシルク再帰反射フィルム(図4B)の両方の有効性を証明するために用いた実験セットアップを示すスキームである。
【図5】図5A〜5Fは、図4で説明した実験セットアップからの反射率測定の結果を示す。図5A、5Cおよび5EはCCDカメラで収集された画像であり、図5B、5Dおよび5Fはそれぞれ図5A、5Cおよび5Eの収集画像に対応する強度プロファイルを示す。図5Aおよび5Bは、裸のマスター(左の画像および強度プロファイル)と裸のシルクレプリカ(右の画像および強度プロファイル)の反射率についての画像(図5A)および対応する強度プロファイル(図5B)の比較を示す;図5Cおよび5Dは、赤色光照明の下でのマスター(左の画像および強度プロファイル)とシルクレプリカ(右の画像および強度プロファイル)の反射率についての画像(図5C)および対応する強度プロファイル(図5D)の比較を示す;ならびに図5Eおよび5Fは、厚さ2cmのゼラチン層の下の再帰反射フィルム(左の画像および強度プロファイル)と透明なシルクフィルム(右の画像および強度プロファイル)の画像(図5E)および対応する強度プロファイル(図5F)の比較を示す。
【図6】図6Aおよび6Bは、3mmコラーゲン層の下の透明なシルクフィルム(図6A)の検出と反射シルクフィルム(図6B)の検出との比較を示す。
【図7】図7A〜7Cは、散乱媒質中に埋め込まれたシルク再帰反射体の結果を示す。図7Aは、シルク反射体が白色光源からの等方性照明にさらされたこと、およびシルク反射体からの反射がデジタルCCDカメラにより1.5メートルの距離で収集されたことを示す概略図である。図7Bの挿入画像は、3.5cmのゼラチンの下のシルク反射体(左の画像)と平坦なシルク基体(右の画像)の収集されたCCD画像を示す;図7Bのグラフは、それぞれシルク反射体(1)と平坦なシルク基体(2)の画像から抽出された、対応する強度プロファイルを示す。図7Cの挿入画像は、シルク反射体をタルクおよび水からなる6.5cmの散乱溶液の下に浸漬したときにCCDから収集された画像を示す。シルク反射体を暗色の容器の底面に取り付けてから前記溶液で覆った。図7Cのグラフは、反射体(1)とバックグラウンド(2)を含む画像の横断面から抽出された、対応する強度プロファイルを示す。
【図8】図8A〜8Bは、インコヒーレント照明および深組織層からの後方散乱スペクトルのファイバープローブによる検出を用いたインビトロ実験からの結果を示す。図8Aは、インビトロ実験セットアップを説明する概略図であり、そこでは、シルク反射体がスペクトル応答要素の下に配置され、順方向の散乱光子を捕捉して後方散乱信号を増強する。図8Bは、スペクトル応答要素が色素含有セルロース層であるときのスペクトル応答を示し、図8Cは、シルク反射体が多層スペクトルフィルターの下に配置されるときのスペクトル応答を示す。
【図9】図9A〜9Cは、インコヒーレント照明および深組織層からの後方散乱スペクトルのファイバープローブによる検出を用いたインビトロ実験からの結果を示す。図9Aは、インビトロ実験セットアップを説明する概略図であり、そこでは、シルク反射体がスペクトル応答要素の下に配置され、順方向の散乱光子を捕捉して後方散乱信号を増強する。図9Bは、(1)1つの脂肪層で覆われたスペクトル要素、(2)2つの脂肪層で覆われたスペクトル要素、および(3)スペクトル要素の下にシルク反射体が配置された、2つの脂肪層により覆われたスペクトル要素、から検出された信号を比較する強度プロファイルを示す。その応答は、シルク反射体が存在するときに著しく高かった。図9Cは、脂肪の層を筋組織の層で置き換えた同様の実験からの結果を示す:(1)2層の筋組織で覆われたスペクトル要素による応答、および(2)スペクトル要素の下にシルク反射体が配置された、2層の筋組織で覆われたスペクトル要素による応答。
【図10】インコヒーレント照明および多層フィルターの存在下(1)でブタ筋組織層を通過する後方散乱スペクトルのファイバープローブによる検出を用いたインビトロ実験からの結果、ならびにシルクマイクロプリズムアレイの追加(2)による検出応答の増強を示す。
【図11】図11A〜11Dは、シルク反射体を用いることによるインビボ結果を示す。図11Aは、マウスの背部へのシルク反射体の皮下移植を示す写真である。移植片は1cm×1cmで、目視可能である。図11Bは、20日後の同移植片の結果を示し、感染の兆候がなく、マウスの移植片のない部分と比較して移植片含有領域のプロービングからの信号の増加が示される。図11Cは、シルク反射体を移植した直後の後方散乱信号の増加(a)を、移植片のない部位から得られた対照信号(b)と比較して示す。図11Dは、H&E染色からの病理切片を示す。可視的なマイクロプリズムを含むシルクフィルム(2)が皮下組織(3および4)と接触しており、深い方の皮下組織(4)と比べたとき移植片の真下の皮下組織(3)が肥厚し、炎症性細胞の流入がないか、または移植片に対する重大な生物学的反応の兆候がないことが示される。皮下脂肪層(5)は影響を受けない。
【図12】図12A〜12Dは、移植に用いられたシルク反射体の顕微鏡画像を示す。
【図13】図13は、マウス内に4週間留置した後のシルク移植片の移植後分析を示す。(a)、(b)および(c)に関係する矢印は、移植したフィルムのまわりに発生している血管再生を示す。
【図14】マウスに移植された(4週間の移植期間後の)1cm反射体の組織学的断面の完全な暗視野顕微鏡画像を示す。外側の表皮層(1)と皮下組織(2)、可視的なマイクロプリズムを含むシルクフィルム(3)、皮下組織(4、5および6)、ならびに筋組織(7)が見られる。皮下組織は、深い方の皮下組織(4)と比べたとき、移植片の真下の皮下組織(3)の肥厚を示す。皮下脂肪層は影響を受けない(5)。
【図15】マウス実験および脂肪組織実験のためのモンテカルロ・シミュレーションに用いられる媒質のジオメトリーを示す概略図である。後者のケースでは、組織表面からのコーナーキューブマイクロアレイの距離を1mmとした。全反射が皮膚-アレイ(または脂肪-アレイ)界面で考慮される。
【図16】吸収係数に対してプロットされた、コーナーキューブマイクロアレイが組織中に存在する(Ra)または存在しない(R)ときの反射された力の相対変化を示すグラフである。
【図17】吸収係数に対してプロットされた、コーナーキューブマイクロアレイが組織中に存在する(Ra)または存在しない(R)ときの反射された力の相対変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
本発明の一局面は、生体適合性および生体吸収性のシルクフィブロインタンパク質により構成される光反射体を作製するための組成物および方法に関し、したがって、吸収性の光学デバイス/コンポーネントとして生体内に組み込むことができる、光学的に有用で移植可能なコンポーネント/デバイスを提供する。例えば、シルク再帰反射体は、画像化された皮層の画像平面を回転させるためにミリメートルサイズのマイクロプリズムアレイを利用することができ、したがって、分析されるサンプル中に挿入されたとき反射方向で検出される光子の量を増やして、最終的に多光子顕微鏡法におけるコントラスト比を増加させることができる。このような材料プラットフォームの開発は、光学およびフォトニック・コンポーネントの作製に適すると同時に、取り出す必要なくヒトの体内に導入できる材料の、医療用画像診断分野におけるニーズに対処するものである。
【0014】
上記材料へのアプローチは、今日の移植可能な光学デバイスからのパラダイムシフトを提供することができる。例えば、光学およびフォトニック・デバイス/コンポーネントは、生体適合性、移植可能性、および生体吸収性を同時に兼ね備えた、シルクフィブロインのような材料で製造することができ、そうしたデバイスは、それらの診断上の有用性が使い尽くされると、再生された天然組織に時間の経過とともに完全に組み込まれ、そのため取り出す必要がなくなる。これは、光学応答を関心対象の診断部位から発生させて、最終的に天然組織を光インターフェースに変換する、インビボ・スクリーニングモダリティの有用性を拡大することができる。一方、そのような材料から作られて、ヒトの体内に直接導入された、光学およびフォトニック・デバイス/コンポーネントはまた、高められた内因性光学応答の検出または診断上関心のある選択されたスペクトル部分の検出をも可能にすることができる。
【0015】
バイオポリマーの使用は、光電子デバイスとフォトニックデバイスにおいてますます広まってきている。Steckl et al., 1 Nat. Photonics 3 (2007); Hagen et al., 88 Applied Phys. Lett. 171109 (2006); Dong et al., 442 Nature 551 (2006)。ポリ乳酸(Howard et al., 299 Biochem. Biophys. Res. Commun. 208 (2002); Partridge et al., 292 Biochem. Biophys. Res. Commun. 144 (2002))およびコラーゲン(Stone et al., 79 J. Bone Joint Surg. Am. 1770 (1997))などのポリマーは、移植可能な、吸収性の生体材料マトリクスとして使用されている。上記アプローチでの材料プラットフォームは、ガラス、プラスチックまたは(無機)ポリマーなどの一般的な光学基板に匹敵する光学的機能および性能を提供するポリマー材料を必要とする。精製シルクは都合が良いことにそのような形質を兼ね備えている。
【0016】
シルクフィブロインは、その光学的特性(Lawrence et al., 9 Biomacromolecules 1214 (2008))、機械的特性(Altman et al., 24 Biomat. 401 (2003); Jiang et al., 17 Adv. Funct. Mater. 2229 (2007))、あらゆる水性加工処理(Sofia et al., 54 J. Biomed. Mater. Res. 139 (2001); Perry et al., 20 Adv. Mater. 3070-72 (2008))、比較的容易な官能化(Murphy et al., 29 Biomat. 2829-38 (2008))、および生体適合性(Santin et al., 46 J. Biomed. Mater. Res. 382-9 (1999))のため、そうしたデバイスを形成するための特に魅力的なバイオポリマー候補である。例えば、シルクフィブロインは、すぐれた表面品質と光透過性を備えた、薄くて、機械的に強靭なフィルムに加工することが可能である。
【0017】
シルクは、米国食品医薬品局により承認された組織工学用足場としてヒト移植片で使用されている。Altman et al., 24 Biomaterials: 401 (2003)。再生シルクは、マイクロ-およびナノスケールでの機能を備えた精巧な光学コンポーネントを製造するための材料プラットフォームとして適することが最近示された。Amsden et al., 22 Adv. Mater. 1-4 (2010); Lawrence et al., 9 Biomacromolecules 1214 (2008); Omenetto & Kaplan, 2 Nat. Photonics 641 (2008); Perry et al., 20 Adv. Mater. 3070 (2008)。フリースタンディングの再生シルクから作られた光学コンポーネントは、屈折性または回折性であり、マイクロレンズアレイから、白色光ホログラム、回折格子および平面フォトニック結晶(20ナノメートル未満の最小機能サイズを有する)までに至る光学素子を含む。全体的にシルクで構成されるこれらのコンポーネントは、十分に分解性、生体適合性および移植可能な、機械的に安定した高品質の光学素子を提供するのに必要な性質を備えている。Omenetto & Kaplan, 2008。
【0018】
本明細書中で用いる「シルクフィブロイン」という用語には、カイコのフィブロインと昆虫またはクモのシルクプロテインが含まれる。例えば、Lucas et al., 13 Adv. Protein Chem. 107 (1958)を参照されたい。どのようなタイプのシルクフィブロインでも本発明に従って用いることができる。カイコガ(Bombyx mori)などのカイコにより産生されるシルクフィブロインは最も一般的であって、地球にやさしい、再生可能な資源に相当する。例えば、シルク光学フィルムに用いられるシルクフィブロインは、カイコガの繭からセリシンを抽出することによって得られる。有機飼育のカイコの繭は市販もされている。しかし、多種多様なシルクが存在しており、例えば、クモの糸(例えば、ジョロウグモ(Nephila clavipes)から得られるもの)、トランスジェニックシルク、遺伝子改変シルク、例えば細菌、酵母、哺乳類細胞、トランスジェニック動物、またはトランスジェニック植物由来のシルク(例えば、WO 97/08315; 米国特許第5,245,012号参照)、およびそれらの変異体を用いることができる。
【0019】
シルクフィブロイン水溶液は当技術分野で知られた技術を用いて調製することができる。シルクフィブロイン溶液を調製するための好適な方法は、例えば、米国特許出願第11/247,358号; WO/2005/012606; およびWO/2008/127401に開示されている。シルク水溶液はその後、例えばシルクフィルム、コンフォーマルコーティングもしくは層、または3次元足場などのシルクマトリクスに、あるいはシルク反射体にさらに加工するためのエレクトロスパン繊維に、加工することができる。本明細書ではマイクロフィルトレーション工程を用いることができる。例えば、調製したシルクフィブロイン溶液は、シルクマトリクスへとさらに加工する前に、遠心分離およびシリンジベースのマイクロフィルトレーションによってさらに処理することが可能である。このプロセスはすぐれた光学品質と安定性のシルクフィブロイン溶液の製造を可能にする。マイクロフィルトレーション工程は、多くの場合、散乱を最小限にした高品質の光学フィルムの作製にとって望ましいことである。
【0020】
他の生体適合性および生分解性ポリマーをシルクフィルムに配合することが可能である。例えば、キトサンなどの追加のバイオポリマーは、望ましい機械的性質を示し、水中で処理することができ、シルクフィブロインと配合可能であり、光学用途のためのほぼ透明なフィルムを形成する。他のバイオポリマー、例えば、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン(pullan)、デンプン(アミロースアミロペクチン)、セルロース、アルギネート、フィブロネクチン、ケラチン、ヒアルロン酸、ペクチン、ポリアスパラギン酸、ポリリシン、ペクチン、デキストラン、および関連するバイオポリマー、またはこれらの組合せは特定の用途に利用することができ、合成の生分解性ポリマー、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリオルトエステル、ポリカプロラクトン、ポリフマレート、ポリ酸無水物、および関連するコポリマーも選択的に用いることができる。シルクフィルムに配合するために本明細書で選択されるポリマーは、シルクフィルムの光学品質または安定性に悪影響を与えてはならない。
【0021】
シルクフィブロインのフィルムは、シルクフィブロイン含有水溶液を支持基板上に沈積させ、そのシルクフィブロイン溶液をフィルムへと乾燥させることによって製造できる。これに関連して、シルクフィブロインベースの溶液でコーティングされた基板は、しばらくの間、例えば12時間、空気中にさらしておくことができる。シルクフィブロイン溶液を沈積させる工程は、例えば、シルクフィブロイン溶液を基板上にスピンコーティングして高さの不均一な薄膜の作製を可能にするスピンコーティング法を用いることによって、または単にシルクフィブロイン溶液を基板の上面に注ぐことによって、行うことができる。シルクフィブロインフィルムの性質、例えば厚さおよび他の成分の含量、ならびに光学的機能は、基板に塗布されるシルクフィブロイン溶液の濃度および/または体積、ならびにシルクフィブロイン溶液をシルクフィルムに加工するために用いる技術に基づいて、変更可能である。例えば、シルクフィルムの厚さは、溶液中のシルクフィブロインの濃度を変えることによって、または約2nm〜1mmの厚さを有するシルクフィブロインフィルムをもたらすシルクフィブロイン溶液の所望の体積を用いることによって、調節することができる。一態様では、シルクフィブロインのさまざまな濃度および回転速度を用いて、シルクフィブロインを基板上にスピンコーティングすることにより、約2nm〜約100μmの厚さを有するフィルムを作製することが可能である。本明細書で形成されるシルクフィブロインフィルムはすぐれた表面品質と光透過性を備えている。
【0022】
本発明の一局面では、シルクフィルムの表面上に反射素子または反射素子のアレイを形成する工程を含む、シルク反射体の作製方法が提供される。本発明の別の局面はさらに、反射素子または反射素子のアレイがシルクフィルムの表面またはシルクフィルムの各層の表面に形成されている、シルクフィルムの1つまたは複数の層を含むシルク反射体を提供する。
【0023】
いくつかの態様において、反射素子または反射素子のアレイは、その反射素子または反射素子のアレイを有するマスターパターンから複製することによって、シルクフィルムの表面に形成され得る。
【0024】
あるいはまた、反射素子または反射素子のアレイは、反射粒子をシルクフィルムの中またはその表面上に分散させることによって、シルクフィルムの表面に形成することができる。例えば、反射粒子は、金もしくは銀ナノ粒子、またはそれらの組合せなどの、金属ナノ粒子であり得る。
【0025】
本明細書中で用いる「マスターパターン」という用語は、シルクフィルムの表面に複製される所望のパターンをもつ金型または鋳型をさす。マスターパターンは、シルク反射体に必要な反射機能に応じて、またはシルク反射体を含む光学デバイスに求められる反射機能に応じて、ミリ-、マイクロ-もしくはナノパターン化された表面であってよく、かつ/またはレンズ、マイクロレンズ、マイクロレンズアレイ、プリズム、マイクロプリズムアレイ、パターンジェネレーターなどの光学デバイスであってもよい。
【0026】
マスターパターンから複製される反射素子は、単一の反射素子、または1D、2Dもしくは3Dアレイの反射素子であり得る。反射素子はさまざまな形状およびジオメトリーを有するミラーおよび再帰反射体でありえ、限定するものではないが、以下のものが含まれる:フラットミラー、ダイヤモンドカット反射体、コーナーキューブ、半球面ジオメトリー、「キャッツアイ」ジオメトリーなどのジオメトリーをもつ再帰反射体またはミラー付きレンズ(例えば、Lundvall et al., 11 Optics Express, 2459 (2003)参照)、正方形、長方形、もしくは立方体キャビティの角など、複数の直交する平面を含む再帰反射キャビティ。
【0027】
本明細書中で用いる「再帰反射」という用語は、斜めに入射した光線を、それが光源またはそのすぐ近くにはね返るように、その入射方向と逆平行の方向もしくはほぼその方向に反射する属性をさす。再帰反射体は、広い角度にわたって、光をその源に向けてはね返すことができる。それゆえ、それらは、スペクトルフィルターの有無にかかわらず、単純な照明と検出を用いて高度に検出可能である。再帰反射体は、マクロスケールの再帰反射体のための信号または標識への反射輝度を高める再帰反射塗料から、ミクロスケールの再帰反射体のための医療用イメージング、バイオアッセイまたはバイオセンサーにおける生物学的認識素子に至るまで、幅広い用途で使用することができる。
【0028】
シルク反射素子は、当業者に知られた技術により製造することができる。一態様では、ソフトリソグラフィーに似ているマイクロモールディング技術(Perry et al., 20 Adv. Mater. 3070 (2008); Xia & Whitesides, 37 Angew. Chem. Int. Ed. 550 (1998))が、反射マイクロプリズムアレイマスターマスクを複製することによって、移植可能なシルク光学コンポーネントを製造するために用いられた。さらにWO 2009/061823も参照されたい。例えば、シルクフィブロインフィルムは、シルクフィブロイン溶液をパターン上にキャストして乾燥するソフトリソグラフィーキャスティング法を用いて、マイクロ-およびナノスケールでパターン化することができる。Perry et al., 2008を参照されたい。得られるデバイスは、図1に示すような、数平方センチメートルから数十平方センチメートルまでの寸法を有する厚さ100μmのフリースタンディングのシルク反射フィルムであった。
【0029】
他の態様では、室温ナノプリント技術もまた、約20nm以下の最小寸法を有する外形などの、微細な外形をもつシルク反射コンポーネントを製造するために使用することができる。PCT/US2010/024004を参照されたい。室温ナノプリント技術を用いると、温度に特に敏感な一部の簡便な生物活性剤の生物活性を維持することができ、さらに移植可能なシルク光学デバイス/コンポーネントに基づく生物活性ナノスケールデバイスの簡便な製造が可能となる。
【0030】
いくつかの態様において、シルク反射体は再帰反射体として用いられる。
【0031】
いくつかの態様において、シルク反射体は、広帯域光で照らされたとき、増加した反射率および感度を示す。照明はスペクトルフィルタリングなしの単純な白色光であってよい。
【0032】
いくつかの態様において、シルク反射体は特定の波長で増加した反射率および感度を示し、例えば、照明にフィルターをかけて特定の波長、例えば可視スペクトルでの特定波長を取り出すことができる。いくつかの態様では、シルク反射体の上に適用されるスペクトル要素は多層のスペクトルフィルターであり得る。
【0033】
本発明のいくつかの態様は、2次元(2-D)シルクマイクロプリズムアレイにより構成されるフリースタンディングの反射フィルムを作製することに基づいている。これらのシルクマイクロプリズムアレイは散乱媒質および生体組織と一体化させて、インビボおよびインビトロの両方での挙動が検討された。
【0034】
移植可能な受動的シルク光学コンポーネント/デバイスは、多くの局面で利用することができる。例えば、それは、生物標本を光学的にプローブするとき、検出器に返ってくる光の量を増やすために使用できる。
【0035】
少なくとも1種の活性剤をシルクフィルムまたは複数のシルク層に添加することが可能である。シルクフィブロイン溶液をシルクフィルムに加工する前またはその間に、活性剤をシルクフィブロイン溶液中に添加することができる。
【0036】
活性剤はシルクフィルムに埋め込むことができるどのような物質であってもよい。例えば、前記剤は以下であり得る:治療薬、または生物学的物質、例えば細胞(幹細胞を含む)、タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、DNA、RNA、siRNA)、核酸アナログ、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、アプタマー、抗体またはそのフラグメントもしくは部分(例えば、パラトープまたは相補性決定領域)、抗原またはエピトープ、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、増殖因子または組換え増殖因子ならびにその断片および変異体、細胞接着メディエーター(例えば、RGD)、サイトカイン、細胞毒素、酵素、小分子、薬物、染料、アミノ酸、ビタミン、抗酸化物質、抗生物質または抗菌性化合物、抗炎症剤、抗真菌剤、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、またはこれらの組合せ。例えば、PCT/US09/44117; 米国特許出願第61/224,618号を参照されたい。剤はまた、上で挙げた剤の任意の組合せであってもよい。治療薬もしくは生物学的物質またはこれらの組合せをカプセル化することは、カプセル化製品が多くの生体医療目的に使用できるため、望ましいことである。
【0037】
いくつかの態様において、活性剤は真菌、植物、動物、細菌またはウイルス(バクテリオファージを含む)などの生物であってもよい。さらに、活性剤には、神経伝達物質、ホルモン、細胞内シグナル伝達物質、薬学的活性剤、毒物、農薬、化学的毒素、生物毒素、微生物、ならびに動物細胞、例えば神経細胞、肝細胞および免疫系の細胞が含まれる。活性剤にはさらに、治療用化合物、例えば薬理活性物質、ビタミン、鎮静剤、睡眠薬、プロスタグランジンおよび放射性薬剤も含まれる。
【0038】
本明細書で用いるのに適した代表的な細胞としては、限定するものではないが、以下の細胞が挙げられる:始原細胞または幹細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、尿路上皮細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、眼細胞、軟骨細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、破骨細胞、ケラチノサイト、腎尿細管細胞、腎基底膜細胞、外皮細胞、骨髄細胞、肝細胞、胆管細胞、膵島細胞、甲状腺の、副甲状腺の、副腎の、視床下部の、下垂体の、卵巣の、精巣の、唾液腺の細胞、脂肪細胞、および前駆細胞。活性剤はまた、上で挙げた細胞の任意の組合せであり得る。WO 2008/106485; PCT/US2009/059547; WO 2007/103442も参照されたい。
【0039】
シルクフィブロインに組み込むことができる代表的な抗体としては、限定するものではないが、以下の抗体が挙げられる:アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、バシリキシマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、セルトリズマブペゴール、ダクリズマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、アルツモマブペンテト酸(altumomab pentetate)、アルシツモマブ、アトリズマブ、ベクツモマブ、ベリムマブ、ベシレソマブ、ビシロマブ、カナキヌマブ、カプロマブペンデチド、カツマキソマブ、デノスマブ、エドレコロマブ、エフングマブ(efungumab)、エルツマキソマブ(ertumaxomab)、エタラシズマブ、ファノレソマブ、フォントリズマブ(fontolizumab)、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、ゴリムマブ、イゴボマブ(igovomab)、イムシロマブ、ラベツズマブ、メポリズマブ、モタビズマブ(motavizumab)、ニモツズマブ、ノフェツモマブ・メルペンタン(nofetumomab merpentan)、オレゴボマブ、ペムツモマブ、ペルツズマブ、ロベリズマブ(rovelizumab)、ルプリズマブ、スレソマブ、タカツズマブ・テトラキセタン(tacatuzumab tetraxetan)、テフィバズマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ビシリズマブ、ボツムマブ、ザルツムマブ、およびザノリムマブ。活性剤はまた、上で挙げた抗体の任意の組合せであり得る。
【0040】
代表的な抗生剤としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:アクチノマイシン;アミノグリコシド系(例:ネオマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン);βラクタマーゼ阻害剤(例:クラブラン酸、スルバクタム);グリコペプチド系(例:バンコマイシン、タイコプラニン、ポリミキシン);アンサマイシン系;バシトラシン;カルバセフェム;カルバペネム系;セファロスポリン系(例:セファゾリン、セファクロル、セフジトレン、セフトビプロール、セフロキシム、セホタキシム、セフェピム、セファドロキシル、セフォキシチン、セフプロジル、セフジニル);グラミシジン;イソニアジド;リネゾリド;マクロライド系(例:エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン);ムピロシン;ペニシリン系(例:アモキシリン、アンピシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、オキサシリン、ピペラシリン);オキソリン酸;ポリペプチド系(例:バシトラシン、ポリミキシンB);キノロン系(例:シプロフロキサシン、ナリジクス酸、エノキサシン、ガチフロキサシン、レバキン、オフロキサシンなど);スルホンアミド系(例:スルファサラジン、トリメトプリム、トリメトプリム-スルファメトキサゾール(コトリモキサゾール)、スルファジアジン);テトラサイクリン系(例:ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリンなど);モノバクタム系、例えばアズトレオナム;クロラムフェニコール;リンコマイシン;クリンダマイシン;エタンブトール;ムピロシン;メトロニダゾール;ペフロキサシン;ピラジナミド;チアンフェニコール;リファンピシン;チアンフェニコール;ダプソン;クロファジミン;キヌプリスチン;メトロニダゾール;リネゾリド;イソニアジド;ピラシル(piracil);ノボビオシン;トリメトプリム;ホスホマイシン;フシジン酸;または他の局所抗生物質。場合により、抗生剤は抗菌性ペプチド、例えばデフェンシン、マガイニンおよびナイシン;または溶菌性バクテリオファージであってもよい。抗生剤はまた、上で挙げた剤の任意の組合せであり得る。さらに、PCT/US2010/026190も参照されたい。
【0041】
本明細書で用いるのに適した代表的な酵素としては、限定するものではないが、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、有機リン酸デヒドロゲナーゼ、リガーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラッカーゼなどが挙げられる。また、成分間の相互作用を用いて、例えばアビジンとビオチンとの特異的相互作用を介して、シルクフィブロインを官能化することも可能である。活性剤はまた、上で挙げた酵素の任意の組合せであってもよい。米国特許出願第61/226,801号を参照されたい。
【0042】
治療薬または生物学的物質をシルクフィルムに導入する場合、その活性剤と一緒に当技術分野で知られた他の物質を添加することもできる。例えば、その活性剤の増殖を促進する物質(生物学的物質の場合)、活性剤がシルクフィルムから放出された後にその剤の機能性を促進する物質、または活性剤がシルクに埋め込まれている期間中その効力を残存もしくは保持するその剤の能力を高める物質を添加することが望ましい。細胞増殖を促進することが知られている物質には、細胞増殖培地、例えばダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、ウシ胎児血清(FBS)、非必須アミノ酸および抗生物質が含まれ、かつ増殖および形態形成因子、例えば線維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、インスリン様増殖因子(IGF-I)、骨形態形成成長因子(BMP)、神経成長因子、および関連タンパク質を用いることができる。増殖因子は当技術分野で公知であり、例えば、Rosen & Thies, CELLULAR & MOLECULAR BASIS BONE FORMATION & REPAIR (R.G. Landes Co., Austin, TX, 1995)を参照されたい。シルクを介した送達のためのさらなる選択肢には、以下が含まれる:DNA、siRNA、アンチセンス、プラスミド、リポソーム、および遺伝物質の送達のための関連システム;細胞のシグナル伝達カスケードを活性化するためのペプチドおよびタンパク質;細胞からの無機化または関連事象を促進するためのペプチドおよびタンパク質;フィルム-組織の接触面を改善するための接着ペプチドおよびタンパク質;抗菌性のペプチドおよびタンパク質および関連化合物。
【0043】
あるいはまた、シルクフィブロインはヒドロキシアパタイト粒子と混合することができる。PCT/US08/82487を参照されたい。本明細書に記載するように、シルクフィブロインは組換え起源のものであってよく、線維性タンパク質ドメインと無機化ドメインを含む融合ポリペプチドを含むなどのシルクのさらなる修飾が提供され、これは、有機-無機複合材料を形成するために使用される。こうした有機-無機複合材料は、用いる線維性タンパク質融合ドメインのサイズに応じて、ナノスケールからマクロスケールまでを構築することができる。WO 2006/076711を参照されたい。さらに米国特許出願第12/192,588号も参照されたい。
【0044】
シルクフィブロインはまた、シルクタンパク質の物理的性質および官能性を変えるために、例えばジアゾニウムもしくはカルボジイミドカップリング反応、アビジン-ビオチン相互作用、または遺伝子改変などを介して、その溶液中で活性剤により化学的に修飾することもできる。例えば、PCT/US09/64673; PCT/US1O/41615; PCT/US10/42502; 米国特許出願第12/192,588号を参照されたい。
【0045】
活性剤または生物学的物質を含むシルク光学コンポーネントは、その細胞および/または活性剤の長期貯蔵および安定化に適している可能性がある。細胞および/または活性剤は、シルク反射コンポーネントに組み込まれると、室温(すなわち、22℃〜25℃)および体温(37℃)で少なくとも30日間安定であり得る(すなわち、少なくとも50%の残留活性を維持する)。それゆえ、一部の抗生物質のような、温度に敏感な活性剤を、冷蔵せずに、シルク光学フィルム中に保存することが可能である。重要なことは、温度に敏感な生物活性剤をシルク光学コンポーネントで体内に(例えば、注射により)送達して、以前に予想したよりも長期間にわたって活性を維持できることである。例えば、PCT/US2010/026190を参照されたい。
【0046】
シルク反射体デバイスは、湿ったまたはぬれた散乱環境のような、不規則な散乱および/または吸収媒質に組み込んで操作された場合でさえ、反射率を高めることができる。この不規則な散乱および/または吸収媒質には、シルク反射体デバイスが有用でありうる分野の当業者に知られた、あらゆる可能な散乱媒質が含まれる。例えば、散乱媒質は周囲の環境、湿ったまたはぬれた環境、水、液体、懸濁液またはゲル、生物学的環境、例えば生体内(この場合は、散乱媒質が生体組織または器官であり得る)であってよい。コヒーレント検出技術または増強用のコントラスト剤に頼ることなく、これらの媒質中のシルク反射コンポーネント/デバイスの反射率は、約10〜300%、例えば、少なくとも約20%、少なくとも約40%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、または少なくとも約250%に高められた反射率を有する。したがって、これらの媒質中のシルク反射コンポーネント/デバイスの反射率は、シルク反射体から検出源を遮断する散乱媒質の厚さが約0.1mm、約1mm、約1cm、および約10cm程度であるとき、向上した感度で、まだ検出することが可能である。
【0047】
一態様において、シルクマイクロプリズムアレイに基づく移植可能なシルク反射体は、コヒーレント検出技術またはいずれかの増強用コントラスト剤に頼ることなく、光学的に厚い組織に対する固有の感度を高めるために使用された。光学的に厚い組織、つまり深部組織は、典型的な光子の平均自由行程(赤色/近赤外スペクトル領域で最長であり、この領域ではほとんどの軟組織について0.1mm程度の値と仮定される)をはるかに超える距離にわたって延在する組織をさすことができる。例えば、光学的に厚い組織は200μmより深くてもよい。生体組織内に反射素子が埋め込まれていると、広く用いられる非侵襲的イメージング技術では一般に失われる前方散乱光子の収集およびリダイレクションが可能になると考えられる。Matcher et al., 1997; Zonios & Dimou, 2009。さらに、マイクロプリズムの移植は、光のテーラード・リダイレクションおよび画像化された層平面の回転によって多光子顕微鏡におけるコントラスト比を高めることに注目が集まっている。Chia & Levene, 102 J Neurophysiol. 1310 (2009)。
【0048】
シルク反射体はまた、光散乱が関係する光学的診断の場においても使用することができ、この場合には、被検体積からの特定のスペクトル情報が取得されて、関心対象の生理学的マーカーと関連づけられる。例えば、シルク反射体は、所望の光学応答のために異なるスペクトル応答要素、例えば異なるスペクトルフィルターと組み合わせて使用することができる。
【0049】
シルク反射フィルムは、取り出す必要なく生体組織に光学的機能性を追加する吸収性のフォトニック・コンポーネントを提供する。シルクフォトニックデバイスは、ヒトの体内に入れるためにマイクロ-およびナノ-フォトニクスの両方で設計することができ、医療診断システムの一部としてシームレスに、または比較的容易に、組み込むことができる。このアプローチはまた、内因性光学応答を高めて、画像のコントラストを上げることにより、またはアドホックなスペクトルフィルタリングを提供することによって、深部組織の光配信または光情報のリレーなどの追加機能を可能にする。
【0050】
さらに、シルクの材料特性は光学的機能と生物学的貯蔵の共存を可能にし(Lu et al., 2010; Szybala et al., 219 Exp. Neurol. 126 (2009); Witz et al., 29 Biomaterials 3609 (2008))、薬物/治療薬デリバリーのような機能性をも光学移植片に組み込むことができる多機能フォトニックシステムにつながる。フォトニックデバイスを取り出す必要がないことは、この材料プラットフォームの有用性を、医療用途を超えて環境モニタリングまたは食物連鎖の安全性へと広げ、そこでは、こうしたデバイスが環境または消費者に悪影響を及ぼすことなく使用され得る。
【0051】
また、移植可能な医療デバイスなどの生体組み込み型デバイスを設計することが望ましい場合があり、そうしたデバイスは、移植可能な医療デバイスと接触させる対象物の表面に容易に一致するように、デバイスの大部分が柔軟性を有するものである。例えば、そのデバイスは極薄で柔軟性のシルク反射フィルムから作製することができる。そうした移植可能なデバイスは、それゆえに、さまざまな器官または組織の曲面と共形接触(conformal contact)を形成することができる。シルク反射コンポーネントを含む生体組み込み型デバイスと対象物との共形接触は、そのデバイスを水溶液または対象物の湿潤表面と接触させることによって実現され得る。これに関して、移植可能なデバイスと、その移植可能なデバイスに接触させる対象物の表面との、共形接触を可能にするために、シルクフィルムは水溶液または湿潤表面と接触したとき少なくとも部分的に溶解可能である。本明細書においてシルクフィルムの各層は、水溶液または湿潤表面と接触したとき速やかな溶解を可能にするため、典型的に100μm以下、最大75μm、最大25μm、最大7μm、最大2.5μm、または最大1μmまでである。
【0052】
いくつかの態様において、シルク反射フィルムを含む生体組み込み型デバイスの設計は、デバイスの大部分が可溶性および/または生分解性であるようにする。したがって、そのデバイスは時間の経過とともに消失するかまたは再吸収されることとなり、こうした性質はそのデバイスを生体適合性にする。
【0053】
また、シルク反射コンポーネント/デバイスの溶解時間は、フィブロインタンパク質の自己集合プロセスの間に結晶化度を制御することによって、数日間から数ヶ月間まで調整することができる。Jin et al., 15 Adv. Funct. Mater. 1241 (2005); Lu et al., 6 Acta Biomater. 1380 (2010)。これは、インビトロおよび/またはインビボ試験で直面するような湿潤環境での長期操作に向けてデバイスを安定化するために、アニーリング工程を介してシルクフィルム内の水分量を調節することにより達成できる。
【0054】
シルク反射フィルムはさまざまな他の用途に利用することができる。一態様において、シルク反射フィルムは医薬品、食品もしくは任意の食用の新商品、またはホログラムラベルを含む任意のパッケージに貼付することができる。同様に、ラベルそれ自体が薬剤(例えば、抗生物質)などの活性剤を含んでもよい。例えば、WO 09/155397を参照されたい。
【0055】
別の態様において、シルク反射フィルムは、センサーおよび検出器、誘電体ミラーもしくはコーティング、イメージングデバイス、または薬物/治療薬デリバリーデバイスに作り上げることができる。例えば、活性剤(例:治療薬)または生物学的物質を埋め込んだシルク反射コンポーネントはバイオデリバリーデバイスに適している。バイオデリバリーデバイスとしてシルクフィブロインを用いる技術は、例えば、米国特許出願第10/541,182号;第11/628,930号;第11/664,234号;第11/407,373号;PCT/US07/020789;PCT/US08/55072;PCT/US09/44117に見いだすことができる。本発明のいくつかの態様は、医療移植片、組織修復および医療用イメージングデバイスにおいて潜在的に有用な薬物デリバリーシステムとしての、治療薬または生物学的物質を埋め込んだシルクフィブロインの有用性に関係する。
【0056】
バイオデリバリー手段としてのシルク反射フィルムは活性剤の制御放出をもたらすことができる。制御放出は、投与量が制御された放出速度で経時的に投与されることを可能にする。ある場合には、治療薬または生物学的物質の放出は、治療が必要とされる部位に、例えば数週間にわたって、持続する。例えば数日間もしくは数週間またはそれ以上にわたる、経時的な制御放出は、好適な治療を得るための治療薬または生物学的物質の持続放出を可能にする。制御されたデリバリー手段は、体液および組織中での、例えばプロテアーゼによる、インビボ分解から治療薬または生物学的物質を保護するため、有利である。例えば、PCT/US09/44117を参照されたい。
【0057】
シルク反射フィルムからの生物活性剤の制御放出は、例えば約12時間または24時間以上、1ヶ月または2ヶ月または5ヶ月以上の間起こるように設計することができる。放出の期間は、例えば、約12時間から24時間まで、または約12時間から1週間までの期間にわたって起こるように、選択することが可能である。別の態様では、放出は例えば約1ヶ月間から2ヶ月間のオーダーで起こり得る。制御放出時間は治療される症状に基づいて選択することができる。例えば、一貫した放出と高い局所用量が必要とされる場合には、特定の放出プロファイルがより効果的であり得る。
【0058】
シルク反射フィルムは、ミクロスフェア、パッド、多孔質構造体、またはフィルムを含めて、他のシルクベースの薬物デリバリー構築物と組み合わせることができる。例えば、PCT/US09/44117を参照されたい。
【0059】
また、シルク反射コンポーネントは組織工学にも使用することができる。例えば、シルク反射フィルムを人工組織に取り付けることが可能である。そうした技術は、人工組織の移植または任意の活動をインビボでモニタリングするなどの、機能性を人工組織にさらに与えるだろう。
【0060】
本発明の態様はまた、シルクフィルムの複数の層を含み、各シルク層がその上に形成された同一のまたは異なる反射素子を有する、シルク反射体を製造するための組成物および方法に関する。
【0061】
一態様においては、1つまたは複数のシルク層が他のものと異なる屈折率を有する。
【0062】
一態様においては、1つまたは複数のシルク層が他のものと異なる厚さを有する。
【0063】
シルク反射体の反射率は、シルクフィルムの厚さ、シルクフィルムの屈折率、シルクフィルム中の活性剤の埋め込み、官能基または化学的官能化またはシルクフィブロインの遺伝子改変によるシルクフィルムの表面修飾、シルクフィルムの構造変化または溶解などを変更することによって調整することができる。
【0064】
シルク反射体の反射率は、シルク反射フィルムの層の数、各シルクフィルムの厚さ、多層シルクフィルムの各層の屈折率、多層シルクフィルムの各層中の異なる活性剤の埋め込み、異なる官能基または化学的官能化のための異なる修飾戦略または多層シルクフィブロインの各層の遺伝子改変によるシルクフィルムの表面修飾、多層シルクフィルムの構造変化または漸進的溶解によってもまた調整することができる。
【0065】
本発明は以下の実施例によってさらに特徴づけられるが、これらの実施例は本発明の態様を例示するものである。
【0066】
本発明は、番号を付けた以下のパラグラフのいずれかにおいて定義され得る:
[82]反射素子または反射素子のアレイを有するマスターパターンからシルクフィルムの表面上に複製する工程を含み、反射素子がマイクロプリズムを含む、シルク反射体の作製方法。
[83]シルクフィルム中に反射粒子を分散させる工程をさらに含む、パラグラフ82記載の方法。
[84]反射粒子がAu、Ag、およびその組合せの群から選択される金属ナノ粒子である、パラグラフ83記載の方法。
[85]その上に形成された反射素子を有するシルクフィルムの複数の層を積み重ねる工程をさらに含む、パラグラフ82〜84のいずれか1つに記載の方法。
[86]少なくとも1つのシルク層が他のものとは異なる屈折率を有する、パラグラフ85記載の方法。
[87]少なくとも1つのシルク層が他のものとは異なる厚さを有する、パラグラフ85〜86のいずれか1つに記載の方法。
[88]シルクフィルムに少なくとも1種の活性剤を添加する工程をさらに含む、パラグラフ82〜87のいずれか1つに記載の方法。
[89]シルクフィルムを活性基で官能化する工程をさらに含む、パラグラフ82〜87のいずれか1つに記載の方法。
[90]シルク反射体の反射率が、シルクフィルムへの活性剤の添加または活性基によるシルクフィルムの官能化により調整される、パラグラフ88または89記載の方法。
[91]接触時にシルク反射体を対象の表面に合わせるために、シルク反射体の少なくとも一部を湿らせるかまたは溶解する工程をさらに含む、パラグラフ82〜90のいずれか1つに記載の方法。
[92]シルク反射体の反射率が、シルク反射体を部分的に溶解することによって調整される、パラグラフ91記載の方法。
[93]シルクフィルムの少なくとも1つの層を含むシルク反射体であって、シルクフィルム層の表面に反射素子または反射素子のアレイが形成されており、かつ反射素子がマイクロプリズムを含む、シルク反射体。
[94]シルクフィルム中に分散された反射粒子をさらに含む、パラグラフ93記載のシルク反射体。
[95]反射粒子がAu、Ag、およびその組合せの群から選択される金属ナノ粒子である、パラグラフ94記載のシルク反射体。
[96]シルク反射体がシルクフィルムの複数の層を含み、各シルクフィルム層がその上に形成された反射素子または反射素子のアレイを含む、パラグラフ93〜95のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[97]少なくとも1つの層が他のものとは異なる屈折率を有する、パラグラフ96記載のシルク反射体。
[98]少なくとも1つの層が他のものとは異なる厚さを有する、パラグラフ96〜97のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[99]シルクフィルム中に少なくとも1種の活性剤をさらに含む、パラグラフ93〜98のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[100]シルクフィルムが活性基で官能化されている、パラグラフ93〜98のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[101]シルク反射体の反射率が、シルクフィルムへの活性剤の添加または活性基によるシルクフィルムの官能化により調整される、パラグラフ99〜100のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[102]シルク反射体の反射率が、シルクフィルムからの活性剤の放出またはシルクフィルムの脱官能化により調整される、パラグラフ99〜100のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[103]再帰反射性である、パラグラフ93〜102のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[104]広帯域光を照射されるとき、増加した反射率を有する、パラグラフ93〜103のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[105]特定の波長で増加した反射率を有する、パラグラフ93〜103のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[106]シルク反射体の反射率の強度が、不規則な散乱媒質中に置かれたとき、少なくとも約40%増加している、パラグラフ93〜105のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[107]シルク反射体の反射率の強度が、不規則な散乱媒質中に置かれたとき、少なくとも約300%増加している、パラグラフ93〜105のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[108]散乱媒質が周囲環境、水、液体、懸濁液またはゲルであり、かつ検出源からシルク反射体を遮断する散乱媒質の厚さが約0〜10cmである、パラグラフ106〜107のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[109]散乱媒質が組織または器官であり、かつ検出源からシルク反射体を遮断する散乱媒質の厚さが約0〜2mmである、パラグラフ106〜107のいずれか1つに記載のシルク反射体。
[110]インビボ操作に対する光学的有用性を有する移植可能なシルク反射体であって、
シルク層の表面に形成された反射素子または反射素子のアレイを有するシルクフィルムの少なくとも1つの層を含み、
反射素子がマイクロプリズムを含み、かつ
シルク反射体が生体適合性および生体吸収性である、
移植可能なシルク反射体。
[111]シルクフィルム中に少なくとも1種の活性剤をさらに含む、パラグラフ110の移植可能なシルク反射体。
[112]シルクフィルムが活性基で官能化されている、パラグラフ110の移植可能なシルク反射体。
[113]移植可能なシルク反射体の反射率が、シルクフィルムへの活性剤の添加または活性基によるシルクフィルムの官能化により調整される、パラグラフ110〜112のいずれか1つに記載の移植可能なシルク反射体。
[114]移植可能なシルク反射体の反射率が、シルクフィルムからの活性剤の放出またはシルクフィルムの脱官能化により調整される、パラグラフ110〜112のいずれか1つに記載の移植可能なシルク反射体。
[115]移植可能なシルク反射体の反射率が、移植可能なシルク反射体を部分的に溶解することによって調整される、パラグラフ110〜114のいずれか1つに記載の移植可能なシルク反射体。
[116]広帯域光が照射されたとき、増加した反射率を有する、パラグラフ110〜114のいずれか1つに記載の移植可能なシルク反射体。
[117]特定の波長で増加した反射率を有する、パラグラフ110〜115のいずれか1つに記載の移植可能なシルク反射体。
[118]移植可能なシルク反射体の反射率の強度が、組織または器官中に置かれたとき、少なくとも約40%高められており、ここで、検出源から移植可能なシルク反射体を遮断する組織または器官の厚さが約0〜2mmである、パラグラフ110〜117のいずれか1つに記載の移植可能なシルク反射体。
[119]移植可能なシルク反射体の反射率の強度が、組織または器官中に置かれたとき、少なくとも約300%高められており、ここで、検出源から移植可能なシルク反射体を遮断する組織または器官の厚さが約0〜2mmである、パラグラフ110〜117のいずれか1つに記載の移植可能なシルク反射体。
[120]パラグラフ96〜119のいずれか1つに記載のシルク反射体を含む誘電体ミラー。
[121]パラグラフ93〜119のいずれか1つに記載のシルク反射体を含む光学ラベル。
[122]パラグラフ93〜119のいずれか1つに記載のシルク反射体を含むバイオセンシングデバイス。
[123]パラグラフ93〜119のいずれか1つに記載のシルク反射体を含む移植可能なデバイス。
[124]パラグラフ93〜119のいずれか1つに記載のシルク反射体を含むイメージングデバイス。
[125]パラグラフ93〜119のいずれか1つに記載のシルク反射体を含む薬物デリバリーデバイス。
【0067】
本発明は、本明細書に記載した特定の方法論、プロトコール、および試薬などに限定されず、それ自体変化し得る。本明細書中で用いた用語は、特定の態様のみを説明する目的のためであり、特許請求の範囲によってのみ規定される本発明の範囲を限定するものではない。
【0068】
本明細書および特許請求の範囲で用いる単数形は、文脈上明確に別途示されない限り、複数形の照応を含むものであり、その逆も同様である。作業実施例または他に指示がある場合を除いて、本明細書中で用いる成分の量または反応条件を表す全ての数字は、あらゆる場合に用語「約」によって修飾されるものと理解すべきである。
【0069】
識別された全ての特許および他の刊行物は、例えば本発明と共に使用される可能性があるそうした刊行物に記載された方法論を、説明および開示する目的のために、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。これらの刊行物は、もっぱら本出願の出願日に先立つそれらの開示のために、提供される。これに関して何事も、本発明者らが先行発明という理由でまたは他のいずれかの理由でそのような開示に先行する権利を与えられない、ことを承認するものとして解釈されるべきでない。これらの文書の日付または内容についての表明に関する全ての報告は、本出願人に入手可能な情報に基づいており、これらの文書の日付または内容の正確さに関して承認をするものではない。
【0070】
別段の定義がない限り、本明細書中で用いる全ての技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。公知の方法、装置および材料はどれも本発明の実施または試験に使用することができるが、この点に関する方法、装置および材料は本明細書中で説明される。
【0071】
以下の実施例は、本発明のいくつかの態様および局面を例示するものである。関連分野の当業者には明らかなように、さまざまな修飾、付加、置換などを、本発明の精神または範囲を変えることなく行うことができ、そのような修飾および変更は、後続の特許請求の範囲で規定される本発明の範囲内に包含される。以下の実施例は、いかなる場合にも、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0072】
実施例1.シルクフィブロイン溶液の調製
シルクフィブロイン溶液の製造は以前に記載されている。Perry et al., 2008; McCarthy et al., 54 J. Biomed. Mats. Res. 139 (2001)。簡単に説明すると、生フィブロインフィラメントに結合した水溶性糖タンパク質であるセリシンを、NaC03の0.02M水溶液中でカイコの繭を60分間ボイルすることにより、シルク鎖から除去した。その後、残りのシルクフィブロイン束を精製水で十分に洗浄し、一晩乾燥させた。次に、乾燥したフィブロイン束をLiBrの9.3M水溶液中60℃で4時間溶解した。続いて、その溶液からLiBr塩を、Slide-A-Lyzer(登録商標)3.5K MWCO透析カセット(Pierce社, Rockford, IL)を用いる水ベースの透析プロセスにより、3日間かけて抽出した。残存している粒状物を遠心分離とシリンジベースのマイクロフィルトレーション(孔径5μm、Millipore社, Bedford, MA)にかけて除去した。この方法によって、光学的応用のために最小限の汚染物質を含みかつ散乱を少なくした8%〜10%(w/v)シルクフィブロイン溶液を得ることができる。
【0073】
シルクフィブロイン溶液は、必要に応じて、例えば約30%(w/v)に、濃縮することができる。例えば、WO 2005/012606を参照されたい。簡単に説明すると、より低い濃度のシルクフィブロイン溶液は、所望の濃度とするのに十分な時間にわたりPEG、アミロースまたはセリシンなどの吸湿性ポリマーに対して透析することができる。
【0074】
さらに、シルクフィブロイン溶液は、本明細書に記載する1種または複数種の生体適合性ポリマー、例えばポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、コラーゲン、フィブロネクチン、ケラチン、ポリアスパラギン酸、ポリリシン、アルギネート、キトサン、キチン、ヒアルロン酸など;または1種または複数種の活性剤、例えば細胞、酵素、タンパク質、核酸、抗体などと組み合わせることができる。例えば、WO 04/062697およびWO 05/012606を参照されたい。シルクフィブロインはまた、シルクタンパク質の物理的性質および機能性を変えるために、例えばジアゾニウムもしくはカルボジイミドカップリング反応、アビジン-ビオチン相互作用、または遺伝子改変などを介して、その溶液中で活性剤により化学的に修飾することもできる。例えば、PCT/US09/64673; PCT/US1O/41615; PCT/US10/42502; 米国特許出願第12/192,588号を参照されたい。
【0075】
実施例2.シルク反射フィルムの作製
シルク反射フィルムの作製は、ソフトリソグラフィーに類似するキャスティング技術を用いて得られた。Perry et al., 2008; Xia & Whitesides, 1998。簡単に説明すると、すぐれた光学品質および安定性のシルクフィブロイン溶液をマイクロプリズムマスター金型(3M(商標)SCOTCHLITE(商標)反射材-高光沢フィルム、3M社, St. Paul, MN)にキャストした。このマスターは、約100マイクロメートルの寸法を有しかつ図1および図2に示すようなグループにクラスター化された、マイクロプリズムのアレイから成る。
【0076】
そのシルク溶液を8〜12時間かけて乾燥および結晶化させ、その後それをマスター表面から機械的に分離した。顕微鏡で検査すると、シルク再帰反射フィルムはそのマスターを複製しており、図5に示すように、マスター金型と同様の反射外観を呈する。シルクの屈折率はn=1.54である。そのシルクフィルムは、機能の低下なしに、湿った環境での低減した溶解度を保証するために、水中アニーリングを行った。
【0077】
さらに、シルクフィルムは、例えば、ポリエチレングリコールにより(例えば、PCT/US09/64673参照)および/または活性剤をロードして生物と共に培養することにより、均一にまたは勾配をつけた状態で、活性化することが可能である。例えば、WO 2004/0000915; WO 2005/123114; 米国特許出願公開第2007/0212730号を参照されたい。ポリエチレングリコール、PEO、またはグリセロールなどの他の添加剤をシルクフィルムにロードして、シルクフィルムの特性、例えば形態、安定性、柔軟性などを変えることもできる。例えば、PCT/US09/060135を参照されたい。
【0078】
実施例3.反射測定
再帰反射シルクフィルムは、その再帰反射体の表面での照度レベルあたりの光度および再帰反射係数を(それぞれ、カンデラ/1xおよびカンデラ/(1x/m2)で)測定することによって特徴づけられた。
【0079】
複製されたシルクフィルムの反射体としての性能は、白色光源(例えば、閃光電球)により提供される擬似等方性照明にそのシステムを曝露することによって定量化した。シルクフィルムからの反射は、図3および図7に示すように、デジタルCCDカメラを用いて1.5メートルの距離で収集した。
【0080】
反射信号の増加を測定するための実験セットアップは図4および図7に示される。例えば、図7では、白色光源を用いて反射率の測定を行った。その白色光源に赤色フィルターをつけてスペクトル域を縮小させ、こうしてCCDの飽和を回避した。シルクフィルムレプリカとマスターの両方の反射率を明らかにした。どちらの場合にも、画像平面でCCDチップにより収集された強度値の複数のラインアウトの平均を取ることによって、画像を解析した。マスターおよびシルクレプリカからの反射で収集された値は、一致していることが判明し、反射係数(平らな再帰反射面の光度係数の、その面積に対する比として定義され、1平方メートルあたりのカンデラ数で表される)が300を超えていた(例えば、300と400の間)。例えば、図5を参照されたい。したがって、そのようなシルク再帰反射フィルムは、例えば防護用の装身具および衣類において、広角反射のために使用することができる。
【0081】
アニーリング工程(すなわち、シルクフィルムを水不溶性にする工程)は、シルクフィルムの表面の平坦性をいくらか喪失させ、それにより表面反射率を若干変化させる可能性がある。この平坦性の喪失はシルクフィルムを厚くする、例えば20μm以上にする、ことによって改善することができる。
【0082】
実施例4.動物実験
雌Balb/cマウス(6〜8週齢)にケタミン/キシラジン混合液の腹腔内注射で麻酔をかけた。動物が麻酔の「ステージ3」に達したことを確認するため、麻酔の深さを眼瞼反射と引き込み反射によりモニタリングした。動物が軽く麻酔されたら、背部の毛を剃り、70%エタノール、続いてベタジン手術用スクラブを用いて切開部を消毒した。ステージ3が確認された時点で、皮膚に小さな縦切開を施し、滅菌した移植片(エチレンオキシド滅菌)を挿入した。その切開をDexon 5-0縫合糸で閉じた。手術が完了したら、歩行ができるようになるまで動物を監視し、1回分の鎮痛剤(例えば、皮下にブプレノルフィン)を投与した。
【0083】
実施例5.シルク反射体の性能
シルクマイクロプリズム反射体の性能は図3に示すように評価され、バックグラウンド信号と比較して反射信号の桁違いの増加が示された。シルク反射体はまた、その光学性能をマスターパターンのそれと比較することによっても特徴づけられた。このデバイスは、等方性照明のもとで拡散反射光をモニタリングすることによって評価された。一般的に、シルク反射体はマスターパターンを忠実に複製しており、その光学性能はマスターパターンのそれに一致して、バックグラウンドと比較したとき拡散反射の桁違いの増加が測定された(図3および図5)。
【0084】
湿ったまたはぬれた散乱環境下でのシルク反射体の性能は、シルク反射フィルムを、厚さ4cmのゼラチンブロックの下に配置するか、またはタルク粉と水の懸濁液中に6.5cmの深さで沈めることにより評価した。このような条件は不規則な散乱媒質を模倣するために用いられた。どちらの場合にも、シルク反射体の存在は、検出器面での信号の著しい増加をもたらし、後方散乱信号の強度を桁違いに増加させ、散乱媒質中でシルク反射体を用いることによって、容易なイメージングまたは比較的容易なイメージングを可能にした。図4〜7も参照されたい。
【0085】
シルク反射体はまた、光散乱が関係する光学的診断の場においても使用することができ、この場合には、被測定体積からの特定のスペクトル情報が取得されて、関心対象の生理学的マーカーと関連づけられる。例えば、シルク反射体は、所望の光学応答のための異なるスペクトル応答要素、例えば異なるスペクトルフィルター、と組み合わせて使用することができる。
【0086】
生物組織に埋め込まれた2つのスペクトル応答要素が使用され、シルク反射体デバイスが存在するときの光学応答の変化を評価するためにインビトロ実験が行われた。図7〜9に示すように、シルク反射体を2つのタイプのスペクトルフィルターの下に配置した:10nmバンドパス多層フィルター(中心波長λ0=630nm)および赤い色素が埋め込まれた1つのセルロース層。これらは、組織構成物に埋め込んでデバイスの有効性を試験するために、既知の広帯域および狭帯域スペクトル応答を提供するように選択された。次に、反射体/スペクトル要素を厚さ800μmのブタ脂肪または筋組織の単一または複数の層で覆った(図9)。その後、得られた構造を、マルチモードファイバーを通して伝送されるインコヒーレント白色光を照射することによりプローブした。マルチモードファイバーは、拡散する再帰反射散乱信号のコレクターとして作用しかつそれを分光器にリダイレクトするファイバー後方散乱プローブの一部である。
【0087】
1つの脂肪組織層の存在下での後方散乱測定(図9B)は、その組織の下に挿入した色素含有層に起因する広帯域吸収を明らかにした。その信号強度は第2層を追加したとき低下し、信号のダイナミックレンジを犠牲にして、その全体的スペクトル応答を維持した。このケースで構造の下にシルク反射体が挿入されると、収集された後方散乱信号および信号のダイナミックレンジの大幅な増加が起こったが、これは色素含有層の真のスペクトル応答をより忠実に表している(図7)。反射体なしのケースに関して検出信号とダイナミックレンジの同様の増加(図9C)が筋組織を用いて検出され、この場合もフィルターの広帯域吸収が筋細胞のスペクトル特性および620nmでの主要なスペクトルピークとともに明らかにされた。同じ実験を繰り返して、組織構成物中に狭帯域(=10nm)バンドパスフィルターを挿入したところ、同様に、デバイスの帯域幅にわたって検出応答の増加が検出された(図8および10も参照されたい)。これらの結果は、組織の厚さ約1mmでのインビトロ環境におけるシルク反射体デバイスの作動の有効性を示した。
【0088】
シルク反射体は移植可能なデバイスとしてインビボで使用することができる。一態様では、Balb/cマウスにシルク反射体構造物を移植することによってインビボ試験を実施した。この実験は組織IACUCが承認したプロトコールに従って進めた。厚さ約100μmの〜1cm×1cmシルクマイクロプリズム反射フィルムをエチレンオキシドで滅菌し、その後マウスの背面切開部から皮下に挿入した。創傷部位を縫合した後、散乱信号を上記と同じ方法で測定した。図11は、デバイスの挿入、および後方散乱放射線の対応する測定値のセットを示す。図11に示すように、移植部位でファイバープローブにより収集されたマウス皮膚からの後方散乱光と対照部位との比較は、マウスの移植片なしの隣接部位と比較したとき、約40%の収集信号の一貫した改善を明らかにした。この実験結果を解釈するために、モンテカルロモデルを用いて、生体組織のようなランダム媒質における光伝搬を説明するために広く用いられる微積分方程式である、放射伝達方程式を解いた。Ishimaru, WAVE PROPAGATION & SCATTERING IN RANDOM MEDIA, (Wiley-IEEE Press, 1997)。
【0089】
上記のアプローチを用いて、シルク反射体の存在下での後方散乱信号強度を計算した。このシミュレーションでは、シルク反射体デバイスが100%の反射率を提供しかつ皮膚面下1.5mmの深さに配置されると仮定した。このシミュレーションは、NIR波長範囲(650〜850nm)で皮膚および筋組織に特有の、2つの異なる散乱係数の値(μ=10、15mm-1)および5つの異なる吸収係数の値(μa=0.005、0.02、0.015、0.02、0.03mm-1)を評価された。シミュレーションは、インビトロおよびインビボの両ケースで実験的に観察されるものとよく一致する、反射信号の予測された増加を示した。MCシミュレーションの詳細は実施例5で説明される。
【0090】
シルク反射体デバイスはまた、有害反応および吸収性についてもモニタリングされた。目に見える炎症は4週間にわたって認められず、これは移植されたシルク反射フィルムおよび下層組織の組織病理学的切片により確認された。シルク反射体は4週間の間にサイズが変わることが観察され、組織マトリクスへのシルク反射体の初期の再取り込みもこの時間枠にわたって観察され、例えばシルクフィルムの表面での血管再生が切除組織の検査の際に観察可能であった。例えば、図13を参照されたい。シルクマイクロプリズムアレイの形状は組織切片で確認することができる。例えば、図14を参照されたい。分解性フォトニクスの移植は、有害な生物学的作用を引き起こさず、かつまた、それらが再吸収されているとき長期間にわたって必要な機能を保持する、(シルクのような)材料を使用することによって達成され得る。さらに、シルクデバイスはまた、これらの観察を支持してインビボで制御された分解を示すことが実証された。Wang et al., 29 Biomats. 3415 (2008)。
【0091】
実施例6.理論的モデリング
(a)放射伝達方程式
放射伝達方程式(RTE)は次式により表される:

RTEは、(生体組織のような)ランダム媒質における光伝搬を説明するために広く用いられる微積分方程式である。Ishimaru, 1997。それは微視的レベルでのエネルギーバランスの一般原則から誘導される。
【0092】
方程式(1)において、

は比強度(または放射照度)であり、これは方向

に沿って位置

に時間tで見られた、単位面積、単位時間および単位立体角あたりの光子の数である;νは媒質中の光の速度である;μsおよびμtは、それぞれ散乱係数および全消散係数であり、ここでμt=μs+μaであり、μaは吸収係数である;

は位相関数であり、これは

に沿って移動する光子が

に沿って散乱される単位立体角あたりの確率密度を表す;この位相関数は積

(散乱角θ)にのみ依存すると仮定され;かつ

は光源項であり、これは方向

に沿ってポイント

に時間tで発生した、単位時間、単位体積および単位立体角あたりの光子の数である。
【0093】
方程式(1)では、狭い周波数帯域の光子のみが媒質中を移動していると仮定される(すなわち、散乱は弾性でなければならない)。方程式(1)は本明細書ではスカラー形式で書かれているが、それはまた、偏光または部分偏光の伝搬を記述するためにベクトル形式で書くこともでき、その場合には、比強度を、成分がストークスパラメーターであるベクトルで置き換える必要がある。Ishimaru, 1997。
【0094】
(b)モンテカルロ法
実験結果をより良く説明するために、モンテカルロ(MC)コードを用いてRTEを解いた。モンテカルロは、十分に確立された統計的法則に従って、ランダム媒質中の光子の実際の伝搬を直接シミュレーションすることによって方程式(1)を解く確率統計的手法である。Zaccanti et al., 3 Pure Appl. Opt., 897-905 (1994)。MCコードのコアは、間隔(0,1)に均一に分布する乱数を抽出するためのサブルーチンである。乱数(w1, w2, w3)のトリプレットを用いることによって、以前の散乱事象の座標が知られていると、散乱事象の場所を3D空間で更新することができる。2つの連続した散乱事象間の軌跡は直線の線分であると仮定される。乱数w1は散乱事象間の光路長Lを定めるために任意に選択することができ、w2およびw3はそれぞれ方位角φおよび散乱角θを定めるために用いることができる。2つの連続した散乱事象間の光路長Lおよび自由飛行の方向は次の方程式によって定義された:

【0095】
方程式(2)(式中、

である)の最後の等式は、数値的方法に頼ることによって(θ(w3)を見つけるために)反転させることができる。光子が媒質中に投入されるポイントの座標から出発して、光子が媒質中で動いている間の各散乱事象の座標を計算することができる。この手順は、光子の軌跡が1つまたは複数の検出器が配置されている媒質の境界の指定領域と交差する(有用なまたは検出される光子)か、または光子の軌跡がその媒質から脱出する(失われる光子)まで、繰り返された。光子の軌跡が媒質の境界と交差するたびに、拡散媒質と周囲の媒質との屈折率の不一致のため反射を考慮に入れることもできる。これは、新たに抽出された乱数(w4)と非偏光の反射係数(rt)との比較によって行った(Born & Wolf, PRINCIPLES OF OPTICS (Pergamon Press, 1987)):

【0096】
方程式(3)において、θtおよびθiは、交差ポイントで境界に垂直の方向に対して計算された、それぞれ透過角および入射角である。w4<rtotである場合、光子は反射され、新たな方向が式θrおよびθiに従って計算される、ここでθrは反射角である;w4>rtotである場合、光子は媒質を抜け出て、軌跡が終了する。同じ方法を用いて、ランダム媒質内の屈折率の不連続性を考慮することもできる。上で説明した統計的法則(方程式2)、いわゆる「ホワイトモンテカルロ(White Monte Carlo)」は、非吸収媒質の場合に実行された。
【0097】
その後、吸収係数の効果が微視的なベール・ランベルトの法則によって考慮された:光子が非吸収媒質を通って全光路長ιを移動した後に検出される場合、媒質が吸収性であるときに同じ光子を検出する確率はexp(-μaι)である。したがって、吸収の効果は、その光路長に応じて収集された光子の重さを再スケーリングすることによって考慮された。位相関数の場合は、多くの選択肢が可能であるにもかかわらず、Henyey-Greenstein位相関数が生体組織中の光伝搬の研究に広く採用されている:

【0098】
方程式(4)において、「g」は非対称パラメーターであり:g=<cos(θ)>、これは一般に生体組織において0.8より大きい値(前方散乱の高い確率)を有する。位相関数は全立体角(4πステラジアン)にわたって「1」に正規化された。モンテカルロ法のさらなる詳細は文献中に見いだすことができる。例えば、Wang et al., 47 Computer Methods & Programs Biomed. 131-46 (1995); Martelli et al., LIGHT PROPAGATION THROUGH BIOLOGICAL TISSUE & OTHER DIFFUSIVE MEDIA: THEORY, SOLUTIONS, & SOFTWARE, (SPIE Press, 2009)を参照されたい。
【0099】
実験結果を解釈するためのモデルの適用
マウス実験のMCシミュレーションでは、NIR波長範囲(650〜850nm)で皮膚および筋組織に特有の、2つの異なる散乱係数の値(μs=10、15mm-1)および5つの異なる吸収係数の値(μa=0.005、0.02、0.015、0.02、0.03mm-1)が用いられた。脂肪組織実験のシミュレーションでは、より低い吸収係数の値(μa=0.002、0.003、0.004、0.005mm-1)および散乱係数の値(μs=5mm-1)が選ばれた。この散乱係数の値は、例えば、脂肪成分が多い乳房組織に特有のものである。
【0100】
どちらの場合にも、単一の散乱事象を説明するために、非対称パラメーター g=0.9を用いるHenyey-Greenstein位相関数が選ばれた。光子は、図15に示すように、入力円筒形ビームにより規定された同一領域において90°のFOWで収集された。
【0101】
2つのシナリオ間の反射力の相対的増加を図16にプロットした:組織に埋め込まれたシルクマイクロアレイあり(Ra)およびなし(R)。示すように、プロットしたパラメーターは吸収係数に依存するように見えなかったが、散乱係数には一貫して依存するように見えた。計算値の誤差は約1%〜2%であった。連続した散乱事象間の平均自由光路長は1/μsであるので、1.5mmの深さに到達する光子はすでに拡散したと仮定することができる(平均で10〜15の散乱事象)。したがって、入力光の入射角が変化しても、修正を必要とするようには見えなかった。収集される光に対してより制限された(または非対称の)FOVを用いることも可能である。
【0102】
要約すると、図16に示すように、マウスにシルクマイクロアレイを埋め込むことによる実験で検出された反射の増加(約40%増加)は、MCシミュレーションにより得られた範囲に入る。脂肪組織に関しては、組織にシルクマイクロアレイを埋め込むことによる実験で検出された増加値(約230%)がやはり、MCシミュレーションにより得られた増加に近似している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射素子または反射素子のアレイを有するマスターパターンからシルクフィルムの表面上に複製する工程を含み、反射素子がマイクロプリズムを含む、シルク反射体の作製方法。
【請求項2】
シルクフィルム中に反射粒子を分散させる工程
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
反射粒子がAu、Ag、およびその組合せの群から選択される金属ナノ粒子である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
その上に形成された反射素子を有するシルクフィルムの複数の層を積み重ねる工程
をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのシルク層が他のものとは異なる屈折率を有する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのシルク層が他のものとは異なる厚さを有する、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
シルクフィルムに少なくとも1種の活性剤を添加する工程
をさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
シルクフィルムを活性基で官能化する工程
をさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
シルク反射体の反射率が、シルクフィルムへの活性剤の添加または活性基によるシルクフィルムの官能化により調整される、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
接触時にシルク反射体を対象の表面に合わせるために、シルク反射体の少なくとも一部を湿らせるかまたは溶解する工程
をさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
シルク反射体の反射率が、シルク反射体を部分的に溶解することによって調整される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
シルクフィルムの少なくとも1つの層を含むシルク反射体であって、シルクフィルム層の表面に反射素子または反射素子のアレイが形成されており、かつ反射素子がマイクロプリズムを含む、シルク反射体。
【請求項13】
シルクフィルム中に分散された反射粒子をさらに含む、請求項12記載のシルク反射体。
【請求項14】
反射粒子がAu、Ag、およびその組合せの群から選択される金属ナノ粒子である、請求項13記載のシルク反射体。
【請求項15】
シルク反射体がシルクフィルムの複数の層を含み、各シルクフィルム層がその上に形成された反射素子または反射素子のアレイを含む、請求項12〜14のいずれか一項記載のシルク反射体。
【請求項16】
少なくとも1つの層が他のものとは異なる屈折率を有する、請求項15記載のシルク反射体。
【請求項17】
少なくとも1つの層が他のものとは異なる厚さを有する、請求項15または16記載のシルク反射体。
【請求項18】
シルクフィルム中に少なくとも1種の活性剤をさらに含む、請求項12〜17のいずれか一項記載のシルク反射体。
【請求項19】
シルクフィルムが活性基で官能化されている、請求項12〜17のいずれか一項記載のシルク反射体。
【請求項20】
シルク反射体の反射率が、シルクフィルムへの活性剤の添加または活性基によるシルクフィルムの官能化により調整される、請求項18または19記載のシルク反射体。
【請求項21】
シルク反射体の反射率が、シルクフィルムからの活性剤の放出またはシルクフィルムの脱官能化により調整される、請求項18または19記載のシルク反射体。
【請求項22】
再帰反射性である、請求項12〜21のいずれか一項記載のシルク反射体。
【請求項23】
広帯域光が照射されるとき、増加した反射率を有する、請求項12〜22のいずれか一項記載のシルク反射体。
【請求項24】
特定の波長で増加した反射率を有する、請求項12〜22のいずれか一項記載のシルク反射体。
【請求項25】
シルク反射体の反射率の強度が、不規則な散乱媒質中に置かれたとき、少なくとも約40%増加している、請求項12〜24のいずれか一項記載のシルク反射体。
【請求項26】
シルク反射体の反射率の強度が、不規則な散乱媒質中に置かれたとき、少なくとも約300%増加している、請求項12〜24のいずれか一項記載のシルク反射体。
【請求項27】
散乱媒質が周囲環境、水、液体、懸濁液またはゲルであり、かつ検出源からシルク反射体を遮断する散乱媒質の厚さが約0〜10cmである、請求項25または26記載のシルク反射体。
【請求項28】
散乱媒質が組織または器官であり、かつ検出源からシルク反射体を遮断する散乱媒質の厚さが約0〜2mmである、請求項25または26記載のシルク反射体。
【請求項29】
インビボ操作に対する光学的有用性を有する移植可能なシルク反射体であって、
シルク層の表面に形成された反射素子または反射素子のアレイを有するシルクフィルムの少なくとも1つの層を含み、
反射素子がマイクロプリズムを含み、かつ
シルク反射体が生体適合性および生体吸収性である、
移植可能なシルク反射体。
【請求項30】
シルクフィルム中に少なくとも1種の活性剤をさらに含む、請求項29記載の移植可能なシルク反射体。
【請求項31】
シルクフィルムが活性基で官能化されている、請求項29記載の移植可能なシルク反射体。
【請求項32】
移植可能なシルク反射体の反射率が、シルクフィルムへの活性剤の添加または活性基によるシルクフィルムの官能化により調整される、請求項29〜31のいずれか一項記載の移植可能なシルク反射体。
【請求項33】
移植可能なシルク反射体の反射率が、シルクフィルムからの活性剤の放出またはシルクフィルムの脱官能化により調整される、請求項29〜31のいずれか一項記載の移植可能なシルク反射体。
【請求項34】
移植可能なシルク反射体の反射率が、移植可能なシルク反射体を部分的に溶解することによって調整される、請求項29〜33のいずれか一項記載の移植可能なシルク反射体。
【請求項35】
広帯域光が照射されたとき、増加した反射率を有する、請求項29〜34のいずれか一項記載の移植可能なシルク反射体。
【請求項36】
特定の波長で増加した反射率を有する、請求項29〜34のいずれか一項記載の移植可能なシルク反射体。
【請求項37】
移植可能なシルク反射体の反射率の強度が、組織または器官中に置かれたとき、少なくとも約40%高められており、ここで、検出源から移植可能なシルク反射体を遮断する組織または器官の厚さが約0〜2mmである、請求項29〜36のいずれか一項記載の移植可能なシルク反射体。
【請求項38】
移植可能なシルク反射体の反射率の強度が、組織または器官中に置かれたとき、少なくとも約300%高められており、ここで、検出源から移植可能なシルク反射体を遮断する組織または器官の厚さが約0〜2mmである、請求項29〜36のいずれか一項記載の移植可能なシルク反射体。
【請求項39】
請求項15〜38のいずれか一項記載のシルク反射体を含む誘電体ミラー。
【請求項40】
請求項12〜38のいずれか一項記載のシルク反射体を含む光学ラベル。
【請求項41】
請求項12〜38のいずれか一項記載のシルク反射体を含むバイオセンシングデバイス。
【請求項42】
請求項12〜38のいずれか一項記載のシルク反射体を含む移植可能なデバイス。
【請求項43】
請求項12〜38のいずれか一項記載のシルク反射体を含むイメージングデバイス。
【請求項44】
請求項12〜38のいずれか一項記載のシルク反射体を含む薬物デリバリーデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2012−533780(P2012−533780A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521730(P2012−521730)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/042585
【国際公開番号】WO2011/046652
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(510300430)タフツ ユニバーシティー/トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (12)
【Fターム(参考)】