説明

タンパク質のカルボニル化抑制剤及び肌の透明感向上剤

【課題】優れたタンパク質のカルボニル化抑制作用を有し、かつ安全性の高いタンパク質のカルボニル化抑制剤及び肌の透明感向上剤を提供する。
【解決手段】タンパク質のカルボニル化抑制剤又は肌の透明感向上剤に、マジョラム抽出物、真珠タンパク質加水分解物、油溶性甘草抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の天然物由来成分を有効成分として含有せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物に由来する成分を含有するタンパク質のカルボニル化抑制剤及び肌の透明感向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚の加齢に伴う老化や光老化との関係で、角層カルボニル化タンパク質の研究が盛んに行われている。カルボニル化タンパク質としては、一般に、タンパク質におけるLys、Arg、Proといったアミノ酸残基のNH基が直接酸化されてカルボニル基となった結果生成されるものと、脂質が酸化して過酸化脂質、さらには分解して反応性の高いアルデヒドとなり、それがタンパク質と結合することで生成されるものとがある(特許文献1参照)。
【0003】
皮膚においては、タンパク質が直接的に酸化される場合、また皮膚表面の皮脂がフリーラジカルによって酸化し、過酸化脂質が生成されることでタンパク質の酸化は開始される場合があると考えられる。いったん過酸化脂質が生成されると、酸化は連鎖的に進行し、肌表面に刺激を与えるだけにとどまらず、角質層の奥まで入り込んで細胞にダメージを与える。
【0004】
また、皮膚の最表層である角層は角質細胞からなり、その85%がタンパク質であるケラチンから構成されている。近年、このケラチンが、日常的に皮膚が受ける酸化的ストレス(紫外線、タバコの煙)等によってカルボニル化されることが知られている(非特許文献1参照)。通常、ケラチンは水分子を多く取り込んでいるが、カルボニル化されることによって水分子を排除してしまい、カルボニル化された後のケラチンは水分子を取り込むことができなくなり、さらに、このことが皮膚を乾燥させ、皮膚の外観を損なうことが知られている(特許文献2参照)。
【0005】
このように角層中のカルボニル化タンパク質が増加することによって、肌の透明性・保水性が失われるとともに(特許文献3参照)、肌の柔軟性・弾力性が失われてしまうことが知られている(特許文献4参照)。
【0006】
このようにして、皮脂、皮膚タンパク質のカルボニル化は、潤い、張り、明るさ等を維持することのできる、肌本来が有する機能をことごとく低下させると考えられ、外界の影響による角層タンパク質のカルボニル化が、肌の透明感の低下の一因と考えられている(非特許文献2参照)。
【0007】
したがって、表皮の角層タンパク質のカルボニル化を予防したり、そのカルボニル化度を低減させたりすることが、肌の透明感の向上に必要とされる。すなわち、タンパク質のカルボニル化を抑制することは、角質細胞の保水性の向上や、肌の透明感の向上に有用であると考えられる。
【0008】
また、加齢に伴い、カルボニル化タンパク質等の異常タンパク質が増加し、その異常タンパク質の生体内における蓄積が、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体病、トリプレットリピート病、筋萎縮性側索硬化症、白内障、動脈硬化、糖尿病性腎症等の多くの疾患に関与していることが知られている(特許文献5)。したがって、タンパク質のカルボニル化を防止・抑制することで、カルボニル化タンパク質に起因する疾患の予防、治療又は改善に有用であると考えられる。
【0009】
このように、肌の透明感を向上すること、タンパク質のカルボニル化を抑制することのできる物質は、非常に有用であることが考えられる。しかしながら、現在までのところ、かかる作用を有し、かつ安全性が高く、皮膚外用剤、美容用飲食品、研究用試薬等の成分として広く利用可能な優れた物質は、未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−340935号公報
【特許文献2】特開2004−107269号公報
【特許文献3】特開2005−249672号公報
【特許文献4】特開2006−349372号公報
【特許文献5】特許第4255432号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Jens J. Thiele et al., THE JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGY, Vol.113, No.3, 1999年, p.335, 339
【非特許文献2】Ichiro Iwai et al., J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn., Vol.42, No.1, 2008年, p.16-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明は、第1に、優れたタンパク質のカルボニル化抑制作用を有し、かつ安全性の高いタンパク質のカルボニル化抑制剤を提供することを目的とする。また、本発明は、第2に、優れた肌の透明感向上作用を有し、かつ安全性の高い肌の透明感向上剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のタンパク質のカルボニル化抑制剤及び肌の透明感向上剤は、マジョラム抽出物、真珠タンパク質加水分解物、油溶性甘草抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の天然物由来成分を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れたタンパク質のカルボニル化抑制作用を有し、かつ安全性の高いタンパク質のカルボニル化抑制剤及び肌の透明感向上剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施形態のタンパク質のカルボニル化抑制剤又は肌の透明感向上剤は、マジョラム抽出物、真珠タンパク質加水分解物、油溶性甘草抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の天然物由来成分を有効成分として含有する。
【0016】
ここで、本実施形態において「抽出物」には、上記植物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0017】
[マジョラム抽出物,キンギンカ抽出物,シャクヤク抽出物,セキセツソウ抽出物,月桃葉部抽出物,ジオウ抽出物の製造]
本実施形態において、マジョラム抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物を製造するために使用する抽出原料は、マジョラム(学名:Origanum majorana)、キンギンカ(学名:Lonicera japonica Thunberg.)、シャクヤク(学名:Paeonia lactiflora)、セキセツソウ(学名:Centella asiatica)、月桃(学名:Alpinia speciosa (Wendl.) K. Schum.)及びジオウである。
【0018】
マジョラム(Origanum majorana,別名:マヨラナ、オレガノ)は、シソ科ハナハッカ属に属する多年生草本であって、地中海沿岸、北アフリカ、西アジア等に分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る構成部位としては、例えば、葉部、茎部、花部、蕾部、根茎部、地上部又はこれらの混合物が挙げられ、これらの中でも特に葉部を用いるのが好ましい。
【0019】
キンギンカ(Lonicera japonica Thunberg.,別名:スイカズラ)は、スイカズラ科スイカズラ属に属する常緑つる性木本であり、日本全国、東アジア一帯等に自生しており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、茎部、花部、蕾部、果実部、果皮部、果核部、地上部、全草、又はこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部、茎部、花部又は蕾部である。
【0020】
なお、「花」とは、一般に、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体をいい、葉の変形である花葉と茎の変形である花軸とから構成され、花葉には、萼、花弁、雄しべ、心皮等の器官が含まれる。本発明において抽出原料として使用する「花部」には、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体の他、その一部、例えば、花葉、花被(萼と花冠)、花冠、花弁等も含まれる。
【0021】
シャクヤク(Paeonia lactiflora)は、ボタン科ボタン属に属する多年草であって、中国、シベリア等のアジア大陸北東部等に分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、花部、根部、葉部、枝部等が挙げられるが、好ましくは根部である。
【0022】
セキセツソウ(Centella asiatica)は、セリ科ボタン属に属する多年草であって、本州西南部、四国、九州、沖縄、朝鮮半島、台湾、中国等に分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、花部、根部、葉部、茎部、枝部等が挙げられるが、好ましくは葉部又は茎部である。
【0023】
月桃(Alpinia speciosa (Wendl.) K. Schum.)は、ショウガ科ハナミョウガ属に属する多年生常緑草本であって、九州南部からインドにまで分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。月桃は、沖縄ではサンニンと呼ばれ、琉球王朝以来の伝統菓子であるムーチーに利用されるほか、ハーブとしても利用されている。抽出原料として使用する部位は、葉部である。
【0024】
ジオウ(生薬名)は、中国原産のゴマノハグサ科アカヤジオウ属に属する多年草であるアカヤジオウ(学名:Rehmannia glutinosa)の根部であり、これらの地域から容易に入手することができる。ジオウは、従来、補血、強壮、止血等を目的として使用されている。
【0025】
マジョラム抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物のそれぞれに含有されるタンパク質のカルボニル化抑制作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって、上記植物からこの作用を有する抽出物を得ることができる。
【0026】
例えば、上記植物を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより、タンパク質のカルボニル化抑制作用を有する抽出物を得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、上記植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0027】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0028】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0029】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0030】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10〜90容量部を混合することが好ましい。
【0031】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液は、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0032】
精製は、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等により行うことができる。得られた抽出液はそのままでもタンパク質のカルボニル化抑制剤又は肌の透明感向上剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすい。
【0033】
上記のようにして得られる抽出物は、特有の匂いと味とを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、皮膚外用剤、美容用飲食品等に配合する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。
【0034】
[真珠タンパク質加水分解物の製造]
本実施形態における真珠タンパク質加水分解物は、真珠層を有する貝の貝殻及び/又は真珠を脱灰処理に付し、これにより得られる真珠タンパク質(コンキオリン)を加水分解してなるものである。
【0035】
真珠層を有する貝としては、例えば、ウグイスガイ科に属するアコヤ貝(学名:Pinctada fucata);イガイ科に属するイガイ(学名:Mytilus coruscum)、ムラサキイガイ(学名:Mytilus edulis);イシガイ科に属するイケチョウガイ(学名:Hyriopsis schlegelii)、カラスガイ(学名:Cristaria plicata)等が挙げられ、これらのうちアコヤ貝を用いるのが好ましい。
【0036】
真珠層を有する貝の貝殻及び/又は真珠は、そのまま又は粉砕して脱灰処理に付せられる。貝殻及び/又は真珠の脱灰処理は、常法により行えばよく、例えば、貝殻及び/又は真珠に酸又はその水溶液を添加して攪拌する。
【0037】
脱灰処理に使用し得る酸としては、貝殻及び/又は真珠に含まれる炭酸カルシウム等の無機成分を十分に溶出させ得るものであれば特に限定されるものではないが、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸;シュウ酸、炭酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、酒石酸、酢酸、ギ酸等の有機酸等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で使用してもよいし、2種以上の混酸を使用してもよい。
【0038】
酸又はその水溶液の添加量は、貝殻及び/又は真珠に含まれる炭酸カルシウム等の無機成分を十分に溶出させ得る量であればよく、使用する酸の種類等に応じて適宜設定すればよい。
【0039】
脱灰処理により得られた処理液を遠心分離、濾過、デカンテーション等の固液分離手段に付して不溶物を回収し、必要に応じて回収した不溶物に精製水を添加して再度遠心分離、濾過等の洗浄操作を繰り返し、不溶物を回収する。そして、得られる不溶物を、所望により粉砕機等を用いて微粉砕し、常法により乾燥して真珠タンパク質(コンキオリン)を得ることができる。
【0040】
そして、得られた真珠タンパク質(コンキオリン)を酸又はアルカリの水溶液を用いて加水分解する。
【0041】
真珠タンパク質(コンキオリン)の加水分解処理に使用し得る酸としては、例えば、塩酸、硫酸等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で使用してもよいし、両者を混合して使用してもよい。
【0042】
また、真珠タンパク質(コンキオリン)の加水分解処理に使用し得るアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で使用してもよいし、両者を混合して使用してもよい。
【0043】
酸又はアルカリの水溶液を使用して加水分解する場合、酸又はアルカリの水溶液の添加量や当該水溶液における酸又はアルカリの濃度は、貝殻及び/又は真珠に含まれる真珠タンパク質(コンキオリン)を加水分解し得るが、完全にアミノ酸にまで分解し得ない量であればよく、使用する酸又はアルカリの種類等に応じて当該水溶液の添加量や当該水溶液における酸又はアルカリの濃度を適宜変更することができる。
【0044】
また、加水分解処理は、0〜130℃、好ましくは50〜110℃の温度条件の下、30分〜10日間程度、好ましくは5時間〜5日間程度行う。
【0045】
このようにして加水分解処理により得られた溶液から酸又はアルカリを除去し、必要に応じて限外濾過処理に付して高分子ペプタイドを除去し、さらに濃縮、乾燥等の処理に付することで、真珠タンパク質加水分解物を得ることができる。
【0046】
酸又はアルカリは、加水分解処理により得られた溶液から常法により除去することができ、例えば、凍結乾燥、溶液中の酸又はアルカリを中和して脱塩する方法等が挙げられる。
【0047】
[油溶性甘草抽出物の製造]
本実施形態における油溶性甘草抽出物は、マメ科グリチルリーザ(Glycyrrhiza)属に属する多年生草本であるグリチルリーザ・インフラータ(Glycyrrhiza inflata)を抽出原料として使用し、抽出溶媒として有機溶媒を使用して得られる抽出物である。
【0048】
抽出原料として使用し得る構成部位は特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば葉部、茎部、花部、蕾部、果実部、根部、ストロン部又はこれらの混合物が挙げられ、これらの中でも根部及びストロン部が好ましい。また、抽出原料としては、生のものを使用しても乾燥させたものを使用してもよいが、工業的に製造されているグリチルリチンの抽出原料となっている乾燥根部及び乾燥根茎部、又はグリチルリチン等を得るために水で抽出した後の水抽出残渣を原料として使用することもできる。
【0049】
抽出溶媒として使用し得る有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、含水メタノール、含水エタノール、含水プロパノール等が挙げられる。さらには、超臨界流体として二酸化炭素を用いることもできる。これらの有機溶媒の中では、エタノール又は含水エタノールを使用するのが食品衛生法上の問題が少なく、好ましい。
【0050】
グリチルリーザ・インフラータ又はグリチルリーザ・インフラータ水抽出残渣から上述した有機溶媒で油溶性甘草抽出物を得るための方法は、特に限定されるものではないが、例えば、抽出原料に対し2〜10倍量の有機溶媒を加え、攪拌しながら常温で抽出する方法、加熱還流して抽出する方法等が挙げられる。
【0051】
得られた抽出液は、遠心分離、濾過等の固液分離手段により不溶物を除去した後、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0052】
精製は、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等により行うことができる。得られた抽出液(不溶物を除去した抽出液)は、抽出溶媒の種類に応じて、そのまま又はその濃縮液をタンパク質のカルボニル化抑制剤又は肌の透明感向上剤の有効成分として使用してもよいし、抽出溶媒を留去した乾燥物を当該有効成分として使用してもよいが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすいため好ましい。
【0053】
上記油溶性甘草抽出物は、特有の匂いと味とを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、皮膚外用剤、美容用飲食品等に配合する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。
【0054】
以上のようにして得られる各天然物由来成分は、優れたタンパク質のカルボニル化抑制作用を有しているため、この作用を利用して、タンパク質のカルボニル化抑制剤の有効成分として使用することができる。また、各天然物由来成分は、そのタンパク質のカルボニル化抑制作用を通じて、肌の透明感を向上させることができるため、肌の透明感向上剤の有効成分としても使用することができる。
【0055】
さらに、生体内のタンパク質がカルボニル化することでカルボニル化タンパク質が生成され、当該カルボニル化タンパク質が生体内に蓄積されると、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体病、トリプレットリピート病、筋萎縮性側索硬化症、白内障、動脈硬化、糖尿病性腎症等の疾患が発症すると考えられている。そのため、上記各天然物由来成分が有する優れたタンパク質のカルボニル化抑制作用を利用して、上記各天然物由来成分をタンパク質のカルボニル化に起因する上記疾患の予防・治療剤の有効成分として使用することができる。
【0056】
本実施形態のタンパク質のカルボニル化抑制剤又は肌の透明感向上剤は、マジョラム抽出物、真珠タンパク質加水分解物、油溶性甘草抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の天然物由来成分のみからなるものでもよいし、マジョラム抽出物、真珠タンパク質加水分解物、油溶性甘草抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の天然物由来成分を製剤化したものでもよい。
【0057】
本実施形態のタンパク質のカルボニル化抑制剤又は肌の透明感向上剤における上記天然物由来成分の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。なお、2種以上の天然物由来成分を有効成分として用いる場合、それらの配合比は、配合しようとする天然物由来成分のタンパク質のカルボニル化抑制作用の程度等により適宜調整すればよい。
【0058】
マジョラム抽出物、真珠タンパク質加水分解物、油溶性甘草抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の天然物由来成分は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。マジョラム抽出物、真珠タンパク質加水分解物、油溶性甘草抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の天然物由来成分は、他の組成物(例えば、皮膚外用剤、美容用飲食品等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0059】
なお、本実施形態のタンパク質のカルボニル化抑制剤又は肌の透明感向上剤は、必要に応じて、タンパク質のカルボニル化抑制作用を有する天然抽出物等を、マジョラム抽出物、真珠タンパク質加水分解物、油溶性甘草抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の天然物由来成分とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0060】
本実施形態のタンパク質のカルボニル化抑制剤又は肌の透明感向上剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。
【0061】
また、本実施形態のタンパク質のカルボニル化抑制剤又は肌の透明感向上剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0062】
本実施形態のタンパク質のカルボニル化抑制剤は、マジョラム抽出物、真珠タンパク質加水分解物、油溶性甘草抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の天然物由来成分が有するタンパク質のカルボニル化抑制作用を通じて、角層タンパク質のカルボニル化を抑制することができ、これにより、肌のくすみ等、肌の透明感の低下を抑制して美肌効果を得ることができる。また、本実施形態のタンパク質のカルボニル化抑制剤は、上記天然物由来成分が有するタンパク質のカルボニル化抑制作用を通じて、タンパク質のカルボニル化に起因する疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体病、トリプレットリピート病、筋萎縮性側索硬化症、白内障、動脈硬化、糖尿病性腎症等)を予防・治療することができる。ただし、本実施形態のタンパク質のカルボニル化抑制剤は、これらの用途以外にもタンパク質のカルボニル化抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0063】
本実施形態の肌の透明感向上剤は、マジョラム抽出物、真珠タンパク質加水分解物、油溶性甘草抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の天然物由来成分が有するタンパク質のカルボニル化抑制作用を通じて、角層タンパク質のカルボニル化を抑制することができ、これにより、肌の透明感を向上させることができる。ただし、本実施形態の肌の透明感向上剤は、これらの用途以外にもタンパク質のカルボニル化抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0064】
なお、本実施形態の肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サル等)に対して適用することもできる。
【0065】
本実施形態のタンパク質のカルボニル化抑制剤及び肌の透明感向上剤は、優れたタンパク質のカルボニル化抑制作用を有するとともに、皮膚に適用した場合の使用感と安全性に優れているため、例えば、皮膚外用剤に配合するのに好適である。
【0066】
ここで、皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、美容液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0067】
また、本実施形態のタンパク質のカルボニル化抑制剤及び肌の透明感向上剤は、優れたタンパク質のカルボニル化抑制作用を有するとともに、経口的に摂取した場合の安全性にも優れているため、例えば、美容用飲食品に配合するのに好適である。ここで、美容用飲食品としては、その区分に制限はなく、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。
【0068】
さらに、本実施形態のタンパク質のカルボニル化抑制剤及び肌の透明感向上剤は、優れたタンパク質のカルボニル化抑制作用を有するので、タンパク質のカルボニル化に関連する疾患の研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【実施例】
【0069】
以下、試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の試験例に何ら限定されるものではない。なお、本試験例においては、試料(試料1〜8)として表1に示す製品の凍結乾燥品を使用した。
【0070】
【表1】

【0071】
〔試験例1〕角層タンパク質のカルボニル化抑制作用試験
上記各天然物由来成分(試料1〜8)について、下記の方法により、角層タンパク質のカルボニル化抑制作用を試験した。
【0072】
頬部粘着テープ(製品名:角質チェッカー,アサヒバイオメッド社製)を上腕内側部に押し付けて角層(角質細胞)を採取した。上記試料(試料1〜8)を50容量%エタノール水溶液に溶解させた溶液0.02mLを20μmol/L次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬社製)水溶液0.98mLに添加した試料溶液(試料濃度は下記表2を参照)に、37℃で、16時間当該粘着テープを浸漬して、角層タンパク質のカルボニル化処理をし、カルボニル化レベルを以下の方法で評価した。
【0073】
0.1mol/Lの2-morpholinoethane sulfonic acid-Na(pH5.5)緩衝溶液で20μmol/Lの濃度になるように調整した蛍光ヒドラジド(fluorescein-5-thiosemicarbazide,AnaSpec社製)に上記粘着テープを浸漬させて、カルボニル化処理によりカルボニル化された角層タンパク質の当該カルボニル基をラベル化した。
【0074】
上記粘着テープを撮像し(撮影装置:蛍光顕微鏡オリンパスIX71,オリンパス社製)、得られた観察画像を解析して(解析ソフト:ImageJ,National Institute of Health社製)、角層面積あたりの蛍光輝度をカルボニル化レベルとした。また、コントロールとして、試料を添加していない20μmol/L次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬社製)水溶液に上記粘着テープを浸漬し、角層タンパク質をカルボニル化処理したものについて、同様に試験した。
【0075】
得られた結果から、下記式により角層タンパク質のカルボニル化抑制率(%)を算出した。
カルボニル化抑制率(%)={(A−B)/(A−C)}×100
式中、Aは「次亜塩素酸ナトリウム添加、試料無添加時の蛍光輝度」を表し、Bは「次亜塩素酸ナトリウム添加、試料添加時の蛍光輝度」を表し、Cは「次亜塩素酸ナトリウム無添加、試料無添加時の蛍光輝度」を表す。
結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示すように、上記各天然物由来成分(試料1〜8)は角層タンパク質のカルボニル化抑制作用を有することが判明し、上記各天然物由来成分(試料1〜8)が肌の透明感向上作用を有することが示唆された。なお、ジオウ抽出物(試料8)は、低濃度(10μg/mL)においては角層タンパク質のカルボニル化を抑制することができなかったが、高濃度(50μg/mL以上)であれば角層タンパク質のカルボニル化を抑制可能であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のタンパク質のカルボニル化抑制剤及び肌の透明感向上剤は、優れたタンパク質のカルボニル化抑制作用を有し、かつ安全性にも優れるため、皮膚外用剤又は美容用飲食品の配合成分、研究用試薬として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マジョラム抽出物、真珠タンパク質加水分解物、油溶性甘草抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の天然物由来成分を有効成分として含有することを特徴とするタンパク質のカルボニル化抑制剤。
【請求項2】
マジョラム抽出物、真珠タンパク質加水分解物、油溶性甘草抽出物、キンギンカ抽出物、シャクヤク抽出物、セキセツソウ抽出物、月桃葉部抽出物及びジオウ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の天然物由来成分を有効成分として含有することを特徴とする肌の透明感向上剤。

【公開番号】特開2011−148715(P2011−148715A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9497(P2010−9497)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】