説明

タンパク質の可溶性タンパク質としての製造方法

【課題】組換えタンパク質発現系を用いて、目的タンパク質を可溶性タンパク質として製
造すること。
【解決手段】分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、塩基性アミノ酸に
富むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、目的タンパク質をコードするポリヌ
クレオチドとを、この順に含有するポリヌクレオチドを用いてタンパク質を発現させるこ
とを特徴とする前記目的タンパク質を可溶性タンパク質として製造する方法、それに用い
られる発現ベクターなどを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的タンパク質を可溶性タンパク質として製造する方法に関する。より詳し
くは、分泌シグナルペプチドと塩基性アミノ酸に富むペプチドとを用いて目的タンパク質
を可溶性タンパク質として製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、細菌、酵母、昆虫、トランスジェニック動物、トランスジェニック植物な
どの宿主内での組換えタンパク質発現系、無細胞翻訳系などの多くの組換えタンパク質発
現系が開発されている。なかでも大腸菌は高密度に増殖させることが容易であり、しかも
宿主ベクター系の研究が進んでいることから、異種タンパク質の発現系として広く利用さ
れている。
一方、これらの組換えタンパク質発現系で目的タンパク質を発現させた場合、発現され
たタンパク質が正確に折り畳まれないためにそのタンパク質本来の機能を発現できなかっ
たり、封入体と呼ばれる不溶性の凝集体が形成されることが少なくない。このような場合
、例えば封入体を変性(可溶化)した後、再折り畳みを行っても、必ずしも正常に折り畳
まれた本来の機能を有するタンパク質が得られるとは限らない。また、本来の機能を発現
するタンパク質が得られたとしても、満足な回収率が得られないことも多い。
このような背景において、現在まで発現組換え目的タンパク質の封入体の形成を抑制す
る方法は、確立されていない。その代法として、可溶性の高い分子量4万のマルトース結
合タンパク質またはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)と不溶性目的タンパク
質とを融合させることにより可溶性蛋白として発現さすることが試みられている(非特許
文献1:Fox,J.D.and Waugh, D.S. (2003) Maltose-binding protein as a solubility e
nhancer. Methods Mol. Biol.205:99-117、非特許文献2:Ausubel, F.M. et al. eds. (
1996) Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 2, 16.0.1)。しかし、可溶性タ
ンパクが本来の活性を示さないこと、マルトース結合タンパク質またはGSTを削除した
場合、目的タンパク質が不溶化する等の問題があった。
【0003】
レニラルシフェリン結合タンパク質(以下RLBPと略記する)は、ウミシイタケ(Re
nilla reniformis)由来のカルシウム誘発ルシフェリン結合タンパク質(Calcium-trigger
ed luciferin-bindihg protein)として知られている。RLBPはアポタンパク質(アポ
RLBP)とセレンテラジン(ルシフェリン)の非共有結合複合体である(非特許文献3
:J. Biol. Chem. 254, 769-780 (1979))。RLBPがカルシウムイオンと結合すると、
セレンテラジンが放出される。放出されたセレンテラジンは、セレンテラジンを発光基質
とするレニラルシフェラーゼ、エビルシフェラーゼ、ガウシアルシフェラーゼ等によるル
シフェリン−ルシフェラーゼの発光反応に用いられる。
【0004】
大腸菌L−アスパラギナーゼ遺伝子をpelBリーダー配列およびN末端6×ヒスチジ
ンタグと融合させることにより、組換え大腸菌L−アスパラギナーゼを菌体外である培養
ろ液に発現させ、Ni−NTAアフィニティークロマトグラフィーで精製する方法が報告
されている(非特許文献4:Protein Express. Purif. 38, 29-36 (2004))。
【非特許文献1】Fox,J.D.and Waugh, D.S. (2003) Maltose-binding protein as a solubility enhancer. Methods Mol. Biol.205:99-117
【非特許文献2】Ausubel, F.M. et al. eds. (1996) Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 2, 16.0.1
【非特許文献3】J. Biol. Chem. 254, 769-780 (1979)
【非特許文献4】Protein Express. Purif. 38, 29-36 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記状況において、組換えタンパク質発現系を用いて、目的タンパク質を可溶性タンパ
ク質として製造することが、有用タンパク質の生産のために産業上強く望まれている。ま
た、タンパク質の機能や構造の研究といった研究分野においても強い要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シグナルペプチドを
コードするポリヌクレオチドと塩基性アミノ酸に富むポリペプチドをコードするポリヌク
レオチドを目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドと結合させたポリヌクレオチド
を含有する発現ベクターを用いて、グラム陰性菌中で目的タンパク質を発現させると、目
的タンパク質が可溶性タンパク質として発現されることを見出した。さらに、このように
して得られた目的タンパク質は、本来の機能を有していることが確認された。これらの知
見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1) 分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、塩基性アミノ酸に富む
ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、目的タンパク質をコードするポリヌクレ
オチドとを、この順に含有するポリヌクレオチドを用いてタンパク質を発現させることを
特徴とする前記目的タンパク質を可溶性タンパク質として製造する方法、
(2) タンパク質の発現が宿主細胞内で行われる上記(1)記載の方法、
(3) 宿主細胞がグラム陰性菌である上記(2)記載の方法、
(4) グラム陰性菌が大腸菌属の細菌である上記(3)記載の方法、
(5) 分泌シグナルペプチドがグラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドである上記(
1)〜(4)のいずれかに記載の方法、
(6) グラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドが、通性嫌気性桿菌由来の分泌シグナ
ルペプチドである上記(5)記載の方法、
(7) グラム陰性菌由来ののシグナルペプチドが、大腸菌の外膜タンパク質A由来の分
泌シグナルペプチド(OmpA)またはコレラ菌由来コレラトキシン由来の分泌シグナル
ペプチドである上記(5)記載の方法、
(8) 塩基性アミノ酸に富むポリペプチドが5〜12アミノ酸残基からなるポリペプチ
ドである上記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法、
(9) 塩基性アミノ酸に富むポリペプチドにおける塩基性アミノ酸の含有率が60%以
上である上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法、
(10) 塩基性アミノ酸に富むポリペプチドにおける塩基性アミノ酸がヒスチジン、ア
ルギニンおよびリジンから選択される上記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法、
(11) 塩基性アミノ酸に富むポリペプチドがポリヒスチジンである上記(1)〜(9
)のいずれかに記載の方法、
(12) 目的タンパク質の発現が、該目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを
含有する発現ベクターを用いて行われる上記(1)〜(11)のいずれかに記載の方法、
(13) グラム陰性菌の分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、5な
いし12個の塩基性アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと
、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含有するポリヌクレオチドを用いて
グラム陰性菌内でタンパク質を発現させることを特徴とする前記目的タンパク質を可溶性
タンパク質として製造する方法、
(14) OmpAをコードするポリヌクレオチドと、ポリヒスチジンをコードするポリ
ヌクレオチドと、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含有するポリヌクレ
オチドを用いて大腸菌属の細菌内でタンパク質を発現させることを特徴とする前記目的タ
ンパク質を可溶性タンパク質として製造する方法、
(15) 目的タンパク質が異種タンパク質である上記(1)〜(14)のいずれかに記
載の方法、
(16) 目的タンパク質が、アポRLBP、アポイクオリン、アポクライチィン、アポ
オベリンおよびアポマイトロコミンからなる群より選択されるいずれかである上記(1)
〜(14)のいずれかに記載の方法、
(17) 目的タンパク質がアポRLBPである上記(16)記載の方法、
(18) グラム陰性菌の分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、5な
いし12個の塩基性アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと
、アポRLBPをコードするポリヌクレオチドとを含有するポリヌクレオチドを用いてグ
ラム陰性菌内でタンパク質を発現させることを特徴とするアポRLBPの製造方法、
(19) OmpAをコードするポリヌクレオチドと、ポリヒスチジンをコードするポリ
ヌクレオチドと、アポRLBPをコードするポリヌクレオチドとを含有するポリヌクレオ
チドを用いて大腸菌内でタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質をペリプラズムス
ペースに蓄積させることを特徴とするアポRLBPの製造方法、
(20) 上記(17)〜(19)のいずれかに記載の製造方法によって製造されたアポ
RLBPとセレンテラジンまたはその誘導体とを接触させることを特徴とするRLBPの
製造方法、
(21) 上記(17)〜(19)のいずれかに記載の製造方法によって製造されたアポ
RLBPとセレンテラジンまたはその誘導体とを接触させてRLBPを調製することを特
徴とする、セレンテラジンまたはその誘導体の保存方法、
(22) 上記(17)〜(19)のいずれかに記載の製造方法によって製造されたアポ
RLBPとセレンテラジンまたはその誘導体とからなるRLBP、
(23)(a)分泌シグナルペプチドをコードする第1コード領域、
(b)塩基性アミノ酸に富むポリペプチドをコードする第2コード領域、および
(c)目的タンパク質をコードする第3コード領域を挿入することができる少なくとも1
つの制限酵素サイト
を含有することを特徴とする発現ベクター、
(23a) 前記第1コード領域がプロモーターに有効に連結している上記(23)記載
の方法、
(23b) 前記第1コード領域、前記第2コード領域および前記制限酵素サイトが同じ
読み枠内にある上記(23)記載の方法、
(23c) 前記第2コード領域が前記第1コード領域の下流にあり、前記制限酵素サイ
トが前記第2コード領域の下流にある上記(23)記載の方法、
(23d) 前記制限酵素サイトがマルチクローニングサイトである上記(23)記載の
方法、
(24) 分泌シグナルペプチドがグラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドである上記
(23)記載の発現ベクター、
(25) グラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドが通性嫌気性桿菌由来の分泌シグナ
ルペプチドである上記(24)記載の発現ベクター、
(26) グラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドが、大腸菌の外膜タンパク質A由来
の分泌シグナルペプチド(OmpA)またはコレラ菌由来コレラトキシン由来の分泌シグ
ナルペプチドである上記(24)記載の発現ベクター、
(27) 塩基性アミノ酸に富むポリペプチドが5〜12アミノ酸残基からなるポリペプ
チドである上記(23)〜(26)のいずれかに記載の発現ベクター、
(28) 塩基性アミノ酸に富むポリペプチドにおける塩基性アミノ酸の含有率が60%
以上である上記(23)〜(27)のいずれかに記載の発現ベクター、
(29) 塩基性アミノ酸に富むポリペプチドにおける塩基性アミノ酸がヒスチジン、ア
ルギニンおよびリジンから選択される上記(23)〜(28)のいずれかに記載の発現ベ
クター、
(30) 塩基性アミノ酸に富むポリペプチドがポリヒスチジンである上記(23)〜(
27)のいずれかに記載の発現ベクター、
(31)(a)グラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドをコードする第1コード領域、
(b)5ないし12個の塩基性アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードする第2コー
ド領域、および
(c)目的タンパク質をコードする第3コード領域を挿入することができる少なくとも1
つの制限酵素サイト
を含有することを特徴とする発現ベクター、
(32)(a)OmpAをコードする第1コード領域、
(b)ポリヒスチジンをコードする第2コード領域、および
(c)目的タンパク質をコードする第3コード領域を挿入することができる少なくとも1
つの制限酵素サイト
を含有することを特徴とする発現ベクター
などを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、目的タンパク質を組換えタンパク質発現系を用いて製造する場合に、
目的タンパク質を可溶性タンパク質として製造することができるので、目的タンパク質を
変性(可溶化)させる必要がない。よって、本発明によれば、目的タンパク質を効率的に
、高い回収率で得ることができる。
したがって、本発明は有用タンパク質や、機能や構造の解析対象となるタンパク質など
のタンパク質の製造方法として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、塩基性アミノ酸に
富むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、目的タンパク質をコードするポリヌ
クレオチドとを含有するポリヌクレオチドを用いてタンパク質を発現させることを特徴と
する前記目的タンパク質の製造方法、前記製造方法に使用することができる発現ベクター
などを提供する。本発明の製造方法によれば、分泌シグナルペプチドおよび塩基性アミノ
酸に富むポリペプチドと融合された状態で目的タンパク質を発現させることにより、目的
タンパク質が正常に折り畳まれずに封入体などを形成することを防止して、目的タンパク
質を可溶化された状態で、正常に折り畳まれた本来の機能を有するタンパク質として製造
することができる。
以下、本発明の目的タンパク質の製造方法などについて詳細に説明する。
【0010】
1.目的タンパク質の製造方法
本発明は、(1)分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、(2)塩基
性アミノ酸に富むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、(3)目的タンパク質
をコードするポリヌクレオチドとを、この順に含有するポリヌクレオチドを用いてタンパ
ク質を発現させることを特徴とする目的タンパク質の製造方法を提供する。以下、より詳
細に説明する。
(1)分泌シグナルペプチド
分泌シグナルペプチドとは、当該分泌シグナルペプチドに結合されたタンパク質または
ポリペプチドを、細胞膜透過させる役割を担うペプチド領域を意味する。このような分泌
シグナルペプチドのアミノ酸配列およびそれをコードする核酸配列は、当技術分野におい
て周知であり、報告されている(例えばvon Heijine G (1988) Biochim. Biohys. Acra 9
47: 307-333、von Heijine G (1990) J. Membr. Biol. 115: 195-201など参照。
分泌シグナルペプチドは、通常10〜50個程度のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列
を有し、そのアミノ酸残基の多く(通常55〜60%程度)は疎水性である。本発明で用
いられる分泌シグナルペプチドとしては、好ましくは原核生物由来、より好ましくはグラ
ム陰性菌由来、さらに好ましくは通性嫌気性桿菌由来、特に好ましくは大腸菌属、緑膿菌
属、サルモネラ菌属またはコレラ菌属の細菌由来の分泌シグナルペプチドが好ましい。ま
た、分泌シグナルペプチドとしては、例えばvon Heijine G & Abrahmsen, L. (1989) FEB
S Lett. 244:439-446. Tjalsma, H. et al. (2000) Microbiol.Mol Rev. 515-547などに
記載されてるものなども挙げられ、とりわけ大腸菌の外膜タンパク質A由来の分泌シグナ
ルペプチド(OmpA)(Ghrayeb, J. et al. (1984) EMBO J. 3:2437-2442)、コレラ
菌由来コレラトキシン由来の分泌シグナルペプチドなどが好ましい。
本発明で用いられる分泌シグナルペプチドは、当該分泌シグナルペプチドに結合された
タンパク質またはポリペプチドを細胞膜透過させる活性を有していればよいので、変異体
であってもよい。変異体としては、分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列において、1も
しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からな
り、かつ当該分泌シグナルペプチドに結合されたタンパク質またはポリペプチドを、細胞
膜透過させる活性を有するペプチドなどが挙げられる。このようなペプチドとしては、分
泌シグナルペプチドのアミノ酸配列において、例えば、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1
〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残
基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ当該ペプチ
ドに結合されたタンパク質またはポリペプチドを細胞膜透過させる活性を有するペプチド
が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加の数は、一般的
には小さい程好ましい。欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい
。また、このようなタンパク質としては、目的タンパク質のアミノ酸配列と80%以上、85
%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上99
.8%以上99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ当該ペプチドに結合され
たタンパク質またはポリペプチドを細胞膜透過させる活性を有するペプチドが挙げられる
。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。
分泌シグナルペプチドは、一般的には、膜透過に伴ってシグナルペプチダーゼによって
切断される切断部位を有する。本発明で用いられる分泌シグナルペプチドとしては、シグ
ナルペプチダーゼによる切断部位を有しなくてもよいが、切断部位を有するのが好ましい
。切断部位としては、目的タンパク質の発現に用いられる宿主(例えば、大腸菌など)の
分泌シグナルペプチダーゼによって切断されうるものが好ましく用いられる。
【0011】
(2)塩基性アミノ酸に富むポリペプチド
本発明で用いられる塩基性アミノ酸に富むポリペプチドとしては、塩基性アミノ酸を含
み、目的タンパク質のN末端側に融合させて発現させた場合に目的タンパク質の溶解性を
増大しうるものであればよい。塩基性アミノ酸に富むポリペプチドとしては、例えば、等
電点が生理的pHよりアルカリ側にあるポリペプチド、ポリペプチドを構成する全アミノ
酸残基に対する塩基性アミノ酸残基の数の割合(含有率)が30%以上であるポリペプチ
ドなどが挙げられる。塩基性アミノ酸残基の含有率は、60%以上であるのが好ましく、
さらに80%以上であるのが好ましく、特に100%であるのが好ましい。
本発明で用いられる塩基性アミノ酸に富むポリペプチドに含まれるアミノ酸残基数とし
ては、3〜20残基であるのが好ましく、さらに5〜12残基であるのが好ましく、特に
5〜8残基であるのが好ましく、とりわけ6残基であるのが好ましい。
塩基性アミノ酸とは、塩基性側鎖を有するアミノ酸を意味する。塩基性アミノ酸として
は、例えば、ヒスチジン、アルギニン、リジンなどが挙げられる。本発明で用いられる塩
基性アミノ酸としては、ヒスチジン、アルギニン、リジンが好ましく、特にヒスチジンが
好ましい。
塩基性アミノ酸に富むポリペプチドに含まれる塩基性アミノ酸残基に対するヒスチジン
残基の数の割合(含有率)としては、60%以上であるのが好ましく、さらに80%以上
であるのが好ましく、特に100%であるのが好ましい。
本発明で用いられる塩基性アミノ酸に富むポリペプチドとしては、なかでもポリヒスチ
ジンが好ましい。ポリヒスチジンに含まれるヒスチジン残基数としては、5〜12残基で
あるのが好ましく、さらに5〜8残基であるのが好ましく、特に6残基(ヒスチジンヘキ
サマー)であるのが好ましい。
【0012】
(3)目的タンパク質
本発明の製造方法における目的タンパク質には特に制限はない。例えば、組換えタンパ
ク質発現系で発現させた場合に封入体を形成しやすいタンパク質も可溶性タンパク質とし
て製造しうるので、好ましく用いることができる。また、目的タンパク質は、アポタンパ
ク質、すなわちホロタンパク質のタンパク質部分であってもよい。アポタンパク質として
は、例えば、アポRLBP(FEBS Lett. 268, 287-290 (1990)など参照)、アポイクオリ
ン(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82, 3154-3158 (1985)など参照 )、アポクライチィン
(FEBS Lett. 315, 343-346 (1993)など参照)、アポマイトロコミン(FEBS Lett. 333,
301-305 (1993)など参照)、アポオベリン(Gene 153,273-274 (1995)など参照)などが
挙げられる。アポRLBPのアミノ酸配列を配列番号:1に示す。
また、B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス、HIV、インフルエンザなどの病原性ウ
ィルスゲノムにコードされる、外被タンパク質、コアタンパク質、プロテアーゼ、逆転写
酵素、インテグラーゼなどのタンパク質(ウィルス抗原);抗体のFab、(Fab)2
;血小板由来増殖因子(PDGF)、幹細胞成長因子(SCF)、肝細胞成長因子(HG
F)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、神経成長因子(NGF)、上皮細胞増
殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インスリン様成長因子(IGF)な
どの増殖因子;腫瘍壊死因子、インターフェロン、インターロイキンなどのサイトカイン
類;エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因
子、マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチンなどの造血因子;黄体形成ホル
モン放出ホルモン(LH−RH)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、インス
リン、ソマトスタチン、成長ホルモン、プロラクチン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH
)、メラノサイト刺激ホルモン(MSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホ
ルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、バソプレシン、オキシトシン、カルシト
ニン、副甲状腺ホルモン(PTH)、グルカゴン、ガストリン、セクレチン、パンクレオ
ザイミン、コレシストキニン、アンジオテンシン、ヒト胎盤ラクトーゲン、ヒト絨毛性ゴ
ナドトロピン(HCG)、セルレイン、モチリンなどのペプチドホルモン;エンケファリ
ン、エンドルフィン、ディノルフィン、キョウトルフィンなどの鎮痛性ペプチド;スーパ
ーオキシドディスミュターゼ(SOD)、ウロキナーゼ、ティシュープラスミノーゲンア
クティベーター(TPA)、アスパラギナーゼ、カリクレインなどの酵素;ボムベシン、
ニュウロテンシン、ブラジキニン、サブスタンスPなどのペプチド性神経伝達物質;アル
ブミン;コラーゲン;プロインスリン;レニン;α1アンチトリプシンなども挙げられる
が、これらに限定されない。
【0013】
本発明の目的タンパク質には、上記タンパク質の変異体も含まれる。そのような変異体
としては、例えば、上記タンパク質のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ
酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ目的タンパク
質と同質の活性を有するタンパク質も含まれる。このようなタンパク質としては、上記タ
ンパク質のアミノ酸配列において、例えば、1〜100個、1〜90個、1〜80個、1〜70個
、1〜60個、1〜50個、1〜40個、1〜30個、1〜20個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、
1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸
残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ目的タン
パク質と同質の活性を有するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、
挿入および/または付加の数は、一般的には小さい程好ましい。欠失、置換、挿入及び付
加のうち2種以上が同時に生じてもよい。本明細書において、アポRLBPとは、配列番
号:1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質のみならず、その変異体をも意味する

【0014】
本発明の目的タンパク質には、目的タンパク質の「部分ペプチド」も含まれる。タンパ
ク質の部分ペプチドとしては、目的タンパク質のアミノ酸配列の一部の連続するアミノ酸
配列からなる部分ペプチドが挙げられ、目的タンパク質の活性と同質の活性を有するもの
が好ましい。例えば、目的タンパク質のアミノ酸配列において、少なくとも20個、好ま
しくは少なくとも50個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有するポリペプチドなど
が挙げられる。好ましくは、これらのポリペプチドは、目的タンパク質の活性に関与する
部分に対応するアミノ酸配列を含有する。また、本発明で使用される部分ペプチドは、上
記のポリペプチドにおいて、そのアミノ酸配列中の1または複数個(例えば、1〜20個
程度、より好ましくは1〜10個程度、さらにより好ましくは1〜5個程度)のアミノ酸
残基が欠失、付加、置換、または挿入により変更されているものでもよい。
本発明で用いられる部分ペプチドは抗体作成のための抗原としても用いることができる

【0015】
(4)本発明で用いられるポリヌクレオチド
本発明で用いられるポリヌクレオチドとしては、前述した分泌シグナルペプチド、塩基
性アミノ酸に富むポリペプチドまたは目的タンパク質をコードする塩基配列を含有するも
のであればいかなるものであってもよいが、好ましくはDNAである。DNAとしては、
ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、細胞・組織由来のcDNA、細胞・組織由来
のcDNAライブラリー、合成DNAなどが挙げられる。本発明の目的タンパク質をコー
ドするポリヌクレオチドの例として、アポRLBPをコードする合成DNAの塩基配列を
配列番号:2に示す。
ライブラリーに使用するベクターは、特に制限はなく、バクテリオファージ、プラスミ
ド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。また、前記した細胞・組織から
totalRNAまたはmRNA画分を調製したものを用いて直接 Reverse Transcription Po
lymerase Chain Reaction(以下、RT-PCR法と略称する)によって増幅することもできる

本発明で用いられる分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、塩基性ア
ミノ酸に富むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、目的タンパク質をコードす
るポリヌクレオチドとを含有するポリヌクレオチド(DNA)は、目的タンパク質をコー
ドするポリヌクレオチドと、分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは
塩基性アミノ酸に富むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの間に、さらに切断
可能なペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを有していてもよい。切断可能な
ペプチドリンカーとは、酵素的または化学的切断物質により切断することができるペプチ
ド配列を意味する。酵素(プロテアーゼ)または化学物質により切断されるペプチド配列
は多数知られている(例えば、Harlow and Lane, Antibodies:A Laboratory Manual, Co
ld Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (1988);Walsh, Protein
s Biochemistry and Biotechnology, John Wiley & Sons, LTD., West Sussex, England
(2002)など参照)。切断物質とは、ポリペプチドにおける切断部位を認識し、ポリペプチ
ド内の結合の切断によりポリペプチドを2つのポリペプチドに分割する化学物質または酵
素である。切断物質としては、例えば、化学物質、プロテアーゼなどが挙げられる。
【0016】
(5)目的タンパク質の製造
本発明の目的タンパク質は、具体的には、例えば分泌シグナルペプチドをコードするポ
リヌクレオチドと、塩基性アミノ酸に富むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと
、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドとを、この順に含有するポリヌクレオチ
ド(DNA)(以下、目的タンパク質の製造の説明においては、「本発明で用いられるポ
リヌクレオチド」と称することがある。)を連結(導入)した発現ベクターを用いて目的
タンパク質を発現させ、生成した目的タンパク質を分離・精製することによって製造する
ことができる。発現ベクターを用いた目的タンパク質の発現は、宿主細胞内、無細胞翻訳
系などのタンパク質発現系で行うことができる。目的タンパク質の発現は、前記した発現
ベクターの導入によって形質転換された宿主細胞(形質転換体)内で行うのが好ましい。
前記形質転換体を、導入された発現ベクターに連結(導入)された本発明で用いられるポ
リヌクレオチド(DNA)が発現可能な条件下で培養し、目的タンパク質を精製・蓄積さ
せ、分離・精製することによって製造することができる。宿主細胞としては、グラム陰性
菌が好ましく、特に大腸菌が好ましく用いられる。グラム陰性菌を宿主細胞として用いた
場合には、発現された目的タンパク質は、好ましくは、分泌シグナルペプチドによって細
胞内膜を透過し、ペリプラズムスペースまたは外膜を通過し培養上清中に分泌される。こ
こで、本発明の目的タンパク質は、異種タンパク質であってもよい。異種タンパク質とは
、宿主細胞などのタンパク質発現系において、天然には産生されないタンパク質を意味す
る。
以下、本発明の目的タンパク質の製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0017】
(発現ベクターの作成)
本発明で用いられる発現ベクターは、本発明で用いられるポリヌクレオチドを含有する
。 本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明で用いられるポリヌクレオチド
(DNA)を連結(挿入)することにより得ることができる。より具体的には、精製された
本発明で用いられるポリヌクレオチド(DNA)を適当な制限酵素で切断し、適当なベク
ターの制限酵素サイトまたはマルチクローニングサイトに挿入して、ベクターに連結する
ことにより得ることができる。本発明で用いられるポリヌクレオチドを挿入するためのベ
クターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド、バク
テリオファージなどが挙げられる。プラスミドとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミ
ド(例えばpUC8, pUC118, pUC119, pBR322, pBR325等)などがあげられる。バクテリオフ
ァージとしては、例えば、λファージなどがあげられる。
【0018】
本発明のポリヌクレオチドは、通常、適当なベクター中のプロモーターの下流に、発現
可能なように連結される。用いられるプロモーターとしては、宿主中で発現可能なものが
好ましい。より具体的には、例えば、形質転換する際の宿主が大腸菌属の細菌である場合
は、lppプロモーター、Trpプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター
、recAプロモーター、λPLプロモーターなどが好ましい。
本発明の組換えベクターには、以上の他に、所望によりリボソーム結合配列(SD配列)
、選択マーカーなどを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、
例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝
子などがあげられる。
【0019】
(形質転換体の作成)
本発明で用いられる形質転換体には、本発明で用いられるポリヌクレオチド(DNA)
が発現可能なように、本発明で用いられる発現ベクターが導入されている。上述したよう
にして得られた本発明で用いられるポリヌクレオチド(DNA)を含有する発現ベクター
を、適当な宿主中に導入することによって、形質転換体を作成することができる。宿主と
しては、本発明で用いられるポリヌクレオチド(DNA)を発現できるものであれば特に
限定されるものではなく、例えば、グラム陰性菌が挙げられる。グラム陰性菌としては、
例えば、通性嫌気性桿菌などが挙げられる。通性嫌気性桿菌としては、例えば、大腸菌属
、緑膿菌属またはサルモネラ菌属の細菌などがあげられる。大腸菌属の細菌としては、例
えば、大腸菌などがあげられる。緑膿菌属の細菌としては、例えば、緑膿菌などがあげら
れる。サルモネラ菌属の細菌としては、例えば、サルモネラ菌などがあげられる。宿主と
しては、なかでも、グラム陰性菌が好ましく、通性嫌気性桿菌がより好ましく、さらに大
腸菌属の細菌が好ましく、特に大腸菌が好ましい。
【0020】
発現ベクターの宿主への導入方法およびこれによる形質転換方法は、一般的な各種方法
によって行うことができる。発現ベクターの宿主細胞への導入方法としては、例えば、リ
ン酸カルシウム法(Virology, 52, 456-457 (1973))、エレクトロポレーション法(EMBO
J., 1, 841-845 (1982))などがあげられる。大腸菌属の細菌の形質転換方法としては、
例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)、Gene, 17, 107 (1982)などに
記載の方法などがあげられる。緑膿菌属の細菌の形質転換方法としては、例えば、エレク
トロポレーション法などがあげられる。サルモネラ菌属の細菌の形質転換方法としては、
例えば、エレクトロポレーション法などがあげられる。
このようにして、本発明で用いられるポリヌクレオチド(DNA)を含有する発現ベク
ターで形質転換された形質転換体を得ることができる。
(形質転換体の培養)
本発明で用いられる形質転換体の培養は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って
行うことができる。該培養によって、形質転換体によって目的タンパク質が生成され、ペ
リプラズムスペースまたは培養液中などに目的タンパク質が蓄積される。
【0021】
宿主が大腸菌属、緑膿菌属またはサルモネラ菌属の細菌である形質転換体を培養する培
地としては、該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転
換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用
いてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプンなどの
炭水化物、酢酸、プロピオン酸などの有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール
類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、
酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩ま
たはその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカーなどが
用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグ
ネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭
酸カルシウムなどが用いられる。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン
等の抗生物質を培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用い
た発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養する場合は、必要に応じてインデューサ
ーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換
した形質転換体を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)な
どを、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するとき
にはインドールアクリル酸(IAA)などを培地に添加してもよい。
【0022】
宿主が大腸菌属、緑膿菌属またはサルモネラ菌属の細菌の場合、培養は通常約15〜4
3℃で約3〜24時間行い、必要により、通気や撹拌を加える。
【0023】
(目的タンパク質の分離・精製)
上記培養物から、目的タンパク質を分離・精製することによって、本発明の目的タンパ
ク質を得ることができる。ここで、培養物とは、培養液、培養菌体もしくは培養細胞、ま
たは培養菌体もしくは培養細胞の破砕物のいずれをも意味する。目的タンパク質の分離・
精製は、通常の方法に従って行うことができる。
【0024】
具体的には、目的タンパク質がペリプラズムスペース中に蓄積される場合には、培養終
了後、通常の方法(例えば浸透圧ショック法など)により目的タンパク質を含む抽出液を
得ることができる。目的タンパク質が培養液中に蓄積される場合には、培養終了後、通常
の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により菌体もしくは細胞と培養上清とを分離する
ことにより、本発明のタンパク質を含む培養上清を得ることができる。目的タンパク質が
培養菌体内もしくは培養細胞内に蓄積される場合には、培養後、通常の方法(例えば、超
音波、リゾチーム、凍結融解など)で菌体もしくは細胞を破砕した後、通常の方法(例え
ば、遠心分離、ろ過など)により目的タンパク質の抽出液を得ることができる。
【0025】
このようにして得られた抽出液もしくは培養上清中に含まれる目的タンパク質の精製は
、通常の分離・精製方法に従って行うことができる。分離・精製方法としては、例えば、
硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、
アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法、限外ろ
過法などを単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。
【0026】
目的タンパク質がアポタンパク質である場合には、通常の方法、例えば、得られたアポ
タンパク質と非タンパク質成分とを接触させることにより、ホロタンパク質を製造するこ
とができる。例えば、上記のようにして得られたアポタンパク質がセレンテラジンを結合
するルシフェリン結合タンパク質のアポタンパク質(例えば、アポRLBP、アポイクオ
リン、アポクライチィンなど)である場合には、該アポタンパク質をセレンテラジンまた
はその誘導体(例えば、h-セレンテラジン、e-セレンテラジン、Bis-セレンテラジンなど
)と接触させることにより、該ルシフェリン結合タンパク質のホロタンパク質(例えば、
RLBP、アポRLBP、アポイクオリンなど)を得ることができる。より具体的には、
RLBPは、Charbonneau, H. and Cormier, M. J. Ca2+ -induced bioluminescence in
Renilla reniformis. Purification and characterization of a calcium-triggered luc
iferin-binding protein. (1979) J.Biol.Chem. 254, 769-780などに記載の製造方法に従
って製造することができる。イクオリンは、例えば、Shimomura, O. and Inouye, S. (19
99) The in situ regeneration and extraction of recombinant aequorin from Escheri
chia coli cells and the purification of extracted aequorin. Protein Expression a
nd Purification. 16: 91-95などに記載の製造方法に従って調製することができる。
セレンテラジンおよびセレンテラジン誘導体は溶液中では不安定であるが、本発明の製
造方法によって得られるルシフェリン結合タンパク質のホロタンパク質中に結合した状態
では安定である。したがって、本発明の製造方法によって得られるアポRLBPなどのル
シフェリン結合タンパク質のアポタンパク質は、セレンテラジンおよびその誘導体などの
ルシフェリンを安定に保存するために好適に使用することができる。
本明細書において、ルシフェリン結合タンパク質のホロタンパク質とは、ルシフェリン
結合タンパク質のアポタンパク質とルシフェリン(例えば、セレンテラジンなど)とから
なるものを含み、さらにルシフェリン結合タンパク質のアポタンパク質とルシフェリン誘
導体(例えば、h−セレンテラジン、e−セレンテラジン、Bis−セレンテラジンなど
のセレンテラジン誘導体など)とからなるものも含む。RLBPとは、アポRLBPとセ
レンテラジンとからなるものを含み、さらにアポRLBPとセレンテラジン誘導体とから
なるものも含む。
【0027】
2.本発明の発現ベクター
さらに、本発明は、(a)分泌シグナルペプチドをコードする第1コード領域、(b)
塩基性アミノ酸に富むポリペプチドをコードする第2コード領域、および(c)目的タン
パク質をコードする第3コード領域を挿入することができる少なくとも1つの制限酵素サ
イトを含有することを特徴とする発現ベクターも提供する。本発明の発現ベクターは、(
c)目的タンパク質をコードする第3コード領域を挿入することができる少なくとも1つ
の制限酵素サイトに、上述の目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを連結(挿入
)することにより、上述の目的タンパク質の製造に好適に使用することができる。
(a)分泌シグナルペプチドをコードする第1コード領域にコードされるシグナルペプ
チドとしては、上述の目的タンパク質の製造方法に記載されているものと同様のものが挙
げられる。
(b)塩基性アミノ酸に富むポリペプチドをコードする第2コード領域にコードされる
塩基性アミノ酸に富むポリペプチドとしては、上述の目的タンパク質の製造方法に記載さ
れているものと同様のものが挙げられる。
(c)目的タンパク質をコードする第3コード領域を挿入することができる少なくとも
1つの制限酵素サイトは、目的タンパク質をコードする第3コード領域を挿入することが
できる制限酵素認識部位を有するポリヌクレオチドを含有するものである。前記制限酵素
サイトとしては、目的タンパク質をコードする第3コード領域を挿入することができれば
よく、特に制限はないが、いわゆるマルチクローニングサイトであるのが好ましい。マル
チクローニングサイトなどの制限酵素サイトは、当技術分野において周知であり、報告さ
れている(例えば、Yanisch-Perron, C., Vieira, J. and Messing, J. Gene 33 (1985)
103-119、Improved M13 phage cloning vectors and host strains: Nucleotide sequenc
es of the M13mp18 and pUC19 vectors. Gene 33 (1985) 103-119など参照)。
目的タンパク質としては、上述の目的タンパク質の製造方法に記載されているものと同
様のものが挙げられる。
【0028】
本発明の発現ベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、
プラスミド、バクテリオファージなどが挙げられる。プラスミドとしては、例えば、大腸
菌由来のプラスミド(例えばpUC8, pUC118, pUC119, pBR322, pBR325等)などがあげられ
る。バクテリオファージとしては、例えば、λファージなどがあげられる。上述の目的タ
ンパク質の製造で用いられる宿主としてグラム陰性菌が好ましく、通性嫌気性桿菌がより
好ましく、さらに大腸菌属、緑膿菌属またはサルモネラ菌属の細菌が好ましく、特に大腸
菌属の細菌であるのが好ましいので、本発明の発現ベクターとしては、これらの細菌中で
複製可能なものが好ましく、さらに大腸菌属の細菌中で複製可能なものが好ましく、特に
大腸菌由来のプラスミドが好ましい。
【0029】
本発明の発現ベクターにおいては、通常、前記第1コード領域は、プロモーターに有効
に連結している。用いられるプロモーターとしては、宿主が大腸菌属の細菌である場合は
、lppプロモーター、Trpプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター、
recAプロモーター、λPLプロモーターなどが好ましい。上述の目的タンパク質の製
造で用いられる宿主として、グラム陰性菌が好ましく、通性嫌気性桿菌がより好ましく、
さらに大腸菌属、細菌が好ましく、特に大腸菌であるのが好ましいので、用いられるプロ
モーターとしては、これらの細菌中で発現可能なものが好ましく、さらに大腸菌属の細菌
中で発現可能なものが好ましく、特に大腸菌中で発現可能なものが好ましい。より具体的
には、lppプロモーター、Trpプロモーター、T7プロモーター、lacプロモータ
ー、recAプロモーター、λPLプロモーターなどが好ましい。
【0030】
前記第1コード領域、前記第2コード領域および前記制限酵素サイトは、同じ読み枠内
にあるように配置される。前記第2コード領域は、前記第1コード領域の下流にあるのが
好ましい。前記制限酵素サイトは、前記第2コード領域の下流にあるのが好ましい。
本発明の発現ベクターとしては、前記制限酵素サイトに、目的タンパク質をコードする
ポリヌクレオチドを含有する第3コード領域が組み込まれているものも好ましい。
また、前記タンパク質をコードする第3コード領域を挿入することができる少なくとも
1つの制限酵素サイトと、前記第1コード領域または前記第2コード領域との間に、さら
に切断可能なペプチドリンカーをコードする領域を有していてもよい。切断可能なペプチ
ドリンカーとは、上述の目的タンパク質の製造方法に記載されているものと同様の意味を
表す。プロテアーゼまたは化学物質で処理して切断可能なペプチドリンカーの切断部位を
切断することにより、第3コード領域にコードされる目的タンパク質を切り離すことがで
きる。
【0031】
発明を実施するための最良の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook,
E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd
edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. A
usubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Str
uhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの
標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用い
る。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それら
に添付のプロトコールを用いる。
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業
者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を実施できる
。発明を実施するための最良の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態
様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに
限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明
細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【実施例】
【0032】
以下に実施例により本発明を説明するが、実施例は本発明を制限するものではない。
[材料と方法]
まず、本実施例で用いた材料と方法について説明する。
(1)材料
セレンテラジンおよびセレンテラジン誘導体は市販品を用いた。セレンテラジン(チッ
ソ株式会社製)、h-セレンテラジン(チッソ株式会社製)、e-セレンテラジン(和光純薬
工業社製)、Bis-セレンテラジン(チッソ株式会社製)。
Renilla reniformisの組換えRenillaルシフェラーゼは文献記載の方法に従って調製し
た(Biochem. Biophys. Res. Commun. 233, 249-353 (1997)参照)。以下の材料は市販の
ものを用いた:キレート・セファロース・ファーストフロー、セファデックスG25(スー
パーファイングレード)(アマシャム・バイオサイエンス);イミダゾール、ジチオスレ
イトール(DTT)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、硫酸ニッケル六水塩(和光純薬工
業)。
(2)質量分析
マトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)をオートFLEX
(ブルーカー・ダルトニクス)上で、マトリックスとしてシナピン酸(アルドリッチ−シ
グマ)を用いて、Anal. Biochem. 316, 216-222 (2003)に記載の方法に従って測定した。
データはポジティブリフレクターモードで得た。時間−質量変換をアポミオグロビン(ウ
マ、m/z = 16952.6)を標準に用いた外部較正により行った。分子量の計算値をプログラ
ムExPASy PeptideMass(http://www.expasy.ch/cgi-bin/peptide-mass.pl)を用いて得た

(3) タンパク質濃度をブラッドフォードの色素結合法(Anal. Biochem. 72, 248-254
(1976))により、市販のキット(バイオラド)および標準物質としてウシ血清アルブミ
ン(ピアス)を用いて測定した。SDS-PAGE分析を還元条件下で、12%分離ゲル(テフコ)
を用いて、Laemmli法(Nature 227, 680-658 (1970))に従って行った。
【0033】
参考例1
(アポイクオリン発現ベクターpiP−HEの構築)
OmpAをコードする配列を有し、塩基性アミノ酸に富むポリペプチドをコードする配
列を有さないアポイクオリン発現ベクターpiP−HEは、Proc. Natl. Acad. Sci. USA
82, 3154-3158 (1985)、J. Biochem. 105, 473-477 (1989)、特開昭63−102695
号公報などに記載の方法に従って構築した。具体的には、以下のようにして構築した。
(1)piQ8−HEの作成
高コピーのクローニングベクターpUC8のEcoRI-HindIII部分を、それぞれの制限酵
素で消化後、その部分に特開昭61−135586号公報に記載の方法に従って得たcDNA
クローンpAQ440より得られたイクオリンcDNAのEcoRI-HindIIIフラグメントを、サ
ブクローニングを行うことによりpiQ8−HEを作成した。
(2)piP−HEの作成
piQ8−HEをScaI-HindIIIで消化後、その部分にpIN-III 113 ompA-1から切り出し
たリポプロテインのプロモーター(lpp)、lacオペレーターおよびompA遺伝子を含むScaI
-HindIIIフラグメントを挿入し、piP−HEを作成した。
【0034】
参考例2
(アポイクオリン発現ベクターpiP−His6−HEの構築)
OmpAおよびヒスチジンヘキサマーをコードする配列を有するアポイクオリン発現ベ
クターpiP−His−HEは、以下のようにして構築した。
参考例1記載の方法に従って得られたアポイクオリン分泌発現ベクターpiP−HEよ
り、カルボキシ末端側のEcoRIをKlenow fragmentでfill-inすることにより削除したpiP-H
EΔ2Eを使用し、piP-HEΔ2EのHindIII-EcoRI サイトに、6個のヒスチジンからなる配列
をコードするオリゴヌクレオチド(Eco-His6-Hind Linker: 5' AAT-TCC-CAC-CAT-CAC-CA-T
-CAC-CAT-GGT 3'(配列番号:3)、および Eco-His6-Hind Linker: 5'-AG-CTT-ACC-ATG
-GTG-ATG-GTG-GG 3'(配列番号:4)を挿入してpiP−His6−HEを作製した。
【0035】
参考例3
(アポRLBPをコードする遺伝子の設計および化学合成)
アポRLBPのcDNAは未だ単離されていないので、PCR手順を用いたオリゴヌクレオ
チドアセンブリ法によってアポRLBPをコードする遺伝子を化学合成した。
アポRLBP(184アミノ酸残基)をコードする遺伝子は、DNASISソフトウェ
アVer.3.7(日立ソフトウェアエンジニアリング)を用いてデザインした。この際
、大腸菌で好ましいコドンを用いず、アポRLBPの552ヌクレオチドの配列中に11
の制限酵素部位を導入した。20ヌクレオチドが重複するオリゴヌクレオチド(40 mer×
28、35 mer×1)をミリポアDNAシンセサイザー(モデルExpedite)を用いた
ホスホアミデート法により50 nmolスケールで合成し、ゲル精製法により精製し、真空乾
燥した。遺伝子アセンブリーを以下のようなPCR法(Gene 164, 49-53 (1995))を用い
て行った;乾燥したオリゴを蒸留水に約3.3 μg/μlの濃度(250 mM)で再懸濁し、内部
オリゴの溶液各1 μlを合わせ、混合液(0.4 μl)を各0.25 mMのdNTP、5単位のE
xTaqポリメラーゼ(宝酒造)および4 μlの10×ExTaq緩衝液(緩衝液組成は
製品添付書には示されていない)を含有する40 μlのPCR反応混合液に添加した。PC
Rプログラムとして、94℃−30秒、50℃−30秒、72℃−60秒を55サイクル
行った(パーキン・エルマー)。アセンブリー反応混合液(2.5 μl)を、両者外側のプ
ライマーセット(3.3 μg);HindIII部位を下線で示した15NL 5' GGCAAGCTT-CCA-GAA-G
TT-ACT-GCC-AGC-GAA-CGT-GCT-TAC-C 3'(配列番号:5)とBam HI部位を下線で示した33R
L 5' GCCGGATCC-TTA-TAA-TAA-ATC-ACC-ATA-AAA-TGC-ATT-AGC-C 3'(配列番号:6)によ
る増幅に用いた(94℃−30秒、50℃−30秒、72℃−60秒を30サイクル)。
1.2%アガロースゲル上の増幅断片(約550塩基対)を6 M NaIを用いて溶出し、P
CR精製キット(キアゲン)を用いて精製した。分離した断片をHindIIIとBamHIで消化し
、HindIII-BamHI断片を得た。得られた合成アポRLBP遺伝子のHindIII-BamHI断片は、
184アミノ酸残基に対応し、512ヌクレオチド中に11個の制限酵素認識部位を有し
ていた(図1)。このようにして得たHindIII-BamHI断片をpUC9-2(Gene 30, 247-250 (1
984))のHindIII/BamHI部位に連結し、p92−RLBPを得た。DNA配列をアプライ
ドシステムズDNAシーケンサー(モデル377および310)を用いて決定した。
【0036】
参考例4
(OmpAを有し、塩基性アミノ酸に富むポリペプチドを有さない組換えアポRLBPの
大腸菌での発現)
(1)piP−RLBPの構築
参考例1で得られたpiP−HE中のアポイクオリンcDNAのHindIII-BamHI断片を、参
考例3で得られたp92−RLBPのHindIII-BamHI断片と置換することによって、Om
pAのシグナルペプチドを有するアポRLBPの発現プラスミドpiP−RLBPを構築
した(図2)。用いた宿主は大腸菌BL21株(アマシャム・バイオサイエンス)であった。
(2)組換えアポRLBPの大腸菌での発現
上記(1)で得られた発現プラスミドpiP−RLBPを有する細菌株の種培養をアン
ピシリン(50 μg/ml)を含む5 mlのルリア−ベルターニ培地で、30℃で16時間行い、500
mlの坂口フラスコ中の80 mlのLB培地に添加した。16時間、37℃の培養の後、細胞を5000
g、5分間の遠心により回収し、20 mlの50 mM Tris-HCl (pH7.6)に懸濁し、氷中でブラブ
ソン・モデル250 ソニファイヤーを用いた超音波破砕を行った。SDS-PAGE分析の結果、
ヒスチジンを持たないアポRLBPの発現が確認された。しかしながら、発現されたアポ
RLBPは、菌体中に封入体として存在していた(図3A、レーン4)。
【0037】
実施例1
(OmpAおよびヒスチジンヘキサマーを有する組換えアポRLBPの大腸菌での発現)
(1)piP−His−RLBPの構築
参考例2で得られたpiP−His6−HEのアポイクオリンcDNAのHindIII-BamHI断
片を、参考例3で得られたp92−RLBPのHindIII-BamHI断片と置換することによっ
て、OmpAのシグナルペプチドおよびヒスチジンヘキサマーを有するアポRLBPの発
現プラスミドpiP−His−RLBPを構築した(図2A)。用いた宿主は大腸菌BL21
株(アマシャム・バイオサイエンス)であった。
(2)組換えアポRLBPの大腸菌での発現および精製
上記(1)で得られた発現プラスミドpiP−His−RLBPを有する細菌株の種培
養をアンピシリン(50 μg/ml)を含む5 mlのルリア−ベルターニ培地で、30℃で16時間
行い、500 mlの坂口フラスコの80 mlのLB培地に添加した。16時間、37℃の培養の後、細
胞を5000g、5分間の遠心により回収し、20 mlの50 mM Tris-HCl (pH7.6)に懸濁し、氷中
でブラブソン・モデル250 ソニファイヤーを用いた超音波破砕を行った。
SDS-PAGE分析の結果piP-His-RLBP発現ベクターを用いて可溶性タンパク質として発現さ
れていることを確認した(図3A、レーン3)。次に、培養細胞の超音波破砕物を12000g
、10分間遠心して得られた上清(20 ml)を50 mM Tris-HCl (pH7.6)で平衡化したニッケ
ル−キレートカラム(1.5×4 cm)にアプライした。カラムを50 mlの50 mM Tris-HCl (pH
7.6)で洗浄し、吸着したタンパク質を0.05 M、0.1 M、0.3 M、0.5 M、および1 Mのイミダ
ゾールを含む50 mM Tris-HCl (pH7.6)を各20 mlのステップワイズにより溶出した。ヒス
チジンタグのついたアポRLBPの画分を0.1-0.3 M濃度のイミダゾールで溶出し、SDS-P
AGEで解析した。アポRLBP画分を合わせ、4 Lの50 mM重炭酸アンモニウム(pH8.3)に
透析し、-80℃で保存した。精製アポRLBPの収量は80 mlの培養した細胞から18.2 mg
であった。
熱処理および還元条件下でのSDS-PAGE分析により、精製アポRLBPは95%以上の純度
で、分子量24 kDaを示した(図3B、レーン2)。この結果は、大腸菌細胞におけるアポ
RLBPの発現量が細菌細胞から抽出される全タンパク質の10%以上であることを示唆し
ている。これは、本発明の製造方法が、大量の目的タンパク質を、可溶性タンパク質とし
て製造できることを示している。
精製アポRLBPにおいて、OmpAシグナルペプチドが正確に切断されていること及びヒ
スチジンヘキサマーを有するアポRLBPを確認するために、MALDI-TOF-MSを用いて質量
分析を行った。[M+H]+に対するm/z 21931.7および[M+2H]2+に対するm/z 10965.9の質量
値が観察された。これらの値はOmpAシグナルペプチドをもたないヒスチジンヘキサマーを
有するアポRLBPに対する計算平均質量21932.9によく一致していた。この結果は、ヒ
スチジンヘキサマーを有するアポRLBPのOmpAシグナルペプチドが、大腸菌細胞中
で細胞質からペリプラズム部分への移行中に正しく切断されたことを示している。
【0038】
実施例2
(アポRLBPからのRLBPの調製)
実施例1で得られた精製アポRLBP(1 mg = 46 nmol)を10 mM EDTAおよび0.66 mM
DTTを含む30 mM Tris-HCl (pH7.6) 5 mlに溶解し、アポRLBPからRLBPへの変換
をセレンテラジン(20 μg = 47 nmol)を添加することにより開始した。16時間、4℃で
静置した後、混合液を遠心フィルター(アミコン・ウルトラ、分子量カット:10000)を
用いて、4℃で、0.5 mlまで濃縮し、黄緑色の溶液を得た。結合していないセレンテラジ
ンを除去するために、この溶液を10 mM EDTAを含む30 mM Tris-HCl (pH7.6)で平衡化した
セファデックスG-25カラム(1×6 cm)にかけ、同緩衝液で溶出した。画分(0.5 ml)を1
分あたり0.5 mlの流速で回収し、280 nmと446 nmの吸収でモニターした。RLBPの主画
分を0.5 mlから1.0 mlで溶出した。タンパク質の回収率は80%であった。得られた精製R
LBPの、熱処理および還元条件下でのSDS-PAGE分析の結果を図3Bのレーン3に示す。
精製RLBPの純度は、天然のRLBPの吸収スペクトルのデータ(J. Biol. Chem. 254
, 769-780 (1979))と比較することにより、95%以上であると推測された。
この結果は、実施例1で得られたアポRLBPが、天然のRLBPと同様に、セレンテ
ラジンと結合してホロタンパク質であるRLBPを形成することを示している。これによ
り、実施例1で得られた組換えアポRLBPが、本来の機能を有していることが確認され
た。
【0039】
実施例3
(組換えRLBPのスペクトル分析)
精製した組換えRLBPの吸収スペクトルを2 mM EDTAまたは10 mM CaCl2を含む20 mM
Tris-HCl (pH7.6)中で、ジャスコ(東京)V-560 分光光度計(バンドパス 0.5 nm;応
答 Quick;スキャン速度 100 nm/分)、25℃で、石英キュベット(10 mm光路)を用い
て測定した。カルシウムイオンの存在下および非存在下での組換えRLBPの吸収スペク
トルを図4に示す。組換えRLBPは、475 nmに肩のある、277 nmと446 nmに二つの特徴
的な最大吸収を有し、これは天然のRLBPのスペクトルとほとんど一致している(J. B
iol. Chem. 254, 769-780 (1979))。277 nmと446 nmにおける組換えRLBPの吸光係数
(ε)はそれぞれ、24900(E0.1% = 1.13)および9300(E0.1% = 0.42)であった。組換
えRLBPの277 nm/446 nmの吸収比は2.68であり、天然のRLBPの277 nm/446 nm比の
2.7から2.8(J. Biol. Chem. 254, 769-780 (1979))に近い。10 mMのカルシウムイオン
存在下で、組換えRLBPの277 nmと446 nmのピークは265 nmと434 nmにシフトし、天然
のRLBPに類似した特性を示した(J. Biol. Chem. 254, 769-780 (1979))。10 mM EDTAを
含む同一の緩衝液中のセレンテラジンの420 nm(ε= 9300)の吸収ピークは、10 mMのカ
ルシウムイオン存在下で432 nm(ε= 10000)にシフトした。この吸収ピークは、10 mMの
カルシウムイオン存在下での組換えRLBPの434 nmに近かった。
また、蛍光スペクトルをジャスコ FP-6500 W 蛍光分光光度計(発光および励起バン
ドパス 5 nm;応答 0.5秒;スキャン速度 100 nm/分)を用いて測定した。446 nmで励
起したRLBPの蛍光スペクトルは、1/2のバンド幅 86 nmで、530 nmにおいて発光ピー
クを示し、発光ピークの強度はカルシウムイオンの添加により、4倍に増加した。
これらのスペクトル変化のデータは、組換えRLBPは天然のRLBPと同様な高次構
造をとっていることを示し、正常に折り畳まれていることをも示唆している。
吸収スペクトルの変化がないことから判断すると、組換えRLBPの溶液は、4℃およ
び-80℃で6ヶ月以上安定であった。このことは、一般にセレンテラジンの中性付近の水溶
液を4℃で保存した場合、半減期は約3日であるが、組換えRLBPを使用することより
安定に保存可能であることも示している。
【0040】
実施例4
(RLBPとRenillaルシフェラーゼによる発光反応)
50 mM Tris-HCl (pH7.6)、10 mM CaCl2および実施例3で得られた組換えRLBP5 μg
を含む反応混合液(100 μl)に、Renillaルシフェラーゼ(0.08 μg)を添加し、発光活
性を光電子倍増管(R4220P、浜松ホトニクス)を装備したルミノメーター(AB2200、アト
ー社製(東京))を用いて測定したところ、連続的な発光が観察された(図5)。これは
、カルシウムイオンがRLBPに結合することよって、RLBP分子内に内包していたセ
レンテラジンが放出され、放出されたセレンテラジンがRenillaルシフェラーゼの基質と
なり触媒作用によって酸化されたた結果、発光したことを示している。この結果は、実施
例2で得られたRLBP(実施例1で得られたアポRLBPとセレンテラジンが結合した
もの)が、カルシウムイオンによってセレンテラジンを放出することを示している。これ
により、実施例1で得られた組換えアポRLBPおよび実施例3で得られた組換えRLB
Pが、本来の機能を有していることが確認された。
【0041】
実施例5
(アポRLBPとセレンテラジン誘導体からのRLBPの調製)
実施例2で記載したアポRLBPとセレンテラジンによるRLBPの調製法と同様にし
て、セレンテラジン誘導体を用いて新規RLBPを調製した。セレンテラジン誘導体とし
て、h-セレンレたジン、e-セレンテラジン、Bis-セレンテラジンを用いて、対応するRL
BP、すなわちh−RLBP、e−RLBP、Bis−RLBPを得た。アポRLBP、
セレンテラジンおよび上記のようにして得られたRLBPの、カルシウムイオン(Ca2+
)非存在下および存在下における吸収スペクトルデータを表1に示した。吸収スペクトル
は、2 mM EDTAまたは10 mM CaCl2を含む50 mM Tris-HCl (pH7.6)中で、実施例3と同様に
して測定した。得られたRLBPを4℃および-80℃で6ヶ月以上保存しても、これらの吸
収スペクトルには、ほとんど変化が認められなかった。この結果は、組換えRLBPの溶
液は、4℃および-80℃で6ヶ月以上安定であることを示している。すなわち、セレンテラ
ジンと同様に、セレンテラジン誘導体も溶液中では不安定であるが、アポRLBPを使用
することより安定に保存可能であることが示された。

【表1】

【0042】
実施例6
(アミノ末端にヒスチジン配列を持つ分泌タンパク質を発現するための新規基本ベクター
、piP−H6−M(11)、の構築)
目的タンパク質を可溶性タンパク質として発現させるための基本ベクター、piP−H
6−M(11)、は以下の手順で構築した。出発となるベクターpiP−His6−HE
は、参考例2に記載の方法に従って作製した。さらに、piP−His6−HEベクター
のHindIII-BamHI サイトに、マルチクローニングサイト(NcoI/ HindIII/ NdeI/ SacI
/ KpnI/ XhoI/ BamHI/ EcoRI/ SalI/ PstI/ XbaI)をもつリンカーを挿入し、p
iP−H6−M(11)を構築した。基本ベクターpiP−H6−M(11)は、大腸菌
のリポプロテインのプロモーター、ラクトースのオペレーターに制御され、分泌のための
OmpA配列、6個のヒスチジンからなる配列、マルチクローニングサイト(EcoRI/ NcoI/
HindIII/ NdeI/ SacI/ KpnI/ XhoI/ BamHI/ EcoRI/SalI/ PstI/ XbaI/ BamHI
)を有する(図6)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の目的タンパク質の製造によれば、目的タンパク質を可溶性タンパク質として製
造することができるので、目的タンパク質を変性(可溶化)させる必要がない。よって、
本発明によれば、目的タンパク質を効率的に、高い回収率で得ることができる。したがっ
て、本発明は有用タンパク質や、機能や構造の解析対象となるタンパク質などのタンパク
質の製造方法として極めて有用である。
また、本発明の発現ベクターは、目的タンパク質をコードする遺伝子を制限酵素サイト
に挿入して発現させることによって、目的タンパク質を可溶性タンパク質として製造する
ことができるので、有用タンパク質など所望のタンパク質の製造に好適に用いることがで
きる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、参考例3で得られた合成アポRLBP遺伝子の塩基配列および制限酵素認識部位、並びにアポRLBPのアミノ酸配列を示す。(A)制限酵素地図を示す。斜線部分はEFハンドモチーフのループ領域を示す。(B)合成アポRLBP遺伝子の塩基配列を示す。四角で囲まれた部分はEFハンドモチーフのループ領域を示す。
【図2】図2は、実施例1で得られたOmpAのシグナルペプチドおよびヒスチジンヘキサマーを有するアポRLBPの発現ベクターpiP−His−RLBPおよび参考例4で得られたOmpAのシグナルペプチドを有するアポRLBPの発現ベクターpiP−RLBPを示す。(A)piP−His−RLBPの制限酵素地図を示す。(B)piP−His−RLBPおよびpiP−RLBPのアミノ末端のアミノ酸配列、およびシグナルペプチド配列の切断部位を示す。
【図3】図3は、実施例1で得られた組換えアポRLBP、実施例2で得られた組換えRLBPおよび参考例4で得られた組換えアポRLBPのSDS−PAGE分析の結果を示す。各レーンの試料は次の通りである。(A)レーン1:タンパク質分子量マーカー(テフコ社):β−ガラクトシダーゼ(116,000)、ホスホリパーゼB(97,400)、ウシ血清アルブミン(69,000)、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(55,000)、乳酸デヒドロゲナーゼ(36,500)、炭酸脱水素酵素(29,000)、トリプシンインヒビター(20,100);レーン2:実施例1における培養細胞piP−His−RLBP/BL21(40μl)の超音波破砕物を遠心して得られた沈殿;レーン3:実施例1における培養細胞piP−His−RLBP/BL21(40μl)の超音波破砕物を遠心して得られた上清;レーン4:参考例4における培養細胞piP−RLBP/BL21(40μl)の超音波破砕物を遠心して得られた沈殿;レーン5:参考例4における培養細胞piP−RLBP/BL21(40μl)の超音波破砕物を遠心して得られた上清。(B)レーン1:タンパク質分子量マーカー;レーン2:実施例1で得られたヒスチジンヘキサマーが結合した精製アポRLBP(2.2μg);レーン3:実施例2で得られたヒスチジンヘキサマーが結合した精製RLBP(3.5μg)。
【図4】図4は、実施例3におけるカルシウムイオンの非存在下および存在下での組換えRLBPの吸収スペクトルを示す。実線および破線は、それぞれカルシウムイオン非存在下および存在下の吸収スペクトルを示す。タンパク質濃度は0.45 mg/mlであった。
【図5】図5は、実施例4における、実施例3で得られた組換えRLBPとRenillaルシフェラーゼによる発光反応を示す。挿入図は、矢印で示した部分を拡大したものを示す。
【図6】図6は、実施例6で得られた発現ベクターpiP−H6−M(11)を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0045】
[配列番号:1]アポRLBPのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:2]アポRLBPをコードする合成DNAの塩基配列を示す。
[配列番号:3]参考例2および実施例6で用いられた6個のヒスチジンからなる配列を
コードするオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。
[配列番号:4]参考例2および実施例6で用いられた6個のヒスチジンからなる配列を
コードするオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。
[配列番号:5]参考例3で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:6]参考例3で用いられたプライマーの塩基配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、塩基性アミノ酸に富むポリペ
プチドをコードするポリヌクレオチドと、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド
とを、この順に含有するポリヌクレオチドを用いてタンパク質を発現させることを特徴と
する前記目的タンパク質を可溶性タンパク質として製造する方法。
【請求項2】
タンパク質の発現が宿主細胞内で行われる請求項1記載の方法。
【請求項3】
宿主細胞がグラム陰性菌である請求項2記載の方法。
【請求項4】
グラム陰性菌が大腸菌属の細菌である請求項3記載の方法。
【請求項5】
分泌シグナルペプチドがグラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドである請求項1〜4
のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
グラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドが、通性嫌気性桿菌由来の分泌シグナルペプ
チドである請求項5記載の方法。
【請求項7】
グラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドが、大腸菌の外膜タンパク質A由来の分泌シ
グナルペプチド(OmpA)またはコレラ菌由来コレラトキシン由来の分泌シグナルペプ
チドである請求項5記載の方法。
【請求項8】
塩基性アミノ酸に富むポリペプチドが5〜12アミノ酸残基からなるポリペプチドであ
る請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
塩基性アミノ酸に富むポリペプチドにおける塩基性アミノ酸の含有率が60%以上であ
る請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
塩基性アミノ酸に富むポリペプチドにおける塩基性アミノ酸がヒスチジン、アルギニン
およびリジンから選択される請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
塩基性アミノ酸に富むポリペプチドがポリヒスチジンである請求項1〜9のいずれかに
記載の方法。
【請求項12】
目的タンパク質の発現が、該目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する
発現ベクターを用いて行われる請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
グラム陰性菌の分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、5ないし12
個の塩基性アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、目的タ
ンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含有するポリヌクレオチドを用いてグラム陰
性菌内でタンパク質を発現させることを特徴とする前記目的タンパク質を可溶性タンパク
質として製造する方法。
【請求項14】
OmpAをコードするポリヌクレオチドと、ポリヒスチジンをコードするポリヌクレオ
チドと、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含有するポリヌクレオチドを
用いて大腸菌属の細菌内でタンパク質を発現させることを特徴とする前記目的タンパク質
を可溶性タンパク質として製造する方法。
【請求項15】
目的タンパク質が異種タンパク質である請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
目的タンパク質が、アポRLBP、アポイクオリン、アポクライチィン、アポオベリン
およびアポマイトロコミンからなる群より選択されるいずれかである請求項1〜14のい
ずれかに記載の方法。
【請求項17】
目的タンパク質がアポRLBPである請求項16記載の方法。
【請求項18】
グラム陰性菌の分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、5ないし12
個の塩基性アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、アポR
LBPをコードするポリヌクレオチドとを含有するポリヌクレオチドを用いてグラム陰性
菌内でタンパク質を発現させることを特徴とするアポRLBPの製造方法。
【請求項19】
OmpAをコードするポリヌクレオチドと、ポリヒスチジンをコードするポリヌクレオ
チドと、アポRLBPをコードするポリヌクレオチドとを含有するポリヌクレオチドを用
いて大腸菌内でタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質をペリプラズムスペースに
蓄積させることを特徴とするアポRLBPの製造方法。
【請求項20】
請求項17〜19のいずれかに記載の製造方法によって製造されたアポRLBPとセレ
ンテラジンまたはその誘導体とを接触させることを特徴とするRLBPの製造方法。
【請求項21】
請求項17〜19のいずれかに記載の製造方法によって製造されたアポRLBPとセレ
ンテラジンまたはその誘導体とを接触させてRLBPを調製することを特徴とする、セレ
ンテラジンまたはその誘導体の保存方法。
【請求項22】
請求項17〜19のいずれかに記載の製造方法によって製造されたアポRLBPとセレ
ンテラジンまたはその誘導体とからなるRLBP。
【請求項23】
(a)分泌シグナルペプチドをコードする第1コード領域、
(b)塩基性アミノ酸に富むポリペプチドをコードする第2コード領域、および
(c)目的タンパク質をコードする第3コード領域を挿入することができる少なくとも1
つの制限酵素サイト
を含有することを特徴とする発現ベクター。
【請求項24】
分泌シグナルペプチドがグラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドである請求項23記
載の発現ベクター。
【請求項25】
グラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドが通性嫌気性桿菌由来の分泌シグナルペプチ
ドである請求項24記載の発現ベクター。
【請求項26】
グラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドが、大腸菌の外膜タンパク質A由来の分泌シ
グナルペプチド(OmpA)またはコレラ菌由来コレラトキシン由来の分泌シグナルペプ
チドである請求項24記載の発現ベクター。
【請求項27】
塩基性アミノ酸に富むポリペプチドが5〜12アミノ酸残基からなるポリペプチドであ
る請求項23〜26のいずれかに記載の発現ベクター。
【請求項28】
塩基性アミノ酸に富むポリペプチドにおける塩基性アミノ酸の含有率が60%以上であ
る請求項23〜27のいずれかに記載の発現ベクター。
【請求項29】
塩基性アミノ酸に富むポリペプチドにおける塩基性アミノ酸がヒスチジン、アルギニン
およびリジンから選択される請求項23〜28のいずれかに記載の発現ベクター。
【請求項30】
塩基性アミノ酸に富むポリペプチドがポリヒスチジンである請求項23〜27のいずれ
かに記載の発現ベクター。
【請求項31】
(a)グラム陰性菌由来の分泌シグナルペプチドをコードする第1コード領域、
(b)5ないし12個の塩基性アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードする第2コー
ド領域、および
(c)目的タンパク質をコードする第3コード領域を挿入することができる少なくとも1
つの制限酵素サイト
を含有することを特徴とする発現ベクター。
【請求項32】
(a)OmpAをコードする第1コード領域、
(b)ポリヒスチジンをコードする第2コード領域、および
(c)目的タンパク質をコードする第3コード領域を挿入することができる少なくとも1
つの制限酵素サイト
を含有することを特徴とする発現ベクター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−179062(P2012−179062A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−143451(P2012−143451)
【出願日】平成24年6月26日(2012.6.26)
【分割の表示】特願2006−158222(P2006−158222)の分割
【原出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人 医薬基盤研究所基盤研究推進事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】