説明

タンパク質の精製方法

【課題】簡便、省スペース、低工数で大量の生理活性タンパク質、特に抗体を精製する技術を提供することを課題とする。
【解決手段】 以下の工程(1)〜(3)を少なくとも含み、工程(1)〜(3)の所要時間が4時間以下である生理活性タンパク質の精製方法。
(1)生理活性タンパク質を10−18〜10−2mol/lの濃度で含み、かつ前処理していない試料と、生理活性タンパク質に対する親和性物質が結合した磁性微粒子とを混合し、混合液とする工程
(2)工程(1)で得られた混合液から磁力により磁性微粒子を分離する工程
(3)工程(2)で分離した磁性微粒子から生理活性タンパク質を溶出させる工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性微粒子を用いた生理活性タンパク質の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術の発達により、種々の生理活性タンパク質が安定した供給量で提供されるようになった。特に、抗体医薬分野は、治療効果が高く副作用が少ないなどの効果があり、多様な薬剤をターゲットにできることや、テーラーメード医療への適用が期待されており、製薬分野で注目されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
このような遺伝子組換え技術によって産生された生理活性タンパク質の精製においては、宿主DNA、目的の生理活性タンパク質以外のタンパク質、固形物およびフェノールレッドのような材料特異的な不純物等の夾雑物を除去する必要がある。一般には、宿主細胞から得られる生理活性タンパク質を含有するサンプルを、陰イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、またはこれらの組合せで処理することにより夾雑物を除去している。
【0004】
特に、生理活性タンパク質が哺乳動物細胞を宿主として得られた抗体であるときには、プロテインAまたはプロテインGを固定化した担体やアパタイト担体をカラムに充填したカラム法により精製している(例えば、特許文献1および2参照)。
【0005】
しかしながら、このようなカラム法は、サンプルの清澄化(硫安沈殿、カプリル酸沈殿、遠心およびフィルターろ過等)、サンプルの脱塩およびバッファー交換といった前処理が必要であり、かつ当該前処理には時間、労力、コストを要する。また、抗体を大量に精製する場合、巨大なカラムや巨大なサンプラーを必要とするため広い作業スペースが必要であり、かつ多大な時間を要するという問題点があった。
【0006】
また、近年、リガンドが固定された磁性微粒子を目的のタンパク質を含むサンプルに添加し、該リガンドに結合する目的のタンパク質を吸着した後、磁性微粒子を回収し、目的物質を磁性微粒子から分離、回収する方法が知られている。例えば、ビオチン及びアビジンから選ばれた1種以上が下限臨界溶液温度(LCST)を有するポリマーを介して磁性微粒子に固定された温度応答性磁性微粒子と磁石の磁力を用いた生体物質の精製方法が開発されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、磁性微粒子を用いた精製方法では、大量のタンパク質、特に抗体を、簡便かつ低コストで精製することは困難であった。
【0007】
したがって、より高収率で実施コストの低い、生理活性タンパク質、特に抗体を精製する方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−107679号公報
【特許文献2】特開平05−310780号公報
【特許文献3】国際公開第02/16571号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】抗体医薬の最前線、2007年7月、植田充美監修
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、従来と比較して、格段に簡便、省スペース、低工数で大量の生理活性タンパク質、特に抗体を精製する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、以下の構成を採用することにより、本発明の課題を解決することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
1.以下の工程(1)〜(3)を少なくとも含み、工程(1)〜(3)の所要時間が4時間以下である生理活性タンパク質の精製方法。
(1)生理活性タンパク質を10−18〜10−2mol/lの濃度で含み、かつ前処理していない試料と、生理活性タンパク質に対する親和性物質が結合した磁性微粒子とを混合し、混合液とする工程
(2)工程(1)で得られた混合液から磁力により磁性微粒子を分離する工程
(3)工程(2)で分離した磁性微粒子から生理活性タンパク質を溶出させる工程
2.生理活性タンパク質の収率が60〜99.9%である前項1に記載の方法。
3.工程(1)において、生理活性タンパク質を含み、かつ前処理していない試料の容量が15ml以上である前項1または2に記載の方法。
4.磁性微粒子の平均粒子径が0.3〜10μmである前項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
5.磁性微粒子1g当りの生理活性タンパク質の精製量が50〜1000μgである前項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
6.生理活性タンパク質が抗体である前項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
7.前処理が、細胞の分離、硫安沈殿、フェノールレッド除去、脱塩、陰イオン交換および陽イオン交換からなる群から選ばれる少なくとも1種である前項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
8.生理活性タンパク質に対する親和性物質が、プロテインAまたはプロテインGである前項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の生理活性タンパク質の精製方法は、磁性微粒子を用いた精製方法であるため、カラム法に必要な前処理が不要であり、生理活性タンパク質の大量精製をする場合にカラム法のような大きな装置が不要である、という利点がある。また、本発明の生理活性タンパク質の精製方法は、従来の磁性微粒子を用いた方法と比較して、大量の生理活性タンパク質、特に抗体を短時間で精製できる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】SDS−PAGEによる電気泳動の結果を示す図である。
【図2】SDS−PAGEによる電気泳動の結果を示す図である。
【図3】磁性微粒子およびIgGの反応速度を示す図である。
【図4】SDS−PAGEによる電気泳動の結果を示す図である。
【図5】SDS−PAGEによる電気泳動の結果を示す図である。
【図6】ゲル層を持つ磁性微粒子の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の方法は、以下の工程(1)〜(3)を少なくとも含み、工程(1)〜(3)の所要時間が4時間以下である生理活性タンパク質の精製方法である。
(1)生理活性タンパク質を10−18〜10−2mol/lの濃度で含み、かつ前処理していない試料と、生理活性タンパク質に対する親和性物質が結合した磁性微粒子とを混合し、混合液とする工程
(2)工程(1)で得られた混合液から磁力により磁性微粒子を分離する工程
(3)工程(2)で分離した磁性微粒子から生理活性タンパク質を溶出させる工程
【0015】
以下、各工程について説明する。
(1)生理活性タンパク質を10−18〜10−2mol/lの濃度で含み、且つ前処理していない試料と、生理活性タンパク質に対する親和性物質が結合した磁性微粒子とを混合し、混合液とする工程
この工程は、生理活性タンパク質を含む試料と磁性微粒子とを混合し、生理活性タンパク質(タグ融合タンパク質を含む。)に対する親和性物質(以下、単に「リガンド」ということがある。)と生理活性タンパク質との親和性を利用して、生理活性タンパク質を磁性微粒子に結合させる工程である。
【0016】
混合操作は、適当なバッファー中で生理活性タンパク質と磁性微粒子が接触し得るならば、制限はない。例えば、生理活性タンパク質を含む試料および磁性微粒子が供されたチューブを軽く転倒攪拌または振とうさせる程度で十分であり、例えば市販のボルテックスミキサー等を用いて混合する操作が挙げられる。
【0017】
生理活性タンパク質とは、哺乳動物、特にヒトの生理活性タンパク質と実質的に同じ生物学的活性を有するものであり、天然由来のもの、および遺伝子組換え法により得られるものが含まれる。遺伝子組換え法によって得られるタンパク質には天然タンパク質とアミノ酸配列が同じであるもの、または該アミノ酸配列の1若しくは複数を欠失、置換、または付加したもので前記生物学的活性を有するものが含まれる。
【0018】
生理活性タンパク質としては、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、成長ホルモン、インシュリンおよびプロラクチン等のタンパク質ホルモン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、エリスロポエチン(EPO)およびトロンボポエチン等の造血因子、インターフェロン、IL−1およびIL−6等のサイトカイン、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ウロキナーゼ、血清アルブミン、血液凝固第VIII因子、レプチン、幹細胞成長因子(SCF)、インスリン並びに副甲状腺ホルモンが挙げられるが、これらに限定されない。中でも、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体がより好ましい。
【0019】
タグ融合タンパク質とは、遺伝子工学技術などを利用して人為的に導入した標識を持つタンパク質である。タグ融合タンパク質は、例えば、目的のタンパク質分子の一部に、特定のアミノ酸配列を持つペプチド鎖、または酵素活性および/若しくは特定の物質に対する結合能を持つタンパク質を標識として導入することで、作製することができる。目的のタンパク質に当該標識を導入することで、該タンパク質の分離や検出が容易になる。
【0020】
タグ融合タンパク質のタグとしては、例えば、ポリヒスチジンタグ(Hisタグ)、GSTタグ、HAタグ、C−Mycタグ、V5タグ、VSV−Gタグ、HSVタグ、チオレドキシンタグ、アルカリフォスファターゼタグおよびリン酸化タンパク質タグが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
生理活性タンパク質に対する親和性物質としてプロテインAまたはプロテインGを用いる場合は、生理活性タンパク質としては、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が好ましい。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体としては、IgGが好ましい。なお、ヒトIgGには、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4のサブクラスがあり、マウスIgGには、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3のサブクラスがある。本発明では、これらを使用することがより好ましい。
【0022】
生理活性タンパク質が糖鎖を有するタンパク質である場合、糖鎖の由来としては、特に制限はないが、哺乳動物細胞に付加される糖鎖が好ましい。哺乳動物細胞としては、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK細胞)、アフリカミドリザル腎臓由細胞(COS細胞)およびヒト由来の細胞が挙げられる。
【0023】
生理活性タンパク質がモノクローナル抗体である場合には、モノクローナル抗体はいかなる方法で製造されたものでもよい。モノクローナル抗体は、基本的には公知技術を使用し、抗原に感作させた免疫細胞を通常の細胞融合法によってミエローマ細胞と融合させて作成したハイブリドーマから生産することができる。
【0024】
また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体に限られるものではなく、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変されたキメラ抗体を含む。さらに、トランスジェニック動物(ある特定の遺伝子を個体レベルで付加した遺伝子操作動物のこと。)およびファージディスプレイ等によって作製されたヒト抗体も好ましい。
【0025】
生理活性タンパク質を含む試料としては、例えば、生理活性タンパク質を含むCHO細胞などの哺乳動物細胞の培養培地およびこれに部分的精製などの一定の処理を施したもの、血清、血漿、腹水、リンパ液および尿が挙げられる。
【0026】
本発明の生理活性タンパク質の精製方法によれば、生理活性タンパク質を10−18〜10−2mol/l、好ましくは10−5〜10−2mol/lという高濃度で含む試料から、磁性微粒子を用いて生理活性タンパク質を精製することができる。生理活性タンパク質の濃度は、例えば、ブラッドフォード法、BCA法、280nmの吸光度の測定および電気泳動により、測定することができる。
【0027】
磁性微粒子と混合する生理活性タンパク質を含む試料の容量は、1ml以上が好ましく、15ml以上がより好ましい。また、50l以下が好ましく、10l以下がより好ましい。この範囲とすることで、4時間以下の生理活性タンパク質の精製が可能になる。
【0028】
工程(1)に供する生理活性タンパク質を含む試料は前処理していない試料である。生理活性タンパク質を含む試料の前処理としては、例えば、カラム法によりタンパク質を精製する際に必要である前処理が挙げられる。該前処理としては、例えば、細胞の分離、硫安沈殿、カプリル酸沈殿、硫酸デキストラン沈殿、ポリビニルピロリドン沈殿、活性炭によるフェノールレッド除去、並びに脱塩およびバッファー交換(例えば、ゲル濾過、透析および限外濾過)が挙げられる。細胞を分離する方法としては、例えば、遠心分離、ろ過、および限外ろ過が挙げられる。
【0029】
本発明の方法は生理活性タンパク質を含む試料の前処理を経なくてもよいため、生理活性タンパク質の精製に要する時間を短縮することができる。前処理に要する時間は、生理活性タンパク質の種類および量等により異なるが、通常、15〜30時間である。例えば、遠心分離により夾雑物である細胞を分離する場合、通常約30分〜1時間の所用時間である。また、生理活性タンパク質を含む試料が血清の場合、硫安沈殿および脱塩をする必要があるが、例えば、血清の量が15〜1000mlの場合、その所要時間は、通常約30分から1時間である。また、生理活性タンパク質を含む試料が培養上清の場合、フェノールレッド除去を必要に応じてする必要があるが、培養上清が15〜1000mlの場合その所要時間は、通常約1時間である。
【0030】
本発明の方法に用いる磁性微粒子は、平均粒子径(キュムラント解析)が、0.1〜100μmであることが好ましく、0.3〜10μmであることがより好ましい。磁性微粒子の平均粒子径をこの範囲とすることで、4時間以下の生理活性タンパク質の精製が可能になるからである。平均粒子径(キュムラント解析)は、例えば、レーザーゼータ電位計(大塚電子株式会社製ELS−8000(商品名))を用いて測定することにより算出する。
【0031】
磁性微粒子の素材としては、例えば、マグネタイト、酸化ニッケル、フェライト、コバルト鉄酸化物、バリウムフェライト、炭素鋼、タングステン鋼、KS鋼、希土類コバルト磁石およびヘマタイトなどの鉄酸化物が挙げられる。
【0032】
磁性微粒子の調製方法は特に限定はないが、例えば、オレイン酸とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いて、マグネタイトを二重のミセルとし、水溶液中に分散させる、マグネタイトの調製方法を挙げることができる[バイオカタライシス(Biocatalysis)1991年、第5巻、61〜69頁]。
【0033】
磁性微粒子は、有機物と鉄酸化物との複合体であってもよい。有機物としては、例えば、多糖および合成高分子が挙げられる。多糖および合成高分子としては、例えば、アガロースおよびポリエチレングリコールの架橋体が好ましく挙げられる。
【0034】
本発明の方法に用いる磁性微粒子は、その表面がフレキシビリティーを有することが好ましい。磁性微粒子の表面がフレキシビリティを有することで生理活性タンパク質と磁性微粒子に固定化されたリガンドの反応効率が良好になるからである。ここで、「フレキシビリティー」とは、柔軟性、融通性のことを意味する。具体的には、「フレキシビリティーを有する」とは、材料表面に依存する立体障害を受けない状態にすることであり、リガンドと生理活性タンパク質との相互作用(結合定数)を阻害しないことを示す。
【0035】
例えば、磁性微粒子と疎水性物質との複合体を形成させ、該複合体の表面を、複数の親水性モノマーからなる共重合体を架橋してなるゲルで被覆することにより、磁性微粒子の表面のフレキシビリティーを増大することができる。ここで「被覆」とは、磁性微粒子の外側を覆って、磁性微粒子の最外にゲル層が形成されてなることを指す。
【0036】
疎水性物質としては、例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルチミン酸、パルミトイル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、(9,12,15)−リノレン酸、(6,9,12)−リノレン酸、(6,9,12)−リノレン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸およびリグノセリン酸が挙げられる。
【0037】
親水性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、ヒドロキシメタクリルアミド、グリシジルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリルエチルメタクリレートとポリエチレングリコールジアクリレートおよびN−(3−Aminopropyl)methacrylamide hydrochlorideが挙げられる。
【0038】
また、例えば、架橋剤の添加量や親水性モノマー側鎖の分子量を大きくすることによっても、磁性微粒子の表面のフレキシビリティを増大させることができる。
【0039】
生理活性タンパク質に対する親和性物質としては、例えば、プロテインA、プロテインG、ビオチン、アビジン、グルタチオン、レクチンおよび抗体を磁性微粒子に表面修飾することで、それらに対する特異的吸着作用を有する生理活性タンパク質と特異的に結合できる。該親和性物質がビオチンの場合は、アビジンとの特異的な結合を介してビオチン化された検出対象のタンパク質と、またビオチン化された抗体を用いてそれらの抗原である種々の生理活性タンパク質と更に結合することが可能である。
【0040】
本発明の方法では、市販されているアビジンまたはビオチン化タンパク質が利用でき、ビオチン化は、当該技術分野で周知の方法に従えばよい。生理活性タンパク質に対する親和性物質がグルタチオンの場合は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(以下、「GST」という。)を含有するタンパク質と特異的に結合できる。このようなGST含有タンパク質の調製は当該技術分野で周知の方法に従えばよい。
【0041】
磁性微粒子は適当な分散媒に分散させた状態で使用することが好ましい。分散媒としては、例えば、リン酸バッファー、リン酸カリウムバッファー、リン酸ナトリウムバッファー、トリス塩酸バッファー、1,4−ピペラジンジエタンスルフォン酸バッファー(以下、「PIPESバッファー」という。)、ホウ酸バッファーおよび酢酸バッファーが挙げられる。
【0042】
磁性微粒子は、生理活性タンパク質を含む試料に、好ましくは10−18〜10−2mol/l、より好ましくは10−5〜10−2mol/lとなるように加えることが好ましい。この範囲とすることで、4時間以下の生理活性タンパク質の精製が可能になる。
【0043】
精製すべき生理活性タンパク質と磁性微粒子の質量比は1:1〜1:1000であることが好ましく、1:10〜1:100であることがより好ましい。この範囲とすることで、4時間以下の生理活性タンパク質の精製が可能になる。
【0044】
(2)工程(1)で得られた混合液から磁力により磁性微粒子を分離する工程
この工程は、工程(1)で得られた混合液から、生理活性タンパク質の結合した磁性微粒子を磁力により分離する工程である。具体的には、例えば、生理活性タンパク質と磁性微粒子との結合を適当なチューブ内で行った場合、チューブの側壁に磁石を外側から近づけることによって磁性微粒子をチューブの側壁近傍に保持しつつ、チューブ内から上澄み部分となる液体を排出することによって、生理活性タンパク質が結合した磁性微粒子を分離することができる。
【0045】
磁性微粒子の分離に用いる磁石等の磁力は、用いる磁性微粒子の有する磁力の大きさによって異なる。磁力は、目的の磁性微粒子を磁集可能な程度の磁力を適宜使用できる。磁石の素材としては、例えば、上述した磁性微粒子の素材で構成されたものを使用することができる。例えば、ネオジム磁石(マグナ社製)等が利用できる。ネオジム磁石の磁力は、3800ガウス以上がより好ましい。
【0046】
(3)工程(2)で分離した磁性微粒子から生理活性タンパク質を溶出する工程
この工程は、工程(2)で磁性分離により分離した磁性微粒子から、目的とする生理活性タンパク質を分離し、回収する工程である。生理活性タンパク質の特性に従い、当該技術分野で周知の方法によって磁性微粒子から生理活性タンパク質を分離する。
【0047】
具体的には、例えば、チューブ内に適当な溶出液を加えることによって、生理活性タンパク質を磁性微粒子から溶出させる。そして、溶出後、チューブの側壁に磁石を外側から近づけて磁性微粒子をチューブの側壁近傍に保持しつつ、チューブ内から上澄み部分となる液体を採取することによって、磁性微粒子に結合していた生理活性タンパク質を回収することができる。
【0048】
生理活性タンパク質を溶出させる溶出液としては、生理活性タンパク質とリガンドとの親和性を低下させる効果がある液体が好ましい。当該液体としては、例えば、塩酸、イミダゾール、グルタチオンおよびビオチンを含むバッファーが挙げられる。バッファーとしては、例えば、リン酸カリウムバッファー、リン酸ナトリウムバッファー、トリス塩酸塩バッファー、PIPESバッファー、ホウ酸バッファーおよびグリシン塩酸バッファーが挙げられる。
【0049】
尚、磁性微粒子から生理活性タンパク質を溶出させる前に磁性微粒子を洗浄し、夾雑物を除去してもよい。具体的な洗浄方法としては、例えば、0.5質量%のTween20(ユニヒェマ ヒェミー ベスローテン フエンノートシャップ社の登録商標:Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate)を含むリン酸ナトリウムバッファー中に生理活性タンパク質−磁性微粒子複合体を加え、再分散を繰り返すことで疎水性相互作用で結合や巻き込みにより磁性微粒子中に取り込まれていた夾雑物を取り除く方法が挙げられる。
【0050】
上記工程(1)〜(3)を経ることによって、生理活性タンパク質を含む試料から目的の生理活性タンパク質を精製することができる。本発明の方法による、生理活性タンパク質の収率は、60〜99.9%であることが好ましく、80〜99%であることがより好ましい。
【0051】
本発明の方法において、上記工程(1)〜(3)の所要時間は、4時間以下であることが好ましく、3.5時間以下であることがより好ましい。また、生理活性タンパク質の種類、生理活性タンパク質を含む試料の量および生理活性タンパク質を含む試料中の生理活性タンパク質の濃度などにより適宜調整することができるが、上記工程(1)〜(3)の所要時間は、通常、3分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
磁気分離とは、磁性微粒子等を磁石等の磁力によって、液体から収集することをいう。なお、磁気分離には、株式会社二六製作所製ネオジム磁石を使用した。
精製水とは,ミリポア社製純水製造装置「Direct−QTM」によって精製された導電率18MΩcmの水であり、MillQ水と呼ばれることもある。
【0053】
実施例1
<表面にゲル層を持つ磁性微粒子の製造方法>
200ml容のフラスコに、塩化第二鉄・六水和物(1.0mol)及び塩化第一鉄・四水和物(0.5mol)混合水溶液を100ml入れ、メカニカルスターラー(LABORATORY HIGHT POWER MIXER、ASONE社製)で攪拌し、この混合溶液を50℃に昇温した後、28質量%アンモニア水溶液5.0mlを滴下し、1時間程度攪拌した。この操作で、平均粒子径が約5nmのマグネタイトが得られた。得られたマグネタイトを精製水で3回洗浄し、乾燥した後メタノールにて20mg/mlに調製した。マグネタイト分散液100mlに対し、オレイン酸ナトリウム3gを加え80℃で12時間還流操作を行った。遠心分離(10000g、30分、25℃)して過剰なオレイン酸ナトリウムを除き、再びメタノールに分散し20mg/mlに調製し、マグネタイト−オレイン酸ナトリウム複合体のメタノール溶液を得た。
【0054】
マグネタイト−オレイン酸ナトリウム複合体(磁性微粒子)のメタノール溶液100mlにメタクリル酸グリシジル25g、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(数平均分子量2080)1gおよびポリエチレングリコールジアクリレート(数平均分子量575)0.1gを加え、室温で2時間攪拌した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを0.25g加え、70℃に加熱し6時間反応させた。得られた反応混合物を室温に戻した後、磁気分離(ネオジム磁石、株式会社二六製作所製)し、メタノールで2回洗浄することで、表面にゲル層を持つ磁性微粒子のメタノール分散液を得た。前記磁性微粒子のメタノール分散液から、磁気分離(ネオジム磁石、株式会社二六製作所製)によりメタノールを除き、精製水に置換し一晩回転混合によりゲル層を膨潤させた。その後、1mlの分散液を分取し、磁気分離を行い上清を除き、水を含有する磁性微粒子の質量を測定し、乾燥(60℃、6時間、恒温・乾燥器 DKN402、ヤマト科学社製)させた後、乾燥後の磁性微粒子の質量を測定した。その結果、ゲル層を有する磁性微粒子の含水率は83質量%であった。
【0055】
得られた磁性微粒子の平均粒子径をレーザーゼータ電位計(大塚電子株式会社製ELS−8000(商品名))により測定したところ、525nmであった。
【0056】
実施例2
<ストレプトアビジン固定化磁性微粒子によるビオチン化抗体の分離>
(ストレプトアビジン固定化磁性微粒子の調製)
実施例1と同様に調製したゲル層を持つ磁性微粒子1ml(20mg/ml)を磁気分離し上清を除いた。そこへ精製水1mlを添加し、磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離後、上清を除き、そこへ25mMのMES buffer(MES:2−(N−Morpholino)ethane sulfonic Acid、pH4.75)1mlを加えて再分散させた。ストレプトアビジン(10mg/ml)を25μl添加し、3時間回転混合した。磁気分離を行い、上清を除いた後1mlの100mM TBS(TBS:Tris−Buffered Saline)を加えて1時間反応させた。磁気分離の後、上清を除去し、1mlの100mM PBS(PBS:Phosphate buffered saline、pH7.5、0.01質量%のBSAを含む)を加え、磁性微粒子を再分散させた。同様の操作をもう一度行い、ストレプトアビジン固定化磁性微粒子を得た。
【0057】
(ストレプトアビジン固定化磁性微粒子によるビオチン化抗体の分離)
ストレプトアビジン固定化磁性微粒子100μlに対してビオチン化IgG(ROCKLAND社製、Anti−IgG(Fc)、Rabbit、Goat−Poly、Biotin)10μgを添加し5分間回転混合した。その後15μlを分取し、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動の略。)による電気泳動のTotalサンプルとした。2分間磁気分離し、上清から15μlを分取し、SDS−PAGEによる電気泳動の上清(sup)サンプルとした。上清を除去し、1mlの100mM PBS(pH7.5、0.01質量%のBSAを含む)を加え、磁性微粒子を再分散させた。同様の操作をもう一度行い、上清を除去後15μlの100mMPBSを添加し、SDS−PAGEによる電気泳動の残渣(ppt)サンプルとした。
【0058】
15μlの各サンプルをSDS−PAGEによる電気泳動で分析した結果を図1に示す。図1に示したように、Totalサンプルに存在するIgGに由来するバンドがsupサンプルでは消失し、磁性微粒子側(pptサンプル)に結合していることがわかった。この結果から、本発明によるストレプトアビジン固定化磁性微粒子により、効率的にビオチン化IgGを回収できることがわかった。
【0059】
実施例3
<プロテインA固定化磁性微粒子による抗体の精製>
(プロテインA固定化磁性微粒子の調製)
実施例1と同様に調製したゲル層を持つ磁性微粒子1ml(20mg/ml)を磁気分離し、上清を除いた。そこへ精製水1mlを添加し、磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離後、上清を除き、そこへ1mlの25mM MES bufferを加え再分散した。25μlのプロテインA(10mg/ml)を添加し、3時間回転混合した。磁気分離を行い、上清を除いた後、1mlの100mM TBSを加えて1時間反応させた。磁気分離の後、上清を除去し、1mlの100mM PBS(pH7.5)を加え、磁性微粒子を再分散させた。同様の操作をもう一度行い、プロテインA固定化磁性微粒子を得た。
【0060】
(プロテインA固定化磁性微粒子を用いたウサギおよびヒト血清からのIgGの分離)
プロテインA固定化磁性微粒子100μlに対してウサギおよびヒト血清10μlを添加し5分間、MTR−103(AS ONE社製)によって回転混合させた。上清を除去し、1mlの100mM PBSを加えて再分散させた。再び磁気分離操作を行い、上清を除去し再分散させた。磁気分離の後、上清を除去し、90μlの100mMグリシン塩酸バッファー(pH3.0)加え3分間振とう混合することでIgGを溶出させた(1回目)。
磁気分離の後、上清を分離し、分離した上清に対して10μlの10×PBSを添加し、溶出サンプル1とした。
【0061】
再び90μlの100mMグリシン塩酸バッファー(pH3.0)加え、3分間振とう混合して、IgGを溶出させた(2回目)。分離した上清に対して10μlの10×PBSを添加し、溶出サンプル1とした。磁気分離の後、上清を分離し、上清に対して10μlの10×PBSを添加し、溶出サンプル2とした。
【0062】
15μlの各サンプルをSDS−PAGEによる電気泳動で分析した結果を図2に示す。図2に示すように、本発明によるプロテインA固定化磁性微粒子を用いて、ウサギ血清およびヒト血清のいずれからでもIgGを分離・溶出できることがわかった。
【0063】
実施例4
<プロテインA固定化磁性微粒子及びプロテインG固定化磁性微粒子と従来製品との比較>
(IgGの分離)
実施例3と同様に、プロテインA固定化磁性微粒子及びプロテインG固定化磁性微粒子を調製した。各3mgのプロテインA固定化磁性微粒子及プロテインG固定化磁性微粒子を200μgのIgG Fraction of Anti−Streptavidin Rabbit(ROCKLAND社製)を含む100μlの100mM PBS溶液に添加し25℃で15分間、MTR−103(AS ONE社製)によって回転混合させた。2分間磁気分離の後、上清を除去して200μlの100mM PBS−T(0.05質量%のTween20を含むPBS溶液)を加え、磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離操作を行い、上清を除去し再分散させた。さらに2回洗浄操作を行い、上清を除去した。45μlの100mM グリシン塩酸バッファー(pH2.7)を加え、ピペットにより混合した。ボルテックスを5分間行い、磁気分離の後に上清を回収した。さらに再度抽出操作を行い、得られた2回分の上清を混合し、8μlの1N NaOHを加え中和した。中和した各上清をSDS−PAGEによる電気泳動を行った。
【0064】
電気泳動の結果はCS Analyzer(ATTO社製)により解析した。なお、検量線は、IgG Fraction of Anti−Streptavidin Rabbitを用いて作成した。また、Dynabeads ProteinAおよびG(Invitorogen社製)についても同様の操作を行った。
【0065】
電気泳動の結果、プロテインA固定化磁性微粒子は、158.4μgのIgGを分離し、Dynabeads ProteinAは、36.8μgのIgGを分離した。また、プロテインG固定化磁性微粒子は、97.4μgのIgGを分離し、Dynabeads ProteinGは、27.3μgのIgGを分離した。
【0066】
上記の結果から、Dynabeads ProteinGを用いた場合に対して、本発明によるプロテインA固定化磁性微粒子では、最大4.3倍、プロテインG固定化磁性微粒子では、3.6倍のIgGを分離できることが分かった。
【0067】
(希薄溶液からのIgGの分離)
プロテインA固定化磁性微粒子を実施例3と同様に調製した。1mgのプロテインA固定化磁性微粒子を50μgのIgG Fraction of Anti−Streptavidin Rabbit(ROCKLAND社製)を含む50mlの希薄溶液に添加し30分間回転混合させた。磁気分離の後、上清を除去し1mlの100mM PBSを加えて磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離操作を行い、上清を除去し、磁性微粒子を再分散させた。磁気分離の後、上清を除去し、磁性微粒子をSDS−PAGEによる電気泳動で分析した。
【0068】
電気泳動の結果をCS Analyzer(ATTO社製)により解析した。なお、検量線の作成はIgG Fraction of Anti−Streptavidin Rabbitを用いて行った。また、Dynabeads ProteinA(Invitorogen社製)についても同様の操作を行った。
【0069】
その結果、プロテインA固定化磁性微粒子により25μgのIgGが分離できた。一方、Dynabeads ProteinAにより6μgのIgGが分離できた。この結果から、本発明によるプロテインA固定化磁性微粒子はDynabeads ProteinAと比較して、希薄溶液から約4倍のIgGを分離できることがわかった。
【0070】
(磁性微粒子とIgGの反応速度の比較)
プロテインA固定化磁性微粒子を実施例3と同様に調製した。10mgのプロテインA固定化磁性微粒子を25μgのIgG Fraction of Anti−Streptavidin Rabbit(ROCKLAND社)を含む500μlのPBS溶液に添加し、0.5、1、5、10、20、30分の反応の後に磁気分離を行い、上清を15μl分取し、電気泳動を行った。
【0071】
電気泳動の結果は、CS Analyzer(ATTO社製)により解析した。また、Dynabeads ProteinA(Invitorogen社製)についても同様の操作を行った。プロテインG固定化磁性微粒子についても同様に比較を行った。その結果を図3に示す。
【0072】
図3の上図に示すように、プロテインA固定化磁性微粒子は、約0.5分でほぼ100%のIgGを分離した。一方、Dynabeads ProteinAは、30分で85%のIgGを分離した。また、図3の下図に示すように、プロテインG固定化微粒子は、0.5分でほぼ100%のIgGを分離した。一方、Dynabeads ProteinGは、30分で27%のIgGを分離した。これらの結果から、本発明によるプロテインA固定化磁性微粒子およびプロテインG固定化磁性微粒子は、Dynabeads ProteinAおよびDynabeads ProteinGと比較して、IgGとの反応速度が速いことがわかった。
【0073】
実施例5
<ハイブリドーマ培養上清50mlからのプロテインA固定化磁性微粒子によるIgG2aの分離>
(処理1)
50mlのハイブリドーマ培養上清を300ml容積の三角フラスコに分注し、10質量% Tween20を250μl加えた(最終濃度:0.05質量%)。そこへ、実施例3と同様に調製した4mlのプロテインA固定化磁性微粒子(10mg/ml)を加え、室温で1時間、泡立たぬ程度に振とう機(90回/分、MS−1 Minishaker、IKA社製)によりインキュベートした。
【0074】
(処理2)
50ml遠心チューブ2本に均等に移し、磁気分離を室温にて10分間行った。上清を三角フラスコに戻し、再度4mlのプロテインA固定化磁性微粒子を加え、1時間同様にインキュベートした。
【0075】
(洗浄操作)
処理1で磁気分離した磁性微粒子に3mlのPBS−T(Tween20を0.05質量%含むPBS)を加え、十分に分散させた後、2mlのマイクロチューブに2本に移した。空になった遠心チューブに再度1mlのPBS−Tを加え、壁面を洗い、上記の2mlマイクロチューブへ0.5mlのPBS−Tを加えた。磁気分離装置(マグナスタント−8、マグナビート株式会社製)にセットし、氷水中で5〜10分間静置し磁気分離した。上清を除去し、再びPBS−Tを添加して磁性微粒子を分散させ、5〜10分間磁気分離を行い、上清を除去した。洗浄操作を再び行い、上清を除去した。
【0076】
(抽出操作)
各チューブに450μlの100mM グリシン塩酸バッファー(pH2.7)加え、十分に混合させた。マクロチューブをフロートへ指し、氷水中に装着し、ソニケーター(S30H Elmasonic、Elma社製)に浮かべ、超音波洗浄を行った。超音波洗浄は、10秒間行った後、10秒間休止し、これを洗浄操作のサイクルとし、これを5分間繰り返した。磁気分離操作の後、上清を分離し、新しいマイクロチューブに移し、80μlの1M NaOHを加え中和し、精製IgG2aを得た。抽出操作をさらにもう一度行った。再度(処理2)プロテインA固定化磁性微粒子を加え分離操作を行ったものは、同様に洗浄・抽出操作を行った。
【0077】
15μlの各サンプルをSDS−PAGEによる電気泳動で分析した結果を図4に示す。
図4に示したように、上清の洗浄液には、IgGに由来するバンドはなく溶出液にのみIgGに由来するバンドが見られた。この結果から、本発明による磁性微粒子を用いた操作により、IgGを特異的に精製することができることがわかった。また、回収率は93%であり、所要時間は約4時間であった。
【0078】
実施例6
<AB−NTA固定化磁性微粒子によるHis−プロテインAの回収>
(AB−NTAの固定化)
実施例1と同様に調製したゲル層を持つ磁性微粒子10ml(20mg/ml)を磁気分離し上清を除いた。そこへ10mlの精製水を添加し、磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離後、上清を除き、そこへ10mlの100mM ホウ酸バッファー(pH8.5)を加えて磁性微粒子を再分散させた。100mgのAB−NTA free acid(DOJIDO社製)を添加し、12時間回転混合した。磁気分離の後、上清を除去し、10mlの精製水を加えて磁性微粒子を再分散させた。同様の操作をさらに3回行い、AB−NTA固定化磁性微粒子を得た。
【0079】
(ニッケルとの複合体の形成)
10mlのAB−NTA固定化磁性微粒子を磁気分離の後、上清を除去し、10mlの1M濃度硫酸ニッケル溶液に懸濁し、6時間撹拌した。その後、磁気分離を行い、上清を除去し、10mlの精製水を加えて磁性微粒子を再分散させた。同様の操作をさらに3回行い、PBS(pH7.5)中に再懸濁しNi−NTA磁性微粒子を保存した。
【0080】
(His−プロテインAの回収)
His−tagをN−末端に有するRecombinant−ProteinA(フナコシ社製)100μgを含む10μlのGoat血清に、1mgのNi−NTA磁性微粒子を添加した。5分間の反応の後、上清を除去した。そこへTween20を0.1質量%含むPBSを1ml添加して、Ni−NTA磁性微粒子を再分散させた。同様にTween20を0.1質量%含むPBS1mlで5回洗浄操作を行った。磁気分離の後、上清を除去し、50μlの500mMイミダゾールPBS溶液を添加して溶出操作を行った。15μlの上清を分取しSDS−PAGEによる電気泳動で分析した結果を図5に示す。
【0081】
図5に示したように、溶出液にRecombinant−ProteinAに由来するバンドがみられた。この結果から、本発明によるNi−NTA磁性微粒子により、Hisタグを有するタンパク質を特異的に分離できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)〜(3)を少なくとも含み、工程(1)〜(3)の所要時間が4時間以下である生理活性タンパク質の精製方法。
(1)生理活性タンパク質を10−18〜10−2mol/lの濃度で含み、かつ前処理していない試料と、生理活性タンパク質に対する親和性物質が結合した磁性微粒子とを混合し、混合液とする工程
(2)工程(1)で得られた混合液から磁力により磁性微粒子を分離する工程
(3)工程(2)で分離した磁性微粒子から生理活性タンパク質を溶出させる工程
【請求項2】
生理活性タンパク質の収率が60〜99.9%である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(1)において、生理活性タンパク質を含み、かつ前処理していない試料の容量が15ml以上である請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
磁性微粒子の平均粒子径が0.3〜10μmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
磁性微粒子1g当りの生理活性タンパク質の精製量が50〜1000μgである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
生理活性タンパク質が抗体である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前処理が、細胞の分離、硫安沈殿、フェノールレッド除去、脱塩、陰イオン交換および陽イオン交換からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
生理活性タンパク質に対する親和性物質が、プロテインAまたはプロテインGである請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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