説明

タンパク質を修飾する方法

【課題】タンパク質が有する2以上の特異結合部位の活性を維持可能な、タンパク質の修飾方法を提供すること。
【解決手段】第1の特異的結合部位21および第2の特異的結合部位22を有するタンパク質を修飾物質により修飾する方法であって、第1の特異的結合部位21に特異的に結合する第1の保護剤1に、タンパク質2を接触させる第1工程、タンパク質2に、修飾物質3を供給する第2工程、第1の保護剤1と第1の特異的結合部位21とを解離させる第3工程、第2の特異的結合部位22に特異的に結合する第2の保護剤4に、第1〜3工程を順に経たタンパク質2を接触させると共に、修飾物質3によって第2の特異的結合部位22が不活性化しているタンパク質2を除去する第4工程、および第2の保護剤4と第2の特異的結合部位22とを解離させる第5工程を有する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質を修飾する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の濃度を測定する方法として、測定しようとするタンパク質と結合する物質を修飾物質により修飾し、次いでこの修飾物質の濃度を電気化学的または光学的に測定することによって、当該タンパク質の濃度を間接的に測定する方法を例示することができる。
【0003】
図2は、測定しようとするタンパク質を修飾物質により修飾する具体的な方法を示している。図2ではタンパク質は抗体であり、修飾物質は蛍光物質である。まず、抗体を含む溶液中に蛍光物質を添加する。すると、蛍光物質は抗体と結合する。ここで、図3に示すように、抗体はY文字型である。そして、2つのFab領域および1つのFc領域を有している。これら3つの領域は、いずれも「特異的結合部位」として知られている。
【0004】
2つのFab領域には抗原が特異的に結合する。しかし、2つのFab領域のいずれにも蛍光物質が結合した抗体には、その後、2つのFab領域のいずれにも抗原が特異的に結合しない。すなわち、そのような抗体は、抗原に対して不活性性を有する。
【0005】
そこで、2つのFab領域のいずれにも蛍光物質が結合した抗体を排除する方法が、特許文献1に開示されている。図4に示すように、特許文献1に示された方法では、まず、抗原と抗体とを反応させ、複合体を得る。次に、複合体に修飾物質を結合させる。修飾物質が結合した複合体から、抗原を解離させる。
【0006】
この方法では、修飾物質は抗体のFab領域に結合しない。なぜなら、修飾物質が抗体に結合する時には、抗体のFab領域は抗原と特異的に結合しているからである。よって、Fab領域に修飾物質が全く結合していない抗体を得ることができる。
【0007】
【特許文献1】特開平4−355369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
典型的なバイオセンサにおいては、図5に示すように、Fc領域を介して抗体を基板上に固定する。しかし、特許文献1に示される方法では、修飾物質はFc領域にも結合し得る。Fc領域に蛍光物質が結合した抗体は、Fc領域に特異的に結合する物質を表面上に有する基板に結合しない。すなわち、そのような抗体もまた、部分的な不活性性を有する。
【0009】
抗体だけでなく、一般的なタンパク質も、このような不活性性の問題を有する。すなわち、抗体におけるFab領域およびFc領域のように、タンパク質が有する2以上の特異結合部位が、修飾物質によって不活性化する。
【0010】
本発明の目的は、タンパク質が有する2以上の特異結合部位の活性を維持可能な、タンパク質の修飾方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明は、タンパク質を修飾物質により修飾する方法であって、
前記タンパク質(2)は、第1の特異的結合部位(21)および第2の特異的結合部位(22)を有しており、
前記方法は、以下の工程を順に有する:
前記第1の特異的結合部位(21)に特異的に結合する第1の保護剤(1)に、前記タンパク質(2)を接触させる第1工程、
前記タンパク質(2)に、前記修飾物質(3)を供給する第2工程、
前記第1の保護剤(1)と第1の特異的結合部位(21)とを解離させる第3工程、
前記第2の特異的結合部位(22)に特異的に結合する第2の保護剤(4)に、前記第1〜3工程を順に経たタンパク質(2)を接触させると共に、前記修飾物質(3)によって前記第2の特異的結合部位(22)が不活性化している前記タンパク質(2)を除去する第4工程、および
前記第2の保護剤(4)と第2の特異的結合部位(22)とを解離させる第5工程。
前記タンパク質(2)は抗体であり得る。前記第1の特異的結合部位(21)はFc領域であり、前記第2の特異的結合部位(22)はFab領域であり得る。前記第1の保護剤(4)がプロテインAまたはプロテインGであり得る。
【0012】
上記課題を解決する本発明を、図面を参照しながら説明する。
まず、図1(a)の左側に示すように、第1の保護剤1を壁面に具備している第1カラム10を準備する。この第1の保護剤1は、タンパク質2が有する第1の特異的結合部位21と特異的に結合する。タンパク質2が抗体であって、かつ第1の特異的結合部位21がそのFc部位である場合、第1の保護剤1として、プロテインAおよびプロテインGを挙げることができる。
【0013】
この第1カラム10に、タンパク質2を供給する。すると、タンパク質2が有する第1の特異的結合部位21と、第1の保護剤1とが特異的に結合する(図1(a)右側を参照)。これによって、第1の特異的結合部位21は第1の保護剤1によって保護される。
【0014】
次に、図1(b)左側に示すように、タンパク質2を修飾物質3によって修飾する。ここでは、修飾物質3としてフェロセンが用いられる。第1カラム10に修飾物質3を供給する。すると、第1カラム10内部のタンパク質2が、修飾物質3によって修飾される。ただし、第1の特異的結合部位21は第1の保護剤1によって保護されているので、第1の特異的結合部位21は修飾物質3によって修飾されない(図1(b)右側を参照)。
【0015】
修飾を終了した後、図1(c)に示すように、第1の保護剤1と第1の特異的結合部位21とを解離させることによって、第1カラム10からタンパク質2を取り出す。具体的には、0.1Mクエン酸ナトリウムバッファ(pH:4.0)を第1カラム10に供給する。こうして得られたタンパク質2は修飾物質3によって修飾されている。ただし、その第1の特異的結合部位21は修飾されていない。
【0016】
図1(a)から図1(c)までによって得られたタンパク質2の中には、全ての第2の特異的結合部位22が修飾物質3によって修飾されているものがある。ここで、タンパク質2が抗体である場合、第2の特異的結合部位22とは、2つのFab部位を意味する。すなわち、図1(c)の右から2つめの抗体は、2つのFabの両者が修飾物質3によって修飾されている。このようなタンパク質2は不要である。なぜなら、このようなタンパク質2は、抗原に対して不活性であるためである。すなわち、このようなタンパク質2は、本来であれば抗原と特異結合反応すべきであるにも関わらず、抗原と特異結合反応しないからである。そのため、得られたタンパク質2から、全ての第2の特異的結合部位22が修飾物質3によって修飾されているタンパク質2を除去する。なお、図1(c)の左から1番目および2番目の抗体のように、一部の第2の特異的結合部位22に修飾物質が修飾されている抗体は、残余の第2の特異的結合部位22が抗原と特異結合反応する。従って、このような抗体は、除去の対象ではない。
以下、この除去方法を説明する。
【0017】
以下、この除去方法を説明する。図1(d)に示すように、まず、第2の保護剤4を壁面に有している第2カラム11を準備する。この第2の保護剤4は、タンパク質2が有する第2の特異的結合部位22と特異的に結合する。タンパク質2が抗体であって、かつ第2の特異的結合部位22がそのFab部位である場合、第2の保護剤4としては、抗原を挙げることができる。
【0018】
次に、図1(e)に示すように、この第2カラム11に、図1(a)〜図1(c)によって得られたタンパク質2を供給する。すると、少なくとも一部の第2の特異的結合部位22が修飾されていないタンパク質2は、第2の保護剤4と結合し、第2カラム11内部に留まる。一方、全ての第2の特異的結合部位22が修飾されているタンパク質8は第2カラム11に留まることができず、第2カラム11から排出される(図1(e)右側参照)。
【0019】
最後に、図1(f)に示すように、第2カラム11内部に留まっているタンパク質2を第2カラム11から取り出す。具体的には、第2カラム11内部に0.1Mグリシン−HCl(pH:2.7)を供給することによって、タンパク質2を第2カラム11から取り出すことができる。
【0020】
得られたタンパク質2の第1の特異的結合部位21は修飾されておらず、かつ少なくとも一部の第2の特異的結合部位22も修飾されていない。すなわち、2つ以上の特異的結合部位が修飾されておらず、それらの活性が維持されている。このようにして、第1の特異的結合部位21および少なくとも一部の第2の特異的結合部位が修飾されていないタンパク質9を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、2以上の特異結合部位の活性を維持可能な、修飾物質によるタンパク質の修飾方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、実施の形態を用いて、抗体の特異的結合部位であるプロテインA(以下SpAと略す)結合部位及び抗原結合部位の生物活性を維持したまま、抗体の修飾を行う方法について説明する。
【0023】
抗体には抗HSAマウスモノクローナルIgG1(以下マウスモノクローナル抗体と略す)を用い、修飾物質には、Fe(C5H5)2(以下フェロセンと略す)を用いる。
【0024】
なお、以下実施の形態に示すバッファーや水溶液の調製には、Milli-Q SP TOC(Millipore製)でろ過した純水を使用する。また、特に記載のない塩やバッファーを調整する試薬は、いずれも和光純薬工業製のものを使用する。
【0025】
(実施の形態1)
フェロセン結合した抗体の獲得
以下の精製において、化学薬品は使用前に0.045μmのフィルターを通す。また、精製に用いる結合バッファーは0.2 M NaHCO3、0.5MNaCl(pH 8.9)を用い、溶出バッファーは0.1M クエン酸ナトリウム(pH4.0)を用いる。なお、第1の保護剤にはSpAを使用し、SpAカラムには、HiTrap ProteinA HP 1mL カラム (GE ヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)を使用する。カラム内への送液にはペリスタポンプ(IWAKI、PST-100N)を用い、流速1ml/minで送液をおこなう。
【0026】
まず、結合バッファーでシリンジを満たし、ストッパーを取り除き、シリンジとSpAカラムをつなぐ。次に、SpAカラムの先端を折り、5mlの純水を流し、エタノール防腐剤を洗い流す。続いて5mlの溶出バッファーを流してSpAカラムを再生し、5〜10mlの結合バッファーを流して平衡させる。
【0027】
マウスモノクローナル抗体(1 mg/ml)10mlをSpAカラムに流し、SpAに結合させる。ここでSpAカラムから排出される溶液はSpAと結合しなかったマウスモノクローナル抗体を含んでいるため、回収して、3回SpAカラム内を通過させる。
【0028】
再び結合バッファーを、SpAカラム中に全量5ml流してカラム内を満たし、非特異的にSpAに結合した不純物を取り除く。
【0029】
次に、SpAに結合したマウスモノクローナル抗体とフェロセンを接触させ、マウスモノクローナル抗体をフェロセンで修飾を行う。1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride(EDC、Fluka製)、N-hydroxy succinimide (NHS、Fluka製)がそれぞれ0.1M溶解した水溶液1mlを作成し、それにフェロセンモノカルボン酸(和光純薬工業製)を2mg加えて室温で二時間攪拌させてフェロセンモノカルボン酸を活性化させる。攪拌後、上記SpAカラム内に送液し、25℃のインキュベータで一晩静置し、フェロセンモノカルボン酸とSpAカラム内のマウスモノクローナル抗体を反応させる。翌日、5〜10mlの結合バッファーでSpAカラム内を洗い、不純物を取り除く。続いて、溶出バッファーを3ml流し、排出される溶液を500μlずつ1.5mlのエペンドルフチューブにSpA結合部位が修飾されていないフェロセン修飾抗体を回収する。回収した溶液は1 M Tris(pH9.0)により直ちに中和する。
【0030】
(実施の形態2) HSA結合カラムによる抗体精製
以下の精製において、化学薬品は使用前に0.045μmのフィルターを通す。また、精製に用いる洗浄バッファーは0.1 M 酢酸ナトリウム、0.5 M NaCl(pH 4.0)、カップリングバッファーは0.2 M NaHCO3、0.5 M NaCl(pH 8.3)、ブロッキングバッファーは0.5 Mモノエタノールアミン、0.5 M NaCl(pH 8.3)、平衡化バッファーは10mMリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)(PBS)を使用し、HSAはシグマ社製 (Lot:111K-7612)を使用する。なお、第2の保護剤にはHSAを使用し、HSA結合カラムには、HiTrap NHS activated HP 1mLカラム(GE ヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)を使用する。カラム内への送液にはペリスタポンプ(IWAKI、PST-100N)を用いる。
【0031】
まずHSA結合カラムにシリンジを接続し、1mM 冷HClを5ml流速200μl/sで送液し、HSA結合カラムを洗浄する。次に、5mg/mlのHSA溶液(0.2 M NaHCO3、0.5 M NaCl、pH8.3)1mlを、流速200μl/秒で送液する。HSA結合カラム出口を付属のストッププラグで密閉し、室温で20分間放置する。そして、カップリングバッファーを、流速200μl/sで3ml送液し、カップリング反応をさせる。 6mlのブロッキングバッファー、6mlの洗浄バッファー、6mlのブロッキングバッファーをそれぞれ流速200μl/sで送液した後、室温で20分間放置して、未反応活性基のブロッキングをする。そして、洗浄バッファー、ブロッキングバッファー、洗浄バッファー、平衡化バッファーをそれぞれ流速200μl/sで6ml送液して上記HSA結合カラムを平衡化する。
【0032】
上記HSA結合カラムへ0.02M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.0)を、流速1ml/minで2ml流す。次に実施の形態1で作成したSpA結合部位に修飾が修飾されていないフェロセン修飾抗体溶液10mlを、上記HSA結合カラム中へ流す。HSA結合カラムから排出された溶液はHSAと結合しなかったフェロセン修飾抗体を含んでいるため、回収して、3回カラム内を通過させる。再び上記リン酸ナトリウムバッファーを、HSA結合カラム中に10ml流すことにより、抗原結合部位2か所にフェロセンが結合した抗体を排除する。そして、0.1M Glycine-HCl (pH 2.7)をHSA結合カラム中に3ml流し、500μlずつ1.5mlのエペンドルフチューブにSpA結合部位及びHSA結合部位が修飾されていないフェロセン修飾抗体を回収する。回収した溶液は、1M Tris(pH 9.0)により直ちに中和する。
【0033】
(実施の形態3)
フェロセン修飾抗体の電気化学性質評価
電気化学測定には電気化学アナライザー(ALSモデル660A、BAS社)を使用し、サイクリックボルタンメトリー(CV)法により実施する。なお、参照電極にAg/AgCl (飽和KCl)(RE-1C 参照電極、BAS社製)、カウンター電極に白金電極(VC-2用Ptカウンター電極、BAS社製)作用極に金電極(SAUE金電極、外径3.0mm、内径1.6mm、BAS社製)を用いる3極構成とし、25℃で測定を行う。
【0034】
測定の20分以上前に、サンプルバイアルにPBSバッファーを20mL入れ、サンプルホルダーをセットする。飽和塩化銀参照電極およびカウンター電極(白金電極)をセットする。測定前に作用電極を研磨用アルミナ(BAS社製、PK-3セル研磨キット)で研磨する。ケーブルの接続リード線を作用電極、カウンター電極、参照電極にそれぞれつなぐ。フェロセン溶液をサンプルバイアルに、金電極をサンプルホルダー(9mmφ、BAS社製)内に入れ、ポテンシャルスイーパーによって作用電極の電位(0〜600mV)を掃引して電流を測定し、電流−電位曲線を得る。サンプルバイアルを洗浄し、金電極を洗浄および研磨した後、3mg/mlフェロセン修飾抗体溶液をサンプルバイアルに入れ、同様に測定を行う。得られた電流−電位曲線を比較してそのピークが一致していることにより、フェロセン溶液とマウスモノクローナル抗体に結合したフェロセン溶液の酸化還元ピーク位置を比較し、マウスモノクローナル抗体にフェロセンが結合していること、及びフェロセンがマウスモノクローナル抗体に結合することで、フェロセン自身の電気化学性質が変わらないことを確認する。
【0035】
(実施の形態4) ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)で抗原結合状態を確認
実施の形態2で作成したフェロセン修飾抗体と抗原であるHSA(シグマ社製 Lot:111K-7612)の反応特性について、ELISA法を用いて調べる。
【0036】
まず、HSAをPBS(8g/lのNaCl、0.2g/lのKCl、0.2g/lのKH2PO4、2.9g/lのNa2HPO4-12H2O )で2.5μg/mlになるよう希釈し、得られた溶液をマイクロプレート(米国Corning社製のE.I.A.・R.I.A. 8Well Strip)の1穴あたり100μlずつ分注し、室温で一晩静置して抗原を基板にコーティングする。抗原が固相化されていないネガティブコントロールの穴には、何も入れずに室温で一晩静置する。翌日、抗原タンパクで被覆されなかったかもしれない部分を、抗原とは無関係のタンパク質(1%Casein-PBS-Az)で埋める。
【0037】
アスピレータで抗原溶液を除去した後、1%Casein-PBS-Azを各穴に200μlずつ加え、室温に30分間静置し、プレートのブロッキングを行う。ブロッキング後、固相の洗浄を米国BIO-RAD社製のMICRO PLATE WASHER MODEL 1550を使用し、PBSで3回行う。
【0038】
次に、実施の形態2で作成したフェロセン修飾抗体と、フェロセン未修飾マウスモノクローナル抗体を、各々1%Casein-PBS-Azを用いて10-6mg/ml、10-5mg/ml、3×10-5mg/ml、10-4mg/ml、3×10-4mg/ml、10-3mg/ml、または10-2mg/mlに希釈し、抗原被覆の穴と抗原被覆が行われていないネガティブコントロール(ブロッキングタンパクのみを被覆した) の穴とに100μlずつ入れ、室温で3時間反応させた後、固相の洗浄を3回行う。バックグラウンド値を得るためのコントロールの穴には、抗体を入れずに、1%Casein-PBS-Azのみ100μlずつ入れ、室温で3時間反応させた後、固相の洗浄を3回行う。
【0039】
さらに、ペルオキシダーゼ修飾抗マウスIgG-ヤギ抗体(Affinity Purified Antibody Peroxidase Labeled Goat anti-Mouse IgG(H+L) Human Serum Absorbed (Kirkegaard Perry Laboratories社製))を1%Casein-PBSで0.1mg/mlに希釈して、各穴に100μlずつ入れ、室温で30分間反応させた後、固相の洗浄を3回行う。ついで、基質として、o-フェニレンジアミン(OPD)(和光純薬工業製)を使用し、酵素反応を行った。反応液(80mgのOPD、20mlのPCB(35.8g/lのNa2HPO4、20mlの無水クエン酸(21g/l(pH5.0))、8μlの30%H2O2)を使用直前に調整し、各穴に100μlずつ入れ、室温で3分間反応させる。
【0040】
マイクロプレートの穴に反応液を入れたときと同じ順序、同じ速さで反応停止液(4NH2SO4)を各穴に25μl入れ、各穴の酵素反応の時間を一定にする。酵素反応停止後、自動吸光度測定器MICRO PLATEREADER MPR A4(TOYO SODA社製)で、492nmの吸光度を測定する。そして、フェロセン修飾抗体とフェロセン未修飾マウスモノクローナル抗体の抗原結合曲線を比較することにより、フェロセン修飾抗体がフェロセン結合により抗原結合能が低下していないことを確認する。
【0041】
(実施の形態5)
SpAに対する抗体の結合能を確認
SpAに対する抗体の結合能はSPR(surface Plasmon resonance)によって確認することができる。測定装置には、BIACORE3000(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)を使用し、流量は10μl/分とする。
【0042】
まず、SpA(SIGMA社製、067K13531)をセンサーチップ上に固定化する。センサーチップには、金属膜の表面がカルボキシメチルデキストランで覆われたCM5(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)を用いる。
【0043】
PBS(pH7.4)を用い、SpA40μg/mlを調整する。次に、ビアコア用バイアル(Plastic Vials、φ7mm、GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)にろ過した10mM酢酸(0.1M酢酸、0.1M酢酸ナトリウム)(pH4.5)、EDC/NHS(アミンカップリングキット(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)中のN-hydroxysuccinimide(NHS)とN-ethyl-N'-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride(EDC)をそれぞれ100mMおよび400mMの濃度で溶解させ、等容量ずつ混合する)、エタノールアミン(1.0M Ethanolamine-HCl pH8.5)(アミンカップリングキット(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)をそれぞれ400μl入れ、上記センサーチップをセットする。SPRセンサーにEDC/NHSをインジェクトし、 CMデキストラン中のカルボキシル基を活性化させる。次に、SpAのアミノ基と結合させるため、上記SpA溶液をインジェクトし、最後にNHS基をブロッキングするため、エタノールアミンをインジェクトし、SpAをセンサーチップに固定化する。実施の形態2で作成したフェロセン修飾抗体及びフェロセン未修飾マウスモノクローナル抗体を100nMに調製する。反応における溶媒には10mMリン酸バッファー、0.005重量%TWEEN 20 Detergent(CALBIOCHEM製)(pH7.4)を用いる。これらのフェロセン修飾抗体溶液及びフェロセン未修飾マウスモノクローナル抗体溶液を、ビアコア用バイアル(Plastic Vials、φ7mm、GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)に各々入れ、セットする。センサーチップ上に上記フェロセン修飾抗体溶液をインジェクトし、SpAに抗体を結合させる。次に、上記溶媒を流してSpAと結合していないフェロセン修飾抗体を取り除き、SpAに結合したフェロセン修飾抗体の量を測定する。フェロセン未修飾マウスモノクローナル抗体でも同様に測定を行う。そして、フェロセン修飾抗体とフェロセン未修飾マウスモノクローナル抗体のSpA結合量を比較することにより、フェロセン修飾抗体がフェロセン結合によりSpA結合能が低下していないことを確認する。
【0044】
本方法によって、SpA結合部位及びHSA結合部位が修飾されていない抗体を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明にかかるタンパク質修飾方法は、複数の特異的結合部位の生物活性を維持したまま、修飾物質によるタンパク質の修飾を行うことができ、タンパク質の特異的相互作用を用いた分析方法の修飾タンパク作成方法として有用である。また、医学、薬学、生物学、化学、食品学等の諸分野における免疫反応測定抗体の修飾方法等の用途にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の各工程を示す図
【図2】測定しようとするタンパク質を修飾物質により修飾する具体的な方法を示す図
【図3】抗体の模式図
【図4】特許文献1に開示されているタンパク質の修飾方法を示す図
【図5】抗体を表面上に有する基板を示す図
【符号の説明】
【0047】
1 第1の保護剤
2 被修飾タンパク質
3 修飾物質
4 第2の保護剤
9 第1の特異的結合部位21および第2の特異的結合部位22のいずれもが修飾されていないタンパク質
10 第1カラム
11 第2カラム
21 第1の特異的結合部位
22 第2の特異的結合部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を修飾物質により修飾する方法であって、
前記タンパク質は、第1の特異的結合部位および第2の特異的結合部位を有しており、
前記方法は、以下の工程を順に有する:
前記第1の特異的結合部位に特異的に結合する第1の保護剤に、前記タンパク質を接触させる第1工程、
前記タンパク質に、前記修飾物質を供給する第2工程、
前記第1の保護剤と第1の特異的結合部位とを解離させる第3工程、
前記第2の特異的結合部位に特異的に結合する第2の保護剤に、前記第1〜3工程を順に経たタンパク質を接触させると共に、前記修飾物質によって前記第2の特異的結合部位が不活性化している前記タンパク質を除去する第4工程、および
前記第2の保護剤と第2の特異的結合部位とを解離させる第5工程。
【請求項2】
前記タンパク質が抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の特異的結合部位がFc領域であり、前記第2の特異的結合部位がFab領域である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の保護剤がプロテインAまたはプロテインGである、請求項1に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate