説明

タンパク質を担体に固定化するための水性組成物、及び担体へのタンパク質の固定化方法

【課題】 タンパク質と特異的に結合する生体関連分子を検出するための担体の表面に、該タンパク質を、担体のスポット以外の部分に吸着させることなく、点着させることを可能とする。
【解決手段】 タンパク質と特異的に結合する生体関連分子を検出するための担体の表面上に、該タンパク質を固定化するために用いられる水性組成物であって、該タンパク質と、炭素数4〜6のモノアルキレングリコールの少なくともいずれかを含有する水性組成物を、担体に点着させることにより、該タンパク質を担体に固定化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体関連分子などの検出に用いられる担体の表面上に、該生体関連分子と特異的に結合する生体関連分子を固定化するために用いられる水性組成物に関し、特にタンパク質を担体表面上に固定化するための水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法、環境や食品の検査等の分野において、プローブが固定化されたマイクロアレイやDNAチップなどの担体を用いて、核酸やタンパク質等の生体関連分子を検出することが広く行われている。プローブとは、標的となる生体関連分子に結合させて、その標的を検出可能にするための物質であり、例えばDNA断片やタンパク質などの生体関連分子(生理活性物質等)が用いられる。マイクロアレイやDNAチップなどの担体には、このようなプローブが多数固定化されている。
担体にプローブを固定化する方法としては、プローブを水性組成物に溶解させ、その水性組成物を担体上に点着させる方法が知られている。
【0003】
ここで、プローブが固定化された担体を用いて、生体関連分子の検出を的確に行うためには、担体上にプローブが適切かつ安定して点着されていることが重要である。すなわち、点着により形成されたスポットの形状やサイズにバラツキがなく、それぞれのスポットにおけるプローブの量が一定であることが望ましい。
このようにプローブを担体に安定して点着する技術としては、特許文献1に記載のポリヌクレオチドを固体支持体上へ固定化する方法を挙げることができる。この方法によれば、プローブが核酸の場合に、その点着を適切に行うことが可能となっている。
【0004】
また、特許文献2に記載のDNA分析用マイクロアレイの製造方法によれば、水性組成物に増粘剤を添加して粘度を調整することで、スポットの形状や大きさが揃った担体を得ることができるとされている。
さらに、特許文献3,4には、水性組成物にポリビニルアルコールやポリエチレングリコールなどを含有させることにより、スポットの形状やサイズの再現性を向上できるとの記載がある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−198406号公報
【特許文献2】特許第3398366号公報
【特許文献3】特開2004−286728号公報
【特許文献4】特開2007−163354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの方法は、プローブが核酸の場合に好適なものであり、プローブがタンパク質の場合に適するものではなかった。
すなわち、プローブがタンパク質の場合は、水性組成物の種類や粘度によっては、水性組成物にタンパク質を溶解させ、これを担体に点着させて固定化した後に洗浄すると、固定化しなかったタンパク質の一部が担体表面上のスポット以外の部分に吸着してしまい、適切なスポットが得られなかった。
このため、このような担体を生体関連分子の検出に使用すると、バックグラウンドが高くなり、適切な検出を行うことができなくなってしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明者らは鋭意研究した結果、担体に点着させる水性組成物に、一定のモノアルキレングリコールを含有させることで、担体に対するタンパク質の吸着を抑制できることを見いだし、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、タンパク質と特異的に結合する生体関連分子を検出するための担体表面上に、該タンパク質を固定化するために用いられる水性組成物に、炭素数4〜6のモノアルキレングリコールを含有させることで、担体へのプローブの点着を好適に行うことが可能な、タンパク質を担体に固定化するための水性組成物、及び担体へのタンパク質の固定化方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の水性組成物は、タンパク質と特異的に結合する生体関連分子を検出するための担体の表面上に、該タンパク質を固定化するために用いられる水性組成物であって、炭素数4〜6のモノアルキレングリコールの少なくともいずれかを含有する構成としてある。
【0009】
また、本発明の担体へのタンパク質の固定化方法は、タンパク質と特異的に結合する生体関連分子を検出するための担体の表面上に、該タンパク質を固定化する方法であって、炭素数4〜6のモノアルキレングリコールの少なくともいずれかを含有する水性組成物にタンパク質を溶解させ、この水性組成物を担体の表面に点着させる工程と、担体の表面にタンパク質を固定化させる工程と、担体の表面を洗浄する工程とを有する方法としてある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タンパク質と特異的に結合する生体関連分子を検出するための担体表面上にタンパク質を固定化するにあたり、タンパク質が担体のスポット以外の部分に吸着することを抑制でき、生体関連分子の検出を適切に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】各実験における各種グリコール系添加剤とその濃度の一覧を示す図である。
【図2】実験1及び2における担体表面へのタンパク質の点着状態を示す図である。
【図3】実験3及び4における担体表面へのタンパク質の点着状態を示す図である。
【図4】実験5及び6における担体表面へのタンパク質の点着状態を示す図である。
【図5】実験7及び8における担体表面へのタンパク質の点着状態を示す図である。
【図6】実験9及び10における担体表面へのタンパク質の点着状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のタンパク質を担体に固定化するための水性組成物、及び担体へのタンパク質の固定化方法の好ましい実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態の構成に限定されるものではない。
【0013】
(タンパク質を担体に固定化するための水性組成物)
本実施形態のタンパク質を担体に固定化するための水性組成物(以下、固定化溶液と称する場合がある。)は、担体に固定化するタンパク質を含有する水溶液に、特定のグリコール系添加剤を添加してなるものである。
担体に固定化するタンパク質の種類は、特に限定されるものではないが、例えば抗原となるタンパク質や、免疫グロブリンなどの各種抗体タンパク質、その他の生体関連分子に結合し得る種々のタンパク質を用いることができる。
また、タンパク質を含有する水溶液の溶媒には、一般的なものを使用することができ、例えばリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS)などを好適に用いることができる。
【0014】
本実施形態のタンパク質を担体に固定化するための水性組成物に添加するグリコール系添加剤としては、炭素数4〜6のモノアルキレングリコールが用いられる。
すなわち、添加剤として、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールを好適に用いることができる。これらの添加剤は、単独でも組み合わせて用いても良い。また、これらの変性体を含めて、単独又は組み合わせて用いることも可能である。
タンパク質を担体に固定化するための水性組成物の添加剤としてこれらを用いることで、タンパク質が担体表面におけるスポット以外の部分に非特異的に吸着することを防止できるとともに、スポット液の乾燥を抑制することが可能となる。
【0015】
また、これらのモノアルキレングリコールの水性組成物における濃度は、10重量%〜70重量%とすることが好ましい。
10重量%未満にすると、スポット液が乾燥しやすいため、スポットムラが生じやすくなる。また、70重量%より大きくすると、スポット液溶媒の粘性やタンパク質との親和性が変化することにより基板に対するタンパク質の結合効率が低下すると考えられる。
特に、添加剤として、1,4−ブタンジオールを用いる場合、その濃度は10重量%〜70重量%とすることが好ましく、1,5−ペンタンジオールを用いる場合、その濃度は10重量%〜50重量%とすることが好ましく、1,6−ヘキサンジオールを用いる場合、その濃度は10重量%〜50重量%とすることが好ましいことが、後述する実施例の結果から明らかになっている。
【0016】
(担体)
本実施形態において使用される担体は、マイクロアレイやDNAチップなどの担体であり、上述したタンパク質が表面上に多数固定化されている。
この担体の基板は、例えば、シリコン、ガラス、繊維、木材、紙、セラミックスや、例えばポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等のプラスチックなどからなるものを用いることができ、タンパク質の非特異吸着が少ないもの、蛍光の画像データを得た際に基板自体の自家蛍光(バックグラウンド)の小さいものを用いることが好ましい。
【0017】
また、担体の表面に、例えばダイヤモンドライクカーボンを蒸着するなどの表面処理を行って、タンパク質を担体上に強固に固定化可能することも好ましい。
担体の形状やサイズは、特に限定されるものではなく、例えば幅0.1〜100mm、長さ0.1〜100mm、厚み0.01〜10mm程度の平板状のものなどを好適に用いることができる。
【0018】
また、担体の表面又は裏面に、反射層としてTi、Au、Pt、Nb、Cr、TiC、TiN等の単層又はこれらの複合膜が製膜されていてもよく、また静電層が設けられていることも好ましい。
静電層を施した担体表面には、タンパク質と共有結合しうる官能基を導入するため、化学修飾を施すようにすることができる。その官能基としては、例えばカルボキシル基、活性エステル基、ハロホルミル基、水酸基、硫酸基、シアノ基、ニトロ基、チオール基などを挙げることができる。
【0019】
特に、静電層が施された担体に、ジカルボン酸又は多価カルボン酸を用いてカルボキシル基を導入し、このカルボキシル基にタンパク質のアミノ基を結合させることで、タンパク質を担体に固定化させることが好ましい。
化学修飾を施す方法は、一般的な方法を用いることができ、例えば、静電層が施された担体にタンパク質と共有結合しうる官能基を導入する反応を溶液中で行う場合、担体を、非置換又は一置換されたアミノ基を有する化合物を含有する溶液中に浸漬した後、タンパク質と共有結合しうる官能基を導入することが好ましい。溶液の溶媒としては、例えば水、N−メチルピロリドン、エタノール等を用いることができる。
【0020】
(担体へのタンパク質の固定化方法)
(1)水性組成物の調整
まず、担体に固定化させるタンパク質を、リン酸緩衝生理食塩水溶液に添加する。次に、炭素数4〜6のいずれかのモノアルキレングリコールを添加して、固定化溶液としての水性組成物を調整する。なお、タンパク質とモノアルキレングリコールの添加順序は反対にしても良い。
また、炭素数4〜6のいずれかのモノアルキレングリコールの濃度は、上述したように固定化溶液において終濃度で10重量%〜70重量%にすることが好ましく、また10重量%〜50重量%にすればスポットの安定性をより向上させることができるためさらに好ましい。
【0021】
(2)固定化反応
次に、調製した固定化溶液をウェルマイクロプレートに分注し、このウェルマイクロプレートと、担体とをスポッティングマシンにセットして、固定化溶液を担体上にスポッティング(点着)する。そして、一定時間静置する。これにより、担体へのタンパク質の固定化反応が行われる。
【0022】
(3)洗浄
次に、タンパク質が固定化された担体を洗浄する。洗浄は、固定化反応後の未反応のタンパク質を除去することができればその手法は限定されるものではなく、タンパク質を変性させないような緩衝液と界面活性剤等を用いることができる。
さらに、洗浄した担体表面に対してブロッキングを行うことが好ましい。このブロッキングは、タンパク質固定化基板の実使用段階において、反応させるタンパク質が基板上に非特異的に吸着することを抑制させるためのものであり、一般的には、アルブミンやスキムミルクのような反応と無関係なタンパク質を基板表面に吸着させたり、非生体由来の物質で基板表面をコーティングすることが多い。本実施形態においては、これらを適宜使用することができる。
【0023】
(担体へのタンパク質の非特異的吸着の有無の確認方法)
次に、担体に固定化されたタンパク質と、生体関連分子との結合反応を行って、タンパク質がスポット以外の担体表面上に、非特異的に吸着していないかどうかを確認する方法について説明する。一般的に基板上の非特異吸着を評価するためには、固定化するタンパク質に直接蛍光物質などを標識しておき、非特異吸着を検出器で検出することが多いが、今回はより高感度に非特異吸着を検出するための方法を説明する。
【0024】
(1)タンパク質と生体関連分子の結合反応
まず、担体に固定化されたタンパク質に特異的に結合する生体関連分子(以下、試料と称する場合がある。)を準備し、それを蛍光物質などで標識する。標識方法は特に限定されるものではなく、市販の標識キットなどを用いることができる。また、市販のものがあれば標識済み試料を購入して用いてもよい。
なお、標識物質としては、Cy3及びCy5などのCyDyeや、FITC、RITC、ローダミン、テキサスレッド、TET、TAMRA、FAM、HEX、ROXなど蛍光標識を好適に用いることができるが、これに限定されるものではなく、ビオチン法、化学発光法などを用いることもできる。
標識された試料の水溶液組成は、試料が固定化されたタンパク質と十分に結合できるものであれば特に限定されるものではなく、タンパク質を変性させないでかつ結合反応を阻害しないような緩衝液と界面活性剤等を適宜用いることができる。
【0025】
次に、得られた水溶液を、担体上のタンパク質が固定化されたスポット上にスポッティングし、担体に固定化されたタンパク質と、標識された試料との結合反応を行わせる。例えば、担体に固定化されたタンパク質が抗原である場合は、試料として抗体が用いられ、これらの間で抗原抗体反応が行われる。
タンパク質と試料の結合反応の後、担体を洗浄液で洗浄して、未反応の試料を担体表面から除去する。洗浄液には、界面活性剤と緩衝液の混合溶液などを用いることができる。
【0026】
(2)検出
次に、担体におけるスポットの蛍光強度を測定する。このとき、担体に固定化されているタンパク質に結合した試料の標識の蛍光シグナルが、蛍光検出器により検出される。蛍光検出器としては、例えば冷却CCDカメラ及びコンピュータを連結した蛍光スキャニング装置などを用いることができる。これによって、担体上の蛍光を画像データとして得ることができる。
【0027】
以上のような方法によって、担体におけるスポット領域に、タンパク質が適切に固定化され、担体表面上のその他の領域にタンパク質が非特異的に吸着していない場合は、担体におけるスポット領域に円形の蛍光が検出され、その他の領域からは蛍光が検出されない画像データを得ることができる。
これに対して、担体表面上のスポット以外の領域にタンパク質が非特異的に吸着している場合は、その吸着している部分に蛍光が検出される。このような蛍光はバックグラウンドを高くしてしまい、試料の検出の妨げとなる。
また、担体におけるスポット領域に、タンパク質が適切に固定化されていない場合には、不安定な形状の蛍光が検出される。このような状態は、試料の検出の妨げになるとともに、定量的なデータを得ることの妨げとなる。
【0028】
そこで、本実施形態の担体へのタンパク質の固定化方法では、固定化溶液に炭素数4〜6のモノアルキレングリコールを添加することで、このような担体表面へのタンパク質の非特異的吸着や不安定な形状のスポットの形成を防止可能としている。
【0029】
ここで、核酸を担体に固定化する場合、ポリエチレングリコール(PEG)を固定化溶液に添加することにより、核酸が担体に非特異的に吸着することを抑制できることが知られている。そこで、タンパク質が担体に固定化する場合にも、同様にポリエチレングリコールを固定化溶液に添加することで、タンパク質が担体に非特異的に吸着することを抑制できる可能性があると期待された。
【0030】
しかしながら、後述する比較例に示すように、ポリエチレングリコールを添加した固定化溶液を用いても、タンパク質が担体に非特異的に吸着することは抑制できなかった。これは、ポリエチレングリコールを含む固定化溶液は粘性が高いため、核酸に比較して分子量が大きいタンパク質の場合には、固定化後洗浄する際に試料と結合しなかったタンパク質が担体表面から洗浄液への拡散する速度が非常に遅くなり、担体表面上に非特異的に吸着してしまったものと推定される。
そこで、本発明者らは、同じグリコール類でもより低分子のものでスクリーニングを行ったところ、炭素数4〜6程度のアルキレングリコール類を固定化溶液に添加した場合には、非特異吸着が生じないことを見いだした。
【0031】
一方で、炭素数2のエチレングリコールや炭素数3のプロピレングリコールでは、非特異吸着が観察された。これらの固定化溶液を用いた場合は、タンパク質がスポッティングの直後に、基板上で乾燥してしまっていた。このことから、これらの固定化溶液を用いた場合は、スポット液が乾燥しやすくなり、乾燥によりタンパク質が凝集して、基板表面に吸着しやすくなったと推定される。
よって、タンパク質を担体に固定化するために最適な固定化溶液は、物質拡散が起こりやすい低粘度の溶液で、かつスポット・固定化反応時に乾燥しない溶液であると考えられる。
【0032】
以上のことから、本実施形態では、タンパク質を担体に固定化するための水性組成物に、炭素数4〜6のモノアルキレングリコールを含有させることで、タンパク質が担体のスポット以外の部分に吸着することを抑制し、生体関連分子の検出を適切に行うことを可能としている。
【実施例】
【0033】
以下、タンパク質を担体に固定化するための水性組成物に、添加剤として各種グリコール類を様々な濃度で添加した場合の、タンパク質の担体への非特異的吸着の有無を検証するために行った実施例、比較例及び参考例について説明する。
【0034】
<実験1: 1,4−ブタンジオール>
(実施例1)
担体に固定化するタンパク質としてRabbit IgG(ライフテクノロジージャパン株式会社製)を含有する1×リン酸緩衝生理食塩水溶液(株式会社ニッポンジーン製、pH7.4、以後PBSと称する場合がある。)に、1,4−ブタンジオール(和光純薬工業株式会社製)を添加して、終濃度100μg/mLのRabbit IgG溶液を調製し、これを固定化溶液とした。1,4−ブタンジオールは、終濃度で10重量%となるように添加した。なお、添加剤は、以下の実施例、比較例及び参考例でも同様に和光純薬工業株式会社製のものを使用した。各実験で使用したグリコール類の濃度の一覧を図1に示す。
【0035】
次に、調製した固定化溶液を5μLずつ分注した384ウェルマイクロプレートと、担体のジーンシリコン(東洋鋼鈑株式会社製)とをスポッティングマシンSPBIOTM2000(Hitachi Software Engineering Co.Ltd.製)の所定の位置にセットし、スポッティングを実施した。
【0036】
固定化溶液をスポットした担体を4℃で一晩静置した後、1×PBS/0.5%Tween20で15分間静置洗浄を行い、さらにブロッキング剤の1×Carbo−Free Blocking Solution(Vector Laboratories,Inc.製)を室温で3時間反応させた。
そして、担体をミリQ水で洗浄し、遠心乾燥後、アルミパウチで真空包装した。作製したRabbit IgG固定化担体は、使用するまで−20℃で保管した。
【0037】
次に、担体に固定化されたタンパク質に結合させる生体関連分子として、Alexa Fluor 647 goat anti−Rabbit IgG(H+L)(ライフテクノロジージャパン株式会社製)を使用し、これを終濃度20μg/mLとなるように、1×PBS/0.05%Tween20溶液に希釈して、試料を含有する反応溶液を調製した。なお、この生体関連分子は、蛍光標識済みで市販されているものである。
【0038】
この反応溶液を、先に作製したRabbit IgG固定化担体上に滴下し、カバープレートをかぶせてから室温(25℃)、遮光下で60分間静置して抗原抗体反応を行った。
反応後、担体を室温下で50mM TTBS buffer(20mM Tris−HCL(pH7.5),150mM Nacl,0.05% Tween20)に浸して洗浄し、カバーガラスを載せて蛍光検出器Bioshot(東洋鋼鈑株式会社製)で632nmにおける担体表面の蛍光強度を測定し、蛍光の画像データを得た。その結果を図2に示す。
【0039】
(実施例2,3,4)
固定化溶液に含有させる添加剤として1,4−ブタンジオールを、実施例2,3,4において終濃度でそれぞれ30重量%,50重量%,70重量%となるように添加した点以外は、実施例1と同様に実験を行って、担体表面の蛍光の画像データを得た。その結果を図2に示す。
【0040】
固定化溶液の添加剤として1,4−ブタンジオールを用いた場合、実施例1,2,3,4のいずれの濃度の蛍光画像においても、スポット以外の部分に蛍光はほとんど見られず、またスポットの蛍光の形状は安定した円形となっている。したがって、これらの場合には、タンパク質はスポット以外の部分にほとんど吸着しておらず、またスポットに適切に固定化されていることがわかる。このため、固定化溶液の添加剤として1,4−ブタンジオールを用いる場合、固定化溶液におけるその濃度は、10重量%から70重量%とすることが好ましい。
【0041】
<実験2: 1,5−ペンタンジオール>
(実施例5,6,7)
固定化溶液に含有させる添加剤として1,5−ペンタンジオールを、実施例5,6,7において終濃度でそれぞれ10重量%,30重量%,50重量%となるように添加した点以外は、実施例1と同様に実験を行って、担体表面の蛍光の画像データを得た。その結果を図2に示す。
【0042】
(参考例1)
固定化溶液に含有させる添加剤として1,5−ペンタンジオールを、終濃度で70重量%となるように添加した点以外は、実施例1と同様に実験を行って、担体表面の蛍光の画像データを得た。その結果を図2に示す。
【0043】
固定化溶液の添加剤として1,5−ペンタンジオールを用いた場合、実施例5,6,7及び参考例1のいずれの濃度の蛍光画像においても、スポット以外の部分に蛍光はほとんど見られない。一方、スポットの蛍光の形状は、実施例5,6,7においては安定した円形となっているが、参考例1ではややいびつな形状となっている。これは、固定化溶液に1,5−ペンタンジオールを70重量%含有させた場合には、担体表面に結合するタンパク質の反応が小さくなり、スポットに吸着するタンパク質の量が少なくなるためと考えられる。したがって、固定化溶液の添加剤として1,5−ペンタンジオールを用いる場合、固定化溶液におけるその濃度は、10重量%から50重量%とすることが好ましい。
【0044】
<実験3: 1,6−ヘキサンジオール>
(実施例8,9,10)
固定化溶液に含有させる添加剤として1,6−ヘキサンジオールを、実施例8,9,10において終濃度でそれぞれ10重量%,30重量%,50重量%となるように添加した点以外は、実施例1と同様に実験を行って、担体表面の蛍光の画像データを得た。その結果を図3に示す。
【0045】
(参考例2)
固定化溶液に含有させる添加剤として1,6−ヘキサンジオールを、終濃度で70重量%となるように添加した点以外は、実施例1と同様に実験を行って、担体表面の蛍光の画像データを得た。その結果を図3に示す。
【0046】
固定化溶液の添加剤として1,6−ヘキサンジオールを用いた場合、実施例8,9,10及び参考例2のいずれの濃度の蛍光画像においても、スポット以外の部分に蛍光はほとんど見られない。一方、スポットの蛍光の形状は、実施例8,9,10においては安定した円形となっているが、参考例2ではいびつな形状となっている。これは、固定化溶液に1,6−ヘキサンジオールを70重量%含有させた場合には、担体表面に結合するタンパク質の反応が小さくなり、スポットに吸着するタンパク質の量が少なくなるためと考えられる。したがって、固定化溶液の添加剤として1,6−ヘキサンジオールを用いる場合、固定化溶液におけるその濃度は、10重量%から50重量%とすることが好ましい。
【0047】
<実験4: エチレングリコール>
(比較例1)
固定化溶液に含有させる添加剤としてエチレングリコールを、終濃度で30重量%となるように添加した点以外は、実施例1と同様に実験を行って、担体表面の蛍光の画像データを得た。その結果を図3に示す。
この場合、比較例1の蛍光画像において、蛍光がスポット以外の部分にも見られ、スポットの形状も円形ではなく、不安定でいびつな形状となっており、タンパク質がスポット以外の部分に吸着している。したがって、添加剤としてエチレングリコールを用いてもタンパク質を担体に適切に固定化させることは困難であることがわかる。
【0048】
<実験5: プロピレングリコール>
(比較例2,3,4)
固定化溶液に含有させる添加剤としてプロピレングリコールを、比較例2,3,4において終濃度でそれぞれ10重量%,30重量%,50重量%となるように添加した点以外は、実施例1と同様に実験を行って、担体表面の蛍光の画像データを得た。その結果を図4に示す。
これらの場合、比較例2,3,4のいずれの蛍光画像においても、蛍光がスポット以外の部分にも見られ、スポットの形状も円形ではなく、不安定でいびつな形状となっており、タンパク質がスポット以外の部分に吸着している。したがって、添加剤としてプロピレングリコールを用いてもタンパク質を担体に適切に固定化させることは困難であることがわかる。
【0049】
<実験6: ジエチレングリコール>
(比較例5,6,7)
固定化溶液に含有させる添加剤としてジエチレングリコールを、比較例5,6,7において終濃度でそれぞれ10重量%,30重量%,50重量%となるように添加した点以外は、実施例1と同様に実験を行って、担体表面の蛍光の画像データを得た。その結果を図4に示す。
これらの場合、比較例5,6,7のいずれの蛍光画像においても、蛍光がスポット以外の部分にも見られ、スポットの形状も円形ではなく、不安定でいびつな形状となっており、タンパク質がスポット以外の部分に吸着している。したがって、添加剤としてジエチレングリコールを用いてもタンパク質を担体に適切に固定化させることは困難であることがわかる。
【0050】
<実験7: グリセロール>
(比較例8)
固定化溶液に含有させる添加剤としてグリセロールを、終濃度で30重量%となるように添加した点以外は、実施例1と同様に実験を行って、担体表面の蛍光の画像データを得た。その結果を図5に示す。
この場合、比較例8の蛍光画像において、蛍光がスポット以外の部分にも見られ、スポットの形状も円形ではなく、不安定でいびつな形状となっており、タンパク質がスポット以外の部分に吸着している。したがって、添加剤としてグリセロールを用いてもタンパク質を担体に適切に固定化させることは困難であることがわかる。
【0051】
<実験8: ポリエチレングリコール(分子量200)>
(比較例9,10,11)
固定化溶液に含有させる添加剤としてポリエチレングリコール(分子量200)を、比較例9,10,11において終濃度でそれぞれ1重量%,10重量%,30重量%となるように添加した点以外は、実施例1と同様に実験を行って、担体表面の蛍光の画像データを得た。その結果を図5に示す。
【0052】
<実験9: ポリエチレングリコール(分子量300)>
(比較例12,13)
固定化溶液に含有させる添加剤としてポリエチレングリコール(分子量300)を、比較例12,13において終濃度でそれぞれ10重量%,30重量%となるように添加した点以外は、実施例1と同様に実験を行って、担体表面の蛍光の画像データを得た。その結果を図6に示す。
【0053】
<実験10: ポリエチレングリコール(分子量6000)>
(比較例14,15,16)
固定化溶液に含有させる添加剤としてポリエチレングリコール(分子量6000)を、比較例14,15,16において終濃度でそれぞれ1重量%,10重量%,30重量%となるように添加した点以外は、実施例1と同様に実験を行って、担体表面の蛍光の画像データを得た。その結果を図6に示す。
比較例9−16のいずれの蛍光画像においても、蛍光がスポット以外の部分にも見られ、スポットの形状も円形ではなく、不安定でいびつな形状となっており、タンパク質がスポット以外の部分に吸着している。したがって、添加剤としてポリエチレングリコールを用いてもタンパク質を担体に適切に固定化させることは困難であることがわかる。
【0054】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、タンパク質を担体に固定化するための水性組成物に、炭素数4〜6のモノアルキレングリコールのうちの二種以上を組み合わせて添加するなど適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、タンパク質をプローブとして固定化したDNAチップやマイクロアレイなどの担体を製造する場合に好適に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と特異的に結合する生体関連分子を検出するための担体の表面上に、該タンパク質を固定化するために用いられる水性組成物であって、炭素数4〜6のモノアルキレングリコールの少なくともいずれかを含有する
ことを特徴とする水性組成物。
【請求項2】
前記モノアルキレングリコールの濃度が、10重量%〜70重量%であることを特徴とする請求項1記載の水性組成物。
【請求項3】
タンパク質と特異的に結合する生体関連分子を検出するための担体の表面上に、該タンパク質を固定化する方法であって、
炭素数4〜6のモノアルキレングリコールの少なくともいずれかを含有する水性組成物にタンパク質を溶解させ、この水性組成物を前記担体の表面に点着させる工程と、
前記担体の表面に前記タンパク質を固定化させる工程と、
前記担体の表面を洗浄する工程と、を有する
ことを特徴とする担体へのタンパク質の固定化方法。
【請求項4】
前記担体の表面の洗浄後、前記担体の表面をブロッキングする工程を有することを特徴とする請求項3記載の担体へのタンパク質の固定化方法。
【請求項5】
前記担体の表面におけるカルボキシル基と、タンパク質のアミノ基とが共有結合を形成することで、前記担体の表面に前記タンパク質を固定化させる
ことを特徴とする請求項3又は4記載の担体へのタンパク質の固定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−93162(P2012−93162A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239480(P2010−239480)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)