説明

タンパク質凝固作用が抑制されてなるアミノ酸含有固体組成物

【課題】タンパク質凝固作用が抑制されたアミノ酸含有固体組成物であって、牛乳などのタンパク質含有溶液に添加した場合でもタンパク質が変性せず、凝固物の発生が予防されてなる固体組成物、およびその調製方法を提供する。またアミノ酸塩を配合した固体組成物について、そのタンパク質凝固作用を抑制する方法を提供する。
【解決手段】アミノ酸塩とpH調整剤を水存在下で反応させ、乾燥させることによりアミノ酸含有固体組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸塩、特にアミノ酸の酸性塩または塩基性塩を配合して調製される固体組成物に関する。特に本発明は、タンパク質凝固作用が抑制されたアミノ酸含有固体組成物であって、牛乳などのタンパク質含有溶液に添加した場合でも、タンパク質が変性して凝固物が発生するといった問題が解消されてなることを特徴とする固体組成物、およびその調製方法に関する。
【0002】
また本発明は、アミノ酸塩、特にアミノ酸の酸性塩または塩基性塩を配合した固体組成物について、そのタンパク質凝固作用を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アミノ酸は生体に必要な成分であり、様々な様態で経口摂取されている。かかるアミノ酸の中には不安定であるものもあり、そのようなアミノ酸は塩の状態で使用されている。しかし、アミノ酸塩のうち、酸性あるいは塩基性の塩は、牛乳などのタンパク質含有溶液に添加すると、当該溶液が酸性または塩基性となり、それによりタンパク質が変性し凝固物(ダマ)が生じてしまうため、見た目にも食感にも悪影響を与えるという問題がある。
【0004】
このため、アミノ酸の酸性塩または塩基性塩を配合した固体組成物(アミノ酸塩配合固体組成物)について、そのタンパク質凝固作用を抑制し、タンパク質含有溶液に添加した場合でも凝固物(ダマ)を生じさせないための方法が求められている。
【0005】
かかる方法としては、pH調整剤を用いることで、アミノ酸の酸性塩または塩基性塩を配合した固体組成物のpHを、タンパク質を変性させないpHに調整する方法が考えられる。例えば、特許文献1にはカルニチンの酒石酸塩またはフマル酸塩とpH調整剤とを組み合わせて、水に溶解したときのpHが5〜8となるように調整することが記載されている。
【0006】
しかし、アミノ酸の酸性塩または塩基性塩とpH調整剤とを単に粉体混合して固体組成物を調製するだけでは、最終的な溶解のpHが5〜8であったとしても、溶解時に局所的かつ一時的に酸性や塩基性の領域ができ、後述する実験例1に示すように、タンパク質凝固を防止することはできない。
【特許文献1】特開2008−161093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アミノ酸の酸性塩または塩基性塩を配合して調製される固体組成物について、そのタンパク質凝固作用を抑制し、牛乳などのタンパク質含有溶液に添加した場合でも凝固物(ダマ)を生じさせないための方法を提供することを目的とする。
【0008】
また本発明は、タンパク質凝固作用が抑制されてなることで、上記目的を達成するために好適に使用されるアミノ酸含有固体組成物、およびその調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題の解決を目指して検討を重ねていたところ、アミノ酸の酸性または塩基性の塩とpH調整剤を単に粉体混合するのではなく、それらを水存在下で反応させ、その後に乾燥して固体組成物を調製することにより、上記目的が達成できること、すなわち上記方法によって調製された固体組成物によれば、牛乳などのタンパク質含有溶液に添加しても、タンパク質を変性させることなく、見た目にも食感においても不都合な凝固物を生じさせないことを見出した。またカルニチン等のように潮解性が高いアミノ酸の塩については、糖類を配合した状態で、水存在下でpH調整剤と反応させ、次いで乾燥することにより、潮解性が抑制されて品質が安定となり、しかもタンパク質凝固作用が抑制されて、タンパク質含有溶液に添加した場合でも不都合な凝固物が生じない固体組成物が調製できることを見出した。
【0010】
本発明は係る知見に基づいて完成されたものであり、下記の態様を包含するものである。
【0011】
(1)アミノ酸含有固体組成物
(1-1)アミノ酸塩とpH調整剤を水存在下で反応させ、乾燥させることにより調製されることを特徴とする、アミノ酸含有固体組成物。
(1-2)アミノ酸塩とpH調整剤を含有する粉体混合物を、水を用いて造粒した後、乾燥させることにより調製される、(1-1)記載のアミノ酸含有固体組成物
(1-3)前記固体組成物が、さらに糖類を含有するものである、(1-1)または(1-2)に記載するアミノ酸含有固体組成物。
(1-4)前記アミノ酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、カルニチン、オルニチン、テアニン、およびベタインからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、(1-1)乃至(1-3)のいずれかに記載するアミノ酸含有固体組成物。
(1-5)前記アミノ酸が、カルニチン、ベタイン、アルギニン、およびリシンからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種の潮解性アミノ酸である、(1-1)乃至(1-3)のいずれかに記載するアミノ酸含有固体組成物。
(1-6)前記pH調整剤が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、およびL-アスコルビン酸ナトリウムからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、(1-1)乃至(1-5)のいずれかに記載するアミノ酸含有固体組成物。
(1-7)アミノ酸塩がカルニチンの酸性塩である、(1-1)乃至(1-6)のいずれかに記載するアミノ酸含有固体組成物。
(1-8)粉末、顆粒、丸剤、錠剤またはカプセル剤の形状を有する、(1-1)乃至(1-7)のいずれかに記載するアミノ酸含有固体組成物。
(1-9)顆粒または錠剤の形状を有する、(1-1)乃至(1-8)のいずれかに記載するアミノ酸含有固体組成物。
(1-10)経口組成物である、(1-1)乃至(1-9)のいずれかに記載するアミノ酸含有固体組成物。
【0012】
(2)アミノ酸含有固体組成物の調製方法
(2-1)(a)アミノ酸塩とpH調整剤を水存在下で反応させる工程、および
(b)上記反応物を乾燥させる工程
を有する、アミノ酸含有固体組成物の調製方法。
(2-2)(a’)アミノ酸塩とpH調整剤を含有する粉体混合物を、水を用いて造粒する工程、および
(b’)上記造粒物を乾燥させる工程
を有する、(2-1)に記載するアミノ酸含有固体組成物の調製方法。
【0013】
(3)アミノ酸塩配合固体組成物のタンパク質凝固作用抑制方法
(3-1)アミノ酸塩を配合した固体組成物のタンパク質凝固作用を抑制する方法であって、当該固体組成物の調製を、アミノ酸塩とpH調整剤を水存在下で反応させ、乾燥させることにより行うことを特徴とする方法。
(3-2)上記固体組成物の調製を、アミノ酸塩とpH調整剤の粉体混合物を、水を用いて造粒した後、乾燥させる工程を経て行うことを特徴とする、(3-1)に記載する方法。
(3-3)前記アミノ酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、カルニチン、オルニチン、テアニン、およびベタインからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、(3-1)または(3-2)に記載する方法。
(3-4)前記アミノ酸が、カルニチン、ベタイン、アルギニン、およびリシンからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種の潮解性アミノ酸である、(3-1)または(3-2)に記載する方法。
(3-5)前記pH調整剤が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、およびL-アスコルビン酸ナトリウムからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、(3-1)乃至(3-4)のいずれかに記載する方法。
(3-6)アミノ酸塩がカルニチンの酸性塩である、(3-1)乃至(3-5)のいずれかに記載する方法。
(3-7)固体組成物が粉末、顆粒、丸剤、錠剤またはカプセル剤の形状を有するものである、(3-1)乃至(3-6)に記載する方法。
(3-8)固体組成物が顆粒または錠剤の形状を有するものである、(3-1)乃至(3-7)のいずれかに記載する方法。
(3-9)固体組成物が経口組成物である、(3-1)乃至(3-8)のいずれかに記載する方法。
(3-10)タンパク質凝固作用が、タンパク質を0.5重量%以上の割合で含む溶液(タンパク質含有溶液)に対するタンパク質凝固作用である、(3-1)乃至(3-9)のいずれかに記載する方法。
(3-11)タンパク質を0.5重量%以上の割合で含む溶液(タンパク質含有溶液)に配合して用いられるアミノ酸塩配合固体組成物のタンパク質凝固作用を抑制する方法である、(3-1)乃至(3-10)のいずれかに記載する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アミノ酸の酸性塩または塩基性塩を配合して調製される固体組成物においてタンパク質凝固作用が抑制されており、そのため、これを牛乳などのタンパク質を含有する溶液に添加してもタンパク質を変性させず、凝固物(ダマ)を生じないアミノ酸含有固体組成物を提供することができる。特にカルニチンなどの潮解性アミノ酸については、さらに糖類を併用することにより、上記タンパク質凝固抑制効果(凝固物生成抑制効果)に加えて、潮解性が抑制されるため、品質安定性の高いアミノ酸含有固体組成物を提供することができる。
【0015】
また本発明によれば、アミノ酸の酸性塩または塩基性塩を配合して調製される固体組成物が有するタンパク質凝固作用を抑制することができ、その結果、牛乳などのタンパク質含有溶液に添加した場合に生じる、不都合なタンパク質凝固物(ダマ)を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(1)アミノ酸含有固体組成物およびその調製方法
本発明の固体組成物は、アミノ酸を含有する固体組成物であって、下記の工程を経て調製されることを特徴とする:
(a)アミノ酸塩とpH調整剤を水存在下で反応させる工程(反応工程)、および
(b)上記反応物を乾燥させる工程(乾燥工程)。
【0017】
本発明が対象とするアミノ酸は、経口摂取可能なアミノ酸であれば特に限定されない。かかるアミノ酸としては、例えばアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンなどのタンパク質を構成する20種類のアミノ酸;並びにカルニチン、オルニチン、テアニン、ベタインなどを例示することができる。これらのアミノ酸のうち、潮解性を有するアミノ酸としては、カルニチン、ベタイン、アルギニン、リシンなどを挙げることができる。
【0018】
なお、上記アミノ酸は1種単独で使用することもできるが、本発明の目的を達成する限り、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0019】
本発明が対象とするアミノ酸塩は、上記アミノ酸の酸性塩および塩基性塩である。塩基性塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属との塩、およびカルシウム塩やマグネシウム塩等のアルカリ土類金属との塩を挙げることができる。また酸性塩としては、塩酸塩、硫酸塩および硝酸塩等の無機酸との塩、並びに酒石酸塩、フマル酸塩、酢酸塩およびオロチン酸塩等の有機酸との塩を挙げることができる。
【0020】
本発明の固体組成物(100重量%)に配合されるアミノ酸塩の割合は、アミノ酸の量に換算して、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1〜3重量%を挙げることができる。
【0021】
本発明で用いられるpH調整剤としては、一般に食品に使用できるpH調整剤であればよい。制限はされないが、具体的には、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、L-アスコルビン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、L-酒石酸水素カリウム、L-酒石酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、DL-酒石酸水素カリウム、DL-酒石酸ナトリウム、炭酸カリウム、乳酸ナトリウム、ピロリン酸二水素ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、およびDL-リンゴ酸ナトリウムを挙げることができる。アミノ酸塩を配合した固体組成物のpHを調整するという目的において、これらのpH調整剤はいずれも使用することができるが、例えば、本発明の固体組成物を経口組成物とした場合、酸味、塩味、苦味および甘味といった味の発現が抑制された無味な組成物とすることができ、添加する食品の味を変化させないという点から、好ましくは炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸ナトリウム、および酢酸ナトリウムである。
【0022】
なお、上記pH調整剤は1種単独で使用することもできるが、本発明の目的を達成する限り、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0023】
本発明の固体組成物(100重量%)に配合されるpH調整剤の割合は、通常10%重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1〜3重量%を挙げることができる。
【0024】
本発明の固体組成物は、溶媒に固体組成物を溶解させた際の溶液のpHが5以上、好ましくは5〜9、より好ましくは5〜8の範囲内にある。この範囲内であれば、タンパク質含有溶液に添加した場合でも不都合な凝固物が生じない。
【0025】
例えば、アミノ酸塩としてL-カルニチン酒石酸塩を、またpH調整剤として炭酸水素ナトリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対する炭酸水素ナトリウムの割合を約35〜370重量部とすることによって上記水溶液のpHを約5.5〜8.3の範囲にすることができ、約35〜250重量部とすることにより上記水溶液のpHを約5.5〜8の範囲にすることができ、また約45〜100重量部とすることにより上記水溶液のpHを約6〜7の範囲にすることができる。
【0026】
また、アミノ酸塩としてL-カルニチン酒石酸塩を、またpH調整剤として炭酸ナトリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対する炭酸ナトリウムの割合を約25〜40重量部とすることによって上記水溶液のpHを約6〜9の範囲にすることができ、約25〜33重量部とすることにより上記水溶液のpHを約6〜7の範囲にすることができる。
【0027】
また、アミノ酸塩としてL-カルニチン酒石酸塩を、またpH調整剤としてリン酸水素ナトリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対するリン酸水素ナトリウムの割合を約50〜550重量部とすることによって上記水溶液のpHを約5〜8の範囲にすることができ、約50〜320重量部とすることにより上記水溶液のpHを約5〜7.7の範囲にすることができ、また約65〜100重量部とすることにより上記水溶液のpHを約6〜7の範囲にすることができる。
【0028】
さらに、アミノ酸塩としてL-カルニチン酒石酸塩を、またpH調整剤として水酸化ナトリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対する水酸化ナトリウムの割合を約15重量部とすることによって上記水溶液のpHを約7に調整することができ;pH調整剤としてクエン酸ナトリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対するクエン酸ナトリウムの割合を約255重量部とすることによって上記水溶液のpHを約7に調整することができ;pH調整剤としてリン酸水素二カリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対するリン酸水素二カリウムの割合を約200重量部とすることによって上記水溶液のpHを約7に調整することができ;pH調整剤として酢酸ナトリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対する酢酸ナトリウムの割合を約2700重量部とすることによって上記水溶液のpHを約5.5に調整することができ;pH調整剤としてL-アスコルビン酸ナトリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対するL-アスコルビン酸ナトリウムの割合を約2700重量部とすることによって上記水溶液のpHを約5に調整することができる。
【0029】
なお、上記は目安であって、具体的な配合割合は、本発明の固体組成物を溶媒に溶解させた溶液のpHが5以上になるように(好ましくは5〜9、より好ましくは5〜8)調整される。
【0030】
本発明の固体組成物は、前述するアミノ酸塩とpH調整剤だけを用いて調製されるものであってもよいが、本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分を配合することもできる。かかる成分としては、例えば、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、β−カロテン、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、葉酸等のビタミン類;亜鉛、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅等のミネラル類;大豆イソフラボン、コラーゲン、ヒアルロン酸、セラミド、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、アラビノース、乳酸菌、コエンザイムQ10、αリポ酸、ブドウ種子、カフェイン、カプサイシン、ニガウリ、ギムネマ、グァバ、ショウガ、ガルシニア、白インゲン豆、甘草、ウコン、ニンニク、シソ、高麗人参、プルーン、ゲニポシド酸、アスペルロサイド、クロロゲン酸、オウクビン、プロアントシアニジン、アントシアニジン、ハス胚芽、スターフルーツ、カテキン類、マカ等を好適に例示することができる。
【0031】
また、本発明の効果を妨げない範囲で、粉末化、顆粒化、丸剤化、錠剤化などの製剤化にあたって必要な担体または添加剤を配合することもできる。かかる成分としては、好ましくは食品に配合して使用されるものであって無味の成分である。制限はされないが、担体としては、例えばブドウ糖等の単糖、乳糖、麦芽糖、蔗糖および果糖等の二糖、マンニトール等の糖アルコール、麦、トウモロコシ、馬鈴薯等由来の澱粉や加工澱粉等の澱粉類、結晶セルロースや微結晶セルロースなどのセルロース類、サイクロデキストリンや難消化性デキストリン等のデキストリン類、プルランなどの増粘多糖類などの糖類を挙げることができ、また添加剤としては、例えば甘味料(ハチミツ、トレハロース、砂糖、黒糖、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、L-アラビノース、D-キシリトール、D-リボースなどが含まれる)、着色料、および保存安定剤などを挙げることができる。
【0032】
中でも糖類は、本発明の効果に影響を与えることなく、賦形剤または増量剤として好適に使用できる成分である。特にpH調整剤との反応によって生じるアミノ酸が潮解性を有する場合は、当該アミノ酸塩とpH調整剤とともに糖類(例えば、デキストリン類、増粘多糖類、澱粉類など)を用いることで、その潮解性が抑制され、保存安定性に優れた固体組成物を調製することができる。
【0033】
pH調整剤との反応によって生じるアミノ酸が潮解性を有する場合、本発明の固体組成物においてアミノ酸塩に対する糖類の配合割合は、当該アミノ酸塩100重量部に対して、下限値が100重量部、好ましくは300重量部、より好ましくは500重量部、さらに好ましくは600重量部であり、上限値が10000重量部、好ましくは7000重量部、より好ましくは6000重量部である。
【0034】
本発明の固体組成物は、前述するように、下記の(a)と(b)の工程を経て調製されることを特徴とする:
(a)アミノ酸塩とpH調整剤を水存在下で反応させる工程(反応工程)、および
(b)上記反応物を乾燥させる工程(乾燥工程)。
【0035】
上記反応工程(a)は、アミノ酸塩とpH調整剤を水存在下で共存状態におくことによって実施することができる。具体的には、かかる反応工程(a)は、アミノ酸塩とpH調整剤を含む組成物を水に溶解する工程;アミノ酸塩とpH調整剤を含む組成物を水存在下で混合する工程(例えば、アミノ酸塩およびpH調整剤を含む組成物を、これに水を添加、噴霧または散布しながら混合するなど);アミノ酸塩とpH調整剤の粉体混合物に水を添加、噴霧または散布しながら造粒(湿式造粒)する工程を行うことにより実施することができるが、これに制限されない。
【0036】
好ましくは、湿式造粒による反応である。ここで造粒方法は、湿式である限り特に制限されず、撹拌造粒、押出造粒、流動層造粒、転動流動造粒など、従来公知の造粒方法をいずれも使用することができる。
【0037】
アミノ酸塩(酸性塩、塩基性塩)とpH調整剤とを水存在下で共存させると、水中でアミノ酸塩とpH調整剤が反応してアミノ酸と中性塩が生成され、反応液のpHが5以上、好ましくは5〜9、より好ましくは5〜8の中性域に調整される。例えば、L−カルニチン酒石酸塩と炭酸水素ナトリウムとを水存在下で共存させると、下記反応により、カルニチンと酒石酸ナトリウムが生成し、反応液は上記pH範囲に調整される。
【0038】
【数1】

【0039】
pH調整剤のうち、例えば、炭酸水素ナトリウムは、水存在下で酸性物質および塩基性物質と下記のように反応し、中性塩が生成される。
<酸性物質との反応>
R−H + NaHCO → RNa + HO + CO
<塩基性物質との反応>
R−OH + NaHCO → RNaCO+ H
R−NH+ NaHCO → RNHNa + HO + CO
【0040】
その他のアミノ酸塩とpH調整剤との反応については、ここで示した炭酸水素ナトリウムによる例を参照することで当業者に理解され得る。
【0041】
すなわち、本発明においてアミノ酸含有固体組成物のタンパク質凝固作用が抑制されるのは、アミノ酸塩(酸性塩、塩基性塩)とpH調整剤とを一旦水存在下で反応させることより、アミノ酸塩が中和されることが理由であると考えられる。
【0042】
本発明の固体組成物は、次いでかかる反応によって生じた混合物を乾燥することによって調製される。乾燥方法も特に制限されず、スプレードライ、凍結乾燥、凝固乾燥、天日乾燥、熱風乾燥など、当業界で通常採用される乾燥方法をいずれも使用することができる。
【0043】
本発明の固体組成物は、その形態を特に制限されるものではない。例えば、粉末状、顆粒状の組成物であってもよいし、これらの組成物を一定の形態に成形した丸剤または錠剤、またはこれらの組成物をカプセル基剤に充填した硬質カプセルの形態を有するものであってもよい。
【0044】
斯くして調製される固体組成物は、タンパク質凝固作用が抑制されているので、タンパク質を含有する溶液、特に0.5重量%以上の割合でタンパク質を含有する溶液に添加しても、タンパク質が変性せず、見た目や食感に影響を与える凝固物(ダマ)が発生しない。
【0045】
このため、本発明の固体組成物は、タンパク質含有溶液に添加して用いられる用途の固体組成物として有効に利用することができる。例えばタンパク質含有溶液としては、牛乳(タンパク質含量:牛乳2.5〜4.5重量%)、豆乳(タンパク質含量:2.2〜3.6重量量%)、コーヒー乳飲料(タンパク質含量:0.8〜2.5重量%)、酸性乳飲料(タンパク質含量:0.4〜1.5重量%)、生クリーム(タンパク質含量:1.7〜6.8重量%)、ヨーグルト飲料(タンパク質含量:1.5〜3.5重量%)などのタンパク質含有食品を例示することができる。本発明の固体組成物は、かかるタンパク質含有食品にさらにアミノ酸を強化する等の目的で用いられる栄養または健康補助食品(食品組成物、経口組成物)として有用である。
【0046】
(2)アミノ酸塩配合固体組成物のタンパク質凝固作用抑制方法
本発明は、アミノ酸塩を配合した固体組成物のタンパク質凝固作用を抑制する方法(タンパク質凝固作用抑制方法)に関する。当該方法は、上記固体組成物を、下記の(a)と(b)の工程を経て調製することによって実施することができる:
(a)アミノ酸塩とpH調整剤を水存在下で反応させる工程(反応工程)、および
(b)上記反応物を乾燥させる工程(乾燥工程)。
【0047】
斯くして調製される固体組成物は、タンパク質凝固作用が抑制されており、タンパク質含有溶液に添加した場合でもタンパク質凝固物の生成を防止することできる。このため、本発明の方法は、「アミノ酸塩配合固体組成物について、タンパク質含有溶液に添加したときの凝固物生成を防止する方法」と言い換えることもできる。
【0048】
ここで用いられるアミノ酸およびその塩、ならびにpH調製剤の種類およびその配合割合は(1)に記載の通りであり、ここでも同様に使用することができる。また本発明の方法が対象とする固体組成物は、アミノ酸塩とpH調整剤に加えて、ビタミンなどの他の成分、担体または添加剤を含んでいてもよい。かかる他成分、担体、および添加剤も(1)に記載の通りである。
【0049】
上記反応工程(a)は、(1)と同様に、アミノ酸塩とpH調整剤を水存在下で共存状態におくことによって実施することができる。具体的には、かかる反応工程(a)は、アミノ酸塩とpH調整剤を含む組成物を水に溶解する工程;アミノ酸塩とpH調整剤を含む組成物を水存在下で混合する工程(例えば、アミノ酸塩およびpH調整剤を含む組成物を、これに水を添加、噴霧または散布しながら混合するなど);アミノ酸塩とpH調整剤の粉体混合物に水を添加、噴霧または散布しながら造粒(湿式造粒)する工程を行うことにより実施することができる。
【0050】
好ましくは、湿式造粒による反応である。ここで造粒方法は、湿式である限り特に制限されず、撹拌造粒、押出造粒、流動層造粒、転動流動造粒など、従来公知の造粒方法をいずれも使用することができる。
【0051】
乾燥工程(b)は、上記反応工程(a)で生じた混合物を乾燥する工程である。ここで用いられる乾燥方法は特に制限されず、スプレードライ、凍結乾燥、凝固乾燥、天日乾燥、熱風乾燥など、当業界で通常採用される乾燥方法をいずれも使用することができる。
【0052】
なお、乾燥工程後、さらに成形(丸剤や錠剤への成形)またはカプセル基材への充填などの加工処理を行ってもよい。
【0053】
斯くして調製される固体組成物は、タンパク質凝固作用が抑制されているので、タンパク質を含有する溶液、特に0.5重量%以上の割合でタンパク質を含有する溶液に添加しても、タンパク質が変性せず、見た目や食感に影響を与える凝固物(ダマ)が発生しない。
【0054】
斯くしてタンパク質含有溶液の凝固物生成を防止することができるため、本発明の方法は、特にタンパク質を含有する液状食品に対するタンパク質変性抑制方法、凝固物生成抑制方法として応用することができる。
【0055】
ここで対象とするタンパク質含有溶液としては、牛乳(タンパク質含量:牛乳2.5〜4.5重量%)、豆乳(タンパク質含量:2.2〜3.6重量量%)、コーヒー乳飲料(タンパク質含量:0.8〜2.5重量%)、酸性乳飲料(タンパク質含量:0.4〜1.5重量%)、生クリーム(タンパク質含量:1.7〜6.8重量%)、ヨーグルト飲料(タンパク質含量:1.5〜3.5重量%)などのタンパク質含有液状食品を例示することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実験例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは「重量部」を、「%」とは「重量%」を意味するものとする。
【0057】
実験例1
(1)アミノ酸塩配合固体組成物の調製
アミノ酸塩としてL−カルニチン酒石酸塩を用い、これに各種のpH調整剤(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)を、表1に示す処方に従って組み合わせて、アミノ酸塩配合固体組成物を調製した(組成物1〜13)。
【0058】
なお、これらの固体組成物のうち組成物1および4は、アミノ酸塩、pH調整剤および糖類の全成分を水非存在下で粉体混合して調製した。また組成物11は、L−カルニチン酒石酸塩に代えてL−カルニチンを用い、組成物1と同様に全成分を水非存在下で粉体混合して調製した。一方、それ以外の組成物(組成物2〜3、5〜10)は、アミノ酸塩、pH調整剤および糖類の全成分(粉体)を造粒装置に入れ、下部から熱風を送って粉体を流動化した状態で、装置の上部または周壁部から水を散布して粉体を凝集させて造粒した(流動層造粒)。
【0059】
【表1】

【0060】
(2)タンパク質凝固作用の抑制効果
上記で調製した組成物1〜13についてタンパク質凝固抑制作用を評価した。
【0061】
具体的には、上記で調製した組成物1〜13を、下記に示す各種のタンパク質含有溶液200mLに添加し、30秒間撹拌した後、静置して、2分後(撹拌終了から1分30秒後)に、目視にてタンパク質凝固物の発生の有無を調べた。
【0062】
<タンパク質含有溶液>
溶液1:普通牛乳(タンパク質含量3.4%)
溶液2:コーヒー乳飲料(タンパク質含量0.9%)
溶液3:生クリーム(タンパク質含量4%)
結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
この結果からわかるように、水非存在下で粉体混合して調製した組成物1、4および13は、タンパク質含有溶液1〜3に添加すると、全ての場合においてダマが生じた(比較例1〜6)。これは、カルニチン酒石酸塩が、pH調整剤と反応する前に局所的かつ一時的にタンパク質含有溶液のpHを低下させ、それにより変性したタンパク質が凝固物となったものと考えられる。
【0065】
一方、アミノ酸塩を水存在下でpH調整剤と反応させて調製した組成物2〜3、5〜10および12は、いずれのタンパク質含有溶液に対しても凝固物(ダマ)を発生させなかった(実施例1〜15)。なお、この溶液のpHは6〜7の中性範囲であった。凝固物が発生しなかった理由として、水存在下での造粒工程においてカルニチン酒石酸塩がpH調整剤で中和されたからと考えられる。
【0066】
なお、組成物11は吸湿(潮解)し、製剤としての取り扱い性に欠いていた。
【0067】
処方例1〜70
表3〜6に記載する処方に従って、各種成分を混合してアミノ酸含有固体組成物を調製した。具体的には、アミノ酸塩、pH調整剤および糖類の全成分(粉体)を造粒装置に入れ、下部から熱風を送って粉体を流動化した状態で、装置の上部または周壁部から水を散布して粉体を凝集させて造粒した(流動層造粒)。
【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
【表5】

【0071】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸塩とpH調整剤を水存在下で反応させ、乾燥させることにより調製されることを特徴とする、アミノ酸含有固体組成物。
【請求項2】
アミノ酸塩とpH調整剤を含有する粉体混合物を、水を用いて造粒した後、乾燥させることにより調製される、請求項1記載のアミノ酸含有固体組成物。
【請求項3】
前記固体組成物が、さらに糖類を含有するものである、請求項1または2に記載するアミノ酸含有固体組成物。
【請求項4】
前記pH調整剤が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、およびL-アスコルビン酸ナトリウムからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、請求項1乃至3のいずれかに記載するアミノ酸含有固体組成物。
【請求項5】
粉末、顆粒、錠剤、丸剤またはカプセル剤の形状を有する、請求項1に記載するアミノ酸含有固体組成物。
【請求項6】
経口組成物である、請求項1乃至5のいずれかに記載するアミノ酸含有固体組成物。
【請求項7】
(a)アミノ酸塩とpH調整剤を水存在下で反応させる工程、および
(b)上記反応物を乾燥させる工程
を有する、アミノ酸含有固体組成物の調製方法。
【請求項8】
(a’)アミノ酸塩とpH調整剤を含有する粉体混合物を、水を用いて造粒する工程、および
(b’)上記造粒物を乾燥させる工程
を有する、請求項7に記載するアミノ酸含有固体組成物の調製方法。
【請求項9】
アミノ酸塩を配合した固体組成物によるタンパク質凝固作用を抑制する方法であって、当該固体組成物を、アミノ酸塩とpH調整剤を水存在下で反応させ、乾燥させることにより調製することを特徴とする方法。
【請求項10】
上記固体組成物を、アミノ酸塩とpH調整剤の粉体混合物を、水を用いて造粒した後、乾燥させる工程を経て調製することを特徴とする、請求項9に記載する方法。

【公開番号】特開2010−83768(P2010−83768A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251748(P2008−251748)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】