説明

タンパク質含有レジン系組成物

【課題】歯周病の進行を止め、歯周病の治療と再発防止を可能にすることを目的として、歯周病初期段階で外科的手術を要さず簡便に患部へ適用することができ、歯と歯肉を接着させることができるレジン系組成物の提供。
【解決手段】分子内に酸性基と重合性基を有する化合物、分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物、ポリ((メタ)アクリレート)粒子からなる充填材、歯周組織の再生・接着を誘導するタンパク質を含有する粒径0.2〜200μmの粒子および重合開始剤からなるレジン系組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病治療を目的とするレジン系組成物に関する。更に詳しくは、軟組織の細胞の接着及び増殖を誘導するタンパク質を含有し、且つ骨や歯などの硬組織に接着するレジン系組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は口腔内常在菌により引き起こされる炎症性疾患である。口腔内常在菌による傷害とそれに対する宿主の応答により、歯周病の進行過程に変化を及ぼす。その因子として、局所的には唾液の質と組成、口呼吸、機械的・化学的・温熱的・アレルギー性・放射線などの刺激、機能障害・咬合性外傷・口腔顔面筋の機能異常(クレンチング、ブラキシズム)・職業に関連した機能異常などが挙げられ、全身的には、喫煙、全身疾患(糖尿病・メタボリックシンドロームなど)、ストレス、薬物、栄養、加齢などが挙げられる。歯周病が進行すると歯を支える歯周組織(歯肉、歯根膜、歯槽骨など)は崩壊し、その結果支持組織を失った歯は最終的には抜去される。
歯を喪失しないためにも,日頃からのプラークコントロールおよび歯科医師による専門的なケア、つまり歯周治療が必要となる。
【0003】
歯周治療としては、スケーリング・ルートプレーニング及び歯肉掻爬を行うことにより歯肉縁下に存在している細菌バイオフィルムや歯面に沈着しているプラーク及び歯石そして歯肉病変部を除去することなどが基本となる。
このスケーリング・ルートプレーニング及び歯肉掻爬の具体的な治療方法は、通常歯肉縁下が汚染されている歯の歯肉溝内に軽圧で抵抗が感じられるまでスケーラーを挿入し歯に側方圧をかけながら細菌バイオフィルムや歯面に沈着しているプラーク及び歯石を歯冠側へ引く動作で除去し、滑沢化された歯面を細い探針の先で細かく調べ、付着物がなく滑沢になっているかを評価する。その後、キュレットを歯肉溝内に挿入し指で歯肉表面に軽圧を加えながら歯肉病変部を除去する。本明細書ではこの治療方法を閉鎖性掻爬とする。
この閉鎖性掻爬は全て歯肉縁下で治療が行われることから、汚染部位を直視できないため、完全な汚染箇所の除去が達成されず、残存した細菌バイオフィルムやプラーク及び歯石が再び歯周病を引き起こす原因になる可能性がある(非特許文献1、2、3参照)。また、歯肉病変部が実際に全て除去されたかどうかを臨床的に決定する方法が現時点では無いことから、汚染部位を直視せずに完全に歯をプレーニングするのは極めて困難であり、術者の技術的要素が重要になる。
【0004】
一方、歯周外科処置では、歯肉辺縁を切開し歯肉を翻転することで汚染部位が直視でき、スケーリング・ルートプレーニング及び歯肉掻爬を容易とする。本明細書ではこの治療方法を開放性掻爬とする。
この開放性掻爬は歯肉切開・歯肉縫合など歯周外科処置を含むため、術者の技術的要素が関係するだけでなく、閉鎖性掻爬と比較して開放性掻爬の方が歯肉収縮と術後の骨の吸収が著しい場合がある。
開放性掻爬に付随して、細菌バイオフィルムや歯面に沈着しているプラーク及び歯石の除去と歯周組織の再生を促す再生療法が用いられる場合がある。その一つとして組織誘導再生法(Guided Tissue Regeneration、以下GTR法)が挙げられる。
【0005】
GTR法とは、歯肉掻爬により歯肉病変部を完全に除去し、歯と歯肉との間にテフロンシートなどのシートを挿入し、歯肉をシート上に置き縫合することによりシート下に歯槽骨を含む歯周組織が再生するという治療方法である。
しかしながら、GTR法はシートの取り扱い並びに術式が難しいこと、術後ある程度の治癒までに長期間(2〜3ケ月)を要すること、セメント質の新生や歯槽骨・歯根膜の再生が少ないこと、歯槽骨と歯根が癒着(骨癒着)すること、歯槽骨側から歯根膜への血液の供給不足による歯肉の壊死等の問題がある。
以上のことより、歯周病は放置すればするほど治療に莫大な時間と労力が掛かるため、歯周病罹患初期段階での歯周病の治療と再発防止が重要となる。
【0006】
ところで、特許文献1及び特許文献2には、歯周組織再生に活性を有するタンパク質を生体性吸収材料に含有した歯周病治療材が開示されている。これは、歯槽骨並びに歯根膜を再生させることで歯肉の上方成長も促進し、さらに歯と歯根膜とが結合組織性付着するべくセメント質を新生させる歯周病治療材である。
これらの歯周病治療材は、すでに崩壊・喪失した歯周組織に対して適用する治療材であるため、歯周病罹患初期段階における歯周病の治療と再発防止を目的として使用することができない。
従って、歯周病罹患初期段階で患部に適用でき、早期に歯周病を治療するだけでなく、歯周病の再発を防止することが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−327513号公報
【特許文献2】特開2006−333794号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Waerhaug J. J.Periodontol Vol.49,No.3,p119−134(1978)
【非特許文献2】Thornton S et al. J.Periodont Vol.53,No.1,p35−37(1982)
【非特許文献3】Eaton K.A et al. J.Clin.Periodontol Vol.12,No.2,141−152(1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、歯周病の進行を止め、歯周病の治療と再発防止を可能にすることを目的として、歯周病初期段階で外科的手術を要さず簡便に患部へ適用することができ、歯と歯肉を接着させることができるレジン系組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は前述の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリ((メタ)アクリレート)粒子にタンパク質を添加させる方法を見出した。更にタンパク質を添加されたポリ((メタ)アクリレート)粒子と分子内に少なくとも1つの酸性基と重合性基を有する化合物、分子内に1つの重合性基を有し酸性基を有しない化合物及び重合開始剤からなり、タンパク質を粒径0.2〜200μmの粒子として用いたレジン系組成物から硬化体を調製することができるという知見を得たことで、本発明に至達した。即ち、このレジン系組成物を用いることで、レジン系組成物硬化体表面に存在するタンパク質が歯周病に罹患した歯周軟組織と細胞組織学的な接着及び健全な細胞の増殖を誘導し、且つ汚染された歯面とレジン系組成物硬化体とが接着することで、煩雑な歯周治療を行わずとも初期段階の歯周病を治療し再発を防止することが可能となった。ここでタンパク質とは歯周組織の再生・接着を誘導するタンパク質((D)成分)のことである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のレジン系組成物を用いれば、煩雑な歯周治療を施す事無く簡便に初期段階の歯周病治療を達成し、歯周病の再発を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】参考例1のレジン系組成物の硬化体の表面の光学顕微鏡写真(倍率10倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明のレジン系組成物について具体的に説明する。
本発明のレジン系組成物は、レジン系組成物中及び表面にタンパク質が含有したレジン材料である。
本発明のレジン系組成物を歯周病罹患部に適用すると、レジン系組成物に含有されるタンパク質が歯周組織の再生を誘導すると同時に歯との接着を達成するので、それ以上の歯周病の進行を阻止し、且つ歯周病の再発を防止する。
【0014】
(A)分子内に酸性基と重合性基を有する化合物
本発明のレジン系組成物に配合される(A)成分は、分子内に酸性基と重合性基とを有する重合性化合物である。この(A)成分中にある重合性基としては、ラジカル重合性基が好ましく用いられ、ビニル基、シアン化ビニル基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基などを挙げることができる。また、酸性基としては、カルボキシル基、リン酸基、チオリン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基などを例示することができる。あるいはカルボキシル基の酸無水基のように、実用条件において容易に分解して前記酸性基になるなど、実質上酸性基として機能するものも、酸性基とみなす。酸性基と重合性基のそれぞれは分子内に1つまたは2つ以上あってよい。
【0015】
本発明において、(A)成分の具体的な例であるカルボキシル基を有する重合性化合物の例としては、(メタ)アクリル酸(以下、アクリル酸とメタアクリル酸の総称として(メタ)アクリル酸と記載する。)、マレイン酸等のα−不飽和カルボン酸;4−ビニル安息香酸等のビニル芳香環化合物;11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(以下、アクリロイルとメタアクリロイルの総称として(メタ)アクリロイルと記載する。)等の(メタ)アクリロイルオキシ基とカルボン酸基の間に直鎖炭化水素基が存在するカルボン酸化合物;6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルナフタレン(ポリ)カルボン酸;4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸等といった(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸;4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸等のさらに水酸基を含有する化合物;2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート(以下、アクリレートとメタアクリレートの総称として(メタ)アクリレートと記載する。)等のカルボキシベンゾイルオキシを有する化合物;N,O−ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、O−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、O−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、N,O−ジ(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン等のN−および/またはO−位置換のモノまたはジ(メタ)アクリロイルオキシアミノ酸;N−(メタ)アクリロイル−4−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノ安息香酸、2−または3−または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−または5−(メタ)アクリロイルアミノサリチル酸等の官能性置換基を有する安息香酸の(メタ)アクリロイル化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとピロメリット酸二無水物の付加生成物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トと無水マレイン酸または3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物または3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の付加反応物等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと不飽和ポリカルボン酸無水物の付加反応物;2−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)−1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレ−トとの付加物、4−[(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3−または4−[N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸などのポリカルボキシベンゾイルオキシと(メタ)アクリロイルオキシを有する化合物などを挙げることができる。これらのうち、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸および4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸が好ましく用いられる。
【0016】
リン酸基としては、少なくとも1個の水酸基がリン原子に結合している基および水中で容易に該基に変換し得る官能基として例えばリン酸エステル基で水酸基を1個または2個を有する基を好ましく例示することができる。このような基を有する重合性単量体としては、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2−および/または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルアシドホスフェート;ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシドホスフェート、ビス[2−または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル]アシドホスフェート等の2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有するアシドホスフェート;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−p−メトキシフェニルアシドホスフェート等の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基とフェニレン基などの芳香環やさらには酸素原子などのヘテロ原子を介して有するアシドホスフェートなどを挙げることができる。これらの化合物におけるリン酸基を、チオリン酸基に置き換えた化合物も例示することができる。これらのうち、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェートを好ましく使用することができる。
【0017】
スルホン酸基あるいはスルホン酸基に容易に水中で変換し得る官能基を有する重合性単量体として、例えば2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−または1−スルホ−1−または2−プロピル(メタ)アクリレート、1−または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート等のスルホアルキル(メタ)アクリレート;3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート等の前記のアルキル部にハロゲンや酸素などのヘテロ原子を含む原子団を有する化合物;1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミド、2−メチル−2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸等の前記アクリレートに換えてアクリルアミドである化合物など;さらには4−スチレンスルホン酸、4−(プロプ−1−エン−2−イル)ベンゼンスルホン酸などのビニルアリールスルホン酸などを挙げることができる。これらのうち、4−スチレンスルホン酸を好ましく使用することができる。(A)成分のこれら化合物は単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0018】
上記(A)分子内に酸性基と重合性基を有する化合物は、(A)分子内に酸性基と重合性基を有する化合物、(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物および(E)重合開始剤の合計100重量%に対して、好ましくは16〜70重量%、より好ましくは18〜50重量%、更に好ましくは20〜40重量%の範囲で使用される。このような量で(A)分子内に酸性基と重合性基を有する化合物を使用することにより、本発明のレジン系組成物は、被着体である歯質に代表される硬組織に対して良好な接着性を示すようになる。
【0019】
(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物
本発明のレジン系組成物に配合される(B)成分は、分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物である。このような(B)成分として使用できる合物の例としては、メチル(メタ)アクリレ−ト、エチル(メタ)アクリレ−ト、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレ−トなどのアルキル(メタ)アクリレ−ト;2−ハイドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのハイドロキシアルキル(メタ)アクリレート;2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールアルキルエーテルの(メタ)アクリレート(R−(−O−R−)−O−COCH(R)=CH(R:アルキル基、R:アルキレン基、R:水素又はメチル原子団);アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート;シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート;(テトラハイドロフラン−2−イル)(メタ)アクリレートなどのヘテロ原子を含む環状アルキル(メタ)アクリレート;パーフルオロオクチル(メタ)アクリレートおよびヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル;3−(トリメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリロキシアルキル基を有するシラン化合物などを挙げることができる。これら(B)成分の単量体は単独であるいは2種以上併用して重合に用いられる。
【0020】
また、歯質など硬組織に対する高い接着力を得るために、歯質などとの接着界面へのモノマーの拡散に低分子量モノマー、例えば分子量が300以下の低分子量モノマーを使用することが好ましく、このような低分子量モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレートを挙げることができる。本発明においては、重合性単量体である(B)成分としてこのような低分子量モノマーも使用することもできる。
【0021】
特に本発明では分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物(B)として、人体への刺激性が比較的低いメタアクリレートが特に好ましく使用される。また、本発明で使用する(B)成分としては、酸性基を有する上記(A)成分を室温で溶解可能な化合物であることが好ましい。
上記(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物は、(A)分子内に酸性基と重合性基を有する化合物、(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物および(E)重合開始剤の合計100重量%に対して、好ましくは30〜84重量%、より好ましくは50〜82重量%、更に好ましくは60〜80重量%の範囲で使用される。本発明で使用される(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物は、本発明のレジン系組成物の有する優れた特性を発現させるための基礎となるモノマーであり、上記範囲内で使用することによって本発明のレジン系組成物の物性に関する基礎的特性が確立する。
【0022】
(C)ポリ((メタ)アクリレート)粒子からなる充填材
本発明のレジン系組成物に配合される(C)成分は、ポリ((メタ)アクリレート)粒子からなる充填材である。このポリマー粒子を形成するモノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなど芳香族(メタ)アクリレートなどのような(メタ)アクリレート系モノマーを挙げることができる。また、本発明の(メタ)アクリレート重合体は、必要に応じて少量の架橋性モノマーを共重合させたものとすることができる。架橋性モノマーとして、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタジエンなどの多官能モノマーを挙げることができる。
【0023】
(C)成分100重量%中、前記架橋性モノマーは、好ましくは50重量%以下、より好ましくは35重量%以下、更に好ましくは20重量%以下の範囲で使用される。前記数値範囲の上限値を上回ると(C)ポリ((メタ)アクリレート)粒子からなる充填材が硬くなることがあり、(A)分子内に少なくとも1つの酸性基と重合性基を有する化合物、および(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物とのなじみが低下することで、所望の物性を発揮することができにくくなり、好ましくない。
また、(C)成分中には、少量ならば(メタ)アクリレート系成分以外の単量体や重合体が、共重合や混合していてもよい。(メタ)アクリレート系成分以外の成分としては、スチレン、ブタジエンなどのビニル化合物等が挙げられる。前記(メタ)アクリレート系成分以外の成分は、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、更に好ましくは30重量%以下の範囲で使用される。
【0024】
本発明で充填剤(C)として好適に使用されるポリ((メタ)アクリレート)粒子のポリ((メタ)アクリレート)の重量平均分子量は、5万〜60万の範囲内にあることが好ましい。また、本発明において、これらの充填材(C)は、単独であるいは組み合わせて使用することができる。
本発明において、歯科用組成物の皮膜厚さを低減しおよび修復効果を向上させるためには、上記充填材(C)の粒子の平均粒子径は、0.001〜60μmの範囲内にあることが好ましく、さらに、0.01〜50μmの範囲内にあることが特に好ましい。なお、前記平均粒子径はレーザー回折/散乱式粒度分布装置による。
【0025】
上記(C)ポリ((メタ)アクリレート)粒子からなる充填材は、(A)分子内に酸性基と重合性基を有する化合物、(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物、および(E)重合開始剤の合計100重量%に対して、好ましくは0.2〜297重量%、更に好ましくは0.3〜248重量%の範囲で使用される。
前記数値範囲の下限値を下回るとレジン系組成物が硬化するまでの時間が長くなり、操作性などに悪影響を与えることとなり、一方、上限値を上回ると(A)分子内に酸性基と重合性基を有する化合物、(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物および(E)重合開始剤との馴染みが悪くなり、所望する物性のレジン系組成物硬化体が得られなくなり、何れも好ましくない。
【0026】
(D)歯周組織の再生・接着を誘導するタンパク質
本発明のレジン系組成物に配合される(D)成分は、歯周組織、特に歯との間で上皮性付着及び結合組織性付着に関与している細胞の再生・接着を誘導するタンパク質であれば生体由来のタンパク質であろうと人工的に精製されたタンパク質であろうと特に限定されない。このタンパク質は単体又は2種類以上組み合わせてもかまわない。また、レジン系組成物中に活性を失うことなく存在し、且つレジン系組成物硬化体表面にタンパク質が発現していればレジン系組成物への適用方法は限定されない。(D)成分としては、具体的には、グロースファクター(成長因子)、骨誘導タンパク、細胞接着分子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
グロースファクターとしては、例えば上皮成長因子(Epidermal Growth Factor)、線維芽細胞成長因子(Fibroblast Growth Factor)およびインスリン様成長因子(Insulin−like Growth Factor)などを挙げることができる。
骨誘導タンパクとしては、例えば骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein)に代表されるBMPファミリーなどを挙げることができる。
細胞接着分子としては、例えばカドヘリン、インテグリン、フィブロネクチン、ラミニンなどを挙げることができる。
上記(D)成分は、粒径0.2〜200μmの粒子であり、好ましくは1〜80μmであり、さらに好ましくは2〜30μmである。前記数値範囲の下限値を下回ると歯周組織の再生・接着を誘導する性質が低下することとなり、一方、上限値を上回るとレジン系組成物の物性に関する基礎的特性が損なわれることとなり、いずれも好ましくない。
粒径dは、長短径の算術平均、即ち、下記式で求められる。
d=Σ(Ai+Bi)/(2・n)
ここで、Aiはi番目の粒子の長径であり、Biはi番目の粒子の短径であり、nは粒子の数である。
【0028】
粒子は、当該タンパク質の単結晶および/または多結晶および/またはアモルファスのような非結晶であっても良い。また、純粋なタンパク質に限定されるものではなく、調製の容易さや安定性を考慮して、結晶水を有していたり、酸性乃至は塩基性の化合物等の塩となっていてもよいし、水等を溶媒とするミセルゲル乃至はゲルであってもよい。但し当該タンパク質とタンパク質以外の成分とから形成される相におけるタンパク質含有量は好ましくは、少なくとも10重量%、より好ましくは、少なくとも30重量%、更に好ましくは、少なくとも60重量%、特に好ましくは、少なくとも90重量%である。
【0029】
本発明の組成物中に含まれる前記粒子は、組成物1g当り、好ましくは、少なくとも200個、より好ましくは、少なくとも3,000個、更に好ましくは、少なくとも15,000個、特に好ましくは少なくとも500,000個である。前記数値範囲の下限値を下回ると歯周組成の再生・接着を誘導する性質が低下することとなり好ましくない。特に、粒径2〜30μmの範囲にある粒子数は、組成物1g当り、好ましくは、少なくとも160個、より好ましくは、少なくとも800個、更に好ましくは、少なくとも2,400個、特に好ましくは、少なくとも800,000個である。
【0030】
また、前記粒子は、実質上当該タンパク質のみより構成されていても良いが、タンパク質の徐放量を増やすべく前記粒子のサイズを大きくするために、前記粒子内に有機および/または無機フィラーを含有させることも好ましい。前記フィラーとしては、本発明における(C)成分や(H)成分と同様であってもよいし、全く異なっていてもよい。前記フィラーは、前記粒子の略中心部に前記フィラーが位置していてもよいし、偏心していてもよいし、更に場合によっては、前記フィラーの一部が前記粒子表面に露頭してもよいし、一つの前記粒子内に複数のフィラーが固まって、或いは、散在して存在していてもよいし、この場合もフィラーの一部が前記粒子表面に露頭してもよい。但し、前記フィラー含量が多すぎると、タンパク質が薄層となったり、更には、前記粒子表面にて、細切れに分割された状態となる。そうなると、組成物中の接着材成分との接触割合が多くなることにより強固に拘束されるなどの問題が生じる。その結果として、徐放性が低下する恐れがあるので、(前記フィラーの重量)/(タンパク質の重量)の比は、好ましくは300以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは3以下、特に好ましくは0.3以下である。また、粒子のサイズや形状により変化する表面積も併せて考慮して粒子表面でのタンパク質成分の平均層厚みを、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは100nm以上とするのが好ましい。前記層厚みは薄層になると実測が極めて困難なので、計算値を用いる方がよい。計算値が粒子直径よりも小さくなった場合は、塗布表面に散り散りバラバラに散在してタンパク質塊が存在している場合である。このようにタンパク質が散在しているとやはり、徐放性が低下するので、結局、塗布厚みが粒子サイズよりも小さくなるような計算値であっても、前記数値範囲の規定を用いて判断することができる。
【0031】
(粒子数の測定方法)
スライドガラス上にトップコート(透明のマニキュア)を適量滴下し、その上に(D)成分の粉末を適当量(W[g])を散布し、カバーガラスで圧接して、面積18mm×18mmの範囲に調製する。観察方法は、上記方法で観察試料を調製後、先ずはマイクロスコープ(低倍率)で試料全体を観察し、粒子の散らばり方などが平均的な2mm×3mmの面積の箇所を5ヶ所選定した。その5ヶ所について倍率100倍で粒子を観察した。確認できた所定サイズの粒子の合計観察個数値Nmより、本発明の組成物を100重量部とした際に、(D)成分がP重量部含まれている場合、本発明の組成物中に含まれる粒子数Nc[個/g]は、下記式により求められる。
【0032】
【数1】

【0033】
本発明のレジン系組成物における上記(D)成分の配合形態乃至保存形態としては、その活性が保持さえされるならば、特に限定されるものではなく、他の成分とは分けて、乾燥状態にて、粉末状乃至はミクロン〜サブミクロンレベルの超微細粒子状の形態にて保存されていてもよい。或いは、混和の手間を省くために、他の成分と合わせて保存されていてもよい。例えば、充填材(C)等の乾燥粉末成分あるいは、後述する(F)安定剤、(H)無機フィラーあるいは無機有機複合化フィラーに混合されていてもよい。また、(D)成分またはそれを含んだ粒子は、本発明の組成物にて形成された硬化物の外表面により多く分布していることが好ましい。接着乃至は接触する生体組織近辺に(D)成分またはそれを含んだ粒子或いは、それらが豊富に含有する本発明の組成物を適用してから、それらを殆ど含まない単なる接着性組成物を導入してもよい。
【0034】
上記(D)歯周組織の再生・接着を誘導するタンパク質は、(A)分子内に酸性基と重合性基を有する化合物、(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物、および(E)重合開始剤の合計100重量%に対して、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.2〜7重量%、更に好ましくは0.3〜3重量%の範囲で使用される。前記数範囲の下限値を下回ると歯周組織の再生・接着を誘導する性能が低下することとなり、一方、上限値を上回るとレジン系組成物の物性に関する基礎的特性が損なわれることとなり、何れも好ましくない。
【0035】
(E)重合開始剤
本発明のレジン系組成物に配合される(E)成分の重合開始剤としては、例えば有機ホウ素化合物、有機過酸化物、無機化酸化物を挙げることができる。有機ホウ素化合物としては、例えばトリエチルホウ素、トリ(n−プロピル)ホウ素、トリイソプロピルホウ素、トリ(n−ブチル)ホウ素、トリ(s−ブチル)ホウ素、トリイソブチルホウ素、トリペンチルホウ素、トリヘキシルホウ素、トリオクチルホウ素、トリデシルホウ素、トリドデシルホウ素、トリシクロペンチルホウ素、トリシクロヘキシルホウ素、ブチルジシクロヘキシルボランなどのトリアルキルホウ素;ブトキシジブチルホウ素などのアルコキシアルキルホウ素;ジイソアミルボラン、9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナンなどのジアルキルボラン;テトラフェニルホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩、テトラフェニルホウ素ジメチル−p−トルイジン塩、テトラフェニルホウ素ジメチルアミノ安息香酸エチルなどのアリールボレート化合物;部分酸化トリブチルホウ素などの部分酸化トリアルキルホウ素などを挙げることができる。なお、トリアルキルホウ素とそれより誘導される部分酸化トリアルキルホウ素などを併せてトリアルキルホウ素化合物という。
【0036】
有機過酸化物としては、例えばジアセチルパーオキサイド、ジプロピルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジカプロルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジメトキシベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジメチルベンゾイルパーオキサイドおよびp,p’−ジニトロジベンゾイルパーオキサイドなどを挙げることができる。
無機過酸化物としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、塩素酸カリウム、臭素酸カリウムおよび過リン酸カリウムなどを挙げることができる。酸化還元性金属化合物としては、例えば銅、鉄、コバルトなど遷移金属の硝酸塩、塩化塩、アセチルアセト塩などを挙げることができる。
これらの中では、トリブチルホウ素あるいは部分酸化トリブチルホウ素を用いることが好ましく、さらに最も好ましい有機ホウ素化合物は部分酸化トリブチルホウ素である。これらの(E)成分は単独であるいは2種以上組み合わせで使用することができる。
【0037】
さらに本発明の歯科用組成物において硬化剤の助剤として本発明の目的を損なわない限り、光重合開始剤を配合されていてもよい。光重合開始剤としては、可視光線を照射することによって重合性モノマーの重合を開始しうるものが好ましく使用され、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン類;ベンジル、4,4’−ジクロロベンジル、ジアセチル、α−シクロヘキサンジオン、d,l−カンファキノン(CQ)、カンファキノン−10−スルホン酸、カンファキノン−10−カルボン酸などのα−ジケトン;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、ヒドロキシベンゾフェノンなどのジフェニルモノケトン類;2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類などの光増感剤を挙げることができる。
これらの中ではd,l−カンファキノン、カンファキノン−10−カルボン酸、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドが特に好ましい。これら光重合開始剤は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0038】
加えて、上記光重合開始剤の重合開始効果を向上するため、有機ホウ素化合物の触媒効果に悪影響を及ぼさない還元性化合物の併用も可能である。例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジエタノール−p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニシジン、N,N−ジメチル−p−クロルアニリン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステルおよびそれらの塩、N,N−ジエチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステルおよびそれらの塩、N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒド、N−フェニルグリシンおよびその塩、N−トリルグリシンおよびその塩、N,N−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)フェニルグリシンおよびその塩などの有機還元性化合物を挙げることができる。
【0039】
上記(E)重合開始剤は、(A)分子内に酸性基と重合性基を有する化合物、(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物、および(E)重合開始剤の合計100重量%に対して、好ましくは0.5〜10重量%、更に好ましくは1〜10重量%の範囲で使用される。また、本発明で光重合開始剤を使用する場合、有機ホウ素化合物の使用量を100重量%に対して、好ましくは0.1〜10重量%、更に好ましくは0.2〜5重量%の範囲で使用される。さらに、還元性化合物の配合量は、通常は使用される光重合開始剤の0.5〜3.0倍の範囲で使用される。
前記数値範囲の下限値を下回るとレジン系組成物が硬化することなく重合が終了してしまい所望する物性を得ることができなくなり、一方、上限値を上回ると重合に関与できなかった重合開始剤がレジン系組成物硬化体の物性に影響を及ぼし、基礎的特性が損なわれるおそれがあり、何れも好ましくない。
【0040】
(F)安定剤
本発明のレジン系組成物には、所望により(F)成分の安定剤を使用することができる。(F)成分としては、例えば2−ヒドロキシ−4−メチルベンゾフェノンのような紫外線吸収剤、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,5−ジターシャリーブチル−4−メチルフェノール等の重合禁止剤、変色防止剤、抗菌材、着色顔料、その他の従来公知の添加剤等の成分を、必要に応じて任意に添加できる。
【0041】
(G)多官能(メタ)アクリレート化合物
本発明のレジン系組成物には所望により(G)成分の多官能(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。(G)成分としては、グリセロールジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンなどのブタントリオールのジ(メタ)アクリレート;メソ−エリスリトールなどのブタンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;ペンタントリオールのジ(メタ)アクリレート;テトラメチロールメタンなどのペンタンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;キシリトール及びその異性体の水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;ヘキサントリオールのジ(メタ)アクリレート;ヘキサンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;ヘキサンペンタオールの水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;ヘキサンヘキサオールの水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;あるいは下記式(1)
【0042】
【化1】

【0043】
〔式(1)中、Rは少なくとも1個の芳香族環を有しかつ分子中に酸素原子または硫黄原子を有していてもよい2価の芳香族残基あるいはシクロアルキル残基、好ましくは下記式(2)
【0044】
【化2】

【0045】
から選択されるいずれかを示し、RおよびRは互いに独立して水素原子またはメチル基を示し、nおよびmは正の整数を示す〕で示される多官能(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これら多官能(メタ)アクリレートは、官能基の数が2〜3個のものが好ましく用いられ、2官能のものがより好ましい。官能基数が多い場合には、添加量によって組成物の硬化体の架橋度が高くなり、組成物の硬化体の柔軟性を損なわれ、歯質や歯科用金属への接着性を低下させる傾向がある。
なお、多官能(メタ)アクリレート化合物である(G)成分は通常、酸性基を有しないものとするのが好ましい。
【0046】
上記(G)多官能(メタ)アクリレート化合物は、(A)分子内に酸性基と重合性基を有する化合物、(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物、および(E)重合開始剤の合計100重量%に対して、好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは2〜9重量%の範囲内の量で含有させることができる。前記数値範囲の上限を上回ると硬化までの時間が短くなりすぎて治療を適切に施す余裕がなくなるだけでなく、レジン系組成物硬化体の吸水性が高くなり、歯質あるいは骨等の硬組織への接着耐久性が低下する傾向がある。また、レジン系組成物硬化体の架橋度が高くなり、レジン系組成物硬化体の柔軟性を損なう傾向があり、好ましくない。
【0047】
(H)無機フィラーあるいは無機有機複合化フィラー
本発明のレジン系組成物には、所望により、(H)成分の無機フィラーまたは無機有機複合フィラーを使用することができる。無機フィラーの例としては、ジルコニウム酸化物、ビスマス酸化物、チタン酸化物、酸化亜鉛および酸化アルミニウム粒子などの金属酸化物粉末、炭酸カルシウム、炭酸ビスマス、リン酸ジルコニウムおよび硫酸バリウムなどの金属塩粉末、シリカガラス、アルミニウム含有ガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラスおよびジルコニウムシリケートガラスなどのガラスフィラー、銀徐放性を有するフィラー、フッ素徐放性を有するフィラーなどを挙げることができる。これら無機フィラーは単独であるいは組み合わせて使用することができる。
また、無機フィラーと樹脂間に強固な結合を得るには、シラン処理、ポリマーコートなどの表面処理を施した無機フィラーを使用することが好ましい。無機有機複合フィラーとしては、例えばTMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタアクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などが使用できる。
【0048】
これらの無機フィラーおよび無機有機複合フィラーは、単独であるいは組み合わせて使用することができる。
上記(H)無機フィラーあるいは無機有機複合フィラーは、(A)分子内に酸性基と重合性基を有する化合物、(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物および(E)重合開始剤の合計100重量%に対して、好ましくは15〜85重量%、より好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは25〜75重量%の範囲内の量で使用される。前記数値範囲の上限値を上回るとレジン系組成物硬化体の柔軟性を損なう傾向があり、好ましくない。
【0049】
(I)色素および/または顔料
本発明の歯科用組成物には所望により(I)成分色素および/または顔料を添加してもよい。かかる色素および/または顔料としては、例えばフロキシンBK、アシッドレッド、ファストアシッドマゼンダ、フロキシンB 、ファストグリーンFCF、ローダミンB、塩基性フクシン、酸性フクシン、エオシン、エチスロシン、サフラニン、ローズベンガル、ベーメル、ゲンチアナ紫、銅クロロフィルソーダ、ラッカイン酸、フルオレセインナトリウム、コチニールおよびシソシン、タルク、チタンホワイトなどを挙げることができる。これらの色素および顔料は単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【実施例】
【0050】
次に本発明のレジン系組成物について実施例で具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0051】
製造例1
タンパク質添加ポリ((メタ)アクリレート)粒子の製造
乳鉢にてウシ血清アルブミン(シグマ社製 (D)成分に相当 以下、BSA)を粒径0.2〜200μmに微粉化後、その微粉化したBSA0.01gとスーパーボンドクリア粉剤(サンメディカル(株)製 (C)成分に相当、PMMA重量平均分子量40〜50万 平均粒径40μm)3gをサンプル瓶中に投入し、ミックスローター(VMR−3R、AS ONE)にて60rpm、2時間撹拌した。
【0052】
実施例1
タンパク質含有レジン系組成物硬化体の調製
混合皿にスーパーボンドモノマー液(サンメディカル(株)製(A)成分および(B)成分に相当、(A)成分および(B)成分の合計100重量%に対して(A)成分:95重量%、(B)成分:5重量%)約0.09gに、スーパーボンドキャタリスト(サンメディカル(株)製(E)成分に相当、(A)成分および(B)成分の合計100重量%に対して(E)成分:7.2重量%)約0.007g滴下したところに、製造例1で製造したタンパク質添加ポリ((メタ)アクリレート)粒子0.08gを投入し混合させたものを、内面にワセリンを塗布した2mm×2mm×25mmの型枠に流し込み、20分以上室温放置させてタンパク質含有レジン系組成物硬化体を得た。(以下、BSA サンプル)
【0053】
(タンパク質粒子の測定)
前記粒子数の測定法において、W=0.01gとしたとき、実施例1の処方では
P=0.01/(0.01+3)*0.08/(0.08+0.09+0.007)*100となる。
観察された粒子数Nm[個]とそれから算出された組成物中の粒子数Nc[個/g]は以下の通りとなった。
粒径 0.2〜10未満μmの粒子: 16969[個]、27519[個/g]
粒径 10〜50未満μmの粒子: 175[個]、 288[個/g]
粒径 50〜200未満μmの粒子: 25[個]、 41[個/g]
上記合計 :17169[個]、 27848[個/g]

【0054】
比較例1
タンパク質未含有レジン系組成物硬化体の調製
混合皿にスーパーボンドモノマー液(サンメディカル(株)製 (A)成分および(B)成分に相当)約0.09gに、スーパーボンドキャタリスト(サンメディカル(株)製(E)成分に相当)約0.007g滴下したところに、スーパーボンドクリア粉剤(サンメディカル(株)製 (C)成分に相当)0.08gを投入し混合させたものを、内面にワセリンを塗布した2mm×2mm×25mmの型枠に流し込み、20分以上室温放置させてタンパク質未含有レジン系組成物硬化体を得た。(以下、比較サンプル)
【0055】
製造例2
タンパク質添加水溶液の製造
蒸留水50gにウシ血清アルブミン(シグマ社製 以下、BSA)0.01gを投入後、一晩放置させることでタンパク質添加水溶液を得た。
【0056】
タンパク質添加ポリ((メタ)アクリレート)粒子の製造
上記タンパク質添加水溶液50gに、スーパーボンドクリア粉剤(サンメディカル(株)製 (C)成分に相当、PMMA重量平均分子量40〜50万 平均粒径40μm)3gを投入後、タンパク質含有水溶液とスーパーボンドクリア粉剤とを馴染ませることを目的として一晩撹拌させた。撹拌後、ロータリーエバポレーター(Auto Jack NAJ−100 東京理科機械(株))にて圧力100〜160Torr、ウォーターバス温度40℃、速度制御器6〜8メモリで蒸留水を揮発させ、1.5時間後、蒸留水が乾燥したことを目視により確認した。さらに完全乾燥させるため40℃、自然対流式のオーブンにて12時間乾燥させた。完全乾燥後、280メッシュの篩いで篩うことでタンパク質添加ポリ((メタ)アクリレート)粒子を得た。
【0057】
参考例1
タンパク質含有レジン系組成物硬化体の調製
混合皿にスーパーボンドモノマー液(サンメディカル(株)製 (A)成分および(B)成分に相当、(A)成分および(B)成分の合計100重量%に対して(A)成分:95重量%、(B)成分:5重量%)を約0.09gとり、スーパーボンドキャタリスト(サンメディカル(株)製 (E)成分に相当、(A)成分および(B)成分の合計100重量%に対して(E)成分:7.2重量%)約0.007gを滴下し、製造例2で製造したタンパク質添加ポリ((メタ)アクリレート)粒子0.08gと混合させたものを硝子板上にのせ、その上に透明フィルムと硝子板をのせて1日以上圧接した(以下、参考サンプル)。
【0058】
(参考例1でのタンパク質粒子の測定)
組成物中での実際のタンパク質の形状を測定することは困難なため、以下の通り計算にて算出した。
PMMAに塗布されたタンパク質重量Wは、塗布タンパク質密度ρと塗布面積=PMMA粒子表面積Sと塗布厚Dの積に等しく、W=ρ・S・D、よって、
=W/(ρ・S)・・・・(1)
PMMA粒子の見掛け密度ρMaはPMMA粒子重量Wを見掛け体積(粒子自身と粒子間の空隙を併せた体積)VMaで除したものなので、ρMa=W/VMa、よって、VMa=W/ρMa・・・・(2)
PMMA粒子比表面積SMsはPMMA粒子表面積Sを見掛け体積VMaで除したものなので、SMs=S/VMa、よって、S=SMs・VMa・・・・(3)
(3)に(2)を代入すると、S=SMs・VMa=SMs・(W/ρMa)・・・・(4)
更に、(4)を(1)に代入すると、D=W/(ρ・S)=W/(ρ・(SMs・(W/ρMa)))=ρMa・W/(ρ・W・SMs
ここで、当該PMMA粒子について計測したところ、ρMa=0.0891g/0.2ml(左記mlは見掛け体積)、SMs=4250cm/ml(左記mlは見掛け体積)であり、また、重量比較により、W=0.0068gであると計測され、更にρ=1と仮定して、W=3gを代入すると、
=ρMa・W/(ρ・W・SMs)=(0.0891g/0.2ml)*0.0068g/(1g/ml*3g*4250cm/ml)=2.376・10−7cm≒2.4nm
となる。
当該タンパク質であるBSAの分子直径は、大凡7.2nmとされているので、塗布厚Dが約2.4nmと計算されたことで、BSAは、PMMA粒子表面(S=4250cm/ml)の1/3以下の面積に散在してタンパク質塊が存在していることを推定させる。
【0059】
レジン系組成物硬化体表面におけるタンパク質の有無確認
調製した各種レジン系組成物硬化体について、免疫染色によりタンパク質の存在有無を評価した。
免疫染色は、
a)調製した各種試料片をリン酸緩衝液(以下、PBS)にて5分間3回洗浄。
b)洗浄後の試料片に第一抗体としてPBSにて50倍希釈したBSA抗体(sc−50711 サンタ クルズ バイオテクノロジー社製)を滴下後、4℃で1日放置した。
c)放置後の試料片をPBSにて5分3回洗浄した。
d)洗浄後の試料片に第二抗体としてHistofine Simple Stain MAX PO(Nichirei社製)を滴下後、30分間室温に放置した。
e)放置後の試料片に発色を目的として0.01%の過酸化水素含有の3,3’−ジアミノベンチジン4塩酸塩(和光純薬工業(株)製)溶液を滴下後、5分間室温放置した。
f)放置後の試料片について発色を止める目的で精製水により洗浄した。
上記の手順で行い、光学顕微鏡にて試料片表面上のタンパク質の有無を観察した。
【0060】
(結果)
参考例1により製造されたタンパク質添加ポリ((メタ)アクリレート)粒子を使用したレジン系組成物硬化体に、図1の黒矢印で示したような発色が疎らに試料片全体に観察できたのみであった。
【0061】
レジン系組成物硬化体におけるタンパク質溶出試験
調製した各種レジン系組成物硬化体について、下記方法によりレジン系組成物硬化体から溶出するBSAを定量した。
a)調製した各種レジン系組成物硬化体を、生理食塩水(大塚生食注、(株)大塚製薬工場)1mLが入ったプラスチック容器に入れ、37℃、48時間放置。
b)放置後のa)の生理食塩水をマイクロプレート(96 ウエル EIA/RIA プレート、コーニング社)に150μL移し入れた。
c)同マイクロプレートにネガティブ サンプルとして、生理食塩水単体を150μL指定のウェルに移し入れた。(以下、ネガティブ サンプル)
d)同マイクロプレートに検量線用として、BSAを溶解させた生理食塩水溶液(0、0.5、1、2.5、5、10、20、40、200μg/mL)を150μL指定のウェルに移し入れた。
e)各ウェルに対してMicro BCA Protein Assay Kit(サーモ サイエンティフィック社)の発色液を150μL投入後、37℃、2時間放置。
f)放置後のマイクロプレートをコロナ吸収グレーティングマイクロプレートリーダー(SH−1000、(株)日立ハイテクノロジーズ)により吸光度を測定し、レジン系組成物硬化体から溶出したBSA量を算出した。
【0062】
(結果)
検量線から算出された各BSA濃度(μg/mL)を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1より、BSA サンプルではBSAの溶出が確認できたが、比較サンプル、ネガティブ サンプル、および参考サンプルでは検量線の検出限界以下であったため、溶出液からBSAは確認できなかった。
【0065】
以上の結果から、使用するタンパク質が歯周組織の再生・接着を誘導するタンパク質でも同様の結果になることが示唆された。歯周組織の再生・接着を誘導するタンパク質を含有するレジン系組成物硬化体から溶出するタンパク質成分が歯肉との接着を達成すると同時に、レジン成分が歯との接着を達成することで、初期段階における歯周病の治療と再発防止が期待できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子内に酸性基と重合性基を有する化合物、
(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物、
(C)ポリ((メタ)アクリレート)粒子からなる充填材、
(D)歯周組織の再生・接着を誘導するタンパク質を含有する粒径0.2〜200μmの粒子
および
(E)重合開始剤、
からなるレジン系組成物。
【請求項2】
前記粒子の数は、組成物1g当り少なくとも200個である請求項1に記載のレジン系組成物。
【請求項3】
更に(F)安定剤を含む請求項1または2に記載のレジン系組成物。
【請求項4】
更に(G)多官能(メタ)アクリレート化合物を含む請求項1乃至3のいずれかに記載のレジン系組成物。
【請求項5】
更に(H)無機フィラーあるいは無機有機複合化フィラーを含む請求項1乃至4のいずれかに記載のレジン系組成物。
【請求項6】
更に(I)色素および/または顔料を含む請求項1乃至5のいずれかに記載のレジン系組成物。
【請求項7】
上記分子内に酸性基と重合性基を有する化合物(A)が、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸および/またはその酸無水物である請求項1乃至6のいずれかに記載のレジン系組成物。
【請求項8】
上記重合開始剤(E)が、トリアルキルホウ素化合物である請求項1乃至7のいずれかに記載のレジン系組成物。
【請求項9】
上記重合開始剤(E)が、トリブチルホウ素および/またはその部分酸化物である請求項1乃至7のいずれかに記載のレジン系組成物。



【図1】
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【公開番号】特開2013−53112(P2013−53112A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193477(P2011−193477)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】