説明

タンパク質固定化用マイクロチップ

本明細書に開示されているのは、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF/MS)などの微量分析工程中に微量のタンパク質を検出するように、アルブミン、免疫グロブリン、トランスフェリン、またはケラチンなどの特定タンパク質をビーズに固定化するタンパク質固定化用マイクロチップである。前記タンパク質固定化用マイクロチップは試料量を低減し、反応時間を短縮し、結果の信頼性を高め、さらに分析工程を簡素化する。このため、表面に付着された抗体を有するビーズが有機ポリマー、すなわち(ポリ)ジメチルシロキサン(PDM)を用いた重層構造を持つマイクロチップのチャンバに含まれ、前記チャンバを通過する微量試料の圧力が前記ビーズの全てに均一に分布され、さらに前記微量試料が、前記特定タンパク質を効果的に固定化するように大きな表面積を有し、かつ最適速度で外部に円滑に排出される前記ビーズを通過する。よって、タンパク質固定化用マイクロチップは、前記マイクロチップを通過する前記試料の速度を最適化し、前記微細ビーズの十分な表面積のために前記抗体への前記特定タンパク質の固定化効率を向上させ、それによって迅速な反応結果を得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質固定化用マイクロチップに関し、特に、アルブミン、免疫グロブリンなどを選択的に固定化するタンパク質固定化用マイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
公知のように、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF/MS)などの微量試料を分析する機器が開発されている。しかしながら、微量のタンパク質を分析する工程中、アルブミン、免疫グロブリン、トランスフェリン、ケラチンなどの特定タンパク質関しては、微量のタンパク質を検出することが困難である。
【0003】
上記問題を解決するために、LC/MSやMALDI-TOF/MSを行う前に、上記の特定タンパク質を固定化する色素クロマトグラフィーが行われる。しかしながら、この方法には分析しようとするタンパク質も固定化されてしまうという欠点がある。
【0004】
上記欠点を補正するために、イムノクロマトグラフ法が行われる。この方法では、これらのタンパク質に結合した抗体を用いて免疫学的に特定タンパク質を固定化するため、微量の標的タンパク質を分析することができる。
【0005】
しかしながら、かかるイムノクロマトグラフ法では、試料がカラムを用いて精製され、そのカラムは各試験後に洗浄されなければならず、洗浄されたカラムは再使用される。それ故、この方法は手間が多く、タンパク質を分析するのに長い時間を要する。さらに、前記方法実施後のタンパク質は抗体樹脂に付着されている可能性もあり、前記カラムが繰り返して使用される場合、引き続き行われるLC/MSやMALDI-TOF/MSなどの分析工程における測定結果の信頼性が低くなる可能性もある。
【0006】
さらに、前記イムノクロマトグラフ法は、少なくとも250μmの試料を必要とするため、試料の量が過剰に小さい場合は使用できず、また、20〜30分の反応時間を必要とするため、結果を迅速に得ることができない。また、イムノクロマトグラフ法で使用される樹脂量は試料量の1.8倍である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、反応時間を短縮し、結果の信頼性を高め、さらに分析工程を簡素化するタンパク質固定化用マイクロチップを提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様によれば、表面に付着された抗体を有するビーズが、有機ポリマー、すなわちポリジメチルシロキサン(PDM)を用いた重層構造を持つマイクロチップのチャンバに含まれ、前記チャンバを通過する微量試料の圧力が、前記ビーズの全てに均一に分布され、さらに、前記微量試料が、特定タンパク質を効果的に固定化するように大きな表面積を有しかつ最適速度で外部に円滑に排出される前記ビーズを通過するタンパク質固定化用マイクロチップを提供することによって上記とその他の目的を達成できる。
【発明の効果】
【0009】
よって、本発明のタンパク質固定化用マイクロチップは、前記マイクロチップを通過する前記試料の速度を最適化し、前記微細ビーズの十分な表面積のために前記ビーズに付着された前記抗体への特定タンパク質の固定化効率を向上させ、それによって迅速な反応結果を達成する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の前述及び他の目的、特徴及び利点は、以下の添付図面を併用して以下の詳細説明からより明確に理解されるであろう。
【0011】
【図1】図1は本発明によるタンパク質固定化用マイクロチップの斜視図である。
【図2】図2は、カバーガラスが除去された状態の本発明によるマイクロチップの平面図である。
【図3】図3は、カバーガラスが除去された状態の本発明によるマイクロチップの斜視図である。
【図4】図4は本発明によるマイクロチップの動作状態を例示する概略図である。
【図5】図5は本発明によるマイクロチップのビーズを周回する試料の状態を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、本発明を添付図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明によるタンパク質固定化用マイクロチップは、ポリジメチルシロキサン(PDM)が所望構造のチャネル、チャンバ、分離壁などを形成するようにエッチングなどの半導体処理技術を用いてシリコンウェーハ上に形成されたフレームに注入されるような工程からなるソフトリソグラフィーによって製造される。
【0014】
本発明のタンパク質固定化用マイクロチップは、入口1及び入口チャネル2と、出口3及び出口チャネル4と、の間にチャンバ5が形成され、カバーガラス6が上記部分を封止し、さらに、前記入口1を除いた前記チャンバ5の前部と両側部とにおいて、前記チャンバ5の周りにある分離壁11,12の上端部と、前記カバーガラス6と、の間にビーズ7の直径よりも低い高さを有する排出空間8を形成するように加工される。上記の3部分では、リザーバ9が前記排出空間8内に選択的に形成され、かつ移動チャネル10によって前記出口チャネル4に接続される。
【0015】
本発明のタンパク質固定化用マイクロチップでは、微量試料が前記入口1から入り、前記入口チャネル2を通過し、前記チャンバ5に到達する。図4に示すように、前記チャンバ5が複数のビーズ7で充填されているので、前記試料は前記ビーズ7の表面に沿って流れる。ここで、前記ビーズ7の表面に前記試料による液圧がかかる。前記チャンバ5が前記ビーズ7で充填されているので、前記ビーズ7に前記試料が流出できる方向に高圧力がかかる。ここで本発明では、前記ビーズ7は、前記試料が流出できる方向、すなわち前方向と両側方向とに押される。しかしながら、図5に示すように、前記分離壁11,12と前記カバーガラス6との間に形成された前記排出空間8の高さ(d1)が前記ビーズ7の直径(d2)よりも小さいため、前記ビーズ7が前記チャンバ5から放出されることを防止できるとともに、前記試料は円形状の前記ビーズ7同士間の間隙を通過することができ、かつ前記分離壁11,12を介して前記リザーバ9に供給され得る。前記リザーバ9内に回収された前記試料は前記移動チャネル10を介して前記出口チャネル4に供給され、前記出口3に排出される。上記工程中、前記ビーズ7は前記分離壁11(両側)と前記分離壁12(前方)とに移動方向に分散されるので、前記ビーズ7が片側に密集するために生じる過剰に高い圧力による変形や損傷を防止することが可能であり、前記ビーズ7の密集に起因する前記試料の拘束状態を防止することも可能であることから、安定的かつ効果的な反応を誘導できる。本発明では、前記ビーズ7の直径は100μm以下と小径であるため、大きな表面積を有する。それ故、抗体は前記ビーズ7の十分に大きな表面積に付着される。
【0016】
従って、前記ビーズ7の表面と接触してから上記の工程を介して排出される前記試料の特定タンパク質を、前記ビーズ7の表面に付着された抗体に結合させることができる。よって、前記試料の特定タンパク質は前記抗体と効果的に反応して迅速に回収されてから外部に排出される。本発明のタンパク質固定化用マイクロチップには、その中に設置される小型の内部構造物が含まれていることから、微量試料を連続的に通過させることができる。よって、本マイクロチップの構造物を通過する試料が微量である場合でさえも、効果的かつ十分な反応を実現できる。本発明では、前記チャネルの分離壁11,12の高さは、前記ビーズ7の直径と、前記チャンバ5内の前記ビーズ7の数量とに従って調整される必要がある。さらに、本発明では、複数の構造物がシリコンウェーハ上でエッチング加工されるため、複数のタンパク質固定化用マイクロチップの量産を繰り返して行うことができる。
【0017】
前記リザーバ9は選択的に設置してもよく、前記リザーバ9は、前記分離壁11,12と前記移動チャネル10との間に設置され、マイクロポンプとマイクロピペットによって移動された前記試料を安定的に精製して排出する働きをする。
【0018】
本発明では、前記ビーズ7に付着される抗体を多様化できる。
【0019】
つまり、前記ビーズ7に付着される抗体は、抗アルブミン抗体、抗トランスフェリン抗体、抗免疫グロブリンG抗体、または抗ケラチン抗体であってもよい。
【0020】
本発明では言及していないが、前記ビーズ7に固定化された特定タンパク質は目的に応じて任意に選択されるので、前記ビーズ7に付着される抗体は具体的な目的に適切なものに変更してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0021】
上記のように、本発明のタンパク質固定化用マイクロチップでは、10μm以下の試料を使用することから、特定タンパク質が除去される精巧な工程を実現できるが、前記従来のイムノクロマトグラフ法では約250μmの試料が必要であり、十分な表面積を有するビーズに付着される抗体の種類に応じて所望の特定タンパク質を選択的に捕獲するため、さまざまな目的に選択的に使用することができる。さらに、本発明のタンパク質固定化用マイクロチップでは、反応時間が前記従来のイムノクロマトグラフ法の30〜50%と大幅に短縮されることから、迅速な反応結果を得ることができ、さらに、試料とビーズの使用率も10:1と、前記従来法の1/18に低減される。また、本発明のタンパク質固定化用マイクロチップは、ソフトリソグラフィーによって量産され、その製造コストが低いため、単回使用(使い捨て)ではあるが、経済的である。
【0022】
本発明の好適な実施形態は例示的な目的で開示したものであって、当業者であれば、種々の変更、付加および代替を添付の特許請求の範囲で開示した本発明の範囲および真の趣旨から逸脱することなく行い得ることを理解されるであろう。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質固定化用マイクロチップにおいて、チャンバが入口の片側に形成された入口チャネルと出口の片側に形成された出口チャネルとの間に形成され、カバーガラスが前記入口、前記入口チャネル、前記出口、前記出口チャネルを封止し、前記チャンバの周りの分離壁の上端部と、前記入口を除いた前記チャンバの前部と両側部における前記カバーガラスと、の間にビーズの直径よりも低い高さを有する排出空間が形成されるようになっており、さらに、前記チャンバが移動チャネルによって前記出口チャネルに接続されることを特徴とするタンパク質固定化用マイクロチップ。
【請求項2】
リザーバが、前記分離壁と前記移動チャネルとの間に設置され、かつ移動チャネルによって前記出口チャネルに接続されることを特徴とする請求項1に係るタンパク質固定化用マイクロチップ。
【請求項3】
前記ビーズに付着される抗体が抗アルブミン抗体であることを特徴とする請求項1に係るタンパク質固定化用マイクロチップ。
【請求項4】
前記ビーズに付着される抗体が抗トランスフェリン抗体であることを特徴とする請求項1に係るタンパク質固定化用マイクロチップ。
【請求項5】
前記ビーズに付着される抗体が抗免疫グロブリンG抗体であることを特徴とする請求項1に係るタンパク質固定化用マイクロチップ。
【請求項6】
前記ビーズに付着される抗体が抗ケラチン抗体であることを特徴とする請求項1に係るタンパク質固定化用マイクロチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−544939(P2009−544939A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520682(P2009−520682)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/KR2007/003499
【国際公開番号】WO2008/010677
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(509019129)ソウルインバイオサイエンス株式会社 (1)
【氏名又は名称原語表記】SEOULIN BIOSCIENCE CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】452−2, Seoulin Bldg., Songnae−Dong, Kang−dong−Gu, Seoul, KOREA
【出願人】(309023690)
【住所又は居所原語表記】502 Taeyang Villa, 31−1,Bakdal 1−dong, Manan−gu, Anyang−si, Gyeonggi−do, KOREA
【出願人】(309023715)
【住所又は居所原語表記】202 Myeongmun Villa, Songjuk−dong, Jangan−gu, Suwon−si, Gyeonggi−do, KOREA
【出願人】(309023726)
【住所又は居所原語表記】136−102, Hosugongwon Daelim Apt., 720 Gojan−dong, Danwon−gu, Ansan−si, Gyeonggi−do,KOREA
【Fターム(参考)】