説明

タンパク質生成におけるまたはそれに関する改善

本発明は、形質転換されたコケ植物、酵母、繊毛虫類または藻類細胞中などの非動物真核生物の細胞中において、異種のグリコシル化タンパク質を生成する方法に関する。特に本方法は、ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)細胞などのコケ植物細胞中で、例えばヒトなどの哺乳類で使用するための医薬品タンパク質などのシアル酸残基を含んでなる動物グリコシル化パターンを含んでなる、グリコシル化タンパク質を生成する方法、そのために必要なDNAおよびRNAなどの遺伝物質、ベクター、宿主細胞、その中に遺伝物質を導入する方法、およびその使用に関する。さらに本発明は、本発明の方法に従って得られる新規のポリペプチドおよびタンパク質に関する。さらに本発明は、形質転換された非哺乳類真核生物の細胞、組織または生物中で、シアル酸またはCMP−シアル酸を生成する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形質転換されたコケ植物、酵母、繊毛虫類または藻類細胞中などの非動物真核生物の細胞中において、異種のグリコシル化タンパク質を生成する方法に関する。特に本方法は、ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)細胞などのコケ植物細胞中で、例えばヒトなどの哺乳類で使用するための医薬品タンパク質などのシアル酸残基を含んでなる動物グリコシル化パターンを含んでなる、グリコシル化タンパク質を生成する方法、そのために必要なDNAおよびRNAなどの遺伝物質、ベクター、宿主細胞、その中に遺伝物質を導入する方法、およびその使用に関する。さらに本発明は、本発明の方法に従って得られる新規のポリペプチドおよびタンパク質に関する。さらに本発明は、形質転換された非哺乳類真核生物の細胞、組織または生物中で、シアル酸またはCMP−シアル酸を生成する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
植物は、広範な組み換えタンパク質の生成に適した生物である(マー(Ma)ら、Nat Gen 4、794〜805頁、2003年)。ヒトをはじめとする哺乳類で使用するための医薬品タンパク質に関しては、グリコシル化などの翻訳後修飾が必要とされることが多い。しかし例えばヒトにおいて医薬品として使用される予定のタンパク質配列生成に適した異種性遺伝子で形質転換された真核生物細胞系中では、次のような問題に遭遇する。このようなタンパク質上のグリコシル化パターンは天然パターン、すなわちその中にタンパク質が導入された真核生物の細胞系のパターンを獲得することが多く、非動物の、すなわち例えば非哺乳類のグリコシル化パターンを含んでなるグリコシル化タンパク質が生成され、次にこれらは例えばヒトのような哺乳類などの動物で適用すると、免疫原性および/またはアレルゲン性であるかもしれない。
【0003】
哺乳類由来糖タンパク質と比べて、植物特異的糖タンパク質は2つの追加的な残基を含有する。過去には、植物によって生成された組み換え糖タンパク質の用途は、このようなタンパク質上に獲得される植物特異的N−グリコシル化によって制限された。コケ植物の場合はコプリヴォラ(Koprivova)ら(Plant Biotechnol J 2、517〜523頁、2004年)が、種子植物の場合はシュトラッサー(Strasser)ら(FEBS Lett. 561、132〜136頁、2004年)が、異なるアプローチを使用してこの制限を克服するのに成功している。2件の研究で発生させた植物は、上述の2つの植物特異的糖残基を欠く複雑なN−グリコシル化を示した。
【0004】
さらに植物糖タンパク質には末端β−1,4ガラクトース残基が見つからず、植物中にβ−1,4ガラクトシル転移酵素が存在しないことが示唆される。タバコ植物中(ベイカー(Bakker)ら、Proc Natl Acad Sci USA 98、2899〜2904頁、2001年)、タバコBY2細胞中(パラクパック(Palacpac)ら、Proc Natl Acad Sci USA 96、4692〜4697頁、1999年)、ならびに配偶半数体コケ植物中(ヒューター(Huether)ら、Plant Biol 7、292〜299頁、2005年)へのこの酵素の安定した組み込みおよび発現について記載されている。組み換えヒトβ−1,4−ガラクトシル転移酵素は機能性であり、遺伝子導入材料から単離されたタンパク質は末端β−1,4−ガラクトース残基を示した。
【0005】
本発明は、哺乳類などの動物においてなおもさらに改善された機能性があるポリペプチドおよびタンパク質が生成されることを確実にするための既存方法のさらなる改善に関する。
【0006】
最も複雑なN−グリカン構造物は、ヒトタンパク質をはじめとする哺乳類タンパク質上に存在し、末端糖残基としてシアル酸を含有する。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の非遺伝子導入懸濁液培養細胞中のシアル酸付加複合糖質の存在が、最近シャア(Shah)ら(Nat Biotechnol 21、1470〜1471頁、2003年)によって記載されているが、これらの結果は議論中である(セヴェノ(Seveno)ら、Nat Biotechnol 11、1351〜1353頁、2004年)。
【0007】
しかし先行技術は、シアル酸付加がコケ植物でも起きるかどうか、そして所望のN−グリカンの特徴を有する異種の糖タンパク質の組み換え発現ができるようになるかについて、いかなる情報も提供しない。さらに先行技術においてコケ植物中のシアル酸の純粋な存在に関して、利用できるデータはない。
【0008】
N−グリカン上へのシアル酸付加の必須条件は、活性化ノイラミン酸(CMP NeuAc)の存在である。哺乳類では、CMP NeuAcの前駆物質であるNeuAc(シアル酸)の合成に異なる酵素が関与する。UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ(Genbankアクセッション番号:AF155663)は、ManNAc−6Pを発生させる役目をしており、それはN−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(Genbankアクセッション番号:NM_018946)によって処理されてNeuAc−9Pになる。NeuAc−9PをNeuAcに処理する役目をする酵素については、これまで記載されていなかった。NeuAcの活性化は、哺乳類細胞核中で起きる。活性化シアル酸(CMP NeuAc)を発生させる役目をしているのは、酵素CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ(Genbankアクセッション番号:NM_018686)である。活性化生成物は核からゴルジ体中に転位置しなくてはならず、この過程にCMP−シアル酸輸送体(Genbankアクセッション番号:NM_006416)が関与する。最後に、例えば1,4結合−ガラクトース残基などの末端糖残基上へのCMP NeuAcの転移によって、N−グリカン上へのシアル酸付加が起きる。この目的のために、シアリル転移酵素(例えばα−2,6シアリル転移酵素、アクセッション番号:NM_003032)の発現を確実にしなくてはならない。半数体非脈管陸生植物であるコケ植物のヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)を組み換えタンパク質生成のために使用することができる(特許文献1)。
【0009】
コケ植物の生活環は、光独立栄養的配偶世代によって大半が占められる。その生活環は胞子体が優勢な世代である高等植物のそれとは完全に異なり、高等植物とコケ植物の間には、顕著に多くの相違が観察される。
【0010】
コケ植物の配偶体は、2つのはっきりと区別できる発達段階によって特徴づけられる。先端生長を通じて発達する原糸体は生育して、2種のみの細胞タイプ(クロロネマおよびカウロネマ細胞)の繊維網目状組織になる。ガメトフォアと称される第2段階は、茎生の生育によって単純な先端系とは区別される。どちらの段階も光独立栄養的に活性である。より複雑なガメトフォアへの分化なしの原糸体の培養が、フラスコ内の懸濁液培養ならびにバイオリアクター培養で示されている(特許文献1)。高等植物では、わずかな細胞タイプのみを含有する、完全に分化して光独立栄養的に活性の多細胞組織の培養については記載されていない。コケ植物細胞系の遺伝的安定性は、植物細胞培養と比べて重要な利点を提供する。高等植物の細胞培養では二次代謝はより分化しており、これが二次代謝産物プロフィールに違いをもたらす。
【0011】
さらに生化学的レベルにおいて、コケ植物と高等植物との間にはいくつかの重要な違いがある。ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)中の硫酸固定は、高等植物と顕著に異なる。高等植物中の硫酸固定の主要酵素は、アデノシン5’−ホスホ硫酸還元酵素である。ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)では、ホスホ−アデノシン5’−ホスホ硫酸還元酵素を通じた代替経路が共存する(コプリヴォラ(Koprivova)ら、J.Biol.Chem.277、32195〜32201頁、2002年)。この経路は、高等植物では特徴付けられていない。
【0012】
さらなる違いは、細胞壁の再生に反映される。高等植物に由来するプロトプラストは、培養液とは無関係に新しい細胞壁を迅速に再生する。ポリエチレングリコール(PEG)を通じた高等植物のプロトプラスト中へのDNAの直接転移は、細胞壁再生過程を遅延させるための4〜10℃でのプレインキュベーションを必要とする(特許文献2)。対照的にニセツリガネゴケ属(Physcomitrella)の原糸体に由来するプロトプラストの細胞壁再生は、培養液に依存する。プロトプラストは長期にわたり、細胞壁の再生なしに培養できる。理論による制約は意図しないが、細胞壁再生およびタンパク質グリコシル化に必須のプロトプラストの分泌機構が、高等植物とは異なるようである。さらにヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)は、その核DNA中で高度に効率的な相同的組換えを示し、これは植物に固有の特性であって特異的遺伝子破壊を可能にするものであり(ガーク(Girke)ら、Plant J 15、39〜48頁、1998年、ストレップ(Strepp)ら、Proc Natl Acad Sci USA 95、4368〜4373頁、1998年、コプリヴォラ(Koprivova)ら、J.Biol.Chem.277、32195〜32201頁、2002年、レスキ(Reski)によるレビュー、Planta 208、301〜309頁、1999年、シェーファー(Schaefer)および(Zryd)、Plant Phys 127、1430〜1438頁、2001年、シェーファー(Schaefer)、Annu.Rev.Plant Biol.53、477〜501頁、2002年)、高等植物との根本的相違をさらに例証する。
【特許文献1】国際公開第01/25456号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,508,184号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
動物グリコシル化パターンを含んでなる動物タンパク質、特にシアル酸残基を含有するヒトグリコシル化パターンをその上に含んでなるグリコシル化ヒトタンパク質を生成するより効率的な方法を提供することが、本発明の目的である。ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)などのコケ植物中において、動物グリコシル化パターンを含んでなる異種動物タンパク質、特にシアル酸残基を含有するヒトグリコシル化パターンを含んでなるヒトタンパク質を生成するための効率的な方法を提供することもまた目的である。
【0014】
これらおよびその他の目的は、以下に提供する説明および実施例から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のコケ植物細胞は、ニセツリガネゴケ(Physcomitrella)、ヒョウタンゴケ(Funaria)、ミズゴケ(Sphagnum)、ヤノウエノアカゴケゼニゴケ(Ceratodon)、ゼニゴケ(Marchantia)、およびダンゴゴケ(Sphaerocarpos)属からのコケおよびゼニゴケ種よりなる群から選択される。コケ植物細胞は好ましくはヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)からのものである。
【0016】
ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)細胞などのコケ植物細胞は、本明細書に記載されるような本発明の方法に従った形質転換に適したあらゆる細胞であることができ、コケ植物プロトプラスト細胞、原糸体組織中に見られる細胞またはその他の細胞タイプであってもよい。確かに当業者は、形質転換された原糸体組織など、本発明に従う形質転換コケ植物細胞集団を含んでなるコケ植物体組織もまた、本発明の態様を形成することを理解するであろう。
【0017】
本発明に従って、コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する、少なくとも1つのヌクレオチド配列を含んでなる、好ましくはヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)細胞である形質転換コケ植物細胞が提供され、前記少なくとも1つのヌクレオチド配列は、コケ植物細胞中で発現されかつ哺乳類UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ、哺乳類CMP−シアル酸輸送体、ガラクトシル転移酵素、および哺乳類シアリル転移酵素から選択される、機能性哺乳類タンパク質をコードする。
【0018】
形質転換コケ植物細胞は、形質転換コケ植物細胞に関して上述される少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つの核酸配列を含んでなってもよく、このような配列は機能性タンパク質をコードでき、前記核酸配列はそれぞれ外来性プロモーターと操作可能に結合する。典型的にこのようなヌクレオチド配列は哺乳類配列であり、好ましくはヒト核酸配列から選択される。
【0019】
本発明の形質転換コケ植物細胞は、典型的にβ−1,4ガラクトシル転移酵素、好ましくはヒトβ−1,4ガラクトシル転移酵素ヌクレオチド配列を含んでなる。
【0020】
本発明の形質転換コケ植物細胞で使用されるシアリル転移酵素は、典型的に哺乳類α−2,6またはα−2,3シアリル転移酵素から選択され、好ましくはヒトα−2,6シアリル転移酵素ヌクレオチド配列である。
【0021】
本発明の形質転換コケ植物細胞は、その中でフコシル転移酵素および/またはキシロシル転移酵素活性が顕著に低下され、または除去された細胞である。この効果は例えば、好ましくはi)機能不全フコシル転移酵素ヌクレオチド配列および/またはii)機能不全キシロシル−転移酵素ヌクレオチド配列を含んでなる本発明の形質転換コケ植物細胞を使用して達成されてもよい。
【0022】
「機能不全」とは、ここでの用法では、フコシル転移酵素(fucT)およびキシロシル転移酵素(xylT)の指名された転移酵素ヌクレオチド配列が、1,3結合フコシルおよび1,2結合キシロシル残基を含んでなる植物様グリコシル化パターンで植物N−結合グリカンを改変できる、機能性fucTおよびxylTタンパク質コードするmRNAを実質的にコードできないことを意味する。好ましくは機能不全fucTおよびxylT植物転移酵素ヌクレオチド配列は、核コケ植物ゲノム(あらかじめ人為的にその他の核酸配列で形質転換されていないコケ植物細胞中にある真の天然コケ植物ゲノムであるか、またはその中であらかじめ所望の核酸配列で核酸配列挿入がなされた形質転換核コケ植物ゲノムにあるかにかかわらず)に含まれる内在性の、すなわちゲノムの天然fucTおよびxylT遺伝子中への外来性ヌクレオチド配列の標的を定めた挿入を含んでなり、それは機能性fucTおよびxylT転移酵素活性をコードするmRNAの転写を実質的に阻害または抑制する。
【0023】
当業者に知られているように、フコシル転移酵素および/またはキシロシル転移酵素活性が欠損しているコケ植物細胞は、RNAiおよびアンチセンス技術をはじめとするその他の技術によっても生成できる。これらの全ての方法は、その中でフコシル転移酵素および/またはキシロシル転移酵素活性が顕著に低下され、または除去された好ましいコケ植物細胞をもたらす。
【0024】
本発明のコケ植物細胞またはその祖先は、本明細書に記載されるように哺乳類グリコシル化パターンでグリコシル化された、対象となるタンパク質の一次配列をコードする、対象となる異種遺伝子であらかじめ形質転換されたもののいずれであってもよい。好ましくはグリコシル化パターンはヒト型である。あるいはコケ植物細胞は、本明細書に記載されるとおり本発明の方法に従って、哺乳類グリコシル化パターンがその中に配置される必要がある、少なくとも1つの対象となる主要タンパク質配列、典型的にヒト、またはウシ、ヒツジ、ウマ、およびブタ種などの家畜種をはじめとする哺乳類で使用するための少なくとも1つの対象となる医薬品タンパク質をコードするヌクレオチド配列で、個別に、すなわち同時にまたは長い間かけて形質転換されてもよい。このようなヒトをはじめとする哺乳類で使用するための医薬品糖タンパク質としては、限定されるものではないが、好ましくはVEGFなどのヒトタンパク質であるタンパク質と、α−インターフェロン、β−インターフェロン、γ−インターフェロンなどのインターフェロンと、第VII、VIII、IX、X、XI、およびXII因子から選択される血液凝固因子と、黄体化ホルモン、濾胞刺激ホルモンをはじめとする生殖ホルモンと、表皮性成長因子、血小板由来成長因子をはじめとする成長因子と、顆粒球コロニー刺激因子などと、プロラクチンと、オキシトシンと、甲状腺刺激ホルモンと、副腎皮質刺激ホルモンと、カルシトニンと、副甲状腺ホルモンと、ソマトスタチンと、エリスロポエチン(EPO)と、β−グルコセレブロシダーゼなどの酵素と、TNFα受容体リガンド結合領域とIgGなどのFc部分、受容体、表面タンパク質、膜貫通タンパク質との融合タンパク質の融合タンパク質と、生理学的に活性なそれらの断片が挙げられる。さらに本発明の方法を使用して、特異性モノクローナル抗体などの抗体、または生理学的に活性なそれらの断片を生成できる。これらの抗体またはそれらの断片は、ヒト化またはヒト抗体キメラであってもよい。
【0025】
好ましくは、i)コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合して、コケ植物細胞中で発現される機能性哺乳類UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼをコードするヌクレオチド配列、ii)前記コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合して、コケ植物細胞中で発現される機能性哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)をコードするヌクレオチド配列、iii)前記コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合して、コケ植物細胞中で発現される機能性哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼをコードするヌクレオチド配列、iv)前記コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合して、コケ植物細胞中で発現される機能性哺乳類CMP−シアル酸輸送体をコードするヌクレオチド配列、v)前記コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合して、コケ植物細胞中で発現される機能性哺乳類ガラクトシル転移酵素をコードするヌクレオチド配列、およびvi)前記コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合して、コケ植物細胞中で発現される機能性哺乳類シアリル転移酵素をコードするヌクレオチド配列を含んでなるコケ植物細胞が提供される。
【0026】
好ましくは、i)機能不全フコシル転移酵素ヌクレオチド配列、ii)機能不全キシロシル転移酵素ヌクレオチド配列、iii)コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合して、コケ植物細胞中で発現される機能性哺乳類UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼをコードするヌクレオチド配列、iv)前記コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合して、コケ植物細胞中で発現される機能性哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)をコードするヌクレオチド配列、v)前記コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合して、コケ植物細胞中で発現される機能性哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼをコードするヌクレオチド配列、vi)前記コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合して、コケ植物細胞中で発現される機能性哺乳類CMP−シアル酸輸送体をコードするヌクレオチド配列、vii)前記コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合して、コケ植物細胞中で発現される機能性ガラクトシル転移酵素をコードするヌクレオチド配列、およびviii)前記コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合して、コケ植物細胞中で発現される機能性哺乳類シアリル転移酵素をコードするヌクレオチド配列を含んでなる形質転換コケ植物細胞が提供される。
【0027】
当業者は、酵素ヌクレオチド配列がcDNA配列であってもよく、またはゲノムDNA配列であってもよく、本発明の形質転換コケ植物細胞またはコケ植物組織中に生じる所望のグリコシル化外来性タンパク質上のN−グリカングリコシル化パターンが、完全に哺乳類パターンでなければ、実質的に哺乳類パターン(シアル酸残基を含んでなることを意味する)であり、最も好ましくは適切ならばヒトパターンである限りは、変性的に同等のヌクレオチド配列を含んでなってもよいことを理解するであろう。
【0028】
バイオリアクター内におけるナシゴケ(Leptobryum pyriforme)およびムラサキミズゴケ(Sphagnum magellanicum)などの本発明で使用するのに適したコケ植物の培養に関する詳細情報は、先行技術で知られている(例えばE.ウィルバート(Wilbert)、「アラキドン酸代謝を特に考慮したコケの大量培養に関する生物工学的研究(Biotechnological studies concerning the mass culture of mosses with particular consideration of the arachidonic acid metabolism)」、マインツ大学(University of Mainz)博士論文、1991年、H.ルドルフ(Rudolph)およびS.ラスムッセン(Rasmussen)、「バイオリアクター内で培養されたミズゴケの二次代謝の研究(Studies on secondary metabolism of Sphagnum cultivated in bioreactors)」、Crypt.Bot.、3、67〜73頁、1992年を参照されたい)。本発明の目的で特に好ましいのは、分子生物学技術がこの生物上で実行されていることから、ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)の使用である(レビューについてはR.レスキ(Reski)、「コケの生育、遺伝、および分子生物学(Development,genetics and molecular biology of mosses)」、Bot.Acta、111、1〜15頁、1998年、を参照されたい)。コケ植物の培養のためには、微量元素のような栄養補給剤を伴う(バウア(Baur)ら、Plant Biotechnol J 3、331〜340頁、2005年)または伴わない(ワイゼ(Weise)ら、Appl.Microbiol.Biotechnol.70、337〜345頁、2006年)培地が使用できる。
【0029】
異種タンパク質生成のために、ニセツリガネゴケ(Physcomitrella)の生物工学的活用に適した形質転換系が開発されている。例えば粒子銃を使用して、原糸体組織内への直接DNA転移によって形質転換が成功裏に実施されている。コケプロトプラスト内へのPEG媒介DNA転移もまた、成功裏に達成されている。ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)については、PEG媒介形質転換方法に関して何度も記載されており、一過性および安定した形質転換体の双方をもたらす(例えばK.ロイター(Reutter)およびR.レスキ(Reski)、「完全分化コケ植物のバイオリアクター培養中の異種のタンパク質生成(Production of a heterologous protein in bioreactor cultures of fully differentiated moss plants」P1.Tissue culture and Biotech.、2、142〜147頁、1996年を参照されたい)。さらにコケ植物によるPEG媒介形質転換法でマーカーフリー形質転換も達成でき(シュテマー(Stemmer)C.、コッホ(Koch)A.、およびゴール(Gorr)G.、「ヒメツリガネゴケのマーカーフリー形質転換(Marker−free transformation of Physcomitrella patens」、Moss 2004年、第7回年次コケ国際会議(The 7th Annual Moss International Conference)、フライブルク(Freigurg)、ドイツ)、引き続く複数ヌクレオチド配列導入のために使用できる。
【0030】
本発明のさらに別の態様では、
i)コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸配列を含んでなる少なくとも1つの単離された核酸配列を前記コケ植物細胞中に導入するステップであって、前記少なくとも1つの単離された核酸配列が、コケ植物細胞中で発現しかつ哺乳類UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ、哺乳類CMP−シアル酸輸送体、ガラクトシル転移酵素、および哺乳類シアリル転移酵素から選択される機能性タンパク質、好ましくはヒトタンパク質をコードするステップと、
ii)前記細胞中に、コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸配列を含んでなる、単離された核酸配列をさらに導入するステップであって、前記核酸が少なくとも1つのグリコシル化哺乳類ポリペプチドをコードするステップと
を含んでなる、コケ植物細胞中で少なくとも1つの外来性グリコシル化哺乳類タンパク質を生成する方法が提供される。
【0031】
ステップii)があらかじめ達成されている場合、方法は、
i)前記コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸配列を含んでなる、形質転換コケ植物細胞を使用するステップであって、前記核酸が少なくとも1つのグリコシル化哺乳類ポリペプチドをコードするステップと、
ii)前記コケ植物細胞中に、コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸配列を含んでなる少なくとも1つの単離された核酸配列を導入するステップであって、前記少なくとも1つの単離された核酸配列が、コケ植物細胞中で発現されかつ哺乳類UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ、哺乳類CMP−シアル酸輸送体、ガラクトシル転移酵素、および哺乳類シアリル転移酵素から選択される機能性タンパク質をコードするステップと
を含んでなる。
【0032】
コケ植物細胞を形質転換する方法は、形質転換コケ植物細胞に対して少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つの上述の核酸配列で前記細胞を形質転換するステップを含んでなってもよく、このような配列は機能性タンパク質をコードでき、前記核酸配列はそれぞれ外来性プロモーターと操作可能に結合する。典型的にこのようなヌクレオチド配列は哺乳類配列であり、好ましくはヒト核酸配列から選択される。
【0033】
本発明の方法は、典型的に機能性ガラクトシル転移酵素、例えば好ましくはヒトβ−1,4ガラクトシル転移酵素ヌクレオチド配列などの哺乳類β−1,4ガラクトシル転移酵素を本発明の形質転換コケ植物細胞に導入するステップを含んでなる。
【0034】
本発明の方法は、典型的に、本発明の形質転換コケ植物細胞で使用されるシアリル転移酵素もまた用いて、それは典型的に哺乳類α−2,6またはα−2,3シアリル転移酵素ヌクレオチド配列から選択され、好ましくはヒトα−2,6シアリル転移酵素ヌクレオチド配列であるポリヌクレオチドによってコードされる。
【0035】
本発明の形質転換コケ植物細胞は、典型的に、その中でフコシル転移酵素および/またはキシロシル転移酵素活性が顕著に低下されまたは除去された細胞である。
【0036】
本発明の好ましい実施態様では、
i)コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸を含んでなる第1の単離された核酸配列を形質転換コケ植物細胞中に導入するステップであって、前記核酸が少なくとも1つのUDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼをコードするステップと、
ii)コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸を含んでなる単離された核酸配列を前記細胞中にさらに導入するステップであって、前記核酸が少なくとも1つのN−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)をコードするステップと、
iii)コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸を含んでなる単離された核酸配列を前記細胞中にさらに導入するステップであって、前記核酸が少なくとも1つのCMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼをコードするステップと、
iv)コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸を含んでなる単離された核酸配列を前記細胞中にさらに導入するステップであって、前記核酸が少なくとも1つの哺乳類CMP−シアル酸輸送体ポリペプチドをコードするステップと、
v)コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸を含んでなる単離された核酸配列を前記細胞中にさらに導入するステップであって、前記核酸が少なくとも1つのガラクトシル転移酵素ポリペプチドをコードするステップと、
vi)コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸を含んでなる単離された核酸配列を前記細胞中にさらに導入するステップであって、前記核酸が少なくとも1つの哺乳類シアリル転移酵素ポリペプチドをコードするステップと、
vii)コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸を含んでなる単離された核酸配列を前記細胞中にさらに導入するステップであって、前記核酸が少なくとも1つのグリコシル化哺乳類ポリペプチドをコードするステップと
を含んでなる、形質転換コケ植物細胞中で少なくとも1つの異種のまたは外来性グリコシル化哺乳類タンパク質を生成する方法が提供される。
【0037】
本明細書に示唆されるとおり、少なくとも1つのガラクトシル転移酵素ポリペプチドは、好ましくは哺乳類β−1,4ガラクトシル転移酵素(β−1,4 galT)であり、最も好ましくはヒトβ−1,4ガラクトシル転移酵素ポリペプチドであり、少なくとも1つの哺乳類シアリル転移酵素ポリペプチドは好ましくはα−2,3またはα−2,6シアリル転移酵素であり、最も好ましくはヒトα−2,6シアリル転移酵素ポリペプチドである。
【0038】
さらに好ましくは上の方法は、以下のステップをさらに含んでなる。
viii)内在性フコシル転移酵素ヌクレオチド配列を機能不全にするヌクレオチド配列、
ix)内在性キシロシル転移酵素ヌクレオチド配列を機能不全にするヌクレオチド配列。
【0039】
あるいは上記の方法は、その中でフコシル転移酵素および/またはキシロシル転移酵素活性が顕著に低下され、または除去されたコケ植物細胞を利用する。
【0040】
好ましくは上述の全てのグリコシル化哺乳類タンパク質は、ヒト型である。本発明で生成が企図されるその他のタンパク質としては、獣医医療で使用するためのタンパク質が挙げられ、本明細書に記載されるヒトタンパク質の動物相同体に相当してもよい。
【0041】
外来性プロモーターは、プロモーターを表示するものであり、すなわち対象となる核酸配列の前方に導入されて、それと操作可能に結合する。したがって外来性プロモーターは、本明細書に定義されるとおり選択された核酸構成要素の前方に配置されたものであり、野生型の環境に見られるように、通常対象となる核酸構成要素と結びつく自然または天然プロモーターからは構成されない。したがってプロモーターは対象となるコケ植物細胞由来であってもよいが、野生型コケ植物細胞中において、前方で対象となる核酸と操作可能に結合してはならない。典型的に外来性プロモーターは、宿主細胞以外の供給源から宿主コケ植物細胞に転移されるものである。
【0042】
本明細書に記載されるとおりの(哺乳類)酵素およびグリコシル化哺乳類タンパク質をコードするcDNAは、例えばここで定義されるように、そして本発明によって提供されるように、(哺乳類)酵素に操作可能に結合して、グリコシル化哺乳類タンパク質のための核酸配列および/または第2の核酸配列をコードする誘導性または構成的プロモーターなど、コケ植物細胞中で作動可能な少なくとも1つのタイプのプロモーターを含有する。考察するように、これによって遺伝子発現の制御が可能になる。
【0043】
プロモーターに適用される「誘導性」という用語は、当業者によって良く理解されている。本質的に、誘導性プロモーターの制御下にある発現は(細胞内で発生しても、または外来性に提供されてもよい)加えられた刺激に答えて、「スイッチが入り」または増大する。刺激の性質は、プロモーターの間で変動する。いくつかの誘導性プロモーターは、適切な刺激の不在下では、わずかなまたは検出不可能なレベルの発現(または発現なし)しか引き起こさない。その他の誘導性プロモーターは、刺激の不在下で検出可能な構成的発現を引き起こす。刺激不在下での発現レベルにかかわらず、あらゆる誘導性プロモーターからの発現は妥当な刺激の存在下で増大する。好ましい状況では、表現型の特徴を変更するのに効果的な量で適切な刺激が加わると、発現レベルが増大する。したがって刺激不在下において所望の表現型をもたらすには低すぎる(事実上ゼロでもよい)基礎水準の発現を引き起こす、誘導性(または「スイッチ可能」)プロモーターを使用してもよい。刺激を加えると、発現は所望の表現型をもたらすレベルに増大する(またはスイッチが入る)。
【0044】
本明細書に示唆されるとおり、コケ植物発現系は、当業者にも知られている。コケ植物プロモーター、特にヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)プロモーターは、宿主DNA依存RNAポリメラーゼに結合して、コード配列(例えば構造的遺伝子)のmRNAへの下流(3’)転写を開始できるあらゆるDNA配列である。プロモーターは通常、コード配列の5’末端近位に位置する転写開始領域を有する。この転写開始領域は、通常RNAポリメラーゼ結合部位(「TATAボックス」)および転写開始部位を含む。コケ植物プロモーターはまた、上流活性化因子配列(UAS)と称される第2の領域を有してもよく、それは存在する場合、通常、構造的遺伝子より遠位である。UASは制御される(誘導性)発現を可能にする。構成的発現はUASの不在下で起きる。制御される発現は正または負のどちらであってもよく、それによって転写は増強または低減される。
【0045】
当業者は、コケ植物代謝経路中で酵素をコードするコケ植物プロモーター配列が、特に有用なプロモーター配列を提供できることを理解するであろう。
【0046】
さらに天然において生じない合成プロモーターもまた、コケ植物プロモーターとして機能してもよい。例えば1つのコケ植物プロモーターのUAS配列を別のコケ植物プロモーターの転写活性化領域と連結して、合成雑種プロモーターを作り出してもよい。適切なプロモーターの例は、ザイドラー(Zeidler)ら、Plant Mol. Biol.30、199〜205頁、1996年によってヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)のTOP 10発現系で使用されたものである。さらにコケ植物プロモーターは、コケ植物DNA依存RNAポリメラーゼに結合して転写を開始する能力を有する、非コケ植物起源の天然プロモーター含むことができる。このようなプロモーターの例としては、記載されているもの、とりわけ、コメP−アクチン1プロモーターおよびクラミドモナス(Chlamydomonas)RbcSプロモーター(ザイドラー(Zeidler)ら、J.Plant Physiol.154、641〜650頁、1999年、コーエン(Cohen)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77:1078頁、1980年、ヘニコフ(Henikoff)ら、Nature、283:835頁、1981年、ヘレンベルク(Hollenberg)ら、Curr.Topics Microbiol.Immunol.、96:119頁、1981年、K.N.ティムズ(Timms)およびA.ピューラー(Puhler)編、「医学的、環境的、および商業的に重要なプラスミド(Plasmids of Medical,Environmental and Commercial Importance)」より、ヘレンベルク(Hollenberg)ら、「酵母サッカロミセス・セレヴィシエにおける細菌抗生物質抵抗性遺伝子の発現(The Expression of Bacterial Antibiotic Resistance Genes in the Yeast Saccharomyces cerevisiae)」1979年、メルスロー−ピュイガロン(Mercerau−Puigalon)ら、Gene、11:163頁、1980年、パンティエ(Panthier)ら、Curr.Genet.、2:109頁、1980年)が挙げられる。
【0047】
DNA分子は、コケ植物において細胞内で発現されてもよい。プロモーター配列は、DNA分子と直接結合していてもよく、その場合、組み換えタンパク質のN末端の第1のアミノ酸は常にメチオニンであり、それはmRNA上のAUG開始コドンによってコードされる。所望ならば、N末端のメチオニンは、臭化シアンとのインキュベーションによって、生体外(in vitro)でタンパク質から切断されてもよい。
【0048】
あるいは外来性タンパク質はまた、コケ植物細胞中または外への外来性タンパク質分泌を提供するリーダー配列断片を含んでなる融合タンパク質をコードするキメラDNA分子を作り出すことで、コケ植物細胞から増殖培地内に分泌されてもよい。好ましくはリーダー断片と外来性遺伝子との間にコードされ、生体内(in vivo)または生体外(in vitro)のいずれかで切断されることができる処理部位がある。リーダー配列断片は、通常、細胞からのタンパク質分泌を指示する、疎水性アミノ酸を含んでなるシグナルペプチドをコードする。
【0049】
適切なシグナル配列をコードするDNAは、分泌経路を標的とするコケ植物タンパク質の遺伝子から得ることができ、それもまたコケ植物細胞中への分泌を提供するかもしれない、VEGFリーダーなどの非コケ植物起源リーダーなどが存在する。
【0050】
コケ植物細胞によって認識され、その中で機能性である転写終止配列は、翻訳ストップコドンに対して3’に位置する調節領域であり、したがってプロモーターと共にコード配列に隣接する。これらの配列は、DNAによってコードされるポリペプチドに翻訳できるmRNAの転写を指示する。ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)中で機能する適切な終止配列の例は、カリフラワーモザイクウイルスの終止領域である。
【0051】
典型的にプロモーター、(所望ならば)リーダー、対象となるコード配列、および転写終止配列を含んでなる構成要素は、本発明の発現コンストラクト内でひとまとめにされる。発現コンストラクトは、細菌などの宿主中での安定維持ができる染色体外要素である、DNAプラスミド中で維持されることが多い。DNAプラスミドは2つの複製起点を有してもよく、それによって例えば発現のためのコケ植物中で、およびクローニングおよび増幅のための原核生物宿主で、維持できるようになる。一般的に、プラスミドが原核生物宿主細胞中でクローニングおよび増幅のための1つの複製起点を有すれば十分である。さらにDNAプラスミドは、高コピー数または低コピー数のどちらのプラスミドであってもよい。高コピー数のプラスミドは、一般に約5〜約200個、および通常約10〜約150個の範囲のコピー数を有する。高コピー数プラスミドを含有する宿主は、好ましくは少なくとも約10個、およびより好ましくは少なくとも約20個を有する。宿主に対するベクターおよび外来性タンパク質の効果次第で、高コピー数または低コピー数のどちらのベクターを選択してもよい(例えば前出のブレーク(Brake)らを参照されたい)。
【0052】
あるいは発現コンストラクトは、組み込み型ベクターと共にコケ植物ゲノム中に組み込むことができる。組み込み型ベクターは、通常、コケ植物染色体に相同的な少なくとも1つの配列を含有し、ベクターが発現コンストラクトに隣接する2つの相同的な配列を組み込むことができ、好ましくは含有できるようにする。組み込み型ベクターは、本明細書に記載されるとともに例示されるとおり、ベクター中への包含に適した相同的配列を分泌することで、コケ中の特定遺伝子座に特異的であってもよい。1つ以上の発現コンストラクトを組み込んでもよい。ベクター中に含まれる染色体配列は、ベクター全体の組み込みをもたらすベクター中の単一セグメント、または発現コンストラクトのみの安定した組み込みをもたらすことができる、染色体中の隣接するセグメントに相同的でベクター中の発現コンストラクトと隣接する2つのセグメントとして生じることができる。
【0053】
通常、染色体外および組み込み発現コンストラクトは選択マーカーを含有して、形質転換されたコケ植物細胞の選択を可能にしてもよい。さらにマーカーフリー形質転換法も使用できる。
【0054】
選択マーカーは、コケ植物細胞でG418およびハイグロマイシンBのそれぞれに対する耐性を与える、G418またはハイグロマイシンB耐性遺伝子などのコケ宿主中で発現できる生合成遺伝子を含んでもよい。さらに適切な選択マーカーは、コケ植物細胞に、金属などの有毒化合物存在下で生育する能力も提供する。
【0055】
あるいは、上述のいくつかの構成要素は、形質転換ベクター中でまとめることができる。形質転換ベクターは、上述のように、通常、DNAプラスミド内で維持されるか、または組み込み型ベクターに発達させるかのどちらかの選択マーカーを含んでなる。
【0056】
外来性DNAをコケ植物細胞中に導入する方法は技術分野でよく知られており、とりわけ次に記載される。シェーファー(Schaefer)D.G.、「ヒメツリガネゴケのための原理およびプロトコル(Principles and protocols for the moss Physcomitrella patens)」、ローザンヌ大学(University of Lausanne)環境学研究所(Institute of Ecology)植物細胞遺伝学研究室(Laboratory of Plant Cell Genetics)、Didier.Schaefer@ie−pc.unil.ch、2001年5月、ロイター(Reutter)K.およびレスキ(Reski)R.、Plant Tissue Culture and Biotechnology、第2巻、第3号、1996年9月、ザイドラー(Zeidler)ら、Plant Mol. Biol.30、199〜205頁、1996年。
【0057】
当業者は上述のように、容易に組み換え核酸配列または遺伝子発現のためのベクターを構築し、プロトコルをデザインできる。プロモーター配列、ターミネーター断片、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子、および必要に応じたその他の配列をはじめとする適切な制御配列を含有する適切なベクターを、選択または構築できる。さらに詳しくは、例えば、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:a Laboratory Manual)」第2版、サムブルック(Sambrook)ら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、l989年を参照されたい。例えば核酸コンストラクト調製、変異誘発、配列決定、細胞中へのDNA導入および遺伝子発現、およびタンパク質分析における核酸操作のための多くの既知の技術およびプロトコルについては、オースベル(Ausubel)ら編、「分子生物学における現行のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」第2版、John Wiley & Sons、1992年で詳細に記載される。サムブルック(Sambrook)らおよびオースベル(Ausubel)らの開示は、参照によって本明細書に援用する。
【0058】
必然的に当業者は、シアル酸付加されるものを含む、グリコシル化される適切な(ヒト)酵素およびポリペプチドをコードする各核酸配列が、それ自体の外来性プロモーターおよびターミネーターの調節管理下にあることを理解するであろう。2つ以上の標的タンパク質が単一キャリアRNAから生成されることになっている場合、それらが例えばコケ植物細胞培養系の収穫相中で、異なるタンパク質−特異性抗体(モノクローナルまたはポリクローナル)への結合によって、容易に分離できることが好ましい。
【0059】
上述のように、選択可能な遺伝的マーカーは遺伝子導入コケ植物細胞の選択を容易にするかもしれず、これらは本明細書に示唆されるとおりの選択可能な表現型を与えるキメラ遺伝子からなってもよい。
【0060】
グリコシル化および/またはシアル酸付加のための選択されるヒト酵素核酸配列およびポリペプチド配列をコケ植物細胞中に導入する場合、当業者によく知られている特定の配慮が必要である。挿入される核酸は、転写を駆動する効果的な調節因子を含有するコンストラクト内で構築しなくてはならない。細胞中へコンストラクトを輸送する方法が利用可能でなくてはならない。ひとたびコンストラクトが細胞膜内に入ると、内在性染色体への組み込みは生じるかもまたは生じないかもしれない。
【0061】
本発明はコケ植物細胞の形質転換に適した核酸ベクターを提供し、哺乳類UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチル−ノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ、哺乳類CMP−シアル酸輸送体、ガラクトシル転移酵素、および哺乳類シアリル転移酵素から選択される少なくとも1つの機能性ポリペプチドをコードする、少なくとも1つの単離されたポリヌクレオチド配列を含む。当業者は、本発明がまた、コケ植物細胞の形質転換に適した1セットの核酸ベクターも提供し、前記セットが上記で定義したように、それぞれが少なくとも1つの単離されたポリヌクレオチド配列を含んでなる、少なくとも2つのベクターを含んでなることを理解するであろう。同様に本発明は、上記で定義したように形質転換コケ植物細胞を生成する方法で使用するためのこの核酸ベクターセットを提供する。
【0062】
本発明は、上述のように、ベクターまたはコンストラクトで形質転換された宿主細胞、特にコケ植物、酵母、繊毛虫類または藻類細胞などの非動物真核生物細胞、または原核生物(微生物)細胞をさらに包含する。このようにして、本明細書に示唆されるような本発明のヌクレオチド配列を含むコケ植物細胞などの宿主細胞が提供される。細胞内でヌクレオチド配列は、染色体中に組み込まれてもよい。
【0063】
また本発明に従って、本明細書に記載されるとおり、発現調節のための制御配列の操作的な調節下で、本発明によって提供されるように、少なくとも1つのヌクレオチド配列、特に異種のヌクレオチド配列がそのゲノム中に組み込まれたコケ植物細胞が提供される。コード配列は、その発現のために核酸配列と自然には結合しないものなど、本発明で用いられる核酸配列に対して異種または外来性であってもよい、1つ以上の制御配列と操作可能に結合していてもよい。本発明に従ったヌクレオチド配列を外的誘導性プロモーターの制御下に置いて、発現を使用者の制御下に置いてもよい。本発明のさらに別の態様は、本発明で使用することが企図される核酸配列、または本発明で使用することが企図される配列を含む少なくとも1つの適切なベクターまたはベクターセットをコケ植物細胞中に導入するステップと、ベクターとコケ植物細胞ゲノムとの間の遺伝子組み換えを引き起こし、またはそれを可能にして、前記配列をゲノム中に導入するステップを含む、このようなコケ植物細胞、特にヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)細胞を作る方法を提供する。本発明は、GalTヌクレオチドおよび/または哺乳類グリコシル化パターンがそれに付加されることになっているポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列を含有して、祖先細胞へのヌクレオチド配列導入の結果として本発明における使用に適した、コケ植物細胞、特にヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)細胞にまで及ぶ。
【0064】
「異種の」という用語は、遺伝子操作を使用して、すなわちヒトの介入によって、論議されているヌクレオチドの遺伝子/配列がコケ植物細胞、またはその祖先中に導入されたことを示すために使用してもよい。遺伝子導入コケ植物細胞、すなわち論議されているヌクレオチド配列について遺伝子導入されたコケ植物細胞が提供されてもよい。導入遺伝子はゲノム外ベクター上にあっても、または好ましくは安定してゲノム中に組み込まれてもよい。異種遺伝子が、内在性同等遺伝子、すなわち常態では同一または同様の機能を果たすものを置換してもよく、または挿入配列は、内在性遺伝子またはその他の配列に追加的であってもよい。異種遺伝子導入の利点は、好みに従って発現に影響を与えるために、配列の発現を選択されたプロモーター制御下に置く能力である。コケ植物細胞に対して異種の、または外性または外来性のヌクレオチド配列は、そのタイプ、株または種の細胞中で非天然であってもよい。したがってヌクレオチド配列は、異なるタイプまたは種のコケ植物細胞の文脈内で、ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)細胞などの特定タイプのコケ植物細胞のコード配列を含んでもよく、またはそれに由来してもよい。さらに別の可能性は、発現調節のためにプロモーター配列などの1つ以上の制御配列と操作可能に結合するような、その中でそれまたは相同体が自然に見られるが、ヌクレオチド配列が、細胞中で、またはその細胞タイプまたは種または株中で自然に生じない核酸に結合し、および/またはそれに隣接する、コケ植物細胞中に配置されるヌクレオチド配列に関する。コケ植物またはその他の宿主細胞中の配列は、同定可能に異種性、外性または外来性であってもよい。
【0065】
本発明は、本明細書に開示されるような本発明に従った、または本明細書の情報および提案に従って得られる、核酸分子組み合わせの所望のポリペプチド発現産物もまた包含する。例えば大腸菌(E.coli)などの適切な宿主細胞中で、適切な条件下においてそれをコードするヌクレオチド配列からの発現によって、このような発現産物を作る方法もまた提供される。当業者は、容易にベクターを構築して、発現および組み換え遺伝子発現生成物回収のためのプロトコルおよびシステムをデザインできる。
【0066】
本発明はまた、遺伝子導入非動物細胞の生成における、哺乳類UDP−N−アセチル−グルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ、哺乳類CMP−シアル酸輸送体、ガラクトシル転移酵素、および哺乳類シアリル−転移酵素から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする、少なくとも1つのポリヌクレオチド配列の使用も企図し、前記遺伝子導入非動物細胞は好ましくはコケ植物、酵母、繊毛虫類または藻類細胞である。
【0067】
さらに好ましくは、本発明の宿主細胞は、コケ植物、またはコケ植物の部分、またはコケ植物抽出物または誘導体またはコケ植物細胞培養に含まれる。
【0068】
さらに上記で定義されるようなコケ植物細胞を含んでなる、コケ植物体またはコケ植物組織が提供される。
【0069】
本発明はまた、上記で定義されるような少なくとも1つの核酸ベクターまたは1セットの核酸ベクターをコケ植物細胞中に組み込むステップと、コケ植物を前記細胞から再生させるステップを含む、形質転換コケ植物体を生成する方法も提供する。
【0070】
さらに本発明は、
i)非哺乳類真核細胞、組織または生物を哺乳類UDP−N−アセチル−グルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼから選択される少なくとも1つのポリペプチドをコードする、少なくとも1つのポリヌクレオチド配列で形質転換するステップ、
ii)請求項23〜25のいずれか一項で定義されるとおりの少なくとも1つのベクターまたは1セットのベクターを前記非哺乳類真核細胞、組織または生物中に導入するステップ、または
iii)哺乳類UDP−N−アセチル−グルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチル−マンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼから選択される少なくとも1つのポリペプチドをコードする、少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含んでなる、あらかじめ形質転換された非哺乳類真核細胞、組織または生物を使用するステップ、および、任意にi)、ii)および/またはiii)で処理または定義された細胞、組織または生物からのシアル酸またはCMP−シアル酸を回収、精製または単離するステップ
を含んでなる、形質転換された非哺乳類真核細胞、組織または生物中にシアル酸またはCMP−シアル酸生成する方法を提供する。
【0071】
好ましくは、前記非哺乳類細胞、組織または生物は、酵母、繊毛虫類または藻類細胞、組織または生物である。
【0072】
本発明に従って生成されるポリペプチドは、本明細書に記載されるとおりの(a)ポリペプチドのアレル、変異型、断片、誘導体、突然変異体または相同体であってもよい。アレル、変異型、断片、誘導体、突然変異体または相同体は、上記に示唆されるポリペプチドと実質的に同一機能を有してもよく、本明細書に示されるとおりの、またはその機能性突然変異体であってもよい。本明細書に記載されるとおりのヒトで使用するための医薬品タンパク質の文脈で、当業者はこのようなタンパク質の一次配列およびそれらのグリコシル化パターンが、ヒトで見られるものを模倣するまたは好ましくはそれと同一であることを理解するであろう。
【0073】
本発明のアミノ酸配列に関連する「相同性」は、同一性または類似性、好ましくは同一性を指すために使用されてもよい。上記に既述したように、高レベルのアミノ酸同一性は、例えば本明細書で同定されるあらゆるドメインなど、機能的に有意なドメインまたは領域に限定されてもよい。
【0074】
特に本明細書において提供される特定のコケ植物由来ポリペプチド配列の相同体が、このような相同体の突然変異体、変異型、断片、および誘導体として本発明によって提供される。このような相同体は、本明細書においてなされる開示の使用によって容易に得られる。必然的に当業者は、遺伝暗号の縮重のために、対象となる哺乳類タンパク質、特に対象となるヒトタンパク質の正確なコピー(すなわち100%同一)であるアミノ酸配列を生じる相同体以外のグリコシル化タンパク質配列相同体それ自体が、本発明に包含されることを理解するであろう。したがって本発明は、本明細書に定義され、本明細書に提供される配列情報を使用して得られる、ヒト酵素機能があるアミノ酸配列を含むポリペプチドにまで及ぶ。相同体は、このようなタンパク質が本発明の文脈に適する活性を有するという条件で、本明細書に記載されるとおり、先行技術に記載されている、すなわち実施例の項で提供されるデータベースアクセッション番号の下のアミノ酸配列と、アミノ酸レベルで、好ましくは少なくとも約50%、または少なくとも55%、または少なくとも約60%、または少なくとも約65%、または少なくとも約70%、または少なくとも約75%、または少なくとも約80%相同性、または少なくとも約85%、または少なくとも約88%相同性、または少なくとも約90%相同性、最も好ましくは少なくとも約95%以上の相同性、すなわち同一性を有してもよい。
【0075】
特定の実施態様では、特異的配列のアレル、変異型、誘導体、突然変異誘導体、突然変異体または相同体は、特異的配列と、例えば約20%、または約25%、または約30%、または約35%、または約40%または約45%のわずかな全体的相同性を示してもよい。しかし機能的に有意なドメインまたは領域では、アミノ酸相同性はより高くあってもよい。推定上の機能的に有意なドメインまたは領域は、相同体の配列比較をはじめとするバイオインフォマティクス法を使用して同定できる。
【0076】
異なるポリペプチドの機能的に有意なドメインまたは領域は、コードする核酸からの融合タンパク質としての発現のために組み合わせてもよい。例えば、適切ならば酵素活性を持つ得られた発現産物が様々な親タンパク質の断片を含むように、異なる相同体の特に有利なまたは望ましい特性をハイブリッドタンパク質中で組み合わせてもよい。
【0077】
アミノ酸配列の類似性は、当該技術分野で標準的に使用されるアルシュール(Altschul)ら、J.Mol.Biol.215:403〜10頁、1990年のTBLASTNプログラムによって定義され判定されるとおりのものであってもよい。特にマトリックスBLOSUM62およびGAPペナルティ:存在:11、延長:1と共に、TBLASTN2.0を使用してもよい。使用してもよい別の標準プログラムはベストフィット(BestFit)であり、これは米国53711ウィスコンシン州マジソン市サイエンス・ドライブのジェネティックス・コンピューター・グループ(Genetics Computer Group(575Science Drive,Madison,Wisconsin,USA 53711))からのウィスコンシンパッケージ(Wisconsin Package)、バージョン8、1994年9月、の一部である。ベストフィット(BestFit)は、2つの配列間の類似性の最良セグメントの最適アラインメントをする。最適アラインメントは、スミス(Smith)およびウォーターマン(Waterman)、Adv.Appl.Math.2:482〜489頁、1981年の局所的相同性アルゴリズムを使用して、ギャップを挿入してマッチ数を最大化して見いだされる。その他のアルゴリズムとしては、ニードルマン(Needleman)およびブンシュ(Wunsch)アルゴリズムを使用して、2つの完全な配列を整列させ、マッチ数を最大化してギャップ数を最小化するGAPが挙げられる。どんなアルゴリズムもそうであるように、一般にデフォルトパラメーターが使用され、GAPの場合はギャップ生成ペナルティ=12およびギャップ延長ペナルティ=4である。あるいは、ギャップ生成ペナルティ3およびギャップ延長ペナルティ0.1を使用してもよい。ピアースン(Pearson)およびリップマン(Lipman)、PNAS USA 85:2444〜2448頁、1988年の方法を使用するアルゴリズムFASTAは、さらに別の代案である。
【0078】
本明細書での「相同性」および「相同的」のどちらの用語の使用も、例えば2つのヌクレオチド配列が適切な条件下で再結合するのに十分に類似であることのみを要する「相同的組換え」などの標準的使用に沿って、比較された配列間のいかなる必然的な進化的関係も暗示しない。
【0079】
本明細書に援用する全ての参考文献の教示は、明細書の教示に組み込まれるものと理解される。
【実施例】
【0080】
方法および材料
植物材料
レスキ(Reski)ら、ヒメツリガネゴケのゲノム分析(Genome analysis of the moss Physcomitrella patens(Hedw.)B.S.G.)」、Mol Gen Genet 244、352〜359頁、1994年により特性決定されたヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens(Hedw.)B.S.G.)野生型株を使用した。これはH.L.K.ホワイトハウス(Whitehouse)によって英国ハンティンドンシア(Huntingdonshire)のグランスデン・ウッド(Gransden Wood)で収集され、エンゲル(Engel)(Am J Bot 55、438〜446頁、1968年)によって繁殖された16/14株の継代培養である。N−グリカンのコア構造上に2つの植物特異的糖残基を欠いている(コプリヴォラ(Koprivova)ら、Plant Biotechnol J 2、517〜523頁、2004年)および/またはヒト1,4ガラクトシル転移酵素を含有する(ヒューター(Huether)ら、Plant Biol 7、292〜299頁、2005年)糖鎖改変された遺伝子導入ニセツリガネゴケ(Physcomitrella)株もまた使用した。
【0081】
標準培養条件
レスキ(Reski)およびアベル(Abel)、Planta 165、354〜358頁、1985年の単純無機液体変性クノップ培地中(1000mg/L Ca(NO3)2×4H2O 250mg/L KCl、250mg/L KH2PO4、250mg/L MgSO4×7H2Oおよび12.5mg/L FeSO4×7H2O、pH5.8)中において、無菌条件下で植物を無菌状態で生育させた。培養条件は、例えばバウア(Baur)ら、Plant Biotechnol J 3、331〜340頁、2005年、またはワイゼ(Weise)ら、Appl.Microbiol.Biotechnol.70、337〜345頁、2006年に記載されるとおり変動できる。200mLの培養液を含有する500mLエルレンマイアーフラスコ内で植物を生育させ、フラスコを120rpmに設定した独国のB.ブラウン・バイオテック・インターナショナル(B.Braun Biotech International(Germany))からのサートマット(Certomat)R振盪機上で振盪した。生育箱内の条件は、25+/−3℃および16:8時間の明暗期であった。2本の蛍光灯(オスラム(Osram)L58W/25)によってフラスコを上から照明し、35マイクロモル−1m−2を提供した。培養は、独国シュタウフェン(Staufen,Germany)のIKAからのウルトラタラックス(Ultra−Turrax)ホモジナイザーを使用した分散と、100mLの新鮮なクノップ培地を含有する2本の新しい500mLエルレンマイアーフラスコへの接種によって週に1回継代培養した。
【0082】
プロトプラスト単離および形質転換
バウア(Baur)ら、J Biotechnol、119、332〜342頁、2005年で以前記載されたようにして、プロトプラスト単離を実施した。プロトプラストを計数するために、小さな容積の懸濁液をフックス−ローゼンタール(Fuchs−Rosenthal)チャンバーに移した。選択マーカー付き(ストレップ(Strepp)ら、Proc Natl Acad Sci USA 95、4368〜4373頁、1998年)またはマーカーフリー(シュテマー(Stemmer)C.、コッホ(Koch)A.、およびゴール(Gorr)G.、「ヒメツリガネゴケのマーカーフリー形質転換(Marker−free transformation of Physcomitrella patens」、Moss 2004年、第7回年次コケ国際会議(The 7th Annual Moss International Conference)を伴うプロトプラスト内へのPEG媒介直接DNA転移によって形質転換を実施した。PEG媒介DNA転移によって、適切なDNAコンストラクトを同時にプロトプラスト中に導入して、同時形質転換を実施した。
【0083】
PCRスクリーニング
適切なプライマーを使用して、PCRによって異種のDNAコンストラクトの導入を分析した(以下参照)。
【0084】
シアル酸(Neu5Ac)の分析
糖タンパク質の単離のために、2mMのジチオスレイトールおよび1μg/mLのロイペプチンを含有するpH7.5の15mL 25mMトリス/HCl緩衝液に組織を懸濁し、ウルトラタラックス(ultraturrax)で均質化した。スラリーにトリトンX−100(0.25%、w/v)を添加して、混合物を4℃で60分間撹拌した。懸濁液を遠心分離して、可溶性物質を0.45μmのフィルターに通過させた。抽出物をpH6.0の25mM酢酸アンモニウムに対して徹底的に透析した。得られた透析産物を等容積の4M酢酸と混合し、80℃に3時間保った。次にアミコン(Amicon)からの3kDaカットオフセントリプレップ(Centriprep)YM−3装置を使用して、サンプルを限外濾過した。濾液を真空内で濃縮した。
【0085】
50μLのアリコートをDMBで誘導体化した(アルトマン(Altmann)およびロモノソフ(Lomonossoff)、J.Gen.Virol.81、1111〜1114頁、2000年、ハラ(Hara)ら、Anal.Biochem.164、138〜145頁、1987年)。DMB標識ケト糖酸を逆相カラム(サーモハイパーシル(Thermo Hypersil)ODS、250×4mm、5μm)上で分離して、流速1.2mL/分でpH5.5の50mM酢酸アンモニウムで溶出した。分析物を20分間で7.6〜11.4%のアセトニトリルの軽度の勾配で溶出し、蛍光定量的に検出した(ハラ(Hara)ら、Anal.Biochem.164、138〜145頁、1987年)。
【0086】
ESI質量分光(ESI−MS)分析によって、DMB−Neu5Acを含有する単離された画分を分析した。MSMS様式のESI−MSによって活性化シアル酸(CMP−Neu5Ac)を分析した。
【0087】
実施例
1.1 ヒトUDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼのクローニング
ヒトUDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ(アクセッション番号:AF155663)をコードするcDNAを植物発現ベクターpRT101中にクローニングした(テップフェール(Toepfer)ら、Nucl Acids Res 15、5890頁、1987年)。得られたコンストラクト中で、UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼは35Sプロモーターおよび35Sターミネーターの制御下であり、共に発現コンストラクトと称された。形質転換手順のために、発現コンストラクトを切除した。35Sプロモーターおよび35Sターミネーター制御下のUDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼを含有する直線化断片をヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)株の形質転換のために使用した。
【0088】
平行するアプローチにおいて、ヒトUDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ(アクセッション番号:AF155663)をコードするcDNAをtub3プロモーター(アクセッション番号:AY724471)およびヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)(Pp)のα−1,3フコシル転移酵素遺伝子のターミネーターの制御下で、プラスミドpBS中にクローニングした。ヒトUDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼcDNAをpBS中へクローニングするのに先だって、ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)のα−1,3フコシル転移酵素遺伝子

(5’−CGGTGATCCCGTTTTCATATCAGTGTATTATCATCAGTGACTGCATATTGACACCCAATTCTGATGATTTTTTATTTTTTATTTTTTATTTTTTTTGGTATGGTTACATGCTTTTCAGAGGTTTCTATGCCGCTGAGTATTTTCCTGAATCGCGAGGTGTGACAGGTTATCTGCGCCGTCCACCCAATATTTTATGATGAGTCGATGATTCGTGAGACTAATCTAGCTTAACCTTTTTCTTACTGGCAAGTCAAAATTGAGTTTAAAATATTTCAGTATCCTGTTAGTAATTTCAGACACATGTATTCTATGTCTCATACTCTTTACGTGAAAGTTCAACTGACTTATATTTTGTCGTTTTTCTGTAGATCACTGTTTTAGCGCATACAAAGACAATTGTCTAAATATTTTTAAAGAAGGTGATATTTTATTATAAGATAGAAGTCAATATGTTTTTTTGTTATGCACATGACTTGAATAAAATAAATTTTTTTGTTAGATTTAAATACTTTTTGAATTATAGCTTTGTTGAAATTAAGGAATTTATATTCATAAGAAGCTACTCGAACAAATTTACAAAGAGAACATTTGATAAGTAAAAGTAATTAAAAGTTTTTTTTAATTTAAAAAGATTAATTTTTATTAATAAGAAGAACTTGGAAAGTTAGAAAAATATTTAACTTTAAAAATTAAGAAAACAAGGCAAAACTTTAATTTACAAATACTTAATGTAGATTAATTTTCTTATTATATATTAGCACAAATTATCATTATGTGATATTTTATGTTATTGT−3’)
(配列番号1)のターミネーターをプライマーMoB558

(5’−GTTCCGCGGTGATCCCGTTTTCATATCAGTGTATT−3’)
(配列番号2)およびプライマーMoB557

(5’−TTTGAGCTCTACGTAACAATAACAT−AAAATATCACA−3’)
(配列番号3)を使用して、PCRにより増幅した。増幅した断片をSacIIおよびSacIで切断し、これもまたSacIIおよびSacIで切断したpBS中にライゲートした。
【0089】
ヒトUDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ(アクセッション番号:AF155663)をコードするcDNAをPp tub3プロモーターおよび5’UTR(アクセッション番号:AY724471)とライゲートし、プライマーMOB1108

(5’−GATGGATCCATTGCCAATGTATTGATTGGC−3’)
(配列番号4)、MOB1124

(5’−GTTATTTCCATTCTTCTCCATCTTCGCTAAGGATGATCTAC−3’)
(配列番号5)、およびMOB1125

(5’−GTCTCTAGACTAGTAGATCCTGCGTGT−3’)
(配列番号6)を使用して、重複PCRによって増幅した。得られた断片をBamHIおよびXbaIで切断し、Pp α−1,3フコシル転移酵素遺伝子のターミネーターを含有するpBS中にライゲートしてBamHIおよびXbaIで切断した。ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)の形質転換のためには、Pp tub3プロモーター、ヒトUDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼのcDNA、およびPp α−1,3フコシル転移酵素遺伝子のターミネーターを含んでなる、KpnIおよびSnaBI切除発現コンストラクトを使用した。
【0090】
1.2 ヒトN−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼのクローニング
ヒトN−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(アクセッション番号:NM_018946)をコードするcDNAを植物発現ベクターpRT101中にクローニングした(テップフェール(Toepfer)ら、Nucl Acids Res 15、5890頁、1987年)。ヒトN−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼをコードするcDNAをプライマーMOB785

(5’−GGCCTGCAGATGCCGCTGGAGCTGGAGCTG−3’)
(配列番号7)およびプライマーMOB786

(5’−GCCGGATCCTTAAGACTTGATTTTTTTGCCATGA−3’)
(配列番号8)を使用して、PCRによって増幅した。増幅生成物をPstIおよびBamHIで切断し、pRT101中にクローニングした。得られたコンストラクト中で、N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼは、まとめて発現コンストラクトと称される35Sプロモーターおよび35Sターミネーターの制御下であった。形質転換手順のために、Sph Iで発現コンストラクトを切断した。35Sプロモーターおよび35Sターミネーター制御下のN−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼを含有する直線化断片をヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)株の形質転換のために使用した。
【0091】
1.3 ヒトCMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼのクローニング
ヒトCMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ(アクセッション番号:NM_018686)をコードするcDNAを植物発現ベクターpRT101中にクローニングした(テップフェール(Toepfer)ら、Nucl Acids Res 15、5890頁、1987年)。ヒトCMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼをコードするcDNAをプライマーMOB835

(5’−ATCGAATTCATGGACTCGGTGGAGAAGGG−3’)
(配列番号9)およびプライマーMOB836

(5’−TGAGGATCCCTATTTTTGGCATGAATTATTAACCT−3’)
(配列番号10)を使用して、PCRによって増幅した。増幅生成物をEcoRIおよびBamHIで切断し、pRT101中にクローニングした。得られたコンストラクト中で、CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼは、まとめて発現コンストラクトと称される35Sプロモーターおよび35Sターミネーターの制御下であった。形質転換手順のために、Sph Iで発現コンストラクトを切断した。35Sプロモーターおよび35Sターミネーター制御下のCMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼを含有する直線化断片をヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)株の形質転換のために使用した。
【0092】
1.4 ヒトCMP−シアル酸輸送体のクローニング
ヒトCMP−シアル酸輸送体(アクセッション番号:NM_006416)をコードするcDNAを植物発現ベクターpRT101中にクローニングした(テップフェール(Toepfer)ら、Nucl Acids Res 15、5890頁、1987年)。ヒトCMP−シアル酸輸送体をコードするcDNAをプライマーMOB638

(5’−GTCGAGCTCGGA−ACCATGGCTGCCCCGA−3’)
(配列番号11)およびプライマーMOB639

(5’−ATCGGATCCTCACACACCAATAACTCTC−3’)
(配列番号12)を使用して、PCRによって増幅した。得られた断片をSacIおよびBamHIで切断し、pRT101中にクローニングした。得られたコンストラクト中で、CMP−シアル酸輸送体は、まとめて発現コンストラクトと称される35Sプロモーターおよび35Sターミネーターの制御下であった。形質転換手順のために、Hind IIIで発現コンストラクトを切断した。35Sプロモーターおよび35Sターミネーター制御下のCMP−シアル酸輸送体を含有する直線化断片をヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)株の形質転換のために使用した。
【0093】
1.5 ヒトβ−1,4ガラクトシル転移酵素のクローニング
ヒューター(Huether)ら、Plant Biol 7、292〜299頁、2005年、に記載されるようにして、ヒトβ−1,4ガラクトシル転移酵素のクローニングを実施した。得られたコンストラクト中で、β−1,4ガラクトシル転移酵素は、まとめて発現コンストラクトと称される35Sプロモーターおよび35Sターミネーターの制御下であった。形質転換手順のために発現コンストラクトを切断した。35Sプロモーターおよび35Sターミネーター制御下のβ−1,4ガラクトシル転移酵素を含有する直線化断片をヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)株の形質転換のために使用した。
【0094】
1.6 ヒトα−2,6シアリル転移酵素のクローニング
ヒトα−2,6シアリル−転移酵素(アクセッション番号:NM_003032)をコードするcDNAを植物発現ベクターpRT101中にクローニングした(テップフェール(Toepfer)ら、Nucl Acids Res 15、5890頁、1987年)。ヒトα−2,6シアリル転移酵素をコードするcDNAをプライマーMOB636

(5’−GCTGAGCTCGA−ACACATCTTCATTATG−3’)
(配列番号13)およびプライマーMOB637

(5’−GATGGATCCTTAGCAGTGAATGGTCCG−3’)
(配列番号14)を使用して、PCRによって増幅した。増幅生成物をSacIおよびBamHIで切断して、pRT101中にクローニングした。得られたコンストラクト中で、α−2,6シアリル転移酵素は、まとめて発現コンストラクトと称される35Sプロモーターおよび35Sターミネーターの制御下であった。形質転換手順のために発現コンストラクトをHind IIIで切断した。35Sプロモーターおよび35Sターミネーター制御下のα−2,6シアリル転移酵素を含有する直線化断片をヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)株の形質転換のために使用した。
【0095】
1.7 形質転換のスクリーニングおよび分析
1.1〜1.6に記載されるコンストラクトの同時形質転換によるPEG媒介直接DNA転移によって、異なるニセツリガネゴケ(Physcomitrella)株の形質転換を実施した。
【0096】
次のようにそれぞれ各コンストラクトに適したプライマーを使用することで、ゲノムDNA上でPCRによって遺伝子導入株を同定した。1.1:Pp tub3プロモーターおよびPp α−1,3フコシル転移酵素ターミネーター制御下のヒトUDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼにはプライマーMOB1214

(5’−GCAGGCTGCCCTTCCTAT−3’)
(配列番号15)およびプライマーMOB1196

(5’−AGAGATATTCTCCTTCAC−3’)
(配列番号16);1.2:35Sプロモーターおよび35Sターミネーター制御下のヒトN−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼにはプライマーMOB1213

(5’−ATGCCGCTGGAGCTGGAG−3’)
(配列番号17)およびプライマーMOB1212

(5’−GTGTCTCCAGATCCAAC−3’)
(配列番号18);1.3:35Sプロモーターおよび35Sターミネーター制御下のヒトCMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼにはプライマーMOB835

(5’−ATCGAATTCATGGACTCGGTGGAGAAGGG−3’)
(配列番号9)およびプライマーMOB1153

(5’−TCGGTCACTTCACGAACT−3’)
(配列番号19);1.4:35Sプロモーターおよび35Sターミネーター制御下のヒトCMP−シアル酸輸送体にはプライマーMOB638

(5’−GTCGAGCTC−GGAACCATGGCTGCCCCGA−3’)
(配列番号11)およびMOB1151

(5’−CAGATCGGAGCCAAGTTCTG−3’)
(配列番号20);1.5:ヒューター(Huether)ら、Plant Biol 7、292〜299頁、2005年、に記載されるようなヒトβ−1,4ガラクトシル転移酵素;1.6:35Sプロモーターおよびターミネーター制御下のヒトα−2,6シアリル転移酵素にはプライマーMOB636

(5’−GCTGAGCTCGAACACATCTTCATTATG−3’)
(配列番号13)およびプライマーMOB1149

(5’−CGCTGACAGCACAACAGC−3’)
(配列番号21)。
【0097】
全てのコンストラクト(1.1〜1.6)について遺伝子導入性の株を糖タンパク質上のN−グリカンに結合するシアル酸、ならびに遊離シアル酸(NeuAc5)およびCMP−シアル酸(CMP−NeuAc5)について分析した。
【0098】
分析したコケ植物株は、全てのコンストラクト(1.1〜1.6)について遺伝子導入性であり、糖タンパク質のN−グリカンに由来する顕著なシアル酸含量を示した。
【0099】
(100nmol/gまでの)大量の遊離シアル酸が検出された。遺伝子導入コケ植物中のシアル酸は、標準と比べて同一のスペクトルを示したMSMS分析によって確認され、野生型ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)では検出されなかった。
【0100】
遺伝子導入コケ植物中で高収率の活性化シアル酸(CMP−Neu5Ac)が検出された。対照的に野生型ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)では、CMP−Neu5Acは検出できなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コケ植物細胞における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する、少なくとも1つのヌクレオチド配列を含んでなる形質転換コケ植物細胞であって、前記少なくとも1つのヌクレオチド配列が、前記コケ植物細胞中で発現されかつ哺乳類UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチル−マンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ、哺乳類CMP−シアル酸輸送体、ガラクトシル転移酵素、および哺乳類シアリル−転移酵素から選択される機能性タンパク質をコードする、形質転換コケ植物細胞。
【請求項2】
前記コケ植物細胞が、前記6つの機能性タンパク質の少なくとも2つをコードする少なくとも2つの核酸配列を含んでなり、前記核酸配列がそれぞれ外来性プロモーターと操作可能に結合する、請求項1に記載の形質転換コケ植物細胞。
【請求項3】
前記コケ植物細胞が、前記6つの機能性タンパク質の少なくとも3つをコードする少なくとも3つの核酸配列を含んでなり、前記核酸配列がそれぞれ外来性プロモーターと操作可能に結合する、請求項1または2に記載の形質転換コケ植物細胞。
【請求項4】
前記コケ植物細胞が、前記6つの機能性タンパク質の少なくとも4つをコードする少なくとも4つの核酸配列を含んでなり、前記核酸配列がそれぞれ外来性プロモーターと操作可能に結合する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の形質転換コケ植物細胞。
【請求項5】
前記コケ植物細胞が、前記6つの機能性タンパク質の少なくとも5つをコードする少なくとも5つの核酸配列を含んでなり、前記核酸配列がそれぞれ外来性プロモーターと操作可能に結合する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の形質転換コケ植物細胞。
【請求項6】
前記コケ植物細胞が、請求項1に記載の前記6つの核酸配列の6つ全てを含んでなり、それぞれが外来性プロモーターと操作可能に結合する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の形質転換コケ植物細胞。
【請求項7】
前記核酸配列が哺乳類、好ましくはヒトの核酸配列である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の形質転換コケ植物細胞。
【請求項8】
前記ガラクトシル転移酵素が、β−1,4ガラクトシル転移酵素、好ましくはヒトβ−1,4ガラクトシル転移酵素ヌクレオチド配列である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の形質転換コケ植物細胞。
【請求項9】
前記シアリル転移酵素が、α−2,6またはα−2,3シアリル転移酵素から選択され、好ましくはヒトα−2,6シアリル転移酵素ヌクレオチド配列である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の形質転換コケ植物細胞。
【請求項10】
フコシル転移酵素および/またはキシロシル転移酵素活性が顕著に低下され、または除去される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の形質転換コケ植物細胞。
【請求項11】
ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)細胞である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の形質転換コケ植物細胞。
【請求項12】
ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)の原糸体組織に含まれる、請求項11に記載の形質転換コケ植物細胞。
【請求項13】
i)コケ植物細胞中に、コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸配列を含んでなる少なくとも1つの単離された核酸配列を導入するステップであって、前記少なくとも1つの単離された核酸配列が、前記コケ植物細胞中で発現されかつ哺乳類UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノ−サミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイ−ラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ、哺乳類CMP−シアル酸輸送体、ガラクトシル転移酵素、および哺乳類シアリル転移酵素から選択される機能性タンパク質をコードするステップと、
ii)前記細胞中に、コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸配列を含んでなる単離された核酸配列をさらに導入するステップであって、前記核酸が少なくとも1つのグリコシル化哺乳類ポリペプチドをコードするステップと
を含んでなる、形質転換コケ植物細胞中で少なくとも1つの外来性グリコシル化哺乳類タンパク質を生成する方法。
【請求項14】
i)コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸配列を含んでなる形質転換コケ植物細胞を使用するステップであって、前記核酸が少なくとも1つのグリコシル化哺乳類ポリペプチドをコードするステップと、
ii)前記コケ植物細胞中に、コケ植物細胞中における発現を駆動する外来性プロモーターと操作可能に結合する核酸配列を含んでなる少なくとも1つの単離された核酸配列を導入するステップであって、前記少なくとも1つの単離された核酸配列は、コケ植物細胞中で発現されかつ哺乳類UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノ−サミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイ−ラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ、哺乳類CMP−シアル酸輸送体、ガラクトシル転移酵素、および哺乳類シアリル転移酵素から選択される機能性タンパク質をコードするステップと
を含んでなる、形質転換コケ植物細胞中で少なくとも1つの外来性グリコシル化哺乳類タンパク質を生成する方法。
【請求項15】
グリコシル化哺乳類ポリペプチドがヒトポリペプチドである、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリペプチドが、VEGFと、α−インターフェロン、β−インターフェロン、γ−インターフェロンなどのインターフェロンと、第VII、VIII、IX、X、XI、およびXII因子から選択される血液凝固因子と、黄体化ホルモン、濾胞刺激ホルモンをはじめとする生殖ホルモンと、表皮性成長因子、血小板由来成長因子をはじめとする成長因子と、顆粒球コロニー刺激因子と、プロラクチンと、オキシトシンと、甲状腺刺激ホルモンと、副腎皮質刺激ホルモンと、カルシトニンと、副甲状腺ホルモンと、ソマトスタチンと、エリスロポエチン(EPO)と、β−グルコセレブロシダーゼなどの酵素と、TNFα受容体リガンド結合領域とIgGのFc部分、受容体、表面タンパク質、膜貫通タンパク質、モノクローナル抗体との融合タンパク質などの融合タンパク質と、生理学的に活性なそれらの断片から選択されるポリペプチド群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
i)内在性コケ植物フコシル転移酵素ヌクレオチド配列を機能不全にするヌクレオチド配列、および/または
ii)内在性コケ植物キシロシル転移酵素ヌクレオチド配列機能不全にする第2のヌクレオチド配列
を導入するステップをさらに含んでなる、請求項13〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記コケ植物細胞が、その中でフコシル転移酵素および/またはキシロシル転移酵素活性が顕著に低下されまたは除去されたコケ植物細胞である、請求項13〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記外来性プロモーターが、誘導性、化学制御、構成的またはコケ植物細胞特異性プロモーターから選択される請求項13〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項13〜19のいずれか一項に記載の方法で使用するための機能性ガラクトシル転移酵素をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項21】
請求項13〜19のいずれか一項に記載の方法で使用するための組み換え哺乳類ガラクトシル転移酵素をコードする、請求項20に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項22】
請求項13〜19のいずれか一項に記載の方法で使用するための組み換えヒトβ−1,4ガラクトシル転移酵素をコードする、請求項21に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項23】
コケ植物細胞の形質転換に適し、哺乳類UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチル−ノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ、哺乳類CMP−シアル酸輸送体、ガラクトシル転移酵素、および哺乳類シアリル転移酵素から選択される少なくとも1つの機能性ポリペプチドをコードする、少なくとも1つの単離されたポリヌクレオチド配列を含む核酸ベクター。
【請求項24】
請求項23に記載の少なくとも1つの単離されたポリヌクレオチド配列をそれぞれが含む少なくとも2つのベクターを含んでなる、コケ植物細胞の形質転換に適した1セットの核酸ベクター。
【請求項25】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の形質転換コケ植物細胞を生成する方法で使用するための請求項24に記載の1セットの核酸ベクター。
【請求項26】
哺乳類UDP−N−アセチルグルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチル−マンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ、哺乳類CMP−シアル酸輸送体、ガラクトシル転移酵素、および哺乳類シアリル転移酵素から選択される機能性ポリペプチドをコードする、少なくとも1つの異種ポリヌクレオチド配列を含有する、または請求項23〜25のいずれか一項に記載の少なくとも1つの核酸ベクターまたは1セットの核酸ベクターを含有する、宿主細胞。
【請求項27】
コケ植物細胞である、請求項26に記載の宿主細胞。
【請求項28】
原核生物細胞である、請求項26に記載の宿主細胞。
【請求項29】
酵母、繊毛または藻類細胞である、請求項26に記載の宿主細胞。
【請求項30】
形質転換の手段によって、前記少なくとも1つのポリヌクレオチドまたは前記少なくとも1つの核酸ベクターまたは前記セットの核酸ベクターを細胞に組み込むステップを含む、請求項26〜29のいずれか一項に記載の宿主細胞を生成する方法。
【請求項31】
哺乳類UDP−N−アセチル−グルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼ、哺乳類CMP−シアル酸輸送体、ガラクトシル転移酵素、および哺乳類シアリル転移酵素から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする、少なくとも1つのポリヌクレオチド配列の、遺伝子導入非動物細胞の生成における使用。
【請求項32】
前記遺伝子導入非動物細胞がコケ植物細胞である、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記遺伝子導入非動物細胞が酵母、繊毛虫類または藻類細胞である、請求項31に記載の使用。
【請求項34】
コケ植物、またはコケ植物の一部、またはコケ植物抽出物または誘導体中に、またはコケ植物細胞培養物中に含まれる、請求項26または27に記載の宿主細胞。
【請求項35】
請求項27、32、または34のいずれか一項に記載のコケ植物細胞を含んでなる、コケ植物体またはコケ植物組織。
【請求項36】
請求項23〜25のいずれか一項に記載の少なくとも1つの核酸ベクターまたは1セットの核酸ベクターをコケ植物細胞中に組み込むステップと、前記細胞からコケ植物を再生するステップとを含む、形質転換コケ植物体を生成する方法。
【請求項37】
i)非哺乳類真核細胞、組織または生物を、哺乳類UDP−N−アセチル−グルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼから選択される少なくとも1つのポリペプチドをコードする、少なくとも1つのポリヌクレオチド配列で形質転換するステップ、
ii)請求項23〜25のいずれか一項に記載の少なくとも1つのベクターまたは1セットのベクターを前記非哺乳類真核細胞、組織または生物に導入するステップ、または
iii)哺乳類UDP−N−アセチル−グルコサミン−2−エピメラーゼ/N−アセチル−マンノサミン−6−キナーゼ、哺乳類N−アセチルノイラミン酸リン酸シンターゼ(シアル酸シンターゼ)、哺乳類CMP−N−アセチルノイラミン酸シンターゼから選択される少なくとも1つのポリペプチドをコードする、少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含んでなる、あらかじめ形質転換された非哺乳類真核細胞、組織または生物を使用するステップ、および、任意にi)、ii)および/またはiii)で処理されまたは定義される細胞、組織または生物からシアル酸またはCMP−シアル酸を回収、精製または単離するステップ
を含んでなる、形質転換された前記非哺乳類真核細胞、組織または生物中で、シアル酸またはCMP−シアル酸を生成する方法。
【請求項38】
前記非哺乳類細胞、組織または生物が、酵母、繊毛虫類または藻類細胞、組織または生物である、請求項37に記載の方法。


【公表番号】特表2009−501011(P2009−501011A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520793(P2008−520793)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【国際出願番号】PCT/EP2006/006831
【国際公開番号】WO2007/006570
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(508010259)グリーンオーベーション ビオテッヒ ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】