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タンパク質発現に基づくアミノ酸バイオアッセイ法
説明

タンパク質発現に基づくアミノ酸バイオアッセイ法

【課題】アミノ酸に関する栄養要求性を有する乳酸菌を用いて、短時間で高感度・高精度な測定が可能であり、また菌の増殖に影響を与える因子にも影響を受けにくいアミノ酸定量法を提供すること。
【解決手段】下記工程を含む検体中のアミノ酸の定量方法。上記乳酸菌に、発現量を定量可能なタンパク質遺伝子を発現調節可能な状態で導入して乳酸菌組換体を得る、工程(A)、所定濃度の測定対象アミノ酸を含有する培地において、前記タンパク質遺伝子の発現誘導条件下、前記乳酸菌組換体が生成するタンパク質の量と前記アミノ酸濃度との相関関係を求める工程(B)、測定対象アミノ酸を含有しない培地で、前記乳酸菌組換体を培養して、培養中または培養後の培養液に含まれるタンパク質の量を測定する工程(C)、及び前記工程(B)で求めた相関関係に基づいて、前記工程(C)で測定したタンパク質の量から検体中に含まれるアミノ酸量を求める工程(D)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出可能なタンパク質を発現調節可能な状態で含むアミノ酸要求性乳酸菌を用いて、検体中の含有アミノ酸量を定量する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸分析は食品の品質管理や様々な疾病検出のマーカーとして用いられ、その迅速・簡便な定量法の開発は工業的・医療的見地から強く望まれている。
【0003】
これまでに知られているアミノ酸定量法としては、HPLCを用いた機器分析法や、定量用酵素を用いた酵素法と共に、乳酸菌を用いたバイオアッセイ法が挙げられる(非特許文献1)。このバイオアッセイ法では、測定対象のアミノ酸種に対し要求性を示す乳酸菌が用いられる。この乳酸菌株を目的アミノ酸種制限培地および検体の混合液中で静止期まで培養させると、目的アミノ酸の検体中含有量に比例した菌体増殖量が得られる。上記バイオアッセイ法は、このような乳酸菌の増殖量に基づいてアミノ酸を定量する手法である。
【0004】
非特許文献2は、アミノ酸要求性大腸菌を用いたアミノ酸の定量方法について開示する。この方法では、アミノ酸要求性乳酸菌に替えて、アミノ酸要求性大腸菌を用い、かつ遺伝子導入したルシフェラーゼを発現させ、発現したルシフェラーゼの作用を利用してアミノ酸の定量を行う。
【0005】
非特許文献3は、Bifidobacteriumにルシフェラーゼ遺伝子を導入し、遺伝子したルシフェラーゼの発現により、Bifidobacteriumが生成するATPを定量したことを開示する。しかし、非特許文献3には、アミノ酸の定量には言及していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】アミノ酸・核酸集談会編『アミノ酸発酵』共立出版株式会社(1972)358-378頁
【非特許文献2】Kim, M. I. et al,, (2010), Anal Chem 82,4072-4077.
【非特許文献3】Guglielmetti, S. et al,, (2008), Int J Food Microbiol 124, 285-290
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記非特許文献1に記載の乳酸菌増殖に基づくバイオアッセイ法は、以下のような問題点を有する。
(a)静止期まで増殖させる必要があるため、測定には長時間(16時間以上)の培養を要する
(b)菌の増殖量を濁度によって測定するため、感度・精度が悪い
(C)菌の増殖量に基づく定量法のため、増殖に影響を与えるような夾雑物質の影響を大きく受ける
【0008】
上記非特許文献2に記載の方法では定量に4時間以上という長い培養時間を要し、大腸菌の生育量の指標としてルシフェラーゼの作用による発光を見ている。従って、この観点からは、非特許文献2に記載の方法は、非特許文献1に記載の乳酸菌でのバイオアッセイ法と同原理の測定法である。また、非特許文献2に記載の方法で用いられている大腸菌は1種類のアミノ酸に対してしか要求性を示さず、測定するアミノ酸の種類と同じ数の菌株を準備・使用する必要がある。さらに、この大腸菌は、ランダム変異株から取得したもので、それぞれの株がどのような変異を有しているか不明であり、どのような性状(特にアミノ酸要求性)を有しているかも分からず、所望のアミノ酸要求性を有する大腸菌の提供は容易ではない。
【0009】
上記非特許文献3に記載の方法で用いられているBifidobacteriumは「ビフィズス菌」であり、少なくとも狭義の「乳酸菌」には含まれない。さらに、非特許文献3において試験されたBifidobacterium longumについては、アミノ酸要求性を詳細に調べた文献は見あたらない。しかし、ゲノム解析が報告済みであり、それによれば、ゲノム中にほぼすべてのアミノ酸の生合成経路遺伝子が存在することから、各種アミノ酸の生合成能を有すると推測される(Schell, M. A. et al., (2002), Proc Natl Acad Sci USA 99, 14422-14427 参照)。従って、非特許文献3に記載の方法で作製された菌を用いて、菌のアミノ酸要求性を利用したアミノ酸の定量は原理的に不可能であると推察される。
【0010】
乳酸菌は、菌株によっては複数種のアミノ酸に対し要求性を示すものが多数あり、そのため一種類の菌株で多種類のアミノ酸定量が可能である。また、乳酸菌は、長年、性状解析やゲノム解析がなされており、性状は十分に把握されている。従って、このような乳酸菌を用い、上記(a)〜(c)に挙げたい問題点を解決できる方法の提供が待たれるところである。
【0011】
そこで本発明は、アミノ酸に関する栄養要求性を有する乳酸菌を用いて、短時間で高感度・高精度な測定が可能であり、また菌の増殖に影響を与える因子にも影響を受けにくいアミノ酸定量法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、アミノ酸要求性乳酸菌に検出可能なタンパク質の発現系を導入し、アミノ酸量を各種濃度に振った条件でタンパク質発現を行わせたところ、タンパク質発現量とアミノ酸濃度が高い相関を示すことを発見した。但し、アミノ酸濃度定量に用いる乳酸菌が、タンパク質発現の調節機構を有するものでない場合、定量に用いる前の乳酸菌の培養においても、タンパク質が発現し、その結果、この事前に発現したタンパク質は、アミノ酸定量の際のバックグランドとなり、高感度・高精度な測定の妨げになることが判明した。そこで本発明ではこのような新たな課題を解消するための手段も取り込んで、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、上記検出可能なタンパク質を発現調節可能な状態で導入したアミノ酸要求性乳酸菌を、事前の培養は発現抑制条件下で行い、検体と目的アミノ酸制限培地との混合の後の培養は発現誘導条件下で行うことでタンパク質を発現させ、発現タンパク質の量を定量することで、バックグランドを抑制して、高感度・高精度にアミノ酸定量が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明は、以下に示す通りである。
[1]
測定対象アミノ酸に対する栄養要求性を有する乳酸菌に、タンパク質遺伝子を発現調節可能な状態で導入して乳酸菌組換体を得る、但し、前記タンパク質は発現量を定量可能なタンパク質である、工程(A)、
所定濃度の測定対象アミノ酸を含有する培地において、前記タンパク質遺伝子の発現誘導条件下、前記乳酸菌組換体が生成するタンパク質の量と前記アミノ酸濃度との相関関係を求める工程(B)、
測定対象アミノ酸を含有しない培地に検体を混合し、得られた培地中で、前記タンパク質遺伝子の発現誘導条件下で、前記乳酸菌組換体を培養して、培養中または培養後の培養液に含まれるタンパク質の量を測定する工程(C)、及び
前記工程(B)で求めた相関関係に基づいて、前記工程(C)で測定したタンパク質の量から検体中に含まれるアミノ酸量を求める工程(D)
を含む検体中のアミノ酸の定量方法。
[2]
工程(A)で得られた前記乳酸菌組換体は、前記タンパク質遺伝子の発現抑制条件下で培養され、次いで必要により集菌され、培養または集菌された乳酸菌組換体が工程(B)及び工程(C)で用いられる[1]に記載の方法。
[3]
前記タンパク質遺伝子を発現調節配列の下流に含むベクターを前記乳酸菌に導入して前記組換体を得る[1]または[2]に記載の方法。
[4]
前記発現調節配列が、nisin誘導プロモータ、である[3]に記載の方法。
[5]
前記タンパク質が、発光タンパク質、蛍光タンパク質、結合性タンパク質及び酵素から成る群から選ばれる[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記タンパク質は発現量を光学的、免疫的、電気化学的または酵素的方法により定量可能である[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下のように非特許文献1に記載の乳酸菌増殖に基づくバイオアッセイ法より優れた特長を有する。
・30分程度の短時間でも測定可能である。(但し、測定時間を限定する意図ではない。)
・ルシフェラーゼなどの検出可能なタンパク質を発現調節可能な状態で導入して用いることで、高感度・高精度な測定が可能である。
・増殖に影響を与えるような夾雑物質存在下でも測定可能である。
【0016】
さらに本発明は、非特許文献2に記載のアミノ酸要求性大腸菌を用いたアミノ酸の定量方法に比べて、以下の利点を有する。
・宿主の使用にあたって、ランダム変異ライブラリーの作製や栄養要求性株のスクリーニングなどの煩瑣な作業が必要ない
・単一の菌株で複数種類のアミノ酸の定量が可能であり、菌の調製を簡便に行える
・発現させるタンパク質はルシフェラーゼに限られず、発光以外の様々な検出法が利用可能である
【0017】
尚、非特許文献2に記載の方法では、タンパク質発現に基づくアミノ酸の高感度・高精度な定量は困難と考えられる。その理由は、非特許文献2の遺伝子発現法では、試料との混合前に必要な発現抑制がかかりにくい系であり、バックグラウンドが高くなると予想される。発現誘導前の抑制が十分かからない場合には、乳酸菌の生育に基づくアミノ酸定量は可能であっても、タンパク質発現に基づく定量は困難であると予想されるからである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ルシフェラーゼ発現ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis) NZ9000株を各種濃度Leu存在下に置いたときの発光強度の経時的変化を示す。各曲線の右の数字はサンプル中Leu終濃度を示す。
【図2】ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株によるLeu検量線を示す。
【図3】ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株によるIle検量線を示す。
【図4】ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株によるVal検量線を示す。
【図5】ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株によるArg検量線を示す。
【図6】ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株によるGlu検量線を示す。
【図7】ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株によるHis検量線を示す。
【図8】ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NBRC 100933株によるPro検量線を示す。
【図9】β-ガラクトシダーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株を各種濃度Arg存在下に置いたときのβ-ガラクトシダーゼ活性比を示す。Arg濃度1600 nMサンプルの活性を100%とした。
【図10】0.75μg/mlカザミノ酸添加・非添加時のルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株によるArg検量線を示す。
【図11】各種抗生物質の添加・非添加条件下でのルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株の発光強度の経時的変化を示す。
【図12】ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株による、アンピシリン(ampicillin)添加時・非添加時のArg検量線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の検体中のアミノ酸の定量方法は、以下の工程(A)〜(D)を含む
工程(A):
測定対象アミノ酸に対する栄養要求性を有する乳酸菌に、タンパク質遺伝子を発現調節可能な状態で導入して乳酸菌組換体を得る。但し、前記タンパク質は発現量を定量可能なタンパク質である。
工程(B):
所定濃度の測定対象アミノ酸を含有する培地において、前記タンパク質遺伝子の発現誘導条件下、前記乳酸菌組換体が生成するタンパク質の量と前記アミノ酸濃度との相関関係を求める。
工程(C):
測定対象アミノ酸を含有しない培地に検体を混合し、得られた培地中で、前記タンパク質遺伝子の発現誘導条件下で、前記乳酸菌組換体を培養して、培養中または培養後の培養液に含まれるタンパク質の量を測定する。
工程(D):
前記工程(B)で求めた相関関係に基づいて、前記工程(C)で測定したタンパク質の量から検体中に含まれるアミノ酸量を求める。
【0020】
工程(A)
本発明において、「測定対象アミノ酸に対する栄養要求性を有する乳酸菌」における「測定対象アミノ酸」とは、例えば、タンパク質構成アミノ酸であることができ、タンパク質構成アミノ酸とは、L-アラニン、L-プロリン、L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-リジン、L-ヒスチジン、L-アルギニン、L-グルタミン、L-セリン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-スレオニン、L-フェニルアラニン、L-メチオニン、L-グリシン、L-チロシン、L-アスパラギン、L-トリプトファン、L-システインを意味する。さらに、「測定対象アミノ酸に対する栄養要求性」とは、乳酸菌が、自ら体内で測定対象アミノ酸を合成できず、生育するためには培地から供給される必要がある性質を意味する。さらに、「測定対象アミノ酸に対する栄養要求性を有する乳酸菌」とは、「測定対象アミノ酸」を包含するアミノ酸に対して栄養要求性を有する乳酸菌を意味する。測定対象アミノ酸は、1種類であることも複数種類であることもできる。
【0021】
アミノ酸に対して栄養要求性を有する乳酸菌の例は、特に制限はされないが、以下の表に示すものを挙げることができる。表1には、乳酸菌の菌株名と栄養要求性を示すアミノ酸を記載する。さらに表2には、日本乳酸菌学会編・京都大学学術出版会・2010年『乳酸菌とビフィズス菌のサイエンス』より引用したアミノ酸に対して栄養要求性を有する乳酸菌の例を示す。尚、表2の脚注にある「乳酸菌の科学と技術」は、乳酸菌研究集談会編・学会出版センター・1996年刊である。
【0022】
【表1】

※:必須要求,+:促進,−:要求性なし
§:ビタミンB6系を培地から除いた場合
A:ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) ATCC 8014
B:ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) ATCC 7469
C:ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum) ATCC 9338
D:エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae) ATCC 8043
E:ペディオコッカス・アシディラクチシ(Pediococcus acidilactici) ATCC 8042
F:ペディオコッカス・アシディラクチシ(Pediococcus acidilactici) ATCC 8081
G:ラクトバチルス・レイヒマンニ(Lactobacillus leichmanni)
【0023】
尚、表1に記載された各乳酸菌のアミノ酸要求性において「※:必須要求」と標記されたアミノ酸については本発明の方法によりアミノ酸の定量が可能である。表1に記載された全ての乳酸菌は、少なくとも1つの「※:必須要求」と標記されたアミノ酸を有することから、いずれも本発明の方法によるアミノ酸の定量方法に使用できる。それに対して、「+:促進」と標記されたアミノ酸については、「+:促進」と標記されたアミノ酸の非存在時に、乳酸菌が示す挙動によって、本発明の方法によるアミノ酸の定量に使用できる場合とできない場合とがある。
(1)定量に使用可能な場合:
・生育するまで一定時間のラグが空いてから生育を始める場合
または
・生育は可能だが、生育速度はきわめて低い場合
(2)定量に使用不可能な場合(アミノ酸非存在時のバックグラウンドの発現が高くなる):
・存在時に近い生育速度を示し、また生育開始までのラグがない場合
各乳酸菌が各「促進」アミノ酸非添加時に上記挙動のどれを示すかは、予備実験をすることで簡単に明らかにできる。
【0024】
【表2】




【0025】
工程(A)においては、タンパク質遺伝子を発現調節可能な状態で導入して乳酸菌組換体を得る。前記タンパク質は乳酸菌組換体における発現量を定量可能なタンパク質である。そのようなタンパク質の例を以下の表に、発現量の定量方法とともに示す。但し、これらに限定される意図ではない。
【0026】
【表3】

【0027】
タンパク質の具体例と各タンパク質の遺伝子情報源を以下に示す。
【0028】
【表4】

【0029】
タンパク質発現量の定量方法は特に制限はなく、例えば、光学的、免疫的、電気化学的または酵素的方法や生育試験など、またはそれらの組合せを挙げることができる。尚、タンパク質は発現量の定量方法については、工程(B)で詳述する。
【0030】
本発明で用いる乳酸菌組換体は、宿主である乳酸菌に、タンパク質遺伝子を発現調節可能な状態で導入することで得られる。タンパク質遺伝子を発現調節可能な状態で導入するには、発現調節配列及びこの発現調節配列の下流にタンパク質遺伝子を含む発現用ベクターを用いることができる。発現用ベクターは、用いるアミノ酸要求性宿主中でタンパク質を発現可能なものであれば、如何なるものでもよい。目的タンパク質の発現効率が高いものであるほど、少ない乳酸菌組換体量の使用で測定が可能となる。発現系としては例えば、乳酸菌で知られるNICE system(MoBiTec社)などが例として挙げられる。発現調節配列及びこの発現調節配列の下流にタンパク質遺伝子を含む発現用ベクターの宿主である乳酸菌への導入は、常法により実施できる。
【0031】
発現調節配列としては、nisin誘導プロモータ配列(AAACGGCTCTGATTAAATTCTGAAGTTTGTTAGATACAATGATTTCGTTCGAAGGAACTACAAAATAAATTATAAGGAGGCACTCA、配列番号2)などを例示することができる。
【0032】
タンパク質遺伝子を発現調節可能な状態で導入した乳酸菌組換体を用いることで、発現誘導物質不存在下における発現調節されたタンパク質発現量が低くまたはゼロに抑えられ、バックグラウンドを下げることができ、一方で、工程(B)において発現誘導物質を添加した発現誘導条件下での培養において、発現調節されたタンパク質の発現量が多くなるか発現が初めて得られるようになり、高感度・高精度の測定を可能にする。nisin誘導プロモータ配列に対する発現誘導物質はnisin(ナイシン)である。nisin(ナイシン)は、34 アミノ酸残基で構成される抗菌ペプチドである。
【0033】
工程(A)で得られる乳酸菌組換体は、常法により培養して、工程(B)及び(C)に用いる乳酸菌組換体とすることができる。この培養は、導入されたタンパク質の発現抑制条件下で実際されることが適当である。発現抑制条件下における培養とは、発現誘導物質不存在下における培養である。発現誘導物質不存在下に行われること以外は、乳酸菌組換体が正常に生育できる環境下において培養は行われる。培養後、乳酸菌組換体は、培養液とともにそのまま工程(B)及び(C)に用いられるか、または培養液から分離され、集菌されて工程(B)及び(C)に用いられる。発現抑制条件下における培養で得られた乳酸菌組換体においては、導入されたタンパク質の発現は抑制されており、乳酸菌組換体は実質的に導入されたタンパク質遺伝子の発現物は含まない。そのため、発現誘導条件下で行われる工程(B)及び(C)において、培養されて初めて導入されたタンパク質が発現されることから、測定対象であるアミノ酸の存在の有無と存在量に依存してタンパク質の発現量が変化し、高感度・高精度の測定を可能にする。
【0034】
工程(B):
所定濃度の測定対象アミノ酸を含有する培地において、前記タンパク質遺伝子の発現誘導条件下、前記乳酸菌組換体が生成するタンパク質の量と前記アミノ酸濃度との相関関係を求める。
測定対象アミノ酸は、検体の種類と用いる乳酸菌組換体が有するアミノ酸要求性を考慮して決定される。本発明で用いる培地は、測定対象アミノ酸を含まず、測定対象アミノ酸非添加時にはタンパク質合成が抑制され、また測定対象アミノ酸添加時には速やかなタンパク質合成が起きるようなものであれば、如何なるものでもよい。即ち、培地としては、測定対象以外のアミノ酸は、乳酸菌組換体の生育に必要な種類及び量を含有し、アミノ酸以外の栄養成分についても含有するものである。
【0035】
この培地に、測定濃度範囲に応じた、所定濃度の測定対象アミノ酸を含有させた複数種類の培地を準備する。さらに、各培地を用いた培養は、タンパク質遺伝子の発現誘導条件下で行うため、各培地に発現誘導物質を添加する。発現誘導物質は、発現調節配列を作動させる物質から適宜選択される。発現誘導物質の添加量は、発現誘導物質の種類等に応じて適宜決定できる。
【0036】
乳酸菌組換体が生成するタンパク質の量の定量は、タンパク質の種類に応じて適宜選択でき、例えば、光学的、免疫的、電気化学的または酵素的方法やバイオアッセイにより実施できる。光学的方法は、例えば、発光量、蛍光量、吸光度などを測定する方法である。発光検出及び蛍光検出による方法では、高感度な定量が可能である。免疫的方法は、タンパク質に対する抗体を用いる方法であり、抗体に蛍光標識を付したものを用いる場合には、光学的方法と組み合わせて実施できる。電気化学的方法は、タンパク質が例えば、酵素である場合、この酵素の作用で生成する物質の濃度を電気化学的に測定する方法である。例えば、酵素の作用で生成する物質が、水素イオンまたは水酸化物イオンの場合、pH電極を用いて水素イオン濃度を電気化学的に測定することができる。酵素的方法は、タンパク質が例えば、酵素である場合であり、酵素の作用により、例えば、発光や電気化学的に測定可能な物質を生成させ、それらを光学的方法または電気化学的方法により測定することができる。毒素のバイオアッセイは、毒素に感受性の菌または細胞を用いる方法であり、その阻止円の大きさや最小生育濃度を調べることで測定することができる。
【0037】
乳酸菌組換体が生成するタンパク質の量の定量は、定量方法によっては、乳酸菌組換体によるタンパク質の発現と並行して連続的または断続的に実施することができる。例えば、ルシフェラーゼなどの発光タンパク質やGFPなどの蛍光タンパク質を用いる場合には、タンパク質発現を行わせつつ同時に発光や蛍光を経時的にモニタリングすることができる。また、電気化学的方法においても、電気化学的に測定対象である物質をタンパク質発現を行わせつつ同時に測定することができる。
【0038】
工程(B)においては、前記乳酸菌組換体が生成するタンパク質の量と前記アミノ酸濃度との相関関係を求める。求められた相関関係は、例えば、検量線としておくことや、相関関係式をコンピュータに入力しておくこともできる。
【0039】
工程(C):
測定対象アミノ酸を含有しない培地に検体を混合し、得られた培地中で、前記タンパク質遺伝子の発現誘導条件下で、前記乳酸菌組換体を培養して、培養中または培養後の培養液に含まれるタンパク質の量を測定する。乳酸菌組換体の培養及びタンパク質の量の測定は、工程(B)と同様の方法で実施できる。
培養液に含まれるタンパク質の量の測定は、測定方法によっては、培養中に連続的または断続的に実施することができ、また、測定方法によっては、培養後に培養液中の成分を分析することでの行われる場合もある。また、培養後に測定を行う場合には、いったん菌体を培養液から分離後、菌体サンプル中のタンパク質の量を測定することで、培養液に含まれるタンパク質の量の測定を行うこともできる。
【0040】
本発明のアミノ酸の定量方法が対象とする検体は、特に制限はない。本発明に用いる検体は、測定対象アミノ酸を含む可能性のある試料であれば、如何なるものでもよい。用いる乳酸菌組換体のタンパク質合成や細胞内へのアミノ酸取り込みを阻害する物質が含まれていなければ、用いる乳酸菌組換体の増殖を阻害・促進する物質が含まれていてもよい。例えば、食品サンプルや各種培地、血漿などの生体試料が例として挙げられる。
【0041】
工程(C)は、より具体的には、
測定対象アミノ酸のみを制限した培地と検体、測定対象アミノ酸に要求性であるタンパク質を発現調節可能な状態で導入した乳酸菌組換体、タンパク質発現誘導物質、さらに必要により水または緩衝液を混合する工程(C1)、
前記混合により得られた反応液をタンパク質発現に適した温度で所定時間放置する工程(C2)、及び
放置後の反応液中に存在する発現タンパク質の量を計測する工程(C3)
を含む。
【0042】
工程(C2)における温度は、乳酸菌組換体の生育に適した温度であれば良く、例えば、10〜40℃の範囲であることができる。また、工程(C2)における放置のための所定時間は検体に含まれる測定対象アミノ酸の濃度、乳酸菌組換体の種類、特に宿主となった菌体の種類及び発現されるタンパク質の種類に応じて適宜決定できる。
【0043】
工程(C1)〜(C3)はそれぞれ別個の容器に移して行ってもよいし、あるいは工程(C1)〜(C3)を単一の容器で行ってもよい。前者の例としては、工程(C1)終了後、混合液をタンパク質発現用容器に移して工程(C2)に供し、その後測定用容器に移して工程(C3)に供する、といった例が挙げられる。後者の例としては、各種成分の混合、タンパク質発現および測定が可能な容器において工程(C1)〜(C3)を連続して行う、といった例が挙げられる。また後者の例では、工程(C2)と工程(C3)を同時に行う、すなわちタンパク質を発現させつつその量をモニタリングする、という手法を取ってもよい。
【0044】
工程(C1)〜(C3)でのサンプル液量は、混合および測定が可能であればいくらでもよい。ミリリットルオーダー以上の溶液でもよいし、数十〜数百マイクロリットルオーダーの溶液を96穴プレートなどで測定してもよいし、あるいはマイクロリットルオーダー以下の微量溶液を、マイクロ流路デバイスを用いて測定してもよい。また、乳酸菌組換体をマイクロアレイ状に固定化し、そこにサンプルを滴下することで工程(C1)〜(C3)を行ってもよい。
【0045】
工程(D):
前記工程(B)で求めた相関関係に基づいて、前記工程(C)で測定したタンパク質の量から検体中に含まれるアミノ酸量を求める。工程(B)において、相関関係式をコンピュータに入力しておき、工程(C)で得られたタンパク質の量の測定結果を前記コンピュータに入力し、コンピュータにおいてアミノ酸濃度を換算させ、結果を出力させることもできる。あるいは、工程(B)において、検量線を作成してある場合には、工程(C)で得られたタンパク質の量の測定結果を、検量線に照らしてアミノ酸濃度を換算することもできる。
【0046】
本発明の方法における検体は、前述のように、例えば、食品サンプルや各種培地、血漿などの生体試料であることができる。従って、本発明の方法は食品中のアミノ酸分析方法として用いることができ、さらには、血漿などの生体試料中のアミノ酸分析方法として用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
例1 乳酸菌組換体の構築(工程(A))
1. ルシフェラーゼ発現系の構築例
発現ベクターにはpNZ8148(MoBiTec社)を、ホタル由来ルシフェラーゼ遺伝子はpGL3(Promega社)上の遺伝子を用いた。pGL3をNcoIおよびXbaI処理に供し、ルシフェラーゼ遺伝子断片(配列番号1)を単離した。これに同じ組み合わせの制限酵素処理に供したpNZ8148ベクターをligationさせ、nisin誘導プロモータ(配列番号2、起源Lactococcus lactis NZ9700株)下流にルシフェラーゼ遺伝子を有する発現用プラスミドを構築した。
【0049】
2. β-ガラクトシダーゼ発現系の構築例
大腸菌(Escherichia coli) K-12株のゲノムを鋳型として、下記のlacZ-FとlacZ-Rをプライマーとして用いてβ-ガラクトシダーゼ遺伝子lacZ(配列番号3、起源大腸菌(Escherichia coli) K-12株)を増幅した。得られたPCR産物とpNZ8148をNcoIおよびHindIII処理に供し、ligationさせた。得られた発現用プラスミドは、nisin誘導プロモータ(配列番号2)下流にlacZを有している。
lacZ-F: AACCATGGGGACCATGATTACGGATTCAC (配列番号4)
lacZ-R:TATAAGCTTATTTTTGACACCAGACCAACTG(配列番号5)
【0050】
3. ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)各株への発現プラスミド導入
ルシフェラーゼおよびβ-ガラクトシダーゼ発現系のホストとして、L. ラクティス(lactis) NZ9000株およびL. ラクティス(lactis)NBRC 100933株を用いた。Promega社NICE system説明書に従った手順でコンピテントセル調製を行った。コンピテントセルを上記ルシフェラーゼまたはβ-ガラクトシダーゼ発現用プラスミドと混合し、1 mmギャップのエレクトロポレーションキュベットに移し、BTX社製Electro Cell Manipulator 600で1500 V, 182Ωでエレクトロポレーションした。菌懸濁液を選択培地で培養し、上記発現用プラスミドを保持する形質転換体が得られた。
【0051】
Nisin誘導プロモータからの転写が起きるためにはnisin応答レギュレーターが必要になる。L. ラクティス(lactis) NZ9000株はゲノム中にレギュレーター遺伝子を有するのに対し、L. ラクティス(lactis) NBRC 100933株はレギュレーター遺伝子を有さない。そこで上記の発現用プラスミド保持L. ラクティス(lactis) NBRC 100933株についてはさらにコンピテントセルを調製し、nisinレギュレーター遺伝子(配列番号6, 7、起源Lactococcus lactis NZ9700株)を有するプラスミドpNZ9530(MoBiTec社)で再度形質転換した。得られた菌株を発現用L. ラクティス(lactis) NBRC 100933株として用いた。
【0052】
例2 検量線の作成(工程(B))
1. ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株の各種アミノ酸測定条件での発光プロファイルおよび検量線
L. ラクティス(lactis) NZ9000株はLeu要求性を示すことから、各種濃度のLeu存在下での発光プロファイルを調べた。
上記ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株を通常の乳酸菌用培地(0.5%グルコース添加M17培地; nisinは非添加)で培養した後、集菌後20 mM K-PO4バッファー(pH 7.0)でウォッシュし、培地成分を除いた菌懸濁液を調製した。2%植菌量となるように、菌懸濁液と、表5及び表6に示す組成のLeu測定用培地、nisin溶液(終濃度10μg/ml)、ルシフェラーゼの基質となるルシフェリン溶液(終濃度250μM)、および各種濃度Leu溶液を混合した。上記混合液を30℃設定のマイクロプレートリーダーにセットし、発光強度の経時的変化をモニタリングした。
【0053】
異なる濃度のLeuを含む各サンプルの発光強度変化は図1のようになった。Leu濃度の高いサンプルでは、モニタリング開始から発光強度に上昇が見られた。発光強度上昇速度とLeu添加濃度の間には高い正の相関が見られた。
【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
上記表6に示すアミノ酸測定用培地の基礎組成からの変更点において、測定対象アミノ酸が、Gluの場合、及びIleの場合、Glu測定ではAspからAsnへの置換を行い、Ile測定ではLeu・Val量を低減した。この等の変更は非特許文献1の記載に基づいて行った。但し、本発明の方法では、これらの変更を行わない条件での測定においても、変更を行った場合と定量結果に大きな差は見られなかった。また、Glu測定におけるAla非添加については、本発明者の検討の結果、Ala非添加の方がGlu検量線の直線性が若干向上することがわかったため、採用した。但し、Ala添加条件においてもGluの定量は可能である。
【0057】
尚、非特許文献1で上記のような変更をしている理由としては、AspからGlu、LeuやValからIleの生合成されてしまうのを抑えるためではないかと推察される。非特許文献1の定量法で上記の変更をしなかった場合、本発明の定量法と同様にほとんど影響は出ないのか、あるいは大きな影響が出るのか、どちらになるかは不明である。後者である場合には、菌の種類によって上記生合成が起きることがある、あるいは非特許文献1の方法では、本発明に比べて増殖を終えるまでに長時間培養を要するので、生育に影響を与える、といった可能性が考えられる。いずれにして本発明の方法では、影響はほとんどなかった。
【0058】
2. ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株によるArg, His, Glu, Leu, Ile, Val検量線
上記の手順で得られた図1の発光量経時的変化のデータから、モニタリング開始30分後の発光強度を抜き出し、横軸をLeu濃度にしてプロットすると図2のようになり、Leu濃度と発光強度の間に高い相関関係が見られた。よって、上記のような測定法により、高い直線性を有するLeu検量線が得られることが示された。
【0059】
さらに、Leuと同様の手順で、L. ラクティス(lactis) NZ9000株の要求性アミノ酸であるArg, His, Glu, Ile, Valでも測定を行った。得られた発光強度とそのときの各アミノ酸濃度を図3〜7に示す。いずれのアミノ酸に関しても、アミノ酸濃度と発光強度の間に高い相関関係が見られた。よって、上記のような測定法により、高い直線性を有するArg, His, Glu, Ile, Val検量線が得られることが示された。
【0060】
3. ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NBRC 100933株によるPro検量線
L. ラクティス(lactis) NZ9000株はPro非要求性であり、上記Arg, His, Glu, Leu, Ile, Valとは異なり、Proに対してはアミノ酸濃度依存的な発光上昇を示さない。一方、L. ラクティス(lactis) NBRC 100933はPro要求性であることが知られている。このL. ラクティス(lactis) NBRC 100933を元株に構築したルシフェラーゼ発現株により、Pro検量線作成が可能かを検証した。L. ラクティス(lactis) NBRC 100933株を用いた測定では、nisin濃度を50μg/mlにした以外は、上記のL. ラクティス(lactis) NZ9000株での測定と同じ手順で行った。
【0061】
得られた発光強度とそのときの各Pro酸濃度を図8に示す。Pro濃度と発光強度の間に高い相関関係が見られた。よって、上記のような測定法により、高い直線性を有するPro検量線が得られることが示された。また、測定したいアミノ酸に要求性を示す生物に発現系を導入することで、目的アミノ酸の定量が可能になることが示された。
【0062】
4. β-ガラクトシダーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株によるArg検量線
上記のβ-ガラクトシダーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株通常の乳酸菌用培地(0.5%グルコース添加M17培地; nisinは非添加)で培養した後、集菌後20 mM K-PO4バッファー(pH 7.0)でウォッシュし、培地成分を除いた菌懸濁液を調製した。5%植菌量となるように、菌懸濁液と、表5及び表6に示す組成のArg測定用培地、nisin溶液(終濃度10μg/ml)、および各種濃度Arg溶液を混合した。混合液を30℃で1時間静置した後、ガラクトシダーゼ活性を測定した。
【0063】
測定結果は図9になり、Arg濃度とルシフェラーゼ活性の間に高い相関関係が見られた。よって、上記のような測定法により、高い直線性を有するArg検量線が得られることが示された。また、発現させるタンパク質はルシフェラーゼに限られず、他のタンパク質の発現量を見ることでもアミノ酸定量が可能であることが示された。
【0064】
例3 カザミノ酸溶液におけるArgの添加回収実験(工程(B), (C))
上記参考例2のルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株によるArg検量線を作製するのと同じ手順で、混合液中に終濃度0.75μg/mlカザミノ酸を添加したサンプル1組と、添加しなかったサンプルもう1組を調製した。
得られた発光強度とそのときのArg添加濃度を図10に示す。カザミノ酸を添加した組と非添加の組が図10で同等の傾きを示したことから、本手法による定量性はカザミノ酸の添加により損なわれないことが示された。
カザミノ酸添加かつArg非添加サンプルの発光強度から、サンプル中のカザミノ酸由来Arg濃度は140 nMと算出された。一方、カザミノ酸溶液をアミノ酸分析システムWaters UPLC Amino Acid Analysis Solution systemで分析したところ、0.75μg/mlカザミノ酸溶液中Arg濃度は133 nMと算出された。両手法でほぼ同等の定量値が得られたことから、本発明の手法による定量性が裏付けられた。
【0065】
例4
1. 抗生物質存在下での発光プロファイルおよびアミノ酸検量線
上記ルシフェラーゼ発現L. ラクティス(lactis) NZ9000株を通常の乳酸菌用培地(0.5%グルコース添加M17培地; nisinは非添加)で培養した後、集菌後20 mM K-PO4バッファー(pH 7.0)でウォッシュし、培地成分を除いた菌懸濁液を調製した。2%植菌量となるように、菌懸濁液と、表5に示す基礎組成の培地、およびnisin溶液(終濃度10μg/ml)を混合した。この混合液に、ampicillin、erythromycin、tetracycline、または水を添加した後、混合液を30℃設定のマイクロプレートリーダーにセットし、発光強度の経時的変化をモニタリングした。
【0066】
各サンプルの発光強度の経時的変化を図11に示した。Ampicillin添加サンプルは混合後30分程度の短時間の間は非添加サンプルとほぼ同等の発光量増加を示した。Ampicillinは細胞壁合成を阻害して菌の増殖を停止させるが、タンパク質翻訳などは阻害しないことが知られている。上記の結果は、本系での発光量増加が菌の増殖によるものではないことを明確に示している。一方、タンパク質翻訳を阻害するerythromycinまたはtetracyclineを添加したサンプルでは、有意な発光量増加は見られなかった。この結果は、本系での発光量増加がタンパク質翻訳に依存して起きていることを示している。
【0067】
上記Arg検量線作成と同じ手順で、混合液中に10μg/ml ampicillinを添加したサンプルも作製し、混合後約30分後に発光強度を測定した。Ampicillin添加または非添加サンプルから作成したArg検量線を図12に示す。Ampicillinの存在下でも、非存在下での検量線と顕著な差のない検量線が得られた。このことから、ampicillinのように菌の増殖に影響を及ぼすような物質共存下でも、本定量法は影響を受けずに定量が可能であることが示された。また、菌の増殖を阻害するampicillin存在下でも検量線が作成できたことからも、本定量法が従来のバイオアッセイ法のような菌の増殖に基づく手法ではないことが明確に示された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
アミノ酸分析は食品の品質管理や様々な疾病検出のマーカーとして用いられ、産業上広い分野で需要のある技術と言える。多種類のアミノ酸分析を行うためには、HPLCなどの機器分析を用いるという選択肢しかほぼないのが現状である。しかし機器分析は高価・大規模な分析機器を要し、現場で迅速な測定を行うことは困難である。また、現場での測定ではなく依頼分析を行う場合は、サンプル分析をはじめ保管や輸送のため高額な費用を要し、その利用はごく限られた範囲に留まっている。
本発明の手法は多種類のアミノ酸を迅速に測定することが可能である。また、利用可能な検出機器に応じて発現させるタンパク質を変えてやることで、様々な方法で安価に検出を行うことが可能である。よって本発明は、測定環境に応じた汎用性が高く、食品・医療分野で広く利用可能な技術と言える。さらに本技術はマイクロ流路などを用いた集積化・小型化が可能であり、high-throughputな測定系へ応用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象アミノ酸に対する栄養要求性を有する乳酸菌に、タンパク質遺伝子を発現調節可能な状態で導入して乳酸菌組換体を得る、但し、前記タンパク質は発現量を定量可能なタンパク質である、工程(A)、
所定濃度の測定対象アミノ酸を含有する培地において、前記タンパク質遺伝子の発現誘導条件下、前記乳酸菌組換体が生成するタンパク質の量と前記アミノ酸濃度との相関関係を求める工程(B)、
測定対象アミノ酸を含有しない培地に検体を混合し、得られた培地中で、前記タンパク質遺伝子の発現誘導条件下で、前記乳酸菌組換体を培養して、培養中または培養後の培養液に含まれるタンパク質の量を測定する工程(C)、及び
前記工程(B)で求めた相関関係に基づいて、前記工程(C)で測定したタンパク質の量から検体中に含まれるアミノ酸量を求める工程(D)
を含む検体中のアミノ酸の定量方法。
【請求項2】
工程(A)で得られた前記乳酸菌組換体は、前記タンパク質遺伝子の発現抑制条件下で培養され、次いで必要により集菌され、培養または集菌された乳酸菌組換体が工程(B)及び工程(C)で用いられる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質遺伝子を発現調節配列の下流に含むベクターを前記乳酸菌に導入して前記組換体を得る請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記発現調節配列が、nisin誘導プロモータである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、発光タンパク質、蛍光タンパク質、結合性タンパク質及び酵素から成る群から選ばれる請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質は発現量を光学的、免疫的、電気化学的または酵素的方法により定量可能である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−42722(P2013−42722A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184005(P2011−184005)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年8月25日 公益社団法人日本生物工学会発行の「第63回日本生物工学会大会講演要旨集」にて発表
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】