説明

タンパク質結合を検出するための検定法およびキット

【課題】試験分子とポリペプチドとの間の相互作用を特定するための方法およびキットを提供する。ポリペプチドはファージ上にディスプレイされ、相互作用は、随意的に固形支持体に付着させた、基準成分の存在において評価される方法を提供する。
【解決手段】ファージディスプレイされたタンパク質を試験分子の存在および非存在下で基準成分と接触させる。試験分子の濃度との相関関係におけるファージディスプレイされたタンパク質の挙動により、ファージディスプレイされたタンパク質の試験分子に対する結合親和性が計算できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照として本明細書に組み入れられる、2003年6月20日に提出した米国仮出願第60/480,587号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
緒言
多種多様のペプチドまたはタンパク質を、バクテリオファージのコートまたはその他のタンパク質との融合物としてディスプレイする方法は、よく知られている。当初のシステムは、例えば米国特許第5,096,815号(特許文献1)および第5,198,346号(特許文献2)に開示された。このシステムは線状ファージM13を用い、それはクローン化したタンパク質が大腸菌において産生されることを必要とし、そしてクローン化したタンパク質が大腸菌の内膜を越えて移行することを必要とした。ラムダ、T4およびT7などの溶菌性バクテリオファージ・べクターは、それらが大腸菌の分泌に依存しないため、より実用的である。T7ファージは市販されており、米国特許第5,223,409号(特許文献3)、第5,403,484号(特許文献4)、第5,571,698号(特許文献5)および第5,766,905号(特許文献6)に記載されている。
【0003】
もともとは、ファージディスプレイ・システムは、ファージディスプレイされたペプチドとタンパク質またはペプチドとの相互作用を調べるために用いられてきた。ファージディスプレイの初期の重要な用途は、例えば、単鎖抗体可変領域の産生および「進化」であり、それは次に特異的抗原との相互作用に関して試験することができた。そのシステムは、特定の抗原に対する特異的な抗体を開発するために用いることができた。
【0004】
より最近、ファージディスプレイ手法を、タンパク質またはペプチドと、薬学的化合物として有用な可能性のある「小分子」、たとえば典型的に合成有機分子、との間の相互作用を探求するために用いることが可能であることが見出されてきた。この手法は、2001年3月15日に公開されたPCT国際公開公報第01/18234号(特許文献7)に記載されている。本出願の1つの態様において、既知の医薬の生物学的標的は、cDNAライブラリのタンパク質産物をディスプレイして、既知の医薬をアフィニティー・クロマトグラフィのための「取っ掛かり」として用いることによって、確かめることができる。しかしながら、ファージディスプレイ手法は、「小分子」と複数のタンパク質またはペプチドとの間の特異性の決定には応用されてこなかった。ファージディスプレイ手法は、「小分子」とタンパク質またはペプチドとの間の結合親和性の定量的測定にもまた応用されてこなかった。
【0005】
特異的なタンパク質活性を標的にする「小分子」は、ここしばらくの間、医薬およびバイオ産業の焦点となっている。しかしながら、所与の分子が1つより多いタンパク質と結合および相互作用することが見出されているため、類似した構造および/または活性を有する数多のタンパク質の存在は、治療剤として小分子を利用する努力を複雑にしてきた。
【0006】
例えば、特異的なタンパク質キナーゼおよびホスファターゼの阻害は心疾患、癌、脳卒中、高血圧、関節炎、および糖尿病を含む、数多の疾患および病理学的状態を処置する治療的努力の焦点となってきた。残念なことに、これらの努力は、他のキナーゼおよびホスファターゼを除外して特異的なタンパク質キナーゼおよびホスファターゼを阻害することのできる、ごくわずかな小分子の開発に終わっている。複数のタンパク質キナーゼ阻害物質についてのある研究は、タンパク質キナーゼ・ファミリーの限定的な調査において、ただ2つの阻害物質(ラパマイシンおよびPD 184352)のみが、少なくとも1つの余分なタンパク質キナーゼにも認めうるほどの影響を与えないことを示した(Davies et al., Biochem. J. (2000) 351: 95-105(非特許文献1)を参照のこと)。その研究の著者らは、「タンパク質キナーゼ阻害物質の特異性は、単に一次構造において近縁関係にあるキナーゼへのそれらの効果を研究することによっては査定できない」とも言及した。一つにはこれらの所見が、著者らによる、阻害物質の細胞性効果が単一のタンパク質キナーゼ標的を標的とすることによることを確かめるための、薬剤耐性キナーゼ変異体の開発および使用などの追加的な検定の使用の勧告につながっている(Eyers, et al., FEBS Lett. (1999) 451: 191-196(非特許文献2)を参照のこと)。そのような検定は、時間、労力、および材料の点から必然的に高価であり、また、薬剤耐性変異体が直ちには入手できない場合において、困難である。
【0007】
タンパク質キナーゼの許容可能な程度に特異的な阻害物質を得る願望もまた、より特異的な阻害物質を研究、設計および産生するための、共結晶またはモデリング研究から得られるタンパク質-小分子構造の使用につながった(例えば、Pargellis et al. (Nature Structural Biol. (2002) 9: 268-272)(非特許文献3)を参照のこと)。そのようなアプローチは、やはり同様に、時間および労力の点から高価である。
【0008】
本明細書における文書の引用は、いずれについても関連する先行技術であると認めることを意図するものではない。日付に関する記述または文書の内容に関する表現の全ては、出願人が入手可能な情報に基づくものであり、日付または文書の内容の正しさに関するいかなる是認を構成するものでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,096,815号
【特許文献2】米国特許第5,198,346号
【特許文献3】米国特許第5,223,409号
【特許文献4】米国特許第5,403,484号
【特許文献5】米国特許第5,571,698号
【特許文献6】米国特許第5,766,905号
【特許文献7】PCT国際公開公報第01/18234号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Davies et al., Biochem. J. (2000) 351: 95-105
【非特許文献2】Eyers, et al., FEBS Lett. (1999) 451: 191-196
【非特許文献3】Pargellis et al. (Nature Structural Biol. (2002) 9: 268-272)
【発明の概要】
【0011】
発明の概要
本発明は、試験分子とポリペプチドとの間の相互作用を特定するための方法およびキットを提供する。好ましくは、ポリペプチドはファージ上にディスプレイされ、相互作用は、随意的に固形支持体に付着させた、基準成分の存在において評価される。
【0012】
本発明の1つの局面は、一組のポリペプチドに由来する異なるポリペプチドに対する試験分子の結合親和性を決定するための方法である。この方法は、試験分子をその一組に由来する異なるポリペプチドに基準成分の存在するところで接触させること、および基準成分のポリペプチドへの結合を評価することを含む。この結合相互作用は、ポリペプチドと試験分子との間の結合特性を特定する。
【0013】
もう1つの側面において、本発明は、1または複数のポリペプチドに対して化合物のライブラリをスクリーニングする方法を提供する。典型的に、試験分子のグループが関心対象のポリペプチドに対して試験され、いったん関心対象の結合相互作用が特定されると、試験分子は個別にさらに評価され得る。
【0014】
本発明は、ファージディスプレイされたポリペプチドと試験分子との間の相互作用を定量化する方法をもまた提供する。本明細書に記載されている手法を用いて評価された試験分子の薬学的開発のためのビジネス方法をもまた含む。その他の局面は、試験分子およびに薬学的処方、ならびにその治療的および/または予防的な使用を含む。
【0015】
本明細書に記載の検定法を行うためのキットもまた提供されている。キットは、典型的に、ファージディスプレイされたポリペプチドおよび基準成分と共に、本明細書に記載の方法を行うための指示書を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の方法の態様の図式化した描写および本方法から得られた結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の開示
本発明は、ディスプレイされたポリペプチドを結合する基準成分の存在下において、試験分子およびファージディスプレイされたポリペプチドの相互作用がもしあれば、その親和性を査定する機能に基づく。試験分子は、ディスプレイされたポリペプチドへの結合に関して、基準成分に対する競合物質とみなされる可能性がある。本発明は、好ましくは、1または複数の試験分子と1つより多くのディスプレイされたポリペプチドとの間の親和性を、グループに属する各々のポリペプチドに対する該分子の親和性が比較できるように、並行して検定するためのシステムとして具現化される。各々のポリペプチドは、ファージ粒子上に個別にディスプレイされ、1または複数の濃度における試験分子、および基準成分の両方に曝露される。本発明の1つの態様において、各々の別個にディスプレイされたポリペプチドは、基準成分に結合され、引き続き1または複数の濃度における試験分子と接触される。基準成分は、随意的に、固相表面への付着によるなどで固定化される可能性がある。基準成分は、随意的に、例えば蛍光および/または分光タグによってラベルされる可能性もある。試験分子の濃度に相関して基準成分に結合し、または置換を受けたファージ粒子の量は、試験分子とポリペプチドとの間の相互作用の親和性の決定を可能にする。代替的に、基準成分は、ポリペプチドと基準成分との間の相互作用の代替的な読み取りを可能にする蛍光プローブなどのリポータ・グループによってラベルされる可能性がある。蛍光偏光は、試験分子の様々な濃度において、ラベルされた基準成分とポリペプチドとの間の相互作用を検出するために用いられることもあり得る方法の限定されない例である。
【0018】
代替的な態様において、ディスプレイされたポリペプチドは、固定化された基準成分に曝露され、反応は平衡化される。洗浄して結合していないファージを除いた後、反応体を、基準成分から結合したファージ粒子を溶出させる可能性がある試験分子と接触させる。溶出した、ポリペプチドをディスプレイしているファージの量は、試験分子の濃度の関数として、試験分子に対するポリペプチドの親和性を決定するために用いられる。
【0019】
第3の態様において、ディスプレイされたポリペプチドは、固定化された基準成分および試験分子に同時に曝露され、そしてシステムは平衡化に達するよう放置される。洗浄して結合していないファージを除いた後、試験分子の複数の濃度において溶出した、ポリペプチドをディスプレイするファージの量を、試験分子に対するポリペプチドの親和性を決定するために用いる。同時曝露の代わりに、ディスプレイされたポリペプチド、基準成分、および試験分子の添加の順序は、システムが平衡に達するための十分な時間が許される限り、任意の順序である可能性がある。
【0020】
上述のような、ファージディスプレイされたポリペプチドと試験分子との間の相互作用の親和性は、結合定数として反映される可能性がある。結合定数は、試験された1もしくはいくつかのポリペプチドに対して(比較的)特異的および/もしくは選択的であるとして、または試験されたいくつかのもしくは多くのポリペプチドとの有意な相互作用のために比較的非特異的および/もしくは非選択的であるとして、試験分子を特定するために用いられる可能性がある。
【0021】
本発明は、結合定数の比較をもまた提供し、それは1または複数の特定のポリペプチドに対して特異的または選択的であるとして試験分子を特定するべく、解離または会合定数として表される可能性がある。
【0022】
従って、1つの局面において、本発明はファージディスプレイ・テクノロジーを応用する方法を対象にしており、そこにおいて本方法は、ファージディスプレイされたポリペプチドを、固形支持体上に固定化された基準成分、および基準成分へのディスプレイされたポリペプチドの結合を減少させるために十分な濃度における試験分子と、同時に接触させることを含む。基準成分から、ディスプレイされたポリペプチドの結合を減少させるために必要な試験分子の濃度が、試験分子に対する解離定数(Kd)を決定するために用いられる可能性がある。好ましくは、試験分子、ならびに類似した構造および/または活性を有するポリペプチドのグループのメンバーに対するKd値が、並行して決定される。その結果のKd値は、試験分子を、1または複数の特定のポリペプチドに対して特異的および/または選択的であるとして特定するために、比較される可能性がある。
【0023】
本発明の1つの局面において、一組のポリペプチドの全体に渡る試験分子の結合特性が評価される。この一組のポリペプチドは、同じタンパク質ファミリーからの、または異なるタンパク質ファミリーからのポリペプチドを含む可能性がある。例えば、キナーゼ・ファミリーに由来する異なるキナーゼに対する試験分子の結合親和性が評価され得る。好ましくは、使用される基準成分は無差別性成分であり、すなわち、それは評価されるその一組のポリペプチドのうち1つより多くのメンバーに結合する。例えば、キナーゼ・ファミリーに関して使用される標準成分は活性ATP部位に結合する。キナーゼに対する試験分子の結合親和性を評価するための適切な基準成分は、本明細書に記載されている。一部の態様において、試験分子は、結合親和性を決定するため、一組のポリペプチドから一度に1つのポリペプチドに曝露される。その他の態様において、試験分子は、同時に複数のポリペプチドに曝露される可能性がある。これらの態様において、典型的に、正の相互作用の検出の後、ポリペプチドは、試験分子に対するそれらの結合特性に関して個別に評価される。好ましい態様において、一組のポリペプチドの全体に渡り用いられる基準成分は、同じである。
【0024】
本発明の他の側面においては、化合物のライブラリが、個別のポリペプチドまたは一組のポリペプチドに対するそれらの結合特性に関してスクリーニングされる。複数の化合物が一度に試験される可能性がある。典型的に、複数の化合物が試験される場合、正の相互作用を受けて、化合物がそれらの結合特性に関して個別に評価される。
【0025】
典型的に、特定のポリペプチドを発現するファージは、固形支持体に固定化された基準成分および1または複数の濃度における試験分子の両方に曝露される。試験分子には、試験分子への結合によって基準成分への結合が減少するような具合に、ポリペプチドが結合する可能性がある。試験分子はこのように基準成分への結合に対して競合して、固形支持体と会合しているファージの数を減少させる。試験分子の1または複数の濃度において固形支持体に結合しているファージは、好ましくは結合していないファージの除去の後に溶出させ、標準的なファージ・タイター法によって数えることができる。試験分子の存在下での固形支持体に結合したファージの量の減少は、試験分子をディスプレイされたポリペプチドの結合物質と特定する。
【0026】
ポリペプチドをディスプレイしているファージには、ポリペプチドに対して高度な親和性を有する低または高濃度の試験分子が結合している可能性がある。ファージの基準成分との会合を妨げるために、ポリペプチドに対して低または中程度親和性を有する試験分子には高い濃度が必要である。高濃度の試験分子にもかかわらず基準成分を結合するポリペプチドをディスプレイするファージは、試験分子と無かまたは最小の相互作用を持つポリペプチドをディスプレイすると特定される可能性がある。試験分子の非存在下では固定化した基準成分に検出可能に結合するが、その分子が低い濃度の状態でももはや検出できないファージディスプレイしたポリペプチドは、該試験分子への高親和性結合物質として特定される。本発明の1つの態様においては、最初のスクリーニングにおいて単一の「高」濃度の試験分子が用いられ、高、中程度、および低親和性の結合物質を特定するが、その間の区別はしない。最初のスクリーニングにおいて特定された潜在的な相互作用は、複数の濃度(個別に使用される)の試験分子を用いて再び検定され、結合データを提供する。好ましくは、5、10、11、12、または15より多い濃度の試験分子が、Kd値などの正確で厳密な結合定数を計算する方程式に適合させ得る結合曲線を生み出すために用いられる。
【0027】
好ましくは、類似した構造および/または活性を有するポリペプチドのグループまたはファミリーがファージ上にディスプレイされ、本発明の実施において用いられる。グループまたはファミリーに属する各々のポリペプチド・メンバーは、複数のファージ粒子上に発現され、他のポリペプチド・メンバーをディスプレイするファージ粒子と離れた状態で、基準成分と接触させられる。換言すれば、本発明の実施において、同じポリペプチドをディスプレイしているファージクローンが、試験分子に個別に曝露される。次に、グループまたはファミリーに属する各々のポリペプチドに対する試験分子の親和性が、本発明に従って決定および比較され、試験分子に対するグループまたはファミリーに属する個別のポリペプチドすべての間の相互作用の強さが特定される可能性がある。相互作用の強さは、グループまたはファミリーに属する個別のポリペプチドに対する試験分子の特異性および/または選択性の指標として用いられる可能性があり、また、ディスプレイされたポリペプチドが薬剤開発のための標的であるとして特定または仮定されてきている薬剤開発のために重要な可能性のある、新しい小分子/タンパク質相互作用を特定するために用いられる可能性がある。従って本発明は、グループまたはファミリーに属する1または複数のメンバーに対して、グループまたはファミリーに属するその他のメンバーと比較して特異的および/または選択的であるとする、分子の特定を提供する。
【0028】
ポリペプチドのグループは、好ましくは、関連した活性および/または構造を有するメンバーで構成されている。ファミリー・メンバーの限定されない例には、同じタイプの酵素反応を触媒するタンパク質または同じタイプの酵素反応が含まれる。本発明の一部の態様において、ポリペプチドのファミリーは、単一の細胞タイプ、組織の出所、または有機体に由来するそれである。本発明の実施のためのポリペプチドは、自然に発生する、またはその変異型である可能性があり、疾患に関連した自然に発生するタンパク質の変異型を含む。天然に見出されない変異型もまた本発明の実施において用いられる可能性がある。別の局面において、ファージ上にディスプレイされたポリペプチドのグループまたはファミリーと接触させられる試験分子は、そのグループまたはファミリーに属する1または複数のメンバーの活性化物質または阻害物質の候補である。従って、本発明の態様は、グループまたはファミリーに属する1または複数のポリペプチドに対する調節分子の特異性および/または選択性の決定を提供する。ヒト・タンパク質キナーゼなどの、単一の出所に由来する関連した酵素活性のファミリーが本発明の実施において用いられる場合、タンパク質キナーゼ阻害物質などの候補分子の特異性および/または選択性が容易に決定される可能性がある。候補分子は、ファミリーに属するその他のメンバーを除外して、1またはいくつかのタンパク質キナーゼに対して特異的であると特定される可能性がある。
【0029】
本発明の方法の使用により、関連するペプチドのグループまたはファミリーに非特異的に結合する試験分子が容易に特定される。ポリペプチドのファミリーの複数のメンバーに結合する試験分子もまた特定される可能性がある。同様に、グループまたはファミリーの1またはいくつかのメンバーに特異的または選択的に結合する試験分子が、それらのKdなど、それらの相当する結合定数とともに容易に特定される。従って、その他の局面において、本発明は、そうでなければより大掛かりな検出のための実験が必要とされたであろう、非特異的な試験分子を特定する方法を対象とする。特定された非特異的な試験分子は、今度は、本発明の実施においてファージディスプレイされたグループまたはファミリーがそこに結合する基準成分として、本発明の実施において有利に用いられる可能性がある。特に好ましい基準成分は、類似した構造および/または活性を有する様々なタンパク質またはペプチドに、中程度または高親和性で結合する。本発明は、試験分子またはその誘導体に対する新規な使用を示唆する可能性のある、以前に知られていない相互作用の特定をもまた可能にする。
【0030】
ポリペプチドのグループまたはファミリーのメンバーについて試験分子の解離定数を決定する方法は、様々な濃度の試験分子の存在下で基準成分に対するディスプレイされたタンパク質性メンバーの結合を査定することを含む。基準成分に結合したファージのメンバーは、試験分子濃度の関数として、グラフにプロットされ、曲線をしかるべき結合方程式に適合させることによってKdが計算される可能性がある。一部の態様において、ファージディスプレイされたメンバーの基準成分への結合が50%にまで減少したときの試験分子の濃度は、ディスプレイされたタンパク質と試験分子との間の相互作用に対するKdに等しい。
【0031】
本発明は、使用およびその後の解析を簡略化するための、解離定数情報の、データベースまたはその他の表形式への構築をもまた提供する。1つの形式において、情報は表の状態であり、そこでは個別のポリペプチドが表の列によって表され、様々な試験分子の同一性が行によって表されている可能性がある。表の各々の升目は、特定のポリペプチドおよび試験分子の組み合わせに関する解離定数情報を収容している。従って表の各々の行は、試験されたすべてのポリペプチドに対する試験分子の特異性プロファイルを反映し、複数のポリペプチドに無差別に結合するのではなく、1またはいくつかのポリペプチドを結合するとする試験分子の特定を容易に可能にする。そのような表は、好ましくは複数のポリペプチドを単一または複数の基準成分とともに使用することに由来する結果を収容するが、このタイプの複数の表が希望する通りに組み合わされる可能性がある。あらゆる試験分子およびあらゆるポリペプチドの結合プロファイルを互いに関連づけることができるような方法でデータを表すために、コンピュータに基づくクラスター化の方法を用いることができる。このクラスター化したデータの表現においては、同じ試験分子を結合する傾向のあるポリペプチドが互いに近くに配置されるのに対して、異なった試験分子を結合する傾向のあるポリペプチドは、互いに遠くに配置される。同様に、ポリペプチドのグループまたはファミリーの共通のメンバーを結合する試験分子は互いに近くに配置され、相違した結合プロファイルを有する試験分子は互いに遠くに配置される。データのこのクラスター化表現は、より情報価値があり、従って一定の状況においては、それが、新しい薬剤を発見する努力を後押しし得る予測見通し候補を提供するので、未加工の「表の」形状よりも好まれる。
【0032】
本発明は、ポリペプチドへの親和性に対する試験分子における構造変更の効果を見いだすための方法をもまた対象とする。ポリペプチドのグループまたはファミリーの1または複数のメンバーに結合するとして特定された試験分子は、リード化合物として、そのリード化合物と類似の構造を有する追加的な化合物の調製のために用いられる可能性がある。リード化合物を含む化合物のライブラリは、リード化合物と誘導体との間の構造の違いがグループまたはファミリーのメンバーへの結合の特異性に影響するかどうかを特定するため、ポリペプチドのグループまたはファミリーとともに個別に用いられる可能性がある。化合物のライブラリは、構造における変化がグループまたはファミリーのメンバーに対するリード化合物の親和性に影響するかどうか、およびどのように影響するかを特定するためにもまた用いられる可能性がある。従って、調製しようとする追加的な化合物の構造を決定するために、構造における変化の効果に関する情報を用いる方法もまた用いられる可能性がある。
【0033】
リード化合物は、固形支持体上にそれを固定化することにより、基準成分として用いられる可能性もある。ファージディスプレイされたグループまたはファミリーのメンバーは、固定化されたリード化合物(基準成分としての)および、その他の化合物、リード化合物から誘導されたそれらを含むが限定されない、の両方に接触させられる。
【0034】
試験分子の不要な副作用または毒性の出現は、本明細書に記載のような特異性の決定に基づいて予測される可能性がある。1またはいくつかのポリペプチドのみに結合することが見出された試験分子は、被験体において使用したとき、重大な毒性または副作用を生じる蓋然性がないと予測されるであろう。これは、試験分子が被験体の細胞または組織における類似したポリペプチドに結合し、従って影響する蓋然性があまりないためである。他方では、比較的非特異的であって多くのポリペプチドに結合する試験分子は、被験体における使用に際して、より毒性または副作用を生じる蓋然性がある。被験体における毒性または不要な副作用についての蓋然性の判定は、好ましくは植物または動物被験体、より好ましくはヒト被験体に関して行われる。
【0035】
本明細書において用いられる限り、「試験分子」は、限定されないが、ポリペプチドが結合に関して試験されるタンパク質、有機もしくは無機の分子、炭水化物、またはその他の化合物などの化学物質を意味する。本発明の「試験分子」には、自然産物である、または合成的に調製される医薬および医薬候補が含まれる。限定されない例には、ポリケチド、ステロイド、米国薬局方に見出される化合物、およびコンビナトリアル・ケミストリーの合成の産物が含まれる。医薬候補には、機能が何も知られていないが、1または複数の既知の機能を有する既知の化合物に構造的類似性を有する分子が含まれる。「ポリペプチド」は、ペプチド(アミド)結合によってリンクしたアミノ酸からなる、自然に発生するまたは合成の、任意のタンパク質またはポリペプチド(タンパク質またはペプチドの断片、部分、および変異体を含む)を意味する。アミノ酸は、D-およびL-型のアミノ酸を含む、自然に存在しているまたは合成である可能性がある。
【0036】
好ましくはファージ粒子上にディスプレイされたポリペプチドは、好ましくは固形支持体上に固定化された「基準成分」に曝露される。基準成分の固定化は、様々な手段による可能性があり、固形支持体に分子を共有結合性にまたは非共有結合性に連結する標準的な手段は、当該分野においてよく知られている。限定されない例には、リンカー分子、グルタルアルデヒドなどのクロスリンカーおよびビオチン/アビジン相互作用の使用が含まれる。後者の例は、分子に共有結合性に連結したビオチンおよび固形支持体に結合したアビジンの使用を伴う。固形支持体そのものは、任意の便宜的な形式、典型的には培養皿もしくはプレートもしくはビン、多穴培養皿もしくはプレートのウェル、ビーズ、分子がそこに固定化される粒子を収容するカラム、または固定化された分子を収容する平面状の表層、をとることができる。固形支持体のその他の限定されない例には、アガロース、ポリスチレン、またはその他のポリビニル化合物、および磁気ビーズが含まれる。
【0037】
基準分子は、支持体に共有結合性に連結されている可能性があり、または結合したファージ粒子および基準成分を含む複合体全体の放出を可能にするシステムによって、非共有結合性に結合を受けている可能性がある。例えば、N -ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide)により誘導体化された固形支持体を用いて、基準成分のカルボン酸官能基を共有結合性に連結することができる。そのような連結に関しては、結合ファージの溶出は過剰の基準成分との競合またはその他の条件の変化に依存するであろう。しかしながら、基準成分が、自身が固形支持体に非共有結合性に連結したリンカー・リガンドにのみ共有結合性に連結しているとき、有利に緩和な溶出条件が用いられる可能性がある。それらの事情の下では、複合体は、基準成分に特異的でない様式で、例えば過剰のリンカーを供給することによって、溶出され得る。
【0038】
リンカー・リガンドの使用の限定されない例は、アビジン誘導体化した固形支持体に非共有結合性に吸着するリンカー・リガンドの役目を果たすビオチンに、基準成分が共有結合性に結合したシステムである。緩衝液で洗浄して非結合ファージを除いた後、ファージ/基準成分複合体は、固形支持体を過剰のビオチンで処理することにより除くことができる。同様に、基準成分は、その他のリンカー、例えば過剰のポリヒスチジンを用いた除去または溶出を可能にするニッケルキレート(固形支持体上の)と非共有結合性に会合するポリヒスチジンなど、に共有結合性に連結されている可能性があり、または固形支持体に連結されたグルタチオン-S-トランスフェラーゼ・システムに会合するグルタチオンに連結することができ、または逆もまた同様である。基準成分に共有結合性に結合するが、誘導体化した固形支持体には非共有結合性に結合することのできる、多数のそのようなリガンド・リンカーが知られており、従って様々な基準成分-特異的でない溶出プロトコルが可能となる。
【0039】
本発明の好ましい態様において、磁気ビーズ上に基準成分を固定化するために、ビオチン-ストレプトアビジン相互作用が用いられる。この相互作用は共有結合でないとはいえ、それは高い親和性(Kd=10-15M)なので、様々な状況において、それは実質的に共有結合として扱われる。基準成分は、ストレプトアビジンでコートされた磁気ビーズに結合したビオチンに共有結合性に(直接的にまたはリンカーを介して)リンクされている。ポリペプチドのグループまたはファミリーのメンバーおよび試験分子との接触の後、ビーズを単離し、ファージ粒子にディスプレイされたポリペプチドを溶出する。様々な溶出条件が用いられる可能性がある。限定されない例には、ビオチンを欠く基準成分の可溶化バージョンによる溶出;SDSを含有するものなどの、ポリペプチドを変性させて基準成分への結合を乱す洗剤溶液による溶出;および、ディスプレイされたポリペプチドをファージから切断するプロテアーゼ含有溶液による溶出が含まれる。第一の溶出例は、可溶化基準成分に結合することに基づいて結合ファージ粒子を溶出するのに好ましい。本発明の代替的な態様においては、ビオチンに対してより低い親和性を有する単量体アビジンなどの、その他のバージョンのストレプトアビジンが、遊離のビオチンによる溶出が用いられ得るような具合に用いられる。溶出したファージは、限定されないが、標準的ファージ・タイター法、例えばプラーク形成検定など、を含む任意のしかるべき手段、または定量PCR(QPCR)によって定量される可能性がある。
【0040】
上記の解説は、一定の条件下において有利である可能性がある特に緩和な溶出条件を詳述するが、それは本発明の必須な特色ではない。固形支持体への標準成分の共有結合性結合形成もまた実用的であり、溶出はこのシステムにしかるべき方法によって遂行することができる。
【0041】
基本的には任意の分子が本発明の基準成分として用いられる可能性があるが、ポリペプチドの活性または機能性に影響を与える部位に結合する分子が好ましい。基準成分は、好ましくは、検査されるグループまたはファミリーの多くのメンバーに高親和性で結合する分子であることが好ましい。言い方を変えれば、好ましい基準成分は、ポリペプチドのグループまたはファミリーのほとんど全てのメンバーに結合するが、同じ親和性を伴う必要はない。基準成分としての使用のためにより好ましいのは、ポリペプチドの活性部位またはその他の知られた薬理学的関連部位に、結合するかまたは結合に関して競合することが知られた分子である。
【0042】
グループまたはファミリーが酵素活性を有するポリペプチドを含む場合、基準成分は、好ましくは基質または生成物のアナログである。限定されない例として、タンパク質キナーゼまたはその他のATP依存性酵素活性の場合などの、タンパク質またはペプチドがATPを結合する能力がある場合に、基準成分がATP基質アナログである可能性がある。代替的に、基準成分が、前記酵素的ポリペプチドの活性化物質または阻害物質などの調節因子である可能性がある。タンパク質キナーゼについての限定されない例は、基準成分としての阻害物質スタウロスポリンの使用である。
【0043】
本発明の実施において基準成分としてタンパク質キナーゼのグループとともに使用するための模範的な化合物には、限定されないが、スタウロスポリン;Lairdら(Cancer Res.(2000) 60: 4152-4160)およびKrystalら(Cancer Res. (2001) 61: 3660-3668)およびMohammadiら(Science (1997) 276: 956-960)によって議論されているDaviesらのSB 203580、SB 202190、SU6668、SU5416、SU6597、SU6663、SU6561、SU 4984およびSU5402を含むタンパク質キナーゼ阻害物質;Sunら(J. Med. Chem. (1999) 42:5120-5130)によって議論されているVEGFR、FGFR、およびPDGFR受容体チロシンキナーゼの置換化3-[(3-または4-carboxyethylpyrrol-2-yl)methylidenyl]indolin-2-ones阻害物質;Wilsonら(Chem. & Biol. (1997) 4: 523-431)によって議論されているVK-19911などのピリジニルイミダゾール化合物;Whitmarshら(Mol. Cell. Biol. (1997) 17:2360-2371)によって議論されているVK19577;Pargellisら(Nature Structural Biol. (2002) 9: 268-272)によって議論されているBIRB 796およびSK&F 86002;Reganら (J. Med. Chem. (2002) 45: 2994-3008)によって議論されているN'-アリール尿素に基づく阻害物質、N-ピラゾール;Knockaertら(Chem. & Biol. (2000) 7: 411-422)およびGrayら(Science (1998) 281: 533-538)によって議論されているpurvalanol A、B および関連化合物;ならびに、限定されないが、ビスインドリルマレイミドI塩酸塩(GF 109203X)、インジルビン 3'モノオキシム、lavendustin A、olomoucine、Ro 31-8220(ビスインドリルマレイミドIX)、Ro 32-0432およびロスコビチンなどの、Sigma/Aldrichから市販されている化合物が含まれる。これらの化合物は、ファージディスプレイされたポリペプチドが基準成分としての別の化合物に結合するとき、もちろん試験分子としてもまた用いられる可能性がある。タンパク質キナーゼを伴う本発明の実施のための好ましい基準成分は、本明細書において開示されている複数のキナーゼに結合する、スタウロスポリン、purvalanol B、SU5402、グリベック(メシル酸イマチニブ)、SU6668、イレッサ(ZD1839またはゲフィニチブ)、PD-173955、およびSB202190である。好ましい基準成分は、同様な構造および/または機能を有する数多のポリペプチドに高い親和性(Kdが1μMより小さいかまたは同じ)で結合する。
【0044】
本発明の1つの態様において、基準成分は、完全に示されているかのごとくその全体が本明細書に組み入れられる2000年9月1日に提出された米国特許出願第09/653,668号において「ベイト」として用いられた小分子である可能性がある。その出願において提示されているように、「ベイト」は、それに結合するファージディスプレイされたポリペプチドを特定するために用いられ、続いてポリペプチドをコードする核酸分子の配列決定またはポリペプチドを特定するその他の手段がある。特定されたポリペプチドおよびタンパク質または同様な構造および/もしくは活性を有するペプチドは、ポリペプチドのグループまたはファミリーの全部または部分である可能性がある。本発明の別の態様において、本発明のポリペプチドをディスプレイするために用いられるファージは、完全に示されているかのごとくその全体が本明細書に組み入れられる2002年8月7日に提出された米国特許出願第10/214,654号において開示されているものである。
【0045】
同様な活性および/または構造を有するポリペプチドのグループまたはファミリーの選択は、技能を有する本発明の使用者の望みのとおりである可能性がある。本発明は、最も有利には、同じタイプの酵素反応を触媒するような、同様な活性を有するポリペプチドに適用される。タンパク質キナーゼ活性またはタンパク質キナーゼの結合特徴を有するタンパク質を含むグループは、本発明の特に好ましい態様である。高度な真核生物細胞における、推定されるタンパク質キナーゼおよびその変種の数は、500より多いと推定され、このファミリーのメンバーは、多くの細胞機能を調節することに関与している。タンパク質キナーゼの間の構造および機能的な類似性によって、タンパク質キナーゼ阻害物質の使用は、1つより多くのキナーゼを標的とする阻害物質の問題を提起する。本発明は、本発明の実施において用いられるキナーゼタンパク質のグループまたはファミリーのメンバーの間で、そのような阻害物質の選択性を決定する効果的な手段を提供する。本発明の使用によって提供される選択性プロファイルは、分子の新しい用途を示唆する、グループまたはファミリーのその他の薬理学的に関連性のあるメンバーとの新規な相互作用をもまた明らかにする。
【0046】
本発明は、しかしながら、タンパク質キナーゼ活性に対する用途に限定されない。アシルトランスフェラーゼ、グリコシルトランスフェラーゼ、窒素転移、および硫黄転移活性を含む、その他の転移酵素活性のグループもまた本発明の実施において用いられる可能性がある。同様に、生化学分子生物学国際連合命名委員会 (Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology)(NC-IUBMB)によって分類されるような、その他の酵素活性(オキシドレダクターゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼ)のグループが、本発明の実施において用いられる可能性がある。ポリペプチドのグループは、本発明の実施において用いられる既知のポリペプチドのライブラリとみなされる可能性がある。本発明は、同じ酵素活性を必ずしも有しないが、基質または基質アナログに対する同様な結合特徴を有するポリペプチドのグループの使用とともに実施される可能性もある。限定されない例は、ATPおよびATPアナログを結合する、ATP依存性プロテアーゼなどの、キナーゼおよびその他のATP依存性酵素である。
【0047】
本発明の好ましい態様において、同じまたは同様な活性を有し、ヒト細胞、組織、または有機体に由来するポリペプチドのファミリーが、本発明の実施において用いられる。様々な出所に由来するポリペプチド(それらの断片を含む)が用いられる可能性がある。限定されない例には、様々な哺乳動物、特にヒトに由来する、脳、肝臓、胃、前立腺組織、乳房組織、およびその他同種類のものなどの、単一の組織が含まれる。限定されない例には、酵母、無脊椎動物、植物、または原核生物などの、その他の有機体に由来する、細胞含有材料もまた含まれる。ポリペプチドは、「正常」または無疾病とみなされる出所に由来する可能性、ならびに、炎症、腫瘍増殖、肥大、糖尿病、アルツハイマー病、およびその他同種類のものなどの「異常な」状態または疾患につき、それらを示す有機体またはそれらと関連する組織に由来する可能性がある。限定されない例には、一部の白血病において役割を演じていると信じられているABLキナーゼの変異型などの、有機体において疾患または薬剤耐性と関連している変異タンパク質が含まれる。タンパク質キナーゼ阻害物質グリベックが効果的にABLキナーゼを標的化するために用いられる一方、ABLにおいて獲得された変異は、グリベックの結合を除外し、グリベックの使用への耐性をもたらす。本発明は、ABLキナーゼの変異型、または、疾患または薬剤耐性を引き起こすその他のポリペプチドの変異型とともに、それらに選択的に結合する追加的な阻害物質を特定するために用いられる可能性がある。
【0048】
本明細書における使用のために特に好ましいのは、タンパク質キナーゼ活性を有するポリペプチドである。本発明における使用のためのタンパク質キナーゼ活性の限定されない例は、

であり、その全てが0.1μM未満から5μM未満までの範囲に渡る解離定数においてスタウロスポリンを結合する。その他の代表的なキナーゼには、カゼインキナーゼ1、γ1;MAPK14/p38;STK18;STK25;VEGF受容体2(VEGFR2);ABLおよびその変異体;BRAFおよびその変異体;EGFRおよびその変異体;ERBB2;およびERBB4が含まれる。その他の模範的なタンパク質キナーゼは、Manningら(Science 2002 298(5600):1912-34)において提供されており、それは、完全に示されているかのごとく参照として本明細書に組み入れられる。本発明は単一の種に由来するポリペプチドのグループまたはファミリーとともに実施される可能性がある一方で、それは別の種に由来するメンバーを含むポリペプチドのグループまたはファミリーとともに実施される可能性もある。限定されない例として、ヒト・キナーゼのグループまたはファミリーは、比較のために、および/または知られていないもしくは入手できないヒト・キナーゼに代えて、1または複数のマウス、げっ歯類、もしくはその他の哺乳類または霊長類のキナーゼをもまた含む可能性がある。
【0049】
本発明の実施において使用されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、GenBankまたはRefSeqなどの、公衆に利用可能なデータベースからアクセスされる可能性がある。遺伝子は、キーワードまたは配列相同性に基づいて特定される。次にPCRプライマーが設計され、コード配列が標準的なPCRプロトコルを用いてcDNAから増幅される可能性がある。PCR単位複製配列は、本明細書に記載のようなディスプレイおよび使用のために、T7バクテリオファージまたはその他のディスプレイ・システムの中に直接クローン化される可能性がある。
【0050】
代替的に、リガンドを結合する、および随意的に触媒機能を持つ細胞性リセプタなどの、リガンド結合活性を有するポリペプチドもまた本発明の実施において用いられる可能性がある。
【0051】
グループまたはファミリーのポリペプチドは、キーワード、または特定の活性と関連するかもしくはそのコンセンサス配列として特定された配列の使用による、核酸またはタンパク質配列データベース(限定されないが、GenBank、RefSeq、およびSwiss-Protなど)の検索を含む、任意の望ましい手段によって選択される可能性がある。次にPCRプライマーが、通常のPCR法を用いて、cDNAライブラリから選択されたポリペプチドをコードする配列を増幅するために、設計される可能性がある。PCR増幅は、おそらく、ファージ粒子表面上におけるタンパク質ディスプレイのためのバクテリオファージ・ベクターに容易にクローン化されるように設計される。小さいプローブ配列による検出を用いた通常のクローニングに続くファージベクターへのサブクローニングによるなどの、コード配列の調製のための代替的な手段もまた同様に用いられる可能性がある。標準的な化学的カップリング法による全遺伝子合成もまた用いられる可能性がある。
【0052】
ファージ・ディスプレイされたタンパク質またはペプチドは、ファージを特徴づけるコートタンパク質との融合ポリペプチドとして産生される。ディスプレイされた非ファージタンパク質は、ファージに特徴的なコートタンパク質のC末端またはN末端に連結することができる。好ましい態様において、研究されるべき非ファージ性タンパク質は、非ファージ性タンパク質またはペプチドに含まれる終止コドンがコートタンパク質をコードするヌクレオチド配列が現れる前に翻訳を中断する例を避けるために、コートタンパク質のC末端に連結される。もちろん、しかるべきクローニングまたはPCR戦略の使用により、ファージタンパク質との融合に先立って終止コドンを既知の配列から取り除くことができる。好ましくは、ディスプレイされたポリペプチドは、本発明の実施のために基準成分を結合することのできる、一価であるかまたは活性の単一サブユニットである。溶菌性バクテリオファージベクター(例えば、ラムダ、T4およびT7)、繊維状ファージ(例えばM13)、およびウイルスが含まれるその他のベクター手段を含む、様々なファージが本発明の実施において用いられる可能性がある。
【0053】
1つの局面において、本発明は、グループまたはファミリーの既知の個別のタンパク質メンバーをディスプレイするファージ粒子を利用する。タンパク質をディスプレイする相同なファージ粒子は、磁気ビーズなどの固形支持体に固定化された基準成分に曝露され、または接触させられる。従って各々の検定ウェルは、グループまたはファミリーのタンパク質メンバーをディスプレイするファージ粒子を結合する固定化された基準成分を収容する。各々の検定ウェルの中のファージ粒子は、試験分子のある濃度にもまた接触させられ、または曝露される。試験分子への結合が存在するとき、ファージは固形支持体に結合することから妨げられる。試験分子の様々な濃度において、依然として固形支持体に結合したままであるファージの数は、支持体に結合したファージを溶出し、次に標準的なファージ・タイター検定(プラーク検定)またはQPCRなどの定量PCRに基づく方法を行うことによって、決定される。代替的に、ファージは、感度のよい分光学的検出を可能にするリポータ・グループによって標識され得る。限定されない例は、高感度の蛍光定量法によって検出することができる蛍光標識であろう。
【0054】
一部の態様では、マイクロタイタープレートまたはディッシュ様式において、全てのウェルが同じ固定化基準成分を収容する一方で、ウェルの各々の列が同じタンパク質をディスプレイするファージ粒子を収容する可能性がある。ウェルの各々の行は、異なる試験分子および/またはある試験分子の異なる濃度を収容する。従って、本発明の実施において用いられる試験分子に対する相互作用の強さに関する情報を、相当するタンパク質ファミリー・メンバーに対応させることができる。単一プレート上で用いられる複数の基準成分の使用、ならびに複数のファージ粒子および競合分子の使用を含む、多くの代替的な様式が可能である。1つの態様において、基準成分に結合するファージが減少する蓋然性を増大させるために、試験分子の1または複数の「プール」が、グループまたはファミリーのメンバーをディスプレイするファージ粒子と接触させられる可能性がある。続いて「プール」は、基準成分に結合するファージを減少させる1または複数の試験分子を特定するために、別個の競合分子に分けられる。
【0055】
相互作用の強さの情報は、試験分子が、
1)使用される条件および濃度下において、ファージディスプレイされたタンパク質を、基準成分への結合から阻害することができない;
2)ファージディスプレイされたタンパク質を強く結合し、従ってファージ粒子が基準成分を結合するのを、試験分子の低い濃度においてさえ阻害することができる;
3)ファージディスプレイされたタンパク質を穏やかにまたは弱く結合し、従ってファージ粒子の基準成分への結合を阻害するために、試験分子の高い濃度を必要とする;
4)複数の異なるタンパク質をディスプレイするファージ粒子を結合し、従って、その分子は(比較的)非選択性である;または
5)1から5の異なるタンパク質をディスプレイするファージ粒子を結合し、従って、その分子は(比較的)選択性である;
と、特定しつつ要約される可能性がある。
【0056】
試験分子に選択的または非選択的に結合するファージディスプレイされたタンパク質の特定は、多くの脈絡において有用である。限定されない例には、特異的に結合するタンパク質を、分子の細胞性標的候補として特定することが含まれる。試験分子が天然産物または既知の医薬である場合、これはその分子の細胞性標的を特定する可能性がある。試験分子を結合するタンパク質は、相互作用に基づいて分類される可能性もあり、それは医薬としての分子の使用において見られる副作用の分子的局面を明らかにする可能性がある。この知識は、そのような作用を軽減するための新しい分子、新しい処方、および共処置投薬計画の設計を可能にする。
【0057】
コンビナトリアル・ライブラリのメンバーなどの、薬学的または既知の化合物のポリペプチドに対する新規な特異的相互作用の特定は、薬学的または既知の化合物の新しい利用または用途の特定をもまた可能にする。非特異的化合物の特定は、本発明の実施のために追加的な基準成分を提供するのにもまた有用である。
【0058】
1つの局面において、本発明は、ファージディスプレイされたポリペプチドの試験分子への結合を査定するための方法を提供する。その方法は、前記ポリペプチドを、試験分子の存在下において固形支持体上に固定化された基準成分と接触させること、および該固形支持体に結合したファージディスプレイされたポリペプチドの量を査定することを含む。好ましくは、本発明は、前記固形支持体と会合したままのファージの検出を介して実施される。ディスプレイされたポリペプチドの同一性は、好ましくは、個別に前記溶液と接触させられた複数のファージディスプレイされたポリペプチドの一部分として知られまた利用される。そのような複数とは、好ましくは5より多く、10より多く、20より多く、50より多く、100より多く、または150より多くのディスプレイされたポリペプチドを含むが、本発明は複数という意味において、ポリペプチドの数によって限定されない。試験分子は、好ましくは約30μMより低い、約25μMより低い、約20μMより低い、約15μMより低い、約10μMより低い、約5μMより低い、約1μMより低い、約0.5μMより低い、約0.1μMより低い、約0.05μMより低い、約0.01μMより低い、約0.005μMより低い、または約0.001μMより低い濃度である。
【0059】
スクリーニング・ツール
本発明は、グループまたはファミリーのポリペプチドへの結合および選択性に関する複数の分子の並行スクリーニングに向けて有利に適用される。本明細書に記載のように、グループまたはファミリーのポリペプチドの各々のメンバーは、ファージ粒子上にディスプレイされ、それはディスプレイされたポリペプチドと支持体にリンクした基準成分との間の相互作用を介して固形支持体に結合する可能性がある。ファージは、基準成分に曝露されたとき、ディスプレイされたポリペプチドへの結合に関してスクリーニングされるべき試験分子にも接触させられる。ファージの基準成分への結合を競合によって阻害する試験分子の機能は、該ファージにディスプレイされたポリペプチドに結合するとして試験分子を特定するために用いられる。
【0060】
様々な濃度の各々の試験分子の使用は、試験分子とディスプレイされたポリペプチドとの間の相互作用に関する結合定数Kdの計算を可能にする。Kdは、試験分子が不在のときと比較して50%のポリペプチドまたはファージディスプレイされたポリペプチドが基準成分から放出される試験分子の濃度と定義される。Kdは、グラフにおける2つの変数のプロットによるなど、試験分子の濃度対結合したファージの比較に基づいて計算された値である可能性がある。
【0061】
所与のポリペプチドを結合する試験分子は、ポリペプチドの強、中程度、および弱結合物質として分類される可能性がある。必ずしも全てではないが、多くの場合において、強(高親和性)結合物質は<1μMのKd値を有し、中程度結合物質は約1〜約100μMの範囲におけるKd値を有するであろう。弱結合物質は、約100μMより高いKd値を有するであろう。しかしながら、これらの範囲は、求められる相互作用の性質によって変化するはずである。本発明の方法の優位性は、個別の試験分子に対する複数の異なるポリペプチドによる結合の相対強度が、効果的に決定されて、試験分子を1または複数のポリペプチドに関して選択的であるとして特定するためのスクリーニング・ツールとして用いることができることである。
【0062】
分子の選択性に関してスクリーニングするために、検定されるポリペプチドのグループに対する所与の試験分子に関するKd値が、何がしかの違いを特定するために比較される可能性がある。試験分子は、特定のポリペプチドに約1〜約10nMまたはより低いKdで結合する可能性があり、従って、その他の試験したポリペプチドが約1〜約100μMまたはそれより高いKdで結合するのみである場合に、該ポリペプチドに関して選択性である。代替的に、試験分子は、複数のポリペプチドに約0.1から約5μMのKdで結合し、従ってそのポリペプチドのうちいかなる1つに関しても非選択性である可能性がある。
【0063】
あるポリペプチドに関して選択的な試験分子が、複数のポリペプチドに組み合わせで接触させられる状況において、その他のポリペプチドへの結合が有るか無いかの状態で選択的な結合のみがもたらされるように分子の濃度が調整される可能性があるので、Kdの相対的な違いは重要である。そのような状況は、十分に低いKdを有するタンパク質による選択的な結合を可能にする特定の濃度を提供する正確な投薬量において投与することのできる薬学的物質の使用において、恒常的に生じる。
【0064】
既知の基準成分、およびそれに結合する複数のディスプレイされたポリペプチドを用いることによって、ディスプレイされたポリペプチドが未知の状況におけるなどの「偽陽性」の可能性が減少するかまたは実質的に排除される。「偽陽性」は、固定化またはポリペプチドの基準成分へのその他の偽性結合に起因する、基準成分の一定の歪みによる可能性がある。偽陽性は、固定型による結合と競合させるために、化学リンカーなしで可溶型の基準成分を使用することによって特定される可能性がある。基準成分の可溶型が競合しない場合、固定型へのポリペプチドの結合はアーチファクトである。
【0065】
スクリーニングがなされる溶液中に試験分子が何も存在しないとき、ディスプレイされたポリペプチドは、それらの親和性に基づき、代わりに基準成分に結合することになる。試験分子の濃度が増大するに従って、高親和性結合物質であるポリペプチドは、それらが低い濃度の試験分子で固形支持体から放出されるので、容易に特定される。従って、低い濃度の試験分子の存在下において固形支持体から回収され得ない、固形支持体に結合するポリペプチドは、ポリペプチドの高親和性結合物質ではないと特定される。
【0066】
中程度および低親和性結合物質もまた本発明の方法によって特定され得る。高濃度の試験分子が、ディスプレイされたポリペプチドへの結合に関してうまく固定化基準分子と競合できる一方で、低濃度の試験分子は、中程度または低親和性ポリペプチドを固形支持体への結合から置換するのに十分ではないはずである。従って、中程度の濃度の試験分子は、低親和性のポリペプチドを固形支持体から放出するのに十分に高くない濃度でありながら、中程度親和性のポリペプチドを固形支持体から放出するために用いられる可能性がある。高濃度の試験分子では、試験分子に強く結合するポリペプチド、および試験分子に中程度または弱く結合するそれらの両方が、固形支持体への結合からうまく競合によって除かれる。
【0067】
本発明は、試験分子に対してそれぞれ高、中程度、および低親和性を有するポリペプチドの連続的な放出を可能にする、1)低い濃度の試験分子を含む溶液、2)中程度の濃度の試験分子を含む溶液、および3)高濃度の試験分子を含む溶液、と共に基準成分(試験分子を何も含まない溶液中の)に結合させること介する、固形支持体上に固定化したディスプレイされたポリペプチドの連続的な、または並行した接触によってもまた実施される可能性がある。
【0068】
上に言及したように、本発明の実施は、ディスプレイされた個別のポリペプチドに対する試験分子の選択性の特定をもまた可能にする。固形支持体からポリペプチドのグループまたはファミリーのうち1またはいくつかのみを放出することに関して選択的であるとして特定された分子は、グループまたはファミリーのその他のポリペプチドとの結合性相互作用に起因する悪影響(その分子の治療剤としての使用に際しての副作用など)を有する蓋然性が低い。そのような分子が高親和性結合物質でもある場合には、その他のポリペプチドへの結合を制御する能力は、そのインビボの濃度を減少させてその他のポリペプチドへの結合を最小化させる療法としての、少量の化合物の投与によって、さらに制御できる。
【0069】
固形支持体からポリペプチドのグループまたはファミリーのうち多くまたは全てを放出することに関して非選択的であるとして特定された分子は、インビボにおけるその他のタンパク質およびペプチドへの結合により媒介される偽性効果についての高い蓋然性のため、治療剤としてのその分子の使用に際して、悪影響を有する蓋然性がより大きい。しかし、そのような分子は、本明細書に記載の、追加的な試験分子のスクリーニングに関する本発明のこれに続く態様において、固定化基準成分としての使用のために好ましい可能性がある。好ましくは、そのような分子は、その分子が既知の調節因子の競合物質となるように、ポリペプチドのグループまたはファミリーを既知の調節因子(活性化物質または阻害物質)で最初にスクリーニングすることを介して特定される。これらの分子は、本明細書に開示されている方法において、親和性に関係なく分子がなお基準成分として用いられ得ることから、ポリペプチドのグループまたはファミリーに対して高、中程度、または低親和性を有してもよい。好ましくは、そのような非選択的な分子は、タンパク質またはペプチドに対して高親和性および選択性を有する分子に関する追加的な試験分子のスクリーニングを容易にするため、高または中程度親和性を有する。
【0070】
溶液中の試験分子に対して高親和性を有するファージディスプレイされたポリペプチドは、固形支持体への保持率を、低濃度の試験分子の存在下において、その分子の非存在下における保持率に照らして比較することによって特定することができるため、ただ2つの測定が必要とされるのみである。代替的に、複数の濃度の試験分子が並行して用いられる可能性がある。複数というのは、5もしくはそれより多くの、10もしくはそれより多くの、または15もしくはそれより多くの濃度である。
【0071】
試験分子の「低」および「高」濃度の定量化に関しては、それらの濃度の数値は、ファージディスプレイ・スクリーニングが行われる脈絡における高および低親和性結合の実際の値に依存することになる。限定されない例として、ある薬学的物質は、特定の細胞性ポリペプチド標的に結合し、阻害することによって作用することが知られ、または信じられている可能性がある。その物質は、その他の細胞性ポリペプチドに結合し、不要な副作用を生じることもまた知られ、または疑われている可能性がある。様々な細胞性タンパク質またはペプチドに対する物質の親和性および選択性が未知であることから、物質は、特定の細胞性タンパク質またはペプチドの標的に対してより高い親和性を有するとしばしば推定される。しかし、物質と、その特定の細胞性タンパク質またはペプチド標的およびその他のタンパク質またはペプチドとの間の相互作用を表わす解離定数の値は、未知である。
【0072】
限定されない例として上述のシナリオに本発明を適用すれば、複数の細胞性タンパク質および/またはポリペプチドの候補が、本明細書に開示されているように、異なる濃度の前記物質の存在下において基準成分に曝露される可能性があり、そこでは「高」および「低」濃度が経験的に定義される。「低」濃度は、従って任意に、1〜10nMと定義されるかもしれない。この濃度が固形支持体上におけるタンパク質またはペプチドの保持を乱すことができない場合、濃度は、例えば10〜20nM、そしてそれから増加性に、20〜50nM、50〜100nM、100nM〜1μM、1μM〜10μMなどに増大されるであろう。しかるべき濃度は、1または複数のファージディスプレイされたタンパク質またはペプチドの保持の相当な欠乏を生じるものとして特定されるであろう。そして「低」である濃度または濃度範囲は、「高」であるとして選択されたそれより低い範囲から選択されるであろう。好ましくは、少なくとも10〜100倍低い範囲が選択されるであろう。
【0073】
特定の細胞性タンパク質またはペプチド標的への物質による高親和性結合の仮定が正しい場合、標的は低濃度の該物質において基準成分に非会合のままのはずである。低または高濃度のいずれにおいても、その他の細胞性タンパク質またはペプチドを放出する機能は、これらのその他のタンパク質またはペプチドを、該物質を臨床的に使用することについての不要な副作用と関連した望ましくない副作用の媒介物候補として確かめるかまたは特定するために用いることができる。
【0074】
代替的に、前記物質は、上に記載のように、その他のタンパク質またはポリペプチドを該物質の標的候補として特定するために用いられる可能性がある。従って、特定されたタンパク質またはペプチドと関係のある疾病状態または兆候は、前記物質の使用によって臨床的にも処置され得るものである可能性がある。とりわけ、前記特定されたタンパク質またはペプチドに関連して前記物質に対し決定することのできる解離定数は、治療の間の使用に関する該物質のインビボの濃度の見積を提供するためにもまた用いられる可能性がある。
【0075】
その他の態様において、本発明は、特定の分子に関して予定された親和性で結合するファージディスプレイされたポリペプチドを単純に見出すためのものである可能性がある。
【0076】
本発明の方法は、試験分子とディスプレイされたポリペプチドとの間の解離定数を見積もるための定性的な様式においてもまた実施される可能性がある。概算は、ポリペプチドが本明細書に記載のような固形支持体に結合するのを防ぐために必要な試験分子の最小濃度を決定することによって得ることができる。例えば、検討中のポリペプチドが1μMの濃度においてもはや支持体に結合できないと思われる場合、これはKdがその量より小さいかまたは等しいことを示唆する。10μMの濃度が必要とされ、しかしポリペプチドが依然として1μMの濃度の試験分子に結合している場合、Kdは、推定的に、1μMより大きいが10μMより小さい。
【0077】
本発明の定量的態様
開示された方法の条件は、正しい定量結果を提供するために重要である。決まった割合のファージが基準成分に結合することを妨げるための試験分子の濃度は、基準分子とディスプレイされたポリペプチドとの間の相互作用に関するKdの値(Kref)に依存すると仮定されるかもしれない。また、ファージディスプレイされたタンパク質が大過剰の状態において、試験分子が既に親分子に結合したファージを置換するとは限らず、むしろその過剰のファージに結合するということもあり得る。
【0078】
従って本発明は、好ましくは、固定化した基準成分分子への結合を50%減ずる試験分子の濃度が、その分子に対するKdと等しいことが示され得るという、一定の試験可能な前提に基づいて遂行される。前提および条件は、下記のとおりである:
【0079】
第一に、ファージディスプレイされたタンパク質の濃度は、試験分子のKdより低くなければならない。第二に、固定化された基準成分の濃度は、Krefより低いかまたは大体同じでなければならない。
【0080】
これらの前提が満たされる検定のための条件を提供するのが直接的である。検定におけるファージディスプレイされたタンパク質の濃度はかなり低く保たれ、典型的には1nMより低い;非常に強い結合物質に遭遇した場合、ファージはより低い濃度に希釈される。従って、ファージディスプレイされたタンパク質は何も過剰に存在しない。
【0081】
試験分子の見かけのKdは、固定化された基準成分の濃度がKrefより大きいときにのみ、固定化された基準成分のKrefに依存する。従って、本発明の検定において、典型的に、固定化された基準成分の濃度は3nM〜300nMの範囲に渡り、それは通常、Krefの範囲内である。固定化された基準成分の濃度が実際はそのKrefより低いという何らかの疑いが存在する場合、試験分子への曝露は、一貫性を保証するため、固定化された基準成分の2つの濃度で行うことができる。高親和性の試験分子が調査される場合、これらの前提を検証することは特に重要である。これらの前提の妥当性は、試験分子によるスクリーニング検定に取り掛かる前に、ディスプレイされたポリペプチドのプロファイリング・パネルの各々のメンバーに対して検証される。
【0082】
これらの前提が妥当であるとき、試験分子と基準成分との間の競合的結合は、次の計算式によって書き表すことができる:
f/f0=Kcomp/(Kcomp+[comp])
ここで、fは試験分子の存在下における固定化基準成分に結合したファージ画分であり、f0は試験分子の非存在下におけるその画分であり、Kcompはファージディスプレイされたタンパク質と試験分子との間の相互作用に関する平衡解離定数(Kd)であり、そして[comp]は試験分子の濃度である。50%の競合において、f/f0=0.5、そしてKcomp=[comp]である。
【0083】
先の前提が妥当でない場合、検定により決定される試験分子の見かけのKdは、過大評価されることになる―すなわち、ファージへの結合は実際は検定から見受けられるよりも強い。やはり、疑念がある場合には、検定は、前提が満たされることを保証するため、1つより多くの濃度の固定化された基準成分で行い得る。
【0084】
本発明の上記のアプローチは、いくつかの利点を有する。スクリーニングされる試験分子は固定化されている必要がなく、検定はスケールアップの対象となり、そして定量的である。その検定は、基準成分の濃度がKrefより低いかまたは等しいときに結合を検出するのが難しい場合、多くの従来の結合検定の感受性より著しく大きいファージ結合検定の感受性による恩恵も受ける。試験分子結合物質の親和性は、検定そのものから識別し得る。一部の態様において、本明細書に記載されている、ファージに基づいたアプローチは、低いポリペプチド濃度(pM)を採用し、それはpM領域に入るKd測定を可能にする。
【0085】
試験分子の特異性を迅速および広範に評価する機能は、開発の全てのステージにおける、化合物に関する結合プロファイルの系統的な決定を可能にする。化合物ライブラリを完全なポリペプチドの一団に対してスクリーニングすることにより、望ましい活性を有する試験化合物が見つかる度合いを増大することができる。一度有望なリード化合物が特定されたら、医化学と特異性評価との間の迅速なフィードバック・ループにより、有効性および特異性の並行した最適化を加速できる、多次元の構造−結合関係が提供される。開発の後期における化合物に関しては、ポリペプチドの大きな一団に対するプロファイリングによって、化合物の用途を広げる可能性のある有益な標的との、以前に認識されていない相互作用を特定することができる。本明細書に記載されている検定は、ファミリーに基づくアプローチの用途を、それを単純により実用的、能率的および費用効果的にすることによって、広げるのに役立つ。
【0086】
治療的および予防的使用
本明細書に記載の方法は、薬剤開発プロセスにおいて数多の用途を有する。その方法は、既知の薬剤の新しい用途を特定するために、新しい薬剤を例えば化合物のライブラリから同定するために、および望ましい生物学的活性を有する薬剤を開発するために、用いられる可能性がある。好ましい態様において、本明細書に記載されている方法を用いて評価された試験分子は、治療的使用のための薬学的化合物へと開発される。本発明は、本明細書に記載されている手法を用いて特定および/または開発された試験分子、それらのアナログ、誘導体、代謝産物、プロドラッグ、およびそれらの薬学的に許容される塩、ならびにそれらの薬学的処方および治療的および/または予防的使用をもまた含む。
【0087】
本発明は、薬学的目的のために、本明細書に記載されている方法により解析された試験分子を開発するためのビジネス方法をもまた含む。一部の態様において、試験分子に関する結合特性の特定に続き、試験分子に対して、非細胞性、細胞性、および全身動物性研究を含む前臨床研究が行われる。試験分子は、随意的に、有効性および/または効力を改善するために、または毒性プロファイルを改善しもしくは生物学的利用性を改善するために、化学的に修飾される可能性がある。試験分子は、好ましくは適切な薬学的処方に処方される。薬学的処方は、典型的に臨床治験を受け、そしてそれは好ましくは治療的および/または予防的目的のために販売される。典型的に、治療的および/または予防的目的は、本明細書に記載されている手法を用いて特定された結合特性に関連している。本発明の結合実験、前臨床試験、臨床治験、および販売は、同じ当事者によって、または複数の当事者によって、行われる可能性がある。
【0088】
様々な疾患の処置のための薬学的組成物は、活性含有物として試験分子を1または複数の薬学的に適切なキャリアとの組み合わせにおいて含む。本発明の薬学的組成物は、その他の治療的に活性な含有物をさらに含む可能性がある。
【0089】
本発明は、動物の処置のための方法、薬学的組成物、およびキットを提供する。本明細書において用いられる「動物」または「動物被験体」という用語には、ヒトもその他の動物も含まれる。本発明はさらに、効果的な量の本明細書に記載されている試験分子、および薬学的に適切なキャリアを被験体に投与することを含む、様々な疾患を、それに苦しむ被験体において処置する方法を提供する。治療的用途において使用される試験分子は、処置される条件に従うであろう。
【0090】
本明細書で用いられる、「処置する」という用語およびその文法的相当語句は、治療的利益および/または予防的利益を達成することを含む。治療的利益とは、処置されている根本的な障害の根絶、改善、もしくは防止、または、患者が依然として根本的な障害に冒されている可能性があるにもかかわらず患者において改善が観察されるような、根本的な障害と関連する生理的症状のうち1または複数の根絶、改善、もしくは防止を意味する。予防的利益に関しては、例えば、本明細書に記載されている組成物が、特定の疾患を発病する危険性がある患者、またはその疾患の生理的症状のうち1または複数を訴えている患者に、たとえ疾患の診断がされていないかもしれなくても、投与される可能性がある。
【0091】
本発明の薬学的組成物には、本明細書に記載されている試験分子が効果的な量において、すなわち治療的利益および/または予防的利益を達成するのに効果的な量において存在する組成物が含まれる。特定の用途に対して効果的な実際の量は、患者(例えば、年齢、体重)、処置される条件、および投与の経路に依存することになる。効果的な量の決定は、特に本明細書の開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲である。
【0092】
ヒトにおける使用ための効果的な量は、動物モデルから決定することができる。例えば、ヒトのための用量は、動物において効果的であることが見出されている循環および/または胃腸管濃度を達成するように処方され得る。
【0093】
動物における試験分子の投薬量は、処置される疾患、投与の経路、および処置される動物の身体的特徴に依存することになる。一部の態様において、治療的および/または予防的使用のための試験分子の投薬レベルは、約1μg/日から約10gm/日までであり得る。
【0094】
好ましくは、治療的および/または予防的利益のために使用される試験分子は、単独で、または薬学的組成物の形式で投与され得る。薬学的組成物は、試験分子、1または複数の薬学的に許容されるキャリア、希釈剤、または賦形剤、および随意的に追加的な治療剤を含む。例えば、本発明の試験分子は、処置される条件に依存して、その他の活性薬学的物質と共投与される可能性がある。この共投与は、同じ投薬形態における2つの物質の同時の投与、別々の投薬形態における同時の投与、および別々の投与を含み得る。別々に投与するプロトコルにおいて、試験分子およびその他の薬学的物質は、数分離れて、または数時間離れて、または数日離れて投与される可能性がある。
【0095】
試験分子は、注射で、局所的に、経口的に、経皮的に、経直腸的に、または吸入を介して投与され得る。適切な経口処方には、粉剤、錠剤、カプセル、液剤、または乳剤が含まれる。効果的な量は、単一用量で、または時間単位などのしかるべき時間間隔で分けられた一連の用量で投与され得る。
【0096】
本発明に従う使用のための薬学的組成物は、薬学的に使用できる製剤への活性化合物の加工を容易にする賦形剤および助剤を含む1または複数の生理学的に許容されるキャリアを用いて、通常の様式で処方される可能性がある。適当な処方は、選ばれた投与の経路に依存する。本明細書に記載されている試験分子の薬学的組成物を調製するための適切な手法は、当技術分野においてよく知られている。
【0097】
実例となるプロトコルとしての本発明の例証
単一のディスプレイされたポリペプチドを含有する透明溶解液は、2xYT培地で培養された対数期(A600約0.7)E.coli BLT 5615細胞にコートタンパク質との融合物として該ポリペプチドをコードするT7ファージクローン(M.O.I.約0.05)を感染させることにより調製する。各々のポリペプチドをコードするファージで感染した感染細胞は、溶解液が透明になるまで、32℃、325rpmで振とうする。溶解液は、次に個別の2mlのフリップトップ・チューブへ等分し、最高速度で10分、微量遠心機で回転させる。透明上清は取り除いて「溶解液カクテル」の形で用いる。試験されることになる最後の「溶解液カクテル」溶液は、0.645x透明溶解液、0.2xSeablockブロッキング剤緩衝液(Pierce #37527 Seablock/1% BSA/0.05% Tween 20、SBTBと省略される);1% BSA;0.5% Triton X-100;および0.05% Tween 20を含む。
【0098】
固定化した基準成分(ベイト)を収容するポリスチレンプレートは、次のように調製する。限定されない例として、4枚のプレート(3枚の平底ポリスチレン;1枚の丸底ポリプロピレン)が調製される。これらのプレートは、ウェルあたり2001μlのSBTBでブロッキングされる。
【0099】
Dynabeads(商標)M280(ストレプトアビジン(Dynal #602.10))は、振とうおよび回旋により再懸濁する;次の段落において記載されるように、ビーズは10mg/mlで懸濁され、検定ウェルあたり0.4mgが用いられる。ビーズは3回洗浄し、1xPBS/0.05% Tween 20(PBST)に10mg/mlで再懸濁し、2mlチューブに分配する。ビオチン化した基準成分は、モル比0.025〜0.25:1(基準成分:ビオチン結合能)でチューブに加え、混合し、ローテータで30分間、室温においてインキュベートする。次にビオチンを全てのチューブにモル比2:1(ビオチン:ビオチン結合能)で加えて、チューブをローテータでもう30分間、インキュベートする。
【0100】
上記のように調製したポリスチレンプレートには、SBTBを除かず、次にウェルあたり40μlのビーズを供給する。ビーズを収容するプレートは、700rpmで短時間振とうし(洗浄1)、続いてペレットダウンし、デカンテーションし、そしてSBTBと振とうすることによってもう一度洗浄し(洗浄2)、続いて3度目の洗浄をし、そこでビーズはSBTB中で>15分間振とうされる。
【0101】
各々の溶解液カクテル200μlを、緩衝液またはDMSO中の指定の濃度における1μlの試験分子を収容する、ポリスチレンプレートの個々のウェルに加える。試験分子を欠く緩衝液またはDMSOを収容する対照ウェルもまた使用する。次に溶解液カクテル/試験分子混合物を、ディスプレイされたポリペプチドと前記基準成分との間の相互作用を介して、前記ビーズに結合させる。個々の溶解液カクテルを収容するウェルの数は、試験分子の数に依存し、各々の分子の異なる濃度の数は、査定されることになる。プレートは室温で1時間、700rpmで振とうする。反応は、随意的に、新たなブロッキングされた96穴ポリスチレンプレートに移し、ビーズをペレットダウンし、デカンテーションして、150μlのSBTB/0.5% Triton X-100 (SBTBT)を加え、700rpmで5〜10秒間振とうすることによるビーズの再懸濁をする。ビーズは150μlのSBTBTで洗浄する(随意的に3回)。4回目の洗浄において、ビーズを新たなブロッキングされたポリスチレン96穴プレートに移す。
【0102】
次に各々のディスプレイされたポリペプチドを収容するウェルを、ある濃度の可溶性基準成分(非ビオチン化)を含有する溶液と接触させ、随意的に、室温で700rpm、30分間振とうする。溶液は、ビーズから、結合しているファージの溶出をもたらす。ビーズはペレットダウンし、各々のウェルからの溶出物(溶液)は、任意の既知のまたはしかるべき手段によって、溶出したファージの数に関してタイトレーションされる。
【0103】
上記は単一ファージクローンの脈絡において記載したが、これに対し、本明細書に記載されているような本発明の実施において、各々が好ましくはグループまたはファミリーの1つのメンバーをディスプレイする複数のクローンが、上記に記載されているように、しかし多重化様式において、用いられる可能性がある。さらに本発明は上記に開示されている緩衝液条件に限定されず、しかしむしろ様々な適切な緩衝および検定の条件で実施される可能性がある。多重化様式において、典型的に複数のポリペプチドが、1または複数の試験分子へのそれらの結合に関して同時に評価される。複数のポリペプチドは、同じポリペプチドのファミリーに属し得るし、または異なるファミリーに属する可能性がある。多重化様式の1つの例において、1より多いポリペプチド、1または複数の基準成分、および1または複数の試験分子が、一緒に試験される。好ましくは、基準成分は、1より多くのポリペプチドに結合する。その他の態様において、評価される複数のポリペプチドの中から1つのポリペプチドに結合する基準成分が用いられる。多重化様式において、好ましくは多重qPCRが、結果を評価するために用いられる。また、複数の試験分子が、1または1より多いポリペプチドに対して同時に試験される可能性がある。これは、たくさんの試験分子を、1つのポリペプチドまたはポリペプチドのファミリーに対するそれらの結合特性に関してスクリーニングするとき、特に有用である。異なった組の試験分子をスクリーニングすることができる。1または複数の組の試験分子が望ましい相互作用を示すことを決定したら、これらの組の試験分子は、その組のどのメンバーが望ましい特性を示すのかを決定するために、さらに評価することができる。
【0104】
特に定義しない限り、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野において通常の技能を有する者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実施は、特に指示しない限り、当技術分野における技能の範囲内の、分子生物学(組み換え手法を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学の通常の手法を採用することになる。そのような手法は、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第2版(Sambrook et al., 1989);「Oligonucleotide Synthesis」(M.J. Gait編, 1984);「Animal Cell Culture」(R.I. Freshney編, 1987);「Methods in Enzymology」(Academic Press, Inc.);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.Ausubel et al.編, 1987および定期的なアップデート);「PCR: The Polymerase Chain Reaction」(Mullis et al.編, 1994)などの文献において完全に説明されている。本発明において採用されるプライマー、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドは、当技術分野において知られる標準的な手法を用いて生成することができる。
【実施例】
【0105】
試験分子-キナーゼ相互作用
T7バクテリオファージ粒子への融合物として発現したヒト・キナーゼおよび、1または複数のキナーゼのATP部位に結合する固定化リガンドの小さい一組を用いた。検定において用いられるキナーゼは、発現、精製、および検出を容易にするようにタグのつけられた融合タンパク質とみなされ得る。融合タンパク質のタグは付着したタンパク質を増幅可能にするとともに、信頼性があって感度のよい検出の対象にする。
【0106】
キナーゼは市販のT7選抜10-3株(Novagen、および2002年8月7日に提出された米国特許出願第10/214,654号を参照のこと)の改変形にクローン化した。各々のファージ粒子のヘッド部位は、415コピーの主要カプシドタンパク質を含み、このシステムにおいては、これらのうちおよそ1から10は、キナーゼ融合タンパク質である。キナーゼのN末端を、カプシドのC末端と融合した。融合タンパク質は、ランダムに組み入れられ、そしてそれ故に、ファージヘッド表面を越えて分布した。T7ファージの複製はバクテリア宿主の溶解をもたらし、ファージディスプレイされたキナーゼを含む溶解液は、検定において直接用いた。
【0107】
検定法を構築するために用いた固定化された小分子リガンドは、高親和性(Kd < 1μM)でキナーゼを結合し、結合を乱さずにビオチン付着の対象になった。検定のために、ファージディスプレイされたキナーゼおよび固定化されたATP部位リガンドを、試験される化合物と混合した(図1A)。試験化合物がキナーゼを結合し、直接的または間接的にATP部位を塞ぐ場合、それは固定化されたリガンドと競合し、固形支持体への結合を妨げる。化合物がキナーゼを結合しない場合、ファージディスプレイされたタンパク質は、キナーゼと固定化リガンドとの間の相互作用を介して、固形支持体に自由に結合できる。競合する「試験」分子は、決して、リンクされていたり、固定化されていたり、または化学的に修飾されている必要がない。結果は、固形支持体に結合した融合タンパク質の量を定量化することにより読み取られ、それは従来のファージプラーク検定またはファージゲノムを鋳型として用いる定量PCR(qPCR)のいずれかにより達成される。両方の方法とも、わずか数十のファージディスプレイされたタンパク質分子を正確に検出および定量するために用いることができる。
【0108】
p38 MAP kinaseの検定
ファージディスプレイされたp38タンパク質およびp38 ATP部位を結合する固定化したリガンドを用いた。ファージディスプレイされたp38を産生するために、p38αのコード領域を、T7主要カプシドタンパク質をコードする遺伝子に対しインフレームで、ファージゲノムにクローン化した。固定化したリガンドとして、本発明者らはピリジニルイミダゾールであるSB202190を選んだ。SB202190は、p38 ATP部位に高親和性で結合し、p38複合体において溶媒が接近可能な位置におけるビオチンの付着に適切な水酸基を有し、また、固形支持体につけられてもp38を結合することができる。フレキシブルなリンカーを有するビオチンを、化学的にSB202190に付着させ、そしてビオチン化した化合物を、ストレプトアビジンでコートした磁気ビーズ上に固定化した。
【0109】
ファージディスプレイされたp38は、SB202190が固定化されているビーズに結合するが、リガンドを欠いているビーズには結合しないことが見出された(Fig. 1B)。ディスプレイされたタンパク質を何も伴わないファージは、SB202190の有無にかかわらずビーズに結合しなかった。固形支持体への結合は、故に、固定化したリガンドおよびディスプレイされたキナーゼの両方に依存する。6つの化合物:SB202190(ビオチン修飾なし);SB203580(SB202190と密接に関係するピリジニルイミダゾール)(表1);SB202474(p38を結合しないピリジニルイミダゾール);BIRB-796(表1); VX-745(表1);およびpurvalanol A(CDK2阻害物質)が、p38と固定化されたSB202190との間の相互作用と競合する機能に関して試験された。修飾されていないSB202190、SB203580、BIRB-796およびVX-745との競合によって、固形支持体に結合したファージディスプレイされたp38の量が1000倍またはそれより多く減少したのに対し、SB202474もpurvalanol Aも有意な効果を有しなかった(図1B)。相互作用の親和性を決定するために、固形支持体に結合したファージディスプレイされたp38の量を、試験化合物の濃度との相関関係において定量化した(図1C)。この様式で測定した結合定数は、公表された値とよく一致した(表2)。結合定数は、少なくとも2つの独立した実験の平均値であった。公表された結果は、言及しているところを除いては、文献に報告されているインビトロ実験に由来するIC50、Ki、またはKd値である。各々の公表された値に対して、参考文献が括弧で示されている。これらの結果は、結合検定が、キナーゼに結合する化合物と結合しないそれらとの間を正しく識別し、正確な結合定数を与えることを実証する。
【0110】
(表1)キナーゼ阻害物質

【0111】
(表2)競合結合検定において測定した結合定数の公表結果との比較

†[ATP]=0.5mMで測定
‡細胞に基づく検定で決定
【0112】
固定化したSB202190とファージディスプレイされたp38との間の相互作用と競合させるためには、化合物は、ATP部位に直接結合するか、またはそのコンフォメーションをアロステリックに変ずる必要がある。両方の作用様式が観察される。SB203580はATP部位中に直接結合することが知られるが、一方でBIRB-796は主に隣接する位置に結合してATP部位のコンフォメーションに間接的に影響を与える。両方の化合物ともp38の既知の強力な阻害物質である。さらに、BIRB-796の結合はp38タンパク質において非常に遅い会合カイネティクスをもたらす特異的なコンフォメーション変化を必要とするが、一方でSB202190の結合は、このコンフォメーション変化を必要とせず、また高速である。競合結合検定は、両方の化合物に対して正確な結合定数を与え(表2)、BIRB-796およびSB202190に関するはっきり異なる結合カイネティクスもまた競合検定において観察された。従ってキナーゼの詳細な挙動は、ファージディスプレイされたp38タンパク質によって忠実に再現される。
【0113】
本明細書で引用されている全ての文献は、既に具体的に組み込まれているかどうかにかかわらず、それらの全体が参照として本明細書に組み入れられる。本明細書で用いられる、「a(ある)」「an」および「any(任意の)」という用語は、文脈において不適切な場合を除き、各々単数および複数形式の両方を含むことが意図されている。
【0114】
本発明を完全に記載した以上は、本発明の精神および視野から逸脱せずに、また過度な実験なしに、広い範囲の同等なパラメータ、濃度、および条件の中で同様なものを実施できることが、当業者によって理解されるはずである。本発明はその具体的な態様との関連において記載されたが、さらなる変更が可能であることが理解されるはずである。この出願は、おおむね本発明の原理に従う本発明の任意のバリエーション、使途、または翻案を対象に含むことが意図され、また本発明が属する当技術分野の範囲内の既知のまたは慣例的な実施の範囲にあるような、また、上に示す本質的な特色に当てはまる可能性があるような、本開示からの逸脱を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、試験分子と一組のポリペプチドのポリペプチド・メンバーとの間の相互作用を査定するための方法:
一組のポリペプチドの第一のポリペプチド・メンバーを第一の基準成分および試験分子と接触させる段階であって、該第一のポリペプチド・メンバーが第一のファージディスプレイされたポリペプチドであって、該第一の基準成分が該一組のポリペプチドのうち少なくとも1つのポリペプチド・メンバーを結合する能力がある段階;
該一組のポリペプチドの第二のポリペプチド・メンバーを第二の基準成分および該試験分子と接触させる段階であって、該第二のポリペプチド・メンバーが第二のファージディスプレイされたポリペプチドであって、該第二の基準成分が該一組のポリペプチドのうち少なくとも1つのポリペプチド・メンバーを結合する能力がある段階;および
該ファージディスプレイされたポリペプチドの該基準成分への相互作用を評価する段階であって、該相互作用が該一組のポリペプチドのポリペプチド・メンバーと該試験分子との間の相互作用の指標である段階。
【請求項2】
以下の段階を含む、一組の試験分子と一組のポリペプチドのポリペプチド・メンバーとの間の相互作用を査定するための方法:
一組のポリペプチドの第一のポリペプチド・メンバーを第一の基準成分および一組の試験分子と接触させる段階であって、該第一のポリペプチド・メンバーが第一のファージディスプレイされたポリペプチドであって、該第一の基準成分が該一組のポリペプチドのうち少なくとも1つのポリペプチド・メンバーを結合する能力がある段階;
該一組のポリペプチドの第二のポリペプチド・メンバーを第二の基準成分および該一組の試験分子と接触させる段階であって、該第二のポリペプチド・メンバーが第二のファージディスプレイされたポリペプチドであって、該第二の基準成分が該一組のポリペプチドのうち少なくとも1つのポリペプチド・メンバーを結合する能力がある段階;および
該ファージディスプレイされたポリペプチドの該基準成分への相互作用を評価する段階であって、該相互作用が該一組のポリペプチドのポリペプチド・メンバーと該試験分子との間の相互作用の指標である段階。
【請求項3】
一組の試験分子の個別の試験分子メンバーを一組のポリペプチドのポリペプチド・メンバーおよび基準成分と接触させる段階をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
一組のポリペプチドに由来するメンバー・ポリペプチドをサブセットに類別する段階をさらに含み、該サブセットがファージディスプレイされたポリペプチドと基準成分との間の相互作用に基づいて作成される、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
第一および第二の基準成分が同じである、請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
一組のポリペプチドのメンバーが基準成分および試験分子に1つずつ接触される、請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
一組のポリペプチドの複数のメンバーが同時に基準成分および試験分子に接触される、請求項1または2記載の方法。
【請求項8】
相互作用が結合相互作用である、請求項1または2記載の方法。
【請求項9】
基準成分が固形支持体上に固定化されている、請求項1または2記載の方法。
【請求項10】
ファージディスプレイされたポリペプチドと基準成分との間の結合を評価する段階が、ファージプラーク検定、蛍光偏光、または定量ポリメラーゼ連鎖反応を用いて行われる、請求項1または2記載の方法。
【請求項11】
ファージディスプレイされたポリペプチドが、ファージディスプレイされたキナーゼである、請求項1または2記載の方法。
【請求項12】
基準成分がキナーゼ調節因子である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
キナーゼ調節因子がキナーゼのATP部位に結合する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
キナーゼ調節因子が、スタウロスポリン、purvalanol B、SU5402、メシル酸イマチニブ、SU6668、イレッサ、PD-173955、およびSB202190より選択される調節因子のうちの少なくとも1つである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
ポリペプチドがT7バクテリオファージ上にディスプレイされる、請求項1または2記載の方法。
【請求項16】
ファージディスプレイされたポリペプチドの基準成分への結合を評価する段階が、該ファージディスプレイされたポリペプチドが該基準成分に結合した量を定量化する段階を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項17】
定量化する段階が以下の段階を含む、請求項16記載の方法:
試験分子の非存在下で結合する量と比較して約50%のファージディスプレイされたポリペプチドが基準成分に結合する該試験分子の濃度を決定する段階であって、50%のファージディスプレイされたポリペプチドが該基準成分に結合する該濃度が解離定数値として特定される段階。
【請求項18】
基準成分が、ストレプトアビジン・コートした磁気ビーズにビオチン部分を介して結合する、請求項1または2記載の方法。
【請求項19】
以下のものを含む、ポリペプチドと試験分子との間の潜在的な相互作用を査定するためのキット:
ファージディスプレイされたポリペプチドであるポリペプチド;および
該ファージディスプレイされたポリペプチドに結合する能力のある基準成分。
【請求項20】
ポリペプチドがキナーゼである、請求項19記載のキット。
【請求項21】
基準成分がキナーゼのATP部位に結合する、請求項20記載のキット。
【請求項22】
基準成分が、スタウロスポリン、purvalanol B、SU5402、メシル酸イマチニブ、SU6668、イレッサ、PD-173955、およびSB202190より選択されるキナーゼ調節因子である、請求項21記載のキット。
【請求項23】
ポリペプチドがT7バクテリオファージ上にディスプレイされる、請求項19記載のキット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−44996(P2012−44996A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226299(P2011−226299)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【分割の表示】特願2006−517526(P2006−517526)の分割
【原出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(511139165)ディスカバーエクス コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】