説明

タンパク質自動合成精製方法及び装置

【課題】1つのディスクで複数のタンパク質の合成及び精製を行うことができるタンパク質の合成精製方法及び装置とする。
【解決手段】ディスク1内部の流路にタンパク質合成用液体を供給し、真空源と接続して真空を作用させるることにより内部の流体を移動可能にする複数の通孔8と、この通孔に連通する流路からタンパク質合成用液体を導入してタンパク質合成反応を生じる反応室13と、反応室で合成したタンパク質を精製するため流路内壁をニッケル処理したタンパク質精製部15と、精製したタンパク質を濾過する限外フィルタ21と、濾過したタンパク質を貯溜する合成タンパク質貯溜部18とを備え、この一連のマイクロ処理部7を放射状に複数形成する。更に精製濾過後のタンパク質の清浄を検査する電気泳動による検査部17、精製処理を繰り返すための循環流路19等も備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はディスク内に微細流路及び反応室等を形成して内部でタンパク質を自動合成し、精製したタンパク質を供給可能としたタンパク質自動合成精製方法、及びその方法を実施するディスク、並びにそのディスクを用いるタンパク質自動合成生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のバイオ技術の進歩により無細胞タンパク質の合成が広く行われるようになっている。例えばゲノム創薬では遺伝子情報に基づいたタンパク質の機能を理解することが重要であり、このためにタンパク質を大量合成することが必要である。しかしながらタンパク質の合成自体が技術的に困難であること、或いはコストが高い等の問題があるほか、合成処理に際して熟練技術を要するという問題がある。それに対して上記のように近年は酵素を使った高分子合成や生体外タンパク質の合成の手法も開発されたことにより、この手法を用いて合成タンパク質を迅速に合成することが研究されている。
【0003】
このようなタンパク質の合成に際しては微量な処理が行われるため、この処理に際しては微少な量の液体を用いることが好ましく、そのためマイクロメータ単位の流路及び処理室をチップ上に形成し、その流路等に極微少な量の所定の液体を注入し、例えば1μリットル未満或いは数μリットル程度の処理室内で合成処理を行うことが提案されている。
【0004】
上記のように微少な量の液体を取り扱うため、例えば図5に示すようなマイクロ流路51の溝を表面に形成したPDMS(ポリジメチルシロキサン)等からなる流路基板52を用い、これを基盤53上に貼ると共に、表面をガラスや樹脂等からなるカバー54を貼ってマイクロ流路51の上方を閉じる。このようにして形成されたマイクロ流路51に液体を注入するため、カバー54に対してマイクロ流路51に通じる図中3個の注入孔55を備え、この注入孔55にシリンジのノズル等を当接させて、外部から反応に必要な所定の液体を圧入或いは真空引き等により注入し、各々バッファ部56を介して反応室57内に各液体を供給する。このとき供給する液体としては合成処理手法によって異なるが、例えば第1のポートからは合成酵素の入った液体、第2のポートからは細胞抽出液、第3のポートからは処理開始因子及び開放因子としてのATPやGTP等が供給される。
【0005】
その後反応室57で生成されたタンパク質は、外部の検査装置等で検査し或いは更に反応処理を行うため、反応室67に通じる排出流路58の端部に設けた外部に通じる注出孔59から、ここに当接させたノズル等を介して外部に注出する。なお、マイクロチップを用いて所望の反応等を行わせる装置としては、多数の反応を効率的に行わせるため、1つのチップ上に図5のようなマイクロ流路を多数形成配置することも行われており、このような技術は例えば特開2006−126011号公報等に開示されている。
【0006】
従来は上記のようなマイクロチップを用いて前記のような所定の作業を行うに際しては、作業者がピペットなどで一つ一つ手作業により液体の定量・分注操作を行わなければならなかったが、この作業を実際に行っている人たちにとって重労働となっている。その対策としてこれらの作業を自動的に行うことができる自動分注装置が、例えば特開2001−13152号公報等に開示されている。この装置においては多数のマイクロウェルを有するチッププレートに対して、各マイクロウェルに対向して上方に配置した多数のノズルから、所定の液体を同時に供給することができるようにしている。通常用いられている自動分注装置はこのように、チッププレートの多数のマイクロウェルに、或いは前記図5に示すようなマイクロチップの注入孔に、その上方からノズルにより液体を供給することとなる。したがっって、タンパク質の合成に際してもこのような装置を用いて自動化することが可能となる。
【0007】
また、マイクロチップについては図5のような矩形のもののほか、例えば特開2006−126010号公報、及び特開2005−523728号公報に開示されているような円板状のものに放射状にマイクロ流路を多数形成することも提案され、更にタンパク質の自動合成技術は特開2006−42601号公報に開示され、円板状にマイクロ流路を製作し、液送コントロールを行う技術は国際公開WO99/58245号公報に開示されている。
【特許文献1】特開2006−126011号公報
【特許文献2】特開2001−13152号公報
【特許文献3】特開2006−126010号公報
【特許文献4】特開2005−523728号公報
【特許文献5】特開2006−42601号公報
【特許文献6】国際公開WO99/58245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のタンパク質の合成においては、前記図5に示すようなマイクロ流路を形成したチップを多数用い、また自動分注装置を用いることによって多くの手数を必要とせずに合成処理を行うことができるものであるが、このようにして合成したタンパク質はその後不純物としての酵素を分離する精製処理を行い、更に限外フィルタ等のフィルタを通すことによって不純物を除去し所望のタンパク質を得る必要がある。また、合成したタンパク質が所望のものであるか否かを電気泳動法等で検査を行う必要もある。そのため、これらの処理を行う毎に他の容器に移し換えて精製処理を行い、また別の装置でフィルタ処理を行い、更にこれを別の装置に移して前記検査を行うこととなり、極めて煩雑な作業を繰り返す必要があった。
【0009】
したがって本発明は、マイクロチップでタンパク質を合成するに際して、多数の合成反応を1枚のディスクで行うことができるようにし、且つ合成反応後の各種処理や検査等を他の容器等に移し換えることなく同一のディスク内で行うことができるようにし、更に内部の液体を真空で移送し、或いは遠心力でフィルタを通過させ、また検査等のために電源と接続できるようにしたタンパク質の自動合成精製方法及び装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るタンパク質自動合成精製方法は、上記課題を解決するため、ディスク内部に形成した反応室にタンパク質合成用液体を外部から供給し、前記反応室で合成したタンパク質を前記反応室に連通する精製部に供給し、前記精製部で精製したタンパク質を、ディスクを回転させた遠心力でフィルタを通して濾過し、前記フィルタで濾過したタンパク質を前記ディスク内部に設けた合成タンパク質貯溜部に貯溜することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他のタンパク質自動合成精製方法は、前記タンパク質自動合成精製方法において、前記フィルタ部で濾過したタンパク質を前記ディスク内に設けた検査部で検査を行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他のタンパク質自動合成精製方法は、前記タンパク質自動合成精製方法において、前記精製部で精製したタンパク質を循環流路部を通して再び精製部に戻して精製を繰り返すことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他のタンパク質自動合成精製ディスクは、ディスク内部の流路にタンパク質合成用液体を供給し、空気圧源と接続して流路内部の液体を移動する空気圧を作用させる複数の通孔と、前記通孔に連通する流路からタンパク質合成用液体を導入してタンパク質合成反応を生じる反応室と、前記反応室で合成したタンパク質を精製するタンパク質精製部と、前記タンパク質精製部で精製したタンパク質を濾過するフィルタと、前記フィルタで濾過したタンパク質を貯溜する精製タンパク質貯溜部とを、ディスク内部に互いに連通してなるマイクロ処理部を、ディスク内部に複数放射状に形成したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る他のタンパク質自動合成精製ディスクは、前記タンパク質自動合成精製ディスクにおいて、前記フィルタで濾過したタンパク質を検査する検査部を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る他のタンパク質自動合成精製ディスクは、前記タンパク質自動合成精製ディスクにおいて、前記検査部は、流路の両端近傍に設けた電極に通電し、流路内部の合成タンパク質の電気泳動の状態により検査を行うことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る他のタンパク質自動合成精製ディスクは、前記タンパク質自動合成精製ディスクにおいて、前記精製部で精製したタンパク質を再び前記精製部に戻して精製を繰り返すための循環流路部を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る他のタンパク質自動合成精製ディスクは、前記タンパク質自動合成精製ディスクにおいて、前記精製部で精製したタンパク質を再び前記精製部に戻して精製を繰り返すための循環流路部を備えたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る他のタンパク質自動合成精製ディスクは、前記タンパク質自動合成精製ディスクにおいて、前記通孔には蒸発防止手段を備えたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る他のタンパク質自動合成精製装置は、前記タンパク質自動合成精製装置において、前記ディスクと、前記ディスクを回転するディスク回転部と、前記ディスクの前記通孔にタンパク質合成用液体を供給し、真空源と接続して真空を作用させる装置を備えたディスクアクセス部と、前記ディスクを前記ディスク回転部及びディスクアクセス部に搬送するディスク搬送装置とを備えたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る他のタンパク質自動合成精製装置は、前記タンパク質自動合成精製装置において、前記ディスクアクセス部には、ディスクの電極と電源とを接続する端子を備えたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る他のタンパク質自動合成精製装置は、前記タンパク質自動合成精製装置において、前記ディスクの温度を調節するディスク温度調節装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上記のように構成したので、マイクロチップでタンパク質を合成するに際して、多数の合成反応を1枚のディスクで行うことができるようになる。また、合成反応後の各種処理や検査等を他の容器等に移し換えることなく同一のディスク内で行うことができる。また複数の通孔からタンパク質合成用液体の供給のほか、ディスク内部の液体を空気圧で移送することも可能となる。更にディスクに一連のマイクロ処理部を複数放射状に設けているので、ディスクの回転による遠心力でフィルタを通過させることも可能となる。また、水平面内でタンパク質の合成処理を行うことができ、そのアクセス部分の高さを充分低くできるため、装置全体の高さを低くし、コンパクトな装置とすることもできる。且つ、1枚のディスクの中で検査等の処理を行うこともでき、循環流路により同一精製部分で複数回精製処理を行うこともできるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は1つのマイクロチップでタンパク質の合成及び精製を行うようにするという課題を、ディスク内部に形成した反応室にタンパク質合成用液体を外部から供給し、前記反応室で合成したタンパク質を前記反応室に連通する精製部に供給し、前記精製部で精製したタンパク質を、ディスクを回転させた遠心力でフィルタを通して濾過し、前記フィルタで濾過したタンパク質を前記ディスク内部に設けた合成タンパク質貯溜部に貯溜することにより解決し、また、ディスク内部の流路にタンパク質合成用液体を供給し、空気圧源と接続して流路内部の流体を移動する空気圧を作用させる複数の通孔と、前記通孔に連通する流路からタンパク質合成用液体を導入してタンパク質合成反応を生じる反応室と、前記反応室で合成したタンパク質を精製するタンパク質精製部と、前記タンパク質精製部で精製したタンパク質を濾過するフィルタと、前記フィルタで濾過したタンパク質を貯溜する精製タンパク質貯溜部とを、ディスク内部に互いに連通してなるマイクロ処理部を、ディスク内部に複数放射状に形成することにより実現した。
【実施例1】
【0024】
図1には本発明のタンパク質自動合成及び自動精製を行うために用いる、内部にマイクロ流路及び各種の室等を備えたディスク1を示している。図1(a)に示すディスク1の例においては、その一部を同図(b)に拡大して示しているような、全体として1つの処理部を構成するタンパク質合成精製処理部としてのマイクロ処理部7を、等間隔で図中10個放射状に形成した例を示している。図示の例では1枚のディスク1をほぼCDと同じ大きさに形成し、その中に図示のような種々の流路や室等を形成するために10個形成した例を示したが、ディスクの大きさ、流路形成密度、処理室の大きさ等により、適宜の数及び形状が選定される。
【0025】
例えば図1に示すようなマイクロ流路等は、種々の態様で形成することができるが、例えば図4に示すようにして形成することができる。同図に示す例においては、同図(a)の平面図における流路のA−A部分断面を同図(b)に、またB−B部分断面を同図(c)に示しており、前記従来のマイクロチップと同様にCOP、PDMS、アクリル樹脂、ポリカーボネイト、ガラス等の流路形成基板2の表面に、深さマイクロメータオーダーの所定平面形状の流路溝3を形成し、後にガラスやアクリル樹脂等からなるカバー4を設けることによって内部にマイクロ流路5を形成している。
【0026】
PDMSのように柔軟性のある流路形成板2を用いる場合には、その裏側に剛性の高い樹脂等からなる基板6を貼り付けて用いる。また図示の例ではカバー4に対してマイクロ流路5に通じる通孔8を備え、この通孔8にノズル等を当接させて、外部から反応に必要な所定の液体を圧入等により注入し、或いは後述するように空気圧源と接続して真空圧または加圧空気を供給可能としている。
【0027】
図1(b)の拡大図に示すディスク1の例においては、1つのマイクロ処理部7が全体として、外部アクセス部11、反応用流体供給部12、反応室13、ゲート部14、タンパク質精製部15、フィルタ部16、検査部17、精製タンパク質貯溜部18、及び循環流路部19から構成されている例を示している。図示する例は単なる一例であり、例えば循環流路部19を除き、或いは検査部17を除くことによっても実施することができ、そのほか循環流路部19に複数の循環流路を設け、或いは精製タンパク貯溜部を複数設けることができ、更に他の処理部や流路を付加することもできる。
【0028】
前記外部アクセス部11においては、前記のように内部の流路に対して連通する通孔8を複数備え、この通孔8により後述するように処理用液体をノズル等から供給し、或いは真空源と接続して内部を吸引することにより処理用液体を移動し、更には加圧空気源と接続して処理用液体を圧送し、また外部に処理液体を吸引して排出可能とする。また図示の例では等間隔で列設している通孔8のディスク中心側に、等間隔に電極端子20を配置しており、各電極端子20は隣接する通孔8、8の間に配置している。この通孔8は適宜シール可能とし、通孔からアクセスを行うときには必要な通孔のシールを剥ぐようにしても良い。また、通孔から内部の流路に液体を入れているときには、内部の液体が蒸発しないように、例えば水、グリセリン、シリコンオイル、フッ素オイル、これらの混合物の少なくともいずれかを含む被覆材等を通孔8に付与することにより、容易に蒸発防止作用を行わせることができる。
【0029】
反応用流体供給部12及び反応室13は前記図5の従来例と同様に構成しており、各々前記通孔8に連通して、タンパク質を合成するために必要な、前記のような合成酵素の入った液体、細胞抽出液、ATPやGTPの液体等を反応室13に圧送供給する。反応室13ではディスク全体が所定温度に維持された状態でタンパク質合成反応を行い、所定時間後にこの反応処理を終了する。その後ゲート部14を通孔8から作用させる真空によって開放し、タンパク質精製部15に合成したタンパク質を供給可能とする。
【0030】
タンパク質精製部15にはその内面にニッケル被膜を形成しており、このタンパク質精製部15の下流側に作用させるいずれかの通孔8からの真空によって、反応室13からタンパク質を吸引して内部を流通させる。その際にニッケルの作用によって不要な酵素をタンパク質から分離させて精製を行う。図1(a)及び(b)の例ではタンパク質精製部15はディスク1の外周部分における広い面において、円弧状にジグザグに形成した長い流路を通過させることにより、精製処理を十分行うことができるようにしている。このような流路によってもなお充分な精製を行うことができないときには、循環流路部19の通孔8から精製処理後のタンパク質を含む液体を吸引し、再度反応室13に連通する通孔8からこれを戻し、タンパク質精製部15において繰り返しニッケルによる精製処理を行うことができるようにしている。タンパク質精製部15はそのほか図1(c)のように形成しても良い。同図に示す例においては精製を行う流路を、放射状にジグザグに形成しており、特に流路の下流部分にディスク中心側に長く延びる延長部15’を備え、ディスクに遠心力を作用させるときの液体流動対策としている。
【0031】
フィルタ部16には限外フィルタ21を設けており、後述するような回転駆動装置によってタンパク質精製部15内の液体を遠心力によって通過させ、酵素等の不純物を分離する。精製分離した合成タンパク質を含む液体は流路22を通って精製タンパク質貯溜部18に送る。その際には精製タンパク質貯溜部18に連通する通孔8から真空で吸引することにより移動させることができる。図示の例ではこの流路22を通る精製タンパク質が所望のものであるか否かを検査する検査部17の端部が連通しており、検査部としての流路の他端部の通孔8側から真空で吸引することにより検査部19の流路に検査用液体を供給し、流路の両端に設けた電極23、24と電極端子20とを接続し、外部から通電して電気泳動によって合成し精製されたタンパク質の検査を行う。なお、図1に示す例においては、ディスク1に10個形成したマイクロ処理部7に対応して外周の所定位置に切り欠き25を設けることにより、後述する各種処理を確実に行うことための位置決めを可能としている。
【0032】
上記のようなディスク1を用いてタンパク質の合成、精製等を行うに際しては、例えば図2及び図3に示す装置を用いて実施することができる。したがってここでは前記ディスク1とこれらの装置を含めてタンパク質合成精製装置ということができる。図2に示す例においては、機台31の上面において、図中左側にディスク1を回転するディスク回転部32を配置し、図中右側にはディスク1に対して液体の加圧供給、液体移動用の真空や加圧空気の供給、電極端子から電力の供給等の各種作動を行う外部アクセス部33とを備え、その間の部分はディスク1を前記ディスク回転部32及びディスクアクセス部33に出し入れするディスク出し入れ部34としている。このような装置によって、図示の例ではディスク搬送装置としてのテーブル35にディスク1を載せ、各部に搬送できるようにし、同図(a)のディスク出し入れ部34に位置させ、また同図(b)のディスク回転部32に位置させ、或いは同図(c)のディスクアクセス部33に位置させてをれぞれの所定の作動を可能としている。上記のようなディスク載置用のテーブルを用いた搬送装置、及びテーブルを用いたディスク回転部は、従来よりCDプレーヤ等で広く用いられている技術を利用することによって容易に実施することができる。
【0033】
図3には前記図2の装置とほぼ同様の装置を用い、ディスク1を各部に搬送するディスク搬送の態様を特に断面図で示しており、図示の例においては機台31の上面両側にレール36を設け、このレール36に沿ってディスク把持装置37を移動可能に設け、このディスク把持装置37によってディスクの周縁部を把持し、或いは把持を解放して、所望の位置にディスクを搬送できるディスク搬送装置を用いた例を示している。それにより同図(a)の平面図に対応したディスク1の位置を示す同図(b)の状態では、機台31内に設けた温度調節テーブル38に載置された状態となっている。その後同図(c)のようにディスク回転部32に移動してディスクテーブル39上に載置され、上方をクランプ48で押さえ、モータ40を駆動して例えば100〜12000rpm等の所定の回転数でディスク1を回転し、遠心力によって限外フィルタで濾過する作動等を行うことができるようにする。
【0034】
また、図3(d)に示すようにディスク1をディスクアクセス部33に位置させた状態では、両側で支持された支持台41の中央に設けた操作部42に前記ディスク1の通孔8の位置に対応して配置した多数の操作孔43にノズル44を挿入し、外部から反応用液体等を供給できるようにしている。したがってこの所定の操作孔43に真空源に接続した細管を挿入することによって、流路内に真空を作用させ、或いは加圧空気供給源に接続して加圧空気を作用させ、ディスク内での液体の移動を可能とする。その際には不要な通孔は密封する等の操作も行う。また、電源接続端子48及びリード線によって、電源からディスク1の所定の端子20を介して電流を供給可能とし、前記電気泳動の検査等を行うことができるようにする。なお、必要に応じてこの部分に電気泳動の結果を観察する部分を設け、得られたタンパク質の検査を自動的に行うことができるようにしても良い。
【0035】
図示の例ではディスク回転部32以外の部分には温度調節テーブル38上にディスク1を載置可能とし、ディスクアクセス部33において、或いは図3(a)(b)に示すようなディスク出し入れ部34に載置した状体で、ペルチェ素子を用いた温度調節装置45によって例えば5〜60℃等の任意の温度に調節可能とし、所定のタンパク質合成反応、及びその反応の停止等を行うことができるようにする。図示の例では機台31内に真空発生用減圧ポンプ46、電気泳動用電源47等を配置した例を示している。このような装置を用いることにより、従来のミニチューブ式の容器の取り扱い方式からディスクへ変更されたことにより、高さ方向での液体操作が最小限に限定され、従来のロボット分注構造を省略することができ、装置全体を小型化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に用いる内部にタンパク質反応部及び精製部等を備えたディスクの例を示す図である。
【図2】同ディスクを用いて各種処理を行う装置の平面図である。
【図3】同ディスクを用いて各種処理を行う他の装置の説明図である。
【図4】ディスクに形成するマイクロ流路の説明図である。
【図5】従来のマイクロチップの例を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ディスク
2 流路形成基板
3 流路溝
4 カバー
5 マイクロ流路
6 基板
7 マイクロ処理部
8 通孔
11 外部アクセス部
12 反応用液体供給部
13 反応室
14 ゲート部
15 タンパク質精製部
16 フィルタ
18 精製タンパク質貯溜部
19 循環流路部
20 電極端子
21 限外フィルタ
22 流路
23 電極
24 電極
25 切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク内部に形成した反応室にタンパク質合成用液体を外部から供給し、
前記反応室で合成したタンパク質を前記反応室に連通する精製部に供給し、
前記精製部で精製したタンパク質を、ディスクを回転させた遠心力でフィルタを通して濾過し、
前記フィルタで濾過したタンパク質を前記ディスク内部に設けた合成タンパク質貯溜部に貯溜することを特徴とするタンパク質自動合成精製方法。
【請求項2】
前記フィルタ部で濾過したタンパク質を前記ディスク内に設けた検査部で検査を行うことを特徴とする請求項1記載のタンパク質自動合成精製方法。
【請求項3】
前記精製部で精製したタンパク質を循環流路部を通して再び精製部に戻して精製を繰り返すことを特徴とする請求項1記載のタンパク質自動合成精製方法。
【請求項4】
ディスク内部の流路にタンパク質合成用液体を供給し、空気圧源と接続して流路内部の流体を移動する空気圧を作用させる複数の通孔と、
前記通孔に連通する流路からタンパク質合成用液体を導入してタンパク質合成反応を生じる反応室と、
前記反応室で合成したタンパク質を精製するタンパク質精製部と、
前記タンパク質精製部で精製したタンパク質を濾過するフィルタと、
前記フィルタで濾過したタンパク質を貯溜する精製タンパク質貯溜部とを、ディスク内部に互いに連通してなるマイクロ処理部を、ディスク内部に放射状に複数形成したことを特徴とするタンパク質自動合成精製ディスク。
【請求項5】
前記フィルタで濾過したタンパク質を検査する検査部を備えたことを特徴とする請求項4記載のタンパク質自動合成精製ディスク。
【請求項6】
前記検査部は、流路の両端近傍に設けた電極に通電し、流路内部の合成タンパク質の電気泳動の状態により検査を行うことを特徴とする請求項5記載のタンパク質自動合成精製ディスク。
【請求項7】
前記精製部で精製したタンパク質を再び前記精製部に戻して精製を繰り返すための循環流路部を備えたことを特徴とする請求項4記載のタンパク質自動合成精製ディスク。
【請求項8】
前記通孔には蒸発防止手段を備えたことを特徴とする請求項4記載のタンパク質自動合成精製ディスク。
【請求項9】
前記蒸発防止手段は、前記通孔を水、グリセリン、シリコンオイル、フッ素オイル、これらの混合物の少なくともいずれかを含む被覆材であることを特徴とする請求項8記載のタンパク質自動合成精製ディスク。
【請求項10】
前記ディスクと、
前記ディスクを回転するディスク回転部と、
前記ディスクの前記通孔にタンパク質合成用液体を供給し、真空源と接続して真空を作用させる装置を備えたディスクアクセス部と、
前記ディスクを前記ディスク回転部及びディスクアクセス部に搬送するディスク搬送装置とを備えたことを特徴とする請求項4記載のディスクを用いたタンパク質自動合成精製装置。
【請求項11】
前記ディスクアクセス部には、ディスクの電極と電源とを接続する端子を備えたことを特徴とする請求項10記載のタンパク質自動合成精製装置。
【請求項12】
前記ディスクの温度を調節するディスク温度調節装置を備えたことを特徴とする請求項10記載のタンパク質自動合成精製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−29762(P2009−29762A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198213(P2007−198213)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】