説明

タンパク質製剤

【課題】骨粗鬆症のような骨関連障害の治療にとって有用なヒト副甲状腺ホルモン(PTH)が、比較的高い濃度で安定化された製剤の提供。
【解決手段】0.3〜10mg/mlのヒト副甲状腺ホルモンと、pH4〜6である薬学的に許容される5〜20mMの濃度のクエン酸緩衝液と、塩化ナトリウム及び/又はマンニトールの少なくとも一つの浸透圧修飾剤とを含む薬学的製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨粗鬆症のような骨関連障害の治療にとって有用な、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)を含む薬学的製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
副甲状腺ホルモン
ヒト副甲状腺ホルモンは、カルシウム及びリンのホメオスタシス、並びに骨の成長及び密度の調節に関与する、84アミノ酸からなるタンパク質である。副甲状腺ホルモンと等価な用語は、PTH、並びに使用頻度が比較的低いパラチリン及びパラトルモンである。
【0003】
ヒトPTHは、組織抽出、ペプチド合成、又は遺伝子操作された酵母、細菌、もしくは哺乳動物の細胞宿主から入手されうる。本質的に純粋なヒトPTHが、米国特許第5,208,041号(特許文献1)に開示されている。大腸菌における組換えPTHの作製は、例えば米国特許第5,223,407号(特許文献2)、米国特許第5,646,015号(特許文献3)、及び米国特許第5,629,205号(特許文献4)に開示されている。酵母における組換えヒトPTHの作製は、EP-B 第0383751号(特許文献5)に開示されている。合成ヒトPTHは、ベイケム社(Bachem Inc.,Budendorf,Switzerland)から商業的に入手可能である。
【0004】
哺乳動物において、骨粗鬆症のようないくつかの骨罹患疾患においては、一方で骨芽細胞の活性と相関している骨形成と、他方で破骨細胞の活性と相関している骨損失との間の平衡が破壊される。副甲状腺ホルモンは、骨粗鬆症において潜在的な治療的役割を有することが示されている。副甲状腺ホルモンのアナボリック作用は、Dempster,D.W.ら,in Endocrine reviews vol.14(6),690-709,1993(非特許文献1)に概説されている。
【0005】
多くのタンパク質に関して、タンパク質濃度が増加すると、タンパク質の特異的又は非特異的な凝集及び沈殿の傾向が増加するのが一般的である。そのような反応は、迅速である場合もあるし、徐々に進行する場合もあり、従って凝集は必ずしも明確に現れない。さらに、タンパク質濃度が高いことによってタンパク質分解を増加させる、小さいが有意な自己触媒活性を示すことがある。いずれにせよ、凝集及び沈殿は、利用可能なタンパク質薬物濃度に影響するだけではなく、製剤の物理学的特性及び生物薬学的特性にも影響を与える。薬学的な見地から、これは極めて望ましくない。従って、タンパク質濃度を低く維持することが、一般的な先入観となっている。
【0006】
PTHは、濃度が増加すると、凝集物を形成することが知られている。この問題を克服するための一つの方法は、pHを極めて低いか又は極めて高い値に調製することである。しかし、それにより、タンパク質の化学的分解が刺激され、投与、例えば皮下注射中の不快感が増加することが多い。
【0007】
希釈した製剤では、例えば注射用(parentral)製剤において、同一の用量を得るためにより大きな容量を必要とする。そのため、シリンジ及びパッケージが大きくなるのみならず、投与中の不快感も増加し、製造コストが高くなる。この理由から、タンパク質製剤は可能な限り濃縮されているべきであるといえる。さらに、非注射用(non-parentral)投与形態の開発には、タンパク質濃度が可能な限り高いことが有利である。従って、凝集を起こすことなく高いタンパク質濃度を可能にする製剤の必要性が存在する。
【0008】
PTH製剤
製剤化に成功している他のタンパク質と異なり、PTHは様々な形態の分解を特に受けやすい。例えば、8位及び18位のメチオニン残基で酸化が起こり、酸化型PTH種ox-M(8)-PTH及びox-M(18)-PTHが生じることもあるし、16位のアスパラギンで脱アミド化が起こり、d16-PTHが生じることもある。N末端及びC末端両方のペプチド結合の分解により、ポリペプチド鎖は短縮される。さらに、PTHは、表面に吸収され、非特異的な凝集物及び/又は沈殿物を形成し、それにより利用可能な薬物濃度を減少させることもある。これらの分解反応及びそれらの組み合わせは全て、PTHの生物学的活性の部分的又は完全な損失をもたらす。従って、PTHの製剤は、これらの分解反応を防止しなければならない。
【0009】
国際公開公報第95/17207号(Holthuisら)(特許文献6)は、例えばマンニトールのような、PTHと共凍結乾燥され無定形ケーキを生じる賦形剤と、例えばクエン酸源のような、非揮発性緩衝剤とを含むPTH調製物を開示している。この開示によると、PTHは、望ましくは、25〜250μg/ml、好ましくは50〜150μg/mlの濃度範囲で水性溶液に取り込まれる。
【0010】
米国特許第5,563,122号(Endoら)(特許文献7)は、PTH(1-34)、塩化ナトリウム、および糖を含む凍結乾燥組成物を開示している。PTH(1-34)の凍結乾燥試料を+40℃で3ヶ月保存した場合、塩化ナトリウムと糖との組み合わせを含有する調製物は、塩化ナトリウムのみ又は糖のみを含有する対照調製物よりも安定であった。これらの実験において、各試料は、5〜10mgの糖及び0.1〜1mgのNaClと共に36μgのPTH(1-34)を含有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,208,041号
【特許文献2】米国特許第5,223,407号
【特許文献3】米国特許第5,646,015号
【特許文献4】米国特許第5,629,205号
【特許文献5】EP-B 第0383751号
【特許文献6】国際公開公報第95/17207号
【特許文献7】米国特許第5,563,122号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Dempster,D.W.ら,in Endocrine reviews vol.14(6),690-709,1993
【発明の概要】
【0013】
発明の開示
確立された所見とは反対に、比較的高い濃度のPTHが、薬学的に許容される製剤中に用いられうることが見出された。製剤は、液体の形態であってもよいし、凍結乾燥され、単回又は複数回の投与の前に再生されてもよい。製剤は、注射容量が小さいために投与中の不快感が少なく、また投与時の苦痛を減少させるpH及び緩衝能を有している。高いPTH濃度の使用により、鼻腔内製剤、吸入可能製剤、及び経口製剤のような非注射用(non-parenteral)投与形態、又は経皮製剤を開発することも可能となる。高いPTH濃度が可能であるために、例えば自己投与に適した安全かつ経済的な複数回投与用製剤も可能となる。
【0014】
従って、本発明は、第一の局面において、0.3mg/ml以上、例えば0.3〜10mg/mlの濃度のヒト副甲状腺ホルモン(PTH)と、pH4〜6である薬学的に許容される緩衝液と、少なくとも一つの浸透圧修飾剤(tonicity modifier)とを含む薬学的製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】異なるタンパク質濃度におけるPTHの安定性。
【図2】異なるpH値におけるPTHの安定性。
【図3】NaCl存在下におけるPTHの安定性。
【発明を実施するための形態】
【0016】
「副甲状腺ホルモン」(PTH)という用語は、天然に存在するヒトPTHのみならず、合成PTH又は組換えPTH(rPTH)も包含する。
【0017】
さらに、「副甲状腺ホルモン」という用語は、全長PTH(1-84)のみならず、PTH断片も包含する。従って、望ましい場合には、PTH(1-84)と等価な生物学的活性を与える量のPTH変種の断片が、本発明に係る製剤に取り込まれうることが理解されると思われる。PTH断片は、少なくとも、完全なPTHと類似した生物学的活性にとって必要なPTHのアミノ酸残基を取り込んでいる。そのような断片の例は、PTH(1-31)、PTH(1-34)、PTH(1-36)、PTH(1-37)、PTH(1-38)、PTH(1-41)、PTH(28-48)、及びPTH(25-39)である。
【0018】
「副甲状腺ホルモン」という用語は、PTHの変種及び機能的アナログも包含する。従って、本発明は、置換、欠失、挿入、逆位、又は環化のような修飾を保持するにもかかわらず副甲状腺ホルモンの生物学的活性を実質的に有する、そのようなPTHの変種及び機能的アナログなどを含む薬学的製剤を含む。安定性を増強されたPTHの変種も、例えば国際公開公報第92/11286号及び国際公開公報第93/20203号により当技術分野において既知である。PTHの変種は、例えば、8位及び/又は18位のメチオニン残基の置換、並びに16位のアスパラギンの置換のようなPTHの安定性及び半減期を改善するアミノ酸置換を取り込みうる。環化されたPTHアナログは、国際公開公報第98/05683号に開示されている。
【0019】
本明細書において、「生物学的活性を有する」という用語は、PTHにより刺激されるアデニル酸シクラーゼ産生に関するラット骨肉腫細胞基盤アッセイ法(Rodanら,(1983)J.Clin.Invest.72,1511;及びRabbaniら(1988)Endocrinol.123,2709を参照)のような、PTH活性に関する生物アッセイ法において、十分な応答を誘発することと理解されるべきである。
【0020】
本発明に係る薬学的製剤において用いられるPTHは、好ましくは、全長組換えヒトPTHのような組換えヒトPTHである。
【0021】
本発明の好ましい形態において、該ヒト副甲状腺ホルモンの濃度は、0.3〜5mg/mlもしくは0.3〜3mg/ml、又は1mg/ml以上であって、例えば1〜10mg/ml、1〜5mg/ml、1〜3mg/ml、もしくは1〜2mg/mlでありうる。
【0022】
該薬学的に許容される緩衝液は、例えば酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、又は炭酸緩衝液でありうる。好ましくは、緩衝液は、5〜20mMの濃度のクエン酸緩衝液である。該薬学的に許容される緩衝液は、好ましくはpH5〜6の間、最も好ましくはpH5.5付近である。
【0023】
該浸透圧修飾剤は、例えばソルビトール、グルセロール、ショ糖、又は好ましくは塩化ナトリウム及び/もしくはマンニトールでありうる。
【0024】
本発明の好ましい形態において、PTH製剤は、1〜3mg/mlの副甲状腺ホルモンと、2〜5mg/mlのNaClと、20〜50mg/mlのマンニトールと、pH4〜6である5〜10mMのクエン酸緩衝液とを含み、かつ場合によりベンジルアルコール又はm-クレゾールのような保存剤を含み得る。
【0025】
本発明に係る薬学的製剤は、骨障害、特に骨粗鬆症の治療又は予防において有用である。
【0026】
さらなる局面において、本発明は、0.3〜10mg/mlの濃度のヒト副甲状腺ホルモンと、少なくとも一つの浸透圧修飾剤とを、pH4〜6である薬学的に許容される緩衝液に溶解させることを含む、前記薬学的製剤の調製のための方法を提供する。
【0027】
もう一つの局面において、本発明は、pH4〜6である薬学的に許容される緩衝液と、少なくとも一つの浸透圧修飾剤とをさらに含む、骨障害、特に骨粗鬆症の治療又は予防のための薬学的製剤の製造における、0.3〜10mg/mlの濃度の副甲状腺ホルモンの使用を提供する。
【0028】
さらなる局面において、本発明は、骨関連障害、特に骨粗鬆症の治療又は予防を必要とするヒトを含む哺乳動物に、有効量の前記薬学的PTH製剤を投与する段階を含む、骨関連障害、特に骨粗鬆症の治療又は予防のための方法を提供する。
【0029】
実験法
製剤化研究において用いられた全長ヒトPTH(1-84)は、既知の方法(例えば米国特許第5,223,407号、米国特許第5,646,015号、及び米国特許第5,629,205号)により、大腸菌株から産生され分泌された。簡単に説明すると、プラスミドpJT42上のヒト副甲状腺ホルモン遺伝子を大腸菌の外膜タンパク質A(outer membrane protein A/ompA)分泌シグナルDNAと融合させた。そのプラスミド上には、ラクトース・リプレッサー遺伝子(lacI)も存在している。ompA-rhPTH mRNAの翻訳及び内因性ペプチダーゼによるさらなるプロセシングにより、成熟84アミノ酸ヒト副甲状腺ホルモンを産生させ、それを細菌培養ブロスから収集した。
【0030】
組換え発現に続いて、夾雑物を本質的に含まない調製物へとPTHを精製した。当技術分野において既知の方法を含む精製過程では(米国特許第5,208,042号を参照のこと)、細胞分離、濾過、限外濾過、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、調製用逆相HPLC、及び二次イオン交換クロマトグラフィーに続いて、脱塩により液体バルクを得ることを含んでいた。得られた調製物は、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)及びドデシル流酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によりアッセイしたところ、典型的には95%またはそれ以上の純度を有していた。
【0031】
PTHの濃度、純度、及び酸化型PTHの形成を評価するため、移動相にトリフルオロ酢酸及びアセトニトリルを用いたRP-HPLCにより、PTHの溶液を分析した。脱アミド化PTHは、Kの勾配を用いた陽イオン交換HPLCにより決定された。PTH、ox-M(8)-PTH、ox-M(18)-PTH、及びd16-PTHの保持時間及び量は、適当な参照標準を用いて測定された。
【0032】
ある過程の速度に対する温度の影響は、Q10という項により記載されうる。

式中、R及びRは、それぞれ温度T及びTにおいて観測された速度である(Chang,R: Physical chemistry with application to biological systems,New York,Macmillan Publishing Co.,Inc.,1997; Schmidt-Nielsen K.Animal Physiology: Adaptation and environment,3rd ed.Cambridge,Cambridge University Press,1983参照)。Q10が2である場合には、温度が10度増加する毎に速度は2倍になり、Q10が3である場合には、10度毎に速度は3倍になる。ある温度区間における活性化エネルギーは極めて一定であるとすれば、ほとんどの反応及び過程は2と3の間のQ10を有する。
【0033】
凝集及び沈殿は、バイアルを白色又は黒色の背景に対して視覚的に検査し、適当な参照溶液と比較することによって決定された。PTHの生物学的活性は、PTHにより刺激されるアデニル酸シクラーゼ産生におけるラット骨肉腫細胞(UMR106)基盤アッセイ法(Rodanら,J.Clin.Invest.,1983,72:1511; Rabbaniら,Endocrinol.,1988,123:2709)を用いて測定された。
【実施例】
【0034】
実施例1−PTHの安定性に対するタンパク質濃度の影響
異なる濃度のPTHを、10mMクエン酸緩衝液中に製剤化した。一つの実験系列においては、異なる製剤のアリコートを凍結乾燥させ、+37℃から+40℃で保存した。もう一つの系列においては、アリコートを溶液として+4℃で保存した。様々な時点(少なくとも3つ)で、PTHの純度をrp-HPLCにより決定した。結果を範囲−%(area-%)で表した。異なる濃度のPTHを表す、各時間系列についてのデータを、ゼロ時点におけるPTHの純度を100%に設定することにより標準化し、系列間の比較を可能にした。下記式を用いて、時間に対するPTHの割合(%)の回帰直線の傾きから、1ヶ月当たりの割合(%)で表されるPTH損失の速度を計算した。

式中、xは、時間(月)に相当し、yは開始時から残存しているPTHの純度(%)に相当する。
【0035】
図1並びに表1及び表2に示されるように、凍結乾燥製剤(表1)及び液体製剤(表2)の両方で、PTH濃度が増加すると、PTHの安定性は顕著に増加した。液体製剤及び凍結乾燥製剤の両方で、0.3mg/ml以上のPTH濃度において安定性は優れていた。
【0036】
実施例2−pH安定性
PTH(0.2mg/ml)と、pH4、4.5、5、5.5、6、及び6.5各々のクエン酸ナトリウム/クエン酸(10mM)と、マンニトール(50mg/ml)とからなる、6つの異なる製剤を調製した。アリコート(1ml)を窒素下で2mlのガラスバイアルに密封し、RP-HPLCによりPTHの純度について分析した。
【0037】
結果を表3及び図2に示す。ほとんどの反応で、予想されたとおりより高い温度において分解が加速された。この温度の影響の概算により、試験された全てのpH値において、+4℃から+25℃の温度区間ではQ10が約2であり、+25℃から+37℃の温度区間ではQ10が約3であることが示された。このQ10値の範囲は、他の生化学的反応と一致しており、加速された分解の研究のためにより高い温度を使用することの理由となる。結果は、pH4.5〜5.5の製剤が、PTH安定性に関して有利な特性を有していることを示している。全ての製剤が、保存後に、外観上透明な無色の溶液であった。さらに、製剤は、+4℃、pH4〜6の間において安定であった。
【0038】
実施例3−PTHの安定性に対するイオン強度の影響
PTH(0.2mg/ml)と、pH6のクエン酸ナトリウム/クエン酸(10mM)と、マンニトール(50mg/ml)とからなる製剤を調製した。NaClを図3に示された最終濃度で添加した。NaClが添加された製剤は、増加したイオン強度を有するのに加え、血漿と比較して高張であった。アリコート(1ml)を窒素下で2mlのガラスバイアルに密封し、RP-HPLCによりPTHの純度について分析した。
【0039】
図3に示された結果は、より高い温度において、イオン強度が増加するにつれ、安定性がわずかに増加したことを示している。しかし、+4℃では、製剤は、イオン強度の増加によりPTH安定性に関する影響を受けなかった。全ての製剤が、保存後に外観上透明な無色の溶液であった。
【0040】
実施例4−PTHの安定性に対する浸透圧修飾剤の影響
浸透圧修飾剤(5%マンニトール又は0.9%NaCl)の存在下で、PTH(0.2mg/ml)とpH5.5のクエン酸ナトリウム/クエン酸(10mM)とを含む製剤を調製した。アリコート(0.7ml)を窒素下で3mlのガラスバイアルに密封した。示された温度で保存した後、バイアルを破壊し、アデニル酸シクラーゼ・アッセイを用いて、純度、酸化型PTH(ox-M(8)-PTH及びox-M(18)-PTH)、脱アミド化PTH(d16-PTH)、及び生物学的活性についてPTH製剤を分析した。
【0041】
表4に示された結果は、分解が浸透圧修飾剤により影響を受けなかったことを示している。PTHの生物学的活性は、研究した全ての温度で保存されていた。全ての製剤が、保存後に、外観上透明な無色の溶液であった。酸化型PTH及び脱アミド化PTHの形成、並びにPTH濃度の減少は、+4℃において18ヶ月後、無視しうるものであった。
【0042】
実施例5−予備充填されたシリンジ中のPTHに対する酸化圧の影響
PTH(0.25mg/ml)と、pH5.5のクエン酸ナトリウム/クエン酸(10mM)と、NaCl(9mg/ml)を含む製剤を調製した。アリコート0.4mlを蓋付きの注射針が装填されたシリンジに充填し、ゴム製プランジャーを溶液と接触するよう取り付けた。シリンジを、表5に示されたように、大気中又は保護的窒素雰囲気中で保存した。シリンジの内容物を、PTHの純度、酸化、及び脱アミド化について分析した。
【0043】
表5に示された結果は、空気の存在が、酸化、脱アミド化、PTHの純度のいずれにも、認めうるほどの影響を与えないことを示している。さらに、PTH製剤は、生成物容器内で+4℃で安定であった。
【0044】
実施例6−PTHの安定性に対する保存剤の影響
(a)
PTH(1.3mg/ml)と、pH5.51のクエン酸ナトリウム/クエン酸(10mM)と、マンニトール(50mg/ml)とを含む製剤を調製した。いくつかの製剤は、さらに保存剤(3mg/mlのm-クレゾール又は1mg/mlのEDTA)を含んでいた。
【0045】
製剤のアリコート(0.5ml)を窒素下で3mlのガラスバイアルに密封し、冷蔵庫内(+2℃から+8℃)又は室温(+20℃から+25℃)にて保存した。2週間後、RP-HPLCにより、PTHの純度及びPTHの酸化型について、製剤をアッセイした。
【0046】
表6に示された結果は、製剤がm-クレゾール又はEDTAにより影響を受けなかったことを示している。
【0047】
(b)
PTH(0.8mg/ml)と、pH5.5のクエン酸ナトリウム/クエン酸(10mM)と、NaCl(9mg/ml)とからなる製剤を調製した。いくつかの製剤に、保存剤、m-クレゾール又はベンジルアルコールを、それぞれ3mg/ml又は10mg/mlの濃度で添加した。
【0048】
アリコート0.5mlを窒素下で3mlのガラスバイアルに密封し、液体がゴム製ストッパーと接触するよう反転させて保存した。+4℃における保存の後、PTH、酸化型PTH、及び脱アミド化PTHについて、製剤をアッセイした。
【0049】
結果は、表7に示されている。m-クレゾールの存在下でのPTHの安定性は、対照の安定性とほぼ同等であった。ベンジルアルコールの存在下では、PTHの安定性は減少し、その原因の大部分はM8酸化型及びM18酸化型のPTHの形成であると考えられた。保存後のPTHの濃度は、保存剤の存在により影響を受けなかった(データは示していない)。以前の実験は、PTHの生物学的活性がこれらの保存剤の存在により影響を受けないことを示している。さらに、これらの保存剤は、米国薬局方及びヨーロッパ薬局方に記載された方法による微生物接種後の微生物増殖に対する満足のゆく保護を与えた(データは示していない)。試験された製剤において、PTHは、有効な保存剤の存在下で安定であり、従って複数回投与用生成物において製剤を使用することが可能である。
【0050】
(表1) 凍結乾燥製剤中のPTHの安定性

n.d.=未決定
【0051】
(表2) 液体製剤中のPTHの安定性

n.d.=未決定
【0052】
(表3) 異なるPH値におけるPTHの安定性

n.d.=未決定
【0053】
(表4) 浸透圧修飾剤存在下におけるPTHの安定性

n.d.=未決定;M8=ox-M(8)-PTH;M18=ox-M(18)-PTH
【0054】
(表5) 空気の存在下におけるPTHの安定性

<d.l.=検出レベル未満;n.d.=未決定;M8=ox-M(8)-PTH;M18=ox-M(18)-PTH
【0055】
(表6) 保存剤の存在下におけるPTHの安定性

Refr.=冷蔵庫内;RT=室温;M8=ox-M(8)-PTH;M18=ox-M(18)-PTH
【0056】
(表7) 保存剤の存在下におけるPTHの安定性

<d.l.=検出レベル未満;M8=ox-M(8)-PTH;M18=ox-M(18)-PTH

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.3mg/ml〜10mg/ml又はそれ以上の濃度のヒト副甲状腺ホルモンと、pH4〜6である薬学的に許容される緩衝液と、少なくとも一つの浸透圧修飾剤(tonicity modifier)とを含む薬学的製剤。
【請求項2】
ヒト副甲状腺ホルモンが組換えヒト副甲状腺ホルモンである、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
ヒト副甲状腺ホルモンが全長副甲状腺ホルモンである、請求項1または2記載の製剤。
【請求項4】
ヒト副甲状腺ホルモンの濃度が0.3mg/ml〜5mg/mlである、請求項1から3のいずれか一項記載の製剤。
【請求項5】
ヒト副甲状腺ホルモンの濃度が1mg/ml〜3mg/mlである、請求項4記載の製剤。
【請求項6】
薬学的に許容される緩衝液が、5〜20mMの濃度のクエン酸緩衝液である、請求項1から5のいずれか一項記載の製剤。
【請求項7】
薬学的に許容される緩衝液がpH5〜6である、請求項1から6のいずれか一項記載の製剤。
【請求項8】
浸透圧修飾剤が塩化ナトリウム及び/又はマンニトールである、請求項1から7のいずれか一項記載の製剤。
【請求項9】
1〜3mg/mlの副甲状腺ホルモンと、2〜5mg/mlのNaClと、20〜50mg/mlのマンニトールと、pH4〜6である5〜10mMのクエン酸緩衝液とを含み、かつ場合により保存剤を含む、請求項1から8のいずれか一項記載の製剤。
【請求項10】
液体形態である、請求項1から9のいずれか一項記載の製剤。
【請求項11】
凍結乾燥形態である、請求項1から9のいずれか一項記載の製剤。
【請求項12】
0.3〜10mg/mlの濃度のヒト副甲状腺ホルモンと、少なくとも一つの浸透圧修飾剤とを、pH4〜6である薬学的に許容される緩衝液に溶解させる段階を含む、請求項1から11のいずれか一項記載の薬学的製剤の調製方法。
【請求項13】
骨障害の治療又は予防において使用するための、請求項1から11のいずれか一項記載の薬学的製剤。
【請求項14】
骨粗鬆症の治療又は予防において使用するための、請求項1から11のいずれか一項記載の薬学的製剤。
【請求項15】
骨障害の治療又は予防のための薬学的製剤の製造における、0.3〜10mg/mlの濃度の副甲状腺ホルモンの使用であって、該薬学的製剤が、pH4〜6である薬学的に許容される緩衝液と、少なくとも一つの浸透圧修飾剤とをさらに含む使用。
【請求項16】
骨粗鬆症の治療又は予防のための、請求項15記載の使用。
【請求項17】
骨関連障害の治療又は予防を必要とするヒトを含む哺乳動物に、有効量の請求項1から11のいずれか一項記載の製剤を投与する段階を含む、骨関連障害の治療又は予防のための方法。
【請求項18】
骨粗鬆症の治療又は予防のための、請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−105739(P2011−105739A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11811(P2011−11811)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【分割の表示】特願2000−545551(P2000−545551)の分割
【原出願日】平成11年4月26日(1999.4.26)
【出願人】(505166351)エヌピーエス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】NPS PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】