説明

タンパク質重合用組成物

【課題】高効率のタンパク質重合法およびタンパク質重合用組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】上記課題は、重合させたいタンパク質をナメコ由来のチロシナーゼと接触する工程を包含する方法を提供することによって、解決された。また、上記課題は、ナメコ由来のチロシナーゼを含むタンパク質重合用組成物を提供することによって解決された。本発明においては、必要に応じて、グルタミルトランスフェラーゼを使用してもよい。また、重合されるタンパク質としては、魚肉タンパク質、卵白タンパク質、大豆タンパク質、コラーゲン、カゼイン、および、ゼラチンが挙げられるがこれらに限定されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素反応によるタンパク質の重合の分野に関連する。より具体的には、ナメコ由来のチロシナーゼを用いるタンパク質の重合の分野に関連する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の重合は食品の製造に大きく関わっており、畜肉、魚肉、植物タンパク質、コラーゲン等のタンパク質を重合させることによりゲル様の食品や粘性を帯びた食品を製造する事が可能である。
【0003】
タンパク質の重合に用いられる代表的な方法は、タンパク質に含有されるアミノ基との反応を利用したエポキシ化合物、イソシアネート化合物、アジド化合物、アルデヒド化合物、塩化スルホニル化合物、ヒドロキシコハク酸イミドとカルボキシル化合物などによる架橋または修飾方法、タンパク質に含有されるカルボキシル基を利用したカルボジイミド化合物とアミノ化合物などによる架橋または修飾方法、タンパク質に含有されるチオール基を利用したハロゲン化アルキル化合物、マレイミド化合物、アジリジン化合物などによる架橋または修飾方法、加熱による架橋方法などの化学的方法がある(非特許文献1、特許文献1〜3)。
【0004】
上記の化学的方法は反応環境が生体と著しく異なること、有機溶媒や特殊な触媒を使用すること、活性の高い化合物を使用することなどの種々の問題を有している。そのため、医療用途においては生体適合性の観点から活性物質を高濃度で含有することができなかったり、架橋または修飾反応後に洗浄などの工程が必要となったりする。また、毒性の高い溶媒,触媒または化合物を用いる場合は、用時ゲル化には不向きであり、例えば生体内でゲル化させるような用途においては、生体に対して大きな侵襲を与えることになる。一方、反応環境を温和にしたり、使用する化合物の毒性を懸念し、活性の低い化合物を使用すると、反応に著しく時間を要したり、充分に反応が進まず、実用的な反応時間において目的とする性状の物を得られないことがある。
【0005】
化学的方法を用いない重合法としては、グルタミルトランスフェラーゼのような酵素による方法があるが、公知のタンパク質をグルタミルトランスフェラーゼで処理することによって得られたハイドロゲルは安定性が低く、数日でハイドロゲルが崩壊することがあり、ゲルとしての目的を達しないうちにゲルが失われてしまうなどの問題を有している。
【0006】
また、マッシュルーム由来のチロシナーゼをグルタミルトランスフェラーゼと組み合わせる酵素的重合法もあるが(特許文献4)、マッシュルーム由来のチロシナーゼは単独では重合活性を示さず、また、たとえグルタミルトランスフェラーゼと組み合わせた場合であっても、その重合活性は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−197234号公報
【特許文献2】特開平02−71749号公報
【特許文献3】特開平11−279296号公報
【特許文献4】特開2007−23079
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】G.T.Hermanson,BIOCONJUGATE TECHNIQUES, Elsevier Science(1996)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、予想外にも、ナメコ由来のチロシナーゼが非常に高い重合活性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
例えば、本発明によって、以下が提供される:
(項目1) ナメコ由来のチロシナーゼを含む、タンパク質重合用組成物。
(項目2) 前記ナメコ由来のチロシナーゼが、
(a)配列番号1または配列番号3に記載の塩基配列、あるいは、そのフラグメント配列を含む、ポリヌクレオチド;
(b)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列、あるいは、そのフラグメントをコードする配列を含む、ポリヌクレオチド、
(c)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、;
(d)(a)〜(c)のいずれか1つのポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;および
(e)(a)〜(c)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、または、99%である塩基配列からなるポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドによってコードされ、そして、チロシナーゼ活性を有する、項目1に記載の組成物。
(項目3) 前記ナメコ由来のチロシナーゼが、
(f)配列番号1または配列番号3に記載の塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;および、
(g)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列をコードする配列からなる、ポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドによってコードされる、項目1に記載の組成物。
(項目4) 重合されるタンパク質が、魚肉タンパク質、卵白タンパク質、および、大豆タンパク質からなる群から選択される、項目1に記載の組成物。
(項目5) 重合されるタンパク質が、コラーゲン、カゼイン、および、ゼラチンからなる群から選択される、項目1に記載の組成物。
(項目6) さらにグルタミルトランスフェラーゼを含む、項目1に記載の組成物。
(項目7) 前記グルタミルトランスフェラーゼが、グルタミルトランスペプチダーゼ、プロテイン−グルタミン−γ−グルタミルトランスフェラーゼ、プロテイン−グルタミン アミンγ−グルタミルトランスフェラーゼ、グルタモトランスフェラーゼ、および、トランスグルタミナーゼからなる群から選択される、項目6に記載の組成物。
(項目8) 前記グルタミルトランスフェラーゼがトランスグルタミナーゼである、項目6に記載の組成物。
(項目9) タンパク質を重合する方法であって、以下:
(A)ナメコ由来のチロシナーゼとタンパク質を接触させる工程、
を包含する方法。
(項目10) 項目9に記載の方法であって、ここで、前記ナメコ由来のチロシナーゼが、
(a)配列番号1または配列番号3に記載の塩基配列、あるいは、そのフラグメント配列を含む、ポリヌクレオチド;
(b)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列、あるいは、そのフラグメントをコードする配列を含む、ポリヌクレオチド、
(c)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、;
(d)(a)〜(c)のいずれか1つのポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;および
(e)(a)〜(c)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、または、99%である塩基配列からなるポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドによってコードされ、そして、チロシナーゼ活性を有する、項目9に記載の方法。
(項目11) 前記ナメコ由来のチロシナーゼが、
(f)配列番号1または配列番号3に記載の塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;および、
(g)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列をコードする配列からなる、ポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドによってコードされる、項目9に記載の方法。
(項目12) 項目9に記載の方法であって、ここで、前記タンパク質が、魚肉タンパク質、卵白タンパク質、および、大豆タンパク質からなる群から選択される、方法。
(項目13) 項目9に記載の方法であって、ここで、前記タンパク質が、コラーゲン、カゼイン、および、ゼラチンからなる群から選択される、方法。
(項目14) さらに
(B)タンパク質とグルタミルトランスフェラーゼとを接触させる工程、
を包含する、項目9に記載の方法。
(項目15) 前記グルタミルトランスフェラーゼが、グルタミルトランスペプチダーゼ、プロテイン−グルタミン−γ−グルタミルトランスフェラーゼ、プロテイン−グルタミン アミンγ−グルタミルトランスフェラーゼ、グルタモトランスフェラーゼ、および、トランスグルタミナーゼからなる群から選択される、項目14に記載の方法。
(項目16) 前記グルタミルトランスフェラーゼがトランスグルタミナーゼである、項目14に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、チロシナーゼ単独でタンパク質の重合を可能とする、ナメコ由来のチロシナーゼを含むタンパク質重合用組成物が提供される。また、本発明によって、チロシナーゼ単独でタンパク質の重合を可能とする、ナメコ由来のチロシナーゼを含むタンパク質の重合方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例3のSDS−PAGEの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念も含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0014】
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。
【0015】
本明細書において使用する場合、用語「チロシナーゼ」とは、チロシンを酸化してメラニンを生ずる酵素である。チロシナーゼ活性の測定方法については特に制限はなく、通常の方法により測定することができる。
【0016】
本明細書において「チロシナーゼ」の供給源として利用する「ナメコ」としては、Pholiota microspora(菌界,担子菌門,菌じん綱,ハラタケ目,モエギダケ科,スギタケ属,ナメコ)が挙げられるがこれらに限定されない。本明細書において使用される場合、「ナメコ由来のチロシナーゼ」とは、「ナメコ」から単離されたチロシナーゼ、または、ナメコのゲノムにコードされるチロシナーゼをいう。「ナメコ由来のチロシナーゼ」としては、配列番号1に記載の塩基配列またはその改変体によってコードされるポリペプチド、あるいは、配列番号2に記載のアミノ酸配列またはその改変体を含むポリペプチドをいい、例えば、
(a)配列番号1に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を含む、ポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントをコードする配列を含む、ポリヌクレオチド、
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、;
(d)(a)〜(c)のいずれか1つのポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;および
(e)(a)〜(c)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、または、99%である塩基配列からなるポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドによってコードされ、そして、チロシナーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられるがこれらに限定されない。
【0017】
本明細書において遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。また、本明細書において配列(核酸配列、アミノ酸配列など)の同一性とは、2以上の対比可能な配列の、互いに対する同一の配列(個々の核酸、アミノ酸など)の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて相同性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、相同性と類似性とは同じ数値を示す。
【0018】
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて算出される。
【0019】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本明細書において有用なフラグメントの長さは、そのフラグメントの基準となる全長タンパク質の機能のうち少なくとも1つの機能が保持されているかどうかによって決定され得る。
【0020】
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
【0021】
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0022】
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
【0023】
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0024】
本明細書において「高度にストリンジェントな条件」は、核酸配列において高度の相補性を有するDNA鎖のハイブリダイゼーションを可能にし、そしてミスマッチを有意に有するDNAのハイブリダイゼーションを除外するように設計された条件をいう。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、主に、温度、イオン強度、およびホルムアミドのような変性剤の条件によって決定される。このようなハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、65〜68℃(好ましくは65℃)、または0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および50%ホルムアミド、42℃である。このような高度にストリンジェントな条件については、Sambrooket al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory(ColdSpring Harbor,N,Y.1989);およびAnderson et al.、Nucleic Acid Hybridization:a Practicalapproach、IV、IRL Press Limited(Oxford,England).Limited,Oxford,Englandを参照のこと。必要により、よりストリンジェントな条件(例えば、より高い温度、より低いイオン強度、より高いホルムアミド、または他の変性剤)を、使用してもよい。他の薬剤が、非特異的なハイブリダイゼーションおよび/またはバックグラウンドのハイブリダイゼーションを減少する目的で、ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液に含まれ得る。そのような他の薬剤の例としては、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSOまたはSDS)、Ficoll、Denhardt溶液、超音波処理されたサケ精子DNA(または別の非相補的DNA)および硫酸デキストランであるが、他の適切な薬剤もまた、使用され得る。これらの添加物の濃度および型は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を与えることなく変更され得る。ハイブリダイゼーション実験は、通常、pH6.8〜7.4(好ましくはpH7.0)で実施されるが;代表的なイオン強度条件において、ハイブリダイゼーションの速度は、ほとんどpH独立である。Anderson et al.、NucleicAcid Hybridization:a Practical Approach、第4章、IRL Press Limited(Oxford,England)を参照のこと。
【0025】
DNA二重鎖の安定性に影響を与える因子としては、塩基の組成、長さおよび塩基対不一致の程度が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件は、当業者によって調整され得、これらの変数を適用させ、そして異なる配列関連性のDNAがハイブリッドを形成するのを可能にする。完全に一致したDNA二重鎖の融解温度は、以下の式によって概算され得る。
(℃)=81.5+16.6(log[Na])+0.41(%G+C)−600/N−0.72(%ホルムアミド)
ここで、Nは、形成される二重鎖の長さであり、[Na]は、ハイブリダイゼーション溶液または洗浄溶液中のナトリウムイオンのモル濃度であり、%G+Cは、ハイブリッド中の(グアニン+シトシン)塩基のパーセンテージである。不完全に一致したハイブリッドに関して、融解温度は、各1%不一致(ミスマッチ)に対して約1℃ずつ減少する。
【0026】
本明細書において配列(アミノ酸または核酸など)の「同一性」、「相同性」および「類似性」のパーセンテージは、比較ウィンドウで最適な状態に整列された配列2つを比較することによって求められる。ここで、ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の比較ウィンドウ内の部分には、2つの配列の最適なアライメントについての基準配列(他の配列に付加が含まれていればギャップが生じることもあるが、ここでの基準配列は付加も欠失もないものとする)と比較したときに、付加または欠失(すなわちギャップ)が含まれる場合がある。同一の核酸塩基またはアミノ酸残基がどちらの配列にも認められる位置の数を求めることによって、マッチ位置の数を求め、マッチ位置の数を比較ウィンドウ内の総位置数で割り、得られた結果に100を掛けて同一性のパーセンテージを算出する。検索において使用される場合、相同性については、従来技術において周知のさまざまな配列比較アルゴリズムおよびプログラムの中から、適当なものを用いて評価する。このようなアルゴリズムおよびプログラムとしては、TBLASTN、BLASTP、FASTA、TFASTAおよびCLUSTALW(Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(8):2444−2448、 Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Thompson et al.,1994,Nucleic Acids Res.22(2):4673−4680、Higgins et al.,1996,Methods Enzymol.266:383−402、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272)があげられるが、何らこれに限定されるものではない。特に好ましい実施形態では、従来技術において周知のBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)(たとえば、Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272、Altschul et al.,1997,Nuc.Acids Res.25:3389−3402を参照のこと)を用いてタンパク質および核酸配列の相同性を評価する。特に、5つの専用BLASTプログラムを用いて以下の作業を実施することによって比較または検索が達成され得る。
【0027】
(1) BLASTPおよびBLAST3でアミノ酸のクエリー配列をタンパク質配列データベースと比較;
(2) BLASTNでヌクレオチドのクエリー配列をヌクレオチド配列データベースと比較;
(3) BLASTXでヌクレオチドのクエリー配列(両方の鎖)を6つの読み枠で変換した概念的翻訳産物をタンパク質配列データベースと比較;
(4) TBLASTNでタンパク質のクエリー配列を6つの読み枠(両方の鎖)すべてで変換したヌクレオチド配列データベースと比較;
(5) TBLASTXでヌクレオチドのクエリ配列を6つの読み枠で変換したものを、6つの読み枠で変換したヌクレオチド配列データベースと比較。
【0028】
BLASTプログラムは、アミノ酸のクエリ配列または核酸のクエリ配列と、好ましくはタンパク質配列データベースまたは核酸配列データベースから得られた被検配列との間で、「ハイスコアセグメント対」と呼ばれる類似のセグメントを特定することによって相同配列を同定するものである。ハイスコアセグメント対は、多くのものが従来技術において周知のスコアリングマトリックスによって同定(すなわち整列化)されると好ましい。好ましくは、スコアリングマトリックスとしてBLOSUM62マトリックス(Gonnet et al.,1992,Science 256:1443−1445、Henikoff and Henikoff,1993,Proteins 17:49−61)を使用する。このマトリックスほど好ましいものではないが、PAMまたはPAM250マトリックスも使用できる(たとえば、Schwartz and Dayhoff,eds.,1978,Matrices for Detecting Distance Relationships: Atlas of Protein Sequence and Structure,Washington: National Biomedical Research Foundationを参照のこと)。BLASTプログラムは、同定されたすべてのハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価し、好ましくはユーザー固有の相同率などのユーザーが独自に定める有意性の閾値レベルを満たすセグメントを選択する。統計的な有意性を求めるKarlinの式を用いてハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価すると好ましい(Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268参照のこと)。
【0029】
(遺伝子、タンパク質分子、核酸分子などの改変)
あるタンパク質分子において、配列に含まれるあるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
【0030】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
【0031】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
【0032】
当該分野において、親水性指数もまた、改変設計において考慮され得る。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0033】
本明細書において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例としては、例えば、親水性指数または疎水性指数が、±2以内のもの同士、好ましくは±1以内のもの同士、より好ましくは±0.5以内のもの同士のものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0034】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。そのような改変体としては、基準となる核酸分子またはポリペプチドに対して、1または数個の置換、付加および/または欠失、あるいは1つ以上の置換、付加および/または欠失を含むものが挙げられるがそれらに限定されない。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。そのような対立遺伝子変異体は、通常その対応する対立遺伝子と同一または非常に類似性の高い配列を有し、通常はほぼ同一の生物学的活性を有するが、まれに異なる生物学的活性を有することもある。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトおよびマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子およびβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用である。オルソログは、通常別の種において、もとの種と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、本発明のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0035】
本明細書において「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。このような塩基配列の改変法としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark Zoller and Michael Smith,Methods in Enzymology,100,468−500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。
【0036】
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、短縮化、脂質化(lipidation)、ホスホリル化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0037】
本発明において重合の対象となるタンパク質としては、例えば、魚肉タンパク質、卵白タンパク質、および、大豆タンパク質からなる群から選択される、タンパク質、あるいは、コラーゲン、カゼイン、および、ゼラチンからなる群から選択される、タンパク質が挙げられるがこれらに限定されない。
【0038】
本明細書において使用する場合、用語「グルタミルトランスフェラーゼ」とは、グルタミル化合物のグルタミル基をアミン化合物に転移する酵素であり、グルタミルトランスペプチダーゼ、プロテイン−グルタミン−γ−グルタミルトランスフェラーゼ、プロテイン−グルタミン:アミンγ−グルタミルトランスフェラーゼ、グルタモトランスフェラーゼやトランスグルタミナーゼともよばれる。
【0039】
(変異型ポリペプチドの作製方法)
本発明のポリペプチドのアミノ酸の欠失、置換もしくは付加(融合を含む)は、周知技術である部位特異的変異誘発法により実施することができる。かかる1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加は、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38,JohnWiley & Sons(1987−1997)、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci USA,82,488(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,5662(1984)、Science,224,1431(1984)、PCT WO85/00817(1985)、Nature,316,601(1985)等に記載の方法に準じて調製することができる。
【0040】
(チロシナーゼ活性測定法)
チロシナーゼ活性測定法としては、周知の活性測定法を利用することが可能である。例えば、t−b−カテコールを基質とした比色法が挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
(グルタミルトランスフェラーゼ活性測定法)
グルタミルトランスフェラーゼ活性測定法としては、周知の活性測定法を利用することが可能である。トランスグルタミナーゼの活性は、例えば、合成基質であるZ−Gln−Glyに、一級アミンであるヒドロキシルアミンを取り込ませ、生成したヒドロキサム酸の量を定量することで測定可能である。代表的には、37℃、pH6.0で1分間に1μmolのヒドロキサム酸を生成する酵素量を1ユニットと規定する。
【0042】
以下に実施例等により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
(実施例1:ナメコからのチロシナーゼの精製)
ナメコ(Pholiota microspora)を出発材料として、以下の手順により精製した。
【0044】
ナメコ200gに0.15M NaCl 600mlを添加し、ミキサーで破砕し(15秒×2回粉砕)、さらに、ポリトロンで破砕し(30秒処理30秒冷却を7セット)、遠心分離(10,000×g、30秒)によって上清を回収した。30%飽和の硫安を用い、硫安分画を行った(遠心分離は、10,000×g、15分)。上清を回収し、さらに、60%飽和の硫安を用い、硫安分画を行った(遠心分離は、10,000×g、15分)。沈殿を回収し、50mM Tris−HCl pH7.2に溶解し、透析を行い(50mM Tris−HCl pH7.2での透析を2回)、遠心分離(8,000×g、30分)後、上清を回収した。
【0045】
上清について、陰イオン交換クロマトグラフィー(DEAE−Tyopearl)を行なった。洗浄には、50mM Tris−HCl(pH7.2)を用い、溶出には、(50mM Tris−HCl pH7.2 + 0.5M 硫酸アンモニウム)を用いた。
【0046】
溶出液について、透析を行い(50mM Tris−HCl pH7.2での透析を2回)、限外ろ過によって濃縮し、精製酵素溶液とした。
【0047】
(実施例2:チロシナーゼの活性測定法)
以下に記載のとおり、t−b−カテコールを基質とした比色法によりチロシナーゼの活性測定を行なった。具体的には、以下のとおりである。
【0048】
50mM Tris−HCl pH7.2 400μl、20mM t−b−カテコール 8μl、蒸留水 391μlに1μlのサンプルまたはブランク(蒸留水)を添加し、計800μlの活性測定反応液とした。
【0049】
分光光度計のセルホルダーを25℃に保温し、400nmでタイムスキャンをし、吸光度の変化を記録した。得られたスペクトルからt−b−catecholの変化量を算出し、酵素単位を算出した。
【0050】
(実施例3:カゼインの重合)
カゼインを50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解した。実施例1で精製したチロシナーゼ酵素溶液を蒸留水で0.002U/μlに希釈し、チロシナーゼ酵素溶液とした。トランスグルタミナーゼ(アクティバTG−K)を蒸留水で0.05U/μlになるように溶解した。
【0051】
以下の表1の反応条件に、反応溶液を調製した。「C」は、コントロールであり、T1〜T5は、各酵素溶液を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
次に、30℃ 60分間、ウォーターバス中でインキュベートし、反応後速やかに煮沸し、反応を終了した。
【0054】
反応終了後、SDS−PAGEによって、カゼインバンドのシフトを確認した。その結果を図1に示す。左から1〜6レーンは、「C」および「T1」〜「T5」を10μLアプライしたレーンであり、左から7〜12レーンは、「C」および「T1」〜「T5」を20μLアプライしたレーンである。
【0055】
ゲルを、GS−300TM Calibrated Densitometer(BIO−RAD社製)にてバンドの強度を測定し、重合度を数値化した。その結果は、以下の表2のとおりである。
【0056】
【表2】

【0057】
コントロールと比較して、カゼインの位置に対応するバンドの強度が減少し、同時に、スタッキングゲルの上部に、ゲル内に侵入できなかったサイズのタンパク質が確認されたことから、上記T1〜T5では、酵素反応によってカゼインが重合したと結論付けた。また、バンドの強度から、重合の程度は、T2>T3>T4>T1>T5の順番であった。
【0058】
以上の結果から、トランスグルタミナーゼを用いることなく、ナメコ由来のチロシナーゼのみを用いた場合であっても、高いタンパク質重合活性が確認された。この結果は、チロシナーゼのみを用いた場合に重合活性が確認できなかったマッシュルームのチロシナーゼの結果(特開2007−23079)とは対照的である。ナメコ由来のチロシナーゼの重合活性は、トランスグルタミナーゼの重合活性よりも非常に高く、予想外に優れていたことが実証された。また、ナメコ由来のチロシナーゼに、トランスグルタミナーゼを添加することによって、タンパク質重合活性がさらに増加した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本技術を用いることにより、今までゲル化できなかったタンパク質又は、脆いゲルしか作れなかったタンパク質を強固なゲル状にすることが可能となり、新規な食感を持った食品の製造が可能となる。
【配列表フリーテキスト】
【0060】
配列番号1:ナメコ(Pholiota microspora)由来のチロシナーゼtyr1をコードする遺伝子の核酸配列
配列番号2:ナメコ(Pholiota microspora)由来のチロシナーゼtyr1のアミノ酸配列
配列番号3:ナメコ(Pholiota microspora)由来のチロシナーゼtyr2をコードする遺伝子の核酸配列
配列番号4:ナメコ(Pholiota microspora)由来のチロシナーゼtyr2のアミノ酸配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナメコ由来のチロシナーゼを含む、タンパク質重合用組成物。
【請求項2】
前記ナメコ由来のチロシナーゼが、
(a)配列番号1または配列番号3に記載の塩基配列、あるいは、そのフラグメント配列を含む、ポリヌクレオチド;
(b)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列、あるいは、そのフラグメントをコードする配列を含む、ポリヌクレオチド、
(c)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、;
(d)(a)〜(c)のいずれか1つのポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;および
(e)(a)〜(c)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなるポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドによってコードされ、そして、チロシナーゼ活性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ナメコ由来のチロシナーゼが、
(f)配列番号1または配列番号3に記載の塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;および、
(g)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列をコードする配列からなる、ポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドによってコードされる、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
重合されるタンパク質が、魚肉タンパク質、卵白タンパク質、および、大豆タンパク質からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
重合されるタンパク質が、コラーゲン、カゼイン、および、ゼラチンからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
さらにグルタミルトランスフェラーゼを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記グルタミルトランスフェラーゼが、グルタミルトランスペプチダーゼ、プロテイン−グルタミン−γ−グルタミルトランスフェラーゼ、プロテイン−グルタミン アミンγ−グルタミルトランスフェラーゼ、グルタモトランスフェラーゼ、および、トランスグルタミナーゼからなる群から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記グルタミルトランスフェラーゼがトランスグルタミナーゼである、請求項6に記載の組成物。

【請求項9】
タンパク質を重合する方法であって、以下:
(A)ナメコ由来のチロシナーゼとタンパク質を接触させる工程、
を包含する方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、ここで、前記ナメコ由来のチロシナーゼが、
(a)配列番号1または配列番号3に記載の塩基配列、あるいは、そのフラグメント配列を含む、ポリヌクレオチド;
(b)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列、あるいは、そのフラグメントをコードする配列を含む、ポリヌクレオチド、
(c)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド、;
(d)(a)〜(c)のいずれか1つのポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;および
(e)(a)〜(c)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなるポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドによってコードされ、そして、チロシナーゼ活性を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ナメコ由来のチロシナーゼが、
(f)配列番号1または配列番号3に記載の塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;および、
(g)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列をコードする配列からなる、ポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドによってコードされる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法であって、ここで、前記タンパク質が、魚肉タンパク質、卵白タンパク質、および、大豆タンパク質からなる群から選択される、方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法であって、ここで、前記タンパク質が、コラーゲン、カゼイン、および、ゼラチンからなる群から選択される、方法。
【請求項14】
さらに
(B)タンパク質とグルタミルトランスフェラーゼとを接触させる工程、
を包含する、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記グルタミルトランスフェラーゼが、グルタミルトランスペプチダーゼ、プロテイン−グルタミン−γ−グルタミルトランスフェラーゼ、プロテイン−グルタミン アミンγ−グルタミルトランスフェラーゼ、グルタモトランスフェラーゼ、および、トランスグルタミナーゼからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記グルタミルトランスフェラーゼがトランスグルタミナーゼである、請求項14に記載の方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−172145(P2012−172145A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39048(P2011−39048)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(511169999)石川県公立大学法人 (12)
【出願人】(000132172)株式会社スギヨ (23)
【Fターム(参考)】