説明

ターゲット、CoベースのまたはFeベースの磁気記録媒体のための下層材料および磁気記録媒体

【課題】スパッタリング中にターゲットからの粒子の落下を効果的に減少させることができる、CoベースのまたはFeベースの磁気記録媒体の下層材料のためのターゲットを提供する。
【解決手段】立方結晶構造を有するマグネシウム一酸化物ベースの(MgOベースの)複合物からなるターゲットであって、MgOベースの複合物が、MgOおよび単数または複数の酸化物を備える、CoベースのまたはFeベースの磁気記録媒体の下層材料のためのターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットに関し、特に粒子の間の結合力を改善することができてかつCoベースのまたはFeベースの磁気記録媒体のための下層材料として用いられるターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
CoCrベースの複合物が、通常垂直磁化記録媒体の記録層内に用いられる。一般に、記録層の配設されたフィルムが、均一に分散された粒状物、粒状物成長の所望の粗さおよび適切な向きを有するようにするために、記録層の下の下層は通常ルテニウム−酸化物(Ru−酸化物)およびルテニウム合金(Ru−X、Xは金属元素を表す)のような、ルテニウムベースの材料およびプラチナ材料から作られる。
【0003】
高い磁気異方性を備えた鉄ベースの(Feベースの)またはコバルトベースの(Coベースの)記録層に関連づけられる多くの調査が、報告されている。従来通りにそれらの磁気的に異方性の記録層は磁気記録密度を向上するために有益である。下層材料は大部分がマグネシウム一酸化物(MgO)から作られ、記録層材料が粒状物成長の適切な配向を有し、および、粒子が相互の影響なしで別々に分散することを可能にするために、それは立方結晶構造を有する。しかしながら、マグネシウム一酸化物だけから作られるターゲットは、スパッタリング中に下層の配設されたフィルム内の粒子の落下および次いで欠陥の成形に至る可能性がある。フィルム内の欠陥は、製造の産出率を減少させる。したがって、Coベースのおよび/またはFeベースの磁気記録媒体の従来の下層材料の欠点を克服するために、本発明は上述した問題を緩和するかまたは取り除くターゲットを提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主要な目的は、CoベースのまたはFeベースの磁気記録媒体の下層材料として用いられてかつ粒子の間の結合力を改善することができるターゲットを提供する。本発明に従うターゲットは、スパッタリング中に下層の配設されたフィルム内の粒子の落下および欠陥の形成を克服することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために、本発明に従うターゲットはMgOの立方結晶構造を有するMgOベースの複合物であり、このMgOベースの複合物がMgOおよび単数または複数の酸化物を備える。
【0006】
好ましくは、単数または複数の酸化物は亜鉛一酸化物(ZnO)、ニッケル一酸化物(NiO)、酸化第一鉄(FeO)およびそれの組合せからなる群から選ばれる物質(複数物質)を備える。
【0007】
本発明の第2の目的は、CoベースのまたはFeベースの磁気記録媒体の下層材料を提供し、下層が、前記ターゲットをスパッタリングすることから作られるMgOベースの複合物であり、および、このMgOベースの複合物が実質的にMgO、単数または複数の酸化物および他の避けられない不純物から成る。
【0008】
好ましくは、単数または複数の酸化物は亜鉛一酸化物(ZnO)、ニッケル一酸化物(NiO)、酸化第一鉄(FeO)およびそれの組合せからなる群から選ばれる物質(複数物質)を備える。
【0009】
本発明の第3の目的は、下層および下層上に配設されるコバルトベースのまたは鉄ベースの磁気記録層を備える磁気記録媒体を提供し、下層が、前記ターゲットをスパッタリングすることから作られるMgOベースの複合物であり、および、このMgOベースの複合物が実質的にMgO、単数または複数の酸化物および他の避けられない不純物から成る。
【0010】
好ましくは、単数または複数の酸化物は亜鉛一酸化物(ZnO)、ニッケル一酸化物(NiO)、酸化第一鉄(FeO)およびそれの組合せからなる群から選ばれる物質(複数物質)を備える。
【0011】
本発明に従って、「実質的に成る」は、材料が主に指定された物質を備え、一方、材料がさらに他の避けられない不純物を含むことを意味する。具体的には、MgOベースの複合物は主にMgOおよび単数または複数の酸化物から成り、ここで、MgOベースの複合物は他の避けられない不純物を含有する。
【0012】
下層材料を形成するために本発明に従うMgOベースの複合物から成るターゲットを用いることは、粒子の間の結合力を改善して粒子の落下を効果的に減少させることができる。単数または複数の酸化物の各々の格子定数はMgOのそれより小さく、および、単数または複数の酸化物はMgOとの単一固溶体相を形成することができる。したがって、MgOベースの複合物に単数または複数の酸化物を追加することは、MgOの元の立方結晶構造を維持し、したがって下層材料の特性および機能を維持することができる。
【0013】
本発明の他の目的、利点および新奇な特徴は、添付の図面を参照しながら、以下の詳細な説明からより明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来技術に従う比較例1内の従来のMgOベースのターゲットの金属顕微鏡画像である。
【図2】従来技術に従う比較例1内の従来のMgOターゲットのX線回折画像である。
【図3】本発明に従う例1内のMgO−NiOターゲットの金属顕微鏡画像である。
【図4】本発明に従う例1内のMgO−NiOターゲットのX線回折画像である。
【図5】本発明に従う例2内のMgO−ZnOターゲットの金属顕微鏡画像である。
【図6】本発明に従う例2内のMgO−ZnOターゲットのX線回折画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、コバルトベースのまたは鉄ベースの磁気記録媒体を形成するための下層材料であるターゲットを提供する。ここで、ターゲットはMgOの立方結晶構造を有するMgOベースの複合物であり、このMgOベースの複合物が、MgO、単数または複数の酸化物および他の避けられない不純物を備える。
【0016】
好ましい一実施態様において、単数または複数の酸化物は亜鉛一酸化物(ZnO)、ニッケル一酸化物(NiO)、酸化第一鉄(FeO)およびそれの組合せからなる群から選ばれる物質(複数物質)を備える。
【0017】
本発明はさらに、CoベースのまたはFeベースの磁気記録媒体の下層材料を提供し、下層材料は、MgOベースの複合物であり、および、このMgOベースの複合物が実質的にMgOおよび単数または複数の酸化物から成る。
【0018】
好ましい一実施態様において、単数または複数の酸化物は亜鉛一酸化物、ニッケル一酸化物、酸化第一鉄およびそれの組合せからなる群から選ばれる物質(複数物質)を備える。
【0019】
本発明は、下層および下層上に配設されるコバルトベースのまたは鉄ベースの記録層を備える磁気記録媒体を提供し、ここで、下層がMgOベースの複合物であり、および、MgOベースの複合物が実質的にMgOおよび単数または複数の酸化物から成る。
【0020】
好ましい一実施態様において、単数または複数の酸化物は亜鉛一酸化物、ニッケル一酸化物、酸化第一鉄およびそれの組合せからなる群から選ばれる物質(複数物質)を備える。
【0021】
本発明は、更に以下の例で例示され、本願明細書に記載されている例および実施態様は、例証となる目的だけのためにあって、かつ本願明細書に記載される実施態様を限定するように解釈されるべきでないと理解されるべきである。
【実施例】
【0022】
比較例1:MgOターゲットの製作
【0023】
400グラムのMgO粉末(平均粒径:1μm)が、120分の間450°Cで焼成された。次いで、粉末が黒鉛型内に充填されてよく分散され、次いで、300psiの液圧プレスの下で圧粉体を形成するために圧縮された。圧粉体を伴う黒鉛型はホットプレス炉に入れられ、および、圧粉体はMgOターゲットを得るために240分の間381バールの下で1300°Cで焼結された。
【0024】
次いで、MgOサンプルターゲットの3部材をそれぞれ第1の、第2のおよび第3の回転プレート上に置いた後に、各サンプル部材が1035秒の間、150ワット(W)で室温で、高周波スパッタリングによって試験される。粒子カウンタ(KLA Tencor 6420)がスパッタリング中にMgOサンプルターゲットの部材から落下する粒子の数を計数し、および、結果が後述するようにテーブル1内に示される。
【0025】
図1は、走査型電子顕微鏡(日立N−3400 SEM)によって撮られた比較例1のMgOターゲットの金属顕微鏡画像を示し、および、図2はX線回折装置(Bruker−AXSジーメンス)によって撮られた比較例1のMgOターゲットのX線粉末回折画像を示す。アルキメデス法で測定されるMgOターゲットの絶対密度割る理論上の密度が、それの相対密度に等しい。
【0026】
図1に示すように、MgOターゲットは5μmから25μmにわたる平均粒径を備えた高密度構造を有する。図2に示すように、MgOターゲットの構造はペリクレースのそれと類似である、すなわち、MgOターゲットは立方結晶構造を有する。MgOターゲットの相対密度は、計算によると98.5%を超える。テーブル1に示すように、スパッタリング中にMgOサンプルターゲットの3部材から落下する粒子の平均数は、1平方インチにつき83である。
例1:60MgO−40NiOターゲットの製作
【0027】
175.02グラムのMgO粉末(平均粒径:1μm)、216.23グラムのNiO粉末(平均粒径:1.5μm)が、そのMgO粉末が120分の間450°Cで焼成された後、120分の間ローラー粉末混合機械によって混合された。次いで、それらの粉末が60−メッシュシーブによってふるいにかけられた。60−メッシュシーブでふるいにかけられた粉末は、混合物を形成するために均一に混合された。混合物は黒鉛型内に充填されてよく分散され、次いで、300psiの液圧プレスの下で圧粉体を形成するために圧縮される。圧粉体を伴う黒鉛型がホットプレス炉に入れられ、および、圧粉体が60MgO−40NiOターゲット(以下「MgO−NiOターゲット」)を得るために240分の間381バールの下で1300°Cで焼結された。
【0028】
次いで、MgO−NiOサンプルターゲットの3部材をそれぞれ第1の、第2のおよび第3の回転プレート上に置いた後に、各サンプル部材は1035秒の間、150Wで室温で、高周波スパッタリングによって試験される。粒子カウンタ(KLA Tencor 6420)がスパッタリング中にMgO−NiOサンプルターゲットの部材から落下する粒子の数を計数し、および、結果が後述するようにテーブル1内に示される。
【0029】
図3は、走査型電子顕微鏡(日立N−3400 SEM)によって撮られた例1のMgO−NiOターゲットの金属顕微鏡画像を示し、および、図4はX線粉末回折装置(Bruker−AXSジーメンス)によって撮られた例1のMgO−NiOターゲットのX線粉末回折画像を示す。MgO−NiOターゲットの結晶構造は、また、粉末回折規格合同委員会(JCPDS)のデータベースと比較される。アルキメデス法で測定されるMgO−NiOターゲットの絶対密度割る理論上の密度が、それの相対密度に等しい。
【0030】
テーブル1:MgOターゲット、60MgO−40NiOターゲットおよび90MgO−10ZnOターゲットから落下する粒子の数と粒子の減少するパーセントの比較
【0031】
【表1】

【0032】
図3に示すように、MgO−NiOターゲットは5μmから25μmにわたる平均粒径を備えた高密度構造を有する。図4に示すように、MgO−NiOターゲットの構造はペリクレースのそれと類似である、すなわち、MgO−NiOターゲットもまた立方結晶構造を有する。MgO−NiOターゲットの相対密度は、計算によると98.5%を超える。テーブル1に示すように、スパッタリング中に3サンプル部材のMgO−NiOターゲットから落下する粒子の平均数は、1平方インチにつき54である。比較例1に従うMgOターゲットと比較して、MgO−NiOターゲットから落下する粒子はMgOターゲットから落下するそれらより約35%少ない(すなわち、パーセントはMgOターゲットとMgO−NiOターゲットから落下する粒子の数の間の差割るMgOターゲットから落下する粒子の数によって算出され、ここで、2つのターゲットから落下する粒子の数の間の差異はMgOターゲットから落下する粒子の数引くMgO−NiOターゲットから落下する粒子の数である。
例2:90MgO−10ZnOターゲットの製作
【0033】
332グラムのMgO粉末(平均粒径:1μm)、74.4グラムのZnO粉末(平均粒径:0.5μm)が、そのMgO粉末が120分の間450°Cで焼成された後、120分の間ローラー粉末混合機械によって混合された。次いで、それらの粉末は60−メッシュシーブによってふるいにかけられた。60−メッシュシーブでふるいにかけられた粉末は、混合物を形成するために均一に混合された。混合物は黒鉛型内に充填されてよく分散され、次いで、300psiの液圧プレスの下で圧粉体を形成するために圧縮される。圧粉体を伴う黒鉛型がホットプレス炉に入れられ、および、圧粉体が90MgO−10ZnOターゲット(以下「MgO−ZnOターゲット」)を得るために240分の間381バールの下で1300°Cで焼結された。
【0034】
次いで、サンプルMgO−ZnOターゲットの3部材をそれぞれ第1の、第2のおよび第3の回転プレート上に置いた後に、各サンプル部材が1035秒の間、150Wで室温で、スパッタリングによって試験される。粒子カウンタ(KLA Tencor 6420)がスパッタリング中にサンプルMgO−ZnOターゲットの部材から落下する粒子の数を計数し、および、結果がテーブル1内に示される。
【0035】
図5は、走査型電子顕微鏡(日立N−3400 SEM)によって撮られた例2のMgO−ZnOターゲットの金属顕微鏡画像を示し、および、図6はX線粉末回折装置(Bruker−AXSジーメンス)によって撮られた例2のMgO−ZnOターゲットのX線粉末回折画像を示す。MgO−ZnOターゲットの結晶構造は、また、粉末回折規格合同委員会(JCPDS)のデータベースと比較される。アルキメデス法で測定されるMgO−ZnOターゲットの絶対密度割る理論上の密度が、それの相対密度に等しい。
【0036】
図5に示すように、MgO−ZnOターゲットは5μmから25μmにわたる平均粒径を備えた高密度構造を有する。図5に示すように、MgO−ZnOターゲットの構造はペリクレースのそれと類似である、すなわち、MgO−ZnOターゲットもまた立方結晶構造を有する。MgO−ZnOターゲットの相対密度は、計算によると98.5%を超える。テーブル1に示すように、スパッタリング中に3サンプル部材のMgO−ZnOターゲットから落下する粒子の平均数は、1平方インチにつき68である。比較例1に従うMgOターゲットと比較して、MgO−ZnOターゲットから落下する粒子はMgOターゲットから落下するそれらより約18%少ない(すなわち、パーセントはMgOターゲットとMgO−ZnOターゲットから落下する粒子の数の間の差割るMgOターゲットから落下する粒子の数によって算出される。
【0037】
前述の記述に基づいて、本発明はMgOおよび他の金属酸化物を有する複合物から作られるターゲットを提供し、それはCoベースのまたはFeベースの磁気記録媒体の下層材料として用いられることができる。本発明に従うターゲットから落下する粒子の平均数は、スパッタリング中に非常に減少する。その上、ターゲットの立方結晶構造は安定していることができ、かつCoベースのまたはFeベースの磁気記録媒体の下層材料を製造する際の用途に有益である。
【0038】
たとえ本発明の多数の特性および利点が、本発明の構造および特徴の詳細と共に、前述の記述内に記載されたとはいえ、開示は例証となるだけである。変更が詳細において、特に形状、寸法および部分の配置の事柄において、添付の請求の範囲が表現される用語の幅広い一般的な意味によって示唆される最大限に対して本発明の原理内でなされることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgOの立方結晶構造を有するMgOベースの複合物であるターゲットであって、前記MgOベースの複合物が、MgOおよび単数または複数の酸化物を備える、ことを特徴とするターゲット。
【請求項2】
前記単数または複数の酸化物が亜鉛一酸化物、ニッケル一酸化物、酸化第一鉄およびそれの組合せからなる群から選ばれる物質(複数物質)を備える、ことを特徴とする請求項1に記載のターゲット。
【請求項3】
CoベースのまたはFeベースの磁気記録媒体のための下層材料であって、それが、請求項1に記載のターゲットをスパッタリングすることから作られるMgOベースの複合物であり、前記MgOベースの複合物が、実質的にMgOおよび単数または複数の酸化物から成る、ことを特徴とする下層材料。
【請求項4】
前記単数または複数の酸化物が亜鉛一酸化物、ニッケル一酸化物、酸化第一鉄およびそれの組合せからなる群から選ばれる物質(複数物質)を備える、ことを特徴とする請求項3に記載のターゲット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−104079(P2013−104079A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247616(P2011−247616)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(509176178)光洋応用材料科技股▲ふん▼有限公司 (9)
【Fターム(参考)】