説明

ターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。

【課題】ターゲット廃材からインジウムを分離し、ターゲット廃材の再利用を可能にするターゲット廃材とインジウムの分離回収方法を提供する。
【解決手段】表面にインジウムが付着したターゲット廃材を酸に浸漬してインジウムを溶解する工程、未溶解のターゲット廃材を回収する工程、上記インジウム溶解液に水酸化アルカリを添加してアルカリ性の液性下でインジウム水酸化物を沈殿させ、該沈澱を回収する工程を有することを特徴とし、好ましくは、回収したインジウム水酸化物を酸に溶解する工程、この酸溶解液からインジウムスポンジを回収する工程を有するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲット廃材からインジウムを分離し、ターゲット廃材の再利用を可能にするターゲット廃材とインジウムの分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の製造方法としてスパッタリング法が広く利用されている。スパッタリング法は、金属製のターゲットにアルゴンなどの加速粒子を衝突させて金属成分を放出させ、この放出金属を基板上に堆積させて成膜する方法であり、ターゲット材料としてはW,Mo,Ti,Ta,Zr,Nb等の高融点金属、その合金等が使用されている。
【0003】
また、ターゲットをスパッタリング装置内に固定する手段、ないし耐熱性の向上や異常放電防止などのために、ターゲットはバッキングプレートと称する裏当て材に一体に接合された状態で使用される場合が多く、通常、ターゲットとバッキングプレートはインジウムや錫を含有する低融点ろう材を介して接合されている(特許文献1)。
【0004】
このため、使用済みターゲットをバッキングプレートから取り外しても、インジウムメタル等がターゲット表面に残留しており、ターゲットとして再使用することはできなかった。ターゲットには高価なW金属やMo金属が用いられており、使用済みターゲットを再使用できないため、高価なWやMoがスクラップとなっている。
【特許文献1】特開2001−295040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の上記問題を解決したものであり、ターゲット廃材からインジウムを容易に分離し、ターゲット廃材を容易に再利用できるようにすると共に、分離したインジウムを回収して再利用することができる処理方法を提供する。なお、本発明の方法において、使用済みターゲットおよびその他のターゲットスクラップを総称してターゲット廃材と云う。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の処理方法は、以下に示す構成によって上記課題を解決したターゲット廃材とインジウムの分離回収方法である。
〔1〕表面にインジウムが付着したターゲット廃材を酸に浸漬してインジウムを溶解する工程、未溶解のターゲット廃材を回収する工程、上記インジウム溶解液に水酸化アルカリを添加してアルカリ性の液性下でインジウム水酸化物を沈殿させ、該沈澱を回収する工程を有することを特徴とするターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
〔2〕表面にインジウムが付着したターゲット廃材を酸に浸漬してインジウムを溶解する工程、未溶解のターゲット廃材を回収する工程、上記インジウム溶解液に水酸化アルカリを添加してアルカリ性の液性下でインジウム水酸化物を沈殿させ、該沈澱を回収する工程、回収したインジウム水酸化物を酸に溶解する工程、この酸溶解液にインジウムよりも卑な金属を添加してインジウムスポンジを析出させ、回収する工程を有する上記[1]に記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
〔3〕インジウムが付着したターゲット廃材の材質がタングステンまたはモリブデンである上記[1]または上記[2]に記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
〔4〕インジウム溶解工程において、ターゲット廃材を塩酸、硝酸、またはこれらの混酸に浸漬してターゲット廃材表面のインジウムを溶解する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
〔5〕インジウム溶解工程において、酸浸漬液の液温が100℃以下である上記[1]〜上記[4]の何れかに記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
〔6〕インジウム水酸化物生成工程において、インジウム溶解液に水酸化アンモニウムおよび/またはアルカリ金属水酸化物を添加し、pH9以上のアルカリ性下で、インジウム水酸化物を沈澱させる上記[1]〜上記[5]の何れかに記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
〔7〕インジウム水酸化物の酸溶解工程において、インジウム水酸化物を塩酸および/または硫酸に溶解させる上記[1]〜上記[6]の何れかに記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
〔8〕インジウムスポンジの回収工程において、インジウム水酸化物の酸溶解液に亜鉛および/またはアルミニウムを添加してインジウムスポンジを生成させ、回収する上記[1]〜上記[7]の何れかに記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
〔9〕表面にインジウムが付着したターゲット廃材を酸に浸漬してインジウムを溶解する工程、未溶解のターゲット廃材を回収する工程、上記インジウム酸溶解液にインジウムよりも卑な金属を添加してインジウムスポンジを析出させ、回収する工程を有するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
〔10〕インジウムが付着したターゲット廃材の材質がチタンまたはクロムである上記[9]に記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の処理方法によれば、ターゲット廃材からインジウムを容易に分離することができるので、従来は廃棄されていたターゲット廃材を回収して再利用することができ、W、Mo、Ti、Crなどの高価なターゲット材料を有効に再利用することができる。また、本発明の処理方法によれば、ターゲット廃材から金属インジウムを回収することができるので、インジウムの有効利用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の処理方法について、第1の態様を図1に示す。図1に示す処理方法は、表面にインジウムが付着したターゲット廃材を酸に浸漬してインジウムを溶解する工程(インジウム溶解工程)、未溶解のターゲット廃材を回収する工程(ターゲット廃材回収工程)、上記インジウム溶解液に水酸化アルカリを添加してアルカリ性の液性下でインジウム水酸化物を沈殿させ、該沈澱を回収する工程(インジウム水酸化物生成工程)、回収したインジウム水酸化物を酸に溶解する工程(インジウム水酸化物の酸溶解工程)、この酸溶解液からインジウムスポンジを回収する工程(インジウムスポンジ回収工程)を有する。
【0009】
〔ターゲット廃材〕
インジウムが付着したターゲット廃材として、材質がタングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、クロム(Cr)のターゲット廃材を用いることができる。ターゲット廃材を塩酸、硝酸、またはこれらの混酸に浸漬してターゲット廃材表面のインジウムを溶解するときに、上記材質のターゲット廃材はこれらの酸に殆ど溶解しないので、溶解したインジウムから分離してターゲット廃材を回収することができる。
【0010】
〔インジウム溶解工程〕
インジウム溶解工程において、インジウムを溶解する酸としては、ターゲット廃材をできるだけ腐食しないように、塩酸、硝酸、またはこれらの混酸、塩酸と過酸化水素の混合酸などが好ましい。これらの酸濃度は、3〜10M/Lが適当であり、3〜7M/Lが好ましい。この酸浸漬液の液温は100℃以下が適当であり、20℃〜60℃が好ましい。沸騰する液温ではターゲット廃材の腐食が激しくなり、一方、液温が低すぎるとインジウムの溶解が遅く、溶解に長時間を要する。
【0011】
〔ターゲット廃材の回収〕
インジウム溶解後、未溶解のターゲット廃材を回収し、水洗後、再処理工程においてターゲット材の再生処理、または新たなターゲット材の原料として使用する。なお、インジウム溶解液に未溶解のターゲット廃材が残留しないように回収するのが好ましい。未溶解のターゲット廃材を取り出したインジウム溶解液は次のインジウム水酸化物生成工程に送られる。
【0012】
〔インジウム水酸化物生成工程〕
上記インジウム溶解液に水酸化アルカリを添加して加水分解し、アルカリ性の液性下でインジウム水酸化物を沈殿させる。水酸化アルカリとしては、水酸化アンモニウムおよび/またはアルカリ金属水酸化物が用いられる。pH9以上、好ましくはpH10以上のアルカリ性下でインジウム水酸化物を沈殿させる。pH7以下ではMoやWのターゲット廃材との分離性が不十分であり、好ましくない。
【0013】
インジウムが付着しているターゲット廃材を塩酸や硝酸、これらの混酸に浸漬してインジウムを酸に溶解させると、ターゲット廃材の表面が浸食されてターゲット材の材質であるモリブデンやタングステンが僅かに溶出する。しかし、酸浸出液(インジウム溶解液)にインジウムと共にモリブデンやタングステンが僅かに溶存していても、インジウム溶解液をpH9以上のアルカリ性に維持すれば、モリブデンやタングステンは液中に溶存した状態を保ち、水酸化物沈澱を生じないので、インジウム水酸化物沈澱と液中のモリブデンおよびタングステンとを分離することができる。回収したインジウム水酸化物沈澱は次の酸溶解工程に送られる。
【0014】
〔インジウム水酸化物の酸溶解工程〕
回収したインジウム水酸化物に酸を添加して溶解する。使用する酸の種類は塩酸および/または硫酸が好ましい。酸は市販濃度のものを使用することができる。インジウム水酸化物を硝酸に溶解したものは、亜鉛やアルミニウムを添加してもスポンジ状の金属インジウムが得られない。
【0015】
〔インジウムスポンジ回収工程〕
インジウム水酸化物の塩酸溶解液ないし硫酸溶液に、インジウムよりも卑な金属を添加し、置換反応(セメンテーション)によってスポンジ状の金属インジウムを析出させる。添加する金属としては亜鉛および/またはアルミニウムを用いることができる。この工程で用いるインジウム水酸化物の酸溶解液は、インジウム水酸化物を酸溶解したものであり、このインジウム水酸化物は、上記生成工程において沈澱化したものであるので、ターゲット材料のモリブデンやタングステンが殆ど含まれておらず、含まれている場合でも極微量であるので、これらの不純物量が少ない金属インジウムを回収することができる。
【0016】
本発明の処理方法について、第2の態様を図2に示す。図2に示す処理方法は、表面にインジウムが付着したターゲット廃材を酸に浸漬してインジウムを溶解する工程(インジウム溶解工程)、未溶解のターゲット廃材を回収する工程(ターゲット廃材回収工程)、インジウムの酸溶解液からインジウムスポンジを回収する工程(インジウムスポンジ回収工程)を有する。
【0017】
ターゲット廃材の材質がチタンやクロムであるときには、インジウム酸溶解液に少量のチタンやクロムが溶存していても、この溶解液に亜鉛やアルミニウムを添加して金属インジウムを析出させるときに、チタンやクロムは液中にとどまり析出しないので、インジウムの析出に先立って液中のチタンやクロムを分離する工程を必要としない。従って、図1の第1態様において設けられていたインジウム水酸化物生成工程、およびインジウム水酸化物の酸溶解工程を省略することができる。
【実施例】
【0018】
〔実施例1〕
図1に示す処理工程に従って、インジウムが付着したターゲット廃材を処理した。まず、インジウムが付着した87.5kgのMoターゲット廃材を室温にて6M/L塩酸65Lに18時間浸漬し、付着インジウムを溶解した。浸漬液中のインジウム濃度およびMo濃度はそれぞれ3.1g/L、0.7g/Lであった。インジウムを除去したMoターゲット廃材を水洗して乾燥した後に、再度、ターゲットの製造工程に返送した。一方、インジウムの溶解液には水酸化ナトリウムを添加してpH13に調整し、沈澱を生成させた。次いで、この沈殿を濾過して水洗し、In(OH)3沈殿298gを得た(6
6%In)。このIn(OH)3沈殿中のインジウム量およびMo量はそれぞれ195g、1.2gであった。この水酸化インジウム沈殿を市販塩酸600mlと水1.4Lにて溶解した後、亜鉛板を添加してスポンジ状の金属インジウムを得た。このインジウムスポンジのIn/(In+Mo)比は99.1%であった。この結果を表1に示した

【0019】
〔実施例2〜6、比較例1〜3〕
実施例1と同様の方法にて、ターゲット材質、使用酸、処理温度、添加水酸化アルカリ等を代えて処理した結果を表1に示した。
【0020】
〔実施例7〕
図2に示す処理工程に従って、インジウムが付着したターゲット廃材を処理した。まず、インジウムが付着した34.2kgのTiターゲット廃材を室温にて11M/L-塩酸15Lに192時間浸漬し、付着インジウムを溶解した。浸漬液中のインジウム濃度およびTi濃度はそれぞれ7.0g/L、37.1g/Lであった。インジウムを除去したTiターゲット廃材を水洗して乾燥した後に、再度、ターゲットの製造工程に返送した。一方、インジウムの溶解液に亜鉛板を添加してスポンジ状の金属インジウムを得た。このインジウムスポンジのIn/(In+Ti)比は99.1%であった。この結果
を表2に示した。
【0021】
〔実施例8〕
実施例7と同様の方法にて、Crターゲット廃材を処理し、インジウムの溶解液にアルミニウム板を添加してスポンジ状の金属インジウムを得た。この結果を表2に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る第1態様の処理方法の概略を示す工程図
【図2】本発明に係る第2態様の処理方法の概略を示す工程図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にインジウムが付着したターゲット廃材を酸に浸漬してインジウムを溶解する工程、未溶解のターゲット廃材を回収する工程、上記インジウム溶解液に水酸化アルカリを添加してアルカリ性の液性下でインジウム水酸化物を沈殿させ、該沈澱を回収する工程を有することを特徴とするターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
【請求項2】
表面にインジウムが付着したターゲット廃材を酸に浸漬してインジウムを溶解する工程、未溶解のターゲット廃材を回収する工程、上記インジウム溶解液に水酸化アルカリを添加してアルカリ性の液性下でインジウム水酸化物を沈殿させ、該沈澱を回収する工程、回収したインジウム水酸化物を酸に溶解する工程、この酸溶解液にインジウムよりも卑な金属を添加してインジウムスポンジを析出させ、回収する工程を有する請求項1に記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
【請求項3】
インジウムが付着したターゲット廃材の材質がタングステンまたはモリブデンである請求項1または請求項2に記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
【請求項4】
インジウム溶解工程において、ターゲット廃材を塩酸、硝酸、またはこれらの混酸に浸漬してターゲット廃材表面のインジウムを溶解する請求項1〜請求項3の何れかに記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
【請求項5】
インジウム溶解工程において、酸浸漬液の液温が100℃以下である請求項1〜請求項4の何れかに記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
【請求項6】
インジウム水酸化物生成工程において、インジウム溶解液に水酸化アンモニウムおよび/またはアルカリ金属水酸化物を添加し、pH9以上のアルカリ性下で、インジウム水酸化物を沈澱させる請求項1〜請求項5の何れかに記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
【請求項7】
インジウム水酸化物の酸溶解工程において、インジウム水酸化物を塩酸および/または硫酸に溶解させる請求項1〜請求項6の何れかに記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
【請求項8】
インジウムスポンジの回収工程において、インジウム水酸化物の酸溶解液に亜鉛および/またはアルミニウムを添加してインジウムスポンジを生成させ、回収する請求項1〜請求項7の何れかに記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
【請求項9】
表面にインジウムが付着したターゲット廃材を酸に浸漬してインジウムを溶解する工程、未溶解のターゲット廃材を回収する工程、上記インジウム酸溶解液にインジウムよりも卑な金属を添加してインジウムスポンジを析出させ、回収する工程を有するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。
【請求項10】
インジウムが付着したターゲット廃材の材質がチタンまたはクロムである請求項9に記載するターゲット廃材とインジウムの分離回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−133538(P2008−133538A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278459(P2007−278459)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】