説明

タービンロータ及びタービンロータの製造方法

【課題】製造コストの高騰、製造時間の長期化を生じることなく、適正強度、靭性を有するタービンロータ及びタービンロータの製造方法を提供する。
【解決手段】高Cr鋼からなる高温用ロータ材と、低Cr鋼からなる低温用ロータ材とを溶接して構成されたタービンロータにおいて、前記高温用ロータ材が、窒素含有量が質量%で0.02%以上である高Cr鋼で形成され、前記高温用ロータ材と低温用ロータ材を溶接する溶加材が、窒素含有量が質量%で0.025%以下である9%Cr系溶加材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンロータ及びタービンロータの製造方法に関するものであり、特に蒸気タービンに用いて好適なタービンロータ及びタービンロータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン用ロータを製造するに際して、そのロータ材料は蒸気タービン内の温度分布に対する高温強度の観点から選定される。具体的には566℃を超える高温領域では0.02%以上の窒素を含有させて強化された10%Cr鋼又はW(タングステン)を含有する10%Cr鋼(高Cr鋼)などが用いられ、566〜380℃の中間領域では1〜2.25%CrMoV低合金鋼が用いられ、さらに380℃未満の低温領域では3.5%NiCrMoV低合金鋼からなるタービンロータが用いられている。また、高温領域と中低温領域が共存する環境では、高温領域に対応する強度を有する高Cr鋼からなる一体型タービンロータが用いられている。
【0003】
しかしながら、前記高Cr鋼は高コスト材料であり、高温領域と中低温領域が共存する環境で使用されるタービンロータ全体を高Cr鋼で形成することはコスト面での負担が大きい。
そこで、蒸気タービン内で高温領域と中低温領域が共存する蒸気タービンに使用され、蒸気タービン内の環境温度が中低温領域である位置に配されるタービンロータ部位は安価な前記低合金鋼で形成し、蒸気タービン内の環境温度が高温領域である位置に配されるタービンロータ部位は高温強度に優れた前記高Cr鋼で形成した異鋼種溶接ロータが提案されている。
【0004】
前記異鋼種溶接ロータとして、例えば特許文献1には高Cr鋼ロータと低Cr鋼ロータとをCr鋼含量が質量%で1.0〜3.5%である溶加材を用いて溶接したタービンロータが開示されている。
しかしながら特許文献1に開示されたような従来の高Cr鋼ロータ材と低Cr鋼ロータ材を溶接したタービンロータにおいては、通常高Cr鋼には高温強度を上げるために質量%で0.02%以上の窒素が含有されているが、高Cr鋼である10%Cr鋼又はWを含有する10%Cr鋼と低Cr鋼とを溶接した際に、前記高Cr鋼に含有される窒素により溶加材中に微小なブローホールが発生しやすいという問題がある。
特に低Cr鋼の溶加材を使用すると、溶加材中のCr含量が少ないために溶加材の窒素の溶解度が低く、微小なブローホールが発生しやすいことが確認されている。タービンロータは高速回転体であり繰り返し疲労を受ける欠陥は許容されず、微小なブローホールであっても集合すると問題となるためブローホールのない安定した溶接継手が必要である。
【0005】
また、溶接後に施す熱処理によって、溶接部及び溶接による熱影響部の硬さ、靭性及び強度を適正に設定することが必要である。該熱処理は、高Cr鋼の場合には溶接後の熱処理温度は遅れ割れを防止する観点から660〜670℃に設定され、低合金鋼の場合には溶接後の熱処理温度は620〜630℃に設定され両者の熱処理温度は相違する。熱処理温度を高Cr鋼に合わせて熱処理温度を660〜670℃に設定すると低合金鋼の強度が低下する場合があり、熱処理温度を低合金鋼に合わせて620〜630℃に設定すると高Cr鋼の熱影響部の硬さがヴィッカース硬さでHV350以上と硬くなる場合がある。高Cr鋼の硬さがHV350を超えると、タービン使用中に遅れ割れを生じることがあるため、高Cr鋼の熱影響部の硬さがHV350以下となるように設定する必要がある。
【0006】
そこで、例えば12%Cr鋼(広義には10%Cr鋼)からなる高温用ロータ材と低合金鋼からなる低温用ロータ材とを溶接して異鋼種ロータを製造する際に、前記高温用ロータ材に適正材料の肉盛溶接を施して中間材に形成する工程と、該中間材を有する高温用ロータ材を高温熱処理する工程と、前記中間材に前記低温用ロータ材を溶接する工程と、これらの高温用ロータ材及び低温用ロータ材の全体に低温熱処理する工程とにより低合金鋼の強度低下やタービンの使用中の遅れ割れが生じることなく、母材、継手ともに適正強度、靭性を有する異鋼種ロータを製造する技術が、特許文献2に開示されている。
しかしながら、特許文献2に開示された技術においては、肉盛溶接と2回の熱処理が必要であるため、製造コストの高騰、製造時間の長時間化が課題となる。
【0007】
また、高温用ロータ材が9%Cr鋼(広義には10%Cr鋼)、低温用ロータ材が1%Cr鋼で形成されており、9%Cr系溶加材を用いて前記高温用ロータ材と低温用ロータ材を溶接し、625〜655℃で熱処理することで、肉盛溶接が不要であり、適正強度、靭性を有する異鋼種ロータを製造する技術が特許文献3に開示されている。しかしながら、特許文献3に開示された技術においても微小ブローホールが発生する場合があることに加え、低Cr鋼として1%Cr鋼を用いているためクリープ強度が不足するという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開2008−93668号公報
【特許文献2】特開2001−123801号公報
【特許文献3】特開2003−49223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
つまり、特許文献1に開示された技術においては、高温強度を上げるために質量%で0.02%以上の窒素が含有された高Cr鋼ロータ材と低Cr鋼ロータ材とを直接溶接する場合、前記高Cr鋼に含有される窒素により、溶加材中に微小なブローホールを生じうるという課題がある。なお、前記溶接に用いる溶加材を低Crではなく、仮に9Cr鋼などの高Cr鋼とするとブローホールは生じにくくなるが、完全に生じなくなるわけではなく課題は解決できない。
【0010】
また、特許文献2に開示された技術においては、肉盛溶接と2回の熱処理が必要であるため、製造コスト、製造時間の面で課題がある。
【0011】
また、特許文献3に開示された技術においては、9%Cr鋼と1%Cr鋼を使用する異鋼種ロータが高中温度領域で使用する高中圧タービンの場合には、1%Cr鋼の熱影響部で生じうる細粒組織域が高温でのクリープ強度が低いという課題がある。
【0012】
従って、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、溶接及び熱処理回数が1回でよいために製造コストの高騰、製造時間の長期化を生じることなく、適正強度、靭性を有するタービンロータ及びタービンロータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、溶加材として窒素含有量を0.025%以下とした9%Cr鋼を使用すると微小なブローホールの発生を防止できることを確認し、課題を解決することができるタービンロータ及びタービンロータの製造方法を発明した。
【0014】
上記課題を解決するため本発明においては、高Cr鋼からなる高温用ロータ材と、低Cr鋼からなる低温用ロータ材とを溶接して構成されたタービンロータにおいて、前記高温用ロータ材が、窒素含有量が質量%で0.02%以上である高Cr鋼で形成され、前記高温用ロータ材と低温用ロータ材を溶接する溶加材が、窒素含有量が質量%で0.025%以下である9%Cr系溶加材であることを特徴とする。
【0015】
前記溶加材を、窒素含有量が質量%で0.025%以下である9%Cr系とすることで、窒素が0.02%以上含有された高Cr鋼からなる高温用ロータ材と低Cr鋼からなる低温用ロータ材とを溶接しても微小なブローホールの発生を防止することができる。
【0016】
また、前記低温用ロータ材が、2.25CrMoV鋼で形成され、溶接された前記高温用ロータ材と低温用ロータ材に対して、625〜650℃で40〜60時間熱処理して、前記高温用ロータ材のヴィッカース硬さをHV350以下としたことを特徴とする。
異鋼種溶接継手のクリープ破断位置は低合金鋼側に生じる細粒組織の熱影響部であり、クリープ強度は低合金鋼の種類と細粒組織の状態に支配される。そのため、前記低温用ロータ材を1%Cr鋼材よりもクリープ強度の高い2.25CrMoV鋼で形成することで十分なクリープ強度を確保することができる。また、窒素含有量が質量%で0.025%以下である9%Cr系溶加材を用いて溶接し、625〜650℃で40〜60時間熱処理して前記高温用ロータ材のヴィッカース硬さをHV350以下とすることで、前記高温用ロータに遅れ割れが生じることなく、適正なタービンロータが得られる。さらに肉盛溶接の必要が無いため、溶接回数、熱処理回数も1回でよく製造コストの高騰、製造時間の長期化という問題は発生しない。
【0017】
また、前記低温用ロータ材が、3.5NiCrMoV鋼で形成され、溶接された前記高温用ロータ材と低温用ロータ材に対して、595〜620℃で40〜60時間熱処理して、前記高温用ロータ材のヴィッカース硬さをHV350以下としたことを特徴とする。
さらに、前記低温用ロータ材を3.5NiCrMoV鋼で形成し、窒素含有量が質量%で0.025%以下である9%Cr系溶加材を用いて溶接し、595〜620℃で40〜60時間熱処理して、前記高温用ロータ材のヴィッカース硬さをHV350以下とすることで、前記高温用ロータに遅れ割れが生じることなく、適正な強度を確保することができるタービンロータが得られる。さらに肉盛溶接の必要が無いため、溶接回数、熱処理回数も1回でよく製造コストの高騰、製造時間の長期化という問題は発生しない。
【0018】
さらに、課題を解決するためのタービンロータの製造方法の発明として、
高Cr鋼からなる高温用ロータ材と、低Cr鋼からなる低温用ロータ材とを溶接して接合するタービンロータの製造方法において、前記高温用ロータ材を、窒素含有量が質量%で0.02%以上である高Cr鋼で形成し、前記高温用ロータ材と低温用ロータ材を、窒素含有量が質量%で0.025%以下である9%Cr系溶加材で溶接により接合することを特徴とする。
【0019】
前記低温用ロータ材を2.25CrMoV鋼で形成し、前記高温用ロータ材と低温用ロータ材とを溶接により接合した後、溶接された前記高温用ロータ材と低温用ロータ材とを、625〜650℃で40〜60時間熱処理して、前記高温用ロータ材のヴィッカース硬さをHV350以下とすることを特徴とする。
【0020】
前記低温用ロータ材を3.5NiCrMoV鋼で形成し、前記高温用ロータ材と低温用ロータ材とを溶接により接合した後、溶接された前記高温用ロータ材と低温用ロータ材とを、595〜620℃で40〜60時間熱処理して、前記高温用ロータ材のヴィッカース硬さをHV350以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上記載のごとく本発明によれば、製造コストの高騰、製造時間の長期化を生じることなく、適正強度、靭性を有するタービンロータ及びタービンロータの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(溶加材の選定)
本発明者は、従来の異鋼種溶接継手に発生する微小ブローホールの発生原因を詳細に検討した。従来より溶接部のブローホールは一酸化炭素が原因となることが多いと考えられていたが、前記微小ブローホールはブローホール内部ガスを分析した結果、窒素ガスであることが判明した。
図4は1600℃における溶鉄中のNの溶解度に及ぼす合金元素の影響を表すグラフである(日本鉄鋼協会編、第3版 鉄鋼便覧 第1巻基礎、(1981)、P.417)。横軸は溶鉄中に含まれる合金元素濃度(wt%)であり、縦軸はNの溶解度(wt%)を示している。図4から溶鉄中のCr含量が多いほどNの溶解度は高いことが分かる。
質量%で0.02%の窒素で強化された高Cr鋼と低合金鋼との溶接継手を肉盛溶接をせずに、Cr鋼溶加材で溶接を行うと、前記高Cr鋼側の前記強化のために含有された窒素が溶加材に溶け込むが、溶加材中の窒素の溶解度は図4に示したようにCrの含有量に依存する。そのため、溶加材に低Cr鋼を用いると、溶加材中のCr含量が低いため窒素の溶解度が小さく、溶解度以上の窒素はガスとなり、溶接中に溶融池から逸散できなかった窒素ガスがブローホールとなる。
よって、Cr含量の高い溶加材を用いる必要があり、溶加材として前記高Cr鋼に近いCr含量を有する9%Cr系溶加材を用いることとした。
【0023】
しかし、9%Cr系溶加材を用いても微小ブローホールを生じることがある。これは、一般に入手できる9%Cr系溶加材には微量の窒素が含まれていることが多く、この窒素と高Cr鋼に含まれる窒素が溶接金属中に溶け込み、その量が多いと微小ブローホールが生じるためと考えられる。
【0024】
そこで、窒素含有量が異なり他の成分の含量は略同じである9%Cr系溶加材を試料1〜7の7種類試作し、高Cr鋼と2.25CrMoV鋼からなる溶接継手の溶接を行い、超音波探傷試験により溶接金属内における微小ブローホールの発生状況を調べた。結果を表1にまとめる。表1において数値は試料中の各成分の含量(質量%)を表す。表1から明らかであるように、溶加材中の窒素含量が質量%で0.025%以下であるとき微小ブローホールは発生しなかった。従って、窒素含量が質量%で0.025%以下である9%Cr系溶加材を用いると、ブローホールの発生を防止できることが確認できた。
【0025】
【表1】

【実施例】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0027】
(タービンロータの製造)
図1は本発明により製造されたタービンロータの断面図であり、図2は図1における溶接部8近傍の拡大図である。図1に示すように高Cr鋼である10%Cr鋼又はWを含有する10%Cr鋼材からなる高温用ロータ材4と、低Cr鋼である2.25%CrMoV鋼又は3.5NiCrMoV鋼からなる低温用ロータ材6とを突き合わせ、窒素含有量が質量%で0.025%以下である9%Cr系溶加材を用いて例えばアーク溶接することにより、高温用ロータ材4と低温用ロータ材6との間に溶接部10を形成する。
前記高温用ロータ材4に用いられる10%Cr鋼又はWを含有する10%Cr鋼材、低温用ロータ材6に用いられる2.25%CrMoV鋼又は3.5NiCrMoV鋼、及び9%Cr系溶加材として、例えば表2に示す組成範囲が挙げられ、本実施例においては同じく表2に示した実施例の組成の材料を用いた。
【0028】
【表2】

【0029】
前記低温用ロータ材6が2.25CrMoV鋼である場合、625〜650℃の温度範囲で40〜60時間熱処理を実施することで、高温用ロータ材をヴィッカース硬さでHV350以下にする。特に、高温用ロータ材が10%Cr鋼又はWを含有する10%Cr鋼である場合には、HV硬さを350以下とするためには熱処理時間を長時間保持することが好ましく、60時間とすることが特に好ましい。
図8はヴィッカース硬さと遅れ割れ発生領域を示すグラフである(ターボ機械協会 53回セミナー資料(2001年)「蒸気タービンの腐食とエロージョンについて」伊東眸)。図8から明らかであるように、ヴィッカース硬さHVが350以下であれば高温用ロータ部材にかかる応力が高くても遅れ割れは発生せず、ヴィッカース硬さHVが350を超えるとかかる応力が低くても遅れ割れが発生する。従って前記625〜650℃の温度範囲で40〜60時間熱処理を実施してヴィッカース硬さHVを350以下とすることで、遅れ割れを生じさせないタービンロータを製造することができる。
【0030】
また、前記低温用ロータ材6が3.5NiCrMoV鋼である場合、595〜620℃の温度範囲で40〜60時間熱処理を実施することで、高温用ロータ材をヴィッカース硬さでHV350以下にすることができる。
【0031】
(評価)
図3に示すように、前記表2に示す実施例の組成の高温用ロータ材4と低温用ロータ材6とをそれぞれ切削により開先加工した後、表1に示す9%Cr系溶加材を用いてこれらの部材4、6間に溶接部10を形成した。続いて溶接部10により形成された前記ロータ材4、6を前述の温度及び時間で熱処理を施して溶接継手を製造した。
【0032】
前記溶接継手について図3に示すように厚さの1/2の箇所から試験片12を採取し、試験温度一定の元でクリープ試験を実施した。クリープ試験は、以下の2種類の溶接継手を製造して行った。
試験片1、高温用ロータ材:10%Cr鋼、低温用ロータ材:2.25%CrMoV鋼
試験片2、高温用ロータ材:W含有10%Cr鋼、低温用ロータ材:2.25%CrMoV鋼
また比較例として、
試験片3、高温用ロータ材:10%Cr鋼、低温用ロータ材:1%CrMoV鋼
の試験片を作成し、これについても試験温度一定の元でクリープ試験を行った。
結果を図5に示す。図5において縦軸は応力、横軸はクリープ試験温度と破断時間に応じて決まる値であり、試験温度一定の元でクリープ試験を行っているので、図5においては破断時間の指標となる値である。図5に示したように、本実施例においては、低温用ロータ材に1%CrMoV鋼を用いた比較例よりもクリープ強度の向上が成されていることが確認できた。
【0033】
さらに前記試験片1、2について硬さ分布を測定した。結果を図6に示す。図6において縦軸はヴィッカース硬さHV、横軸は低温用ロータ材6の定点からの距離を示している。図6から明らかであるように、得られた溶接継手は10%Cr鋼又はWを含有する10%Cr鋼、その熱影響部、溶接部、2.25%CrMoV鋼、その熱影響部何れの箇所においてもHV350以下を示していることが確認できた。
【0034】
さらに、以下の試験片4についても前記試験片1、2と同様に硬さ分布を測定した。
試験片4、高温用ロータ材:10%Cr鋼、低温用ロータ材:3.5%NiCrMoV鋼
結果を図7に示す。試験片4においても、試験片1、2と同様に何れの箇所においてもHV350以下を示していることが確認できた。
【0035】
また、前記試験片1、2、4について、0.2%耐力、引張強さを測定した。その結果を表3に示す。さらにその熱影響部、溶接部の衝撃特性(室温における吸収エネルギー及び50%破面遷移温度)を調べた。その結果を表4に示す。なお、表3及び表4中における仕様値とは、製造されたタービンロータが問題なく使用されるために満足する必要のある範囲を表している。
【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
表3から明らかなように得られた溶接継手及びその構成母材の0.2%耐力及び引張強さの実測値は全て仕様値を満たしており、ロータに必要な強度レベルを満足していることがわかる。また、表4から明らかなように得られた溶接継手の母材、溶接部等は仕様値を十分満足する衝撃特性を有することがわかる。
【0039】
以上のことから、本発明によって得られたタービンロータは溶接及び熱処理が1度であるため製造コストの高騰、製造時間の長期化を生じることなく、適正強度、靭性を有しているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
製造コストの高騰、製造時間の長期化を生じることなく、適正強度、靭性を有するタービンロータ及びタービンロータの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明により製造されたタービンロータの断面図である。
【図2】図1における溶接部近傍の拡大図である。
【図3】実施例における継手を示す断面図である。
【図4】1600℃における溶鉄中のNの溶解度に及ぼす合金元素の影響を表すグラフである。
【図5】溶接継手のクリープ破断試験結果を示す特性図である。
【図6】実施例における溶接継手を含む測定箇所における硬さを示す特性図である。
【図7】実施例における別の溶接継手を含む測定箇所における硬さを示す特性図である。
【図8】ヴィッカース硬さと遅れ割れ発生領域を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
2 タービンロータ
4 高温用ロータ材
6 低温用ロータ材
10 溶接部
12 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高Cr鋼からなる高温用ロータ材と、低Cr鋼からなる低温用ロータ材とを溶接して構成されたタービンロータにおいて、
前記高温用ロータ材が、窒素含有量が質量%で0.02%以上である高Cr鋼で形成され、
前記高温用ロータ材と低温用ロータ材を溶接する溶加材が、窒素含有量が質量%で0.025%以下である9%Cr系溶加材であることを特徴とするタービンロータ。
【請求項2】
前記低温用ロータ材が、2.25CrMoV鋼で形成され、
溶接された前記高温用ロータ材と低温用ロータ材に対して、625〜650℃で40〜60時間熱処理して、前記高温用ロータ材のヴィッカース硬さをHV350以下としたことを特徴とする請求項1記載のタービンロータ。
【請求項3】
前記低温用ロータ材が、3.5NiCrMoV鋼で形成され、
溶接された前記高温用ロータ材と低温用ロータ材に対して、595〜620℃で40〜60時間熱処理して、前記高温用ロータ材のヴィッカース硬さをHV350以下としたことを特徴とする請求項1記載のタービンロータ。
【請求項4】
高Cr鋼からなる高温用ロータ材と、低Cr鋼からなる低温用ロータ材とを溶接して接合するタービンロータの製造方法において、
前記高温用ロータ材を、窒素含有量が質量%で0.02%以上である高Cr鋼で形成し、
前記高温用ロータ材と低温用ロータ材を、窒素含有量が質量%で0.025%以下である9%Cr系溶加材で溶接により接合することを特徴とするタービンロータの製造方法。
【請求項5】
前記低温用ロータ材を2.25CrMoV鋼で形成し、
前記高温用ロータ材と低温用ロータ材とを溶接により接合した後、
溶接された前記高温用ロータ材と低温用ロータ材とを、625〜650℃で40〜60時間熱処理して、前記高温用ロータ材のヴィッカース硬さをHV350以下とすることを特徴とする請求項4記載のタービンロータの製造方法。
【請求項6】
前記低温用ロータ材を3.5NiCrMoV鋼で形成し、
前記高温用ロータ材と低温用ロータ材とを溶接により接合した後、
溶接された前記高温用ロータ材と低温用ロータ材とを、595〜620℃で40〜60時間熱処理して、前記高温用ロータ材のヴィッカース硬さをHV350以下とすることを特徴とする請求項4記載のタービンロータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−90805(P2010−90805A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261660(P2008−261660)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【特許番号】特許第4288304号(P4288304)
【特許公報発行日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】