説明

タービン発電機の軸受構造

【課題】タービン発電機に備えられる玉軸受の外輪に外力が作用する問題を防止する。
【解決手段】反タービン側の玉軸受20を構成する外輪20bにおけるロータ1の軸方向外側端面20'に当接するよう配置したリング状の外輪ストッパ31と、外輪ストッパ31と蓋部材22との間に配置して外輪ストッパ31を外輪20bの軸方向外側端面20'に予圧する予圧バネ32とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン発電機の軸受構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の排熱を利用して発電を行うタービン発電機を車両等に搭載し、エネルギーの有効利用を図ることが提案されている。
【0003】
この種の装置としては、例えば、図4に示される如く、エンジン60を冷却して高温となったクーラントをラジエータ61で冷却しポンプ62により循環させるようにした内燃機関において、ラジエータ61の上流側に熱交換器63を配設し、該熱交換器63に液状の冷却用媒体をポンプ64により供給して前記高温のクーラントと熱交換させ、冷却用媒体が気化して生じた作動流体をタービン発電機100のタービン4に供給することにより発電機Mにて発電を行い、該タービン4を回転駆動した後の低圧の作動流体を凝縮器65によって冷却凝縮させて液化させた後、再び前記熱交換器63に供給するようにしたものがある。
【0004】
尚、図4に示されるような排熱を利用して発電する装置の一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【0005】
一方、図5は、本発明者等が開発した初期のタービン発電機100の一例を示す側断面図であり、図5中、1は両側に軸2,3を備えたロータであり、該ロータ1の一方の軸2にはタービン4が一体に嵌着されている。5は前記タービン4を収容するように形成されたタービンハウジングであり、該タービンハウジング5は、圧力を有する作動流体を前記タービン4に導くためのスクロール通路6を有していると共に、タービン4を回転駆動した後の低圧となった作動流体を排気するための排出通路6aを有している。
【0006】
7は固定ボルト8によってその前端面7aを前記タービンハウジング5に一体に組み付けるようにしたステータハウジングであり、該ステータハウジング7は、前記一方の軸2に近づくよう内周側に突出し更に内周部がロータ1に近づくように環状に突出した筒状突出部9を有しており、該筒状突出部9によって形成されるモータステータ収容部10aに、ロータ1を包囲するように形成したモータステータ10のタービンハウジング5側の前端部(図5の例では左側端部)を収容して保持するようになっている。更に、前記筒状突出部9の内周部と一方の軸2との間には、タービン側の玉軸受11が配置されて一方の軸2を回転可能に支持するようになっている。前記モータステータ10は、内側のコイルからなるステータ12と、該ステータ12より軸方向の長さが長い外側のステータスリーブ13とにより構成されている。
【0007】
又、前記タービンハウジング5に一体に組み付けられるステータハウジング7の前端面7aには、前記スクロール通路6の作動流体をタービン4へ周方向から導くノズル部14に対して周方向に複数配置するようしたベーン15を有し、且つ該各ベーン15を固定するプレート16が凹部16aに配置されており、該プレート16は前記タービンハウジング5とステータハウジング7の組み付けによってその相互間に挾持されるようになっている。
【0008】
17は固定ボルト18によって前記ステータハウジング7の後端面7bに一体に組み付けるようにした軸受フランジであり、該軸受フランジ17は、前記モータステータ10の反タービンハウジング5側の後端部(図5の例では右側端部)の内側において軸方向へ突出して該モータステータ10の他端部を保持するようにした筒状突出部19を有しており、更に、該筒状突出部19の内周部と前記ロータ1の他方の軸3との間には、反タービン側の玉軸受20が配置されて他方の軸3を回転可能に支持するようになっている。21は、前記軸受フランジ17における他方の軸3が対応する位置(他方の軸3の延長上)に貫通するように形成された開口である。
【0009】
前記モータステータ10は、軸受フランジ17をステータハウジング7に固定ボルト18で締め付け固定する際に、モータステータ10のステータスリーブ13に軸受フランジ17が当接することによって軸方向への移動が固定されている。
【0010】
22は固定ボルト23によって前記軸受フランジ17に一体に組み付けるようにした蓋部材であり、該蓋部材22は、前記軸受フランジ17に備えた開口21を塞ぐように突出して該開口21に嵌合される凸部24を有している。尚、図5中、25は、タービンハウジング5とステータハウジング7との間、モータステータ10の外周とステータハウジング7との間、及び、軸受フランジ17と蓋部材22との間に設けたシールリング等からなるシール材であり、前記モータステータ10の外周とステータハウジング7との間に設けたシール材25は、ステータハウジング7に形成されたモータステータ10用の冷却水路7Hに対し給排口(図示せず)を介して流通される冷却水のシールを行うようになっている。
【0011】
前記タービン側の玉軸受11を構成する内輪11aは嵌め合いによって一方の軸2に固定され、更に止めナット26によって軸方向の移動が拘束されている。又、タービン側の玉軸受11を構成する外輪11bは嵌め合いによって筒状突出部9の内周面に固定され、更に筒状突出部9に設けた段部27によって外輪11bが前側へ抜け出るのを防止している。11cは玉軸受11のボールである。
【0012】
又、反タービン側の玉軸受20を構成する内輪20aは、図6に示すように、嵌め合いによって他方の軸3に固定され、更に止めナット28によって軸方向の移動が拘束されている。又、反タービン側の玉軸受20を構成する外輪20bは嵌め合いによって筒状突出部19の内周面に固定されるが、この時、最後に組み立てられる反タービン側の玉軸受20の外輪20bは、組み立てによる誤差を吸収して支持する必要があり、このために、外輪20bの後端面20'(ロータ1の軸方向外側端面)と筒状突出部19に設けた段部29との間には、予圧を与えるようにしたシム30を配置している。20cは玉軸受20のボールである。
【0013】
そして、前記ロータ1とモータステータ10により発電機Mが形成され、更に、前記ロータ1とタービン4が、タービンハウジング5と、ステータハウジング7と、軸受フランジ17と、蓋部材22とからなる外殻部材の組み立てによって包囲されたタービン発電機100が構成されている。このように構成されるタービン発電機100は組み立てが容易でありしかもコンパクトな形状とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−008224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、前記タービン発電機100を内燃機関等に設置する際等の取り扱い時において、タービン発電機100を落下させたり或いは他の部材と衝突する等の不測の事態が発生した場合に蓋部材22に衝撃的な外力(負荷)が作用することがある。このように蓋部材22に衝撃的な外力が作用した場合には、その外力がシム30を介して反タービン側の玉軸受20の外輪20bに直接作用することになるために、ボール20cに過大な外力が作用してボール20cにフレーキング(剥離)が発生するといった問題を有していた。玉軸受20のボール20cにフレーキングが生じた場合には、ロータ1の回転が著しく阻害されることになり、タービン発電機100による発電性能が大幅に低下する問題がある。
【0016】
本発明は、斯かる実情に鑑みてなしたもので、タービン発電機に備えられる反タービン側の玉軸受の外輪に外力が作用する問題を防止するようにしたタービン発電機の軸受構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、両側に軸を有し一方の軸にタービンが備えられたロータと、
前記タービンを包囲して収容するタービンハウジングと、前記ロータの外周に後端が開放されたモータステータ収容部を有し且つ前記一方の軸との間にタービン側の玉軸受を備えて前端面が前記タービンハウジングに固定されるステータハウジングと、前記ロータの他方の軸との間に反タービン側の玉軸受を備え且つ前記他方の軸の延長上に貫通した開口を備えて前記ステータハウジングの後端面に固定される軸受フランジと、前記開口を閉塞するように前記軸受フランジの後端面に固定される蓋部材とから組み立てられる外殻部材と、を有するタービン発電機の軸受構造であって、
前記反タービン側の玉軸受を構成する外輪におけるロータの軸方向外側端面に当接するよう配置したリング状の外輪ストッパと、該外輪ストッパと外殻部材との間に配置して外輪ストッパを外輪の軸方向外側端面に予圧する予圧バネとを備えたことを特徴とするタービン発電機の軸受構造、に係るものである。
【0018】
上記タービン発電機の軸受構造において、前記予圧バネは、前記外輪におけるロータの軸方向外側端面と蓋部材との間に配置することができる。
【0019】
又、上記タービン発電機の軸受構造において、前記予圧バネは、前記外輪におけるロータの軸方向外側端面とステータハウジングとの間に配置することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のタービン発電機の軸受構造によれば、組み立て作業が容易であり、更に、反タービン側の玉軸受を構成する外輪におけるロータの軸方向外側端面に当接した外輪ストッパを備えると共に、該外輪ストッパを外輪の軸方向外側端面に予圧する予圧バネを備えた構成を有するので、タービン発電機の設置時等の取り扱い時に、タービン発電機を落下させたり或いは他の部材と衝突するような不測の事態が発生して外殻部材の特に蓋部材に衝撃的な外力が作用しても、前記外力が外輪に作用する問題を確実に防止して玉軸受の安全を図ることができる効果がある。
【0021】
又、前記予圧バネによって反タービン側の玉軸受の外輪を予圧することにより、タービン側の玉軸受の外輪も同時に予圧できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を実施するタービン発電機の一例の全体を示す側断面図である。
【図2】反タービン側の玉軸受に適用した本発明の一実施例を示す側断面図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す側断面図である。
【図4】内燃機関にタービン発電機を搭載した場合の一例を示す全体概要構成図である。
【図5】本発明者等が実施した初期のタービン発電機の一例の全体を示す側断面図である。
【図6】図5における反タービン側の玉軸受の構成を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0024】
図1、図2は、前記図5に示した初期のタービン発電機100に適用した本発明の実施例であって、図中、図4、図5と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図4及び図5に示すものと同様であり、本実施例の特徴とするところは、図1、図2に示す如く、反タービン側の玉軸受20を構成する外輪20bにおけるロータ1の軸方向外側端面20'に当接するようにしたリング状の外輪ストッパ31を設け、更に、該外輪ストッパ31と外殻部材である蓋部材22の凸部24との間に、外輪ストッパ31をロータ1の軸方向内側(外輪20b側)へ予圧するように予め圧縮された予圧バネ32を配置した点にある。
【0025】
図2では、玉軸受20を嵌め合いによって設置するように軸受フランジ17に設けた段部29を後方に延長させた延長部29'に前記外輪ストッパ31を配置しており、更に、外輪ストッパ31は内輪20aを固定する止めナット28に干渉しないように断面L字形を有している。
【0026】
図3は他の実施例を示したもので、図3では、前記延長部29'に設けた外輪ストッパ31と、外殻部材である軸受フランジ17に設けた前記延長部29'を更に延長させた延長部29''との間に、外輪ストッパ31をロータ1の軸方向内側(外輪20b側)へ予圧するように予め圧縮された予圧バネ32を配置している。
【0027】
次に、図1〜図3に示した装置の作動を説明する。
【0028】
図1に示すタービン発電機100に備えられる反タービン側の玉軸受20を構成する外輪20bは、図2、図3に示すように、予圧バネ32の弾撥力により外輪ストッパ31を介して軸方向外側端面20'を押されて、常に予圧が掛った状態に保持される。
【0029】
この時、上記したように予圧バネ32によって反タービン側の玉軸受20の外輪20bが予圧されることにより、タービン側の玉軸受11の外輪11bも同時に予圧されるようになる。
【0030】
上記タービン発電機100の設置時等の取り扱い時に、タービン発電機100を落下させたり或いは他の部材と衝突するような不測の事態が発生して外殻部材の特に蓋部材22に衝撃的な外力が作用しても、玉軸受20の外輪20bは予圧バネ32の予圧によって支持されているため、前記外力が玉軸受20の外輪20bに作用する問題を確実に防止される。よって、タービン発電機100に衝撃的な外力が作用しても玉軸受20を安全な状態に保持することができる。
【0031】
更に、前記外輪ストッパ31と予圧バネ32は、タービン発電機100の組立時に装入するのみで組み立てることができるため、タービン発電機100の組立作業も容易に行うことができる。
【0032】
上記したように、小型でしかも組立性に優れ、更に外力の作用に対する安全性を高めた軸受構造を有するタービン発電機100は、図4に示すように車両の内燃機関の排熱によって冷却用媒体を気化させて生じた作動流体により発電を行う場合に適用できる他、内燃機関からの排気ガスの圧力を利用して発電を行うような場合にも適用することができ、更には、車両以外の各種の装置機器からの排気ガス或いは排熱を利用する場合にも適用することができる。
【0033】
尚、本発明のタービン発電機の軸受構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、外輪ストッパ及び予圧バネの形状は種々変更し得ること、可能な場合にはタービン側の玉軸受に適用するようにしてもよいこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
1 ロータ
2 一方の軸
3 他方の軸
4 タービン
5 タービンハウジング(外殻部材)
7a 前端面
7b 後端面
7 ステータハウジング(外殻部材)
10 モータステータ
10a モータステータ収容部
11 タービン側の軸受
17 軸受フランジ(外殻部材)
20 反タービン側の軸受
20b 外輪
20' 軸方向外側端面
22 蓋部材(外殻部材)
31 外輪ストッパ
32 予圧バネ
100 タービン発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側に軸を有し一方の軸にタービンが備えられたロータと、
前記タービンを包囲して収容するタービンハウジングと、前記ロータの外周に後端が開放されたモータステータ収容部を有し且つ前記一方の軸との間にタービン側の玉軸受を備えて前端面が前記タービンハウジングに固定されるステータハウジングと、前記ロータの他方の軸との間に反タービン側の玉軸受を備え且つ前記他方の軸の延長上に貫通した開口を備えて前記ステータハウジングの後端面に固定される軸受フランジと、前記開口を閉塞するように前記軸受フランジの後端面に固定される蓋部材とから組み立てられる外殻部材と、を有するタービン発電機の軸受構造であって、
前記反タービン側の玉軸受を構成する外輪におけるロータの軸方向外側端面に当接するよう配置したリング状の外輪ストッパと、該外輪ストッパと外殻部材との間に配置して外輪ストッパを外輪の軸方向外側端面に予圧する予圧バネとを備えたことを特徴とするタービン発電機の軸受構造。
【請求項2】
前記予圧バネは、前記外輪におけるロータの軸方向外側端面と蓋部材との間に配置される請求項1に記載のタービン発電機の軸受構造。
【請求項3】
前記予圧バネは、前記外輪におけるロータの軸方向外側端面とステータハウジングとの間に配置される請求項1に記載のタービン発電機の軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−242822(P2010−242822A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90689(P2009−90689)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】