説明

タービン発電機

【課題】タービン発電機に備えられるモータステータが外力の影響を受ける問題を防止して高い回生性能を維持できるようにする。
【解決手段】モータステータ10と軸受フランジ17との間において、モータステータ10の端面13aに当接し且つ外周がステータハウジング7の内周面に設けた環状の嵌合溝26に嵌合して配置されるスナップリング27を有し、スナップリング27と嵌合溝26における軸受フランジ17側の対向面Tには、内側から外側に向かって軸受フランジ17から離反する方向へ傾斜した傾斜面26a,27aを有しており、縮径させたスナップリング27を、スナップリング27の平坦面27bがモータステータ10の端面13aに当接し且つスナップリング27の傾斜面27aが嵌合溝26の傾斜面26aに当接するように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン発電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の排熱を利用して発電を行うタービン発電機を車両等に搭載し、エネルギーの有効利用を図ることが提案されている。
【0003】
この種の装置としては、例えば、図4に示される如く、エンジン60を冷却して高温となったクーラントをラジエータ61で冷却しポンプ62により循環させるようにした内燃機関において、ラジエータ61の上流側に熱交換器31を配設し、該熱交換器31に液状の冷却用媒体をポンプ32により供給して前記高温のクーラントと熱交換させ、冷却用媒体が気化して生じた作動流体をタービン発電機100のタービン4に供給することにより発電機Mにて発電を行い、該タービン4を回転駆動した後の低圧の作動流体を凝縮器33によって冷却凝縮させて液化させた後、再び前記熱交換器31に供給するようにしたものがある。
【0004】
尚、図4に示されるような排熱を利用して発電する装置の一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【0005】
一方、図5は、本発明者等が開発した初期のタービン発電機100の一例を示す側断面図であり、図5中、1は両側に軸2,3を備えたロータであり、該ロータ1の一方の軸2にはタービン4が一体に嵌着されている。5は前記タービン4を収容するように形成されたタービンハウジングであり、該タービンハウジング5は、圧力を有する作動流体を前記タービン4に導くためのスクロール通路6を有していると共に、タービン4を回転駆動した後の低圧となった作動流体を排気するための排出通路6aを有している。
【0006】
7は固定ボルト8によってその一端面7aを前記タービンハウジング5に一体に組み付けるようにしたステータハウジングであり、該ステータハウジング7は、前記一方の軸2に近づくよう内周側に突出し更に内周部がロータ1に近づくように環状に突出した筒状突出部9を有しており、該筒状突出部9によって形成されるモータステータ収容部10aに、ロータ1を包囲するように形成したモータステータ10のタービンハウジング5側の一端部(図5の例では左側端部)を収容して保持するようになっている。更に、前記筒状突出部9の内周部と一方の軸2との間には第1の軸受11が配置されて一方の軸2を回転可能に支持するようになっている。前記モータステータ10は、内側のコイルからなるステータ12と、該ステータ12より軸方向の長さが長い外側のステータスリーブ13とにより構成されている。
【0007】
又、前記タービンハウジング5に一体に組み付けられるステータハウジング7の一端面7aには、前記スクロール通路6の作動流体をタービン4へ周方向から導くノズル部14に対して周方向に複数配置するようしたベーン15を有し、且つ該各ベーン15を固定するプレート16が嵌合凹部16aに配置されており、該プレート16は前記タービンハウジング5とステータハウジング7の組み付けによってその相互間に挾持されるようになっている。
【0008】
17は固定ボルト18によって前記ステータハウジング7の他端面7bに一体に組み付けるようにした軸受フランジであり、該軸受フランジ17は、前記モータステータ10の反タービンハウジング5側の他端部(図5の例では右側端部)の内側において軸方向へ突出して該モータステータ10の他端部を保持するようにした筒状突出部19を有しており、更に、該筒状突出部19の内周部と前記ロータ1の他方の軸3との間には第2の軸受20が配置されて他方の軸3を回転可能に支持するようになっている。21は、前記軸受フランジ17における他方の軸3が対応する位置に貫通するように形成された開口である。
【0009】
そして、前記軸受フランジ17をステータハウジング7に固定ボルト18で締め付け固定する際に、モータステータ10のステータスリーブ13に軸受フランジ17が当接することで前記モータステータ10の軸方向への移動を固定するようにしている。このように、軸受フランジ17をモータステータ10に当接させてモータステータ10の軸方向への移動を拘束しているために、ステータハウジング7内に形成されるモータステータ収容部10aの深さとステータスリーブ13の軸方向の長さは同一になるように形成している。
【0010】
22は固定ボルト23によって前記軸受フランジ17に一体に組み付けるようにした蓋部材であり、該蓋部材22は、前記軸受フランジ17に備えた開口21を塞ぐように突出して該開口21に嵌合される凸部24を有している。尚、図5中、25は、タービンハウジング5とステータハウジング7との間、モータステータ10の外周とステータハウジング7との間、及び、軸受フランジ17と蓋部材22との間に設けたシールリング等からなるシール材であり、前記モータステータ10の外周とステータハウジング7との間に設けたシール材25は、ステータハウジング7に形成されたモータステータ10用の冷却水路7Hに対し給排口(図示せず)を介して流通される冷却水のシールを行うようになっている。
【0011】
そして、前記ロータ1とモータステータ10とにより発電機Mが形成され、該発電機Mの同軸上に前記タービン4が備えられることによってタービン発電機100が構成され、このように構成したタービン発電機100によれば、組み立てが容易でしかもコンパクトな形状とすることができる。
【0012】
一方、ステータハウジングに対してモータステータを取り付けるための取付構造を示すものとしては、モータステータの外周に配置される複数のボルトと該各ボルトとモータステータとの間に配置するスリーブを備えて、モータステータをステータハウジングに取り付けるようにしたものが特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−008224号公報
【特許文献2】特開2008−199845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、図5に示したように、軸受フランジ17をステータハウジング7に固定する際に、ステータスリーブ13に軸受フランジ17を当接させることでモータステータ10を固定するようにしたタービン発電機100では、組み立て作業は容易であるが、その反面、例えば前記タービン発電機100を設置する際等の取り扱い時に、タービン発電機100を落下させたり或いは他の部材に衝突させる等の不測の事態が発生して軸受フランジ17に衝撃的な負荷が作用した場合には、その負荷が直接モータステータ10に伝わってしまい、そのためにモータステータ10が変形する可能性があり、モータステータ10が変形した場合には発電機Mの性能が著しく低下し、タービン発電機100による電力の回生性能が大幅に低下するという問題を有していた。
【0015】
また、特許文献2に示すように、複数のボルトと該各ボルトに装着するようにしたスリーブによってモータステータをステータハウジングに取り付けるようにした構造では、装置構成が複雑になると共に組立工数が増加して大幅なコストの増加を招くという問題がある。
【0016】
本発明は、斯かる実情に鑑みてなしたもので、組み立てが容易であり且つモータステータに外力が作用する問題を防止して高い回生性能を維持できるようにしたタービン発電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、両側に軸を有し一方の軸にタービンが備えられたロータと、前記タービンを包囲して収容するタービンハウジングと、前記ロータを包囲するモータステータを収容し且つ前記一方の軸との間に第1の軸受を備えて前記タービンハウジングに固定されるステータハウジングと、前記ロータの他方の軸との間に第2の軸受を備えて前記ステータハウジングに固定される軸受フランジとを有するタービン発電機であって、
前記モータステータと軸受フランジとの間において、モータステータの端面に当接し且つ外周がステータハウジングの内周面に設けた環状の嵌合溝に嵌合して配置されるスナップリングを有し、
該スナップリングと前記嵌合溝における軸受フランジ側の対向面には、内側から外側に向かって軸受フランジから離反する方向へ傾斜した傾斜面を有しており、
縮径させたスナップリングを、スナップリングの平坦面が前記モータステータの端面に当接し且つ前記スナップリングの傾斜面が嵌合溝の傾斜面に当接するように配置した
ことを特徴とするタービン発電機、に係るものである。
【0018】
上記タービン発電機において、前記モータステータは、内側のステータと外側のステータスリーブにて構成されており、前記嵌合溝に嵌合したスナップリングがステータスリーブの端面に当接していることは好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のタービン発電機によれば、組み立て作業が容易であり、更に、タービン発電機の設置時等の取り扱い時に、タービン発電機を落下させたり或いは他の部材に衝突させる等の不測の事態が発生して軸受フランジに衝撃的な負荷が作用しても、軸受フランジとモータステータとは接していないために、前記負荷によってモータステータが変形するような問題を防止できる効果を有する。又、前記負荷によってステータハウジングが軸方向へ移動するようなことが生じても、嵌合溝の傾斜面がスナップリングの傾斜面を押してスナップリングを縮径させるように作用するので、モータステータに負荷が掛ることはなく、モータステータは常にスナップリングによって位置決めされた状態に保持されるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を実施するタービン発電機の一例の全体を示す側断面図である。
【図2】スナップリングの一例を示す正面図である。
【図3】スナップリングとスナップリングが嵌合する嵌合溝の形状を示す側断面図である。
【図4】内燃機関にタービン発電機を搭載した場合の一例を示す全体概要構成図である。
【図5】本発者等が実施した初期のタービン発電機の一例の全体を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0022】
図1は、前記図5に示した初期のタービン発電機100に適用した本発明の実施例であって、図中、図4及び図5と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図4及び図5に示すものと同様であり、本実施例の特徴とするところは、図1に示す如く、前記ステータハウジング7に支持されるモータステータ10と軸受フランジ17との間に、モータステータ10の端面に当接し、且つ外周がステータハウジング7の内周面に設けた環状の嵌合溝26に嵌合するようにした図2に示す形状のスナップリング27を設けた点にある。尚、図1のモータステータ10は、コイルからなるステータ12と樹脂等からなるステータスリーブ13の軸方向の長さを同一とした場合を示している。
【0023】
更に、図3に示す如く、前記スナップリング27と前記嵌合溝26の軸受フランジ17側の壁面とが対向している対向面Tには、内側から外側に向かって軸受フランジ17から離反する方向へ傾斜した傾斜面26a,27aを形成している。又、前記スナップリング27における前記傾斜面27aが設けられた側とは反対側の面は、軸に対して鉛直な平坦面27bとなっており、この平坦面27bが前記ステータスリーブ13の端面13aに当接するようになっている。
【0024】
そして、前記スナップリング27を設置する際には、先ず、スナップリング27を縮径させ、スナップリング27の平坦面27bが前記ステータスリーブ13の端面13aに当接し且つ前記スナップリング27の傾斜面27aが嵌合溝26の傾斜面26aに当接するように嵌合溝26に嵌合させて配置する。
【0025】
これにより、ステータスリーブ13が、スナップリング27によって軸方向への移動を拘束された状態でステータハウジング7内に支持されたタービン発電機200が構成される。
【0026】
次に、図1〜図3に示した実施例の作用を説明する。
【0027】
先ず、図1のタービン発電機200を組み立てる方法の一例について説明すると、タービン4を備えていないロータ1の一方の軸2に第1の軸受11を装着し、該第1の軸受11がステータハウジング7に備えた筒状突出部9の内側に嵌合されるようにロータ1を右側からステータハウジング7に挿入する。続いて、前記筒状突出部9の外側に形成されたモータステータ収容部10aに、モータステータ10を右側から挿入して嵌合配置させる。
【0028】
次に、図2に示すスナップリング27を縮径させ、前記スナップリング27の傾斜面27aが嵌合溝26の傾斜面26aに当接するように嵌合溝26に嵌合し、且つスナップリング27の平坦面27bがモータステータ10のステータスリーブ13の端面13aに当接するように配置する。
【0029】
次に、ロータ1の他方の軸3に第2の軸受20を装着し、該第2の軸受20の外周に該筒状突出部19が嵌合するようにして軸受フランジ17をステータハウジング7の他端面7bに当接させ、固定ボルト18により軸受フランジ17をステータハウジング7に固定する。
【0030】
更に、蓋部材22の凸部24が軸受フランジ17の開口21に嵌合するようにして蓋部材22を軸受フランジ17に当接させ、固定ボルト23により蓋部材22を軸受フランジ17に固定する。
【0031】
一方、前記ロータ1の一方の軸2にタービン4を取り付け、更に、軸受フランジ17のタービン4側の端面に形成された凹部にベーン15を固定するプレート16を嵌合配置し、続いて前記タービン4を包囲するタービンハウジング5を軸受フランジ17の一端面7aに当接させ、固定ボルト8によりタービンハウジング5を軸受フランジ17に固定する。
【0032】
上記構成を有するタービン発電機200によれば、短時間で高能率に組み立て作業を行うことができる。更に、上記したタービン発電機200を例えば図4に示すような内燃機関に設置する際等の取り扱い時に、タービン発電機200を落下させたり或いは他の部材に衝突させる等の不測の事態が発生して、軸受フランジ17に衝撃的な負荷が作用した際には、その負荷がステータハウジング7に対して軸方向に伝わることになるが、軸受フランジ17とモータステータ10とは接していないために、軸方向の負荷がモータステータ10に作用する問題は防止される。又、前記負荷によってステータハウジング7が軸方向に移動するようなことが起こっても、嵌合溝26の傾斜面26aがスナップリング27の傾斜面27aを押してスナップリング27を縮径させるように作用するので、モータステータ10に負荷が掛ることはなく、モータステータ10は常にスナップリング27によって位置決めされた状態に良好に保持される。従って、モータステータ10が外力によって変形し、そのために発電機Mによる発電性能が大幅に低下するといった問題の発生は防止され、よってタービン発電機200は常に高い回生性能を維持することができる。
【0033】
又、上記タービン発電機200を図4に示すような内燃機関に適用した場合には、タービン発電機200が内燃機関の振動の作用を受ける問題があるが、前記したように、モータステータ10は軸受フランジ17とは切り離された状態でスナップリング27によってステータハウジング7に確実に支持されているので、モータステータ10が軸方向に振動する問題も低減できる。
【0034】
上記したように、小型でしかも安定した回生性能を有するタービン発電機200は、図4に示すように車両の内燃機関の排熱によって冷却用媒体を気化させて生じた作動流体により発電を行う場合に適用できる他、内燃機関からの排気ガスの圧力を利用して発電を行うような場合にも適用することができ、更には、車両以外の各種の装置機器からの排気ガス或いは排熱を利用する場合にも適用することができる。
【0035】
尚、本発明のタービン発電機は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1 ロータ
2 一方の軸
3 他方の軸
4 タービン
5 タービンハウジング
7 ステータハウジング
10 モータステータ
11 第1の軸受
12 ステータ
13 ステータスリーブ
13a 端面
17 軸受フランジ
20 第2の軸受
26 嵌合溝
26a 傾斜面
27 スナップリング
27a 傾斜面
27b 平坦面
200 タービン発電機
T 対向面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側に軸を有し一方の軸にタービンが備えられたロータと、前記タービンを包囲して収容するタービンハウジングと、前記ロータを包囲するモータステータを収容し且つ前記一方の軸との間に第1の軸受を備えて前記タービンハウジングに固定されるステータハウジングと、前記ロータの他方の軸との間に第2の軸受を備えて前記ステータハウジングに固定される軸受フランジとを有するタービン発電機であって、
前記モータステータと軸受フランジとの間において、モータステータの端面に当接し且つ外周がステータハウジングの内周面に設けた環状の嵌合溝に嵌合して配置されるスナップリングを有し、
該スナップリングと前記嵌合溝における軸受フランジ側の対向面には、内側から外側に向かって軸受フランジから離反する方向へ傾斜した傾斜面を有しており、
縮径させたスナップリングを、スナップリングの平坦面が前記モータステータの端面に当接し且つ前記スナップリングの傾斜面が嵌合溝の傾斜面に当接するように配置した
ことを特徴とするタービン発電機。
【請求項2】
前記モータステータは、内側のステータと外側のステータスリーブにて構成されており、前記嵌合溝に嵌合したスナップリングはステータスリーブの端面に当接していることを特徴とする請求項1に記載のタービン発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−242567(P2010−242567A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90687(P2009−90687)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)