ターボチャージャ
【課題】内燃機関の低回転時にノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を的確に最適な値へと調整することができ、内燃機関の中回転から高回転にかけては上記排気の流速を最適な値としたうえでノズル付近の圧力の過上昇を抑制できるようにする。
【解決手段】内燃機関の低回転時には、タービンホイール14の翼間流路16への排気の流入は、固定ノズル22のみから行われる。この固定ノズル22については、固定翼24がノズル壁面との間にクリアランスが存在しない状態で設けられるとともに、同ノズル22のガス流通面積が上記固定翼24によって内燃機関の低回転時に適した値となるよう設定される。また、内燃機関の中高回転時には、可変ノズル23からも上記翼間流路16に排気が流され、可変ノズル23の可動翼25が機関回転速度が高くなるほど開き側に変位させられる。
【解決手段】内燃機関の低回転時には、タービンホイール14の翼間流路16への排気の流入は、固定ノズル22のみから行われる。この固定ノズル22については、固定翼24がノズル壁面との間にクリアランスが存在しない状態で設けられるとともに、同ノズル22のガス流通面積が上記固定翼24によって内燃機関の低回転時に適した値となるよう設定される。また、内燃機関の中高回転時には、可変ノズル23からも上記翼間流路16に排気が流され、可変ノズル23の可動翼25が機関回転速度が高くなるほど開き側に変位させられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の過給に用いられるターボチャージャに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用等の内燃機関においては、出力向上等を図るために過給機としてターボチャージャを設けたものが知られている。こうしたターボチャージャは、内燃機関の排気が送り込まれるタービンスクロールと、そのタービンスクロール内の排気をタービンホイールの翼間流路に流すノズルと、タービンホイールと一体回転するコンプレッサホイールとを備えている。そして、ノズルからタービンホイールの翼間流路への排気の流入より同ホイールが回転すると、それに伴いコンプレッサホイールが回転して内燃機関の燃焼室に向けて強制的に空気が送り込まれるようになる。
【0003】
ところで、内燃機関の低回転時には同機関の排気流量が少なくなるため、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速が低下する。このようにタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速が低下すると、タービンホイールを効果的に回転させることができなくなり、それに伴いコンプレッサホイールの回転による内燃機関の過給も効果的に行えなくなる。こうした問題に対処するため、排気流量の少なくなる内燃機関の低回転時、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速が同ホイールを効果的に回転させるうえで十分に高速になるよう、ノズルのガス流通面積を小さく設定することも考えられる。ただし、このようにノズルのガス流通面積を小さく設定すると、排気流量の多くなる内燃機関の中高回転時に上記ノズル付近の圧力が高くなり過ぎる。
【0004】
そこで、特許文献1に示されるように、上記ノズルとして羽根つきノズル及び羽根なしノズルとを設け、羽根つきノズルのガス流通面積を内燃機関の低回転時に適した値に設定するとともに、羽根なしノズルを通ってのタービンホイールの翼間流路への排気の流入を禁止・許可すべく開閉動作する制御バルブを設けることが提案されている。この場合、内燃機関の低回転時には、制御バルブが閉じられて羽根なしノズルを通ってのタービンホイールの翼間流路への排気の流入が禁止されるため、その翼間流路への排気の流入は羽根つきノズルのみから行われることとなる。従って、排気流量の少なくなる内燃機関の低回転時、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を同ホイールを効果的に回転させるうえで十分に高速にすることができる。一方、内燃機関の高回転時には、制御バルブが開かれて羽根なしノズルを通っての上記翼間流路への排気の流入が許可される。このため、排気流量が多くなる内燃機関の高回転時、羽根つきノズル付近の圧力が高くなり過ぎるのを抑制することができる。
【0005】
上記特許文献1のターボチャージャを用いれば、内燃機関の低回転時にタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速確保と、内燃機関の高回転時におけるノズル付近の圧力過上昇の抑制との両立を図り、ターボチャージャによる過給の効率を高めることは可能になる。しかし、内燃機関の中回転時には、同機関の排気流量が低回転時と高回転時との中間程度の値になることから、制御バルブを開弁状態と閉弁状態とのいずれに制御したとしても、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を同ホイールを効果的に回転させる値としつつ、ノズル付近の圧力が高くなり過ぎるのを抑制するのは困難である。すなわち、内燃機関の中回転時に制御バルブを開弁状態とした場合には、ノズル付近の圧力が過上昇するのは抑制できるものの、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速が同ホイールを効果的に回転させる値よりも小となる。また、内燃機関の中回転時に制御バルブを閉弁状態とした場合には、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を好適な値へと高めることはできるものの、ノズル付近の圧力が過上昇して過給効率が低下することは避けられない。
【0006】
こうした問題に対処するため、上述した羽根つきノズル、羽根なしノズル、及び制御バルブといった構成を採用する代わりに、ノズルに同ノズルのガス流通面積を可変とすべく開閉動作する可変翼を設けることも考えられる。こうした可変翼が設けられたターボチャージャのタービンホイール周りを図4に模式的に示す。
【0007】
同図に示されるように、タービンスクロール101内の排気をタービンホイール102の翼間流路103に流すためのノズル104には、そのノズル104のガス流通面積を可変とすべく開閉動作する可動翼105が設けられる。この可動翼105の開閉動作は開閉機構106によって行われる。ここで、図5及び図6を併せ参照して上記開閉機構106の詳細な構造を説明する。なお、図5は、図4の開閉機構106を図中左側から見た正面図であり、図6は図5の開閉機構106を矢印A−A方向から見た側断面図である。
【0008】
これら図5及び図6に示されるように、開閉機構106は、リング状に形成されたノズルバックプレート107と、同プレート107を厚さ方向に貫通して回動可能とされる複数の軸108とを備えている。軸108において、その一端部には上記可動翼105が固定され、他端部には開閉レバー109が固定されている。この開閉レバー109と上記ノズルバックプレート107との間には、同プレート107と厚さ方向に重なるように環状のリングプレート110が設けられている。このリングプレート110は、上記開閉レバー109の二股部109aに挟まれるピン111を備えるとともに、図示しないアクチュエータの駆動に基づき周方向に回動するようになっている。
【0009】
そして、アクチュエータの駆動によりリングプレート110がその円心を中心に回動すると、ピン111が開閉レバー109の二股部109aをリングプレート110の回動方向に押す。その結果、それら開閉レバー109が軸108を回動させることになり、軸108の回動に伴い各可動翼105が軸108を中心にして各々同期した状態で開閉動作する。こうした隣合う可動翼105の開閉動作に基づき、各可動翼105間の隙間の大きさ、言い換えればノズル104のガス流通面積が変化するようになる。
【0010】
以上のように、タービンスクロール内の排気をタービンホイールの翼間流路に流すためのノズルに可変翼を設けたターボチャージャにおいては、その可変翼を開閉させてノズルのガス流通面積を変更することで、ノズルを通って上記翼間流路に流れる排気の流速を可変とすることができる。従って、内燃機関の低回転時には可動翼を閉じ側に変位させ、内燃機関の回転速度が高くなるにつれて上記可変翼を開き側に変位させてノズルのガス流通面積を大きくしてゆくことで、以下のような効果を得ることができると考えられる。すなわち、機関低回転時には上記翼間流路に流入する排気の流速を最適な値に調整しつつ、機関中回転から高回転にかけては上記排気の流速を最適な値としたうえでノズル付近の圧力過上昇に伴う過給効率低下を抑制することが可能と考えられる。
【特許文献1】特開昭60−166718公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、ノズルに可変翼を設けたターボチャージャにおいては、排気流量の少なくなる内燃機関の低回転時に、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を必ずしも最適な値に調整できるとは限らないことが確認された。これは、以下の[A]及び[B]の理由によると推測される。
【0012】
[A]ノズル内での可変翼の開閉動作を可能とするため、ノズル壁面と可変翼との間には若干のクリアランスが設けられており、内燃機関の低回転時にノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を高めるべく可動翼を閉じ側に変位させても、上記クリアランスからの排気漏れの分だけ上記排気の流速が低下する。また、内燃機関の低回転時においては、内燃機関の排気流量が少ないことから当該排気流量全体に対する上記クリアランスから漏れる排気の量の割合が高くなり、同クリアランスからの排気漏れに起因する上記排気の流速の低下が顕著になる。従って、内燃機関の低回転時には、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を、タービンホイールを効率よく回転させることの可能な値まで高めることが困難になる。
【0013】
[B]図7に示されるように、開閉レバー109の二股部109aとリングプレート110のピン111との間にはクリアランスがある。そして、排気がノズルを通過するときには可動翼105に開き側への力Fが加わり、この力Fが二股部109aを介してピン111に対し矢印Y1方向に作用する。なお、排気がノズルを通過するときに可動翼105に働く開き側への力Fは、可動翼105を閉じ側に変位させるほど小さくなる。
【0014】
ここで、内燃機関が低回転となって可動翼105を開き側から閉じ側へと変位させるときには、アクチュエータによるリングプレート110の回動に伴いピン111が矢印Y2方向に二股部109aを押すことになる。このとき、開閉レバー109には上記力Fが作用することから、二股部109aの図中上側がピン111に当たる。
【0015】
しかし、可動翼105が全閉位置付近に達した後、内燃機関の回転速度上昇に伴い可動翼105を開き側に変位させるべくピン111(リングプレート110)を図8の矢印Y3方向に変位させたときには、上記力Fが小さくなっていることから二股部109aを上記ピン111の変位に追従させて矢印Y3方向に変位させることができなくなる。その結果、ピン111は、最初に二股部109aとの間のクリアランスの分だけ同二股部109aに対し矢印Y3方向に相対的に変位し、その後に二股部109aの図中下側に当たって可動翼105の開く方向に開閉レバー109を変位させることになる。
【0016】
そして、可動翼105が開き側に変位してゆくと、上記力Fが徐々に大きくなってゆき、ピン111が矢印Y3方向に変位している状態であっても、図9に示されるように、いずれは二股部109aが力Fによってピン111に対し矢印Y1方向に相対的に変位して同ピン111の図中上側に押しつけられることとなる。
【0017】
図10は、内燃機関の低回転時における可動翼105の上述した開→全閉付近→開といった動作の際、アクチュエータの駆動指令値の変化に対し可動翼105がどのように変位するかを示したグラフである。
【0018】
同図から分かるように、可動翼105を開いた状態から全閉付近まで変位させるときには、アクチュエータの駆動指令値の閉じ側への変化を通じて可動翼105が図10の矢印aで示されるように全閉位置に向けて変位する。その後、全閉位置付近にある可動翼105を開くべくアクチュエータの駆動指令値を開き側に変化させたときにおいて、開閉レバー109の二股部109aが図7に示される状態から図8に示される状態へと変位するまでの間は、上記駆動指令値を開き側に変化させても可動翼105が図10に矢印bで示されるように全閉位置付近に保持される。続いて、ピン111と二股部109aとが図8に示される状態のまま可動翼105が開き側に変位し、その後に二股部109aが上記力Fの増加に伴い図9に示される状態へと変位する。このときには、アクチュエータの駆動指令値の開き側への変化に伴い、可動翼105が図10の矢印cで示されるように開き側に変位することとなる。
【0019】
可動翼105を全閉位置付近から開き側に変位させるとき、アクチュエータの駆動指令値を開き側に変化させていっても、可動翼105は適正な変位(図10の矢印aの逆向きの変化)を示さず、矢印b、cで示されるようにしか変位しない。この矢印b、cで示される内燃機関の低回転時におけるアクチュエータの駆動領域では、可動翼105が矢印aの逆向きの変化を示すときの位置(適正な位置)よりも閉じ側に位置するため、ノズルを通ってタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速が過度に高くなるおそれがある。
【0020】
上述した[A]及び[B]の理由により、ノズルに可変翼を設けたとしても、排気流量の少なくなる内燃機関の低回転時には、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を最適な値に調整できなくなる。
【0021】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、内燃機関の低回転時にノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を的確に最適な値へと調整することができ、内燃機関の中回転から高回転にかけては上記排気の流速を最適な値としたうえでノズル付近の圧力の過上昇を抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明では、内燃機関の排気が送り込まれるタービンスクロールと、そのタービンスクロール内の排気をタービンホイールの翼間流路に流すノズルと、そのノズル内に設けられて同ノズルのガス流通面積を可変とすべく開閉動作する可動翼とを備え、前記ノズルから前記タービンホイールの翼間流路への排気の流入により同ホイールが回転するターボチャージャにおいて、前記ノズルとして前記可動翼を備える可変ノズルを設けるとともに同可変ノズルとは別に固定ノズルを設け、前記固定ノズルには同ノズルのガス流通面積を内燃機関の低回転時に適した値に設定する固定翼を設け、内燃機関の低回転時には前記可変ノズルへの排気の流入を禁止すべく全閉状態とされて内燃機関の中高回転時には前記可変ノズルへの排気の流入を許可すべく全開状態とされる制御バルブを設けた。
【0023】
上記構成によれば、内燃機関の低回転時には可変ノズルへの排気の流入が禁止され、タービンホイールの翼間流路への排気の流入は固定ノズルのみから行われる。この固定ノズルについては、固定翼がノズル壁面との間にクリアランスが存在しない状態で設けられるとともに、同ノズルのガス流通面積が上記固定翼によって内燃機関の低回転時に適した値に設定される。従って、内燃機関の低回転時に固定ノズルからタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を、タービンホイールを効果的に回転させるのに適した値へと的確に調整することができる。また、内燃機関の中高回転時には可変ノズルへの排気の流入が許可され、可動翼の開閉動作を通じて可変ノズルのガス流通面積を変更することが可能になる。従って、内燃機関の中高回転時には、内燃機関の回転速度が高くなるほど可動翼を開き側に変位させて可変ノズルのガス流通面積を大とすることにより、上記翼間流路に流入する排気の流速を最適な値に調整しつつノズル付近での圧力の過上昇が生じるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図3に従って説明する。
図1は、自動車に搭載される内燃機関の過給を行うターボチャージャ11における同機関の排気系側の部分を示す断面図である。
【0025】
同図に示されるように、ターボチャージャ11は、センタハウジング12に回転可能に支持されたロータシャフト13を備えている。そして、ロータシャフト13の一端部(図中右端部)にはタービンホイール14が取り付けられている。このタービンホイール14にはロータシャフト13の軸線を中心とする周方向に複数の羽根15が設けられ、各羽根15の間は翼間流路16とされている。
【0026】
センタハウジング12の一端側には、タービンホイール14の外周を囲うように、しかも渦巻き状に延びるかたちでタービンスクロール17が取り付けられている。このタービンスクロール17の内部は、内燃機関の排気通路21と連通しており、同排気通路21から内燃機関の排気が送り込まれるようになっている。そして、タービンスクロール17内に送り込まれた排気をタービンホイール14の翼間流路16に流すことで、タービンホイール14及びロータシャフト13が回転するようになる。そして、ロータシャフト13が回転すると、同シャフト13の他端部に取り付けられたコンプレッサホイールも回転し、それに伴い内燃機関の吸気通路内の空気が強制的に燃焼室に向けて送り出される。
【0027】
次に、タービンスクロール17の内部構造について詳しく説明する。
タービンスクロール17の内部には、仕切壁18によって区画された二つのスクロール通路19,20、すなわちセンタハウジング12寄りに位置するスクロール通路19と、センタハウジング12から離れて位置するスクロール通路20とが形成されている。これらスクロール通路19,20は内燃機関の排気通路21と繋がっている。また、スクロール通路20と排気通路21との接続部分には、アクチュエータ27aによって駆動される制御バルブ27が設けられている。この制御バルブ27は、アクチュエータ27aによる駆動を通じて、排気通路21からスクロール通路20への排気の流入を禁止・許可すべく全閉状態と全開状態との間で開閉動作する。
【0028】
スクロール通路19におけるタービンホイール14側の部分には、同通路19内の排気をタービンホイール14の翼間流路16に流す固定ノズル22が設けられている。固定ノズル22におけるノズル壁面には、同ノズル22のガス流通面積を設定するための固定翼24が固定されている。この固定翼24は、タービンホイール14周りにおいて、図2に示されるように周方向に等間隔をおいて複数設けられている。そして、固定ノズル22のガス流通面積については、上記各固定翼24によって、内燃機関の低回転時にスクロール通路19から固定ノズル22を通ってタービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速が、同ホイール14を効果的に回転させることの可能な値となるよう設定されている。
【0029】
また、図1に示されるスクロール通路20におけるタービンホイール14側の部分には、同通路20内の排気を上記翼間流路16に流す可変ノズル23が設けられている。可変ノズル23には、同ノズル23のガス流通面積を可変とすべく開閉動作する可動翼25が設けられており、可動翼25の開閉動作はアクチュエータ26aによって駆動される開閉機構26を通じて行われる。この可動翼25は、タービンホイール14周りにおいて、図3に示されるように周方向に等間隔をおいて複数設けられている。そして、各可動翼25が開閉機構26によって図中の実線及び破線で示されるように開閉動作すると、隣り合う可動翼25間の隙間の大きさ、言い換えれば可変ノズル23のガス流通面積が変化するようになる。
【0030】
ところで、ターボチャージャ11の過給効率については、タービンホイール14の翼間流路16に排気が流入する際の流速など、翼間流路16への排気の流入態様が大きく影響を及ぼす。また、タービンホイール14の翼間流路16への排気の流入態様は、可動翼25及び制御バルブ27の開閉動作を通じて可変とされる。従って、ターボチャージャ11による過給を効果的に行うには、上記翼間流路16への排気の流入態様が内燃機関の運転状態に適したものとなるよう、可動翼25及び制御バルブ27を制御することが必要になる。
【0031】
この実施形態では、こうした可動翼25及び制御バルブ27の制御を、自動車に搭載された内燃機関の各種制御を行う電子制御装置29を通じて行うようにしている。この電子制御装置29は、内燃機関の回転速度を検出する回転速度センサ28など各種センサの検出信号を入力し、これら検出信号から把握される機関運転状態に基づき可動翼25及び制御バルブ27を開閉動作させるためのアクチュエータ26a,27aの駆動制御を行う。こうした可動翼25及び制御バルブ27の制御を通じて、タービンホイール14の翼間流路16への排気の流入態様がターボチャージャ11による効果的な過給を実現するのに適した態様とされる。
【0032】
次に、上述した可動翼25及び制御バルブ27の制御について詳しく説明する。
内燃機関の低回転時には制御バルブ27が全閉状態とされ、排気通路21からスクロール通路20への排気の流入が禁止されることから、スクロール通路20から可変ノズル23への排気の流入も禁止される。このとき、排気通路21からスクロール通路19への排気の流入は行われ、スクロール通路19内の排気は固定ノズル22を通ってタービンホイール14への翼間流路16に流れる。従って、内燃機関の低回転時、タービンホイール14の翼間流路16への排気の流入は、固定ノズル22のみから行われることとなる。この固定ノズル22については、固定翼24がノズル壁面との間にクリアランスが存在しない状態で設けられるとともに、同ノズル22のガス流通面積が上記固定翼24によって内燃機関の低回転時に適した値となるよう設定されている。従って、内燃機関の低回転時に固定ノズル22からタービンホイール14の翼間流路16に流れる排気の流速を、タービンホイール14を効果的に回転させるのに適した値に調整することができる。
【0033】
また、内燃機関の中高回転時には、制御バルブ27が全開状態とされ、排気通路21からスクロール通路20への排気の流入が許可されることから、スクロール通路20から可変ノズル23への排気の流入も許可される。このため、内燃機関の中高回転時、タービンホイール14の翼間流路16への排気の流入は、固定ノズル22と可変ノズル23との両方から行われる。そして、可変ノズル23においては、そのガス流通面積が可動翼25の開閉動作を通じて可変とされる。こうした可動翼25の開閉動作は、内燃機関の回転速度など機関運転状態に応じて行われることとなる。具体的には、内燃機関の中高回転時、内燃機関の回転速度が高くなるほど、可動翼25が開き側に変位させられる。これにより、内燃機関の中高回転時には、可変ノズル23からタービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速を同ホイール14を効果的に回転させるのに最適な値に調整しつつ、可変ノズル23付近での圧力の過上昇が生じてターボチャージャ11の過給効率が低下するのを抑制することができる。
【0034】
なお、内燃機関の中高回転時における可動翼25の開閉方向の可動範囲については、全閉位置から全開位置までの任意の範囲を設定することが可能である。
ここで、仮に可動翼25が全閉位置付近まて変位できるよう可動翼25の開閉方向の可動範囲を設定した場合、可動翼25を全閉位置付近まで閉じ側に変位させたとき、可変ノズル23におけるノズル壁面と可動翼25とのクリアランスから排気漏れという上記[A]に記載した問題が生じる。しかし、内燃機関の中高回転時には同機関からの排気流量が多く、その排気流量全体に対する上記クリアランスからの排気漏れの割合が低くなるため、この排気漏れがタービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速に影響を及ぼすことはない。
【0035】
また、上述したように可動翼25が全閉位置付近まて変位できるよう可動翼25の開閉方向の可動範囲を設定した場合であって、可動翼25が全閉位置付近まで閉じ側に変位させた後に開き側に変位させられるときには、可動翼25が適正な位置よりも閉じ側にずれるという上記[B]に記載した問題が生じる。しかし、このときにタービンホイール14の翼間流路16に排気が流入する際のガス流通面積は、可変ノズル23のガス流通面積と固定ノズル22のガス流通面積とを合計した大きな値になる。このため、それらガス流通面積の合計値に比べて、上記可動翼25の閉じ側のずれに起因するガス流通面積の減少量は極めて小さなものとなる。従って、上記可動翼25の閉じ側のずれに起因するガス流通面積の減少が、タービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速に影響を及ぼすことはない。
【0036】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)内燃機関の低回転時には固定ノズル22のみからタービンホイール14の翼間流路16に排気を流すことで、その翼間流路16に流入する排気の流速がタービンホイール14を効果的に回転させるのに適した値になる。また、内燃機関の中高回転時には、可変ノズル23からも上記翼間流路16に排気が流され、可変ノズル23の可動翼25が機関回転速度が高くなるほど開き側に変位させられる。これにより、可変ノズル23からタービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速を同ホイール14を効果的に回転させるのに最適な値に調整しつつ、可変ノズル23付近での圧力の過上昇が生じてターボチャージャ11の過給効率が低下するのを抑制することができる。
【0037】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・タービンスクロール17内の仕切壁18を廃止してタービンスクロール17内に一つのスクロール通路のみを形成し、その一つのスクロール通路におけるタービンホイール14寄りの部分に固定ノズル22と可変ノズル23とを設けてもよい。この場合、スクロール通路における可変ノズル23側に、同通路から可変ノズル23への排気の流入を禁止・許可すべく全閉状態と全開状態との間で開閉動作する制御バルブが設けられる。
【0038】
・可動翼25の開閉方向の可動範囲については、全閉付近を含んだ範囲としてもよいし、全閉付近を含まない範囲としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のターボチャージャにおける内燃機関の排気系側の部分を示す断面図。
【図2】上記ターボジャージャのタービンスクロール内部における固定ノズル周りの構造を示す断面図。
【図3】上記ターボジャージャのタービンスクロール内部における可変ノズル周りの構造を示す断面図。
【図4】可動翼を備えたターボジャージャのタービンホイール周りの従来例を示す略図。
【図5】可動翼を開閉動作させるための開閉機構の構造を示す平面図。
【図6】図5の開閉機構を矢印A−A方向から見た断面図。
【図7】上記開閉機構における可変翼周りを示す拡大図。
【図8】上記開閉機構における可変翼周りを示す拡大図。
【図9】上記開閉機構における可変翼周りを示す拡大図。
【図10】アクチュエータの駆動指令値の変化に対する可動翼の変位態様を示すグラフ。
【符号の説明】
【0040】
11…ターボチャージャ、12…センタハウジング、13…ロータシャフト、14…タービンホイール、15…羽根、16…翼間流路、17…タービンスクロール、18…仕切壁、19,20…スクロール通路、21…排気通路、22…固定ノズル、23…可変ノズル、24…固定翼、25…可動翼、26…開閉機構、26a…アクチュエータ、27…制御バルブ、27a…アクチュエータ、28…回転速度センサ、29…電子制御装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の過給に用いられるターボチャージャに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用等の内燃機関においては、出力向上等を図るために過給機としてターボチャージャを設けたものが知られている。こうしたターボチャージャは、内燃機関の排気が送り込まれるタービンスクロールと、そのタービンスクロール内の排気をタービンホイールの翼間流路に流すノズルと、タービンホイールと一体回転するコンプレッサホイールとを備えている。そして、ノズルからタービンホイールの翼間流路への排気の流入より同ホイールが回転すると、それに伴いコンプレッサホイールが回転して内燃機関の燃焼室に向けて強制的に空気が送り込まれるようになる。
【0003】
ところで、内燃機関の低回転時には同機関の排気流量が少なくなるため、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速が低下する。このようにタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速が低下すると、タービンホイールを効果的に回転させることができなくなり、それに伴いコンプレッサホイールの回転による内燃機関の過給も効果的に行えなくなる。こうした問題に対処するため、排気流量の少なくなる内燃機関の低回転時、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速が同ホイールを効果的に回転させるうえで十分に高速になるよう、ノズルのガス流通面積を小さく設定することも考えられる。ただし、このようにノズルのガス流通面積を小さく設定すると、排気流量の多くなる内燃機関の中高回転時に上記ノズル付近の圧力が高くなり過ぎる。
【0004】
そこで、特許文献1に示されるように、上記ノズルとして羽根つきノズル及び羽根なしノズルとを設け、羽根つきノズルのガス流通面積を内燃機関の低回転時に適した値に設定するとともに、羽根なしノズルを通ってのタービンホイールの翼間流路への排気の流入を禁止・許可すべく開閉動作する制御バルブを設けることが提案されている。この場合、内燃機関の低回転時には、制御バルブが閉じられて羽根なしノズルを通ってのタービンホイールの翼間流路への排気の流入が禁止されるため、その翼間流路への排気の流入は羽根つきノズルのみから行われることとなる。従って、排気流量の少なくなる内燃機関の低回転時、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を同ホイールを効果的に回転させるうえで十分に高速にすることができる。一方、内燃機関の高回転時には、制御バルブが開かれて羽根なしノズルを通っての上記翼間流路への排気の流入が許可される。このため、排気流量が多くなる内燃機関の高回転時、羽根つきノズル付近の圧力が高くなり過ぎるのを抑制することができる。
【0005】
上記特許文献1のターボチャージャを用いれば、内燃機関の低回転時にタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速確保と、内燃機関の高回転時におけるノズル付近の圧力過上昇の抑制との両立を図り、ターボチャージャによる過給の効率を高めることは可能になる。しかし、内燃機関の中回転時には、同機関の排気流量が低回転時と高回転時との中間程度の値になることから、制御バルブを開弁状態と閉弁状態とのいずれに制御したとしても、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を同ホイールを効果的に回転させる値としつつ、ノズル付近の圧力が高くなり過ぎるのを抑制するのは困難である。すなわち、内燃機関の中回転時に制御バルブを開弁状態とした場合には、ノズル付近の圧力が過上昇するのは抑制できるものの、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速が同ホイールを効果的に回転させる値よりも小となる。また、内燃機関の中回転時に制御バルブを閉弁状態とした場合には、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を好適な値へと高めることはできるものの、ノズル付近の圧力が過上昇して過給効率が低下することは避けられない。
【0006】
こうした問題に対処するため、上述した羽根つきノズル、羽根なしノズル、及び制御バルブといった構成を採用する代わりに、ノズルに同ノズルのガス流通面積を可変とすべく開閉動作する可変翼を設けることも考えられる。こうした可変翼が設けられたターボチャージャのタービンホイール周りを図4に模式的に示す。
【0007】
同図に示されるように、タービンスクロール101内の排気をタービンホイール102の翼間流路103に流すためのノズル104には、そのノズル104のガス流通面積を可変とすべく開閉動作する可動翼105が設けられる。この可動翼105の開閉動作は開閉機構106によって行われる。ここで、図5及び図6を併せ参照して上記開閉機構106の詳細な構造を説明する。なお、図5は、図4の開閉機構106を図中左側から見た正面図であり、図6は図5の開閉機構106を矢印A−A方向から見た側断面図である。
【0008】
これら図5及び図6に示されるように、開閉機構106は、リング状に形成されたノズルバックプレート107と、同プレート107を厚さ方向に貫通して回動可能とされる複数の軸108とを備えている。軸108において、その一端部には上記可動翼105が固定され、他端部には開閉レバー109が固定されている。この開閉レバー109と上記ノズルバックプレート107との間には、同プレート107と厚さ方向に重なるように環状のリングプレート110が設けられている。このリングプレート110は、上記開閉レバー109の二股部109aに挟まれるピン111を備えるとともに、図示しないアクチュエータの駆動に基づき周方向に回動するようになっている。
【0009】
そして、アクチュエータの駆動によりリングプレート110がその円心を中心に回動すると、ピン111が開閉レバー109の二股部109aをリングプレート110の回動方向に押す。その結果、それら開閉レバー109が軸108を回動させることになり、軸108の回動に伴い各可動翼105が軸108を中心にして各々同期した状態で開閉動作する。こうした隣合う可動翼105の開閉動作に基づき、各可動翼105間の隙間の大きさ、言い換えればノズル104のガス流通面積が変化するようになる。
【0010】
以上のように、タービンスクロール内の排気をタービンホイールの翼間流路に流すためのノズルに可変翼を設けたターボチャージャにおいては、その可変翼を開閉させてノズルのガス流通面積を変更することで、ノズルを通って上記翼間流路に流れる排気の流速を可変とすることができる。従って、内燃機関の低回転時には可動翼を閉じ側に変位させ、内燃機関の回転速度が高くなるにつれて上記可変翼を開き側に変位させてノズルのガス流通面積を大きくしてゆくことで、以下のような効果を得ることができると考えられる。すなわち、機関低回転時には上記翼間流路に流入する排気の流速を最適な値に調整しつつ、機関中回転から高回転にかけては上記排気の流速を最適な値としたうえでノズル付近の圧力過上昇に伴う過給効率低下を抑制することが可能と考えられる。
【特許文献1】特開昭60−166718公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、ノズルに可変翼を設けたターボチャージャにおいては、排気流量の少なくなる内燃機関の低回転時に、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を必ずしも最適な値に調整できるとは限らないことが確認された。これは、以下の[A]及び[B]の理由によると推測される。
【0012】
[A]ノズル内での可変翼の開閉動作を可能とするため、ノズル壁面と可変翼との間には若干のクリアランスが設けられており、内燃機関の低回転時にノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を高めるべく可動翼を閉じ側に変位させても、上記クリアランスからの排気漏れの分だけ上記排気の流速が低下する。また、内燃機関の低回転時においては、内燃機関の排気流量が少ないことから当該排気流量全体に対する上記クリアランスから漏れる排気の量の割合が高くなり、同クリアランスからの排気漏れに起因する上記排気の流速の低下が顕著になる。従って、内燃機関の低回転時には、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を、タービンホイールを効率よく回転させることの可能な値まで高めることが困難になる。
【0013】
[B]図7に示されるように、開閉レバー109の二股部109aとリングプレート110のピン111との間にはクリアランスがある。そして、排気がノズルを通過するときには可動翼105に開き側への力Fが加わり、この力Fが二股部109aを介してピン111に対し矢印Y1方向に作用する。なお、排気がノズルを通過するときに可動翼105に働く開き側への力Fは、可動翼105を閉じ側に変位させるほど小さくなる。
【0014】
ここで、内燃機関が低回転となって可動翼105を開き側から閉じ側へと変位させるときには、アクチュエータによるリングプレート110の回動に伴いピン111が矢印Y2方向に二股部109aを押すことになる。このとき、開閉レバー109には上記力Fが作用することから、二股部109aの図中上側がピン111に当たる。
【0015】
しかし、可動翼105が全閉位置付近に達した後、内燃機関の回転速度上昇に伴い可動翼105を開き側に変位させるべくピン111(リングプレート110)を図8の矢印Y3方向に変位させたときには、上記力Fが小さくなっていることから二股部109aを上記ピン111の変位に追従させて矢印Y3方向に変位させることができなくなる。その結果、ピン111は、最初に二股部109aとの間のクリアランスの分だけ同二股部109aに対し矢印Y3方向に相対的に変位し、その後に二股部109aの図中下側に当たって可動翼105の開く方向に開閉レバー109を変位させることになる。
【0016】
そして、可動翼105が開き側に変位してゆくと、上記力Fが徐々に大きくなってゆき、ピン111が矢印Y3方向に変位している状態であっても、図9に示されるように、いずれは二股部109aが力Fによってピン111に対し矢印Y1方向に相対的に変位して同ピン111の図中上側に押しつけられることとなる。
【0017】
図10は、内燃機関の低回転時における可動翼105の上述した開→全閉付近→開といった動作の際、アクチュエータの駆動指令値の変化に対し可動翼105がどのように変位するかを示したグラフである。
【0018】
同図から分かるように、可動翼105を開いた状態から全閉付近まで変位させるときには、アクチュエータの駆動指令値の閉じ側への変化を通じて可動翼105が図10の矢印aで示されるように全閉位置に向けて変位する。その後、全閉位置付近にある可動翼105を開くべくアクチュエータの駆動指令値を開き側に変化させたときにおいて、開閉レバー109の二股部109aが図7に示される状態から図8に示される状態へと変位するまでの間は、上記駆動指令値を開き側に変化させても可動翼105が図10に矢印bで示されるように全閉位置付近に保持される。続いて、ピン111と二股部109aとが図8に示される状態のまま可動翼105が開き側に変位し、その後に二股部109aが上記力Fの増加に伴い図9に示される状態へと変位する。このときには、アクチュエータの駆動指令値の開き側への変化に伴い、可動翼105が図10の矢印cで示されるように開き側に変位することとなる。
【0019】
可動翼105を全閉位置付近から開き側に変位させるとき、アクチュエータの駆動指令値を開き側に変化させていっても、可動翼105は適正な変位(図10の矢印aの逆向きの変化)を示さず、矢印b、cで示されるようにしか変位しない。この矢印b、cで示される内燃機関の低回転時におけるアクチュエータの駆動領域では、可動翼105が矢印aの逆向きの変化を示すときの位置(適正な位置)よりも閉じ側に位置するため、ノズルを通ってタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速が過度に高くなるおそれがある。
【0020】
上述した[A]及び[B]の理由により、ノズルに可変翼を設けたとしても、排気流量の少なくなる内燃機関の低回転時には、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を最適な値に調整できなくなる。
【0021】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、内燃機関の低回転時にノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を的確に最適な値へと調整することができ、内燃機関の中回転から高回転にかけては上記排気の流速を最適な値としたうえでノズル付近の圧力の過上昇を抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明では、内燃機関の排気が送り込まれるタービンスクロールと、そのタービンスクロール内の排気をタービンホイールの翼間流路に流すノズルと、そのノズル内に設けられて同ノズルのガス流通面積を可変とすべく開閉動作する可動翼とを備え、前記ノズルから前記タービンホイールの翼間流路への排気の流入により同ホイールが回転するターボチャージャにおいて、前記ノズルとして前記可動翼を備える可変ノズルを設けるとともに同可変ノズルとは別に固定ノズルを設け、前記固定ノズルには同ノズルのガス流通面積を内燃機関の低回転時に適した値に設定する固定翼を設け、内燃機関の低回転時には前記可変ノズルへの排気の流入を禁止すべく全閉状態とされて内燃機関の中高回転時には前記可変ノズルへの排気の流入を許可すべく全開状態とされる制御バルブを設けた。
【0023】
上記構成によれば、内燃機関の低回転時には可変ノズルへの排気の流入が禁止され、タービンホイールの翼間流路への排気の流入は固定ノズルのみから行われる。この固定ノズルについては、固定翼がノズル壁面との間にクリアランスが存在しない状態で設けられるとともに、同ノズルのガス流通面積が上記固定翼によって内燃機関の低回転時に適した値に設定される。従って、内燃機関の低回転時に固定ノズルからタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を、タービンホイールを効果的に回転させるのに適した値へと的確に調整することができる。また、内燃機関の中高回転時には可変ノズルへの排気の流入が許可され、可動翼の開閉動作を通じて可変ノズルのガス流通面積を変更することが可能になる。従って、内燃機関の中高回転時には、内燃機関の回転速度が高くなるほど可動翼を開き側に変位させて可変ノズルのガス流通面積を大とすることにより、上記翼間流路に流入する排気の流速を最適な値に調整しつつノズル付近での圧力の過上昇が生じるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図3に従って説明する。
図1は、自動車に搭載される内燃機関の過給を行うターボチャージャ11における同機関の排気系側の部分を示す断面図である。
【0025】
同図に示されるように、ターボチャージャ11は、センタハウジング12に回転可能に支持されたロータシャフト13を備えている。そして、ロータシャフト13の一端部(図中右端部)にはタービンホイール14が取り付けられている。このタービンホイール14にはロータシャフト13の軸線を中心とする周方向に複数の羽根15が設けられ、各羽根15の間は翼間流路16とされている。
【0026】
センタハウジング12の一端側には、タービンホイール14の外周を囲うように、しかも渦巻き状に延びるかたちでタービンスクロール17が取り付けられている。このタービンスクロール17の内部は、内燃機関の排気通路21と連通しており、同排気通路21から内燃機関の排気が送り込まれるようになっている。そして、タービンスクロール17内に送り込まれた排気をタービンホイール14の翼間流路16に流すことで、タービンホイール14及びロータシャフト13が回転するようになる。そして、ロータシャフト13が回転すると、同シャフト13の他端部に取り付けられたコンプレッサホイールも回転し、それに伴い内燃機関の吸気通路内の空気が強制的に燃焼室に向けて送り出される。
【0027】
次に、タービンスクロール17の内部構造について詳しく説明する。
タービンスクロール17の内部には、仕切壁18によって区画された二つのスクロール通路19,20、すなわちセンタハウジング12寄りに位置するスクロール通路19と、センタハウジング12から離れて位置するスクロール通路20とが形成されている。これらスクロール通路19,20は内燃機関の排気通路21と繋がっている。また、スクロール通路20と排気通路21との接続部分には、アクチュエータ27aによって駆動される制御バルブ27が設けられている。この制御バルブ27は、アクチュエータ27aによる駆動を通じて、排気通路21からスクロール通路20への排気の流入を禁止・許可すべく全閉状態と全開状態との間で開閉動作する。
【0028】
スクロール通路19におけるタービンホイール14側の部分には、同通路19内の排気をタービンホイール14の翼間流路16に流す固定ノズル22が設けられている。固定ノズル22におけるノズル壁面には、同ノズル22のガス流通面積を設定するための固定翼24が固定されている。この固定翼24は、タービンホイール14周りにおいて、図2に示されるように周方向に等間隔をおいて複数設けられている。そして、固定ノズル22のガス流通面積については、上記各固定翼24によって、内燃機関の低回転時にスクロール通路19から固定ノズル22を通ってタービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速が、同ホイール14を効果的に回転させることの可能な値となるよう設定されている。
【0029】
また、図1に示されるスクロール通路20におけるタービンホイール14側の部分には、同通路20内の排気を上記翼間流路16に流す可変ノズル23が設けられている。可変ノズル23には、同ノズル23のガス流通面積を可変とすべく開閉動作する可動翼25が設けられており、可動翼25の開閉動作はアクチュエータ26aによって駆動される開閉機構26を通じて行われる。この可動翼25は、タービンホイール14周りにおいて、図3に示されるように周方向に等間隔をおいて複数設けられている。そして、各可動翼25が開閉機構26によって図中の実線及び破線で示されるように開閉動作すると、隣り合う可動翼25間の隙間の大きさ、言い換えれば可変ノズル23のガス流通面積が変化するようになる。
【0030】
ところで、ターボチャージャ11の過給効率については、タービンホイール14の翼間流路16に排気が流入する際の流速など、翼間流路16への排気の流入態様が大きく影響を及ぼす。また、タービンホイール14の翼間流路16への排気の流入態様は、可動翼25及び制御バルブ27の開閉動作を通じて可変とされる。従って、ターボチャージャ11による過給を効果的に行うには、上記翼間流路16への排気の流入態様が内燃機関の運転状態に適したものとなるよう、可動翼25及び制御バルブ27を制御することが必要になる。
【0031】
この実施形態では、こうした可動翼25及び制御バルブ27の制御を、自動車に搭載された内燃機関の各種制御を行う電子制御装置29を通じて行うようにしている。この電子制御装置29は、内燃機関の回転速度を検出する回転速度センサ28など各種センサの検出信号を入力し、これら検出信号から把握される機関運転状態に基づき可動翼25及び制御バルブ27を開閉動作させるためのアクチュエータ26a,27aの駆動制御を行う。こうした可動翼25及び制御バルブ27の制御を通じて、タービンホイール14の翼間流路16への排気の流入態様がターボチャージャ11による効果的な過給を実現するのに適した態様とされる。
【0032】
次に、上述した可動翼25及び制御バルブ27の制御について詳しく説明する。
内燃機関の低回転時には制御バルブ27が全閉状態とされ、排気通路21からスクロール通路20への排気の流入が禁止されることから、スクロール通路20から可変ノズル23への排気の流入も禁止される。このとき、排気通路21からスクロール通路19への排気の流入は行われ、スクロール通路19内の排気は固定ノズル22を通ってタービンホイール14への翼間流路16に流れる。従って、内燃機関の低回転時、タービンホイール14の翼間流路16への排気の流入は、固定ノズル22のみから行われることとなる。この固定ノズル22については、固定翼24がノズル壁面との間にクリアランスが存在しない状態で設けられるとともに、同ノズル22のガス流通面積が上記固定翼24によって内燃機関の低回転時に適した値となるよう設定されている。従って、内燃機関の低回転時に固定ノズル22からタービンホイール14の翼間流路16に流れる排気の流速を、タービンホイール14を効果的に回転させるのに適した値に調整することができる。
【0033】
また、内燃機関の中高回転時には、制御バルブ27が全開状態とされ、排気通路21からスクロール通路20への排気の流入が許可されることから、スクロール通路20から可変ノズル23への排気の流入も許可される。このため、内燃機関の中高回転時、タービンホイール14の翼間流路16への排気の流入は、固定ノズル22と可変ノズル23との両方から行われる。そして、可変ノズル23においては、そのガス流通面積が可動翼25の開閉動作を通じて可変とされる。こうした可動翼25の開閉動作は、内燃機関の回転速度など機関運転状態に応じて行われることとなる。具体的には、内燃機関の中高回転時、内燃機関の回転速度が高くなるほど、可動翼25が開き側に変位させられる。これにより、内燃機関の中高回転時には、可変ノズル23からタービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速を同ホイール14を効果的に回転させるのに最適な値に調整しつつ、可変ノズル23付近での圧力の過上昇が生じてターボチャージャ11の過給効率が低下するのを抑制することができる。
【0034】
なお、内燃機関の中高回転時における可動翼25の開閉方向の可動範囲については、全閉位置から全開位置までの任意の範囲を設定することが可能である。
ここで、仮に可動翼25が全閉位置付近まて変位できるよう可動翼25の開閉方向の可動範囲を設定した場合、可動翼25を全閉位置付近まで閉じ側に変位させたとき、可変ノズル23におけるノズル壁面と可動翼25とのクリアランスから排気漏れという上記[A]に記載した問題が生じる。しかし、内燃機関の中高回転時には同機関からの排気流量が多く、その排気流量全体に対する上記クリアランスからの排気漏れの割合が低くなるため、この排気漏れがタービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速に影響を及ぼすことはない。
【0035】
また、上述したように可動翼25が全閉位置付近まて変位できるよう可動翼25の開閉方向の可動範囲を設定した場合であって、可動翼25が全閉位置付近まで閉じ側に変位させた後に開き側に変位させられるときには、可動翼25が適正な位置よりも閉じ側にずれるという上記[B]に記載した問題が生じる。しかし、このときにタービンホイール14の翼間流路16に排気が流入する際のガス流通面積は、可変ノズル23のガス流通面積と固定ノズル22のガス流通面積とを合計した大きな値になる。このため、それらガス流通面積の合計値に比べて、上記可動翼25の閉じ側のずれに起因するガス流通面積の減少量は極めて小さなものとなる。従って、上記可動翼25の閉じ側のずれに起因するガス流通面積の減少が、タービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速に影響を及ぼすことはない。
【0036】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)内燃機関の低回転時には固定ノズル22のみからタービンホイール14の翼間流路16に排気を流すことで、その翼間流路16に流入する排気の流速がタービンホイール14を効果的に回転させるのに適した値になる。また、内燃機関の中高回転時には、可変ノズル23からも上記翼間流路16に排気が流され、可変ノズル23の可動翼25が機関回転速度が高くなるほど開き側に変位させられる。これにより、可変ノズル23からタービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速を同ホイール14を効果的に回転させるのに最適な値に調整しつつ、可変ノズル23付近での圧力の過上昇が生じてターボチャージャ11の過給効率が低下するのを抑制することができる。
【0037】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・タービンスクロール17内の仕切壁18を廃止してタービンスクロール17内に一つのスクロール通路のみを形成し、その一つのスクロール通路におけるタービンホイール14寄りの部分に固定ノズル22と可変ノズル23とを設けてもよい。この場合、スクロール通路における可変ノズル23側に、同通路から可変ノズル23への排気の流入を禁止・許可すべく全閉状態と全開状態との間で開閉動作する制御バルブが設けられる。
【0038】
・可動翼25の開閉方向の可動範囲については、全閉付近を含んだ範囲としてもよいし、全閉付近を含まない範囲としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のターボチャージャにおける内燃機関の排気系側の部分を示す断面図。
【図2】上記ターボジャージャのタービンスクロール内部における固定ノズル周りの構造を示す断面図。
【図3】上記ターボジャージャのタービンスクロール内部における可変ノズル周りの構造を示す断面図。
【図4】可動翼を備えたターボジャージャのタービンホイール周りの従来例を示す略図。
【図5】可動翼を開閉動作させるための開閉機構の構造を示す平面図。
【図6】図5の開閉機構を矢印A−A方向から見た断面図。
【図7】上記開閉機構における可変翼周りを示す拡大図。
【図8】上記開閉機構における可変翼周りを示す拡大図。
【図9】上記開閉機構における可変翼周りを示す拡大図。
【図10】アクチュエータの駆動指令値の変化に対する可動翼の変位態様を示すグラフ。
【符号の説明】
【0040】
11…ターボチャージャ、12…センタハウジング、13…ロータシャフト、14…タービンホイール、15…羽根、16…翼間流路、17…タービンスクロール、18…仕切壁、19,20…スクロール通路、21…排気通路、22…固定ノズル、23…可変ノズル、24…固定翼、25…可動翼、26…開閉機構、26a…アクチュエータ、27…制御バルブ、27a…アクチュエータ、28…回転速度センサ、29…電子制御装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気が送り込まれるタービンスクロールと、そのタービンスクロール内の排気をタービンホイールの翼間流路に流すノズルと、そのノズル内に設けられて同ノズルのガス流通面積を可変とすべく開閉動作する可動翼とを備え、前記ノズルから前記タービンホイールの翼間流路への排気の流入により同ホイールが回転するターボチャージャにおいて、
前記ノズルとして前記可動翼を備える可変ノズルを設けるとともに同可変ノズルとは別に固定ノズルを設け、
前記固定ノズルには同ノズルのガス流通面積を内燃機関の低回転時に適した値に設定する固定翼を設け、
内燃機関の低回転時には前記可変ノズルへの排気の流入を禁止すべく全閉状態とされて内燃機関の中高回転時には前記可変ノズルへの排気の流入を許可すべく全開状態とされる制御バルブを設けた
ことを特徴とするターボチャージャ。
【請求項1】
内燃機関の排気が送り込まれるタービンスクロールと、そのタービンスクロール内の排気をタービンホイールの翼間流路に流すノズルと、そのノズル内に設けられて同ノズルのガス流通面積を可変とすべく開閉動作する可動翼とを備え、前記ノズルから前記タービンホイールの翼間流路への排気の流入により同ホイールが回転するターボチャージャにおいて、
前記ノズルとして前記可動翼を備える可変ノズルを設けるとともに同可変ノズルとは別に固定ノズルを設け、
前記固定ノズルには同ノズルのガス流通面積を内燃機関の低回転時に適した値に設定する固定翼を設け、
内燃機関の低回転時には前記可変ノズルへの排気の流入を禁止すべく全閉状態とされて内燃機関の中高回転時には前記可変ノズルへの排気の流入を許可すべく全開状態とされる制御バルブを設けた
ことを特徴とするターボチャージャ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2007−192124(P2007−192124A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11165(P2006−11165)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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