説明

ターボチャージャ

【課題】可変ノズル内における排気ガスの流れに生じていた乱れを減少させることによって、タービン効率を向上させることができるターボチャージャを提供する。
【解決手段】ターボチャージャ1は、スクロール流路21が形成されたタービンハウジング2と、スクロール流路21からタービンハウジング2内に設けられた回転翼6に導入される排気ガスの流量を可変とする可変ノズル8とを備え、可変ノズル8は、タービンハウジング2側に設けられる第1導入壁81と、第1導入壁81に対向して設けられる第2導入壁82と、第1導入壁81及び第2導入壁82の間に設けられる複数のノズルベーン83とを有する可変容量型のターボチャージャであって、タービンハウジング2と第1導入壁81との間に形成される隙間23のスクロール流路21側の開口部26に、排気ガスから付勢されて上記開口部26を遮蔽するシール部10を有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから排出される排気ガスの運動エネルギーと圧力を利用して、タービンを高速回転させ、その回転力で遠心式圧縮機を駆動することにより圧縮した空気をエンジン内に送り込むターボチャージャに関わり、特に可変容量型のターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、低回転域から高回転域までの広い範囲に亘りエンジンの性能を向上させることのできる可変容量型のターボチャージャが用いられている。
ここで、特許文献1には、可変容量型のターボチャージャが開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された可変容量型のターボチャージャは、タービンとコンプレッサとを有している。タービンの外殻を構成するタービンハウジングの内部には、略渦巻状に形成されたスクロール流路と、排気ガスの流量を可変とする可変ノズルと、回転する翼であるタービンインペラと、タービンにおける排気ガスの出口である排出口が設けられている。エンジンから排出された排気ガスはタービンのスクロール流路に導入され、可変ノズルを介してタービンインペラに導入される。排気ガスの導入によりタービンインペラは回転し、排気ガスは排出口から排出される。タービンインペラは、コンプレッサの内部に設けられたコンプレッサインペラと一体的に接続されており、タービンインペラが回転することでコンプレッサインペラも回転する。コンプレッサインペラの回転により、外部から導入された空気が圧縮される。圧縮された空気がコンプレッサからエンジンに供給されることで、エンジンの性能を向上させることができる。
【0004】
可変ノズルは、タービンハウジング側に設けられる第1導入壁と、第1導入壁に対向しコンプレッサ側に設けられる第2導入壁と、第1導入壁と第2導入壁との間に回転自在に設けられる複数のノズルベーンとを有している。ノズルベーンは翼状に形成され、相反する方向に突出する2つの支持軸を有している。第1導入壁及び第2導入壁には厚さ方向で貫通する孔部が各々形成され、該孔部にはノズルベーンの支持軸が各々回転自在に貫入している。ノズルベーンの向きを支持軸周りで変化させることで、可変ノズルの流路径と排気ガスの流入角度が変化する。エンジンの回転数、すなわちエンジンから排出される排気ガスの流量に合わせて適切な可変ノズルの流路径と排気ガスの流入角度を選択することで、低回転域から高回転域までの広い範囲に亘りエンジンの性能を向上させることができる。
【0005】
ところで、タービンハウジングには高温の排気ガスが導入されるため、タービンハウジングは熱膨張し変形する。このタービンハウジングの熱変形に対応するために、タービンハウジングと可変ノズルとの間には所定の隙間が形成されている。もっとも、この隙間はタービンハウジングのスクロール流路と排出口との間をタービンインペラを介さず直接に接続しているので、この状態のままでは排気ガスが上記隙間を介して排出口へ漏出してしまい、ターボチャージャのタービン効率が低下してしまう。そこで、上記隙間をシールするためのCリングが、上記隙間における排出口側に設けられている。このCリングにより上記隙間を遮蔽できるため、排気ガスの漏出を防止し、タービン効率の低下を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−125588号公報(第14頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、第1導入壁に形成された孔部は、上記隙間に連通している。また、Cリングは上記隙間における排出口側に設けられているため、Cリングの設置箇所から見てスクロール流路側に第1導入壁の孔部が位置している。さらに、該孔部にはノズルベーンの支持軸が貫入しているものの、円滑な回転を維持するために孔部と支持軸との間には僅かなクリアランスが設けられている。
そのため、上記隙間から第1導入壁の孔部と支持軸との間のクリアランスを通って、可変ノズルの内部に流入する排気ガスの流れが生じていた。
【0008】
上記クリアランスを通る排気ガスの流れは、可変ノズル内における排気ガスの流れ(スクロール流路から可変ノズルを介してタービンインペラに導入される流れ)を乱していた。また、上記クリアランスを通る排気ガスの流れによって、ノズルベーンがコンプレッサ側に付勢されて変位し、この変位により可変ノズル内における排気ガスの流れに更なる乱れを生じさせていた。
以上より、特許文献1に開示された可変容量型のターボチャージャには、可変ノズル内における排気ガスの流れに乱れが生じることで損失が発生してしまうため、タービン効率が低下してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、可変ノズル内における排気ガスの流れに生じていた乱れを減少させることによって、タービン効率を向上させることができるターボチャージャを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明のターボチャージャは、排気ガスが流動するスクロール流路が形成されたタービンハウジングと、スクロール流路からタービンハウジング内に設けられた回転翼に導入される排気ガスの流量を可変とする可変ノズルとを備え、可変ノズルは、タービンハウジング側に設けられる第1導入壁と、第1導入壁に対向して設けられる第2導入壁と、第1導入壁及び第2導入壁の間に回転自在に設けられる複数のノズルベーンとを有する可変容量型のターボチャージャであって、タービンハウジングと第1導入壁との間に形成される隙間のスクロール流路側の開口部に、排気ガスから付勢されて上記開口部を遮蔽する略環状のシール部を有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、シール部が排気ガスから付勢されることで、上記開口部がシール部により遮蔽される。よって、本発明では、上記隙間内への排気ガスの流入が抑えられ、上記隙間を介して可変ノズル内に流入する排気ガスの流れが抑制される。
【0011】
また、本発明のターボチャージャは、シール部が、略環状を呈し第1導入壁とタービンハウジングとの一方に対向する板状部材と、第1導入壁とタービンハウジングとの他方が有する円環部の外周に嵌合し板状部材の内周縁部に接続され略円筒状を呈する筒状部材とを有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、排気ガスから付勢されることで板状部材が第1導入壁とタービンハウジングとの一方に密着し、かつ、上記円環部の外周に筒状部材が嵌合していることから、上記開口部がシール部により遮蔽される。よって、本発明では、上記隙間内への排気ガスの流入が抑えられ、上記隙間を介して可変ノズル内に流入する排気ガスの流れが抑制される。
【0012】
また、本発明のターボチャージャは、第1導入壁は略環状を呈し、その外径はタービンハウジングが有する円環部の外径よりも大きく形成され、板状部材は第1導入壁に対向し、筒状部材は円環部の外周に嵌合しているという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、排気ガスから付勢されることで板状部材が第1導入壁に密着し、かつ、上記円環部の外周に筒状部材が嵌合していることから、上記開口部がシール部により遮蔽される。よって、本発明では、上記隙間内への排気ガスの流入が抑えられ、上記隙間を介して可変ノズル内に流入する排気ガスの流れが抑制される。
【0013】
また、本発明のターボチャージャは、シール部が、周方向で弾性変形自在に所定の一箇所で分断されているという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、排気ガスの熱等により上記円環部が熱変形したとしても、シール部は上記円環部の変形に追従する。よって、本発明では、筒状部材と上記円環部との密着性が維持される。
【0014】
また、本発明のターボチャージャは、シール部の分断箇所にスリットが形成されているという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、排気ガスの熱等により上記円環部が熱変形したとしても、シール部は上記円環部の変形に追従する。よって、本発明では、筒状部材と上記円環部との密着性が維持される。
【0015】
また、本発明のターボチャージャは、シール部の分断箇所におけるそれぞれの端部は、周方向で互いに重ね合わせられているという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、上記それぞれの端部が周方向で互いに重ね合わせられているため、上記分断箇所から上記隙間側への排気ガスの漏出が抑制される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明によれば、第1導入壁とタービンハウジングとの間の隙間を介して可変ノズル内に流入する排気ガスの流れを抑制できることから、可変ノズル内におけるタービンハウジングのスクロール流路から回転翼に向かう排気ガスの流れに生じていた乱れが減少する。よって、本発明によれば、可変ノズル内における排気ガスの流れが乱れることで発生する損失が減少し、結果として、ターボチャージャのタービン効率を向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係るターボチャージャ1の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1における可変ノズル8周辺の拡大図である。
【図3】本実施形態におけるシール部10の構成を示す概略図である。
【図4】本実施形態におけるシール部10の第1の変形例である第2シール部13を示す概略図である。
【図5】本実施形態におけるシール部10の第2の変形例である第3シール部16を示す概略図である。
【図6】本実施形態におけるシール部10の他の設置方法を示す概略図である。
【図7】第2シール部13における他の使用方法を示す概略図である。
【図8】シール部10における他の使用方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係るターボチャージャ1の構成を、図1から図3を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るターボチャージャ1の全体構成を示す概略図である。図2は、図1における可変ノズル8周辺の拡大図である。図3は、本実施形態におけるシール部10の構成を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線視断面図である。なお、上記図中の矢印Fは前方向を示す。
【0019】
ターボチャージャ1は、不図示のエンジンから排出される排気ガスの運動エネルギーを利用してエンジンに空気を過給する装置であり、低回転域から高回転域までの広い範囲に亘りエンジンの性能を向上させることのできる可変容量型のターボチャージャである。
図1に示すように、ターボチャージャ1は、タービンハウジング2と、軸受けハウジング3と、コンプレッサハウジング4とが前方より順次配置され一体的に設けられた構成となっている。
【0020】
軸受けハウジング3の内部には、前後方向で延びるインペラ軸5が、軸受け31を介して回転自在に設けられている。
インペラ軸5の両端には、回転する翼であるタービンインペラ(回転翼)6及びコンプレッサインペラ7がそれぞれ一体的に連結されている。タービンインペラ6及びコンプレッサインペラ7は、いずれも複数の翼が回転軸周りに等間隔で配設された構成となっている。タービンインペラ6は、タービンハウジング2の略中央部に配置され、コンプレッサインペラ7は、コンプレッサハウジング4の略中央部に配置されている。
【0021】
タービンハウジング2は、タービンインペラ6を囲み前後方向に直交する面に沿って略渦巻状に形成されるタービンスクロール流路(スクロール流路)21と、排気ガスの排出口であるタービン出口22とを有している。
タービンスクロール流路21は、エンジンから排出された排気ガスが導入される不図示のガス流入口に連通している。タービン出口22は、不図示の排気ガス浄化装置に接続されている。
【0022】
タービンハウジング2と軸受けハウジング3との間には、タービンインペラ6に導入される排気ガスの流量を可変とする可変ノズル8が設けられている。可変ノズル8は、タービンスクロール流路21の内側でタービンインペラ6を囲み前後方向に直交する面に沿って略環状に形成されている。
タービンスクロール流路21は、可変ノズル8及びタービンインペラ6の設置箇所を介してタービン出口22に連通している。
【0023】
図2に示すように、可変ノズル8は、略環状の板状部材の内周縁部から筒状の部材が前方に突出した形状を呈しタービンハウジング2側に設けられる第1導入壁81と、第1導入壁81に対向して軸受けハウジング3側に設けられる第2導入壁82と、第1導入壁81と第2導入壁82との間に回転自在に設置される複数のノズルベーン83とを有している。
【0024】
第1導入壁81と第2導入壁82とは、不図示の接続ピンを介すことで所定の間隔を形成しつつ一体的に接続されている。第1導入壁81及び第2導入壁82には、厚さ方向で貫通する第1孔部81a及び第2孔部82aがそれぞれ形成されている。第1導入壁81における前方側の壁面81bは、前後方向に直交する平面となっている。
【0025】
ノズルベーン83は、略矩形を呈する翼であり、前後方向に関する両端部から相反する方向に突出する第1支持軸84及び第2支持軸85を備えている。第1支持軸84は、第1孔部81aに回転自在に貫入し、第2支持軸85は、第2孔部82aに回転自在に貫入している。ノズルベーン83と第1支持軸84との接続部には、第2導入壁82に対向する鍔部83aが設けられ、ノズルベーン83と第2支持軸85との接続部には、第1導入壁81に対向する鍔部83bが設けられている。
【0026】
可変ノズル8の後方側には、複数のノズルベーン83を同期して回転させるための駆動部9が設けられている。また、駆動部9はタービンハウジング2及び軸受けハウジング3によって挟持され、可変ノズル8は駆動部9を介してタービンハウジング2及び軸受けハウジング3に一体的に接続されている。
【0027】
第1導入壁81とタービンハウジング2との間には、隙間23が形成されている。隙間23は、タービンハウジング2が排気ガスの熱により熱変形し、第1導入壁81と接触する等で破損することを防ぐために設けられている。
タービンハウジング2の壁面81bに対向する部分には、タービンインペラ6を囲むように設けられる後方側に突出する円環部24が形成されている。
円環部24の外周面24aの径方向外側には、空間25が形成されており、タービンスクロール流路21は空間25及び隙間23を介してタービン出口22に連通している。
【0028】
隙間23のタービンスクロール流路21側の開口部26には、略環状のシール部10が設けられている。すなわち、シール部10は、隙間23と空間25との接続部に設けられている。
【0029】
図3に示すように、シール部10は、略環状を呈する板状部材11と、板状部材11の内周縁部に接続され円筒状を呈する筒状部材12とを有している。
図2に示すように、筒状部材12は、前後方向で移動自在に円環部24の外周面24aに嵌合している。板状部材11は、壁面81bに沿う形状で形成されている。シール部10は、板状部材11と第1壁面81bとが接触する位置に設置されている。
【0030】
図1に示すように、コンプレッサハウジング4は、空気の流入口であるコンプレッサ入口41と、コンプレッサインペラ7を囲み略渦巻状を呈するコンプレッサスクロール流路42とを有している。また、軸受けハウジング3とコンプレッサハウジング4との間には、コンプレッサインペラ7を囲み略環状を呈するディフューザ流路43が形成されている。
コンプレッサ入口41は、不図示のエアクリーナを介して外部に連通しており、コンプレッサインペラ7の設置箇所及びディフューザ流路43を介してコンプレッサスクロール流路42に連通している。コンプレッサスクロール流路42は、不図示のエンジンにおける吸気口に接続されている。
【0031】
続いて、本実施形態におけるターボチャージャ1の動作を説明する。
まず、ターボチャージャ1の過給動作を説明する。
【0032】
エンジンから排出された排気ガスは、タービンハウジング2のガス流入口を介してタービンスクロール流路21に導入される。排気ガスは、タービンスクロール流路21内をタービンインペラ6の回転軸周りで周回して流動しつつ、可変ノズル8を介してタービンインペラ6に導入される。この排気ガスの導入により、タービンインペラ6が回転する。タービンインペラ6を回転させた後、排気ガスはタービン出口22から排出され、排気ガス浄化装置によって浄化された後に大気に放出される。
【0033】
タービンインペラ6は、インペラ軸5を介してコンプレッサインペラ7と一体的に連結されているため、タービンインペラ6が回転することでコンプレッサインペラ7も回転する。コンプレッサインペラ7の回転により、コンプレッサ入口41からエアクリーナを介して導入された空気がディフューザ流路43に送り出される。送り出された空気は、ディフューザ流路43内を流動することで次第に圧縮される。圧縮され高い圧力を有する空気は、コンプレッサスクロール流路42を介してエンジンに供給される。エンジンに圧縮された空気が供給されることで、エンジンの性能を向上させることができる。
【0034】
また、可変ノズル8における複数のノズルベーン83の向きを第1支持軸84及び第2支持軸85周りで変化させると、可変ノズル8の流路径、より詳しくは複数のノズルベーン83同士の最短距離間隔が変化する。
エンジンの回転数が低いときはエンジンから排出される排気ガスの流量が少ないので、可変ノズル8の流路径が広いとタービンインペラ6を回転させるに必要なエネルギーを排気ガスから得ることが難しい。そのため、可変ノズル8の流路径を狭くすることで、可変ノズル8内を流動する排気ガスの流速を高め、タービンインペラ6を容易に回転させることができる。
【0035】
一方、エンジンの回転数が高いときは排気ガスの流量が増加するので、可変ノズル8の流路径を広げ、大きなエネルギーを排気ガスから得ることで、ターボチャージャ1の圧縮比を向上させることができる。
よって、エンジンの回転数に合わせて適切な可変ノズル8の流路径を選択することで、低回転域から高回転域までの広い範囲に亘りエンジンの性能を向上させることができる。
以上で、ターボチャージャ1の過給動作が終了する。
【0036】
次に、シール部10が排気ガスから付勢されることで、開口部26を遮蔽する動作を説明する。
図2に示すように、タービンスクロール流路21の内部には高圧の排気ガスが流動しており、タービンスクロール流路21と連通する空間25の内部も高圧となっている。一方、タービン出口22を流動する排気ガスの圧力はタービンスクロール流路21内に比べ低下している。そのため、タービン出口22と連通する隙間23内の圧力は、空間25内の圧力よりも低くなっている。この圧力の差から、シール部10における板状部材11の前面側には後方側への排気ガスの付勢力が発生し、筒状部材12の外周面には径方向内側への排気ガスの付勢力が発生する。
【0037】
もっとも、筒状部材12は円環部24の外周面24aに嵌合しているため、排気ガスの径方向内側への付勢力がシール部10を特定の方向に変位させることや、シール部10を変形させることはない。しかし、筒状部材12は前後方向で移動自在に外周面24aに嵌合していることから、排気ガスの後方側への付勢力によりシール部10は後方側へ変位する。さらに、板状部材11は第1導入壁81の壁面81bに沿う形状に形成されているため、板状部材11は壁面81bに密着する。
【0038】
よって、シール部10によって、隙間23におけるタービンスクロール流路21側の開口部26を遮蔽することができ、タービンスクロール流路21から空間25を介して隙間23内に排気ガスが流入することを抑えることができる。したがって、隙間23及び第1孔部81aを介して可変ノズル8内に流入する排気ガスの流れを抑制でき、可変ノズル8内における排気ガスの流れに生じる乱れを減少させることができる。
【0039】
なお、可変ノズル8内の排気ガスの圧力は隙間23内の圧力よりも高いため、従来のターボチャージャとは逆に、可変ノズル8内から第1孔部81aを介して隙間23内に流入する排気ガスの流れが生じる。
ここで、ノズルベーン83は第2導入壁82に対向する鍔部83aを有しているため、上記排気ガスの流れに鍔部83aが付勢されノズルベーン83は前方向に変位する。よって、ノズルベーン83が前方向に変位されることによっても、可変ノズル8内における排気ガスの流れに生じる乱れを減少させることができる。
【0040】
したがって、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、可変ノズル8内におけるタービンスクロール流路21からタービンインペラ6に向かう排気ガスの流れに生じていた乱れが減少する。よって、本実施形態によれば、可変ノズル8内における排気ガスの流れが乱れることで発生する損失が減少し、結果として、ターボチャージャ1のタービン効率を向上させることができるという効果がある。
【0041】
なお、前述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲においてプロセス条件や設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0042】
例えば、図3に示すように、上記実施形態ではシール部10は略環状に形成されていたが、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、図4に示すような構成となっていてもよい。
図4は、本実施形態におけるシール部10の第1の変形例である第2シール部13を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線視断面図である。
図4に示すように、第2シール部13は、本実施形態における板状部材11及び筒状部材12と各々略同一の形状を呈する第2板状部材14及び第2筒状部材15を有している。もっとも、第2シール部13は、周方向で弾性変形自在に所定の一箇所で分断されており、上記分断箇所13aにスリット13bが形成されている。
【0043】
このような構成によれば、排気ガスの熱によりタービンハウジング2の円環部24が熱変形したとしても、第2シール部13は円環部24の変形に追従する。また、空間25内の排気ガスにより第2筒状部材15は径方向内側に付勢されるため、第2筒状部材15は円環部24の外周面24aに密着する。したがって、例えばタービンハウジング2の材質が熱膨張係数の大きな材料等で形成されている場合であっても、スリット13bから少量の排気ガスが漏出するものの、第2シール部13によって開口部26を遮蔽することができる。
【0044】
また、上記実施形態ではシール部10は略環状に形成されていたが、図5に示すような構成となっていてもよい。
図5は、本実施形態におけるシール部10の第2の変形例である第3シール部16を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のC矢視図である。
図5に示すように、第3シール部16は、本実施形態における板状部材11及び筒状部材12と略同一の形状を呈する第3板状部材17及び第3筒状部材18を有している。もっとも、第3シール部16は、周方向で弾性変形自在に所定の一箇所で分断されており、第3シール部16の分断箇所16aにおけるそれぞれの端部は周方向で互いに重ね合わせられている。より具体的には、第3板状部材17のそれぞれの端部が周方向で互いに重ね合わせられ、第3筒状部材18のそれぞれの端部も周方向で互いに重ね合わせられている。
【0045】
このような構成によれば、シール部10の第1の変形例である第2シール部13によって得られる効果に加え、それぞれの端部が周方向で互いに重ね合わせられていることから、分断箇所16aからの排気ガスの漏出を防止することができる。
【0046】
また、上記実施形態では、シール部10は前後方向で移動自在に円環部24に設けられていたが、板状部材11が第1導入壁81の壁面81bに常に接触するように保持されていてもよい。これにより、シール部10が壁面81bから大きく離間することによって、排気ガスの後方側への付勢力が発生しなくなる状態を避けることができる。なお、上記保持は前後方向のみであり、前後方向と直交する方向に関しては自由に変位できることが必要である。
【0047】
また、上記実施形態でのシール部10は、筒状部材12が板状部材11の内周縁部から前方向に向かって突出する向きで空間25内に設けられていたが、図6に示すような向きで設けられてもよい。
図6は、本実施形態におけるシール部10の他の設置方法を示す概略図である。
図6に示すように、第1導入壁(円環部)81に凹部81cを形成し、凹部81cにおける径方向外側に対向する外周面81dに筒状部材12が前後方向で移動自在に嵌合している。また、タービンハウジング2には第1導入壁81に対向する第2壁面27が形成されており、第2壁面27は前後方向に直交する平面となっている。板状部材11は、排気ガスにより前方向に向かって付勢され第2壁面27に密着し、開口部26を遮蔽する。よって、図6に示すような構成によっても、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
また、図4で示された第2シール部13を、図7で示すように2つ重ねて設置してもよい。図7は、シール部10の第1の変形例である第2シール部13における他の使用方法を示す概略図であり、(a)は径方向断面図、(b)は平面図である。
図7(a)に示すように、第2シール部13は軸方向で2つ重ねられ、かつ、図7(b)に示すように、互いのスリット13bの位置が中心軸に関して対向する位置に配置されている。このような構成によれば、両方のスリット13bが第2シール部13のリング状の部材によってそれぞれ遮蔽されるため、スリット13bからの排気ガスの漏出を抑制することができる。なお、必ずしも互いのスリット13bの位置は中心軸に関して対向している必要はなく、スリット13bが上記リング状部材によって遮蔽される位置にあればよい。
【0049】
また、図3で示されたシール部10を、図8で示すように2つ対向して重ねて設置してもよい。図8は、シール部10の他の使用方法を示す径方向断面図である。
図8に示すように、シール部10と、シール部10よりも僅かに大きな径を有するシール部10Aとは、互いに対向して重ね合わせられ、空間25内に設置されている。シール部10とシール部10Aとは、同じ熱膨張係数の材料で形成されている。
シール部10は外周面24aに嵌合し、壁面81bに接触している。シール部10Aはシール部10に嵌合し、タービンハウジング2に接触している。このような構成によれば、排気ガスの流動によりシール部10は壁面81bに付勢され、シール部10Aはタービンハウジング2に付勢される。さらに、シール部10とシール部10Aとが互いに嵌合しているため、シール部10及びシール部10Aにより、開口部26を遮蔽することができる。
【0050】
なお、例えばシール部10の熱膨張係数が、タービンハウジング2の熱膨張係数よりも大きい材料で形成されている場合は、温度が上昇するにつれて外周面24aとシール部10との間の隙間が大きくなるのであるが、シール部10とシール部10Aとが同じ熱膨張係数の材料で形成されているため、それらの間の嵌合は維持され排気ガスの漏出抑制を維持することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…ターボチャージャ、2…タービンハウジング、21…タービンスクロール流路(スクロール流路)、23…隙間、24…円環部、24a…外周面、26…開口部、6…タービンインペラ(回転翼)、8…可変ノズル、81…第1導入壁、81d…外周面、82…第2導入壁、83…ノズルベーン、10…シール部、11…板状部材、12…筒状部材、13…第2シール部、13a…分断箇所、13b…スリット、14…第2板状部材、15…第2筒状部材、16…第3シール部、16a…分断箇所、17…第3板状部材、18…第3筒状部材、


【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスが流動するスクロール流路が形成されたタービンハウジングと、前記スクロール流路から前記タービンハウジング内に設けられた回転翼に導入される前記排気ガスの流量を可変とする可変ノズルとを備え、前記可変ノズルは、前記タービンハウジング側に設けられる第1導入壁と、前記第1導入壁に対向して設けられる第2導入壁と、前記第1導入壁及び前記第2導入壁の間に回転自在に設けられる複数のノズルベーンとを有する可変容量型のターボチャージャであって、
前記タービンハウジングと前記第1導入壁との間に形成される隙間の前記スクロール流路側の開口部に、前記排気ガスから付勢されて前記開口部を遮蔽する略環状のシール部を有することを特徴とするターボチャージャ。
【請求項2】
前記シール部は、略環状を呈し前記第1導入壁と前記タービンハウジングとの一方に対向する板状部材と、前記第1導入壁と前記タービンハウジングとの他方が有する円環部の外周面に嵌合し前記板状部材の内周縁部に接続され略円筒状を呈する筒状部材とを有することを特徴とする請求項1に記載のターボチャージャ。
【請求項3】
前記第1導入壁は略環状を呈し、その外径は前記タービンハウジングが有する前記円環部の外径よりも大きく形成され、
前記板状部材は前記第1導入壁に対向し、前記筒状部材は前記円環部の外周に嵌合していることを特徴とする請求項2に記載のターボチャージャ。
【請求項4】
前記シール部は、周方向で弾性変形自在に所定の一箇所で分断されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のターボチャージャ。
【請求項5】
前記シール部の分断箇所に、スリットが形成されていることを特徴とする請求項4に記載のターボチャージャ。
【請求項6】
前記シール部の分断箇所におけるそれぞれの端部は、周方向で互いに重ね合わせられていることを特徴とする請求項4に記載のターボチャージャ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−190092(P2010−190092A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34223(P2009−34223)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】