説明

ターボマシンのクリアランス制御方法、制御装置およびタービンエンジン装置

【課題】モータもしくはエンジンの部品の熱膨張を測定し、このモータやエンジンのファンブレードのクリアランスを能動的に制御するとともに、その異常をモニタする。
【解決手段】ガスタービンエンジンは、ファン132、コンプレッサ134、タービン136、およびエンジンケースの冷却調整システム、を備える。これらの回転するブレードの先端のクリアランスが、周方向に複数個配置したマイクロ波検出センサによって検出され、所望のクリアランスとなるように、冷却調整システムのトルクモータ192やアクチュエータ194を介して、エンジン130のハウジング内部ならびにハウジング周囲の一つあるいは複数の冷却流体流を調整する。各センサから検出される信号の位相差の対比により、各ブレードの欠損等の異常もモニタできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータもしくはエンジンのファンブレードのクリアランスを制御する装置および方法に関し、より詳しくは、モータもしくはエンジンの部品の熱膨張を測定し、このモータやエンジンのファンブレードのクリアランスを制御する装置および方法に関する。なお、米国政府は、空軍の契約に基づき、本願について所定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンやポンプあるいは圧縮機の分野において、ターボマシンコンポーネントの半径方向の熱膨張の検知や制御は、設計者が望む高いレベルの効率や安定性を達成する上で、長い間、障害となっていた。このような好ましくない状況は、半径方向の膨張を測定する信頼性や精度の高い入手可能なセンサが存在しないことにある程度起因している。代替として、半径方向の膨張は、測定ないし得た種々のターボマシンパラメータと半径方向の膨張とを関連付ける数学的モデルを用いて演算することが可能である。これまで、このアルゴリズムを得るために、種々の試みがなされてきた。しかしながら、これまで知られているアルゴリズムでは、要求される安定状態や過渡時の精度を満たすことができず、式を高い精度のデータを得るように校正する能力がなく、かつ、デジタルコンピュータでの実行に適した演算式を得ることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
タービンエンジンのファンブレードとケースとの間のクリアランスの制御が不完全であると、クリアランスが過度に大きくなるか、あるいはクリアランスが過度に狭くなって摩耗が過大となる。どちらの場合も、不完全なクリアランスにより性能(エンジン効率や推力など)の低下を招き、エンジンの運転時の限界(例えば排気ガス温度の上昇)を侵し、コンプレッサの安定性の低下を招く。標準の設計実務では、クリアランス制御システムは、ブレードやケースの損傷を招きかねない狭いクリアランスよりも大きなクリアランスが好ましいとされてきた。例えば、PW4000のようなある種のエンジンにおいては、オープンループのクリアランス制御システムを用いており、このようなシステムでは、”完全な”クリアランス制御システムに比較して、明らかに性能が犠牲になる。他の形式、例えばV2500のようなエンジンにおいては、不十分なモデル化したクリアランスに依存した閉ループシステムを用いており、性能低下はやや少なくなるものの、理想的なクリアランス制御にはまだ不十分である。
【0004】
先端クリアランスの推定の精度および信頼性を改善することは、運転条件が急激に変化しやすい飛行中の部品に対してクリアランス制御システムが能動的に動作し得ることにも寄与する。例えば、一般的な能動クリアランス制御システムは、エンジン運転条件の変化が急なため先端クリアランスの予測が困難となる飛行機の離陸時には、通常、その動作を停止するようにしていた。従前のこのような対応は、飛行機の総運転時間の中で離陸時の占める割合が小さな場合やエンジンの安定性のマージンを旧来通りに大きくしている場合には問題はない。これに対し、例えばA318用のPW6000のような短距離飛行の用途に設計されたエンジンにおいては、離陸時の燃費性能が非常に重要である。また、離陸時にも能動的なクリアランス制御を働かせることは、排気温度のマージン(このマージンは一般にクリアランスの増加に伴って減少する)を増大させ、クリアランスによる安定性低下の回避に寄与する。従って、クリアランス制御の精度をさらに改善し、ひいては、飛行機の飛行中において、運転時の制限やコンプレッサの安定性を維持しつつ、摺接摩耗のない信頼性のある運転を確保し、エンジン性能の改善を図ることが求められている。
【0005】
閉ループシステムにおけるクリアランスのモデル化を主に困難としているのは、エンジンコンポーネントの熱膨張のモデル化であり、比較的容易に算出し得る機械的な歪み(変位)のモデル化ではない。熱膨張のモデル化は、エンジンコンポーネントの物理的な構成やこれらのコンポーネントが影響を受ける頻繁な変化(すなわち、スロットルの過渡、複数の流体流の温度差や温度変化、流量変化、など)が、熱の移動やエネルギ保存の現象におけるモデル化の問題を複雑にするので、非常に困難である。
【0006】
例えば、エンジンコンポーネントの各々は、温度、シャフト速度、流体流の露出、を含む運転条件の変化により、エンジンハウジング内のそれぞれの場所で、各々の速度でもって熱膨張を生じる。ある1つのコンポーネントが他のコンポーネントよりも大きな熱膨張を生じると、ガスタービンエンジンのある領域の熱膨張が他の領域の熱膨張よりも大きくなる。このようにガスタービンエンジンの熱膨張が変化する領域に対向したエンジンハウジングの内壁は、エンジンコンポーネント間の不整合な熱移動により、やはり、熱膨張量が変化する。この結果、エンジンハウジングの内壁のある一部の領域で熱膨張が大となり、これに対応して、エンジンハウジングの他の領域に比較して、より小さいクリアランスとなる。この点では、ガスタービンエンジンにおける熱移動やエネルギ保存の現象のモデル化に関する障害が、より明らかになる。
【0007】
従って、ターボマシンの用途において、熱膨張の制御、クリアランスの制御、ならびに調子(health)のモニタリングを行う装置および方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のターボマシンにおけるクリアランス制御方法は、ターボマシンの1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントに近接かつ対向するように配設された3個以上のマイクロ波センサを含む閉ループ検出型能動クリアランス制御システムを設けるステップと、この能動クリアランス制御システムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの実際の熱膨張を測定するステップと、上記能動クリアランス制御システムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの各々とこれらが近接かつ対向する壁面との間の、熱膨張が生じる箇所の実際のクリアランスを測定するステップと、上記能動クリアランス制御システムを用いて熱膨張として測定された上記1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントのそれぞれについての実際のクリアランスと所望のクリアランスとの差に基づいて、上記クリアランスを制御するステップと、を含む。
【0009】
本発明のターボマシンの調子をモニタリングする方法は、ターボマシンの1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントに近接かつ対向する壁面内に配設された閉ループ検出型能動到着時間(time-of-arrival)モニタリングシステムを設けるステップと、ターボマシンのタービンエンジンのロータ速度を測定するステップと、上記能動到着時間モニタリングシステムを用いて、上記ロータ速度に基づき、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントからの予想される到着時間を決定するステップと、上記能動到着時間モニタリングシステムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントあるいはサブコンポーネントが1つあるいは複数のある位置にあるときの実際の到着時間を測定するステップと、上記能動モニタリングシステムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの実際の到着時間を予想到着時間と比較するステップと、上記能動到着時間モニタリングシステムを用いて、上記の比較から、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの到着時間の変化の有無を判定するステップと、上記能動到着時間モニタリングシステムを用いて、上記の比較から、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの調子を推定するステップと、を備えてなる。
【0010】
本発明のターボマシンのクリアランス制御装置は、能動クリアランス制御システムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの実際の熱膨張を測定する手段と、上記能動クリアランス制御システムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントとこれらが近接かつ対向する壁面との間の、熱膨張が生じる箇所の実際のクリアランスを測定する手段と、上記能動クリアランス制御システムを用いて熱膨張として測定された上記1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントのそれぞれについての実際のクリアランスと所望のクリアランスとの差に基づいて、上記クリアランスを制御する手段と、を含む。
【0011】
本発明のタービンエンジン装置は、ケースおよび該ケース内で回転するブレードを含むタービンエンジンと、能動クリアランス制御システムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの実際の熱膨張を測定する手段と、上記能動クリアランス制御システムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの各々とこれらが近接かつ対向する壁面との間の、熱膨張が生じる箇所の実際のクリアランスを測定する手段と、上記能動クリアランス制御システムを用いて熱膨張として測定された上記1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントのそれぞれについての実際のクリアランスと所望のクリアランスとの差に基づいて、上記クリアランスを制御する手段と、を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
モータもしくはエンジンの部品の熱膨張を測定し、このモータやエンジンのファンブレードのクリアランスを制御する装置および方法が開示されている。さらに、タービンエンジンやそのコンポーネントならびにサブコンポーネントの調子をモニタリングする装置および方法が開示されている。ブレード先端が外周側エアシールと摺接したり浸食されたりすることによる半径方向のクリアランスの増加は、エンジン性能の低下の原因となる。ターボマシンにおけるブレードやロータの異常を早期に検出することで、コンポーネントの破損を防止できる。ここに開示される装置および方法は、エンジンの全寿命に亘って、半径方向クリアランスおよびブレードやロータの振動をモニタリングし、これにより、より長い飛行時間に亘る性能の維持ならびに修正の支援となる。さらに、コンポーネントの公差やエンジン性能特性、極端な周囲温度の下での運転、に起因した個々のエンジン性能変化の不整合が、本発明の装置および方法によって、除去され、あるいは、顕著に減少する。
【0013】
まず初めに、モータもしくはエンジンの部品の熱膨張を測定し、このモータやエンジンのファンブレードのクリアランスを制御する装置および方法の一実施例を説明する。本実施例においては、検出システムはマイクロ波のエネルギを利用するもので、マイクロ波が、検出ボディつまりプローブの内部の通路を通って回転中のブレードの先端へ向かうように案内され、ブレードが上記通路の出口近くに生成された電磁場を通過する際に、実際の、つまりリアルタイムの半径方向クリアランスを測定する。このシステムは、このフィードバック信号を処理し、アクチュエータシステムの的確な切換を行うためのデータを出力する。アクチュエータシステムは、タービンにおける回転ブレードと静止部品との間の半径方向クリアランスの調整を、コントローラからの入力に応答して行うことが可能である。
【0014】
このシステムは、ターボマシンの用途におけるスタンドアローンの構成要素として機能するように構成することもでき、あるいは、ガスタービンの電子エンジン制御(EEC)システム、例えば、全自動デジタルエンジン制御システム(FADEC)などに組み込むこともでき、ターボマシンの用途全般、例えば、民間航空機、商用航空機、軍用航空機、を監視する。いずれの構成においても、ターボマシン用途に関連する全てのエンジン性能特性に関する情報を同時に受けるために、EECおよび上記システムは直接にリンクしている。EECは、次のような情報(但し、これには限定されない)を提供し得る。すなわち、ターボマシンのコンポーネントもしくはサブコンポーネントと熱交換する流体流の判定、ならびにコンポーネントおよびサブコンポーネントと熱交換する各流体流の温度および流量の提供、温度、圧力、シャフト速度、などのコンポーネントおよびサブコンポーネントに関連する性能パラメータの判定、シャフト速度、圧力、温度、などのコンポーネントおよびサブコンポーネントの熱伝達特性パラメータの判定、ターボマシンのコンポーネントおよびサブコンポーネントの定常状態での膨張の判定、である。この膨張は、各々、種々の温度、流量、熱・物理特性の流体流との熱交換による膨張の加重平均であり、その重み係数は、熱伝達性能パラメータなどを含む。
【0015】
このシステムは、ブレードが通過するたびに、マイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスシステムによって半径方向のクリアランスと各ブレードの到着時間とを同時に測定することができる。システムの複数のマイクロ波センサが、ブレード列の回りに所定の間隔で周方向に配置される。マイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスシステムは、ブレード列内の各ブレードで変化する、位置、クリアランス空間、到着時間、に関する情報を測定かつ提供する。到着時間は、ブレードの振動がないものとすれば、エンジン回転速度(rpm)に直接的に相関する。このシステムは、複数の角度位置における到着時間の変化を精度よく測定し、この変化を、既知の速度における予想される到着時間と比較することで、その相関関係を確実なものとする。これにより、エンジンの運転レジメもしくは運転サイクル全体を通して、より狭い運転時のクリアランスを高い信頼性で実現することができる。
【0016】
図1は、モータもしくはエンジンの部品の熱膨張を測定し、このモータやエンジンのファンブレードのクリアランスを制御するシステム100を示している。図示するように、飛行条件およびエンジン出力設定データ110が、上記システム100を含むEEC(電子エンジン制御)システム114のクリアランス要求ロジックアルゴリズム112に中継される。上記アルゴリズム112は、データ110を処理し、このデータ110を結合点116へ転送する。この結合点116は、タービンエンジン118から測定された先端クリアランスデータ117を受け取る。合成されたデータ110,117は、結合点116から閉ループ補償アルゴリズム120へ転送され、このアルゴリズム120が、コマンド122を介して図示せぬバルブを制御する。このバルブは、補助空気つまり冷却空気をファン流からタービンエンジンを囲むエンジンケース(図示せず)の上へと案内するために用いられるもので、エンジンケースとエンジンブレードとの間に所望のクリアランスが得られるように、エンジンケースを冷却する。システム100は、詳細を後述するシステムおよび方法を用いて、測定された先端クリアランスデータ117を提供する。
【0017】
図2〜図5に示すように、非回転のガスタービンエンジンケース構造体およびそのコンポーネントの内部に、マイクロ波検出システム100が配置されている。システム100は、好ましくは、ガスタービンエンジンに直接に接続されており、このガスタービンエンジンは、基本的に、ファン132、コンプレッサ134、タービン136、および後述するエンジンケースの冷却調整システム、を備える。コンプレッサ134としては、低圧コンプレッサもしくは高圧コンプレッサのいずれが用いられるかに応じて、低圧コンプレッサもしくは高圧コンプレッサとなる。一列もしくは複数列のブレード(図示せず)がロータ(図示せず)に取り付けられ、ファン132、コンプレッサ134、タービン136、もしくはタービンエンジン130の他の領域として機能する。
【0018】
マイクロ波検出システム100は、当業者に周知の他の電子構成部品に加えて、コントローラ140、マイクロ波出力源142、信号バッファ144、プロセッサ146、記録バッファ148、および、エンジン130内に配置されたマイクロ波エア・パス・クリアランスシステムと接続した導波路マルチプレクサ150、を備えている。上述したように、システム100は、スタンドアローン形式であっても、あるいはEEC114内に組み込まれたものであってもよい。どちらの形式においても、システム100は、1つあるいは複数のエンジンセンサ190からコントローラ140へと転送されるエンジン性能パラメータに関する情報ならびに他の関連データを受ける。このシステム100がエンジン130のコンポーネントやサブコンポーネントの熱膨張をモニタすると、システム100は、例えばエンジン130およびコントローラ140の双方に接続されたトルクモータ192やアクチュエータ194を含む調整システムを用いて、エンジン130のハウジング内部ならびにハウジング周囲の一つあるいは複数の流体流を調整する。
【0019】
コントローラ140内の制御ソフトウェアは、高圧タービンのクリアランスを測定するロジックと、実際のクリアランスと所望のクリアランスとの差に応じてアクチュエータ194の角度を決定する制御アルゴリズムと、を含むが、必ずしもこれには限定されない。コントローラ140は、システム100内の構成要素やシステム100とエンジン130との間における構成要素の性能や相互作用を、直接ないしは間接に制御している。
【0020】
概略として、コントローラ140は、コンポーネントやサブコンポーネント例えばブレードの位置の判定、および、このブレードが近接かつ対向する壁面との間のブレードクリアランスの測定、を開始するコマンド158をプロセッサ146に送る。コントローラ140は、同時に、マイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスシステムを起動するコマンド160を導波路マルチプレクサ150へ送り得る。上記エア・パス・クリアランスシステムは、ファン132やコンプレッサ134やタービン136を構成するロータのブレード列の中の1つあるいは複数のブレードが近接かつ対向する壁面の内部に組み込まれている。マイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスシステムは、種々の信号やコマンドやデータをやりとりするために、同軸ケーブル184や他の同様のデバイスを介して、マルチプレクサ150および他の構成要素と接続されている。プロセッサ146は、信号バッファ144への信号転送164を開始する。コントローラ140は、信号バッファ144へクリア・コマンド162を送り得るとともに、信号転送の開始に先だって、周波数選択コマンド164を起動し得る。信号バッファ144は、周波数選択コマンド164をマイクロ波出力源142へ送る。ここで、マイクロ波出力源142は、ブレードの位置の判定およびブレードクリアランスの測定に十分な量の放射マイクロ波166を生成する。
【0021】
生成された放射マイクロ波166は、マイクロ波マルチプレクサ150のソース部170を通して、マイクロ波168として、マイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスシステムへ中継される。このマイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスシステムは、例えば、グリツボスキィ等によって出願され、かつ本出願人に譲渡された米国特許第5,818,242号に記載されている。
【0022】
図3に示すように、本発明のシステムおよび方法において用いられるマイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランス検出システムは、1つあるいは複数のマイクロ波エア・パス・クリアランスセンサ200を含んでおり、各センサ200は、同軸ケーブル212、例えば約50オームのインピーダンス特性を有する標準的な同軸マイクロ波通信ライン、の一端に接続されている。この同軸ケーブル212は、センサ200へ送信すべき出力(つまり励起)マイクロ波信号230の送信と、センサ200から受け取るべき受信(つまり戻りないしは反射)マイクロ波信号232の受信と、が可能なものである。同軸ケーブル212の他端は、センサ200との間で上記のマイクロ波信号230,232をやり取りするクリアランス/厚さ回路214に接続されている。なお、必要に応じて、他の種類の同軸ケーブルや通信媒体あるいは他のインピーダンスを用いることが可能である。
【0023】
上記の1つあるいは複数のセンサ200は、エンジンのハウジング(つまりケーシング)216に取り付けられている。エンジンハウジング216の最内周の領域は、摩耗性の耐熱導電性金属からなる摩耗性シール218(つまり摺接による摩耗を許容するシール)と、耐熱導電性金属、例えばインコネル718(Inco718)(これはニッケル、コバルト、および鋼を含む)からなるシールバックプレート220と、を含んでいる。このシール218およびプレート220は、それぞれ、約0.1インチ(2.54mm)の厚さを有する。なお、シール218およびプレート220は、他の厚さや材質のものであってもよい。ハウジング216の残りの外周側部分は、符号222でもって示しているが、これは、周知のように、種々の材料からなる複数の部分や層を含みうる。シール218として他の材料を用いることもでき、また、これらの領域218,220,222を同じ材料から構成してもよく、あるいは複数種の材料から構成してもよい。
【0024】
センサ200は、摩耗性シール218の内周面228から窪んで配置され、所定の距離つまり厚さD(例えば25〜50mil(0.635〜1.27mm))だけ後退している。この厚さDの値は、必要に応じて、他の値とすることもできる。シール218の摩耗に伴い、この凹部の距離Dは減少する。ブレードがこのセンサ200に接触することがないように、シール218の交換までの間に該シール218に許容される最大の摩耗量を上回る値に、この距離Dが設定される。
【0025】
センサ200は、厚さDの減少を引き起こすシール218の摩耗量を検出する。さらに、センサ200は、後述するように、ブレード226の先端(チップ)224とシール218の内周面228との間のエア・パス・クリアランス(G)を検出する。
【0026】
図4に示すように、各々のセンサ200は、センサアッセンブリ248と、スパークプラグアッセンブリ261と、これら2つのアッセンブリ248,261を接続した電気接続ワイヤ260と、を含んでいる。センサアッセンブリ248は、後述するように同軸ケーブル212の中心導体270と電気的に接続される中心導体250を有する。中心導体250の外側に同心状に、アルミナ等の耐熱性セラミックスからなる絶縁体254が設けられている。絶縁体254の外側には、電気的に接地された外側導体256が同心状に設けられている。センサアッセンブリ248は、ねじ部253によってプレート220に結合され、ねじ部255によってスパークプラグアッセンブリ261に結合されている。ねじ部253に代えて、各センサ200をプレート220およびシール218を貫通した孔内に挿入し、エンジンケース216の外周側部分222にこのセンサ200を受容する部分的なねじを形成するようにしてもよい。各センサ200は、シール218を通した漏洩を最小化するように、プレート220の上面とアッセンブリ248との間の境界247に位置する気密用テープやガスケットのようなシール部材と密接している。なお、漏洩防止のために他の技術を用いても良い。また、中心導体250と絶縁体254と外側導体256とを、その動きを最小化するために、セラッミクス接着剤のような接着材料を用いて互いに接着するようにしてもよい。あるいは、外側導体256の長さLを、ケーシング216の外周側部分222を超えて延びるように、十分に長いものとしてもよい。各センサ200をシール218内に保持するために、他の技術を必要に応じて用いることもできる。
【0027】
マイクロ波の周波数の選択に関連して、中心導体250、絶縁体254および外側導体256の寸法は、選択され得る。つまり、(1)高次元の電磁気的モードでの半径方向および周方向への伝播を阻止する、(2)センサ200の開放端(ブレード226へ向かう端部)からの電磁気的な放射を抑制する、(3)フリンジ電界を減少させる内側導体と外側導体の直接的な結合を抑制する、(4)過度の損失を伴うことなく、予想されるエアギャップ(G)の範囲を越えて、ブレード226に対する各センサ200の感度を最大化する、などのように選択される。これらの特性は必須のものではないが、最良の性能に寄与する。
【0028】
例えば、センサの励起を20GHzで行う場合、外側導体256はテーパ状中空円筒形をなし、その外径Dc1およびDc2は、それぞれ約0.9cmおよび1.5cmである。大径の外径Dc2は、挿入されたセンサのストッパ部となる。なお、必要に応じ、このような2つの外径Dc1,Dc2を有するのではなく、一つの共通の外径Dc1を有するように外側導体256を構成してもよい。中心導体250に近い外側導体256の内径Dc3(これは絶縁体254の外径でもある)は、先細りのテーパとなっており、約6mmから約5mmに変化する。中心導体250は、テーパ状の中実円柱をなし、その直径Dc4(これは絶縁体254の内径でもある)は、最も大きい位置で約4mmであり、約3mmへとテーパをなす。直線部分258の長さは約1mmであり、垂直に対するテーパ角は、約30°である。このテーパ形状は、中心導体250および絶縁体254が外側導体256から脱落しないように保持することに寄与する。外側導体256の全体の長さLは、約17mmである。他の長さ、角度、寸法も、必要に応じて使用し得る。
【0029】
絶縁体254は、ブレード226へ向かって、外側導体256の下面251から約1mil(0.0254mm)突出している。また、中心導体250は、ブレード226へ向かって、外側導体256の下面251から約2mil(0.05mm)突出している。このような中心導体250および絶縁体254の突出は、必須のものではないが、フリンジ電界の範囲を増大させてセンサの検出範囲の増大に寄与する。
【0030】
各部品250,254,256の他の寸法や形状も必要に応じて用い得る。一般に、励起周波数が高いほど、許容される寸法は小さくなる。また一般に、ブレード226へ向かう中心導体250の面249の表面積が大きいほど、フリンジ電界276がより強くかつより広くなり、シールの厚さおよびエアギャップクリアランスの変化に対する分解能ならびに感度が高くなる。
【0031】
接続ワイヤ260は、導電性ワイヤからなり、中心導体250の上端の小さな挿入孔257からスパークプラグアッセンブリ261の下端まで延びている。ワイヤ260周囲の領域259、つまりワイヤ260と外側導体256の内径との間は、空気である。このワイヤ260は、約7mmの長さで、約0.64mm(8mil)の直径を有する。インピーダンスが、接続部品248,261に実質的に適合するのであれば、必要に応じて、他の長さや直径のワイヤ260を用い得る。また領域259を、空気以外の材質、例えば、インピーダンスに実質的に適合するように設計した耐熱セラミックス材料などで充填してもよい。あるいは、上方へ突出した導電部分を中心導体250に設け、これを導体264に接続するようにしてもよい。必要に応じて、スパークプラグアッセンブリ261とセンサアッセンブリ248とを接続する他の導電接続構造を採用することもできる。
【0032】
スパークプラグアッセンブリ261は、ウィルトロン(Wiltron)が製造したケイコネクタ(K Connector(登録商標))の部品番号K102Fを用いることができ、つまり、50オームのコネクタと等価なものである。このアッセンブリ261は、約8mmの長さと約5mmの外径Ds1を有する。アッセンブリ261は、外側導体256の上部内にねじ部255を介して固定されている。このアッセンブリ261は、外側導体(つまりスパークプラグ)262と、中心導体264と、上記スパークプラグ262内に嵌合して電気的に導通した円筒形の導体ビーズ266と、中心導体264と導体ビーズ266との間の絶縁体268と、を備えている。このスパークプラグアッセンブリ261は、同軸ケーブル212のインピーダンス(すなわち50オーム)と実質的に適合したインピーダンスを保持するように設計される。中心導体264は円柱状であり、該中心導体264の上部265はビーズ266および絶縁体268から上方へ約5mm突出している。この突出部分265の周囲の領域269、つまり該部分265とスパークプラグ262の内径Ds2との間は、空気である。上記内径Ds2は約3mmである。インピーダンスが適合するのであれば、空気以外の材料が充填されていてもよい。また、中心導体264の両端部は、他の導体との接続のための挿入孔263,267を有する筒状となっている。この中心導体264の下方の挿入孔263には、ワイヤ260が挿入され、上方の挿入孔267には、同軸ケーブル212の中心導体270が挿入される。スパークプラグアッセンブリ261やその各部を、上記とは異なる長さや形状、寸法、直径などに構成することも可能である。
【0033】
同軸ケーブル212は、電気的絶縁体272によって囲まれた中心導体270を有する。絶縁体272は、電気的に接地されたシールド導体274によって囲まれており、その外側がさらに外側絶縁体275によって囲まれている。シールド274の一部は外側絶縁体275に重なるように折り返されており、エンドキャップ280が、このシールド274およびケーブル212端部に対し取り付けられている。エンドキャップ280は、導体270が貫通した絶縁部281と、導体部283と、を備える。エンドキャップ280の導体部283は、半径方向に延びたフランジ282を有し、ナット284がこのフランジ282に回転可能に取り付けられている。また、導電性ワッシャ285がエンドキャップ280上に配置され、導体270に導通している。ナット284の内周ねじ部は、スパークプラグ262のねじ部255の上方部分に螺合している。同軸ケーブル212が各センサ200に接続された状態では、導体264の突出部分265の上方挿入孔267内へと導体270が延びている。なお、図4および図5は、正確な寸法比を示すものではない。
【0034】
同軸ケーブル212によって見られる導体270から中心導体250へのインピーダンスは、実質的に50オームである。上述のセンサアッセンブリ248、スパークプラグアッセンブリ261および接続ワイヤ260の構成に代えて、他の構成や寸法、形状、材料などによりセンサ200を構成することもできる。但し、同軸状のマイクロ波伝達メディアのインピーダンスが、同軸ケーブル212のインピーダンスと実質的に適合することが条件となる。
【0035】
図5に示すように、各センサ200を通ったマイクロ波エネルギは、指示された1つあるいは複数のブレード先端位置において、1つあるいは複数のブレードの先端に衝突し、反射マイクロ波エネルギ190として反射する。ブレード先端はロータの回りで移動していくが、例えば、種々の時間間隔でもって5個の位置でブレードが検出される。各々の反射マイクロ波190は、生成された放射マイクロ波166と比較すると、センサ200に対するブレード先端の位置ならびに距離に依存して、異なる位相(フェーズ)を示す。図示するように、各反射マイクロ波190は、回転中のブレード先端の異なる位置からセンサ200へ戻るように反射することから、基準の位相に対し、異なる位相を示す。ブレード先端とこれに隣接かつ対向する壁面との間の距離は、反射波のエネルギおよび位相シフトを基準信号のものと比較することにより、数学的に演算され得る。
【0036】
複数のマイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサ200は、各ブレードとこれが近接かつ対向する壁面との間のクリアランスを読み取るように、非同期もしくは交互にリンクして、あるいはマルチプレクス式に動作し得る。クリアランスの不均一性を把握するために、複数のマイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサ200を周方向に離して配置することができ、システム100は、例えばトルクモータ192やアクチュエータ194を含む調整システムを用いて、エンジン130のハウジング216内もしくは周囲の1つあるいは複数の流体流を調整し、このクリアランスを均一な分布に制御することができる。
【0037】
マイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサ200は、反射マイクロ波190を受け取り、この情報を、同軸ケーブル184を介して導波路マルチプレクサ150の信号プロセッサ174へ中継する。反射マイクロ波190は、信号プロセッサ174によって、当業者に周知の1つあるいは複数の数学的アルゴリズムを利用して、位相データへと変換される。導波路マルチプレクサ150の信号プロセッサ174は、この位相データを信号176として信号バッファ144へ中継し、信号バッファ144は、該信号176をプロセッサ146へ中継する前に、一時的にこの信号176をストアする。プロセッサ146は、1つあるいは複数の数学的アルゴリズムを実行して、位相データに基づき、ブレード226の位置およびクリアランスを測定する。この測定後、プロセッサ146は、位置およびクリアランスの測定データ178をコントローラ140へ中継する。コントローラ140は、このブレード226の位置およびクリアランスのデータを一時的にストアし、記録バッファ148へのデータ転送180を用いて、ロータにおける全てのブレード226の列について測定を行う。その間に、コントローラ140は、位置およびクリアランスのデータ178を、取得した関連データを含めて、出力182として、ターボマシン自体の用途のために出力する。記録バッファ148は、各コンポーネントおよびサブコンポーネントについて測定した位置およびクリアランスのデータ178を一時的にストアし、あるいは一時的なストアに代えて、あるいはこれに加えて、データ178を記録保存する。このようにデータを保存して再利用可能としたシステムでは、ユーザが、コンポーネントおよびサブコンポーネントの耐久寿命の間、その位置およびクリアランスの情報をモニタすることが可能となる。
【0038】
他の実施例として、タービンエンジンのコンポーネントおよびサブコンポーネントの調子をモニタリングする装置および方法が記載されている。ここに記載された装置および方法では、ブレードの通過周期の変化が検出され、これにより、下記のような損傷や異常状態が示される。
【0039】
(1)ブレードの変形、クラック、摩耗、ブレード取付部のクラック、の検出、
(2)破損もしくは変形したブレード先端の存在、
(3)異常振動もしくは共振モードの検出、
(4)タービンシャフトメインベアリングの状態表示、
(5)タービンとケースとの同軸度の低下およびすりこぎ運動(歳差運動)の検出、
(6)ブレード先端クリアランスの分周振動による歳差運動の検出。
【0040】
図2〜図5に示したマイクロ波検出システム100は、ターボマシン装置における1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの調子をモニタリングするものとして機能する。上述した損傷や異常状態は、コンポーネントおよびサブコンポーネント(例えば1つあるいは複数のブレード)から戻った反射マイクロ波190の波形の分析、および/または、各コンポーネントおよびサブコンポーネント(例えば1つあるいは複数のブレード)がマイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサ200から出たマイクロ波168を順次通過させかつ反射する際の到着時間(time-of-arrival)のモニタリング、により発見され得る。
【0041】
システム100は、マイクロ波出力源142が起動し、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネント(例えば1つあるいは複数のブレード)で反射することにより、第1の到着時間を測定する。図3および図5に示したように、複数のマイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサ200が、あるインデックスに対し、1回目のブレード226からの反射マイクロ波190の第1の到着時間をミリ秒で記録(ログ)する。第2のセンサ200群は、インデックスに対し、2回目のときに、同じブレード226からの第2の到着時間を記録(ログ)する。図5のプロットは、マイクロ波センサ152,154,156からの反射マイクロ波172から到着時間がどのように把握されるかを示している。そして、システム100は、第1の到着時間を第2の到着時間と比較する。この比較に基づき、システム100は、コンポーネントおよびサブコンポーネント(例えば1つブレード226)の周期の変化の有無を検出し、そのコンポーネントおよびサブコンポーネントに、損傷や異常があるか否かを検出する。
【0042】
例えば、ブレード226が一つのセンサ位置から他のセンサ位置に移動するときに、ブレード226が、過度に早くあるいは過度に遅く到着するのは、ブレード226にクラックがあることを示している。また例えば、反射マイクロ波172の位相のシフト、あるいは周期的変化として知られるものは、ブレード226が振動もしくは捩れの力を受けていることを示す。相当な時間を越えている場合には、これらの力によって、最終的に破損や欠損が生じうる。
【0043】
マイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサ200は、各ブレード先端の位置を同期して読み取りつつ、全てリンクし、あるいはマルチプレクス形式となっている。同期した読み取りにより、システム100は、各ブレードの1回転の間に、少なくとも3つの測定値を収集することができる。非同期のセンサ列では、各ブレードの1回転の間に1つの測定値が得られるだけである。上述したように、マイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサ200は、好ましくは、エンジンハウジング216に一体に設けられ、あるいは、ブレード226に近接かつ対向してタービンエンジン130内部に設けられる。さらに、マイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサ200は、互いに近接して周方向に配設されている。ここで、3個未満のマイクロ波センサでは、1回転中に十分な数の測定値が得られず、同期した測定による利点は得られないことに留意すべきである。他の実施例では、複数セットのマイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサ200が用いられ、各々のセットが、ブレードに近接かつ対向した壁面内に望ましくは一体に設けられた周方向に配設された3個以上のセンサ200を含んでいる。マイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサ200は、ガスタービンエンジン130の中心線188と同じ平面内で、ある角度に配置され、好ましくは、エンジン中心線と同じ平面内で、3個以上のマイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサ200が1つの線もしくは帯の中に軸方向に配置される。
【0044】
図6は、さらに他の実施例を示しており、熱膨張をモニタリングしてクリアランスを制御するとともにターボマシンの調子を維持するための装置および方法として、この例は、さらに、システムバックアップや測定値チェックのために、冗長的な測定手段、例えば、カープマンによる米国特許第6,487,491号に記載されているようなアナログ・クリアランス・モデルを備えている。このカープマンの特許は、ターボマシンにおける実際のクリアランスの正確な予測を、エンジンコントローラに実装したリアルタイム数学モデルによって実現するシステムおよび方法を開示している。図6に示すように、飛行条件およびエンジン出力設定のデータ310が、FADECシステム314のクリアランス要求論理アルゴリズム312に転送される。このアルゴリズム312はデータ310を処理して結合点315へ転送し、この結合点315が、アナログタービンチップクリアランスモデル318から演算された先端クリアランスデータ316を受ける。データ310,316は、結合点315から閉ループ補償アルゴリズム320へと送られる。この受け取ったデータに基づき、アルゴリズム320は、このデータを符号322のようにクリアランスモデル318へと転送し、かつ、補助空気流つまり冷却空気流をファン流からタービンエンジン324のエンジンケース(図示せず)の上へと分流するためのバルブ(図示せず)の位置を制御して、該ケースとエンジンブレードとの間で所望のクリアランスが得られるようにエンジンケースを冷却する。そして、タービンエンジン324は、エンジンパラメータデータ326をクリアランスモデル318へと供給する。クリアランス要求論理アルゴリズム312は、本明細書の参照となるカープマンの特許に開示されたアルゴリズムから構成することができ、あるいは、実際のクリアランスを正確に推定するように設計された当業者に知られている他のリアルタイム数学モデルを用いることもできる。
【0045】
タービンエンジンのファンブレードとケースとの間のクリアランスの制御が不十分であると、クリアランスが過度に大となり、あるいは過度に小さくなって過剰な摩耗を生じる。どちらの場合も、不完全なクリアランスにより性能(エンジン効率や推力など)の低下を招き、エンジンの運転時の限界(例えば排気ガス温度の上昇)を侵し、コンプレッサの安定性の低下を招く。標準の設計実務では、クリアランス制御システムは、ブレードやケースの損傷を招きかねない飛行時クリアランスよりも大きなクリアランスが好ましいとされてきた。例えば、PW4000のようなある種のエンジンにおいては、オープンループのクリアランス制御システムを用いており、このようなシステムでは、”完全な”クリアランス制御システムに比較して、明らかに性能が犠牲になる。他の形式、例えばV2500のようなエンジンにおいては、不十分なモデル化したクリアランスに依存した閉ループシステムを用いており、性能低下はやや少なくなるものの、理想的なクリアランス制御にはまだ不十分である。
【0046】
上述した本発明の方法およびシステムは、アナログ式閉ループシステムや他の非能動的閉ループシステムに比較して、種々の利点を有する。一つの利点は、タービンエンジンにおける先端クリアランスの推定や、コンポーネントおよびサブコンポーネントの調子のモニタリングの精度ならびに信頼性が向上することである。他の利点は、運転条件が急激に変化しやすい飛行中においてクリアランス制御システムが機能し得る性能であり、例えば、飛行機の離陸時に、エンジン運転条件が急激に変化することから、先端クリアランスは、特に厳しくなるものと予想される。さらに他の利点は、クリアランスの増加に伴って減少する排気ガス温度のマージン(余裕代)が拡大し、クリアランスによる安定性低下を回避できることである。これらの利点は、クリアランス制御の精度のさらなる改善に寄与し、ひいては、飛行機の飛行中において、運転時の制限やコンプレッサの安定性を維持しつつ、摺接摩耗のない信頼性の高い運転を確保し、エンジン性能の改善を図ることができる。さらなる利点は、非同期の測定では各ブレードの1回転中に1回の測定しかできないのに対し、3個以上のセンサを用いて各ブレードの1回転中に同期した測定を行い得ることである。他の利点は、熱移動およびエネルギ保存現象を予測する数学的モデルに依拠するのではなく、3個以上のマイクロ波センサを用いて、各コンポーネントおよびサブコンポーネントの位置に関する情報を同時に受け取れることである。さらに他の利点は、大きな熱膨張を受ける領域や所望のクリアランスよりも小さなクリアランスを示す領域を適当に冷却するように、エンジンハウジングの中や周囲に流れる流体流を調整できることである。
【0047】
最適な一実施例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、形状、大きさ、各部品の配置、動作の細部、などは変更され得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】マイクロ波センサを用いた閉ループシステムの一実施例を示す説明図。
【図2】ターボマシンに適用した一実施例の閉ループシステムを示す説明図。
【図3】図2の装置に用いられるマイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサの一実施例を示す説明図。
【図4】前方にブレードが存在しない状態でマイクロ波エア・パス(ブレード・チップ)クリアランスセンサを示す断面図。
【図5】ブレード先端で反射し、図2〜図4のセンサで測定された信号の位相変化を示す特性図。
【図6】従来技術のエンジンパラメータにより動作する閉ループアナログモデル化能動クリアランス制御システムを示す説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボマシンの1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントに近接かつ対向するように配設された3個以上のマイクロ波センサを含む閉ループ検出型能動クリアランス制御システムを設けるステップと、
この能動クリアランス制御システムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの実際の熱膨張を測定するステップと、
上記能動クリアランス制御システムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの各々とこれらが近接かつ対向する壁面との間の、熱膨張が生じる箇所の実際のクリアランスを測定するステップと、
上記能動クリアランス制御システムを用いて熱膨張として測定された上記1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントのそれぞれについての実際のクリアランスと所望のクリアランスとの差に基づいて、上記クリアランスを制御するステップと、
を含むことを特徴とするターボマシンのクリアランス制御方法。
【請求項2】
上記の3個以上のマイクロ波センサは、ターボマシンのタービンエンジンの中心線と同じ平面内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のターボマシンのクリアランス制御方法。
【請求項3】
上記の3個以上のマイクロ波センサは、ターボマシンのタービンエンジンの上記中心線と同じ平面内に軸方向に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のターボマシンのクリアランス制御方法。
【請求項4】
上記の3個以上のマイクロ波センサは、ターボマシンのタービンエンジンの上記中心線に対しある角度で配置されていることを特徴とする請求項2に記載のターボマシンのクリアランス制御方法。
【請求項5】
上記のクリアランスを制御するステップは、熱膨張の量に応じて、上記壁面近傍の流体流の量を調整するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載のターボマシンのクリアランス制御方法。
【請求項6】
上記調整ステップは、
上記マイクロ波センサを使った上記閉ループ検出型能動クリアランス制御システムを用いてバルブを制御し、
熱膨張量に応じて上記壁面に隣接するように上記流体流を案内し、
上記タービンエンジンの1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントと上記壁面との間のクリアランスが所望のクリアランスとなるように上記壁面を冷却する、
ことを特徴とする請求項5に記載のターボマシンのクリアランス制御方法。
【請求項7】
上記ターボマシンはタービンエンジンを含み、上記1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントは、少なくとも1つのブレード、ディスクおよびエンジンケースを含むことを特徴とする請求項1に記載のターボマシンのクリアランス制御方法。
【請求項8】
上記ディスクは、ボア、ウェブ、およびリムを備えることを特徴とする請求項7に記載のターボマシンのクリアランス制御方法。
【請求項9】
ターボマシンの1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントに近接かつ対向する壁面内に配設された閉ループ検出型能動到着時間モニタリングシステムを設けるステップと、
ターボマシンのタービンエンジンのロータ速度を測定するステップと、
上記能動到着時間モニタリングシステムを用いて、上記ロータ速度に基づき、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントからの予想される到着時間を決定するステップと、
上記能動到着時間モニタリングシステムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントあるいはサブコンポーネントが1つあるいは複数の位置にあるときの実際の到着時間を測定するステップと、
上記能動モニタリングシステムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの実際の到着時間を予想到着時間と比較するステップと、
上記能動到着時間モニタリングシステムを用いて、上記の比較から、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの到着時間の変化の有無を判定するステップと、
上記能動到着時間モニタリングシステムを用いて、上記の比較から、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの調子を推定するステップと、
を備えてなるターボマシンの調子をモニタリングする方法。
【請求項10】
能動クリアランス制御システムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの実際の熱膨張を測定する手段と、
上記能動クリアランス制御システムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントとこれらが近接かつ対向する壁面との間の、熱膨張が生じる箇所の実際のクリアランスを測定する手段と、
上記能動クリアランス制御システムを用いて熱膨張として測定された上記1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントのそれぞれについての実際のクリアランスと所望のクリアランスとの差に基づいて、上記クリアランスを制御する手段と、
を含むことを特徴とするターボマシンのクリアランス制御装置。
【請求項11】
上記のクリアランス制御手段は、熱膨張の量に応じて、上記壁面近傍の流体流の量を調整する手段を含むことを特徴とする請求項10に記載のターボマシンのクリアランス制御装置。
【請求項12】
上記調整手段は、
マイクロ波センサを使った閉ループ検出型能動クリアランス制御システムを用いてバルブを制御する手段と、
熱膨張量に応じて上記壁面に隣接するように上記流体流を案内する手段と、
上記タービンエンジンの1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントと上記壁面との間のクリアランスが所望のクリアランスとなるように上記壁面を冷却する手段と、
を備えることを特徴とする請求項11に記載のターボマシンのクリアランス制御装置。
【請求項13】
上記の実際の熱膨張を測定する手段は、マイクロ波センサを使った閉ループ検出型能動クリアランス制御システムを含むことを特徴とする請求項10に記載のターボマシンのクリアランス制御装置。
【請求項14】
上記の実際のクリアランスを測定する手段は、マイクロ波センサを使った閉ループ検出型能動クリアランス制御システムを含むことを特徴とする請求項10に記載のターボマシンのクリアランス制御装置。
【請求項15】
上記のクリアランス制御手段は、測定された熱膨張の量に応じて、上記壁面近傍の流体流の量を調整する手段を含むことを特徴とする請求項10に記載のターボマシンのクリアランス制御装置。
【請求項16】
上記調整手段は、
マイクロ波センサを使った閉ループ検出型能動クリアランス制御システムと、
上記能動クリアランス制御システムに接続されたトルクモータと、
上記トルクモータに接続されたアクチュエータと、
を備え、上記アクチュエータが、存在する熱膨張量に応じて、エンジンハウジング近傍の流体流を調整することを特徴とする請求項15に記載のターボマシンのクリアランス制御装置。
【請求項17】
上記ターボマシンはタービンエンジンを含み、上記壁面は、ブレード先端が対向するガスタービンエンジンのケースを含むことを特徴とする請求項10に記載のターボマシンのクリアランス制御装置。
【請求項18】
ケースおよび該ケース内で回転するブレードを含むタービンエンジンと、
能動クリアランス制御システムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの実際の熱膨張を測定する手段と、
上記能動クリアランス制御システムを用いて、1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントの各々とこれらが近接かつ対向する壁面との間の、熱膨張が生じる箇所の実際のクリアランスを測定する手段と、
上記能動クリアランス制御システムを用いて熱膨張として測定された上記1つあるいは複数のコンポーネントおよびサブコンポーネントのそれぞれについての実際のクリアランスと所望のクリアランスとの差に基づいて、上記クリアランスを制御する手段と、
を含むことを特徴とするタービンエンジン装置。
【請求項19】
上記の実際の熱膨張を測定する手段は、マイクロ波センサを使った閉ループ検出型能動クリアランス制御システムを含むことを特徴とする請求項18に記載のタービンエンジン装置。
【請求項20】
上記の実際のクリアランスを測定する手段は、マイクロ波センサを使った閉ループ検出型能動クリアランス制御システムを含むことを特徴とする請求項18に記載のタービンエンジン装置。
【請求項21】
上記のクリアランス制御手段は、測定された熱膨張の量に応じて、上記壁面近傍の流体流の量を調整する手段を含むことを特徴とする請求項18に記載のタービンエンジン装置。
【請求項22】
上記調整手段は、
マイクロ波センサを使った閉ループ検出型能動クリアランス制御システムと、
上記能動クリアランス制御システムに接続されたトルクモータと、
上記トルクモータに接続されたアクチュエータと、
を備え、上記アクチュエータが、存在する熱膨張量に応じて、エンジンハウジング近傍の流体流を調整することを特徴とする請求項21に記載のタービンエンジン装置。
【請求項23】
エンジン速度を検出する少なくとも1つのセンサと、
バーナ圧力を検出する少なくとも1つのセンサと、
を備え、タービンエンジンの1つあるいは複数のコンポーネントの温度、流体流の温度、流体流の流量、を判定するための測定値をこれらのセンサが生成することを特徴とする請求項18に記載のタービンエンジン装置。
【請求項24】
上記タービンエンジンはガスタービンエンジンであることを特徴とする請求項18に記載のタービンエンジン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−51634(P2007−51634A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160375(P2006−160375)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】