説明

ターボ分子ポンプの接続装置及びターボ分子ポンプ

【課題】本発明はターボ分子ポンプを排気対象装置に接続するための接続装置に関し、比較的低周波域の振動の排気対象装置への伝達を効果的に抑制することのできる接続装置を提供することを目的としている。
【解決手段】ロータと、ロータを収容するケーシングと、前記ケーシングに設けられる吸気口及び排気口を備え、前記ケーシング内でロータを高速回転させることにより前記吸気口からガスを吸引し前記排気口からガスを排出するターボ分子ポンプの吸気口を排気対象の真空容器の排気口に接続するための接続排気管を備えたターボ分子ポンプの接続装置において、前記接続排気管の周囲を取り巻くようにリング状のおもりを配置すると共に、前記接続排気管とおもりの間に粘弾性部材を介在させることにより動吸振器を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はターボ分子ポンプ(以下TMPと略す)を排気対象の真空室に接続する接続装置に関し、更に詳しくは、TMPが発生する比較的低周波域の振動伝達が真空室側に伝達されるのを十分に抑制することができるようにしたTMPの接続装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡や荷電粒子ビーム描画装置等の高真空を必要とする装置には、油拡散ポンプ(以下DPと略す)やTMPなどの真空ポンプが利用される。近年、DPに用いられているオイルが真空中に蒸気として放出され、検査対象や加工対象を汚染することが問題視されるようになってきている。
【0003】
そのため、クリーンな真空を得る目的で、TMPが採用される機会が多くなってきた。TMPはよく知られているように高速で回転するロータに取り付けられたタービンブレード(回転翼)により気体分子を排気することによって真空排気を行なう。そのため、ロータの回転周波数の振動を発生する。しかしながら、TMPから発生する振動はこれだけではなく、タービンブレードの固有振動数での共振や、低振動を目的としてロータを磁気軸受けで支持する場合には、ロータの位置制御のための振動が発生する。
【0004】
図5はTMPの従来構成例を示す図である。図において1はTMP、30は密閉容器であるケーシングであり、その内部に多数のタービンブレードが取り付けられたロータ31が収容されている。ケーシング30には、ロータ31の回転軸0の延長方向の端面に開口する吸気口32と吸気口32を排気対象の装置(例えば電子顕微鏡)に接続するための吸気フランジ2が設けられ、その側面に排気口33がそれぞれ設けられている。
【0005】
前記フランジ2は、排気対象装置の排気口が開口する装置本体側フランジ3に対して、接続排気管であるベローズ4を介して接続される。ベローズ4は、両端に前記フランジ2、3と接続するためのフランジを有すると共に、周囲を取り巻くように例えばゴム製の吸振材が配設され、この吸振材とベローズにより除振器6が構成される。ベローズ4の吸気フランジ2、本体側フランジ3への取付は、ベローズ側のフランジとの間にOリングシール9a、9bを挟み込み、それぞれクランプa7とクランプb8によってなされる。
【0006】
図6はTMPの発生する振動スペクトルを示す図である。横軸は対数で表した周波数[Hz]、縦軸は対数で表した加速度である。振動は図5の水平方向、鉛直方向成分共に発生するが、ここでは鉛直方向の成分に絞って説明する。水平方向についても動作は同じである。11に示すTMP回転周波数成分の振動ピークは回転周波数fR(600Hz程度〜1kHz以上まで、TMPの形式・メーカにより異なる)に観察される。
【0007】
上述したタービンブレードの固有振動数での共振による成分は、タービンブレードの固有振動数fBにおいて観察されるが、一般にこれはTMPの回転周波数fRよりも低く、約200Hz程度であり、またfRとfBとが一致して大きな振動を起こさないように配慮されている。更に、磁気軸受けでロータが支持される場合には、ロータの位置を制御するための振動が発生する。図6の例では、説明を簡単にするため、数10Hz以上の領域で一定振幅Aの広帯域成分13として示した。実際には広帯域成分のみではなく、鋭いピークを有するTMPもある。
【0008】
図7は図5に示す除振器6を備えた構成に対する鉛直方向の振動伝達関数の例を示す図である。横軸は対数で表した周波数[Hz]、縦軸は対数で表した振動伝達率[dB]である。TMP1の質量と除振器6の伸縮方向のバネ定数とにより振動系が構成され、この振動系の共振振動数fCにおける共振増幅による伝達率の増加を伴い、それより高い周波数ほど伝達率が低下する特性を示している。
【0009】
図8はTMPが発生した図6に示す振動が図7に示す振動伝達関数を持つ除振器6を介して排気対象の装置側に伝達された時の振動スペクトルを示す図である。横軸は対数で表した周波数[Hz]、縦軸は対数で表した加速度である。上述した高い周波数ほど伝達率が低下する特性によって比較的高い周波数に存在するTMP回転数fRにおいてTMP回転周波数成分11の除振率が高くなり、本体側フランジへの振動伝達量は十分に抑制される。しかしながら、より低い周波数に存在するタービンブレードの固有振動数fBの振動、また磁気軸受け制御に伴う低周波の広帯域成分13の振動伝達率は比較的大きなものとなる。
【0010】
従来のこの種の装置としては、底付きの周壁部を有する第1カバー体及び底付きで第1カバー体の周壁部より小径の周壁部を有する第2カバー体を有し、該周壁部どうしを重ね合わせて対向配置したカバー体の内部空間に、第1カバー体と第2カバー体を離反方向に付勢して除振対象物の静荷重を支持するコイルスプリングと、コイルスプリング内で同軸上に収容されて該軸方向に沿う圧縮変形及び引張り変形により振動を減衰する柱状粘弾性体とを備える小型除振器が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0011】
また、ポンプと、該ポンプに接続されたポンプ側フランジと、排気の対象である装置と、該装置に接続された装置側フランジと、該装置側フランジと前記ポンプ側フランジ間に取り付けられたベローズと、前記装置側フランジと前記ポンプ側フランジ間に設けられたゴム部材とを備え、前記ベローズの外回りに形成された溝の数をn個として、弾性材をその内のm個の溝に対して配設したことを特徴とするポンプ装置が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0012】
また、標的に電子線またはイオンビームを照射する電子光学系を含む荷電粒子線装置本体と、前記荷電粒子線装置本体内を真空にする吸引ポンプが備わる真空排気系と、前記荷電粒子線装置本体と前記真空排気系を連通する吸引路と、前記吸引路に介在される防振部と、前記防振部に設けられる可撓性通路部材とを有する荷電粒子線装置において、前記真空排気系の吸引により、前記荷電粒子線装置本体と前記真空排気系が引き合う方向に前記可撓性通話部材が収縮するのを抑える収縮阻止手段を設けた装置が知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−360784号公報(段落0014〜0018、図1、図2)
【特許文献2】特開2008−232029号公報(段落0045〜0048、図1、図2)
【特許文献3】特開2007−165232号公報(段落0012〜0034、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述したように、低周波域の振動が十分に除振されずに本体フランジに伝達し、排気対象装置に悪影響を与える場合がある。また、除振器を複数、直列に配置して除振率をより高めることも考えられるが、この場合は除振器が長くなるために高さ方向に十分なスペースがない場合には適用することができない。
【0015】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、装置が大型化することがなく、比較的低周波域の振動伝達を十分に抑制することができるターボ分子ポンプの接続装置及びターボ分子ポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の問題を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
【0017】
(1)請求項1記載の発明は、ロータと、ロータを収容するケーシングと、前記ケーシングに設けられる吸気口及び排気口を備え、前記ケーシング内でロータを高速回転させることにより前記吸気口からガスを吸引し前記排気口からガスを排出するターボ分子ポンプの吸気口を排気対象の真空容器の排気口に接続するための接続排気管を備えたターボ分子ポンプの接続装置において、前記接続排気管の周囲を取り巻くようにリング状のおもりを配置すると共に、前記接続排気管とおもりの間に粘弾性部材を介在させたことを特徴とする。
【0018】
(2)請求項2記載の発明は、前記接続排気管の中間部にはべローズが設けられており、該ベローズと前記吸気口との間に前記おもりが配置されることを特徴とする。
【0019】
(3)請求項3記載の発明は、前記接続排気管とおもりの間に前記粘弾性部材が存在しない空間が設けられるようにしたことを特徴とする。
【0020】
(4)請求項4記載の発明は、前記粘弾性部材は複数の小片に分けられ、該小片が前記ケーシングとおもりの間に互いに間隔を置いて配置されることを特徴とする。
【0021】
(5)請求項5記載の発明は、前記おもりは、複数の小片から成り、該小片を間に粘弾性部材を介在させて一体に組み立ててリング状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のターボ分子ポンプの接続装置。
【0022】
(6)請求項6記載の発明は、ロータと、ロータを収容するケーシングと、前記ケーシングに設けられる吸気口及び排気口を備え、前記ケーシング内でロータを高速回転させることにより前記吸気口からガスを吸引し前記排気口からガスを排出するターボ分子ポンプにおいて、前記ロータの回転中心と中心を一致させたリング状のおもりを前記ケーシングの周囲を取り巻くように配置すると共に、前記ケーシングとリング状のおもりの間に粘弾性部材を介在させたことを特徴とする。
【0023】
(7)請求項7記載の発明は、前記リング状のおもりは、ターボ分子ポンプの重心位置よりも吸気口側に配置されることを特徴とする。
【0024】
(8)請求項8記載の発明は、前記ケーシングとおもりの間に前記粘弾性部材が存在しない空間が設けられるようにしたことを特徴とする。
【0025】
(9)請求項9記載の発明は前記粘弾性部材は複数の小片に分けられ、該小片が前記ケーシングとおもりの間に互いに間隔を置いて配置されることを特徴とする。
【0026】
(10)請求項10記載の発明は、前記おもりは、複数の小片から成り、該小片を間に粘弾性部材を介在させて一体に組み立ててリング状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
【0028】
(1)請求項1記載の発明によれば、ロータと、ロータを収容するケーシングと、前記ケーシングに設けられる吸気口及び排気口を備え、前記ケーシング内でロータを高速回転させることにより、前記排気口からガスを吸引し前記排気口からガスを排出するターボ分子ポンプの吸気口を排気対象の真空容器の排気口に接続するための接続排気管を備えたターボ分子ポンプの接続装置において、前記接続排気管の周囲を取り巻くようにリング状のおもりを配置すると共に、前記接続排気管とおもりの間に粘弾性部分を介在させることによって、おもりと粘弾性部材からなる比較的広範囲にわたり作用する動吸振器を設けたため、動吸振器の共振振動数を比較的低周波に設定することにより、比較的低周波域の振動伝達を十分に抑制することができる。
【0029】
(2)請求項2記載の発明によれば、ベローズと排気口との間におもりを配置することによって、ターボ分子ポンプの吸気フランジ部における振動を効果的に抑制し、排気対象の真空容器側への振動伝達を抑制することができる。
【0030】
(3)請求項3記載の発明によれば、粘弾性部材が存在しない空間の大きさや位置を適宜選定することにより、粘弾性部材の見かけ上のバネ定数の調整が可能となる。
【0031】
(4)請求項4記載の発明によれば、前記粘弾性部材を複数の小片に分け間隔を置いて配置するので、小片に分けられていない場合に比較して、粘弾性部材の見かけ上のバネ定数を低くし、おもりと粘弾性部材とからなる動吸振器の共振振動数を望ましい比較的高い振動数に調整することができる。
【0032】
(5)請求項5記載の発明によれば、おもりの固有振動数を高くすることができ、これにより、おもりの共振によって除振率が低下する周波数域を、排気対象の装置への影響の少ないより高周波側に移動させることができる。
【0033】
(6)請求項6記載の発明によれば、ロータの回転中心と中心を一致させたリング状のおもりを前記ケーシングの周囲取り巻くように配置することにより、TMPの振動の慣性中心と動吸振器の作用力の中心を一致させ効果的に制振することができる。
【0034】
(7)請求項7記載の発明によれば、リング状のおもりをターボ分子ポンプの重心位置よりも吸気口側に配置することにより、吸気フランジ部における振動を抑制でき、効果的に振動伝達を抑制することができる。
【0035】
(8)請求項8記載の発明によれば、粘弾性部材が存在しない空間の大きさや位置を適宜選定することにより、粘弾性部材の見かけ上のバネ定数の調整が可能となる。
【0036】
(9)請求項9記載の発明によれば、前記粘弾性部材を複数の小片に分け間隔を置いて配置するので、小片に分けられていない場合に比較して、粘弾性部材の見かけ上のバネ定数を低くし、おもりと粘弾性部材とからなる動吸振器の共振振動数を望ましい比較的高い振動数に調整することができる。
【0037】
(10)請求項10記載の発明によれば、おもりの固有振動数を高くすることができ、これにより、おもりの共振によって除振率が低下する周波数域を、排気対象の装置への影響の少ないより高周波側に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例を示す構成図である。
【図2】ステータとおもりの位置関係を示す図である。
【図3】動共吸振器の吸振力の周波数特性を示す図である。
【図4】TMPが接続される装置側に伝達する振動スペクトルを示す図である。
【図5】TMPの従来構成例を示す図である。
【図6】TMPの発生する振動スペクトルを示す図である。
【図7】除振器の振動伝達関数を示す図である。
【図8】本体側に伝達される振動スペクトルを示す図である。
【図9】本発明を実施したTMPの一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施例について、詳細に説明する。
【0040】
図1は、本発明の一実施例を示す構成図である。図5と同一の構成要素は、同一の符号を付して示す。下側は一部断面を含む側面図で、上側は後述するステータとおもりの部分の構造を示す平面図である。側面図のステータとおもりの部分の断面は、平面図のP−P断面を示している。図1の構成が図5の構成と異なるのは、TMP1の吸気フランジ2とベローズ4のTMP側フランジとの接続部分に、円筒状のステータ21の内周縁部を挟み込み、このステータ21の外周を取り巻くように円筒状のおもり22を配置し、おもり22の内周面とステータ21の外周面間に粘弾性材23を介在させた点である。ステータ21から粘弾性材23を介して伝えられる振動に応じておもり22が振動することにより吸振力が生じ、動吸振器として作動する。
【0041】
ステータ21の外周面は、図2に示すように下方に向けて広がったテーパー状に形成されており、その外周面に複数の帯状の粘弾性材23が間隔を空けて取り付けられている。おもり22の内周面には、ステータ21外周のテーパーに合わせた逆のテーパーが形成されており、おもり22をステータ21に被せることにより、おもり22は自重で複数の粘弾性材23に接触し、粘弾性材23を挟んでステータ21によって支持される。この時、リング状のおもり22は、その中心軸が、TMP1内のロータの回転軸と一致した状態となっている。TMP1が発生する振動は、ロータの回転に起因するものがほとんどであるため、その回転軸と同軸になるようにリング状のおもりを配置しておもりを振動させることが、TMP1が発生する振動を打ち消すために効果的である。
【0042】
なお、本実施例ではTMPが縦に配置され重力方向が下向きであるため、テーパー構造によりおもり22をステータ21に支持させた。そのため、ステータ21と粘弾性材23との間、及び粘弾性材23とおもり22の間を接着しなくてもおもり22が脱落することはない。
【0043】
しかしながら、TMPを横向きに配置する場合には、重力を利用できないため、ステータ21と粘弾性材23との間、及び粘弾性材23とおもり22の間を適宜な接着部材により接着し、おもり22がずれるようなことなくステータ21によって支持されるようにする必要がある。
【0044】
さらに、粘弾性材23は、ステータ21とおもり22の間の間隙に隙間無く全周にわたり配置することも考えられるが、その様な場合には粘弾性材23の変形が妨げられおもりの動き(振動)が抑制されることになり、吸振力の設計の自由度が低下する。本実施例では、複数の帯状の粘弾性材23が間隔を空けて配置されるため、個々の粘弾性材23は変形し易くなり、帯状の粘弾性材23の厚さ、幅、長さ、各粘弾性材の間の間隔、合計面積などを適宜調節可能であり、吸振力の設計の自由度は大きい。
【0045】
要するに、粘弾性材を変形し易くするためには、ステータ21とおもり22の間の間隙に粘弾性材が存在しない空間が形成されれば良いのであって、小片に分けた粘弾性材を間隔を開けて整列配置するようにしても良いし、1枚のシート状の粘弾性材に複数の任意形状の孔を開けたものを、ステータ21の全周にわたり巻き付けるようにしても良い。
【0046】
おもり22は、円筒状に加工された後に4つに分割され、再度一体に組み立てられており、それぞれの分割片の間の間隙には、粘弾性材24が挟まれている。各分割片の間は、薄い肉厚で曲げ剛性の低いプレート25と接続ボルト26とにより、上下面において互いに接続され、全体として円筒状に組み上げられている。プレートに替え、プレートよりも柔軟なワイヤにて分割片同士を接続するようにしても良い。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0047】
粘弾性材a23と、おもり22とによって形成される動吸振器の水平方向の共振振動数は、おもり22の質量と粘弾性材a23の圧縮方向のバネ定数によって決定される。よって、おもりの質量、粘弾性材a23の硬度、厚さ及び面積によって動吸振器の共振振動数を調整可能である。この共振振動数は、おもり22が分割されていてもいなくても変わらない。その理由は、分割されたおもり22が接する粘弾性材a23の面積は、おもりの分割数に反比例して減少するため、分割されたおもりの質量とバネ定数の比が変化しないからである。
【0048】
動吸振器の鉛直方向の共振振動数に関しては、同様におもり22の質量と粘弾性材aのせん断方向のバネ定数とによって決定される。ここでは、鉛直方向に関してのみ説明を行なう。
【0049】
図3は動吸振器の吸振力の周波数特性を示す図である。図3において、横軸は対数で表した周波数を、縦軸は吸振力を示す。動吸振器の共振振動数fnのところで吸振力が増大していることが分かる。動吸振器の共振振動数fnをTMPが接続される装置にとって最も振動に敏感な周波数(本例では比較的低周波数の領域)に合わせて調整することによって、効果的に振動伝達による影響を抑制することができる。
【0050】
図3から分かるように、動吸振器の吸振力は、fnより高周波側においても0にならず、ある程度の吸振力を有する。従って、図4に示すように、TMPが接続される装置側に伝達される振動は、広帯域にわたり減少する。図4はTMPが接続される装置側に伝達される振動スペクトルを示す図である。横軸は対数で表した周波数、縦軸は対数で表した加速度である。図中の破線が動吸振器の無い場合(図8と同じ)の振動スペクトルであり、共振振動数fnを除振器6によっては抑制しにくい低周波数に設定することにより、図8では加速度が大きかった低周波数領域の振動を大きく減衰させることができていることが分かる。TMP11の回転周波数成分についても、動吸振器によって更に振動伝達が抑制されている。
【0051】
ところで、先に述べたように、動吸振器はおもりの質量と粘弾性材のバネ定数を適宜選定することによって、その共振振動数fnを任意に設定可能である。一方、動吸振器を構成するおもりは、それ自身固有振動数fwでも振動し、この固有振動数のところで吸振力が低下する。固有振動数fwは、おもりの幾何形状,密度,ヤング率,ポアソン比で決まる値となる。この値を例えばfw1とした時、図3の吸振力特性において破線で示されているように、fw1を中心とした吸振力の低下が発生する。この吸振力が低下する振動数範囲では、TMPからの振動が排気対象装置側により大きく伝達されることになる。排気対象装置側がその振動数範囲の振動に敏感で無ければ問題はないが、敏感で大きく影響を受ける場合がある。
【0052】
その様なケースでは、おもり全体の形状を適宜変更して設計することにより、fw1を排気対象装置側が敏感でない領域に移動させるという対処が可能であるが、おもり全体の形状はfnを設計する際のパラメータであり、制約無しに自由に変更することは困難である。
【0053】
そこで、本実施例では、おもりを分割することにより、おもりの形状を変え固有振動数を、分割しない場合に比べて、高い振動数側にシフトさせるようにしている。すなわち、本実施例のように、おもりが小片に分割(本実施例では分割数4)され且つ各小片がおもりの材料により十分にヤング率の低い粘弾性部材を介して組み立てられていて、ある程度個別の振動の自由度を持つような場合、おもりに起因する固有振動数fwは各小片の幾何形状で決まる値となる。固有振動数は、幾何形状が小さくなるほど高くなるため、おもりを分割して各小片の幾何形状(長さ)を小さくすることにより、固有振動数fwを排気対象装置側に対して敏感でない高い領域に移すことができる。
【0054】
本実施例では分割数を4としたため、4分割での固有振動数の値をfw4とすると、図3の吸振力特性の右端に示されているように、おもり(分割小片)の固有振動により吸振力の低下が発生する振動数範囲を、fw1(破線)よりも大幅に高い領域に移動させることができた。構造の複雑化を避けるため分割数はなるべく小さくするのが現実的であり、排気対象装置側が敏感な振動数範囲を考慮して最小の分割数を選定することが好ましい。
【0055】
おもり22間を接続するプレート25,おもり22に接触する粘弾性材23、そして粘弾性材24に付いては、それぞれ剛性が低いため、比較的高い例えばkHzオーダーの振動に対してその周波数を変化させる作用はほとんど有しない。そのため、おもり22を分割した場合の固有振動数を計算により求める際には、分割した小片の質量に基づいて求めれば良く、プレート25、粘弾性材23,24の存在を実用上無視して良い。
【0056】
図9は、本発明を実施したTMPの一例を示す構成図である。図1及び図5と同一の構成要素には、同一の符号が付されている。図1の実施例では、TMPと接続装置との間をつなぐ接続管に動吸振器を取り付けるようにしたが、本実施例では、動吸振器をTMP1に直接取り付けるようにしている。
【0057】
すなわち、TMP1の吸気口32に近い外周面は、図2に示すように下方に向けて広がったテーパー状に形成されており、その外周面に複数の帯状の粘弾性材23が間隔を開けて取り付けられている。リング状のおもり22の内周面には、前記外周面のテーパーに合わせた逆のテーパーが形成されており、おもり22をその外周面に被せることにより、おもり22は自重で複数の粘弾性材23に接触し、粘弾性材23を挟んでTMP1の外周面によって支持される。この時、リング状のおもり22は、その中心軸が、TMP1内のロータの回転軸と一致した状態となっている。
【0058】
おもり22と粘弾性材23により構成される動吸振器の動作は、図1の実施例と全く同様であり、TMP1が発生する振動は、動吸振器による吸振によりTMP1の段階で抑制されるため、吸気口を介して接続される排気対象装置への伝達が抑制される。
【0059】
おもりは、TMP1のどこに取り付けても吸振効果が得られるが、排気対象装置へ伝達される振動の抑制を主眼とする意味では、TMP単体の重心位置をGとした時、Gよりも吸気口32に近い位置に取り付けることが好ましい。
【0060】
以上、説明した本発明によれば、以下の効果が得られる。
1)TMPを排気対象の装置に接続する接続排気管の周囲を取り巻くようにリング状のおもりを配置すると共に、前記接続排気管とおもりの間に粘弾性部材を介在させて動吸振器を構成したことにより、ターボ分子ポンプの発生する排気対象装置にとって敏感な比較的低周波数域の振動が排気対象装置に伝達されるのを効果的に抑制することのできるターボ分子ポンプの接続装置が提供される。
2)また、おもりの固有振動に起因する吸振力特性の低下が排気対象装置にとって好ましくない振動数範囲に発生する場合には、おもりを分割することによって、その固有振動数を高め、吸振力特性の低下が排気対象装置にとって好ましくない振動数範囲に発生することを避けることができる。
3)また、TMPの周囲を取り巻くようにリング状のおもりを配置すると共に、TMPとおもりの間に粘弾性部材を介在させて動吸振器を構成したことにより、TMP1が発生する振動を、動吸振器による吸振によりTMP1自体で抑制することのできるTMPが提供される。
【符号の説明】
【0061】
1 TMP(ターボ分子ポンプ)
2 吸気フランジ
3 本体側フランジ
4 ベローズ
5 ゴム
6 除振器
8 クランプb
9a Oリング
9b Oリング
21 ステータ
22 おもり(ウエイト)
23 粘弾性材a
24 粘弾性材b
25 プレート
26 接続ボルト
27 クランプボルト
28 ボルト
30 ケーシング
31 ロータ(回転翼)
32 吸気口
33 排気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、ロータを収容するケーシングと、前記ケーシングに設けられる吸気口及び排気口を備え、前記ケーシング内でロータを高速回転させることにより前記吸気口からガスを吸引し前記排気口からガスを排出するターボ分子ポンプの吸気口を排気対象の真空容器の排気口に接続するための接続排気管を備えたターボ分子ポンプの接続装置において、前記接続排気管の周囲を取り巻くようにリング状のおもりを配置すると共に、前記接続排気管とおもりの間に粘弾性部材を介在させたことを特徴とするターボ分子ポンプの接続装置。
【請求項2】
前記接続排気管の中間部にはべローズが設けられており、該ベローズと前記吸気口との間に前記おもりが配置されることを特徴とする請求項2記載のターボ分子ポンプの接続装置。
【請求項3】
前記接続排気管とおもりの間に前記粘弾性部材が存在しない空間が設けられるようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載のターボ分子ポンプの接続装置。
【請求項4】
前記粘弾性部材は複数の小片に分けられ、該小片が前記ケーシングとおもりの間に互いに間隔を置いて配置されることを特徴とする請求項3記載のターボ分子ポンプの接続装置。
【請求項5】
前記おもりは、複数の小片から成り、該小片を間に粘弾性部材を介在させて一体に組み立ててリング状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のターボ分子ポンプの接続装置。
【請求項6】
ロータと、ロータを収容するケーシングと、前記ケーシングに設けられる吸気口及び排気口を備え、前記ケーシング内でロータを高速回転させることにより前記吸気口からガスを吸引し前記排気口からガスを排出するターボ分子ポンプにおいて、前記ロータの回転中心と中心を一致させたリング状のおもりを前記ケーシングの周囲を取り巻くように配置すると共に、前記ケーシングとリング状のおもりの間に粘弾性部材を介在させたことを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項7】
前記リング状のおもりは、ターボ分子ポンプの重心位置よりも吸気口側に配置されることを特徴とする請求項6記載のターボ分子ポンプ。
【請求項8】
前記ケーシングとおもりの間に前記粘弾性部材が存在しない空間が設けられるようにしたことを特徴とする請求項6又は7記載のターボ分子ポンプ。
【請求項9】
前記粘弾性部材は複数の小片に分けられ、該小片が前記ケーシングとおもりの間に互いに間隔を置いて配置されることを特徴とする請求項8記載のターボ分子ポンプ。
【請求項10】
前記おもりは、複数の小片から成り、該小片を間に粘弾性部材を介在させて一体に組み立ててリング状に形成されていることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載のターボ分子ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−112255(P2012−112255A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259826(P2010−259826)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】