説明

ターボ分子ポンプ

【課題】ポンプケーシング固定用のボルトに剪断力が作用した際の、ロータ回転方向のボルト変形量をより大きくすることができるターボ分子ポンプの提供。
【解決手段】ターボ分子ポンプは、複数のボルト孔210が形成された吸気口フランジ21bを有するポンプケーシングと、ポンプケーシング内に設けられた固定翼と、回転翼が形成されるとともにポンプケーシング内で高速回転駆動されるロータと、吸気口フランジ21bのシール面側にボルト孔210毎に設けられ、底部を貫通するようにボルト孔210が形成された円形凹部212と、を備え、円形凹部212は、ボルト孔210に対して径方向内側および外側に形成される径方向ボルト変形スペースS2と、ボルト孔210に対してロータ回転逆方向に形成され、径方向ボルト変形スペースS2よりも大きな周方向ボルト変形スペースS1とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプのロータは数万rpmの高速で回転しており、ポンプ運転中は、ロータは常に大きなエネルギーを持っている。何らかの強い外乱が印加されたときや、設計時の想定を超える条件下での連続運転等によりロータが破壊した場合、ロータ破片がポンプケーシングに衝突して大きな破壊トルク(急停止トルク)を与える。ところで、ターボ分子ポンプは、その吸気口フランジを装置側チャンバのフランジにボルト固定することにより、装置側チャンバに取り付けられている。そのため、このようなロータ破壊による急停止トルクが起こると、固定用ボルトが破断するおそれがある。
【0003】
このような問題に対して、吸気口フランジのボルト孔の一部を長穴としたり、径の異なる複数の座グリをボルト孔に対して同心円状に設けて階段状の座グリ穴を形成したりする技術が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。このような長穴や座グリ穴を設けることで、ボルト破断や、装置側に大きな衝撃が伝わるのを防止するようにしている。
【0004】
また、ロータ破壊時には、上述した急停止トルクという問題のほかに、ロータ破片衝突によるポンプケーシングの変形によって、吸気口フランジが楕円状に変形してしまうことがある。この場合には、固定用ボルトに対してフランジ径方向に剪断力が作用する。このような径方向の剪断力に対して、特許文献3に記載の技術では、ボルト孔に対して同心円状の大きな座グリを形成することで、ボルト破断を防止するようにしている。なお、上述した特許文献1に記載の技術ではこのように径方向の破断には対応できないが、特許文献2に記載の技術の場合には、同心円状の座グリを形成しているので対応することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3426734号公報
【特許文献2】特開2003−148388号公報
【特許文献3】特開2005−537418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した急停止トルクに対するロータ回転方向のボルト塑性変形量は、吸気口フランジの変形による径方向のボルト塑性変形量よりも大きい。そのため、ロータ回転方向の塑性変形量に合わせて座グリ径を設定する必要がある。
【0007】
一方、吸気口フランジのボルト孔よりも内周側のフランジ面領域はOリングシール等のシール面に利用されるので、特許文献2や特許文献3のように同心円状に座グリを形成する場合、座グリがシール面と干渉しないように座グリ径を設定する必要がある。
【0008】
そのため、ボルト破断防止や衝撃低減に必要な径寸法の座グリを形成するとシール面と干渉し、シール面に干渉しないように座グリ径を設定すると、充分なボルト塑性変形を得られるような座グリ径が形成できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明によるターボ分子ポンプは、複数のボルト孔が形成された吸気口フランジを有するポンプケーシングと、ポンプケーシング内に設けられた固定翼と、回転翼が形成されるとともにポンプケーシング内で高速回転駆動されるロータと、吸気口フランジのシール面側にボルト孔毎に設けられ、底部を貫通するようにボルト孔が形成された凹部と、を備え、凹部は、ボルト孔に対して径方向内側に形成される第1の径方向空間と、ボルト孔に対して径方向外側に形成される第2の径方向空間と、ボルト孔に対してロータ回転逆方向に形成され、第1および第2の径方向空間よりも大きな周方向空間とを有することを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、凹部を、ボルト孔に対してロータ回転逆方向に偏心した円形凹部としたものである。
請求項3の発明は、請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、凹部は、ボルト孔に対してロータ回転逆方向に偏心した径の異なる複数の円形凹部を、シール面側から径が段階的に小さくなるように階段状に形成した、階段状凹部であって、階段状凹部を構成する最下段の円形凹部の底部を貫通するようにボルト孔を形成したものである。
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のターボ分子ポンプにおいて、固定翼が積層載置されるとともに、ポンプケーシングが固定されるポンプベースと、ポンプケーシングに設けられ、ポンプベースにボルト固定するための複数の固定用ボルト孔が形成された固定用フランジと、を備え、複数の固定用ボルト孔の各々に対して、ロータ回転逆方向に偏心した円形凹部を固定用フランジのベース対向面側に形成するとともに、該円形凹部の底部を貫通するように固定用ボルト孔を形成したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポンプケーシング固定用のボルトに剪断力が作用した際の、ロータ回転方向のボルト変形量をより大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るターボ分子ポンプのポンプ本体1の断面図である。
【図2】吸気口フランジ21bを示す図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。
【図3】ロータ回転方向に衝撃力が作用した場合を説明する図であり、(a)はボルト締結部の断面図、(b)はC−C断面図である。
【図4】吸気口フランジ21bが変形した場合を説明する図であり、(a)はフランジ変形を示す図、(b)は円形凹部212を示す図である。
【図5】円形凹部212をキリ加工した場合の断面図である。
【図6】円形凹部212の変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図7】円形凹部212a,212bを形成した場合のボルト41の塑性変形を説明する図である。
【図8】円形凹部213を示す図であり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図9】装置側の架台42に固定されたポンプ本体1を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照して本発明の実施するための形態について説明する。図1は本発明に係るターボ分子ポンプを構成するポンプ本体1の断面図である。ターボ分子ポンプは、図1に示すポンプ本体1と不図示のコントロールユニットとで構成される。
【0013】
図1に示したターボ分子ポンプは磁気浮上式のターボ分子ポンプであって、ロータ30は、ラジアル方向の磁気軸受37およびスラスト方向の磁気軸受38によって非接触支持される。ロータ30の浮上位置は、ラジアル変位センサ27およびアキシャル変位センサ28によって検出される。磁気軸受によって回転自在に磁気浮上されたロータ30は、モータ36により高速回転駆動される。26,29は非常用のメカニカルベアリングであり、磁気軸受が作動していない時にはこれらのメカニカルベアリング26,29によりロータ30は支持される。
【0014】
ロータ30には、複数段の回転翼32と円筒状のネジロータ31とが形成されている。一方、固定側には、軸方向に対して回転翼32と交互に配置された複数段の固定翼22と、ネジロータ31の外周側に設けられたネジステータ24とが設けられている。なお、ネジロータ31およびネジステータ24の無い全翼タイプのターボ分子ポンプに対しても、本発明は適用することができる。
【0015】
各固定翼22は、スペーサリング23を介してベース20上に載置される。ポンプケーシング21の固定フランジ21cをボルトによりベース20に固定すると、積層されたスペーサリング23がベース20とポンプケーシング21との間に挟持され、固定翼22が位置決めされる。ベース20には排気ポート25が設けられ、この排気ポート25にバックポンプが接続される。ロータ30を磁気浮上させつつモータ36により高速回転駆動することにより、吸気口21a側の気体分子は排気ポート25側へと排気される。
【0016】
ポンプケーシング21の吸気口側には吸気口フランジ21bが形成されており、吸気口フランジ21bに形成された吸気口21aから気体分子がポンプ内に流入する。ポンプ本体1を真空装置に取り付ける場合には、一般的に吸気口フランジ21bを装置側のフランジにボルト固定する。吸気口フランジ21bには、ボルトを通すためのボルト孔210が複数形成されている。ボルト孔210の数や穴径は、フランジの規格により定められている。
【0017】
図2は吸気口フランジ21bを示す図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。図2(a)に示すように、吸気口フランジ21bの吸気口21aには、異物流入防止用の保護ネット19が設けられている。吸気口フランジ21bにはボルト孔210が8つ形成されている。さらに、吸気口フランジ21bの装置側フランジ面(シール面側)には、各ボルト孔210を囲むように円形凹部212がそれぞれ形成されている。すなわち、円形凹部212の底部を貫通するようにボルト孔210が形成されている。
【0018】
円形凹部212の径寸法d2はボルト孔210の径寸法d1よりも大きく、円形凹部212の内側にボルト孔210が配置されるような大きさに設定されている。また、円形凹部212の中心線の径はボルト孔210の中心線の径と同一であるが、円形凹部212の中心位置は、ボルト孔210の中心位置に対してロータ回転方向と逆方向にεだけ偏心している。円形凹部212の深さ寸法は、ボルト孔周囲の肉厚t2がフランジ厚さt1の1/2〜1/3よりも大きくなるように設定するのが好ましい。
【0019】
ハッチングを施した領域B、すなわち円形凹部212よりも内周側のフランジ面領域は、シール領域となっている。図1に示す例では、このシール領域BにOリング211を配置するためのOリング溝が形成されている。なお、真空装置側にフランジにOリングシールが設けられている場合には、シール領域Bは平らなシール面とされる。
【0020】
ところで、定常運転時にはターボ分子ポンプのロータ30は数万rpmで高速回転している。そのような高速回転時に、異常外乱等の影響によってロータ30とステータ側(例えば、ネジステータ24)とが接触したり、接触の衝撃によりロータ30が破壊したりすることがある。また、設計時の想定を越える条件下で連続運転された場合には、ロータが破壊するおそれもある。そのような場合、大きな運動エネルギーを有するロータ破片がポンプケーシング21に衝突し、大きな破壊トルク(急停止トルク)を与えることになる。その結果、吸気口フランジ21bを装置側フランジに固定しているボルトに対してロータ回転方向に大きな剪断力が加わり、ボルトが破断してしまうおそれがあった。
【0021】
また、ロータ破片の衝撃力によってポンプケーシング21が変形し、吸気口フランジ21bが楕円状に変形する場合もある。この場合には、ボルトはロータ回転方向だけでなく半径方向にも剪断力を受けることになる。そこで、本実施形態のターボ分子ポンプでは、図2に示すような円形凹部212を設けることにより、回転方向および径方向の剪断力をボルトの曲げ力と引っ張り力とに分散させ、剪断エネルギーをボルトの歪みエネルギーとして吸収できるようにした。
【0022】
図3は、ロータ回転方向の衝撃力に対する円形凹部212の機能を説明する図である。一方、図4は吸気口フランジ21bが楕円状に変形した場合の、円形凹部212の機能を説明する図である。
【0023】
図3(a)は、ロータ回転方向の衝撃力が加わったときの吸気口フランジ21bと装置側フランジ41とのボルト締結部の断面図であり、図2(a)のA−A断面と同様の断面を示している。図3(b)はC−C断面図である。図3(a),(b)いずれの場合も、図示左方向がロータ回転方向である。
【0024】
図3(b)に示すように、吸気口フランジ21bのフランジ面側に形成された円形凹部212は、ボルト孔210に対してロータ回転逆方向に偏心して形成されている。そのため、円形凹部212内において、ボルト41のロータ回転逆方向に最も大きな周方向ボルト変形スペースS1が形成されることになる。この場合、ボルト41の径方向の内外周両側に形成される径方向ボルト変形スペースS2は、周方向ボルト変形スペースS1よりも小さくなる。
【0025】
上述したように、ロータ破壊によりロータ破片がポンプケーシング21に衝突すると、ロータ回転方向に回そうとする大きな衝撃力がポンプケーシング21に加わる。従来のようにボルト孔210のみが形成されている吸気口フランジの場合には、ボルト41のフランジ境界付近に剪断応力が集中して、ボルト41が破断してしまうおそれがあった。
【0026】
本実施の形態の場合、図3(b)に示すような周方向ボルト変形スペースS1が、ボルト41に対してロータ回転逆方向に形成されるので、ボルト41は図3(a)に示すように塑性変形することができる。ボルト孔210の部分は隙間が小さいのでボルト41の変形は非常に少なく、ボルト41は円形凹部212内においては右側に大きく変形している。なお、図3(b)では、装置側フランジ40におけるボルト41の位置を二点差線で示した。このときの変形には、単にボルト41の軸が曲げられるような変形だけでなく、ボルト41の軸が伸びるような変形も生じており、ボルト41に働く剪断エネルギーの一部は曲げおよび伸びの塑性変形によって吸収される。そのため、装置側に伝達される衝撃トルクを低減することができる。
【0027】
また、ボルト41が塑性変形することで、衝撃トルクによる剪断力をボルト41の広い範囲で受け止めることができるため、ボルト強度を有効に活用することができ、ボルト41の破断を防止することができる。
【0028】
次に、図4を参照して、吸気口フランジ21bがロータ破壊の衝撃で楕円状に変形した場合について説明する。図4(a)は、衝撃による吸気口フランジ21bの変形を説明する図であり、変形前の吸気口フランジ21bを二点差線で示した。図4(a)に示す例では、ポンプケーシング21へのロータ破片の衝突により、吸気口フランジ21bの上下領域が外周方向に変形した場合を示す。この場合、吸気口フランジ21bの左右領域は内周側に変形することになる。
【0029】
このように変形した場合、吸気口フランジ21bの上下位置にあるボルト孔210(例えば、図4(a)の符号210Aで示すボルト孔)は、ほぼ径方向の外側へと移動する。そのため、固定用ボルト41の吸気口フランジ側の部分もボルト孔210の移動と共に外側へと変形する。これは、図3(a)で図示左方向を外周側(径方向外側)と見なした場合に相当し、ボルト41は図3(a)の場合と同様な形態に変形する。
【0030】
ボルト孔210および円形凹部212を基準に見ると、ボルト41の装置側フランジ40にねじ込まれた部分(ボルト41の先端部分)は、図4(b)の二点差線41Aで示すように、ボルト孔210に対して相対的に図示上側(内周側)に移動することになる。なお、図4(b)において、図の上下方向が径方向を表しており、上側が内周側で、下側が外周側である。
【0031】
一方、吸気口フランジ21bの左右領域にあるボルト孔210は、図4(b)の符号210Bで示すボルト孔210のように、内周側に移動することになる。この場合には、装置側フランジ40にねじ込まれたボルト41の先端部分は、図4(b)の二点差線41Bで示すように、ボルト孔210に対して相対的に図示下側(外周側)に移動することになる。
【0032】
図3,4に示す例では、ボルト孔210に対して円形凹部212をロータ回転逆方向に偏心して形成したことが特徴である。一般的に、ロータ破片衝突で吸気口フランジ21bが変形することによるボルト41の変形は、ロータ回転方向の急停止トルクによるボルト変形よりも小さい。また、ロータ30は一方向にしか回転されないので、ボルト41のロータ回転方向にはボルト変形スペースを形成する必要がない。
【0033】
そこで、円形凹部212をロータ回転逆方向に偏心させることで、ロータ回転方向のスペースをほぼゼロ程度まで小さくして、ロータ回転逆方向の周方向ボルト変形スペースS1の大きさを可能な限り大きくするようにした。そのため、円形凹部212をボルト孔210に対して同心円状とした場合に比べて、径方向ボルト変形スペースS2の大きさが若干小さくなる。しかし、上述したように径方向のボルト変形はロータ回転逆方向のボルト変形に比べて小さいので、径方向のボルト変形に対しても円形凹部212は十分対応することができる。
【0034】
このようなことから、従来の座グリと同一径の円形凹部212であっても、ロータ回転逆方向のボルト変形スペースをより大きくすることができる。言い換えれば、ロータ回転逆方向のボルト変形スペースを同心円座グリの場合と同に設定した場合には、円形凹部212の径寸法は従来の座グリ径よりも小さくすることができ、図3(b)の径方向寸法L1は従来よりも小さくなる。そのため、円形凹部212がOリングシールやそのシール面と干渉するのを避けることができると共に、座グリ径が従来よりも小さくなる分だけ吸気口フランジ21bの機械的強度の低下を抑えることができる。
【0035】
例えば、型式ISO250の吸気口フランジの場合には、ボルト41の直径は10mm、ボルト孔210の中心間の直径は310mm、Oリング溝の外径は290mmである。そのため、同心円座グリの場合には、座グリ径の最大値は20mmで、図3(b)に示すボルト41のロータ回転逆方向の隙間L1は5mmとなる。一方、座グリ径の最大値と同一の直径20mmを有する円形凹部212の場合、偏心量εを約4mmとすると、隙間L1は9mmとなる。
【0036】
なお、加工作業面では、ボルト孔210の加工、偏心、円形凹部212の加工(座グリ加工)の順で作業が行われ、特許文献1に記載のように長穴加工をする場合に比べ非常に簡単である。また、ボルト孔210および円形凹部212の加工は、キリ加工でも良いし、エンドミル加工であっても良く、汎用機械で加工が可能である。円形凹部212をキリ加工した場合には、円形凹部212の底面が図5に示すように円錐面となるが、機能的に問題ない。
【0037】
図6は円形凹部212の変形例を示す図である。上述した実施の形態では、ボルト孔210に対して円形凹部を一つ形成したが。図6に示す変形例では、二段の円形凹部212a,212bを形成した。いずれの円形凹部212a,212bも、ボルト孔210に対してロータ回転逆方向に偏心している。O1〜O3はボルト孔210,円形凹部212a,212bの軸心であり、二段目の円形凹部212bの偏心量ε2は、一段目の円形凹部212aの偏心量ε1よりも大きく設定されている。ボルト孔210は、最下段である一段目の円形凹部212aの底部を貫通するように形成されている。
【0038】
このように円形凹部を複数段とすることで、ボルト41は、図7に示すようにボルト孔210,円形凹部212aおよび円形凹部212bの周面や角部に当接しながら塑性変形することになる。時系列的には、最初にボルト孔210の角部を接触点として剪断応力が生じてボルト41は曲げられ、次に円形凹部212aの角部を接触点として曲げられ、最後に、円形凹部212bの角部を接触点として曲げられる。
【0039】
この変形例の構成では、円形凹部212a,212bを偏心させたことによる上述の効果に加えて、曲げモーメントが時系列的に複数箇所で発生して塑性変形することにより、従来のように剪断応力が一箇所に集中することがなく、ボルト41の破断を防止することができる。また、装置側への衝撃をさらに低減することができる。なお、ここでは円形凹部を2段設けた階段状凹部について例示したが、3段以上の階段状凹部としても良い。
【0040】
また、図3,4に示す例では、ボルト孔210に対して円形凹部212をロータ回転逆方向に偏心させることで、1つの周方向ボルト変形スペースS1と2つの径方向ボルト変形スペースS2を同時に形成した。しかし、加工工数は増えるが、図8に示すように円形凹部212よりも径の小さな円形凹部2130a〜2130cを、径方向内側および外側とロータ回転逆方向にずらして形成することで、全体的にロータ回転逆方向に偏った凹部213を形成するようにしても良い。
【0041】
図8に示す例では、円形凹部2130a〜2130cは全て同一径で、ロータ回転逆方向のずらし量をより大きく設定することで、ロータ回転逆方向にボルトがより大きく変形できるようにしている。なお、径方向の円形凹部2130a,2130bの径寸法とロータ回転逆方向の円形凹部2130cの径寸法とが異なっていても良い。
【0042】
このように、本実施の形態では、図3,4のようにボルト孔210に対してロータ回転逆方向に円形凹部212を偏心させたり、図8のように円形凹部2130a〜2130cを径方向およびロータ回転逆方向にずらすことで、全体的にロータ回転逆方向に偏った凹部213を形成したりすることで、ボルト孔210に対して径方向内側および外側に配置される径方向ボルト変形スペースS2と、ボルト孔210に対してロータ回転逆方向に配置され、径方向ボルト変形スペースS2よりも大きな周方向ボルト変形スペースS1と、を形成するようにした。
【0043】
その結果、ポンプケーシング固定用のボルトに剪断力が作用した際に、ボルト41はロータ回転方向に従来よりも大きく塑性変形することができる。
【0044】
上述した本実施の形態では、吸気口フランジのボルト孔210について説明したが、ポンプケーシング21をベース20に固定するための固定フランジ21cに設けられたボルト孔に対しても同様に適用することができる。
【0045】
例えば、ターボ分子ポンプを装置に固定する場合に、チャンバ側の強度の関係上、図9に示すようにポンプ本体1のベース20を装置側に設けられた架台43に固定する場合がある。このような構成の場合には、ポンプケーシング21をベース20に固定しているボルト42に対しても急停止による過大なトルクが作用することになり、また、装置側の架台43に衝撃が伝達される。そのため、ボルト43用のボルト孔に関しても上述のような円形凹部を形成することで、ボルト43を塑性変形させて衝撃エネルギーの吸収を行わせ、ボルト43の破断防止や装置側への衝撃伝達の抑制を図ることができる。
【0046】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0047】
1:ポンプ本体、20:ベース、21:ポンプケーシング、21b:吸気口フランジ、21c:固定フランジ、22:固定翼、30:ロータ、32:回転翼、41,42:ボルト、43:架台、210:ボルト孔、212,212a,212b,2130a〜2130c:円形凹部、213:凹部、S1:周方向ボルト変形スペース、S2:径方向ボルト変形スペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のボルト孔が形成された吸気口フランジを有するポンプケーシングと、
前記ポンプケーシング内に設けられた固定翼と、
回転翼が形成されるとともに前記ポンプケーシング内で高速回転駆動されるロータと、
前記吸気口フランジのシール面側に前記ボルト孔毎に設けられ、底部を貫通するように前記ボルト孔が形成された凹部と、を備え、
前記凹部は、前記ボルト孔に対して径方向内側に形成される第1の径方向空間と、前記ボルト孔に対して径方向外側に形成される第2の径方向空間と、前記ボルト孔に対してロータ回転逆方向に形成され、前記第1および第2の径方向空間よりも大きな周方向空間とを有することを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記凹部は、前記ボルト孔に対してロータ回転逆方向に偏心した円形凹部であることを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記凹部は、前記ボルト孔に対してロータ回転逆方向に偏心した径の異なる複数の円形凹部を、前記シール面側から径が段階的に小さくなるように階段状に形成した、階段状凹部であって、
前記階段状凹部を構成する最下段の円形凹部の底部を貫通するように前記ボルト孔を形成したことを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記固定翼が積層載置されるとともに、前記ポンプケーシングが固定されるポンプベースと、
前記ポンプケーシングに設けられ、前記ポンプベースにボルト固定するための複数の固定用ボルト孔が形成された固定用フランジと、を備え、
前記複数の固定用ボルト孔の各々に対して、ロータ回転逆方向に偏心した円形凹部を前記固定用フランジのベース対向面側に形成するとともに、該円形凹部の底部を貫通するように前記固定用ボルト孔を形成したことを特徴とするターボ分子ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−169165(P2011−169165A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31232(P2010−31232)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】