説明

ターボ機械の始動方法

【課題】始動段階中の蒸気タービンの運転融通性を拡張すること。
【解決手段】始動段階中にターボ機械の運転融通性を向上させる方法400が提供される。ターボ機械は、第1のセクション及び第2のセクションと、該第1のセクション及び第2のセクション内に配置されるロータとを含むことができる。本方法400は、第1のセクション及び/又は第2のセクションと関連する物理的パラメータの許容範囲を決定することができる。本方法400は、第1のバルブ及び/又は第2のバルブを変更し、第1のセクション及び第2のセクションそれぞれへの蒸気流を可能にすることができ、当該変更は、物理的パラメータの許容範囲に基づいている。加えて、物理的パラメータは、本方法400が、始動段階中にターボ機械の第1のセクション及び第2のセクション間に独立して分配することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体的に、ターボ機械に関し、より詳細には、始動段階中の蒸気タービンの運転融通性を高める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンは、発電プラント、熱発生システム、船舶用推進システム、及び他の熱電応用において一般的に使用されている。蒸気タービンは、通常、予め定められた圧力範囲内で作動する少なくとも1つのセクションを含む。該セクションは、高圧(HP)セクション、及び再熱又は中圧(IP)セクションを含むことができる。これらのセクション内に収容される回転要素は、一般的には、軸方向シャフト上に装着される。一般に、制御バルブ及びインタセプトバルブは、HPセクション及びIPセクションをそれぞれ通る蒸気流を制御する。
【0003】
蒸気タービンの通常運転は、3つの別個の段階、すなわち、始動、負荷運転、及びシャットダウンを含む。始動段階は、回転要素の回転が始まり、蒸気が全てのセクションを通って流れるまでの運転段階の開始とみなすことができる。一般に、始動段階は、特定負荷にて終了しない。負荷運転段階は、限定ではないが定格負荷のような、蒸気タービンの出力がほぼ所望の負荷になるまで、セクションに流入する蒸気の量が増大する運転段階とみなすことができる。シャットダウン段階は、蒸気タービン負荷が低下し、各セクションへの蒸気流が漸次的に停止して、回転要素が装着されたロータがターニングギア速度まで減速される運転段階とみなすことができる。
【0004】
カスケード接続の蒸気バイパスシステムを備えた蒸気タービンにおいて、始動段階は、インタセプトバルブを用いてIPセクションへの蒸気流入から始まる。その後、蒸気は、HPセクションに流入する。始動プロセスを完了するHPセクションへの蒸気流入のこのプロセスは、一般に、前方流移送と呼ばれる。通常、HP及びIPセクションを通る蒸気流は、前方流移送中に均衡にされる。蒸気流の量は、通常、作動している再熱器(RH)圧力に応じて決まる。しかしながら、この均衡流移送技術は幾つかの問題を生じる。
【0005】
この技術は、始動段階中に蒸気タービンの運転に影響を及ぼす可能性がある物理的パラメータの全てを考慮している訳ではない。例えば、高温始動中は、高いHPセクション排気温度を防ぐためにより多くの量のHP蒸気流が通常必要とされる。移送後にHP及びIP蒸気流を均衡させるために、移送前のIP蒸気流は、これに応じてより大きな流量にする必要がある。しかしながら、不十分な蒸気がHPセクションを流れてより高いIP蒸気流を均衡させることができるので、移送前に増大されたIP蒸気流は、IPセクションに対する軸方向スラストを増大させることができる。他方、移送前のIP蒸気流が減少して軸方向スラスト荷重が低下した場合、移送時のHP蒸気流量は要求よりも少なくなり、望ましくない高いHPセクション排気温度をもたらす結果となる。ロータ応力は、前方流移送中に考慮される別の物理的パラメータである。低温始動では、極めて高いHP蒸気流量により、望ましくないロータ応力が生じる可能性がある。従って、蒸気タービンに影響を与える可能性がある複数の物理的パラメータは、蒸気流がIP及びHPセクションへの流入を可能にする前に考慮する必要がある。
【0006】
一部の始動方式は、これらの物理的パラメータ制約の1つ又は2つを満足することを試みている。例えば、限定ではないが、1つの方式は、始動プロセス中に誘起されるロータ応力を低減するよう試みている。しかしながら、この技法は、前方流移送中にHPセクションへの低い蒸気流量によって引き起こされる高いHPセクション排気温度には対処していない。他の始動方式は、限定ではないが、高いHPセクション排気温度のような、既存の蒸気流均衡高温始動方式の物理的パラメータを全て制限することには対処していない。
【0007】
これらの問題は、運転上の融通性を低下させ、より大きな機械的構成要素を必要とし、場合によっては、始動段階中の蒸気タービンによって供給される正味出力を低減させる。従って、始動段階中の蒸気タービンの運転融通性を向上させる方法に対する要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,939,100号明細書
【発明の概要】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、始動プロセス中にターボ機械(102)に流入する蒸気流を不均衡にする方法(400)であって、本方法(400)は、少なくとも第1のセクション(110)及び第2のセクション(112)と、該第1のセクション(110)及び第2のセクション(112)内に部分的に配置されるロータ(115)とを備えるターボ機械(102)を提供する段階と、第1のセクション(110)への蒸気流を制御するよう構成された第1のバルブ(116)と、第2のセクション(112)への蒸気流を制御するよう構成された第2のバルブ(118)と、を提供する段階と、蒸気によってロータ(115)が回転し、蒸気が第1のセクション(110)及び第2のセクション(112)を流れるまで続くときに開始する始動段階でターボ機械(102)が作動しているか否かを判定する段階(420)と、ターボ機械(102)の各セクション(110、112)において運転境界に接近する許容可能タービン運転スペース(ATOS)(302)を決定する段階(430)と、を含み、ATOS(302)が、各セクション(110、112)を通る蒸気流、各セクション(110、112)のスラスト限界、及び排気ウィンデージ限界のうちの少なくとも1つに関するデータを組み込み、本方法が更に、始動段階に関連する物理的パラメータのATOS(302)内の許容範囲を決定する段階(430)と、物理的パラメータの許容範囲によって部分的に制限される第1のバルブ(116)の変更を行って、第1のセクション(110)への蒸気流を制御する段階(450)と、物理的パラメータの許容範囲によって部分的に制限される第2のバルブ(118)の変更を行って、第2のセクション(112)への蒸気流を可能にする段階(470)と、を含み、ATOS(302)が、リアルタイムで、第1のセクション(110)及び第2のセクション(112)の運転境界を拡張し、始動段階中のターボ機械(102)の第1のセクション(110)及び第2のセクション(112)間の不均衡蒸気流を可能にする。
【0010】
ターボ機械(102)は、蒸気タービン(102)を含むことができる。ここで、蒸気タービン(102)は、各々が少なくとも1つのバルブ(116、118)と一体化された複数のセクション(110、112)を含むことができる。第1のセクション(110)がHPセクション(110)を含むことができ、第2のセクション(112)がIPセクション(112)を含むことができる。
【0011】
物理的パラメータが、スラスト、ロータ応力、蒸気温度、蒸気圧力、排気ウィンデージ限界、前方流移送中の最小HP流、又は前方流移送中の最大HP流のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0012】
物理的パラメータの値は、第1のセクション(110)又は第2のセクション(112)の少なくとも1つへの蒸気流を独立して制御するよう構成された伝達関数アルゴリズムにより決定される。伝達関数アルゴリズムは、ATOS(302)に基づいて蒸気流を制限することができる。
【0013】
伝達関数アルゴリズムが、始動プロセス中に蒸気タービン(102)の運転スペースを決定することができ、該運転スペースが、HPセクション(110)及びIPセクション(112)の現在の動作範囲を決定することができる。
【0014】
本方法(400)は、HPセクション(110)及びIPセクション(112)の現在の動作範囲に基づいて第1のバルブ(116)及び第2のバルブ(118)の所望のストロークを調整することができる。
【0015】
始動プロセスは複数の段階を含み、各段階が現在の動作範囲によって部分的に決定される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態が作動できる発電プラント施設を示す概略図。
【図2】既知の始動段階による、蒸気タービン用のHPセクション流に対するIPセクション流を示すグラフ。
【図3】本発明の一実施形態による、蒸気タービンのATOSを示す、HPセクション流に対するIPセクション流及びHPセクション流に対するRH圧力のグラフ。
【図4】本発明の一実施形態による、ATOS内で蒸気流を制御する方法の1つの実施例を示すフローチャート。
【図5】本発明の一実施形態による、ATOS内で蒸気タービンの作動性を高める方法を例示する、HPセクション流に対するIPセクション流及びHPセクション流に対するRH圧力のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、始動段階中に蒸気タービンの運転融通性を拡張する技術的作用を有する。蒸気タービンが作動すると、本発明は、各タービンセクションの許容可能タービン運転スペース(ATOS)を決定する。次に、本発明は、ATOSに基づいて各タービンセクションに流入する蒸気を調整することができる。ここで各タービンセクションに流入する蒸気流の量は、別のタービンセクションに流入する蒸気流の量には依存しない。
【0018】
好ましい実施形態の以下の詳細な説明は、本発明の特有の実施形態を示す添付図面を参照して行う。異なる構造及び動作を有する他の実施形態は、本発明の技術的範囲から逸脱するものではない。
【0019】
本明細書では便宜上特定の専門用語を用いる場合があるが、これは、本発明を限定するものと解釈すべきではない。例えば、「上側」、「下側」、「左側」、「右側」、「前部」、「後部」、「頂部」、「底部」、「水平方向」、「垂直方向」、「上流」、「下流」、「前方」、「後方」及び同様のもののような用語は、図に示す構成を単に記述しているに過ぎない。実際に、本発明の実施形態の1つ又は複数の要素は、あらゆる方向に配向することができ、従って、特に明記しない限り、この用語は、このような変形形態を含むものとして理解されたい。
【0020】
本明細書では、詳細な例示的実施形態を開示している。しかしながら、本明細書に開示した特定の構造的かつ機能的詳細は、単に例示的実施形態を説明する目的で示したに過ぎない。しかしながら、例示的実施形態は、多くの別の形態として具現化することができ、本明細書に記載した実施形態のみに限定されると解釈してはならない。
【0021】
従って、例示的な実施形態は様々な変形及び代替形態が可能であるが、その実施形態を例証として図面に示し且つ本明細書で詳細に説明する。しかしながら、開示した特定の形態に例示的な実施形態を限定する意図はなく、逆に例示的な実施形態は、該例示的な実施形態の技術的範囲内にある全ての変形形態、均等形態、及び代替形態を保護すべきである点は理解されたい。
【0022】
第1、第2、その他の用語は、本明細書で様々な要素を説明するのに用いることができるが、これらの要素はこれらの用語によって限定されるべきでないことは理解されるであろう。これらの用語は、単に、ある要素を別の要素と区別するのに使用される。例えば、第1の要素は、例示的な実施形態の範囲から逸脱することなく、第2の要素と呼ぶことができ、同様に第2の要素は第1の要素と呼ぶことができる。本明細書で使用される用語「及び/又は」とは、関連する記載品目の1以上の何れか及び全ての組み合わせを含む。
【0023】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、本発明を限定するものではない。本明細書で使用される単数形態は、前後関係から明らかに別の意味を示さない限り、複数形態も含む。本明細書で用いる場合に、数詞を付していない表現は、文脈がそうでないことを明確に示していない限り、複数の形態もまた含むことを意図している。更に、本明細書で用いる場合の「含む」、「含んでいる」、「備える」及び/又は「備えている」という用語は、記述した特徴、回数、ステップ、操作、要素及び/又は構成部品の存在を特定するが、1以上のその他の特徴、回数、ステップ、操作、要素、構成部品及び/或いはそれらの群の存在又は付加を排除するものではないことを理解されたい。
【0024】
本発明は、様々な蒸気タービン又は同様のものに適用することができる。本発明の一実施形態は、単一蒸気タービン又は複数の蒸気タービンに適用することができる。以下の検討は、対向流構成及びカスケード接続の蒸気バイパスシステムを有する蒸気タービンに関するものであるが、本発明の実施形態は、当該構成に限定されるのもではない。本発明の実施形態は、対向流でない及び/又はカスケード接続の蒸気バイパスシステムを備えていない他の実施形態に適用してもよい。
【0025】
ここで、幾つかの図全体を通して様々な参照符号が同様の要素を表す図面を参照すると、図1は、限定ではないが、発電プラント施設のような、施設100の蒸気タービン102を示す概略図である。図1は、蒸気タービン102、再熱ユニット104、制御システム106、及び発電器108を有する施設100を示している。
【0026】
図1に示すように、蒸気タービン102は、第1のセクション110、第2のセクション112、及びカスケード接続蒸気バイパスシステム120を含むことができる。本発明の種々の実施形態において、蒸気タービン102の第1のセクション110及び第2のセクション112は、高圧(HP)セクション110及び中圧(IP)セクション112とすることができる。本発明の他の種々の実施形態において、HPセクション110はまた、ハウジング110と呼ぶことができ、IPセクション112はまた、追加ハウジング112と呼ぶことができる。更に、蒸気タービン102はまた、第3のセクション114を含むことができる。本発明の一実施形態において、第3のセクション114は、低圧(LP)セクション114とすることができる。蒸気タービン102はまた、蒸気タービン102のセクション110、112、及び114内に配置することができるロータ115を含むことができる。本発明の一実施形態において、ロータ115の周りの流路は、セクション110、112、及び114間で蒸気が流体連通することを可能にすることができる。
【0027】
蒸気タービン102は、第1のセクション110及び第2のセクション112にそれぞれ流入する蒸気流を制御するための第1のバルブ116及び第2のバルブ118を含むことができる。本発明の種々の実施形態において、第1のバルブ116及び第2のバルブ118は、HPセクション110及びIPセクション112にそれぞれ流入する蒸気流を制御するための制御バルブ116及びインタセプトバルブ118とすることができる。
【0028】
図2は、既知の蒸気流方式による、蒸気タービン102におけるHPセクション流に対するIPセクション流を示すグラフ200である。X軸はHPセクション112を通る蒸気流を示し、Y軸はIPセクション114を通る蒸気流を示している。
【0029】
カスケード接続蒸気バイパスシステム120は、蒸気タービン102の始動段階中に機能することができる。図2に示すように、既知の始動段階は、S1−S2、S2−S3、及びS3−S4のステップを含むことができる。制御システム106は、以下のように蒸気タービン102を始動することができる。ステップS1−S2では、第2のバルブ118を介して蒸気がIPセクション112に流入する。次に、ステップS2−S3において、制御バルブ116を介して蒸気がHPセクション110に流入する。次いで、S3−S4では、IPセクション112に流入する蒸気流が、HPセクション110に流入する蒸気流と一致している。これにより、セクション110、112間の均衡流がもたらされる。最初にIPセクション112に、次いでHPセクション110に蒸気を流入させるこのプロセスは、前方流移送とみなされる。
【0030】
始動段階が実質的に完了した後、HPセクション110から流出する蒸気は、再熱ユニット104を通って流れることができ、ここで蒸気の温度は、IPセクション112に流れる前に上昇する。続いて、再熱ユニット104からの蒸気は、図1に示すように、インタセプトバルブ118を介してIPセクション112及びLPセクション114に流入することができる。次に、蒸気は、LPセクション114から流出し、凝縮器(図示せず)に流れることができる。
【0031】
直線202で示すように、既知の流れ方式は、セクション110、112間の蒸気流の均衡を得ようとする。これは通常、始動段階が完了した後、HPセクション110及びIPセクション112を通る蒸気流を均等に維持することを伴う。点A、B、及びCを結ぶ直線202は、蒸気タービン102の負荷運転プロセス中のIPセクション112を通る蒸気流に対するHPセクション110を通る蒸気流の変動を表す。直線202は、HP及びIPセクション110、112とを通る均等又は均衡流を示す、自然圧力線とみなすことができる。
【0032】
図3から図5は、本発明の一実施形態による、ATOSを用いて各セクション110、112の運転可能スペースを拡張する方法を示す概略図である。検討するように、均衡流は、各セクション110、112に同じ量の蒸気流を提供するようにする方法及び/又は制御原理とみなすことができる。本発明の実施形態は、均衡流れ手法を置き換えて、蒸気タービン102の運転境界を拡張するよう努める。蒸気タービン102が作動すると、制御システム106は、ATOSを決定することができる。ATOSは、蒸気タービン102の現在の運転境界とみなすことができる。ATOSが変化すると、本発明の実施形態は、バルブ116、118の位置を調整し、セクション110、112への蒸気流の量を変えることができる。
【0033】
図面を検討し且つこれに対応してATOSに関して議論する際に以下のことを考慮すべきである。全ての図は、特定の蒸気タービン102構成に関連することができる非限定的な実施例とみなすべきである。更に、各図の数値域は、例示を目的としたものに過ぎない。ATOSは、蒸気タービン102が作動できる領域と考えることができる。以下で検討し例示する各ATOS境界は、固定又は限定の境界とみなすべきではない。ATOS及び関連の境界は、変化し且つ動的な作動環境とみなすべきである。この環境は、一部には、蒸気タービン102の構成、運転段階、境界条件、及び機械的構成要素並びに設計によって決定される。ATOS及びその境界の他の方向、形状、大きさ、及びサイズは、図示していないが、本発明の実施形態の性質及び範囲の外にあるものではない。従って、図に示すようなATOS及びその境界の方向、大きさ、形状、及びサイズは、非限定的な実施例の例示に過ぎない。
【0034】
図3は、本発明の一実施形態による、蒸気タービン102のATOS302を例示する、HPセクション流に対するIPセクション流、及びHPセクション流に対するRH圧力のグラフ300である。図3は、本発明の一実施形態による、蒸気タービン102のATOS302の非限定的な実施例を示す。ここで、ATOS境界は、線2−6(直線1−2と5−6の交差の組み合わせ)及び直線3−4である。直線1−2は、IP/LPスラスト線とみなすことができ、軸方向スラストを限度内に維持するための最大許容可能IPセクション流をHPセクション流の関数として示している。直線3−4は、HPスラスト線とみなすことができ、軸方向スラストを限度内に維持するための最大許容可能HPセクション流をIPセクション流の関数として示している。直線5−6は、HPセクション排気ウィンデージ線とみなすことができ、HPセクションの排気において望ましくない高温を防ぐため、最大許容可能RH圧力をHPセクション流の関数として示している。
【0035】
X軸はHPセクション110を通る蒸気流を示す。左側Y軸はIPセクション112を通る蒸気流を示し、右側Y軸は再熱圧力を示す。点A、B、及びCを通過する自然圧力線202は、上記で検討したように均衡流れ方式を示している。
【0036】
軸方向スラスト線1−2及び3−4は、対向するHP及びIPセクション110、112を通る蒸気流の関数である。線1−2及び3−4は、望ましくない高い軸方向スラスト荷重を生じるまでの特定の蒸気タービン102が耐え得る許容可能な流れ不均衡を表すことができる。これらの線の実際の形状及び関連の値は、とりわけ、各セクション110、112の熱力学的設計及び関連のスラスト軸受のサイズによって決まる。最先端の蒸気タービン設計は、軸方向スラスト力を増大させ、許容可能な流れの不均衡を制限し、ATOS302を低減することができる。同様に、スラスト軸受サイズが増大すると、より大きな流れ不均衡が許容され、ATOS302が増大する可能性がある。
【0037】
HPセクション排気ウィンデージ線である線5−6は、RH圧力及びHP入口蒸気温度の関数として、HPセクション110の後段における望ましくない高温を防ぐのに必要な最小HP流量の関数とすることができる。RH圧力がより高くなるほど、HPセクション排気における圧力をより高くすることができる。これは、所与の流量及び所与の入口蒸気温度において、HPセクション110を通る圧力比を低下させる可能性がある。これはまた、HPセクション排気温度を上昇させる可能性がある。同様に、より高いHP入口蒸気温度はまた、所与のRH圧力での所与の蒸気流量において、HPセクション排気蒸気温度を上昇させる可能性がある。
【0038】
一部の蒸気タービン102の運転中、RH圧力が高い入口蒸気温度を有する所望の条件よりも高い圧力に達すると、HPセクション排気温度が材料固有の限界値に接近する可能性がある。しかしながら、蒸気タービン102が低い入口蒸気温度で作動すると、RH圧力が高い場合でも高温のHPセクション排気温度となる可能性が低くなる。ここで、HP入口蒸気のエンタルピーは、温度の低下と共に有意に小さくなる。従って、HPセクションウィンデージの考慮は、これに限定するものではないが、HP入口蒸気温度が高い場合など、特定の条件に限定することができる。
【0039】
上記で検討したように、線1−2、3−4、及び5−6は、所与の動作条件にてATOS302を定めることができる境界である。これらの線は本質的に動的である。本発明の実施形態は、ATOS302をリアルタイムで決定し、より大きな運転融通性を可能にすることができる。実際的には、各ATOS境界は、特定の蒸気タービン102のATOS302を定める物理的パラメータとみなすことができる。物理的パラメータは、限定ではないが、軸方向スラスト、ロータ応力、蒸気温度、蒸気圧力、HPセクション排気ウィンデージ限界、前方流移送に対する最小HP流(MINF)、又は前方流移送に対する最大HP流(MAXF)を含むことができる。
【0040】
図3に示すように、区域304、306、及び308は、蒸気タービン102の運転がHPセクション排気温度及び/又はIP/LP軸方向スラストの好ましい限度を超える可能性がある領域を示している。始動段階中、MINFは、限定ではないが、軸方向スラスト、HPセクション排気温度、及び同様のものなどのHPセクションのほとんどの限界パラメータに基づいた前方流移送中に必要となる最小HPセクション流を表す。MAXFは、限定ではないが、軸方向スラスト、HPロータ応力、及び同様のものなどのHPセクションのほとんどの限界パラメータに基づいた前方流移送中の最大HP流を表す。MINF及びMAXFの範囲は、蒸気タービン102の構成、蒸気の物理的特性、及び同様のものによって決定することができる。従って、図3に示す範囲は、単に例示の目的のものとすることができる。
【0041】
本発明の一実施形態において、ATOSは、始動段階中のHPセクション110及びIPセクション112を通る蒸気流の結合解除を可能にする。これは、始動段階中に蒸気流及び運転融通性の向上を可能にすることができる。図3に示すような本発明の一実施形態において、ATOS手法下での始動により、蒸気流の増大の可能性を表すことができる。ここで、IPセクション112への蒸気流を増大させることができ、上述のように、HPセクション110に流入する蒸気流に対する制約条件によってもはや制限されることはない。例えば、限定ではないが、IPセクション112を通る蒸気流の許容可能な増大は、点S2とS3Aとの間の差違として決定することができる。ここで、バルブストロークの範囲は、ATOS302に基づいて第1のバルブ116及び第2のバルブ118に対して生成することができる。図2と比較して、本発明の実施形態は、均衡流手法よりもATOS302の利用度をより大きくすることができる。
【0042】
図4は、本発明の一実施形態による、ATOS内の蒸気流を制御する方法400の1つの実施例を示すフローチャートである。検討したように、本発明の実施形態は、始動段階中に蒸気流を増大させるために不均衡流法を導入する。ここで、各セクション110、112に流入する蒸気流は、蒸気タービン102の運転境界及び融通性を拡張するよう意図的に不均衡にされる。これは、各セクション110、112に流入する蒸気量をリアルタイムで独立に制御することによって達成することができる。方法400は、蒸気タービンを作動させる制御システム106と一体化することができる。
【0043】
方法400は、第1のバルブ116及び第2のバルブ118を制御して、第1のセクション110及び第2のセクション112それぞれを通る蒸気流を制御することができる。本発明の種々の実施形態において、第1のバルブ116及び第2のバルブ118は、上記で検討したように、HPセクション110及びIPセクション112をそれぞれ通る蒸気流を制御する制御バルブ116及びインタセプトバルブ118とすることができる。
【0044】
ステップ410において、方法400は、蒸気タービン102のどの運転段階であるかを判定することができる。上記で検討したように、蒸気タービン102は、通常、始動、負荷状態、及びシャットダウンの3つの別個で且つ重なり合う段階で運転している。上記で検討したように、ロータが転回し始めて蒸気が全てのセクション110、112を流れるまで続くときに、始動段階が開始することができる。一般に、始動段階は、本発明の実施形態が始動段階中に機能することができる特定負荷にて終了しない。
【0045】
ステップ420において、方法400は、蒸気タービン102が始動段階において運転しているか否かを判定することができる。ここでは、方法400は、蒸気タービン102を作動させる制御システム106からの作動データ又は運転データを受け取ることができる。このデータは、限定ではないが、バルブ116、118の位置を含むことができる。蒸気タービン102が始動段階で運転している場合、方法400は、ステップ430に進むことができ、そうでない場合には、方法400はステップ410に戻ることができる。
【0046】
ステップ430において、方法400は、現在のATOS302を決定することができる。ここで、方法400は、上述のように、ATOS境界に関連した現在データを受け取ることができる。方法400は、ATOS境界に関連した物理的パラメータに関するデータを受け取ることができる。このデータは、許容可能な又は好ましい限度及び境界と比較することができる。例えば、限定ではないが、ATOS境界は、軸方向スラストを含むことができる。ここで、方法400は、現在の運転条件における現在の軸方向スラストと許容可能軸方向スラストとを決定することができる。
【0047】
本発明の代替の実施形態において、方法400は、ATOS302を計算又は決定するための伝達関数、アルゴリズム、又は同様のものを組み込むことができる。
【0048】
ステップ440において、方法400は、蒸気タービン102の第1のセクション110の少なくとも1つに関連する物理的パラメータの許容範囲を決定することができる。物理的パラメータは、限定ではないが、運転上の制約条件及び/又は物理的制約条件を含むことができる。これらの制約条件は、限定ではないが、軸方向スラスト、ロータ応力、蒸気温度、蒸気圧力、HPセクション排気ウィンデージ限界、MINF、又はMAXFを含むことができる。次いで、方法400は、物理的パラメータの許容範囲に基づき第1のバルブ116のバルブストロークの範囲を生成することができる。
【0049】
ステップ450において、方法400は、第1のバルブ116を変更し、蒸気タービン102の第1のセクション110への蒸気流を可能にすることができる。方法400は、物理的パラメータの許容範囲に基づき第1のバルブ116を変更することができる。
【0050】
ステップ460において、方法400は、蒸気タービン102の第2のセクション112の少なくとも1つに関連する物理的パラメータの許容範囲を決定することができる。物理的パラメータは、限定ではないが、運転上の制約条件及び/又は物理的制約条件を含むことができる。これらの制約条件は、限定ではないが、軸方向スラスト、ロータ応力、蒸気温度、蒸気圧力、HPセクション排気ウィンデージ限界、MINF、又はMAXFを含むことができる。次いで、方法400は、物理的パラメータの許容範囲に基づき第2のバルブ118のバルブストロークの範囲を生成することができる。
【0051】
ステップ470において、方法400は、第2のバルブ118を変更し、蒸気タービン102の第2のセクション112への蒸気流を可能にすることができる。方法400は、物理的パラメータの許容範囲に基づき第2のバルブ118を変更することができる。
【0052】
本発明の実施形態は、ATOS302を境界付ける物理的パラメータの変化をリアルタイムで決定することができる。従って、ステップ450及び470が完了した後、方法400は、ステップ410に戻ることができる。
【0053】
図5は、本発明の一実施形態による、ATOS302内において、蒸気タービン102の作動性を高める方法を例示する、HPセクション流に対するIPセクション流及びHPセクション流に対するRH圧力のグラフ500である。本質的に、図5は、図4の方法を適用した起こり得る結果を示している。上記で検討したように、本発明の実施形態は、始動段階における不均衡流手法を提供する。この手法は、現在のATOS302に基づき各セクション110、112に対する許容可能な蒸気流を決定するようにしている。
【0054】
図3と同様に、X軸はHPセクション110を通る蒸気流を示す。左側Y軸はIPセクション112を通る蒸気流を示し、右側Y軸は再熱圧力を示す。直線202は、図2で検討したように自然圧力線を示す。本発明の一実施形態において、伝達関数、アルゴリズム、又は同様のものは、決定されたATOS302に基づきHPセクション110及びIPセクション112に関連する物理的パラメータの現在の動作範囲を決定することができる。上記で検討したように、線1−2、3−4、及び5−6は、所与の動作条件におけるATOS302を定めることができる境界である。これらの線は本質的に動的である。本発明の実施形態は、ATOS302をリアルタイムで決定し、より大きな運転融通性を可能にすることができる。実際的には、各ATOS境界は、特定の蒸気タービン102のATOS302を定める物理的パラメータとみなすことができる。
【0055】
使用時には、本発明の実施形態は、複数段を含むことができる蒸気タービン102に対し新規の始動段階方法を提供する。本発明の一実施形態において、各段は、少なくとも部分的には、現在のATOS境界に基づくことができる。
【0056】
上記で検討したように、図5に関して検討し図示した数値域は、非限定的な実施例の例示を目的としたものに過ぎない。各ATOS境界は、固定又は限定の境界とみなすべきではない。ATOS302及び関連の境界は、変化し且つ動的な作動環境とみなすべきであり、この環境は、一部には、各蒸気タービン102の構成、運転段階、境界条件、及び機械的構成要素並びに設計によって決定される。従って、ATOS302及びその境界の方向、大きさ、形状、及びサイズは、以下で検討するように、非限定的な実施例の例示に過ぎない。図5には図示していない、ATOS302及びその境界の他の方向、形状、大きさ、及びサイズは、本発明の実施形態の性質及び範囲の外にあるものではない。
【0057】
以下では、始動段階中に使用する際の本発明の一実施形態の非限定的な実施例を説明する。本発明の一実施形態において、蒸気タービン102の始動プロセスは、2つの段階を含むことができる。最初にS1−S3Aでは、第2のバルブ118を介してIPセクション112への蒸気流を開始する段階を含む。本発明の一実施形態において、IPセクション112を通る初期蒸気流は、約20%とすることができる。
【0058】
次に、S3A−S3では、第1のバルブ116がHPセクション110への蒸気流を開始する段階を含むことができる。ここで、IPセクション112を通る蒸気流は、IPセクション112の現在の動作範囲にまで増大することができる。本発明の一実施形態において、IPセクション112を通る蒸気流は、約42%まで増大することができ、HPセクション110を通る蒸気流は、約40%まで増大することができる。図3及び図5を比較することにより例示されるように、本発明の実施形態は、この始動段階中に蒸気タービン102の出力の有意な増大をもたらすことができる。
【0059】
本明細書では特定の実施形態を図示しかつ説明してきたが、図示した特定の実施形態は、同一の目的を達成するために考えられるあらゆる構成と置き換えることができること、また本発明は他の環境におけるその他の用途も有することを理解されたい。本出願は、本発明のあらゆる改造及び変更を保護することを意図している。提出した特許請求の範囲は、本発明の技術的範囲を本明細書に記載した特定の実施形態に限定することを一切意図するものではない。
【符号の説明】
【0060】
100 施設
102 ターボ機械、蒸気タービン
104 再熱ユニット
106 制御システム
108 発電器
110 HPタービンセクション、第1のセクション
112 IPタービンセクション、第2のセクション
115 ロータ
114 LPタービンセクション、第3のセクション
116 制御バルブ、第1のバルブ
118 インタセプトバルブ、第2のバルブ
120 カスケード接続バイパスシステム
200 グラフ
202 自然圧力ライン
300 グラフ
302 ATOS
304, 306, 308 領域
400 方法
500 グラフ
504, 506, 508 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
始動プロセス中にターボ機械(102)に流入する蒸気流を不均衡にする方法(400)であって、
少なくとも第1のセクション(110)及び第2のセクション(112)と、該第1のセクション(110)及び第2のセクション(112)内に部分的に配置されるロータ(115)とを備えるターボ機械(102)を提供する段階と、
前記第1のセクション(110)への蒸気流を制御するよう構成された第1のバルブ(116)と、前記第2のセクション(112)への蒸気流を制御するよう構成された第2のバルブ(118)とを提供する段階と、
蒸気によって前記ロータ(115)が回転し、蒸気が前記第1のセクション(110)及び第2のセクション(112)を流れるまで続くときに開始する始動段階で前記ターボ機械(102)が作動しているか否かを判定する段階(420)と、
前記ターボ機械(102)の各セクション(110、112)において運転境界に接近する許容可能タービン運転スペース(ATOS)(302)を決定する段階(430)と、
を含み、前記ATOS(302)が、前記各セクション(110、112)を通る蒸気流、前記各セクション(110、112)のスラスト限界、及び排気ウィンデージ限界のうちの少なくとも1つに関するデータを組み込み、前記方法が更に、
前記始動段階に関連する物理的パラメータのATOS(302)内の許容範囲を決定する段階(430)と、
前記物理的パラメータの許容範囲によって部分的に制限される前記第1のバルブ(116)の変更を行って、前記第1のセクション(110)への蒸気流を制御する段階(450)と、
前記物理的パラメータの許容範囲によって部分的に制限される前記第2のバルブ(118)の変更を行って、前記第2のセクション(112)への蒸気流を可能にする段階(470)と
を含み、前記ATOS(302)が、リアルタイムで、前記第1のセクション(110)及び第2のセクション(112)の運転境界を拡張し、前記始動段階中の前記ターボ機械(102)の前記第1のセクション(110)及び第2のセクション(112)間の不均衡蒸気流を可能にすることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ターボ機械(102)が蒸気タービン(102)を含む、請求項1記載の方法(400)。
【請求項3】
前記ターボ機械(102)が、各々が少なくとも1つのバルブ(116、118)と一体化された複数のセクション(110、112)を含む、請求項2記載の方法(400)。
【請求項4】
前記物理的パラメータが、スラスト、ロータ応力、蒸気温度、蒸気圧力、排気ウィンデージ限界、前方流移送中の最小HP流、又は前方流移送中の最大HP流のうちの少なくとも1つを含む、請求項3記載の方法(400)。
【請求項5】
前記物理的パラメータの値は、前記第1のセクション(110)又は第2のセクション(112)の少なくとも1つへの蒸気流を独立して制御するよう構成された伝達関数アルゴリズムにより決定される、請求項4記載の方法(400)。
【請求項6】
前記伝達関数アルゴリズムが、ATOS(302)に基づいて前記蒸気流を制限する、請求項5記載の方法(400)。
【請求項7】
前記第1のセクション(110)がHPセクション(110)を含み、前記第2のセクション(112)がIPセクション(112)を含む、請求項6記載の方法(400)。
【請求項8】
前記伝達関数アルゴリズムが、始動プロセス中に蒸気タービン(102)の運転スペースを決定し、該運転スペースが、前記HPセクション(110)及び前記IPセクション(112)の現在の動作範囲を決定する、請求項7記載の方法(400)。
【請求項9】
前記HPセクション(110)及び前記IPセクション(112)の現在の動作範囲に基づいて前記第1のバルブ(116)及び前記第2のバルブ(118)の所望のストロークを調整する段階を更に含む、請求項8記載の方法(400)。
【請求項10】
前記始動プロセスが複数の段階を含み、各段階が前記現在の動作範囲によって部分的に決定される、請求項9記載の方法(400)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−127340(P2012−127340A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−266353(P2011−266353)
【出願日】平成23年12月6日(2011.12.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】