説明

タール含有ガスの改質方法

【課題】本発明は、石炭やバイオマスなどの炭素質原料を熱分解した時に発生し、タールを含むと共に硫化水素を高濃度で含む粗ガスを、触媒存在下で、高性能且つ安定的に軽質炭化水素に転換するタール含有ガスの改質方法を提供することを目的とする。
【解決手段】触媒として、ニッケル、マグネシウム、セリウム、アルミニウムを構成元素とする金属酸化物を用いることにより、硫化水素を高濃度で含み、且つ縮合多環芳香族炭化水素主体のタールを多く含む粗ガスを改質しても、触媒に硫黄被毒による活性低下や炭素析出が生じ難く、そのため、経時劣化が少なく安定的に粗ガス中のタールを改質することができる。
また、前記触媒は、タール含有ガス(粗ガス)の改質を長時間実施して、炭素析出や硫黄被毒により触媒性能が劣化しても、水蒸気または空気の少なくともいずれかを接触させて再生することで、長期に安定した運転が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質原料を熱分解した際に発生する高温のタール含有ガスを改質する方法であって、水素、一酸化炭素、メタンを中心とするガスへ変換する改質用触媒と、その触媒を用いたタール含有ガスの改質方法、及びタール含有ガスの改質用触媒が劣化した際の再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業は我が国の総エネルギー消費量の約1割を占めるエネルギー多消費産業であるが、高炉法一貫製鉄プロセスのうち約4割が未利用廃熱である。そのうち、回収されやすいが従来は利用されていない熱源としてコークス炉から発生する高温の未精製COG(コークス炉ガス、以下粗COG)の顕熱がある。この粗COGの顕熱の回収技術として、従来から間接熱回収を主体とする方法が特許文献1および2に提案され、コークス炉上昇管内部、又は、上昇管部と集気管部の間に伝熱管を設け、この伝熱管内部に熱媒体を循環流通させて顕熱を回収する方法が開示されている。しかし、これらの方法では伝熱管外表面への発生COGに随伴するタール、軽油等の付着、炭化・凝集による緻密化が進行し、経時伝熱効率の低下・熱交換効率低下という問題が不可避である。これら問題点を解決する技術として、伝熱管外表面に結晶性アルミノシリケート、結晶性シリカ等の触媒を塗布し、タール等の付着物を触媒を介して低分子量の炭化水素に分解し、伝熱効率を安定維持する方法が特許文献3に開示されている。しかし、この方法も粗COG顕熱の間接熱回収技術の域を出ず、また、タール等の重質炭化水素の分解生成物がガス燃料等として利用しやすい軽質炭化水素になるかどうかなど全く考慮されていない。さらには、粗COG中に含有する高濃度の硫化水素等の触媒被毒性硫黄化合物成分による分解活性の経時劣化の影響についても検討されていない。
【0003】
高温で生成する反応性ガスにその顕熱を利用して、触媒存在下、直接化学反応を導入して化学エネルギーに転換する技術は殆どなく、従来、高温ガスの顕熱は間接的に回収されて、若しくは全く利用されず、冷却されたガスを種々処理をして利用するケースが殆どである。ただ、粗COGが顕熱を有しているといっても、硫黄化合物の含有量が2000ppmを越え、タール等重質炭化水素の分解反応に関する触媒反応設計の観点からは極めて実現が困難と考えられ、これまで特許文献6に記載されているように検討はされていたが、改質活性は必ずしも十分とは言えなかった。また、エネルギー変換触媒は、硫黄被毒や炭素析出を受けやすいため、上記高濃度硫黄化合物を含んだ雰囲気下、炭素析出を起こしやすい縮合多環芳香族主体のタールの分解反応に適する触媒を製造することが困難であった。また一旦反応を進行させて性能劣化した後、再生のため空気燃焼することにより、担持金属粒子のシンタリング(粗大化)が起こりやすく、再生による活性の再現を実現することも困難であった。
【0004】
一方、炭化水素の改質用原料として一般に用いられるメタンの改質用触媒としては古くから数多くの研究がなされており、例えばメタンの部分酸化触媒としては、非特許文献1のように、ニッケル、マグネシウム、アルミニウムの溶液から沈殿物を経由して製造される触媒、メタンの水蒸気又は二酸化炭素による改質用触媒としては、特許文献7のようにニッケル、マグネシウム、カルシウムで構成される酸化物に第3B族元素、第4A族元素、第6B族元素、第7B族元素、第1A族元素およびランタノイド元素の少なくとも一種を混合した触媒が検討されている。また、メタンを主成分とする低級炭化水素との水蒸気改質触媒としては、特許文献8のようにマグネシウム、アルミニウム、ニッケルを構成元素とし、且つアルカリ金属、アルカリ土類金属、Zn、Co、Ce、Cr、Fe、Laから選ばれる一種または二種以上の元素を含有する触媒が検討されている。また、非特許文献2のようにメタンの二酸化炭素、スチーム及び酸素によるトリリフォーミング反応用としてセリア、ジルコニア、及びセリアジルコニア化合物へのNi担持触媒と共に、セリアジルコニア化合物へのマグネシア及びNi担持触媒が検討されている。一方、都市ガス、イソオクタン、灯油、プロパンなど原料中に硫黄分を含み且つ比較的低級炭化水素から燃料電池用水素を発生する触媒としては、特許文献9のようにアルミニウムとマグネシウムからなる多孔質担体に珪素、ジルコニウム、セリウム、チタン、アルミニウム、イットリウム、スカンジウム、第1A族元素、第2A族元素から選ばれる少なくとも1種類以上の元素の酸化物が検討されており、さらにプロパン、ブタン、都市ガス等の低級炭化水素からの水素製造触媒として、特許文献10のようにマグネシウム、アルミニウム、ニッケルを構成元素とし、且つ珪素を含有する触媒などが提案、開示されている。しかしこれらの触媒の対象となる炭化水素は、いずれも低級且つ鎖式炭化水素で分解しやすく、且つ原料中に含まれる触媒毒となり得る硫黄分は高々特許文献9に示されているような50ppm以下のものに限られており、これら公知の触媒ではタール含有ガスにおいて硫黄分が高濃度に含まれるガス雰囲気下、タール等重質炭化水素を改質することへの検討は全く行われていなかった。
【0005】
さらに、近年の地球温暖化問題により、二酸化炭素排出量削減の有効手段として炭素質原料の一つであるバイオマス利用が注目されており、バイオマスの高効率エネルギー転換に関する研究が各所で行われている。また昨今のエネルギー資源確保の観点から、過去精力的に行われてきた石炭の有効活用に関する研究も実用化に向けて見直されてきている。その中で、バイオマスの乾留で生成するタールをガス化して、粗ガス(未精製ガス)を生成し、その顕熱を利用する方法については、特に触媒を用いたタールの触媒改質を中心に、特許文献11や特許文献12などをはじめとして種々検討されているが、貴金属を使用していて高価であったり、触媒寿命が短いという課題を有していた。
【特許文献1】特公昭59-44346号公報
【特許文献2】特開昭58-76487号公報
【特許文献3】特開平8-134456号公報
【特許文献4】USP-5516359号公報
【特許文献5】特開2000-54852号公報
【特許文献6】特開2003-55671号公報
【特許文献7】特開2000-469号公報
【特許文献8】特開2006-61760号公報
【特許文献9】特開2007-313496号公報
【特許文献10】特開2008-18414号公報
【特許文献11】特開2005-53972号公報
【特許文献12】特開2007-229548号公報
【非特許文献1】F.Basile et al., Stud. Surf. Sci. Catal., Vol.119(1998)
【非特許文献2】C.Song et al., Catalysis Today, Vol.98(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、石炭やバイオマスなどの炭素質原料を熱分解した時に発生し、重質鎖式炭化水素や縮合多環芳香族炭化水素などからなるタールを含むと共に硫化水素を高濃度で含む粗ガスを、触媒存在下で、高性能且つ安定的にメタン、一酸化炭素、水素等の軽質化学物質に転換するタール含有ガスの改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、石炭やバイオマスを熱分解した際に発生する、硫化水素を高濃度で含むタール含有ガス(粗ガス)について、硫化水素を高濃度で含む粗ガスのまま触媒と接触させて、粗ガス中のタールを、メタン、一酸化炭素、水素等の軽質化学物質に転換する方法について鋭意検討した。その結果、触媒として、ニッケル、マグネシウム、セリウム、アルミニウムを構成元素とする金属酸化物を用いることにより、硫化水素を高濃度で含み、且つ縮合多環芳香族炭化水素等からなるタールを多く含む粗ガスを改質しても、触媒に硫黄被毒による活性低下や炭素析出が生じ難く、そのため、経時劣化が少なく安定的に粗ガス中のタールを改質することができ、メタンや一酸化炭素、水素等の軽質化学物質へ変換できることを見出して、発明を為すに至った。
【0008】
また、発明者等が更に鋭意検討した結果、前記触媒は、タール含有ガスの改質を長時間実施して、炭素析出や硫黄被毒により触媒性能が劣化しても、水蒸気または空気の少なくともいずれかを接触させることで、再生することができ、この再生した触媒は、ほぼ劣化前の性能を保持していることを見出して、より長期に安定した運転が可能となるタール含有ガスの改質方法を為すに至った。
【0009】
以下に、その特徴を示す。
【0010】
(1) 金属酸化物をタール改質用触媒として用いるタール含有ガスの改質方法であって、前記金属酸化物触媒を構成する金属として、ニッケル、マグネシウム、セリウム、及びアルミニウムが含有され、前記金属酸化物の存在下、または還元後の前記金属酸化物の存在下において、炭素質原料を熱分解した際に発生するタール含有ガス中の、水素、二酸化炭素、及び水蒸気を接触させて、前記タール含有ガス中のタールを改質してガス化することを特徴とするタール含有ガスの改質方法である。また、
【0011】
(2) 前記熱分解した際に発生するタール含有ガスに、外部から水素、二酸化炭素、水蒸気の少なくともいずれかを接触させて、前記タール含有ガスを改質してガス化することを特徴とする(1)記載のタール含有ガスの改質方法である。また、
【0012】
(3) 前記タール含有ガスが、硫化水素を含むタール含有ガスであることを特徴とする(1)又は(2)記載のタール含有ガスの改質方法である。また、
【0013】
(4) 前記タール含有ガスが、コークス炉から排出されるコークス炉ガスであることを特徴とする(3)記載のタール含有ガスの改質方法である。また、
【0014】
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載のタール含有ガスの改質方法を実施した後、炭素析出、硫黄被毒の少なくともいずれかにより性能劣化した前記触媒に、水蒸気、または空気の少なくともいずれかを接触させて、前記触媒を再生し、再び前記タール改質用触媒として用いることを特徴とするタール含有ガスの改質方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、石炭やバイオマスを熱分解した際に発生するタール含有ガス(粗ガス)を、安定的にメタン、一酸化炭素、水素等の軽質化学物質へ転換することができる。特に、タール含有ガス中に、硫化水素を高濃度で含むタール含有ガスであっても、脱硫処理せずにそのまま触媒と接触させて、粗ガス中のタールを改質して、メタン、一酸化炭素、水素等の軽質化学物質へ安定的に転換することができる。
【0016】
例えば、硫化水素を数十ppm〜2000ppm程度含有するバイオマス乾留ガスや粗COG等のタール含有ガスに対しても、本発明の触媒により高効率で且つ安定に、改質反応によって軽質化学物質へと転換することができる。
【0017】
また、本発明の一形態によれば、タール含有ガスの改質後、水蒸気、または空気の少なくともいずれかを反応後の触媒に接触させることにより、触媒を再生させて、この再生触媒を再度タール含有ガスの改質に使用することができ、触媒性能の劣化を抑えながら、長期に安定した運転が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、具体例を示して、本発明を更に詳細に説明する。
本発明のタール含有ガスの改質方法で用いるタール改質用触媒は、構成金属として、ニッケル、マグネシウム、セリウム、及びアルミニウムが含有される金属酸化物触媒である。
【0019】
このうち、ニッケルが重質炭化水素をガス中に存在または外部より導入される水蒸気、水素、二酸化炭素との間で改質反応を進行させる主活性成分として機能する。タール含有ガス中に高濃度の硫化水素が共存した場合でも、上記ニッケル金属が触媒表面上でクラスター状に微細分散して表面積が大きく且つ還元雰囲気下では反応中に活性金属粒子が被毒を受けても新たな活性金属粒子がマトリクス(マグネシアとの固溶相)から微細析出するために、硫黄被毒による活性低下の影響を受けにくいと考えられる。このマトリクスの化合物から、還元雰囲気下、活性金属粒子を微細クラスター状に析出させることができる。また、縮合多環芳香族主体のタールも乾留直後の高温状態で反応性に富む状態であり、且つ微細分散して高比表面積を持った高活性なニッケル金属と接触することにより、高効率に軽質炭化水素へ変換・分解するものと考えられる。また、析出したニッケルがマトリクスの化合物と強固に結合しているために、ニッケル粒子間での凝集(シンタリング)を抑制し、長時間の反応中でも触媒活性が低下しにくい効果があると考えられる。
【0020】
また、ニッケル元素と化合物化した成分のうち、マグネシアは塩基性酸化物であり、二酸化炭素を吸着する機能を保有することにより、主活性成分元素上での炭化水素由来の析出炭素と反応して、一酸化炭素として酸化除去する役割を発揮するために、触媒表面を清浄に保ち、触媒性能を長期間安定に保持できると思われる。
【0021】
セリウムはニッケル−マグネシウム固溶体酸化物には固溶せずに酸化セリウムとしてニッケル−マグネシウム表面近傍に存在し、タール含有ガス雰囲気下であっても酸素吸放出機能を発揮して、ニッケル−マグネシウム固溶体酸化物からニッケルを還元し、より多くのニッケル金属粒子を析出させる役割を果たすものと推察される。
【0022】
アルミナは、反応場としての担体の役割を果たすだけでなく、一部ニッケルマグネシウム化合物と反応して、ニッケルとマグネシウムを含む酸化物結晶相を細かく分断すること等により、各結晶相から表面に析出する活性種のニッケルが高度な分散状態になり、特に炭素析出の起点となりやすいニッケルの偏在部分などが形成されにくく、高い炭素析出性を発揮するような機能も果たすものと推察される。
【0023】
本発明でいう炭素質原料とは、熱分解してタールを生成する炭素を含む原料のことで、石炭並びにバイオマスやプラスチックの容器包装類など構成元素に炭素を含む広範囲なものを指すが、中でもバイオマスとは、林地残材、間伐材、未利用樹、製材残材、建設廃材、またはそれらを原料とした木質チップ、ペレット等の二次製品等の木質系バイオマスや、再生紙として再利用できなくなった古紙などの製紙系バイオマス、ササやススキをはじめとして公園や河川、道路で刈り取られる雑草類などの草本系バイオマス、厨芥類等の食品廃棄物系バイオマス、稲わら、麦わら、籾殻などの農業残渣、さとうきび等の糖質資源やとうもろこし等のでんぷん資源及び菜種等の油脂などの資源作物、汚泥、家畜排泄物などを指す。
【0024】
また炭素質原料を熱分解した際に発生するタールとは、熱分解される原料により性状が異なるが、炭素が5個以上含まれた常温で液体の有機化合物であって、鎖式炭化水素や芳香族炭化水素などからなる混合物を指し、石炭の熱分解であれば、例えばナフタレン、フェナンスレン、ピレン、アントラセンなど縮合多環芳香族などが主成分であり、木質系廃棄物の熱分解であれば、例えばベンゼン、トルエン、ナフタレン、インデン、アントラセン、フェノールなど、食品廃棄物の熱分解であれば、例えば上記以外にインドール、ピロールなどの六員環または五員環に窒素など異種元素を含むヘテロ化合物も含まれるが、特にそれらに限定されるものではない。熱分解タールは、熱分解直後の高温状態ではガス状で存在する。
【0025】
また、炭素質原料の熱分解方法としては、石炭を原料とする場合には一般にコークス炉が用いられ、バイオマスを原料とする場合には外熱式ロータリーキルンや移動床炉、流動床炉などを用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0026】
また、タールを接触分解してガス化するタールの改質反応は、重質炭化水素主体のタールからメタン、一酸化炭素、水素等の軽質化学物質へ変換する反応であるが、反応経路が複雑で必ずしも明らかではないが、タール含有ガス中若しくは外部より導入する水素や水蒸気、二酸化炭素、酸素などとの間で起こりうる水素化反応やスチームリフォーミング反応、ドライリフォーミング反応などが考えられる。これら一連の反応は吸熱反応のため、実機に適用した場合、反応器に入る高温の顕熱を有するガスが触媒層内で改質されて出口では温度が低下するが、より高効率にタール等重質炭化水素成分を改質する場合には、必要に応じて空気若しくは酸素を触媒層内に導入することで、一部水素や炭化水素成分を燃焼させた燃焼熱で触媒層の温度をある程度保ちながらさらに改質反応を進めることも可能である。
【0027】
次に、本発明のタール改質用触媒の製造方法について説明する。
例えば、ニッケル化合物とマグネシウム化合物とセリウム化合物を含んだ溶液を、粉末あるいは成型したアルミナ担体上に担持する方法があるが、担体表面に各化合物をインシピエントウエットネス法、蒸発乾固法等の通常の含浸法により調製できる。また、各元素を担持する方法は、全ての元素を含んだ溶液を一度に担持する同時含浸法であってもよいし、各化合物の一部を含んだ溶液を一旦含浸した後に、それ以外の化合物を含んだ溶液を1回又は複数回に分けて含浸する逐次含浸法であっても良い。
【0028】
このようにして調製した触媒前駆体を50〜150℃において乾燥し、水又は有機溶媒を除去する。その際、有機溶媒を用いた場合には、経済性の面から有機溶媒を回収し、再使用することが望ましい。次いで、得られた触媒前駆体乾燥品を焼成することにより調製することができる。尚、最終的な焼成温度は各化合物の熱分解温度及びその速度、並びに成型体の強度等を総合的に考慮して適宜決めることが望ましい。但し、本発明のタール改質用触媒は、この製法に限定されるものではない。
【0029】
上記の方法で製造されたタール改質用触媒を用いることにより、炭素質原料を熱分解した際に発生する多量の硫化水素を含み、炭素析出を起こしやすい縮合多環芳香族主体のタール含有ガスであっても、高い耐炭素析出性を示し、随伴するタール等重質炭化水素を高効率に改質して、水素、一酸化炭素、メタンを主体とする軽質化学物質に経時劣化が少なく安定に変換することができる。
【0030】
また、本発明のタール改質方法は、硫化水素含有雰囲気下でも安定して改質反応が進行するが、ガス中の硫化水素濃度は低ければ低いほど被毒されないため好ましく、4000ppm以下の濃度が好ましい。さらに3000ppm以下の濃度がより好ましい。
【0031】
さらに、本発明のタール改質方法で用いるタール改質用触媒は、主活性成分であるニッケル含有量が1〜50質量%であることが好ましい。1質量%未満ではニッケルの改質性能が十分発揮されないため好ましくない。50質量%を超える場合には、マトリクスを形成するマグネシウム、アルミニウムの含有量が少ないため、触媒上に析出するニッケル金属の濃度が高く且つ粗大化しやすいため、本反応条件下では性能の経時劣化の恐れがある。
【0032】
またマグネシウム含有量は1〜45質量%であることが好ましい。1質量%未満ではマグネシアの有する塩基性酸化物の性質を活かして炭化水素の炭素析出を抑制し、触媒性能を長期間安定に保持しにくくなる傾向があるため、1質量%以上が好ましい。45質量%を超える場合は、他のニッケル、アルミニウムの含有量が少なくなるため、触媒の改質活性を十分発揮できなくなる恐れがある。さらに、マグネシウム含有量は4〜45質量%であることがより好ましい。4質量%未満ではマグネシウムとニッケルの固溶体中のニッケル濃度が高くなるため、固溶相から析出するニッケル粒が粗大化しやすく、タール含有ガスの改質反応後での触媒上の炭素析出量が多くなりやすい傾向があるため、4質量%以上が更に好ましい。
【0033】
また、セリウムの含有量は1〜40質量%であることが好ましい。1質量%未満では、酸化セリウムの酸素吸蔵能によるニッケルマグネシアからのニッケルの析出が起こりにくくなる傾向があるため、1質量%以上が好ましい。40質量%を超える場合には、主活性成分であるニッケルや炭素析出を抑制するマグネシアの割合が低くなるため、触媒の改質活性を十分発揮できなくなる恐れがある。
【0034】
さらに、アルミナの含有量は20〜80質量%であることが好ましい。20質量%未満では、ニッケルマグネシア主体のセラミックスとなり、成型した際、強度が著しく低くなる傾向があるため、20質量%以上が好ましい。80質量%を超える場合には、主活性成分であるニッケルや炭素析出を抑制するマグネシアの割合が低くなるため、触媒の改質活性を十分発揮できなくなる恐れがある。尚、本発明の改質触媒は、ニッケル含有量が1〜35質量%、マグネシウム含有量が6〜35質量%、セリウム含有量が3〜30質量%、アルミナ含有量が20〜80質量%となるように製造することがさらに好ましい。
【0035】
また、アルミナ担体は、表面積と強度との兼ね合いで細孔容積、細孔径を、また特に成型体であれば形状等を適宜調整することが好ましい。また各金属種の含有量を上記範囲になるように調製するためには、各出発原料を予め計算の上準備しておくことが好ましい。尚、一度触媒が狙いの成分組成となれば、それ以降はその時の配合で調製すればよい。
【0036】
また、上記の元素以外に触媒製造工程等で混入する不可避的不純物や触媒性能が変わらない他成分を含んでも構わないが、できるだけ不純物が混入しないようにするのが望ましい。
【0037】
尚、上記改質触媒を構成する各金属種の含有量の測定方法は、走査型高周波誘導結合プラズマ法(ICP)と呼ばれる方法を用いた。具体的には、試料を粉砕後、アルカリ融解剤(例えば炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウムなど)を加えて白金坩堝内で加熱融解し、冷却後に塩酸溶液に加温下で全量溶解させる。その溶液をICP分析装置へインジェクションすると、装置内の高温プラズマ状態の中で試料溶液が原子化・熱励起し、これが基底状態に戻る際に元素固有の波長の発光スペクトルを生じるため、その発光波長及び強度から含有元素種、量を定性・定量することができる。
【0038】
ここで本発明の改質触媒は、粉体、または成型体のいずれの形態としてもよく、成型体の場合には球状、シリンダー状、リング状、ホイール状、粒状など、さらに金属またはセラミックスのハニカム状基材へ触媒成分をコーティングしたものなどいずれでもよい。
【0039】
次に本発明の触媒を用いたタール改質方法は、上述したタール改質触媒存在下、または還元後の触媒存在下、炭素質原料を熱分解した際に発生するタール含有ガス中の、水素、二酸化炭素、及び水蒸気を接触させて、タール含有ガス中のタールを改質してガス化するものである。
【0040】
また、タール改質触媒存在下、または還元後の触媒存在下、炭素質原料を熱分解した際に発生するタール含有ガスに、前記水素、二酸化炭素、水蒸気の少なくともいずれかを加えて、タール含有ガス中のタールを改質してガス化するものである。
【0041】
ここで、タールを接触改質してガス化するタール改質反応は、反応経路が複雑で必ずしも明らかではないが、タール含有ガス中若しくは外部より導入する水素との間では、例えば式1で表されるようなタール中の主成分である縮合多環芳香族の水素化分解によるメタンをはじめとする軽質炭化水素への転化反応が進行すると考えられる(式1ではメタンのみが生成される場合を記す)。また、タール含有ガス中若しくは外部より導入する二酸化炭素との間では、式2で表されるようなタール中の主成分である縮合多環芳香族の二酸化炭素によるドライリフォーミングによる水素と一酸化炭素への転化反応が進行する。さらに、タール含有ガス中若しくは外部より導入する水蒸気との間では、式3で表されるようなスチームリフォーミング及び水性ガスシフト反応が進行する。
【0042】
CnHm+(2n-m/2)H2 → nCH4 (式1)
CnHm+nCO2 → 2nCO+m/2H2 (式2)
CnHm+2nH2O → nCO2+(m/2+2n)H2 (式3)
【0043】
従って、メタン等高カロリーガスを製造する場合には、外部から水素を加えることが望ましい。また、水素や一酸化炭素を製造する場合には、外部から二酸化炭素を加えることが望ましい。さらに、水素をより多く製造する場合には、外部から水蒸気を加えることが望ましい。
【0044】
ここで、タール改質用触媒は還元することが好ましいが、反応中に還元が進行するため、還元しなくても良い。しかしながら、特にタール改質用触媒が反応前に還元処理を必要とする場合、還元条件としては、本発明の触媒から活性金属であるニッケル粒子が微細クラスター状に析出するために、比較的高温で且つ還元性雰囲気にするのであれば特に制限されるものではないが、例えば、水素、一酸化炭素、メタンの少なくともいずれかを含むガス雰囲気下、又はそれら還元性ガスに水蒸気を混合したガス雰囲気下、又はそれらのガスに窒素など不活性ガスを混合した雰囲気下であっても良い。また還元温度は、例えば500℃〜1000℃が好適であり、還元時間は充填する触媒量にも依存し、例えば30分〜4時間が好適であるが、充填した触媒全体が還元するのに必要な時間であればよく、特にこの条件に制限されるものではない。
【0045】
触媒反応器としては、固定床形式、流動床形式、移動床形式等が好適に用いられ、その触媒層の入口温度としては、500〜1000℃であることが好ましい。触媒層の入口温度が500℃未満の場合は、タールが水素、一酸化炭素、メタンを主体とする軽質炭化水素へ改質する際の触媒活性がほとんど発揮されないため、好ましくない。一方、触媒層の入口温度が1000℃を超える場合は、耐熱構造化が必要になるなど改質装置が高価になるため経済的に不利となる。また、触媒層の入口温度は、550〜1000℃であることがより好ましい。尚、炭素質原料が石炭の場合には比較的高温で、木質系廃棄物や製紙系廃棄物または食品廃棄物等のバイオマスの場合には比較的低温で反応を進めることも可能である。
【0046】
ここで、炭素質原料を熱分解又は部分酸化して生成されるタール含有ガスが、コークス炉から排出される高温のコークス炉ガスのような硫化水素濃度が非常に高いタール含有ガスでも本発明によりガス中のタールを改質してガス化することができる。ここで熱分解又は部分酸化とは、具体的には、乾留、又は炭素質原料をガス化のために一部のみ酸化させてタール含有ガスを製造することを言う。現在のコークス炉では、炉内に原料の石炭を充填後、加熱・乾留してコークスを製造するが、図1に示すように、付随して発生するコークス炉ガスは炉頂部の上昇管1と呼ばれる部分から安水2(アンモニア水)を噴霧して冷却後、集気管であるドライメーン4に集められる。しかしながら、ガス成分はコークス炉3の上昇管1で800℃程度の顕熱を保有しているにもかかわらず、安水2噴霧後には100℃以下まで急冷されてしまい、その顕熱を有効に利用できていないため、このガス顕熱を有効に利用し且つタール等重質炭化水素成分を水素、メタン等軽質炭化水素などの燃料成分に転換できれば、エネルギー増幅に繋がるばかりでなく、そこで生成される還元性ガス体積が大幅に増幅されることにより、例えば鉄鉱石に適用して還元鉄を製造するプロセスが可能となれば、現在鉄鉱石をコークスにより還元する高炉プロセスで発生する二酸化炭素排出量を大幅に削減できる可能性がある。
【0047】
一方、触媒反応器に内蔵されるタール改質触媒は、タールから水素、一酸化炭素、メタンを主体とする軽質化学物質への転換時に触媒表面上に析出する炭素、もしくは前記熱分解工程で得られた熱分解ガス中に含まれる硫黄成分が触媒に吸着することで、触媒が性能劣化する。そこで、劣化した触媒を再生する方法として、触媒反応器へ水蒸気を導入し、水蒸気と炭素の反応により触媒表面の炭素を除去、もしくは、水蒸気と硫黄の反応により触媒に吸着した硫黄を除去することで、触媒を再生することが可能となる。また、水蒸気の一部または全部を空気に変えて導入することで、空気中の酸素と炭素の燃焼反応により触媒表面の炭素を除去、もしくは酸素と硫黄の反応により触媒に吸着した硫黄を除去することで、触媒を再生することも可能となる。再生した触媒は、全量再使用することも可能であるし、また一部を新触媒に置き換えて使用することも可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0049】
(実施例1)
1200℃で3時間かけて予備焼成したアルミナ(表面積:143m/g)に、酸化セリウム、酸化マグネシウム、及びニッケルの前駆体であるCe(NH・6HO、Mg(NO・6HO、Ni(NO・6HOの混合水溶液を含浸後、110℃で12時間かけて乾燥させ、その後500℃で3時間かけて焼成を行う触媒調製方法で、ニッケル質量比が12質量%、セリウム質量比が12質量%(酸化セリウム質量比で15質量%)、マグネシウム質量比が1質量%(酸化マグネシウム質量比で2質量%)で残部がアルミナである改質用触媒を得た。
【0050】
この改質用触媒1gを用いて、固定床反応器にて、バイオマスとして杉の粉(約0.2mm、C:51.1%、H:5.9%、O:42.5%、N:0.1%、灰分:0.3%)のガス化を行った。
【0051】
杉の粉は固定床反応器の上部よりNをキャリアガスとして連続的に供給を行った。反応温度は反応器外壁に取り付けた熱電対により制御した。生成ガスの流量は、石鹸膜流量計により測定し、ガス組成の分析はガスクロマトグラフを用いて行った。使用したガスクロマトグラフはShimadzu CG−14BでHをTCD(モレキュラーシーブ13X)、それ以外の生成物はFID(ガスクロパック54)を用いて分析し、その記録はインテグレーター(Shimadzu クロマトパックCR−5A)で行った。
【0052】
反応器は、改質用触媒とチャー(析出した固体状の炭素成分)が別々に貯留されるデュアルベッド式を使用した。デュアルベッド式の利点として、バイオマスのガス化時に発生するチャーや灰分を直接触媒と接触させないため、触媒寿命の長期化が図れる。また、燃焼してもほとんどCOにしかならないチャーをガス化しないことによって生成ガスの組成をより有用なものとすることができる。反応器の下流には蒸気及びタールをトラップするために、氷を入れたデュワー瓶を設置した。
【0053】
試験条件は以下の通りである。改質用触媒量:1g、杉の粉供給速度:60mg/min(C:2191μmol/min、H:3543μmol/min、O:1475μmol/min、)、キャリアガスN:60cc/min、HO/C=0.5(HO:1110μmol/min)、反応時間:15分、水素還元:500℃、30分間。
【0054】
改質用触媒の性能は、タール分解率(Tar−conv.%)、出口ガスのH生成速度、出口ガス中の水素組成で判断し、それらは以下の式で算出した。尚、本試験条件で発生したバイオマスガス化ガスの生成速度並びにガス組成及び入口Tar量は表1に示す通りであり、そのガス中に含まれる硫化水素濃度は約20ppmであった。
【表1】

【0055】
C−conv.%=(CO+CO+CHの生成速度)/(供給されたバイオマスの総C原子量)×100
coke%=(コーク中のC原子量)/(供給されたバイオマスの総C原子量)×100
char%=(チャー中のC原子量)/(供給されたバイオマスの総C原子量)×100
tar%=(100−(C−conv.%)−(char%)−(coke%))
入口Tar量(μmol・min-1)=入口tar%×(供給されたバイオマスの総C供給速度)
出口Tar量(μmol・min-1)=出口tar%×(供給されたバイオマスの総C供給速度)
Tar−conv.%=(1−(出口Tar量)/(入口Tar量))×100
尚、コーク(coke)とは、改質用触媒表面に堆積した炭素、チャーとは、バイオマスの熱分解により生成されガス化されずに残った固定炭素分のことである。
【0056】
また、コーク中のC原子量、及びチャー中のC原子量の測定方法は以下の通りである。
(コーク中C原子量)
1.15分間の改質試験後、バイオマスの供給を停止し、反応器にNを添加することで、反応器内のガスを追い払う。
2.Oを反応器の上部より添加し、改質用触媒に発生したチャーの燃焼時に発生するCO、COの発生量をガスクロマトグラフで測定する。
3.CO、CO発生量からチャー中のC原子量を算出する。
【0057】
(チャー中のC原子量)
1.コーク中のC量の測定完了後、反応器の上部からのOの添加を停止し、反応器の下部からのOを添加する。
2.コーク中C量測定と同様に、チャーの燃焼時に発生するCO、COの発生量をガスクロマトグラフで測定する。
3.CO、CO発生量からチャー中のC原子量を算出する。
【0058】
以上のような流動床反応器において、反応温度を表1に示すように550、600、650℃の各温度で15分間の改質試験を行ったところ、表2に示すような改質ガスの生成速度並びにガス組成及び出口Tar量・分解率の結果が得られ、表1と比較すると、いずれの反応温度でもタール分解率(Tar−conv.)が高いため、改質前後の水素ガス生成速度又は水素ガス組成より水素が大きく増幅されて(水素ガス生成速度又は水素ガス組成)、高活性な性能を発揮することが確認された。
【表2】

【0059】
(実施例2)
実施例1で調製した触媒を40mg用いる他は全て実施例1と同様にして試験を行い、反応温度650℃下、原料である杉の粉を4時間連続して供給したところ、改質活性はほぼ一定に推移したことから、本触媒の安定性が高いことが確認できた。
【0060】
(実施例3)
実施例1で調製した触媒を30cc用い、SUS製反応管の中央に位置するよう石英ウールで固定し、触媒層中央位置に熱電対を挿入し、これら固定床反応管を所定の位置にセットした。
【0061】
改質反応を始める前に、まず反応器を窒素雰囲気下で800℃まで昇温した後、水素ガスを100cc/min流しながら30分間還元処理を行った。その後、コークス炉ガスの模擬ガスとして水素:窒素=1:1、H2Sを表2に示す濃度、トータルで125cc/minになるよう各ガスを調整して導入し、常圧下、表2に示す各温度で反応評価した。また石炭乾留時発生タールの模擬物質として、タール中にも実際に含まれ且つ常温で粘度の低い液体物質である1−メチルナフタレンを代表物質として用い、精密ポンプで0.025g/minの流量で反応管へ導入した。また、(H2Oのモル数)/(上記1−メチルナフタレンの炭素モル数)=3となるよう、純水を精密ポンプで0.1g/minの流量で反応管へ導入した。出口から排出された生成ガスを室温トラップ、氷温トラップを経由させて、各々ナフタレン、水分を除去した後、ガスクロマトグラフィー(ヒューレットパッカード製HP6890)に注入してTCD,FID分析を行った。改質反応の反応度合(メチルナフタレンの分解率)は、メタン選択率、CO選択率、CO2選択率、触媒上に堆積した炭素析出率で判断した。それらは出口ガス中の各成分濃度より、以下の式で算出した。
【0062】
メタン選択率(%)=(CH4の体積量) /(供給されたメチルナフタレンのC供給量)×100
CO選択率(%)=(COの体積量) /(供給されたメチルナフタレンのC供給量)×100
CO2選択率(%)=(CO2の体積量) /(供給されたメチルナフタレンのC供給量)×100
炭素析出率(%)=(析出炭素重量)/(供給されたメチルナフタレンのC供給量)×100
また、合わせて入口水素ガス体積に対する出口水素ガス体積の比(水素増幅率)も併記した。
【表3】

【0063】
表3のNo.1〜3の結果、H2S濃度が2000ppmという高濃度に含まれる雰囲気下でも、反応温度の上昇に伴い分解率(メタン選択率+CO選択率+CO2選択率+炭素析出率)が向上することが分かる。このように、硫黄被毒を強く受けやすく炭素析出性の高い過酷な状況下であっても模擬タールであるメチルナフタレンの分解反応が進行していることがわかる。また、模擬タールの分解率の上昇に伴い、水素増幅率も上昇したことから、メチルナフタレンを構成する炭素と結合した水素が触媒による改質に伴って水素分子に変換されたと考えられる。
【0064】
(実施例4)
アルミナ上にニッケル質量比で6質量%、セリウム質量比が13質量%(酸化セリウム質量比が16質量%)、マグネシウム質量比が17質量%(酸化マグネシウム質量比が28質量%)で残部がアルミナとする他は、実施例1と同様の調製方法により触媒を調製した。
【0065】
この触媒を用い、実施例3と同様の評価手法により表3のNo.2の条件で評価した結果、メタン選択率3.0%、CO選択率24.3%、CO2選択率24.8%、炭素析出率8.1%でタール分解率は60.2%となり、水素増幅率は1.9であった。本結果から、800℃でH2S濃度が2000ppmという条件下であっても、本触媒が高いタール改質活性を示すことが判明した。また、表3のNo.2の結果と比較すると、酸化マグネシウムの質量比が高いほど炭素析出率が低く抑えられることが分かった。
【0066】
(実施例5)
アルミナ上にニッケル質量比で12質量%、セリウム質量比が23質量%(酸化セリウム質量比が28質量%)、マグネシウム質量比が6質量%(酸化マグネシウム質量比が10質量%)で残部がアルミナとする他は、実施例1と同様の調製方法により触媒を調製した。
【0067】
この触媒を用い、実施例3と同様の評価手法により表3のNo.2の条件で評価した結果、メタン選択率2.9%、CO選択率33.3%、CO2選択率29.4%、炭素析出率9.5%でタール分解率は75.1%となり、水素増幅率は2.1であった。本結果から、800℃でH2S濃度が2000ppmという条件下であっても、本触媒が高いタール改質活性を示すことが判明した。また、表3のNo.2の結果と比較すると、タール分解率が同レベルにもかかわらず、酸化マグネシウムの質量比が高いため、炭素析出率が低く抑えられることが分かった。
【0068】
(実施例6)
実施例3のNo.2の条件で8hr継続して反応を進行させた後、原料の投入を停止し、キャリアガスとしてN2 60cc/min、H2Oをガス換算で60cc/minの状況下で触媒層温度を800℃にして5hr保持して触媒上に堆積した炭素や硫黄を除去した後、新たに実施例2と同じ条件で原料の投入を開始したところ、再生前の9割以上の活性を示すことが確認された。また本試験における改質後のガス中の水素濃度も高く、水素、一酸化炭素、メタンが主成分のガスに変換されたことが確認された。
【0069】
(実施例7)
実施例4と同様、実施例3のNo.2条件で8hr継続して反応を進行させた後、原料の投入を停止し、キャリアガスとしてN2 60cc/min、空気60cc/minの状況下で触媒層温度を800℃にして2hr保持して触媒上に堆積した炭素や硫黄を除去した後、新たに実施例1と同じ条件で原料の投入を開始したところ、再生前の9割以上の活性を示すことが確認された。また本試験における改質後のガス中の水素濃度も高く、水素、一酸化炭素、メタンが主成分のガスに変換されたことが確認された。
【0070】
(実施例8)
コークス炉をシミュレートできるバッチ炉に実際のコークス炉で使用している装入炭を80kg充填し、実コークス炉に合わせて800℃に昇温して、実コークス炉ガス及び随伴する実タールを発生させた。その際のタール含有ガス中のタールは、約0.04g/Lであった。そのガスを吸引ポンプで捕集し、実験に用いた。反応温度800℃になるよう昇温した電気炉内部に反応管を配置してその中央部に実施例4と同様の組成になるようにリング状のアルミナ担体に各成分を担持して調製した成型触媒を設置し、水素を10NL/minで2時間還元後、バッチ炉から捕集したガスを触媒層へ流すことにより、実コークス炉ガス及び随伴実タールの触媒分解活性を5時間継続して評価した。入口ガス流量は約10NL/minで、触媒充填量は約1Lであった。尚、入口ガス組成は実コークス炉ガスとほぼ同じ組成であることをガスクロマトグラフィーで確認した。また、そのガス中には硫化水素が2400〜2500ppm含まれていることを確認した。ガス中のタール濃度は、以下の方法で評価した。すなわち、触媒層の入口と出口部に取り付けた開閉可能なコックに、予め真空状態にした1Lの真空捕集瓶を取り付けてコックを開くことにより、各々のガスを捕集する。そして、捕集瓶内をジクロロメタンで洗浄し、常温でジクロロメタンを完全に除去した後の液体成分の質量を定量した。そして、タール分解率は、前記手法で捕集した触媒層入口ガス中タール成分の質量に対する触媒層出口ガス中タール成分の質量の割合から求めた。その結果、タール分解率は反応開始後2時間経過時で約90%、水素増幅率は5時間平均で2.35まで到達し、コークス炉から排出されるものとほぼ同一の石炭乾留タール含有ガスに対し、触媒ドライガス化反応が進行していることを検証した。
【0071】
(比較例1)
実施例3と同じ実験手法でNo.2の条件で触媒として工業触媒の一つであるズードケミー製ナフサ一次リフォーミング触媒(SC11NK;Ni-20質量%担持)で模擬石炭乾留タールの改質試験を行ったところ、メタン選択率が2.5%、CO選択率が4.2%、CO2選択率が5.9%、炭素析出率が32.8%、分解率45.4%、水素増幅率が1.3となった。
【0072】
従って、工業触媒は強度は非常に高いものの、メチルナフタレンのガス成分への変換率が低い(12.6%)一方、炭素析出率が非常に高い結果となった。炭素析出率が非常に高いため、触媒寿命が短い恐れが十分あり、またたとえ、反応後に再生処理を行ったとしても、高温または長期間酸化処理を行う必要があるために、その際の大きな燃焼熱により触媒活性粒子がシンタリングを引き起こして、再生後の性能がさらに低くなると予想される。
【0073】
(比較例2)
実施例1と同様にして、アルミナ担体へニッケルとセリウムを各々12質量%、12質量%(残部がアルミナ)担持して調製した触媒40mgを用いる他は、実施例1と同様の評価方法により、反応温度650℃下、原料である杉の粉を4時間連続して供給するバイオマスタールのガス化試験を行った。その結果、反応開始後2時間経過後から、触媒の改質活性が急激に低下して殆ど活性を示さなくなったことから、試験を中断した。本結果より、本触媒の安定性が低いことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】コークス炉からコークス炉ガスが排出される部分を示した図である。
【符号の説明】
【0075】
1 上昇管
2 安水
3 コークス炉
4 ドライメーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物をタール改質用触媒として用いるタール含有ガスの改質方法であって、
前記金属酸化物触媒を構成する金属として、ニッケル、マグネシウム、セリウム、及びアルミニウムが含有され、
前記金属酸化物の存在下、または還元後の前記金属酸化物の存在下において、炭素質原料を熱分解した際に発生するタール含有ガス中の、水素、二酸化炭素、及び水蒸気を接触させて、前記タール含有ガス中のタールを改質してガス化することを特徴とするタール含有ガスの改質方法。
【請求項2】
前記熱分解した際に発生するタール含有ガスに、外部から水素、二酸化炭素、水蒸気の少なくともいずれかを接触させて、前記タール含有ガスを改質してガス化することを特徴とする請求項1記載のタール含有ガスの改質方法。
【請求項3】
前記タール含有ガスが、硫化水素を含むタール含有ガスであることを特徴とする請求項1または2記載のタール含有ガスの改質方法。
【請求項4】
前記タール含有ガスが、コークス炉から排出されるコークス炉ガスであることを特徴とする請求項3記載のタール含有ガスの改質方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のタール含有ガスの改質方法を実施した後、炭素析出、硫黄被毒の少なくともいずれかにより性能劣化した前記触媒に、水蒸気、または空気の少なくともいずれかを接触させて、前記触媒を再生し、再び前記タール改質用触媒として用いることを特徴とするタール含有ガスの改質方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−77219(P2010−77219A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244853(P2008−244853)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り URL:http://www.sciencedirect.com/science/journal/09263373上の”Promoting effect of MgO addition to Pt/Ni/CeO▲2▼/Al▲2▼O▲3▼ in the steam gasification of biomass”と標記されたハイパーリンク先:http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6TF6−4T2M5W0−1&_user=10&_coverDate=07%2F25%2F2008&_alid=794007252&_rdoc=2&_fmt=high&_orig=search&_cdi=5218&_docanchor=&view=c&_ct=38&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=54eala7324c85a3e4a9186b13fe62733(掲載日:平成20年7月25日)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】