説明

ターントラップ式水洗便器

【課題】トラップを内蔵するトラップケースの前後幅をコンパクトに形成でき、尚且つ、便器本体のボウル部の喫水面の高さも確保することができるターントラップ式水洗便器を提供すること。
【解決手段】便器本体10のボウル部11の排出口12に、変形可能なトラップ3の上流端開口部30を連通接続し、回動機構4によってトラップ3の下流端開口部31を上下に回動自在とするターントラップ式水洗便器1において、下流端開口部31が上方を向いた状態で下流端開口部31の回動半径Rを大きくする伸長機構を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラップの下流端を下方に回動させることで、便器本体のボウル部内に溜めた水を排出するターントラップ式水洗便器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、図4に示すような、トラップ3の下流端開口部31を下方に回動させることで、便器本体10のボウル部11内に溜めた水を排出するターントラップ式水洗便器9が知られている(特許文献1等参照)。
【0003】
このターントラップ式水洗便器9では、便器本体10のボウル部11の排出口12に、トラップ3の上流端開口部30が連通接続されている。トラップ3は、変形可能なものであり、トラップケース2内に設けられている。トラップケース2には回動機構90を設けており、この回動機構90によってトラップ3の下流端開口部31は上下に回動される。トラップ3の下流端開口部31は、図4の仮想円C1に示すように、回動半径R2の円軌跡を描いて上下に回動する。この回動半径R2は、上方を向いた状態(図4の実線部参照)のトラップ3の下流端開口部31の最下部32が、ボウル部11の底部より所定の高さhだけ高くなるように設定されている。
【0004】
このターントラップ式水洗便器9では、上方を向いた状態の下流端開口部31から若干オーバーフローする程度の量の水がボウル部11に供給されて、ボウル部11に所定の高さhの喫水面Sが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−155146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したターントラップ式水洗便器9では、トラップ3の下流端開口部31が回動半径R2の円軌跡を描くことができる空間をトラップケース2内に設けなければならない。そのため、トラップケース2の前後幅を短くすることが困難であるという問題があった。
【0007】
ここで、トラップケース2の前後幅を短くするためには、例えば回動半径R2を短くすることが考えられる。しかし、その場合、上方を向いた状態の下流端開口部31の高さが低くなってしまい、ボウル部11の喫水面Sの高さhを低くせざるを得ないという問題が生じる。また、上方を向いた状態の下流端開口部31から水のオーバーフローが生じ、節水が不十分であるという問題があった。
【0008】
そこで、上記問題を解決するため、本発明は、トラップを内蔵するトラップケースの前後幅をコンパクトに形成でき、尚且つ、便器本体のボウル部の喫水面の高さも確保することができ、また、水のオーバーフローが生じにくいターントラップ式水洗便器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明のターントラップ式水洗便器は、便器本体のボウル部の排出口に、変形可能なトラップの上流端開口部を連通接続し、回動機構によって前記トラップの下流端開口部を上下に回動自在とするターントラップ式水洗便器において、前記下流端開口部が上方を向いた状態で前記下流端開口部の回動半径を大きくする伸長機構を備えることを特徴とする。
【0010】
また、前記伸長機構で前記下流端開口部の回動半径を大きくして、前記ボウル部に水を溜めることで形成される喫水面よりも、上方を向いた状態の前記下流端開口部を高くすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のターントラップ式水洗便器は、トラップを内蔵するトラップケースの前後幅をコンパクトに形成でき、尚且つ、便器本体のボウル部の喫水面の高さも確保することができ、また、節水性も高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態のターントラップ式水洗便器を示す側面断面図である。
【図2】同上のターントラップ式水洗便器の伸長機構を示す側面断面図である。
【図3】同上の伸長機構を示し、(a)は図2のA−A´線における断面図であり、(b)は図2のB−B´線における断面図である。
【図4】従来のターントラップ式水洗便器を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0014】
本実施形態のターントラップ式水洗便器1は、図1に示すように、洋式便器本体10のボウル部11に接続した排水用のトラップ3を上下に回動させて、ボウル部11に水を溜める状態と、この溜めた水及び排泄物を外部に排出する状態とを入れ替えるものである。
【0015】
詳しくは、トイレ室等の床面に載置される便器本体10の前部には、上方に向けて開口するボウル部11を備えている。ボウル部11の底部には、後方に向けて開口する排出口12が設けられている。そして、ボウル部11の後方には、排水用のトラップ3を内蔵したトラップケース2が配設されている。なお、図示していないが、ボウル部11上方の便器本体10上部には、便座と便蓋が回動自在に取り付けられており、その後方には、機能ケース(局部洗浄ノズル、温風装置、脱臭装置、給水装置、加温装置や、これらを制御する制御装置等を内蔵したもの)が取り付けられている。
【0016】
トラップ3は、蛇腹状の管状体であり、屈曲柔軟性を有し、変形可能である。本実施形態ではさらに、トラップ3の上流端と下流端とが近づく方向(縮む方向)に付勢力が働くようにトラップ3自体を形成している。なお、ばね等の他の手段でトラップ3に対して縮む方向に付勢力を付与するようにしてもかまわない。
【0017】
トラップケース2は、中空の箱体であり、その前壁には、開口部20が前後に貫通するように設けられている。開口部20からは、トラップ3の前端部である上流端開口部30が前方に突出している。上流端開口部30は、トラップケース2内の空気や液体が外部に流出しないように開口部20にシール状態で固定されている。そして、この上流端開口部30がボウル部11の排出口12に連通接続している。また、トラップケース2の下壁には、排出孔21が上下に貫通するように設けられている。排出孔21には、外部の下水に繋がる排出管(図示せず)が接続されている。また、トラップケース2の側壁には、トラップ3の下流端開口部31を上下に回動させる回動機構4が設けられている。
【0018】
回動機構4は、回動中心となる回動中心軸部40と、トラップ3の下流端開口部31を保持するトラップ保持部41と、回動中心軸部40とトラップ保持部41とを連結する連結部42と、回動中心軸部40を回転させるモータ(図示せず)とから構成されている。回動中心軸部40は、トラップケース2の側壁に回転自在に取り付けられており、モータによって回転される。トラップケース2内側に突出した回動中心軸部40の端部には連結部42の基端部が固定されている。そして、連結部42の先端部にはトラップ保持部41が固定されている。トラップ保持部41は、円環状であり、トラップ3の下流端開口部31の外周に固定されている。回動機構4は、図1の実線部で示す下流端開口部31が上方を向く上方停止位置と、図1の2点鎖線部で示す下流端開口部31が下方を向く下方停止位置との間で、トラップ3の下流端開口部31を上下に回動させる。なお、この上方停止位置と下方停止位置はトラップケース2の形状等に合わせて適宜設定される。
【0019】
回動機構4はさらに、トラップ3の下流端開口部31が上方を向いた状態、つまり下流端開口部31が上方停止位置に停止した状態では、下流端開口部31の回動半径Rが大きくなる伸長機構5を備える。
【0020】
伸長機構5は、図2に示すように、トラップ保持部41に一端部が固定されたシャフト部51と、回動中心軸部40に固定され、シャフト部51の進退方向を規制するガイド筒部52と、シャフト部51の他端が外周面に押し当たるカム部50とから構成される。なお、このシャフト部51とガイド筒部52とで上述の連結部42が構成されている。このガイド筒部52が回動中心軸部40を中心に回動し、ガイド筒部52に進退方向が規制されるシャフト部51の他端がカム部50の外周面に押されることで、回動中心軸部40から離接する方向にトラップ3の下流端開口部31は進退する。そのため、トラップ3の下流端開口部31は、カム部50の外周面に沿った軌跡を描くように上下に回動する。
【0021】
カム部50の外周面は、回動中心軸部40の水平方向後方に位置する部分が最も後方に位置している。そして、カム部50の外周面は、回動中心軸部40の上方停止位置方向に位置する部分が、その水平方向後方に位置する部分よりも回動中心軸部40から離れている。そして、カム部50の外周面の、回動中心軸部40の水平方向後方に位置する部分と、回動中心軸部40の上方停止位置方向に位置する部分との間の部分は、なだらかな放物線状となっている。これにより、水平方向後方に向けて開口する水平後方位置にあるときの下流端開口部31が最も後方に位置する。そして、この水平後方位置にあるときよりも上方停止位置にあるときの下流端開口部31のほうが回動中心軸部40から離れる。つまり、下流端開口部31は、水平後方位置にあるときよりも、上方停止位置にあるときのほうが回動半径Rが大きくなる。そのため、下流端開口部31を前後方向の幅が狭い範囲で回動させたうえで、上方停止位置にあるときの下流端開口部31の位置を高くして、便器本体10のボウル部11の喫水面Sの高さを確保することができる。しかして、トラップ3を内蔵するトラップケース2の前後幅を狭くして、便器本体10をコンパクトに形成することができる。また、トラップケース2の前後幅を狭くしない場合には、長さの長いトラップ3を収納することができるため、上方停止位置にあるときの下流端開口部31の高さを高くすることができ、下流端開口部31からのオーバーフロー水を減らすことができる。
【0022】
以上のように水平後方位置にあるときの下流端開口部31が最も後方に位置し、そのときよりも上方停止位置にあるときのほうが下流端開口部31の回動半径Rが長くなるようにするため、カム部50を下半部が半円形で上半部が半楕円形の略円柱体で形成している。
【0023】
詳しくは、カム部50は、図2に示すように、下半部が半径r1の半円形を成し、上半部が長径の半径r2(r1<r2)の半楕円形を成しており、中心に回動中心軸部40が回転自在に取り付けられている。カム部50は、図3に示すように、トラップケース2の側壁を内側に突出させて形成している。なお、トラップケース2の側壁の内側に、別体のカム部50を固定するようにしてもかまわない。
【0024】
本実施形態では、図3(a)に示すように、トラップ3の下流端開口部31が水平後方位置から下方停止位置にある間、シャフト部51の先端55が、カム部50の半円形部分の外周面に押し当たる。これにより、下流端開口部31が水平後方位置から下方停止位置にある間、下流端開口部31は回動半径R2の円軌跡を描くように回動される。
【0025】
そして、トラップ3の下流端開口部31が水平後方位置から上方停止位置にある間、シャフト部51の先端55が、カム部50の半楕円形部分の外周面に押し当たる。これにより、下流端開口部31が水平後方位置から上方停止位置へ向かう間、トラップ3の下流端開口部31は回動半径RがR2からR1(R1>R2)へと徐々に近づく楕円軌跡を描くように回動される。ここで、この楕円軌跡は、回動半径R1の円軌跡の後端よりも前方で描かれる。なお、図3(b)は、下流端開口部31が上方停止位置にあるときの状態を示している。
【0026】
トラップ3の下流端開口部31は、上方停止位置に停止した状態で、その最下部32が、ボウル部11の底部からの所定の高さh(例えばh=50mm)よりさらに高くなるように、伸長機構5により伸長される。なお、上方停止位置は、図1の実線部に示す下流端開口部31が斜め後上方に向かって開口する位置に限らない。つまり、上方停止位置は、トラップケース2の形状等に合わせて、下流端開口部31が鉛直上向きに開口する位置であってもよいし、下流端開口部31が鉛直上向きよりもさらに前方に開口する位置であってもよい。いずれの場合も、上方停止位置にある下流端開口部31の最下部32がボウル部11の底部からの所定の高さhよりさらに高くなるように、伸長機構5によって伸長させる。
【0027】
上述した構成の本実施形態のターントラップ式水洗便器1は、例えば以下のように動作する。
【0028】
まず、便器本体10または外部に設けたスイッチ(図示せず)を押すと、回動機構4のモータが駆動して、トラップ3の下流端開口部31が上方停止位置(図1の実線部参照)から下方停止位置(図1の2点鎖線部参照)へと回動される。この下方停止位置で、ボウル部11及びトラップ3に溜まっていた水及び排泄物が、下流端開口部31からトラップケース2の排出孔21を介して外部の下水に繋がる排出管に排出される。所定時間が経過し、水及び排泄物が下流端開口部31から排出されると、回動機構4のモータが駆動して、トラップ3の下流端開口部31が下方停止位置から上方停止位置へと回動される。このとき、トラップ3の下流端開口部31が水平方向後方に向いて開口する水平後方位置から、上方停止位置まで回動する際に、伸長機構5によって、下流端開口部31の回動半径RがR2からR1へと徐々に伸長される。下流端開口部31が上方停止位置に停止した状態で、トラップ3の下流端開口部31の高さが、ボウル部11の底部からの所定の高さhよりさらに高くなるように伸長される。そして、ボウル部11に水が供給され、ボウル部11及びトラップ3内に所定の高さhの喫水面Sが形成される。
【0029】
以上まとめると、本実施形態のターントラップ式水洗便器1は、便器本体10のボウル部11の排出口12に、変形可能なトラップ3の上流端開口部30を連通接続したものである。そして、回動機構4によってトラップ3の下流端開口部31を上下に回動自在とするものである。そして、下流端開口部31が上方を向いた状態で下流端開口部31の回動半径Rを大きくする伸長機構を備えるものである。
【0030】
このような構成としたことで、本実施形態のターントラップ式水洗便器1は、トラップ3の下流端開口部31が後方を向く状態では、回動半径Rを小さくし、トラップ3の下流端開口部31が上方を向いた状態では、回動半径Rを大きくすることができる。そして、トラップ3の下流端開口部31が上方を向いた状態、すなわち、ボウル部11に水を溜める際に、この下流端開口部31の高さを、ボウル部11に形成する所定の高さの喫水面と、同じ高さにすることができ、オーバーフロー水を減らすことができる。
【0031】
これにより、本実施形態のターントラップ式水洗便器1は、トラップ3を内蔵するトラップケース2の前後幅をコンパクトに形成でき、尚且つ、便器本体10のボウル部11の喫水面の高さを確保することができ、また、節水性も高くなる。
【0032】
また、本実施形態のターントラップ式水洗便器1は、伸長機構5で下流端開口部31の回動半径Rを大きくして、ボウル部11に水を溜めることで形成される喫水面よりも、上方を向いた状態の下流端開口部31を高くしたものである。
【0033】
このような構成としたことで、本実施形態のターントラップ式水洗便器1は、ボウル部11に所定の高さの喫水面を形成するために必要な水量よりも多少多い水量の水を、ボウル部11に供給した場合でも、トラップ3の下流端開口部31からその多い分の水がオーバーフローすることを抑制できる。
【0034】
これにより、本実施形態のターントラップ式水洗便器1は、ボウル部11に溜める水が、トラップ3の下流端開口部31から無駄にオーバーフローしてしまうことを抑制した節水可能なものとなっている。
【0035】
なお、上述した本実施形態では、カム部50として、上半部が半楕円形を成し下半部が半円形を成すものを用いたが、この形状に限定されない。つまりカム部50は、外周面のうち、回動中心軸部40の水平方向後方に位置する部分が最も後方に位置し、回動中心軸部40の上方停止位置方向に位置する部分が、その部分より回動中心軸部40から離れていれば、他の形状であってもよい。
【0036】
以上、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内であれば、適宜の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 ターントラップ式水洗便器
10 便器本体
11 ボウル部
12 排出口
3 トラップ
30 上流端開口部
31 下流端開口部
4 回動機構
R 回動半径
S 喫水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器本体のボウル部の排出口に、変形可能なトラップの上流端開口部を連通接続し、回動機構によって前記トラップの下流端開口部を上下に回動自在とするターントラップ式水洗便器において、
前記下流端開口部が上方を向いた状態で前記下流端開口部の回動半径を大きくする伸長機構を備えることを特徴とするターントラップ式水洗便器。
【請求項2】
前記伸長機構で前記下流端開口部の回動半径を大きくして、前記ボウル部に水を溜めることで形成される喫水面よりも、上方を向いた状態の前記下流端開口部を高くしたことを特徴とする請求項1に記載のターントラップ式水洗便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−23920(P2013−23920A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160169(P2011−160169)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】