説明

ダイアモンドイド前駆体を用いた内面へのダイアモンド状炭素被膜の作製方法

本発明は、プラズマ化学気相成長法及び中空陰極技術を用いて内面に堆積される高sp3含有非晶質炭素被膜の形成方法に関する。この方法により、硬度、ヤング率、耐摩耗性及び摩擦係数などのトライボロジー的性質、並びに屈折率などの光学的性質の調整が可能になる。更に、得られた被膜は均一かつ優れた耐食性を備えている。圧力、ダイアモンドイド前駆体の種類及びバイアス電圧を制御することにより、この新しい方法は、ダイアモンドイド前駆体が基材との衝突によって完全に分解することを防止する。ダイアモンドイドは、高圧下で高sp3含有膜を生じるsp3結合を有する。これによりダイアモンドイド前駆体を用いない場合に比べて、堆積速度を速めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物品の表面への炭素系被膜の堆積に関し、特に、限定するものではないが、例えばパイプの内面などの金属表面への該被膜の堆積に関する。
【0002】
本発明は、概してプラズマ化学気相成長法によるダイアモンド状炭素(DLC)の堆積及びダイアモンドイドを用いた内面へのDLC系被膜の形成方法に関する。この方法により、硬度、ヤング率、耐摩耗性及び摩擦係数などのトライボロジー的及び機械的性質、並びに屈折率などの光学的性質の調整が可能になる。更に、得られた被膜は均一かつ優れた耐食性を備えている。圧力、ダイアモンドイド前駆体の種類及びバイアス電圧を制御することにより、この新しい方法は、ダイアモンドイド前駆体が基材との衝突によって完全に分解することを防止する。ダイアモンドイドは、高圧下で、高sp3含有膜を生じるsp3結合を有する。これによりダイアモンドイド前駆体を用いない場合に比べて、堆積速度を速めることができる。
【背景技術】
【0003】
いくつかの産業において、工業用配管や、バルブ、ポンプなどの他の部品の腐食が大きな問題となっている。特に、石油産業は、高温高圧下でH2S(硫化水素)などの腐食性ガス及び液体が存在する厳しい腐食環境に直面している。さらに、この状況から厳しい摩耗及び侵食環境が生じている。これらの問題の解決策の1つとして、低品位の母材を所望の優れた耐食性及び耐摩耗性を備えた高品質の被膜材料で被膜することがある。通常、これらの種の性質は、金属被膜、セラミック被膜及び特にダイアモンド状炭素被膜に備わっている。
【0004】
HASTELLOY及びINCONEL(いずれも連邦政府に登録されたHuntington Alloys Corporationの商標)などの高価な特殊合金が、一般に化学処理工業における排気配管に使用されている。これらの合金は、高温強度と優れた耐食性を示す。この場合も、適した表面被膜を腐食環境に曝される内面に施せば、より安価な材料を母材に使用することができる。
【0005】
ダイアモンド状炭素を形成する先行技術の被膜方法として、化学的気相成長法(CVD)及び物理的気相成長法(PVD)がある。DLCの望ましい性質の大半は、炭素のグラファイト結合(sp2)に対するダイアモンド結合(sp3)の量によって決定される。sp3/sp2比を高めることにより、高硬度、低摩擦係数、低摩耗、高ヤング率、化学的不活性等のダイアモンドの優れた性質の多くを得ることができる。
【0006】
DLC系の複合被膜もまた、好ましい性質を有することが示されている。例えば、WC/Cなどの低弾性率の材料に高硬度の材料を続けて用いた積層膜では、耐摩耗性が向上することが示されている。また、いわゆる「ナノ複合材料」を用いることも可能である。ナノ複合材料は、積層ではなく材料を混合して、極めて硬い材料(例えば、TiN)のナノサイズの結晶が非晶質DLC基質中に埋め込まれるようにすることで形成される。ナノ複合材料は、特許文献1に記載されているようなC−H基質及び分離した金属−金属基質などの、2つ以上の異なる非晶質基質を含むこともできる。先行技術においては、純粋なPECVD法でこの種の膜を作製した場合は良好な結果が得られておらず、PVD法単独又はPVD法とPECVD法との併用によって良好な結果が得られている。
【0007】
石油/石油化学工業などの腐食性材料を搬送するパイプ、バルブ、ポンプ又は管を用いる用途の場合、腐食性材料に接触する内面を被膜する必要がある。圧力が分子流領域の圧力より低い又はその近傍であるPVDなどの超低圧技術の場合は、被膜される内面は大径で長さの短い(アスペクト比の大きい)管に限られていた。PVD法により作られるDLC膜は、Arプラズマを用いて黒鉛ターゲットをスパッタすることで作られる。a−C:H DLC(非晶質水素含有DLC)は、反応性スパッタを用いて水素背景ガスを添加することにより作られる。黒鉛ターゲットの陰極アークオフは、イオン化度が極めて高いので(約100%)、これを用いて四面体炭素(ta−C)と呼ばれるsp3含有量の極めて高いDLCを作製することができる。しかし、PVD法は見通し線(line-of-sight)プロセスであるため、内面被膜、特に6インチ未満の径の内面に対しては実用的でない。
【0008】
先行技術によるDLC系被膜のPECVDでは、イオン衝撃のエネルギーを用いてsp3結合が形成される。これを用いないと、ダイアモンドではなく黒鉛が形成される。sp3含有量を最大にするには、C+イオンのエネルギーとして約100eVが必要であることが分かっている。この炭素イオンのエネルギーは、バイアス電圧、圧力、前駆体ガス及びプラズマ密度の相関的要素である。ECR(電子サイクロトロン共鳴)などの高プラズマ密度の低圧(1e−3torr未満)PECVD法により、最大sp3含有量のPECVD膜が作製されており、最大で70%のsp3含有量が報告されている。これらの方法は、低圧に限定されるため、堆積速度は極めて遅い(約1μm/hr)。先行技術における前駆体は、メタン、アセチレン及びベンゼンなどの炭化水素である。膜形成に使用される前駆体は、表面との衝突によって分子が分解するために炭素原子1個当たりのエネルギーが変化する。このため、アセチレン(C22)から生じる炭素原子のエネルギーは、メタン(CH4)から生じる炭素原子のエネルギーの約半分である。したがって、大きい前駆体分子を用いる場合には、高sp3含有膜を作製するために高いバイアス電圧が必要とされる。大きい前駆体分子の使用は、sp3結合が緩んで黒鉛すなわちsp2結合に戻る原因となる熱スパイクの増大などの悪影響を生じる。先行技術によるDLC膜の形成については、参照により本願に取り入れられる非特許文献1に詳細に記載されている。DLC形成において一般に受け入れられているモデルは、「サブプランテーション」モデルと呼ばれるものである。このモデルにおいては、炭化水素前駆体の場合、炭素原子は、低いエネルギー(約50eV未満)で到達すると高水素含有ポリマを形成し、中程度のエネルギー(約70eV〜120eV)で到達すると該原子は表面下に入り込み、圧縮状態に保持されてsp3すなわち四面体結合を形成し、エネルギーがさらに増加すると、「熱スパイク」が局部的に生じてsp3結合が緩み、黒鉛すなわちsp2結合に戻るとされている。これらの数字は低圧及びCH4前駆体の場合の概略値であり、圧力及び前駆体の大きさにより変化する。
【0009】
プラズマ増強CVD(PECVD)は、温度に敏感な基材に対して、熱の代りにプラズマからエネルギーを供給することによって温度を下げて被膜することが可能である。本発明は、ここではPECVD法に関して説明されているが、PVD法にも適用できる。PECVDで作製したDLCは、炭化水素前駆体を用いるために若干の水素を含有する。これに比べ、PVD法で作製したDLC膜は、水素含有量が少ない。しかし、前述のように、PVD法は内面の被膜、特に6インチより小さい径の内面に対して実用的でない。高圧(10mTorr超)のPECVD法には、高堆積速度という利点があるが、先行技術では無衝突プラズマシースが無い(イオンの平均自由行程がプラズマシース幅より短い)ためにイオンのエネルギーが低く、高sp3含有膜を作製することができず、更に高圧でのイオン/ラジカル比が低い。高品質のDLC膜を得るためには、イオン衝撃のエネルギーが重要であるので、膜堆積におけるかなりの部分が非イオン化束でなく、イオン束によるものであることが重要である。ラジカルは反応性が高いがイオンのエネルギーを有しないため、イオンに対するラジカルの度合いが高いことは、DLCの性質に悪影響を及ぼす。イオン/ラジカル比は、圧力の増加にしたがって減少するので、先行技術の方法は、高sp3含有膜を得るために低圧力に限定され、結果的に低い堆積速度に限定されていた。
【0010】
先行技術のPECVD法では、DLCに取り込まれる炭化水素前駆体に含まれた水素に起因してかなりの量の水素がDLCに含まれていた。この水素は、被膜の硬さや温度安定性の低下などの悪影響を及ぼす。
【0011】
プラズマ浸漬イオン注入及び堆積(PIIID)法は、複雑な形状の外面の被膜に有用であることが示されてきた。PIIIDは、加工物に負のバイアスを加えることで実施され、プラズマシースが共形であれば、この負のバイアスが正のイオンを加工物に引き寄せる。この場合も、加工物のイオン衝撃により接着性や膜密度などの膜性質を改善することができる。
【0012】
先行技術のPECVDによる炭素被覆バリア膜の形成においては、高sp3シード材料が用いられてきた。例えば、特許文献2では、アセチレンなどの標準的な炭化水素前駆体の濃度に比べて著しく低い濃度(10%未満)のダイアモンドイド前駆体が使用されている。内面DLC被膜は、一般に先行技術では行われていない。外面DLC被膜の堆積については、特許文献3に詳細な記述がある。この被膜についての記載には、接着層、傾斜層及びDLC保護膜の記載が含まれている。特許文献3により示された効果の1つに高堆積速度プロセスがあり、堆積速度は好ましくは10-3〜10-2mbar(0.75〜7.5mTorr)の圧力で1〜4μm/hrの範囲となっている。特許文献3により示された例では、最大硬度は2,500HKである。これに対し、本発明では、高硬度及び動作圧力が高い状態で、極めて高い堆積速度が達成されている。ただし、先行技術では、ダイアモンドイドの濃度が低いこと及びイオン衝撃のエネルギーを制御できないことから膜性質の調整能力が限られており、用途は気体透過バリアに限定されていた。先行技術(特許文献3)と本発明とのプロセス条件の比較を以下に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
上記は本発明の方法の一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。例えば、上記よりいくらか堆積速度を下げてより高い硬度を得るようにしたり、硬度を下げて高い堆積速度を得るようにしたりして、本方法を最適化できる。
【0015】
高圧(10mTorr超)のPECVD法は、高堆積速度という利点を有しているが、先行技術の方法では、無衝突プラズマシースが無いために高sp3含有膜を作製することができない。つまり、イオンの平均自由行程がプラズマシース幅より短いので、イオンのエネルギーが低い。更に、高圧での(フリー)ラジカル/イオン比が高くなるので、sp2を多く含んだ膜が生じる。ラジカルは反応性が高いがイオンのエネルギーを有さないため、イオンに対するラジカルの度合いが高いことは、DLCの性質に悪影響を及ぼす。高品質のDLC膜を形成するためには、イオン衝撃のエネルギーが重要であるので、膜堆積におけるかなりの部分が非イオン化(すなわちラジカル)束でなく、イオン束によるものであることが重要である。イオン/ラジカル比は、圧力の増加にしたがって減少するので、先行技術のsp3形成方法は低圧力に限定され、結果的に低圧力に伴う低い堆積速度に限定されていた。
【0016】
前駆体分子の飽和度、すなわちsp3結合の増加に伴って、硬度が高くなるという傾向がある。この理由は、アセチレンなどの2つのpi結合を有する分子は、メタンなどのsp3結合を有する、すなわちpi結合を有さない分子に比べて反応性ラジカルを形成しやすいためである。このため、アセチレンに比べ、メタンにより作製される膜は硬度が高い。逆に、ラジカルの反応性は高いので、アセチレン系の被膜は、メタン系の被膜に比べて堆積速度が速くなる。
【0017】
先行技術におけるほとんどの前駆体は、メタン、アセチレン及びベンゼンなどの炭化水素である。膜形成に使用される前駆体は、表面との衝突で分子が分解することによって炭素のエネルギーが変化する。このため、アセチレン(C22)から生じる炭素原子のエネルギーは、メタン(CH4)から生じる炭素原子のエネルギーの約半分である。したがって、大きい前駆体分子を用いる場合には、高sp3含有膜を作製するために高いバイアス電圧が必要とされる。また、大きい炭化水素前駆体の使用は、熱スパイクの増大などの悪影響を生じる。
【0018】
先行技術のPECVD法では、DLCに取り込まれる炭化水素前駆体に含まれた水素に起因してかなりの量の水素がDLCに含まれていた。この水素は、被膜の硬さや温度安定性の低下などの悪影響を及ぼす。
【0019】
CVD法に比べて、PECVDでは、エネルギーが熱ではなくプラズマから供給されるので、低温での被膜が可能である。このことは、基材が温度に敏感である場合に重要である。
【0020】
プラズマ浸漬イオン注入及び堆積(PIIID)法は、複雑な形状の外面の被膜に有用であることが示されてきた。PIIIDは、加工物に負のバイアスを加えることで実施され、プラズマシースが共形であれば、この負のバイアスが正のイオンを加工物に引き寄せる。この場合も、加工物のイオン衝撃により接着性や膜密度などの膜性質を改善することができる。
【0021】
先行技術のPECVDによるプラスチック材料上の炭素被覆O2バリア膜の形成においては、高sp3シード材料が用いられてきた。例えば、特許文献2では、アセチレンなどの標準的な炭化水素前駆体の濃度に比べて著しく低い濃度(10%未満)のダイアモンドイド前駆体が使用されている。ただし、この先行技術では、ダイアモンドイドの濃度が低いこと及びイオン衝撃のエネルギーを制御できないことから膜性質の調整能力が限られる。
【0022】
アダマンタン系のダイアモンドイドは、縮合シクロヘキサンリングからなる炭化水素であり、このリングは、極めて安定な互いにかみ合うかご構造を形成する。低級ダイアモンドイドは、C4n+64n+12の化学式を有するものであり、式中nはかご構造の数である。参照により本願に取り入れられる非特許文献2には、これら材料についての詳細な説明がある。最初の3つの非置換ダイアモンドイドは、アダマンタン、ジアマンタン及びトリアマンタンである。
【0023】
「ダイアモンドイド」という用語は、アダマンタン系の置換及び非置換ケージド化合物を指し、アダマンタン、ジアマンタン、トリアマンタン、テトラアマンタン、ペンタアマンタン、ヘキサアマンタン、ヘプタアマンタン、オクタアマンタン、ノナアマンタン、デカアマンタン、ウンデカアマンタン等を含み、さらにそれらの全ての異性体及び立体異性体を含む。これらの化合物は、「ダイアモンドイド」トポロジーを有する。つまり、それらの炭素原子の配置は、FCCダイアモンド格子のフラグメントに重ね合わせることができる。置換ダイアモンドイドは、1〜10個、好ましくは1〜4個の独立して選択されたアルキル置換基を含む。ダイアモンドイドには、「低級ダイアモンドイド」と「高級ダイアモンドイド」とがある。
【0024】
「低級ダイアモンドイド」という用語は、アダマンタン、ジアマンタン及びトリアマンタン、並びにアダマンタン、ジアマンタン及びトリアマンタンのいずれか及び/又は全ての非置換誘導体及び置換誘導体を指す。これらの非置換低級ダイアモンドイド成分は、異性体やキラリティを示さず、かつ合成が容易であることで「高級ダイアモンドイド」と区別される。
【0025】
「高級ダイアモンドイド」という用語は、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換テトラアマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換ペンタアマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換ヘキサアマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換ヘプタアマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換オクタマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換ノナアマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換デカアマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換ウンデカアマンタン成分、並びに前記の成分の混合物、及びテトラアマンタン、ペンタアマンタン、ヘキサアマンタン、ヘプタアマンタン、オクタアマンタン、ノナアマンタン、デカアマンタン及びウンデカアマンタンの異性体及び立体異性体を指す。
【0026】
アダマンタンの化学的性質については、非特許文献3に詳しく述べられている。アダマンタンは、ダイアモンドイド系の最小メンバーであり、1つのかご結晶のサブユニットと考えることができる。ジアマンタンは、2つのサブユニットを含み、トリアマンタンは3つ、テトラアマンタンは4つなどである。アダマンタン、ジアマンタン及びトリアマンタンには、1個の異性体のみが存在するが、テトラアマンタンには、4つの異なる異性体が存在する(その中の2つは鏡像異性体対を表す)。すなわち、4つのアダマンタンサブユニットを配列する4つの異なる方法がある。可能な異性体の数は、ペンタアマンタン、ヘキサアマンタン、ヘプタアマンタン、オクタアマンタン、ノナアマンタン、デカアマンタン等のダイアモンドイド系の高級メンバーになるにつれて、非線形的に増加する。
【0027】
アダマンタンは市販されており、幅広く研究が行われてきた。研究は、熱力学的安定性、機能化、及びアダマンタン含有材料の性質などの複数の分野を対象にして行われてきた。例えば、次の特許文献が、アダマンタンサブユニットを含む材料について説明している。特許文献4は、アルキニルアダマンタンからのポリマの調製を示し、特許文献5は、アルキルアダマンタンジアミンから作製されるポリアミドのポリマ形を示し、特許文献6は、アダマンタン誘導体からの熱的に安定な樹脂の形成について説明し、特許文献7は、種々のアダマンタン誘導体の合成及び重合について報告している。また、従来型ポリマに低級ダイアモンドイド成分を用いることで、優れた熱的安定性及び機械的性質が付与されることが知られている。
【0028】
パイプ内面の被膜は、今までに特許文献8に開示されている。この被膜方法では、パイプ自体が真空チャンバとして使用され、ガス供給系が一方の開口部に接続され、真空ポンプが他方の開口部に接続される。また、電圧バイアスシステムが、パイプに取り付けられた負端子及びパイプの両端に位置した戻り陽極に接続される。炭化水素前駆体を取り込み、電圧バイアスシステムを用いて高密度中空陰極プラズマを発生させ、炭化水素イオンを表面に引き寄せてDLC膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】米国特許第5,786,068号明細書
【特許文献2】欧州特許第0763144B1号明細書
【特許文献3】米国特許第6,740,393号明細書
【特許文献4】米国特許第3,457,318号明細書
【特許文献5】米国特許第3,832,332号明細書
【特許文献6】米国特許第5,017,734号明細書
【特許文献7】米国特許第6,235,851号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第20060011468号明細書
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】J. Robertson 「ダイアモンド−ライク・アモルファス・カーボン(Diamond-Like amorphous carbon)」、Materials Science and Engineering R37(2002) pp129-281
【非特許文献2】Dahl, Liu & Carlson 「アイソレーション・アンド・ストラクチャ・オブ・ハイヤ・ダイアモンドイド、ナノメーターサイズド・ダイアモンド・モレキュールズ(Isolation and Structure of Higher Diamondoids, Nanometer-Sized Diamond Molecules)」、Science, Jan. 2003, Vol. 299
【非特許文献3】Fort, Jr. et al. 「アダマンタン:コンシカンスズ・オブ・ザ・ダイアモンドイド・ストラクチャ(Adamantane: Consequences of the Diamondoid Structure)」、Chem. Rev. vol. 64, pp. 277-300(1964)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0031】
ここで説明する本発明は、「中空陰極」と併用されたPECVD法に関し、PVD法にも適用し得るものであり、また、中空部材の内面への被膜の付与に関する。
【0032】
本発明に係る方法により、PECVD法、或いはPVD法によって、均一な膜性質や、高硬度、高ヤング率、低摩耗及び低摩擦などの良好なトライボロジー的及び機械的性質、化学的な及び腐食での不活性並びに低水素含有量等を備えた、内面に堆積される高sp3含有DLC被膜の作製が可能になる。さらに、新規なDLC膜形成方法により、高sp3含有DLCが形成される。圧力、ダイアモンドイド前駆体の種類、及びバイアス電圧を制御することにより、この新規方法は、ダイアモンドイド前駆体に固有のダイアモンド−かご構造が、基材表面との衝突によって分解することを防止する。ダイアモンドイドは、密な炭素クラスター内にsp3結合を保持し、高圧下で高sp3含有膜を生成する。これにより、ダイアモンドイド前駆体を用いない場合に比べて、高堆積速度及び高圧力で高sp3含有膜を形成することができる。
【0033】
ここに述べる方法により形成される複合材は、新規なものと考えられる。本方法により形成される膜及び/又は被膜もまた、新規なものと考えられる。
【0034】
本発明の一態様によれば、内面を有する中空部材の内面にプラズマ化学気相成長法によってダイアモンド状炭素被膜を形成する方法が提供される。この方法は、処理される部材内部に減圧された気圧を作り出すステップ、前記部材の内部にダイアモンドイド前駆体ガスを導入するステップ、第1の電極及び第2の電極間にバイアス電圧を確立するステップ、及び前記部材の内面近傍にプラズマ領域を形成するステップを含み、前記ダイアモンドイド前駆体ガスは、アダマンタン系のダイアモンドイドを含有し、前記気圧及びバイアス電圧は、前記内面上にダイアモンド状炭素が堆積するように、それぞれ20mTorr及び500V以上である。
【0035】
本発明の別の態様によれば、内面を有する中空部材の内面にプラズマ化学気相成長法によってダイアモンド状炭素被膜を形成する方法が提供される。この方法は、処理される部材内部に減圧された気圧を作り出すステップ、前記部材の内部にダイアモンドイド前駆体ガスを導入するステップ、第1の電極及び第2の電極間にバイアス電圧を確立するステップ、及び前記部材の内面近傍にプラズマ領域を形成するステップを含み、前記ダイアモンドイド前駆体ガスは、アダマンタン系のダイアモンドイドを含有し、前記気圧及びバイアス電圧は、前記内面上にダイアモンド状炭素が堆積するように選択される。
【0036】
本発明の更なる一態様によれば、処理される部材内部に減圧された気圧を作り出すステップ、前記部材の内部にダイアモンドイド前駆体ガスを導入するステップ、第1の電極及び第2の電極間にバイアス電圧を確立するステップ、及び前記部材の内面近傍にプラズマ領域を形成するステップを含み、前記ダイアモンドイド前駆体ガスは、アダマンタン系のダイアモンドイドを含有し、前記気圧及びバイアス電圧は、前記内面上にダイアモンド状炭素が堆積するように、それぞれ20mTorr及び500V以上であるプラズマ化学気相成長法によって、内面を有する中空部材の内面にダイアモンド状炭素被膜を形成する方法が提供される。
【0037】
好ましくは、当業者に周知のように、プラズマ領域は「中空陰極」効果プラズマ領域として形成される。
【0038】
上記の各方法には、以下のステップ又は材料を1つ以上付加できる。例えば、前駆体は、アダマンタン、ジアマンタン、トリアマンタン及び1,3ジメチル−アダマンタンからなるグループから選択でき、かつアルキル化してもよい。アダマンタンは、他の反応性ガス中に10%〜100%の割合で存在させることができ、作業気圧は、20mTorr〜300mTorrの範囲で選択でき、バイアス電圧は、500V〜3000Vの範囲で選択できる。場合によっては、ダイアモンドイド前駆体と併せてC22又はC48などの炭化水素を導入するステップを含むことが望ましい。さらに、本方法は、テトラキスジメチルアミノ−チタン(TDMAT)などの金属を前駆体に添加するステップを含むことができる。また、本方法は、他の反応性ガスにおけるダイアモンドイド含有の有無にかかわらず、他の反応性ガスを用いることなく、ダイアモンドイドを積層して複合材被膜を形成するステップを含むことができ、またN2、シリコン、ゲルマニウム、又はTDMATを含む金属含有MOCVD前駆体からなるリストから選択されるドーパントを、前記ダイアモンドイド前駆体に添加するステップを含むことができる。本方法は、前記第1の電極をパイプなどの一部が密閉された形状物に取り付けるステップ、前記一部が密閉された形状物を陰極としてバイアスをかけるステップ、該形状物から離れた1つ以上の第2の電極を陽極としてバイアスをかけるステップ、前記一部が密閉された形状物の内部で中空陰極プラズマを形成するステップを含むことができ、前記部材は一部が密閉された形状物そのもの又は一部が密閉された形状物に取り付けられたものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施に用いられるシステムのブロック図である。
【図2】ジメチルアダマンタンの構造を示す図である。
【図3】本発明に従って用いられるプロセスの線図である。
【図4】外面被膜プロセスに適用された場合の複数のプロセス条件に対する仕上がり被膜の性質を示すデータの表である。
【図5】C22中のDMA濃度の関数としての硬度の変化を示す図である。
【図6】DMAを使用し、内面被膜プロセスに適用した場合の複数のプロセス条件に対する仕上がり被膜の性質を示すデータの表である。
【図7】DMDを使用し、内面被膜プロセスに適用されたプロセスでの仕上がり被膜の性質を示すデータの表である。
【図8】ダイアモンドイドの割合を変化させた種々の試験条件に対する試験データの表である。
【図9】図8のデータに関連した堆積速度のグラフである。
【図10】本発明に従って作製された被膜の摩耗特性を、先行技術の方法と比較して示す図である。
【図11】本発明に従って作製された被膜の摩耗特性を、先行技術の方法と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1を参照すると、導電性パイプすなわち「加工物」10が、パルス状の負バイアスを印加するパルス式直流電源20に接続されている。この負バイアスを用いて、(a)第1、第2の電極間、すなわち、例えば当技術分野で周知の、中空加工物の内部に設けられる好適な「中空陰極」として形成された陰極及び陽極間にプラズマを発生させ、(b)被膜される内面にイオン化された反応性ガスを引き寄せ、(c)内面に形成される膜のイオン衝撃で密度や応力レベルなどの膜性質を向上させ、(d)デューティサイクルのオフ部分の間に、原料ガスを補充し、DLCなどの絶縁膜表面のアーク発生の原因となり得る、被膜工程で生じた表面での正の電荷蓄積を消散するようにデューティサイクルを調整することで、均一性の制御を行う。ここで使用される「中空陰極効果」は、2つ以上の陰極表面が互いに対向して置かれ、遠隔の陽極と電気的に協働する場合に生じるもので、従来のプラズマグローと比べて著しい電流増加が得られる。この電流増加は、対向する空間電荷層間での高速(高温の加速された)電子の「振動運動」によるものであり、これによりプラズマの励起及びイオン化速度が従来のグロー放電に比べて数桁高められる。この電子の振り子運動は、高速電子の平均自由行程に関係あるため、中空陰極効果は、中空陰極内部の圧力及び陰極間隔に対してある関係を有している。つまり、間隔の狭い中空陰極は、間隔の広い中空陰極に比べて高圧で動作する。ただし、言うまでもなく、ここに述べる方法は、「中空陰極」式でない、処理部材の近傍で発生させる方式のプラズマにも適用できる。ただし、効果が得られるのは上記「中空陰極」を用いた場合である。
【0041】
さらに、電荷の消散を促進するために、非対称の双極性パルスが使用される。この双極性パルスの使用においては、デューティサイクルのオフ部分の間に微小な短い正パルスを印加して、逆プラズマを発生させることなく、電子を引き寄せて被膜プロセスで生じた正の電荷を消散させる。ここで、加工物10は陰極の働きをし、陽極22、24は、絶縁体26、28によって該加工物から電気的に絶縁され、パルス直流電源のプラス側に接続されて、図示のように接地されるか又は浮いた状態にされる。圧力センサ24が各取り付け具の頂部に設置されて、パイプ内の圧力を監視及び制御できるようになっている。陽極は、加工物の開口部14、16の近傍に位置して、絶縁体によって物理的及び電気的に導電性加工物及びその他の機能性サブシステムから絶縁されている。ガス供給サブシステム12及びポンプサブシステム32が、加工物の開口部に接続されている。
【0042】
好適な構成においては、ダイアモンドイド前駆体を用いて高sp3含有のDLC膜をPECVD法により導電性パイプの内面に形成する。陽極をパイプの両端に設置して接地させた状態で、負のパルス状バイアスをパイプに印加する。望ましくはオプション工程として、加工物をスパッタ洗浄し、接着促進層を次のとおり堆積する。パイプを基底圧(〜1mTorr)までポンプで減圧した後、MFC39を用いてArを加工物10内に導入する。負のパルス状バイアスがパイプに印加されると、Arプラズマが発生する。この負バイアスが、パイプ表面のイオン衝撃及びスパッタ洗浄をもたらす。Ar洗浄に続いてシリコン含有接着層が堆積され、それにより鋼基材に対して強力な鉄−シリサイド結合が形成され、DLC被膜の堆積時にSiC結合がDLC被膜に対して形成される。テトラメチルシランが、容器76及びMFC78を介して導入される。この液体は蒸気圧が高いため、簡単なベーパードロー(蒸気流動)技術によって導入することができる。場合により、金属基材がシリコンと強固な結合を形成しなければ、シリコン以外の前駆体を接着層に用いることが望ましい。形成される結合の強度は、化合物の形成における負熱によって表され、負数が大きい程、熱力学的に容易に化学結合が生じる。
【0043】
接着層の堆積に続いて、ダイアモンドイド系DLC膜を形成する。この膜形成は、ダイアモンドイド前駆体蒸気をチャンバ内に注入することにより行われる。好ましいダイアモンドイド前駆体は、真空チャンバに送り込まれる蒸気圧が十分に高い標準状態では液状である。これら前駆体は、アルキル化アダマンタン、アルキル化ジアマンタン、アルキル化トリアマンタン、及びその他のアダマンタン系を含む、精製されたアルキル化ダイアモンドイド又はそれらの混合物などである。また、好ましいダイアモンドイド前駆体には、1つ以上のアルキル基を含むジアマンタンの異性体の液体混合物も含まれる。
【0044】
アダマンタンのイオン化電位(IP)については、NISTデータベース(米国基準・科学技術協会、NIST Chemistry webbook, http://webbook.nist.gov/chemistry/)において9.25eVと報告されている。他の種類のダイアモンドイドは、「エレクトロニク・アンド・バイブレーショナル・プロパーティズ・オブ・ダイアモンドライク・ハイドロカーボンズ(Electronic and Vibrational Properties of Diamond-like Hydrocarbons)」 Physical Review B 72, 035447 (2005)において、Lu等で計算され、2〜10のかご構造を含むダイアモンドイドで7〜9eVの範囲という、類似のIPを示している。未置換のダイアモンドイドは、本発明のプラズマ堆積室内において、容易にイオン化してカチオン及びラヂカルカチオンになる。ダイアモンドイドカチオンは非常に安定で、負にバイアスされた加工物表面に向かって加速されている間もそのままの状態を保つことができる。ダイアモンドイドカチオンの安定性については、Waltman及びLingによって「マス・スペクトロメトリ・オブ・ジアマンタン・アンド・サム・アダマンタン・デリバティブズ(Mass Spectrometry of Diamantane and Some Adamantane Derivatives)」Canadian Journal of Chemistry, Volume 58, pp2189-2195 (1980)で示された、質量スペクトル測定において見られる非常に強い正に帯電した分子イオンによって証明されている。Polfer, Sartakov及びOomensは、「ザ・インフラレッド・スペクトラム・オブ・ザ・アダマンチル・カチオン(The Infrared Spectrum of the Adamantyl Cation) Chemical Physics Letters, Volume 400, pp201-205 (2004)において、ダイアモンドイドカチオン及びダイアモンドイドラジカルカチオンが真空中で数百ミリ秒間残存することができることを示した。アルキル化ダイアモンドイドから生じたカチオンは、主にラジカルカチオンであることが質量分析から分かっている。ラジカルダイアモンドイドカチオンは、中性種であるアルキル基が無くなることにより形成され、その電荷は元のダイアモンドイドかご構造によって保持される。ラジカルダイアモンドイドカチオンは、ダイアモンドイドカチオンより少ない1つの水素原子を持ち、それが水素含有量の少ない被膜を形成する。また、ラジカルダイアモンドイドカチオン同士は、ダイアモンドイドカチオン同士に比べて表面で容易に架橋する。
【0045】
ダイアモンドイドカチオン又はラジカルダイアモンドイドカチオンが過度な速度で加工物に向けて加速されると、かご構造の分解が起こり得る。しかし、本発明では、一定範囲のバイアス電圧及び圧力を用いてカチオンのエネルギーを調整し、そのような分解を極力少なく(又は多く)することができる。
【0046】
好適なダイアモンドイド前駆体は、1,3ジメチルアダマンタンである。精製されたアダマンタンは固体であるが、アダマンタンの置換体は、室温条件で液体となっている。1,3ジメチルアダマンタンは、10mTorr〜1Torrのプロセス圧力の範囲で高いsp3含有量、均一な膜性質、低水素含有量、及び高速の堆積速度を示すことが分かっている。この液体は、バブリング又は直接液体注入(DLI)のいずれかの公知の方法によって加工物に供給される。図1には、好ましい方式としてDLIシステム50が示されている。ジメチルアダマンタン(DMA)が圧力容器52に貯蔵されており、少量の計測された液体(例えば、0.5cm3/min)が液体流量調整器54から蒸発室56内に注入される。加熱コイル60により、この溶液を100mTorrにおける1,3ジメチルアダマンタン溶液の沸点を超える温度(例えば、100℃)まで加熱する。N2又はAr58などのキャリアガスも導入される。蒸発器とパイプとの間の全てのダイアモンドイド前駆体供給ラインや他の部品も、濃縮を防ぐために加熱されなければならない。
【0047】
圧力制御弁40により圧力を設定して所定の径のパイプに対する中空陰極効果(HCE)プラズマを発生させ、ダイアモンドイド前駆体が、印加バイアス電圧及び圧力と合わせて、基材との衝突で前駆体が完全に分解することがないようにして選択される。例えば、1.5インチ径のパイプでは、650Vのバイアスを印加して、100〜300mTorrの圧力で高強度の中空陰極プラズマを発生させる。圧力の設定は、電子が対向する陰極シースに到達し反射されて戻るための十分なエネルギーを有して、「中空陰極」効果による電子の振動及び増加した電離衝突を起こすように、加工物10の内圧が、電子の平均自由行程が加工物の内径と関係する状態をもたらすようにされるべきである。これにより、より強いプラズマが加工物の内部に発生する。圧力が低下する程に電子の平均自由行程は長くなるので、パイプの径が大きくなるにつれて圧力を下げる必要がある。例えば、1/4インチ(6.35ミリメートル)径のガス管では、約200〜500mTorrの圧力で中空陰極プラズマが発生し、一方で4インチ(101.6ミリメートル)径のポンプ排気ダクトでは、約12〜100mTorrの圧力でプラズマが発生する。これらは大径化に伴う低圧力化という一般的傾向を示すための概略値を意図したものであり、圧力範囲がこれらの値から大きく変動してもなお中空陰極プラズマ状態が保たれることもある。
【0048】
プラズマシースを突き抜けて加速されて加工物に到達するのはイオン化されたガスのみであるので、イオン化すなわちプラズマ強度の程度は、PIIID法を有効にする上で重要である。中空陰極プラズマ効果によって、DC又はRFプラズマにおいて利用可能な他のプラズマより強いプラズマが得られる。この強度の増加は、内面に対して実施困難なマグネットやマイクロ波プラズマ源といった、強力なプラズマを発生する他の手段での複雑さを無しに、得ることができる。この高密度プラズマには、高堆積速度、複雑な形状の共形被膜を可能にする薄肉共形プラズマシース、及び薄肉プラズマシースを突き抜けてのイオンの衝突の減少によるイオンエネルギー制御性の向上といった、いくつかの利点がある。また、この方法では、加工物10を分離して加熱する必要がない。光プローブ及びラングミュアプローブが陽極端の接続部に設置されて、強力な中空陰極がいつ適正に形成されたかを監視することができる。
【0049】
デューティサイクル及び極限電力は、適正なパイプ加熱が得られるように設定される。また、デューティサイクルは、ガスをパイプ中に流しながらガス補充を行うことができるように、用いられることができる。
【0050】
多くのダイアモンドイドの形態は標準状態では固体であるが、これらは該固体を加熱して十分な量の蒸気を昇華により発生させることで送り出すことが可能である。この場合も、送り出し圧力を高めるためにキャリアガスを用いることができる。また、下流の配送管は全て加熱されるべきである。
【0051】
この新規な改良方法は、圧力、ダイアモンドイド前駆体の大きさ及びバイアス電圧の組み合わせを用いて、ダイアモンドイド前駆体が基材との衝突で完全には分解せず、部分的に元のsp3結合を残すようにすることを含む。結合が部分的に元のまま残るためには、炭素原子1個当たりのイオンエネルギーを低い値に抑制する必要がある。本発明では、プラズマ発生とバイアスとが同一の電源で制御され、バイアスを下げ過ぎるとプラズマが消えてしまうため、バイアス電圧を実質的に400Vより低くすることができない。デューティサイクル、圧力、又は電力を上げてシステムを稼動させるか、アルゴンなどのイオン化されやすいガスで希釈することにより、バイアスをある程度下げることができる。
【0052】
さらに、炭素原子1個当たりのイオンエネルギーは、プラズマシースを突き抜けてイオンを衝突させる圧力を増加させることにより、又は前駆体分子の大きさを増すことにより小さくすることができる。例えば、1,3ジメチルアダマンタンを前駆体に用い、かつプロセス圧力を十分高く(100mTorr超)設定してプラズマシースを突き抜けてイオン衝突が起きるようにすると、基材との衝突におけるイオンエネルギーは、印加バイアス電圧から大きく低下する。これらの方法を用いてイオンエネルギーが低く抑えられると、光学的に透明で屈折率の高い、低水素含有量のsp3結合ポリマが得られる。また、中間的なバイアスを用いた場合は、水素含有量が低くてsp3含有量の多い硬質DLC膜が得られる。高圧プロセスは、堆積速度が速くなるという付加的な効果もある。さらに、ダイアモンドイド前駆体の大きさ、具体的には分子量を用いてイオンエネルギーを制御することができ、より大きいダイアモンドイドを用いて炭素原子1個当たりのイオンエネルギーを小さくすることができる。例えば、アダマンタン(C1016)の代りにジアマンタン(C1420)を用いることができる。これらのイオンエネルギー制御技術は、ダイアモンドイド前駆体を用いない場合に比べて、sp3含有量の多い膜を形成することを可能にする。また、1分子当たりに極めて多数の炭素原子が存在することから、ダイアモンド結合の多い膜を形成しながらも、アセチレンなどの小さい炭化水素に比べて著しく高い堆積速度が可能になる。
【0053】
ジメチルダイヤマンチン(ジメチルジアマンタンに次ぐ二番目に大きいダイアモンドイド)やジメチルトリアマンタン(ジメチルダイヤマンチンの次に大きい)などの大型ダイアモンドイド分子を使用する利点には、次のようなものがある。1)イオン1個当たりの炭素分子数が多いことに基づく継続的な堆積速度の増加、すなわち加工物に供給される電流の各アンペアに対して、より多数のsp3炭素原子が供給される。2)より高い炭素/水素比が得られる。3)高sp3含有の透明ポリマ被膜を形成するには低バイアスが要求されることを含め、イオン1個当たりの炭素エネルギーが、被膜性質が制御され得るようにして、前駆体分子の大きさに基づいて制御される。これは、ダイアモンドイド分子が大きくなるに従って、一定のバイアス電圧において炭素原子1個当たりのエネルギーが減少することによる。4)膜形成時に前駆体分子が結合する際に生じるsp2結合に比べ、前駆体により多数のsp3炭素原子が供給されることから、より高い被膜内に含まれるsp3炭素原子の比率が得られる。
【0054】
中空陰極プラズマのイオン化度が高いために、先行技術における前駆体は、パイプ長に沿って移動するにしたがって次第に分解してしまう。更に、パイプ長に沿ってプラズマ強度が変化し、この変化もまた前駆体の分解を助長する。ダイアモンドイドのかご構造は極めて安定なため、ダイアモンドイド前駆体を用いるとこの分解は著しく低減し、これによってパイプ長方向の性質がより均一になる。
【0055】
本方法の更なる効果として、前述のようにバイアス電圧、圧力又はダイアモンドイド前駆体を変化させることによって、新規な層状の複合材料を形成することができる。より軟質かつ丈夫なsp3ポリマの層と硬質DLCの層とを備えた材料が考えられ、これにより組み合わされる層の望ましい性質を合わせ持つ複合材が形成される。これらの方法を用いることで、DLCの性質を水素含有量の低い極めて硬質の高sp3のDLCから丈夫な高sp3含有量の炭化水素ポリマまで変化させることができる。
【0056】
本方法の更なる効果は、パイプの内面を被膜する場合に、パイプ長に沿ってより均一な被膜を得ることができることである。アセチレン、メタン及びベンゼンなどの炭化水素を含む先行技術のDLC前駆体においては、分子内部の原子間結合が強くなく、前駆体の分解や、元の前駆体のラジカルやイオン化されたフラグメントが形成される。これにより、パイプ長に沿ったプラズマの化学的性質の変化及びそれによる被膜性質のばらつきが生じる。長いパイプの長さ方向に沿って移動する化学前駆体の場合は、前駆体カチオンが安定であり、パイプ長に沿って移動することで、パイプ長に沿って被膜の化学的性質の変化をもたらすフラグメントに分解されないことが望ましい。ダイアモンドイド前駆体は、この安定なカチオンを提供し、そのためにより均一な被膜性質が得られる。重要であるのは、C−Cかご構造の結合が強いので、この構造は、先行技術の前駆体ほどにはプラズマ中で分解せず、そのために高圧においても高いイオン/ラジカル比が得られるということである。
【0057】
図2は、1,3ジメチルアダマンタン分子を示す。この図から、アダマンタンかご構造には4つの「橋頭」炭素原子が存在し、これらは強い四面体結合によって他の3つの炭素原子に結合している(ジメチルアダマンタンの場合、この橋頭炭素原子の中の2つはメチル基にも結合しており、そのため4つの炭素原子に結合している)ことがわかる。6個の第二級炭素原子があり、それらは2つの他の炭素原子及び2つの水素原子に結合している。ダイアモンドイドは、この高度の強いC−C四面体結合を含む唯一の炭素分子である。この安定なダイアモンドイドイオンは、プラズマの強度がパイプ長に沿って変化する場合にも有効である。例えば、小径パイプの場合、ガス導入口からポンプ用排気口にかけて圧力降下が生じ、その結果圧力が高いパイプ入口に向かってプラズマ密度が高くなる。先行技術の前駆体の場合は、これにより多くの分解が起こり、パイプ入口に向かってプラズマの化学的性質の変化が生じるが、ダイアモンドイド前駆体の場合、それらは起こらない。また、ダイアモンドイド前駆体は無毒でかつ不燃性である。
【0058】
本発明の他の実施形態では、炭化水素をダイアモンドイド前駆体に添加して被覆中のダイアモンドイドフラグメント間の結合を促進する。ダイアモンドイド前駆体に添加される炭化水素の濃度は、全反応性ガスの75mol%を超えないようにされる。好ましくは、ECRや中空陰極などの高密度のプラズマを発生可能なプラズマ源を用いて、高sp3含有膜の形成を促進する。この種の炭化水素の添加は、向上された接着性のより低応力な膜を作製できると共に、より厚い膜の堆積を可能にする。
【0059】
本発明の更なる実施形態では、水素及び炭素以外の元素を含有する分子状前駆体をダイアモンドイドに添加して耐摩耗性や導電性などの性質を向上させる。例えば、テトラキスジメチルアミノ−チタン(TDMAT)などの金属含有前駆体が添加される。トライボロジー的性質や耐食性を高めた種々の複合膜を形成することに加えて、これらの元素を用いて膜の抵抗を下げることによって、より厚い膜の作製が可能になる。プラズマに印加される電力を小さくするように、膜にかかる電圧を下げるため、抵抗膜の厚さには本質的に限界がある。
【0060】
別の実施形態では、本発明の方法は、「基質形成」材料を用いて複合膜を形成するPECVD工程を含む。例えば、ダイアモンドイド前駆体と混合して、アセチレン(C22)を「基質形成」材料として使用することが可能であり、それによりダイアモンドイド前駆体から生じる高sp3含有DLCが、複合材としてアセチレンから生じる低sp3含有DLCと混合される。さらに、パイプの中心に沿って挿入された金属ロッドからスパッタリングによって、金属層を付加することもできる。ダイアモンドイド前駆体と併用可能な他の材料には、N2、シリコン、又はTDMATなどの金属含有MOCVD前駆体などがある。トライボロジー的性質や耐食性を高めた種々の複合膜を形成することに加えて、これらのドーパントを用いて膜抵抗を下げてより厚い膜を作製することができる。
【0061】
図3に最適化された処理サイクルでの制御及び制御パラメータの変化をグラフで示す。特に他のパラメータに対する最適化が所望される場合は、この構成の種々の変更が考えられる。図3から、最初の表面前処理及び加熱ステップAは、70mTorrの圧力において50%のデューティサイクル及び240Wの電力設定、並びに600〜700Vのバイアス電圧を用いて実行される。温度は、約300°Fに上昇している。ステップBで接着工程が行われ、この工程はデューティサイクルを約5%に下げ、電力設定を215Wに下げ、70mTorrの圧力及び約700Vのバイアス電圧で、流量約600sccmのSi4が導入される。ステップCで混合工程が行われ、この工程の間にダイアモンドイドのDMAの流入が開始され、その流量は約0.2ml/minまで徐々に増加される。また、この同じ期間において、Si4の流量はゼロまで減少され、電力は215Wに保持され、バイアス電圧が800Vに、圧力が90mTorrに高められる。最終ステップDは、キャップ層堆積工程であり、この工程の間、DMAの流量は0.2ml/minに、電力は215Wに維持され、圧力を300mTorrに設定した状態でバイアス電圧が800Vに高められる。
【0062】
図4は、上記制御パラメータを変化させると硬さ、厚さ、堆積速度、ひっかき抵抗性及び接着性がどのように変化するかを詳細に示す。この図から、A、B、C及びDの記号を付した試料により明確な比較がなされる。試料Aでは、23.6Gpaという高硬度の表面と7.05μm/hrという高い堆積速度が得られる。ここでは、圧力は200mTorrであり、電力は10Wに設定され、1000Vのバイアス電圧であり、200sccmのアルゴンの流量中での0.05ccmのダイアモンドイドの流量を用いた。試料Aは、前述の特許文献3(Massler)の試料よりも優れた性質を有している。試料Bでは、優れた延性と11.3Gpaという低めだが受容し得る硬さを備えた表面が得られるが、堆積速度は3μm/hrと遅い。ただし、ひっかき抵抗性は14.8Nと特に優れており、必要なバイアス電圧はわずか600Vである。試料Cでは、17.5Gpaという高硬度の表面及び2.55μm/hrという受容し得る堆積速度が得られているが、これを達成するためにはわずか50mTorrという低圧での操作になる。試料Dは、7.7Gpaという硬度で、13.5μm/hrという極めて高い堆積速度である。図4はさらに、試料Dとして、200mTorrの圧力及び2000V(10%DC)のバイアス電圧における試料の性能データを示している。バイアス電圧1700V及び圧力100mTorrでのアルゴン中シランの接着層を基礎に、DMA流量は0.05ccm、アルゴン流量は175であり、混合層を用いないで10分間という条件であった。試験では最終的に、31.1Gpaの硬度と4.6μm/hrの堆積速度が得られた。これらは非常に優れた結果であり、特に外面被膜プロセスにおけるバイアス電圧の上昇による効果を表している。図4はまた、試料Eとして、プラズマのイオン化度を高めるためにマグネットを用い、バイアス電圧1000V、DMA流量0.05ccm及びAr流量175sccmでの20mTorrのプロセスについて試料の性能を示している。これにより、堆積速度は3μm/hrとやや低いが、35Gpaという最高硬度の被膜が形成された。図4はまた、試料Eとして、プラズマのイオン化度を高めるためにマグネットを用い、バイアス電圧1500V、DMA流量0.05ccm及びAr流量200sccmでの20mTorrのプロセスについて試料の性能を示している。これにより、堆積速度は3μm/hrとやや低いが35Gpaという最高硬度の被膜が形成され、このような工程におけるマグネットの使用の効果が確認された。図4のデータは外面被膜プロセスに関するものであるが、本教示は容易に内面被膜プロセスにも適用でき、堆積工程におけるアダマンタン及び/又はマグネットの使用により、外面被膜プロセスと同様に、最終的な被膜性質が適度に向上することが期待できる。
【0063】
図5は、C22中のDMA濃度の関数として、硬度と該DMA濃度との間に成立する関係を示す。この図から、硬度はDMA濃度0〜11%の範囲で急速に増加し、DMA濃度11%〜100%の範囲でも引き続き堅実に増加することが分かる。本発明で利用されるのは、この特性である。図6に、図5のグラフを描いたデータを示す。
【0064】
図6を参照すると、この図に示した被膜性質は、中空陰極効果を用いた内面被膜プロセスにおいて、アルゴンをキャリアガスとしたDMAを使用して得られたものである。試料Fは、全反応性ガスとして100%C22を使用し、C22流量24sccmで行ったものであり、20.9GPaの硬度及び12.9μm/hrの堆積速度をもたらした。これを100%DMAを用いた試料Gと比較すると、試料Gでは21.5μm/hrという遥かに速い堆積速度で24.2GPaの硬度が得られている。したがって、アダマンタンの添加によって、遥かに速い堆積速度(67%高速)で20%硬い膜が得られたことが分かる。
【0065】
図7は、DMD被膜プロセスにおけるデータを示す。この図から、DMDプロセスでは、図6の1行に示した同一条件でのアダマンタンプロセスに比べて、堆積速度が増し(約32%高速)、硬度が低下していることが分かる。この硬度の低下は、分子サイズの増大に基づく炭素原子1個当たりのイオンエネルギーの低下によるものであり、DMDプロセスにおいてバイアス電圧が上げられれば、DMA前駆体と同等の硬度が得られる。
【0066】
図8は、一定の圧力及びバイアス電圧の条件で、キャリアガスでのダイアモンドイド比の増加に伴う効果を立証するために行われた試験でのデータを示す。図8のデータを図9にグラフで示す。図9から、ダイアモンドイド比が増えるにつれて、堆積速度が顕著に高まることが分かる。さらに、ダイアモンドイドがゼロから15パーセントの範囲における初期の堆積速度の上昇及び降下は、20%より多くなると止まり、約80%で最大に達した後顕著に降下し、その後最後に6μm/hrまで上昇することが認められる。ダイアモンドイド100%ではなく、単に80%を選択する方が若干効果的と言える。
【0067】
図10及び11は、先行技術の前駆体及び本発明の前駆体を用いて作製された被膜の摩耗特性を示す。図から、ダイアモンドイド被膜は、乾燥窒素又は低湿度環境の中において、他のDLC膜に比べて安定した摩耗性及び低いCOFを示すことが分かる。
【0068】
以上のプロセスにおいて、例えばジメチルジアマンタンなどの高ダイアモンドイド構造を有する他の前駆体材料を用いてもよいことは、当業者にとって明らかである。そのような状況下では、当然ながら1000〜3000Vの更なる高バイアス電圧が使用される。また、金属を前駆体に添加して延性やじん性を付与すると共に、導電性を高めて膜厚の増加を可能にすることも、当業者にとって明らかである。このような工程もまた、本発明での効果のために使用可能である。金属としては、例えばテトラキスジメチルアミノ−チタン(TDMAT)である。さらに、周知のC22又はC48の形態の炭化水素の導入が、本発明においても使用できる。また、本発明の方法の工程は、他の反応性ガスにおけるダイアモンドイド含有の有無にかかわらず、他の反応性ガスを用いることなく、ダイアモンドイドを積層して複合材被膜を形成するステップを含むことができる。この複合材被膜が、優れた性質を有する硬質及び軟質材料を幾度も積層することにより、各材料単独よりも向上された延性、硬度及びじん性をもたらすことは、当業者にとって明らかである。さらに、前記ダイアモンドイド前駆体へドーパントを添加することも望ましく、適当なドーパントの例としては、N2、H2、Si、金属類、ゲルマニウム、又はTDMATなどの金属含有MOCVD前駆体である。場合によっては、前駆体をアルキル化してもよい。DLC系の複合被膜もまた、好ましい性質を有することが示されてきた。例えば、WC/Cなどの低弾性率の材料に高硬度の材料を続けて用いた積層膜において、耐摩耗性が向上することが示されている。同様に、いわゆる「ナノ複合材料」を用いることもできる。ナノ複合材料は、積層ではなく材料を混合して、極めて硬い材料(例えば、TiN)のナノサイズの結晶が非晶質DLC基質中に埋め込まれるようにすることで形成される。ナノ複合材料は、特許文献1に記載されているようなC−H基質及び分離した金属−金属基質などの、2つ以上の異なる非晶質基質を含むこともできる。先行技術においては、純粋なPECVD法でこの種の膜を作製した場合は良好な結果が得られておらず、PVD法単独又はPVD法とPECVD法との併用によって良好な結果が得られている。また、当然ながら、バイアス電圧を高めることによって被膜の質がさらに改善され、最大で3000Vまでのバイアス電圧を使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面を有する中空部材の内面にプラズマ化学気相成長法によってダイアモンド状炭素被膜を形成する方法であって、該方法が、
(a)処理される部材内部に減圧された気圧を作り出すステップ、
(b)前記部材の内部にダイアモンドイド前駆体ガスを導入するステップ、
(c)第1の電極及び第2の電極間にバイアス電圧を確立するステップ、
(d)前記部材の内面近傍にプラズマ領域を形成するステップ
を含み、前記ダイアモンドイド前駆体ガスは、アダマンタン系のダイアモンドイドを含み、前記気圧及び前記バイアス電圧は、前記内面上にダイアモンド状炭素の堆積が行われるように選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記気圧及び前記バイアス電圧は、それぞれ20mTorr、500Vより大きいことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
中空陰極効果のプラズマを形成する手段によって前記プラズマ領域を形成するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
堆積速度が10μm/hrより大きいことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ダイアモンドイド前駆体は、アダマンタン、ジアマンタン、及びトリアマンタンからなるグループから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ダイアモンドイド前駆体は、アルキル化されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ダイアモンドイド前駆体は、1,3ジメチル−アダマンタンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記アダマンタンは、他の反応性ガス中に10%〜100%の割合で存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記気圧は、20mTorr〜300mTorrの範囲であり、前記バイアス電圧は500V〜3000Vの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
さらに前記ダイアモンドイド前駆体と併せて炭化水素を導入するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記炭化水素は、C22又はC48の形態であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
さらに金属を前記ダイアモンドイド前駆体に添加するステップを含むことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記金属は、テトラキスジメチルアミノ−チタン(TDMAT)であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
さらに他の反応性ガスにおけるダイアモンドイド含有の有無にかかわらず、他の反応性ガスを用いずに、ダイアモンドイドを積層して複合材被膜を形成するステップを含むことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
さらにドーパントを前記ダイアモンドイド前駆体に添加するステップを含むことを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ドーパントは、N2、シリコン、ゲルマニウム、TDMAT、及びその他の金属含有MOCVD前駆体からなるグループから選択されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載の方法により被膜されることを特徴とする製品。
【請求項18】
部材の内面にプラズマ化学気相成長法によってダイアモンド状炭素被膜を形成する方法であって、該方法が、
(a)処理される部材内部に減圧された気圧を作り出すステップ、
(b)前記部材の内部にダイアモンドイド前駆体ガスを導入するステップ、
(c)第1の電極及び第2の電極間にバイアス電圧を確立するステップ、
(d)前記部材の内面近傍にプラズマ領域を形成するステップ
を含み、前記ダイアモンドイド前駆体ガスは、アダマンタン系のダイアモンドイドを含み、前記気圧及び前記バイアス電圧は、それぞれ20mTorr、500Vより大きく、それにより前記内面上にダイアモンド状炭素の堆積が行われることを特徴とする方法。
【請求項19】
さらに、前記第1の電極をパイプなどの一部が密閉された形状物に取り付け、前記一部が密閉された形状物を陰極としてバイアスをかけ、前記形状物から離れた1つ以上の第2の電極を陽極としてバイアスをかけ、前記一部が密閉された形状物の内部で中空陰極プラズマを形成するステップを含み、
前記部材は、前記一部が密閉された形状物そのもの又は前記一部が密閉された形状物に取り付けられた物であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項18又は19に記載の方法により被膜されることを特徴とする製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−531931(P2010−531931A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515100(P2010−515100)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/068279
【国際公開番号】WO2009/006178
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(506384006)サブ−ワン テクノロジー, インコーポレイテッド (3)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】