説明

ダイオキシン類の処理薬剤及びその処理方法

【課題】 300℃以下の低温度域でも、酸素の存在下でも、短時間にダイオキシン類を低減処理できるダイオキシン類の処理薬剤と処理方法を提供する。
【解決手段】 ダイオキシン類の処理薬剤としては、オキシム化合物、トリアゾール化合物、又は、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物のうちの少なくとも1種を含むこと、又は、(ア)パラジウム、バナジウム、タングステン、モリブデン、チタン、又は、セリウムから選ばれた少なくとも1種の遷移金属化合物及び/又はアミン化合物と、(イ) オキシム化合物、トリアゾール化合物、又は、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物のうちの少なくとも1種とを含むこととし、また、ダイオキシン類の処理方法として、上記の処理薬剤5をダイオキシン類を含む排ガス3と12又は排ガスから捕集した集塵灰8に添加することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシン類の処理に係り、特に、都市ごみ、産業廃棄物、下水汚泥等の廃棄物焼却炉や溶融炉、亜鉛回収プロセス、アルミニウム精錬プロセス、鉄鋼精錬プロセスから排出される集塵灰に含有されるダイオキシン類やダイオキシン類縁化合物などの有機ハロゲン化合物の処理薬剤及び処理方法に関する。また、本発明は、汚染土壌、浚渫泥土などに含有されるダイオキシン類などの有機ハロゲン化合物の処理にも適用可能である。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミ、産業廃棄物、下水汚泥等の廃棄物焼却炉や溶融炉、亜鉛回収プロセス、アルミニウム精錬プロセス、鉄鋼精錬プロセスから排出される排ガスには、ダイオキシン類が含まれている。ダイオキシン類には、多くの異性体が存在し、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン類(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン類(PCDF)、コプラナーPCB(co−PCB)等で構成される。排ガス中のガス状ダイオキシン類の除去方法としては、集塵装置の前段に粉末活性炭を吹き込んで吸着除去する方法が普及している。ところで、活性炭は、クロロフェノール、クロロベンゼンなどのダイオキシン類前駆物質から、ダイオキシン類を合成する触媒活性を有しているため、ダイオキシン類前駆物質が活性炭と接触し、ダイオキシン類が合成されることがある。排ガス中のダイオキシン類が付着した飛灰や、ダイオキシン類を吸着した活性炭は、集塵装置によって集塵灰として排ガスから分離される。
【0003】
集塵装置には、電気集塵装置とろ過方式のバグフィルターがあり、ダイオキシン類や飛灰の捕集効果の高いバグフィルターが普及している。このような集塵装置によって、排ガスからダイオキシン類を効果的に除去できるが、集塵装置で分離され重金属類やダイオキシン類を含有する集塵灰は、特別管理一般廃棄物に指定されているため、厚生労働大臣が定める方法(セメント固化法、薬剤添加法、溶融固化法、酸その他溶媒への抽出法)によって処理した後に、埋め立て処分を行っている。従来、このようなダイオキシン類を含有した集塵灰の処理方法としては、次のような方法が提案されていた。 (1) ダイオキシン類を含有する焼却飛灰(集塵灰)を、窒素ガス等の還元性雰囲気下で、320℃では2時間、340℃では1〜1.5時間保持することによりダイオキシン類を分解する方法〔ハーゲンマイヤープロセス,OrganohalogenCompound, 27, 147−152 (1996)〕。(2) ダイオキシン類含有焼却飛灰(集塵灰)を、ダイオキシン類生成抑制剤(ピリジン)の存在下で、300〜500℃で熱処理する方法(特開平4−241880号公報)。(3)焼却灰を、酸素を制限しつつ50kg/cm以上の加圧下で300〜500℃に加熱し、ハロゲン化ダイオキシン類を分解する方法(特開平4−084977号公報)
【0004】
これらの方法は、300℃以上に加熱することによってダイオキシン類を低減処理するものであり、次のような問題点があった。(a)処理温度が高く処理時間も長いため、必要とするエネルギーが多く処理コストも高くなる。(b)冷却時にダイオキシン類が再合成する可能性がある。(c)窒素ガス等の還元性雰囲気下で処理する必要があるが、酸素を完全には遮断できないためにダイオキシン類の低減率が低くなる。
【特許文献1】特開平4−84977号公報
【特許文献2】特開平4−241880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これらの従来法の問題点を解決し、従来法では、ダイオキシン類を低減できないと考えられていた300℃以下の低温度域でも、短時間でダイオキシン類を低減処理することができ、更には酸素の存在下においても、ダイオキシン類を効率よく処理することのできるダイオキシン類の処理薬剤とその処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、ダイオキシン類の処理薬剤として、 オキシム化合物、トリアゾール化合物、 又は、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とし、さらには、 (ア)パラジウム、バナジウム、タングステン、モリブデン、チタン、又はセリウムから選ばれた少なくとも1種の遷移金属化合物と、(イ) オキシム化合物、トリアゾール化合物、 又は、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物のうちの少なくとも1種とを含むことを特徴とするか、又は、前記(ア)及び/又は(イ)と、アミン化合物を含むことを特徴とする。
また、本発明では、ダイオキシン類の処理方法として、上記いずれかの薬剤をダイオキシン類を含む排ガス又は該排ガスから捕集した集塵灰に添加することを特徴とする。前記処理方法において、ダイオキシン類を含む排ガスには、炭酸水素ナトリウム又は消石灰が添加されていてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の処理方法によれば、従来ダイオキシン類を分解できないと考えられていた300℃以下の低温度域、さらには酸素の存在下においても、集塵灰のダイオキシン類を低減処理することができる。また、本発明の処理方法によれば、排ガス中のダイオキシン類濃度も低減することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で使用できるオキシム化合物としては、アルデヒドがヒドロキシルアミンと反応して生成するアルドキシム類やケトンがヒドロキシルアミンと反応して生成するケトオキシム類が挙げられる。具体的には、メチルエチルケトオキシム(2−ブタノンオキシム)、アセトアルデヒドオキシム、アセトオキシム、ベンズアルデヒドオキシム、ベンジルジオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロペンタノンオキシムなどを用いることができる。
トリアゾール化合物としては、トリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、及びC〜C12のアルキル置換ベンゾトリアゾールが挙げられる。さらには、トリアゾール化合物のアルカリ金属(ナトリウムやカリウム)塩、トリアゾール化合物のアミン塩、トリアゾール化合物のアンモニウム塩を用いてもよく、特に限定されない。
【0009】
脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物としては、エチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコールと、エステルを生成する脂肪酸とのエステル化合物が挙げられる。多価アルコールとエステルを生成する脂肪酸の分子量は、200以上であることが好ましく、ラウリン酸、ミスチリン酸、バルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸などが挙げられる。分子量が200未満であると、ダイオキシン類との親和性が低くなるため効果が低下する。
また、一般に流通しており、前記脂肪酸を数種含んでいる脂肪酸のグリセリンエステルとして、大豆油、ヤシ油、パーム油、オリーブ油、コーン油、アマニ油、ナタネ油、キリ油、牛脂、硬化油、サラダ油、綿実油などが挙げられる。
【0010】
また、本発明の薬剤に、アミン化合物を混合し、集塵灰を処理することもできる。
アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等の低分子量1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の低分子量2級アミン、トリエチルアミン等の低分子量3級アミン、エチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、イミノビスプロピルアミン等の多価アミン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン等のポリアミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ヘキサメチレンイミンなどの環状アミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルヒドロキシルアミンなどのアルカノールアミン、尿素、ピリジン、ヒドラジン、カルボヒドラジド、アンモニア、これらアミン化合物の塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、塩化物塩などのアミン塩などを挙げることができる。
【0011】
パラジウム、バナジウム、タングステン、モリブデン、チタン、セリウムから選ばれる遷移金属の化合物としては、酸化パラジウム、塩化パラジウムなどのパラジウム化合物、酸化バナジウム、塩化バナジウムなどのバナジウム化合物、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、ケイ化タングステン、三酸化タングステン、メタタングステン酸アンモニウムなどのタングステン化合物、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウム、二硫化モリブデン、五塩化モリブデン、ケイ化モリブデン、炭化モリブデン、ホウ化モリブデンなどのモリブデン化合物、二酸化チタン、塩化チタン、チタン酸バリウム、ケイ化チタンなどのチタン化合物、酸化セリウム、水酸化セリウム、炭酸セリウム、硫酸セリウム、シュウ酸セリウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム、硝酸第二セリウムアンモン、硫酸第二セリウムアンモンなどのセリウム化合物などが挙げられる。
【0012】
本発明において、(ア)パラジウム、バナジウム、タングステン、モリブデン、チタン、又は、セリウムから選ばれた少なくとも1種の遷移金属化合物と、(イ) オキシム化合物、トリアゾール化合物、又は、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物のうちの少なくとも1種とを含む処理薬剤において、(イ)に対する(ア)の比率は0.1〜10重量%、より好ましくは1〜10重量%である。0.1重量%未満では、触媒作用が不充分となり、10重量%以上含有させても、薬剤コストが上昇するばかりで触媒作用は向上しない。
また、前記(ア)及び/又は(イ)とアミン化合物とからなる処理薬剤において、アミン化合物の比率は10〜99%、より好ましくは70〜99%である。
本発明の薬剤と共に、炭酸水素ナトリウム又は消石灰から選ばれるアルカリ剤とを、集塵装置前段の排ガスに添加することにより、さらに集塵灰のダイオキシン類の抑制効果を促進することができる。
【0013】
本発明の薬剤と、炭酸水素ナトリウム又は消石灰から選ばれるアルカリ剤とを集塵装置前段の排ガスに添加する場合、本発明の薬剤と炭酸水素ナトリウム又は消石灰から選ばれるアルカリ剤とを混合し排ガスに添加しても良いし、アルカリ剤を添加する前段又は後段で、本発明の薬剤を添加しても良い。本発明の薬剤を、アルカリ剤と共に排ガスに添加することにより、排ガス中の塩化水素がアルカリ剤と反応し除去されるため、ダイオキシン類の発生が低減される。この結果、飛灰に付着するダイオキシン類の量が減り、集塵灰のダイオキシン類濃度をさらに低減させることができる。
消石灰としては、特号消石灰、高反応消石灰など公知のものが使用できる。炭酸水素ナトリウムとしては、平均粒径10〜100μm、より好ましくは10〜50μmのものを使用するのが良い。100μmを超えると、排ガス中の酸性成分との反応性が低下し、10μm未満では、反応性は高まるが薬剤が会合し凝集し易くなるため、薬剤添加時の操作性が悪化する。
本発明の薬剤を、排ガス中のダイオキシン類を除去する目的で吹き込まれる活性炭と共に添加しても良い。
【0014】
本発明の薬剤を排ガスに添加し処理する場合、140℃〜500℃より好ましくは140〜300℃の排ガスに、10〜1000mg/m(NTP)より好ましくは100〜500mg/m(NTP)添加すれば良い。また、本発明の薬剤を排ガスに添加して発生した集塵灰に、必要に応じて加湿水や重金属固定化薬剤を添加し混練処理することもできる。
本発明の薬剤を集塵灰に添加し処理する場合、集塵灰に対して前記薬剤を0.1〜20重量%さらに好ましくは1〜10重量%混合し、100〜300℃で1〜120分間加熱すれば良い。このとき、大気接触下で処理しても良いし、大気を遮断した還元性雰囲気で処理しても良い。
このとき、必要に応じて加湿水や重金属固定化薬剤を共存させて加熱処理してもよいし、加熱処理後に必要に応じて加湿水や重金属固定化薬剤を添加し混練処理することもできる。
重金属固定化薬剤としては、ジチオカルバミン酸化合物の誘導体、リン酸塩、鉄塩などが挙げられる。
【0015】
本発明においては、オキシム化合物、トリアゾール化合物、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物を、活性炭や無機多孔性物質などの多孔性物質に担持させた形態で、集塵灰や排ガスに添加してもよい。オキシム化合物、トリアゾール化合物、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物を、活性炭や無機多孔性物質などの多孔性物質に担持させる場合、無機多孔性物質としては、ゼオライト、シリカゲル、酸性白土、活性白土、カオリン、ベントナイト、アロフェン、珪藻土等の粘土鉱物、珪酸、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、リン酸一水素マグネシウム(MHP) 、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)な
どが挙げられる。
オキシム化合物、トリアゾール化合物、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物を多孔性物質に担持させる量は、平衡吸着量以下であれば良く特に限定されないが、より好ましくは平衡吸着量の10〜80重量%である。
排ガス中のダイオキシン類は、多孔性物質の細孔部分に濃縮され、細孔部分に担持した薬剤と反応すると考えられる。また、本発明の薬剤を水やアルコールなどの有機溶媒に溶解又は分散させた形態で集塵灰や排ガスに添加することもできる。本発明の薬剤を水やアルコールなどの有機溶媒に分散させる場合に界面活性剤を用いても良い。
【0016】
本発明の薬剤が、ダイオキシン類を低減する作用については以下のように考えられる。本発明において、ダイオキシン類の低減とは、ダイオキシン類の分解と生成抑制を意味する。
オキシム化合物は、その還元力によりダイオキシン類を分解する作用と、オキシム化合物が熱分解し生成するヒドロキシルアミンが、ダイオキシン類の生成に触媒として関与する塩化銅などの重金属化合物の触媒毒として働きダイオキシン類の生成を抑制する作用により、ダイオキシン類を低減するものと考えられる。
トリアゾール化合物は、ダイオキシン類の生成に触媒として関与する塩化銅などの重金属化合物の触媒毒として働くことにより、ダイオキシン類の生成を抑制するものと考えられる。
脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物は、親油性のダイオキシン類との親和性が高いため、ダイオキシン類やダイオキシン類前駆物質を吸着する。ダイオキシン類やダイオキシン類前駆物質に吸着した該エステル化合物は水素供与体として働きダイオキシン類を分解する。さらに、エステル化合物から生成した脂肪酸やアルコールの酸素原子が有する不対電子は、高温条件下で活性化し、ダイオキシン類に求核置換しダイオキシン類を分解する。また、脂肪酸の不飽和結合は、高温条件下で活性なラジカルを生成し、ダイオキシン類の分解に寄与すると考えられる。
【0017】
排ガスには、塩化水素や硫黄酸化物などの酸性成分の除去を目的に、消石灰や炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ剤、さらにはダイオキシン類除去のための粉末活性炭が、集塵装置前段で吹き込まれるのが一般的である。
ところで、難分解性有機塩素化合物に、重油などの高沸点水素供与体とアルカリと触媒を添加し、300〜350℃で分解処理する化学的脱塩素化分解法(BCD法)が知られている〔参考文献:戸田久之他,BCD法によるダイオキシン類の化学的脱塩素処理、用水と廃水、Vol.41,No.8(1999)〕。
本発明の集塵灰処理薬剤である脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物を、アルカリ成分や触媒活性を有する活性炭を含有する排ガスや集塵灰に添加すると、エステル化合物の脂肪酸部分は水素供与体として働き、ダイオキシン類の分解に寄与するものと考えられる。
パラジウム、バナジウム、タングステン、モリブデン、チタン、セリウムから選ばれる遷移金属化合物は、ダイオキシン類分解に触媒的に機能するものと考えられる。
【0018】
本発明の薬剤を排ガスに添加する処理方法を、図面を用いて具体的に説明する。図1中、1は焼却炉、2はガス冷却塔、3はガス冷却塔から集塵装置への煙道、4は集塵装置、5は本発明に係わる薬剤を貯留するホッパ、6、7、13は本発明に係わる薬剤の供給配管、8は集塵灰ホッパ、10は混練成形機、11は集塵灰処理物、12は焼却炉からガス冷却塔への煙道である。焼却炉1から排出される排ガスは、850〜1100℃と高温であるが、ガス冷却塔2により300℃以下に冷却される。冷却塔2で冷却された排ガスは、煙道3を通って集塵装置4に送られ、そこで集塵処理されて、焼却飛灰が排ガスから分離される。集塵灰ホッパ8に貯留された集塵灰は、混練成型機10に送られ加湿水や必要に応じてセメントや重金属固定化薬剤が添加され処理される。煙道3又は12に、本発明に係わる薬剤を貯留するホッパ5が配管6及び7を介して接続されており、所定量の薬剤が、煙道3及び/又は12内に供給される。
本発明の薬剤を、焼却炉の排ガスに噴霧し添加する場合、焼却炉から排出された中温排ガス(一般に300〜500℃)に対して行ってもよく(例えば図1のA)、冷却装置で冷却した後の中〜低温排ガス(一般に140〜300℃)に対して(例えば図1のB)行うこともできる。
【0019】
本発明の処理薬剤を、集塵装置で排ガスから分離した集塵灰に添加する場合を図2を用いて説明する。
図2において、集塵灰ホッパ8に貯留された集塵灰は、加熱処理装置9に送られ100〜300℃で1〜120分間加熱処理され、必要に応じて冷却装置14で冷却された後に混練成型機10に送られ、必要に応じて加湿水やセメントや重金属固定化薬剤が添加され処理される。本発明に係わる薬剤は、本発明に係わる薬剤を貯留するホッパ5から配管13を介して接続されている加熱処理装置9、配管16を介して接続されている集塵灰ホッパ8、配管15を介して接続されている集塵灰ホッパ8から加熱処理装置9への供給配管Dに供給される。また、集塵灰の温度が100℃以上である場合、加熱処理装置を設けず混練成型機10に本発明に係わる薬剤を添加し処理することもできる。加熱処理装置9には、加熱、水蒸気加湿、保温装置が設けられていて、集塵灰を一定時間、所定温度、所定湿度に保持できる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(1) 集塵灰への薬剤添加処理実験
処理対象として、ダイオキシン類を8.5ng−TEQ/g含有する集塵灰を用いた。所定量の処理薬剤と集塵灰を充分に混合した後、薬剤と集塵灰の混合物を還流冷却装置付のフラスコに移し入れ、マントルヒーターを用い加熱し所定温度(実施例2−4:150℃及び200℃、その他実施例と比較例:200℃)で10分間処理した。冷却した処理物をダイオキシン類の分析に供した。ガスクロマトグラフ質量分析法によってダイオキシン類(PCDDs,PCDFs Total)の濃度として測定し、国際毒性等価係数(I-TEF)を用いて算出したダイオキシン類毒性等量値(ng-TEQ/g)として示した。
【0021】
集塵灰への薬剤添加処理実験結果を表1に示す。オキシム化合物で処理した実施例1、1−2、トリアゾール化合物で処理した実施例2、2−2、2−3、2−4、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物で処理した実施例3〜7は、薬剤無添加の比較例1や脂肪酸で処理した比較例2〜3、アルコールで処理した比較例4〜5と比較し、集塵灰中のダイオキシン類濃度を明らかに低減できた。
また、遷移金属化合物とオキシム化合物で処理した実施例8,9、遷移金属化合物とトリアゾール化合物で処理した実施例10、10−2、10−3、10−4、遷移金属化合物と脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物で処理した実施例11〜15では、オキシム化合物で処理した実施例1、トリアゾール化合物で処理した実施例2、2−2、2−3、2−4、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物で処理した実施例3〜7と、同添加率で比較し、ダイオキシン類濃度を低減することができた。さらに、トリアゾール化合物とアミン化合物で処理した実施例10−5、トリアゾール化合物とアミン化合物と遷移金属化合物で処理した実施例10−6では、アミン化合物で処理した比較例5−2、トリアゾール化合物で処理した実施例2−4と比較し、ダイオキシン類濃度を低減することができた。
アミン化合物としての尿素と遷移金属化合物で処理した実施例17〜26は、尿素で処理した比較例5−3と比較し、集塵灰中のダイオキシン類濃度を明らかに低減できた。また、アミン化合物としてのトリエタノールアミンと遷移金属化合物で処理した実施例16は、トリエタノールアミンで処理した比較例5−2と比較し、ダイオキシン類濃度を明らかに低減できた。
【0022】
【表1】

【0023】
【表1−2】

【0024】
【表1−3】

【0025】
(2)排ガスへの薬剤添加処理実験
図1に示す実験装置を用いて燃焼排ガスの処理実験を行った。焼却炉1からの排ガスをガス冷却塔2によって冷却し煙道3に処理薬剤をホッパ5から配管6を通して排ガス中に吹き込んだ後、集塵装置4において集塵処理を行った。集塵装置としてはバグフィルターを用いた。集塵処理後(図1のC)の排ガス中のダイオキシン類濃度、及び集塵装置4から排出される集塵灰を集塵灰ホッパ8で採取しダイオキシン類濃度を測定した。排ガス量は100m(NTP)/hであり、バグフィルター入口温度は170℃であった。排ガス1m(NTP)に対し、本発明の薬剤を100mg添加したとき、集塵灰100重量部に対する本発明の薬剤の添加量は1.6重量部であった。ダイオキシン類の濃度は、ガスクロマトグラフ質量分析法によってダイオキシン類(PCDDs,PCDFs Total)の濃度として測定し、国際毒性等価係数(I−TEF)を用いて算出したダイオキシン類毒性等量値〔集塵灰:ng−TEQ/g、排ガス*:ng−TEQ/m(NTP)〕として示した。
*排ガスのダイオキシン類濃度はO12%換算値
【0026】
排ガスへの薬剤添加処理実験の結果を表2に示す。オキシム化合物で処理した実施例27、27−2、トリアゾール化合物で処理した実施例28、28−2、28−3、28−4、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物で処理した実施例29〜33は、薬剤無添加の比較例6や脂肪酸で処理した比較例7〜8、アルコールで処理した比較例9〜10と比較し、集塵灰中及び排ガス中のダイオキシン類濃度を明らかに低減できた。
また、遷移金属化合物とオキシム化合物で処理した実施例34,35、遷移金属化合物とトリアゾール化合物で処理した実施例36、36−2,36−3、36−4、遷移金属化合物と脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物で処理した実施例37〜41は、オキシム化合物で処理した実施例27、トリアゾール化合物で処理した実施例28、28−2、28−3、28−4、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物で処理した実施例29〜33と同添加率で比較し、集塵灰及び排ガス中のダイオキシン類濃度を低減することができた。さらに、トリアゾール化合物とアミン化合物で処理した実施例36−5、トリアゾール化合物とアミン化合物と遷移金属化合物で処理した実施例36−6ではアミン化合物で処理した比較例10−2、トリアゾール化合物で処理した実施例28−4と比較し、集塵灰及び排ガス中のダイオキシン類濃度を低減することができた。
アミン化合物としての尿素と遷移金属化合物で処理した実施例43〜52は、尿素で処理した比較例10−3と比較し、集塵灰及び排ガス中のダイオキシン類濃度を明らかに低減できた。また、アミン化合物としてのトリエタノールアミンと遷移金属化合物で処理した実施例42は、トリエタノールアミンで処理した比較例10−2と比較し、集塵灰及び排ガス中のダイオキシン類濃度を明らかに低減できた。
上記結果から、本発明の薬剤を排ガスに添加し処理することにより、300℃以下の低温度でも短時間に集塵灰と排ガス中のダイオキシン類を同時に低減処理できることが明らかになった。
【0027】
【表2】

【0028】
【表2−2】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の処理薬剤を排ガスに添加するフロー構成図。
【図2】本発明の処理薬剤を集塵灰に添加するフロー構成図。
【符号の説明】
【0030】
1:焼却炉、2:ガス冷却塔、3:ガス冷却塔から集塵装置への煙道、4:集塵装置、5:処理剤を貯留するホッパ、6、7、13、15、16:処理剤の供給配管、8:集塵灰ホッパ、9:加熱処理装置、10:混練成形機、11:集塵灰処理物、12:焼却炉からガス冷却塔への煙道、14:冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシム化合物、トリアゾール化合物、又は、脂肪酸と多価アルコールとからなる分子量200以上のエステル化合物のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とするダイオキシン類の処理薬剤。
【請求項2】
(ア)パラジウム、バナジウム、タングステン、モリブデン、チタン、又は、セリウムから選ばれた少なくとも1種の遷移金属化合物と、(イ) 請求項1に記載のダイオキシン類
の処理薬剤とを含むことを特徴とするダイオキシン類の処理薬剤。
【請求項3】
(ア)アミン化合物と(イ)請求項1又は2に記載のダイオキシン類の処理薬剤とを含むことを特徴とするダイオキシン類の処理薬剤。
【請求項4】
(ア)パラジウム、バナジウム、タングステン、モリブデン、チタン、又は、セリウムから選ばれた少なくとも1種の遷移金属化合物と、(イ)アミン化合物とを含むことを特徴とするダイオキシン類の処理薬剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のダイオキシン類の処理薬剤を、集塵装置でダイオキシン類を含む排ガスから捕集した集塵灰に添加することを特徴とするダイオキシン類の処理方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のダイオキシン類の処理薬剤を、集塵装置前段のダイオキシン類を含む排ガスに添加することを特徴とするダイオキシン類の処理方法。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のダイオキシン類の処理薬剤と、炭酸水素ナトリウム又は消石灰から選ばれるアルカリ剤とを、集塵装置前段のダイオキシン類を含む排ガスに添加することを特徴とするダイオキシン類の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−308684(P2007−308684A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26399(P2007−26399)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(591030651)荏原エンジニアリングサービス株式会社 (94)
【Fターム(参考)】