ダイオキシン類の簡易測定方法
【課題】前処理・分析期間を大幅に短縮して且つ高分解能GC−MSを使用しなくても信頼性を有する(確からしい)結果が得られ、環境基準のスクリーニング等に好適な新規な構成のダイオキシン類の簡易測定方法を提供すること。
【解決手段】被検体から採取した実試料を有機溶剤による抽出工程後、クリーンアップ工程(夾雑物除去工程)を経た抽出液を定容してガスクロマト質量分析計を用いてダイオキシン類を定量分析するダイオキシン類の簡易測定方法。有機溶剤抽出を、高速溶媒抽出装置で行い、また、質量分析器におけるイオン化として負化学イオン化(NCI)を選択し選択イオン検出(SIM)により測定をする。
【解決手段】被検体から採取した実試料を有機溶剤による抽出工程後、クリーンアップ工程(夾雑物除去工程)を経た抽出液を定容してガスクロマト質量分析計を用いてダイオキシン類を定量分析するダイオキシン類の簡易測定方法。有機溶剤抽出を、高速溶媒抽出装置で行い、また、質量分析器におけるイオン化として負化学イオン化(NCI)を選択し選択イオン検出(SIM)により測定をする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種被検体、飛灰・土壌・底質等の固体被検体、環境水・排水等の液体被検体、及び、排ガス・大気等の気体被検体等に含まれるダイオキシン類を短期間かつ高精度で測定するダイオキシン類の簡易測定方法に関する。
【0002】
ここで、ダイオキシン類とは、本来のダイオキシンであるポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジキシン類(PCDDs)の他に、ポリ塩化ジベンゾフラン類(PCDFs)、及びコプラナーPCB類(Co−PCBs)を含む概念である。
【0003】
上記ダイオキシン類の各化学式を下記する。
【0004】
【化1】
【0005】
【化2】
【0006】
【化3】
また、本明細書・特許請求の範囲において極性溶媒とは、分子内に電気双極子を有する極性分子からなる有機液体を意味し、極性基を有する有機溶媒に限定されない。
【0007】
なお、「GC−MS」とは、「ガスクロマトグラフ質量分析計(gas-chromatograph-mass spectrometer)」の略号である。
【背景技術】
【0008】
従来、上記のような被検体に含まれるダイオキシン類は、公定法(例えば、非特許文献1・2)に従って、例えば、図1〜4に示す如く、行っていた。
【0009】
しかし、公定法では、前記図1〜4に示す如く、前処理だけで4〜5日要した。
【0010】
このため、前処理工程時間及び分析時間の短縮化が要望されていた。
【0011】
その要望に応えるために、特許文献1には、下記構成のダイオキシン類の分析方法(測定方法)を提案されている(特許請求の範囲)。
【0012】
「被検体を高温かつ高圧力に保持する高速溶媒抽出装置によって該被検体中のダイオキシン類を有機溶媒に抽出させて抽出液を作製する第1工程と、該抽出液中の夾雑物を多層シリカゲルカラム及び活性炭カラムを連結した連結カラムを備えた自動クリーンアップ装置によって除去して前記抽出液からダイオキシン類を精製した後、濃縮して濃縮液を作製する第2工程と、該濃縮液を溶媒除去大量試料注入装置を取付けた高分解能GC−MSに供給し、前記濃縮液中のダイオキシン類を分析する第3工程とを有するダイオキシン類の分析方法。」
しかし、上記特許文献1に記載された方法では、「実施例では、少量の試料を用いて、長期間(約30日間)かかっていたが、短期間(約5日間)で且つ高感度で測定することができた。」(段落0060)と記載されているのみで、前処理方法において基本的構成は類似するも、本発明の効果を奏する特徴的構成については実質的に何ら開示若しくは示唆されていない。
【0013】
また、上記特許文献1で使用する質量分析装置は、公定法と同様の高分解能GC−MSを使用することを前提としており(同特許請求の範囲等参照)、本発明で使用する、四重極形装置のような高分解能に分類されないGC−MSの使用可能性を予定していない。
【0014】
さらに、本発明の質量分析方法として選択する、特許文献2に記載の質量分析方法「被検試料を、揮発性を有する非極性溶媒ないしは極性溶媒で希釈したものをガスクロマトグラフに導入してダイオキシン類の各成分に分離後、質量分析器におけるイオン化として負化学イオン化(NCI)を選定し選択イオン検出(SIM)により測定する」(請求項1参照)を結合させることについて、特許文献1には勿論、特許文献2にも何ら開示若しくは示唆されていない。
【非特許文献1】日本工業規格、JIS K0311−2005「排ガス中のダイオキシン類の測定方法」
【非特許文献2】日本工業規格、JIS K0312−2005「工業用水・工場排水中のダイオキシン類の測定方法」
【特許文献1】特開2007−225283号公報
【特許文献2】特開2004−61485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記にかんがみて、前記先行刊行物に開示若しくは示唆されていない、前処理・分析期間を大幅に短縮でき且つ高分解能GC−MSを使用しなくても信頼性を有する(確からしい)結果が得られ、環境基準のスクリーニング等に好適な新規な構成のダイオキシン類の簡易測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記構成のダイオキシン類の簡易測定方法に想到した。
【0017】
被検体から採取した実試料を有機溶剤による抽出工程後、クリーンアップ工程(夾雑物除去工程)を経た抽出液を定容してガスクロマトグラフ質量分析計(以下「GC−MS」)を用いてダイオキシン類を定量分析する方法であって、前記有機溶剤抽出を、高速溶媒抽出装置で行い、また、質量分析器におけるイオン化として負化学イオン化(NCI)を選択し選択イオン検出(SIM)により測定することを特徴とする。
【0018】
上記ダイオキシン類の測定方法において、抽出工程の有機溶剤抽出に先立ち脱水処理(例えばアセトンで)をすることが望ましい。抽出効率の向上が期待できる。
【0019】
同じく、前記クリーンアップ工程が硫酸処理、多層シリカゲルカラム処理及び活性炭リバースカラム処理を含み、硫酸処理を、硫酸添加して振とう後、遠心分離により行うことを特徴とする。公定法の沈降分離による場合(1日)に比して、格段に硫酸処理時間を短縮(1時間)できる(図1−1と図5−1等参照)。
【0020】
同じく、前記クリーンアップ工程後の展開試料の濃縮・定容してGC−MS注入用試料を調製するに際して、前記濃縮を蒸発による一次濃縮、遠心力による突沸防止しながらの真空蒸発による二次濃縮により行うことを特徴とする。公定法の窒素ガスによる乾固する場合に比して、GC−MS注入液の調製時間を短縮できる(図1−2と図5−2等参照)。
【0021】
同じく、定量の方法として内標準法を用い、該内標準法における内標準物質として13Cラベル化ダイオキシン類を使用することが望ましい。内標準法の方が分析時間を短縮でき、13Cラベル化ダイオキシン類は内標準物質として公定法に使用されているものであり、入手し易い。
【0022】
そして、本発明においては、GC−MSとして、四重極形装置を使用することが、効果が顕著となる。非常に高価な高分解能GC−MSを使用する必要がなく、本発明の効果がより顕著となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の測定方法は、上位概念的に、ダイオキシン類の含有の有無を判定する被検試料を、抽出および前処理操作した後、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いて分析を行うものである。
【0024】
なお、以下の説明で用語及びそれらの説明は、(1)JIS K0311「排ガス中のダイオキシン類の試験方法」(非特許文献1)、(2)JIS K0312「工場排水中のダイオキシン類の試験方法」(非特許文献2)、(3)JIS K0114−2000「ガスクロマトグラフ分析通則」及び(4)JIS K0123−1995「ガスクロマトグラフ質量分析通則」を引用又は参照したものである。以下、参照するときは、それぞれ「JIS(1)」、「JIS(2)」、「JIS(3)」、「JIS(4)」と記す。
【0025】
GC−MSの装置構成は、例えば、図9に示すような構成を備え(JIS(4)p.2)、また、本実施形態では、図10に示すような「四重極形装置」を使用する(同p.3)。「四重極形装置」は、取り扱いが容易で、迅速且つ簡便な分析を担保し易くなる。四重極形装置は高分解能GC−MSに比して、汎用性を有し安価である。
【0026】
被検試料としては、固体試料(飛灰,土壌,底質)・液体(環境水,排水)および気体(排ガス,大気)を挙げることができる。
【0027】
ここで、被検体としては、通常、飛灰,土壌,底質等の固体、環境水,排水等の液体、および排ガス,大気等の気体等の環境基準ないし排出基準の被検体となるものとする。本発明の測定方法の被検体は、上記例示のものに限られず、他の産業廃棄物、さらには、食品、動植物等にも適用できる。本発明者らは、例えば、牛乳やオリーブオイルについてもダイオキシン類の測定を行ったことがある。
【0028】
(1)抽出操作
高速溶媒抽出装置を使用して、被検体採取試料からダイオキシン類成分を溶媒に移行させる。
【0029】
高速溶媒抽出装置とは、採取試料を高温かつ高圧の条件で、有機溶媒中にダイオキシン類を抽出させる高速溶媒抽出(Accelerated Solvent Extraction、ASE)を行う装置のことである。本発明では、高温高圧の条件は、150〜200℃×1300〜1700psi(8.26〜11.7MPa)することが望ましい。抽出時間は、高温高圧の条件により異なるが、1〜2hとする。
【0030】
高速溶媒装置としては、例えば、特許文献1に記載されている「ダイオネクス社製のASE−300(商品名)」を使用することができる。
【0031】
抽出溶媒(抽剤)は、基本的には、非水溶性の極性溶媒を使用することがダイオキシン類の回収率が高くて望ましい。これらの要件を満たす抽出溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系、ヘキサン等の脂肪族系のものを挙げることができる。これらのうちで、トルエン(沸点:110〜112℃、SP値:8.90)がダイオキシン類の回収率が高いことを確認している。
【0032】
さらに、上記極性溶媒で高速溶媒抽出するに先立ち、揮発性の水溶性極性溶媒で脱水処理をしておくことが望ましい。水溶性極性溶媒としては、ケトン類、アルデヒド類、等を挙げることができる。これらのうちで、アセトン(沸点:55〜60℃、SP値:10.0)が望ましい。アセトンは、脱水効果(水混和性)が高くかつ、高揮発性であり、揮発回収(抽出液の濃縮化)が容易なためである(前処理時間の短縮化に寄与する。)。
【0033】
通常、高速溶媒抽出前の試料(被検体)又は高速溶媒抽出後の抽出液に、クリーンアップスパイク(内部標準物質)を添加する。クリーンアップスパイクとしては、通常、公定法(JIS(1)のp6表1、p14表2に規定されている要件を満たす市販品(13Cラベル化ダイオキシン類:少なくとも1種類ずつ)を使用する。
【0034】
なお、上記高速溶媒抽出装置のカラムに充填乃至挿入可能に、採取試料は、被検体の形態(固体、液体、気体)に応じて、抽出用試料前処理を行っておく(各被検体におけるフロー図の図5〜8参照)。
【0035】
このときの溶媒抽出条件は、例えば、表1に示すものとする。液体・気体系試料でも同様である。なお、「ハイドロマトリックス」は、米国バリアン社製の粉体珪藻土の登録商標である。また、酢酸は、飛灰中のアルカリ中和と灰内部からのダイオキシン類を効率よく抽出する目的で使用する。
【0036】
【表1】
(2)クリーンアップ工程(妨害成分/夾雑物除去工程)
これらの前処理は、抽出試料に含まれている各種妨害成分を除去するためのものである。
【0037】
1)硫酸処理(クリーンアップ第一工程)
上記抽出試料に揮発性の無極性溶剤と、硫酸を添加して振とうする。通常、硫酸は市販の濃硫酸(97%:18mol・dm-3)を使用する。
【0038】
その後、遠心分離により硫酸層を除去し、残った有機溶媒層を水洗した後、遠心分離により水層を除去する。こうして、極性妨害成分の除去を行う。公定法の如く、沈降分離でもよいが、遠心分離をすることにより、処理時間の大幅な短縮につながる。公定法の場合、1日を必要とするが(図1−1)、遠心分離を利用することにより、処理時間を大幅に短縮できる(約1時間)(図5−1)。
【0039】
2)多層シリカゲルカラム処理(クリーンアップ第二工程)
硝酸銀添加シリカゲル層と硫酸添加シリカゲル層を持つ多層シリカゲルカラムを用いて妨害成分(例えば、油脂成分や色素等)の除去を行う。ここで、シリカゲル層に硝酸銀や硫酸を添加するのは、硫酸処理で除去できなかった極性妨害成分を吸着除去するためである。
【0040】
シリカゲルカラムは揮発性の無極性溶剤でコンディショニングした後、試料を導入する。すると、第一抽出液中の極性妨害成分は、多層シリカゲルカラムに通過中に硝酸銀添加乃至硫酸シリカゲルに吸着除去される。その後、無極性溶剤で試料を加圧展開(例えば、手動で)する。展開後の試料は濃縮する。ここで、加圧展開するのは、一定の展開速度を得るためである。
【0041】
ここで、揮発性の無極性溶媒としては、沸点100℃以下の無極性溶媒が望ましい。例えば、n−ヘキサン(沸点:68〜71℃)、n−へプタン(沸点:93〜99℃)等、特に、n−ヘキサンを好適に使用できる。
【0042】
3)活性炭リバースカラム処理(クリーンアップ第三工程)
活性炭リバースカラムを用いて、Co−PCBs以外のPCBs(OtherPCBs)を活性炭に吸着させた後、OtherPCBsを選択抽出可能なOtherPCBs抽剤(非水溶性の塩素化炭化水素と揮発性の無極性溶剤の混合溶剤)で妨害成分であるOtherPCBsを溶出除去する。
【0043】
活性炭リバースカラムをダイオキシン類抽剤とOtherPCBs抽剤(無極性溶剤のみ)でコンディショニングした後、カラムに上記2)処理後の試料を導入する。そして、ダイオキシン類とともに活性炭に吸着されたOtherPCBsを、OtherPCBs抽剤でOtherPCBsを溶出除去する。その後、カラムを上下反転させ、ダイオキシン類抽剤(例えばトルエン)でダイオキシン類を加圧展開する。加圧展開の理由は、前述と同様である。
【0044】
OtherPCBs抽剤としては、OtherPCBsを抽出可能であれば特に限定されないが、たとえば、ジクロロメタン/n−へキサン=0.5/29.5〜2/28の混合溶剤を好適に使用できる。.
(3)GC−MS注入用試料調製
展開生成液を蒸発(ロータリーエバポレータ)により一次濃縮後、遠沈管に移し、さらに、窒素雰囲気下で遠心力により突沸によるダイオキシン類の同伴揮散を防ぎながら真空蒸発をさせ、第二次濃縮を行って濃縮を行う。該二次濃縮試料を、シリンジスパイク(内標準物質:13Cラベル化ダイオキシン類)を添加するとともに、定容溶剤で定容・静置してGC−MS注入用試料を調製する。
【0045】
なお、GC−MS注入用試料の定容溶剤は、検量対象であるダイオキシン類を溶解可能でGC−MSのカラム温度(300℃前後)で完全にガス化可能である必要がある。)を有するものなら特に限定されない。
【0046】
通常、試料の経時減容が発生し難い、低揮発性溶媒(高沸点溶媒:120℃以上)で水不溶性のものが望ましい。例えば、キシレン、トルエン等の芳香族系も使用可能であるが、ダイオキシン類と同じ芳香環を含まない、オクタン(126℃)、沸点:ノナン(沸点:150℃)、デカン(沸点:174℃)、等の脂肪族系炭化水素を好適に使用できる。
【0047】
(4)測定・定量
イオン化は負化学イオン化(NCI)とし、選択イオン検出(SIM)でそれぞれのダイオキシン類各種類毎の質量数をモニターする。すなわち、ガスクロマトグラフで分画(分離)されたダイオキシン類の各成分をイオン化部でイオン化させて四重極などの質量分離部へ導入する、内標準物質として13Cラベル化ダイオキシン類化合物(JIS(1))を被検体試料に添加した場合は、被検体から抽出・クリーンアップされたダイオキシン類(12C)に加えて、13Cラベル化ダイオキシン類(内標準物質)が検出部へ導入される。
【0048】
また、NCIに際しての、イオン源温度は、高い方が、イオン化部で発生するダイオキシン類の各種類ごとのイオン量が増大し感度が高くなって望ましい。したがって、通常、質量分析器の最高温度である250℃近くである、200〜250℃の温度の範囲で設定する。
【0049】
GC/MS−NCIによる測定時のガス量は、多量に流したほうが、感度が高い。しかし、多量に流すと質量分析部の真空度が低下するため、安定して測定できる量、例えば、1.5〜2.53mL/min、望ましくは、2mL/min前後とする。
【0050】
また、測定の方法として選択イオン検出(SIM)を用いるのは、前述の如く、内標準物質として13Cにラベル化されたダイオキシン類化合物を添加して、試料及び内標準物質(クリーンアップスパイク、シリジンスパイク)のみを検出部に導入するためであり、ダイオキシン類の選択性を向上させ、S/N比(シグナルとノイズの比)高くすることで感度が良好となるためである。
【0051】
定量法としては、内標準法(JIS(4)p15・16)を用いる。これらの内で、内標準法が、質量分析器の感度変動を補正することが容易である。
【0052】
そして、内標準法を選定する場合、内標準物質としては、定容溶媒に溶解可能で、例えば、前述の13Cラベル化ダイオキシン類を好適に使用できる。
【0053】
分析に使用するGC−MSとしては、特に限定されないが、前述の如く、四重極形装置が、取り扱いが容易で、本発明の方法の特徴である迅速かつ簡便である利点がより生かされるため、好ましい。
【0054】
以下に、本発明のGC−MSの測定法の具体例について、説明する。
【0055】
GC−MSの測定条件の一例を表2に示す。ここで、注入口にはPTV(Programmable Temperature Vaporizer)を使用している。PTVは注入口内部で一旦試料を保持し、温度を高くすることで濃縮操作を行うもので、通常の注入量1〜2μLに対して20μLの注入が可能である。濃縮効果により低濃度測定が可能となる。また、カラムはDB−5MS1本を使用してすべてのダイオキシン類を分離する。数種類のカラムと反応ガスを検討し、TEFを持つ測定対象とされるダイオキシン類すべてのピークを分離できる条件を設定することで時間短縮を図っている。なお、公定法では3本のカラムを使用する。
【0056】
ここで、「TEF」とは、「最も毒性が強いとされている2,3,7,8-TeCDDを1としてダイオキシン類毎の毒性に応じて設定されている毒性等価係数のこと」である。また、「TEQ」とは「ダイオキシン濃度にTEF(毒性等価係数)を乗じて得られる毒性等量のこと」である。
【0057】
【表2】
定量は、ダイオキシン類各種類の標準液(濃度既知)と、それに対応する内標準物質(13Cラベル化ダイオキシン類)のピーク面積比をあらかじめ測定し検量線としておく。実際の測定時、前処理の前に試料中に添加される内標準物質(クリーンアップスパイク)と測定対象ダイオキシンとのピーク面積比を読みとり、検量線法を用いて濃度を算出する。
【0058】
ダイオキシン類の同定は、ダイオキシン類混合標準液(JIS(3)p23表4参照)についてGC−MS/NCIで測定し得られるダイオキシン類各種類毎のピークについて、クリーンアップスパイク(13Cラベル化ダイオキシン類:内標準物質)のピークと比較して行った。
【0059】
すなわち、測定対象ピークとクリーンアップスパイク(13Cラベル化ダイオキシン類)されたとの、ピークの保持時間,m/zのズレ(理論的にダイオキシン類炭素数分12ずれる)などからダイオキシン類ピークを同定する。
【0060】
なお、ダイオキシン類の定量については非特許文献1(JIS(1))「JIS K0311-2005“排ガス中のダイオキシン類の測定方法”」,非特許文献2(JIS(2))「JIS K0312-2005“工業用水・工場排水中のダイオキシン類の測定方法”」に記載されている定量方法と同様の検量線法を簡略化して使用する。
【0061】
各種類毎のダイオキシン類標準液を段階的濃度に希釈した試料を作成し、それに一定量の内標準物質(13Cラベル化ダイオキシン類)を添加混合する。これをGC−MSに注入し、測定を行う。標準液と内標準物質(13Cラベル化ダイオキシン類)のピーク面積の比を算出(12C/13C)し、x軸にプロットする。それに対応する標準液濃度をy軸にプロットし、濃度検量線を作成する。濃度検量線はダイオキシン類の種類(PCDDs、PCDFs及びCo−PCBs、毎に作成する。図11にPCDDsの濃度検量線(面積検量線)の一例を示す。
【0062】
実際の測定時には、試料と、前処理前に試料に一定量(検量線作成時と同量)添加される内標準物質(クリーンアップスパイク)のピーク面積を読みとり、ピーク面積比を算出(試料/内標準物質)し、前述の検量線の傾きに照らし合わせて濃度とする。
【0063】
得られたダイオキシン類各種類毎の濃度にTEFを乗じて個々のダイオキシンTEQ(毒性等量)濃度とし、これを合計することでダイオキシン類濃度(pg−TEQ/g)とする。
【0064】
(5)本発明の技術的なポイントを下記にまとめる。
【0065】
煩雑で長時間を要するダイオキシン類の測定方法において、本発明の前処理および分析方法は、前処理から測定までを短期間(約1日)で行うことができる方法である。この方法は固体被検試料(飛灰・土壌・底質),液体被検試料(環境水・排水)および気体被検試料(排ガス・大気)における環境基準等のスクリーニングに適用するにあたり、十分な測定感度を持っている。特長を以下に示す。
【0066】
1)短期間で分析可能である。前処理から測定まで約1日で実施可能である。
【0067】
2)妨害成分による影響を少なくできる。ガスクロマトグラフ質量分析装置(以下「GC−MS」という)のイオン化に負化学イオン化(以下「NCI」という)を使うことにより、目的とするイオンの選択性が高くなるため妨害成分の影響を受けにくく、ダイオキシン類のクロマトピークの同定(ダイオキシン類ピークとその他の判別)がしやすい。
【0068】
3)ダイオキシン類などに高い感度を持っている。NCIは、ダイオキシン類が持つ塩素等ハロゲンに高い感度を持っているため、低濃度の分析が可能である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の効果を確認するために、公定法(比較例)とともに行った実施例について説明する。
【0070】
<実施例1、比較例1:飛灰の測定例>
飛灰の実試料(n=18)を1g量りとり、酢酸を10ml添加後超音波処理を15分行った。その後、図5−1、図5−2に示すフロー図に従って、抽出工程・硫酸処理工程・多層シリカゲルカラム処理工程・活性炭カラム処理からなる前処理を行い、GC−MS/NCIに20μL注入して、前記方法に準じてダイオキシン類の同定・定量を行った。
【0071】
比較例1は、実施例1と同一試料について、図1−1、図1−2に示す公定法のフロー図に従って前処理を行った後、高分解能GC−MSで、PCDDs/PCDFs及びCo−PCBsの測定を行った。
【0072】
それらの結果を表3及び両者の相関グラフを図12に示す。図12に示す回帰直線y=0.9299x+62.454の相関係数R=0.9905であり、本発明法(実施例1)は、十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。
【0073】
【表3】
<実施例2、比較例2:土壌の測定例>
実施例2は、土壌の実試料(n=10)を10g量りとり、実施例1と同様にして、抽出工程・硫酸処理工程・多層シリカゲルカラム処理工程・活性炭カラム処理からなる前処理を行い、ダイオキシン類の同定・定量を行った。
【0074】
比較例2は、実施例2と同一試料について、比較例1と同様にして、公定法による前処理を行った後、高分解能GC−MSで、PCDDs/PCDFs及びCo−PCBsの測定を行った。
【0075】
それらの結果を、表4及び図13に示す。図13に示す回帰直線y=1.1258x+2.5848の相関係数R=0.9943であり、本発明法(実施例2)は、十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。
【0076】
【表4】
<実施例3、比較例3:底質の測定例>
実施例3は、底質の実試料(n=10)を10g量りとり、実施例1と同様にして、抽出工程・硫酸処理工程・多層シリカゲルカラム処理工程・活性炭カラム処理からなる前処理を行い、GC−MS/NCIに20μL注入して、ダイオキシン類の同定・定量を行った。
【0077】
比較例3は、同一の底質の実試料(n=10)について、比較例1と同様にして、前処理を行った後、高分解能GC−MSで、PCDDs/PCDFs及びCo−PCBsの測定を行った。
【0078】
それらの結果を、表5及び図14に示す。図14に示す回帰直線y=1.0279x+0.2177の相関係数R=0.9798であり、本発明法(実施例2)は、十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。
【0079】
【表5】
<実施例4、比較例4:環境水・排水の測定例>
実施例4は、環境水40L,排水10Lを採取し、固層ディスクで濾過した後、図6−1、図6−2のフロー図に従って、抽出工程・硫酸処理工程・多層シリカゲルカラム処理工程・活性炭カラム処理からなる前処理を行い、GC−MS/NCIに20μL注入し、実施例1と同様の方法により、ダイオキシン類の同定・定量を行った。
【0080】
比較例4は、実施例と同様に採取した実試料を、図2−1、図2−2に示す公定法のフロー図に従って前処理を行った後、高分解能GC−MSで、PCDDs/PCDFs及びCo−PCBsの測定を行った。
【0081】
いずれも試料数はn=10とし、それらの結果を、表6及び図15(環境水)、図16(排水)に示す。図15に示す回帰直線y=1.0386x-0.0056の相関係数R=0.9909であり、また、図16に示す回帰直線y=1.1226x-0.0264の相関係数R=0.9991であり、本発明法(実施例4)は、十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。
【0082】
【表6】
<実施例5、比較例5:大気の測定例>
実施例5は、ハイボリウムサンプラーで、試料スポンジを採取後、図7−1、図7−2のフロー図に従って、抽出工程・硫酸処理工程・多層シリカゲルカラム処理工程・活性炭カラム処理からなる前処理を行い、GC−MS/NCIに20μL注入し、実施例1と同様の方法により、ダイオキシン類の同定・定量を行った。
【0083】
比較例5は、実施例と同様に採取した実試料を、図3−1、図3−2に示す公定法のフロー図に従って前処理を行った後、高分解能GC−MSで、PCDDs/PCDFs及びCo−PCBsの測定を行った。
【0084】
いずれも試料数はn=10とし、それらの結果を、表7及び図17に示す。図17に示す回帰直線y=1.11485x-0.0136の相関係数R=0.9574であり、本発明法(実施例5)は、十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。
【0085】
【表7】
<実施例6、比較例6:排ガスの測定例>
実施例6は、排ガスについては試料通過後の樹脂(吸着剤:スチレンジビニルベンゼン共重合体)を採取した後、ガラス器具洗浄液からも採取し、図8−1、図8−2のフロー図に従って、抽出工程・硫酸処理工程・多層シリカゲルカラム処理工程・活性炭カラム処理からなる前処理を行い、GC−MS/NCIに20μL注入して、実施例1で記載したのと同様の方法により、ダイオキシン類の同定・定量を行った。
【0086】
比較例6は、実施例と同様に採取した実試料を、図4−1、図4−2に示す公定法のフロー図に従って前処理を行った後、高分解能GC−MSで、PCDDs/PCDFs及びCo−PCBsの測定を行った。
【0087】
いずれも試料数はn=10とし、それらの結果を、表8及び図18に示す。図18に示す回帰直線y=1.0198x-17.018の相関係数R=0.9999でああり、本発明法(実施例6)は、十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。さらに、低濃度排ガス(n=8)のみについて、求めた回帰直線y=1.1038x-0.0824も相関係数R=0.9998であり、本発明法は、低濃度でも十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。
【0088】
【表8】
<定量下限値の計測>
なお、本発明の測定方法におけるダイオキシン類標準液を使用して定量下限値を、各成分毎の標準液を7回測定し、得られた標準偏差の10倍を定量下限とした。
【0089】
そして、ダイオキシン類各成分(PCDDs/PCDFs及びCo−PCBs)の定量下限に毒性等価係数(TEF)を乗じた値を合計して、「GC−MS/NCI定量下限」を求めた。
【0090】
さらに、下記式に基づいて固体型試料(焼却倍、土壌、底質)の定量下限を求めた。
【0091】
各試料の定量下限={GC-MS/NCI定量下限(pg-TEQ/μL)/試料採取量}
×{最終定容量(μL)/注入量(μL)}
なお、各試料の採取量は、焼却炉飛灰:1g、土壌:10g、底質:10gであり、最終定容量は、注入量は表9に示した数値とした。
【0092】
上記結果を、各試料における規制値とともに表9に示す。本発明の分析に使用する「GC−MS/NCI法」の定量下限値は、十分に規制値を下回っていることが分かる。
【0093】
【表9】
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1−1】ダイオキシンン類測定公定法における被検体が飛灰又は土壌である場合の前処理工程の前段フロー図である。
【図1−2】同じく後段フロー図である。
【図2−1】ダイオキシンン類測定公定法における被検体が環境水又は排水である場合の前処理工程の前段フロー図である。
【図2−2】同じく後段フロー図である。
【図3−1】ダイオキシンン類測定公定法における被検体が大気である場合の前処理工程前段フロー図である。
【図3−2】同じく後段フロー図である。
【図4−1】ダイオキシンン類測定公定法における被検体が排ガスである場合の前処理工程の前段フロー図である。
【図4−2】同じく後段フロー図である。
【図5−1】本発明のダイオキシンン類測定法における被検体が飛灰又は土壌である場合の前処理工程の一例を示す前段フロー図である。
【図5−2】同じく後段フロー図である。
【図6−1】本発明のダイオキシンン類測定法における被検体が環境水又は排水である場合の前処理工程の一例を示す前段フロー図である。
【図6−2】同じく後段フロー図である。
【図7−1】本発明のダイオキシンン類測定法における被検体が大気である場合の前処理工程の一例を示す前段フロー図である。
【図7−2】同じく後段フロー図である。
【図8−1】ダイオキシンン類測定公定法における被検体が排ガスである場合の前処理工程の一例を示す前段フロー図である。
【図8−2】同じく後段フロー図である。
【図9】本発明で使用するGC−MSの代表例を示す構成図である。
【図10】同じく四重極形装置の概念斜視図である。
【図11】濃度検量線(面積検量線)の一例を示すグラフである。
【図12】本発明の簡易測定法と公定法を被検体が飛灰に適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフ図である。
【図13】同じく土壌に適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフである。
【図14】同じく底質に適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフである。
【図15】同じく環境水に適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフである。
【図16】同じく排水に適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフである。
【図17】同じく大気に適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフである。
【図18】同じく排ガスに適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフである。
【図19】図18のうち、排ガス低濃度におけるものを抽出した相関グラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種被検体、飛灰・土壌・底質等の固体被検体、環境水・排水等の液体被検体、及び、排ガス・大気等の気体被検体等に含まれるダイオキシン類を短期間かつ高精度で測定するダイオキシン類の簡易測定方法に関する。
【0002】
ここで、ダイオキシン類とは、本来のダイオキシンであるポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジキシン類(PCDDs)の他に、ポリ塩化ジベンゾフラン類(PCDFs)、及びコプラナーPCB類(Co−PCBs)を含む概念である。
【0003】
上記ダイオキシン類の各化学式を下記する。
【0004】
【化1】
【0005】
【化2】
【0006】
【化3】
また、本明細書・特許請求の範囲において極性溶媒とは、分子内に電気双極子を有する極性分子からなる有機液体を意味し、極性基を有する有機溶媒に限定されない。
【0007】
なお、「GC−MS」とは、「ガスクロマトグラフ質量分析計(gas-chromatograph-mass spectrometer)」の略号である。
【背景技術】
【0008】
従来、上記のような被検体に含まれるダイオキシン類は、公定法(例えば、非特許文献1・2)に従って、例えば、図1〜4に示す如く、行っていた。
【0009】
しかし、公定法では、前記図1〜4に示す如く、前処理だけで4〜5日要した。
【0010】
このため、前処理工程時間及び分析時間の短縮化が要望されていた。
【0011】
その要望に応えるために、特許文献1には、下記構成のダイオキシン類の分析方法(測定方法)を提案されている(特許請求の範囲)。
【0012】
「被検体を高温かつ高圧力に保持する高速溶媒抽出装置によって該被検体中のダイオキシン類を有機溶媒に抽出させて抽出液を作製する第1工程と、該抽出液中の夾雑物を多層シリカゲルカラム及び活性炭カラムを連結した連結カラムを備えた自動クリーンアップ装置によって除去して前記抽出液からダイオキシン類を精製した後、濃縮して濃縮液を作製する第2工程と、該濃縮液を溶媒除去大量試料注入装置を取付けた高分解能GC−MSに供給し、前記濃縮液中のダイオキシン類を分析する第3工程とを有するダイオキシン類の分析方法。」
しかし、上記特許文献1に記載された方法では、「実施例では、少量の試料を用いて、長期間(約30日間)かかっていたが、短期間(約5日間)で且つ高感度で測定することができた。」(段落0060)と記載されているのみで、前処理方法において基本的構成は類似するも、本発明の効果を奏する特徴的構成については実質的に何ら開示若しくは示唆されていない。
【0013】
また、上記特許文献1で使用する質量分析装置は、公定法と同様の高分解能GC−MSを使用することを前提としており(同特許請求の範囲等参照)、本発明で使用する、四重極形装置のような高分解能に分類されないGC−MSの使用可能性を予定していない。
【0014】
さらに、本発明の質量分析方法として選択する、特許文献2に記載の質量分析方法「被検試料を、揮発性を有する非極性溶媒ないしは極性溶媒で希釈したものをガスクロマトグラフに導入してダイオキシン類の各成分に分離後、質量分析器におけるイオン化として負化学イオン化(NCI)を選定し選択イオン検出(SIM)により測定する」(請求項1参照)を結合させることについて、特許文献1には勿論、特許文献2にも何ら開示若しくは示唆されていない。
【非特許文献1】日本工業規格、JIS K0311−2005「排ガス中のダイオキシン類の測定方法」
【非特許文献2】日本工業規格、JIS K0312−2005「工業用水・工場排水中のダイオキシン類の測定方法」
【特許文献1】特開2007−225283号公報
【特許文献2】特開2004−61485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記にかんがみて、前記先行刊行物に開示若しくは示唆されていない、前処理・分析期間を大幅に短縮でき且つ高分解能GC−MSを使用しなくても信頼性を有する(確からしい)結果が得られ、環境基準のスクリーニング等に好適な新規な構成のダイオキシン類の簡易測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記構成のダイオキシン類の簡易測定方法に想到した。
【0017】
被検体から採取した実試料を有機溶剤による抽出工程後、クリーンアップ工程(夾雑物除去工程)を経た抽出液を定容してガスクロマトグラフ質量分析計(以下「GC−MS」)を用いてダイオキシン類を定量分析する方法であって、前記有機溶剤抽出を、高速溶媒抽出装置で行い、また、質量分析器におけるイオン化として負化学イオン化(NCI)を選択し選択イオン検出(SIM)により測定することを特徴とする。
【0018】
上記ダイオキシン類の測定方法において、抽出工程の有機溶剤抽出に先立ち脱水処理(例えばアセトンで)をすることが望ましい。抽出効率の向上が期待できる。
【0019】
同じく、前記クリーンアップ工程が硫酸処理、多層シリカゲルカラム処理及び活性炭リバースカラム処理を含み、硫酸処理を、硫酸添加して振とう後、遠心分離により行うことを特徴とする。公定法の沈降分離による場合(1日)に比して、格段に硫酸処理時間を短縮(1時間)できる(図1−1と図5−1等参照)。
【0020】
同じく、前記クリーンアップ工程後の展開試料の濃縮・定容してGC−MS注入用試料を調製するに際して、前記濃縮を蒸発による一次濃縮、遠心力による突沸防止しながらの真空蒸発による二次濃縮により行うことを特徴とする。公定法の窒素ガスによる乾固する場合に比して、GC−MS注入液の調製時間を短縮できる(図1−2と図5−2等参照)。
【0021】
同じく、定量の方法として内標準法を用い、該内標準法における内標準物質として13Cラベル化ダイオキシン類を使用することが望ましい。内標準法の方が分析時間を短縮でき、13Cラベル化ダイオキシン類は内標準物質として公定法に使用されているものであり、入手し易い。
【0022】
そして、本発明においては、GC−MSとして、四重極形装置を使用することが、効果が顕著となる。非常に高価な高分解能GC−MSを使用する必要がなく、本発明の効果がより顕著となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の測定方法は、上位概念的に、ダイオキシン類の含有の有無を判定する被検試料を、抽出および前処理操作した後、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いて分析を行うものである。
【0024】
なお、以下の説明で用語及びそれらの説明は、(1)JIS K0311「排ガス中のダイオキシン類の試験方法」(非特許文献1)、(2)JIS K0312「工場排水中のダイオキシン類の試験方法」(非特許文献2)、(3)JIS K0114−2000「ガスクロマトグラフ分析通則」及び(4)JIS K0123−1995「ガスクロマトグラフ質量分析通則」を引用又は参照したものである。以下、参照するときは、それぞれ「JIS(1)」、「JIS(2)」、「JIS(3)」、「JIS(4)」と記す。
【0025】
GC−MSの装置構成は、例えば、図9に示すような構成を備え(JIS(4)p.2)、また、本実施形態では、図10に示すような「四重極形装置」を使用する(同p.3)。「四重極形装置」は、取り扱いが容易で、迅速且つ簡便な分析を担保し易くなる。四重極形装置は高分解能GC−MSに比して、汎用性を有し安価である。
【0026】
被検試料としては、固体試料(飛灰,土壌,底質)・液体(環境水,排水)および気体(排ガス,大気)を挙げることができる。
【0027】
ここで、被検体としては、通常、飛灰,土壌,底質等の固体、環境水,排水等の液体、および排ガス,大気等の気体等の環境基準ないし排出基準の被検体となるものとする。本発明の測定方法の被検体は、上記例示のものに限られず、他の産業廃棄物、さらには、食品、動植物等にも適用できる。本発明者らは、例えば、牛乳やオリーブオイルについてもダイオキシン類の測定を行ったことがある。
【0028】
(1)抽出操作
高速溶媒抽出装置を使用して、被検体採取試料からダイオキシン類成分を溶媒に移行させる。
【0029】
高速溶媒抽出装置とは、採取試料を高温かつ高圧の条件で、有機溶媒中にダイオキシン類を抽出させる高速溶媒抽出(Accelerated Solvent Extraction、ASE)を行う装置のことである。本発明では、高温高圧の条件は、150〜200℃×1300〜1700psi(8.26〜11.7MPa)することが望ましい。抽出時間は、高温高圧の条件により異なるが、1〜2hとする。
【0030】
高速溶媒装置としては、例えば、特許文献1に記載されている「ダイオネクス社製のASE−300(商品名)」を使用することができる。
【0031】
抽出溶媒(抽剤)は、基本的には、非水溶性の極性溶媒を使用することがダイオキシン類の回収率が高くて望ましい。これらの要件を満たす抽出溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系、ヘキサン等の脂肪族系のものを挙げることができる。これらのうちで、トルエン(沸点:110〜112℃、SP値:8.90)がダイオキシン類の回収率が高いことを確認している。
【0032】
さらに、上記極性溶媒で高速溶媒抽出するに先立ち、揮発性の水溶性極性溶媒で脱水処理をしておくことが望ましい。水溶性極性溶媒としては、ケトン類、アルデヒド類、等を挙げることができる。これらのうちで、アセトン(沸点:55〜60℃、SP値:10.0)が望ましい。アセトンは、脱水効果(水混和性)が高くかつ、高揮発性であり、揮発回収(抽出液の濃縮化)が容易なためである(前処理時間の短縮化に寄与する。)。
【0033】
通常、高速溶媒抽出前の試料(被検体)又は高速溶媒抽出後の抽出液に、クリーンアップスパイク(内部標準物質)を添加する。クリーンアップスパイクとしては、通常、公定法(JIS(1)のp6表1、p14表2に規定されている要件を満たす市販品(13Cラベル化ダイオキシン類:少なくとも1種類ずつ)を使用する。
【0034】
なお、上記高速溶媒抽出装置のカラムに充填乃至挿入可能に、採取試料は、被検体の形態(固体、液体、気体)に応じて、抽出用試料前処理を行っておく(各被検体におけるフロー図の図5〜8参照)。
【0035】
このときの溶媒抽出条件は、例えば、表1に示すものとする。液体・気体系試料でも同様である。なお、「ハイドロマトリックス」は、米国バリアン社製の粉体珪藻土の登録商標である。また、酢酸は、飛灰中のアルカリ中和と灰内部からのダイオキシン類を効率よく抽出する目的で使用する。
【0036】
【表1】
(2)クリーンアップ工程(妨害成分/夾雑物除去工程)
これらの前処理は、抽出試料に含まれている各種妨害成分を除去するためのものである。
【0037】
1)硫酸処理(クリーンアップ第一工程)
上記抽出試料に揮発性の無極性溶剤と、硫酸を添加して振とうする。通常、硫酸は市販の濃硫酸(97%:18mol・dm-3)を使用する。
【0038】
その後、遠心分離により硫酸層を除去し、残った有機溶媒層を水洗した後、遠心分離により水層を除去する。こうして、極性妨害成分の除去を行う。公定法の如く、沈降分離でもよいが、遠心分離をすることにより、処理時間の大幅な短縮につながる。公定法の場合、1日を必要とするが(図1−1)、遠心分離を利用することにより、処理時間を大幅に短縮できる(約1時間)(図5−1)。
【0039】
2)多層シリカゲルカラム処理(クリーンアップ第二工程)
硝酸銀添加シリカゲル層と硫酸添加シリカゲル層を持つ多層シリカゲルカラムを用いて妨害成分(例えば、油脂成分や色素等)の除去を行う。ここで、シリカゲル層に硝酸銀や硫酸を添加するのは、硫酸処理で除去できなかった極性妨害成分を吸着除去するためである。
【0040】
シリカゲルカラムは揮発性の無極性溶剤でコンディショニングした後、試料を導入する。すると、第一抽出液中の極性妨害成分は、多層シリカゲルカラムに通過中に硝酸銀添加乃至硫酸シリカゲルに吸着除去される。その後、無極性溶剤で試料を加圧展開(例えば、手動で)する。展開後の試料は濃縮する。ここで、加圧展開するのは、一定の展開速度を得るためである。
【0041】
ここで、揮発性の無極性溶媒としては、沸点100℃以下の無極性溶媒が望ましい。例えば、n−ヘキサン(沸点:68〜71℃)、n−へプタン(沸点:93〜99℃)等、特に、n−ヘキサンを好適に使用できる。
【0042】
3)活性炭リバースカラム処理(クリーンアップ第三工程)
活性炭リバースカラムを用いて、Co−PCBs以外のPCBs(OtherPCBs)を活性炭に吸着させた後、OtherPCBsを選択抽出可能なOtherPCBs抽剤(非水溶性の塩素化炭化水素と揮発性の無極性溶剤の混合溶剤)で妨害成分であるOtherPCBsを溶出除去する。
【0043】
活性炭リバースカラムをダイオキシン類抽剤とOtherPCBs抽剤(無極性溶剤のみ)でコンディショニングした後、カラムに上記2)処理後の試料を導入する。そして、ダイオキシン類とともに活性炭に吸着されたOtherPCBsを、OtherPCBs抽剤でOtherPCBsを溶出除去する。その後、カラムを上下反転させ、ダイオキシン類抽剤(例えばトルエン)でダイオキシン類を加圧展開する。加圧展開の理由は、前述と同様である。
【0044】
OtherPCBs抽剤としては、OtherPCBsを抽出可能であれば特に限定されないが、たとえば、ジクロロメタン/n−へキサン=0.5/29.5〜2/28の混合溶剤を好適に使用できる。.
(3)GC−MS注入用試料調製
展開生成液を蒸発(ロータリーエバポレータ)により一次濃縮後、遠沈管に移し、さらに、窒素雰囲気下で遠心力により突沸によるダイオキシン類の同伴揮散を防ぎながら真空蒸発をさせ、第二次濃縮を行って濃縮を行う。該二次濃縮試料を、シリンジスパイク(内標準物質:13Cラベル化ダイオキシン類)を添加するとともに、定容溶剤で定容・静置してGC−MS注入用試料を調製する。
【0045】
なお、GC−MS注入用試料の定容溶剤は、検量対象であるダイオキシン類を溶解可能でGC−MSのカラム温度(300℃前後)で完全にガス化可能である必要がある。)を有するものなら特に限定されない。
【0046】
通常、試料の経時減容が発生し難い、低揮発性溶媒(高沸点溶媒:120℃以上)で水不溶性のものが望ましい。例えば、キシレン、トルエン等の芳香族系も使用可能であるが、ダイオキシン類と同じ芳香環を含まない、オクタン(126℃)、沸点:ノナン(沸点:150℃)、デカン(沸点:174℃)、等の脂肪族系炭化水素を好適に使用できる。
【0047】
(4)測定・定量
イオン化は負化学イオン化(NCI)とし、選択イオン検出(SIM)でそれぞれのダイオキシン類各種類毎の質量数をモニターする。すなわち、ガスクロマトグラフで分画(分離)されたダイオキシン類の各成分をイオン化部でイオン化させて四重極などの質量分離部へ導入する、内標準物質として13Cラベル化ダイオキシン類化合物(JIS(1))を被検体試料に添加した場合は、被検体から抽出・クリーンアップされたダイオキシン類(12C)に加えて、13Cラベル化ダイオキシン類(内標準物質)が検出部へ導入される。
【0048】
また、NCIに際しての、イオン源温度は、高い方が、イオン化部で発生するダイオキシン類の各種類ごとのイオン量が増大し感度が高くなって望ましい。したがって、通常、質量分析器の最高温度である250℃近くである、200〜250℃の温度の範囲で設定する。
【0049】
GC/MS−NCIによる測定時のガス量は、多量に流したほうが、感度が高い。しかし、多量に流すと質量分析部の真空度が低下するため、安定して測定できる量、例えば、1.5〜2.53mL/min、望ましくは、2mL/min前後とする。
【0050】
また、測定の方法として選択イオン検出(SIM)を用いるのは、前述の如く、内標準物質として13Cにラベル化されたダイオキシン類化合物を添加して、試料及び内標準物質(クリーンアップスパイク、シリジンスパイク)のみを検出部に導入するためであり、ダイオキシン類の選択性を向上させ、S/N比(シグナルとノイズの比)高くすることで感度が良好となるためである。
【0051】
定量法としては、内標準法(JIS(4)p15・16)を用いる。これらの内で、内標準法が、質量分析器の感度変動を補正することが容易である。
【0052】
そして、内標準法を選定する場合、内標準物質としては、定容溶媒に溶解可能で、例えば、前述の13Cラベル化ダイオキシン類を好適に使用できる。
【0053】
分析に使用するGC−MSとしては、特に限定されないが、前述の如く、四重極形装置が、取り扱いが容易で、本発明の方法の特徴である迅速かつ簡便である利点がより生かされるため、好ましい。
【0054】
以下に、本発明のGC−MSの測定法の具体例について、説明する。
【0055】
GC−MSの測定条件の一例を表2に示す。ここで、注入口にはPTV(Programmable Temperature Vaporizer)を使用している。PTVは注入口内部で一旦試料を保持し、温度を高くすることで濃縮操作を行うもので、通常の注入量1〜2μLに対して20μLの注入が可能である。濃縮効果により低濃度測定が可能となる。また、カラムはDB−5MS1本を使用してすべてのダイオキシン類を分離する。数種類のカラムと反応ガスを検討し、TEFを持つ測定対象とされるダイオキシン類すべてのピークを分離できる条件を設定することで時間短縮を図っている。なお、公定法では3本のカラムを使用する。
【0056】
ここで、「TEF」とは、「最も毒性が強いとされている2,3,7,8-TeCDDを1としてダイオキシン類毎の毒性に応じて設定されている毒性等価係数のこと」である。また、「TEQ」とは「ダイオキシン濃度にTEF(毒性等価係数)を乗じて得られる毒性等量のこと」である。
【0057】
【表2】
定量は、ダイオキシン類各種類の標準液(濃度既知)と、それに対応する内標準物質(13Cラベル化ダイオキシン類)のピーク面積比をあらかじめ測定し検量線としておく。実際の測定時、前処理の前に試料中に添加される内標準物質(クリーンアップスパイク)と測定対象ダイオキシンとのピーク面積比を読みとり、検量線法を用いて濃度を算出する。
【0058】
ダイオキシン類の同定は、ダイオキシン類混合標準液(JIS(3)p23表4参照)についてGC−MS/NCIで測定し得られるダイオキシン類各種類毎のピークについて、クリーンアップスパイク(13Cラベル化ダイオキシン類:内標準物質)のピークと比較して行った。
【0059】
すなわち、測定対象ピークとクリーンアップスパイク(13Cラベル化ダイオキシン類)されたとの、ピークの保持時間,m/zのズレ(理論的にダイオキシン類炭素数分12ずれる)などからダイオキシン類ピークを同定する。
【0060】
なお、ダイオキシン類の定量については非特許文献1(JIS(1))「JIS K0311-2005“排ガス中のダイオキシン類の測定方法”」,非特許文献2(JIS(2))「JIS K0312-2005“工業用水・工場排水中のダイオキシン類の測定方法”」に記載されている定量方法と同様の検量線法を簡略化して使用する。
【0061】
各種類毎のダイオキシン類標準液を段階的濃度に希釈した試料を作成し、それに一定量の内標準物質(13Cラベル化ダイオキシン類)を添加混合する。これをGC−MSに注入し、測定を行う。標準液と内標準物質(13Cラベル化ダイオキシン類)のピーク面積の比を算出(12C/13C)し、x軸にプロットする。それに対応する標準液濃度をy軸にプロットし、濃度検量線を作成する。濃度検量線はダイオキシン類の種類(PCDDs、PCDFs及びCo−PCBs、毎に作成する。図11にPCDDsの濃度検量線(面積検量線)の一例を示す。
【0062】
実際の測定時には、試料と、前処理前に試料に一定量(検量線作成時と同量)添加される内標準物質(クリーンアップスパイク)のピーク面積を読みとり、ピーク面積比を算出(試料/内標準物質)し、前述の検量線の傾きに照らし合わせて濃度とする。
【0063】
得られたダイオキシン類各種類毎の濃度にTEFを乗じて個々のダイオキシンTEQ(毒性等量)濃度とし、これを合計することでダイオキシン類濃度(pg−TEQ/g)とする。
【0064】
(5)本発明の技術的なポイントを下記にまとめる。
【0065】
煩雑で長時間を要するダイオキシン類の測定方法において、本発明の前処理および分析方法は、前処理から測定までを短期間(約1日)で行うことができる方法である。この方法は固体被検試料(飛灰・土壌・底質),液体被検試料(環境水・排水)および気体被検試料(排ガス・大気)における環境基準等のスクリーニングに適用するにあたり、十分な測定感度を持っている。特長を以下に示す。
【0066】
1)短期間で分析可能である。前処理から測定まで約1日で実施可能である。
【0067】
2)妨害成分による影響を少なくできる。ガスクロマトグラフ質量分析装置(以下「GC−MS」という)のイオン化に負化学イオン化(以下「NCI」という)を使うことにより、目的とするイオンの選択性が高くなるため妨害成分の影響を受けにくく、ダイオキシン類のクロマトピークの同定(ダイオキシン類ピークとその他の判別)がしやすい。
【0068】
3)ダイオキシン類などに高い感度を持っている。NCIは、ダイオキシン類が持つ塩素等ハロゲンに高い感度を持っているため、低濃度の分析が可能である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の効果を確認するために、公定法(比較例)とともに行った実施例について説明する。
【0070】
<実施例1、比較例1:飛灰の測定例>
飛灰の実試料(n=18)を1g量りとり、酢酸を10ml添加後超音波処理を15分行った。その後、図5−1、図5−2に示すフロー図に従って、抽出工程・硫酸処理工程・多層シリカゲルカラム処理工程・活性炭カラム処理からなる前処理を行い、GC−MS/NCIに20μL注入して、前記方法に準じてダイオキシン類の同定・定量を行った。
【0071】
比較例1は、実施例1と同一試料について、図1−1、図1−2に示す公定法のフロー図に従って前処理を行った後、高分解能GC−MSで、PCDDs/PCDFs及びCo−PCBsの測定を行った。
【0072】
それらの結果を表3及び両者の相関グラフを図12に示す。図12に示す回帰直線y=0.9299x+62.454の相関係数R=0.9905であり、本発明法(実施例1)は、十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。
【0073】
【表3】
<実施例2、比較例2:土壌の測定例>
実施例2は、土壌の実試料(n=10)を10g量りとり、実施例1と同様にして、抽出工程・硫酸処理工程・多層シリカゲルカラム処理工程・活性炭カラム処理からなる前処理を行い、ダイオキシン類の同定・定量を行った。
【0074】
比較例2は、実施例2と同一試料について、比較例1と同様にして、公定法による前処理を行った後、高分解能GC−MSで、PCDDs/PCDFs及びCo−PCBsの測定を行った。
【0075】
それらの結果を、表4及び図13に示す。図13に示す回帰直線y=1.1258x+2.5848の相関係数R=0.9943であり、本発明法(実施例2)は、十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。
【0076】
【表4】
<実施例3、比較例3:底質の測定例>
実施例3は、底質の実試料(n=10)を10g量りとり、実施例1と同様にして、抽出工程・硫酸処理工程・多層シリカゲルカラム処理工程・活性炭カラム処理からなる前処理を行い、GC−MS/NCIに20μL注入して、ダイオキシン類の同定・定量を行った。
【0077】
比較例3は、同一の底質の実試料(n=10)について、比較例1と同様にして、前処理を行った後、高分解能GC−MSで、PCDDs/PCDFs及びCo−PCBsの測定を行った。
【0078】
それらの結果を、表5及び図14に示す。図14に示す回帰直線y=1.0279x+0.2177の相関係数R=0.9798であり、本発明法(実施例2)は、十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。
【0079】
【表5】
<実施例4、比較例4:環境水・排水の測定例>
実施例4は、環境水40L,排水10Lを採取し、固層ディスクで濾過した後、図6−1、図6−2のフロー図に従って、抽出工程・硫酸処理工程・多層シリカゲルカラム処理工程・活性炭カラム処理からなる前処理を行い、GC−MS/NCIに20μL注入し、実施例1と同様の方法により、ダイオキシン類の同定・定量を行った。
【0080】
比較例4は、実施例と同様に採取した実試料を、図2−1、図2−2に示す公定法のフロー図に従って前処理を行った後、高分解能GC−MSで、PCDDs/PCDFs及びCo−PCBsの測定を行った。
【0081】
いずれも試料数はn=10とし、それらの結果を、表6及び図15(環境水)、図16(排水)に示す。図15に示す回帰直線y=1.0386x-0.0056の相関係数R=0.9909であり、また、図16に示す回帰直線y=1.1226x-0.0264の相関係数R=0.9991であり、本発明法(実施例4)は、十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。
【0082】
【表6】
<実施例5、比較例5:大気の測定例>
実施例5は、ハイボリウムサンプラーで、試料スポンジを採取後、図7−1、図7−2のフロー図に従って、抽出工程・硫酸処理工程・多層シリカゲルカラム処理工程・活性炭カラム処理からなる前処理を行い、GC−MS/NCIに20μL注入し、実施例1と同様の方法により、ダイオキシン類の同定・定量を行った。
【0083】
比較例5は、実施例と同様に採取した実試料を、図3−1、図3−2に示す公定法のフロー図に従って前処理を行った後、高分解能GC−MSで、PCDDs/PCDFs及びCo−PCBsの測定を行った。
【0084】
いずれも試料数はn=10とし、それらの結果を、表7及び図17に示す。図17に示す回帰直線y=1.11485x-0.0136の相関係数R=0.9574であり、本発明法(実施例5)は、十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。
【0085】
【表7】
<実施例6、比較例6:排ガスの測定例>
実施例6は、排ガスについては試料通過後の樹脂(吸着剤:スチレンジビニルベンゼン共重合体)を採取した後、ガラス器具洗浄液からも採取し、図8−1、図8−2のフロー図に従って、抽出工程・硫酸処理工程・多層シリカゲルカラム処理工程・活性炭カラム処理からなる前処理を行い、GC−MS/NCIに20μL注入して、実施例1で記載したのと同様の方法により、ダイオキシン類の同定・定量を行った。
【0086】
比較例6は、実施例と同様に採取した実試料を、図4−1、図4−2に示す公定法のフロー図に従って前処理を行った後、高分解能GC−MSで、PCDDs/PCDFs及びCo−PCBsの測定を行った。
【0087】
いずれも試料数はn=10とし、それらの結果を、表8及び図18に示す。図18に示す回帰直線y=1.0198x-17.018の相関係数R=0.9999でああり、本発明法(実施例6)は、十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。さらに、低濃度排ガス(n=8)のみについて、求めた回帰直線y=1.1038x-0.0824も相関係数R=0.9998であり、本発明法は、低濃度でも十分に確からしい測定結果が得られることが確認できた。
【0088】
【表8】
<定量下限値の計測>
なお、本発明の測定方法におけるダイオキシン類標準液を使用して定量下限値を、各成分毎の標準液を7回測定し、得られた標準偏差の10倍を定量下限とした。
【0089】
そして、ダイオキシン類各成分(PCDDs/PCDFs及びCo−PCBs)の定量下限に毒性等価係数(TEF)を乗じた値を合計して、「GC−MS/NCI定量下限」を求めた。
【0090】
さらに、下記式に基づいて固体型試料(焼却倍、土壌、底質)の定量下限を求めた。
【0091】
各試料の定量下限={GC-MS/NCI定量下限(pg-TEQ/μL)/試料採取量}
×{最終定容量(μL)/注入量(μL)}
なお、各試料の採取量は、焼却炉飛灰:1g、土壌:10g、底質:10gであり、最終定容量は、注入量は表9に示した数値とした。
【0092】
上記結果を、各試料における規制値とともに表9に示す。本発明の分析に使用する「GC−MS/NCI法」の定量下限値は、十分に規制値を下回っていることが分かる。
【0093】
【表9】
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1−1】ダイオキシンン類測定公定法における被検体が飛灰又は土壌である場合の前処理工程の前段フロー図である。
【図1−2】同じく後段フロー図である。
【図2−1】ダイオキシンン類測定公定法における被検体が環境水又は排水である場合の前処理工程の前段フロー図である。
【図2−2】同じく後段フロー図である。
【図3−1】ダイオキシンン類測定公定法における被検体が大気である場合の前処理工程前段フロー図である。
【図3−2】同じく後段フロー図である。
【図4−1】ダイオキシンン類測定公定法における被検体が排ガスである場合の前処理工程の前段フロー図である。
【図4−2】同じく後段フロー図である。
【図5−1】本発明のダイオキシンン類測定法における被検体が飛灰又は土壌である場合の前処理工程の一例を示す前段フロー図である。
【図5−2】同じく後段フロー図である。
【図6−1】本発明のダイオキシンン類測定法における被検体が環境水又は排水である場合の前処理工程の一例を示す前段フロー図である。
【図6−2】同じく後段フロー図である。
【図7−1】本発明のダイオキシンン類測定法における被検体が大気である場合の前処理工程の一例を示す前段フロー図である。
【図7−2】同じく後段フロー図である。
【図8−1】ダイオキシンン類測定公定法における被検体が排ガスである場合の前処理工程の一例を示す前段フロー図である。
【図8−2】同じく後段フロー図である。
【図9】本発明で使用するGC−MSの代表例を示す構成図である。
【図10】同じく四重極形装置の概念斜視図である。
【図11】濃度検量線(面積検量線)の一例を示すグラフである。
【図12】本発明の簡易測定法と公定法を被検体が飛灰に適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフ図である。
【図13】同じく土壌に適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフである。
【図14】同じく底質に適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフである。
【図15】同じく環境水に適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフである。
【図16】同じく排水に適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフである。
【図17】同じく大気に適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフである。
【図18】同じく排ガスに適用した場合におけるダイオキシン類分析結果の相関グラフである。
【図19】図18のうち、排ガス低濃度におけるものを抽出した相関グラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体から採取した実試料を有機溶剤による抽出工程後、クリーンアップ工程(夾雑物除去工程)を経た抽出液を定容してガスクロマトグラフ質量分析計(以下「GC−MS」)を用いてダイオキシン類を定量分析する測定方法であって、
前記有機溶剤抽出を、高速溶媒抽出装置で行い、また、
質量分析器におけるイオン化として負化学イオン化(NCI)を選択し選択イオン検出(SIM)により測定することを特徴とする。
【請求項2】
請求項1記載のダイオキシン類の測定方法において、前記抽出工程の有機溶剤抽出に先立ち脱水処理をすることを特徴とする。
【請求項3】
請求項2記載のダイオキシン類の測定方法において、前記脱水処理をアセトンで行うことを特徴とする。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のダイオキシン類の測定方法において、前記クリーンアップ工程が硫酸処理、多層シリカゲルカラム処理及び活性炭リバースカラム処理を含み、
前記硫酸処理を、硫酸添加して振とう後、遠心分離により行うことを特徴とする。
【請求項5】
請求項4記載のダイオキシン類の測定方法において、前記クリーンアップ工程後の展開試料の濃縮・定容してGC−MS注入用試料を調製するに際して、前記濃縮を蒸発による一次濃縮、遠心力により突沸防止をしながらの真空蒸発による二次濃縮により行うことを特徴とする。
【請求項6】
請求項5記載のダイオキシン類の測定方法において、定量の方法として内標準法を用い、該内標準法における内標準物質として13Cラベル化ダイオキシン類を使用することを特徴とする。
【請求項7】
請求項6記載のダイオキシン類の測定方法において、前記ガスクロマトグラフ質量分析計が四重極形装置であることを特徴とする。
【請求項8】
請求項1、2又は3記載のダイオキシン類の測定方法において、定量の方法として内標準法を用い、該内標準法における内標準物質として13Cラベル化ダイオキシン類化合物を使用することを特徴とする。
【請求項9】
請求項8記載のダイオキシン類の測定方法において、前記ガスクロマトグラフ質量分析計が四重極形装置であることを特徴とする。
【請求項1】
被検体から採取した実試料を有機溶剤による抽出工程後、クリーンアップ工程(夾雑物除去工程)を経た抽出液を定容してガスクロマトグラフ質量分析計(以下「GC−MS」)を用いてダイオキシン類を定量分析する測定方法であって、
前記有機溶剤抽出を、高速溶媒抽出装置で行い、また、
質量分析器におけるイオン化として負化学イオン化(NCI)を選択し選択イオン検出(SIM)により測定することを特徴とする。
【請求項2】
請求項1記載のダイオキシン類の測定方法において、前記抽出工程の有機溶剤抽出に先立ち脱水処理をすることを特徴とする。
【請求項3】
請求項2記載のダイオキシン類の測定方法において、前記脱水処理をアセトンで行うことを特徴とする。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のダイオキシン類の測定方法において、前記クリーンアップ工程が硫酸処理、多層シリカゲルカラム処理及び活性炭リバースカラム処理を含み、
前記硫酸処理を、硫酸添加して振とう後、遠心分離により行うことを特徴とする。
【請求項5】
請求項4記載のダイオキシン類の測定方法において、前記クリーンアップ工程後の展開試料の濃縮・定容してGC−MS注入用試料を調製するに際して、前記濃縮を蒸発による一次濃縮、遠心力により突沸防止をしながらの真空蒸発による二次濃縮により行うことを特徴とする。
【請求項6】
請求項5記載のダイオキシン類の測定方法において、定量の方法として内標準法を用い、該内標準法における内標準物質として13Cラベル化ダイオキシン類を使用することを特徴とする。
【請求項7】
請求項6記載のダイオキシン類の測定方法において、前記ガスクロマトグラフ質量分析計が四重極形装置であることを特徴とする。
【請求項8】
請求項1、2又は3記載のダイオキシン類の測定方法において、定量の方法として内標準法を用い、該内標準法における内標準物質として13Cラベル化ダイオキシン類化合物を使用することを特徴とする。
【請求項9】
請求項8記載のダイオキシン類の測定方法において、前記ガスクロマトグラフ質量分析計が四重極形装置であることを特徴とする。
【図1−1】
【図1−2】
【図2−1】
【図2−2】
【図3−1】
【図3−2】
【図4−1】
【図4−2】
【図5−1】
【図5−2】
【図6−1】
【図6−2】
【図7−1】
【図7−2】
【図8−1】
【図8−2】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図1−2】
【図2−1】
【図2−2】
【図3−1】
【図3−2】
【図4−1】
【図4−2】
【図5−1】
【図5−2】
【図6−1】
【図6−2】
【図7−1】
【図7−2】
【図8−1】
【図8−2】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−97886(P2009−97886A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267019(P2007−267019)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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