説明

ダイオキシン類分析用試料の調製方法および調製装置

【課題】 ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から、バイオアッセイ法による分析に適した信頼性の高い親水性のダイオキシン類分析用試料を容易にかつ短時間で調製する。
【解決手段】 シリカゲル系充填材22aを充填した後段カラム22へダイオキシン類のヘキサン溶液を供給し、当該ヘキサン溶液が供給された後段カラム22に対して第一溶媒供給部60からジクロロメタン含有ヘキサンを供給する。後段カラム22へ供給されたジクロロメタン含有ヘキサンは、ヘキサン溶液中のダイオキシン類を溶解しながら後段カラム22を通過し、アルミナ系充填材30aを充填した溶媒置換用カラム30を通過する。ジクロロメタン含有ヘキサンに溶解したダイオキシン類は、アルミナ系充填材30aに捕捉される。溶媒置換用カラム30に対し、ジクロロメタン含有ヘキサンの通過方向とは逆方向へ第二溶媒供給部70からジメチルスルホキシドを供給して通過させ、それを確保すると、目的の分析用試料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用試料の調製方法および調製装置、特に、ダイオキシン類分析用試料の調製方法および調製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオキシン類は毒性の強い環境汚染物質であることから、ダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号)は、廃棄物焼却施設からの排気ガス、大気、工場排水や河川水などの水、廃棄物焼却施設において発生する飛灰(フライアッシュ)および土壌等に含まれるダイオキシン類を定期的に分析することを義務付けている。ここで、本願における「ダイオキシン類」の用語は、ダイオキシン類対策特別措置法第2条の規定に倣い、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDDs)およびポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)に加え、コプラナーポリ塩化ビフェニル(Co−PCBs)を含む意味として用いる。
【0003】
排気ガスや水等の流体中や土壌中に含まれるダイオキシン類を分析する場合は、先ず、排気ガスや土壌等の検体中に含まれるダイオキシン類を分析用試料として採取する必要がある。例えば、排気ガス中に含まれるダイオキシン類の分析用試料を採取する方法として、非特許文献1に記載されたガラス製インピンジャーを用いる方法や特許文献1、2および3等に記載のフイルタを用いる方法が知られている。これらの方法において、一般に、ダイオキシン類の分析用試料は、最終的にトルエンやn−ヘキサン等の疎水性溶媒を用いた数十〜百数十ミリリットルの抽出液として得られる。得られた抽出液は、多層シリカゲルカラム等を用いて精製処理された後、通常、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用いて分析される。
【0004】
ところで、ダイオキシン類は、多種類の化合物の総称であり、毒性の強いものと弱いものとが存在している。したがって、ダイオキシン類の分析は、全体的な定量的評価をするよりも、毒性等量(TEQ値)として定量化し、それに基づいて評価する方が実用的で有益な場合が多い。そこで、ダイオキシン類のTEQ値を簡便かつ迅速に評価するための方法として、イムノアッセイ法(例えばELISA法)、EROD法およびDR−CALUX法等のバイオアッセイ法が提案されている(例えば、特許文献4および非特許文献2〜9参照)。
【0005】
バイオアッセイ法は、抗原抗体反応等の生体反応を応用した分析手法であり、それを実施するためには、採取したダイオキシン類を少量の親水性溶媒溶液に溶解した分析用試料が必要になる。この分析用試料を調製するためには、通常、疎水性溶媒を用いた上述の抽出液、すなわちダイオキシン類の疎水性溶媒溶液を多層シリカゲルカラム等を用いて精製処理した後、ダイオキシン類を溶解している疎水性溶媒をジメチルスルホキシド(DMSO)やアルコール等のバイオアッセイ法に適した親水性溶媒に置換し、また、これにより得られたダイオキシン類の親水性溶媒溶液を数ミリリットル程度若しくは1ミリリットル以下の少量に濃縮する必要がある。
【0006】
ところで、上述の抽出液において疎水性溶媒を親水性溶媒に置換すると共に濃縮するための方法は、例えば、非特許文献8および非特許文献9に記載されている。これらの文献に記載の方法では、基本的に、精製後の抽出液からエバポレーターを用いて減圧下で疎水性溶媒を除去し、その残留物(すなわち、ダイオキシン類試料)へDMSO等の親水性溶媒を少量加えて残留物を溶解している。また、必要に応じ、得られた親水性溶媒溶液へ窒素ガスを吹き付け、当該親水性溶媒溶液をさらに濃縮している。これにより、目的の試料、すなわち、バイオアッセイ法に適した親水性のダイオキシン類分析用試料が得られる。
【0007】
しかし、非特許文献8、9に記載の方法は、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から疎水性溶媒を除去するための操作と、疎水性溶媒を除去後のダイオキシン類試料を親水性溶媒に溶解するための操作とを個別に手作業で実施する必要があるため、操作が煩雑であり、ダイオキシン類の分析用試料を入手するまでに長時間を要する。また、この分析用試料は、操作者の技術の巧拙によりダイオキシン類濃度が変動する可能性があるため、分析値の精度が一定とならない等、信頼性を欠く場合が多い。さらに、上述の抽出液、すなわち、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液は、多層シリカゲルカラム等による精製後であっても、ポリ塩化ナフタレン等のダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類を不純物として含む場合がある。ダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類は、抽出液の疎水性溶媒を親水性溶媒に置換した後も残留し、ダイオキシン類と同様に抗体やAhレセプターと交差反応性を有するため、バイオアッセイ法においてダイオキシン類のTEQ値を過大評価させる要因になり、分析結果の信頼性を損なう可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から、信頼性の高い親水性のダイオキシン類分析用試料を容易にかつ短時間で調製することにある。
【0009】
【非特許文献1】1999年9月20日制定の日本工業規格JIS K 0311:1999
【非特許文献2】和光純薬工業株式会社「ダイオキシンELISAキットワコー」の商品情報、[平成17年3月8日検索]、インターネット<URL:http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/journal/anal/pdf/anal27.pdf>
【非特許文献3】コスモ・バイオ株式会社「イムノエコDXN」の技術資料、[平成17年3月17日検索]、インターネット<URL:http://search.cosmobio.co.jp/cosmo_search_p/search_gate2/docs/CRI_EDXN.20030206.pdf>
【非特許文献4】米国ケープテクノロジーズ社(CAPE Technologies L.L.C.)の「DF1 ダイオキシン/フラン イムノアッセイキット用インサート(Insert for DF1 Dioxin/Furan Immunoassay Kit)」、[平成17年3月8日検索]、インターネット<URL:http://www.cape-tech.com/IN-DF1.pdf>
【非特許文献5】東洋紡績株式会社「Dioxin ELISA Kit」の商品情報、[平成17年3月8日検索]、インターネット<URL:http://www.toyobo.co.jp/seihin/xr/olul/upld71/new/dioxinelis71nr06.pdf>
【非特許文献6】株式会社クボタ「Ahイムノアッセイ」の商品情報、[平成17年3月8日検索]、インターネット<URL:http://tdh.kubota.co.jp/ahi/main1.html>
【非特許文献7】和光純薬工業株式会社「DIOXIN RISc TEST」の商品情報、[平成17年3月17日検索]、インターネット<URL:http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/info/env/pdf/dioxin.pdf>
【非特許文献8】「ダイオキシン類の脱塩素化処理におけるバイオアッセイモニタリング」、第11回環境化学討論会講演要旨集、日本環境化学会、2002年6月3日〜5日、430−431頁
【非特許文献9】Organohalogen Compounds,45,200−203(2000)
【0010】
【特許文献1】特許第3273796号公報
【特許文献2】WO01/91883号公報
【特許文献3】特開2004−53388
【特許文献4】特開2001−226371公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るダイオキシン類分析用試料の調製方法は、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から親水性のダイオキシン類分析用試料を調製するための方法であり、シリカゲル系充填材を充填した第一カラムへダイオキシン類の疎水性溶媒溶液を供給する工程と、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液が供給された第一カラムに対してジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を供給して通過させる工程と、アルミナ系充填材を充填した第二カラムへ第一カラムを通過後のジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を供給して通過させる工程と、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒が通過後の第二カラムに対し、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒の通過方向とは逆方向へダイオキシン類を溶解可能な親水性溶媒を供給して通過させる工程と、第二カラムを通過した親水性溶媒を確保する工程とを含んでいる。
【0012】
この調製方法において、第一カラムへ供給された疎水性溶媒溶液中のダイオキシン類は、第一カラムに対して供給されるジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒に溶解し、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒と共に第一カラムを通過する。この際、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒に含まれる不純物は、ポリ塩化ナフタレン等のダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類を除き、シリカゲル系充填材により捕捉され、第一カラム内に留まる。第一カラムを通過したジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を第二カラムへ供給すると、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒に溶解したダイオキシン類は、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒が第二カラムを通過する際にアルミナ系充填材により捕捉され、第二カラム内に留まる。そして、アルミナ系充填材により捕捉されたダイオキシン類は、第二カラムに対し、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒の通過方向とは逆方向へ親水性溶媒を供給して通過させると、当該親水性溶媒に溶解し、抽出される。したがって、第二カラムに対して供給した親水性溶媒を第二カラムの通過後に確保すると、ダイオキシン類の親水性分析用試料が得られる。
【0013】
ここで、第一カラムから第二カラムに対して供給されたジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒に溶解しているダイオキシン類は、第二カラムにおいて、主に、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒の流入側端部付近に留まる。したがって、このダイオキシン類は、第二カラムに対し、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒の通過方向とは逆方向へ通過する少量の親水性溶媒に溶解し、第二カラムから容易に抽出される。したがって、この調製方法により得られる親水性のダイオキシン類分析用試料は、余分な親水性溶媒を含まず、少量に設定される。
【0014】
因みに、第一カラムから第二カラムに対して供給されたジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒に含まれるダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類は、アルミナ系充填材により捕捉されず、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒と共に第二カラムを通過する。このため、上述の方法により得られるダイオキシン類の親水性分析用試料は、ダイオキシン類の分析を阻害する可能性のあるダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類を実質的に含まず、信頼性が高い。
【0015】
この調製方法では、通常、第二カラムへ親水性溶媒を供給する前に、第二カラムに対して不活性ガスを供給する工程をさらに含んでいる。この場合、親水性溶媒を供給する前の第二カラムに残留するジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を不活性ガスの気流により除去することができるため、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を不純物として含みにくい親水性の分析用試料を得ることができる。
【0016】
また、この調製方法においては、例えば、第二カラムを加熱しながら第二カラムに対して親水性溶媒を供給することができる。このようにすると、第二カラムにおいて捕捉されたダイオキシン類をより少量の親水性溶媒で抽出することができる。
【0017】
本発明に係るダイオキシン類分析用試料の調製装置は、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から親水性のダイオキシン類分析用試料を調製するためのものであり、シリカゲル系充填材を充填した第一カラムと、アルミナ系充填材を充填した第二カラムと、第一カラムへダイオキシン類の疎水性溶媒溶液を供給するための供給路と、第一カラムへジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を供給するための第一溶媒供給部と、第一カラムからのジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を第二カラムに対して供給するためのカラム連絡路と、第二カラムに対し、ダイオキシン類を溶解可能な親水性溶媒を供給するための第二溶媒供給部と、第二カラムを通過した親水性溶媒を排出するための排出路とを備えている。ここで、第二溶媒供給部は、カラム連絡路から第二カラムに対するジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒の供給方向とは逆方向に、第二カラムに対して親水性溶媒を供給可能に設定されている。
【0018】
この調製装置において、供給路から第一カラムへ供給された疎水性溶媒溶液中のダイオキシン類は、第一溶媒供給部から第一カラムへ供給されるジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒に溶解し、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒と共に第一カラムを通過する。この際、疎水性溶媒溶液に含まれる不純物は、ポリ塩化ナフタレン等のダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類を除き、シリカゲル系充填材により捕捉され、第一カラム内に留まる。第一カラムを通過後、カラム連絡路を通じて第二カラムへ供給されたジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒に溶解しているダイオキシン類は、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒が第二カラムを通過する際にアルミナ系充填材により捕捉され、第二カラム内に留まる。そして、第二溶媒供給部から第二カラムに対してジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒の通過方向とは逆方向へ親水性溶媒を供給すると、アルミナ系充填材に捕捉されたダイオキシン類は、当該親水性溶媒に溶解して抽出され、親水性のダイオキシン類分析用試料として排出路から排出される。
【0019】
ここで、第一カラムから第二カラムに対して供給されたジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒に溶解しているダイオキシン類は、第二カラムにおいて、主に、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒の流入側端部付近に留まる。したがって、このダイオキシン類は、第二カラムに対し、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒の通過方向とは逆方向へ通過する少量の親水性溶媒に溶解し、第二カラムから容易に抽出される。したがって、この調製装置により得られる親水性のダイオキシン類分析用試料は、余分な親水性溶媒を含まず、少量に設定される。
【0020】
因みに、第一カラムから第二カラムに対して供給されたジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒に含まれるダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類は、アルミナ系充填材により捕捉されず、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒と共に第二カラムを通過する。このため、この調製装置により得られるダイオキシン類の親水性分析用試料は、ダイオキシン類の分析を阻害する可能性のあるダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類を実質的に含まず、信頼性が高い。
【0021】
この調製装置は、通常、第二カラムに対して不活性ガスを供給するためのガス供給部をさらに備えている。この場合、親水性溶媒を供給する前の第二カラムに残留する疎水性溶媒を不活性ガスの気流により除去することができるため、疎水性溶媒を不純物として含みにくい親水性の分析用試料を得ることができる。
【0022】
また、この調製装置は、例えば、第二カラムの加熱手段をさらに備えていてもよい。この場合、第二カラムを加熱しながら第二カラムに対して親水性溶媒を供給することができるため、第二カラムにおいて捕捉されたダイオキシン類をより少量の親水性溶媒で抽出することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るダイオキシン類の分析用試料調製方法は、上述の工程を含んでいるため、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から、信頼性の高い親水性のダイオキシン類分析用試料を容易にかつ短時間で調製することができる。
【0024】
また、本発明に係るダイオキシン類の分析用試料調製装置は、上述の構成要素を備えているため、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から、信頼性の高い親水性のダイオキシン類分析用試料を容易にかつ短時間で調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1を参照して、本発明に係るダイオキシン類分析用試料の調製装置の一形態を説明する。図において、調製装置1は、試料供給路(供給路の一例)10、精製用カラム20、溶媒置換用カラム30(第二カラムの一例)、カラム連絡路40、溶媒排出路50、第一溶媒供給部60、第二溶媒供給部70およびガス供給部80を主に備えている。
【0026】
試料供給路10は、精製用カラム20に対し、後述するダイオキシン類の疎水性溶媒溶液を供給するためのものであり、第一切替弁11を有している。
【0027】
精製用カラム20は、前段カラム21と後段カラム22(第一カラムの一例)との二つのカラムを上下に連結したものである。前段カラム21は、上下方向に開口しており、かつ、上部側の開口部に試料供給路10が連絡しており、試料供給路10からの疎水性溶媒溶液を一時的に保持するための粒状の保持材21aが充填されている。保持材21aは、疎水性溶媒溶液を粒子の隙間で保持することができ、また、後述するジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を供給した場合に疎水性溶媒溶液中のダイオキシン類を溶出することができるものであれば各種のものを用いることができるが、例えば、シリカゲル、アルミナ、珪藻土および硫酸ナトリウムを用いるのが好ましい。これらの保持材21aは、必要に応じて二種類以上のものが混合して用いられてもよい。
【0028】
一方、後段カラム22は、疎水性溶媒溶液からダイオキシン類以外の不純物(但し、ポリ塩化多環芳香族炭化水素類を除く)を除去するためのものであり、上下方向に開口しており、かつ、シリカゲル系充填材22aが充填されている。シリカゲル系充填材22aは、疎水性溶媒溶液に含まれる上述の不純物を捕捉することができるものであれば、特に限定されるものではないが、通常は、シリカゲル、硝酸銀シリカゲル若しくは硫酸シリカゲルを用いるのが好ましい。これらのシリカゲル系充填材22aは、二種類以上のものが併用されてもよい。この場合、シリカゲル系充填材22aは、後段カラム22において、二種類以上のものを混合した状態で充填されていてもよいし、二種類以上のものが多層に充填されていてもよい。
【0029】
溶媒置換用カラム30は、後述するジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒に溶解しているダイオキシン類を捕捉するためのアルミナ系充填材30aを充填したものであり、上下方向に開口しており、かつ、ヒーター等の第一加熱装置31を備えている。アルミナ系充填材30aは、その種類が限定されるものではないが、通常、塩基性アルミナ、中性アルミナおよび酸性アルミナのいずれかを用いることができる。
【0030】
カラム連絡路40は、精製用カラム20の後段カラム22と溶媒置換用カラム30とを連絡するためのものであり、一端が後段カラム22の下部側の開口部と連絡しており、また、他端が溶媒置換用カラム30の上部側の開口部と連絡している。また、カラム連絡路40は、第二切替弁41を有している。この第二切替弁41には、分析用試料排出路42(排出路の一例)の一端が連絡しており、この分析用試料排出路42の末端は開口している。
【0031】
溶媒排出路50は、溶媒置換用カラム30の下部側の開口部から延びており、第三切替弁51を有し、かつ、末端が開口している。そして、溶媒排出路50の末端には、溶媒回収タンク(図示せず)が配置されている。
【0032】
第一溶媒供給部60は、第一溶媒タンク61と、第一溶媒タンク61から延びる第一溶媒供給路62とを備えている。第一溶媒タンク61は、ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を貯留するためのものである。また、第一溶媒供給路62は、第一切替弁11と連絡しており、第一溶媒タンク61内のジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を第一切替弁11方向へ送り出すための第一ポンプ63を有している。
【0033】
第一溶媒タンク61に貯留するジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒は、脂肪族炭化水素溶媒とジクロロメタンとの混合溶媒である。ここで用いられる脂肪族炭化水素溶媒は、特に限定されるものではないが、通常は炭素数が5〜10の無極性のもの、例えば、n−ヘキサン、イソオクタン、ノナンおよびデカンが好ましい。特に、n−ヘキサンを用いるのが好ましい。この脂肪族炭化水素溶媒は、後述するダイオキシン類の疎水性溶媒溶液において用いられる疎水性溶媒と同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒におけるジクロロメタン濃度は、通常、0.5〜10容量%が好ましく、1〜5容量%がより好ましい。ジクロロメタン濃度が0.5容量%未満の場合は、後述する分析用試料がダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類を含む可能性がある。逆に、当該濃度が10容量%を超える場合は、後述する一次処理液に含まれるダイオキシン類の一部が溶媒置換用カラム30を通過してしまう可能性がある。また、当該ダイオキシン類が溶媒置換用カラム30の下の方まで展開してしまい、溶媒置換用カラム30において捕捉されたダイオキシン類を抽出するために多量の親水性溶媒が必要になる可能性がある。
【0034】
第二溶媒供給部70は、第二溶媒タンク71と、第二溶媒タンク71から延びる第二溶媒供給路72とを備えている。第二溶媒タンク71は、親水性溶媒を貯留するためのものであり、親水性溶媒を加熱して温めるための第二加熱装置(図示せず)を有している。ここで用いられる親水性溶媒は、少量でダイオキシン類を溶解することができるものであれば特に限定されるものではないが、通常、ジメチルスルホキシド(DMSO)やメタノールなどである。特に、ジメチルスルホキシドを用いるのが好ましい。また、ジメチルスルホキシドは、界面活性剤が添加されたものであってもよい。ここで用いられる界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(例えば、ユニケマ社の商品名「Tween20」)やポリオキシエチエン(10)オクチルフェニルエーテル(例えば、ユニオンカーバイド社の商品名「Triton X−100」)などである。界面活性剤の添加量は、通常、その濃度が0.001〜1重量%になるよう設定するのが好ましく、0.01〜0.2重量%になるよう設定するのがより好ましい。
【0035】
第二溶媒供給路72は、第三切替弁51と連絡しており、また、第二溶媒タンク71内の親水性溶媒を第三切替弁51方向へ送り出すための第二ポンプ73を有している。
【0036】
ガス供給部80は、窒素等の不活性ガスのガスボンベ81と、ガスボンベ81から延びかつ第二切替弁41と接続されたガス供給管82とを有している。
【0037】
上述の調製装置1において、第一切替弁11は、試料供給路10と前段カラム21との間の連絡若しくは第一溶媒供給路62と前段カラム21との間の連絡のいずれかに流路を切替えるためのものである。また、第二切替弁41は、後段カラム22と溶媒置換用カラム30との間の連絡、ガス供給管82と溶媒置換用カラム30との間の連絡若しくは溶媒置換用カラム30と分析用試料排出路42との間の連絡のいずれかに流路を切替えるためのものである。さらに、第三切替弁51は、溶媒置換用カラム30と溶媒排出路50との間の連絡もしくは第二溶媒供給路72と溶媒置換用カラム30との間の連絡のいずれかに流路を切替えるためのものである。
【0038】
次に、上述の調製装置1を用いたダイオキシン類分析用試料の調製方法について説明する。先ず、第一切替弁11、第二切替弁41および第三切替弁51を所定の初期状態に設定する。すなわち、第一切替弁11は、試料供給路10と前段カラム21とが連絡するよう設定する。第二切替弁41は、後段カラム22と溶媒置換用カラム30とが連絡するよう設定する。第三切替弁51は、溶媒置換用カラム30と溶媒排出路50とが連絡するよう設定する。
【0039】
次に、試料供給路10へダイオキシン類の疎水性溶媒溶液を供給する。ここで供給するダイオキシン類の疎水性溶媒溶液は、例えば、1999年9月20日制定の日本工業規格JIS K 0311:1999(上述の非特許文献1)に記載の装置または特許第3273796号公報(上述の特許文献1)、WO01/91883号公報(上述の特許文献2)若しくは特開2004−53388号公報(上述の特許文献3)に記載のフイルタ等を用いて焼却施設から発生する排気ガスや工場廃水などの流体中に含まれるダイオキシン類を採取し、採取されたダイオキシン類を有機溶媒で抽出した抽出液若しくは土壌や飛灰等に含まれるダイオキシン類を有機溶媒で抽出して得られた抽出液等である。これらの抽出液は、通常、流体、土壌若しくは飛灰等の検体中のダイオキシン類を上述のような操作によりn−ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒などの疎水性溶媒を用いて抽出することにより得られたものであれば、上述の疎水性溶媒溶液としてそのまま利用することができる。これに対し、これらの抽出液が他の有機溶媒、例えばトルエンなどを用いた抽出により得られたものの場合、当該抽出液は、抽出用に用いた有機溶媒をn−ヘキサン等の疎水性溶媒に置換すれば、上述の疎水性溶媒溶液として利用することができる。ここで、抽出あるいは溶媒置換に用いられる疎水性溶媒は、通常、炭素数が5〜10の脂肪族炭化水素溶媒が好ましく、例えば、n−ヘキサン、イソオクタン、ノナンおよびデカンなどを挙げることができる。これらのうち、n−ヘキサンは、安価な溶媒であるため、特に好ましく使用することができる。
【0040】
試料供給路10へ供給されたダイオキシン類の疎水性溶媒溶液は、試料供給路10を通じて精製用カラム20の前段カラム21へ供給され、その保持材21aに保持される。疎水性溶媒溶液の全量が前段カラム21へ供給されると、第一切替弁11を操作して第一溶媒供給路62と前段カラム21とが連絡するよう設定し、また、第一ポンプ63を作動させる。これにより、第一溶媒タンク61内のジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒は、第一溶媒供給路62および試料供給路10の一部を通じて前段カラム21へ連続的に供給される。
【0041】
前段カラム21へ供給された初期のジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒は、前段カラム21の保持材21aに保持されたダイオキシン類の疎水性溶媒溶液を後段カラム22へ移動させる。この結果、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液は、後段カラム22へ供給されることになる。この際、前段カラム21の保持材21aとしてシリカゲルやアルミナを用いていると、疎水性溶媒溶液に含まれるダイオキシン類以外の不純物の一部が、ポリ塩化ナフタレン等のポリ塩化多環芳香族炭化水素類を除き、保持材21aに捕捉される。すなわち、疎水性溶媒溶液は、前段カラム21において、予備的な精製処理が施される。
【0042】
第一溶媒タンク61から前段カラム21へ続いて供給されるジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒は、前段カラム21を通過して後段カラム22へ供給される。後段カラム22へ供給されたジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒は、後段カラム22へ供給された疎水性溶媒溶液中のダイオキシン類を溶解しながら後段カラム22を通過する。この際、疎水性溶媒溶液に含まれるダイオキシン類以外の不純物は、ダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類を除き、シリカゲル系充填材22aにより捕捉される。すなわち、疎水性溶媒溶液は、後段カラム22において、精製処理される。
【0043】
以上の過程において、第一ポンプ63は、第一溶媒タンク61から供給するジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒の量が、後段カラム22へ供給された疎水性溶媒溶液に含まれるダイオキシン類の全量を十分に溶解可能な量となるよう作動させる。これにより、第一溶媒タンク61から供給されるジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒は、後段カラム22へ供給された疎水性溶媒溶液に含まれるダイオキシン類の実質的に全量を溶解した精製溶液として後段カラム22からカラム連絡路40へ流れる。
【0044】
後段カラム22からの上述の精製溶液(以下、「一次処理液」と云い、その一次処理液に含まれる溶媒を「一次溶媒」と云う)は、カラム連絡路40を通過し、溶媒置換用カラム30の上端側へ連続的に供給される。溶媒置換用カラム30へ供給された一次処理液に含まれるダイオキシン類は、一次処理液が溶媒置換用カラム30を上端側から下端側へ向けて通過する際にアルミナ系充填材30aにより捕捉される。また、一次処理液において不純物として含まれるポリ塩化ナフタレン等のダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類は、アルミナ系充填材30aに捕捉されず、一次溶媒と共に溶媒置換用カラム30を通過する。したがって、溶媒置換用カラム30からは、実質的にダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類を含む一次溶媒のみが排出され、この一次溶媒は、溶媒排出路50を通じて溶媒回収タンク(図示せず)に回収される。
【0045】
ここで、一次処理液に含まれているダイオキシン類は、溶媒置換用カラム30に充填されたアルミナ系充填材30aにより捕捉されやすい。このため、当該ダイオキシン類は、図1に示すように、主に、溶媒置換用カラム30の上端部付近Xで集中的に捕捉される。
【0046】
次に、第二切替弁41を操作してガス供給管82と溶媒置換用カラム30とが連絡するよう設定し、ガスボンベ81からガス供給管82へ不活性ガスを供給する。ガス供給管82へ供給された不活性ガスは、第二切替弁41からカラム連絡路40の一部を通過し、溶媒置換用カラム30へ供給される。溶媒置換用カラム30へ供給された不活性ガスは、溶媒置換用カラム30を通過し、溶媒排出路50から外部へ排出される。この際、溶媒置換用カラム30に残留している一次溶媒は、溶媒置換用カラム30を通過する不活性ガス中に気散し、不活性ガスと共に外部へ排出される。この結果、溶媒置換用カラム30に充填されたアルミナ系充填材30aは、実質的に一次溶媒を含まない状態に乾燥処理される。
【0047】
アルミナ系充填材30aの上述のような乾燥処理においては、溶媒置換用カラム30に対して不活性ガスを所定時間供給してから第一加熱装置31を作動させ、溶媒置換用カラム30を加熱するのが好ましい。このようにすると、アルミナ系充填材30aの乾燥処理に要する時間を効果的に短縮することができる。この乾燥処理において、第一加熱装置31を最初から作動させて溶媒置換用カラム30を加熱してしまうと、アルミナ系充填材30aに保持されたダイオキシン類の一部が溶媒置換用カラム30から溶出する場合があるため、信頼性の高い親水性のダイオキシン類分析用試料が得られなくなる可能性がある。
【0048】
次に、第一加熱装置31を作動させ、若しくは第一加熱装置31の作動を維持し、溶媒置換用カラム30を加熱する。また、第二切替弁41を操作し、溶媒置換用カラム30と分析用試料排出路42とが連絡するよう設定する。さらに、第三切替弁51を操作し、第二溶媒供給路72と溶媒置換用カラム30とが連絡するよう設定する。この状態で第二ポンプ73を作動させると、第二溶媒タンク71に貯留された親水性溶媒は、第二溶媒供給路72、第三切替弁51および溶媒排出路50の一部を通過して溶媒置換用カラム30の下端側から上端側へ向けて連続的に供給される。すなわち、親水性溶媒は、溶媒置換用カラム30における一次処理液の通過方向とは逆方向へ供給される。
【0049】
溶媒置換用カラム30へ供給された親水性溶媒は、アルミナ系充填材30aにより捕捉されたダイオキシン類を抽出し、分析用試料排出路42へ流れる。したがって、分析用試料排出路42から排出される親水性溶媒(すなわち、ダイオキシン類の親水性溶媒溶液)を確保すると、目的とする親水性のダイオキシン類分析用試料を得ることができる。この分析用試料は、上述のように溶媒置換用カラム30のアルミナ系充填材30aから一次溶媒が除去されているため、実質的に一次溶媒を含まず、親水性の分析用試料を必要とするダイオキシン類分析方法、例えばバイオアッセイ法によるダイオキシン類の分析に適している。
【0050】
ここで、アルミナ系充填材30aに捕捉されたダイオキシン類は、上述のように、溶媒置換用カラム30の上端部付近Xで集中的に捕捉されているため、溶媒置換用カラム30における移動距離が短く、少量の親水性溶媒で実質的に全量が速やかに抽出される。したがって、分析用試料排出路42からは、一次処理液よりもダイオキシン類濃度の高い少量の分析用試料が得られることになる。具体的には、例えば、精製用カラム20の後段カラム22から溶媒置換用カラム30へ供給される一次処理液量が100ミリリットル程度であった場合、最終的に得られる親水性のダイオキシン類分析用試料は1ミリリットル程度へ大幅に濃縮される。
【0051】
このようにして得られた分析用試料は、上述のような少量の濃縮液であり、しかもダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類が除去されているため、そのままバイオアッセイ法によるダイオキシン類のTEQ分析試料用として用いることができる。
【0052】
[他の実施の形態]
【0053】
(1)上述の実施の形態では、加熱した溶媒置換用カラム30に対して親水性溶媒を供給し、アルミナ系充填材30aからダイオキシン類を抽出しているが、溶媒置換用カラム30は加熱しなくてもよい。但し、通常は、溶媒置換用カラム30を加熱した方が、アルミナ系充填材30aに捕捉されたダイオキシン類を抽出するために必要な親水性溶媒量が少なくなり、濃縮度の高い少量の分析用試料を得やすくなる。
【0054】
(2)上述の実施の形態では、精製用カラム20を前段カラム21と後段カラム22との二段に構成したが、前段カラム21を省略した場合も本発明を同様に実施することができる。但し、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液に含まれる不純物をより効果的に除去することができ、目的とする親水性のダイオキシン類分析用試料の信頼性をより高めることができることから、通常は前段カラム21を採用するのが好ましい。
【0055】
(3)上述の実施の形態では、各切替弁11,41,51、各ポンプ63,73並びに加第一熱装置31および第二加熱装置(図示せず)などを手動で操作する場合について説明したが、これらの操作はコンピュータ制御等により自動化することもできる。
【実施例】
【0056】
実施例1
上述の実施の形態において説明した調製装置1を用い、親水性のダイオキシン類分析用試料を調製した。ここでは、ダイオキシン類により汚染された土壌試料からトルエンを用いてダイオキシン類を粗抽出し、粗抽出液を得た。そして、この粗抽出液について、ダイオキシン類分析用のクリーンアップスパイク(表1に示す、1312でラベルされた7種類のPCDDs、10種類のPCDFsおよび12種類のCo−PCBsからなるもの)を所定量添加した後、溶媒をトルエンから5ミリリットルのn−ヘキサンに置換した。
【0057】
上述のようにして得られたダイオキシン類の疎水性溶媒溶液(n−ヘキサン溶液)の全量を試料供給路10から精製用カラム20の前段カラム21に対して供給し、目的の分析用試料を調製した。調製装置1において、精製用カラム20の前段カラム21および後段カラム22並びに溶媒置換用カラム30は、次のように設定した。第一溶媒タンク61には、ジクロロメタンを2容量%含むn−ヘキサン(以下、本実施例において「ジクロロメタン含有ヘキサン」と云う)を貯留した。第二溶媒タンク71には、親水性溶媒として、ジメチルスルホキシド(DMSO)を貯留した。
【0058】
◎前段カラム
サイズ:内径12.5mm、長さ20mm
保持材:シリカゲル
◎後段カラム
サイズ:内径12.5mm、長さ170mm
シリカゲル系充填材:硝酸銀シリカゲル、硫酸シリカゲルおよびシリカゲルを多層に充填した多層シリカゲル
◎溶媒置換用カラム
サイズ:内径6mm、長さ30mm
アルミナ系充填材:アイ・シー・エヌバイオメディカルズ社の商品名“ICNアルミナ B−SuperI”
【0059】
ダイオキシン類分析用試料の調製過程では、40ミリリットルのジクロロメタン含有ヘキサンを2.5ミリリットル/分の流速で精製用カラム20に対して供給した。また、第二溶媒タンク71のジメチルスルホキシドおよび溶媒置換用カラム30は60℃に加熱し、第二溶媒タンク71から溶媒置換用カラム30に対して供給するジメチルスルホキシドの流速は1ミリリットル/分に設定した。さらに、ガス供給部80からは、溶媒置換用カラム30の乾燥処理のために、400ミリリットル/分の流速で3分間窒素ガスを供給した。そして、分析用試料排出路42から排出されるダイオキシン類のジメチルスルホキシド溶液(分析用試料)は、フラクションコレクターを用いて1ミリリットルずつ分画して採取した。因みに、第一溶媒タンク61から精製用カラム20に対するジクロロメタン含有ヘキサンの供給開始から分析用試料の最初の1ミリリットルの分画を得るまでに要した時間は、40分であった。
【0060】
フラクションコレクターにより採取された最初の1ミリリットルの分析用試料について、ジメチルスルホキシドをn−ヘキサンに置換し、確認用試料を調製した。この確認用試料を高分解能GC/MS法により分析し、クリーンアップスパイクの回収率を求めた。結果を表1に示す。また、同分析により、確認用試料におけるダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類の有無を併せて調べたところ、当該ポリ塩化多環芳香族炭化水素類は実質的に検出されなかった。
【0061】
表1において、回収率(%)は、粗抽出液に添加したクリーンアップスパイクに含まれていた特定のダイオキシン類量(A)に対する、確認用試料に含まれる当該ダイオキシン類量(B)の割合(B/A×100)である。この結果によると、クリーンアップスパイクは、Co−PCBsの回収率が20%以下であったが、PCDDsおよびPCDFsについては90%以上が回収されている。したがって、添加したクリーンアップスパイク中のPCDDsおよびPCDFsは、実質的に、分析用試料の最初の1ミリリットルの分画中に含まれていることになり、当該最初の分画は、少なくとも、上記土壌試料におけるPCDDsおよびPCDFsを基準としたダイオキシン類のTEQ判定のための分析用試料として用いることができる。
【0062】
PCBsによる汚染が少ない土壌等の試料については、ダイオキシン類のTEQに占めるCo−PCBsの寄与は小さいため、当該試料における、PCDDsおよびPCDFsを基準としたダイオキシン類のTEQは、上述の最初の分画を分析用試料としてバイオアッセイ法を実施すると、求めることができることになる。したがって、上述の調製装置1を用いれば、ダイオキシン類のn−ヘキサン溶液から短時間で、ダイオキシン類以外のポリ塩化多環芳香族炭化水素類を実質的に含まない、バイオアッセイ法に適した親水性のダイオキシン類分析用試料を容易に調製することができる。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例2
実施例1と同様の方法(以下、「本法」と云う)により数種類の土壌試料からそれぞれ分析用試料(実施例1における、上述の最初の1ミリリットルの分析用試料を意味する)を調製し、各分析用試料について、バイオアッセイ法によりTEQを求めた(以下、これにより得られたTEQを「本法TEQ」と云う)。
【0065】
また、同じ数種類の土壌試料から、「ダイオキシン類の脱塩素化処理におけるバイオアッセイモニタリング」、第11回環境化学討論会講演要旨集、日本環境化学会、2002年6月3日〜5日、430−431頁(上述の非特許文献8)およびOrganohalogen Compounds,45,200−203(2000)(上述の非特許文献9)に記載の手作業による方法(以下、「従来法」と云う)により分析用試料を調製し、各分析用試料について、バイオアッセイ法によりTEQを求めた(以下、これにより得られたTEQを「従来法TEQ」と云う)。
【0066】
さらに、同じ数種類の土壌試料から公定法により分析用試料を調製し、各分析用試料について、公定法に規定された高分解能GC/MS法によりTEQを求めた(以下、これにより得られたTEQを「公定法TEQ」と云う)。なお、ここでの「公定法」は、「ダイオキシン類に係る土壌調査測定マニュアル」(平成12年1月、環境庁水質保全局土壌農業課)に記載の方法を意味する。
【0067】
本法TEQおよび従来法TEQを公定法TEQと比較した結果を図2に示す。図2によると、従来法TEQは、相関係数(r)が0.42と低く、また、回帰式の傾きも1.90であって1からかけ離れているが、本法TEQは、相関係数(r)が0.73と高く、しかも、回帰式の傾きも1.26であって1に近い。この結果によると、本法TEQは、従来法TEQよりも公定法TEQにより近く、従来法TEQに比べて結果の信頼性が高い。したがって、本法は、従来法に比べ、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から、バイオアッセイ法に適した信頼性の高い親水性のダイオキシン類分析用試料を調製可能なことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の一形態に係るダイオキシン類の分析用試料調製装置の概略図。
【図2】実施例2の結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0069】
1 調製装置
10 試料供給路
22 後段カラム
22a シリカゲル系充填材
30 溶媒置換用カラム
30a アルミナ系充填材
31 第一加熱装置
40 カラム連絡路
42 分析用試料排出路
60 第一溶媒供給部
70 第二溶媒供給部
80 ガス供給部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から親水性のダイオキシン類分析用試料を調製するための方法であって、
シリカゲル系充填材を充填した第一カラムへ前記疎水性溶媒溶液を供給する工程と、
前記疎水性溶媒溶液が供給された前記第一カラムに対してジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を供給して通過させる工程と、
アルミナ系充填材を充填した第二カラムへ前記第一カラムを通過後の前記ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を供給して通過させる工程と、
前記ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒が通過後の前記第二カラムに対し、前記ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒の通過方向とは逆方向へ前記ダイオキシン類を溶解可能な親水性溶媒を供給して通過させる工程と、
前記第二カラムを通過した前記親水性溶媒を確保する工程と、
を含むダイオキシン類分析用試料の調製方法。
【請求項2】
前記第二カラムへ前記親水性溶媒を供給する前に、前記第二カラムに対して不活性ガスを供給する工程をさらに含む、請求項1に記載のダイオキシン類分析用試料の調製方法。
【請求項3】
前記第二カラムを加熱しながら前記第二カラムに対して前記親水性溶媒を供給する、請求項1または2に記載のダイオキシン類分析用試料の調製方法。
【請求項4】
ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から親水性のダイオキシン類分析用試料を調製するための装置であって、
シリカゲル系充填材を充填した第一カラムと、
アルミナ系充填材を充填した第二カラムと、
前記第一カラムへ前記疎水性溶媒溶液を供給するための供給路と、
前記第一カラムへジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を供給するための第一溶媒供給部と、
前記第一カラムからの前記ジクロロメタン含有脂肪族炭化水素溶媒を前記第二カラムに対して供給するためのカラム連絡路と、
前記第二カラムに対し、前記ダイオキシン類を溶解可能な親水性溶媒を供給するための第二溶媒供給部と、
前記第二カラムを通過した前記親水性溶媒を排出するための排出路とを備え、
前記第二溶媒供給部は、前記カラム連絡路から前記第二カラムに対する前記疎水性溶媒の供給方向とは逆方向に、前記第二カラムに対して前記親水性溶媒を供給可能に設定されている、
ダイオキシン類分析用試料の調製装置。
【請求項5】
前記第二カラムに対して不活性ガスを供給するためのガス供給部をさらに備えている、請求項4に記載のダイオキシン類分析用試料の調製装置。
【請求項6】
前記第二カラムの加熱手段をさらに備えている、請求項4または5に記載のダイオキシン類分析用試料の調製装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−275821(P2006−275821A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96470(P2005−96470)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】