説明

ダイオキシン類分解効果の判定方法及びダイオキシン類の分解方法

【課題】ダイオキシン類を含有する飛灰の処理現場において、簡便、迅速かつ容易にダイオキシン類分解の良否を判定することができる分解効果の判定方法、及び、ダイオキシン類分解処理後の分解効果を判定し、確実にダイオキシン類が分解された飛灰とすることができるダイオキシン類の分解方法を提供する。
【解決手段】ダイオキシン類を含有する飛灰に分解剤を添加し、加熱により飛灰中のダイオキシン類を分解処理するに際して、分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化により分解の良否を判定するダイオキシン類分解効果の判定方法、及び、ダイオキシン類含有飛灰に分解剤を添加し、加熱によりダイオキシンを分解処理する方法において、分解処理後の飛灰の国際表色系L***のうちのa*の値が1.5以下のとき、又は、分解処理前後における飛灰のa*の値の増加が0.5以下のときに、分解処理した飛灰を再度分解処理するダイオキシン類の分解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシン類分解効果の判定方法及びダイオキシン類の分解方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、高価な装置、専門的な技術、煩雑な操作などを必要とせず、ダイオキシン類を含有する飛灰の処理現場において、簡便、迅速かつ容易にダイオキシン類分解の良否を判定することができるダイオキシン類分解効果の判定方法、及び、飛灰のダイオキシン類分解処理後の分解効果を判定し、確実にダイオキシン類が分解された飛灰とすることができるダイオキシン類の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオキシン類は、化学物質の合成過程や、廃棄物の燃焼過程で非意図的に生成される物質であり、その発生源は多岐にわたっている。発がん性、生殖毒性、催奇性などの広い範囲の毒性影響が報告されており、特に生殖毒性に関しては極めて低濃度でも生体に影響を及ぼすことが懸念されている。毒性の強さに加えて、難分解性物質であるために、いったん生成すると環境中に長く留まり、ダイオキシン類による環境汚染が大きな社会問題となっている。
【0003】
わが国におけるダイオキシン類の発生は、その90%近くが焼却炉によるものであるとされ、焼却炉からのダイオキシン類の発生を抑制することが求められている。ダイオキシン類は、塩素の存在下で有機物を燃焼するときに、中間温度領域で生成することが知られており、炉内を予熱して十分に高温にしてから燃焼操作を開始する、燃焼排ガス及び焼却ダストをできる限り迅速に冷却するなどの燃焼法の改善によって、煙道出口のダイオキシン類の濃度を下げることが試みられている。しかし、燃焼法の改善のみでは、ダイオキシン類の濃度の低減には限りがあり、焼却炉において、バグフィルターなどにより捕集される飛灰にも、通常は埋立処理を行うために必要な公定基準を超える濃度のダイオキシン類が含まれる。このために、ダイオキシン類を含む飛灰は、ダイオキシン類の分解処理を行う必要があり、固体中のダイオキシン類の分解方法が適用されている。
【0004】
例えば、土壌などの固体状の物質中に含まれるPCBやダイオキシンなどの芳香族ハロゲン化合物の分解方法として、汚染された固体状の物質に、ギ酸ナトリウム又はギ酸カリウムを添加混合し、300〜450℃に加熱する芳香族ハロゲン化合物の分解方法が提案されている(特許文献1)。また、被処理物に含まれる有機塩素化合物を除去又は無害化する処理方法として、ギ酸又はシュウ酸の塩を含有してなる還元剤を被処理物に添加する還元剤添加工程と、還元剤が添加された被処理物を加熱することにより、有機塩素化合物を還元して除去又は無害化する加熱工程を備える有機塩素化合物の処理方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、ダイオキシン類を含有する飛灰の分解処理を行っても、ダイオキシン類の分解が進み、処理された飛灰中のダイオキシン類濃度が十分に低下しているか否かを判定することは容易ではない。ダイオキシン類の濃度の分析方法として、公定分析法である廃棄物処理におけるダイオキシン類標準測定分析マニュアル(平成9年2月厚生省生活衛生局環境部環境整備課)によると実質的に1か月程度を要し、簡易分析法であるレポータージーンアッセイ法でも1週間程度はかかるために、ダイオキシン類分解処理の良否を判定して、その結果にもとづいて焼却場から排出することは、大きな貯留システムを持たない限り難しい。また、1試料あたりの分析費が数万〜十数万円かかることから、日常的な管理に使うことは経済的に困難である。そこで、実際の運営上では、おそらく大丈夫との判断で排出してしまうことが多く、万一を考えると指標に基づいた速やかな合格判定を行うことが好ましい。
【0006】
このために、ダイオキシン類の濃度を簡便かつ迅速に測定する方法の開発が試みられている。例えば、飛灰や炉灰中に含まれるダイオキシン類を低コストでかつ迅速に定量することができる簡易な定量方法として、固体試料中に含まれる1,2,3,4,6,7,8,9−オクタクロロジベンゾパラジオキシンを指標物質として定量分析し、該定量値をダイオキシン濃度に変換する方法が提案されている(特許文献3)。また、飛灰を対象とした代替指標を用いてダイオキシン類を簡易に分析する方法として、ダイオキシン類濃度と有機塩素化合物濃度の検量線を作成し、ガスクロマトグラフィーにより分離して試料中の有機塩素化合物濃度を求め、検量線よりダイオキシン類濃度を求める方法が提案されている(特許文献4)。短時間、低コストで簡易的にダイオキシン類の濃度を測定することができるモニタリング方法として、処理灰中の未燃炭素濃度とダイオキシン類濃度の相関関係を求めておき、処理灰中の未燃炭素濃度を測定し、相関関係から処理灰中のダイオキシン類濃度を計算する方法が提案されている(特許文献5)。さらに、飛灰などに含まれるダイオキシン類を、オンライン・リアルタイムに近い迅速さで吸着、濃縮し、高感度下に分析してその濃度を測定することができる方法として、ダイオキシン類を含む飛灰などを試料吸着素子膜チューブに吸着、濃縮させたのち、吸着しているダイオキシン類を脱離させ、質量分析装置でダイオキシン類の濃度を測定する方法が提案されている(特許文献6)。しかし、これらの方法に用いるガスクロマトグラフ、元素分析装置、質量分析装置などは高価であり、その使用にも専門的な技術を要するので、飛灰処理の現場に設置して日常的に使用することは困難である。
【特許文献1】特開平8−52454号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2001−259607号公報(第2頁)
【特許文献3】特開2001−66296号公報(第2頁)
【特許文献4】特開2001−296291号公報(第2−3頁)
【特許文献5】特開2003−161727号公報(第2頁)
【特許文献6】特開2002−62277号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高価な装置、専門的な技術、煩雑な操作などを必要とせず、ダイオキシン類を含有する飛灰の処理現場において、簡便、迅速かつ容易にダイオキシン類分解の良否を判定することができるダイオキシン類分解効果の判定方法、及び、飛灰のダイオキシン類分解処理後の分解効果を判定し、確実にダイオキシン類が分解された飛灰とすることができるダイオキシン類の分解方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ダイオキシン類を含有する飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱により飛灰中のダイオキシン類を分解処理するに際して、ダイオキシン類分解が良好であるときに飛灰の色が紫色に変色し、色が濃いほどダイオキシン類分解が良好であり、分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化により、簡便、迅速かつ容易にダイオキシン類分解の良否を判定し得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ダイオキシン類を含有する飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱により飛灰中のダイオキシン類を分解処理するに際して、分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化によりダイオキシン類分解の良否を判定することを特徴とするダイオキシン類分解効果の判定方法、
(2)測色計を用いて飛灰の色を測定してダイオキシン類分解の良否を判定する(1)記載のダイオキシン類分解効果の判定方法、
(3)測色計による色の表示方法が国際表色系L***であり、飛灰の国際表色系L***のうちのa*の値により、ダイオキシン類分解の良否を判定する(2)記載のダイオキシン類分解効果の判定方法、
(4)分解処理後の飛灰のa*の値が1.5を超え、かつ、分解処理前後におけるa*の値の増加が0.5を超えたとき、ダイオキシン類分解が十分であると判定する(3)記載のダイオキシン類分解効果の判定方法、
(5)分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化を、色見本と比較することにより評価する(1)記載のダイオキシン類分解効果の判定方法、
(6)色見本がCMYKプロセスカラー色見本であり、マゼンタの値が5%を超え、かつ、マゼンタの値の増加が5%を超えたとき、ダイオキシン類分解が十分であると判定する(5)記載のダイオキシン類分解効果の判定方法、
(7)分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化を、JIS Z 8721に規定される色相環のRに対する色知覚により評価する(1)記載のダイオキシン類分解効果の判定方法、
(8)ダイオキシン類分解剤が炭素数1〜3のカルボン酸のアルカリ金属塩を主成分とする(1)ないし(7)のいずれか1項に記載のダイオキシン類分解効果の判定方法、
(9)ダイオキシン類含有飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱によりダイオキシンを分解処理する方法において、分解処理後の飛灰の国際表色系L***のうちのa*の値が1.5以下のとき、又は、分解処理前後における飛灰のa*の値の増加が0.5以下のときに、分解処理した飛灰を再度分解処理することを特徴とするダイオキシン類の分解方法、及び、
(10)ダイオキシン類分解剤が炭素数1〜3のカルボン酸のアルカリ金属塩を主成分とする(9)記載のダイオキシン類の分解方法、
を提供するものである。
【0010】
さらに、本発明の好ましい態様として、
(11)ダイオキシン類含有飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱によりダイオキシンを分解処理する方法において、CMYKプロセスカラー色見本と比較して、分解処理後の飛灰のマゼンタの値が5%以下のとき、又は、分解処理前後における飛灰のマゼンタの値の増加が5%以下のときに、分解処理した飛灰を再度分解処理することを特徴とするダイオキシン類の分解方法、及び、
(12)ダイオキシン類分解剤が炭素数1〜3のカルボン酸のアルカリ金属塩を主成分とする(11)記載のダイオキシン類の分解方法、
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のダイオキシン類分解効果の判定方法によれば、分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化によりダイオキシン類分解の良否を判定することができるので、操作に専門的な技術を要する高価な分析機器を使用することなく、現場で簡便、迅速かつ容易にダイオキシン類分解の良否を判定することができる。本発明のダイオキシン類の分解方法によれば、ダイオキシン類の分解処理に際して本発明の判定方法を適用し、ダイオキシン類の分解が不十分と判定されたときは、分解処理した飛灰を再度分解処理するので、公定基準を超える濃度のダイオキシン類を含む飛灰を誤って廃棄処分するおそれがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のダイオキシン類分解効果の判定方法においては、ダイオキシン類を含有する飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱により飛灰中のダイオキシン類を分解処理するに際して、分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化によりダイオキシン類分解の良否を判定する。
【0013】
本発明方法に用いるダイオキシン類分解剤に特に制限はなく、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテル化合物、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル化合物、モノエタノールアミン、ジエチルアミン、アニリンなどのアミン化合物、ブタンジオール、ジエチレングリコール、グリセリンなどのヒドロキシル基を有する有機化合物、二酸化マンガン含有物質、炭素数1〜3のカルボン酸のアルカリ金属塩などを挙げることができる。これらの中で、炭素数1〜3のカルボン酸のアルカリ金属塩は、ダイオキシン類の分解効率が高く、飛灰の色の変化が明瞭に現れるので好適に用いることができる。
【0014】
炭素数1〜3のカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、シュウ酸、マロン酸、ピルビン酸、タルトロン酸などを挙げることができる。塩を形成するアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどを挙げることができる。炭素数1〜3のカルボン酸のアルカリ金属塩の中で、ギ酸ナトリウム及びギ酸カリウムを特に好適に用いることができる。本発明方法において、ダイオキシン類分解剤の主成分となる炭素数1〜3のカルボン酸のアルカリ金属塩は、ダイオキシン類分解剤の80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。
【0015】
本発明方法においては、ダイオキシン類を含有する飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱により飛灰中のダイオキシン類を分解処理する。本発明方法において、ダイオキシン類分解剤の添加量に特に制限はないが、飛灰100重量部に対して1〜15重量部であることが好ましく、3〜10重量部であることがより好ましい。本発明方法において、加熱温度に特に制限はないが、200〜500℃であることが好ましく、300〜400℃であることがより好ましい。
【0016】
本発明方法においては、測色計を用いて飛灰の色を測定することができる。測色計は、100V交流又は乾電池を電源とし、付帯設備を必要としないので、飛灰の分解処理の現場で簡便に使用することができる。また、測色計を用いると、飛灰の色が数値化されて表示されるので、未経験者でも迷うことなく正確な測定結果を得ることができる。測色計による色の表示方法に特に制限はなく、例えば、XYZ表色系、L***表色系、L***表色系、マンセル表色系、オストワルト表色系などを挙げることができる。これらの中で、L***表色系は、工業分野で色差の測定に広く用いられ、最も色の変化に敏感であり、赤紫色の変化を評価するために好適に用いることができる。
【0017】
本発明方法においては、国際表色系L***のうちのa*の値により、ダイオキシン類分解の良否を判定することが好ましい。ダイオキシン類を含有する飛灰の分解処理後のa*の値が1.5を超え、かつ、分解処理前後におけるa*の値の増加が0.5を超えたとき、ダイオキシン類分解が十分であると判定することができる。ダイオキシン類の分解において、毒性等量(TEQ)を基準とする分解率が95%を超えることが一般的な目標値とされている。a*の値が1.5を超え、かつ、分解処理前後におけるa*の値の増加が0.5を超えたとき、余裕をもってダイオキシン類の毒性等量基準の分解率が95%を超えたと判定することができる。
【0018】
本発明方法においては、分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化を、色見本と比較することにより評価することができる。比較に用いる色見本に特に制限はなく、例えば、ダイオキシン類の分解率の異なる複数種の飛灰を透明な容器に充填して色見本とすることができ、あるいは、JIS Z 8721に規定される標準色票やCMYKプロセスカラー色見本などの印刷されたカラーチャートを色見本として用いることができる。カラーチャートは、取り扱いが便利であり、飛灰の分解処理の異なる現場であっても、同じカラーチャートを色見本として評価することにより、評価基準を標準化することができる。
【0019】
本発明方法においては、色見本としてCMYKプロセスカラー色見本を用いることが好ましい。CMYKプロセスカラー色見本は、1枚のシートに、Y(イエロー)とK(ブラック)が一定値であり、C(シアン)とM(マゼンタ)が0%から100%まで変化する色コマが印刷されているので、シアンとマゼンタの近似色の選択を効率的に行うことができる。CMYKプロセスカラー色見本は、例えば、1シート144色、1組33シートのような形態で販売されている。複数のシートの中から、分解処理前の飛灰の色と、分解処理後の飛灰の色に近い色コマが含まれるシートを色見本として選択することが好ましい。
【0020】
本発明方法においては、CMYKプロセスカラー色見本と比較して、マゼンタの値が5%を超え、かつ、マゼンタの値の増加が5%を超えたとき、ダイオキシン類分解が十分であると判定することが好ましい。ダイオキシン類を含有する飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱により分解処理すると、マゼンタの値が最も大きく変化する。飛灰のマゼンタの値と飛灰中のダイオキシン類濃度の間に再現性の高い良好な相関関係が存在するので、ダイオキシン類分解の良否を判定する指標として、マゼンタの値を最も好適に用いることができる。マゼンタの値が5%を超え、かつ、分解処理前後におけるマゼンタの値の増加が5%を超えたとき、余裕をもってダイオキシン類の毒性等量基準の分解率が95%を超えたと判定することができる。分解処理前の飛灰のマゼンタの値は0%である場合が多く、この場合は分解処理後のマゼンタの値がそのまま分解処理前後のマゼンタの値の増加となる。
【0021】
本発明方法においては、分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化を、JIS Z 8721に規定される色相環のRに対する色知覚により評価することができる。飛灰中のダイオキシン類の分解処理作業の担当者が習熟すると、マゼンタの5%の変化は目視により判定し得るようになる。そのような状態に達した場合は、飛灰の色をJIS Z 8721に規定される色相環のRに対する色知覚により評価し、測色計による測定や、色見本との比較を省略することができる。飛灰の色の変化が微妙であって、a*の値が1.5を超え、a*の値の増加が0.5を超えているか否か、あるいは、マゼンタの値が5%を超え、マゼンタの値の増加が5%を超えているか否かが判然としない場合は、測色計による測定又は色見本との比較により、分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化を確認することができる。
【0022】
本発明のダイオキシン類の分解方法においては、ダイオキシン類含有飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱によりダイオキシンを分解処理する方法において、分解処理後の飛灰の国際表色系L***のうちのa*の値が1.5以下のとき、又は、分解処理前後における飛灰のa*の値の増加が0.5以下のときに、分解処理した飛灰を再度分解処理する。分解処理後の飛灰のa*の値が1.5以下のとき、又は、分解処理前後における飛灰のa*の値の増加が0.5以下のときは、飛灰の中のダイオキシン類の分解が十分に進行していないおそれがあるので、分解処理した飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱により飛灰中のダイオキシン類を再度分解処理する。再度の分解処理後の飛灰のa*の値が1.5を超え、分解処理前と再度の分解処理後の飛灰のa*の値の増加が0.5を超えたことを確認して飛灰中のダイオキシン類の分解処理を終了する。
【0023】
本発明のダイオキシン類の分解方法においては、ダイオキシン類含有飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱によりダイオキシンを分解処理する方法において、CMYKプロセスカラー色見本と比較して、分解処理後の飛灰のマゼンタの値が5%以下のとき、又は、分解処理前後における飛灰のマゼンタの値の増加が5%以下のときに、分解処理した飛灰を再度分解処理することが好ましい。分解処理後の飛灰のマゼンタの値が5%以下のとき、又は、分解処理前後における飛灰のマゼンタの値の増加が5%以下のときは、飛灰の中のダイオキシン類の分解が十分に進行していないおそれがあるので、分解処理した飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱により飛灰中のダイオキシン類を再度分解処理する。再度の分解処理後の飛灰のマゼンタの値が5%を超え、分解処理前と再度の分解処理後の飛灰のマゼンタの値の増加が5%を超えたことを確認して飛灰中のダイオキシン類の分解処理を終了する。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例においては、ダイオキシン類含有飛灰として、自治体焼却炉(準連流動炉、処理量60t/d)から採取した全ダイオキシン類濃度0.60μg/g、毒性等量5.96ng−TEQ/gの飛灰について試験を行った。ダイオキシン類分解剤としては、ギ酸ナトリウム[関東化学(株)、試薬特級、純度98.0%以上、白色粉末]を用いた。
【0025】
飛灰35gとギ酸ナトリウム1.75gを乳鉢で十分混合したのち、撹拌機、温度計及び冷却管を付けた200mL三口フラスコに入れ、撹拌しつつマントルヒーターにより350℃で所定時間加熱を行った。冷却したのち試料を取り出し、処理後のダイオキシン類濃度を定法に従って分析を行い、分解率を求めた。
【0026】
国際表色系L***の測色は、飛灰を横6cm×縦10cmのシールつきポリエチレン袋に少量分取し、薄いシート状にしたのち、その中央部に分光測色計[ミノルタ(株)、CM型]のレンズを密着させて色の測定を行った。
【0027】
比較に用いる色見本としては、DICカラーチャート[大日本インキ化学工業(株)、2002、オフセット印刷用のプロセスカラー4原色の色階調を、1シート144色で33シート、合計4752色表示したもの]のうち、C(シアン)0〜100%、M(マゼンタ)0〜100%、Y(イエロー)10%、K(ブラック)30%のNo.29シートを使用した。
【0028】
比較例1
試験に用いたダイオキシン類含有飛灰の色を、色見本と比較した。C=0%、M=0%であった。また、試験に用いたダイオキシン類含有飛灰の色を、国際表色系L***について測定した。L*=59.07、a*=0.98、b*=4.22であった。なお、このダイオキシン類含有飛灰の色は、ギ酸ナトリウムを混合せずに測定した。
実施例1
飛灰とギ酸ナトリウムの混合物を、三口フラスコの中で20分間加熱するダイオキシン類の分解処理を、3回繰り返して行った。カラーチャートと比較した分解処理後の飛灰の色は、いずれもC=0%、M=10%であった。国際表色系L***について測定した分解処理後の飛灰の色は、1回目がL*=50.00、a*=3.09、b*=2.35であり、2回目がL*=43.76、a*=2.87、b*=2.25であり、3回目がL*=52.64、a*=2.06、b*=2.46であった。全ダイオキシン類濃度による分解率は、いずれも99.3%であった。毒性等量による分解率は、1回目と3回目が96.6%、2回目が96.8%であった。
比較例2
ギ酸ナトリウムを混合することなく、飛灰のみを三口フラスコの中で20分間加熱した。カラーチャートと比較した加熱処理後の飛灰の色は、C=0%、M=0%であった。国際表色系L***について測定した加熱処理後の飛灰の色は、L*=59.41、a*=0.28、b*=3.99であった。全ダイオキシン類濃度による分解率は、42.8%であった。毒性等量による分解率は−63.0%であり、毒性等量は増加していた。
比較例3
加熱時間を8分間とした以外は、実施例1と同様にして、ダイオキシン類の分解処理を行った。カラーチャートと比較した分解処理後の飛灰の色は、C=0%、M<5%であった。国際表色系L***について測定した加熱処理後の飛灰の色は、L*=48.66、a*=1.21、b*=2.99であった。全ダイオキシン類濃度による分解率は94.0%であり、毒性等量による分解率は85.5%であった。
実施例1及び比較例1〜3の結果を、第1表に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
第1表に見られるように、ギ酸ナトリウムと混合して350℃で20分間加熱した実施例1の飛灰は、全ダイオキシン類分解率が99.3%、毒性等量による分解率が96.6〜96.8%となり、一般的な分解目標値とされる毒性等量基準の分解率95%を超えている。この分解処理後の飛灰のカラーチャートと比較した色は、M(マゼンタ)の値が10%になり、M(マゼンタ)の値の増加も10%となっている。また、国際表色系のa*の値は2.06〜3.09であり、a*の値の増加は1.08〜2.11である。
飛灰をギ酸ナトリウムと混合することなく加熱処理した比較例2の飛灰は、全ダイオキシン類分解率が42.8%であり、毒性等量による分解率は−63.0%であり、毒性等量は加熱処理により増加している。この加熱処理後の飛灰のカラーチャートと比較した色は、C(シアン)、M(マゼンタ)ともに0%であって、加熱前と変化していない。また、国際表色系のa*の値は0.28であって、加熱前に比べてa*の値は0.70減少している。
350℃での加熱時間を8分間とした比較例3では、全ダイオキシン類分解率が94.0%、毒性等量によるダイオキシン類分解率が85.5%であって、ダイオキシン類の分解が十分に進行していない。この分解処理後の飛灰のカラーチャートと比較した色はM(マゼンタ)が5未満であり、国際表色系のa*の値は1.21であり、a*の値の増加は0.23である。
以上の結果から、分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化により、ダイオキシン類分解の良否を判定しうることが分かる。また、ダイオキシン類分解を余裕をもって良と判定する基準は、国際表色系のa*の値が1.5を超え、かつ、a*の値の増加が0.5を超えること、あるいは、カラーチャートと比較したM(マゼンタ)の値が5%を超え、かつ、M(マゼンタ)の値の増加が5%を超えることであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のダイオキシン類分解効果の測定方法によれば、加熱により飛灰中のダイオキシン類を分解処理するに際して、分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化によりダイオキシン類分解の良否を判定することができる。従来、ダイオキシン類濃度の迅速な測定方法として提案された方法は、ガスクロマトグラフ、元素分析装置、質量分析装置などの操作に専門的な技術を要する高価な装置を必要とし、さらにこれらの装置はキャリヤガスラインや真空ラインなどの付帯設備を必要とするので、飛灰の処理現場に設置して日常的に使用することはほとんど不可能であった。本発明方法の実施に用いる測色計は、比較的安価であり、100V交流又は乾電池を電源として使用することができ、専門的な技術も必要としないので、飛灰の処理現場に設置して使用することができる。また、測色計の代わりに、色見本と比較してマゼンタの値を定めることができる。さらに、ある程度習熟すれば、マゼンタ5%の色相差は目視により判断できるようになるので、平常は飛灰の色及び色の変化を色相環のRに対する色知覚により判断し、判断が微妙な場合に測色計による測定又は色見本との比較により確認することができる。
【0032】
本発明のダイオキシン類の分解方法によれば、分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化により、ダイオキシン類分解の良否を判定し、ダイオキシン類分解が否と判定された場合には、分解処理した飛灰を再度分解処理するので、公定基準を超える濃度のダイオキシン類を含む飛灰を誤って廃棄するおそれがない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイオキシン類を含有する飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱により飛灰中のダイオキシン類を分解処理するに際して、分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化によりダイオキシン類分解の良否を判定することを特徴とするダイオキシン類分解効果の判定方法。
【請求項2】
測色計を用いて飛灰の色を測定してダイオキシン類分解の良否を判定する請求項1記載のダイオキシン類分解効果の判定方法。
【請求項3】
測色計による色の表示方法が国際表色系L***であり、飛灰の国際表色系L***のうちのa*の値により、ダイオキシン類分解の良否を判定する請求項2記載のダイオキシン類分解効果の判定方法。
【請求項4】
分解処理後の飛灰のa*の値が1.5を超え、かつ、分解処理前後におけるa*の値の増加が0.5を超えたとき、ダイオキシン類分解が十分であると判定する請求項3記載のダイオキシン類分解効果の判定方法。
【請求項5】
分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化を、色見本と比較することにより評価する請求項1記載のダイオキシン類分解効果の判定方法。
【請求項6】
色見本がCMYKプロセスカラー色見本であり、マゼンタの値が5%を超え、かつ、マゼンタの値の増加が5%を超えたとき、ダイオキシン類分解が十分であると判定する請求項5記載のダイオキシン類分解効果の判定方法。
【請求項7】
分解処理後の飛灰の色及び分解処理前後の飛灰の色の変化を、JIS Z 8721に規定される色相環のRに対する色知覚により評価する請求項1記載のダイオキシン類分解効果の判定方法。
【請求項8】
ダイオキシン類分解剤が炭素数1〜3のカルボン酸のアルカリ金属塩を主成分とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のダイオキシン類分解効果の判定方法。
【請求項9】
ダイオキシン類含有飛灰にダイオキシン類分解剤を添加し、加熱によりダイオキシンを分解処理する方法において、分解処理後の飛灰の国際表色系L***のうちのa*の値が1.5以下のとき、又は、分解処理前後における飛灰のa*の値の増加が0.5以下のときに、分解処理した飛灰を再度分解処理することを特徴とするダイオキシン類の分解方法。
【請求項10】
ダイオキシン類分解剤が炭素数1〜3のカルボン酸のアルカリ金属塩を主成分とする請求項9記載のダイオキシン類の分解方法。

【公開番号】特開2006−90779(P2006−90779A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274900(P2004−274900)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】