説明

ダイオキシン類採取剤

【課題】 水中に含まれるダイオキシン類を分析するために、水中からダイオキシン類を短時間で容易に採取する。
【解決手段】 ダイオキシン類採取剤は、平均粒径が1〜100μmの親水性活性炭と、水中において親水性活性炭を含む凝集物を形成するための凝集剤とを含んでいる。この採取剤を水中へ添加すると、水中のダイオキシン類は親水性活性炭に吸着され、また、ダイオキシン類を吸着した親水性活性炭は凝集剤の作用により水中で凝集する。したがって、水中で生成した凝集物を水から分離すると、ダイオキシン類を採取することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシン類の採取剤、特に、水中に含まれるダイオキシン類を分析するために当該水中からダイオキシン類を採取するための採取剤に関する。
【背景技術】
【0002】
河川水、湖沼水、海洋水、地下水、家庭用水および工場排水等の各種の水は、ダイオキシン類により汚染されている可能性がある。ダイオキシン類は、周知の如く極めて毒性の強い環境汚染物質であるため、ヒトを含む動植物への悪影響を防止する観点から、水中に含まれるダイオキシン類対策が社会的な関心を集めている。このため、そのような対策を推進する上において、水中に含まれるダイオキシン類を正確に採取し、分析する必要がある。そこで、非特許文献1は、水中に含まれるダイオキシン類の採取および分析に関する推奨方法を規定している。
【0003】
非特許文献1に記載されているダイオキシン類の採取方法は、ガラス繊維ろ紙を用いて被試験水をろ過する工程と、ダイオキシン類を吸着するための固相ディスクに対してろ過された被試験水を通過させる工程と、ガラス繊維ろ紙と固相ディスクとにより採取されたダイオキシン類をソックスレー抽出する工程とを主に含んでいる。ここで用いられる固相ディスクは、シリカゲルに対してオクタデシル基を化学的に結合させたものである。
【0004】
非特許文献1に規定されたダイオキシン類の採取方法は、ガラス繊維ろ紙を通過した被試験水中に含まれるダイオキシン類を固相ディスクで捕捉する必要があるため、固相ディスクでの通水速度を100ml/分程度の低速に設定する必要があり、長時間を要する。また、この採取方法は、被試験水中に含まれるダイオキシン類の一部が固相ディスクで捕捉されずに通過してしまう可能性があるため、固相ディスクを通過後の被試験水に対してもダイオキシン類の抽出作業を繰り返し実施する必要があり、操作が煩雑である。
【0005】
【非特許文献1】JIS K 0312:1999「工業用水・工場排水中のダイオキシン類及びコプラナーPCBの測定方法」
【0006】
本発明の目的は、水中に含まれるダイオキシン類を分析するために、水中からダイオキシン類を短時間で容易に採取することにある。
【0007】
本願において、ダイオキシン類の用語は、ダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号)第2条の規定に倣い、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDDs)およびポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)に加え、コプラナーポリ塩化ビフェニル(Co−PCBs)を含む意味として用いる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るダイオキシン類採取剤は、水中に含まれるダイオキシン類を分析するために水中からダイオキシン類を採取するためのものであり、平均粒径が1〜100μmの親水性活性炭と、水中において親水性活性炭を含む凝集物を形成するための凝集剤とを含んでいる。
【0009】
また、このダイオキシン類採取剤は、例えば、水中において凝集物の沈降を促進するための沈降助剤をさらに含んでいる。また、このダイオキシン類採取剤は、例えば、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つのアルカリ化合物をさらに含んでいる。
【0010】
本発明のダイオキシン類採取剤を水中に添加すると、当該水中に含まれるダイオキシン類は親水性活性炭に吸着される。また、ダイオキシン類を吸着した親水性活性炭は、凝集剤の作用により水中において凝集し、凝集物を形成する。したがって、この凝集物を水中から分離し、また、分離した凝集物からダイオキシン類を抽出すると、水中に含まれていたダイオキシン類を採取することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のダイオキシン類採取剤は、上述の成分を含んでいるため、水中に含まれるダイオキシン類を分析するために、当該ダイオキシン類を短時間で容易に採取することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のダイオキシン類採取剤は、水中に含まれるダイオキシン類を分析するために水中からダイオキシン類を採取するためのものであり、主に、活性炭と凝集剤とを含んでいる。
【0013】
この採取剤において用いられる活性炭は、ダイオキシン類に対する吸着性を有し、水中で分散可能な親水性を有する親水性活性炭である。親水性活性炭としては、親水性官能基(例えば水酸基)を有するもの、例えば、炭素質原料を加熱処理して炭化することにより得られる炭化物を水蒸気含有雰囲気下で賦活し、賦活後の炭化物を冷却することにより得られるものを用いることができる。
【0014】
上述のような親水性活性炭の製造方法において用いられる炭素質原料は、活性炭を製造するために利用可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ヤシ殻、木材の炭化物、石炭、タール、ピッチ、フェノール樹脂等の樹脂およびこれらの任意の組合せによる混合物などである。また、炭素質材料から得られる炭化物を賦活するための水蒸気含有雰囲気は、通常、水蒸気含有率が15容量%以下に設定されているのが好ましい。水蒸気含有率が15容量%を超えると、親水性活性炭のダイオキシン類に対する吸着能が低下する可能性がある。さらに、賦活後の炭化物を冷却する工程は、通常、炭化物が300℃まで冷却されるまでの間、賦活処理時の雰囲気中若しくは当該雰囲気よりも酸素および水蒸気の含有率が少ない雰囲気中(好ましくは、酸素および水蒸気の含有率が2容量%以下の雰囲気中)において実施するのが好ましい。賦活後の高温の炭化物を酸素濃度および水蒸気濃度が高い雰囲気中で冷却すると、ダイオキシン類に対する吸着能が良好な親水性活性炭が得られにくくなる可能性がある。
【0015】
因みに、上述の条件により製造された親水性活性炭は、ダイオキシン類を実質的に含まないか、或いは、含有しているダイオキシン類を洗浄操作により除去しやすい。このため、当該親水性活性炭は、後述する分析結果に悪影響を与えにくい。また、当該親水性活性炭は、水中に含まれる溶存状態のダイオキシン類、特に、Co−PCBsを吸着しやすいため、後述する分析結果の信頼性を高めることができる。さらに、当該親水性活性炭は、ダイオキシン類を溶解可能な溶媒を用いた抽出操作を適用すると、吸着したダイオキシン類を溶媒中に容易に溶出することができる。
【0016】
また、ここで用いられる親水性活性炭は、平均粒径が1〜100μmのもの、好ましくは5〜50μmのものである。平均粒径が1μm以下の場合は、後述する凝集物をろ過する際に、ダイオキシン類を吸着した親水性活性炭が捕捉されずに通過し、ろ液中へ移行する可能性がある。逆に、100μmを超える場合は、親水性活性炭の表面積が小さくなるため、水中に含まれるダイオキシン類を短時間で効果的に吸着するのが困難になる可能性がある。
【0017】
上述のような親水性活性炭は、水酸基などの親水性官能基を有し、また、水中に含まれる重金属イオン等の無機カチオンをイオン交換により吸着することができる性質を有していることから、水中において、通常、負電荷の懸濁物質として存在し得る。
【0018】
本発明の採取剤における上述の親水性活性炭の割合は、通常、1〜20重量%が好ましく、2〜10重量%がより好ましい。親水性活性炭の割合が1重量%未満の場合は、水中に含まれるダイオキシン類を実質的に漏れなく採取するのが困難になり、後述する分析結果の信頼性を損なう可能性がある。逆に、親水性活性炭の割合が20重量%を超える場合は、それに伴うダイオキシン類の採取効率の向上を期待することができず、却って不経済である。また、後述する凝集物からダイオキシン類を抽出するのが困難になり、後述する分析結果の信頼性が損なわれる可能性がある。
【0019】
本発明の採取剤において用いられる凝集剤は、水中に分散している親水性活性炭および各種の懸濁粒子(SS粒子)を凝集し、親水性活性炭を含む凝集物(フロック)を形成することができるものであれば特に限定されるものではないが、通常、正電荷を有する凝集剤を用いるのが好ましい。
【0020】
正電荷を有する凝集剤は、水中に含まれる負電荷の親水性活性炭やSS粒子のゼータ電位をゼロ若しくはプラス側に変化させ、それにより水中に微細なフロックを形成することができるものである。したがって、正電荷を有する凝集剤は、水中に含まれる、ダイオキシン類を吸着した親水性活性炭やダイオキシン類が付着しかつ負電荷を有するSS粒子を効果的に、しかも速やかに凝集させることができ、ダイオキシン類の採取効率を高めることができる。このような凝集剤としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化鉄、ポリ硫酸第二鉄、アルミン酸ナトリウムおよびカチオン性の各種有機凝集剤を挙げることができる。これらの凝集剤は、それぞれ単独で用いられてもよいし、2種以上のものが併用されてもよい。
【0021】
本発明の採取剤における上述の凝集剤の割合は、通常、5〜40重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましい。凝集剤の割合が5重量%未満の場合は、水中において、ダイオキシン類を吸着した親水性活性炭およびSS粒子を効果的にかつ速やかに凝集させにくくなり、水中のダイオキシン類の採取に長時間を要したり、後述する分析結果の信頼性を損なう可能性がある。逆に、凝集剤の割合が40重量%を超える場合は、それに伴う効果を期待することができず、却って不経済である。
【0022】
本発明のダイオキシン類採取剤は、沈降助剤をさらに含んでいてもよい。沈降助剤は、水中において、上述の凝集剤により形成される凝集物の沈降を促進するためのものであり、このような沈降助剤を含むダイオキシン類採取剤は、水中のダイオキシン類をより短時間で採取することができる。また、沈降助剤を含むダイオキシン類採取剤は、後述するように、凝集物からのダイオキシン類の抽出をより容易にすることができる。ここで用いられる沈降助剤は、ダイオキシン類を実質的に含まないか、或いはダイオキシン類を水中において実質的に溶出しない粒子状の無機物質が好ましい。このような無機物質の具体例としては、シリカ、ゼオライトおよびカオリンを挙げることができるが、シリカを用いるのが最も好ましい。
【0023】
沈降助剤として用いられる上述の無機物質は、平均粒径が1〜100μmのものが好ましく、5〜50μmのものがより好ましい。平均粒径が1μm未満の場合は、凝集物の沈降に時間がかかり、沈降助剤としての効果を発揮しにくい可能性がある。逆に、100μmを超える場合は、粒子径が大きいため、水中で沈降助剤としての能力が低くなる可能性がある。
【0024】
本発明の採取剤における上述の沈降助剤の割合は、通常、30〜70重量%が好ましく、40〜60重量%がより好ましい。沈降助剤の割合が30重量%未満の場合は、沈降助剤を用いることによる効果が達成されない可能性がある。逆に、沈降助剤の割合が70重量%を超える場合は、それに伴う効果を期待することができず、却って不経済である。
【0025】
また、本発明の採取剤は、ダイオキシン類の採取対象となる水(以下、「被試験水」という)の性状に応じ、アルカリ化合物を含んでいてもよい。ここで用いられるアルカリ化合物は、凝集剤による凝集が促進されにくい酸性の被試験水を中性若しくはアルカリ性に調節し、凝集剤による凝集を促進するための凝集促進剤として機能するものであり、通常、アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物を用いることができる。利用可能なアルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム等のナトリウム塩および水酸化カリウムや炭酸カリウム等のカリウム塩などを挙げることができる。また、アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム(消石灰)、塩化カルシウムおよび炭酸カルシウム等のカルシウム塩並びに塩化マグネシウムや炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩などを挙げることができる。特に、これらのアルカリ化合物のうち、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび水酸化カルシウムは、毒劇物に該当しないため、好適に用いることができる。さらに、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属化合物は、後述するように被試験水が有する界面活性作用を抑制することもできるため、被試験水の界面活性抑制剤としても機能し得る。
【0026】
これらのアルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物は、それぞれ単独で用いられてもよいし、二種以上を混合して用いられてもよい。但し、アルカリ化合物としては、水への溶解度が高いことから、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウムおよび塩化カルシウムのうちの一つ若しくは二つ以上の任意の混合物を用いるのが最も好ましい。
【0027】
本発明の採取剤における上述のアルカリ化合物の割合は、通常、1〜20重量%が好ましく、2〜10重量%がより好ましい。アルカリ化合物の割合が1重量%未満の場合は、アルカリ化合物を添加することによる効果が得られにくくなる可能性がある。逆に、アルカリ化合物の割合が20重量%を超える場合は、それに伴う効果を期待することができず、却って不経済である。
【0028】
本発明のダイオキシン類採取剤は、上述の各成分を所定の割合で混合すると製造することができる。
【0029】
次に、本発明のダイオキシン類採取剤の利用方法について説明する。
本発明のダイオキシン類採取剤は、既述の通り、水中に含まれるダイオキシン類を分析するために、水中からダイオキシン類を採取するために用いることができる。
【0030】
本発明のダイオキシン類採取剤を用いて採取することができるダイオキシン類は、各種の被試験水中に含まれるもの、例えば、化学工場や製紙工場をはじめとする各種の工場からの排水、各種の研究施設からの排水、家庭用水、河川水、湖沼水、海水および地下水などに含まれるものである。ダイオキシン類は、このような被試験水中において、各種のSS粒子に付着した状態で含まれていてもよいし、溶解した状態で含まれていてもよい。SS粒子は、既述のように、通常、負電荷の懸濁物質として被試験水中に存在する。
【0031】
被試験水中に含まれるダイオキシン類を採取する場合は、被試験水に対して本発明のダイオキシン類採取剤を添加し、攪拌する。ここでは、被試験水の性状に応じてダイオキシン類採取剤の種類を選択するのが好ましい。具体的には、被試験水が炭酸ガスを含む等の理由により酸性を示す場合、ダイオキシン類採取剤として上述のアルカリ化合物を含むものを用いるのが好ましい。この場合、アルカリ化合物は、被試験水を凝集剤の効果が発揮されやすい中性若しくはアルカリ性にし、後述するような凝集物の生成を促進することができる。また、被試験水が界面活性剤を含む等の理由により界面活性作用を示す場合、上述のアルカリ化合物としてアルカリ土類金属化合物を含むダイオキシン類採取剤を用いるのが好ましい。この場合、アルカリ土類金属化合物は、被試験水が酸性を示す場合はそれを上述のように中性若しくはアルカリ性に調節することができ、また、それと同時に、被試験水中に含まれる界面活性成分の親水性部分にアルカリ土類金属イオンを付着させて溶解度の低い塩を生成し、被試験水の発泡を抑制することができるため、後述するような凝集物の生成を促進することができる。
【0032】
これに対し、被試験水が中性若しくはアルカリ性を示す場合や界面活性作用を実質的に示さない場合は、通常、ダイオキシン類採取剤としてアルカリ化合物を含まないものを用いる。但し、このような被試験水に対してアルカリ化合物を含むダイオキシン類採取剤を用いても、実質的な不具合は生じない。
【0033】
被試験水に対するダイオキシン類採取剤の添加量は、被試験水に含まれるSS粒子濃度に応じて設定するのが好ましく、一般化は困難であるが、通常は被試験水1リットルに対し、親水性活性炭換算による添加量が150mg/リットル以下になるよう設定するのが好ましい。親水性活性炭換算による添加量が150mg/リットルを超える場合は、被試験水において生成する凝集物からダイオキシン類を抽出するのが困難になり、後述する分析結果の信頼性を損なう可能性がある。但し、親水性活性炭換算による添加量が少な過ぎる場合は、被試験水中に含まれるダイオキシン類の一部が採取されず、結果的に後述する分析結果の信頼性を損なう可能性がある。したがって、被試験水に対するダイオキシン類採取剤の添加量は、通常、親水性活性炭換算による添加量で5mg/リットル以上50mg/リットル以下に設定するのが好ましい。
【0034】
ダイオキシン類採取剤を被試験水へ添加する際は、通常、ダイオキシン類採取剤へ予め少量の水を添加してスラリー状の水分散液を調製し、この水分散液を被試験水に対して添加するのが好ましい。このようにすると、ダイオキシン類採取剤を被試験水中へより均一にかつ速やかに分散させることができ、より短時間で効果的に被試験水に含まれるダイオキシン類を採取することができる。因みに、水分散液を調製する際に用いる水は、ダイオキシン類を溶解可能なヘキサンなどの炭化水素溶媒を用いて洗浄し、ダイオキシン類を除去したものが好ましい。
【0035】
被試験水に添加されたダイオキシン類採取剤中の親水性活性炭は、その親水性のため被試験水中に分散しやすく、被試験水の全体に速やかに拡散しやすい。そして、被試験水中に拡散した親水性活性炭は、被試験水中に含まれるダイオキシン類、具体的には、SS粒子に付着しているダイオキシン類や被試験水中に溶解しているダイオキシン類を効果的に吸着する。
【0036】
また、被試験水に添加されたダイオキシン類採取剤中の凝集剤は、既述のように正電荷を有するものであるため、被試験水中に含まれる、ダイオキシン類が付着しかつ負電荷を有するSS粒子やダイオキシン類を吸着した親水性活性炭を凝集させ、凝集物を形成する。ここで、ダイオキシン類採取剤が沈降助剤を含む場合、SS粒子や親水性活性炭は、被試験水に添加されたダイオキシン類採取剤中の沈降助剤を核として効果的に凝集し、比重の大きな凝集物となる。このため、この凝集物は、被試験水中において速やかに沈降する。この結果、被試験水中に含まれるダイオキシン類は、被試験水(液相)から凝集物(固体相)へ短時間で移行することになる。
【0037】
次に、被試験水中で生成した凝集物を被試験水から分離する。凝集物の分離方法としては、各種の固液分離方法を採用することができるが、ろ過方法を採用するのが好ましい。ろ過方法による場合、被試験水中の凝集物およびSS粒子等の懸濁成分を実質的に漏れなく採取する必要があるため、保留粒子径が約0.5μm程度のガラス繊維ろ紙を用いるのが好ましい。このような分離操作により、被試験水中に含まれていたダイオキシン類は、凝集物やSS粒子と共に、被試験水から取り除かれる。すなわち、被試験水中に含まれていたダイオキシン類は、被試験水から採取されることになる。
【0038】
以上のように、本発明のダイオキシン類採取剤を用いれば、被試験水にダイオキシン類採取剤を添加して攪拌し、それにより生成した凝集物等を被試験水から分離するという単純な操作だけで被試験水に含まれるダイオキシン類を採取することができるので、JIS K 0312:1999において推奨されている従来の採取方法に比べ、水中に含まれるダイオキシン類を短時間で容易に採取することができる。
【0039】
被試験水から採取したダイオキシン類を分析する場合は、先ず、上述の工程により被試験水から分離された凝集物を含む固体相に対し、抽出操作を実施する。ここでの抽出操作は、分離操作により得られた固体相からダイオキシン類を抽出するためのものである。抽出操作としては、通常、ソックスレー抽出法を採用することができる。この際の抽出溶媒としては、トルエン等の炭化水素溶媒を用いるのが好ましい。このような抽出操作は、ダイオキシン類を吸着している活性炭が上述のような親水性活性炭であるため、特別な工夫を要することなく、容易に実施することができる。特に、ダイオキシン類採取剤が沈降助剤を含む場合、凝集物の単位重量当りにおける親水性活性炭の含有量が沈降助剤のために抑制されることになるため、凝集物からダイオキシン類を容易にかつ速やかに抽出することができる。
【0040】
上述の抽出操作により得られたダイオキシン類の抽出液は、必要に応じて濃縮や精製処理を施すと、ダイオキシン類の分析用試料として用いることができる。この分析用試料は、被試験水中に含まれていたダイオキシン類を定性的または定量的に評価するため、例えば、高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計等により分析することができる。ここで得られる分析結果は、本発明のダイオキシン類採取剤を用いた上述の採取方法において被試験水中のダイオキシン類を実質的に漏れなく採取することができるため、信頼性が高い。
【実施例】
【0041】
製造例(親水性活性炭の製造)
10〜20メッシュに粉砕したヤシ殻炭を乾留し、乾留後の石炭をプロパン燃焼ガス(ガス組成:窒素80容量%、酸素0.2容量%、二酸化炭素9.8容量%、水蒸気10容量%)を用いて高温下で賦活した。このようにして得られた活性炭を窒素で置換した容器内へ入れて300℃以下まで冷却した後、サンプルミルにより粉砕し、親水性活性炭を得た。得られた親水性活性炭は、平均粒径が20μmであった。
【0042】
実施例1
製造例において得られた親水性活性炭50mg、ポリ塩化アルミニウム粉末(凝集剤)150mg、平均粒径が20μmのシリカ(沈降助剤)300mgおよび炭酸ナトリウム(アルカリ化合物)20mgを均一に混合し、ダイオキシン類採取剤を調製した。そして、このダイオキシン類採取剤へヘキサン洗浄によりダイオキシン類を除去した15ミリリットルの水を添加してスラリー化し、ダイオキシン類採取剤の水分散液を調製した。
【0043】
また、13Cでラベルされた7種類のポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDDs)、13Cでラベルされた10種類のポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)および13Cでラベルされた12種類のコプラナーポリ塩化ビフェニル(Co−PCBs)を含むダイオキシン類標準物質のアセトン溶液を調製した。そして、pHが7.2の3リットルの水へこのアセトン溶液を添加し、被試験水を得た。
【0044】
次に、上述の被試験水に上述の水分散液の全量を添加して攪拌したところ、被試験水中において凝集物が生成し、沈降した。保留粒子径が0.5μmのガラス繊維ろ紙(アドバンテック株式会社の商品名“GC−50”)を用い、凝集物が生成した被試験水を吸引ろ過した。この際、ろ液も確保した。そして、ガラス繊維ろ紙により採取された凝集物をガラス繊維ろ紙ごと12時間風乾した後、そこに含まれるダイオキシン類をトルエンを用いて16時間ソックスレー抽出した。
【0045】
ソックスレー抽出により得られた抽出液およびろ液をそれぞれ高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計(HRGC/HRMS)を用いて分析した。そして、その分析結果に基づいて、抽出液およびろ液のそれぞれについて、被試験水に含まれる各PCDDs、各PCDFsおよび各Co−PCBsの回収率を個別に算出した。結果を表1に示す。回収率は、次の式(1)により求めた値である。式中、Xは被試験水に含まれる特定のダイオキシン類の量を示し、Yは抽出液若しくはろ液に含まれる当該特定のダイオキシン類の量を示す。表1において、Co−PCBsは、IUPACの分類に従って表示している。
【0046】
【数1】

【0047】
表1によると、被試験水中に含まれていた各ダイオキシン類は実質的に全量が被試験水中に生成した凝集物に取り込まれて採取されており、しかも、凝集物として採取されたダイオキシン類はソックスレー抽出法により当該凝集物から容易に抽出されていることがわかる。
【0048】
実施例2
被試験水を調製する際に用いた水のpHを9.0に変更した点を除き、実施例1の場合と同様のダイオキシン類採取処理を実施して回収率を求めた。結果を表1に示す。表1によると、この実施例においても、被試験水中に含まれていた各ダイオキシン類は実質的に全量が被試験水中に生成した凝集物に取り込まれて採取されており、しかも、採取されたダイオキシン類はソックスレー抽出法により当該凝集物から容易に抽出されていることがわかる。
【0049】
実施例3
ダイオキシン類採取剤を調製する際に用いた親水性活性炭の量を20mgに変更した点および炭酸ナトリウムを水酸化カルシウムに変更した点を除き、実施例1の場合と同様のダイオキシン類採取処理を実施してダイオキシン類の回収率を求めた。結果を表1に示す。表1によると、この実施例においても、被試験水中に含まれていた各ダイオキシン類は実質的に全量が被試験水中に生成した凝集物に取り込まれて採取されており、しかも、採取されたダイオキシン類はソックスレー抽出法により凝集物から容易に抽出されていることがわかる。
【0050】
比較例
実施例1で調製したものと同様の被試験水に対し、JIS K 0312:1999「工業用水・工場排水中のダイオキシン類及びコプラナーPCBの測定方法」において推奨されているダイオキシン類の採取方法を実施した。そして、当該採取方法において用いるガラス繊維ろ紙により採取された固形分および固相ディスクからのソックスレー抽出液並びに固相ディスクを通過後のろ液のそれぞれについて、実施例1の場合と同様に分析を実施し、ダイオキシン類の回収率を調べた。結果を表1に示す。
【0051】
表1によると、本比較例の方法は、ソックスレー抽出液におけるダイオキシン類の回収率が低く、ダイオキシン類の一部がろ液中に残留している。これより、本発明のダイオキシン類採取剤を用いる実施例1〜3の方法は、本比較例に比べ、水中に含まれるダイオキシン類を容易にかつ精密に採取可能なことがわかる。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に含まれるダイオキシン類を分析するために前記水中から前記ダイオキシン類を採取するための採取剤であって、
平均粒径が1〜100μmの親水性活性炭と、
前記水中において前記親水性活性炭を含む凝集物を形成するための凝集剤と、
を含むダイオキシン類採取剤。
【請求項2】
前記水中において前記凝集物の沈降を促進するための沈降助剤をさらに含む、請求項1に記載のダイオキシン類採取剤。
【請求項3】
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つのアルカリ化合物をさらに含む、請求項1または2に記載のダイオキシン類採取剤。