説明

ダイオード素子及び検出素子

【課題】従来の横型のダイオード素子は、表面二電極間における電流経路に半導体界面が現れるため、界面状態に起因する雑音が大きいという点を解決するダイオード素子、検出素子等を提供する。
【解決手段】ダイオード素子は、第一の導電型の低濃度キャリア層103と、第一の導電型の高濃度キャリア層102と、半導体表面上に形成されたショットキー電極104及びオーミック電極105と、を備える。低濃度キャリア層のキャリア濃度は、高濃度キャリア層のキャリア濃度より低く、オーミック電極の直下に第一の導電型の不純物導入領域106が形成される。ショットキー電極及びオーミック電極の間の半導体表面に、ショットキー電極とは電気的に接触しない第二の導電型の不純物導入領域107が形成され、第二の導電型の不純物導入領域が第一の導電型の不純物導入領域と接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波検出素子などに用いるダイオード素子に関し、特には、ミリ波帯からテラヘルツ帯まで(30GHz以上30THz以下)の周波数領域内の周波数帯における電磁波(以下、テラヘルツ波とも言う)の検出素子、こうした素子を用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波の検出素子として、熱型検出素子や量子型検出素子がこれまで知られている。熱型検出素子としては、例えば、マイクロボロメータ(a-Si、VOxなど)、焦電素子(LiTaO、TGSなど)、ゴーレイセルなどがある。この様な熱型検出素子は、電磁波のエネルギーによる物性変化を熱に変換し、温度変化を熱起電力或いは抵抗などに変換の上、検出する素子である。冷却を必ずしも必要としない一方、熱交換を利用するため応答が比較的遅い。量子型検出素子としては、例えば、真性半導体素子(MCT(HgCdTe)光伝導素子など)やQWIP(Quantum Well Infrared Photodetector)等がある。こうした量子型検出素子は、電磁波をフォトンとして捕らえ、バンドギャップの小さい半導体の光起電力或いは抵抗変化を検出する素子である。応答が比較的速い一方、上記周波数領域における室温の熱エネルギーは無視できないため冷却を必要とする。
【0003】
応答が比較的速く冷却の不要な検出素子として、ダイオード素子を利用したテラヘルツ波の検出素子の開発が行われている。この検出素子は、電磁波を高周波電気信号として捕え、アンテナなどによって受信した高周波電気信号をダイオード素子によって整流して検出する。特許文献1はこうした検出素子を開示している。ここで、ダイオード素子はショットキーバリアダイオードであって、上部アンテナと、接地としての基板とをそれぞれ二電極として、COレーザによる約28THz(波長10.6μm)の電磁波を検出している。
【0004】
一方、基板の上下方向に二電極を配した縦型のショットキーバリアダイオードの他、基板の表面に二電極を配した横型のショットキーバリアダイオードが従来から知られている。特許文献2はこうしたダイオード素子を開示している。特許文献2に記載の素子は、逆バイアス耐性を高めるために、ショットキー電極の縁にガードリングを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−162424号公報
【特許文献2】特開昭60−18959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の従来の縦型のダイオード素子では、基板を接地電極として利用しているため、集積可能なアンテナの種類には限りがあった。特許文献2の従来の横型のダイオード素子では、表面二電極間における電流経路に半導体界面が現れるため、界面状態に起因する雑音が比較的大きくなることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明のダイオード素子は、第一の導電型の低濃度キャリア層と、前記低濃度キャリア層の下に形成された第一の導電型の高濃度キャリア層と、前記低濃度キャリア層の半導体表面上に形成されたショットキー電極及びオーミック電極と、を備える。前記低濃度キャリア層のキャリア濃度は、前記高濃度キャリア層のキャリア濃度より低く、前記オーミック電極の直下に第一の導電型の不純物導入領域が形成される。また、前記ショットキー電極及びオーミック電極の間の半導体表面に、ショットキー電極とは電気的に接触しない前記第一の導電型とは異なる第二の導電型の不純物導入領域が形成され、この不純物導入領域が前記第一の導電型の不純物導入領域と接する。或いは、前記ショットキー電極及びオーミック電極の間の半導体表面に、ショットキー電極とは隔てて前記第一の導電型とは異なる第二の導電型の不純物導入領域が形成され、この不純物導入領域が前記第一の導電型の不純物導入領域と接してもよい。或いは、ショットキー電極と前記第二の導電型の不純物導入領域との間の接触抵抗値が、ショットキー電極と前記低濃度キャリア層との間の接触抵抗値より大きく設定され、第二の導電型の不純物導入領域が第一の導電型の不純物導入領域と接してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ダイオード素子を構成する半導体表面上の二電極間において、電流経路を半導体表面から迂回させることができる。したがって、キャリア(電子或いは正孔)が界面状態に捕獲或いはこれから放出される際の雑音(例えば、1/fノイズ、RTSノイズ)の低減が可能になる。また、ショットキー電極とは電気的に接触することなく、又は該電極とは隔てて、又は該電極と第二の導電型の不純物導入領域間の接触抵抗値が該電極と第一の導電型の低濃度キャリア層間の接触抵抗値より大きく、第二の導電型の不純物導入領域を設けている。そのため、pnダイオード構造によるキャパシタンスの増加を抑えることができる。したがって、RCローパスフィルタのカットオフ周波数の低下を抑え、ミリ波帯からテラヘルツ帯まで(30GHz以上30THz以下)のような超高周波領域における電磁波検出素子を提供することもできる。この様にして、半導体表面に二電極を配し雑音が低減された横型のダイオード素子及び検出素子と、こうした素子を用いる装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1に係るダイオード素子の構成を示す図。
【図2】実施形態1に係るダイオード素子の構成と等価回路エレメントの対応を示す図。
【図3】実施形態2に係るダイオード素子の構成を示す図。
【図4】実施形態3の係る検出素子の構成を示す図。
【図5】実施形態3に変形例に係る検出素子の構成を示す図。
【図6】実施例1に係る検出素子の構成を示す図。
【図7】実施例2に係る検出素子の構成を示す図。
【図8】本発明の実施例の検出素子の雑音特性と従来型の横型のダイオード素子の雑音特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の素子において重要なことは、二電極間の電流を半導体表面に出来るだけ流さないことにある。ゆえに、キャリアの導電型とは反対の導電型の第二の導電型の不純物導入領域を、二電極間の半導体表面の部分に配置する。荷電キャリアは反対の導電型の領域を障壁ポテンシャル障壁として感じるため、この領域から迂回して流れることになる。半導体表面から極力完全に迂回させるためには、第二の導電型の不純物導入領域が、電流経路であるキャリアの導電型と等しい第一の導電型の不純物導入領域と接する構成が望ましい。この際、第二の導電型の不純物導入領域と第一の導電型の不純物導入領域でpn接合を形成するため、これがショットキーバリアダイオードと並列に接続される構造になると余計な接合容量が追加されてしまう。よって、高速動作を行うダイオード素子などとしては問題となり得る。ゆえに、上記pnダイオードは電極とは出来るだけ接続されない関係の方が望ましい。ショットキー電極とは電気的に接触することなく第二の導電型の不純物導入領域を設けるのはこのためである。或いは、ショットキー電極とは隔てて第二の導電型の不純物導入領域を設けるのはこのためである。或いは、ショットキー電極と第二の導電型の不純物導入領域との間の接触抵抗値を、ショットキー電極と低濃度キャリア層との間の接触抵抗値より大きく設定するのはこのためである。
【0011】
以下、図を用いて本発明の実施形態ないし実施例を説明する。
(実施形態1)
実施形態1に係るダイオード素子について、図1、図2を用いて説明する。図1及び図2に示す様に、本実施形態のダイオード素子は、基板101と、その上に形成された第一の導電型の高濃度キャリア層102とこれよりは低キャリア濃度の第一の導電型の低濃度キャリア層103を備える。高濃度キャリア層102とこの上に形成された低濃度キャリア層103との半導体の一部には、不純物導入を行っている。この第一の導電型の不純物導入領域106は、第二の導電型の不純物導入領域107と一部で接しており、また、少なくとも半導体表面から高濃度キャリア層102の深さまでは不純物が導入されている。ショットキー電極104は、第二の導電型の不純物導入領域107とは、電気的に接触することがないように配置されている。オーミック電極105は、第一の導電型の不純物導入領域106と接触するように配置されている。本実施形態では、第二の導電型の不純物導入領域107は、ショットキー電極104の周囲にリング状に設けられ、その深さは高濃度キャリア層102まで達している。
【0012】
ここでは、順に、高濃度キャリア層102、低濃度キャリア層103、ショットキー電極104がスタックされ、ショットキーバリアダイオードを形成している。ショットキー金属104と接してショットキー障壁を形成する低濃度キャリア層103は、典型的には、1015から1017cm-3のオーダの荷電キャリアを有する。第一の導電型の不純物導入領域106は、同じ第一の導電型の埋め込み導電層(高濃度キャリア層)102とオーミック電極105とをオーム性で比較的低抵抗に接続するための構造である。こうして、同一の半導体表面(低濃度キャリア層103の表面)に二電極104、105を備えた横型のダイオード素子が形成される。
【0013】
上記第一の導電型は例えばn型である。この場合、第二の導電型はp型であり、p型の不純物導入領域107は、n型キャリアつまり電子にとっては障壁ポテンシャルとして感じられる。それゆえ、ショットキー電極104からの電流は、この障壁ポテンシャルを避けながら低濃度キャリア層103より抵抗率の低い高濃度キャリア層(埋め込み導電層)102に注入される。そして、埋め込み導電層102の抵抗Rb202を含む下側の回路に電流が流れる(図2を参照)。この経路は、本実施形態において正規の電流経路である。同時に、p型の不純物導入領域107はn型の不純物導入領域106と接しており、pnダイオード203が形成される。したがって、ショットキー電極104と第二の導電型の不純物導入領域107との間の接触抵抗Rc204を通り抜ける電流は、pn接合(p型の不純物導入領域107とn型の不純物導入領域106の接合)からオーミック電極105に抽出される。こうして、pnダイオード203を含む上側の回路にも電流が流れる(図2を参照)。この経路は、本実施形態において、寄生的な電流経路である。ゆえに、ショットキー電極104と第二の導電型の不純物導入領域107との間の接触抵抗Rc204は、ショットキーバリアダイオード(SBD)201の抵抗より十分に大きい必要がある。
【0014】
ショットキーバリアダイオード201の抵抗は、例えば10Ωから1MΩのオーダの動作点で使用することが多く、したがって、これより大きな接触抵抗Rc204が望ましい。ショットキー電極104と第二の導電型の不純物導入領域107とが電気的に接触しない場合、或いは隔てて設けられている場合は、これを満たす関係にある。本明細書では、電気的に接触しない状況とは、10MΩ以上の電気抵抗によって電気的に絶縁している状況を指すものとする。よって、ショットキー電極104と不純物導入領域107の面積上のオーバーラップは、これらのいずれかを満たす範囲で許容される。
【0015】
本実施形態において、キャリアの選択は任意であるが、移動度の高い電子を選ぶと、遅延時間を低減しカットオフ周波数を高めることができる。さらに、半導体の選択によっても、移動度を選択できる。例えば、半導体としては、Si系、GaAs系、InP系(InGaAs含む)、InAs系、InSb系などを選択することができる。後の側の半導体ほど、キャリアの移動度が高いため、好ましい。一方で、Si系を選択すれば、CMOSによるMOSFETやBiCMOSによるHBTなどのアンプを同一基板上に集積できるため、好ましい。
【0016】
以上に述べた様に、本実施形態では、半導体表面上の二電極間において、電流経路を半導体表面から迂回させることができ、キャリアが界面状態に不規則にトラップされる際の雑音の低減が可能になる。また、pnダイオード構造によるキャパシタンスの増加を抑えることができ、RCローパスフィルタのカットオフ周波数の低下を抑えて超高周波領域における電磁波検出素子を実現することもできる。
【0017】
(実施形態2)
実施形態2に係るダイオード素子について、図3を用いて説明する。本実施形態は、実施形態1の変形例である。本実施形態が実施形態1と異なるのは、次の点である。オーミック電極305が、不純物導入領域306、307を覆っている点と、ショットキー電極304が、不純物導入領域307と僅かにオーバーラップしている点(図3(a))、または、物理的に離間されている点(図3(b))である。その他は、実施形態1と同様で、301は基板、302は高濃度キャリア層、303は低濃度キャリア層である。第二の導電型の不純物導入領域307は、二電極304、305間の半導体表面を覆っていればどんな構造でもよい。本実施形態では、第一の導電型の不純物導入領域306が高濃度キャリア層302を突き抜けていないが、両者が接していればどんな構造でもよい。
【0018】
本実施形態で、例えば、第一の導電型をn型、第二の導電型はp型とすると、オーミック電極305へ流れ込む殆どの電流は、n型領域306におけるp型領域307の側を流れることになる。そこで、こうしたpn接合(n型領域306とp型領域307の間)を覆うようにオーミック電極305を設けると、金属−半導体界面以外の半導体表面を電流が流れず、低雑音化のために望ましい。
【0019】
本実施形態の場合、オーミック電極305とp型領域307が電気的に接しているため、実施形態1では考えなかったp型領域307と低濃度キャリア層303の間の寄生pnダイオードが考えられる。しかしながら、少なくとも、埋め込み導電層302の抵抗Rbにおける電圧降下がこのpnダイオードの拡散電位よりも小さな領域では、問題なく使用することができる。例えば、Siのpnダイオードの拡散電位は0.6V程度であり、1Ωないし10Ω程度の抵抗Rbに流れる電流が600mAないし60mA程度以内での使用において、こうしたpnダイオードは考えなくてもよい。
【0020】
図3(a)の構造では、ショットキー電極304はp型領域307とは面積上わずかに重なり合っている。面積上のオーバーラップは以下の見積もりのような範囲で許容される。n型半導体との組み合わせでショットキー電極304となる電極材は、p型半導体との組み合わせでオーミック電極になる場合が多い。その接触比抵抗をρcとし、面積上のオーバーラップをAとすると、ρc/Aが10MΩ以上なら電気的に接触していないことになる。いま、ショットキー電極304を円形と仮定し、その直径を0.3μm、ショットキー電極304とp型領域307との接触比抵抗ρcを0.1MΩμm(10−3Ωcm)とする。すると、A は約0.01μm以下と計算されるが、オーバーラップは、円形の片側の半径方向幅で約10nm以下までは許容される。もちろん、図3(b)のように、ショットキー電極304はp型領域307とは隔てて設けてもよい。検出素子としてのカットオフ周波数を高めるために、ダイオード素子の微細化は有効であるが、図3(a)の構造の方が寸法精度に余裕があるため、望ましい。しかし、図3(a)、(b)のいずれの構造も低雑音化の効果がある。
【0021】
(実施形態3)
実施形態3に係る検出素子について、図4を用いて説明する。本実施形態も実施形態1の変形例である。本実施形態が実施形態1と異なるのは、半絶縁性基板401を用いており、誘電体408によって導電層(高濃度キャリア層と低濃度キャリア層)402、403を島状に分離している点である。つまり、電極404、405と導電層402、403が、401の半導体基板上に島状に配されている。また、ショットキー電極404とオーミック電極405には、それぞれ、導電パターン4041、4051が接続されている。その他は、実施形態1と同様である。すなわち、第一の導電型の不純物導入領域が406、第二の導電型の不純物導入領域が407である。
【0022】
本実施形態では、ダイオード素子部分を島状に形成した検出素子のための構成を示しており、こうした島409が、検出したい電磁波の波長より十分小さいときは、集中定数素子として近似することができる。島409は数μm前後で作製することが可能なため、ミリ波帯からテラヘルツ帯までの検出素子として好適である。したがって、十分小さな導電部402、403、404、405、406、407を除くすべての領域は、空気なども含めて誘電体であり、場(電界)は、導電パターン4041、4051によって容易にコントロールすることができる。例えば、アンテナ4041、4051として、共振型のダイポールアンテナやスロットアンテナを集積してもよいし、広帯域な対数周期アンテナを集積してもよい。このような、平衡型のアンテナの種類は数が多く、検出素子として好適である。導電パターン4041、4051の一部に伝送線路を設けてもよく、また、ダイオード素子とアンテナとのインピーダンスマッチングをとるなど、既存のマイクロ波技術を利用してもよい。
【0023】
基板401は、検出すべき周波数帯で誘電体として振る舞い、自由キャリア吸収の少ないものであればよく、半絶縁性GaAs、InP基板の他、比較的高抵抗率のFZ-Si基板を用いてもよい。1THz以上の周波数領域であれば、抵抗率が20Ωcm以上のCZ(MCZ)-Si基板でもよい。同様に、誘電体408は、検出すべき周波数帯において誘電損失が小さなものを用いればよく、酸化膜SiOや窒化膜SiNを用いてもよい。テラヘルツ帯であれば、BCB(ベンゾシクロブテン)を用いてもよい。
【0024】
もちろん、不平衡型のアンテナと集積することもできる。図5は本実施形態の変形例を示しており、上記特許文献1の素子のように、基板を接地電極とする代わりに、オーミック電極405を接地導体パターン5051として用いている。この際、基板401の抵抗率は低くてもよいし、高くてもよい。いずれにせよ、接地電極は、接地導体パターン5051と高濃度キャリア層402と第一の導電型の不純物導入領域406を含んで構成される。こうした接地電極に対して、上部電極としての導体パターン5041を形成すれば、容易に不平衡型のアンテナを構成できる。例えば、共振型のパッチアンテナを集積してもよい。
【0025】
以下、更に具体的なダイオード素子及び検出素子について、実施例で説明する。
(実施例1)
実施形態3に対応するより具体的な実施例1を説明する。本実施例に係る検出素子について、図6を用いて説明する。図6に示す本実施例は、電磁波を検出するための用途で使用することができる好適なダイオード素子の実施例である。
【0026】
本実施例において、基板601は、Si基板を用いる。FZ法の引き上げにより、抵抗率は1kΩcmの高抵抗率品を用いている。キャリアとしては電子を採用し、高濃度キャリア層602のn型キャリア濃度は5×1019cm-3、厚さは400nmである。低濃度キャリア層603のn型キャリア濃度は5×1017cm-3、厚さは100nmである。第一の導電型の不純物導入領域であるイオン注入領域606は、半導体表面より深さ200nmまで燐(P)が注入されており、n型である。領域606は、電子の数が濃度に換算して5×1019cm-3かそれ以上の濃度領域となっている。もちろん、ヒ素(As)を注入してもよい。第二の導電型の不純物導入領域であるイオン注入領域607は、半導体表面より深さ50nmまでホウ素(B)が注入されており、p型である。領域607は、正孔の数が濃度に換算して5×1018cm-3程度の濃度領域となっている。これらの領域606、607は、互いに接して配置される。
【0027】
オーミック電極605は、第一のイオン注入領域606がその直下にくるように配置され、比較的高濃度なp型領域607とオーミックに接している。本実施例では、電極材としてTi605を用いる。また、ショットキー電極604は、第二のイオン注入領域607とは、電気的に接触することがないように配置され、比較的低濃度な低濃度キャリア層603とショットキー障壁を形成する。本実施例では、電極材としてTi604を用いる。Ti604、605の厚さは200nmを用いるが、これに限ることはなく、これより薄くてもよいし厚くてもよい。こうして、本発明を適用できるダイオード素子を構成する。
【0028】
本発明を適用できる検出素子を構成するためには、半導体602、603、606、607の島609を形成する。島の大きさは、0.5THz以上3THz以下の周波数帯の電磁波の検出のために50μm程度かそれ以下とし、一辺を約7μmに設計した。さらに、島609をSiO608で埋め込み、ショットキー電極604、オーミック電極605はそれぞれコンタクトホールを介して、Ti/Alなどの金属パターン6041、6051と接続する。尚、RCローパスフィルタのカットオフ周波数が約3THzとなるように、ショットキー電極604の直径は0.6μm、ショットキー電極604とオーミック電極605との間の距離を1μmに設計した。
【0029】
こうしたダイオード構造の二電極を出力ポートとした集積アンテナの一例として、本実施例では対数周期アンテナを用いる(図6(b))。アンテナ6041、6051は、それぞれ、外側までの半径が250μm、もっとも内側までの半径が10μm、対数周期0.7の櫛歯の数が9本、櫛歯の角度が45degに設計した。高周波全電磁界シミュレータHFSSv12(ansoft社製)でこうした構造をシミュレーションしたところ、0.2から2.5THzまでの広帯域での電磁波検出が可能であることを確認した。この様にして、ダイオード素子と、被検出電磁波の電界成分をショットキー電極とオーミック電極の間に誘起するためのアンテナと、を備え、ショットキー電極とオーミック電極をアンテナの出力ポートとする検出素子が構成される。
【0030】
検出は、読み出し線6052a、6052bを介して例えば不図示の電流計測手段などによって検波電流を読み取る。このとき、不図示の電圧印加手段などによって読み出し線6052a、6052bにバイアス電圧を印加し、ダイオード素子の動作点電圧を設定してもよい。本実施例のダイオード素子の場合、0V付近にバイアスしておくと高感度である。最適なバイアス電圧はショットキー電極604の電極材などに依存し、本実施例の構造の場合、Tiのように比較的仕事関数の低い電極材では0V付近、PtやPdのように比較的仕事関数の高い電極材では0.3から0.5V付近の順バイアスが最適である。
【0031】
本実施例の検出素子の作製は次のように行うことができる。まず、Si基板601上にエピタキシャル層602、603を積層する。結晶成長にはCVD法、MBE法等が適用可能である。その後、プラズマCVD酸化膜を100nm製膜する。プラズマ酸化膜成長後に、島609形成領域に該当する部位にレジストを残存ならしめるようにパターニングする。一般的な塗布、露光、現像工程を経て島609形成部位にレジストが形成された後、このレジストをマスクとして下地のプラズマ酸化膜をエッチング除去する。RIE(反応性イオンエッチングエッチング)装置等を適用し、CFとOの混合ガス等を用いれば、容易に酸化膜を除去可能である。続いて、前述のレジストを有機溶剤で除去する。その後、パターニングされたプラズマ酸化膜をマスクとして高濃度キャリア層602と低濃度キャリア層603をエッチングする。エッチングは、SFやCl等のハロゲン系ガスを用いたドライエッチングを用いれば容易に実現可能である。この際、基板601までエッチングが到達することが、隣接デバイスとの電気的絶縁を得るために好適である。
【0032】
その後、プラズマ酸化膜ハードマスクは緩衝フッ酸等への浸漬で除去される。島609のエッチング工程でプラズマ酸化膜をハードマスクとして用いる理由としては、次の点があげられる。レジストをマスクとしてエッチングするプロセスに対し、選択比を得ることが容易であること、及びレジストの成分が高濃度キャリア層602と低濃度キャリア層603にノックオンされることを低減する上で好適であることがあげられる。続いて、イオン注入領域606を形成する部位が除去されるようにレジストをパターニングする。続いて、10keVで1×1012ion/cmの密度でもってBをイオン注入する。これにより、5×1018cm-3程度の不純物密度で、領域607における低濃度キャリア層603がp型化して、p型不純物領域607が形成される。続いて、領域607をパターニングしたレジストを除去の後、領域606を形成する部位が除去されるようにレジストをパターニングする。
【0033】
こうした工程において、領域606は領域607に若干オーバーラップさせることが好ましい。領域607と領域606の間にギャップが存在しないことが、n型キャリアの流入を、領域606に、より限定する観点で好ましい構成であるためである。続いて、80keVで1×1014ion/cmの密度でもってAsをイオン注入することにより、5×1019cm-3程度の不純物密度で、高濃度キャリア層602に接するように高濃度のn型不純物注入領域606が形成される。領域606、607に注入された不純物は、熱処理炉やランプアニール炉において850〜1000℃で、NもしくはAr等の不活性ガス中でアニールすることにより活性化される。領域606と領域607のオーバーラップ領域は、領域606のn型不純物量が領域607のp型不純物量に対して10倍程度濃いために、完全にn型化する。
【0034】
続いて、電極604、605を形成する部位が除去されるようにレジストをパターニングする。その後、電子ビーム蒸着を用いてTiを200nm製膜する。その後、有機溶剤に浸漬して電極604、605の部位以外のTiを除去する所謂リフトオフ法で、電極604、605を形成する。電極形成工程で、リフトオフ法を用いるのは低濃度キャリア部位603に加工ダメージによる欠陥が導入されることを回避するためである。続いて、絶縁膜608をプラズマ酸化膜で製膜する。下地の島609や電極604、605の凹凸がプラズマ酸化膜に反映され、後述の対数周期アンテナのパターニング時にフォーカス深度不足等の影響が生じる可能性がある場合には、次の様にしてもよい。即ち、プラズマ酸化膜による埋設後にCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)工程を用いて酸化膜を平坦化することも可能である。その後、電極604、605上を除去するようにレジストをパターニングし、スルーホールエッチングを行う。エッチングには前述のRIE等が、またガスについてはCF等が適用可能である。レジスト除去後、Ti/Alをスパッタ法にてそれぞれ10nm、200nm連続製膜する。製膜後、対数周期アンテナ6041、6051を形成ならしめる様にレジストをパターンニングし、前記RIEや、よりプラズマ密度の高いECR(電子サイクロトロン共鳴)エッチング装置を用い、ハロゲン系ガスを適用してTi/Alの不要部分を除去する。レジストを除去し、以上の工程にて本素子は完成する。尚、本実施例ではイオン注入法を用いたが、これに限ることはなく、拡散法を用いて不純物導入してもよい。
【0035】
確認のため、本実施例のダイオード素子における雑音特性の評価を室温で行った。図8は、本実施例の検出素子における雑音特性と、比較のためのほぼ同等の寸法の従来型の横型のダイオード素子の雑音特性を示すもので、それぞれ、図8(a)、(b)に対応する。横軸は検波電流の周波数であり、1/fノイズが頻繁にあらわれる10Hzから1000Hzまでをフーリエ変換型スペクトラムアナライザで測定した。縦軸は雑音電流であって、比較的低雑音なスタンフォード・リサーチ社製のSR570型前置電流増幅器を用いて測定した。縦軸の表記において、rtHzはroot-Hertzの略であり、1e-008などは1×10-8などを表す。1/fノイズはバイアス電流Ibに比例することで知られているため、実験では20μA及び10μAを用いた。図より明らかであるが、本発明の素子(a)の方が従来の素子(b)と比較して、1/fノイズが小さいことが分かる。傾きを見ると、周波数依存性1/fαにおいて本発明の素子(a)の方が従来の素子(b)よりαが小さい傾向もみられた。また、それぞれの素子において、バイアスしない場合の雑音は、√(4kT/Rd)で表されるジョンソンノイズ(熱雑音)のレベルに迫っていたため、その大部分はジョンソンノイズと考えてよい。作製時にショットキーバリアの高さが微妙に異なったためダイオードの抵抗Rdが変化し、レベルが半ケタ程度異なっているが、測定対象の1/fノイズのバックグラウンドとしては非常に低レベルである。言い換えれば、テラヘルツ帯検波用のショットキーバリアダイオードでは、ビデオ周波数においては、1/fノイズやRTSノイズなどの、素子を流れる電流に依存する雑音が優勢である。したがって、これらを低減した本実施例のダイオード素子は、効果的に雑音が低減された横型の検出素子として優れている。
【0036】
さらに、本実施例(ないし本発明)による検出素子を複数個アレイ状に配置することで、複数の検出素子が夫々検出する被検出電磁波の電界に基づいて電界分布の画像を形成する画像形成部を備えた画像形成装置を構成することが可能である。この際、アンテナの方向が異なる本実施例(ないし本発明)による検出素子を配置することによって、異なる偏波に対応する画像形成装置とすることも可能である。異なる周波数に対する共振型アンテナを配置することによって、異なる周波数に対応する画像形成装置とすることも可能である。
【0037】
(実施例2)
実施例2に係る検出素子について、図7を用いて説明する。図7に示す本実施例は、実施例1の変形例である。本実施例は、検出信号をアンプするための用途で使用することができる好適な検出素子の実施例を示すもので、同じSi基板601上に集積したMOSFETによって検出信号をアンプすることが可能である。
【0038】
本実施例におけるMOSFETは、ゲート電極701、ゲート絶縁膜702、ソース電極703、ドレイン電極704、イオン注入領域705によって構成される。検出信号をアンプするために、ショットキー電極604は、MOSFETのゲート電極701に検出信号を入力するように配線706を接続し、ショットキーバリアダイオードの抵抗或いは不図示の抵抗要素などによって変換された整流電圧をMOSFETに入力する。この際、オーミック電極605を、ソース電極703と接続してよく知られたソース接地とするか、ドレイン電極704と接続してよく知られたソースフォロアとするかは、目的に応じて選択する。MOSFETからのアンプされた検出信号の出力は、ショットキー電極604ともオーミック電極605とも接続されていない残りの電極から出力される。この様にして、ダイオード素子と、検出信号を出力するためのトランジスタと、を備え、検出素子とトランジスタが同一基板に配置される検出素子を構成することができる。
【0039】
本実施例の検出素子の作製は、まず、選択エピタキシャル成長法を用いて島609の部分にだけエピタキシャル層602、603を結晶成長した後、実施例1と同様の工程を用いて島609の部分に検出素子を作製する。その後、標準CMOSプロセスなどを用いてSi基板601上にMOSFETを作製すれば良い。このように検出素子のアンプとしてMOSFETを同一基板上に配置した構成は、標準的なCMOSプロセスを用いて作製できるため低コストである。また、配線706は短いほど検出信号への雑音の混入が少ないので、こうして同一基板上に集積することは低NF化のためにも都合が良く好適である。
【0040】
ここでも、本実施例(ないし本発明)による検出素子をマトリクス配線と接続し、MOSFETをアクティブマトリクスのスイッチング素子としても使用すれば、次の様な装置とできる。即ち、高密度の複数の検出素子が夫々検出する被検出電磁波の電界に基づいて電界分布の画像を形成する画像形成部を備えた画像形成装置とすることが可能である。
【符号の説明】
【0041】
101・・・基板、102・・・第一の導電型(例えばn型)の低濃度キャリア層、103・・・第一の導電型(例えばn型)の高濃度キャリア層、104・・・ショットキー電極、105・・・オーミック電極、106・・・第一の導電型(例えばn型)の不純物導入領域、107・・・第二の導電型(例えばp型)の不純物導入領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の導電型の低濃度キャリア層と、前記低濃度キャリア層の下に形成された第一の導電型の高濃度キャリア層と、前記低濃度キャリア層の半導体表面上に形成されたショットキー電極及びオーミック電極と、を備えたダイオード素子であって、
前記低濃度キャリア層のキャリア濃度は、前記高濃度キャリア層のキャリア濃度より低く、
前記オーミック電極の直下に第一の導電型の不純物導入領域が形成され、
前記ショットキー電極及びオーミック電極の間の半導体表面に、前記ショットキー電極とは電気的に接触しない前記第一の導電型とは異なる第二の導電型の不純物導入領域が形成され、
前記第二の導電型の不純物導入領域が前記第一の導電型の不純物導入領域と接する、
ことを特徴とするダイオード素子。
【請求項2】
第一の導電型の低濃度キャリア層と、前記低濃度キャリア層の下に形成された第一の導電型の高濃度キャリア層と、前記低濃度キャリア層の半導体表面上に形成されたショットキー電極及びオーミック電極と、を備えたダイオード素子であって、
前記低濃度キャリア層のキャリア濃度は、前記高濃度キャリア層のキャリア濃度より低く、
前記オーミック電極の直下に第一の導電型の不純物導入領域が形成され、
前記ショットキー電極及びオーミック電極の間の半導体表面に、前記ショットキー電極とは隔てて前記第一の導電型とは異なる第二の導電型の不純物導入領域が形成され、
前記第二の導電型の不純物導入領域が前記第一の導電型の不純物導入領域と接する、
ことを特徴とするダイオード素子。
【請求項3】
第一の導電型の低濃度キャリア層と、前記低濃度キャリア層の下に形成された第一の導電型の高濃度キャリア層と、前記低濃度キャリア層の半導体表面上に形成されたショットキー電極及びオーミック電極と、を備えたダイオード素子であって、
前記低濃度キャリア層のキャリア濃度は、前記高濃度キャリア層のキャリア濃度より低く、
前記オーミック電極の直下に第一の導電型の不純物導入領域が形成され、
前記ショットキー電極及びオーミック電極の間の半導体表面に、前記第一の導電型とは異なる第二の導電型の不純物導入領域が形成され、
前記ショットキー電極と前記第二の導電型の不純物導入領域との間の接触抵抗値が、前記ショットキー電極と前記低濃度キャリア層との間の接触抵抗値より大きく設定され、
前記第二の導電型の不純物導入領域が前記第一の導電型の不純物導入領域と接する、
ことを特徴とするダイオード素子。
【請求項4】
前記第二の導電型の不純物導入領域は、前記ショットキー電極の周囲に設けることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のダイオード素子。
【請求項5】
半導体基板上に島状に配されたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のダイオード素子。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のダイオード素子と、被検出電磁波の電界成分を前記ショットキー電極と前記オーミック電極の間に誘起するためのアンテナと、を備え、
前記ショットキー電極と前記オーミック電極を前記アンテナの出力ポートとすることを特徴とする検出素子。
【請求項7】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のダイオード素子と、検出信号を出力するためのトランジスタと、を備え、
前記検出素子と前記トランジスタが同一基板に配置されることを特徴とする検出素子。
【請求項8】
請求項6または7に記載の検出素子を複数個アレイ状に配し、
前記複数の検出素子がそれぞれ検出する被検出電磁波の電界に基づいて電界分布の画像を形成することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−38390(P2013−38390A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−122572(P2012−122572)
【出願日】平成24年5月30日(2012.5.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】