説明

ダイカストアルミ合金製クラッシュカン

【課題】車両衝突時に車体ないし乗員が受ける衝撃をクラッシュカン1によって小さくする。
【解決手段】クラッシュカン1は、ダイカストアルミ合金製であって、車両左右を前後方向に延びるサイドフレームと車幅方向に延びるバンパレインフォースメントの端部との間に設けられる。クラッシュカン1は、車両前後方向に延びる断面十字状の凹多角形になった筒状部5を備え、その筒状部5の凸角部及び凹角部の少なくとも一方の角部に、壁厚が薄くなった車両前後方向に延びる薄肉部12が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用のクラッシュカンに関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、車両同士の衝突時や、運転操作ミスによる建造物への衝突時における乗員の安全確保や車体損傷の軽減を目的として衝撃吸収装置が備えられている。その代表的なものとして、車両のバンパ内側に設けられたバンパレインフォースメントと車体のサイドフレーム端部との間に設けられるクラッシュカン(「クラッシュボックス」ともいう。)がある。
【0003】
上記クラッシュカンは、一般にはスチール材によって形成され、車両の正突時やオフセット衝突時に蛇腹状に座屈変形しながら車両前後方向に潰れていく過程で衝突エネルギを吸収する。そのために、従来のスチール材よりなるクラッシュカンは、車両内側と車両外側の両断面コ字形状部材を接合することにより、内部が中空になった筒状に形成されている。また、クラッシュカンの閉断面形状を十字形やダルマ形にすることや、クラッシュカンの内側壁面及び外側壁面にビードを設けることも知られている。例えば、特許文献1には、スチール材よりなる閉断面十字状のクラッシュカンが記載され、また、その前端面に凹部を設け、この凹部をバンパビーム後面の車幅方向に延びる断面コ字状凸部に嵌め合わせた状態にすることが記載されている。
【0004】
また、クラッシュカンをアルミ合金製とする試みも知られている。例えば、特許文献2には、円筒状のダイカストアルミ合金製クラッシュカンにおいて、その壁厚を軸方向において連続的に又は部分的に変化させることが記載されている。また、特許文献3には、アルミ合金押出材よりなる中空矩形断面のクラッシュカンにおいて、その壁面を外側に突出させた軸方向に延びる断面コ字状の凸部を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−70038号公報
【特許文献2】特開2002−39245号公報
【特許文献3】特開2002−12165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車体を構成するクラッシュカンは大物部品ではないが、これを製作する材料をスチール材からアルミ合金材に代えると、強度確保のために壁厚を少し増大させる必要があるとしても、アルミ合金材の方が軽いから、車体の軽量化に有利になる。しかし、アルミ合金押出材の場合は、クラッシュカンが基本的には軸方向の全長にわたって同じ断面形状になるから、効果的な衝撃吸収性を得るべく断面形状を軸方向において変化させたり、或いは両端に接合フランジを設けたりすることが難しい。これに対して、特許文献2に記載されているダイカストアルミ合金製クラッシュカンの場合、筒状部の壁厚を変化させたりフランジ等を設けることは可能になるが、さらに効果的な衝撃吸収性を得ることが要望される。
【0007】
すなわち、クラッシュカンに衝突荷重が加わると、クラッシュカンが衝突荷重に対して突っ張るため、最初の座屈を生ずるまでは車体側が受ける荷重が高くなっていき、その後に座屈を生ずることに伴って荷重が低下する所謂初期ピークが現れる。そして、この最初の座屈によってクラッシュカン全体が一気に潰れた破壊状態になると、その後はクラッシュカンによる衝突エネルギの吸収効果が得られず、車体が受けるダメージ及び乗員が受ける衝撃が大きくなる。
【0008】
最初の座屈でクラッシュカンが一気に破壊しない場合でも、次の座屈を生ずるまでは車体側が受ける荷重が増大していくから、最初の座屈に続いて座屈が次から次に適宜に生じないときは衝突エネルギの効果的な吸収が図れず、車体側が受ける衝撃が大きくなってしまう。
【0009】
そこで、本発明は、クラッシュカンに衝突荷重が加わったときに、クラッシュカンが衝突エネルギを効率良く吸収しながら潰れていくようにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、筒状部が断面十字状の凹多角形となったダイカストアルミ合金製クラッシュカンを採用し、その筒状部に所定の態様で座屈変形を生ずるように誘発する変形誘発部を備える構成とした。
【0011】
以下、具体的に説明すると、ここに開示するダイカストアルミ合金製クラッシュカンは、車両左右をそれぞれ前後方向に延びるサイドフレームと車幅方向に延びるバンパレインフォースメントの端部との間に設けられるものであって、
車両前後方向に延びる断面形状が十字状の凹多角形である筒状部を備え、
上記筒状部の凸角部及び凹角部の少なくとも一方の角部に、壁厚が薄くなった車両前後方向に延びる薄肉部(変形誘発部)が設けられていることを特徴とする。
【0012】
すなわち、クラッシュカンに衝突荷重が加わったときに筒状部に生ずる座屈は、荷重が限界値に達したときに、筒状部の壁が横方向(車両前後方向に直交する方向)に変形をおこす現象である。端的に言えば、筒状部には衝突荷重によってその周壁を内方向又は外方向に変形させる力が働く。筒状部が断面十字状の凹多角形であるときは、外方に突出した4つの凸部のうちの、一方の相対する凸部各々に外方向の力が働くときは、他方の相対する凸部各々には内方向の力が働く。
【0013】
本発明に係るクラッシュカンでは、筒状部の角部が薄肉になっているから、衝突荷重が加わったとき、筒状部は上記内方向又は外方向に働く力によって角部の曲げが戻るように変形し易い。このことは、上述の一方の相対する凸部に外方向の力が働くときには、その凸部は角部の曲げが伸び、そのことによって先端が幅狭になって外方向に突出変形し易いこと、また、他方の相対する凸部に内方向の力が働くときには、その凸部は角部の曲げが伸び、そのことによって先端が幅広になって内方向に変形し易いことを意味する。つまり、一方の相対する凸部が幅狭になって外方向へ突出し他方の相対する凸部が幅広になって内方向に変形してなる座屈変形を上記薄肉部が誘発する。
【0014】
そうして、上記クラッシュカンの筒状部は、上述の一方の相対する凸部の外方向への変形と、他方の相対する凸部に内方向への変形とを伴って、座屈する。凸部が外方向又は内方向に変形して座屈したとき、その座屈部に車両前後方向において隣接する部位は、凸部が逆方向(内方向又は外方向)に変形する力が働く。つまり、今度は、上記一方の相対する凸部が幅広になって内方向に変位する変形と、上記他方の凸部が幅狭になって外方向に突出する変形とを伴って、座屈する。この場合も、筒状部の角部が薄肉になっているから、当該変形態様の座屈を生じ易い。
【0015】
このように、本発明に係るクラッシュカンの場合、衝突荷重が加わったときには、一方の相対する凸部が外方向に変形し、他方の相対する凸部が内方向に変形する第1の座屈変形パターンと、一方の相対する凸部が内方向に変形し、他方の相対する凸部が外方向に変形する第2の座屈変形パターンとが、車両前後方向において交互に現れて、筒状部は蛇腹状に折り畳まれたように変形していくが、上記薄肉部の働きにより、上記第1及び第2の変形パターンによる座屈変形が円滑に行なわれる。よって、本発明によれば、衝突エネルギの効果的な吸収が図れ、車体が受けるダメージや乗員が受ける衝撃を小さくなる。
【0016】
しかも、本発明に係るクラッシュカンは、筒状部に前後方向に延びる薄肉部を設けたものであるから、筒状部周壁の壁厚あるいは形状を車両前後方向において部分的に変化させる場合とは違って、ダイカスト成形用の金型構造が複雑になることはない。
【0017】
好ましい実施形態は、上記筒状部には、さらに相隣る角部間の平坦部に壁厚が薄くなった車両前後方向に延びる薄肉部が設けられていることを特徴とする。これによれば、角部間の平坦部が屈曲し易くなり、凸部が幅狭になって外方向へ突出する変形、並びに凸部が幅広になって内方向に変位する変形を生じ易くなる。すなわち、上記第1及び第2の変形パターンによる座屈変形が円滑に行なわれる。
【0018】
また、好ましい実施形態は、上記薄肉部が、上記筒状部の外面又は内面に車両前後方向に延びる溝を設けることによって形成されていることを特徴とする。これによれば、筒状部が溝によって屈伸し易くなり、上記第1及び第2の変形パターンによる座屈変形が円滑に行なわれる。
【0019】
好ましい実施形態では、上記筒状部は上記サイドフレーム側から車両前方に向かって先細に形成されている。これにより、筒状部は、衝突荷重が加わったとき、先細になった前端側から座屈が始まり、後端側に向かって上記第1変形パターンによる座屈と第2変形パターンによる座屈とが交互に生じていき、蛇腹状折り畳み変形が円滑に行なわれることになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、クラッシュカンは車両前後方向に延びる断面十字状凹多角形の筒状部を備え、該筒状部の凸角部及び凹角部の少なくとも一方の角部に、壁厚が薄くなった車両前後方向に延びる薄肉部が設けられているから、一方の相対する凸部が外方向に変形し、他方の相対する凸部が内方向に変形する第1変形パターンと、一方の相対する凸部が内方向に変形し、他方の相対する凸部が外方向に変形する第2変形パターンとが、車両前後方向において交互に現れる蛇腹状の座屈変形が円滑に行なわれるようになり、衝突エネルギの効果的な吸収が図れ、車体が受けるダメージや乗員が受ける衝撃を小さする上で有利になる。しかも、筒状部の角部に車両前後方向に延びる薄肉部を設けるという構成であるから、クラッシュカンのダイカスト成形を難しくすることもない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る車両前部の車体構造を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るクラッシュカンの斜視図である。
【図3】同クラッシュカンの筒状部の横断面図である。
【図4】同クラッシュカン製造用金型を模式的に示す断面図である。
【図5】同クラッシュカン筒状部の第1変形パターンを示す図である。
【図6】同クラッシュカン筒状部の第2変形パターンを示す図である。
【図7】同クラッシュカン筒状部の変形態様を拡大して示すハッチングを省略した横断面図である。
【図8】同クラッシュカン筒状部の変形状態を示す斜視図である。
【図9】実施例及び比較例各々のクラッシュカンの荷重−変位特性を示すグラフ図である。
【図10】別の実施形態に係るクラッシュカンの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
図1は車両前部の車体構造を示す分解斜視図である。同図において、1はダイカストアルミ合金製のクラッシュカン、2は車両左右をそれぞれ前後方向に延びるフロントサイドフレーム、3は車幅方向に延びるバンパレインフォースメント(バンパビーム)である。クラッシュカン1は左右各々のフロントサイドフレーム2の前端とバンパレインフォースメント3の両端部各々とを連結するように設けられる。
【0024】
フロントサイドフレーム2は、車両前後方向に延びる閉断面構造体であって、車幅方向内側の断面ハット形インナメンバ2aと、車幅方向外側の平板状アウタメンバ2bとを接合して構成されている。このフロントサイドフレーム2の前端面には板面を前方に向けた取付プレート4が固定されている。バンパレインフォースメント3は、平板状のフロントメンバ3aと断面ハット形のリヤメンバ3bとを接合して構成されている。このバンパレインフォースメント3にバンパフェイス(図示省略)が取り付けられる。
【0025】
クラッシュカン1は、図2に示すように、車両前後方向に延び且つ前方に向かって先細になった閉断面構造の筒状部5を備え、該筒状部5の後端に外方に張り出した接合フランジ6が設けられている。筒状部5は、図3にも示すように、8つの凸角部5aと4つの凹角部5bとを有する断面が十字形状の凹多角形に形成されている。
【0026】
筒状部5の前端を閉じる前壁7の中央にはクラッシュカン1の軽量化のために設けた軽量孔8が開口し、さらに前壁7の十字の四方に突出した突出部にはボルト孔9が開口している。このボルト孔9によってクラッシュカン1の前端がバンパレインフォースメント3に結合される。接合フランジ6の四隅にもボルト孔9が形成されていて、このボルト孔9によってクラッシュカン1の後端がフロントサイドフレーム2の前端の取付プレート4に結合される。
【0027】
そうして、筒状部5を構成する筒壁の凸角部5aは、その内面側に車両前後方向に延びる内溝11が設けられて壁厚が薄い薄肉に形成されている。凹角部5bは、その外面側に車両前後方向に延びる外溝12が設けられて、同様に薄肉に形成されている。さらに、周方向に相隣る凸角部5a間の平坦部5c、並びに周方向に相隣る凸角部5aと凹角部5bとの間の平坦部5dにも車両前後方向に延びる内溝11又は外溝12が設けられて、それら平坦部5c,5dが部分的に薄肉に形成されている。すなわち、凸角部5aの内溝11を挟んでその両側の平坦部5c,5dには内溝11が設けられ、凹角部5bの外溝12を挟んでその両側の平坦部5c,5dには外溝12が設けられている。
【0028】
従って、平坦部5cには2本の内溝11が設けられ,平坦部5dには内溝11と外溝12とが1本ずつ設けられていることになる。平坦部5cの2本の内溝11は、それぞれ凸角部5aから平坦部5cの幅の1/4だけ離れた位置を車両前後方向に延びている。平坦部5dの内溝11も、凸角部5aから平坦部5dの幅の1/4だけ離れた位置を車両前後方向に延びている。平坦部5dの外溝11は、凹角部5aから平坦部5dの幅の1/4だけ離れた位置を車両前後方向に延びている。
【0029】
<クラッシュカンの製法>
クラッシュカン1の製造には型締め力500tonの高真空ダイカスト装置を使用することが好ましい。図4はそのための金型を模式的に示す。同図において、21は下型、22は上型であり、この両型21,22によってクラッシュカン成形用キャビティ23が形成されている。符号24は中子可動板であり、この可動板24に軽量孔8を形成するための中子25及びボルト孔9を形成するための中子26が設けられている。符号27は溶湯注入用プランジャが進退するプランジャ孔、符号28は湯道である。
【0030】
上記クラッシュカン1の筒状部5自体は単純な先細形状であり、且つ内溝11及び外溝12も車両前後方向に延びているから、図4から明らかなように、下型21及び上型22のいずれも割型とすることなく、単純な二方向抜きの金型として、当該クラッシュカン1を成形することができる。
【0031】
鋳造用アルミ合金としては、質量%で、Mn:1.4%以上1.6%以下、Si:0.2%以上5.0%以下、Cu:0.05%以上0.35%以下、Mg:0.1%以上0.3%以下、Fe:0.5%以上0.7%以下、Ti:0.1%以上0.3%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるものを採用することが好ましい。これにより、0.2%耐力が70MPa以上、引張強さが120MPa以上であり、且つ、伸びが10%以上であるクラッシュカン1を得ることができる。
【0032】
例えば、Mn:1.56%、Si:0.22%、Cu:0.05%、Mg:0.16%、Fe:0.65%、Ti:0.15%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミ合金を採用し、プランジャ速度:1.50m/秒、キャビティ内真空度:98kPa、型温150〜160℃の条件でダイカスト鋳造を行なうと、0.2%耐力が100MPa、引張強さが200MPa、伸びが約18%である機械的特性を有するクラッシュカン1を得ることができる。
【0033】
<クラッシュカンの圧縮変形>
クラッシュカン1にバンパレインフォースメント3を介して衝突荷重が加わると、その筒状部5は、図5に鎖線で示す基本断面形状「正十字形状」BFから、同図に実線で示すように変形する第1変形パターンT1と、図6に実線で示すように変形する第2変形パターンT2とを車両前後方向において交互に繰り返しながら座屈変形をしていく。 図5に示す第1変形パターンT1は、上下の凸部31,32各々が幅狭になって上下方向外側に突出変位する一方、左右の凸部33,34各々が幅広になって左右方向内側に変位する変形パターンである。図6に示す第2変形パターンT2は、上下の凸部31,32各々が幅広になって上下方向内側に変位する一方、左右の凸部33,34各々が幅狭になって左右方向外側に突出変位する変形パターンである。
【0034】
次に筒状部5が上記変形パターンT1,T2の座屈変形をするときの内溝11及び外溝12の働きを図7に基いて説明する。同図では、内溝11及び外溝12に記号をつけて、平坦部5cの内溝を11A、凸角部5aの内溝を11B、平坦部5dの内溝を11Cとし、平坦部5dの外溝を12A、凹角部5bの外溝を12Bとしている。
【0035】
衝突荷重によって凸部31の平坦部5cに外方向(図7において上方向)の力F1が加わると、該平坦部5cには外方向へ中凸になる曲げ力が働いて、その平坦部5cの内溝11Aの部位に応力が集中する、よって、同部位は同図鎖線で示すように曲がって凸角になり易い(内溝11A→11A’)。
【0036】
凸部31の平坦部5cに外方向(上方向)の力F1が加わると、該凸部31の平坦部5dには内方向の力F2が働く。このとき、凸部31の屈曲した凸角部5aは、内溝11Bによって薄肉になっているから、上記F1,F2の力によって、同図鎖線で示すように伸びた状態になり易い(内溝11B→11B’)。
【0037】
衝突荷重によって凸部31に外方向(上方向)の力F1が加わるときは、隣の凸部34の平坦部5dにも同方向(上方向)の力F3が加わる。そのため、凸部31の平坦部5dの外溝12A部位に曲げ応力が集中し、同部位は同図鎖線で示すように曲がって凹角になり易い(外溝12A→12A’)。
【0038】
そのとき、凸部31,34間の屈曲した凹角部5bは、外溝12Bによって薄肉になっているから、凸部31の平坦部5dに働く内方向の力F2と凸部34の平坦部5dに働く外方向の力F3とによって、同図鎖線で示すように伸びた状態になり易い(外溝12B→12B’)。
【0039】
衝突荷重によって凸部34に外方向(上方向)の力F3が加わるときは、隣の凸部34の平坦部5cには内方向の力F4が加わる。このとき、凸部34の屈曲した凸角部5aは、内溝11Bによって薄肉になっているから、上記F3,F4の力によって、同図鎖線で示すように伸びた状態になり易い(内溝11B→11B’)。
【0040】
以上から明らかなように、凸部に外方向の力が加わったとき、平坦部5cの内溝11A、凸角部5aの内溝11B及び平坦部5dの外溝12Aは、該凸部が幅狭になって外方向へ突出する変形を誘発する。一方、凸部に内方向の力が加わったとき、凸角部5aの内溝11B、平坦部5dの内溝11C及び凹角部5bの外溝12Bは、該凸部が幅広になって内方向へ変形することを誘発する。
【0041】
そうして、上記第1変形パターンT1と第2変形パターンT2とが交互に発生するのは、金属板が例えば内側に座屈したとき、その座屈部に隣接する部位には外側へ変形する力が働くことによるものである。その結果、クラッシュカン1の筒状部5は、図8に示すように車両前後方向において蛇腹状に折り畳まれていく。
【0042】
上記筒状部5の断面形状は十字形であるから、正面衝突時だけでなく、衝突荷重の入力方向が上下或いは左右にオフセットしている場合でも、四方に突出した十字の凸部31〜34が支えとなって筒状部5の倒れ変形が防止されるから、上記第1変形パターンT1と第2変形パターンT2とを交互に生じた蛇腹状折り畳み変形を生ずる。
【0043】
図9はダイカストアルミ合金製の断面十字状凹多角形クラッシュカンの圧縮テスト結果(荷重−圧縮変位データ)を示す。実施例は上述の内溝11及び外溝12を有するものであり、比較例は上述の内溝及び外溝を有しないものである。
【0044】
比較例では、衝突初期に荷重ピークが現れた後、荷重値が大きく低下し、低い荷重値で推移している。このような荷重−変位特性になっているのは、筒状部が最初の座屈によって破断したためである。
【0045】
これに対して、実施例では、初期の荷重ピークは比較例と同じであるが、その後の荷重値の低下が少なく、比較的高い荷重値を保った状態で変位が進んでいる。このことは、最初の座屈によって筒状部が破断することなく、次から次に座屈を生じていることを意味する。これは、上記内溝11と外溝12の働きによって、上記第1及び第2の変形パターンT1,T2による座屈が交互に且つ円滑に生じたためである。そのため、凹凸が殆どないフラットな荷重−変位特性になっている。よって、本発明によれば、衝突エネルギの効果的な吸収が図れ、車体が受けるダメージや乗員が受ける衝撃を小さくなる。
【0046】
<別の実施形態>
図10は本発明の別の実施形態に係るクラッシュカン1を示す。このクラッシュカン1では、先の実施形態の内溝11及び外溝12とは違って、壁厚を連続的に変化させることによって、断面十字状凹多角形の筒状部5の8つの凸角部5aと4つの凹角部5bとを薄肉に形成している。平坦部5c,5dには薄肉部が設けられていない。
【0047】
本実施形態の場合も、筒状部5の8つの凸角部5aと4つの凹角部5bとが薄肉に形成されているから、それら角部5a,5bが曲がった状態から伸びた状態に変形し易い。よって、それら角部5a,5bが、凸部31〜34が幅狭となって外方向へ突出すること、並びに幅広になって内方向へ変形することを促すように働き、筒状部5は上述の第1変形パターンT1による座屈と第2変形パターンT2による座屈とが交互に円滑に生ずるようになる。
【符号の説明】
【0048】
1 クラッシュカン
2 サイドフレーム
3 バンパレインフォースメント
5 筒状部
5a 凸角部(薄肉部)
5b 凹角部(薄肉部)
5c 平坦部
5d 平坦部
11 薄肉部を形成する内溝
12 薄肉部を形成する外溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両左右をそれぞれ前後方向に延びるサイドフレームと車幅方向に延びるバンパレインフォースメントの端部との間に設けられるダイカストアルミ合金製クラッシュカンであって、
車両前後方向に延びる断面形状が十字状の凹多角形である筒状部を備え、
上記筒状部の凸角部及び凹角部の少なくとも一方の角部に、壁厚が薄くなった車両前後方向に延びる薄肉部が設けられていることを特徴とするダイカストアルミ合金製クラッシュカン。
【請求項2】
請求項1において、
上記筒状部には、さらに相隣る角部間の平坦部に壁厚が薄くなった車両前後方向に延びる薄肉部が設けられていることを特徴とするダイカストアルミ合金製クラッシュカン。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記薄肉部は、上記筒状部の外面又は内面に車両前後方向に延びる溝を設けることによって形成されていることを特徴とするダイカストアルミ合金製クラッシュカン。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記筒状部は上記サイドフレーム側から車両前方に向かって先細に形成されていることを特徴とするダイカストアルミ合金製クラッシュカン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−166644(P2012−166644A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28172(P2011−28172)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】