説明

ダイシング・ダイボンディングシート

【課題】ダイシング工程時における基材の変形に伴う接着剤層の収縮を抑制することができる接着剤層を有するダイシング・ダイボンディングシートを提供する。
【解決手段】基材上1に接着剤層2が積層されたダイシング・ダイボンディングシート10であって、前記接着剤層は、硬化前の状態において、80℃における貯蔵弾性率が50000〜5000000Paであり、かつ、80℃環境下の20%捻り応力付加の120秒後における応力緩和率が30〜90%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子(半導体チップ)を有機基板もしくはリードフレームのダイパッド部または別の半導体チップへダイボンディングする工程、および半導体ウエハをダイシングして半導体チップとし、半導体チップを被着部にダイボンディングする工程での使用に適したダイシング・ダイボンディングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウエハは大径の状態で製造される。半導体ウエハは、素子小片(半導体チップ)に切断分離(ダイシング)された後に、次工程であるボンディング工程に移されている。この際、半導体ウエハは予め接着シートに貼着された状態でダイシング、洗浄、乾燥、エキスパンディングおよびピックアップの各工程が加えられた後、次工程のボンディング工程に移送される。
【0003】
これらの工程の中で、ピックアップ工程およびボンディング工程のプロセスを簡略化するため、ウエハ固定機能とダイ接着機能とを同時に兼ね備えたダイシング・ダイボンディング用粘接着シートが種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に開示されている粘接着シートは、いわゆるダイレクトダイボンディングを可能にし、ダイ接着用粘接着剤の塗布工程を省略できるようになる。例えば、前記粘接着シートを用いることにより、粘接着剤層付きの半導体チップを得ることができ、有機基板−チップ間、リードフレーム−チップ間、チップ−チップ間などのダイレクトダイボンディングが可能となる。このような粘接着シートは、粘接着剤層に流動性を持たせることで、ウエハ固定機能とダイ接着機能を達成している。
【0004】
近年、半導体装置の製造工程の際に、チップ裏面の粘接着剤層が収縮することにより、チップ端部付近において、有機基板等の被着体とチップとの間に空隙が生じることがあった。被着体とチップとの間に空隙が生じると、半導体装置の製造工程であるモールド樹脂封止工程の際に、空隙にモールド樹脂が十分に入り込むことができず、ボイドが発生し、半導体装置の信頼性を低下させることがある。
【0005】
また、半導体チップの上に、さらに接着剤層を介して半導体チップを積層する多段スタックの半導体装置を製造する場合には、チップ間の接着剤層が収縮することにより、下段のチップ表面が露出することがあった。モールド樹脂封止工程の際、モールド樹脂に含まれるシリカフィラーにより、露出したチップ表面が傷つき、半導体装置の信頼性を低下させることがある。
【0006】
このような半導体装置の信頼性の低下は、半導体チップの高密度化や半導体チップの積層数の増加により、顕著になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−314603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、接着剤層の収縮は、半導体装置の製造工程であるダイシング工程の際に起こっていることがわかった。すなわち、図1及び図2に示すように、ダイシング工程時に、ダイシングブレード5によって、半導体ウエハ4や接着剤層2は完全に切断されるが、基材1は完全に切断されない範囲で切り込まれる。この際に、半導体ウエハ4のカーフ(ダイシング後の切断されている部分6)に隣接した基材、つまり、半導体チップ3の端部に対応する部分の基材が、接着剤層側に変形する。基材の変形に起因して、半導体チップ3に対応する接着剤層に、接着剤層の端部から内部方向に応力が働き、接着剤層が収縮することがわかった。
【0009】
本発明の課題は、ダイシング工程時における基材の変形に伴う接着剤層の収縮を抑制することができる接着剤層を有するダイシング・ダイボンディングシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち本発明の要旨は以下の通りである。
(1)基材上に接着剤層が積層されたダイシング・ダイボンディングシートであって、
前記接着剤層は、硬化前の状態において、80℃における貯蔵弾性率が50000〜5000000Paであり、かつ、80℃環境下の20%捻り応力付加の120秒後における応力緩和率が30〜90%であるダイシング・ダイボンディングシート。
【0011】
(2)前記接着剤層は、硬化前の状態において、80℃におけるtanδが0.1〜0.38である(1)に記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【0012】
(3)前記接着剤層が、アクリル重合体(A)及びエポキシ樹脂(B)を含有する接着剤組成物からなる(1)または(2)に記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【0013】
(4)前記アクリル重合体(A)が反応性官能基を有する(3)に記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【0014】
(5)前記アクリル重合体(A)が、接着剤組成物100質量部中、10質量部以上含まれる(3)または(4)に記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【0015】
(6)前記接着剤組成物が架橋剤を含有し、
前記架橋剤が、前記アクリル重合体(A)100質量部に対して1〜40質量部含まれる(3)〜(5)のいずれかに記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【0016】
(7)前記アクリル重合体(A)が、接着剤組成物100質量部中、35質量部より多く含まれ、かつ、前記架橋剤が、前記アクリル重合体(A)100質量部に対して5質量部以上20質量部未満含まれる(6)に記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【0017】
(8)前記アクリル重合体(A)が、接着剤組成物100質量部中、10〜35質量部含まれ、かつ、前記架橋剤が、前記アクリル重合体(A)100質量部に対して20〜35質量部含まれる(6)に記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【0018】
(9)前記基材が、ポリエチレンフィルム、エチレン・メタクリル酸共重合体フィルム、ポリプロピレンフィルムからなる群から選ばれる1種以上を含む(1)〜(8)のいずれかに記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【発明の効果】
【0019】
本発明のダイシング・ダイボンディングシートによれば、半導体ウエハのダイシング工程時に発生する熱に対応する温度付近での貯蔵弾性率および応力緩和率が制御されているため、ダイシング工程時の基材の変形に伴う接着剤層の収縮を抑制することができる。そのため、信頼性の高い半導体装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ダイシング・ダイボンディングシートを用いたダイシング工程を示す概略断面図である。
【図2】従来のダイシング・ダイボンディングシートを用いたダイシング工程を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のダイシング・ダイボンディングシートの詳細を説明する。本発明のダイシング・ダイボンディングシートは、基材上に接着剤層が積層されている。
【0022】
本発明のダイシング・ダイボンディングシートにおける接着剤層(以下において、単に「接着剤層」と記載することがある。)は、硬化前の状態において、80℃における貯蔵弾性率が50000〜5000000Pa、好ましくは65000〜4000000Paである。また、接着剤層は、硬化前の状態において、80℃環境下の20%捻り応力付加の120秒後における応力緩和率が30〜90%、好ましくは40〜80%である。接着剤層の貯蔵弾性率を上記範囲とすることで、ダイシング工程時において、基材の変形に起因する応力による接着剤層の収縮を抑制することができる。また、接着剤層の応力緩和率を上記範囲とすることで、後述するピックアップ工程において、半導体チップと共に接着剤層を基材から剥離することにより、接着剤層を収縮させる応力に対抗する残留応力が減殺されにくく、収縮した接着剤層が半導体チップのサイズに復元する。一方、80℃における貯蔵弾性率が大きすぎたり、応力緩和率が小さすぎる場合には、接着剤層が過度に硬くなり、半導体ウエハと接着剤層の界面の接着性が低下したり、ダイボンドされる被着体と接着剤層との接着性が低下することがある。また、80℃における貯蔵弾性率が小さすぎたり、応力緩和率が大きすぎる場合には、接着剤層の収縮を抑制することが困難になる。なお、「硬化前の状態において」とは半導体チップの実装後の加熱硬化を行う前の状態のことを言い、後述のエネルギー線照射による硬化との前後関係を論じたものではない。
【0023】
また、本発明における接着剤層は、硬化前の状態において、80℃におけるtanδが、好ましくは0.1〜0.38、より好ましくは0.15〜0.36である。接着剤層のtanδを上記範囲とすることで、後述するピックアップ工程において、半導体チップと共に接着剤層を基材から剥離することにより、接着剤層を収縮させる応力に対抗する残留応力が減殺されにくく、収縮した接着剤層が半導体チップのサイズに復元しやすくなる。なお、「硬化前の状態において」とは半導体チップの実装後の加熱硬化を行う前の状態のことを言い、後述のエネルギー線照射による硬化との前後関係を論じたものではない。
【0024】
また、本発明における接着剤層は、アクリル重合体(A)及びエポキシ樹脂(B)を含有する接着剤組成物からなることが好ましい。なお、該接着剤組成物は、各種物性を改良するため、必要に応じて他の成分を配合してもよい。以下、これら成分について具体的に説明する。
【0025】
(A)アクリル重合体
アクリル重合体(A)としては従来公知のアクリル重合体を用いることができる。アクリル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、1万〜200万であることが好ましく、10万〜150万であることがより好ましい。アクリル重合体(A)のMwが低過ぎると、貯蔵弾性率および応力緩和率の値を上記の範囲に調整することが困難となることがあるほか、接着剤層と基材との接着力が高くなってチップのピックアップ不良が起こることがある。アクリル重合体(A)のMwが高すぎると、被着体の凹凸へ接着剤層が追従できないことがあり、ボイドなどの発生要因になることがある。アクリル重合体(A)のMwは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値である。
【0026】
アクリル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、−40〜50℃であることが好ましく、−35〜45℃であることがより好ましい。本発明における接着剤層が所定の貯蔵弾性率及び応力緩和率を示すようにするためには、アクリル重合体(A)のTgが高いことが好ましい。アクリル重合体(A)のTgが低過ぎると、貯蔵弾性率および応力緩和率の値を上記の範囲に調整することが困難となることがあるほか、接着剤層と基材との剥離力が大きくなってチップのピックアップ不良が起こることがある。アクリル重合体(A)のTgが高過ぎると、ウエハを固定するための接着力が不充分となるおそれがある。
【0027】
アクリル重合体(A)を構成するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルおよびその誘導体が挙げられる。
具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチルなどのアルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレートなどの環状骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル;
ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;
また、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどが挙げられる。
また、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン等が共重合されていてもよい。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
アクリル重合体(A)を構成する単量体として、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いる場合には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの炭素数の平均が2〜6であることが好ましい。これは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの炭素数が8付近において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのホモポリマーのTgは最小となり、典型的にはアクリル酸2−エチルヘキシルのホモポリマーのTgは−70℃である。したがって、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの炭素数が6を超える場合にはTgを上述の好ましい範囲に調整することが困難となることがある。炭素数の平均が2よりも小さい場合には、接着剤層の柔軟性が失われ、被着体への接着性に劣ることがある。また、炭素数の平均が8を超えて大きい場合にはTgは上昇していくが、側鎖が結晶化する傾向があるために接着剤層が特異な特性を示すようになり、貯蔵弾性率や応力緩和率の制御が困難になることがある。
【0029】
また、本発明におけるアクリル重合体(A)は反応性官能基を有することが好ましい。反応性官能基は、本発明における接着剤層を構成する接着剤組成物に好ましく添加される架橋剤(J)の反応性官能基と反応して三次元網目構造を形成し、上述した接着剤層の貯蔵弾性率や応力緩和率を所定範囲に調整することが容易になる。アクリル重合体(A)の反応性官能基としては、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、水酸基等が挙げられるが、架橋剤(J)と選択的に反応させやすいことから、水酸基であることが好ましい。反応性官能基は、上述した水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸等の反応性官能基を有する単量体を用いてアクリル重合体(A)を構成することで、アクリル重合体(A)に導入できる。
【0030】
アクリル重合体(A)は、その構成する全単量体中、反応性官能基を有する単量体を5〜30質量%含むことが好ましく、10〜25質量%含むことがさらに好ましい。反応性官能基を有する単量体の配合割合をこのような範囲とすることで、後述する架橋剤(J)によりアクリル重合体(A)が効率的に架橋され、上述した接着剤層の貯蔵弾性率や応力緩和率を所定範囲に調整することが容易になる。また、アクリル重合体(A)の反応性官能基(例えば水酸基)当量は、架橋剤(J)の反応性官能基(例えばイソシアネート基)当量の0.17〜2.0倍であることが好ましい。アクリル重合体(A)の反応性官能基当量と、架橋剤(J)の反応性官能基当量との関係を上記範囲にすることで、上述した接着剤層の貯蔵弾性率や応力緩和率を所定範囲に調整することがさらに容易になる。
【0031】
アクリル重合体(A)は、接着剤組成物100質量部中、好ましくは10質量部以上、より好ましくは12.5〜70質量部の範囲の量で用いられる。アクリル重合体(A)の割合を上記範囲とすることで、接着剤層の物性(例えば貯蔵弾性率や応力緩和率)に対してアクリル重合体(A)の及ぼす影響が相対的に大きくなり、アクリル重合体(A)を構成するモノマーの変更により、接着剤層の物性を調整することが容易になる。アクリル重合体(A)の割合が多すぎる場合には、他の成分の配合の自由度が制限され、接着剤組成物の物性を調整することが困難になる。
【0032】
また、側鎖にエネルギー線重合性基を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体(エネルギー線重合性基含有アクリル系重合体)をアクリル重合体(A)として用いることもできる。エネルギー線重合性基含有アクリル系重合体は、たとえば、官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、該官能基に反応する置換基とエネルギー線重合性基を1分子中に有する重合性基含有化合物(エネルギー線重合性基含有化合物)とを反応させて得られる。
【0033】
官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体で挙げた官能基モノマー(例えば、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル等)を構成単位として有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体が用いられる。
【0034】
エネルギー線重合性基含有化合物としては、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート、メタ−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアナート、メタクリロイルイソシアナート、アリルイソシアナート、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0035】
官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体とエネルギー線重合性基含有化合物との反応は、通常、酢酸エチル等の溶液中でジブチル錫ラウレート等の触媒を用いて室温、常圧にて24時間撹拌して行われる。
【0036】
(B)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂(B)としては、従来公知の種々のエポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、縮合環芳香族炭化水素変性エポキシ樹脂や、これらのハロゲン化物などの、構造単位中に2つ以上の官能基が含まれるエポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は1種単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
エポキシ樹脂(B)は、接着剤組成物100質量部中、好ましくは3〜90質量部、より好ましくは5〜87.5質量部、特に好ましくは5〜50質量部の範囲の量で用いられる。エポキシ樹脂(B)の割合が3質量部未満であると、十分な接着力を有する接着剤層が得られないことがある。また、エポキシ樹脂(B)の割合が90質量部を超えると、造膜性がなくなり、接着剤層をシート状にすることができずダイシング・ダイボンディングシートの製造が困難になる。
【0038】
エポキシ樹脂(B)は、下記骨格を有することが好ましい。
【0039】
【化1】

【0040】
式中、Xは、同一であっても異なっていてもよく、−O−(エーテル)、−COO−(エステル)、−OCO−(エステル)、−OCH(CH)O−(アセタール)、から選択される二価の基であり、好ましくは−O− または−OCH(CH)O−である。
【0041】
Rは、同一であっても異なっていてもよいアルキレン、ポリエーテル骨格、ポリブタジエン骨格、ポリイソプレン骨格、から選択される二価の基であり、アルキレンやポリエーテル骨格は、それぞれ側鎖を有していても良く、また、シクロアルカン骨格を含んだ構造であってもよい。二価の基Rは、好ましくは、例えば−(CHCH)−(OCHCHm−や、−(CH(CH)CH)−(OCH(CH)CHm−の構造式(mは0〜5)をもつアルキレンまたはエーテル骨格であり、具体的には、エチレンやプロピレンのアルキレンや、エチレンオキシエチル基、ジ(エチレンオキシ)エチル基、トリ(エチレンオキシ)エチル基、プロピレンオキシプロピル基、ジ(プロピレンオキシ)プロピル基、トリ(プロピレンオキシ)プロピル基などポリエーテル骨格が挙げられる。
【0042】
他の成分
他の成分としては、下記成分が挙げられる。
【0043】
(C)熱硬化剤
熱硬化剤(C)は、エポキシ樹脂(B)に対する硬化剤として機能する。熱硬化剤(C)としては、エポキシ基と反応しうる官能基を分子中に2個以上有する化合物が挙げられ、その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基などが挙げられる。これらの中では、フェノール性水酸基、アミノ基および酸無水物基が好ましく、フェノール性水酸基およびアミノ基がより好ましい。アミノ基を有する熱硬化剤(アミン系熱硬化剤)を含有する接着剤層は、被着体が金属である場合、被着体との接着界面に弱い被膜を作るため、湿熱条件投入後の接着剤層の接着性の低下が大きいが、フェノール性水酸基を有する熱硬化剤(フェノール系熱硬化剤)を含有する接着剤層は耐湿熱性が高いため、湿熱条件投入後の接着剤層の接着性の低下が小さい。そのため、熱硬化剤(C)としては、エポキシ基と反応しうるフェノール性水酸基を分子中に2個以上有する化合物が特に好ましい。
【0044】
熱硬化剤(C)の具体例としては、多官能系フェノール樹脂、ビフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、トリフェノールメタン型フェノール樹脂、アラルキルフェノール樹脂などのフェノール性熱硬化剤;DICY(ジシアンジアミド)などのアミン系熱硬化剤が挙げられる。熱硬化剤(C)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明における接着剤組成物において、熱硬化剤(C)の含有量は、エポキシ樹脂(B)100質量部に対して、通常は0.1〜500質量部、好ましくは1〜200質量部である。熱硬化剤(C)の含有量が前記範囲を下回ると、接着剤組成物の硬化性が不足して充分な接着力を有する接着剤層が得られないことがある。熱硬化剤(C)の含有量が前記範囲を上回ると、接着剤組成物の吸湿率が高まり、半導体パッケージの信頼性が低下することがある。
【0046】
(D)硬化促進剤
硬化促進剤(D)は、接着剤組成物の硬化速度を調整するために用いられる。硬化促進剤としては、好ましくは、エポキシ基とフェノール性水酸基やアミン等との反応を促進し得る化合物である。この化合物としては、具体的には、3級アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、テトラフェニルボロン塩等が挙げられる。
【0047】
3級アミン類としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。
【0048】
イミダゾール類としては、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
【0049】
有機ホスフィン類としては、トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
【0050】
テトラフェニルボロン塩としては、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート等が挙げられる。
【0051】
なお、本発明における接着剤組成物に含まれる硬化促進剤(D)は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0052】
硬化促進剤(D)は、エポキシ樹脂(B)と熱硬化剤(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1〜1.0質量部含まれる。硬化促進剤(D)の含有量を上記範囲とすることで、高温高湿度下に曝されても接着剤層が安定した接着性を有し、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても、高いパッケージ信頼性を達成できる。硬化促進剤(D)の含有量が0.1質量部未満では、接着剤層が十分な硬化性を得ることができず、接着剤層が接着性を発揮しないことがある。また、硬化促進剤(D)の含有量が1.0質量部を超えると、接着剤層は高い接着性を発揮できるが、高い極性を持つ硬化促進剤が高温高湿度下で接着剤層中を接着界面側に移動し、偏析することによりパッケージ信頼性を低下させることがある。
【0053】
(E)カップリング剤
本発明において、接着剤組成物の被着体に対する接着力および密着力を向上させるため、カップリング剤(E)を用いてもよい。カップリング剤(E)を使用することで、接着剤組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上させることができる。
【0054】
カップリング剤(E)としては、アクリル重合体(A)やエポキシ樹脂(B)などが有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく使用される。カップリング剤(E)としては、シランカップリング剤が好ましい。
【0055】
シランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロプロピル)トリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。シランカップリング剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
カップリング剤(E)の含有量は、アクリル重合体(A)およびエポキシ樹脂(B)の合計100質量部に対して、通常は0.1〜20質量部、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.3〜5質量部である。カップリング剤(E)の含有量が0.1質量部未満であると、上記効果が得られないことがあり、20質量部を超えるとアウトガスの原因となることがある。
【0057】
(F)無機充填材
本発明において、接着剤組成物は無機充填材(F)が配合されていてもよい。無機充填材(F)を接着剤組成物に配合することにより、該組成物の熱膨張係数を調整することが可能となる。半導体チップ、リードフレームおよび有機基板に対して硬化後の接着剤層の熱膨張係数を最適化することで、パッケージ信頼性をより向上させることができる。また、接着剤層の硬化後の吸湿率をより低減することも可能となる。
【0058】
無機充填材(F)としては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維、ガラス繊維などが挙げられる。これらの中でも、シリカフィラーおよびアルミナフィラーが好ましい。無機充填材(F)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
本発明における接着剤組成物において、無機充填材(F)の含有量は、接着剤層を構成する接着剤組成物100質量部中、通常は0〜80質量部である。無機充填剤(F)の含有量がこのような範囲にあると、接着剤層の硬化後の吸湿をさらに低減させることができ、かつ接着剤層における無機充填材の比率が過度に大きくならず、接着性を損なうことが少ない。
【0060】
(G)熱可塑性樹脂
接着剤組成物には、熱可塑性樹脂(G)を用いてもよい。熱可塑性樹脂(G)は、硬化後の接着剤層の可とう性を保持するために配合される。熱可塑性樹脂(G)としては、重量平均分子量が1000〜10万のものが好ましく、3000〜8万のものがさらに好ましい。上記範囲の熱可塑性樹脂(G)を含有することにより、半導体チップのピックアップ工程における基材と接着剤層との層間剥離を容易に行うことができ、さらに基板の凹凸へ接着剤層が追従しボイドなどの発生を抑えることができる。
【0061】
熱可塑性樹脂(G)のガラス転移温度は、好ましくは−30〜150℃、さらに好ましくは−20〜120℃の範囲にある。熱可塑性樹脂(G)のガラス転移温度を上記範囲とすることで、80℃における接着剤層の貯蔵弾性率及び応力緩和率を上記の好ましい範囲に調整することが容易になる。熱可塑性樹脂(G)のガラス転移温度が低過ぎると接着剤層と基材との剥離力が大きくなってチップのピックアップ不良が起こることがあり、高過ぎるとウエハを固定するための接着力が不十分となるおそれがある。
【0062】
熱可塑性樹脂(G)としては、たとえばポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド樹脂、セルロース、ポリエチレン、ポリイソブチレン、ポリビニルエーテル、ポリイミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0063】
熱可塑性樹脂(G)は、室温よりも高い温度での接着剤層の貯蔵弾性率を低下させたり、応力緩和率を増加させたりするので、接着剤層中の配合量を一定量以下にすることが好ましい。具体的には、接着剤層を構成する接着剤組成物100質量部中、好ましくは0〜35質量部、より好ましくは1〜25質量部である。
【0064】
(H)エネルギー線重合性化合物
本発明における接着剤組成物は、エネルギー線重合性化合物(H)を含有してもよい。エネルギー線重合性化合物(H)をエネルギー線照射によって重合させることで、接着剤層の接着力を低下させることができる。このため、半導体チップのピックアップ工程において、基材と接着剤層との層間剥離を容易に行えるようになる。
【0065】
エネルギー線重合性化合物(H)は、紫外線や電子線などのエネルギー線の照射を受けると重合・硬化する化合物である。エネルギー線重合性化合物(H)としては、分子内に1つ以上のエネルギー線重合性二重結合を有する化合物、例えばアクリレート系化合物が挙げられる。
【0066】
アクリレート系化合物としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジシクロペンタジエンジメトキシジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレート、イタコン酸オリゴマーなどが挙げられる。
【0067】
エネルギー線重合性化合物(H)の分子量(オリゴマーまたはポリマーの場合は重量平均分子量)は、通常は100〜30000、好ましくは300〜10000程度である。 本発明における接着剤組成物において、エネルギー線重合性化合物(H)の含有量は、接着剤層を構成する接着剤組成物100質量部中、通常0〜40質量部、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは3〜20質量部である。エネルギー線重合性化合物(H)の含有量が前記範囲を上回ると、有機基板やリードフレームなどに対する接着剤層の接着力が低下することがある。
【0068】
本発明における接着剤組成物がエネルギー線重合性化合物(H)や、上記のエネルギー線重合性基含有アクリル系重合体を含有する場合、上述の80℃における貯蔵弾性率、80℃環境下の20%捻り応力付加の120秒後における応力緩和率、および80℃におけるtanδは、接着剤組成物にダイシング前にエネルギー線照射を行うことを予定している場合には、エネルギー線照射による硬化を行った後に測定したものを指し、ダイシング後にエネルギー線照射を行うことを予定している場合には、エネルギー線照射による硬化を行う前に測定したものを指す。これらの特性は、ダイシング時の基材変形に起因した接着剤層の収縮に影響するものなので、ダイシング時基準で論じられるべきだからである。本発明における接着剤組成物では、エネルギー線重合性化合物(H)やエネルギー線重合性基含有アクリル系重合体の含有如何に拘らず、上述したような特性を備える限り接着剤層の収縮が防止されるという作用効果を得ることができる。
【0069】
(I)光重合開始剤
本発明における接着剤組成物の使用に際して、前記エネルギー線重合性化合物(H)を使用する場合、紫外線などのエネルギー線を照射して、接着剤層の接着力を低下させてもよい。接着剤組成物中に光重合開始剤(I)を含有させることで、重合・硬化時間および光線照射量を少なくすることができる。
【0070】
光重合開始剤(I)としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、1,2−ジフェニルメタン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、β−クロールアンスラキノンなどが挙げられる。光重合開始剤(I)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
光重合開始剤(I)の含有量は、理論的には、接着剤層中に存在する不飽和結合量やその反応性及び使用される光重合開始剤の反応性に基づいて決定されるべきであるが、複雑な混合物系においては必ずしも容易ではない。一般的な指針として、光重合開始剤(I)の含有量は、エネルギー線重合性化合物(H)100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部である。光重合開始剤(I)の含有量が前記範囲を下回ると光重合の不足で満足なピックアップ性が得られないことがあり、前記範囲を上回ると光重合に寄与しない残留物が生成し、接着剤組成物の硬化性が不充分となることがある。
【0072】
(J)架橋剤
本発明における接着剤層は、その貯蔵弾性率および応力緩和率を調節するために、架橋剤(J)を添加することが好ましい。架橋剤(J)としては有機多価イソシアネート化合物、有機多価イミン化合物などが挙げられる。
【0073】
有機多価イソシアネート化合物としては、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物、脂環族多価イソシアネート化合物およびこれらの有機多価イソシアネート化合物の三量体、ならびにこれら有機多価イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等を挙げることができる。
【0074】
有機多価イソシアネート化合物のさらに具体的な例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアネート、トリメチロールプロパンアダクトトリレンジイソシアネートおよびリジンイソシアネートが挙げられる。
【0075】
有機多価イミン化合物の具体的な例としては、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートおよびN,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等を挙げることができる。
【0076】
架橋剤(J)はアクリル重合体(A)100質量部に対して、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは8〜35質量部、特に好ましくは12〜30質量部の比率で用いられる。架橋剤(J)の配合量を上記範囲とすることで、接着剤層の貯蔵弾性率及び応力緩和率を上記好ましい範囲に調整することが容易となる。
【0077】
さらに、架橋剤(J)の配合量とアクリル重合体(A)の配合量との関係について、アクリル重合体(A)は、接着剤組成物100質量部中、35質量部より多く含まれ、かつ、架橋剤(J)は、アクリル重合体(A)100質量部に対して5質量部以上20質量部未満含まれることが好ましい。また、アクリル重合体(A)は、接着剤組成物100質量部中、10〜35質量部含まれ、かつ、架橋剤(J)は、アクリル重合体(A)100質量部に対して20〜35質量部含まれることが好ましい。架橋剤(J)の配合量とアクリル重合体(A)の配合量との関係を上記範囲とすることで、アクリル重合体(A)の配合量に関わらず、接着剤層の貯蔵弾性率と応力緩和率を上記の好ましい範囲に調整することが容易になる。
【0078】
他の成分として、このほか染料、顔料、劣化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シリコーン化合物、連鎖移動剤、ゲッタリング剤等を添加してもよい。
【0079】
(ダイシング・ダイボンディングシート)
本発明に係るダイシング・ダイボンディングシートは、上記の各成分からなる接着剤組成物を用いて、基材上に接着剤層を積層して製造される。接着剤組成物は、感圧接着性と加熱硬化性とを有し、未硬化状態では各種被着体を一時的に保持する機能を有する。そして、熱硬化を経て最終的には耐衝撃性の高い硬化物を与えることができ、接着強度にも優れ、厳しい高温度高湿度条件下においても十分な接着性を保持しうる。接着剤組成物は、上記の各成分を適宜の割合で混合して得られる。混合に際しては、各成分を予め溶媒で希釈しておいてもよく、また混合時に溶媒に加えてもよい。
【0080】
本発明に係るダイシング・ダイボンディングシートは、上記接着剤組成物からなる接着剤層を基材上に剥離可能に形成してなる。本発明に係るダイシング・ダイボンディングシートの形状は、テープ状、基材上において接着剤層を被着体に接着するのに適した形状に予め裁断して担持させた形状などのあらゆる形状をとり得る。本発明者らが鋭意検討した結果、上述した特定の物性を有する接着剤層を用いてダイシング・ダイボンディングシートを作製すると、後述する基材の種類によらず、ダイシング工程における基材の変形に起因した接着剤層の収縮を抑制できることを見出した。
【0081】
ダイシング・ダイボンディングシートの基材としては、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルムなどのフィルムが用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。また、これらを着色したフィルムなどを用いることができる。本発明に用いる基材としては、ポリエチレンフィルム、エチレン・メタクリル酸共重合体フィルム、ポリプロピレンフィルムからなる群から選ばれる1種以上を含む基材が好ましい。
【0082】
本発明に係るダイシング・ダイボンディングシートは、各種の被着体に貼付され、被着体に所要の加工を施した後、接着剤層は、被着体に固着残存させて基材から剥離される。すなわち、接着剤層を、基材から被着体に転写する工程を含むプロセスに使用される。このため、基材の接着剤層に接する面の表面張力は、好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは37mN/m以下、特に好ましくは35mN/m以下である。下限値は通常25mN/m程度である。このような表面張力が低い基材は、材質を適宜に選択して得ることが可能であるし、また基材の表面に剥離剤を塗布して剥離処理を施すことで得ることもできる。
【0083】
基材の剥離処理に用いられる剥離剤としては、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系などが用いられるが、特にアルキッド系、シリコーン系、フッ素系の剥離剤が耐熱性を有するので好ましい。
【0084】
上記の剥離剤を用いて基材の表面を剥離処理するためには、剥離剤をそのまま無溶剤で、または溶剤希釈やエマルション化して、グラビアコーター、メイヤーバーコーター、エアナイフコーター、ロールコーターなどにより塗布して、常温もしくは加熱または電子線硬化させたり、ウェットラミネーションやドライラミネーション、熱溶融ラミネーション、溶融押出ラミネーション、共押出加工などで積層体を形成すればよい。
【0085】
基材の厚さは、通常は10〜500μm、好ましくは15〜300μm、特に好ましくは20〜250μm程度である。また、接着剤層の厚みは、通常は1〜500μm、好ましくは5〜300μm、特に好ましくは10〜150μm程度である。
【0086】
ダイシング・ダイボンディングシートの製造方法は、特に限定はされず、基材上に、接着剤層を構成する組成物を塗布乾燥することで製造してもよく、また接着剤層を剥離フィルム上に設け、これを上記基材に転写することで製造してもよい。なお、ダイシング・ダイボンディングシートの使用前に、接着剤層を保護するために、接着剤層の上面に剥離フィルムを積層しておいてもよい。該剥離フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリプロピレンフィルムなどのプラスチック材料にシリコーン樹脂などの剥離剤が塗布されているものが使用される。また、接着剤層の表面外周部には、リングフレームなどの他の治具を固定するために別途粘着剤層や粘着テープが設けられていてもよい。
【0087】
次に本発明に係るダイシング・ダイボンディングシートの利用方法について、該ダイシング・ダイボンディングシートを半導体装置の製造に適用した場合を例にとって説明する。
【0088】
(半導体装置の製造方法)
本発明に係るダイシング・ダイボンディングシートを用いた半導体装置の製造方法は、上記ダイシング・ダイボンディングシートの接着剤層に半導体ウエハを貼着し、該半導体ウエハをダイシングして半導体チップとし、該半導体チップ裏面に接着剤層を固着残存させて基材から剥離し、該半導体チップを有機基板やリードフレームのダイパッド部上、またはチップを積層する場合に別の半導体チップ上に該接着剤層を介して載置する工程を含む。
【0089】
以下、本発明に係る半導体装置の製造方法について詳述する。
本発明に係る半導体装置の製造方法においては、まず、表面に回路が形成され、裏面が研削された半導体ウエハを準備する。
【0090】
半導体ウエハはシリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。ウエハ表面への回路の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。次いで、半導体ウエハの回路面の反対面(裏面)を研削する。研削法は特に限定はされず、グラインダーなどを用いた公知の手段で研削してもよい。裏面研削時には、表面の回路を保護するために回路面に、表面保護シートと呼ばれる粘着シートを貼付する。裏面研削は、ウエハの回路面側(すなわち表面保護シート側)をチャックテーブル等により固定し、回路が形成されていない裏面側をグラインダーにより研削する。ウエハの研削後の厚みは特に限定はされないが、通常は20〜500μm程度である。
【0091】
その後、必要に応じ、裏面研削時に生じた破砕層を除去する。破砕層の除去は、ケミカルエッチングや、プラズマエッチングなどにより行われる。
【0092】
次いで、リングフレームおよび半導体ウエハの裏面側を本発明に係るダイシング・ダイボンディングシートの接着剤層上に載置し、軽く押圧し、半導体ウエハを固定する。次いで、接着剤層にエネルギー線重合性基含有アクリル系重合体やエネルギー線重合性化合物(H)が配合されている場合には、接着剤層に基材側からエネルギー線を照射し、エネルギー線重合性基含有アクリル系重合体やエネルギー線重合性化合物(H)を重合させ、接着剤層の凝集力を上げ、接着剤層と基材との間の接着力を低下させておく。照射されるエネルギー線としては、紫外線(UV)または電子線(EB)等が挙げられ、好ましくは紫外線が用いられる。次いで、ダイシングソーなどの切断手段を用いて、上記の半導体ウエハを切断し半導体チップを得る。この際の切断深さは、半導体ウエハの厚みと、接着剤層の厚みとの合計およびダイシングソーの磨耗分を加味した深さにする。なお、エネルギー線照射は、半導体ウエハの貼付後、半導体チップの剥離(ピックアップ)前のいずれの段階で行ってもよく、たとえばダイシングの後に行ってもよく、また下記のエキスパンド工程の後に行ってもよい。さらにエネルギー線照射を複数回に分けて行ってもよい。
【0093】
次いで必要に応じ、ダイシング・ダイボンディングシートのエキスパンドを行うと、半導体チップ間隔が拡張し、半導体チップのピックアップをさらに容易に行えるようになる。この際、接着剤層と基材との間にずれが発生することになり、接着剤層と基材との間の接着力が減少し、半導体チップのピックアップ性が向上する。このようにして半導体チップのピックアップを行うと、切断された接着剤層を半導体チップ裏面に固着残存させて基材から剥離することができる。
【0094】
次いで接着剤層を介して半導体チップを、リードフレームのダイパッド上または別の半導体チップ(下段チップ)表面に載置する(以下、チップが搭載されるダイパッドまたは下段チップ表面を「チップ搭載部」と記載する)。チップ搭載部は、半導体チップを載置する前に加熱するか載置直後に加熱される。加熱温度は、通常は80〜200℃、好ましくは100〜180℃であり、加熱時間は、通常は0.1秒〜5分、好ましくは0.5秒〜3分であり、載置するときの圧力は、通常1kPa〜200MPaである。
【0095】
半導体チップをチップ搭載部に載置した後、必要に応じさらに加熱を行ってもよい。この際の加熱条件は、上記加熱温度の範囲であって、加熱時間は通常1〜180分、好ましくは10〜120分である。
【0096】
また、載置後の加熱処理は行わずに仮接着状態としておき、パッケージ製造において通常行われる樹脂封止での加熱を利用して接着剤層を硬化させてもよい。このような工程を経ることで、接着剤層が硬化し、半導体チップとチップ搭載部とを強固に接着することができる。接着剤層はダイボンド条件下では流動化しているため、チップ搭載部の凹凸にも十分に埋め込まれ、ボイドの発生を防止できパッケージの信頼性が高くなる。
【0097】
本発明のダイシング・ダイボンディングシートは、上記のような使用方法の他、半導体化合物、ガラス、セラミックス、金属などの接着に使用することもできる。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、〔貯蔵弾性率およびtanδの測定〕、〔応力緩和率の測定〕および〔接着剤層の収縮観察〕は次のように行った。
【0099】
〔貯蔵弾性率およびtanδの測定〕
硬化前の接着剤層(比較例1および2については、後述する接着剤層の収縮観察の試験と同様にして、紫外線を照射した接着剤層)の80℃における貯蔵弾性率及びtanδは、動的粘弾性装置(レオメトリクス社製 RDAII)により、周波数1Hzで測定した。
【0100】
〔応力緩和率の測定〕
硬化前の接着剤層(比較例1および2については、後述する接着剤層の収縮観察の試験と同様にして、紫外線を照射した接着剤層)の80℃における応力緩和率は、動的粘弾性装置(レオメトリクス社製 RDAII)により、捻り量20%の応力を加え120秒後の緩和弾性率に対する測定開始直後の弾性率割合により数値を決定した。
【0101】
〔接着剤層の収縮観察〕
ディスコ社製DGP8760を用いて、シリコンウエハの裏面をドライポリッシュした(200mm径、厚さ75μm)。シリコンウエハのドライポリッシュ処理した面(ウエハ裏面)に、テープマウンター(リンテック社製、Adwill(登録商標) RAD2500 m/8)を用いて、ダイシング・ダイボンディングシートを貼付し、同時にリングフレームに固定した。なお、ダイシング・ダイボンディングシートの接着剤層にエネルギー線重合性化合物が含まれる場合は、紫外線照射装置(リンテック社製 Adwill(登録商標) RAD2000)を用いて、該シートの基材面から紫外線を照射(350mW/cm2、190mJ/cm2)した。
【0102】
次に、ダイシング装置(DISCO社製、DFD651)を使用し、8mm×8mmのサイズのチップにダイシングし、接着シートの接着剤層とともにチップを基材からピックアップして、接着剤層付きチップを得た。ダイシングの際の切り込み量は、接着シートの基材に対して20μm切り込むようにした。
【0103】
接着剤層付きチップの接着剤層の端部の収縮を、デジタル顕微鏡(VHX−1000、キーエンス社製)で観察し、端部における接着剤層の収縮を以下の基準で評価した。
A・・・収縮が見られない。
B・・・チップ端部より0μmを超え、10μm未満縮んでいる。
C・・・チップ端部より10μm以上縮んでいる。
【0104】
〔接着剤組成物の成分〕
接着剤層を構成する接着剤組成物(a)〜(h)の各成分は、下記及び表1の通りである。表1の成分及び配合量に従い、各成分を配合して接着剤組成物(a)〜(h)を調整した。
【0105】
(A1)アクリル重合体:ブチルアクリレートを主成分とし、2−エチルヘキシルアクリレートを全単量体中15質量%成分として含むアクリル重合体(Mw=80万、Tg=−28℃)
(A2)アクリル重合体:メチルアクリレートを主成分とし、2−エチルヘキシルアクリレートを全単量体中15質量%成分として含むアクリル重合体(Mw=80万、Tg=37℃)
(B)エポキシ樹脂:アクリルゴム微粒子分散ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(日本触媒社製 BPA328)
(C)熱硬化剤:ノボラック型フェノール樹脂(昭和高分子社製 ショウノールBRG556)
(D)硬化促進剤:2−フェニル−4,5−ジ(ヒドロキシメチル)イミダゾール(四国化成工業株式会社製 キュアゾール2PHZ)
(E)カップリング剤:シランカップリング剤(三菱化学株式会社製 MKCシリケートMSEP2)
(F)無機充填材:シリカフィラー(株式会社アドマテックス製 アドマファインSC2050)
(G)熱可塑性樹脂:ポリエステル樹脂(東洋紡社製 バイロン220)
(H)エネルギー線重合性化合物:ジシクロペンタジエン骨格含有アクリレート(日本化薬社製 カヤラッドR684)
(I)光重合開始剤:α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製 イルガキュア184)
(J)架橋剤:トリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(東洋インキ製造株式会社製 BHS−8515)
【0106】
(実施例および比較例)
表1に記載の組成の接着剤組成物(a)〜(h)を使用した。表1中、各成分の数値は固形分換算の質量部を示し、本発明において固形分とは溶媒以外の全成分をいう。表1に記載の組成の接着剤組成物(a)〜(h)を、メチルエチルケトンにて固形分濃度が50質量%となるように希釈し、シリコーン処理された剥離フィルム(リンテック株式会社製 SP−PET381031)上に乾燥後厚みが25μmになるように塗布・乾燥(乾燥条件:オーブンにて100℃、1分間)して、剥離フィルム上に形成された接着剤層を得た。その後、接着剤層と表2に記載の基材とを貼り合せて、接着剤層を基材上に転写することで、所望のダイシング・ダイボンディングシートを得た。各評価結果を表2に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
表2より、実施例のダイシング・ダイボンディングシートでは、接着剤層の収縮観察評価が良好であった。つまり、実施例のダイシング・ダイボンディングシートは、厳しい湿熱条件およびリフロー工程を経た場合においても接着性やパッケージ信頼性に優れている。
【0110】
一方、比較例のダイシング・ダイボンディングシートでは、実施例と比較して大きな接着剤層の収縮が観察された。つまり、比較例のダイシング・ダイボンディングシートは、厳しい湿熱条件およびリフロー工程を経た場合における接着性やパッケージ信頼性に劣る。
【符号の説明】
【0111】
10:ダイシング・ダイボンディングシート
1 :基材
2 :接着剤層
3 :半導体チップ
4 :半導体ウエハ
5 :ダイシングブレード
6 :カーフ
7 :リングフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に接着剤層が積層されたダイシング・ダイボンディングシートであって、
前記接着剤層は、硬化前の状態において、80℃における貯蔵弾性率が50000〜5000000Paであり、かつ、80℃環境下の20%捻り応力付加の120秒後における応力緩和率が30〜90%であるダイシング・ダイボンディングシート。
【請求項2】
前記接着剤層は、硬化前の状態において、80℃におけるtanδが0.1〜0.38である請求項1に記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【請求項3】
前記接着剤層が、アクリル重合体(A)及びエポキシ樹脂(B)を含有する接着剤組成物からなる請求項1または2に記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【請求項4】
前記アクリル重合体(A)が反応性官能基を有する請求項3に記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【請求項5】
前記アクリル重合体(A)が、接着剤組成物100質量部中、10質量部以上含まれる請求項3または4に記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【請求項6】
前記接着剤組成物が架橋剤を含有し、
前記架橋剤が、前記アクリル重合体(A)100質量部に対して1〜40質量部含まれる請求項3〜5のいずれかに記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【請求項7】
前記アクリル重合体(A)が、接着剤組成物100質量部中、35質量部より多く含まれ、かつ、前記架橋剤が、前記アクリル重合体(A)100質量部に対して5質量部以上20質量部未満含まれる請求項6に記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【請求項8】
前記アクリル重合体(A)が、接着剤組成物100質量部中、10〜35質量部含まれ、かつ、前記架橋剤が、前記アクリル重合体(A)100質量部に対して20〜35質量部含まれる請求項6に記載のダイシング・ダイボンディングシート。
【請求項9】
前記基材が、ポリエチレンフィルム、エチレン・メタクリル酸共重合体フィルム、ポリプロピレンフィルムからなる群から選ばれる1種以上を含む請求項1〜8のいずれかに記載のダイシング・ダイボンディングシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−62446(P2013−62446A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201167(P2011−201167)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】