説明

ダイズペプチド含有チューインガム組成物

【課題】製造時や保存中の安定性が高く、化学的合成手法により得られるものではなく、歯周組織への十分な浸透が期待される低分子量の活性成分を含有したチューインガム組成物を提供すること。
【解決手段】ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物を含有してなる、チューインガム組成物。活性成分であるダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物が植物由来であり、また、製造時や保存中の安定性が高いために、安全かつ安定に活性成分を提供することができる。さらに、本発明のチューインガム組成物は、該活性成分が、低分子量であるため歯周組織への十分な浸透が期待され、かつ、コラーゲン産生を促進しうるため、歯肉及び歯茎の健康(特に、歯肉のやせ、退行の防止や予防)に優れた効果を奏することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイズペプチド含有チューインガム組成物に関する。さらに詳しくは、ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物を含有するチューインガム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯周病や歯槽膿漏等の疾病、老化による歯肉のやせ又は退行、あるいは血行不良による歯茎色の退色に対して、化粧用及び/又は治療用活性物質を配合した口腔内ケア組成物が知られている。
【0003】
しかしながら、既存の化粧用及び/又は治療用活性物質は、口腔内ケア組成物の製造工程や口腔中において安定ではないことが多く、所望の治療効果、予防効果及び/又は化粧効果を得る、又は持続発現させることが困難である。
【0004】
これに対して、例えば、特許文献1では、低分子量のポリブテンを配合することにより、歯の上に保護被膜を形成させ、それにより、化粧用及び/又は治療用活性物質の持続放出を行う技術が開示されている。また、特許文献2では、活性成分を封入材料によってカプセル内に封入することにより、活性成分の制御された放出を行っている。特許文献3のチューインガムでは、ガムベースを製造する際に、高甘味度甘味料をガムベース原料のタルク又はポリブテンに分散して混合することにより、風味及び甘味持続性の改良を試みている。
【0005】
一方、歯肉等の歯周組織の大部分はコラーゲンで構成されており、歯周病や歯槽膿漏等の疾病によりコラーゲンが分解若しくは減少すると、歯肉のやせ、退行が生じ、ひいては歯の損失につながる。例えば、特許文献4には、内毒素によって、コラーゲン分解に関連するタンパク質の遺伝子発現量が増加することにより歯周組織の分解が促進されること、並びにコラーゲン合成に関連するタンパク質の遺伝子発現量が減少することにより歯周組織が脆弱化することが開示されており、さらには、ラクトフェリンと月見草エキス等との組み合わせが歯周組織破壊の抑制・改善剤として有用であることも開示されている。このようにコラーゲンの分解・減少を抑制する物質やコラーゲンの産生を促進する物質は、口腔内ケア組成物に配合する化粧用及び/又は治療用活性物質として有用であると考えられている。
【特許文献1】特表2004−520062号公報
【特許文献2】特表2007−512330号公報
【特許文献3】特開平10−290668号公報
【特許文献4】特開2006−298913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では保護被膜の形成が不十分な場合もあり、活性成分の持続放出や安定性に問題がある。特許文献2の方法では製造工程が煩雑になり、得られた製品の安定性も問題になりやすい。特許文献3の方法では、高温でのガムベース製造工程における活性成分の安定性が問題となりやすい。また、既存の活性成分の殆どが合成化学物質であるために、口腔内への長期連続投与による安全性(刺激性、アレルギー性)にも懸念がある。また、特許文献4で使用されているラクトフェリンは分子量が約8万であり、歯周組織への十分な浸透が期待しづらい。
【0007】
本発明の課題は、製造時や保存中の安定性が高く、化学的合成手法により得られるものではなく、歯周組織への十分な浸透が期待される低分子量の活性成分を含有したチューインガム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1)ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物を含有してなる、チューインガム組成物、
(2)ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物の平均分子量が300〜10000である、前記(1)記載のチューインガム組成物、
(3)ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物の含有量が0.01〜50重量%である、前記(1)又は(2)記載の組成物、
(4)ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物の活性ペプチドであるペプチド(LEHA)を0.00001〜0.05重量%含有してなる、前記(1)〜(3)いずれか記載の組成物、及び
(5)歯肉炎、虫歯、口腔における染み、カビ、細菌及び歯垢形成の抑制用及び/又は予防用の前記(1)〜(4)いずれか記載の組成物
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のチューインガム組成物は、活性成分であるダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物が植物由来であり、また、製造時や保存中の安定性が高いために、安全かつ安定に活性成分を提供することができる。さらに、本発明のチューインガム組成物は、該活性成分が、低分子量であるため歯周組織への十分な浸透が期待され、かつ、コラーゲン産生を促進しうるため、歯肉及び歯茎の健康(特に、歯肉のやせ、退行の防止や予防)に優れた効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のチューインガム組成物は、ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物(以下、サーモリシン加水分解物という)を活性成分として含有することに大きな特徴を有する。
【0011】
サーモリシン加水分解物は、一般食品として長い食経験のある植物性であるダイズタンパク質を起源とするものであり、人体への安全性が問題となりにくい。また、サーモリシン加水分解物には、コラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進する機能を有する活性ペプチドとして4アミノ酸残基ペプチド(以下、LEHAという)が含有されていることが既に知られているが(24TH IFSCC Congress Osaka Japan(12-19 October 2006), Poster Sesson PF-221”Small Fragment Peptides of EMILIN have Multi-Functional Benefits in The Extracellular Matrix )、LEHAはチューインガム製造工程における高温処理や経時保存に対して安定であることが判明した。従って、サーモリシン加水分解物をチューインガム組成物に含有させることにより、高い安全性と安定性を有する活性成分の口腔への提供が可能となり、コラーゲンやヒアルロン酸の産生が促進されて、歯肉及び歯茎の健康(特に、歯肉のやせ、退行の防止や予防)に優れた効果を奏することが期待される。
【0012】
本発明におけるサーモリシン加水分解物は、ダイズタンパク質をサーモリシンにより加水分解することにより得られる。
【0013】
ダイズタンパク質は、ダイズ植物に由来するタンパク質であれば特に限定されないが、ダイズ植物の種子に由来するタンパク質であることが好ましい。
【0014】
従って、本発明においては、ダイズ植物そのものやダイズ植物の種子そのもの、あるいは該植物や該種子の破砕物又は粉砕物等を、ダイズタンパク質として用いてもよいが、好ましくはダイズ植物中の全成分からタンパク質成分を分離、精製したもの、より好ましくはダイズ植物の種子中の全成分からタンパク質成分を分離、精製したものが用いられる。このように分離、精製して得られたダイズタンパク質は、ダイズ植物又はダイズ植物の種子中に含まれる実質的に全種類のタンパク質を含むものでもよく、また、一部の種類のタンパク質を含むものであってもよい。
【0015】
ダイズタンパク質としては、市販品も好適に用いられ得、例えば、日清コスモフーズ(株)、ADMファーイースト(株)、昭和産業(株)、不二製油(株)、(株)光洋商会等の製造業者又は供給業者から容易に入手可能である。
【0016】
なお、本明細書において、ダイズ植物の種子とは、ダイズ種子と通常呼ばれる構造物全体を指すのみならず、例えば、脱皮ダイズ種子、脱脂ダイズ種子(粉末)、ダイズ種子全体より得られる雪花菜(オカラ)等でもあり得る。
【0017】
サーモリシン(EC3.4.24.27)は、Bacillus thermoproteolyticusという耐熱性菌によって生産される耐熱性のプロテアーゼである。サーモリシンは一般に、大きな側鎖をもった疎水性のアミノ酸残基(例えば、イソロイシン、ロイシン、バリン、フェニルアラニン、メチオニン、アラニン等)のアミノ基側のペプチド結合を切断することが知られている。
【0018】
サーモリシンは、市販品も好適に用いられ得、大和化成(株)等の製造業者から容易に入手可能である。また、本発明においては、サーモリシンと同等のペプチド切断特性(切断配列特異性等)を有するプロテアーゼとして当該分野で公知のプロテアーゼを、サーモリシンとして用いることができる。
【0019】
なお、本発明では、ダイズタンパク質を加水分解する際に、本発明の効果を損なわない範囲で、サーモリシン以外の他のプロテアーゼを使用してもよい。他のプロテアーゼとしては、特に限定されず、例えば、パパイン、ブロメライン、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン、スブリチン等が挙げられる。これらは、1種類又は2種以上を組み合わせてサーモリシンと併用してもよい。
【0020】
ダイズタンパク質をサーモリシンで加水分解する場合に用いられる反応条件は、特に制限されず、技術常識に従って当業者により適宜選択され得る。例えば、市販のサーモリシンを使用する場合には、その使用説明書に従って使用することができる。具体的な例としては、水等の溶媒に、ダイズタンパク質濃度が、好ましくは0.1〜30%(w/v)、より好ましくは1〜10%(w/v)程度となるようにダイズタンパク質又はダイズタンパク質を含む原料を懸濁し、この懸濁液に、好ましくは0.001〜3%(w/v)、より好ましくは0.01〜0.125%(w/v)程度となるようにサーモリシンを加えて加水分解反応を行う態様が挙げられる。反応温度としては、30〜80℃が好ましく、40〜70℃がより好ましく、50〜60℃がさらに好ましい。また、反応時間としては、2〜30時間が好ましく、3〜24時間がより好ましく、10〜20時間がさらに好ましく、12〜18時間がさらに好ましい。反応液のpHとしては、サーモリシンの至適pHであるpH7.0〜8.5付近であることが好ましい。
【0021】
反応の停止手段についても、特に制限はなく、公知の手段を用いることができる。かかる手段としては、例えば、加熱処理等が挙げられる。具体的には、上記反応物を80〜100℃程度の温度で好ましくは3〜20分間、より好ましくは5〜15分間加熱処理すればよく、85℃で15分間の加熱処理や100℃で5分間の加熱処理により、反応物中に含まれるサーモリシンを失活させることができる。
【0022】
上記のような加水分解反応により得られるサーモリシン加水分解物は、必要に応じて、当業者に公知の任意の方法によりさらに処理され得る。例えば、ろ過等の処理により、該加水分解物中の大きな固体粒子を取り除くことが好ましい。ろ過条件等は、特に制限されず、技術常識に従って当業者により適宜選択され得る。例えば、ろ紙が目詰まりを起こしやすい場合等には、ろ過助剤等も好適に用いられ得る。
【0023】
また、前記加水分解物を減圧濃縮し、次いで凍結乾燥することにより、粉末化することもできる。減圧濃縮及び凍結乾燥の際に使用される条件や機器類は、特に制限されず、技術常識に従って当業者により適宜選択され得る。このようにして粉末化された加水分解物は、そのまま又は水等の溶媒に溶かして、用いることができる。
【0024】
サーモリシン加水分解物は、LEHAを含有しているものであれば、ダイズタンパク質をサーモリシンで加水分解することにより生じた多種多様なペプチドを実質的に全て含んだ状態であってもよいし、又は、そのような多種多様なペプチドを、公知の方法で、さらに分画、精製して得られる一部分であってもよい。サーモリシン加水分解物に含有されるLEHA以外のペプチドとしては、LEH等が挙げられる。しかし簡便には、ダイズタンパク質をサーモリシンで加水分解して得られる、LEHAを含む多種多様なペプチドを実質的に全て含んだ状態でそのまま用いる。なお、LEHAの同定及び定量は、後述の実施例に記載の方法により行うことができる。
【0025】
LEHAはコラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進する機能を有する活性ペプチドであるが、高温処理に対して安定であり、例えば、75℃、150時間の熱処理に供した後に、好ましくは97〜100重量%、より好ましくは97〜99重量%残存する。
【0026】
サーモリシン加水分解物中のLEHA含有量は、好ましくは0.05〜0.2重量%、より好ましくは0.1〜0.2重量%である。
【0027】
本発明におけるサーモリシン加水分解物の平均分子量は、好ましくは300〜10000である。該平均分子量は、ガムベースとの混合のし易さ及び歯周組織への浸透のし易さという観点から、より好ましくは400〜5000であり、さらに好ましくは500〜3500であり、さらにより好ましくは550〜3200である。サーモリシン加水分解物の平均分子量は、当業者に公知の任意の方法によりに測定され得、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定され得る。本明細書において、GPC法により測定される平均分子量は「ピーク平均分子量」を意味し、「ピーク平均分子量」とは、クロマトグラムのピークトップ(最も強い強度のピーク)の溶出時間に対応する分子量を意味する。
【0028】
なお、本発明では、サーモリシン加水分解物として、市販品である「コラプラスTMN」(LEHA含有量:0.14重量%、ピーク平均分子量:711、ロート製薬社製)を用いることができる。
【0029】
組成物におけるサーモリシン加水分解物の含有量は、ガムの歯応えや風味に影響を与えないという観点から、好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%である。
【0030】
また、LEHAの含有量は、組成物中、コラーゲンの産生を促進する観点から、好ましくは0.00001〜0.05重量%、より好ましくは0.0001〜0.01重量%、さらに好ましくは0.0001〜0.005重量%である。
【0031】
本発明の組成物には、サーモリシン加水分解物以外に、他の化粧用及び/又は治療用活性物質(以下、他の活性物質という)が活性成分として本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有されていてもよい。
【0032】
他の活性物質としては、少量の使用では口腔内で安全であり、口腔の全体的な外観及び/又は健康に良好な変化をもたらす公知の物質が挙げられ、特に限定することはない。具体的には、抗結石剤、フッ化物イオン源(フッ化物イオンの供給源)、第一スズイオン源(第一スズイオンの供給源)、ホワイトニング剤、抗菌剤、歯垢防止剤、抗炎症剤、栄養素、酸化防止剤、抗ウイルス剤、抗カビ剤、鎮痛剤、麻酔剤、ヒスタミン−2(H−2又はH2)受容体拮抗物質化合物(H2−拮抗剤)、歯に清浄感を付与する構成成分、顔料、着色剤、及びこれらの混合物などが挙げられる。これらは、1種類又は2種以上を組み合わせてサーモリシン加水分解物と併用してもよい。
【0033】
他の活性物質の総含有量は、特に限定されないが、サーモリシン加水分解物と他の活性物質を合わせた活性成分の総量中、好ましくは0〜49重量%、より好ましくは0〜25重量%、さらに好ましくは0〜10重量%である。
【0034】
活性成分(サーモリシン加水分解物、及び必要に応じて他の活性物質を含む)は、目的とする使用に際して、それが口腔内粘膜表面を害することなく、服用者の求める効果が促進される。前記活性成分が含有された本発明の組成物を咀嚼することにより、該活性成分が対処する口腔の状態の例には、歯の外観及び構造的変化、並びに歯垢、歯石、虫歯、炎症を起した及び/又は出血する歯肉、歯肉炎、歯周病、染み、カビ、カンジダのような真菌感染、粘膜の外傷、病変、潰瘍、アフター性潰瘍、口辺ヘルペス、歯膿瘍、並びに上記の状態及び微生物の増殖のようなその他の原因で生じる口臭が挙げられ、活性成分により該状態が治療及び/又は予防され得る。これらのなかでも、本発明の組成物は、口腔衛生の観点から、歯肉炎、歯周病、虫歯、口腔における染み、カビ、細菌及び歯垢の形成を抑制する方法、及び/又は予防する方法に用いることが好ましく、サーモリシン加水分解物の効果発揮の観点から、歯肉炎、歯周病を抑制する方法、及び/又は予防する方法に用いることがより好ましい。
【0035】
本発明の組成物には、サーモリシン加水分解物が含有されていれば特に限定はなく、サーモリシン加水分解物以外に、後述のキャリア物質が適宜用いられていてもよい。
【0036】
キャリア物質は当該技術分野においては周知であり、調製されるチューインガム組成物に所望される物理的及び審美的特性に基づいて、当業者によって容易に選択される。例えば、チューインガム組成物のベースの主成分であるキャリア物質は水に不溶性の物質であり、口内で放出されない。また、口内で放出される水溶性の物質がキャリア物質として含有されていてもよい。キャリア物質の総含有量は、組成物中、好ましくは15〜99重量%、より好ましくは20〜98重量%、さらに好ましくは20〜50重量%である。
【0037】
以下に本発明に用いられる好適なキャリア物質を列挙するが、本発明はこれらに限定されない。
【0038】
ベースとなるキャリア物質としては、ガムベースとして使用するのに好適なポリマー、例えば、天然及び人工の、水に不溶性のエラストマー及びゴムが挙げられる。好適なガムベースポリマーの例には、チクル、ジェルトン、バラタ、グッタペルカ、レチカプシ(lechicapsi)、ソルバ、グアユールゴム、クラウンガム、天然ゴム、ニスペロ、ロジディーナ(rosidinha)、ペリロ(perillo)、ニジェールグッタ(niger gutta)、ツヌー、及びグッタケイ(gutta kay)など、及びこれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。合成エラストマーの例には、スチレン−ブタジエンコポリマー、ポリビニルアセテート、ポリエチレン、高分子量ポリイソブチレン、及びこれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。ガムベースポリマーの含有量は、使用されるガムベースの種類、所望のチューインガム組成物の稠度、及び他の構成成分などの様々な要因によって変動するが、組成物中、5〜50重量%であることが好ましい。
【0039】
キャリア物質として可塑剤を含有してもよく、好適な可塑剤としては、トリ酢酸グリセリル、アセチル化モノグリセリド、トリ酪酸グリセリル、ラウリン酸エチル、アセト酢酸エチル、酒石酸ジエチル、乳酸エチル又はブチル、リンゴ酸ジエチル、オレイン酸エチル、ヒマシ油、スクシニル化モノグリセリド又はこれらの混合物などが挙げられる。可塑剤の含有量は、組成物中、10重量%以下であることが好ましく、0.1〜3重量%であることがより好ましい。
【0040】
また、キャリア物質として、ガムベースの可塑化の観点から、樹脂を用いてもよい。好適な樹脂としては、ポリ酢酸ビニル(PVA);ポリテルペン、及びα−ピネン又はβ−ピネンのポリマーなどのテルペン樹脂;これらの混合物などが挙げられる。樹脂の含有量は、組成物中、好ましくは3〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
【0041】
チューインガム構成成分の軟化の観点から、キャリア物質としてエラストマー溶媒を用いてもよい。このようなエラストマー溶媒には、ロジンのメチルエステル、グリセロールエステル、もしくはペンタエリトリトールエステル、又は水素添加ロジン、ニ量化ロジン、重合ロジンなどの変性ロジン、それらのエステル化合物又はこれらの混合物などが挙げられる。エラストマー溶媒の含有量は、組成物中、好ましくは2〜50重量%、より好ましくは10〜35重量%である。
【0042】
また、キャリア物質としてワックスを含有してもよい。好適なワックスには、パラフィンワックス、微晶性ワックス、フィッシャー−トロプシュパラフィン、キャンデリーラ、カルナバ、及び蜜蝋などの天然ワックス、ポリエチレンワックスなどのポリオレフィンワックス、及びこれらの混合物などが挙げられ、これらは1種類又は2種以上を組み合わせ用いることができる。ワックスの含有量は、組成物中、好ましくは25重量%以下であり、より好ましくは5〜20重量%である。
【0043】
また、本発明の組成物は、前記キャリア物質以外に、甘味料、砥粒研磨物質、脂肪、乳化剤、軟化剤、充填剤、増量剤、香味剤、水、粘度調整剤、増粘物質、結合剤、保湿剤、アルカリ金属重炭酸塩、緩衝剤等のキャリア物質を含有してもよい。
【0044】
甘味料としては、キシロース、リボース、グルコース、マンノース、ガラクト−ス、フルクトース、デキストロース、スクロース、糖マルトース、フルクトオリゴ糖類シロップ、部分加水分解デンプン、コーンシロップ固体、ラクチトール、スクロースなどの単糖類、二糖類、及び多糖類など;ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、イソマルト、水素添加デンプン加水分解物、イヌリン、パラチニット(還元パラチノース)などの糖アルコール;及びグリセリン、エリスリトールなどの他の虫歯を作らない食用多価アルコール、及びこれらの混合物である。
【0045】
また、前記甘味料は、高強度、低カロリーの甘味料と併用してもよい。好適な高強度甘味料には:L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル(アスパルテーム)及び米国特許第3,492,131号に記載の同等物、L−α−アスパルチル−N−(2,2,4,4−テトラメチル−3−チエタニル)−D−アラニンアミド水和物(アリテーム)などのジペプチドをベースにした甘味料;溶解性サッカリン塩、即ち、サッカリンナトリウム又はカルシウム塩;シクラメート塩、及びアセスルファム−Kなど;サッカリンの遊離酸の形態;クロロデオキシスクロースなどのスクロースの塩素化誘導体;タウマチン(タリン)などの蛋白質ベースの甘味料などが挙げられる。
【0046】
一般に、甘味料の量は、使用するために選択される甘味料及び特定のチューインガムに所望される甘味のレベルによって変わるため、一概には決定できない。甘味料の含有量は、組成物中、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%である。高強度の甘味料の含有量は、組成物中、好ましくは0.01〜2.0重量%、より好ましくは0.05〜0.5重量%である。
【0047】
砥粒研磨物質としては、象牙質を過度に磨耗しない物質を用いることができ、かかる砥粒研磨物質は、いかなる成分の安定性も損なわないようにチューインガム組成物に配合すべきである。典型的な砥粒研磨物質には、シリカゲル及び沈降性シリカ;アルミナ;水に不溶性のホスフェート(オルトホスフェート、ポリメタホスフェート及びピロホスフェートを含む);及びこれらの混合物などが挙げられ、これらの混合物を使用してもよい。
【0048】
脂肪としては、硬化パーム油、硬化ダイズ油、硬化綿実油、及び他の様々な硬化植物油などの硬化植物油、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0049】
乳化剤としては、モノステアリン酸グリセロール、レシチン、脂肪酸モノグリセリド類、ジグリセリド類、モノステアリン酸プロピレングリコール、及びそれらの混合物などが挙げられる。
【0050】
軟化剤は、チューインガムの質感及び稠度特性を調節することを助け、ガムの咀嚼の柔軟化、及び長期間にわたる咀嚼柔軟性の維持に有用である。好適な軟化剤としては、ラノリン、ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、及びステアリン酸カリウムなどの脂肪物質;グリセリン及びプロピレングリコールなどの多価アルコール;及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0051】
充填剤及び増量剤は非研磨性であり、平均粒径が、好ましくは5μm未満、より好ましくは3μm未満、さらに好ましくは1μm未満である。好適な例示としては、炭酸カルシウム、又は粉砕した石灰石、タルク、水酸化アルミニウム、アルミナ、珪酸アルミニウム、リン酸ニカルシウム、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0052】
香味剤としては、合成香味液及び/又は植物の葉、花、果実などに由来する油、及びそれらの組み合わせから選択することができる。典型的な香味液には、スペアミントオイル、シナモンオイル、冬緑油(サリチル酸メチル)及びペパーミント油などが挙げられる。同様に、有用なものには人工の、天然の又は合成の果実香味である、例えばレモン、オレンジを含むシトラス油、バナナ、ブドウ、ライム、アプリコット、及びグレープフルーツのような果実香味、並びにリンゴ、ストロベリー、サクランボ、オレンジ、パイナップルなどを含む果実エキス、コーヒー、ココア、コーラ、ピーナッツ、アーモンドなどのような豆及び木の実に由来する香味がある。
【0053】
水は、鉄の含有量が低く、有機不純物を含まないものであることが好ましい。
【0054】
粘度調整剤は、構成成分の沈殿や分離を抑制する、又は流動特性を制御するために用いられる。好適な粘度調整剤としては、鉱油、有機変性粘土、ペトロラタム、シリカ、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0055】
増粘物質及び結合剤としては、カルボキシビニルポリマー類、カラゲナン、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウム及びヒドロキシエチルセルロースナトリウムのようなセルロースエステル類の水溶性塩が挙げられる。また、インドゴム、キサンタンゴム、アラビアゴム、トラガカントゴムなどの天然ゴムも使用することができる。さらに材質感を改善するために、コロイド状ケイ酸マグネシウムアルミニウム又は微粒子シリカを増粘剤の一部として使用することができる。
【0056】
保湿剤は空気中への暴露による組成物の硬化を防止する観点から用いられる。好適な保湿剤としては、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、及び他の食用多価アルコールが挙げられる。
【0057】
アルカリ金属重炭酸塩は水溶性であり、安定化していない場合には、水系で二酸化炭素を放出する傾向がある。重曹としても知られる重炭酸ナトリウムは、好ましいアルカリ金属重炭酸塩である。アルカリ金属重炭酸塩はまた緩衝剤としても機能する。
【0058】
緩衝剤とは、組成物のpHを約pH3〜10の範囲で調節するために使用することができる試剤をいう。緩衝剤としてはアルカリ金属水酸化物、炭酸塩、セスキ炭酸塩、ホウ酸塩、珪酸塩、リン酸塩、イミダゾール及びこれらの混合物が挙げられる。具体的な緩衝剤としては、リン酸一ナトリウム、リン酸三ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属炭酸塩、炭酸ナトリウム、イミダゾール、ピロリン酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウムが挙げられる。
【0059】
本発明の組成物は、当該技術分野において周知の方法により製造することができる。従って、以下の開示内容は、配合者の便宜を図るためのものにすぎず、限定されるものではない。本発明の組成物はサーモリシン加水分解物を含有していればよく、サーモリシン加水分解物は組成物全体に離散して均一に分散されてもよく、組成物全体で均一に混合されて含有されてもよい。
【0060】
本発明のチューインガム組成物は、スティック状、チャンク状、細裂状、正方形、立方体、ボール形、枕形、錠剤形、又は平板などの任意の慣用的なチューインガムの形態で、糖衣等でコーティングされていてもよい。チューインガムは、典型的には、放出された成分が歯の表面及び/又は口腔組織のほぼ全てに接触するのに十分な時間、口腔内に保持される。
【0061】
組成物は、典型的には、放出されたサーモリシン加水分解物が歯肉の表面及び/又は口腔組織のほぼ全てに接触するのに十分な時間、口腔内に保持される。チューインガム組成物は、例えば、消費者に1分間〜3時間咀嚼されて、サーモリシン加水分解物を歯肉表面・歯周表面に送達し、任意選択的に、サーモリシン加水分解物の活性ペプチド、即ち、LEHAを口腔に送達する。また、組成物がチューインガムの中心部分又は芯の周りに外側被膜又は殻を含有する場合には、サーモリシン加水分解物が前述の被膜又は殻から長時間にわたり放出されるため、サーモリシン加水分解物の長時間の送達が可能になる。
【0062】
本発明の組成物を使用する前に口腔の準備をする必要はない。例えば、使用者は組成物を適用する前に歯を磨いたり又は口をすすいだりしてもよいし、しなくてもよい。組成物を適用する前に、口腔を乾燥させる必要もないし、又は唾液若しくは水で過剰に濡らす必要もない。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0064】
〔ダイズペプチドのピーク平均分子量〕
ダイズペプチドを25mM Tris-HCl緩衝液(150mM NaCl含有、pH7.5)に溶解し、1mg/mLの被験溶液を調製する。HPLCカラム Superdex peptide HR(10mm I.D.×30cm,Amersham Biosciences社製)を同じ緩衝液で平衡化し、このカラムに被験溶液を100μL注入する。カラムの流速は0.5mL/分、カラム温度は室温、ペプチドの検出は214nmで行い、溶出時間から分子量分布及びピーク平均分子量を推定する。なお、分子量既知のペプチド標品として、Cytochrome C(シグマ社製、分子量12327)、Aprotinin(シグマ社製、分子量6518)、Hexaglycine(シグマ社製、分子量360)、Triglycine(シグマ社製、分子量189)、及びGlycine(シグマ社製、分子量75)を用いた。
【0065】
〔ダイズペプチド中のLEHAの同定及び定量〕
ダイズペプチド31.3mgをビーカーに入れて軽くつぶし、TritonX-100を7mL加えて攪拌後、蒸留水30mL及びメタノール100mLを添加して、さらに攪拌する。その後、50℃にて10分間加熱溶解させ、10分間超音波処理を行なった後、クロロホルム50mLを添加して室温条件下にて一夜スターラー攪拌を行なう。この溶液全量を300mL分液ロートに移し、さらにクロロホルム50mL及び精製水50mLを加えて攪拌混合した後、1時間静置して、2層分離した上層(水相)を全量回収し濃縮後、メンブランフィルターを用いて不溶物を除き、メスフラスコを用いて50mLにメスアップする。これを定量用試料として、以下に示す条件で液体クロマトグラフ−タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて分析する。
【0066】
<LC-MS/MS条件>
装置:Q TRAP LC/MS/MS System
イオン化モード:Positive
測定範囲:100〜1000 m/z
カラム:Unison UK-9
カラム温度:25℃
溶離液:水-アセトニトリル (0.05%トリフルオロ酢酸含有)
流量:0.2mL/min
注入量:10μL
分析時間:25分
【0067】
〔組成物中のLEHAの同定及び定量〕
組成物1個をビーカーに入れて軽くつぶし、TritonX-100を7mL加えて攪拌後、蒸留水30mL及びメタノール100mLを添加して、さらに攪拌する。その後、50℃にて10分間加熱溶解させ、10分間超音波処理を行なった後、クロロホルム50mLを添加して室温条件下にて一夜スターラー攪拌を行なう。この溶液全量を300mL分液ロートに移し、さらにクロロホルム50mL及び精製水50mLを加えて攪拌混合した後、1時間静置して、2層分離した上層(水相)を全量回収し濃縮後、メンブランフィルターを用いて不溶物を除き、メスフラスコを用いて50mLにメスアップする。これを定量用試料として、以下に示す条件で液体クロマトグラフ−タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて分析する。
【0068】
<LC-MS/MS条件>
装置:Q TRAP LC/MS/MS System
イオン化モード:Positive
測定範囲:100〜1000 m/z
カラム:Unison UK-9
カラム温度:25℃
溶離液:水-アセトニトリル (0.05%トリフルオロ酢酸含有)
流量:0.2mL/min
注入量:10μL
分析時間:25分
【0069】
実施例1及び比較例1
植物性樹脂3.5、酢酸ビニル樹脂40.0、及びポリイソブテン3.5の比率で混合したガムベースを120℃で10分間混合して軟化させた後、約75℃に保温した縦型ニーダーに、前記ガムベース及び表1に示すその他の原料を投入し、30r/minで10分間攪拌混合した。その後、加温を止めて引き続き12分間混合した後、ローラーを用いて1.6mmの厚さに圧延後、切断して平板形態の実施例1及び比較例1のチューインガム組成物を得た。なお、実施例1及び比較例1の組成物1個の重量は、それぞれ3.13gであった。
【0070】
【表1】

【0071】
実施例1に用いたサーモリシン加水分解物中のLEHA含有量は、LC-MS/MS分析より、0.14重量%であったので、実施例1の総原料中のLEHA含有量は、31.3mg×0.0014=0.04382mgである。従って、総原料を用いてLC-MS/MS分析用のLEHA定量用試料を調製した場合には、LEHA理論濃度は0.04382mg/50ml=0.876ppmとなる。一方、実施例1の組成物中のLEHA含有量は、LC-MS/MS分析より0.748ppmであったことから、調製後のLEHA対理論%は(0.748/0.876)×100=86%であった。この結果から、組成物調製に用いたサーモリシン加水分解物中のLEHA量の約90%が回収され、サーモリシン加水分解物に含有されるLEHAは組成物調製により含有量がほとんど低下しないことが確認された。なお、比較例1の組成物についても、同様にしてLEHAの定量を行なったがLEHAは検出されなかった。
【0072】
試験例1〔官能試験〕
実施例1及び比較例1の組成物について、製造直後のチューインガム組成物の風味、及び通常包装形態での室温放置1、3、6ヶ月後の風味について、パネラー5名により評価を実施した。
【0073】
各パネラーに実施例1及び比較例1の組成物を別々に90回咀嚼させた後、甘味質、呈味全体、香味全体、噛み心地・舌触りの4項目について、両者に差がないか評価を行った。その結果、製造直後の実施例1の組成物は、全項目において、比較例1の組成物と同等であり、サーモリシン加水分解物配合有無による食感の影響は認められなかった。このことから、サーモリシン加水分解物配合チューインガムの製造による変質はなく、安定性に問題はないと判断された。
【0074】
また、実施例1及び比較例1の組成物について、平板形態のガム(3g/枚)をアルミラミネート紙で包んだ状態で室温にて1ヶ月、3ヶ月、及び6ヶ月放置した後、上記と同様にして評価を行った。その結果、実施例1と比較例1の組成物は、全項目において同等で差はなかった。
【0075】
配合例1〜15 サーモリシン加水分解物含有チューインガムの作製
表2に示す原料を用い、当業者に公知の方法に従って、ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物(コラプラスTMN)を含有するチューインガムを作製する。なお、該チューインガムは、当業者に公知の方法に従って、糖衣等によりコーティングしてもよい。
【0076】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のチューインガム組成物は、活性成分が植物由来であり、また、製造時や保存中の安定性が高いために、安全かつ安定に活性成分を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物を含有してなる、チューインガム組成物。
【請求項2】
ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物の平均分子量が300〜10000である、請求項1記載のチューインガム組成物。
【請求項3】
ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物の含有量が0.01〜50重量%である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物の活性ペプチドであるペプチド(LEHA)を0.00001〜0.05重量%含有してなる、請求項1〜3いずれか記載の組成物。
【請求項5】
歯肉炎、虫歯、口腔における染み、カビ、細菌及び歯垢形成の抑制用及び/又は予防用の請求項1〜4いずれか記載の組成物。

【公開番号】特開2009−219403(P2009−219403A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66475(P2008−66475)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】